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特許7707968建設機械の制御装置およびこれを備えた建設機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】建設機械の制御装置およびこれを備えた建設機械
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/04 20060101AFI20250708BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20250708BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20250708BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
F02D29/04 H
E02F9/22 Z
F02D29/00 B
F02D23/00 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022036539
(22)【出願日】2022-03-09
(65)【公開番号】P2023131654
(43)【公開日】2023-09-22
【審査請求日】2024-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 昌志
(72)【発明者】
【氏名】川本 真大
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-190788(JP,A)
【文献】特開2012-202220(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0343829(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/04
E02F 9/22
F02D 29/00
F02D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、回転数指令信号に応じて当該エンジンを制御するエンジンコントローラと、前記エンジンによって駆動される可変容量式の油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの作動油の供給を受けて作動するアクチュエータとを含む建設機械の制御装置であって、
前記エンジンの回転数を検出する回転数検出部と、
入力された前記エンジンの目標回転数を補正し、前記回転数指令信号として前記エンジンコントローラに入力する制御部であって、前記油圧ポンプに対して指令される吐出量に基づいて前記エンジンにかかる負荷トルク速度を演算し、前記負荷トルク速度に応じて前記目標回転数を補正するフィードフォワード制御と、前記目標回転数と前記回転数検出部によって検出された前記回転数との偏差に応じて前記目標回転数を補正するフィードバック制御とを実行する制御部と、を備える、建設機械の制御装置。
【請求項2】
前記油圧ポンプのポンプ圧を検出する圧力検出部を更に備え、
前記制御部は、前記吐出量と前記回転数検出部によって検出された前記回転数と前記圧力検出部によって検出された前記ポンプ圧とに基づいて前記負荷トルク速度を演算する、請求項1に記載の建設機械の制御装置。
【請求項3】
前記アクチュエータが作動していることを検出する作動検出部を更に備え、
前記制御部は、前記アクチュエータが作動していることを前記作動検出部が検出した場合、前記フィードフォワード制御の実行を停止する、請求項1または2に記載の建設機械の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記フィードフォワード制御において、前記演算された負荷トルク速度が大きいほど前記目標回転数が大きくなるように当該目標回転数を補正する、請求項1乃至3の何れか1項に記載の建設機械の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記フィードフォワード制御において、前記負荷トルク速度に応じて前記目標回転数の補正値の最大値を設定し、当該最大値を一定時間維持するように前記目標回転数を補正する、請求項1乃至4の何れか1項に記載の建設機械の制御装置。
【請求項6】
前記エンジンの過給圧力を検出する過給圧検出部を更に備え、
前記制御部は、前記フィードフォワード制御において、前記負荷トルク速度および前記過給圧検出部によって検出された前記過給圧力に応じて前記目標回転数を補正する、請求項1乃至5の何れか1項に記載の建設機械の制御装置。
【請求項7】
前記アクチュエータを操作するための操作装置と、
前記エンジンの目標回転数を入力するための入力部と、
を更に備え、
前記制御部は、前記操作装置の操作量に応じて前記油圧ポンプに指令する前記吐出量を設定する、請求項1乃至6の何れか1項に記載の建設機械の制御装置。
【請求項8】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動され作動油を吐出する可変容量式の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出される作動油を受け入れることで作動するアクチュエータと、
前記エンジンの回転数を制御する、請求項1乃至7の何れか1項に記載の建設機械の制御装置と、
を備える、建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の制御装置およびこれを備えた建設機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンと、当該エンジンの駆動力によって作動油を吐出する油圧ポンプと、油圧ポンプから作動油の供給を受けることで駆動するアクチュエータとを有する建設機械が知られている。エンジンは、目標回転数を達成するように回転駆動される。一方、油圧ポンプは吐出量(傾転指令)の指令値を受け付け、当該吐出量を達成するように駆動する。油圧ポンプとエンジンとはカップリング等の継手装置を介して接続されている。作業者がアクチュエータを駆動するための操作を行うと、油圧ポンプのトルクがエンジンに対する負荷トルクとなる。この結果、エンジンの回転数が目標回転数を維持することができなくなり、作業者の操作に応じた望ましい操作性を確保できなくなる場合がある。
【0003】
特許文献1には、このような建設機械における操作性を改善するために、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを組み合わせたエンジン制御技術が開示されている。具体的に、当該エンジン制御装置は、アクチュエータの作動に応じて油圧ポンプを駆動させるのに必要なエンジンの出力を要求負荷として演算する要求負荷演算手段と、エンジンコントローラと、を備える。前記エンジンコントローラは、前記要求負荷演算手段により要求負荷が演算された際に、要求負荷に応じて予め設定した燃料噴射増加量をエンジンの燃料噴射量に加算するフィードフォワード制御手段と、前記フィードフォワード制御手段により燃料噴射量が増加された際に、実回転数のピーク値と目標回転数との偏差が所定の判定閾値を超えた場合に、予め設定した前記燃料噴射増加量を減少補正する噴射量補正手段と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-125949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、負荷トルクとエンジン回転数の補正指令量との関係が予め固定されているため、負荷トルクの速度(時間変化)に関わらず前記補正量が目標回転数に加算される。このため、負荷トルクの大きさが変わらない限り、指令補正量が目標回転数に加算された状態が維持されるため、負荷トルクが静定してもエンジンの回転数が目標回転数に静定せず、燃費が悪化するという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、早期にエンジンの回転数を静定させることが可能な建設機械の制御装置およびこれを備えた建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により提供されるのは、エンジンと、回転数指令信号に応じて前記エンジンを制御するエンジンコントローラと、前記エンジンによって駆動され作動油を吐出する可変容量式の油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの作動油の供給を受けて作動するアクチュエータとを含む建設機械の制御装置である。当該制御装置は、前記エンジンの回転数を検出する回転数検出部と、入力された前記エンジンの目標回転数を補正し、前記回転数指令信号として前記エンジンコントローラに入力する制御部とを備える。前記制御部は、フィードフォワード制御とフィードバック制御とをそれぞれ実行することが可能である。フィードフォワード制御では、前記制御部は、前記油圧ポンプに対して指令される吐出量に基づいて前記エンジンにかかる負荷トルク速度を演算し、少なくとも前記負荷トルク速度に応じて前記目標回転数を補正する。フィードバック制御では、前記制御部は、前記目標回転数と前記回転数検出部によって検出された前記回転数との偏差に応じて前記目標回転数を補正する。前記負荷トルク速度は、前記エンジンにかかる負荷トルクの時間変化である。
【0008】
本構成によれば、制御部が実行するフィードフォワード制御によって油圧ポンプの負荷トルクに対するエンジンの回転数ダウン量を抑制するとともに、フィードバック制御によって早期にエンジンの回転数を目標回転数に静定させることができる。特に、フィードフォワード制御では、負荷トルク速度に応じて目標回転数の補正量を決定するため、同じ負荷トルクでも入力速度が遅く回転数ダウン量が小さくなるような条件では、前記補正量を抑えることが可能になり、早期にエンジンの回転数を静定させ、従来のエンジン制御装置よりもエンジンの燃費を抑制することができる。
【0009】
上記の構成において、前記油圧ポンプのポンプ圧を検出する圧力検出部を更に備え、前記制御部は、前記吐出量と前記回転数検出部によって検出された前記回転数と前記圧力検出部によって検出された前記ポンプ圧とに基づいて前記負荷トルク速度を演算することが望ましい。
【0010】
本構成によれば、エンジンの実回転数と油圧ポンプのポンプ圧とから最新の負荷トルク速度を容易に演算することができる。
【0011】
上記の構成において、前記アクチュエータが作動していることを検出する作動検出部を更に備え、前記制御部は、前記アクチュエータが作動していることを前記作動検出部が検出した場合、前記フィードフォワード制御の実行を停止することが望ましい。
【0012】
本構成によれば、建設機械の作業中には負荷トルク速度の変動に応じたフィードフォワード制御の実行を防止し、エンジンの過度な回転数変動を抑制することができる。
【0013】
上記の構成において、前記制御部は、前記フィードフォワード制御において、前記演算された負荷トルク速度が大きいほど前記目標回転数が大きくなるように当該目標回転数を補正することが望ましい。
【0014】
本構成によれば、エンジンに作用する負荷トルクの速度が大きい場合でも、目標回転数の補正値を大きく設定することで、急激なエンジンの回転数ダウンを低減することができる。
【0015】
上記の構成において、前記制御部は、前記フィードフォワード制御において、前記負荷トルク速度に応じて前記目標回転数の補正値の最大値を設定し、当該最大値を一定時間維持するように前記目標回転数を補正することが望ましい。
【0016】
本構成によれば、フィードフォワード制御における回転数補正値の最大値が一定時間維持されることにより、エンジンに対する回転数指令が高い領域に維持され、負荷トルク発生直後の回転数ダウンを更に低減することができる。
【0017】
上記の構成において、前記エンジンの過給圧力を検出する過給圧検出部を更に備え、前記制御部は、前記フィードフォワード制御において、前記負荷トルク速度および前記過給圧検出部によって検出された前記過給圧力に応じて前記目標回転数を補正することが望ましい。
【0018】
本構成によれば、エンジンのブースト状態に応じてエンジンの出力特性が変化する構成であっても、過給圧力に応じて適切に目標回転数を補正することが可能となり、高過給時の無駄な補正による回転数のオーバーシュート(燃費悪化)を防止することができる。
【0019】
上記の構成において、前記アクチュエータを操作するための操作装置と、前記エンジンの目標回転数を入力するための入力部と、を更に備え、前記制御部は、前記操作装置の操作量に応じて前記油圧ポンプに指令する前記吐出量を設定するものでもよい。
【0020】
本構成によれば、作業者によるアクチュエータの操作に対して、制御部が実行するフィードフォワード制御によって油圧ポンプの負荷トルクに対するエンジンの回転数ダウン量を抑制するとともに、フィードバック制御によって早期にエンジンの回転数を目標回転数に静定させることができる。
【0021】
また、本発明によって提供されるのは、建設機械である。当該建設機械は、エンジンと、前記エンジンによって駆動され作動油を吐出する可変容量式の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油を受け入れることで作動するアクチュエータと、前記エンジンの回転数を制御する、上記に記載の建設機械の制御装置とを備える。
【0022】
本構成によれば、早期にエンジンの回転数を静定させることが可能な建設機械を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、早期にエンジンの回転数を静定させることが可能な建設機械の制御装置およびこれを備えた建設機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置を備える建設機械を示す側面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る制御装置の油圧回路図である。
図3】本発明の一実施形態に係る制御装置の制御部のブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係る制御装置における制御部の処理を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係る制御装置を備える建設機械におけるエンジン回転数の推移を示すグラフである。
図6】本発明の一実施形態に係る制御装置を備える建設機械における操作レバーの操作量と油圧ポンプの流量との関係を示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係る制御装置を備える建設機械における負荷トルク速度とエンジンの回転数補正量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置100A(図2)が搭載される油圧ショベル100(建設機械)を示す。この油圧ショベル100は、走行面上を走行可能なクローラ式の下部走行体1と、前記走行面に対して垂直な旋回中心軸まわりに旋回可能となるように下部走行体1の上に搭載される上部旋回体2(機体)と、この上部旋回体2に搭載される作業アタッチメント3と、を備える。当該作業アタッチメント3は、前記上部旋回体2に起伏可能に支持されるブーム4と、当該ブーム4の先端に回動可能に連結されるアーム5と、当該アーム5の先端に回動可能に連結されるバケット6とを備える。上部旋回体2は、旋回フレーム2Sと、キャブ2Aとを有する。
【0027】
前記油圧ショベル100は、前記上部旋回体2に対して前記ブーム4を起伏動作させるように作動するブームシリンダ7と、当該ブーム4に対して前記アーム5を回動動作させるように作動するアームシリンダ8と、当該アーム5に対して前記バケット6を回動動作させるように作動するバケットシリンダ9と、を更に備える。
【0028】
図2は、本実施形態に係るエンジン制御装置100A(制御装置)の油圧回路図である。図2に示すように、当該エンジン制御装置100Aは、エンジン10に接続される第1油圧ポンプ11(油圧ポンプ)および第2油圧ポンプ12と、第1ポンプ圧センサ11Pと、第2ポンプ圧センサ12Pと、タンクTと、パイロットポンプ20と、前記ブームシリンダ7と、前記アームシリンダ8と、ブームコントロールバルブ15と、アームコントロールバルブ16と、第1バルブ比例弁21と、第2バルブ比例弁22と、第3バルブ比例弁23と、第4バルブ比例弁24と、レバーロック弁25と、操作部30と、制御部50と、ECU55と、を備える。なお、図2では、バケットシリンダ9および旋回フレーム2Sに設けられる旋回モータおよびこれらに関係する油圧回路の図示を省略している。
【0029】
エンジン10は、燃料噴射指令信号を受けて、当該信号に応じた燃料噴射量の燃料が噴射されることで回転し、駆動力を発生する。エンジン10は、エンジン回転数センサ101(回転数検出部)と、過給圧力センサ102とを有する。エンジン回転数センサ101は、エンジン10の回転数を検出し、当該検出結果に応じた信号を制御部50に入力する。同様に、過給圧力センサ102は、エンジン10の過給圧力を検出し、当該検出結果に応じた信号を制御部50に入力する。
【0030】
第1油圧ポンプ11は、主として、ブームシリンダ7を作動させるための作動油を吐出する。第2油圧ポンプ12は、アームシリンダ8を作動させるための作動油を吐出する。パイロットポンプ20は、各バルブ比例弁にパイロット油を供給する。第1油圧ポンプ11、第2油圧ポンプ12およびパイロットポンプ20は、エンジン10の出力軸にカップリング継手を介して接続され、エンジン10によって駆動される。なお、図2では、エンジン10とパイロットポンプ20との接続の図示を省略している。
【0031】
本実施形態では、第1油圧ポンプ11および第2油圧ポンプ12は、可変容量式の油圧ポンプである。換言すれば、第1油圧ポンプ11は第1ポンプ比例弁111を有し、第2油圧ポンプ12は第2油圧ポンプ比例弁121を有する。これらの比例弁は制御部50から受け付ける指令信号に応じて開弁し、第1油圧ポンプ11および第2油圧ポンプ12の吐出量(傾転)を調整する。
【0032】
第1ポンプ圧センサ11P(圧力検出部)は、第1油圧ポンプ11のポンプ圧(第1油圧ポンプ11から吐出される作動油の圧力)を検出する。同様に、第2ポンプ圧センサ12Pは、第2油圧ポンプ12のポンプ圧(第2油圧ポンプ12から吐出される作動油の圧力)を検出する。これらのポンプ圧センサによって検出されたポンプ圧に対応する信号は、制御部50に入力される。
【0033】
ブームシリンダ7は、前記第1油圧ポンプ11により吐出される作動油の供給を受けることによりブーム4にブーム下げ動作とブーム上げ動作とを行わせるように作動するアクチュエータである。ブームシリンダ7は、シリンダ本体と、前記シリンダ本体をヘッド室とロッド室とに仕切る仕切部(ピストン部)を含みシリンダ本体に対して相対移動可能なピストンロッドとを有する。ブームシリンダ7では、第1油圧ポンプ11により吐出される作動油をヘッド室に受け入れることでブーム4に前記ブーム上げ動作を行わせるように伸長することが可能である一方、第1油圧ポンプ11により吐出される作動油をロッド室に受け入れることでブーム4に前記ブーム下げ動作を行わせるように収縮することが可能である。
【0034】
アームシリンダ8は、第2油圧ポンプ12により吐出される作動油の供給を受けることによりアーム5にアーム押し動作とアーム引き動作とを行わせるように作動するアクチュエータである。アームシリンダ8も、シリンダ本体と、前記シリンダ本体をヘッド室とロッド室とに仕切る仕切部(ピストン部)を含み、シリンダ本体に対して相対移動可能なピストンロッドとを有する。
【0035】
なお、図2に示すように、ブームシリンダ7にはブーム動作検出センサ7Sが装着され、アームシリンダ8にはアーム動作検出センサ8Sが装着されている。ブーム動作検出センサ7Sは、ブームシリンダ7の伸縮ストロークを検出することでブーム4の駆動状態を検出することができる。同様に、アーム動作検出センサ8Sは、アームシリンダ8の伸縮ストロークを検出することでアーム5の駆動状態を検出することができる。本実施形態では、ブーム動作検出センサ7Sおよびアーム動作検出センサ8Sはストロークセンサであるが、他の実施形態においてブーム4およびアーム5の角度を検出する角度センサであってもよい。
【0036】
ブームコントロールバルブ15は、第1油圧ポンプ11とブームシリンダ7との間に介在し、第1油圧ポンプ11からブームシリンダ7に供給される作動油の流量を変化させるように開閉動作する。具体的に、ブームコントロールバルブ15は、ブーム下げパイロットポート151及びブーム上げパイロットポート152を有するパイロット操作式の3位置方向切換弁からなる。
【0037】
ブームコントロールバルブ15は、前記ブーム下げ及び前記ブーム上げパイロットポート151,152の何れにもパイロット圧が入力されないときは中立位置P2に保たれ、第1油圧ポンプ11とブームシリンダ7との間を遮断する。なお、第1油圧ポンプ11とブームコントロールバルブ15との間の部位には、図略のリリーフ弁が配置されている。
【0038】
ブームコントロールバルブ15は、ブーム下げパイロットポート151にブーム下げパイロット圧が入力されると、そのブーム下げパイロット圧の大きさに対応したストロークで中立位置P2からブーム下げ位置P1に切り換えられる。これにより、第1油圧ポンプ11からブームシリンダ7のロッド室に前記ストロークに応じた流量で作動油が供給されることを許容するとともに、ブームシリンダ7のヘッド室から作動油が排出されることを許容するように、開弁する。これにより、ブームシリンダ7は前記ブーム下げパイロット圧に対応した速度で前記ブーム下げ方向に駆動される。
【0039】
ブームコントロールバルブ15は、ブーム上げパイロットポート152にブーム上げパイロット圧が入力されると、そのブーム上げパイロット圧の大きさに対応したストロークで中立位置P2からブーム上げ位置P3に切り換えられる。これにより、第1油圧ポンプ11からブームシリンダ7のヘッド室に前記ストロークに応じた流量で作動油が供給されることを許容するとともに、ブームシリンダ7のロッド室から作動油が排出されることを許容するように、ブームコントロールバルブ15が開弁する。これにより、ブームシリンダ7は前記ブーム上げパイロット圧に対応した速度で前記ブーム上げ方向に駆動される。
【0040】
アームコントロールバルブ16は、第2油圧ポンプ12とアームシリンダ8との間に介在し、第2油圧ポンプ12からアームシリンダ8に供給される作動油の流量を変化させるように開閉動作する。具体的に、アームコントロールバルブ16は、アーム押しパイロットポート161及びアーム引きパイロットポート162を有するパイロット操作式の3位置方向切換弁からなる。
【0041】
アームコントロールバルブ16は、アーム押し及びアーム引きパイロットポート161,162の何れにもパイロット圧が入力されないときは中立位置P5に保たれ、第2油圧ポンプ12とアームシリンダ8との間を遮断する。なお、第2油圧ポンプ12とアームコントロールバルブ16との間の部位には、図略のリリーフ弁が配置されている。
【0042】
アームコントロールバルブ16は、アーム押しパイロットポート161にアーム押しパイロット圧が入力されるとそのアーム押しパイロット圧の大きさに対応したストロークで中立位置P5からアーム押し位置P4に切換えられる。これにより、第2油圧ポンプ12からアームシリンダ8のロッド室に前記ストロークに応じた流量で作動油が供給されることを許容するとともに、アームシリンダ8のヘッド室からタンクに作動油が戻ることを許容するように、アームコントロールバルブ16が開弁する。これにより、アームシリンダ8は前記アーム押しパイロット圧に対応した速度で前記アーム押し方向に駆動される。
【0043】
アームコントロールバルブ16は、アーム引きパイロットポート162にアーム引きパイロット圧が入力されるとそのアーム引きパイロット圧の大きさに対応したストロークで中立位置P5からアーム引き位置P6に切換えられる。これにより、第2油圧ポンプ12からアームシリンダ8のヘッド室に前記ストロークに応じた流量で作動油が供給されることを許容するとともに、アームシリンダ8のロッド室からタンクに作動油が戻ることを許容するように、開弁する。これにより、アームシリンダ8は前記アーム引きパイロット圧に対応した速度で前記アーム引き方向に駆動される。
【0044】
操作部30は、キャブ2Aに配置され、オペレータによって油圧ショベル100を作動させるための各種の操作を受け付ける。操作部30は、ブーム操作部31と、アーム操作部32と、ダイヤルスイッチ33と、レバーロックスイッチ34とを有する。
【0045】
ブーム操作部31(操作装置)は、ブーム4にブーム下げ動作及びブーム上げ動作をそれぞれ行わせるためのブーム下げ操作及びブーム上げ操作を受ける。具体的に、ブーム操作部31は、ブームシリンダ7を駆動するための操作を受けるブーム操作用レバー31Aと、ブーム用指令出力部31Bと、を有する。
【0046】
ブーム操作用レバー31Aは、オペレータによる前記ブーム下げ操作及び前記ブーム上げ操作を受けて回動することが可能な部材である。前記ブーム下げ操作及び前記ブーム上げ操作は、ブーム操作用レバー31Aを互いに逆向きに回動させる操作である。
【0047】
ブーム用指令出力部31Bは、ブーム操作用レバー31Aに与えられる前記ブーム上げ操作及び前記ブーム下げ操作に連動して、当該操作に対応する指令信号を制御部50に入力する。前記指令信号は、ブーム操作用レバー31Aの操作方向および操作量に対応する情報を含む。
【0048】
アーム操作部32(操作装置)は、アーム5にアーム押し動作及びアーム引き動作をそれぞれ行わせるためのアーム押し操作及びアーム引き操作を受ける。具体的に、アーム操作部32は、アームシリンダ8を駆動するための操作を受けるアーム操作用レバー32Aと、アーム用指令出力部32Bと、を有する。
【0049】
アーム操作用レバー32Aは、オペレータによるアーム押し操作及びアーム引き操作を受けて回動することが可能な部材である。アーム押し操作及びアーム引き操作はアーム操作用レバー32Aを互いに逆向きに回動させる操作である。
【0050】
アーム用指令出力部32Bは、アーム操作用レバー32Aに与えられるアーム押し操作及びアーム引き操作の一方の操作に連動して、当該操作に対応する指令信号を制御部50に入力する。前記指令信号は、アーム操作用レバー32Aの操作方向および操作量に対応する情報を含む。
【0051】
ダイヤルスイッチ33は、エンジン10の目標回転数の入力を受ける。本実施形態では、ダイヤルスイッチ33は、回転可能なダイヤルであり、オペレータがエンジン10の目標回転数を設定するために操作(回転)される。ダイヤルスイッチ33は、不図示の操作量送信部を含む。当該操作量送信部は、オペレータがダイヤルスイッチ33を回転させ目標回転数を設定することで、当該目標回転数に応じた信号(操作量信号、回転数信号)が制御部50に入力される。
【0052】
レバーロックスイッチ34は、ブームコントロールバルブ15およびアームコントロールバルブ16に対するパイロット油の供給および遮断を切り換えるためのスイッチである。レバーロックスイッチ34がオンに設定されると、第1バルブ比例弁21、第2バルブ比例弁22、第3バルブ比例弁23および第4バルブ比例弁24に対するパイロット油の供給を許容するように、レバーロック弁25に対して指令信号(駆動信号)が入力される。一方、レバーロックスイッチ34がオフに設定されると、第1バルブ比例弁21、第2バルブ比例弁22、第3バルブ比例弁23および第4バルブ比例弁24に対するパイロット油の供給を阻止するように、レバーロック弁25に対して指令信号が入力される。
【0053】
第1バルブ比例弁21および第2バルブ比例弁22は、ブーム操作部31のブーム操作用レバー31Aに入力される操作に対応するパイロット圧がブームコントロールバルブ15に対してパイロットポンプ20から入力されることを許容するように作動する。同様に、第3バルブ比例弁23および第4バルブ比例弁24は、アーム操作部32のアーム操作用レバー32Aに入力される操作に対応するパイロット圧がアームコントロールバルブ16に対してパイロットポンプ20から入力されることを許容するように開弁する。なお、他の実施形態において、ブーム操作部31およびアーム操作部32がリモコン弁を有し、ブーム操作用レバー31Aおよびアーム操作用レバー32Aが受ける操作量に応じて、ブームコントロールバルブ15およびアームコントロールバルブ16のパイロット圧が直接調整される態様でもよい。また、各レバーは電気式のレバーでもよい。
【0054】
レバーロック弁25は、パイロットポンプ20と各バルブ比例弁との間に介在するように配置される。レバーロック弁25は、レバーロックスイッチ34の状態に応じた信号(ロック解除信号)を制御部50から受け付けることで開弁し、各バルブ比例弁へのパイロット油の供給を許容する状態と遮断する状態とに切り換わる。
【0055】
制御部50は、ダイヤルスイッチ33に入力された目標回転数の補正値を設定し、当該補正値に応じた指令信号をECU55に入力する。図3は、本実施形態に係るエンジン制御装置100Aの制御部50のブロック図である。
【0056】
制御部50は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。制御部50は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、演算部501、判定部502および記憶部503の各機能部を備えるように機能する。これらの機能部は、実体を有するものではなく、前記制御プログラムによって実行される機能の単位に相当する。なお、制御部50のすべてまたは一部は、油圧ショベル100内に設けられるものに限定されず、油圧ショベル100がリモート制御される場合には、油圧ショベル100とは異なる位置に配置されても良い。また、前記制御プログラムは遠隔地のサーバ(管理装置)やクラウドなどから油圧ショベル100内の制御部50に送信され実行されるものでもよいし、前記サーバやクラウド上で前記制御プログラムが実行され、生成された各種の指令信号が油圧ショベル100に送信されるものでもよい。
【0057】
演算部501は、制御部50が実行する各種の処理において必要とされる演算処理を実行する。判定部502は、制御部50が実行する各種の処理において必要とされる判定処理を実行する。記憶部503は、制御部50が実行する各種の処理において必要とされるパラメータ、閾値を記憶する。
【0058】
また、制御部50は、ブーム操作用レバー31A、アーム操作用レバー32A、ダイヤルスイッチ33、レバーロックスイッチ34、エンジン回転数センサ101、過給圧力センサ102、第1ポンプ圧センサ11P、第2ポンプ圧センサ12P、ブーム動作検出センサ7Sおよびアーム動作検出センサ8Sから各種の信号を受け入れる。更に、制御部50は、ECU55、第1ポンプ比例弁111、第2油圧ポンプ比例弁121、第1バルブ比例弁21、第2バルブ比例弁22、第3バルブ比例弁23、第4バルブ比例弁24およびレバーロック弁25に各種の指令信号を入力する。
【0059】
特に、制御部50は、操作部30から受信した操作レバー量信号を目標ポンプ吐出指令信号に変換し、第1ポンプ比例弁111、第2油圧ポンプ比例弁121に入力する。また、制御部50は、操作部30から受信した操作レバー量信号を目標バルブスプールストローク量指令信号に変換し、第1バルブ比例弁21、第2バルブ比例弁22、第3バルブ比例弁23および第4バルブ比例弁24に入力する。更に、制御部50は、ダイヤルスイッチ33が受けたダイヤルスイッチ操作量を目標エンジン回転数指令信号に変換する。
【0060】
ECU(Engine Control Unit)55は、制御部50から回転数指令信号(指令信号)を受け入れ、当該回転数指令信号に応じた燃料噴射量でエンジン10を所定の実回転数で回転させるようにエンジン10を制御する。
【0061】
本実施形態では、制御部50は、フィードフォワード制御およびフィードバック制御を実行することが可能である。フィードフォワード制御では、制御部50は、操作部30に入力される前記操作の操作量に応じて第1油圧ポンプ11および第2油圧ポンプ12の吐出量Q(吐出量指令)を決定し、当該吐出量Qとエンジン回転数センサ101によって検出された回転数Nrと第1ポンプ圧センサ11P、第2ポンプ圧センサ12Pによって検出されたポンプ圧Pとから、エンジン10にかかる負荷トルクTrの時間変化である負荷トルク速度Trsを演算し、少なくとも前記負荷トルク速度に応じてエンジン10の目標回転数の補正値を設定する。一方、フィードバック制御では、制御部50は、ダイヤルスイッチ33を通じて入力された目標回転数Nd(回転数指令)とエンジン回転数センサ101によって検出された回転数Nrとの偏差に応じてエンジン10の目標回転数の補正値を設定する。
【0062】
以下では、操作部30のブーム操作部31が操作されることに伴って、第1油圧ポンプ11が作動油をブームシリンダ7に向かって吐出するとともに、エンジン10の回転数が調整される態様について説明する。図4は、本実施形態に係るエンジン制御装置100Aにおける制御部50が実行するエンジン制御処理を示すフローチャートである。図5は、エンジン制御装置100Aを備える油圧ショベル100におけるエンジン回転数の推移を示すグラフである。なお、図5では、ECU55への回転数指令値が破線のグラフで示され、エンジン10の実回転数が実線のグラフで示されている。図6は、エンジン制御装置100Aを備える油圧ショベル100における操作レバーの操作量と油圧ポンプの流量との関係を示すグラフである。図7は、エンジン制御装置100Aを備える油圧ショベル100における負荷トルク速度とエンジン10の回転数補正量との関係を示すグラフである。
【0063】
油圧ショベル100において、オペレータがキャブ2A内のエンジンキーをスタートすることで、エンジン10が始動する(図4のステップS1)。この際、ダイヤルスイッチ33は、デフォルト設定(Lowアイドル)とされ、レバーロックスイッチ34はOFF状態であり、パイロット油圧回路はレバーロック弁25によって閉じられている。すなわち、操作部30は、無操作状態である。この際、図5の矢印Aで示すように、エンジン10はアイドル回転数で回転している。
【0064】
次に、オペレータがダイヤルスイッチ33操作し、エンジン10の目標回転数を設定する(ステップS2)。次に、制御部50の判定部502が、レバーロックスイッチ34がON状態に操作されたか否かを判定する(ステップS3)。ここで、レバーロックスイッチ34がON状態とされると、パイロット油圧回路が開放される(ステップS3でYES)。なお、レバーロックスイッチ34がOFF状態の場合(ステップS3でNO)、レバーロックスイッチ34がON状態とされるまで、判定部502はステップS3の判定を繰り返す。この際、この際、図5の矢印Bで示すように、無負荷状態のエンジン10は目標回転数(実回転数)で回転している。
【0065】
レバーロックスイッチ34がON状態とされると、判定部502は、操作部30のブーム操作用レバー31Aに対するレバー操作入力の有無を判定する(ステップS4)。ここで、レバー操作の入力がある場合(ステップS4でYES)、制御部50はフォードフォワード制御(FF制御)を開始する。なお、レバー操作の入力がない場合(ステップS4でNO)、判定部502はステップS4の判定を繰り返す。
【0066】
フィードフォワード制御が開始されると(ステップS5)、演算部501が負荷トルク速度を演算する(ステップS6)。この際、演算部501は、操作部30の操作用レバー31Aが受ける操作量と、予め記憶部503に記憶された図6に示されるマップ情報とから、必要ポンプ流量Q(L/min)を決定する。更に、演算部501は、エンジン回転数センサ101が検出するエンジン10の実エンジン回転数Nr(rpm)と上記の必要ポンプ流量Qとから、下記の式1に基づいて必要ポンプ傾転q(cc/rev)を演算する。
【数1】
当該必要ポンプ傾転qに対応する指令信号が第1油圧ポンプ11の第1ポンプ比例弁111に入力され、第1油圧ポンプ11の吐出量(傾転)が調整される。また、ブーム操作用レバー31Aに入力される操作量に応じて、第1バルブ比例弁21または第2バルブ比例弁22に指令信号が入力され、ブームコントロールバルブ15のスプールの移動量(ストローク量)が調整される。
【0067】
更に、演算部501は、式1に基づいて演算した必要ポンプ傾転qと、第1ポンプ圧センサ11Pが検出する実ポンプ圧P(MPa)(ポンプ圧力)とから、最新の第1油圧ポンプ11の出力トルク、すなわち負荷トルクTr(Nm)を、以下の式2に基づいて演算する。
【数2】
【0068】
また、演算部501は、式2によって演算した負荷トルクTrを下記の式3のようにサンプリング時間Δt(sec)で微分することによって、負荷トルク速度Trs(Nm/sec)を演算する。
【数3】
【0069】
次に、演算部501は、式3によって演算した負荷トルク速度Trsに対して、予め記憶部503に記憶された図7の特性値マップから、エンジン10の目標回転数指令の補正値ΔNffを決定する(ステップS7)。当該特性値マップでは、演算された負荷トルク速度Trsが大きいほど目標回転数指令の補正値ΔNffが大きくなるように当該補正値が設定される。なお、図7に示されるようなグラフの回帰式が予め記憶部503に格納され、演算部501は当該回帰式に基づいて、補正値ΔNffを演算してもよい。
【0070】
本実施形態では、エンジン制御装置100Aはエンジン10の過給圧力センサ102が検出する過給圧力に対応する情報を取得することができる。このため、記憶部503には、エンジン10の過給圧力(複数の圧力領域)に応じて、複数の特性値マップが格納されていることが望ましい。エンジン10が過給式エンジンの場合には、過給圧力の大きさによって可能な出力が決まっている。このため、上記のように、過給圧力に応じた補正値ΔNffを設定することで、より安定した回転数制御を行うことができる。
【0071】
次に、制御部50は、上記のように決定された補正値ΔNffをダイヤルスイッチ33に入力された目標回転数に反映させた指令信号をECU55に入力する(ステップS8、FF回転数指令補正)。このような補正された回転数に対応する指令信号を受けたECU55は、その補正量に対応して燃料噴射量指令値などを補正し、エンジン10の実回転数を上昇させる。なお、本実施形態では、図5の矢印Cで示すように、制御部50は、目標回転数の補正値の最大値を一定時間維持するように、ECU55に指令信号を入力する。
【0072】
やがて、ブーム操作用レバー31Aの操作開始直後における実負荷トルクの急上昇により、エンジン10の回転数が図5の矢印Dで示すように一時的にダウンするが、予めフィードフォワード制御により回転数指令値が高い状態に保持されているため、高燃料噴射状態が保持され、エンジン10の回転数ダウンを抑制することができる。
【0073】
ECU55に対する回転数指令を行った後、制御部50の判定部502は、アクチュエータ(ACT)、すなわち、ブームシリンダ7が加速したか否かを判定する(ステップS9)。換言すれば、前述の第1油圧ポンプ11の第1ポンプ比例弁111への吐出指令およびブームコントロールバルブ15へのバルブストローク指令に応じて、ブームシリンダ7に作動油が流入し、ブーム4が駆動したか否かが判定される。ここで、ブームシリンダ7が加速している場合(ステップS9でYES)、制御部50はフィードフォワード制御の実行を終了し(ステップS10)、フィードバック制御(FB制御)に移行する(ステップS11)。なお、ステップS9においてブームシリンダ7が加速していない場合(ステップS9でNO)、記憶部503はステップS9においてブームシリンダ7の加速判定を繰り返す。
【0074】
ステップS11においてフィードバック制御が開始されると、演算部501が、回転数偏差を演算する(ステップS12)。この際、演算部501は、ダイヤルスイッチ33で設定されたエンジン10の目標回転数Nd(rpm)と、エンジン回転数センサ101で検出された実エンジン回転数Nr(rpm)との偏差を演算する。更に、演算部501は、上記で演算された偏差に基づいて、フィードバック制御における回転数補正指令値を演算する(ステップS13)。なお、本実施形態では、下記の式4で示すように、目標回転数Nd(rpm)と実エンジン回転数Nr(rpm)との偏差をそのまま、回転数補正値ΔNfbとする。
【数4】
【0075】
そして、制御部50は、演算された回転数補正値ΔNfbに応じた指令信号(補正エンジン回転数指令)をECU55に入力する(ステップS14、図5の矢印E)。指令信号を受けたECU55は、その補正量に応じて、燃料噴射量指令等を補正することで、エンジン10の回転数が目標回転数に近づくように制御される(図5の矢印F)。
【0076】
更に、制御部50の判定部502はレバーロックスイッチ34がOFF状態に切り換えられたか否かを判定する(ステップS15)。ここで、レバーロックスイッチ34がOFF状態の場合(ステップS15でYES)、制御部50は、フィードフォワード制御を終了し(ステップS16)、図4のエンジン制御を終了する。一方、ステップS15において、レバーロックスイッチ34がON状態のままである場合(ステップS15でNO)、制御部50はステップS12以降の処理を繰り返す。すなわち、実エンジン回転数と目標エンジン回転数の偏差が0になるようにフィードバック制御が実行され続ける。
【0077】
以上のように、本実施形態では、ブーム操作用レバー31Aが操作され、第1油圧ポンプ11の回転に伴う負荷トルクがエンジン10に作用することに対応して、制御部50がフィードフォワード制御およびフィードフォワード制御をそれぞれ実行することができる。
【0078】
このような構成によれば、制御部50が実行するフィードフォワード制御によって第1油圧ポンプ11の負荷トルクに対するエンジン10の回転数ダウン量を抑制するとともに、フィードバック制御によって早期にエンジン10の回転数を目標回転数に静定させることができる。特に、負荷トルク速度に応じてフィードフォワード制御における指令補正量を決定するため、同じ負荷トルクでも入力速度が遅く回転数ダウン量が小さくなるような条件では、前記補正量を抑えつつ最適な回転数補正制御が可能になるため、早期にエンジン10の回転数を静定させ、従来のエンジン制御装置よりもエンジン10の燃費を抑制することができる。また、制御部50が第1ポンプ比例弁111に入力するポンプ吐出量指令がエンジン回転数の変動に応じて変化することがないため、オペレータがブーム操作用レバー31Aに入力する操作量によってポンプ吐出指令が設定され、操作量に応じた流量補償が可能になる。また、補正後の目標回転数に応じた指令信号をECU55に入力するだけでエンジン10の回転数を調整することができる。この結果、エンジン10の回転数の補正制御がECU55側の制御パラメータに介入しないため、当該回転数制御についてエンジン10およびECU55の設計変更を要することがなく、開発期間の短縮やコスト低減が実現される。
【0079】
更に、本実施形態では、制御部50は、フィードフォワード制御において、設定したポンプの吐出量Qとエンジン回転数センサ101によって検出された回転数Nrと第1ポンプ圧センサ11Pによって検出された第1油圧ポンプ11のポンプ圧Pとから負荷トルク速度Trsを演算する。
【0080】
このため、エンジン10の実回転数と第1油圧ポンプ11の吐出圧とから最新の負荷トルク速度を容易に演算することができる。
【0081】
また、本実施形態では、エンジン制御装置100Aが、ブームシリンダ7が作動していることを検出するブーム動作検出センサ7S(作動検出部)を更に備えている。そして、制御部50は、ブーム操作用レバー31Aがブームシリンダ7を駆動するための操作を受けた後、ブームシリンダ7が作動していることをブーム動作検出センサ7Sが検出した場合、フィードフォワード制御の実行を停止する。
【0082】
このため、油圧ショベル100の作業中における負荷トルク速度の変動に応じたフィードフォワード制御の実行を防止し、エンジン10の過剰な回転数変動を抑制することができる。
【0083】
また、本実施形態では、前記フィードフォワード制御において、前記演算された負荷トルク速度が大きいほど目標回転数の補正値が大きくなるように当該補正値を設定する。
【0084】
このような構成によれば、エンジン10に作用する負荷トルク速度が大きい場合でも、目標回転数の補正値を大きく設定することで、急激なエンジン10の回転数ダウン量を低減することができる。
【0085】
更に、本実施形態では、制御部50は、フィードフォワード制御において、負荷トルク速度に応じてエンジン10の目標回転数の補正値の最大値を設定し、当該最大値を一定時間維持するように目標回転数を補正する。
【0086】
このような構成によれば、フィードフォワード制御における回転数補正値の最大値が一定時間保持されることにより、ECU55に対する回転数指令値が高い領域に保持され、負荷トルク発生直後の回転数ダウン量を更に低減することができる。
【0087】
更に、本実施形態では、エンジン制御装置100Aは、エンジン10の過給圧力を検出する過給圧力センサ102(過給圧検出部)を更に備えている。そして、制御部50は、フィードフォワード制御において、負荷トルク速度および過給圧力センサ102によって検出された過給圧力に応じて目標回転数を補正する。
【0088】
このような構成によれば、エンジン10のブースト状態によりエンジン10の出力特性が変化する構成であっても、過給圧力に応じて適切な目標回転数の補正量を設定することが可能となり、高過給時の無駄な補正による回転数のオーバーシュート(燃費悪化)を防止することができる。
【0089】
以上、本発明に係るエンジン制御装置100Aおよびこれを備えた油圧ショベル100について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、たとえば以下のような変形実施形態をとることができる。
【0090】
(1)上記の実施形態では、ブーム操作用レバー31Aが操作され、第1油圧ポンプ11の負荷トルクがエンジン10に掛かる態様にて説明したが、自動運転を行う機械においては、操作レバーの操作量ではなく、制御部50が作業における目標位置、目標面、目標姿勢もしくは目標軌跡等に基づき作業アタッチメント3を作動させるために算出したブーム4、アーム5及びバケット6それぞれの作動速度もしくは作動量を作動指令として演算し、当該作動指令に基づいて第1油圧ポンプ11もしくは第2油圧ポンプ12の吐出量を制御してもよい。
【0091】
(2)また、上記の実施形態では、ダイヤルスイッチ33は、回転可能なダイヤルであり、オペレータがエンジン10の目標回転数を設定するために当該ダイヤルスイッチ33を操作(回転)する態様にて説明したが、自動運転を行う機械においては、ダイヤルスイッチ33の回転ではなく、制御部50がショベル100の行う作業、動作及び機械の状態等に基づいて目標回転数を設定してもよい。
【0092】
(3)上記の実施形態では、ブーム操作用レバー31Aが操作され、第1油圧ポンプ11の負荷トルクがエンジン10に掛かる態様にて説明したが、第2油圧ポンプ12についても同様である。また、ブーム操作用レバー31Aおよびアーム操作用レバー32Aの両方が操作され、第1油圧ポンプ11および第2油圧ポンプ12の負荷トルクがそれぞれエンジン10に掛かる場合は、各ポンプの負荷トルクの和に基づいて、上記と同様の演算処理が実行されればよい。
【0093】
(4)また、上記の実施形態では、油圧ショベル100が第1油圧ポンプ11と第2油圧ポンプ12とを備えているが、本発明はこれに限られず、第1油圧ポンプ11及び第2油圧ポンプ12の一方が省略されてもよい。かかる場合、他方の油圧ポンプから吐出される作動油が前記ブームシリンダ7に供給されるとともに前記アームシリンダ8に供給される。
【0094】
(5)また、作業アタッチメント3の先端アタッチメントは、バケットに限られず、例えばグラップル、圧砕機、ブレーカ、フォークなどの他の先端アタッチメントであってもよい。また、本発明の制御装置が搭載される建設機械は、前記油圧ショベルに限られず、他の建設機械であってもよい。
【0095】
(6)先の実施形態では、機体が下部走行体1であるが、前記機体は下部走行体1のように走行可能なものに限定されず、特定の場所に設置されて上部旋回体2を支持する基台であってもよい。
【0096】
(7)本発明において、回転数など所定の指令値を補正することは、前記指令値を補正した後、当該補正後の指令値に対応する信号を入力先に入力するものでもよいし、前記所定の指令値に対応する信号を補正した後、入力先に入力するものでもよい。換言すれば、補正対象は、指令値自体でも良いし、これに対応する信号の値(大きさ)でもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 下部走行体
10 エンジン
100 油圧ショベル
100A エンジン制御装置(制御装置)
101 エンジン回転数センサ(回転数検出部)
102 過給圧力センサ(過給圧検出部)
11 第1油圧ポンプ
111 第1ポンプ比例弁
11P 第1ポンプ圧センサ(圧力検出部)
15 ブームコントロールバルブ
151 ブーム下げパイロットポート
152 ブーム上げパイロットポート
2 上部旋回体
20 パイロットポンプ
21 第1バルブ比例弁
22 第2バルブ比例弁
25 レバーロック弁
3 作業アタッチメン
30 操作部(操作装置)
31 ブーム操作部
31A ブーム操作用レバー
31B ブーム用指令出力部
33 ダイヤルスイッチ(回転数入力部)
34 レバーロックスイッチ
4 ブーム
5 アーム
50 制御部
501 演算部
502 判定部
503 記憶部
55 ECU(エンジンコントローラ)
6 バケット
7 ブームシリンダ(アクチュエータ)
7S ブーム動作検出センサ(作動検出部)
8 アームシリンダ
8S アーム動作検出センサ
9 バケットシリンダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7