(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】冷却構造の形成方法
(51)【国際特許分類】
B22D 19/06 20060101AFI20250708BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20250708BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20250708BHJP
B22C 9/00 20060101ALI20250708BHJP
B22D 19/08 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
B22D19/06 A
B22D17/22 R
B22C9/06 F
B22C9/00 A
B22D19/08 Z
(21)【出願番号】P 2021147652
(22)【出願日】2021-09-10
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山本 直哉
(72)【発明者】
【氏名】須田 智和
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-006404(JP,A)
【文献】特開2005-118863(JP,A)
【文献】特開2016-107317(JP,A)
【文献】特開2014-050868(JP,A)
【文献】特開2000-317609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 19/00 - 19/16
B22D 15/00 - 17/32
B22C 5/00 - 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造用金型に設けられた冷却穴の内周面にブッシュを設ける、冷却構造の形成方法であって、
前記冷却穴の内部に加熱可能な鋳抜きピンを設置する工程と、
前記鋳抜きピンを加熱しつつ、前記冷却穴に溶湯を充填し、前記ブッシュを形成するための鋳物を鋳造する工程と、を含み、
前記鋳物を鋳造する工程において、前記冷却穴に充填された前記溶湯における前記鋳抜きピン側の温度を、前記鋳造用金型側の温度よりも高くなるように制御
し、
前記鋳抜きピンの内部に設けられた循環部に熱媒油を循環させることで前記鋳抜きピンを加熱する、
冷却構造の形成方法。
【請求項2】
前記鋳物を切削し、前記冷却穴の内周面に前記ブッシュを形成する工程をさらに備える、
請求項1に記載の冷却構造の形成方法。
【請求項3】
前記鋳抜きピンの内部に設けられたヒータを用いて前記鋳抜きピンを加熱する、
請求項1又は2に記載の冷却構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却構造の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト金型等の鋳造用金型には、冷媒を循環させて鋳造用金型を冷却することができる冷却ブッシュ等を備える冷却構造が設けられる。特許文献1には、冷却穴に、溶湯を充填して鋳物を形成する鋳造工程と、冷却穴の内周面に、鋳物からブッシュを形成するブッシュ形成工程とを備える、冷却構造の形成方法に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋳物からブッシュを形成する際の加工しろを削減するために、冷却穴に鋳抜きピンを設けて鋳物を鋳造する場合がある。溶湯中に鋳抜きピンを設けると、溶湯が鋳抜きピン側からも凝固し、凝固収縮によって、ブッシュを形成するための鋳物の外周部と鋳造用金型の内周部(冷却穴の内周面)とが当接する界面に、空隙が発生する場合があった。このような空隙が発生することで、熱伝導率が低下し、冷却構造における冷却性能が低下する恐れがあった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、空隙の発生を抑制し、冷却性能を向上させることができる冷却構造の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る冷却構造の形成方法は、
鋳造用金型に設けられた冷却穴の内周面にブッシュを設ける、冷却構造の形成方法であって、
前記冷却穴の内部に加熱可能な鋳抜きピンを設置する工程と、
前記鋳抜きピンを加熱しつつ、前記冷却穴に溶湯を充填し、前記ブッシュを形成するための鋳物を鋳造する工程と、を含み、
前記鋳物を鋳造する工程において、前記冷却穴に充填された前記溶湯における前記鋳抜きピン側の温度を、前記鋳造用金型側の温度よりも高くなるように制御する。
【0007】
本発明の一態様に係る冷却構造の形成方法では、冷却穴に設けられた鋳抜きピンを加熱することで、冷却穴に充填された溶湯における鋳抜きピン側の温度を、鋳造用金型側の温度よりも高くなるよう制御して、溶湯を鋳造用金型側から凝固させることができる。これにより、鋳物の凝固収縮の影響を低減し、ブッシュを形成するための鋳物の外周部と鋳造用金型の内周部との界面における空隙の発生を抑制することができる。また、加熱可能な鋳抜きピンを使用することで、鋳抜きピンを設けない場合に比べて、溶湯を徐々に凝固させることができ、界面における空隙の発生を抑制することができる。したがって、本発明の一態様に係る冷却構造の形成方法によれば、空隙の発生を抑制し、冷却構造における冷却性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、空隙の発生を抑制し、冷却性能を向上させることができる冷却構造の形成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る冷却構造を有する鋳造用金型の模式断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る冷却構造の形成方法を示すフローチャートである。
【
図3】冷却穴を形成する工程における鋳造用金型の模式断面図である。
【
図4】鋳抜きピンを設置する工程における鋳造用金型の模式断面図である。
【
図5】鋳物を鋳造する工程における鋳造用金型の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0011】
<第1の実施形態>
まず、
図1を参照して、第1の実施形態に係る冷却構造の形成方法を用いて形成された冷却構造1について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る冷却構造1を有する鋳造用金型2の模式断面図である。
【0012】
冷却構造1は、鋳造用金型2に設けられている。冷却構造1は、冷却穴2a及びブッシュ5を有する。ブッシュ5は、冷媒循環部5a及び接続部5bを有する。
【0013】
鋳造用金型2は、例えば凹型の外金型(不図示)と組み合わせられ、凸型の内金型として用いられる。鋳造用金型2と凹型の外金型との間隙は、
図1に示すキャビティ2bを形成する。鋳造用金型2及び凹側の外金型が形成するキャビティ2bには、溶湯が充填される。キャビティ2bに充填された溶湯によって、キャビティ2bに対応した形状の鋳造品が形成される。
【0014】
鋳造用金型2は、耐高温性に優れた材料を用いて形成される。したがって、鋳造用金型2は、キャビティ2bに溶湯が充填された際に、溶湯の熱による変形が起こりにくい。また、鋳造用金型2は、冷却構造1が設けられているため、キャビティ2bに充填された溶湯を効率良く冷却することができる。このような鋳造用金型2は、ダイカスト鋳造用金型として好適に用いることができる。
【0015】
鋳造用金型2には、
図1に示すように、冷却穴2aが設けられている。冷却穴2aは、キャビティ2bの近傍に設けられることが好ましい。冷却穴2aをキャビティ2bの近傍に設けることで、キャビティ2bに充填された溶湯を効率良く冷却することができる。さらに、冷却穴2aは、キャビティ2bから冷却穴2aの内周面までの肉厚が薄くなる位置に設けられることが好ましい。キャビティ2bから冷却穴2aの内周面までの肉厚を薄くすることで、キャビティ2bに充填された溶湯をさらに効率良く冷却することができる。なお、キャビティ2bに充填された溶湯は、冷却穴2aを用いた冷却だけでなく、鋳造用金型2及び凹型の外金型の外部からの空冷又は水冷等によっても冷却することができる。
【0016】
冷却穴2aの内周面には、
図1に示すように、ブッシュ5が設けられている。ブッシュ5は、冷媒循環部5a及び接続部5bを有する金属部材であり、キャビティ2bに充填された溶湯を冷却するために使用される。ブッシュ5は、耐腐食性及び熱伝導性に優れる金属材料を用いて形成されることが好ましい。ブッシュ5は、例えば、銅やアルミニウムなどの金属を用いて形成される。
【0017】
接続部5bは、図示しない冷却パイプに接続される。また、冷却パイプは、図示しないポンプに接続される。冷却パイプから供給される冷媒は、接続部5bを介して冷媒循環部5aに供給される。冷媒循環部5aにおいて冷媒が循環することで、鋳造用金型2が冷却される。冷媒循環部5aを循環する冷媒は、ブッシュ5を冷却することができる流体であれば、特に限定されない。冷媒循環部5aを循環する冷媒は、例えば水である。
【0018】
ブッシュ5内には、図示しないノズルが配置されていてもよい。ノズルは、冷却パイプに接続されており、冷媒を通すことができる。ノズルの先端部は、ブッシュ5の先端部近傍に配置されてもよい。この場合、冷媒は、冷却パイプ及びノズルを通り、ブッシュ5内において、ブッシュ5の先端部近傍から接続部5bに向かって循環する。
以上説明したように、鋳造用金型2内に冷却構造1を設けることで、鋳造用金型2を効率的に冷却することができる。
【0019】
以下、
図2~
図5を用いて、本実施形態に係る冷却構造の形成方法について説明する。
図2は、第1の実施形態に係る冷却構造の形成方法を示すフローチャートである。
図3は、冷却穴2aを形成する工程における鋳造用金型2の模式断面図である。
図4は、冷却穴2aの内部に加熱可能な鋳抜きピン6を設置する工程における鋳造用金型2の模式断面図である。
図5は、ブッシュ5を形成するための鋳物を鋳造する工程における鋳造用金型2の模式断面図である。
【0020】
本実施形態に係る冷却構造の形成方法は、
図2に示すように、鋳造用金型2に冷却穴2aを形成する工程(ステップS1)、冷却穴2aの内部に加熱可能な鋳抜きピン6を設置する工程(ステップS2)、鋳抜きピン6を加熱しつつ、冷却穴2aに溶湯4を充填し、ブッシュ5を形成するための鋳物を鋳造する工程(ステップS3)、及び鋳物からブッシュ5を形成する工程(ステップS4)を含む。
【0021】
本実施形態に係る冷却構造の形成方法では、まず、
図3に示すように、鋳造用金型2に冷却穴2aを形成する(ステップS1)。具体的には、例えば、鋳造用金型2を切削し、冷却穴2aを形成する。なお、鋳造用金型2に冷却穴2aを形成する方法は、特に限定されない。例えば、鋳造用金型2を鋳造する際に、冷却穴2aに対応した形状の中子を所定の位置に配置し、溶湯を凝固させた後に当該中子を除去することによって冷却穴2aを形成してもよい。
【0022】
次に、
図4に示すように、冷却穴2aの内部に加熱可能な鋳抜きピン6を設置する(ステップS2)。例えば鋳抜きピン6の内部には、ヒータ7が設けられる。これにより、鋳抜きピン6の内部に設けられたヒータ7を用いて鋳抜きピン6を加熱することができる。ヒータ7は、外部の制御装置(不図示)に接続される。
【0023】
また、鋳抜きピン6の内部に熱媒の循環部(不図示)を設け、循環部に熱媒を循環させることで鋳抜きピン6を加熱してもよい。循環部を循環する熱媒は、鋳抜きピン6を加熱することができる流体であれば、特に限定されない。熱媒は、例えば油である。
【0024】
次に、
図5に示すように鋳抜きピン6を加熱しつつ、冷却穴2aに溶湯4を充填し、ブッシュ5を形成するための鋳物を鋳造する(ステップS3)。ステップS3の鋳物を鋳造する工程において、冷却穴2aに充填された溶湯4における鋳抜きピン6側の温度を、鋳造用金型2側の温度よりも高くなるように制御する。
【0025】
このように、鋳造用金型2と鋳抜きピン6との間で温度勾配を発生させることで、溶湯4を鋳造用金型2側から徐々に凝固させることができる。これにより、鋳物の凝固収縮の影響を低減し、ブッシュ5を形成するための鋳物の外周部と鋳造用金型2の内周部との界面における空隙の発生を抑制できる。さらに、加熱可能な鋳抜きピン6を使用することで、鋳抜きピンを設けない場合に比べて、溶湯を徐々に冷却し、凝固させることができるため、界面における空隙の発生をさらに抑制することができる。ブッシュ5を形成するための鋳物の外周部と鋳造用金型2の内周部との界面における空隙の発生を抑制することで、鋳造用金型2とブッシュ5との間の熱伝導性を高めることができ、冷却構造1における冷却性能を向上させることができる。
【0026】
その後、鋳抜きピン6を抜き取り、溶湯4を凝固させて形成した鋳物を切削し、冷却穴2aの内周面にブッシュ5を形成する(ステップS4)。このようにして、
図1に示したように、ブッシュ5を備える冷却構造1を形成することができる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係る冷却構造の形成方法によれば、空隙の発生を抑制し、冷却構造における冷却性能を向上させることができる。
【0028】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 冷却構造
2 鋳造用金型
2a 冷却穴
2b キャビティ
4 溶湯
5 ブッシュ
5a 冷媒循環部
5b 接続部
6 鋳抜きピン
7 ヒータ