IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミツトヨの特許一覧

<>
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図1
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図2
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図3
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図4
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図5
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図6
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図7
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図8
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図9
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図10
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図11
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図12
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図13
  • 特許-プローブユニットの補正方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-23
(45)【発行日】2025-07-01
(54)【発明の名称】プローブユニットの補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/00 20060101AFI20250624BHJP
【FI】
G01B5/00 P
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021094809
(22)【出願日】2021-06-04
(65)【公開番号】P2022186534
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2024-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】笠原 耕樹
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-201101(JP,A)
【文献】特開2003-114117(JP,A)
【文献】特開2012-247313(JP,A)
【文献】特開2015-055517(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0000277(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00 - 5/32
G01B 21/00 - 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端の測定チップによって測定対象物の表面を検知するプローブユニットの補正方法であって、
当該プローブユニットは、
初期的標準仕様として設定された標準形態時の測定チップである第1チップと、
前記標準形態から変更された変更形態時の測定チップである第2チップと、を切り替えて使用できるものであって、
当該プローブユニットの校正時には、前記第1チップと前記第2チップとをそれぞれ校正することによって、前記第1チップの座標値を基準チップ座標値として取得するとともに前記第1チップから前記第2チップへのオフセットをプローブオフセット値として取得し、
前記第2チップを使用したときの測定値は、前記基準チップ座標値に前記プローブオフセット値を加味して得られるものであり、
当該プローブユニットの補正方法は、
校正時の温度と測定環境の現在の温度との温度差を取得する温度データ取得工程と、
当該プローブユニットを前記標準形態時としたときの線膨張を加味した前記基準チップ座標値の補正値を基準チップ補正座標値として算出する基準チップ座標補正工程と、
当該プローブユニットを前記標準形態時としたときの線膨張と当該プローブユニットを前記変更形態時としたときの線膨張とを加味した前記プローブオフセット値の補正値をプローブオフセット補正値として算出するプローブオフセット補正工程と、
前記基準チップ補正座標値に前記プローブオフセット補正値を加味することにより、現在の測定環境中で前記第2チップを使用したときの補正測定値を得る測定値算出工程と、を備える
ことを特徴とするプローブユニットの補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定装置の制御方法に関し、具体的には、測定環境温度の変動があっても精確な測定値を得るようにプローブユニットの線膨張を補正するプローブユニットの補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プローブにより測定対象物(ワーク)の表面を検出する形状測定装置が広く用いられている。近年では、測定対象物(ワーク)の形状が複雑になってきていることに対応して、複数のプローブ(スタイラス)を交換したり、あるいは、回転駆動軸を持ったプローブによりプローブの姿勢を変えたりしながら複雑な形状のワークにアプローチすることが行われるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許3784273
【文献】特許4695374
【文献】特開2007-183184
【文献】特許6173628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のプローブ(スタイラス)を使用したり、プローブ自身の回転駆動軸によって姿勢を変更したりすれば、複雑な形状のワークでも効率よく測定できるようになるが、それと引き換えに、複数種のプローブ(スタイラス)やプローブの多様な変更形態について適宜校正(キャリブレーション)を実施しなければならないという手間は増える。
プローブ(スタイラス)の種類が増えたり、多様な姿勢をとるプローブを使用したりするような場合、すべてのプローブや変更形態について校正作業を頻繁に行うとなると、測定効率が上がらないという問題が生じる。その一方、測定環境の変動があるような場合には、校正作業を適宜実施しなければ看過できない測定誤差が生じてくる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、測定環境温度の変動があっても精確な測定値を得るようにプローブユニットの線膨張を補正することができるプローブユニットの補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプローブユニットの補正方法は、
先端の測定チップによって測定対象物の表面を検知するプローブユニットの補正方法であって、
当該プローブユニットは、
初期的標準仕様として設定された標準形態時の測定チップである第1チップと、
前記標準形態から変更された変更形態時の測定チップである第2チップと、を切り替えて使用できるものであって、
当該プローブユニットの校正時には、前記第1チップと前記第2チップとをそれぞれ校正することによって、前記第1チップの座標値を基準チップ座標値として取得するとともに前記第1チップから前記第2チップへのオフセットをプローブオフセット値として取得し、
前記第2チップを使用したときの測定値は、前記基準チップ座標値に前記プローブオフセット値を加味して得られるものであり、
当該プローブユニットの補正方法は、
校正時の温度と測定環境の現在の温度との温度差を取得する温度データ取得工程と、
線膨張を加味した前記基準チップ座標値の補正値を基準チップ補正座標値として算出する基準チップ座標補正工程と、
線膨張を加味した前記プローブオフセット値の補正値をプローブオフセット補正値として算出するプローブオフセット補正工程と、
前記基準チップ補正座標値に前記プローブオフセット補正値を加味することにより、現在の測定環境中で前記第2チップを使用したときの補正測定値を得る測定値算出工程と、を備える
ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】形状測定システムの全体構成を示す図である。
図2】座標系同士の関係を例示した図である。
図3】プローブユニットの外観図である。
図4】プローブユニットの断面図である。
図5】モーションコントローラとホストコンピュータの機能ブロック図である。
図6】補正テーブル格納部に格納されるデータを例示する図である。
図7】プローブユニットの変更形態を例示する図である。
図8】基準スタイラスを屈曲スタイラスに交換した状態を例示した図である。
図9】補助座標系を示す図である。
図10】脚軸の向きと角度パラメータとの関係を例示した図である。
図11】プローブオフセットを例示した図である。
図12】温度補正工程の手順を示すフローチャートである。
図13】環境温度の上昇に伴う測定チップ(第2チップ)のシフトを例示した図である。
図14】環境温度の上昇に伴うプローブオフセットの変化を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、形状測定システム100の全体構成を示す図である。
形状測定システム100の構成自体は既知のものであるが、簡単に説明しておく。
形状測定システム100は、三次元測定機200と、三次元測定機200の駆動を制御するモーションコントローラ300と、モーションコントローラ300を制御すると共に必要なデータ処理を実行するホストコンピュータ600と、を備える。
【0009】
三次元測定機200は、定盤210と、移動機構220と、プローブユニット500と、を備える。
【0010】
移動機構220は、定盤210上をY方向にスライド可能に設けられた門型のYスライダ221と、Yスライダ221のX方向のビームに沿ってスライドするXスライダ222と、Xスライダ222に固定されたZ軸コラム223と、Z軸コラム223内をZ方向に昇降するZスピンドル224と、を備える。
【0011】
Yスライダ221、Xスライダ222およびZスピンドル224には、それぞれ駆動モータ(不図示)とエンコーダ(不図示)とが付設されている。
モーションコントローラ300からの駆動制御信号によって各駆動モータが駆動制御される。
エンコーダは、Yスライダ221、Xスライダ222およびZスピンドル224それぞれの移動量を検出し、検出値をモーションコントローラ300に出力する。
【0012】
三次元測定機200に対してスケール座標系(Xs、Ys、Zs)が設定される。
図2は、座標系同士の関係を例示した図である。
スケール座標系は、互に直交するXs軸、Ys軸、及びZs軸を含む。
Zs軸は鉛直上向きである。
スケール座標系の原点Osは、Xs軸に沿って設けられたエンコーダのスケールの原点、Ys軸に沿って設けられたエンコーダのスケールの原点、および、Zs軸に沿って設けられたエンコーダのスケールの原点、によって定まる。
【0013】
また、定盤210上の所定位置には、マスターゲージ211(マスターボール)が設置されている。
マスターゲージ211は、校正(キャリブレーション)およびマシン座標系(XM、YM、ZM)の設定をするために用いられる。マスターゲージ211は、鋼球やセラミック球等である。マスターゲージ211の径(半径)は、既知である。つまり、プローブにてマスターゲージ211の表面の数点の座標を測定することにより、マスターゲージ211の中心位置を一意に特定することができる。このとき、同時に、測定チップの半径およびスタイラスの長さ(形状)が校正される。
【0014】
マスターゲージ211は、定盤210の上面からZ軸方向に既知の高さをもつ柱部の先端に保持されている。マスターゲージ221の中心位置が原点Oとなるようにスケール座標系(Xs、Ys、Zs)を平行移動させたものがマシン座標系(X、Y、Z)である。
【0015】
座標系としては、この他、プローブユニット500に内蔵されたプローブセンサの座標系であるプローブ座標系や、ワーク表面の所定の点(例えば頂点)を原点としワークの所定の面をXwYw面とするようなワーク座標系(Xw、Yw、Zw)も用いられるが、本発明とは直接関連しないので割愛する。
【0016】
Zスピンドル224の下端にプローブユニット500が取り付けられている。
図3は、プローブユニット500の外観図である。
図4は、プローブユニット500の断面図である。
【0017】
プローブユニット500は、プローブヘッド本体部501と、先端に測定チップ(530A)を有するスタイラス(530)と、を有する。
【0018】
プローブヘッド本体部501は、プローブ固定部502と、第1回転機構部510と、第2回転機構部520と、を有する。
【0019】
プローブ固定部502は、Zスピンドル224の下端に取り付けられる。
また、プローブ固定部502の下端に第1回転機構部510が設けられている。
第1回転機構部510は、第1ハウジング511と、第1モータ512と、第1シャフト513と、を有する。
第1ハウジング511は、プローブ固定部502の下端に取り付けられている。第1ハウジング511の内側に第1モータ512が内設され、第1モータ512の電機子に第1シャフト513が取り付けられている。
いま、第1シャフト513の回転軸を第1回転軸A1とする。
本実施形態では、第1回転軸A1の軸線方向は、Z軸方向に平行である。
【0020】
第2回転機構部520は、第2ハウジング521と、第2モータ522と、第2シャフト523と、U型連結フレーム524と、を有する。
第2ハウジング521は、第1シャフト513に連結されている。第2モータ522は、第2ハウジング521に内設され、第2モータ522の電機子に第2シャフト523が取り付けられている。
【0021】
いま、第2シャフト523の回転軸を第2回転軸A2とする。
このとき、第1回転軸A1(の延長線)と第2回転軸A2とは直交している。第2シャフト523にU型連結フレーム524が取り付けられ、U型連結フレーム524が第2回転軸A2を回転中心にして回転するようになっている。
【0022】
U型連結フレーム524の下端にスタイラス(530)が取り付けられている。
いま、図3および図4においてプローブユニット500に取り付けられているスタイラス530は真っ直ぐな直線的スタイラス530である。
この直線スタイラス530を標準仕様で使用される基準スタイラス530とする。基準スタイラス530の軸線A3(の延長線)は第2回転軸A2に直交している。
【0023】
(プローブユニット500の標準形態)
プローブユニット500の初期的標準仕様としては、基準スタイラス530を取り付けた状態のプローブユニット500を想定し、さらに、基準スタイラス530の軸線A3が第1回転軸A1に平行にあるものとする。(あるいは基準スタイラス530の軸線A3が第1回転軸A1に一致してしている。)これをプローブユニット500の標準形態とする。
つまり、標準形態時においては、第2回転軸A2の回転はゼロであり、基準スタイラス530の軸線A3および第1回転軸A1はマシン座標系のZ軸に平行である。
基準スタイラス530は、その下端に測定チップ530Aを有する。
測定チップは球状であって、測定対象物に接触する。いま、標準形態のときの測定チップ530Aを第1チップ530Aと称することにする。
【0024】
第1回転軸A1(の延長線)と、第2回転軸A2と、スタイラス530の軸線A3(の延長線)と、は1つの交点で交差する。
以後の説明のため、この交差点を、回転中心Qと名付けることにする。
【0025】
また、第1回転軸A1の回転角をαで表わし、-180°≦α≦180°であるとする。(電気的な接続がとれれば可動範囲に制限を設ける必要はなく、回転動作自体は何回転してもよい。)図3あるいは図4において、正面手前が0°で、上方から見たときに左回りがプラス方向の回転で、右回りがマイナス方向の回転であるとする。
【0026】
第2回転軸A2の回転角をαで表わし、0°≦α≦90°であるとする。スタイラス530が鉛直下向きのときを0°とする。
どこを0°の基準にとるかは任意である。
【0027】
第1モータ512および第2モータ522は、例えばステッピングモータであって、印加される駆動パルスに同期して駆動するとする。つまり、第1回転機構部510および第2回転機構部520の運動量(回転角度)は駆動パルスの数に比例するとする。
【0028】
プローブユニット500は、測定チップ(530A)とワーク表面との接触を検出ため、スタイラス530が一定の範囲内でXp、Yp、Zp軸の各軸方向に移動可能となるようにスタイラス530を支持しているとともに、スタイラス530の変位を検出するプローブセンサー(不図示)を備える。(Xp、Yp、Zp軸はプローブ座標系の座標軸)プローブセンサは検出値をモーションコントローラ300に出力する。
【0029】
(プローブユニットの変更形態)
測定対象に応じてプローブユニット500を標準形態から変更した変更形態として使用することがある。
プローブユニット500の変更形態としては、例えば、スタイラスは基準スタイラス530のままで、第1回転機構部510(A1)および第2回転機構部520(A2)を適宜回転駆動してスタイラスを振り上げたり回転スイングしたりする姿勢を取り得る。このときの測定チップの位置は、標準形態時のときの測定チップ(第1チップ530A)の位置からはシフトしているのであるから、標準形態から変更された変更形態時の測定チップとして第2チップ550Aと称することにする。
【0030】
さらに、「第2チップ550A」となり得る場合として、スタイラスを基準スタイラス530から別の異形スタイラスに交換する場合もある。
ここにいう異形スタイラスというのは、例えば屈曲型のL字や十字のスタイラスの場合もあれば、基準スタイラス530よりも長いあるいは短い直線スタイラスの場合も有り得る。
なお、一つのスタイラス(マルチスタイラス)が基準チップ(第1チップ530A)と第2チップ550Aとを合わせもっていてもよい。
【0031】
(モーションコントローラ300の構成)
図5は、モーションコントローラ300とホストコンピュータ600の機能ブロック図である。
モーションコントローラ300は、測定指令取得部310と、カウンタ部330と、駆動指令生成部340と、駆動制御部350と、を備える。
【0032】
測定指令取得部310は、ホストコンピュータ600から測定指令データを取得する。
【0033】
カウンタ部330は、エンコーダから出力される検出信号をカウントして各スライダの変位量を計測するとともに、プローブセンサから出力される検出信号をカウントしてプローブユニット500(スタイラス)の変位量を計測する。計測されたスライダ221、222、224およびプローブユニット500の変位からプローブユニット500あるいは測定チップ(550A)の位置情報が得られる。
また、カウンタ部330にて計測されたスタイラス(550)の変位(プローブセンサの検出値(Px,Py,Pz))から、測定チップ(550A)の押込み量(あるいは押込み方向)が得られる。
駆動指令生成部340は、ホストコンピュータ600からの測定指令データをもとに、移動機構220に与える駆動指令を生成する。移動機構220を駆動制御する速度ベクトル指令については例えば特許5274782、特許6030339、特許6063161などに記載されている。
【0034】
(ホストコンピュータの構成)
ホストコンピュータ600は、CPU611(Central Processing Unit)やメモリ等を備えて構成され、モーションコントローラ300を介して三次元測定機200を制御する。CPU611511(中央処理装置)で制御プログラムを実行することにより本実施形態の動作(プローブの温度補正)が実現される。ホストコンピュータ600には、必要に応じて、出力装置(ディスプレイやプリンタ)および入力装置(キーボードやマウス)が接続されている。
【0035】
ホストコンピュータ600は、さらに、記憶部620と、形状解析部630と、温度補正部640と、を備える。
【0036】
記憶部620は、測定対象物(ワーク)Wの形状に関する設計データ(CADデータや、NURBSデータ等)、測定で得られた測定データ、および、測定動作全体を制御する制御プログラムを格納する。
また、本実施形態では、記憶部620は、プローブユニット500の校正データ(補正テーブル)を格納する補正テーブル格納部621を有する。
補正テーブル格納部621に格納されるデータを図6に示す。補正テーブル格納部621に格納されるこれらの校正用データ(補正テーブル)については後述する。
【0037】
形状解析部630は、モーションコントローラ300から出力された測定データ(サンプリングデータ)に基づいて測定対象物の表面形状データを算出し、算出した測定対象物の表面形状データの誤差や歪み等を求める形状解析を行う。また、形状解析部630は、倣い経路情報を含んだ設計データ(CADデータや、NURBSデータ等)からPCC曲線への変換等を行って測定指令データの生成を行う。
【0038】
また、形状解析部630は、標準形態時および変更形態時の測定チップでマスターゲージ211を測定したときの測定データに基づいて校正データを生成する。
(この点は後述する。)
【0039】
温度補正部640は、校正時とワーク測定時との温度差ΔTに応じて校正データ(補正テーブル)の補正値を求めるものである。
(この点は後述する。)
【0040】
(補正テーブルの生成)
まず、形状測定システム100の使用にあたって、マスターゲージ211を用いた校正(キャリブレーション)を実行する必要がある。
校正用マスターゲージ211の測定データから校正データを得る演算処理は例えば形状解析部630で実行される。
【0041】
(標準形態(第1チップ530A)の校正)
まず、プローブユニット500の標準形態時において第1チップ530Aによる校正を行う。
これにより、三次元測定機200およびプローブユニット500の電気系統(例えばエンコーダ)の校正とともに(例えば原点設定)、基準スタイラス530の形状についても校正される。基準スタイラス530の形状の校正値(補正テーブル)としては、プローブユニット500の回転中心Qから第1チップ530Aの中心点までの距離L図4参照)と、第1チップ530A(基準チップ)の半径rと、がある。
【0042】
第1チップ530Aによる校正により、第1チップ530Aの中心点を求める補正テーブルS(S1X、S1Y、S1Z)が得られる。
ここで、校正を加味した第1チップ530Aの中心点座標値をP1c(P1cX、P1cY、P1cZ)で表すとする。
また、マシンのスケールの読み値をM(M、M、M)で表すとする。
ここでいうマシンのスケールの読み値には、三次元測定機200のエンコーダの読み値とプローブユニット500のセンサの読み値とを含み、マシンのスケールの読み値はプローブユニット500の回転中心Qの座標を示すとする。
校正を加味した第1チップ530Aの中心点座標値P1cは補正テーブルSによって次のように表される。
【0043】
1c(P1cX、P1cY、P1cZ)=M(M、M、M)+S(S1X、S1Y、S1Z
基準スタイラス530の形状は、Z軸に平行な直線であるから、S1X=S1Y=0であり、S1Z=Lである。
1c(P1cX、P1cY、P1cZ)=M(M、M、M)+S(0、0、L
【0044】
(なお、ワーク(測定対象物)の表面は、第1チップ530Aの中心点座標値P1cからさらにアプローチ方向へ半径rだけシフトした位置にある。これ自体はよく知られたことである。)
【0045】
第1チップ530A用の補正テーブルとして、第1チップ530Aの半径r、補正テーブルSを補正テーブル格納部621に格納しておく(図6)。
合わせて、校正作業時の環境温度Trも校正時参照温度として補正テーブル格納部621に格納しておく。
【0046】
(プローブオフセットのモデル化)
プローブユニット500の変更形態でもワークの測定を行うのであれば、これら変更形態についても校正が必要である。すなわち、プローブユニット500の第1回転機構部510および第2回転機構部520を駆動してスタイラス(530、550)を所定角度だけ振り上げた(あるいはスウィングした)姿勢や異形スタイラス(550)に交換したプローブユニット500についても校正作業を行う。
実施形態の説明上、変更形態時の測定チップを第2チップ550Aと称することにする。
図7に例示するように、基準スタイラス530を屈曲スタイラス550に交換し、さらに、第1回転機構部510および第2回転機構部520を駆動してスタイラス550を所定角度だけ振り上げかつ回転スイングしたときの測定チップを第2チップ550Aとする。
【0047】
本実施形態では、第2チップ550Aの校正データ(補正テーブル)として、第1チップ530Aの中心から第2チップ550Aの中心へのオフセット値を求める(図11)。
第1チップ530Aの中心から第2チップ550Aの中心へのオフセット値をプローブオフセット値S12と称することにする。
【0048】
プローブユニット500の構成要素をモデル化することによって、プローブオフセット値は次のように表される。
まず、図8に例示のように、基準スタイラス530を屈曲スタイラス550に交換したとする。
ここでは、屈曲スタイラス550として90°に屈曲したL字スタイラスを例示しているが、屈曲の角度は90°に限定されない。
【0049】
屈曲スタイラス550の形状パラメータとして、回転中心Qから屈曲点551までを胴体軸552とし、胴体軸552の長さをLで表す。
また、屈曲点551からチップ中心までを脚軸553とし、脚軸553の長さをLで表す。
【0050】
さらに、脚軸553の向きと折れ曲がりの大きさを角度パラメータで表現する。
屈曲スタイラス550の脚軸553の折れ曲がりを表現するために、補助座標系を導入する。
図9に補助座標系を示す。
補助座標系として、ここでは、右手系の直交座標系としてI軸,J軸,K軸からなる座標系を導入する。
プローブヘッド本体部501の第1、第2回転機構部520の回転をゼロとした状態で、補助座標系の原点は屈曲スタイラス550の屈曲点551にあり、K軸は屈曲スタイラス550の胴体軸552に平行にあり、I軸は第2回転軸A2に平行にあるとする。
【0051】
この状態で、脚軸553がK軸(のマイナス方向)となす角をβとする。
つぎに、脚軸553がKJ面となす角をβとする。
(J軸のマイナス方向をゼロ度とし、J軸のプラス方向を180度とし、K軸回りで右回りを正とする。)
【0052】
つぎのように言い換えてもよい。
まず、K軸に平行な直線スタイラスの測定チップをI軸回りでβだけ回転させる。続けて、測定チップをK軸回りでβだけ回転させる。すると、基準スタイラス530の測定チップ(530A)が屈曲スタイラス550の測定チップ(550A)に重なる(あるいは同じ方向にある)。
【0053】
なお、プローブヘッド本体部501にスタイラス(530、550)を取り付けるチャック部には、キーとキー溝や、突起とノッチ、あるいは、部分的平坦面などのようにスタイラス(530、550)の取り付け向きを一意に決める嵌め合いがあることとし、屈曲スタイラス550の脚軸553の折れ曲がりの向きと大きさはマシン座標系上で一意に表現されるものとする。
【0054】
例えば、屈曲スタイラス550が90°に屈曲したL字のスタイラスで、脚軸553の長さが1とした場合、L字スタイラスの折れ曲がり方向と角β、βとの関係をテーブルに表すと図10のようになる。
【0055】
そして、図7に例示のように、第1、第2回転機構部520を必要な角度分だけ回転させて、校正対象となる位置まで測定チップ(530A)を振り上げ、スウィングする。校正対象となる変更形態時における第1、第2回転機構部520の回転角を参照基準角(reference angle)としてα1r、α2rとする。この状態のプローブユニット500の測定チップを第2チップ550Aとする。
【0056】
さて、ここまでに導入したパラメータを用いて、第1チップ530Aの中心から第2チップ550Aの中心へのオフセット(プローブオフセット)S12を式で表現すると、次のようになる。
【0057】
12=(S12X、S12Y、S12Z
プローブオフセットの各要素は次の式で表現される。
【0058】
12X=-L・Cos(α1r)・Sin(β)・Sin(β)-Sin(α1r){L・Cos(-α2r)・Sin(β)・Cos(β)+Sin(-α2r)(L・cos(β)+L)}
【0059】
12Y=-L・Sin(α1r)・Sin(β)・Sin(β)+Cos(α1r){L・Cos(-α2r)・Sin(β)・Cos(β)+Sin(-α2r)(L・Cos(β)+L)}
【0060】
12Z=L・Sin(α1r)・Sin(β)・Cos(β)-Cos(-α2r)(L・Cos(β)+L)+L
【0061】
このなかで、角度の値α1r、α2r、β、βは、既知の値である。すなわち、α1r、α2rはプローブヘッド本体部501の第1、第2回転機構部520の回転角であり、センサ(例えばロータリエンコーダ)で得られる値を信用する。(あるいは、プローブヘッド本体部501の第1、第2回転機構部520は別途校正済みであるとする。)
β、βは、(屈曲)スタイラスの仕様である。
なお、角度を信頼するのは、角度は温度の影響を受けないと考えられるからである。
【0062】
一方、L、L、Lは校正データから求められる。
は、第1チップ530Aの校正値から得られるものである。
、Lについては後述する。
【0063】
プローブオフセットS12のモデル式は温度補正部640に記憶しておく。
【0064】
(変更形態(第2チップ550A)の校正)
さて、第2チップ550Aでマスターゲージ211を測定して、第2チップ用の校正データ(補正テーブル)を得る。
【0065】
第2チップ550Aの校正によって第2チップ550Aの中心点を求める補正テーブルS(S2X、S2Y、S2Z)が得られる。
いま、校正を加味した第2チップ550Aの中心点座標値をP2c(P2cX、P2cY、P2cZ)で表すとする。
また、マシンのスケールの読み値をM(M、M、M)で表すとする。
ここでいうマシンのスケールの読み値には、三次元測定機200のエンコーダの読み値とプローブユニット500のセンサの読み値とを含み、マシンのスケールの読み値はプローブユニット500の回転中心Qの座標を示すとする。
校正を加味した第2チップ550Aの中心点座標値P2cは補正テーブルSによって次のように表される。
この関係を図11に例示した。
【0066】
2c(P2cX、P2cY、P2cZ)=M(M、M、M)+S(S2X、S2Y、S2Z
【0067】
従って、第1チップ530Aの中心から第2チップ550Aの中心へのオフセット(プローブオフセット)S12は、第2チップ550Aの中心点を求める補正テーブルS(S2X、S2Y、S2Z)と第1チップ530Aの中心点を求める補正テーブルS(S1X、S1Y、S1Z)との差として得られる。
つまり、プローブオフセットS12の値は次のようになる。
【0068】
12(S12X、S12Y、S12Z)=S(S2X、S2Y、S2Z)-S(S1X、S1Y、S1Z
【0069】
先にプローブオフセットS12をモデルとして求めておいた。
したがって、先のモデル式にS12(S12X、S12Y、S12Z)に代入して連立方程式を解けば、L、Lの校正値が求められる。
補正テーブル格納部621には、第2チップ550A用の補正テーブルとして、L、Lおよび校正時のプローブオフセットS12を格納しておく。
(校正時温度も補正テーブル格納部621に格納しておくことは先述の通りである。)
【0070】
後述の温度補正が無い場合、第2チップ550Aで測定対象(ワーク)を測定した際に第2チップ550Aの中心点を得るにあたって、形状解析部630は、第1チップ530Aの中心点にプローブオフセットS12を加味する。
【0071】
2c(P2cX、P2cY、P2cZ)=P1c(P1cX、P1cY、P1cZ)+S12(S12X、S12Y、S12Z
【0072】
なお、第1チップ530Aの中心点P1cはマシンの読み値Mと補正テーブルSとによって求められることは先述の通りである。
【0073】
さらに、アプローチ方向、チップ径、を加味することで測定対象物表面の位置が求められる。
これ自体は既知のことであるから割愛する。
【0074】
(温度補正)
校正作業時と実際のワーク測定時とで測定環境の温度が安定して同じであれば、環境温度変化による測定値のドリフトはないが、測定環境の温度が変動する場合には温度ドリフトが発生する。
本実施形態では、従来対応してこなかったプローブ(スタイラス)の線膨張を温度補正部640により補正することを目指す。
例えば、図13に例示するように、環境温度の上昇に伴って屈曲スタイラス550の胴体軸552および脚軸553がそれぞれ伸びたとすると、測定チップ(第2チップ550A)の位置はそれだけシフトすることになる。このとき、第1チップ530AからのプローブオフセットS12を加味して第2チップ550Aの位置を求めようとすると、プローブオフセットが変動しているのあるから正しい第2チップ550Aの中心位置は求められない。図14では、線膨張前の状態と線膨張後の状態とで、仮想的に第1チップ530Aの位置を同じになるように重ねて、プローブオフセットの変動分が分かりやすくなるように例示した図である。
【0075】
図12は、温度補正工程の手順を示すフローチャートである。
まず、温度補正部640は、まず、測定環境の温度を取得する(ST110)。三次元測定機200に温度センサが付設されていてもよいし、測定室内の温度センサから温度を得るようにしてもよい。温度補正部640は、校正時の温度と現在の測定環境の温度との差ΔTを温度データとして取得する。
【0076】
続いて、温度補正部640は、第1チップ用補正テーブルS1の温度補正を行う。
第1チップ530Aは、直線状の基準スタイラス530の先端についているチップであるから、第1チップ530A用補正テーブルSの温度補正というのは、基準スタイラス530の長さLの線膨張分の伸縮を加味することである。線膨張係数をkとして、現時点の温度Tにおける基準スタイラス530の長さをL1Tとする。
【0077】
1T=L+ΔL=L(1+kΔT)
1T(S1TX、S1TY、S1TZ)=S1T(0、0、L1T
【0078】
温度補正部640は、温度補正後の第1チップ用補正テーブルS1Tを補正時の温度データと合わせて、補正テーブル格納部621に格納する。
【0079】
さらに、温度補正部640は、プローブオフセットS12の温度補正を行う。
プローブオフセットS12は、モデル化してあるので、L、L、Lに線膨張を加味することにより、温度補正されたプローブオフセットS12Tが得られる。
【0080】
屈曲スタイラス550の線膨張係数をkとし、現時点の温度Tにおける胴体軸552および脚軸553の長さをL2T、L3Tとする。
2T=L+ΔL=L(1+kΔT)
3T=L+ΔL=L(1+kΔT)
【0081】
温度補正後のオフセットテーブルS12Tは、温度補正後のL1T、L2T、L3Tをモデルに代入することで得られる。
【0082】
温度補正後のオフセットテーブルS12T=(S12TX、S12TY、S12TZ
【0083】
12TX=-L3T・Cos(α1r)・Sin(β)・Sin(β)-Sin(α1r){L3T・Cos(-α2r)・Sin(β)・Cos(β)+Sin(-α2r)(L3T・cos(β)+L2T)}
【0084】
12TY=-L3T・Sin(α1r)・Sin(β)・Sin(β)+Cos(α1r){L3T・Cos(-α2r)・Sin(β)・Cos(β)+Sin(-α2r)(L3T・Cos(β)+L2T)}
【0085】
12TZ=L3T・Sin(α1r)・Sin(β)・Cos(β)-Cos(-α2r)(L3T・Cos(β)+L2T)+L1T
【0086】
温度補正部640は、温度補正後のオフセットテーブルS12Tを補正時の温度データと合わせて、補正テーブル格納部621に格納する。
【0087】
(補正測定値の算出)
測定環境温度が校正時の温度からΔT変化して温度Tになっているとする。
この温度環境で測定対象物(ワーク)の形状測定を屈曲スタイラス550で行う際、形状解析部630は、温度補正された補正テーブルを用い、温度補正された測定値を得る。
測定値を求める動作は形状解析部630で次のように実行される。
マシンの読み値M(M、M、M)に第1チップ用補正テーブルS1Tを加味することで、温度補正された第1チップ530Aの中心座標が(仮想的に)得られる。そして、第1チップ530Aの中心座標に温度補正後のオフセットテーブルS12Tを加味して、校正対象とした変更形態時における温度補正された第2チップ550Aの中心座標が(仮想的に)得られる(図13参照)。さらに、測定値のサンプリングとしては、第1、第2回転機構部520の回転角α、αがあるから、参照基準角(reference angle)α1r、α2rからの回転分(α-α1r)、(α-α2r)だけ回転した位置に現在の測定チップの中心がある。
さらに、アプローチ方向とチップ径を加味したところにワーク(測定対象物)の表面がある。
【0088】
なお、ここまではプローブユニット500の線膨張の補正であるが、このあとさらに、エンコーダのスケールの線膨張分も加味(減じて)して、例えば、校正時の温度や決められた規定の温度(20度や25度など)に補正した測定値を求めるようにしてもよい。
【0089】
以上のように説明した本実施形態によれば、従来対応してこなかったプローブ(スタイラス)の線膨張分を補正し、正確な測定値を得ることができる。
また、測定環境の温度変化があったとしても本実施形態のプローブユニット500の温度補正によって正確な測定値を得ることができるから、すべてのプローブ(スタイラス)や変更形態について頻繁に校正しなければならないということはなく、校正の回数をかなり減じることができる。
また、校正作業をするとしても、すべてのプローブやすべての変更形態についての校正の回数は少なくして、定期的な校正としては基準スタイラス530のみの校正だけを実施し、適宜必要に応じてその他(第2チップなど)の校正を行うとしてもよいだろう。
【0090】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
上記実施形態では、二軸のプローブユニット500を例示したが、プローブユニット500自体に回転駆動軸が必須というわけではない。
本発明は、基準スタイラス530の第1チップ530Aからオフセットをもつ測定チップで測定を行うような場合に広く適用できると考えられる。
【符号の説明】
【0091】
100 形状測定システム
200 三次元測定機
210 定盤
211 マスターゲージ
220 移動機構
221 Yスライダ
222 Xスライダ
223 Z軸コラム
224 Zスピンドル
300 モーションコントローラ
310 測定指令取得部
330 カウンタ部
340 駆動指令生成部
350 駆動制御部
500 プローブユニット
501 プローブヘッド本体部
502 プローブ固定部
510 第1回転機構部
511 第1ハウジング
512 第1モータ
513 第1シャフト
520 第2回転機構部
521 第2ハウジング
522 第2モータ
523 第2シャフト
524 U型連結フレーム
530 基準スタイラス
530A 測定チップ(第1チップ)
550 屈曲スタイラス
550 スタイラス
550A 測定チップ(第2チップ)
551 屈曲点
552 胴体軸
553 脚軸
600 ホストコンピュータ
611 CPU
620 記憶部
621 補正テーブル格納部
630 形状解析部
640 温度補正部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14