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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】ハイブリッド車
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/40 20160101AFI20250708BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20250708BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20250708BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20250708BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20250708BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20250708BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
B60W20/40
B60K6/48 ZHV
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60W10/10 900
B60L50/16
B60L15/20 J
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021169650
(22)【出願日】2021-10-15
(65)【公開番号】P2023059563
(43)【公開日】2023-04-27
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲西 直器
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-146816(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0009433(US,A1)
【文献】特表2012-530012(JP,A)
【文献】特開2015-093667(JP,A)
【文献】特開2015-044495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60L 1/00- 3/12, 7/00-13/00,
15/00-58/40
B60W 10/00,10/02,10/06,10/08,
10/10,10/18,10/26,10/28,
10/30,20/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
モータと、
前記エンジンと前記モータとの接続および接続の解除を行なうクラッチと、
前記モータに接続されたポンプインペラとタービンランナとを有するトルクコンバータと、
前記タービンランナに接続された入力軸と駆動輪に接続された出力軸とを有する変速機と、
前記モータからの動力だけを用いて走行する電動走行モードで前記エンジンの始動条件が成立すると、前記クラッチのスリップ係合および前記モータのアシスト制御により前記エンジンの回転数を増加させて前記エンジンを始動する制御装置と、
を備えるハイブリッド車であって、
前記制御装置は、前記電動走行モードのときに、前記モータの回転数と前記タービンランナの回転数と前記タービンランナの回転数変化率と走行用の要求トルクとに基づいて、前記アシスト制御を終了するときの前記モータの予測回転数である終了時予測回転数を演算する、
ハイブリッド車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車としては、エンジンと、モータと、エンジンとモータとの間に設けられたクラッチと、モータに接続されたポンプインペラとタービンランナとを有するトルクコンバータと、タービンランナに接続された入力軸と駆動輪に接続された出力軸とを有する変速機と、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-44495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたハイブリッド車では、モータからの動力だけを用いて走行する電動走行モードでエンジンの始動条件が成立すると、クラッチのスリップ係合およびモータのアシスト制御によりエンジンの回転数を増加させてエンジンを始動する。これを踏まえて、アシスト制御を終了するときのモータの予測回転数である終了時予測回転数をどのように演算するかが課題とされている。
【0005】
本発明のハイブリッド車は、モータのアシスト制御を終了するときのモータの予測回転数をより適切に演算することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド車は、
エンジンと、
モータと、
前記エンジンと前記モータとの接続および接続の解除を行なうクラッチと、
前記モータに接続されたポンプインペラとタービンランナとを有するトルクコンバータと、
前記タービンランナに接続された入力軸と駆動輪に接続された出力軸とを有する変速機と、
前記モータからの動力だけを用いて走行する電動走行モードで前記エンジンの始動条件が成立すると、前記クラッチのスリップ係合および前記モータのアシスト制御により前記エンジンの回転数を増加させて前記エンジンを始動する制御装置と、
を備えるハイブリッド車であって、
前記制御装置は、前記電動走行モードのときに、前記モータの回転数と前記タービンランナの回転数と走行用の要求トルクとに基づいて、前記アシスト制御を終了するときの前記モータの予測回転数である終了時予測回転数を演算する、
ことを要旨とする。
【0008】
本発明のハイブリッド車では、モータからの動力だけを用いて走行する電動走行モードでエンジンの始動条件が成立すると、クラッチのスリップ係合およびモータのアシスト制御によりエンジンの回転数を増加させてエンジンを始動する。この場合において、電動走行モードのときに、モータの回転数とタービンランナの回転数と走行用の要求トルクとに基づいて、アシスト制御を終了するときのモータの予測回転数である終了時予測回転数を演算する。このようにして、終了時予測回転数をより適切に演算することができる。発明者らは、このことを解析などにより確認した。
【0009】
本発明のハイブリッド車において、前記制御装置は、前記電動走行モードのときに、前記タービンランナの回転数変化率を考慮して前記終了時予測回転数を演算するものとしてもよい。また、前記制御装置は、前記電動走行モードのときに、前記モータのイナーシャおよび前記タービンランナのイナーシャを考慮して前記終了時予測回転数を演算するものとしてもよい。これらのようにすれば、終了時予測回転数を更に適切に演算することができる。
【0010】
本発明のハイブリッド車において、前記制御装置は、前記要求トルクになまし処理を施して得られる要求トルクなまし値と、前記モータの回転数と前記タービンランナの回転数とに基づいて得られる前記トルクコンバータの予測反力トルクと、を考慮して前記終了時予測回転数を演算するものとしてもよい。
【0011】
この場合、前記制御装置は、前記モータの回転数、前記タービンランナの回転数を前記モータの予測回転数の初期値、前記タービンランナの予測回転数の初期値にそれぞれ設定する初期値設定処理と、i回目の前記要求トルクなまし値、(i-1)回目の前記タービンランナの予測回転数と前記モータの予測回転数とに基づく前記i回目の前記トルクコンバータの予測反力トルク、に基づいて前記i回目の前記モータの予測角速度を演算すると共に前記i回目の前記モータの予測角速度に基づいて前記i回目の前記モータの予測回転数を演算する処理を所定回数だけ繰り返すループ演算処理とにより、前記終了時予測回転数を演算するものとしてもよい。
【0012】
本発明のハイブリッド車において、前記始動条件は、前記要求トルクが始動閾値よりも大きい条件であり、前記制御装置は、前記終了時予測回転数に基づいて前記始動閾値を設定するものとしてもよい。上述のように終了時予測回転数をより適切に演算することができることにより、始動閾値をより適切に設定することができ、始動条件の成立の有無をより適切に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド車20の構成の概略を示す構成図である。
図2】HVECU70により実行される始動判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図3】モータ30の終了時予測回転数Nmasと最大許容トルクTmmaxや始動閾値Tstとの関係の一例を示す説明図である。
図4】HVECU70により実行される終了時予測回転数演算ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図5】エンジン22の始動処理を実行するときの様子の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0015】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド車20は、図示するように、エンジン22と、モータ30と、インバータ32と、バッテリ36と、クラッチK0と、トルクコンバータ40と、自動変速機42と、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70とを備える。
【0016】
エンジン22は、燃料タンクからのガソリンや軽油などの燃料を用いて動力を出力する内燃機関として構成されている。このエンジン22のクランクシャフト23は、クラッチK0を介してモータ30の回転軸31(回転子)に接続されている。エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24により運転制御されている。
【0017】
エンジンECU24は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。エンジンECU24には、エンジン22を運転制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。エンジンECU24に入力される信号としては、例えば、エンジン22のクランクシャフト23の回転位置を検出するクランクポジションセンサ23aからのクランクシャフト23のクランク角θcrや、エンジン22の冷却水の温度を検出する図示しない水温センサからのエンジン22の冷却水温Twを挙げることができる。エンジンECU24からは、エンジン22を運転制御するための各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。エンジンECU24から出力される信号としては、スロットルバルブへの制御信号や、燃料噴射弁への制御信号、点火プラグへの制御信号を挙げることができる。エンジンECU24は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。エンジンECU24は、クランクポジションセンサ23aからのクランクシャフト23のクランク角θcrに基づいてエンジン22の回転数Neを演算している。
【0018】
モータ30は、同期発電電動機として構成されており、回転子コアに永久磁石が埋め込まれた回転子と、固定子コアに三相コイルが巻回された固定子とを有する。このモータ30の回転子が固定された回転軸31は、クラッチK0を介してエンジン22のクランクシャフト23に接続されていると共にトルクコンバータ40に接続されている。インバータ32は、モータ30の駆動に用いられると共に電力ライン37に接続されている。モータ30は、モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)34によってインバータ32の複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。
【0019】
モータECU34は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。モータECU34には、モータ30を駆動制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。モータECU34に入力される信号としては、例えば、モータ30の回転子の回転位置を検出する回転位置センサ30aからのモータ30の回転子の回転位置θmや、モータ30の各相の相電流を検出する電流センサからのモータ30の各相の相電流Iu,Ivを挙げることができる。モータECU34からは、インバータ32への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。モータECU34は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。モータECU34は、回転位置センサ30aからのモータ30の回転子の回転位置θmに基づいて、モータ30の電気角θeや角速度ωm、回転数Nmを演算している。
【0020】
バッテリ36は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、インバータ32と共に電力ライン37に接続されている。
【0021】
クラッチK0は、例えば油圧駆動の摩擦クラッチとして構成されており、HVECU70によって制御され、エンジン22のクランクシャフト23とモータ30の回転軸31との接続および接続の解除を行なう。
【0022】
トルクコンバータ40は、一般的な流体伝動装置として構成されており、モータ30の回転軸31の動力を自動変速機42の入力軸43にトルクを増幅して伝達したり、トルクを増幅することなくそのまま伝達したりする。このトルクコンバータ40は、モータ30の回転軸31に接続された入力側のポンプインペラ40pと、自動変速機42の入力軸43に接続された出力側のタービンランナ40tと、タービンランナ40tからポンプインペラ40pへの作動油の流れを整流するステータと、ステータの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチと、ポンプインペラ40pとタービンランナ40tとを連結する油圧駆動のロックアップクラッチ40cとを有する。
【0023】
自動変速機42は、6段変速の自動変速機として構成されており、入力軸43と、駆動輪49にデファレンシャルギヤ48を介して連結された出力軸44と、複数の遊星歯車と、油圧駆動の複数の摩擦係合要素(クラッチ、ブレーキ)とを有する。自動変速機42は、複数の摩擦係合要素の係脱により、第1速から第6速までの前進段や後進段を形成して、入力軸43と出力軸44との間で動力を伝達する。
【0024】
クラッチK0やロックアップクラッチ40c、自動変速機42には、図示しない油圧制御装置により、機械式オイルポンプや電動オイルポンプからの作動油の油圧が調圧されて供給される。油圧制御装置は、複数の油路が形成されたバルブボディや、複数のレギュレータバルブ、複数のリニアソレノイドバルブなどを有する。この油圧制御装置は、HVECU70により制御される。
【0025】
HVECU70は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。HVECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。HVECU70に入力される信号としては、例えば、バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからのバッテリ36の電圧Vbや、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ib、バッテリ36に取り付けられた温度センサ36cからのバッテリ36の温度Tbを挙げることができる。自動変速機42の入力軸43に取り付けられた回転数センサ43aからの入力軸43の回転数Nin(タービンランナ40tの回転数Nt)や、自動変速機42の出力軸44に取り付けられた回転数センサ44aからの出力軸44の回転数Noutも挙げることができる。イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPも挙げることができる。アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ87からの車速V、加速度センサ88からの加速度αも挙げることができる。
【0026】
HVECU70からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。HVECU70から出力される信号としては、例えば、油圧制御装置(クラッチK0や、トルクコンバータ40のロックアップクラッチ40c、自動変速機42)への制御信号も挙げることができる。HVECU70は、エンジンECU24やモータECU34と通信ポートを介して接続されている。
【0027】
HVECU70は、電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ibに基づいてバッテリ36の蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと温度センサ36cからのバッテリ36の温度Tbとに基づいてバッテリ36の許容出力電力としての出力制限Woutを演算したりしている。
【0028】
こうして構成された実施例のハイブリッド車20では、HVECU70とエンジンECU24とモータECU34との協調制御により、ハイブリッド走行モード(HV走行モード)や電動走行モード(EV走行モード)で走行するように、エンジン22とクラッチK0とモータ30とトルクコンバータ40(ロックアップクラッチ40c)と自動変速機42とを制御する。ここで、HV走行モードは、クラッチK0を係合状態としてエンジン22やモータ30からの動力を用いて走行するモードであり、EV走行モードは、クラッチK0を解放状態としてモータ30からの動力だけを用いて走行するモードである。
【0029】
HV走行モードやEV走行モードにおける自動変速機42の制御では、HVECU70は、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて自動変速機42の目標変速段M*を設定し、自動変速機42の変速段Mが目標変速段M*となるように自動変速機42を制御する。また、HV走行モードやEV走行モードにおけるロックアップクラッチ40cの制御では、モータ30の回転数Nmなどに基づいてロックアップクラッチ40cを制御する。
【0030】
HV走行モードにおけるエンジン22およびモータ30の制御では、HVECU70は、最初に、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて、自動変速機42の出力軸44に要求される要求トルクTorqを設定する。続いて、モータ30の回転数Nmを自動変速機42の出力軸44の回転数Noutで除して回転数比Gtを演算し、要求トルクTorqを回転数比Gtで除して、モータ30の回転軸31に要求される要求トルクTmrqを演算する。そして、要求トルクTmrqになまし処理を施して目標トルクTmtgを設定し、設定した目標トルクTmtgがモータ30の回転軸31に出力されるようにエンジン22の目標トルクTe*やモータ30のトルク指令Tm*を設定し、エンジン22の目標トルクTe*をエンジンECU24に送信すると共にモータ30のトルク指令Tm*をモータECU34に送信する。なお、モータ30のトルク指令Tm*は、モータ30の最大許容トルクTmmax以下の範囲内で設定される。最大許容トルクTmmaxは、実施例では、モータ30の定格最大トルクTmrtと、バッテリ36の出力制限Woutをモータ30の回転数Nmで除して得られるバッテリ起因最大トルクTmbtと、のうちの小さい方が用いられる。エンジンECU24は、目標トルクTe*を受信すると、エンジン22が目標トルクTe*で運転されるようにエンジン22の運転制御(吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火制御など)を行なう。モータECU34は、トルク指令Tm*を受信すると、モータ30がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ32の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。このHV走行モードでは、エンジン22の停止条件が成立すると、エンジン22の停止処理を実行してEV走行モードに移行する。
【0031】
EV走行モードにおけるモータ30の制御では、HVECU70は、HV走行モードと同様にモータ30の回転軸31の要求トルクTmrqや目標トルクTmtgを設定し、設定した目標トルクTmtgがモータ30の回転軸31に出力されるようにモータ30のトルク指令Tm*を設定してモータECU34に送信する。なお、モータ30のトルク指令Tm*は、モータ30の最大許容トルクTmmax以下の範囲内で設定される。モータECU34によるインバータ32の制御については上述した。このEV走行モードでは、エンジン22の始動条件が成立すると、エンジン22の始動処理を実行してHV走行モードに移行する。
【0032】
エンジン22の始動処理では、クラッチK0のスリップ係合およびモータ30のアシスト制御によりエンジン22の回転数Neを増加させてモータ30の回転数Nmに接近させ、クラッチK0の完全係合によりエンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nmに略一致した以降に、エンジン22の燃料噴射や点火制御を開始すると共にアシスト制御を終了する。ここで、アシスト制御では、エンジン22の回転数Neを増加させつつ目標トルクTmtgがモータ30の回転軸31に出力されるように、モータ30の最大許容トルクTmmax以下の範囲内で、目標トルクTmtgとアシストトルクTmasとの和のトルクをモータ30のトルク指令Tm*に設定してモータ30(インバータ32)を制御する。アシストトルクTmasは実験や解析などにより定められる。なお、アシスト制御の実行中には、要求トルクTmrqをエンジン22の始動条件が成立したときの値で上限ガードするものとしてもよい。
【0033】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド車20の動作、特に、EV走行モードでの走行中にエンジン22の始動条件が成立したか否かを判定する動作について説明する。図2は、HVECU70により実行される始動判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、EV走行モードでの走行中に繰り返し実行される。
【0034】
図2の始動判定ルーチンが実行されると、HVECU70は、最初に、モータ30の終了時予測回転数Nmasを入力する(ステップS100)。ここで、モータ30の終了時予測回転数Nmasは、アシスト制御を終了するときのモータ30の予測回転数であり、後述の予測回転数演算ルーチンにより演算された値が入力される。
【0035】
こうしてモータ30の終了時予測回転数Nmasを入力すると、入力したモータ30の終了時予測回転数Nmasに基づいてモータ30の最大許容トルクTmmaxを設定し(ステップS110)、設定したモータ30の最大許容トルクTmmaxからモータ30のアシストトルクTmasとマージンΔTmとを減じたトルクを始動閾値Tstに設定する(ステップS120)。図3は、モータ30の終了時予測回転数Nmasと最大許容トルクTmmaxや始動閾値Tstとの関係の一例を示す説明図である。なお、マージンΔTmを用いないものとしてもよい。
【0036】
こうして始動閾値Tstを設定すると、モータ30の回転軸31の要求トルクTmrqを始動閾値Tstと比較する(ステップS130)。そして、モータ30の回転軸31のの要求トルクTmrqが始動閾値Tst以下であるときには、エンジン22の始動条件が成立していないと判定して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。この場合、EV走行モードを継続する。一方、要求トルクTmrqが始動閾値Tstよりも大きいときには、エンジン22の始動条件が成立していると判定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。この場合、エンジン22の始動処理を実行してHV走行モードに移行する。
【0037】
次に、図2の始動判定ルーチンで用いられるモータ30の終了時予測回転数Nmasを演算する処理について、図4の終了時予測回転数演算ルーチンを用いて説明する。このルーチンは、EV走行モードでの走行中に、図2の始動判定ルーチンと並行して繰り返し実行される。
【0038】
図4の終了時予測回転数演算ルーチンが実行されると、HVECU70は、最初に、モータ30の角速度ωmや回転数Nm、タービンランナ40tの回転数Nt、モータ30の回転軸31の要求トルクTmrqや目標トルクTmtgなどのデータを入力する(ステップS200)。ここで、モータ30の角速度ωmや回転数Nmは、回転位置センサ30aからのモータ30の回転位置θmに基づいて演算された値が入力される。タービンランナ40tの回転数Ntは、回転数センサ43aにより検出された値が入力される。要求トルクTmrqは、上述のように、自動変速機42の出力軸44の要求トルクTorqを回転数比Gtで除して演算された値が入力される。
【0039】
こうしてデータを入力すると、変数iに値0を設定し(ステップS210)、モータ30の角速度ωmや回転数Nm、タービンランナ40tの回転数Nt、目標トルクTmtgを、モータ30の予測角速度ωmes[i]や予測回転数Nmes[i]、タービンランナ40tの予測回転数Ntes[i]、要求トルクなまし値Tmrqes[i]に設定する(ステップS220)。ここで、予測角速度ωmes[i]や予測回転数Nmes[i]、予測回転数Ntes[i]、要求トルクなまし値Tmrqes[i]は、変数iが値0のときには、後述のループ演算処理で用いる初期値を意味し、変数iが自然数のときには、ループ演算処理における、所定時間Δtと変数iとの積の時間(Δt・i)が経過したときの予測値を意味する。所定時間Δtとしては、例えば、数十msec程度が用いられる。なお、ステップS210の処理において、要求トルクなまし値Tmrqes[i]には、目標トルクTmtgに代えて、前回の要求トルク(前回Tmrq)や、モータ30の電気角θeや各相の相電流Iu,Ivに基づいて推定されるモータ30のトルク(回転軸31に出力されるトルク)を設定するものとしてもよい。
【0040】
続いて、変数iが値Nに等しくなるまで、ループ演算処理を実行する(ステップS230~S290)。ここで、値Nは、エンジン22の始動処理におけるアシスト制御の実行時間Tasを所定時間Δtで除した時間である。アシスト制御の実行時間Tasは、実験や解析により定められた値として、例えば、数百msec程度を用いることができる。
【0041】
ループ演算処理では、最初に、変数iを値1だけカウントアップして更新する(ステップS230)。続いて、式(1)に示すように、モータ30の回転軸31の要求トルクTmrqと(i-1)回目の要求トルクなまし値Tmrqes[i-1]となまし定数Kとを用いて、i回目の要求トルクなまし値Tmrqes[i]を演算する(ステップS240)。この要求トルクなまし値Tmrqes[i]は、要求トルクTmrqに基づく目標トルクTmtgの予測値(将来値)を模擬したものとして考えることができる。
【0042】
Tmrqes[i]=(Tmrq-Tmrqes[i-1])/K+Tmrqes[i-1] (1)
【0043】
続いて、式(1)に示すように、(i-1)回目のモータ30の予測回転数Nmes[i-1]と(i-1)回目のタービンランナ40tの予測回転数Ntes[i-1]とタービンランナ40tの容量係数Ctとを用いて、i回目のトルクコンバータ40の予測反力トルクTtc[i]を演算する(ステップS250)。ここで、トルクコンバータ40の予測反力トルクTtc[i]は、EV走行モードでの走行中に、自動変速機42側からトルクコンバータ40の入力側(モータ30の回転軸31)に作用する反力トルクの予測値である。
【0044】
Ttc[i]=Ct・(Ntes[i-1]/Nmes[i-1])・Nmes[i-1]2 (2)
【0045】
そして、式(3)に示すように、(i-1)回目のモータ30の予測角速度ωmes[i-1]とi回目の要求トルクなまし値Tmrqes[i]とi回目のトルクコンバータ40の予測反力トルクTtc[i]とロックアップクラッチ40cのトルクTlupとモータ30のイナーシャImとトルクコンバータ40のイナーシャItcと所定時間Δtとを用いて、i回目のモータ30の予測角速度ωmes[i]を演算する(ステップS260)。実施例では、EV走行モードでの走行中には、ロックアップクラッチ40cを解放するものとし、式(3)において、ロックアップクラッチ40cのトルクTlupとして値0を用いるものとした。モータ30のイナーシャImおよびトルクコンバータ40のイナーシャItcは、実験や解析により定めた値を用いることができる。
【0046】
ωmes[i]=ωmes[i-1]+[(Tmrqes[i]-Ttc[i]-Tlup)/(Im+Itc)]・Δt (3)
【0047】
こうしてi回目のモータ30の予測角速度ωmes[i]を演算すると、式(4)により、i回目のモータ30の予測角速度ωmes[i]をi回目のモータ30の予測回転数Nmes[i]に換算する(ステップS270)。続いて、変数iが値Nに等しいかそれ未満であるかを判定する(ステップS280)。この処理は、ループ演算処理(ステップS230~S290)を継続するか終了するかを判定する処理である。
【0048】
Nmes[i]=ωmes[i]・30/π (4)
【0049】
ステップS280で変数iが値N未満であると判定したときには、ループ演算処理を継続すると判断し、式(5)に示すように、(i-1)回目のタービンランナ40tの予測回転数Ntes[i-1]とタービンランナ40tの回転数変化率dNt/dtと所定時間Δtとを用いて、タービンランナ40tの予測回転数Ntes[i]を演算して(ステップS290)、ステップS230に戻る。ここで、タービンランナ40tの回転数変化率dNt/dtは、タービンランナ40tの回転数の単位時間当たりの予測変化量であり、例えば、加速度センサ88からの加速度αや自動変速機42の変速段Mなどに基づく値を用いることができる。
【0050】
Ntes[i]=Ntes[i-1]+dNt/dt・Δt (5)
【0051】
こうしてステップS230~S290の処理を繰り返し実行して、ステップS280で変数iが値Nに等しいと判定すると、ループ演算処理を終了すると判断し、そのときのモータ30の予測回転数Nmes[i]をモータ30の終了時予測回転数Nmasに設定して(ステップS300)、本ルーチンを終了する。このようにして、モータ30の終了時予測回転数Nmas、即ち、モータ30によるアシスト制御を終了するときのモータ30の予測回転数をより適切に演算することができる。発明者らは、このことを解析などにより確認した。
【0052】
図5は、エンジン22の始動処理を実行するときの様子の一例を示す説明図である。図5の例では、エンジン22の始動条件が成立すると(時刻t0)、クラッチK0のスリップ係合およびモータ30のアシスト制御(最大許容トルクTmmax以下の範囲内で目標トルクTmtgとアシストトルクTmasとの和のトルクの出力)を伴ってエンジン22の回転数Neを増加させてモータ30の回転数Nmに接近させる。そして、クラッチK0の完全係合によりエンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nmに略一致すると(時刻t1)、エンジン22の燃料噴射や点火制御を開始すると共にアシスト制御を終了する。したがって、EV走行モードでの走行をできるだけ継続しつつ、且つ、エンジン22の始動処理を実行するときに走行用のトルクが落ち込むのを抑制するためには、アシスト制御を終了するとき即ち終了時予測回転数Nmasにおいて目標トルクTmtgとアシストトルクTmasとの和のトルクが最大許容トルクTmmaxに十分に接近すると予測されるときに、エンジン22の始動処理を実行するのが好ましい。これを踏まえて、実施例では、終了時予測回転数Nmasに基づく最大許容トルクTmmaxからモータ30のアシストトルクTmasとマージンΔTmとを減じたトルクを始動閾値Tstに設定し、要求トルクTmrqと始動閾値Tstとの比較によりエンジン22の始動条件の成立の判定するものとした。上述したように、実施例では、終了時予測回転数Nmasをより適切に演算することができるから、始動閾値Tstをより適切に設定することができ、始動条件の成立の有無をより適切に判定することができる。
【0053】
以上説明した実施例のハイブリッド車20では、EV走行モードでエンジン22の始動条件が成立すると、エンジン22の始動処理として、クラッチK0のスリップ係合およびモータ30のアシスト制御によりエンジン22の回転数Neを増加させてエンジン22を始動する。この場合において、EV走行モードのときに、モータ30の角速度ωmや回転数Nm、タービンランナ40tの回転数Nt、要求トルクTmrqと上述の式(1)~(5)とを用いて、モータ30の終了時予測回転数Nmasを演算する。これにより、終了時予測回転数Nmasをより適切に演算することができる。この結果、終了時予測回転数Nmasに基づく始動閾値Tstをより適切に設定することができ、要求トルクTmrqと始動閾値Tstとの比較により始動条件の成立の有無をより適切に判定することができる。
【0054】
実施例のハイブリッド車20では、EV走行モードでの走行中には、ロックアップクラッチ40cを解放するものとし、式(3)において、ロックアップクラッチ40cのトルクTlupとして値0を用いるものとした。しかし、ロックアップクラッチ40cをスリップ係合しているときには、ロックアップクラッチ40cに供給される油圧に基づいて推定されるトルクを用いるものとしてもよい。
【0055】
実施例のハイブリッド車20では、式(5)において、タービンランナ40tの回転数変化率dNt/dtを用いてi回目のタービンランナ40tの予測回転数Ntes[i]を演算するものとした。しかし、タービンランナ40tの回転数変化率dNt/dtを用いずにi回目のタービンランナ40tの予測回転数Ntes[i]を演算する、即ち、(i-1)回目のタービンランナ40tの予測回転数Ntes[i-1]をi回目の予測回転数Ntes[i]に設定するものとしてもよい。
【0056】
実施例のハイブリッド車20では、エンジン22の始動処理では、クラッチK0のスリップ係合およびモータ30のアシスト制御によりエンジン22の回転数Neを増加させてモータ30の回転数Nmに接近させ、クラッチK0の完全係合によりエンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nmに略一致した以降に、エンジン22の燃料噴射や点火制御を開始すると共にアシスト制御を終了するものとした。しかし、エンジン22の始動処理において、クラッチK0の完全係合の前に、即ち、エンジン22の回転数Neがモータ30の回転数Nmに略一致する前に、エンジン22の燃料噴射や点火制御を開始すると共にアシスト制御を終了するものとしてもよい。この場合、実施例に比して、アシスト制御の実行時間Tasが短くなるから、この実行時間Tasを所定時間Δtで除した値Nも小さくなる。
【0057】
実施例のハイブリッド車20では、クラッチK0は、油圧駆動の摩擦クラッチとして構成されるものとしたが、電磁クラッチなどの乾式クラッチとして構成されるものとしてもよい。
【0058】
実施例のハイブリッド車20では、自動変速機42は、6段変速の自動変速機として構成されるものとしたが、4段変速や5段変速、8段変速、10段変速などの自動変速機として構成されるものとしてもよい。
【0059】
実施例のハイブリッド車20では、エンジンECU24とモータECU34とHVECU70とを備えるものとした。しかし、これらのうちの少なくとも2つを一体に構成するものとしてもよい。
【0060】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「エンジン」に相当し、モータ30が「モータ」に相当し、クラッチK0が「クラッチ」に相当し、トルクコンバータ40が「トルクコンバータ」に相当し、自動変速機42が「変速機」に相当し、エンジンECU24とモータECU34とHVECU70とが「制御装置」に相当する。
【0061】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0062】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、ハイブリッド車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
20 ハイブリッド車、22 エンジン、23 クランクシャフト、23a クランクポジションセンサ、24 エンジンECU、30 モータ、30a 回転位置センサ、31 回転軸、32 インバータ、34 モータECU、36 バッテリ、36a 電圧センサ、36b 電流センサ、36c 温度センサ、37 電力ライン、40 トルクコンバータ、40c ロックアップクラッチ、40p ポンプインペラ、40t タービンランナ、42 自動変速機、43 入力軸、43a 回転数センサ、44 出力軸、44a 回転数センサ、48 デファレンシャルギヤ、49 駆動輪、70 HVECU、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、87 車速センサ、88 加速度センサ。
図1
図2
図3
図4
図5