(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-13
(45)【発行日】2025-05-21
(54)【発明の名称】熱拡散シート
(51)【国際特許分類】
B32B 7/027 20190101AFI20250514BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20250514BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20250514BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20250514BHJP
H01M 10/627 20140101ALI20250514BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20250514BHJP
H01M 10/6554 20140101ALI20250514BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20250514BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20250514BHJP
【FI】
B32B7/027
B32B5/02 B
H01M10/658
H01M10/651
H01M10/627
H01M10/625
H01M10/6554
H01M10/613
H01M10/647
(21)【出願番号】P 2021078733
(22)【出願日】2021-05-06
【審査請求日】2024-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 裕也
(72)【発明者】
【氏名】千葉 洋史
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/186495(WO,A1)
【文献】特開2019-147357(JP,A)
【文献】特開2012-084347(JP,A)
【文献】特開2022-141508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H01M 10/658
H01M 10/651
H01M 10/627
H01M 10/625
H01M 10/6554
H01M 10/613
H01M 10/647
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二伝熱層と、
前記第二伝熱層の両側にそれぞれ配置された第一断熱層と、
を備える、シート状の熱拡散シートであって、
前記第一断熱層の熱伝導率が、面方向において1.7W/m・K以下、厚さ方向において0.14W/m・K以下であり、
前記第二伝熱層の熱伝導率が、面方向において120W/m・K以上、厚さ方向において
3W/m・K以下であり、
電気絶縁性を備える熱拡散シート。
【請求項2】
請求項
1に記載の熱拡散シートであって、
無機繊維及び無機充填剤のうち少なくとも一種を、80%以上含む熱拡散シート。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の熱拡散シートであって、
40℃で15分間、一面から加熱した際の、裏面との単位厚さ当たりの温度差が3℃/mm以上である熱拡散シート。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
JIS L 1091 A-1法(1999)試験に準じて10分間加熱した際における、接炎部と裏面との単位厚さ当たりの温度差が200℃/mm以上である熱拡散シート。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
JIS L 1091 A-1法(1999)試験に準じて10分間加熱した際における、裏面側で灰化される面積が500mm
2以下である熱拡散シート。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
JIS L 1091 A-1法(1999)試験に準じて10分間加熱した際における、裏面側とその50mm下部との温度差が250℃以下である熱拡散シート。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
15℃を基準として、150℃における厚さ方向の
厚みの変化量が18%以下である熱拡散シート。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
積層体全体での体積抵抗を1×10
12
Ω・cm以上、交流での絶縁破壊電圧を2.5kV以上、直流での絶縁破壊電圧を4.5kV以上である熱拡散シート。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の熱拡散シートであって、
繰り返し膨張収縮する対象物同士の間に挟まれて使用される熱拡散シート。
【請求項10】
互いに直列及び/又は並列に接続されて積層された複数の二次電池セル同士の間を断熱するための熱拡散シートであって、
無機繊維を含む中間層と、
前記中間層を挟むように、両面に積層された表面層と、
を備え、
前記中間層の熱伝導率が、面方向において1.7W/m・K以下、厚さ方向において0.14W/m・K以下であり、
前記表面層の熱伝導率が、面方向において
120W/m・K以上、厚さ方向において
3W/m・K以下である熱拡散シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱拡散シートに関する。
【背景技術】
【0002】
発熱体の放熱を促進するための熱拡散シートや放熱シートが、様々な用途で用いられている。例えば、二次電池セルを複数枚積層して高出力化、高容量化した車載用や定置用の電源装置においては、充放電によって二次電池セルが発熱することが知られている。このような二次電池セルの放熱性を向上させるために、電池セルの外装缶に熱拡散シートを密着させている。熱拡散シートで放熱性を向上させるには、熱伝導率を高めることが求められる。
【0003】
一方で、リチウムイオン二次電池のような高容量の二次電池セルを多数用いた場合、何らかの理由で一の二次電池セルが高温になって熱暴走し、隣接する他の二次電池セルに悪影響を与えることが懸念される。このため、熱暴走時には隣接する二次電池セル同士を、熱的に断熱することが求められる。しかしながら、断熱性能を持たせるには、高温時の熱伝導率を抑えることが求められ、低温時の放熱性向上、すなわち熱伝導率の向上とは矛盾する特性が求められることになる。
【0004】
このような相反する要求に応えるものとして、熱拡散層及び断熱層を備える積層体が提案されている(特許文献1~4)。しかしながら、これらの構成では、熱暴走によって数百度に達する環境での安定性に不安があり、二次電池セル間での熱暴走の連鎖を効果的に防げるか疑問があった。
【0005】
また、熱暴走の連鎖を防止するものとして、温度が上昇すると相変化、膨張、発泡及び硬化のうち少なくとも一種の構造変化が起こる熱暴走防止シートが提案されている(例えば特許文献5)。これによれば、ある温度で構造変化する中間層を介在させた積層構造とし、高温時には中間層を膨張又は発泡させて空気層による熱伝達を阻害して断熱性を発揮させるとされている。
【0006】
しかしながら、この構成では、発泡により中間層の体積が向上し、熱拡散シートが厚くなってしまうという問題があった。リチウムイオン二次電池のような二次電池セルは、アルミニウム製の硬質の外装缶に集電体を挿入した構成であるところ、急激な充放電によって外装缶が膨張することが知られている。このため、熱暴走時に膨張した外装缶同士の間に介在される熱拡散シートは、逆に高い圧力で押圧されるため、膨張が許容される空間の確保が困難となる。特に熱拡散シートを含む電源装置は、車輌のキャビン空間の確保のため、小型化が強く求められており、電源装置の大型化は許容されないことが多い。このような事情から、高温時に体積が膨張する熱拡散シートでは、現実的に採用が困難という事情があり、体積変化の少ない熱拡散シートが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特再公表2017-159527号公報
【文献】特開2019-147357号公報
【文献】特開2015-196332号公報
【文献】特開2011-108617号公報
【文献】特開2018-206605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、その目的の一は、高温時に類焼を防止しつつ、体積変化を抑えた熱拡散シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
本発明の第1の形態に係る熱拡散シートによれば、第一断熱層と、前記第一断熱層の両側にそれぞれ配置された第一伝熱層と、を備える、シート状の熱拡散シートであって、前記第一伝熱層の面方向への熱伝導率が、前記第一断熱層の面方向への熱伝導率の10倍以上である。
【0010】
また、本発明の第2の形態に係る熱拡散シートによれば、第一断熱層と、前記第一断熱層の両側にそれぞれ配置された第一伝熱層と、を備える、シート状の熱拡散シートであって、前記第一断熱層の熱伝導率が、面方向において1.7W/m・K以下、厚さ方向において0.14W/m・K以下であり、前記第一伝熱層の熱伝導率が、面方向において19W/m・K以上、厚さ方向において1.7W/m・K以下であり、電気絶縁性を備える。上記構成により、熱源からの熱を透過することなく拡散させる利点が得られる。
【0011】
さらに、本発明の第3の形態に係る熱拡散シートによれば、第一断熱層と、前記第一断熱層の両側にそれぞれ配置された第二伝熱層と、を備える、シート状の熱拡散シートであって、前記第一断熱層の熱伝導率が、面方向において1.7W/m・K以下、厚さ方向において0.14W/m・K以下であり、前記第二伝熱層の熱伝導率が、面方向において120W/m・K以上、厚さ方向において1.3W/m・K以下である。上記構成により、熱源からの熱を透過することなく拡散させる利点が得られる。
【0012】
さらにまた、本発明の第4の形態に係る熱拡散シートによれば、第二伝熱層と、前記第二伝熱層の両側にそれぞれ配置された第一断熱層と、を備える、シート状の熱拡散シートであって、前記第一断熱層の熱伝導率が、面方向において1.7W/m・K以下、厚さ方向において0.14W/m・K以下であり、前記第二伝熱層の熱伝導率が、面方向において120W/m・K以上、厚さ方向において3W/m・K以下であり、電気絶縁性を備える。上記構成により、熱源からの熱を透過することなく拡散させる利点が得られる。
【0013】
さらにまた、本発明の第5の形態に係る熱拡散シートによれば、上記何れかの構成に加えて、無機繊維及び無機充填剤のうち少なくとも一種を、80%以上含む。
【0014】
さらにまた、本発明の第6の形態に係る熱拡散シートによれば、上記何れかの構成に加えて、40℃で15分間、一面から加熱した際の、裏面との単位厚さ当たりの温度差が3℃/mm以上である。
【0015】
さらにまた、本発明の第7の形態に係る熱拡散シートによれば、上記何れかの構成に加えて、JIS L 1091 A-1法(1999)試験に準じて10分間加熱した際における、接炎部と裏面との単位厚さ当たりの温度差が200℃/mm以上である。
【0016】
さらにまた、本発明の第8の形態に係る熱拡散シートによれば、上記何れかの構成に加えて、JIS L 1091 A-1法(1999)試験に準じて10分間加熱した際における、裏面側で灰化される面積が500mm2以下である。
【0017】
さらにまた、本発明の第9の形態に係る熱拡散シートによれば、上記何れかの構成に加えて、JIS L 1091 A-1法(1999)試験に準じて10分間加熱した際における、裏面側とその50mm下部との温度差が250℃以下である。
【0018】
さらにまた、本発明の第10の形態に係る熱拡散シートによれば、上記何れかの構成に加えて、15℃を基準として、150℃における厚さ方向の厚みの変化量が18%以下である。
【0019】
さらにまた、本発明の第11の形態に係る熱拡散シートによれば、上記何れかの構成に加えて、積層体全体での体積抵抗を1×1012
Ω・cm以上、交流での絶縁破壊電圧を2.5kV以上、直流での絶縁破壊電圧を4.5kV以上である。
【0020】
さらにまた、本発明の第12の形態に係る熱拡散シートによれば、上記何れかの構成に加えて、繰り返し膨張収縮する対象物同士の間に挟まれて使用される。
【0021】
さらにまた、本発明の第13の形態に係る熱拡散シートによれば、上記何れかの構成に加えて、互いに直列及び/又は並列に接続されて積層された複数の二次電池セル同士の間を断熱するための熱拡散シートであって、無機繊維を含む中間層と、前記中間層を挟むように、両面に積層された表面層と、を備え、前記中間層の熱伝導率が、面方向において1.7W/m・K以下、厚さ方向において0.14W/m・K以下であり、前記表面層の熱伝導率が、面方向において120W/m・K以上、厚さ方向において3W/m・K以下である。上記構成により、熱源からの熱を透過することなく拡散させる利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態1に係る電源装置を示す分解斜視図である。
【
図2】実施形態1に係る熱拡散シートの模式断面図である。
【
図3】実施形態2に係る熱拡散シートの模式断面図である。
【
図4】実施形態3に係る熱拡散シートの模式断面図である。
【
図5】
図5Aは本発明の実施形態4に係る電源装置を示す斜視図、
図5Bは二次電池セルを横置きの姿勢とした電源装置を示す斜視図である。
【
図6】比較例1に係る熱拡散シートの模式断面図である。
【
図7】比較例2に係る熱拡散シートの模式断面図である。
【
図9】ヒーターによる加熱試験を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに限定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
[実施形態1]
【0024】
本発明の実施形態に係る熱拡散シートは、断熱性が求められると共に、類焼を回避する用途に適宜利用できる。例えば、リチウムイオン二次電池のような、通常使用時には放熱性が求められる一方で、熱暴走時などの高温に至った際には安全性の観点から類焼防止が求められる用途に適している。ここでは、角形の二次電池セルを多数積層して直列や並列に接続した電源装置において、隣接する二次電池セル同士の間に介在されるスペーサとして、熱拡散シートを用いる例を説明する。このような電源装置は、電気自動車やハイブリッド自動車、電動バス、電車、電動カート等の電動車両の駆動用電源として、あるいは工場や基地局のバックアップ電源用、さらには家庭用の蓄電池として利用される。好適には、繰り返し膨張収縮する対象物同士の間に挟まれて使用される熱拡散シートとして利用できる。
【0025】
実施形態1に係る電源装置を、
図1の分解斜視図に示す。この図に示す電源装置100は、複数の二次電池セル20と、二次電池セル20同士の間に介在される熱拡散シート10とを備える。二次電池セル20は、外装缶21を有底筒状の角形としており、複数枚を主面同士が対向する姿勢で積層されている。積層は、例えば二次電池セル20を積層した電池積層体25の両端面を、それぞれ端面板30で覆うと共に、端面板30同士を締結部材で締結する。また、電池積層体25は、必要に応じて基礎板40上に固定される。基礎板40は、例えば内部に冷媒を循環させて冷却板として機能させることができる。
【0026】
各二次電池セル20は、外装缶21の内部に電極体を収納し、開口端を封口板22で封止している。
図1において外装缶21の上面に位置する封口板22には、一対の電極23と防爆弁24が設けられる。複数の二次電池セル20は、電極23同士をバスバーで接続することにより、互いに直列及び/又は並列に電気的に接続される。また防爆弁24は、外装缶21の内圧が高くなったことを検出して開弁され、外装缶21内部の高圧ガスを排出するための部材である。各防爆弁24は、必要に応じて高圧ガスを外部に案内するためのガスダクトと連結される。
(熱拡散シート10)
【0027】
隣接する二次電池セル20同士の間には、熱拡散シート10が介在される。熱拡散シート10は、スペーサやセパレータ等と呼ばれ、隣接する二次電池セル20間で外装缶21が短絡しないように絶縁する。
【0028】
熱拡散シート10の断面図を、
図2に示す。この図に示す熱拡散シート10は、中間層11と、この中間層11を挟むように、両面に積層された表面層12で構成される。ここでは、中間層が第一断熱層を、表面層が第一伝熱層を、それぞれ構成する。また表面層/中間層/表面層を、第一伝熱層/第一断熱層/第一伝熱層とした三層構造の積層体で、シート状の熱拡散シートを構成している。
【0029】
第一伝熱層の面方向への熱伝導率は、第一断熱層の面方向への熱伝導率の10倍以上とすることが好ましい。具体的には、第一断熱層の熱伝導率は、面方向において0.14W/m・K以下、厚さ方向において1.7W/m・K以下とすることが好ましい。また第一伝熱層の熱伝導率は、面方向において19W/m・K以上、厚さ方向において1.7W/m・K以下とすることが好ましい。このような構成により、時間が経過しても裏面温度は変わらない利点が得られる。
【0030】
さらに熱拡散シートは、絶縁性を備えている。具体的には、積層体全体での体積抵抗を1×1012以上、交流での絶縁破壊電圧を2.5kV以上、直流での絶縁破壊電圧を4.5kV以上としている。
【0031】
またいずれの層も、無機繊維及び無機充填剤のうち少なくとも一種を、80%以上含む。これによって、高温時の体積変化を抑制できる。また高温時に溶融して断熱性能が発揮できなくなる事態を回避できる。またPET、アラミド等樹脂繊維を必要に応じて添加する。
【0032】
従来、リチウムイオン二次電池セルを複数枚積層した電源装置において、二次電池セル同士を絶縁するためには、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂製のセパレータが用いられてきた。しかしながら、このようなセパレータでは耐熱性が十分でなく、何らかの異常によりいずれかの二次電池セルが高温になった場合に、他の二次電池セルに高温が伝搬して類焼を生じる事態には対応できなかった。
【0033】
一方で、通常の使用状態においてもリチウムイオン二次電池は急速な充放電によって発熱するため、発生した熱を外部に逃がすための放熱性が求められる。このように、二次電池セル同士の間に介在されるセパレータには、平温時には熱伝導性が、高温時には断熱性が求められるという相反する特性が求められており、このような矛盾する特性を発揮させることが困難であった。
【0034】
そこで本実施形態に係る熱拡散シートでは、平温時においては放熱性を発揮させつつも、難燃性に優れた材質で構成することで高温時に類焼を抑制可能な特性を実現している。具体的には、
図2に示す熱拡散シートを第一伝熱層/第一断熱層/第一伝熱層の三層構成とし、難燃性、防炎性に優れた材質で構成している。具体的には、珪酸塩鉱物、金属酸化物、黒鉛等の無機充填剤、ガラス繊維等の無機繊維、アラミド等の難燃性に優れる有機繊維及び難燃剤を含有した有機繊維等で構成される。
【0035】
熱拡散シートの熱拡散性の指標として、熱拡散シートを40℃で15分間加熱した場合に、表裏面の単位厚さ当たりの温度差が3℃以下であることが好ましい。また、熱拡散シートをJIS L 1091 A-1法(1999)試験に準じて10分間加熱した際における、接炎部と裏面との単位厚さ当たりの温度差が200℃/mm以上であることが好ましい。さらに、熱拡散シートにバーナーで10分間炎を当てた場合に、裏面側で灰化される面積が500mm2以下であることが好ましい。さらにまた、JIS L 1091 A-1法(1999)試験に準じて10分間加熱した際における、裏面側とその50mm下部との温度差が250℃以下であることが好ましい。
【0036】
一方で、第一伝熱層の面方向への熱伝導率を、第一断熱層の面方向への熱伝導率の10倍以上に設定している。このように、放熱性を発揮させる伝熱層を表面に配置しつつ、中間を断熱層とした多層構造とすることで、常温においては表面の第一伝熱層による放熱性能を確保させつつ、熱暴走時のような異常な高温時には第一断熱層でもって断熱性を図り、安全性を高めることができる。
【0037】
また実施形態に係る熱拡散シートは、15℃を基準として、150℃における厚さ方向の変化量を18%以下とすることが好ましい。これにより、二次電池セルのような熱膨張する対象物に対しても適用できる。従来の熱拡散シートの中には、類焼を防止するため、高温になると相変化、膨張又は発泡する中間層を介在させた積層構造とし、低温時には熱拡散材として振る舞う一方、高温時には中間層を相変化、膨張又は発泡させて空気層による断熱性を発揮させるものが提案されていた。しかしながら、相変化、膨張又は発泡により中間層の体積が向上して熱拡散シートが厚くなってしまうという問題があった。このため熱暴走時に膨張した外装缶同士の間に介在される熱拡散シートが、さらに膨張することを許容するには、相応の空間の確保や二次電池セルを積層状態に締結するバインドバーの可撓性が求められ、実現は極めて困難であった。これに対し、本実施形態に係る熱拡散シートでは、高温時でも体積の変化を抑制することで、このような問題を回避し、実用性の高い放熱性能と断熱性能を確保することが可能となる。
[実施形態2]
【0038】
また上述した伝熱層は一例であり、他の伝熱層を適宜採用できる。一例として、実施形態2に係る熱拡散シートを、
図3の断面図に示す。この図に示す熱拡散シート10’は、第一断熱層11Bの両側に、第二伝熱層12Bをそれぞれ配置した三層構造としている。第一断熱層11Bは、上述した実施形態1と同様の材質や熱伝導率を採用できる。一方、第二伝熱層12Bの熱伝導率は、面方向において120W/m・K以上、厚さ方向において3W/m・K以下としている。このような構成としても、熱源からの熱を透過することなく拡散させる利点が得られる。
[実施形態3]
【0039】
さらに以上の例では、多層構造の熱拡散シートを伝熱層/断熱層/伝熱層の順で積層した例を示したが、本発明はこの構成に限られず、断熱層/伝熱層/断熱層の順で積層した多層構造としてもよい。このような例を実施形態3に係る熱拡散シート10Cとして、
図4の断面図に示す。この図に示す熱拡散シート10Cは、第二伝熱層11Cの両側に、それぞれ第一断熱層12Cを配置した三層構造としている。第二伝熱層11Cや第一断熱層12Cは、上述した実施形態2と同様の材質や熱伝導率を選択できる。この構成であれば、熱拡散シートの表面に電気絶縁性を発揮させ易くなり、絶縁性が求められる用途に好適に利用できる。例えば
図1に示した電源装置に熱拡散シートを適用する場合、表面層を伝熱層で構成する場合は一般に導電性を有するため、隣接する二次電池セルの外装缶同士の短絡を阻止するため、二次電池セルの表面を絶縁する必要があった。例えば、二次電池セルの外装缶がアルミニウム製の場合は、PET樹脂等等のシュリンクチューブで被覆する必要があった。これに対し、実施形態3に係る熱拡散シートでは、表面を第一断熱層で構成することにより、絶縁性を発揮させ易くなり、このような二次電池セルの外装缶を絶縁する処理を不要とできる。なお、二次電池セルの外装缶が絶縁性の場合、例えばパウチ電池の場合は、本来的に絶縁を不要とできることはいうまでもない。
【0040】
また以上の例では、熱拡散シートを三層構造とした例を説明したが、本発明は積層体で構成される熱拡散シートの積層数を3に限定するものでなく、4層以上としてもよいことはいうまでもない。
(第一断熱層)
【0041】
上述した熱拡散シート10の第一断熱層は、繊維基材と、充填材と、結合材を含む。好適には、繊維基材として天然パルプと無機繊維、充填材として珪酸塩鉱物、結合材としてゴム組成物を利用できる。具体的には、実施形態1に係る第一断熱層は、繊維基材として麻パルプとマイクロガラス、充填材としてタルクとセピオライト、結合材としてNBRを含んでいる。
【0042】
繊維基材(基材繊維とも呼ぶ。)は、ガラス繊維、カーボン繊維、セラミック繊維などの無機繊維や、あるいは芳香族ポリアミド繊維、PET繊維などの有機繊維が利用できる。ここでは、繊維基材として有機繊維の天然パルプを用いている。天然パルプには麻パルプが好適に利用できる。麻パルプの配合比率は、例えば5重量%~20重量%、好ましくは10重量%とする。
【0043】
また繊維基材として、無機繊維を含めてもよい。無機繊維の配合比率は、5重量%~20重量%、好ましくは8重量%~15重量%とする。実施形態1においては、無機繊維としてマイクロガラスを12重量%添加している。
【0044】
充填材は、無機の充填材が利用できる。無機充填材としては、セピオライト、タルク、カオリン、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト等の珪酸塩鉱物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ハードクレー、焼成クレー、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ウォラストナイト、重炭酸ナトリウム、ホワイトカーボン・溶融シリカ等の合成シリカ、珪藻土等の天然シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ガラスビーズ等が挙げられ、これらは単独又は複数を組み合わせて用いられる。これらの無機充填材の添加は、高温雰囲気下の形状維持と断熱性向上といった効果を示す。実施形態1においては、可撓性が高いタルクを用いた。充填材の配合量は熱拡散シート中、5重量%~65重量%が好ましい。実施形態1においては、充填材として珪酸マグネシウムを用い、タルクを58重量%、セピオライトを14重量%添加している。
【0045】
結合材には、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、アクリル酸樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂の他に、アクリルニトリルブタジエンゴム、水素化アクリルニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリルニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレーンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フッ化シリコーンゴム、クロロスルフォン化ゴム、エチレン酢ビゴム、塩化ポリエチレン、塩化ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ニトリルイソプレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム等が利用できる。中でも、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)が、耐水性、耐油性が高い点で好ましい。これらのゴムは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、より高い耐水性、耐油性を目的にアルキルケテンダイマー等のサイズ剤やフッ素系、シリコーン系の撥水剤を組合わせて使用することもできる。結合材にゴム組成物を用いる場合、ゴムの配合量は熱拡散シート中、0~40重量%が好ましく、3~10重量%がより好ましい。ここではNBRであるニポール1562を6.0重量%添加している。
【0046】
第一断熱層は、厚さを0.03mm~5.5mm、好ましくは0.05mm~2mm、より好ましくは0.07mm~1mmとする。この第一伝熱層は、一層で構成する他、層状に構成したガラス繊維層やセラミック繊維層等の無機繊維層を複数層積層して構成してもよい。
(第一伝熱層)
【0047】
第一伝熱層は、厚さ方向の熱伝導率を1.00W/m・K以上、好ましくは1.30W/m・K~20.00W/m・K、より好ましくは1.70W/m・K~15.00W/m・Kとする。あるいは第一断熱層の厚さ方向の熱伝導率を、3.00W/m・K以下としてもよい。また第一断熱層の面方向の熱伝導率は、1000W/m・K以下とすることが好ましい。この構成により、電源装置100に防爆弁等のガス排出装置が設けられている場合、いずれかの二次電池セル1が熱暴走する過程で、外装缶を通じて別の二次電池セルへ高熱が伝播する前に、電解液の熱分解ガスが排出されて電源装置100が冷却される時間的な猶予を確保することができる。
【0048】
このような第一伝熱層は、十分な熱伝導性を発揮させるため、有機繊維や熱伝導フィラーを含むことが好ましい。有機繊維は、パラアラミド繊維、パラアラミドパルプ、メタアラミドパルプ、ポリフェニレンサルファイド繊維、PET繊維、、難燃PET繊維、難燃レーヨン繊維のいずれか一以上を利用できる。また熱伝導フィラーには、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化硼素、、窒化アルミニウム等が利用できる。また第一伝熱層に、無機繊維を含めてもよい。無機繊維には、ガラス繊維、セラミック繊維等が利用できる。また抄紙シートで構成した中間シートは、熱カレンダーロール等による、加熱加圧加工を行ってもよい。これにより内部を緻密化して、熱伝導率を高めることができる。
(第二伝熱層)
【0049】
また第二伝熱層は、上記第一伝熱層の構成に加えて、熱伝導フィラーとしてアルミニウム、銅、黒鉛、カーボンナノチューブ等を、また無機繊維として、カーボン繊維等を含むことができる。
【0050】
第一伝熱層及び第二伝熱層は、厚さを0.02mm~0.8mm、好ましくは0.03mm~0.6mm、より好ましくは0.03mm~0.3mmとする。
【0051】
また第一断熱層、第一伝熱層及び第二伝熱層は、透気抵抗度をJIS P 8117(2009)試験に準拠したガーレー標準型デンソメータで3000sec/ml以上とすることが好ましい。これにより、粉落ちの少ない層を実現しており、熱拡散シート10の封止を不要として製造を容易にかつ安価に行える利点が得られている。
(接着層)
【0052】
第一伝熱層と第一断熱層とは、接着材で接着される。接着材を硬化させた接着層が、第一伝熱層と第一断熱層との間に介在される。接着材は、耐熱性に優れた材質が好ましい。このような接着材としては、アクリル系接着材、塩化ビニル系接着材、酢酸ビニル系接着材、ホットメルト等が利用できる。接着剤の形態は液状、スラリー状のほか、ホットメルト接着剤を不織布又は網状に成型した熱融着シート等が利用できる。
【0053】
また熱拡散シート10の全体の厚さは、0.2mm~6.0mm、好ましくは0.2mm~4.0mm、より好ましくは0.3mm~2.0mmとする。
【0054】
さらに熱拡散シート10は、柔軟性、可撓性を備えている。これによって、二次電池セル1が膨張した際、このような二次電池セル1の変形に追従して、密着状態を維持し、空隙の形成によって熱伝導性が低下する事態を回避できる。特に従来の熱拡散シートは、硬質のものが多く、変形に対する追従性が低いため、接触面に空隙が形成されて空気層による断熱効果のため、熱伝導性が低下することがあった。熱拡散シートが類焼防止のため断熱性能を発揮させることを目的としている場合は、空気層によって断熱性能が一層向上するため、硬質の熱拡散シートは却って好都合であった。これに対し本実施形態に係る熱拡散シート10のように、第一断熱層は放熱性能を発揮させるためには、このような硬質材よりも、可撓性や柔軟性を有する熱拡散シート10とすることで、熱伝導率の高い状態を維持して放熱性能を発揮させることができる。
【0055】
また熱拡散シート10に柔軟性、可撓性を持たせることで、ロール材などの巻取材に巻取可能となり、ロール状での保管、運搬が可能となって、ハンドリング性も向上される。ここでは可撓性を発揮させるため、例えば熱拡散シート10の片面に外径110mmの円筒を当てて90°折り曲げた際、皺又は割れが生じないこととすることができる。
【0056】
さらに熱拡散シート10は、耐熱性や難燃性を備えることが望ましい。二次電池セル1が高温になっても、変形や溶融し難い材質とすることで、断熱性能を維持することが可能となる。好ましくは、熱拡散シート10の耐熱温度を300~600℃とする。本実施形態に係る熱拡散シートでは、表面層を、繊維と充填材と結合材(バインダ)で構成することにより高い耐熱温度を発揮でき、高温環境下でも絶縁性を維持できる。さらに、JIS L 1091 A-1法(1999)試験に準じて10分間加熱した際における裏面の灰化面積を、500mm2以下に抑えることが好ましい。
【0057】
加えて、本実施形態に係る熱拡散シート10においては、熱拡散シート全体での平滑度を、15~150secとすることが好ましい。これにより、熱拡散シートの封止を不要として製造を容易にかつ安価に行える利点が得られる。
【0058】
また本実施形態に係る熱拡散シートは、変形可能な柔軟性を備えることができる。好適には、曲率半径55mmの紙管に巻き付けても破断しない柔軟性を備える。これにより、熱拡散シートを接触させる対象物が膨張する等変形しても、その変形に追従して密着状態を維持でき、空隙が形成されて熱伝導性が低下する事態を回避できる。
(熱拡散シート10の製造法)
【0059】
ここで熱拡散シート10は、例えばロール状とした第一伝熱層及び第一断熱層の間に、熱融着シートを挟み込み、2本の熱圧着ロールの間を通過させ接着することで、ロールtoロールの製造が可能である。また、第一伝熱層ないし第一断熱層の片面あるいは両面に液状の接着剤を塗工し、貼り合わせてもよい。後述する実施例1~3及び比較例1~2では、第一伝熱層と第一断熱層の間にポリエチレン製熱融着シートを挟み、150℃のホットプレスで、50kPaにて20秒間加圧し接着させた。
【0060】
以上の例では、熱拡散シート10を、第一伝熱層の両面をそれぞれ単層の第一断熱層で被覆した三層構造とする構成を説明した。ただ本発明は、このような三層構造に限定するものでなく、例えば表面層を複数層としたり、中間層を複数層とするなど、四層以上の多層構造とすることもできる。あるいは、用途によっては中間層の片面のみに表面層を設けた二層構造としても良い。
【0061】
また
図1の例では、二次電池セル1を縦置きの姿勢としているが、二次電池セルを横置きの姿勢とする電源装置においても、熱拡散シートを同様に適用できることはいうまでもない。
【0062】
さらに熱拡散シート10は、二次電池セル間の断熱のみならず、複数の二次電池セルで構成された電池モジュール同士の間の断熱に利用することもできる。
[実施形態4]
【0063】
以上の例では、二次電池セルとして角形の外装缶を用いた二次電池セルに対する断熱材として適用する例を説明した。ただ本発明は、二次電池セルの外形を角形に限定せず、円筒形やパウチ型等、他の形状の二次電池セルに対しても適用できる。一例として、円筒形の二次電池セルに適用した例を、実施形態5に係る電源装置として
図5Aに示す。この図に示す電源装置500Aは、円筒形の二次電池セル20Bを複数本並べた状態で、隣接する二次電池セル同士の間に熱拡散シート10を介在させている。これにより、何れかの二次電池セル20Bが高温になっても、熱拡散シート10によって熱伝搬を抑制することができる。この例では、各二次電池セル20Bを区画するために、一の熱拡散シート10Aに一端から切り込みを形成して、他の熱拡散シート10Bに他端から切り込みを形成し、これらの切り込み同士を組み合わせることで熱拡散シート同士が交差するようにしている。また
図5Aの例では、二次電池セル20Bを縦置きの姿勢としているが、
図5Bに示すように横置きの姿勢としてもよいことはいうまでもない。
[実施例1~3]
【0064】
次に、実施例1~3に係る熱拡散シートと、比較例1~2に係る熱拡散シートを作製し、各サンプルの特性を調べた。各サンプルに用いた中間層と表面層の厚さと熱伝導率を表1に示す。
【0065】
実施例1~3及び比較例1において、断熱層は天然パルプ、マイクロガラス、珪酸塩鉱物粉体と、結合剤としてゴム系樹脂を抄紙した同一のシートを使用した。その作成には、まず離解させた天然パルプを準備し、マイクロガラスと珪酸塩鉱物粉体とを均一に分散させた。これにゴム系樹脂を加えて得られた抄紙スラリーを、湿式抄紙法で抄紙して、厚さ約0.70mmの断熱層基材シートを得た。この断熱層基材シートの熱伝導率(厚さ方向)は0.14W/m・K、熱伝導率(面方向)は1.7W/m・K、平滑度は46.8sec、透気抵抗度は30sec/100mlであった。この断熱層基材シートの両面を異なる伝熱層でそれぞれ被覆して、実施例1~2のサンプルを作製した。
(実施例1)
【0066】
実施例1の伝熱層として、窒化硼素紛80%の抄紙シートを使用した。具体的には平均粒径が200μmである窒化硼素紛と、平均粒径が40μmである鱗片状窒化硼素の混合物及び有機繊維を、重量比80対20となるよう水中に分散させた抄紙用スラリーを準備し、湿式抄紙法により得られたシートに熱圧加工を行い、表面層基材シートを得た。その厚さは0.20mmであった。
【0067】
前述した断熱層基材シートの両面に表面層基材シートをそれぞれ積層し、さらに表面層と中間層の間にポリエチレン製熱融着シートを挟み、150℃のホットプレスにて、20秒間50kPaで加圧を行い貼り合せ、実施例1に係る熱拡散シートを得た。
(実施例2)
【0068】
実施例2の伝熱層として、黒鉛紛90%の抄紙シートを使用した。具体的には黒鉛紛及び有機繊維を、重量比90対10となるよう水中に分散させた抄紙用スラリーを準備し、湿式抄紙法により得られたシートに熱圧加工を行い、表面層基材シートを得た。その厚さは0.23mmであった。前述した断熱層基材シートに対し、実施例1と同様に両面にそれぞれ表面層基材シートを貼り合せて、実施例2に係る熱拡散シートを得た。
(実施例3)
【0069】
実施例3の中間層は、実施例2の伝熱層に使用したものと同様のシートとした。この中間層基材シートに対し、前述した断熱層基材シートを各面に貼り合せて、実施例3に係る熱拡散シートを得た。
(比較例1)
【0070】
比較例1に係る熱拡散シート10Dとして、
図6の断面図に示すように、断熱層12D/断熱層11D/断熱層12Dの3層構造とした。表面層として、中間層と同じく断熱性の抄紙シートを使用した。具体的には、実施例1と同じ重量比率で原料を混合して得た抄紙スラリーを、湿式抄紙法により抄紙して、厚さ約0.3mmの表面層基材シートを得た。得られた表面層基材シートを、実施例1等と同様に断熱層基材シートの両面にそれぞれ貼り合せて、比較例1に係る熱拡散シートを得た。
(比較例2)
【0071】
比較例2に係る熱拡散シート10Eとして、
図7の断面図に示すように、放熱層11Eを6層積層した。各放熱層には、実施例2の伝熱層と同じ重量比率で原料を混合して得た抄紙スラリーを、湿式抄紙法により抄紙して、厚さ約0.3mmの伝熱層基材シートを得た。得られた伝熱層基材シートを6層積層し、層間に実施例1等と同様の熱融着シートをそれぞれ貼り合せてホットプレスを実施し、比較例2に係る熱拡散シートを得た。
【0072】
これら実施例1~3、比較例1~2に係る熱拡散シートの、層構成、表面層の厚さ、中間層の厚さ、熱拡散シート全体の厚さ、表面層及び中間層の熱伝導率(厚さ方向及び面方向)を、表1に示す。
【0073】
【0074】
このようにして得られた実施例1~3及び比較例1~2について、それぞれ絶縁性を測定した。測定方法は、絶縁体積抵抗率については、JIS K6911「熱硬化性プラスチック一般試験法」に従い、東亜ディーケーケー製極超絶縁計SM-10Eを用いて、23℃の環境下で行った。また絶縁耐力(交流電圧)については、JIS C2110-1「固体電気絶縁材料-絶縁破壊の強さ試験法-第1部:商用周波数交流電圧印加による試験」に従い、東京精電製耐圧試験機TW-5110ADLを用いて、23℃の環境下で行った。さらに絶縁耐力(直流電圧)については、JIS C2110-2「固体電気絶縁材料-絶縁破壊の強さ試験法-第2部:直流電圧印加による試験」に従い、東京精電製耐圧試験機TW-5110ADLを用いて、23℃の環境下で行った。昇圧速度は、交流、直流共に100V/minとした。その結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
(40℃加熱試験)
熱拡散シートの通常使用温度での性能を確認するため、ヒーターによる加熱試験を行った。ここでは比較例1~2と実施例1~3のサンプルSMに対して、
図9に示すように100mm×80mmに裁断したサンプルSM上に、25mm角のマイクロセラミックヒーターCHを設置した。なお接触面には放熱グリスHGを塗布した。ヒーターCH上、及びヒーターCH直下のサンプルSM裏面に熱電対TC4、TC5を設置してヒーターSHに通電し、熱電対TC4が約40℃で安定するよう出力を調整した。この時の熱電対TC4、TC5の温度を読み取り、表裏の温度差を、シート厚さで除して単位厚さ当たりの温度差を算出した。以上の結果を表3に示す。
【0077】
【0078】
実施例1~3はいずれも、単位厚さ当たりの温度差が3℃/mm以上を示しており、シート裏面への透過を抑制しつつ面内方向への熱拡散ができていることを示唆している。比較例1は厚さ方向、面内方向ともに熱伝導率が低いため、熱の透過が1点に集中した結果として温度差が小さいと考えられる。比較例2は熱伝導率が高い層のみであるため、厚さ方向の熱の透過量も多く結果として温度差が小さくなったと考えられる。
(600℃加熱試験)
【0079】
以上のようにして作製した各実施例、比較例に係る熱拡散シートの断熱性を確認すべく、ガスバーナーによる加熱試験を行った。ここでは比較例1~2と実施例1~3のサンプルに対して、JIS L 1091 A-1法(1999)試験(45°ミクロバーナー法)に準じてガスバーナーの炎で加熱し、サンプルの加熱開始から10分後の温度変化を測定した。
【0080】
治具への取り付けは45°ミクロバーナ―法と同様に、
図8に示すように各サンプルSMを斜め45°の状態で治具に取り付け、またガスバーナーGBの接炎部とその裏面に熱電対TC1、TC2を、TC2から50mm下方にTC3をそれぞれ取り付けて、ガスバーナーGBの炎を当て、加熱開始から10分後の温度変化が安定した時点で熱電対TC1、TC2、TC3の温度を測定した。遮熱特性の評価として、TC1とTC2シート差により表裏の温度差を求め、シート厚さで除して単位厚さ当たりの温度差を算出した。また面内の熱拡散性の評価として、TC2とTC3の温度差を求め、以下の基準で評価した。
◎:温度差が200℃以下
○:温度差が300℃以下
△:温度差が400℃以下
以上の結果を表4に示す。
【0081】
【0082】
比較例1では、断熱シートのみを積層した構成であるにもかかわらず、実施例よりも温度差が小さい。これは面内方向の熱拡散性が低く、バーナー接炎部にのみ集中的に熱が透過したためと推測される。比較例2では、全体的に熱拡散性が高く、温度差は最も小さかった。一方実施例1~3は全てにおいて、厚さ1mm当たり200℃以上の温度差を維持しており、厚さ方向では熱の透過を抑制しつつ、面内方向には拡散する効果が確認できた。
【0083】
さらに熱電対を装着せずにガスバーナーGBの炎を当てて燃焼の有無を観察し、試験後のサンプル両面の状態を撮影した。この様子を
図10A~
図10Bに示す。これらの図において、
図10Aはサンプルの灰化面積を、
図14Bは炭化面積を、それぞれ示している。有機成分が燃焼して白く灰化した部分が見られる場合は、画像処理ソフト「leafareacounter_plus3_3」を使用して面積を測定した。この画像処理ソフトを用いて、灰化面積については、
図10Aにおいて破線で囲むように、燃焼で有機分がなくなり、無機分だけとなって白く灰化している面積を測定した。同様に炭化面積については、
図10Bにおいて赤線で囲むように、灰化面積を含めて黒く焦げた面積を測定した。このようにして実施例1~3及び比較例1~2のサンプルの燃焼試験結果を
図11A~
図15Bに示す。これらの図において、
図11Aは実施例1に係るサンプルの燃焼面、
図11Bは裏面側の写真を、また
図12Aは実施例2に係るサンプルの燃焼面、
図12Bは裏面側の写真を、さらに
図13Aは実施例3に係るサンプルの燃焼面、
図13Bは裏面側の写真、
図14Aは比較例1に係るサンプルの燃焼面、
図14Bは裏面側の写真、
図15Aは比較例2に係るサンプルの燃焼面、
図15Bは裏面側の写真を、それぞれ示している。
【0084】
また、実施例1~3及び比較例1~2を150℃に加熱した際の厚さ方向の寸法変化率を測定した。具体的には各サンプルを10cm×10cmに裁断し、150℃に設定した乾燥機中に1時間静置した後、取り出した直後、及び加熱前(15℃)の厚さをJIS P 8118(2014)に準じて測定し、加熱前の厚さに対する増加量を百分率で求めた。以上の結果を表5に示す。
【0085】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の熱拡散シートは、繰り返し膨張収縮する対象物同士の間に挟まれて使用される熱拡散シートとして利用できる。例えば二次電池セル同士、又は二次電池セルモジュール同士の間に介在される断熱用のスペーサや、防爆弁とガスダクトの間に介在される緩衝シート、あるいはECU等の駆動回路を保護する断熱材等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0087】
100、500A、500B…電源装置
10、10’、10A、10B、10C、10D、10E…熱拡散シート
11…中間層
12…表面層
11B…第一断熱層
12B…第二伝熱層
11C…第二伝熱層
12C…第一断熱層
11D…断熱層
12D…断熱層
11E…放熱層
20、20B…二次電池セル
21…外装缶
22…封口板
23…電極
24…防爆弁
25…電池積層体
30…端面板
40…基礎板
TC1、TC2、TC3、TC4、TC5…熱電対
SM…サンプル
GB…ガスバーナー
CH…マイクロセラミックヒーター
HG…放熱グリス