(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】コラーゲン増加剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/756 20060101AFI20250618BHJP
A61K 36/744 20060101ALI20250618BHJP
A61K 36/718 20060101ALI20250618BHJP
A61K 36/539 20060101ALI20250618BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250618BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250618BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20250618BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250618BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20250618BHJP
【FI】
A61K36/756
A61K36/744
A61K36/718
A61K36/539
A61P17/00
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61K8/9789
A61Q19/00
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2020214443
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 綾郁
【審査官】鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1819060(KR,B1)
【文献】特開2008-094736(JP,A)
【文献】特開2016-210729(JP,A)
【文献】特開2004-115483(JP,A)
【文献】特開2016-056116(JP,A)
【文献】特開2005-281284(JP,A)
【文献】特開2001-206835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/539
A61K 36/744
A61K 36/718
A61K 36/756
A61P 17/00
A61P 43/00
A61K 8/9789
A61Q 19/00
A23L 33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄連解毒湯
の水抽出エキスを含む、
経口投与用のコラーゲン増加剤。
【請求項2】
皮膚真皮層におけるコラーゲン量を増加させるために用いられる、請求項1に記載のコラーゲン増加剤。
【請求項3】
目尻のコラーゲン量を増加させるために用いられる、請求項1又は2に記載のコラーゲン増加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン増加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは細胞外マトリックスの一種であり、組織及び臓器形態の保持に必須であるだけでなく、創傷治癒及び組織の修復過程等の生理的条件下においても重要な役割を果たしている。中でも、皮膚におけるコラーゲンは老化及び光刺激等によって減少し、皮膚老化の減少であるしわ及びたるみ等を引き起こす一因となる。
【0003】
皮膚に弾力を与える働きをもつコラーゲンの生成を促進するため配合される成分としての代表例がレチノイン酸及びレチノールである。レチノイン酸はしわ改善医薬品の有効成分として用いられているが、刺激が高いため医師の処方せんが必要である。レチノールによる生理活性の強さは、レチノイン酸の約100分の1であり、安全性が高いことから化粧品に配合されて用いられている。
【0004】
近年では、コラーゲンを増加させる作用を持つ他の素材の研究が行われている。例えば、特許文献1には、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)の菌体又はその処理物を含有するコラーゲン産生促進用組成物が開示されており、特許文献2には、オトメユリ(Lilium rubellum)水抽出物を有効成分とすることを特徴とするコラーゲン産生促進剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-096475号公報
【文献】特開2016-069332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、レチノイン酸には刺激の問題があり、レチノールは効果がさほど高くないという問題がある。また、特許文献1及び2に記載される素材は、細胞レベルで効果が確認されたに過ぎず、実際に生体に適用した場合にどの程度の効果が奏されるかについては示されていない。
【0007】
そこで、本発明は、生体に適用した場合でもコラーゲンの増加効果が認められる新たな素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、黄連解毒湯エキスが、生体に適用した場合でもコラーゲンの増加作用を示すことを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 黄連解毒湯エキスを含む、コラーゲン増加剤。
項2. 皮膚真皮層におけるコラーゲン量を増加させるために用いられる、項1に記載のコラーゲン増加剤。
項3. 目尻のコラーゲン量を増加させるために用いられる、項1又は2に記載のコラーゲン増加剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体に適用した場合でもコラーゲンの増加効果が認められる新たな素材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のコラーゲン増加剤の服用前後における超音波真皮画像を示す。
【
図2】本発明のコラーゲン増加剤の服用前後における真皮コラーゲン量のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のコラーゲン増加剤は、黄連解毒湯エキスを含むことを特徴とする。以下、本発明のコラーゲン増加剤について詳述する。
【0013】
黄連解毒湯エキス
本発明のコラーゲン増加剤は、有効成分として黄連解毒湯エキスを含む。黄連解毒湯は、「外台秘要方」を原典とする、オウゴン、オウレン、サンシシ、オウバクからなる混合生薬である。
【0014】
本発明において、黄連解毒湯を構成する生薬の混合比については特に制限されないが、通常、オウゴン1.5~4重量部、好ましくは2~3重量部;オウレン0.5~3重量部、好ましくは0.75~2重量部;サンシシ0.5~4重量部、好ましくは1~3重量部;オウバク0.5~4重量部、好ましくは0.75~3重量部が挙げられる。
【0015】
本発明で使用される黄連解毒湯エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例としては、オウゴン3重量部、サンシシ2重量部、オウレン1.5重量部、オウバク1.5重量部が挙げられる。
【0016】
黄連解毒湯のエキスの形態としては、流エキス、軟エキス等の液状のエキス、又は固形状の乾燥エキス末のいずれであってもよい。
【0017】
黄連解毒湯の液状のエキスは、黄連解毒湯に従った混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することにより得ることができる。抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノール、好ましくは水が挙げられる。また、黄連解毒湯の乾燥エキス末は、液状のエキスを乾燥処理することにより得ることができる。乾燥処理の方法としては特に限定されず、例えば、スプレードライ法や、エキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0018】
本発明において、黄連解毒湯エキスとしては、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されるものを使用してもよい。例えば、黄連解毒湯の乾燥エキス末としては、黄連解毒湯乾燥エキス-AT(日本粉末薬品株式会社製)、黄連解毒湯乾燥エキス-F(アルプス薬品株式会社製)等が商品として知られており、商業的に入手することもできる。
【0019】
本発明のコラーゲン増加剤において、黄連解毒湯エキスの含有量としては、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、黄連解毒湯エキスの乾燥エキス末量換算で、通常10~100重量%、好ましくは20~90重量%、より好ましくは40~80重量%、更に好ましくは60~70重量%が挙げられる。なお、本発明において、黄連解毒湯の乾燥エキス末量換算とは、黄連解毒湯の乾燥エキス末を使用する場合にはそれ自体の量であり、黄連解毒湯の液状のエキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、黄連解毒湯の乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0020】
その他の成分
本発明のコラーゲン増加剤は、黄連解毒湯エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、コラーゲン増加剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0021】
また、本発明のコラーゲン増加剤は、黄連解毒湯エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0022】
製剤形態
本発明のコラーゲン増加剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、トローチ剤、チュアブル剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、丸剤等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられ、好ましくは顆粒剤又は錠剤が挙げられる。
【0023】
製造方法
本発明のコラーゲン増加剤の製造方法は、上記生薬成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0024】
用途
本発明のコラーゲン増加剤は、コラーゲン量を増加することを目的として用いられる。
【0025】
コラーゲン量を増加させるべき組織又は臓器としては特に限定されず、皮膚真皮層、歯茎、軟骨等が挙げられ、好ましくは皮膚真皮層が挙げられる。また、本発明のコラーゲン増加剤が皮膚真皮層におけるコラーゲン量を増加させるために用いられる場合、体表における当該皮膚真皮層の場所としては特に限定されず、顔、首、体幹、上肢、下肢のいずれであってもよいが、好ましくは顔が挙げられ、より好ましくは目尻が挙げられる。
【0026】
用量・用法
本発明のコラーゲン増加剤は、経口投与によって使用される。本発明のコラーゲン増加剤の用量については、投与対象者の年齢、体質、症状の程度等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、黄連解毒湯エキス量(乾燥エキス換算量)として500~2000mg、好ましくは800~1800mgとなる量で、1日1~4回、好ましくは2~3回の頻度で服用すればよい。
【0027】
一日の中での服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、好ましくは食前又は食間が挙げられる。また、コラーゲン増加効果をより一層高める観点から、本発明のコラーゲン増加剤は、例えば3日以上、好ましくは5日以上、更に好ましくは10日以上継続して服用することが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
[試験例1]
(1)コラーゲン増加剤の調製
原料生薬として、オウゴン3重量部、サンシシ2重量部、オウレン1.5重量部、オウバク1.5重量部を用い、これらを刻んだ後、水10倍重量を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮してスプレードライヤーを用いて乾燥し、黄連解毒湯エキス末を得た。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行った。その後、造粒して製錠し、コラーゲン増加剤を得た。コラーゲン増加剤の1日当たりの用量は、黄連解毒湯エキス量(乾燥エキス換算量)で1600mgとした。
【0030】
(2)実験方法
20代の男女9名に、上記のコラーゲン増加剤を10日間(1日2回)服用させた。服用の前後における左目尻部のコラーゲンスコアを、超音波真皮画像装置(装置名:DermaLab(登録商標)、型番:DermaLab、Cortex Technology社製、測定項目:コラーゲンスコア)を用いて測定した。測定は各々3回行い、その平均値を測定値とした(2回のコラーゲンスコア測定値が±5以内になるようにした。室温は20℃、湿度は65%とし、測定は15分の馴化後に行った。
【0031】
得られた超音波真皮画像の一例(服用前及び服用後)を
図1に示す。
図1に示すそれぞれの画像において、左側が角質層側、左側が真皮層側を示す。この超音波真皮画像では、真皮コラーゲン線維の密度の高い所は黄色に、低い所は緑で表示される。
図1に示される通り、服用後にコラーゲン量が顕著に増加していることが確認できた。
【0032】
また、
図2に、コラーゲンスコアの測定結果の平均値±標準誤差を算出し、Microsoft(登録商標)Excel(統計解析ソフトウェア:エクセル統計)にて対応のあるt検定で検定を行った(有意水準は両側検定で5%とした)結果を示す。
図2に示すとおり、コラーゲンスコアの有意な(*:p<0.05)増加が確認できた。この結果からも、服用後にコラーゲン量が増加していることが確認できた。
【0033】
(3)オウレンエキス及びオウバクエキスからなる混合物によるコラーゲン増加能との対比
本発明のコラーゲン増加剤はコラーゲン増加効果に優れており、黄連解毒湯エキスが有効成分として作用する。このことは、黄連解毒湯の構成生薬であるオウレン及びオウバクそれぞれのエキスの混合物(オウレンエキス及びオウバクエキスからなる混合物)と黄連解毒湯エキスとがそれぞれ以下の細胞試験に供された場合に、黄連解毒湯エキスのほうで優れたコラーゲン増加効果を奏することで確認することができる。
【0034】
(細胞試験方法)
正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を、24ウェルカルチャープレート中で培養する。より詳細には、1.0×104細胞/ウェルの密度でプレートに播種し、37℃で、5体積%炭酸ガス及び95体積%空気の環境下で72時間培養する。培養液には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)に牛胎児血清(FBS)を2質量%の濃度で含有した培地を使用し、黄連解毒湯エキスの濃度と、オウレンエキス及びオウバクエキスからなる混合物(オウレンエキス及びオウバクエキスの混合重量比=1:1)の濃度(つまり、オウレンエキス及びオウバクエキスの総量)とは、それぞれ0.01質量%になるように添加する。培養終了後、培養上清中のコラーゲン量をELISAにて測定する。