(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-10
(45)【発行日】2025-07-18
(54)【発明の名称】光伝送システムおよび光伝送方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20250711BHJP
H04B 10/548 20130101ALI20250711BHJP
H04B 10/54 20130101ALI20250711BHJP
【FI】
G02F1/01 B
H04B10/548
H04B10/54
(21)【出願番号】P 2023539419
(86)(22)【出願日】2021-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2021028779
(87)【国際公開番号】W WO2023012897
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】NTT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】胡間 遼
(72)【発明者】
【氏名】可児 淳一
(72)【発明者】
【氏名】原 一貴
(72)【発明者】
【氏名】金井 拓也
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-165407(JP,A)
【文献】特表平04-502217(JP,A)
【文献】特開昭58-075340(JP,A)
【文献】特開2018-201118(JP,A)
【文献】特開2008-249848(JP,A)
【文献】特開2018-113555(JP,A)
【文献】特開2018-019245(JP,A)
【文献】特開2001-086104(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141685(WO,A1)
【文献】特開2018-195925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0282699(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
H04B 10/00-10/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を送信する光送信器と、光信号を受信する光受信器とを有する複数のユーザ装置を備える光伝送システムであって、
前記ユーザ装置は、
光信号の強度変調によって光変調信号を生成する第1変調部と、
光信号の位相/周波数変調によって光変調信号を生成する第2変調部と、
前記第1変調部および前記第2変調部のうち、接続先のユーザ装置に応じたいずれかの変調部に変調手段を切り替える変調方式切替部と、
を備え、
前記変調方式切替部は、前記接続先のユーザ装置との初期通信時において、前記接続先のユーザ装置
に対して強度変調の信号と、位相/周波数変調の信号とを順番に送信し、どちらの変調方式で受信できたかを相互に通知しあうことにより前記接続先のユーザ装置との通信に使用する変調方式をネゴシエーションによって決定するものであり、前記ネゴシエーションに関する制御情報を、主信号を通信する第1経路とは
異なる波長により論理的に独立した第2経路
であって物理的には前記第1経路と同じ経路である前記第2経路を介して通信する、
光伝送システム。
【請求項2】
前記第2変調部は、前記光信号を発する光源に印加するバイアス電流を前記変調手段に係る変調信号で変調することにより前記光信号の位相/周波数変調を実現する、
請求項
1に記載の光伝送システム。
【請求項3】
前記第1変調部は、電界吸収型変調器またはマッハツェンダ型変調器によって前記光信号の強度変調を実現する、
請求項
2に記載の光伝送システム。
【請求項4】
前記第1変調部は、前記第2変調部が前記光源に印加するバイアス電流よりも大きな電流値でバイアス電流を印加することにより前記光信号の強度変調を実現する、
請求項
2に記載の光伝送システム。
【請求項5】
光信号を送信する光送信器と、光信号を受信する光受信器とを有する複数のユーザ装置を備える光伝送システムによる光伝送方法であって、
前記ユーザ装置が、光信号の強度変調によって光変調信号を生成する第1変調部と、光信号の位相/周波数変調によって光変調信号を生成する第2変調部とのうち、接続先のユーザ装置に応じたいずれかの変調部に変調手段を切り替える変調方式切替ステップを実行するものであり、
前記変調方式切替ステップは、前記接続先のユーザ装置との初期通信時において、前記接続先のユーザ装置
に対して強度変調の信号と、位相/周波数変調の信号とを順番に送信し、どちらの変調方式で受信できたかを相互に通知しあうことにより前記接続先のユーザ装置との通信に使用する変調方式をネゴシエーションによって決定するものであり、前記ネゴシエーションに関する制御情報を、主信号を通信する第1経路とは
異なる波長により論理的に独立した第2経路
であって物理的には前記第1経路と同じ経路である前記第2経路を介して通信するものである、
光伝送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信器、光伝送システムおよび光送信方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信の大容量化を実現するために、送受信ノード間の伝送距離や必要となる信号速度に応じて、最適な変調方式、信号処理アルゴリズムを適用する適応変調技術の研究開発が進められている。例えば、
図14は、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)のAPN(APN: All Photonics Network)における通信の構成例を示す。
図14(A)は、同じ光ゲートウェイ装置(Ph-GW:Photonic Gateway)に接続されるユーザ装置の間で光ゲートウェイ装置による折り返し通信を行う構成例(短距離通信)を示す。一方、
図14(B)は、異なる光ゲートウェイ装置に接続されるユーザ装置の間でパススルー通信によってデータを転送する構成例(長距離通信)を示す。このようなIOWNのAPNでは、光電変換や電気信号のルーティング処理などの電気的処理を極力排除することが望まれるため、伝送経路の形態に応じて伝送パラメータを適応的に制御する必要がある。
【0003】
図15は、従来技術による光伝送システムの構成の概略を示す図である。
図15(A)は、強度変調-直接検波方式による光伝送システムの構成例を示し、
図15(B)は、位相変調-デジタルコヒーレント検波方式による光伝送システムの構成例を示す。従来の適応変調を用いた光送信器は、例えばデジタル信号処理回路を用いて送信する信号の多値度を変更する構成や、リードソロモン符号やLDPC(Low-Density Parity-Check Code:低密度パリティ検査符号)符号等によりFEC(Forward Error Correction)の冗長度を変更することで利得を得る方式が主流である。例えば、
図15(A)に示すように、アクセスネットワーク等で用いられることが多い強度変調-直接検波方式では、変調信号をNRZ(Non-return-to-zero)信号、PAM(Pulse-Amplitude Modulation)4信号、PAM8信号、PAM16信号等に切り替えることによって振幅変調の多値度を適応的に変更することが行われている(例えば非特許文献1参照)。また、例えば、
図15(B)に示すように、コアネットワークで用いられることが多い位相変調-デジタルコヒーレント受信方式では、変調信号を4QAM(Quadrature amplitude modulation)信号、16QAM信号、64QAM信号等に切り替えることによって位相振幅変調の多値度を適応的に変更することが行われている(例えば非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Noriaki Kaneda, “DSP for 50G/100G Hybrid Modulated TDM-PON”, 2020 European Conference on Optical Communications (ECOC)
【文献】青木泰彦,“デジタル信号処理によるフォトニックネットワークの新たな展開”, FUJITSU. 62, 5 (09,2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来では、強度変調-直接検波方式および位相変調-デジタルコヒーレント検波方式のそれぞれで別々の光送信器が必要になるとともに、それぞれで適応的に変更可能なパラメータもデジタル信号処理回路で変更可能な上位レイヤのパラメータに留まっていた。このように、従来において、適用変調可能な光送信器は、方式変更やパラメータ変更における自由度が必ずしも高くなかった。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、光伝送の適応変調において、伝送方式または伝送パラメータの変更の自由度を向上させることができる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、光信号の強度変調によって光変調信号を生成する第1変調部と、光信号の位相/周波数変調によって光変調信号を生成する第2変調部と、前記光信号の変調手段を前記第1変調部および前記第2変調部のいずれかに切り替える変調方式切替部と、を備え、前記変調方式切替部は、前記第1変調部および前記第2変調部のうち、接続先の装置に応じた変調部に前記変調手段を切り替える、光送信器である。
【0008】
本発明の一態様は、上記の光送信器と、直接検波方式またはデジタルコヒーレント検波方式で光信号を検波する光受信器と、を備える1以上のユーザ装置と、前記1以上のユーザ装置を収容する1以上のネットワークノード装置と、前記1以上のネットワークノード装置による通信経路を制御する経路制御装置と、を備え、前記光送信器は、前記通信相手のユーザ装置との間で実施する前記ネゴシエーションに係る情報を、前記経路制御装置を介してやり取りする、光伝送システムである。
【0009】
本発明の一態様は、光信号の強度変調によって光変調信号を生成する第1変調部と、光信号の位相/周波数変調によって光変調信号を生成する第2変調部とのいずれかの手段で光信号を変調する変調ステップと、前記光信号の変調手段を前記第1変調部および前記第2変調部のいずれかに切り替える変調方式切替ステップと、を有し、前記変調方式切替ステップにおいて、前記第1変調部および前記第2変調部のうち、通信相手となる装置に応じた変調部に前記変調手段を切り替える、光送信方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、光伝送の適応変調において、伝送方式または伝送パラメータの変更の自由度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態の光伝送システムの構成例を示す図である。
【
図2】光源の変調方式の切り替えの概略を示すイメージ図である。
【
図3】変形例の光送信器による光変調信号の補正のイメージ図である。
【
図5】変形例の光送信器による光源の変調方式の切り替えの概略を示すイメージ図である。
【
図7】変形例の光送信器による光源の変調方式の切り替えの概略を示すイメージ図である。
【
図8】第2実施形態の光伝送システムの構成例を示す図である。
【
図9】第3実施形態の光伝送システムの構成例を示す図である。
【
図10】第4実施形態の光伝送システムの構成例を示す図である。
【
図11】第5実施形態の光伝送システムの構成例を示す図である。
【
図12】ユーザ装置と、3R中継器としての光ゲートウェイ装置との接続の構成例を示す図である。
【
図13】光ゲートウェイ装置のユーザ装置との間における短距離通信に関する構成例を示す図である。
【
図14】IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)のAPN(APN: All Photonics Network)における通信の構成例を示す。
【
図15】従来技術による光伝送システムの構成の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の光伝送システム1Aの構成例を示す図である。光伝送システム1Aは、光送信器10と、光受信器20と、光伝送路30とを備える。光送信器10は送信対象のデータ(以下「対象データ」という。)を光信号に変調して光伝送路30に出力する。光伝送路30は光ファイバを備え、光送信器10と光受信器20とを接続する。光受信器20は、光伝送路30から光信号を入力して復調することにより、光送信器10が送出した対象データを復元する。以下、光送信器10と光受信器20の構成についてより詳細に説明する。
【0013】
光送信器10は、例えば、光源110と、デジタル信号処理回路120と、DA変換器130と、強度変調器140とを備える。光源110は、DA変換器130および強度変調器140に対して連続光を送出する。光源110は、例えばDFBレーザ(Distributed Feedback Laser)を連続光として出力する。
【0014】
デジタル信号処理回路120は、対象データの送信に関するデジタル信号処理を行う回路である。具体的には、デジタル信号処理回路120は、変調信号出力部121と、変調方式切替部122とを備える。変調信号出力部121は、光源110の出力光を変調するための変調信号を生成してDA変換器130に出力する。例えば、デジタル信号処理回路120は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーおよびメモリを用いて構成される。デジタル信号処理回路120は、プロセッサーがプログラムを実行することによって、変調信号出力部121、変調方式切替部122、および光信号のデジタル信号処理部として機能する。なお、これらの各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。上記のプログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。上記のプログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0015】
DA変換器130は、変調信号をデジタル信号処理回路120から入力し、入力した変調信号をアナログ信号に変換して出力する。以下、アナログ信号に変換された変調信号を「アナログ変調信号」という。DA変換器130から出力されたアナログ変調信号は、後述する変調方式切替部122の制御に基づき、光源110または強度変調器140に入力される。
【0016】
変調方式切替部122は、強度変調と位相/周波数変調との間で光源110の変調方式を切り替える機能を有する。具体的には、変調方式切替部122は、変調信号の振幅やバイアス点、変調信号を印加する対象のデバイス等を変更後の変調方式に対応するものに変更することにより、光源110の変調方式を切り替えるものである。変調方式切替部122は、デジタル信号処理回路120の機能の一部として構成することができる。例えば、変調方式切替部122は、事前に登録された通信相手先の光受信器種別に応じて変調方式を切り替えるように構成される。また、例えば、変調方式切替部122は、切り替え操作が入力されたことに応じて光源110の変調方式を切り替えるように構成されてもよい。この場合、デジタル信号処理回路120は、変調方式の切り替え操作の入力を受け付けるボタンやスイッチ等の入力装置を備えてもよい。
【0017】
具体的には、変調方式として位相/周波数変調が指定されている場合、変調方式切替部122は、DA変換器130が出力したアナログ変調信号が光源110に入力されるように回路を制御する。光源110は、入力したアナログ変調信号によってバイアス電流を位相/周波数変調するように構成される。バイアス電流がアナログ変調信号に基づいて位相/周波数変調されることにより、光源110の出力光に周波数変化および位相変化が生じ(一般にチャープと呼ばれる)、このチャープによって光源110の位相/周波数変調が実現される。このような変調方法は、光源110が連続光を出力する動作自体を制御するものであるので、後述する強度変調に比べてより直接的な変調方式であると言える。また、以下では簡単のため、光源110の出力光を変調することを「光源110を変調する」と表現する場合がある。
【0018】
一方、変調方式として強度変調が指定されている場合、変調方式切替部122は、DA変換器130が出力したアナログ変調信号が強度変調器140に入力されるように回路を制御する。この場合、強度変調器140は、DA変換器130からアナログ変調信号を入力し、入力したアナログ変調信号に基づく強度変調によって光源110の出力光を変調する。具体的には、強度変調器140は、光源110から連続光を入力し、入力した連続光をアナログ変調信号に基づいて強度変調することによって光変調信号を生成する。強度変調器140は、生成した光変調信号を光伝送路30に送出する。強度変調器140は、例えばEA(Electro-Absorption:電界吸収型)変調器である。強度変調器140は、マッハツェンダ型変調器であってもよい。
【0019】
図2は、光源110の変調方式の切り替えの概略を示すイメージ図である。
図2(A)は、位相/周波数変調による光源110の変調のイメージを表し、
図2(B)は、強度変調による光源110の変調のイメージを表す。
図2の例は、0または1の2値をとり得るNRZ信号で光源110を変調した場合を表している。
【0020】
このように構成された第1実施形態の光送信器10は、光源110に印加されるバイアス電流をアナログ変調信号で変調することにより光源110の位相/周波数変調を実現することができるとともに、強度変調器140を備えることにより光源110を強度変調することができる。このため、第1実施形態の光送信器10によれば、強度変調方式と、位相/周波数変調方式とで別々の光送信器を用意する必要がなくなり、1つの光送信器10によって両方式に対応することができる。すなわち、第1実施形態の光送信器10によれば、光伝送の適応変調において、伝送方式または伝送パラメータの変更の自由度を向上させることが可能となる。
【0021】
(変形例)
第1実施形態の光送信器10では、位相/周波数変調で光源110を変調する場合、光源110のバイアス電流の変調に伴い、アナログ変調信号の位相/周波数変調成分だけでなく、強度変調成分も印加される。この場合、光送信器10は、光源110の変調成分の逆パターンで変調するように強度変調器140を作動させることで強度変調成分が除去されるように光変調信号を補正するように構成されてもよい。
図3は、変形例の光送信器10による光変調信号の補正のイメージ図である。
図3(A)は、光源110に印加されるバイアス電流を変調信号で変調した結果として光源110から出力される光信号(光変調信号)の強度を示す図である。一方、
図3(B)は、強度変調器14が、
図3(A)で出力された光変調信号を
図3(A)の変調信号と逆パターンの変調信号で変調することによって補正された光変調信号の強度を示す図である。このような構成により、変形例の光送信器10は、位相/周波数変調の精度を高めることができる。
【0022】
また、第1実施形態の光送信器10における適応変調の構成は、多値度やFEC種別を変更する従来の適応変調と組み合わせられてもよい。
【0023】
また、第1実施形態の光送信器10における適応変調の構成は、EA(Electro-Absorption:電界吸収型)変調器による強度変調おいてDFBレーザを変調することで波長分散耐性が向上するようにチャープを印可する構成と組み合わせられてもよい。
【0024】
また、第1実施形態の光送信器10は、光源110のバイアス電流を変調することにより位相/周波数変調および強度変調を実現するように構成されてもよい。
図4は、変形例の光送信器10の構成例を示す図である。変形例の光送信器10は、強度変調器140を備えない点で第1実施形態の光送信器10と異なる。この構成では、光源110に印加するバイアス電流値の大きさを変えることで位相/周波数変調および強度変調を実現することができる。
図5は、変形例の光送信器10による光源110の変調方式の切り替えの概略を示すイメージ図である。
図5(A)は、位相/周波数変調のイメージを表し、
図5(B)は強度変調のイメージを表す。この場合、変調方式切替部122は、第1実施形態と同様の方法で位相/周波数変調を実現することができる。一方、変調方式切替部122は、強度変調時には、光源110に印加するバイアス電流値を位相/周波数変調時よりも大きな電流値とする。これにより、所望の消光比を得ることが可能となるので、変調方式切替部122は、バイアス電流の変調によって強度変調を実現することができる。すなわち、変形例の光送信器10は、位相/周波数変調および強度変調のいずれについても、光源110の出力動作自体を制御することで光源110を変調するように構成される。このように、変形例の光送信器10によれば、位相/周波数変調および強度変調において回路の動作を共通化できる部分が多くなるため、より小さい回路規模で光送信器10を構成することができる。
【0025】
また、第1実施形態の光送信器10は、強度変調器140に代えてマッハツェンダ型変調器150を備えるように構成されてもよい。
図6は、変形例の光送信器10の構成例を示す図である。この構成では、光送信器10は、マッハツェンダ型変調器150に印可するバイアス電圧と変調振幅を変更することで光源110の強度変調および位相変調を実現することができる。
図7は、変形例の光送信器10による光源110の変調方式の切り替えの概略を示すイメージ図である。
図7(A)は、強度変調のイメージを表し、
図7(B)は、位相変調のイメージを表す。強度変調の場合、マッハツェンダ型変調器150は、電圧に対して正弦波状に変化する消光特性を持っており、2値の強度変調の場合、光透過率100パーセントとなる点から0パーセントとなる点にかけて変調信号のバイアス電圧と振幅を決定する。このとき、出力位相に変動はない。一方、位相変調時には,光透過率100パ―セントとなる点から次の100パーセントとなる点にかけて変調信号のバイアス電圧と振幅を決定する。これにより、位相が180度変動する。変形例の光送信器10における適応変調の構成は、多値度やFEC種別を変更する従来の適応変調と組み合わせられてもよい。このような変形例の構成によれば、多値の強度変調信号を送信することができるととともに、2値の位相変調に多値の強度変調成分を加えて送信することができる。なお、マッハツェンダ型変調器150は、I軸およびQ軸の双方を変調可能なIQ変調器であってもよく、この場合、マッハツェンダ型変調器150は、I軸およびQ軸ともに同一信号、かつ同一バイアス、かつ同一振幅で変調することで強度変調信号を送信することができる。
【0026】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態の光伝送システム1Bの構成例を示す図である。光伝送システム1は、第1実施形態の光送信器10を備えたユーザ装置同士が通信するシステムである。ここで、第1実施形態の光送信器10を備えたユーザ装置の構成としては、
図8に示すユーザ装置2Aおよび2Bの2種類の構成を想定する。ユーザ装置2Aは、直接検波方式で光信号を受信する光受信器20Aを備える構成であるのに対し、ユーザ装置2Bは、デジタルコヒーレント検波方式で光信号を受信する光受信器20Bを備える構成である。合分波器21は、光信号の送受信において異なる波長の光信号を合分波して入出力するものである。
【0027】
これらのユーザ装置2の間で通信を行うためには、強度変調と、位相/周波数変調とのどちらの変調方式で光信号をやり取りするかを通信開始時に決定する必要がある(ネゴシエーション)。例えば、ネゴシエーションを実現する構成として、各ユーザ装置2が順番に強度変調の信号と、位相/周波数変調の信号とを送信し、どちらの変調方式で受信できたかを相互に通知しあう構成が考えられる。また、ネゴシエーションのやり取りは、例えばイーサネット(登録商標)における通信モードのネゴシエーションやTCP(Transmission Control Protocol)におけるスリーウェイハンドシェークなど、通信接続の確立時における一般的な初期認証フェーズと同様のスキームで行うことが想定される。
【0028】
このように構成された第2実施形態の光伝送システム1では、ユーザ装置2同士が、強度変調または位相/周波数変調のどちらの変調方式で光信号を送受信するかを通信開始時のネゴシエーションによって決定することができる。すなわち、第2実施形態の光伝送システム1によれば、各ユーザ装置2は、主信号の送受信によって通信相手のユーザ装置との間の伝送経路に応じた変調方式を決定し、伝送経路の変化に対して適応的に変調方式を切り替えて通信することができるので、光伝送の適応変調において、伝送方式または伝送パラメータの変更の自由度を向上させることが可能となる。
【0029】
<第3実施形態>
図9は、第3実施形態の光伝送システム1Cの構成例を示す図である。第2実施形態の光伝送システム1Bでは、主信号の通信を利用して初期認証フェーズにネゴシエーションをする構成であった。これに対して、第3実施形態の光伝送システム1Cでは、各ユーザ装置2Cが主信号の伝送経路(以下「第1経路」という。)とは別に制御信号の伝達経路(以下「第2経路」という。)を有し、第2経路を介して、通信先のユーザ装置2Cとの間の伝送経路における光信号の損失(経路損失)や、通信先のユーザ装置2Cにおける光受信器の構成などの情報(以下「制御情報」という。)をやり取りする。第3実施形態の光伝送システム1Cにおいて、ユーザ装置2Cは、通信先のユーザ装置2Cから通知された制御情報をもとに変調方式を決定する。
【0030】
具体的には、この場合、各ユーザ装置2Cは、第1実施形態の光送信器10、光受信器20および合分波器21に加えて、制御信号通信部22を備える。制御信号通信部22は、第2経路を介して制御情報を示す信号(制御信号)を送受信する。例えば、第2経路は、
図9(A)に示すように、第1経路とは物理的に別のネットワークとして構成されてもよいし、
図9(B)に示すように、第1経路と物理的に同じネットワークを使用して、論理的に異なる伝送経路として構成されてもよい。
【0031】
例えば、
図9(B)の例において、第2経路は、第1経路として使用する光伝送路において、第1経路とは別の独立した波長を用いた別チャネルとして構成されてもよいし、主信号の波長域内で制御信号を伝送可能にするAMCC(Auxiliary Management and Control Channel)により実現される疑似的な制御チャネルとして構成されてもよい。
【0032】
このように構成された第3実施形態の光伝送システム1Cにおいて、各ユーザ装置2Cは、主信号を伝送する第1経路とは、物理的または論理的に独立した第2経路を用いて変調方式のネゴシエーションを行うことができる。すなわち、第3実施形態の光伝送システム1Cによれば、各ユーザ装置2Cは、互いに送受信する制御信号によって伝送経路の構成を認識することにより、伝送経路の変化に対して適応的に変調方式を切り替えて通信することができるので、光伝送の適応変調において、伝送方式または伝送パラメータの変更の自由度を向上させることが可能となる。
【0033】
(変形例)
第3実施形態の光伝送システム1Cにおいて、各ユーザ装置2Cには、通信先のユーザ装置を示す情報(以下「通信先情報」という。)が予め登録されてもよい。この場合、光送信器10の変調方式切替部122は、予め登録されている通信先情報に基づいて光送信器10の変調方式を決定するように構成されてもよい。この場合、変調方式を決定するための制御信号を送受信する必要がなくなるので、光伝送システム1Cにおいて第2経路を省略し、システム構成を簡素化することができる。
【0034】
<第4実施形態>
図10は、第4実施形態の光伝送システム1Dの構成例を示す図である。第2実施形態の光伝送システム1Bおよび第3実施形態の光伝送システム1Cでは、ユーザ装置2同士が直接的に接続されて通信した。これに対して、第4実施形態の光伝送システム1Dでは、各ユーザ装置2Dがネットワークノード装置(以下「NWノード装置」という。)40を介して通信する。ユーザ装置2Dは、直接的にはネットワークノード装置40と通信する点で第3実施形態のユーザ装置2Cと異なるが、基本的な構成はユーザ装置2Cと同様である。NWノード装置40は、光スイッチによって光通信を転送する装置である。ユーザ装置2D同士の通信は、1つ以上のNWノード装置40が通信を転送することによって実現される。統合コントローラ50は、1つ以上のNWノード装置40を統合的に制御する装置である。
【0035】
この場合、各ユーザ装置2Dは、自身が接続するNWノード装置40と変調方式のネゴシエーションを行う。具体的には、各NWノード装置40はユーザ装置2Dの制御信号通信部22と同様の制御信号通信部41を備える。各ユーザ装置2では、制御信号通信部22がNWノード装置40の制御信号通信部41と通信することにより、各自の制御情報をNWノード装置40に通知するとともに、NWノード装置40から通信先のユーザ装置2Dの制御情報を取得する。各ユーザ装置2Dでは、光送信器10の変調方式切替部122がNWノード装置40から取得された制御情報に基づいて通信先のユーザ装置2Dとの通信における変調方式を決定して、変調方式の切り替えを行う。
【0036】
一方、NWノード装置40では、制御信号通信部41がネゴシエーション相手のユーザ装置2Dから入力した制御信号を統合コントローラ50に供給するとともに、ネゴシエーション相手のユーザ装置2Dに対して、そのユーザ装置2Dの通信先のユーザ装置2Dの制御情報について制御信号を出力する。ここで、各NWノード装置40の制御信号通信部41は、各ユーザ装置2Dから取得された制御情報を、統合コントローラ50を介して共有する機能を有する。この制御情報の共有機能により、ユーザ装置2Dは、自身が接続するNWノード装置40から、通信先のユーザ装置2Dの制御情報を取得することが可能となり、通信先のユーザ装置2Dとの通信における変調方式を、直接的に接続するNWノード装置40とのネゴシエーションによって決定することができる。
【0037】
<第5実施形態>
図11は、第5実施形態の光伝送システム1Eの構成例を示す図である。
図11に示すように、第5実施形態の光伝送システム1Eは、第1のアクセスエリアA1と、第2のアクセスエリアA2と、ローカルネットワークLN1およびLN2と、コアネットワークCNとを備えるAPNネットワークNWに適用される。ここで、第1のアクセスエリアA1および第2のアクセスエリアA2は、ユーザ装置2Eを介してエンドユーザの端末を収容するサービスエリアの範囲を表す。例えば、第1のアクセスエリアA1は、スマートフォンや携帯電話等の移動通信端末TM1を無線接続するユーザ装置2E-1と、放送機器等の機器TM2を有線接続するユーザ装置2E-2とを備える。また、例えば、第2のアクセスエリアA2は、データセンタ等に設置されたサーバ機器群TM3などを有線接続するユーザ装置2E-3を備える。ここでは、各ユーザ装置2Eの光受信器20が、直接検波方式で光信号を検波する場合を想定する。
【0038】
なお、
図11に例示する第1のアクセスエリアA1および第2のアクセスエリアA2の構成は一例であり、アクセスエリアは図示した機器に限らず任意の機器を接続するものであってよい。また、APNネットワークNWは1つのアクセスネットワークを備えるように構成されてもよいし、3つ以上のアクセスネットワークを備えるように構成されてもよい。
【0039】
ローカルネットワークLN1およびLN2は、対応するアクセスエリアの機器を収容するネットワークである。また、コアネットワークCNは、ローカルネットワークLN1およびLN2を収容するネットワークである。簡単のため
図11では、コアネットワークCNが2つのローカルネットワークLN1およびLN2を収容する場合を示しているが、コアネットワークCNが収容するローカルネットワークは1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0040】
例えば、ローカルネットワークLN1は、複数の光ゲートウェイ装置60(Ph-GW: Photonic Gateway)によるフルメッシュネットワークとして構成されてもよい。この場合、ローカルネットワークLN1では、第1のアクセスエリアA1を収容する光ゲートウェイ装置60-1と、第2のアクセスエリアA2を収容する光ゲートウェイ装置60-2とが、任意の転送経路で通信を中継することにより長距離通信が可能である。このようなローカルネットワークLN1では、光伝送路30で劣化したSNRを改善するために、転送先となる光ゲートウェイ装置60が3R中継器として構成されてもよい。
【0041】
図12は、ユーザ装置2Eと、3R中継器としての光ゲートウェイ装置60との接続の構成例を示す図である。例えば、
図12に示すユーザ装置2Eは、
図12の長距離通信におけるユーザ装置2E-3であり、
図12に示す3R中継器としての光ゲートウェイ装置60は
図12の長距離通信における光ゲートウェイ装置60-2である。
【0042】
この場合、光ゲートウェイ装置60は、例えば、光伝送路30との間で光信号を入出力する合分波器61と、位相/周波数変調によって上り通信の光信号を復調する光受信器62と、強度変調によって下り通信の光信号を変調する光送信器63と、光信号のデジタル信号処理を実施するデジタル信号処理回路64とを備える。合分波器61は、スプリッタやサーキュレータのような波長依存性の少ないデバイス、および、波長分波フィルタのような通信波長帯に応じて合分波するデバイスが想定される。
【0043】
光受信器62は、例えば、光増幅器621と、局発光源622と、偏波・位相ダイバーシティ光受信器623と、AD変換器624と、デジタルコヒーレント検波部625とを備える。デジタルコヒーレント検波部625は、デジタル信号処理回路120によって実現され、デジタルコヒーレント検波方式で光信号を検波する。光送信器63は、例えば、DA変換器631と、光源632と、強度変調器633と、光増幅器634とを備える。以下、3R中継器として構成された光ゲートウェイ装置60を「3R中継器60」と記載する場合がある。
【0044】
このように構成された3R中継器60に対し、ユーザ装置2Eの光送信器10は、位相/周波数変調方式で3R中継器60の光受信器62と通信するように構成される。これにより、上り通信では、3R中継器60において高感度での受信が可能となる。一方、上述のとおり、ここではユーザ装置2Eが直接検波方式で光信号を検波する場合を想定しているので、光受信器20は3R中継器60の光送信器63と強度変調方式で通信するように構成されることが想定される。
【0045】
この場合、下り通信におけるユーザ装置2Eの光受信器20の受信感度は、上り通信における3R中継器60の光受信器62の受信感度よりも低くなることが想定される。このような受信感度の差を小さくし、上り通信および下り通信において許容する伝送路損失を同等にするため、3R中継器60は、光増幅器634によって出力光の強度を改善するように構成されてもよい。例えば、上り通信と下り通信の受信感度の差をA[dB]とした場合、光送信器63の出力光の強度が上り通信の出力光の強度よりもA[dB]だけ高くなるように光増幅器634のゲインが調整されるとよい。
【0046】
なお、現在、コアネットワーク等で用いられているデジタルコヒーレント光受信器は、高感度受信のために前置光増幅器を適用することが前提となっている。そのため、第5実施形態の光伝送システム1Eにおいても3R中継器60のデジタル信号処理回路64の前段に前置光増幅器を配置してもよい。
【0047】
また、長距離通信の構成において、変調方式は、第4実施形態と同様のネゴシエーション方法によって決定することができる。また、ユーザ装置2Eまたは3R中継器60において、接続先装置の情報が予め登録されている場合には、その登録情報に基づいて変調方式が決定されてもよい。
【0048】
一方、同じアクセスエリアネットワークに属するユーザ装置2E同士が通信する場合、当該アクセスエリアネットワークを収容する光ゲートウェイ装置60が光スイッチとして機能し、ユーザ装置2Eの通信を折り返すことによって短距離通信が可能である。例えば、
図11の例では、ユーザ装置2E-2を通信先とするユーザ装置2E-1の通信が光ゲートウェイ装置60-1によってユーザ装置2E-2に折り返される。
【0049】
図13は、光ゲートウェイ装置60を介したユーザ装置2E間の短距離通信に関する構成例を示す図である。上述のとおり、同じアクセスネットワーク内における短距離通信では、ユーザ装置2Eの通信が光ゲートウェイ装置60の光スイッチ機能によって折り返されるので、ユーザ装置2E間の接続構成は、
図13に示すように、光伝送路30を介して直接接続された構成となる。なお、
図13におけるデジタル信号処理回路120は、送受信用のDA変換器およびAD変換器を含むものとする。すなわち、短距離通信において、各ユーザ装置2Eは、第3実施形態と同様のネゴシエーション方法によって変調方式を決定することができる。また、この場合、各ユーザ装置2Eにおいて、接続先装置の情報が予め登録されている場合には、その登録情報に基づいて変調方式が決定されてもよい。
【0050】
このように構成された第5実施形態の光伝送システム1Eによれば、APNにおいて、例えば光ゲートウェイ装置60での折り返し通信時などの伝送路損失が小さい場合においては、ユーザ装置2E間を直結して通信させることができ、伝送路損失が大きい場合においては、光ゲートウェイ装置60のネットワークを介して通信を転送するとともに、3R中継器60によって光信号を増幅して通信相手のユーザ装置2Eに通信を中継することができる。
【0051】
<変形例>
第5実施形態の光伝送システム1Eでは、強度変調器に代えてマッハツェンダ型変調器が用いられてもよい。
【0052】
以上説明した実施形態の光送信器10または光伝送システム1Eでは、従来、変調方式ごとに異なる光送信器(強度変調器、DP-IQ変調器:Dual Polarization In-phase Quadrature modulator)が必要であったのに対し、変調用素子に印可する信号とそのバイアス値、振幅を所望の変調方式に応じて変更することで、強度変調器のみで強度変調と位相/周波数変調とを切り替えることが可能となる。したがって、実施形態の光送信器10または光伝送システム1Eによれば、同一光送信器にて直接検波方式、デジタルコヒーレント受信方式の双方の光受信器と通信することができる経済的な光送信器を実現することができる。
【0053】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、光伝送路を介して通信する送信装置、受信装置、または光伝送システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…光伝送システム、2…ユーザ装置、10…光送信器、110…光源、120…デジタル信号処理回路、121…変調信号出力部、122…変調方式切替部、130…DA変換器、140…強度変調器、150…マッハツェンダ型変調器、20…光受信器、21…合分波器、22…制御信号通信部、30…光伝送路、40…ネットワークノード装置、41…制御信号通信部、50…統合コントローラ、60…光ゲートウェイ装置、61…合分波器、62…光受信器、621…光増幅器、622…局発光源、623…偏波・位相ダイバーシティ光受信器、624…AD変換器、625…デジタルコヒーレント検波部、63…光送信器、631…DA変換器、632…光源、633…強度変調器、634…光増幅器、64…デジタル信号処理回路