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特許7687506燃料電池用セパレータの製造方法および燃料電池用セパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータの製造方法および燃料電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0226 20160101AFI20250527BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20250527BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20250527BHJP
【FI】
H01M8/0226
H01M8/0213
H01M8/0221
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024168629
(22)【出願日】2024-09-27
【審査請求日】2024-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309012122
【氏名又は名称】日清紡ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹野 文雄
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-027761(JP,A)
【文献】特表2010-517208(JP,A)
【文献】特表2024-509572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/0297
H01M 8/08-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粉末、ならびに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含有する組成物を成形してなる成形体の表面に赤外線レーザを照射することによって前記成形体の表面の樹脂を除去し、さらに親水化処理をする燃料電池用セパレータの製造方法であって、
前記赤外線レーザのビーム品質(M2)が、1.6以上2.8以下であり、スポット径が、150~300μmであって、単位面積当たりのパルスエネルギーが、8~50mJ/mm2であることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記赤外線レーザのスポットのオーバーラップ率が、5~30%である請求項1記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記親水化処理が、大気圧プラズマ処理である請求項1記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記大気圧プラズマ処理が、リモート方式大気圧プラズマ処理である請求項3記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記大気圧プラズマ処理の処理ガスが、窒素ガスを含むガスである請求項3記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータの製造方法および燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用セパレータは、各単位セルに導電性を持たせる役割、ならびに単位セルに供給される燃料および空気(酸素)の通路を確保するとともに、それらの分離境界壁としての役割を果たすものである。
このため、燃料電池用セパレータには、高導電性、高ガス不浸透性、厚み精度の高さ、化学的安定性、耐熱性、親水性等の諸特性が要求される。これらの諸特性のうち、親水性を高めるための手法として赤外線レーザを照射する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、黒鉛粉末、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含む組成物を成形してなる成形体の表面をブラスト処理等で粗面化処理した後、赤外線レーザを照射することによって前記成形体の表面の樹脂を消失させ、さらに大気圧プラズマ処理等の親水化処理をした燃料電池用セパレータが提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1で使用されている赤外線レーザのパルスエネルギーは5~30mJで、スポット径は50~800μmとなっている。成形体の表面の樹脂を効率よく除去するには単位面積当たりのパルスエネルギーを50mJ/mm2以下にすることが好ましいが、そのためには、赤外線レーザのパルスエネルギーを5mJで、スポット径を350μmより大きくする必要がある。スポット径が350μmより大きくなると、スポット内のエネルギーが不均一になるため、オーバーラップ率を高くする必要があり、生産効率が悪かった。
【0005】
特許文献2では、グラファイト含有材料上に親水性表面を形成するための方法として、少なくとも0.5MW/mm2の出力密度を有するパルスレーザを照射する方法が提案されている。
【0006】
しかし、特許文献2で使用されている赤外線レーザの単位面積当たりのパルスエネルギーは0.1J/mm2と高いため、薄肉のセパレータに照射した場合に反りが生じやすく、積層時の接触抵抗が高くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-164996号公報
【文献】特表2024-509572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、薄肉の燃料電池用セパレータにレーザ照射した場合であっても照射後の反りが小さく、積層時の接触抵抗が低く導電性に優れ、親水性が良好な燃料電池用セパレータを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、所定のビーム品質、所定のスポット径を有し、単位面積当たりのパルスエネルギーが所定範囲内である赤外線レーザを用いることで、薄肉の燃料電池用セパレータにレーザ照射した場合であっても、照射後の反りを小さくすることができ、積層時の接触抵抗が低く導電性に優れ、親水性が良好な燃料電池用セパレータが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 黒鉛粉末、ならびに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含有する組成物を成形してなる成形体の表面に赤外線レーザを照射することによって前記成形体の表面の樹脂を除去し、さらに親水化処理をする燃料電池用セパレータの製造方法であって、
前記赤外線レーザのビーム品質(M2)が、2.8以下であり、スポット径が、150~300μmであって、単位面積当たりのパルスエネルギーが、8~50mJ/mm2であることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法、
2. 前記赤外線レーザのスポットのオーバーラップ率が、5~30%である1記載の燃料電池用セパレータの製造方法、
3. 前記親水化処理が、大気圧プラズマ処理である1記載の燃料電池用セパレータの製造方法、
4. 前記大気圧プラズマ処理が、リモート方式大気圧プラズマ処理である3記載の燃料電池用セパレータの製造方法、
5. 前記大気圧プラズマ処理の処理ガスが、窒素ガスを含むガスである3記載の燃料電池用セパレータの製造方法、
6. 黒鉛粉末、ならびに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含有する組成物を成形してなる成形体の表面に赤外線レーザを照射することによって前記成形体の表面の樹脂を除去し、さらに親水化処理して得られ、反りが5mm未満であることを特徴とする燃料電池用セパレータ、
7. 表面の算術平均高さSaが、1.5~4.0μmである6記載の燃料電池用セパレータ、
8. 前記燃料電用セパレータが片面または両面にガス流路となる溝を有し、この溝の底部と山頂部の算術平均高さSaの差が、前記山頂部の算術平均高さSaの20%未満である6記載の燃料電池用セパレータ、
9. 接触抵抗が、7mΩ・cm2未満である6記載の燃料電池用セパレータ、
10. 静的接触角が、10°未満である6記載の燃料電池用セパレータ
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃料電池用セパレータの製造方法によれば、反りが小さく、積層時の接触抵抗が低く導電性に優れ、親水性が良好な燃料電池用セパレータを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
[燃料電池用セパレータの製造方法]
本発明に係る燃料電池用セパレータの製造方法は、黒鉛粉末、ならびに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含有する組成物を成形して得られた成形体の表面に赤外線レーザを照射することによって前記成形体の表面の樹脂を除去し、さらに親水化処理をする燃料電池用セパレータの製造方法であって、上記赤外線レーザのビーム品質(M2)が、2.8以下であり、スポット径が、150~300μmであって、単位面積当たりのパルスエネルギーが、8~50mJ/mm2であることを特徴とする。
【0013】
(1)成形体の作製
本発明の製造方法では、まず、黒鉛粉末、ならびに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含有する組成物を成形して成形体を作製する。
【0014】
本発明で用いる黒鉛粉末としては、従来、燃料電池用セパレータに用いられるものから適宜選択して用いればよく、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれを用いてもよい。
人造黒鉛としては、針状コークスを焼成した人造黒鉛、塊状コークスを焼成した人造黒鉛、球状化した人造黒鉛、表面をピッチコート等で処理した人造黒鉛などが挙げられる。
一方、天然黒鉛としては、鱗片状天然黒鉛、土壌黒鉛、球状化した天然黒鉛、表面をピッチコート等で処理した天然黒鉛などが挙げられる。
これらはそれぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0015】
黒鉛粉末の平均粒径d50は、特に限定されるものではないが、黒鉛粒子間の空隙を適度に保ち、黒鉛粒子同士の接触面積をより大きくし、かつ、特にレーザ処理後の凹凸の発生を抑制して導電性を高める(接触抵抗を低下させる)ことを考慮すると、10~200μmが好ましく、10~100μmがより好ましい。
すなわち、黒鉛粉末の平均粒径d50が10μm以上であれば、成形体に赤外線レーザを照射した際に、成形体表層の樹脂を消失させてセパレータ表面の導電性を向上させることができるとともにセパレータ内部の黒鉛粒子同士の接触面積を十分に保てるため、セパレータの厚み方向の導電性をも改善し得る。また、平均粒径d50が200μm以下であれば、黒鉛粒子間の空隙が適度であるため、セパレータ表面上の黒鉛粒子間の空隙に充填されていた樹脂がレーザ照射により消失してもセパレータ表面に大きな凹凸が形成されることはなく、その結果、セパレータの接触抵抗が低くなり、セパレータ自体の導電性が悪化することもない。
なお、上記平均粒径d50の測定方法は、後述する実施例に記載したとおりである。
【0016】
エポキシ樹脂成分を構成する主剤としては、エポキシ基を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂単独、ビフェニル型エポキシ樹脂単独、これらの混合物が好ましい。
本発明で用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されるものではないが、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の場合、194~215g/eqが好ましく、ビフェニル型エポキシ樹脂の場合、180~200g/eqが好ましい。
【0017】
エポキシ樹脂主剤の加水分解性塩素含有量としては、450ppm以下が好ましい。加水分解性塩素含有量が450ppm以下であると、硬化物の架橋密度が高まる結果、得られるセパレータの耐熱性が向上する。一方、その下限は特に制限されるものではないが、加水分解性塩素含有量370ppm未満のエポキシ樹脂は非常に高価であるため、コスト面を考慮すると、その下限は370ppmが好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂成分を構成する硬化剤としては、フェノール樹脂が好ましい。その具体例としては、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アラルキル変性フェノール樹脂、ビフェニルノボラック型フェノール樹脂、トリスフェノールメタン型フェノール樹脂等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
本発明で用いるフェノール樹脂の水酸基当量は、特に限定されるものではないが、100~106g/eqが好ましい。
【0019】
エポキシ樹脂成分を構成する硬化促進剤としては、エポキシ基と硬化剤との反応を促進するものであれば特に制限されるものではなく、ホスフィン化合物、アミン化合物、イミダゾール化合物等が挙げられるが、これらの中でも、本発明では、2位にアリール基を有するイミダゾール化合物を用いることが好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられるが、フェニル基が好ましい。2位にアリール基を有するイミダゾール化合物の具体例としては、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
なお、2-メチルイミダゾール等の短鎖アルキル基を有するイミダゾール化合物を用いると、硬化時間が速すぎて均一な成形ができない場合があり、一方、2-ウンデシルイミダゾール等の長鎖アルキル基を有するイミダゾール化合物を用いると、硬化時間が遅すぎて成形時間が長くなる場合がある。
【0020】
また、本発明で用いる組成物には、上記各成分に加え、内部離型剤等の任意成分を適宜配合することもできる。
内部離型剤としては、従来、セパレータの成形に用いられている各種内部離型剤から適宜選択すればよく、その具体例としては、ステアリン酸系ワックス、アマイド系ワックス、モンタン酸系ワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
黒鉛粉末、エポキシ樹脂成分(主剤、硬化剤および硬化促進剤)の使用量としては、特に限定されるものではないが、黒鉛粉末100質量部に対してエポキシ樹脂成分22~40質量部が好ましく、27~35質量部がより好ましく、30~33質量部がより一層好ましい。エポキシ樹脂成分の使用量をこの範囲とすることで、成形材料の流動性が適度になって成形性が良好になるととともに、得られる燃料電池用セパレータのガス不浸透性および導電性が著しく低下することを防止し得る。
この場合、主剤に対して硬化剤を0.98~1.08当量配合することが好ましく、0.99~1.05当量配合することがより好ましい。
また、硬化促進剤の使用量は特に限定されるものではなく、主剤と硬化剤との混合物100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.5~2質量部がより好ましい。
【0022】
組成物の調製は、例えば、黒鉛粉末、主剤、硬化剤、硬化促進剤のそれぞれを任意の順序で所定割合混合して調製すればよい。この際、混合機としては、例えば、プラネタリミキサ、リボンブレンダ、レディゲミキサ、ヘンシェルミキサ、ロッキングミキサ、ナウターミキサ等を用いることができる。なお、内部離型剤等の任意成分を用いる場合、その配合順序も任意である。
【0023】
次いで、得られた組成物を所定の型に入れ、プレス成形等により成形体を作製することが好ましい。使用する型としては、成形体の表面の一方の面または両面にガス流路となる溝を形成できる、燃料電池用セパレータ作製用の型を用いることが好ましい。
プレス成形の条件は、特に限定されるものではないが、型温度が80~200℃、成形圧力1.0~50MPa、好ましくは5~40MPa、成形時間10秒~1時間、好ましくは20~180秒、より好ましくは30~90秒である。
なお、プレス成形後、熱硬化を促進させる目的で、さらに150~200℃で1~600分程加熱してもよい。
【0024】
得られた成形体は、片面または両面にガス流路となる溝を有するものが好ましい。
成形体の厚さは特に限定されないが、0.5~2mmが好ましく、0.5~1mmがより好ましい。
【0025】
(2)レーザ照射
次に、得られた成形体の表面に赤外線レーザを照射する。
この場合、赤外線レーザは、片面または両面にガス流路となる溝を有する成形体のガス流路となる溝の底部(凹部)および/または山頂部(凸部)に照射することが好ましく、それらの部分のみを狙ってレーザ照射しても、それらの部分を含むガス流路面全体に照射してもよい。
【0026】
レーザ照射に用いられる赤外線レーザとしては、ビーム品質、スポット径および単位面積当たりのパルスエネルギーの条件を満たす限り特に限定されるものではなく、例えば、YAGレーザ、炭酸ガスレーザ、色素レーザ、半導体レーザ、ファイバーレーザ等が挙げられる。焦点深度、集光性、発信機の寿命の点からファイバーレーザが好ましい。
赤外線レーザの波長は特に限定されないが、780~10600nmが好ましく、808~1095nmがより好ましく、920~1070nmがより一層好ましい。
【0027】
赤外線レーザのビーム品質(M2)は、2.8以下であるが、2.5以下が好ましく、2以下がより好ましく、1.8以下がさらに好ましい。ビーム品質が2.8以下であると、レーザの集光性が良くなるため、成形体表層部の樹脂を除去するのに高いエネルギーを必要としないので好ましい。また、成形体への照射に高いエネルギーを必要としないため熱によるダメージが少なく、薄肉の成形体にレーザを照射した場合であっても、照射後の反りが小さくなるため、燃料電池スタック時の接触抵抗を低くすることができる。さらに、レーザのビーム品質が2.8以下であると、焦点深度が深くなるため、高いエネルギーを照射せずにガス流路溝底部の樹脂を除去できるため、大気圧プラズマ処理後の静的接触角を低くすることができる。
【0028】
赤外線レーザの単位面積当たりのパルスエネルギーは、8~50mJ/mm2であるが、10~48mJ/mm2が好ましい。単位面積当たりのパルスエネルギーが8~50mJ/mm2の範囲であると、成形体表層の樹脂を完全に消失させることができるため、接触抵抗および静的接触角が低い良好な燃料電池用セパレータを得ることができる。
【0029】
赤外線レーザのスポット径は、150~300μmである。スポット径が150μm未満であると、成形体の粗面化に長時間を要するため生産効率が悪い。一方、スポット径が300μmを超えると、スポット内のエネルギーが不均一になるため、オーバーラップ率を高くする必要があり、生産効率が悪い。
【0030】
赤外線レーザのスポットのオーバーラップ率は、5~30%が好ましく、10~30%がより好ましい。上記赤外線レーザのオーバーラップ率は、隣り合うレーザスポットの重なり度合のことであり、レーザのスポット径とスキャンピッチにより算出される。オーバーラップ率が5~30%であると、成形体表面のガス流路溝底部(凹部)および山頂部(凸部)の表面の算術平均高さSaを所定の範囲に調整できるので好ましい。
【0031】
レーザを照射する際のスキャン速度は特に限定されないが、3000~10000mm/secが好ましく、5000~8000mm/secがより好ましい。
【0032】
赤外線レーザが照射された成形体表面の算術平均高さSaは、1.15~4.0μmが好ましく、1.4~4.0μmがより好ましく、1.5~4.0μmがさらに好ましい。算術平均高さSaが1.15μm未満であると、セパレータガス流路溝底部および山頂部の表面に樹脂が残存してしまい、接触抵抗および静的接触角が高くなる虞がある。一方、算術平均高さSaが4.0μmを超えると、セパレータガス流路溝底部および山頂部の黒鉛粒子が脱落しやくなり、接触抵抗および静的接触角が高くなる虞がある。
また、ガス流路となる溝の山頂部(凸部)と底部(凹部)の表面の算術平均高さSaの差が、山頂部の算術平均高さSaの20%未満であることが好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。なお、算術平均高さSaの測定方法は、後述する実施例に記載したとおりである。
【0033】
なお、成形体の表面にレーザを照射する前に、必要に応じてブラスト処理を実施してもよい。また、ブラスト処理をしなくてもよい。
ブラスト処理としては、ショットブラスト処理、エアブラスト処理、ウェットブラスト処理等が挙げられ、レーザ照射後の成形体表面の算術平均高さSaが、上記範囲内になるのであればいずれも実施することができる。
【0034】
(3)親水化処理
次いで、赤外線レーザが照射された成形体の表面、好ましくは表面にガス流路となる溝を有する成形体のガス流路面全体を親水化処理する。
この場合、レーザ照射後の親水化処理は、少なくとも発電によって生じた水と接触するガス流路面に施されていればよいが、必要に応じて、冷却面(ガス流路面が片側のセパレータにおいて、反対側の面)に施されていてもよい。
親水化処理としては、特に限定されるものではないが、コロナ処理、エキシマUV光処理、プラズマ処理等が好ましく、中でもプラズマ処理がより好ましい。
【0035】
プラズマ処理によって親水化する方法としては、例えば、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理等が挙げられる。これらの中でも、装置が簡便で、生産性がよい大気圧プラズマ処理が好ましく、特に、リモート方式大気圧プラズマ処理がより好ましい。
【0036】
プラズマの生成に用いるガスとしては、酸素原子を含む酸素ガス、オゾンガス、水、窒素原子を含む窒素ガス、アンモニアガス、硫黄原子を含む二酸化硫黄ガス、三酸化硫黄ガス等が挙げられる。また、空気を使用することもできる。これらのガスを用いてプラズマ処理することにより、成形体表面にカルボニル基、水酸基、アミノ基、スルホ基等の親水性官能基を導入して、表面に親水性を付与することができる。中でも、窒素ガスを80体積%以上含むガスが好ましく、窒素ガス80体積%以上、残部が酸素ガスから構成されるガスがより好ましい。
【0037】
[燃料電池用セパレータ]
本発明の燃料電池用セパレータは、上述したとおり、黒鉛粉末、ならびに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含有する組成物を成形してなる成形体の表面に赤外線レーザを照射することによって前記成形体の表面の樹脂を除去し、さらに親水化処理して得られたものであり、反りが5mm未満であることを特徴とする。
【0038】
本発明の燃料電池用セパレータの反りは、5mm未満であり、好ましくは4.5mm以下であるので、積層時の接触抵抗が低く、導電性が優れている。
本発明の燃料電池用セパレータの表面の算術平均高さSaは、1.15~4.0μmが好ましく、1.4~4.0μmがより好ましく、1.5~4.0μmがさらに好ましい。本発明の燃料電池用セパレータは、ガス流路の溝底部(凹部)と山頂部(凸部)の表層の樹脂が除去されているため、接触抵抗および静的接触角が低く、導電性および親水性に優れている。
この場合、ガス流路溝底部(凹部)および山頂部(凸部)の表面の算術平均高さSaの差が、山頂部の算術平均高さSaの20%未満であることが好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0039】
本発明の燃料電池用セパレータの接触抵抗、特に、ガス流路の山頂部(凸部)の接触抵抗は、7.5mΩ・cm2未満が好ましく、7mΩ・cm2未満がより好ましい。
また、静的接触角、特にガス流路溝底部(凹部)の静的接触角は、11.5°未満が好ましく、10°未満がより好ましい。
【実施例
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記例における各物性は以下の方法によって測定した。
〔平均粒径〕
粒度分布測定装置(日機装(株)製)により測定した。
〔レーザ照射に関する各パラメータの測定〕
(1)ビーム品質(M2)の測定
2ビームアナライザ(Ophir Optronics Solutions社製 BeamSquared)により測定した。
(2)単位面積当たりのパルスエネルギーの測定
単位面積当たりのパルスエネルギーは、レーザ平均出力およびスポット径を計測し、以下の式により算出した。なお、繰り返し周波数はレーザ発振器の設定である。
(i)レーザ平均出力の測定
パワーメータ(Ophir Optronics Solutions社製 NOVAII)により測定した。
(ii)レーザスポット面積の測定
レーザビームプロファイル計測用カメラ(Ophir Optronics Solutions社製 NOVAII)によりスポット径を測定し、スポット面積を算出した。
パルスエネルギー(mJ)=レーザ平均出力(W)÷繰り返し周波数(kHz)
単位面積当たりのパルスエネルギー(mJ/mm2
=パルスエネルギー(mJ)÷スポット面積(mm2
(3)オーバーラップ率
オーバーラップ率は、レーザのスポット径(レーザスポットの照射径)とスキャンピッチにより下記式から算出した。
オーバーラップ率(%)=(レーザのスポット径-スキャンピッチ)/
レーザのスポット径
〔燃料電池用セパレータの評価〕
(1)セパレータ反りの測定
レーザを照射したセパレータを定盤の上に置き、ハイトゲージを用いて最大値と最小値を測定し、これらの差を反りとした。
(2)セパレータガス流路山頂部(凸部)および流路溝底部(凹部)の表面の算術平均高さSaの測定
セパレータのガス流路山頂部(凸部)および流路溝底部(凹部)の表面について、レーザ顕微鏡(オリンパス(株)製、LEXT OLS5000)を用いて、ISO25178-2:2012で規定される算術平均高さSaを測定した。
(3)セパレータのガス流路山頂部(凸部)および流路溝底部(凹部)の算術平均高さSaの差
セパレータのガス流路山頂部(凸部)の算術平均高さSaに対する、ガス流路山頂部(凸部)とガス流路溝底部(凹部)の算術平均高さSaの差(%)を算出した。
(4)セパレータの接触抵抗測定
(i)カーボンペーパー+セパレータサンプル
作製した各セパレータサンプルを2枚重ね合わせ、その上下にカーボンペーパー(TGP-H060、東レ(株)製)を配置し、さらにその上下に銅電極を配置し、上下方向に1MPaの面圧をかけ、4端子法により電極間電圧を測定した。
(ii)カーボンペーパー
カーボンペーパーの上下に銅電極を配置し、上下方向に1MPaの面圧をかけ、4端子法により電極間電圧を測定した。
(iii)接触抵抗算出方法
上記(i),(ii)で求めた各電圧値よりセパレータサンプルとカーボンペーパーとの電圧降下を求め、下記式により接触抵抗を算出した。
接触抵抗(mΩ・cm2)=(電圧降下×接触面積)/電流
(5)セパレータの静的接触角測定
燃料電池用セパレータガス流路底部(凹部)に、大気中でイオン交換水5μLを滴下し、接触角計(協和界面化学(株)製CA-DT・A型)を用いて測定した。
【0041】
[実施例1~16、比較例1~19]
黒鉛粉末(人造黒鉛、平均粒径d50:23μm)100質量部に対し、エポキシ樹脂(o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量198g/eq)20.4質量部、フェノール樹脂(ノボラック型フェノール樹脂、水酸基当量103g/eq)10.7質量部、および2-フェニルイミダゾール0.25質量部からなるエポキシ樹脂成分をヘンシェルミキサ内に投入し、800rpmで3分間混合して、樹脂組成物を調製した。
得られた組成物を燃料電池用セパレータ作製用の金型内に投入し、金型温度185℃、成形圧力36.6MPa、成形時間30秒の条件で圧縮成形し、ガス流路となる溝を片面に有する440mm×120mm×0.7mmの成形体を得た。
得られた成形体のガス流路面のガス流路溝の底部(凹部)または山頂部(凸部)に対し、表1に示す条件かつスキャン速度7500mm/secで赤外線レーザを照射した。
その後、ガス流路面全面に、リモート方式常圧グロー放電プラズマ発生装置(積水化学工業(株)製AP-T03)を用いて、以下の条件で、大気圧プラズマ処理による親水化処理を施し、燃料電池用セパレータを得た。
〔大気圧プラズマ処理条件〕
(i)周波数30kHz,パルス幅9μs,プラズマ電極550mm、電圧420V、電流4.5A
(ii)プラズマガス:窒素-酸素混合ガス 窒素濃度99.5体積%(窒素ガス流量330L/分、酸素ガス流量1.5L/分)
【0042】
上記各実施例および比較例のまとめを表1および表2に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
実施例1~16の条件でレーザを照射した燃料電池用セパレータは、レーザ照射の熱ダメージが少ないので、反りが少ない。また、ガス流路溝凸部および凹部表面の算術平均高さSaの値が所定の範囲であるので、接触抵抗および接触角が低い。
【要約】
【課題】薄肉の燃料電池用セパレータにレーザ照射した場合であっても照射後の反りが小さく、積層時の接触抵抗が低く導電性に優れ、親水性が良好な燃料電池用セパレータを製造する方法を提供すること。
【解決手段】黒鉛粉末、ならびに主剤、硬化剤および硬化促進剤を含むエポキシ樹脂成分を含有する組成物を成形してなる成形体の表面に赤外線レーザを照射することによって前記成形体の表面の樹脂を除去し、さらに親水化処理をする燃料電池用セパレータの製造方法であって、前記赤外線レーザのビーム品質(M2)が、2.8以下であり、スポット径が、150~300μmであって、単位面積当たりのパルスエネルギーが、8~50mJ/mm2であることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【選択図】なし