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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-27
(45)【発行日】2025-06-04
(54)【発明の名称】塗料用組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20250528BHJP
   C09D 101/00 20060101ALI20250528BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20250528BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D101/00
C09D7/43
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021570025
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048776
(87)【国際公開番号】W WO2021140965
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2020000369
(32)【優先日】2020-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】川崎 修治
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209327(JP,A)
【文献】特開2003-284435(JP,A)
【文献】特表2019-537643(JP,A)
【文献】特表2008-530311(JP,A)
【文献】特開2019-167497(JP,A)
【文献】特開昭62-188021(JP,A)
【文献】特開2006-083363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭と液状分散媒と、セルロースナノファイバーとを含む塗料用組成物であって、
前記活性炭が1000nm以下の中心粒子径D50を有し、かつ、BET比表面積が700m/g以上1700m/g以下である活性炭であり、
塗料用組成物の総質量に対して、前記活性炭の含有量が1質量%以上5質量%未満であり、結着剤の含有量が5質量%未満であり、
活性炭に対するセルロースナノファイバーの質量比(セルロースナノファイバー/活性炭)が0.4未満である、塗料用組成物。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーの含有量が、塗料用組成物の総質量に対して0.5質量%以下である、請求項に記載の塗料用組成物。
【請求項3】
B型粘度計を用いて、5×10-3-1のずり速度において20℃で測定される粘度η(a)が8×10mPa・s以上1.2×10mPa・s以下である、請求項1または2に記載の塗料用組成物。
【請求項4】
B型粘度計を用いて、1s-1のずり速度において20℃で測定される粘度η(b)が3×10mPa・s以下である、請求項1~のいずれかに記載の塗料用組成物。
【請求項5】
添加剤をさらに含む、請求項1~のいずれかに記載の塗料用組成物。
【請求項6】
添加剤が、防虫剤、殺虫剤、抗菌剤、分散剤、調湿剤、光触媒材料、顔料、活性炭以外の吸着剤、添着剤、湿潤剤、セルロースナノファイバー以外の増粘剤、沈降防止剤、表面調整剤、皮ばり防止剤、たれ止め剤、レベリング剤、はじき防止剤、わき防止剤、硬化触媒、可塑剤、つや消し剤、すり傷防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防腐剤、養藻剤、帯電防止剤、難燃剤、防汚剤、酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤および乳化剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項5に記載の塗料用組成物。
【請求項7】
添加剤の含有量が、塗料用組成物の総質量に対して30質量%以下である、請求項またはに記載の塗料用組成物。
【請求項8】
塗料組成物中の固形分濃度が塗料用組成物の総質量に対して、1質量%以上20質量%以下である、請求項1~のいずれかに記載の塗料用組成物。
【請求項9】
3~30μmの中心粒子径D50を有する原料活性炭と液状分散媒とセルロースナノファイバーを、混合物中の原料活性炭の濃度が1~30質量%になるよう混合して混合物を得る工程(1)、および
前記工程(1)で得られた混合物に、粒子径が0.2~1mmであるジルコニアビーズを用いたビーズミルにて湿式粉砕を施して、1000nm以下の中心粒子径D50を有する活性炭と液状分散媒との混合物を得る工程(2)
を含む、請求項1~のいずれかに記載の塗料用組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の塗料用組成物を含むスプレー製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1000nm以下の中心粒子径を有する活性炭を含む塗料用組成物、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、臭気や汚染物質等に対する吸着機能を有することが知られており、空気や水を清浄するための機器や道具、消臭剤等において活性炭が広く利用されている。そのような利用の多くにおいて、活性炭は、粒状物、粉体、活性炭成型フィルター、活性炭配合のプラスチック製品などの形態で用いられている。近年、様々な臭い成分に対して清浄機器の高性能化や多様化の要請が高まっており、活性炭の利用形態についても、スプレー製剤や塗料型など基材上に直接塗布できる種々の処方が提案されている。例えば、特許文献1には、セルロースナノファイバーとともに機能性物質として活性炭を配合した、経時的に収縮することにより乾燥後も容易に剥がし得るスプレー用脱臭剤が開示されている。また、特許文献2には、粒子サイズの中央値が1μm未満であるサブミクロンの活性炭と、該活性炭を分散させるための水性結着剤系との混合物からなる吸着性塗料処方が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-196550号公報
【文献】特表2008-530311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的に粉末活性炭の平均粒子径は、比較的微細に粉砕されたものであっても10μm程度はあり、上記特許文献1に記載されるような活性炭含有スプレー剤において用いられる活性炭は、微細化されたものであっても数μm(例えば5μm程度)の平均粒子径を有していることが多い。通常、塗料は10~100μm程度の厚みで塗布されることが多いが、微細で複雑な精密部品や、繊維、紙などに活性炭の吸着性能を付加する目的においては、より薄く(例えば、1μm~20μmなど)かつ均一な塗膜を形成する必要があり、5μm程度に微細化された活性炭では、活性炭に起因して斑が生じたり、厚みにばらつきを生じたりすることがある。一方、活性炭をさらに微細化し、1μm未満の中心粒子径を有するサブミクロン活性炭を塗料組成物に用いた場合、微細な活性炭の塗装面からの脱落を防ぐために、特許文献2に開示されるように結着剤等を多量に配合する必要があった。しかし、結着剤等を多量に配合した場合には、活性炭の細孔閉塞を引き起こし易く、特に活性炭の含有量が少ない場合においては、十分な吸着性能を維持することが困難であった。
【0005】
本発明は、活性炭の含有量が少量であっても、活性炭による十分な吸着性能を確保しながら、塗膜形成対象物(基材)に対して薄く均一で外観的に優れる塗膜を簡便に形成することのできる塗料用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために、炭素質材料およびその製造方法について詳細に検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]活性炭と液状分散媒とを含む塗料用組成物であって、
前記活性炭が1000nm以下の中心粒子径D50を有する活性炭であり、該活性炭の含有量が、塗料用組成物の総質量に対して1質量%以上10質量%以下である塗料用組成物。
[2]セルロースナノファイバーをさらに含み、活性炭に対するセルロースナノファイバーの質量比(セルロースナノファイバー/活性炭)が0.4未満である、前記[1]に記載の塗料用組成物。
[3]前記セルロースナノファイバーの含有量が、塗料用組成物の総質量に対して0.5質量%以下である、前記[2]に記載の塗料用組成物。
[4]B型粘度計を用いて、5×10-3-1のずり速度において20℃で測定される粘度η(a)が8×10mPa・s以上1.2×10mPa・s以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の塗料用組成物。
[5]B型粘度計を用いて、1s-1のずり速度において20℃で測定される粘度η(b)が3×10mPa・s以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の塗料用組成物。
[6]添加剤をさらに含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載の塗料用組成物。
[7]添加剤が、防虫剤、殺虫剤、抗菌剤、分散剤、調湿剤、光触媒材料、顔料、活性炭以外の吸着剤、添着剤、樹脂、湿潤剤、セルロースナノファイバー以外の増粘剤、沈降防止剤、表面調整剤、皮ばり防止剤、たれ止め剤、レベリング剤、はじき防止剤、わき防止剤、硬化触媒、可塑剤、つや消し剤、すり傷防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防腐剤、養藻剤、帯電防止剤、難燃剤、防汚剤、酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤および乳化剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、前記[6]に記載の塗料用組成物。
[8]添加剤の含有量が、塗料用組成物の総質量に対して30質量%以下である、前記[6]または[7]に記載の塗料用組成物。
[9]塗料組成物中の固形分濃度が塗料用組成物の総質量に対して、1質量%以上20質量%以下である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の塗料用組成物。
[10]3~30μmの中心粒子径D50を有する原料活性炭と液状分散媒とを、混合物中の原料活性炭の濃度が1~30質量%になるよう混合して混合物を得る工程(1)、および
前記工程(1)で得られた混合物に、粒子径が0.2~1mmであるジルコニアビーズを用いたビーズミルにて湿式粉砕を施して、1000nm以下の中心粒子径D50を有する活性炭と液状分散媒との混合物を得る工程(2)
を含む、前記[1]~[9]のいずれかに記載の塗料用組成物の製造方法。
[11]前記[1]~[9]のいずれかに記載の塗料用組成物を含むスプレー製剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、活性炭の含有量が少量であっても、活性炭による十分な吸着性能を確保しながら、塗膜形成対象物(基材)に対して薄く均一で外観的に優れる塗膜を簡便に形成することのできる塗料用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0009】
本発明の塗料用組成物は活性炭を含む。本発明の塗料用組成物に含まれる前記活性炭は、1000nm以下の中心粒子径D50を有する活性炭(以下、「サブミクロン活性炭」ともいう)である。塗料用組成物に含まれる活性炭の中心粒子径が1000nmを超える場合、活性炭に起因した斑が生じたり、厚みにばらつきが生じたりして、均一で薄い塗膜を形成し難くなり、特に、微細な形状や複雑な形状の塗膜形成対象物に対して外観的に優れる塗膜を得ることが困難となる。本発明において、活性炭の中心粒子径D50は、好ましくは800nm以下、より好ましくは600nm以下、さらに好ましくは500nm以下である。また、吸着性能の確保と良好な塗布性とのバランスの観点から、活性炭の中心粒子径D50の下限値は、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは100nm以上である。
【0010】
本発明において、活性炭の中心粒子径D50は、レーザー回折測定法または動的光散乱法にて測定可能な平均粒子径であり、体積粒度分布における中心粒径(D50)を意味する。また、本発明での平均粒子径とは、一次粒子の平均粒子径を意味する。1~100μm程度の範囲に粒度分布を有する一般的な粉末活性炭については、レーザー回析測定法によって高い精度で測定可能であり、100~1000nm程度の範囲に粒度分布を有するサブミクロン活性炭については、動的光散乱法によって比較的高い精度で測定が可能である。したがって、本発明においては、原則として、中心粒子径D50が1μmを超えるような粉末活性炭に対してはレーザー回折測定法により測定を行い、中心粒子径D50が1μm未満となるようなサブミクロン活性炭に対しては動的光散乱法により測定を行った値を採用する。レーザー回折測定法においては、例えば、3本レーザー方式の採用により0.02~2,800μmの幅広いレンジを高分解能に測定可能なマイクロトラック MT3000IIシリーズ(日機装株式会社製)などを用いることができる。また、動的光散乱法において、ヘテロダイン方式による測定によって0.8~6,500nmのレンジで測定可能なナノトラック UPAシリーズ(日機装株式会社製)などを用いることができる。より具体的には、活性炭の中心粒子径D50は、後述する実施例に記載の方法に従い測定できる。
【0011】
本発明において、サブミクロン活性炭のBET比表面積は、好ましくは700m/g以上、より好ましくは800m/g以上、さらに好ましくは900m/g以上であり、また、好ましくは1700m/g以下、より好ましくは1650m/g以下、さらに好ましくは1600m/g以下である。活性炭のBET比表面積が上記下限値以上であると、微細化されたサブミクロン活性炭においても高い吸着性能の発揮が期待できる。また、BET比表面積が上記上限以下であると、サブミクロン活性炭のかさ密度が増加することにより、塗料としての単位体積当たりにおいて高い吸着性能の発揮が期待できる。
なお、本発明において、BET比表面積は窒素吸着法により測定、算出することができる。
【0012】
サブミクロン活性炭は、通常、原料となる炭素前駆体を炭化および賦活処理することにより得ることができ、細孔直径2nm未満のマイクロ孔、細孔直径2nm以上50nm以下のメソ孔や50nm以上のマクロ孔が存在する。
本発明において、活性炭の全細孔容積は、好ましくは0.2cm/g以上、より好ましくは0.3cm/g以上、さらに好ましくは0.4cm/g以上であり、また、好ましくは1.1cm/g以下、より好ましくは1.0cm/g以下、さらに好ましくは0.8cm/g以下である。
【0013】
本発明の塗料用組成物におけるサブミクロン活性炭の含有量は、塗料用組成物の総質量に対して1質量%以上10質量%以下である。サブミクロン活性炭の含有量が1質量%未満であると、塗料用組成物に十分な吸着性能を付与することが難しくなる。また、サブミクロン活性炭の含有量が10質量%を超えると、サブミクロン活性炭に起因して粘度が高くなり過ぎて塗布性が低下するため、薄く均一な塗膜を形成するための塗料用組成物として適する粘度に制御し難くなる。本発明において、サブミクロン活性炭の含有量は、塗料用組成物の総質量に対して、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、また、好ましくは8質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、とりわけ好ましくは5質量%未満である。特に、塗料用組成物をスプレー製剤として用いる場合には、スプレー噴霧時の液詰まりを防止しながら、液だれを抑制する効果が得られやすく、スプレー斑の発生を抑制して外観的に優れる薄膜均一な塗膜を形成し得るため、サブミクロン活性炭の含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0014】
本発明において、サブミクロン活性炭の原料となる炭素前駆体は、賦活することによって活性炭を形成するものであれば特に限定されず、植物由来の炭素前駆体、鉱物由来の炭素前駆体、天然素材由来の炭素前駆体および合成素材由来の炭素前駆体などから、塗料用組成物の用途等に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、植物由来の炭素前駆体として、木材、鋸屑、木炭、ヤシ殻、クルミ殻などの果実殻、果実種子、パルプ製造副生物、リグニン、廃糖蜜など、鉱物由来の炭素前駆体として、泥炭、草炭、亜炭、褐炭、レキ青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残査、石油ピッチなど、天然素材由来の炭素前駆体として再生繊維(レーヨン)など、合成素材由来の炭素前駆体としてフェノール、サラン、アクリル樹脂などが挙げられる。
中でも、入手が容易で加工性にも優れ、高い吸着性能を有する活性炭を製造し得ることから、植物由来の炭素前駆体(特に椰子殻)やレキ青炭等が好ましい。
【0015】
サブミクロン活性炭は、例えば、上記のような炭素前駆体を炭化処理した炭化物を賦活処理して得られる活性炭を、後述する本発明の塗料用組成物の製造方法において採用するような粉砕方法により微細化することにより製造できる。以下、本明細書において、炭素前駆体を炭化および賦活処理して得られる、粉砕処理前の活性炭を「原料活性炭」ということがある。炭素前駆体を炭化処理および賦活処理する方法は特に限定されず、原料活性炭を得るための方法として従来公知の方法を採用すればよい。
また、原料活性炭として商業的に入手可能な原料活性炭を使用してもよい。そのような市販品としては、例えば、クラレコールPGW、クラレコールPW、クラレコールPKC〔全て(株)クラレ製〕等が挙げられる。
【0016】
本発明の塗料用組成物は液状分散媒を含む。本発明において液状分散媒とは、室温(25℃)で液体である、原料活性炭およびサブミクロン活性炭を分散させることが可能な溶媒を意味する。液状分散媒としては、原料活性炭やサブミクロン活性炭を分散させることができ、所望するサイズへの原料活性炭の粉砕を可能とするものである限り、特に限定されるものではなく、従来公知の溶媒から適宜選択すればよい。具体的には、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール溶媒、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル溶媒、アセトンなどのケトン溶媒、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素溶媒、トルエン、m-キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒等が挙げられる。
【0017】
本発明の塗料用組成物を構成する液状分散媒としては、塗料用組成物から塗膜を形成した際に気化し得る揮発性の溶媒が好ましい。本明細書において、揮発性の溶媒とは、常温常圧下(25℃、1atm程度)において徐々に気化する溶媒を意味し、具体的には25℃における蒸気圧が1×10-7Pa以上の溶媒である。このような揮発性の溶媒(液状分散媒)としては、種々の用途の塗料用組成物に広く適用しやすく、また、外観的にも優れる塗膜を形成しやすい観点から、水、アルコール溶媒、または、水とアルコール溶媒との混合物からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、アルコール溶媒としてはエタノールが好ましい。液状分散媒として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、原料活性炭の粉砕時に使用する液状分散媒と、塗料用組成物中でサブミクロン活性炭を分散させ、必要に応じて配合される添加剤を溶解/分散させるために使用する液状分散媒(溶媒)は、同じであっても異なっていてもよい。
【0018】
本発明の塗料用組成物における液状分散媒の含有量は、塗料用組成物の用途や所望する粘度等に応じて適宜決定すればよい。本発明の一態様においては、塗料用組成物の総質量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98.5質量%以下、さらに好ましくは98質量%以下、特に好ましくは97.5質量%以下である。
【0019】
本発明の塗料用組成物は、セルロースナノファイバーを含むことが好ましい。セルロースナノファイバーを含むことにより、セルロースナノファイバーのフィブリル化した繊維の微細構造が、サブミクロン活性炭の微粒子をしっかりと絡めとり保持するため、塗料用組成物から形成される塗膜において、接触やこすれ等によるサブミクロン活性炭の脱落および他の物品等への転写を抑制する効果が向上する。また、本発明の塗料用組成物においては、吸着性能を付与するために機能するサブミクロン活性炭が粘度調整剤としての機能も果たし得るため、増粘機能を有するセルロースナノファイバーを含まなくても塗料用組成物に適度な粘度を付与し得るが、セルロースナノファイバーは、例えばラテックスや水溶性ポリマーなどの樹脂(結着剤)や、一般的な高分子系増粘剤または増粘多糖類と比較して、塗料用組成物に配合した際にサブミクロン活性炭の細孔閉塞を引き起こし難いため、塗料用組成物の粘度を制御する粘度調整剤として好適である。本発明の塗料用組成物においては、比較的少量のセルロースナノファイバーによって、サブミクロン活性炭の吸着性能に大きな影響を及ぼすことなく容易に粘度調整することが可能である。
【0020】
本発明において、セルロースナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。セルロースナノファイバーの平均繊維径が上記上限以下であると、塗料用組成物中においてセルロースナノファイバーが沈降し難く、良好な分散性を確保しやすい。セルロースナノファイバーの平均繊維径の下限値は特に限定されるものではないが、サブミクロン活性炭の補足力の低下の観点からは、通常1nm以上であり、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。
【0021】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM、特に径が20nm以下の測定に適する)や電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、特に径が20nm以上の場合の測定に適する)を用いて測定することができ、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより求めることができる。
【0022】
セルロースナノファイバーは、公知の製造方法により製造することができる。セルロースナノファイバーの製造方法としては、例えば、特開2010-37200号公報に記載されるような、セルロースを分散させた分散液に次亜ハロゲン酸等の共酸化剤を添加して酸化反応を行い、その後、精製および微細化処理する方法;特開2019-127490号公報や特開2019-99758号公報に記載されるような、セルロースのカルボキシメチル化において、水を主とする溶媒下でマーセル化(セルロースのアルカリ処理)を行った後、水と有機溶媒との混合溶媒下でカルボキシル化(エーテル化ともいう)を行う方法;特開2008-1728号公報に記載されるような、木材繊維にTEMPO触媒を作用させ、機械的に解繊する方法等が挙げられ、このような方法に従い作製したセルロースナノファイバーを本発明の塗料用組成物に用いることができる。
【0023】
また、セルロースナノファイバーとして商業的に入手可能なセルロースナノファイバーを使用してもよい。そのような市販品としては、例えば、レオクリスタ(第一工業製薬(株)製)、セレンピア(日本製紙(株)製)等が挙げられる。
【0024】
本発明の塗料用組成物がセルロースナノファイバーを含む場合、本発明の塗料用組成物において、サブミクロン活性炭に対するセルロースナノファイバーの質量比(セルロースナノファイバー/サブミクロン活性炭)は、0を超え、好ましくは0.4未満であり、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.17以下、特に好ましくは0.12以下である。活性炭を分散した溶液の粘度は、活性炭の粒子径や濃度により変化するが、中心粒子径D50が1000nm以下となるサブミクロン活性炭を用いる場合、一般的な粉末活性炭(中心粒子径D50が数μm~数十μmであるもの)を同じ濃度で分散する場合と比較して、分散溶液の粘度は高くなりやすい。したがって、サブミクロン活性炭を含む塗料用組成物にセルロースナノファイバーを加える場合、サブミクロン活性炭による溶液粘度の上昇とセルロースナノファイバーによる粘度の上昇とをバランスよく制御することが好ましい。サブミクロン活性炭に対するセルロースナノファイバーの質量比が上記上限以下であると、サブミクロン活性炭による十分に高い吸着性能を確保しながら、塗料用組成物の粘度を制御しやすく、均一で薄く、外観的に優れる塗膜を簡便に形成しやすくなる。
【0025】
本発明の塗料用組成物がセルロースナノファイバーを含む場合、その含有量は、塗料用組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.35質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下であり、また、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。セルロースナノファイバーの含有量が上記範囲内であると、塗料用組成物から形成される塗膜において、基材等の塗膜形成面に対するサブミクロン活性炭の密着性を高めることができ、こすれ等に起因するサブミクロン活性炭の脱落を効果的に抑制し得るとともに、サブミクロン活性炭の吸着性能を維持したまま塗料用組成物に適度な粘度を付与しやすい。特に、塗料用組成物をスプレー製剤として用いる場合には、スプレー噴霧時の液詰まりを防止しながら、液だれを抑制する効果も得られやすく、スプレー斑の発生を抑制して外観的に優れる薄膜均一な塗膜を形成し得る。
【0026】
なお、本発明の一態様においてセルロースナノファイバーの含有量は0質量%であってもよい。本発明の塗料用組成物においては、吸着性能を付与するために機能するサブミクロン活性炭が粘度調整剤としての機能も果たし得るため、増粘機能を有するセルロースナノファイバーを含まなくても塗料用組成物の粘度を適度な範囲に制御しやすい。このような塗料用組成物は、活性炭による十分な吸着性能を確保しながら、塗膜形成対象物(基材)に対して薄く均一で外観的に優れる塗膜を形成することができる。一方、形成された塗膜に対して接触やこすれ等が起こった場合、セルロースナノファイバーを含む処方と比較して、少量のサブミクロン活性炭の脱落や他の物品等への転写が生じやすくなる傾向がある。これを防ぐために、例えば、セルロースナノファイバーを含む溶液を、本発明の塗料用組成物から形成された塗膜上に重ねて塗工してもよい。セルロースナノファイバーを含む溶液としては、例えばセルロースナノファイバー水溶液が挙げられる。塗工方法は特に限定されず、はけ塗り、ローラー塗り、スプレーなどの種々の塗工方法を用いることができる。
なお、このようなセルロースナノファイバーを含む溶液を重ねて塗工することは、本発明の塗料用組成物がセルロースナノファイバーを含有する場合においても行ってよい。
【0027】
本発明の塗料組成物は、塗料用組成物に所望の機能を付与したり、塗料用組成物の物性を調整したりするために機能し得る添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、塗料用組成物の用途等に応じて適宜選択することができるが、本発明の一態様において、本発明の塗料用組成物は、添加剤として、防虫剤、殺虫剤、抗菌剤、分散剤、調湿剤、光触媒材料、顔料、活性炭以外の吸着剤、添着剤、樹脂(結着剤)、湿潤剤、増粘剤(セルロースナノファイバー以外)、沈降防止剤、表面調整剤、皮ばり防止剤、たれ止め剤、レベリング剤、はじき防止剤、わき防止剤、硬化触媒、可塑剤、つや消し剤、すり傷防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防腐剤、養藻剤、帯電防止剤、難燃剤、防汚剤、酸化防止剤、pH調整剤、消泡剤および乳化剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
前記防虫剤および殺虫剤としては、例えば、エンペントリン、トランスフルスリン、アレスリン、フェノトリン、エミネンス、プロフルトリン等のピレスロイド系防虫・殺虫成分、パラジクロロベンゼン、ナフタリン、樟脳、2-フェノキシエタノール等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
抗菌剤としては、有機化合物系または無機化合物系の抗菌剤を用いることができる。具体的には、有機化合物系の抗菌剤としては、フェノール系化合物、ピリジン系化合物、チアゾリン系化合物、イミダゾール系化合物が好ましい。無機化合物系の抗菌剤としては、銀および塩化銀、炭酸銀などの銀化合物、銅および銅化合物、亜鉛および亜鉛化合物などが好ましい。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
分散剤を用いることにより、活性炭粒子の凝集防止効果を期待できる。分散剤としては、例えば、低分子分散剤として界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が好ましく、より具体的には、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、ジイソブチレン・無水マレイン酸共重合ナトリウム、縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレン・アクリル酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、モノアルキル硫酸塩、セッケン、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を用いることができる。高分子分散剤としては、例えば、ホモポリマー、ランダムポリマー、ブロックポリマーが挙げられる。より具体的には、例えばSMA樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。中でも、活性炭粒子の凝集防止効果の観点から、塩基性の界面活性剤が好ましく、アンカー部として芳香族アミノ基または4級アンモニウム基若しくはそれらの塩を有する分散剤がより好ましい。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
分散剤として、商業的に入手可能なものを使用してもよく、市販の界面活性剤として、例えばデモールNL、エマルゲンA-60、エマルゲンB-66、サニゾール(以上、花王(株)製)、エスリームAD-3172M(日油(株)製)、アデカプルロニックL-64((株)アデカ製)等が挙げられる。
【0032】
調湿剤としては、例えば、シリカゲル、炭酸カルシウム、塩化カルシウムなどを好適に使用できる。
【0033】
顔料としては、例えば、ハンザエロー、ペリレンレッド、フタロシアニンブルーなどの有機着色顔料、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラックなどの無機着色顔料、シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、クレー等の体質顔料の他、蛍光顔料、示温顔料、導電性顔料、断熱・遮熱顔料、光触媒顔料、防錆顔料などが挙げられる。
【0034】
活性炭以外の吸着剤としては、例えば、ゼオライト、チタノシリケート、シリカゲル、ハイドロタルサイト、キトサン等が使用できる。
【0035】
添着剤として、一般的な添着炭に使用されている添着剤を配合することにより、サブミクロン活性炭をサブミクロン添着活性炭として使用することができる。具体的にはアンモニアなどの塩基性ガス用としてリン酸、クエン酸、リンゴ酸などの酸性化合物、SOxなどガス用として炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの塩類、アルデヒドガス用としてエチレン尿素、p-アミノ安息香酸、スルファニル酸などのアミノ化合物、エチレンガス用としてパラジウムなどの貴金属類、メルカプタンなど悪臭物質用として硫酸銅、硫酸マンガンなどの銅、マンガン化合物を使用できる。
【0036】
塗料用組成物を適用する対象物が、被塗物表面に凹凸の少ないプラスチック、金属、ガラス等である場合、塗料用組成物に樹脂(結着剤)を配合することによって、塗膜形成面に対するサブミクロン活性炭の密着性が高まりやすくなる。そのような樹脂としては、例えば、一般的な塗料に使用されるロジン、ニトロセルロース、塩化ビニル、塩化ゴム、ポリスチレン、酢酸ビニルエマルジョン、アクリル、(メタ)アクリル酸エステル、ポリアクリルニトリル、ポリメタクリル酸メチル、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリルエマルジョン、アルキド、不飽和ポリエステル、オイルフリーポリエステル、メラニン、ポリエステル/メラニン、ポリエステル/ポリイソシアネート、アクリル/メラニン、ポリイソシアネート、ポリウレタン、アクリル/ポリイソシアネート、フェノール、エポキシ、エポキシ/ポリアミン、塗料用フッ素樹脂、フッ素/ビニル、シリコン樹脂、シリコン変性アクリル、エポキシポリオール樹脂、その他合成樹脂ラテックスなどが挙げられる。しかし、これらの樹脂(結着剤)を多量に配合すると、サブミクロン活性炭の細孔閉塞を起こしやすくなり、所望の吸着性能が得られない場合がある。従って、これらの樹脂(結着剤)を含む場合、その含有量は、塗料用組成物の総質量に対して総量で、好ましくは5質量%未満、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2.5%以下である。
【0037】
本発明の塗料用組成物は、セルロースナノファイバー以外の増粘剤(粘度調整物質)を含んでいてもよい。増粘剤としては、代表的には、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ペクチン、カラナギン、キサンタンガム、ガラクトマンナン類などの増粘多糖類、アクリルポリマー、カルボキシビニルポリマーなどの一般的な高分子増粘剤が挙げられる。本発明の塗料用組成物がセルロースナノファイバー以外の増粘剤(以下、「他の粘度調整物質」ともいう)を含む場合、その含有量は、塗料用組成物の総質量に対して総量で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。セルロースナノファイバー以外の増粘剤の含有量が上記上限以下であると、サブミクロン活性炭の細孔を閉塞することによるサブミクロン活性炭の吸着性能の低下を抑制しながら、塗料用組成物に適度な粘度を付与することができる。
【0038】
本発明の塗料用組成物における添加剤の含有量は、用いる添加剤の種類、所望する機能や物理的特性等に応じて適宜決定すればよい。本発明の塗料用組成物が添加剤を含む場合、その含有量は、塗料用組成物の総質量に対して総量で、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。添加剤の含有量が上記上限以下であると、本発明の効果や塗料用組成物の物理的特性に影響を与えることなく、添加剤による所望の機能を発揮しやすい。本発明の塗料用組成物における添加剤の含有量の下限値は、特に限定されるものではなく、塗料用組成物の総質量に対して0質量%であってもよい。
【0039】
本発明の塗料用組成物における固形分濃度は、塗料用組成物の総質量に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。塗料用組成物における固形分濃度が上記範囲内であると、塗料用組成物における良好な吸着性能を確保しやすく、かつ、塗料用組成物に薄く均一な塗膜の形成に適した粘度を付与しやすくなる。前記固形分濃度は、吸着性能向上の観点から、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上であり、また、吸着性能の確保と良好な塗布性とのより良好なバランスの観点から、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、特に好ましくは12質量%以下である。
【0040】
塗料用組成物中の固形分濃度とは、塗料用組成物から液状分散媒(溶媒)等の揮発性物質を除いた成分の合計量を意味する。塗料用組成物中の固形分濃度は、例えば、塗料用組成物の調製時の液状分散媒(溶媒)等の揮発性物質を除いた成分の仕込み量の合計量を塗料用組成物の総質量で除して100を乗じることにより算出できる。あるいは、電子天秤を用いて測定対象とする塗料用組成物100gをガラス製のビーカーに量り入れ、120℃に調整した乾燥機にて16時間乾燥後、直ちに電子天秤で乾燥後の重量値Xgを測定し、下記式:
固形分濃度(%)=乾燥後重量X(g)/100(g)×100
に従い、算出することができる。
【0041】
本発明の塗料用組成物の粘度は、塗料用組成物の用途、塗料用組成物を塗布する対象物の形状や材質、被塗物表面の凹凸の程度、目的に応じた塗料の必要塗布量等に応じて適宜決定すればよい。本発明の塗料用組成物においては、吸着性能を付与するために機能するサブミクロン活性炭が粘度調整剤としての機能も果たし得るため、サブミクロン活性炭の中心粒子径D50やサブミクロン活性炭の含有量を調整することにより、少量のセルロースナノファイバー等の粘度調整物質で、または、粘度調整物質を用いることなく、塗料用組成物を所望の粘度範囲に容易に制御することができる。これにより、はけ塗り、ローラー塗り、こて塗り、カーテンフロー、ロールコーター、浸漬塗り、エアレススプレー、静電スプレー、電着塗装、インクジェット法などの種々の塗布方法を用いて、種々の形状や材質からなる塗膜形成対象物(基材)に対して、薄く均一であり、外観的に優れる塗膜を簡便に形成することが可能な塗料用組成物となり得る。
【0042】
本発明の一態様において、本発明の塗料用組成物は、B型粘度計を用いて5×10-3-1のずり速度において20℃で測定される粘度η(a)が8×10mPa・s以上1.2×10mPa・s以下であることが好ましい。粘度η(a)が上記範囲であると、塗料用組成物の良好な塗布性を確保しながら、塗膜形成対象物に塗布した際の液だれを抑制しやすくなり、微細または複雑な形状の対象物においても外観的に優れる薄膜の塗膜を得ることができる。本発明において、塗料用組成物の粘度η(a)は、より好ましくは1.5×10mPa・s以上、さらに好ましくは3×10mPa・s以上であり、また、より好ましくは1.0×10mPa・s以下、さらに好ましくは8×10mPa・s以下である。
【0043】
また、本発明の別の一態様において、本発明の塗料用組成物は、B型粘度計を用いて1s-1のずり速度において20℃で測定される粘度η(b)が3×10mPa・s以下であることが好ましい。粘度η(b)が上記上限以下であると、比較的小さな吐出口から吐出する組成物として適し、噴霧法やインクジェット法により吐出される場合に良好な噴霧性/吐出性を実現し得る。本発明において、塗料用組成物の粘度η(b)は、より好ましくは2×10mPa・s以下、さらに好ましくは1×10mPa・s以下である。塗料用組成物の粘度η(b)の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば1mPa・s以上である。
【0044】
本発明の塗料用組成物は、例えば、
3~30μmの中心粒子径D50を有する原料活性炭と液状分散媒とを、混合物中の原料活性炭の濃度が1~30質量%になるよう混合して混合物を得る工程(1)、および
前記工程(1)で得られた混合物に、粒子径が0.2~1mmであるジルコニアビーズを用いたビーズミルにて湿式粉砕を施して、1000nm以下の中心粒子径D50を有する活性炭と液状分散媒との混合物を得る工程(2)
を含む製造方法により製造することができる。
【0045】
工程(1)および工程(2)は、原料活性炭から本発明の塗料用組成物を構成するサブミクロン活性炭を得るための工程である。
工程(1)は、最終的に所望するサブミクロン活性炭の粒子径よりも大きな粒子径を有する原料活性炭を、該原料活性炭を分散させるための液状分散媒と混合して、原料活性炭と液状分散媒との混合物を得る工程である。
【0046】
本発明の塗料用組成物を構成するサブミクロン活性炭を得るために適する原料活性炭の中心粒子径D50は、好ましくは3~30μmであり、より好ましくは5~15μmである。上記中心粒子径D50を有する活性炭を原料とすることで、30μm以上の大きな粒度の活性炭を原料とする場合に比べてサブミクロン活性炭を効率的に得ることができ。また、わずかではあるが得られたサブミクロン活性炭において1μm以上の粒子の残留を防止することができる。なお、原料活性炭の中心粒子径D50はレーザー回析測定法によって測定、算出することができる。
【0047】
工程(1)において、原料活性炭と液状分散媒との混合は、得られる混合物中の原料活性炭の濃度が、好ましくは1~30質量%、より好ましくは10~25質量%になるように行う。混合物中の原料活性炭の濃度が上記範囲内であると、サブミクロン活性炭をビーズミルなどで粉砕する条件において効率がよい。また、塗料として使用するために、サブミクロン活性炭の含有量を塗料用組成物の総質量に対して1質量%以上10質量%以下に調整することが、他の添加剤とさらに混合する場合においても容易である。
【0048】
原料活性炭と液状分散媒との混合物中に、必要に応じて分散剤として界面活性剤を加えてもよい。分散剤として適量の界面活性剤を用いることにより、塗料用組成物の分散状態を向上させ、サブミクロン活性炭等の成分が組成物中で沈降することを効果的に抑制し得る。その場合の界面活性剤の量は、得られる混合物の総質量に対して、好ましくは0.1~2.0質量%であり、より好ましくは0.2~0.5質量%である。
【0049】
原料活性炭と液状分散媒との混合条件は、特に限定されるものではなく、原料活性炭の粒子径、濃度、液状分散媒の種類、混合に用いる機器や設備等に応じて、均一な混合物が得られるよう適宜決定すればよい。例えば、撹拌機として、ディソルバーやバタフライミキサー等を用いてもよい。
【0050】
工程(2)は、湿式粉砕により原料活性炭を中心粒子径D501000nm以下のサブミクロン活性炭へ粉砕する工程である。
原料活性炭の粉砕は、ロールミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル等の公知の微粉砕機を用いて行うことができる。中でも、短時間で効率的にサブミクロン活性炭を得やすい観点から、ビーズミルを用いることが好ましい。これらの機器は、必要に応じて組み合わせて用いてもよく、また、篩機や風力分級機によって分級を行ってもよい。
【0051】
粉砕機としてボールミルやビーズミルを使用する場合、そのメディア(ボールまたはビーズ)の材質は、特に限定されず、例えばガラス、アルミナ、ジルコン、シリカ、セラミックス、チタニア、ジルコニア、スチールなどを使用することができる。メディアからのコンタミが生じにくく、粉砕時間を短縮しやすい観点から、メディアはジルコニアビーズであることが好ましい。ジルコニアビーズを用いる場合、サブミクロン活性炭への微細化をより効率的に行う観点から、ビーズの粒子径は0.2~1mmであることが好ましく、0.2~0.5mmであることがより好ましい。粉砕機へのメディアの充填率は特に限定されないが、粉砕時の異型化を抑制しやすい観点から、好ましくは50~95%であり、より好ましくは70~90%である。粉砕時間は所望の粒子径に粉砕し得るよう、原料活性炭の粒子径や用いる粉砕機の種類等に応じて適宜決定すればよい。例えば、ビーズ径を小さくしたり、粉砕時間を長くしたりすることで、より小さな粒子径を得やすくなる。
【0052】
液状分散媒中に原料活性炭を分散させた状態で粉砕を行う湿式粉砕を採用することにより、乾式粉砕では得ることが難しい1000nm以下の中心粒子径を有するサブミクロン活性炭を効率的に得ることができる。
湿式粉砕後、得られるサブミクロン活性炭と液状分散媒とを含む混合物に、濃度調整のための濃縮処理を施してもよい。濃縮処理の方法としては、例えば、フィルタープレス、ロータリーフィルター、ドラム型乾燥機、シリンダー型乾燥機、棚段型熱風乾燥機、伝導加熱型乾燥機等を用いて、所望の濃度になるよう液状分散媒を低減または除去する方法が挙げられる。
【0053】
本発明においては、上記工程(1)および(2)を経て得られたサブミクロン活性炭と液状分散媒との混合物またはその濃縮物をそのまま塗料用組成物として用いてもよく、該混合物または濃縮物を、必要に応じて添加剤等の他の成分とともに、さらなる液状分散媒(溶媒)に混合、分散したものを塗料用組成物としてもよい。後者の場合、サブミクロン活性炭と液状分散媒との混合物等を分散させる液状分散媒としては、湿式粉砕時に原料活性炭を分散させるために使用した液状分散媒と同じであっても異なっていてもよい。
【0054】
サブミクロン活性炭と液状分散媒との混合物等をさらなる液状分散媒に混合、分散させるために、ビーズミルの他、ロールミル、ボールミル、ホモジナイザー、ハイシアーミキサー、ジェネレーター方式分散機、乳化分散機、超音波分散機等の公知の分散機を用いることができる。また、撹拌機として、ディソルバーやバタフライミキサー等を用いてもよい。混合および分散時の条件は、特に限定されず、塗料用組成物の組成、用いる機器等に応じて適宜決定すればよい。
【0055】
本発明の塗料用組成物は、サブミクロン活性炭と液状分散媒、および、必要に応じてセルロースナノファイバーや添加剤を混合、分散することにより調製され、良好なチクソトロピー性を有し得る。これにより、スプレー製剤や液滴として吐出されるインクジェットインクなどとして用いた場合に、スプレー噴霧や液滴吐出時においては低粘度化して良好な噴霧/吐出を実施できるが、噴霧/吐出後は、塗布面に液滴が定着する程度に粘度が回復するため、塗布面へ固着した後の液だれが起こり難い。
したがって、本発明は、本発明の塗料用組成物を含むスプレー製剤も対象とする。
【0056】
例えば、本発明の塗料用組成物を噴霧装置に収容することにより、本発明のスプレー製剤を得ることができる。噴霧装置としては、本発明の塗料用組成物を充填することができ、これを噴霧可能なものであれば特に限定されず、用途等に応じて適宜選択すればよい。例えば、ポンプ式噴霧器、トリガー式噴霧器、エアゾール式噴霧器、蓄圧式噴霧器、手押し型噴霧器、電気式噴霧器、蓄電式噴霧器、エンジン式噴霧器、重力式エアースプレーガン、吸上式エアースプレーガン、電動式エアースプレーガン、コンプレッサー付エアブラシ、充電式エアブラシ等を挙げることができる。
【0057】
本発明の塗料用組成物は、薄く均一な塗膜を形成するのに適している。塗布方法にもよるが、例えばスプレー製剤として本発明の塗料用組成物を塗布する場合、サブミクロン活性炭による十分な吸着性能を確保しながら、例えば25~100μ、好ましくは20~50μm、より好ましくは15~25μmの厚みで塗布することが可能である。
【0058】
本発明の塗料用組成物は、例えば、消臭剤、芳香剤、防虫剤、殺虫剤、抗菌剤等として利用することができ、マンション・戸建て住宅・教育施設・商業施設・病院などのVOC(揮発性有機化合物)対策や臭気対策が求められる建物内部壁面や床下の、下駄箱の内壁、冷蔵庫の内壁や冷蔵庫用脱臭容器、台所用品、トイレ用品や壁面、ごみ箱の内側面や蓋の裏側等の一般家庭用品、医療用機器、医療用品、介護用品、ベッド、収納ケース、各種包装材などを対象物として塗布することができる。さらに、ファクシミリやハードディスクなどの精密機器、電子機器において、内部から発生するガスや外部から侵入するガスを防御するためにこれらの機器の内壁やそのケースの内壁に本発明の塗料用組成物を塗布することで、従来必要とされてきた活性炭の焼結体や成形体を収容するためのスペースを確保する必要がなくなり、精密機器や電子機器のさらなる小型化や薄型化に貢献できる。また、発泡ウレタンシート、発泡ポリエチレンシート、発泡ポリエチレンビーズ、各種プラスチックビーズ、布、織物、不織布、糸または繊維など種々の材質からなる成形体や加工品にも、本発明の塗料用組成物をそのまま塗布することができ、消臭や吸着性能を付与することができる。さらに、本発明の塗料用組成物は、カーボンブラックの代替品として着色剤等にも利用でき、例えばヘアカラーリング剤等として使用できる。
【実施例
【0059】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に述べるが、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。実施例および比較例における各物性値は以下の方法により測定した。
【0060】
<粒子径の測定>
・原料活性炭並びに比較例1および2の活性炭の中心粒子径(D50)の測定
測定対象である活性炭を界面活性剤と共にイオン交換水中に入れ、超音波振動を与え均一分散液を作製し、レーザー回折測定法による粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「Microtrac MT3300EX-II」)を用いて測定した。界面活性剤には、和光純薬工業株式会社製の「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」を用いた。
・サブミクロン活性炭の中心粒子径(D50)および累積99%径(D99)の測定
測定対象である活性炭を界面活性剤と共にイオン交換水中に入れ、超音波振動を与え均一分散液を作製し、動的光散乱法による粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「ナノトラックUPA150」)を用いて、中心粒子径(D50)および累積99%径(D99)を計測した。界面活性剤には、和光純薬工業株式会社製の「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」を用いた 。
【0061】
<BET比表面積の測定>
マイクロトラック・ベル(株)製のBELSORP-MAXを使用し、測定対象である活性炭を減圧下(真空度:0.1kPa以下)にて300℃で5時間加熱した後、77Kにおける窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線からBET式により多点法による解析を行い、得られた曲線の相対圧P/P=0.01~0.1の領域での直線からBET比表面積を算出した。
【0062】
1.塗料用組成物の調製
実施例1
原料活性炭としてヤシ殻粉末活性炭(クラレ製PGW-BF、中心粒子径D50:8μm)を用い、これをイオン交換水に混合して、原料活性炭を10質量%の濃度で含む混合物を調製した。この混合物をビーズミル(アイメックス製NAM-1型、ジルコニアビーズ、ビーズ径:0.2mm)にて16時間湿式粉砕することで、中心粒子径(累積平均径)D50=323nm、累積99%径D99=947nm、BET比表面積=1100m/gのサブミクロン活性炭の10質量%スラリーを得た。このスラリーにイオン交換水(表1中の液状分散媒、表1において小数点第二位を四捨五入して記載、以下同じ)を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0063】
実施例2~7
実施例1の方法で得られたサブミクロン活性炭の10質量%スラリーに、セルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)(表1中のCNF、表1において小数点第三位を四捨五入して記載、以下同じ)とイオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0064】
実施例8
実施例1の方法で得られたサブミクロン活性炭の10質量%スラリーにセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)、樹脂(結着剤)としてラテックス(日本ゼオン製LX812)(表1中の添加剤1)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬製セロゲンWSA)(表1中の添加剤2)、イオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0065】
実施例9
実施例1の方法で得られたサブミクロン活性炭の10質量%スラリーにセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)と、分散剤として陰イオン性界面活性剤β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩(花王製デモールNL)(表1中の添加剤1)、イオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0066】
実施例10
実施例1の方法で得られたサブミクロン活性炭の10質量%スラリーにセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)と、分散剤として非イオン性界面活性剤ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(花王製エマルゲンA-60)(表1中の添加剤1)、イオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0067】
実施例11
実施例1の方法で得られたサブミクロン活性炭の10質量%スラリーにセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)と、分散剤として陽イオン性界面活性剤アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド(花王製サニゾール)(表1中の添加剤1)、イオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0068】
実施例12
実施例1の方法で得られたサブミクロン活性炭の10質量%スラリーにセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)と、分散剤としてポリアルキレングリコール誘導体(日油製エスリームAD-3172M)(表1中の添加剤1)、イオン交換水を表1の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0069】
実施例13
実施例1の方法で得られたサブミクロン活性炭の10質量%スラリーにセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)と、分散剤として非イオン性界面活性剤ポリオキシエチレンーポリオキシプロピレン縮合物(ADEKA製アデカプルロニックL-64)(表1中の添加剤1)、イオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0070】
実施例14
実施例1の方法で得られたサブミクロン活性炭の10質量%スラリーにセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)、光触媒剤として酸化チタン(石原産業製ST-21)(表1中の添加剤1)、イオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0071】
実施例16
原料活性炭としてヤシ殻粉末活性炭(クラレ製PGW-BF、中心粒子径D50:8μm)を用い、これをイオン交換水に混合して、原料活性炭を10質量%の濃度で含む混合物を調製した。この混合物をビーズミル(アイメックス製NAM-1型、ジルコニアビーズ、ビーズ径:0.2mm)にて30分間湿式粉砕することで、中心粒子径(累積平均径)D50=900nm、累積99%径D99=4383nm、BET比表面積=1100m/gのサブミクロン活性炭の10質量%スラリーを得た。このスラリーにセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)とイオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0072】
実施例17
原料活性炭としてヤシ殻粉末活性炭(クラレ製PGW-BF、中心粒子径D50:8μm)を用い、これをイオン交換水に混合して、原料活性炭を10質量%の濃度で含む混合物を調製した。この混合物をビーズミル(アイメックス製NAM-1型、ジルコニアビーズ、ビーズ径:0.2mm)にて10時間湿式粉砕することで、中心粒子径(累積平均径)D50=500nm、累積99%径D99=1921nm、BET比表面積=1100m/gのサブミクロン活性炭の10質量%スラリーを得た。このスラリーにセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)とイオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0073】
比較例1
クラレ製PGW-BF(中心粒子径D50:8μm)とセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)とイオン交換水とを表1に記載の配合に従い混合し、活性炭の塗料用組成物を得た。
【0074】
比較例2
原料活性炭としてヤシ殻粉末活性炭(クラレ製PGW-BF、中心粒子径D50:8μm)をイオン交換水に混合し、10質量%水溶液を調製した。この水溶液をビーズミル(アイメックス製NAM-1型、ジルコニアビーズ、ビーズ径:1.0mm)にて湿式粉砕を行うことで、中心粒子径D50=3.0μm、BET比表面積=1100m/gの活性炭の10質量%スラリーを得た。このスラリーにセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)とイオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、活性炭の塗料用組成物を得た。
【0075】
比較例3
原料活性炭としてヤシ殻粉末活性炭(クラレ製PGW-BF、中心粒子径D50:8μm)をイオン交換水に混合し、10質量%水溶液を調製した。この水溶液をビーズミル(アイメックス製NAM-1型、ジルコニアビーズ、ビーズ径:0.2mm)にて湿式粉砕を行うことで、中心粒子径D50=323nm、累積99%径D99=947nm、BET比表面積=1100m/gのサブミクロン活性炭の10質量%スラリーを得た。このスラリーを、セラミックロータリーフィルターCRF-0(広島メタル&マシナリー製)を用いて17質量%まで濃縮した。この濃縮液にセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)とイオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0076】
比較例4
原料活性炭としてヤシ殻粉末活性炭(クラレ製PGW-BF、中心粒子径D50:8μm)をイオン交換水に混合し、10質量%水溶液を調製した。この水溶液をビーズミル(アイメックス製NAM-1型、ジルコニアビーズ、ビーズ径:0.2mm)にて湿式粉砕を行うことで、中心粒子径D50=323nm、累積99%径D99=947nm、BET比表面積=1100m/gのサブミクロン活性炭の10質量%スラリーを得た。このスラリーを、コンパクトディスクドライヤー(西村鐵工所製)を用いて30質量%まで濃縮した。この濃縮液にセルロースナノファイバー(日本製紙社製セレンピア)とイオン交換水を表1に記載の配合に従い混合し、サブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0077】
比較例5
原料活性炭としてヤシ殻粉末活性炭(クラレ製PGW-BF、中心粒子径D50:8μm)をイオン交換水に混合し、11質量%水溶液を調製した。この水溶液をビーズミル(アイメックス製NAM-1型、ジルコニアビーズ、ビーズ径:0.2mm)にて湿式粉砕を行うことで、中心粒子径D50=323nm、累積99%径D99=947nm、BET比表面積=1100m/gのサブミクロン活性炭の11質量%のサブミクロン活性炭の塗料用組成物を得た。
【0078】
【表1】
【0079】
2.塗料用組成物の粘度測定
上記実施例1~14および比較例1~5で得られた塗料用組成物の粘度η(a)およびη(b)並びに固形分濃度を以下の方法に従い、それぞれ測定した。結果を表1に記載する。なお、表1中の粘度の欄における「-」は計測不能であったことを意味する。
【0080】
(1)粘度η(a)
B型粘度計(Brookfield製ModelDV-II+PRO粘度計、Spindle:SC4-34、Chamber:SC4-13R)を用いて、20℃、5×10-3-1のずり速度において粘度を測定した。
【0081】
(2)粘度η(b)
B型粘度計(Brookfield製ModelDV-II+PRO粘度計、Spindle:SC4-34、Chamber:SC4-13R)を用いて、20℃、1s-1のずり速度において粘度を測定した。
【0082】
(3)固形分濃度
塗料用組成物の調製時の液状分散媒(溶媒)を除いた成分の仕込み量の合計量を塗料用組成物の総質量で除して100を乗じて算出した値を固形分濃度として表1に記載する。
【0083】
3.塗料用組成物および塗膜の特性評価
(1)分散性試験
実施例1~14、16、17および比較例1~5で得られた塗料用組成物を、それぞれ、外径25mm、高さ50mmのスチロールねじ瓶(マルエム製)の透明容器に20cc充填した。これを静置して24時間後、塗料用組成物の分散状態を目視にて確認し、下記の基準に従い評価した。結果を表2に示す。
<評価基準>
◎:全く沈降していない
○:塗料液体高さの3/4の高さまで沈降している
△:塗料液体高さの1/2の高さまで沈降している
×:塗料液体高さの1/4の高さまで沈降している
【0084】
(2)噴霧性、液だれ評価
実施例1~14、16、17および比較例1~5で得られた塗料用組成物を、それぞれ市販の充電式エアブラシに充填し、以下の試験を行った。結果を表2に示す。
なおスプレー塗布は、対象物に対して30mm離れた位置から1プッシュにつき約1秒間の噴霧を3回繰り返すことを基準とする(一連の噴霧でスプレー塗布1回と数える)。塗布範囲は、塗布対象物の中心から半径10~15mmの範囲に同心円状に塗布される範囲とする。充電式エアブラシは、コンプレッサーの最大圧力17.4PSI、吐出量5L/分、ノズル直径0.3mmφのエアブラシを使用した。
【0085】
(a)噴霧性
実施例1~14、16、17および比較例1~5で得られた塗料用組成物を、水平面から斜め45°に傾けたアクリル板(住友化学製アクリルシート:SUMIPEX E)の上面に1回スプレー塗布した。その際の噴霧状態を確認し、下記の基準に従い評価した。
<評価基準>
◎:全く液詰まりを生じない
○:やや噴霧にムラがあるが液詰まりは生じない
△:断続的に液詰まりを生じるが噴霧を継続できる
×:液詰まりにより噴霧ができない
【0086】
(b)液だれ試験
実施例1~14、16、17および比較例1~5で得られた塗料用組成物を、水平面から斜め45°に傾けたアクリル板(住友化学製アクリルシート:SUMIPEX E)の上面に1回スプレー塗布して24時間後、塗料の垂れ具合を目視にて確認し、下記の基準に従い評価した。
<評価基準>
◎:全く垂れていない
○:10mm以内に垂れが収まっている
△:10mmより長く50mm以内に垂れが収まっている
×:50mmを超えて垂れている
【0087】
(3)噴霧むら、脱落性評価
(c)噴霧むら試験
実施例1~14、16、17および比較例1~5で得られた塗料用組成物を、水平面から斜め45°に傾けた写真用紙(キャノン製キャノン写真用紙・光沢、厚手:0.27mm、L版:89×127mm)の表面に、塗布厚みが20~40μmになり、できるだけ均一の厚みになるよう充電用エアスプレーで噴霧した。これらを室温で24時間放置した後、塗料の噴霧むら具合を目視にて確認し、下記の基準に従い評価した。
<評価基準>
◎:噴霧むらがない
○:噴霧むらがほとんどない
△:噴霧むらがややある
×:噴霧むらがある
【0088】
(d)脱落性試験
実施例1~14、16、17および比較例1~5で得られた塗料用組成物を、それぞれ2g、水平面から斜め45°に傾けた写真用紙(キャノン製キャノン写真用紙・光沢、厚手:0.27mm、L版:89×127mm)の表面に、塗布厚みが20~40μmになり、できるだけ均一の厚みになるよう充電用エアスプレーで噴霧した。また、実施例15として、実施例1の塗料用組成物を上記方法でスプレー塗布し十分に乾燥した後、得られた塗膜上に、0.2質量%のセルロースナノファイバー水溶液1gを、上記方法と同様にしてスプレー塗布することにより塗膜を得た。これらを室温で24時間放置した後、乾燥した塗布膜を手でさわり、活性炭の脱落の程度を下記の基準に従い評価した。結果を表2に示す。
<評価基準>
◎:手に全く付着しない
○:手にやや付着する
△:手にかなり付着する
×:振動によって脱落する
【0089】
(4)吸着性能試験
実施例1~14、16、17および比較例1~5で得られた塗料用組成物を、それぞれ2g、水平面から斜め45°に傾けた写真用紙(キャノン製キャノン写真用紙・光沢、厚手:0.27mm、L版:89×127mm)の表面に、塗布厚みができるだけ均一になるよう充電用エアスプレーで噴霧した。また、実施例15として、実施例1の塗料用組成物を上記方法でスプレー塗布し十分に乾燥した後、得られた塗膜上に、0.2質量%のセルロースナノファイバー水溶液1gを、上記方法と同様にしてスプレー塗布することにより塗膜を得た。これらを室温で24時間放置した後、吸着性能を、塗料用組成物を塗布した写真用紙のベンゼン吸着量を測定することにより、下記の基準に従い評価した。なお、ベンゼン吸着量の測定方法は、JIS K 1474に準ずる。結果を表2に示す。
<評価基準>
◎:10%以上
○:5%以上~10%未満
△:1%以上~5%未満
×:1%未満
【0090】
【表2】
【0091】
本発明に従う実施例1~14、16および17の塗料用組成物は、噴霧時には良好な噴霧性を示し、噴霧後は液だれし難い適度な粘度を有しており、活性炭による吸着性能を確保しながら、噴霧むらのない、または抑制された薄く均一で外観性に優れる塗膜を形成できることが確認された。一方、活性炭の中心粒子径が1000nmを超える場合には、分散性が悪く、薄く均一で外観性に優れる塗膜を得ることはできなかった(比較例1および2)。また、サブミクロン活性炭の量が多くなると粘度が上昇し、噴霧性が低下し、エアスプレーによる塗膜形成はできなかった(比較例3~5)。