(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】インクジェット記録用水性白インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20250527BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250527BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2021049891
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田村 裕一
(72)【発明者】
【氏名】江川 剛
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-041616(JP,A)
【文献】特開2022-079155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41J 2/01;
2/165-2/20;
2/21-2/215
B41M 5/00;
5/50;
5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンと、ガラス転移温度が異なる2種のポリウレタン樹脂A及びBを含み、
ポリウレタン樹脂Aのガラス転移温度が40℃以上95℃以下であり、
ポリウレタン樹脂Aが、芳香族ジイソシアネート及び環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートから選ばれる1種以上由来の構成単位aを有し、該構成単位aの含有量が、ポリウレタン樹脂Aの全構成単位中、15質量%以上であり、
芳香族ジイソシアネートがトリレンジイソシアネートであり、環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートがジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネートであり、
ポリウレタン樹脂Bのガラス転移温度が5℃以上20℃以下であり、
ポリウレタン樹脂Bに対するポリウレタン樹脂Aの質量比(ポリウレタン樹脂A/ポリウレタン樹脂B)が0.4以上3以下であり、
インク中の酸化チタン含有量が3質量%以上14質量%以下である、
インクジェット記録用水性白インク。
【請求項2】
ポリウレタン樹脂Bが、環状構造を有する脂肪族ジイソシアネート由来の構成単位bを含有し、該構成単位bの含有量が、ポリウレタン樹脂Bの全構成単位中、15質量%以上である、請求項1に記載のインクジェット記録用水性白インク。
【請求項3】
ポリウレタン樹脂Bが含有する構成単位bの環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートが、イソホロンジイソシアネートである、請求項2に記載のインクジェット記録用水性白インク。
【請求項4】
ポリウレタン樹脂Aの含有量が、白インク中、0.5質量%以上6質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のインクジェット記録用水性白インク。
【請求項5】
酸化チタンが、酸化チタンを含有するポリマー粒子である、請求項1~4のいずれかに記載のインクジェット記録用水性白インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性白インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録媒体に直接吐出し、付着させて、文字や画像が記録された印刷物を得る記録方式であり、従来の記録方式と異なり版を使用しない記録方式であることから、少量多品種に対応できるオンデマンド印刷として広範囲にわたる利用分野が期待されている。特に近年では、従来の白地の紙に対する印刷から、白地ではないコート紙、樹脂フィルム等の低吸液性記録媒体に対する印刷への要望が増加している。
白地ではない記録媒体に対する印刷の場合、白色を表現する目的や視認性を高める目的で白色インクが使用される。白色インクに用いる顔料としては、隠蔽性の高い無機顔料である酸化チタンが汎用されている。
一方、樹脂フィルム等の低吸液性記録媒体上にインクジェット記録方法で印刷を行うと、液体成分の吸収が遅い、又は吸収されないため、インクの乾燥に時間がかかり、記録媒体への定着性や印刷物の耐擦過性が劣る等の問題が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、画像表面のベタツキを抑制しながら、白色度及び耐擦傷性に優れ、かつカラーインクとのにじみが抑制された高品質な画像を与える白色インク組成物として、白色色材と定着樹脂とを含有する白色インク組成物であって、前記定着樹脂がウレタン系樹脂とスチレンアクリル系樹脂を質量基準で10:1以上となる量比で含む、白色インク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の白色インク組成物はインクジェット記録時の吐出安定性が低く、得られる印刷物の耐水性、基材に対する密着性も不十分であった。
本発明は、インクジェット記録時の吐出安定性に優れ、低吸液性記録媒体上に記録を行った場合でも、白色度、基材密着性、耐擦過性、及び耐水性に優れた記録物を得ることができるインクジェット記録用水性白インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、白顔料である酸化チタンの定着用樹脂として、ガラス転移温度が異なる2種類のポリウレタン樹脂を特定の質量比で用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、酸化チタンと、ガラス転移温度が異なる2種のポリウレタン樹脂A及びBを含み、
ポリウレタン樹脂Aのガラス転移温度が40℃以上95℃以下であり、
ポリウレタン樹脂Bのガラス転移温度が5℃以上20℃以下であり、
ポリウレタン樹脂Bに対するポリウレタン樹脂Aの質量比(ポリウレタン樹脂A/ポリウレタン樹脂B)が0.4以上3以下であり、
インク中の酸化チタン含有量が3質量%以上14質量%以下である、
インクジェット記録用水性白インクを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インクジェット記録時の吐出安定性に優れ、低吸液性記録媒体上に記録を行った場合でも、白色度、基材密着性、耐擦過性、及び耐水性に優れた記録物を得ることができるインクジェット記録用水性白インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[インクジェット記録用水性白インク]
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、「本発明インク」ともいう)は、酸化チタンと、ガラス転移温度が異なる2種のポリウレタン樹脂A及びBを含み、
ポリウレタン樹脂Aのガラス転移温度が40℃以上95℃以下であり、
ポリウレタン樹脂Bのガラス転移温度が5℃以上20℃以下であり、
ポリウレタン樹脂Bに対するポリウレタン樹脂Aの質量比(ポリウレタン樹脂A/ポリウレタン樹脂B)が0.4以上3以下であり、
インク中の酸化チタン含有量が3質量%以上14質量%以下である。
なお、本明細書において「水性」とは、酸化チタンを分散させる媒体中で、水が質量比で最大割合を占めていることを意味する。
また、「記録」とは、文字や画像を記録する印刷、印字を含む概念であり、「記録物」とは、文字や画像が記録された印刷物、印字物を含む概念である。
「低吸液性」とは、低吸液性、非吸液性を含む概念であり、記録媒体と純水との接触時間100m秒間における該記録媒体の吸水量が0g/m2以上10g/m2以下であることを意味する。
【0009】
本発明によれば、インクジェット記録時の吐出安定性に優れ、低吸液性記録媒体上に記録を行った場合でも、白色度、基材密着性、耐擦過性、及び耐水性に優れた記録物を得ることができる。その理由は、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
本発明インクにおいては、ガラス転移温度(Tg)が40℃以上95℃以下と高いポリウレタン樹脂A(以下、「高Tgポリウレタン樹脂A」ともいう)と、Tgが5℃以上20℃以下と低いポリウレタン樹脂B(以下、「低Tgポリウレタン樹脂B」ともいう)とが、質量比(A/B)が0.4以上3以下の範囲でそれぞれ独立して存在していると考えられる。そのため、インク吐出時は、高Tgポリウレタン樹脂Aの粒子と低Tgポリウレタン樹脂Bの粒子が互いに干渉することがなく、吐出安定性に悪影響を及ぼすことがないと考えられる。さらに、記録媒体上にインクが着弾し、インク塗膜が形成された状態でも、それぞれ独立してその構造を維持していると考えられる。
【0010】
より具体的には、高Tgポリウレタン樹脂Aには結晶構造が存在し、その結晶構造は特定の分子団間に作用する強い引力によって形成されていると考えられるが、この結晶構造同士の引力はインク塗膜中では、低Tgポリウレタン樹脂B(高Tgポリウレタン樹脂Aとは独立して存在する)からなる部位を超えて作用する、すなわちインク塗膜中で高Tgポリウレタン樹脂Aの結晶構造を構成するセグメントに起因する強い凝集力が低Tgポリウレタン樹脂Bを構成する成分を超えて作用すると考えられる。言い換えると、高Tgポリウレタン樹脂A同士で引き付けあう力が存在していると考えられる。
このように前記樹脂A及びBがインク塗膜中で独立した状態で存在し、かつ高Tgポリウレタン樹脂A同士で引き付けあう力が存在するという特異的なインク塗膜の構成により、低Tgポリウレタン樹脂Bに由来する優れた密着性を損なうことがないので記録物の白色度、基材密着性が向上し、また高Tgポリウレタン樹脂A同士で引き付けあう力によりインク塗膜全体の弾性率が上がるため耐擦過性が上がり、さらに、水の拡散も抑制するために耐水性が向上すると考えられる。
【0011】
<酸化チタン>
酸化チタンは、本発明インク中に白顔料として含有される。
酸化チタンの結晶構造には、ルチル型(正方晶)、アナターゼ型(正方晶)、ブルッカイト型(斜方晶)があるが、結晶の安定性、隠蔽性、及び入手性の観点から、ルチル型酸化チタンが好ましい。
酸化チタンは、未処理のものを用いることもできるが、良好な分散性を得る観点から、表面処理されたものが好ましい。酸化チタンの表面処理としては無機物による表面処理、チタンカップリング剤、シランカップリング剤、シリコーンオイル等の有機物による表面処理等が挙げられるが、無機物による表面処理が好ましい。
【0012】
酸化チタンの無機物による表面処理法としては、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、ジルコニア(ZrO2)、酸化マグネシウム(MgO)等から選ばれる1種以上で処理する方法が挙げられる。
酸化チタンは光触媒活性による有機物分解性を有するため、光触媒活性を抑止する観点、及び分散時の酸化チタンの濡れを改良する観点から、酸化チタン粒子表面をアルミナ等で表面処理をすることが好ましい。さらに酸化チタン粒子表面の酸・塩基状態を調整する観点、及び耐久性を改良する観点から、シリカを併用して表面処理することが好ましい。以上の観点から、酸化チタンは、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛及びジルコニアから選ばれる1種以上で処理することがより好ましく、アルミナ及びシリカから選ばれる1種以上で処理することが更に好ましい。
表面処理した酸化チタンの粉末は、800~1000℃で焼成することにより、粒子間の焼結を抑制して、二次粒子の流動性、分散性を向上させることもできる。
【0013】
酸化チタンの粒子形状は、粒状、針状等があり特に制限されないが、その平均一次粒子径は、白色度の観点から、一次粒子の長径の算術平均で好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは150nm以上であり、そして、好ましくは450nm以下、より好ましくは400nm以下、更に好ましくは350nm以下である。
なお、酸化チタンの平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定される。
ルチル型二酸化チタンの市販品例としては、石原産業株式会社製の商品名:タイペークR、CR、PFシリーズ、堺化学工業株式会社製の商品名:Rシリーズ、テイカ株式会社製の商品名:JR、MTシリーズ、チタン工業株式会社製の商品名:KURONOS KRシリーズ、富士チタン工業株式会社製の商品名:TRシリーズ等が挙げられる。
【0014】
本発明インクで用いられる酸化チタンは、ポリマー分散剤でインク中に分散状態で保持されていることが好ましい。
本発明インク中での酸化チタン及びポリマー分散剤の存在形態としては、酸化チタンを含有するポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)であることが好ましい。
顔料含有ポリマー粒子とは、ポリマー分散剤が酸化チタンを包含した形態の粒子、ポリマー分散剤と酸化チタンからなる粒子の表面に酸化チタンの一部が露出している形態の粒子、ポリマー分散剤が酸化チタンの一部に吸着している形態の粒子、及びこれらの混合物を意味する。これらの中では、ポリマー分散剤が酸化チタンを包含した形態の粒子がより好ましい。
【0015】
〔顔料含有ポリマー粒子〕
顔料含有ポリマー粒子を構成するポリマー分散剤(以下、「ポリマーa」ともいう)は、少なくとも酸化チタン分散能を有するものであれば特に制限はない。
ポリマーaとしては、ビニル単量体の付加重合により得られるビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中では、酸化チタンの分散安定性、保存安定性等の観点から、ビニル系樹脂が好ましい。ポリマーaは、適宜合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
顔料含有ポリマー粒子は、必要に応じて、更に架橋剤で架橋してなる、顔料含有架橋ポリマー粒子であってもよい。
【0016】
〔ポリマーa〕
ポリマーaがビニル系樹脂である場合、ポリマーaは、(a-1)イオン性モノマー由来の構成単位を含有することが好ましく、更に(a-2)疎水性モノマー及び/又は(a-3)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有していてもよい。
【0017】
〔(a-1)イオン性モノマー〕
(a-1)イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマーが好ましく、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー等が挙げられ、カルボン酸モノマーがより好ましい。
カルボン酸モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸等が挙げられるが、好ましくは(メタ)アクリル酸である。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を意味する。
【0018】
〔(a-2)疎水性モノマー〕
(a-2)疎水性モノマーの「疎水性」とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。
(a-2)疎水性モノマーの具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0020〕~〔0022〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、炭素数1以上18以下、特に炭素数1以上10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、炭素数6以上22以下の芳香族基を有する芳香族基含有モノマー、片末端に重合性官能基を有するマクロモノマー等が好ましく、スチレン、α-メチルスチレン及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上がより好ましい。
【0019】
〔(a-3)ノニオン性モノマー〕
(a-3)ノニオン性モノマーは、水や水溶性有機溶剤との親和性が高いモノマーであり、例えば水酸基やポリアルキレングリコール鎖を含むモノマーである。
(a-3)成分の具体例としては、特開2018-83938号公報の段落〔0018〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。
上記モノマー成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
(ビニル系樹脂中における各構成単位の含有量)
ビニル系樹脂中における(a-1)~(a-3)成分由来の構成単位の含有量は、吐出安定性、基材密着性、耐擦過性等を向上させる観点から、次のとおりである。
(a-1)成分の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
(a-2)成分、(a-3)成分を含有する場合、それらの含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0021】
(ポリマーaの製造)
ポリマーaは、公知の方法により、上記モノマー成分を単独重合又はモノマー混合物を共重合させることによって製造できる。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、水、脂肪族アルコール、ケトン、エーテル、エステル等の極性溶媒が好ましく、水、MEK等のケトンがより好ましい。
重合の際には、過硫酸塩や水溶性アゾ化合物等の重合開始剤や、メルカプタン類等の重合連鎖移動剤を用いることができる。
重合温度は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、好ましくは30~95℃、より好ましくは50~80℃である。
ビニル系樹脂は、後述するように中和剤で中和することが好ましい。
【0022】
ポリマーaの重量平均分子量は、吐出安定性、基材密着性、耐擦過性等を向上させる観点から、好ましくは2000以上、より好ましくは3000以上、更に好ましくは4000以上であり、そして、好ましくは5万以下、より好ましくは2万以下、更に好ましくは1万以下である。
ポリマーの重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
ポリマーaの酸価は、分散安定性等の観点から、好ましくは100mgKOH/g以上、より好ましくは200mgKOH/g以上、更に好ましくは300mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは1000mgKOH/g以下、より好ましくは900mgKOH/g以下、更に好ましくは800mgKOH/g以下である。
【0023】
〔顔料含有ポリマー粒子の製造〕
顔料含有ポリマー粒子は、顔料水分散体として下記の工程1を有する方法により、効率的に製造することができる。
工程1:酸化チタン、ポリマーa、及び水を含む顔料混合物を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体」ともいう)を得る工程
【0024】
ポリマーaが酸基を有する場合、該酸基の少なくとも一部は、中和剤を用いて中和されていることが好ましい。これにより、中和後に発現する電荷反発力が大きくなり、水性インクにおける酸化チタン粒子の凝集を抑制し、分散安定性を向上できると考えられる。
中和する場合は、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム及びアンモニアである。
また、ポリマーaを予め中和しておいてもよい。
中和剤の使用当量は、分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは100モル%以下である。
ここで中和剤の使用当量は、中和前のポリマーaを「ポリマーa’」とする場合、次式によって求めることができる。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリマーa’の酸価(mgKOH/g)×ポリマー(B)の質量(g)}/(56×1,000)]〕×100
【0025】
工程1における分散処理は、必要に応じて予備分散した後、本分散することが好ましい。
本分散に用いる分散機としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの中でも、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザー、ビーズミルを用いることが好ましい。
工程1において有機溶媒を含む場合は、公知の方法で有機溶媒を除去することができる。得られた顔料水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残留していてもよい。
また、粗大粒子等を除去する目的で、得られた水分散体を、更に遠心分離した後、液層部分を濾過処理して、顔料水分散体として得ることが好ましい。
【0026】
得られる顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。
固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料水分散体中の酸化チタンの含有量は、分散安定性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。
顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、分散安定性の観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、そして、好ましくは400nm以下、より好ましくは350nm以下である。
顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0027】
<ポリウレタン樹脂>
ポリウレタン樹脂は、インクジェット記録方法により、本発明インクをインク液滴として記録媒体に定着させための定着剤として作用する。
本発明インクにおいては、低吸液性記録媒体に対する基材密着性、耐擦過性、耐水性等を向上させる観点から、ガラス転移温度が異なる2種のポリウレタン樹脂A及びBを含有する。ポリウレタン樹脂Aのガラス転移温度は40℃以上95℃以下であり、ポリウレタン樹脂Bのガラス転移温度は5℃以上20℃以下である。
ポリウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシアネートとを公知の方法により重付加反応させることにより得ることができるが、ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、ポリウレタン樹脂の分子量、ポリウレタン樹脂のポリオールとポリイソシアネートの組み合わせ等により調整することができる。
【0028】
(ポリオール)
ポリオールとしては、1分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する化合物であれば特に制限はなく、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオール等から選ばれる1種以上が好ましい。
すなわち、ポリウレタン樹脂は、(i)ポリエステル系ポリウレタン樹脂、(ii)ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、及び(iii)ポリエーテル系ポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。
【0029】
(i)ポリエステル系ポリウレタン樹脂
ポリエステル系ポリウレタン樹脂は、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとを重付加反応させることにより得ることができる。
原料であるポリエステルポリオールは、ジオールとジカルボン酸とを縮合することにより得ることができる。
ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジオール等の炭素数2~10のジオールから選ばれる1種以上が好ましい。
ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸等の脂肪族二塩基酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族二塩基酸から選ばれる1種以上が好ましい。
【0030】
(ii)ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂としては、炭素数2~12の脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、ポリカーボネートポリオール、1~1000の繰り返し単位を含むポリアルキレンカーボネートジオール、1~1000の繰り返し単位を含むポリエチレンエーテルカーボネートジオール、及びそれらの組み合わせから選ばれる1種以上のポリオール(a)由来の構成単位と、ポリイソシアネート由来の構成単位を含むポリウレタン樹脂が好ましい。
【0031】
(iii)ポリエーテル系ポリウレタン樹脂
ポリエーテル系ポリウレタン樹脂は、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとを重付加反応させることにより得ることができる。
原料であるポリエーテルポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール等のアルキレングリコールが2~45分子、好ましくは10~40分子重合したポリエーテルジオール;テトラヒドロフラン、エピクロロヒドリン等の環状エーテル化合物を単独で又は2種以上を組み合わせて開環重合する等して得られる重合体等から選ばれる1種以上が好ましい。
【0032】
(ポリイソシアネート)
ポリウレタン樹脂の成分であるポリイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネート、環状構造を有する脂肪族ジイソシアネート、芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、及びこれらジイソシアネートの変性物(カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン含有変性物等)等から選ばれる1種以上が挙げられる。
脂肪族ジイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等から選ばれる1種以上が好ましい。
環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートとしては、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアナート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアナート等から選ばれる1種以上が好ましい。
芳香環を有する脂肪族ジイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等から選ばれる1種以上が好ましい。
芳香族ジイソシアネートとしては、トリレンジイソアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等から選ばれる1種以上が好ましい。
【0033】
これらの中では、低吸液性記録媒体に対する基材密着性、耐擦過性、耐水性等を向上させる観点から、環状構造を有する脂肪族ジイソシアネート及び芳香族ジイソシアネートから選ばれる1種以上が好ましく、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート、2,4-TDI、2,6-TDI等のトリレンジイソシアネート等から選ばれる1種以上がより好ましい。
上記のポリオール、ポリイソシアネートは、それぞれ、各成分に含まれる化合物を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
(ポリウレタン樹脂の製造)
ポリウレタン樹脂の重付加反応の際には、脂肪族アミン化合物、有機錫化合物等の重合触媒を用いることが好ましい。
反応溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、トルエン、キシレン等が挙げられるが、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が好ましい。
重付加反応においては、必要に応じて鎖延長剤を併用してもよい。鎖延長剤を用いることにより、分子量を増加させることができる。
鎖延長剤としては、ポリオール、ポリアミン等が挙げられ、ポリアミンが好ましい。
ポリアミンの具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン、キシリレンジアミン等のアルキル芳香族ジアミン、ヒドラジン等が挙げられる。これらの中では、脂肪族ジアミンが好ましく、エチレンジアミンがより好ましい。
【0035】
ポリウレタン樹脂は、顔料を含有しない水不溶性ポリウレタン樹脂粒子が水系媒体中に分散した水分散体として用いることが好ましく、必要に応じて界面活性剤のような分散剤を含有していてもよい。
ポリウレタン樹脂は、架橋構造を有してもよい。架橋構造を形成する方法としては、3官能性以上のモノマーを用いてポリウレタンを合成する方法、2官能性モノマーを用いて線状のポリウレタンを得た後、末端のイソシアネート基又はヒドロキシ基と反応する3官能性以上の架橋剤と反応させる方法等が挙げられる。
【0036】
〔ポリウレタン樹脂A〕
ポリウレタン樹脂Aのガラス転移温度は40℃以上であり、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは55℃以上、より更に好ましくは60℃以上であり、そして、95℃以下であり、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下、更に好ましくは82℃以下、より更に好ましくは80℃以下である。
ポリウレタン樹脂Aのガラス転移温度は、実施例に記載の方法により測定される。
ポリウレタン樹脂Aは、環状構造を有する脂肪族ジイソシアネート及び芳香族ジイソシアネートから選ばれる1種以上由来の構成単位aを有し、該構成単位aの含有量が、ポリウレタン樹脂Aの全構成単位中、15質量%以上である。
【0037】
ポリウレタン樹脂Aとしては、ポリエステル系ポリウレタン樹脂A-1、及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂A-2から選ばれる1種以上が好ましい。
ポリウレタン樹脂Aは、芳香族ジイソシアネート及び環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートから選ばれる1種以上由来の構成単位aを有し、該構成単位aの含有量は、ポリウレタン樹脂Aの全構成単位中、15質量%以上である。
【0038】
(ポリエステル系ポリウレタン樹脂A-1)
ポリエステル系ポリウレタン樹脂A-1としては、前記の(i)ポリエステル系ポリウレタン樹脂の中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジオールとジカルボン酸とを縮合して得られたポリエステルポリオール由来の構成単位と、ポリイソシアネート(b)由来の構成単位を含むポリウレタン樹脂が好ましい。
これらの中でも、ポリエステル系ポリウレタン樹脂A-1は、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジオールとジカルボン酸とを縮合して得られたポリエステルポリオール由来の構成単位と、芳香族ジイソシアネート由来の構成単位を含むポリウレタン樹脂が好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジオールと、アジピン酸及び/又はテレフタル酸とを縮合して得られたポリエステルポリオール由来の構成単位と、トリレンジイソシアネート(TDI)由来の構成単位を含むポリウレタン樹脂がより好ましい。
【0039】
ポリエステル系ポリウレタン樹脂A-1における、ポリイソシアネート由来の構成単位の含有量、好ましくは芳香族ジイソシアネートの含有量は、ポリエステル系ポリウレタン樹脂A-1の全構成単位中、好ましくは15質量%以上、より好ましくは17質量%以上、更に好ましくは19質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0040】
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂A-2)
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂A-2としては、前記の(ii)ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂の中でも、低級ポリオール構造を有するポリカーボネートポリオール由来の構成単位と、ポリイソシアネート由来の構成単位を含むポリウレタン樹脂が好ましい。
低級ポリオールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコール等の脂環式ジオール;キシリレングリコール等の芳香族ジオール、及びそれらの組み合わせから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0041】
これらの中でも、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂A-2は、脂肪族ジオール由来の構造を有するポリカーボネートポリオール由来の構成単位と、環状構造を有する脂肪族ジイソシアネート由来の構成単位を含むポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましく、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール等の炭素数4~9の脂肪族ジオール由来の構造を有するポリカーボネートポリオール由来の構成単位と、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート由来の構成単位を含むポリウレタン樹脂が好ましく、1,6-ヘキサンジオール由来の構造を有するポリカーボネートポリオール由来の構成単位と、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート由来の構成単位を含むポリウレタン樹脂がより好ましい。
【0042】
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂A-2における、ポリイソシアネート由来の構成単位の含有量、好ましくは環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートの含有量は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂A-2の全構成単位中、好ましくは15質量%以上、より好ましくは18質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0043】
ポリウレタン樹脂Aの重量平均分子量は、吐出安定性、耐擦過性等を向上させる観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは20万以上、更に好ましくは30万以上であり、そして、好ましくは300万以下、より好ましくは200万以下、更に好ましくは100万以下である。
ポリウレタン樹脂Aの酸価は、吐出安定性、耐擦過性等を向上させる観点から、好ましくは2mgKOH/g以上、より好ましくは4mgKOH/g以上、更に好ましくは6mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは80mgKOH/g以下、より好ましくは40mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下である。
ポリマーの重量平均分子量、酸価は、実施例に記載の方法により測定される。
【0044】
ポリウレタン樹脂Aの粒子の分散体中における平均粒径は、吐出安定性、印刷媒体への基材密着性、耐擦過性等を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0045】
ポリウレタン樹脂Aの分散体の市販品例としては、第一工業製薬株式会社製の商品名:スーパーフレックス830HS(ポリエステル系)、第一工業製薬株式会社製の商品名:スーパーフレックス820(ポリエステル系)、DSM Coating Resins社製、商品名:NeoRez R-940(ポリエステル系)、DSM Coating Resins社製、商品名:NeoRez R-4000(ポリカーボネート系)等が挙げられる。
【0046】
〔ポリウレタン樹脂B〕
ポリウレタン樹脂Bのガラス転移温度は20℃以下であり、好ましくは18℃以下、より好ましくは16℃以下であり、そして、5℃以上であり、好ましくは7℃以上、より好ましくは9℃以上、更に好ましくは10℃以上である。
ポリウレタン樹脂Bは、環状構造を有する脂肪族ジイソシアネート由来の構成単位bを含有し、該構成単位bの含有量は、ポリウレタン樹脂Bの全構成単位中、好ましくは15質量%以上である。
【0047】
ポリウレタン樹脂Bとしては、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂B-1が好ましい。
(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂B-1)
ポリエーテル系ポリウレタン樹脂B-1としては、前記の(iii)ポリエーテル系ポリウレタン樹脂の中でも、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール等のアルキレングリコールが2~45分子、好ましくは10~40分子重合したポリエーテルジオール;テトラヒドロフラン、エピクロロヒドリン等の環状エーテル化合物を単独で又は2種以上を組み合わせて開環重合する等して得られる重合体由来の構成単位と、ポリイソシアネート由来の構成単位を含むポリウレタン樹脂が好ましい。
【0048】
これらの中でも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールから選ばれる1種以上のポリオール由来の構成単位と、環状構造を有する脂肪族ジイソシアネート由来の構成単位を含むポリウレタン樹脂が好ましく、ポリテトラメチレングリコール由来の構成単位と、イソホロンジイソシアネート由来の構成単位を含むポリウレタン樹脂が好ましい。
ポリエーテル系ポリウレタン樹脂B-1における、ポリイソシアネート由来の構成単位の含有量、好ましくは環状構造を有する脂肪族ジイソシアネート由来の構成単位の含有量は、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂Bの全構成単位中、好ましくは15質量%以上、より好ましくは18質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下である。
【0049】
ポリウレタン樹脂Bの重量平均分子量は、基材密着性、耐擦過性等を向上させる観点から、好ましくは1万以上、より好ましくは2万以上、更に好ましくは3万以上であり、そして、好ましくは12万以下、より好ましくは10万以下、更に好ましくは8万以下である。
ポリマーの重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
ポリウレタン樹脂Bの酸価は、印刷媒体への基材密着性、耐擦過性等を向上させる観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは2mgKOH/g以上、更に好ましくは3mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは60mgKOH/g以下、より好ましくは40mgKOH/g以下、更に好ましくは20mgKOH/g以下である。
ポリマーの酸価は、実施例に記載の方法により測定される。
【0050】
ポリウレタン樹脂Bの粒子の分散体中における平均粒径は、吐出安定性、印刷媒体への基材密着性、耐擦過性等を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは40nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0051】
ポリウレタン樹脂Bの分散体の市販品例としては、DSM Coating Resins社製、商品名:NeoRez R-600、NeoRez R-966(ポリエーテル系)等が挙げられる。
【0052】
<水溶性有機溶剤>
本発明インクは、基材密着性等を向上させる観点から、沸点が100℃以上300℃以下の水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。
水溶性有機溶剤は、常温(25℃)で液体であっても固体であってもよい。水溶性有機溶剤は、有機溶媒を25℃の水100mLに溶解させたときに、その溶解量が10mL以上である有機溶媒をいう。
水溶性有機溶剤の沸点は、基材密着性等を向上させる観点から、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、更に好ましくは118℃以上であり、そして、好ましくは300℃以下、より好ましくは298℃以下、更に好ましくは295℃以下である。
ここで、沸点とは標準沸点(1気圧下での沸点)をいい、水溶性有機溶剤を2種以上用いる場合には、各水溶性有機溶剤の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値とする。
【0053】
水溶性有機溶剤としては、グリコールエーテル、多価アルコール、2-ピロリドン等の含窒素複素環化合物、アルカノールアミン等が挙げられるが、これらの中ではグリコールエーテル及び多価アルコールから選ばれる1種以上がより好ましい。
グリコールエーテルとしては、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテルが好ましく、アルキレングリコールモノアルキルエーテルがより好ましい。グリコールエーテルのアルキル基の炭素数は、1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、そして、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは4以下である。アルキル基は、直鎖であっても、分岐鎖であってもよい。
【0054】
アルキレングリコールモノアルキルエーテルの好適例としては、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられるが、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、及びジエチレングリコールモノイソブチルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテルがより好ましい。
【0055】
多価アルコールとしては、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール等の炭素数2以上6以下のアルカンジオール、グリセリン、及び分子量500~1000のポリプロピレングリコールから選ばれる1種以上が好ましく、プロピレングリコールがより好ましい。
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、沸点が100℃以上300℃以下の水溶性有機溶剤以外の他の有機溶媒を含有してもよい。他の有機溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等の一価アルコールが挙げられる。
【0056】
<界面活性剤>
本発明インクは、白色度等を向上させる観点から、界面活性剤を含有することが好ましい。
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤が好ましく、白色度等を向上させる観点から、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる1種以上がより好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤とシリコーン系界面活性剤とを併用することが更に好ましい。
【0057】
(アセチレングリコール系界面活性剤)
アセチレングリコール系界面活性剤としては、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,4-ジメチル-5-ヘキシン-3-オール等のアセチレン系ジオール、及びそれらのエチレンオキシド付加物が挙げられる。
前記エチレンオキシド付加物のエチレンオキシ基(EO)の平均付加モル数の和(n)は、好ましくは0以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。
アセチレングリコール系界面活性剤のHLB(親水性親油性バランス)値は、水性インクへの溶解性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、インクが形成する塗膜の密着性を高める観点から、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは4以下である。
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品例としては、日信化学工業株式会社製の「サーフィノール」シリーズ、「オルフィン」シリーズ、川研ファインケミカル株式会社製の「アセチレノール」シリーズ等が挙げられる。
【0058】
(シリコーン系界面活性剤)
シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン等が挙げられるが、上記と同様の観点から、ポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤のHLB(親水性親油性バランス)値は、水性インクへの溶解性の観点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは13以上である。HLB値は、グリフィン法により求めることができる。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の具体例としては、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAGシリーズ、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYKシリーズ等が挙げられる。
これらの中では、信越化学工業株式会社製のKFシリーズが好ましい。
【0059】
[水性インクの製造]
本発明インクは、酸化チタンを含む顔料含有ポリマー粒子の水分散体と、ポリウレタン樹脂Aと、ポリウレタン樹脂Bと、必要に応じて、有機溶剤と、水と、インクに通常用いられる保湿剤、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を混合することにより得ることができる。
【0060】
<水性インクの各成分の含有量>
本発明インク中の各成分の含有量は、本発明インクの吐出安定性、記録媒体の白色度、基材密着性、耐擦過性、耐水性を向上させる観点から、以下のとおりである。
【0061】
(酸化チタンの含有量)
本発明インク中の酸化チタンの含有量は、3質量%以上であり、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは6質量%以上であり、そして、14質量%以下であり、好ましくは13質量%以下、より好ましく12質量%以下、更に好ましく11質量%以下である。
本発明インク中の顔料含有ポリマー粒子の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは6質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましく15質量%以下である。
【0062】
(ポリウレタン樹脂Aの含有量)
本発明インク中のポリウレタン樹脂Aの含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
(ポリウレタン樹脂Bの含有量)
本発明インク中のポリウレタン樹脂Bの含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
本発明インク中のポリウレタン樹脂Bに対するポリウレタン樹脂Aの質量比(ポリウレタン樹脂A/ポリウレタン樹脂B)は、0.4以上であり、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.62以上であり、そして、3以下であり、好ましくは2以下、より好ましくは1.8以下、更に好ましくは1.6以下である。
【0063】
(水溶性有機溶剤の含有量)
本発明インク中の水溶性有機溶剤の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
本発明インク中の水の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0064】
<水性インク物性>
本発明インクの32℃の粘度は、吐出安定性、画像濃度を向上させる観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。水性インクの粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
本発明インクのpHは、保存安定性、画像濃度を向上させる観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。水性インクのpHは、常法により測定できる。
【0065】
本発明インクは、ピエゾ式等の公知のインクジェット記録装置に装填し、記録媒体にインク液滴として吐出させて画像等を記録することができる。
本発明インクは、低吸液性記録媒体へのインクジェット記録においても画像堅牢性に優れた記録物を得ることができる。
低吸液性記録媒体としては、低吸液性のコート紙、アート紙、及び非吸液性の樹脂フィルムが挙げられる。
コート紙としては、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙等が挙げられる。
樹脂フィルムとしては、透明合成樹脂フィルムが挙げられ、例えば、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ナイロン等のフィルムが挙げられる。これらのフィルムは、二軸延伸、一軸延伸、無延伸のフィルムであってもよい。これらの中では、ポリエステルフィルム、延伸ポリプロピレンフィルムが好ましく、コロナ放電処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、コロナ放電処理された二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム等がより好ましい。
【実施例】
【0066】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各物性等の測定方法は以下のとおりである。
【0067】
(1)ポリマーの重量平均分子量(Mw)の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolum Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP、PTFE製、0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0068】
(2)酸化チタンの平均一次粒子径の測定
酸化チタンの平均一次粒子径は、透過電子顕微鏡「JEM-2100」(日本電子株式会社製)を用いて、画像解析で500個の酸化チタン一次粒子を抽出してその粒子径を測定し、その平均を算出して算術平均粒子径とした。なお、酸化チタンに長径と短径がある場合は、長径を用いて算出した。
【0069】
(3)顔料含有ポリマー粒子、ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い、平均粒径を測定した。測定する粒子の濃度が5×10-3重量%(固形分濃度換算)になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力し、得られたキュムラント平均粒径を顔料含有ポリマー粒子、ポリウレタン粒子の平均粒径とした。
【0070】
(4)固形分濃度の測定
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させた後、測定試料の水分(%)を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(%)=100-測定試料の水分(%)
【0071】
(5)ポリマーの酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)に樹脂をトルエンとアセトン(2:1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。 水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0072】
(6)ポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)の算出
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製、「Pyris 6 DSC」)を用いて、試料5mgをアルミパンに計量し、150℃まで昇温し、その温度から降温速度20℃/minで-30℃まで冷却した。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温した。吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)とした。
なお、水分散体は、凍結乾燥機(東京理化器械株式会社製、「FDU-2100」)を用いて、水分散体を-10℃で9時間凍結乾燥させたものを試料とした。
【0073】
製造例1(ポリウレタン樹脂粒子A1の水分散体の製造)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリオール成分としてポリエステルポリオール(P-2011)、ジイソシアネート成分としてコロネートT-80、及びメチルエチルケトンを加え、75℃で1時間反応させることで、プレポリマーを30%含むMEK溶液を得た。さらにジメチロールプロピオン酸、1,4-ブタンジオール、トリエチルアミン、及びメチルエチルケトンを加え、75℃で1時間反応させ、プレポリマーを50%含むMEK溶液を得た。次に、この溶液を45℃まで冷却し、続いて、乳化水及びエチレンジアミンを混合した。この乳化分散液を50℃、2時間減圧蒸留して脱溶剤を行い、固形分濃度20%のポリウレタン樹脂粒子A1の水分散体を得た。結果を表1に示す。
【0074】
製造例2~5(ポリウレタン樹脂粒子A2~A3、B4~B5の水分散体の製造)
製造例1において、表1に示す条件に変えた以外は、製造例1と同様にして濃度20%のポリウレタン樹脂粒子A2~A3、B4~B5の水分散体を得た。結果を表1に示す。
【0075】
表1において使用した原料の詳細は以下のとおりである。
*1:3-メチル-1,5-ペンタンジオール、テレフタル酸、アジピン酸からなるポリエステルポリオール
株式会社クラレ製、商品名:P-2011、分子量2000、水酸基価56.1(mgKOH/g)
*2:1,6-ヘキサンジオールからなるポリカーボネートポリオール
旭化成株式会社製、商品名:デュラノールT-6002、分子量2000、水酸基価56.1(mgKOH/g)
*3:1,4-ブタンジオールからなるポリエーテルポリオール
三菱ケミカル株式会社製、商品名:PTMG1000、分子量1000、水酸基価112.2(mgKOH/g)
*4:2,4-TDI及び2,6-TDIの異性体の8:2混合物
東ソー株式会社製、商品名:コロネートT-80
*5:ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート、東京化成工業株式会社製
*6:イソホロンジイソシアネート、東京化成工業株式会社製
なお、ジメチロールプロピオン酸、1,4-ブタンジオール、トリエチルアミン、エチレンジアミンは東京化成工業株式会社製である。
【0076】
【0077】
製造例6(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
5Lポリ容器に、ポリアクリル酸分散剤(東亜合成株式会社製、アロンA-10SL、Mw:5000、酸価:735mgKOH/g、固形分濃度:40%)を2500g、イオン交換水3.57gを添加し、容器を氷浴で冷却、溶液を100rpmで撹拌しながら5N水酸化ナトリウム水溶液1666.43gをゆっくりと添加して中和させた。中和させた水溶液にイオン交換水を添加して固形分濃度を20%に調整して、ポリアクリル酸分散剤の中和水溶液を得た(中和度:53モル%、酸価:735mgKOH/g)。
2Lのポリ容器に、ポリアクリル酸分散剤の中和水溶液を33.0g、酸化チタン(石原産業株式会社製、C.I.ピグメント・ホワイト6、商品名:タイペークCR-80、ルチル型、Al・Si処理、平均一次粒子径250nm)を300g、水を300g加えて、ジルコニアビーズを1000g添加して、卓上型ポットミル架台(アズワン株式会社)にて8時間分散処理した。金属メッシュを用いてジルコニアビーズを除去し、イオン交換水で固形分濃度を調整して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:51%、酸化チタン:50%、ポリアクリル酸:1%、平均粒径280nm、pH:7.6)を得た。
【0078】
実施例1(水性白インク1の製造)
製造例6で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:51%)39.2g、製造例1で得られたポリウレタン樹脂粒子A1の水分散体(固形分濃度:20%、Tg:68℃)30.0g、製造例4で得られたポリウレタン樹脂粒子B4の水分散体(固形分濃度:20%、Tg:14℃)20.0g、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(日本乳化剤株式会社製)6.0g、プロピレングリコール54.0g、アセチレングリコール系界面活性剤(川研ファインケミカル株式会社製、商品名:サーフィノール104PG50、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール(HLB:3.0)、有効分濃度50%のプロピレングリコール溶液)6.0g、シリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社製、商品名:KF-6011、HLB:14.5)0.6g、シリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社製、商品名:KF-353A、HLB:10)0.5g、1N水酸化ナトリウム水溶液2.4g、イオン交換水41.3gを添加して混合した。得られた混合液をメンブランフィルター(ザルトリウス社製、商品名:ミニザルトシリンジフィルター、孔径:5.0μm、材質:酢酸セルロース)で濾過し、水性インク1(固形分濃度:15.2%、酸化チタン:10%、ポリマー:5.2%(ポリアクリル酸:0.2%、ポリウレタン樹脂A:3.0%、ポリウレタン樹脂B:2.0%)、pH:8.4)を得た。
【0079】
実施例2~10、比較例1~4
実施例1において、表2に示す条件に変えた以外は、実施例1と同様にして水性白インク2~10、11~14を得た。
【0080】
上記の実施例、比較例で得られた水性白インク1~10、11~14を用いて、下記〔1〕に示す方法で吐出安定性を評価した。また、下記〔2〕に示す方法で印刷物を作製し、下記〔3〕~〔6〕に示す方法で評価を行った。結果を表2に示す。
表2中の各成分の量は、有効分(固形分)量である。
表2に示す成分の詳細は以下のとおりである。
【0081】
<ポリウレタン樹脂A>
(1)ポリエステル系ポリウレタン樹脂粒子A1、固形分濃度:20%、Tg:68℃、Mw:56万、酸価:26mgKOH/g、平均粒径:53nm
・ポリオール成分:3-メチル-1,5-ペンタンジオール、アジピン酸、テレフタル酸からなるポリエステルポリオール
・芳香族ジイソシアネート成分:2,4-トリレンジイソシアネート/2,6-トリレンジイソシアネートの混合物、全構成単位中の含有量:36.2%
(2)ポリエステル系ポリウレタン樹脂粒子A2、固形分濃度:20%、Tg:80℃、Mw:62万、酸価:12mgKOH/g、平均粒径:127nm
・ポリオール成分:3-メチル-1,5-ペンタンジオール、アジピン酸、テレフタル酸からなるポリエステルポリオール
・芳香族ジイソシアネート成分:2,4-TDI/2,6-TDIの混合物、全構成単位中の含有量:18.3%
【0082】
(3)ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂粒子A3、固形分濃度:20%、Tg:78℃、Mw:35万、酸価:12mgKOH/g、平均粒径:96nm
・ポリオール成分:1,6-ヘキサンジオール
・脂肪族ジイソシアネート成分:ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート、全構成単位中の含有量:21.8%
【0083】
<ポリウレタン樹脂B>
(4)ポリエーテル系ポリウレタン樹脂粒子B4、固形分濃度:20%、Tg:14℃、Mw:6万、酸価:7mgKOH/g、平均粒径:84nm
・ポリオール成分:ポリテトラメチレングリコール
・ジイソシアネート成分:イソホロンジイソシアネート、全構成単位中の含有量:20.5%
(5)ポリエーテル系ポリウレタン樹脂粒子B5、固形分濃度:20%、Tg:10℃、Mw:5万、酸価:9mgKOH/g、平均粒径:136nm
・ポリオール成分:ポリテトラメチレングリコール
・ジイソシアネート成分:イソホロンジイソシアネート、全構成単位中の含有量:50.5%
(その他:アクリル樹脂)
・ジョンクリル(J)PDX-7789、BASF社製、Tg:60℃
・ジョンクリル(J)PDX-7732、BASF社製、Tg:19℃
【0084】
〔1〕吐出安定性の評価
インクジェットヘッド(京セラ株式会社製、KJ4B-1200)にインク充填後ヘッドをキャップしない状態で10分間放置し、その後、再度印刷を開始した際のインクの吐出状態を確認し、以下の評価基準で吐出安定性を評価した。全ノズルの合計数は5312個である。
(評価基準)
◎:欠けのあるノズルが全ノズル中の1/16以下である。
〇:欠けのあるノズルが全ノズル中の1/16より多く、8/16以下である。
△:欠けのあるノズルが全ノズル中の8/16より多く、12/16以下である。
×:欠けが全ノズル中の12/16より多くあるが、メンテナンスすれば回復する。
評価が〇以上であれば吐出安定性は実用上支障がない。
【0085】
〔2〕印刷物の作製
インクジェットヘッド(京セラ株式会社製、KJ4B-1200)を搭載したインクジェットプリンタに、上記で得られた水性白インクを充填し、ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製、FOR-AQ)にそれぞれベタ画像の印刷を行い、得られた印刷物を50℃に加熱した熱プレートに乗せ、ドライヤーにて温風を1分間あてて乾燥させた。
得られた印刷物は60℃に設定した乾燥器(DVS402,ヤマト科学株式会社製)に入れ、10分間乾燥を行い、最終印刷物を得た。
【0086】
〔3〕白色度の評価
ポリプロピレンフィルムの最終印刷物の印刷面の裏面が上側になるように既定の黒用紙に重ね、測色計(GretagMacbeth社製、SpectroEye)を用いて黒の画像濃度を測定し、以下に示す評価基準で白色度を評価した。
黒の画像濃度が低いほど印刷物の隠ぺい性が高いことを意味し、この数値を白色度とする。白インクのベタ埋まり性が良いほど白色度は小さくなる。
(評価基準)
◎:白色度が0.4未満である。
〇:白色度が0.4以上、0.50未満である。
△:白色度が0.5以上、0.80未満であり不十分である。
×:白色度が0.80以上であり問題である。
評価が〇以上であれば白色度は実用上支障がない。
【0087】
〔4〕基材密着性の評価
ポリプロピレンフィルムの最終印刷物を用いて、JIS K5400に則った碁盤目試験法で評価を行った。
すなわち、ポリプロピレンフィルムの印刷面にカッターナイフを用いて素地に達する縦横で各11本の切り傷をつけて100個の碁盤目を作り、碁盤目部分にセロテープ(登録商標)を強く圧着させ、テープの端を120°の角度で一気に引き剥がし、目視にて印刷面の状態を試験前の状態と比較し、以下に示す評価基準で基材密着性を評価した。
(評価基準)
◎:剥離なし
〇:剥離が20%未満
△:剥離が20%以上85%未満
×:剥離が85%以上
評価が〇以上であれば基材密着性は実用上支障がない。
【0088】
〔5〕耐擦過性の評価
ポリプロピレンフィルムの最終印刷物に対して、質量計測器(株式会社エー・アンド・デイ製、GX-6100)にて擦過試験時の指先での荷重を測定しながら、人差し指の爪先で300gの荷重を加えて擦過し、印刷面を20往復させた後の表面状態を目視にて確認し、以下に示す評価基準で耐擦過性を評価した。
(評価基準)
◎:目視では全く変化が確認できない。
〇:試験部の1/3以下の領域でインクの剥離が所々確認できる。
△:試験部の1/3より広く2/3より狭い領域でインクの剥離が所々確認できる。
×:試験部の2/3より広い領域でインクの剥離部が所々確認できるか、全て剥離している。
評価が〇以上であれば耐擦過性は実用上支障がない。
【0089】
〔6〕耐水性の評価
ポリプロピレンフィルムの最終印刷物を4×15cmの試験片に切り出し、イオン交換水の入った株式会社マルエム社製のスクリュー管にて浸漬させ、24時間室温で放置した。放置後、最終印刷物の試験片をスクリュー管から取り出し、質量計測器(株式会社エー・アンド・デイ製、GX-6100)にて親指と人差し指で100gの荷重になるように加えて挟み、印刷面を15往復擦り、試験中に印刷面に変化がなかった際の往復回数を数え、以下に示す評価基準で耐水性を評価した。
(評価基準)
◎:15回擦過後も目視では全く変化が確認できない。
〇:2~14回擦過後に試験部の2/5以下の領域でインクの剥離部が確認できる。
△:2~14回擦過後に試験部の2/5より多く4/5以下の領域でインクの剥離部が確認できる。
×:1回擦過後に試験部の4/5より広い領域でインクの剥離部が確認できるか、全て剥離している。
評価が〇以上であれば耐水性は実用上支障がない。
【0090】
【0091】
表2から、実施例で得られた水性白インク1~10は、比較例で得られた水性白インク11~14に比べて、吐出安定性に優れ、白色度、基材密着性、耐擦過性、及び耐水性に優れたインクジェット印刷物を得ることができることが分かる。