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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-13
(45)【発行日】2025-05-21
(54)【発明の名称】肌のくすみ改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/61 20060101AFI20250514BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20250514BHJP
   A61K 36/45 20060101ALI20250514BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20250514BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250514BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250514BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20250514BHJP
【FI】
A61K36/61
A61K8/9789
A61K36/45
A61P17/00
A61P43/00 121
A61Q19/00
A61K127:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022155401
(22)【出願日】2022-09-28
(65)【公開番号】P2024049127
(43)【公開日】2024-04-09
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】我部 有
(72)【発明者】
【氏名】山口 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】小宮 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】川端 慶吾
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2403354(KR,B1)
【文献】特開2007-277149(JP,A)
【文献】特開2021-155410(JP,A)
【文献】特開2011-207815(JP,A)
【文献】特開2021-095388(JP,A)
【文献】特表2016-519565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/61
A61K 36/45
A61K 8/9789
A61Q 19/00
A61P 43/00
A61P 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーカリ(Eucalyptus globulus)の葉の抽出物、及びビルベリー(Vaccinium myrtillus L.)の葉の抽出物を有効成分とするロリクリン発現促進剤。
【請求項2】
ユーカリ(Eucalyptus globulus)の葉の抽出物、及びビルベリー(Vaccinium myrtillus L.)の葉の抽出物を有効成分とする角層形成促進剤。
【請求項3】
ユーカリ(Eucalyptus globulus)の葉の抽出物、及びビルベリー(Vaccinium myrtillus L.)の葉の抽出物を有効成分とする肌のくすみ改善剤。
【請求項4】
ユーカリ(Eucalyptus globulus)の葉の抽出物とビルベリー(Vaccinium myrtillus L.)の葉の抽出物の質量比(ユーカリ(Eucalyptus globulus)の葉の抽出物の固形分換算/ビルベリー(Vaccinium myrtillus L.)の葉の抽出物の固形分換算)が0.1以上300以下である、請求項1~3のいずれか1項記載の剤。
【請求項5】
製剤形態が皮膚外用剤である請求項1~3のいずれか1項記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロリクリン発現促進剤、角層形成促進剤及び肌のくすみ改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の水分保持能改善、肌荒れの防止及び改善、並びにしわの形成やきめ模様の減少等の皮膚老化の予防改善には、皮膚の表皮細胞に作用し、表皮細胞の角化を促進し、健全な角層の形成を促して、外界からの刺激や生体を防御するための角層バリア機能を健全にすることがよいとされている。
また、健全な角層の形成は肌のくすみの改善にもつながる(非特許文献1)。肌のくすみとは、顔全体又は眼のまわりや頬等の部位に生じる現象であり、肌の透明感が減少して暗く見える状態で、境界は不明瞭である。肌のくすみの発生要因は複数考えられているが、その一つに角層の肥厚等による透明性(光透過性)の低下が挙げられる(非特許文献2)。
【0003】
角層の肥厚とは角層の厚さが正常より厚くなった状態を示し、角層重層化ともいう。角層が肥厚する原因としては、加齢、乾燥、紫外線等の影響によりターンオーバーが乱れ角層細胞の形成や剥離に異常が生じることが考えられる。ここで、ターンオーバーとは、基底層におけるケラチノサイト(表皮角化細胞)の増殖と、角化の過程、角層の剥離の間断ない繰り返しのことをいう。このケラチノサイトは、角化の過程において基底細胞、有棘細胞、顆粒細胞、角層細胞と順次外部に向かって変化しながら、各層を形成している。そして、有棘層上層から顆粒層にかけてコーニファイドエンベロープ(CE)を構成する蛋白質が合成されている。さらに角層に至る過程で、酵素トランスグルタミナーゼによってケラチノサイトの細胞膜にインボルクリン、ロリクリン、シスタチン等の基質蛋白質が結合し、不溶化したCEが形成される。さらに不溶化したCEにはセラミド等が共有結合し、角層バリア機能の基礎を形成する。最終的には角層の表層に至る過程で、角質細胞の接着力が低下し、垢となって剥がれ落ちる。
従ってターンオーバーの乱れは、異常な角層の形成と剥離が異常な不全角化を引き起こし、角層の肥厚の一因となる。従来、ターンオーバーの乱れに起因する皮膚トラブルに対しては、セラミドを含有するクリーム等により解決してきた。しかし、表皮細胞の角化を促進し、角層の健全化を促す改善作用は十分ではなく、健全な角層の形成を促進する成分の開発が望まれている。
【0004】
上記基質蛋白質のうちロリクリンはCEの主要成分であり、天然保湿因子の形成をはじめ種々の角層機能に関わる。ロリクリン遺伝子変異による疾病はロリクリン角化症と総称され、角化の異常を伴うびまん性の角質肥厚等の症状がみられる(非特許文献3)。ヒト表皮角化細胞の株細胞であるHaCaT細胞にロリクリン遺伝子をトランスフェクションすると終末角化と関連するプログラム細胞死に陥り、ロリクリンが正常な角化に重要な分子であることも報告されている(非特許文献4)。従って、表皮細胞におけるロリクリンの発現促進は、ケラチノサイトの正常角化及び健全な角層の形成を促して、角層の肥厚を改善し、その結果、肌のくすみの改善を図ることができると考えられる。近年、ロリクリンは表皮細胞の分化マーカーとして着目されている。
【0005】
一方、フトモモ科ユーカリ属のユーカリ(Eucalyptus globulus)は、その抽出物がインボルクリン発現促進による角層形成促進作用を有し、皮膚の水分保持能の改善(保湿効果)、毛穴目立ちの改善に有用であることが報告されている(特許文献1)。
また、ツツジ科スノキ属のビルベリーは、その抽出物が表皮下部におけるミネラルの代謝異常を改善し、表皮細胞の増殖と表皮ターンオーバーを正常化することが報告されている(特許文献2)。
しかしながら、ユーカリとツツジ科スノキ属植物の併用によるロリクリン発現に対する作用については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-277149号公報
【文献】特開2021-155410号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】T. Ishida et al. J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 54 (3): 258-63 (2020)
【文献】長沼雅子 日本香粧品学会誌 Vol. 39, No. 4, pp. 275-285 (2015)
【文献】A. I-Yamamoto. J. Dermatol. Sci. 31 (1): 3-8 (2003)
【文献】K. Yoneda et al. J. Dermatol. 37 (11): 956-964 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ロリクリンの発現を促進する、ロリクリン発現促進剤、角層形成促進剤及び肌のくすみ改善剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、ユーカリ抽出物とツツジ科スノキ属の植物抽出物を組み合わせると、ロリクリンのタンパク質発現を相乗的に増強し、これらが角層形成促進及び肌のくすみの改善に有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の1)~3)に係るものである。
1)ユーカリ又はその抽出物、及びツツジ科スノキ属植物又はその抽出物を有効成分とするロリクリン発現促進剤。
2)ユーカリ又はその抽出物、及びツツジ科スノキ属植物又はその抽出物を有効成分とする角層形成促進剤。
3)ユーカリ又はその抽出物、及びツツジ科スノキ属植物又はその抽出物を有効成分とする肌のくすみ改善剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロリクリンの発現促進により、健全な角層の形成を促し、また肌のくすみを改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「ユーカリ」とは、フトモモ科ユーカリ属のユーカリ(Eucalyptus globulus)を指す。
「ツツジ科スノキ属植物」とは、ツツジ科スノキ属(Vaccinium)に属する植物であり、例えば、ビルベリー、クランベリー、ブルーベリー、コケモモ(カウベリー、リンゴンベリー)、ハックルベリー、シャシャンボ等が挙げられる。ツツジ科スノキ属植物は、1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、好ましくはビルベリー(Vaccinium myrtillus L.)である。
上記植物の使用部位としては、例えば、全草、全木、葉、茎、芽、花、蕾、樹木、木質部、樹皮、根、根茎、仮球茎、塊根、地衣体、葉状体、種子、果実、樹脂、又はこれらの混合物等が挙げられる。植物の使用部位として、ユーカリの場合、好ましくは葉、花、果実であり、より好ましくは葉である。ツツジ科スノキ属植物の場合、好ましくは葉、花、果実であり、より好ましくは葉である。
【0013】
斯かる植物は、そのまま若しくはそれを圧搾することにより得られる搾汁、植物体自身を乾燥した乾燥物若しくはその粉砕物、或いはこれらから抽出した抽出物として用いることができるが、抽出物として用いるのが好ましい。
【0014】
抽出物としては、上記植物を常温又は加温下にて抽出するか、或いはソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出される各種溶媒抽出物、超臨界二酸化炭素等の超臨界抽出によって得られる抽出物、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末等が挙げられる。
抽出手段は、特に限定されないが、例えば、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、攪拌等の通常の手段を用いることができる。
【0015】
抽出のための溶媒には、極性溶媒、非極性溶媒のいずれをも使用することができる。溶媒の具体例としては、例えば、水;1価、2価又は多価のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状又は環状のエーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ヘキサン等の飽和又は不飽和の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ピリジン類;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;二酸化炭素、超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他のオイル類;並びにこれらの混合物が挙げられる。好適には、水、アルコール類及びその水溶液が挙げられ、アルコール類としてはメタノール、エタノール、1,3-ブチレングリコール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられ、好ましくはエタノール、1,3-ブチレングリコールであり、より好ましくは1,3-ブチレングリコールである。
【0016】
上記アルコール類の水溶液におけるアルコールの濃度(25℃における容量パーセント、以下%(v/v)と表記)は、好ましくは30%(v/v)以上、より好ましくは40%(v/v)以上、さらに好ましくは45%(v/v)以上であり、また、好ましくは99.8%(v/v)以下、より好ましくは90%(v/v)以下、さらに好ましくは85%(v/v)以下である。
【0017】
抽出における溶媒の使用量としては、上記植物(乾燥質量換算)1gに対して1~100mLが好ましく、3~50mLがより好ましい。
抽出条件は、十分な抽出が行える条件であれば特に限定されないが、例えば、抽出時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上であり、また、好ましくは2ヶ月以下、より好ましくは5週間以下、より好ましくは3週間以下である。
抽出温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上であり、また、好ましくは溶媒沸点以下、より好ましくは90℃以下である。通常、低温なら長時間、高温なら短時間の抽出を行う。
【0018】
抽出物は、化粧品や医薬品上許容し得る規格に適合し、本発明の効果を発揮するものであれば粗精製物であってもよい。また、必要に応じて、液々分配、固液分配、濾過膜、活性炭、吸着樹脂、イオン交換樹脂、澱出し等の公知の技術によって不活性な夾雑物の除去、脱臭、脱色等の処理を施すことができる。
また、さらに公知の分離精製方法を適宜組み合わせてこれらの純度を高めてもよい。精製手段としては、例えば、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等が挙げられる。
【0019】
抽出物は、そのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、或いは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、1,3-ブチレングリコール、水・エタノール混液、水・1,3-ブチレングリコール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0020】
後記実施例に示すように、ユーカリ抽出物とビルベリー抽出物の組み合わせは、ロリクリンの発現を促進する。しかもその促進作用は、ユーカリ抽出物とビルベリー抽出物それぞれ単独での作用と比べて優れ、且つ、それぞれ単独で添加した際の効果の相加を超え、相乗的効果である。上述したとおり、ロリクリンの発現が促進されれば、ケラチノサイトの正常角化及び健全な角層形成が促される。これにより、肌のくすみの改善効果が期待される。
よって、ユーカリ又はその抽出物と、ビルベリー等のツツジ科スノキ属植物又はその抽出物の組み合わせは、ロリクリン発現促進剤、角層形成促進剤、肌のくすみ改善剤(以下、「ロリクリン発現促進剤等」とも称す)となり得、ロリクリンの発現を促進するため、角層の形成を促進するため、肌のくすみを改善するために使用することができ、またロリクリン発現促進剤等を製造するために使用することができる。
ここで、「使用」は、ヒト若しくは非ヒト動物への使用であり得、治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない、より具体的には医師、又は医療従事者もしくは医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。本発明において、非治療的使用としては、美容的又は審美的な目的での上記植物又はその抽出物の使用等が挙げられる。
【0021】
本明細書において、「ロリクリン発現促進」とは、ロリクリンの遺伝子レベルでの発現促進及びタンパク質レベルでの発現促進が包含される。遺伝子レベルでの発現促進には、ロリクリンをコードするmRNAの発現におけるmRNAへの転写促進等が含まれ、タンパク質レベルでの発現促進には、mRNAの翻訳における促進等が含まれる。これらのうち、本発明ではタンパク質レベルでの発現促進が好ましい。
なお、ヒトのロリクリンは、315個のアミノ酸より構成され、その分子量は約26kDaである。
【0022】
「角層形成促進」とは、ケラチノサイトの正常な角化が促され、健全な角層(角質層)の形成が促進されることを意味する。ここで、健全な角層とは、皮膚のターンオーバーが健全である角層を意味し、具体的には基底層におけるケラチノサイトの増殖と表層からの角層の剥離のバランスが取れ、角層の肥厚が見られない角層を意味する。
【0023】
「肌のくすみ」とは、角層の肥厚等により肌の透明感が減少して暗く見える状態を意味する。肌のくすみが生じる部位は、例えば、顔全体、眼のまわり、頬、額、首元、手の甲、足の甲等である。また、「改善」とは、状態の好転、状態の悪化の防止又は遅延、あるいは状態の悪化の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0024】
本発明において、ユーカリ又はその抽出物、及びツツジ科スノキ属植物又はその抽出物は、どちらを先に投与しても、同時に投与してもよい。両剤を同時に投与しない場合、両剤の投与間隔は、ユーカリ又はその抽出物、又はツツジ科スノキ属植物又はその抽出物のロリクリン発現促進作用の増強効果を奏するかぎり適宜選択しうる。
ユーカリ又はその抽出物、及びツツジ科スノキ属植物又はその抽出物を組み合わせてなる剤は、これらを配合剤として一の剤型に製剤化したものでも、また単独に製剤化したものを同時に又は間隔を空けて別々に使用できるようにしたキットであってもよい。
【0025】
本発明のロリクリン発現促進剤等は、それ自体、ロリクリンの発現を促進するため、角層の形成を促進するため、肌のくすみを改善するための医薬品、医薬部外品、化粧品であってもよく、或いは当該医薬品、医薬部外品、化粧品に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
【0026】
当該医薬品(医薬部外品を含む、以下同じ)は、ユーカリ又はその抽出物、及びツツジ科スノキ属植物又はその抽出物を、ロリクリンの発現を促進するため、角層の形成を促進するため、肌のくすみを改善するための有効成分として含有する。さらに、該医薬品は、該有効成分の機能が失われない限りにおいて、必要に応じて薬学的に許容される担体、又は他の有効成分、薬効成分等を含有していてもよい。
医薬品の投与形態は任意であるが、好ましくは非経口投与である。非経口投与のための剤形としては、皮膚外用、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、注射、坐剤、注射、吸入、貼付等の各製剤が挙げられる。このうち、好適な製剤形態は皮膚外用剤であり、具体的には、軟膏、乳化液、クリーム、乳液、ローション、ジェル、エアゾール等の形態が挙げられる。
【0027】
当該化粧品は、ユーカリ又はその抽出物、及びツツジ科スノキ属植物又はその抽出物を、ロリクリンの発現を促進するため、角層の形成を促進するため、肌のくすみを改善するための有効成分として含有する。さらに、該化粧品は、該有効成分の機能が失われない限りにおいて、必要に応じて化粧料に許容される担体、又は他の有効成分、化粧成分等を含有していてもよい。
化粧品の好ましい例としては、顔、ボディ用の化粧料(例えば、ローション、ゲル、クリーム、パック等)、メークアップ用化粧料、顔又はボディ用の洗浄料等が挙げられる。
【0028】
斯かる医薬品や化粧品の各製剤は、ユーカリ又はその抽出物、及びツツジ科スノキ属植物又はその抽出物を、必要に応じて薬学的に又は化粧料に許容される担体、上述した他の有効成分、薬効成分、化粧成分等と組み合わせて、常法に従って製造することができる。
当該薬学的に又は化粧料に許容される担体としては、例えば、各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、分散剤、キレート剤、増粘剤、紫外線吸収剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素、香料等が挙げられる。
当該他の有効成分、薬効成分、化粧成分としては、例えば、植物抽出物、殺菌剤、保湿剤、抗炎症剤、抗菌剤、角質溶解剤、清涼剤、抗脂漏剤、洗浄剤、メークアップ成分等が挙げられる。
【0029】
上記の医薬品や化粧品の製剤中のユーカリ又はその抽出物の含有量は、製剤の形態に応じて異なるため一概には言えないが、例えば製剤の総量を基準として、固形分換算で、好ましくは0.00006質量%以上、より好ましくは0.0001質量%以上、よりさらに好ましくは0.0002質量%以上であり、また、好ましくは0.006質量%以下、より好ましくは0.002質量%以下、よりさらに好ましくは0.0006質量%以下である。
また、上記の医薬品や化粧品の製剤中のツツジ科スノキ属植物又はその抽出物の含有量は、製剤の形態に応じて異なるため一概には言えないが、例えば製剤の総量を基準として、固形分換算で、好ましくは0.00002質量%以上、より好ましくは0.00006質量%以上、よりさらに好ましくは0.0001質量%以上であり、また、好ましくは0.002質量%以下、より好ましくは0.0006質量%以下、よりさらに好ましくは0.0002質量%以下である。
【0030】
本発明のロリクリン発現促進剤等において、ユーカリ又はその抽出物とツツジ科スノキ属植物又はその抽出物の比率は、ロリクリン発現促進の観点、角層形成促進の観点から、その質量比[ユーカリ又はその抽出物の固形分換算/ツツジ科スノキ属植物又はその抽出物の固形分換算]で、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、よりさらに好ましくは1以上であり、また好ましくは300以下、より好ましくは30以下、よりさらに好ましくは4以下である。
【0031】
ユーカリ又はその抽出物の投与量又は使用量は、本発明の効果を達成できる量であり得る。当該投与量又は使用量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態、又はその他の要因に従って変動し得るが、皮膚外用剤等の非経口の場合には、成人(60kg)1人当たり1回、ユーカリ又はその抽出物の固形分換算での使用質量として、好ましくは0.0012μg/cm2以上、より好ましくは0.002μg/cm2以上、よりさらに好ましくは0.004μg/cm2以上であり、また好ましくは0.12μg/cm2以下、より好ましくは0.04μg/cm2以下、よりさらに好ましくは0.012μg/cm2以下である。また、ツツジ科スノキ属植物又はその抽出物の投与量又は使用量は、成人(60kg)1人当たり1回、ツツジ科スノキ属植物又はその抽出物の固形分換算での使用質量として、好ましくは0.0004μg/cm2以上、より好ましくは0.0012μg/cm2以上、よりさらに好ましくは0.002μg/cm2以上であり、また好ましくは0.04μg/cm2以下、より好ましくは0.012μg/cm2以下、よりさらに好ましくは0.004μg/cm2以下である。
本発明では斯かる量を1日に1回~複数回に分けて、1日間以上、好ましくは7日間以上、より好ましくは14日間以上、よりさらに好ましくは42日間以上、反復・継続して投与又は使用し得る。
【0032】
本発明のロリクリン発現促進剤等を投与又は使用する対象としては、それを必要とする若しくは希望するヒト又は非ヒト動物等であれば特に限定されない。対象の好ましい例として、ロリクリン発現促進、角層形成促進、肌のくすみ改善を所望するヒトが挙げられる。非ヒト動物としては、類人猿、その他霊長類等の非ヒト哺乳動物等が挙げられる。
また、本発明のロリクリン発現促進剤等を投与又は使用する部位としては、特に限定されないが、好ましくは顔、頸、腕、手の甲、指、脚、足の甲等が挙げられる。
【実施例
【0033】
実施例1 ロリクリン発現促進作用
植物抽出物
ユーカリエキスは、ユーカリの葉を80%(v/v)の1,3-ブチレングリコール水溶液で抽出したものを用いた(丸善製薬社製、ユーカリ抽出液BG―KA。固形分濃度0.2%(w/v))。ビルベリーエキスは、ビルベリーの葉を50%(v/v)の1,3-ブチレングリコール水溶液で抽出したものを用いた(一丸ファルコス社製、キュアベリー(登録商標)。固形分濃度0.2%(w/v))。
【0034】
実験用細胞培養
細胞は、正常ヒト表皮角化細胞(新生児包皮由来;クラボウ)を用いた。細胞の増殖培養にはEpiLife Medium,with 60μM calcium(Thermo Fisher)にHKGS(Thermo Fisher)を添加して使用した。また、素材の添加培養として、EpiLife Medium,with 60μM calciumにHKGS Kit(BPE及びEGF不含、Thermo Fisher)を添加して使用した。細胞培養は37℃、5%CO2の環境下で常法に従って行った。
【0035】
タンパク質の抽出とロリクリン発現解析
正常ヒト表皮角化細胞を、6穴プレート(コラーゲンコート;Corning)に1.5×105 cells/wellの密度で播種し、増殖培地にて1日培養した後、素材添加培地に置き換えさらに1日培養した。翌日、80%(v/v)1,3-ブチレングリコールに溶解したユーカリエキス(0.3%(v/v)の濃度で添加)と50%(v/v)1,3-ブチレングリコールに溶解したビルベリーエキス(0.1%(v/v)の濃度で添加)を添加し、48時間培養した後、PBSで1回洗浄、Protease/Phosphatase Inhibitor Cocktail(Cell Signaling)を100倍希釈で添加したRIPA buffer(SIGMA)に溶解し細胞を回収した。細胞懸濁液はホモジナイズ(超音波破砕)を行い、遠心(15,000×g,10min)処理後、上清を回収した。その後、Pierce(登録商標)BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher)を用いてタンパク質定量を行った。検出には8~10μgのタンパク質を要した。
サンプルをNuPAGE(登録商標)4-12%SDS(sodium dodecyl sulfate)-polyacrylamide gel(Thermo Fisher)を用いた電気泳動により分離し、PVDF膜に転写後、5%(w/v)スキムミルクを含むTBS-T(Tween20 0.1%(w/v))で1時間ブロッキングし、ブロッキング溶液で2000倍希釈した一次抗体(Anti-Loricrin antibody;abcam)を用いて4℃下で一晩インキュベートした。PBS-Tで15分3回洗浄後、ブロッキング溶液で4000倍希釈した二次抗体(抗ウサギIgG抗体(HRP標識);Dako)を用いて室温下で1時間インキュベートした。PBS-Tで10分3回洗浄後、発光試薬SuperSignalTM West Dura Extended Duration substrate(Thermo Fisher)を用いて、検出器(Amersham Imager 600)にて撮影を行った。バンド濃度は、Amersham Imager 600を用いて定量した。測定データは、対照群の値を1としてロリクリンのタンパク質発現量を相対的に評価した。
結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から明らかなように、ユーカリエキスとビルベリーエキスを併用して添加した群では、ユーカリエキスとビルベリーエキスをそれぞれ単独で添加した群よりも相乗的にロリクリンの発現が促進されることが確認された。