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7710142位置推定装置、位置推定方法、及び、位置推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-10
(45)【発行日】2025-07-18
(54)【発明の名称】位置推定装置、位置推定方法、及び、位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 64/00 20090101AFI20250711BHJP
   H04W 24/10 20090101ALI20250711BHJP
【FI】
H04W64/00 110
H04W64/00 173
H04W24/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023543610
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2021031501
(87)【国際公開番号】W WO2023026471
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】NTT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】工藤 理一
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】高橋 馨子
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
【審査官】玉田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03852451(EP,A1)
【文献】特開2016-170012(JP,A)
【文献】特開2021-034878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線端末の無線通信部から送信される無線信号を受信し、前記無線信号から電波伝搬に関するチャネル情報を取得する無線通信部と、
前記チャネル情報を位置推定モデルに入力可能な入力特徴量に変換して記憶し、複数の時間に対応する複数の入力特徴量を位置推定モデルへ出力する入力特徴量生成部と、
前記複数の入力特徴量を、前記電波伝搬に関するチャネル情報と前記無線端末の位置情報との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、前記無線端末の位置を推定計算する位置推定モデル利用部と、
前記位置推定モデルを更新する位置推定モデル訓練部と、を備え、
前記位置推定モデル訓練部は、
前記推定計算する方法以外の方法で得られた複数の時間に対応する前記無線端末の複数の位置情報と、前記複数の時間に対応する複数の入力特徴量と、を同じ時間で揃えた訓練データセットを生成し、前記訓練データセットを用いて入力特徴量と位置情報の間の関係の精度を高めるように、前記位置推定モデルを更新する位置推定装置。
【請求項2】
前記位置推定モデル訓練部は、
前記無線端末が予め定めた既知の位置に位置することを検知した時間に、又は前記無線端末が予め定めた既知の動作を行っていることを検知した時間に前記無線端末から取得したチャネル情報に係る入力特徴量と、予め定められた前記無線端末の既知の位置情報と、を用いて、前記訓練データセットを生成する請求項に記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記位置推定モデル訓練部は、
前記訓練データセットの訓練データの中から異なる時間間隔でそれぞれ訓練データを抽出した複数の訓練データセットを用いて、前記位置推定モデルを更新する請求項又はに記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記位置推定モデル訓練部は、
前記抽出した複数の訓練データセットを用いて前記位置推定モデルを更新した後に、前記生成していた訓練データセットを最後に用いて前記位置推定モデルを更新する、又は、前記抽出した複数の訓練データセットのうち、訓練データの時間間隔が前記生成していた訓練データセットにより近い訓練データセットほどより後に用いて前記位置推定モデルを更新する請求項に記載の位置推定装置。
【請求項5】
前記入力特徴量生成部は、
前記入力特徴量として、前記無線信号の受信電力、信号電力、受信電力又は信号電力の移動平均から得られる電力比情報、複数アンテナ間の電波伝搬係数からなるチャネル行列、前記チャネル行列の相関行列又は疑似相関行列、前記チャネル行列を信号処理して得られる演算行列、前記相関行列又は疑似相関行列を信号処理して得られる演算行列、複数の周波数に対応する前記チャネル行列又は前記相関行列又は疑似相関行列を信号処理して得られる演算行列、前記チャネル行列を線形演算して得られるユニタリ行列、前記相関行列又は疑似相関行列を線形演算して得られるユニタリ行列、前記演算行列を線形演算して得られるユニタリ行列、前記チャネル行列を線形演算して得られる対角行列、前記相関行列又は疑似相関行列を線形演算して得られる対角行列、前記演算行列を線形演算して得られる対角行列、前記チャネル行列を線形演算して得られる三角行列、前記相関行列又は疑似相関行列を線形演算して得られる三角行列、前記演算行列を線形演算して得られる三角行列に関する特徴量のうち、1つ以上の特徴量の位相、振幅、実数成分、虚数成分の値、及び当該1つ以上の値の係数の範囲を規格化した値を生成する請求項1乃至のいずれかに記載の位置推定装置。
【請求項6】
位置推定装置で行う位置推定方法において、
無線端末の無線通信部から送信される無線信号を受信し、前記無線信号から電波伝搬に関するチャネル情報を取得するステップと、
前記チャネル情報を位置推定モデルに入力可能な入力特徴量に変換して記憶し、複数の時間に対応する複数の入力特徴量を位置推定モデルへ出力するステップと、
前記複数の入力特徴量を、前記電波伝搬に関するチャネル情報と前記無線端末の位置情報との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、前記無線端末の位置を推定計算するステップと、
前記位置推定モデルを更新するステップと、を行い、
前記更新するステップでは、
前記推定計算する方法以外の方法で得られた複数の時間に対応する前記無線端末の複数の位置情報と、前記複数の時間に対応する複数の入力特徴量と、を同じ時間で揃えた訓練データセットを生成し、前記訓練データセットを用いて入力特徴量と位置情報の間の関係の精度を高めるように、前記位置推定モデルを更新する位置推定方法。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれかに記載の位置推定装置としてコンピュータを機能させる位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置推定装置、位置推定方法、及び、位置推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な機器がインターネットに繋がるIOT(Internet of things)の実現が進んでいる。自動車、ドローン、建設機械車両等、様々な機器が無線で接続されつつある。無線通信規格についても、標準化規格IEEE 802.11で規定される無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、LTEや5Gによるセルラー通信、IOT向けのLPWA(Low Power Wide Area)通信、車両用の通信に用いられるETC(Electronic Toll Collection System)、VICS(Vehicle Information and Communication System)、ARIB-STD-T109等、サポートする無線通信規格も発展しており、今後の普及が期待されている。
【0003】
無線通信機器は、高いスループットや信頼性能を確保するため、複数のアンテナを用いたMIMO(Multiple input multiple output)通信技術が導入されている。MIMO通信技術は、送信側と受信側との間でどのように電波が伝搬しているかを示すチャネル情報を利用することで、スループットや信頼性能を向上できる。例えば、送信側の無線通信機器には、受信側の無線通信機器に対してチャネル情報を伝えるフィードバック信号の送信機能がサポートされている(非特許文献1参照)。
【0004】
また、電波伝搬に関するチャネル情報を無線通信機器の位置を推定するために用いる技術が知られている(非特許文献2、3参照)。例えば、複数の基地局と無線通信した無線信号の到達時間やレベル等を基に、無線通信機器の位置を特定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】“Part 11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications”、IEEE Computer Society、IEEE Std 802.11、2016年、p.2396-p.2400
【文献】Y. Tao、外1名、“A Novel System for WiFi Radio Map Automatic Adaptation and Indoor Positioning”、in IEEE Transactions on Vehicular Technology、 vol. 67、 no. 11、2018年11月、p.10683-p.10692
【文献】H. CAO、外5名、“Indoor Positioning Method Using WiFi RTT Based on LOS Identification and Range Calibration”、in Proc., ISPRS International Journal of Geo-Information、2020年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の位置推定技術は、無線通信機器において、複数の基地局と同時に無線通信を行い、かつ、高性能な時間分解性能を備える機器を必要とするため、物体の位置推定に大きなコストを要するという課題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、物体の位置を低コストに高精度で推定可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の位置推定装置は、無線端末の無線通信部から送信される無線信号を受信し、前記無線信号から電波伝搬に関するチャネル情報を取得する無線通信部と、前記チャネル情報を位置推定モデルに入力可能な入力特徴量に変換して記憶し、複数の時間に対応する複数の入力特徴量を位置推定モデルへ出力する入力特徴量生成部と、前記複数の入力特徴量を、前記電波伝搬に関するチャネル情報と前記無線端末の位置情報との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、前記無線端末の位置を推定計算する位置推定モデル利用部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様の位置推定方法は、位置推定装置で行う位置推定方法において、無線端末の無線通信部から送信される無線信号を受信し、前記無線信号から電波伝搬に関するチャネル情報を取得するステップと、前記チャネル情報を位置推定モデルに入力可能な入力特徴量に変換して記憶し、複数の時間に対応する複数の入力特徴量を位置推定モデルへ出力するステップと、前記複数の入力特徴量を、前記電波伝搬に関するチャネル情報と前記無線端末の位置情報との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、前記無線端末の位置を推定計算するステップと、を行う。
【0010】
本発明の一態様の位置推定プログラムは、上記位置推定装置としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、物体の位置を低コストで推定可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、無線通信システムの全体構成を示す図である。
図2図2は、無線端末の位置を推定する位置推定フロー(第1例)を示す図である。
図3図3は、位置推定モデルを訓練する訓練フロー(第1例)を示す図である。
図4図4は、位置推定モデルを訓練する訓練フロー(第2例)を示す図である。
図5図5は、訓練データを拡張する拡張フローを示す図である。
図6図6は、訓練データの拡張例(第1例)を示す図である。
図7図7は、訓練データの拡張例(第2例)を示す図である。
図8図8は、訓練データの拡張例(第3例)を示す図である。
図9図9は、無線端末の位置を推定する位置推定フロー(第2例)を示す図である。
図10図10は、実験環境エリアを示す図である。
図11図11は、位置ずれ量誤差の累積確率分布を示す図である。
図12図12は、位置ずれ量誤差の累積確率分布を示す図である。
図13図13は、位置ずれ量誤差の累積確率分布を示す図である。
図14図14は、位置ずれ量誤差の累積確率分布を示す図である。
図15図15は、位置ずれ量誤差の累積確率分布を示す図である。
図16図16は、位置ずれ量誤差の累積確率分布を示す図である。
図17図17は、位置推定装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0014】
[発明の概要]
本発明は、通常用いられる汎用的な無線通信情報を用いて、つまり、無線通信端末の無線信号に含まれる電波伝搬に関するチャネル情報と位置推定モデルとを用いて、特定物体の位置を推定する。具体的には、無線信号に含まれるチャネル情報と特定物体の位置情報との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルを予め生成しておき、無線信号から取得したチャネル情報(チャネル情報を位置推定モデルに入力可能に変換した入力特徴量)を上記位置推定モデルに入力することで、位置推定時における特定物体の実世界内での位置を推定する。
【0015】
このように、本発明は、無線通信端末の無線信号に含まれる電波伝搬に関するチャネル情報と位置推定モデルとを用いて特定物体の位置を推定するので、特定物体の位置推定を汎用的な無線通信で行うことが可能となり、特定物体の位置を低コストで推定可能な技術を提供できる。
【0016】
なお、チャネル情報とは、送信側の無線通信端末と受信側の無線通信端末との間でどのように電波が伝搬しているか、及び無線通信の通信品質に関する情報である。例えば、無線通信における受信電力や電波伝搬係数、MIMO(Multiple Input Multiple Output)通信技術において、送信側の無線通信端末の備える複数のアンテナと受信側の無線通信端末の備える複数のアンテナとの間での電波伝搬の状態を表すチャネル行列、信号対雑音干渉電力に関する情報である。
【0017】
入力特徴量とは、チャネル情報を位置推定モデルに入力可能に変換したチャネル情報の特徴量である。例えば、入力特徴量は、変換しないチャネル情報そのもの、チャネル情報に様々な演算を施して得られる数値である。
【0018】
特定物体とは、無線通信端末と同じ環境内に位置する移動可能な無線端末である。特定物体の位置とは、例えば、特定物体が移動している経路上の位置、2次元空間内(地図等)の位置、3次元空間内の位置である。これらの位置情報に加え、向きや速度等、より詳細な物理的な状態を更に推定してもよい。
【0019】
[無線通信システムの全体構成]
図1は、本実施形態に係る無線通信システムの全体構成を示す図である。
【0020】
無線通信システムは、位置推定装置1と、無線端末2-1~2-Qと、を備える。ここで、Qは1以上の整数である。
【0021】
位置推定装置1は、無線端末2-1~2-Qから送信される無線信号のチャネル情報を収集することで、無線端末の位置を推定する。
【0022】
無線端末2-1~2-Qは、無線通信部2-1-1~2-Q-1を備える。無線通信部2-1-1~2-Q-1は、それぞれ、送受で既知となるパイロット信号、又は、任意の無線通信部との間のチャネル情報を含む無線信号を送信する。任意の無線通信部とは、位置推定装置1に備わる無線通信部1-1~1-R、又は、それ以外の無線通信部である。
【0023】
位置推定装置1は、無線通信部1-1~1-Rを介して上記無線信号を受信する。位置推定装置1は、受信した無線信号から、無線通信部2-1-1~2-Q-1と任意の自身の無線通信部1-1~1-Rとの間のチャネル情報を取得する。
【0024】
そして、位置推定装置1は、取得したチャネル情報を入力特徴量生成部1-2に入力する。入力特徴量生成部1-2は、チャネル情報を位置推定モデルへの入力に適した入力特徴量に変換し、変換した入力特徴量を位置推定モデル利用部1-3に入力する。
【0025】
その後、位置推定モデル利用部1-3は、無線端末2-1~2-Qから収集したチャネル情報の入力特徴量を、無線端末の位置情報とチャネル情報の入力特徴量との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、移動中又は停止中の無線端末2-i(1≦i≦Q)の位置を推定する。
【0026】
位置推定装置1は、例えば、主要場所に設置された基地局やクラウド等に設置される装置である。位置推定装置1は、無線端末2-iと通信可能な無線通信部、又は、無線端末2-iから送信される無線信号を復号可能な無線通信部を備えるいかなる構成でもよい。位置推定装置1は、無線信号を送信する機能は必ずしも必要ではなく、受信を行うだけの装置であってもよい。
【0027】
位置推定装置1は、図1に示したように、例えば、無線通信部1-1~1-Rと、入力特徴量生成部1-2と、位置推定モデル利用部1-3と、位置推定モデル訓練部1-4と、を備える。
【0028】
無線通信部1-1~1-Rは、無線通信を行うか、無線信号の受信を行う通信部である。無線通信部1-1~1-Rは、複数の周波数、複数の周波数帯域、又は、複数の無線通信システムに対応してもよい。図1では、無線通信部1-1~1-Rは、無線端末2-iから送信された無線信号を受信する構成を示す。
【0029】
無線通信部1-1~1-Rのうちいずれかは、無線端末2-iの無線通信部2-i-1と通信を行う基地局であってもよい。または、無線端末2-iは、図1に示されていない任意の基地局と通信し、自身が当該任意の基地局へ送信する無線信号を受信してもよい。また、無線端末2-iは、後述するように、無線端末2-iが通信接続している基地局のIDを基に位置推定モデルを切り替えることで、無線端末2-iが複数の基地局と接続しながら移動する場合に対応することもできる。受信側の無線通信部1-1~1-Rは、無線信号を同じ周波数のチャンネルで送信することで、複数の無線通信部2-i-1のチャネル情報を収集してもよい。
【0030】
無線通信部1-1~1-Rは、それぞれ、無線信号を受信し、受信した無線信号から、無線端末2-iと位置推定装置1との間の電波伝搬に関するチャネル情報、又は、無線端末2-i以外の無線通信機器と位置推定装置1との間の電波伝搬に関するチャネル情報を取得する機能を備える。無線通信部1-1~1-Rは、無線端末2-iに対応するチャネル情報を取得すると、取得したチャネル情報を入力特徴量生成部1-2へ入力する。
【0031】
入力特徴量生成部1-2は、入力されたチャネル情報を、位置推定モデルに入力可能な入力特徴量に変換して記憶する機能を備える。入力特徴量生成部1-2は、変換後のチャネル情報である複数の時間に対応する複数の入力特徴量を位置推定モデル利用部1-3へ入力する。
【0032】
位置推定モデル利用部1-3は、複数の時間に対応する複数の入力特徴量を位置推定モデルに入力することで、移動中又は停止中の無線端末2-1~2-Qのうち少なくとも1つの無線端末2-iの位置を推定計算し、推定計算した位置情報を出力する機能を備える。位置推定モデル利用部1-3は、予め生成済みの位置推定モデルを用いてもよいし、位置推定モデル訓練部1-4で生成されアップデートされる位置推定モデルを用いてもよい。
【0033】
位置推定モデルとは、無線端末2-iの位置情報と、無線端末2-iから取得される電波伝搬に関するチャネル情報(≒入力特徴量)と、の関係性を、機械学習により訓練することで生成されたモデルであり、入力特徴量を用いて位置情報を出力するモデルである。その他、位置推定モデルは、デジタルツイン技術等により、シミュレーション空間に実空間と同等の空間を生成し、仮想的に生成した無線端末とシミュレーションにより計算したチャネル情報との間の関係性を用いて生成してもよい。位置推定モデルは、他の位置推定部で計測したチャネル情報と無線端末との関係性から作成した位置推定モデルを用いてもよい。
【0034】
位置推定モデル訓練部1-4は、位置推定モデルを生成する機能、位置推定モデルをアップデート(更新)する機能を備える。
【0035】
例えば、位置推定モデル訓練部1-4は、無線端末2-iの位置情報に関するデータを別途取得し、取得した位置情報とチャネル情報との関係性を基に無線端末2-iの位置を推定可能な位置推定モデルを訓練することで、位置推定モデルを生成したり、アップデートしたりする。
【0036】
または、位置推定モデル訓練部1-4は、位置情報に関するデータを別途取得するのではなく、あらかじめ決められた既知の位置に位置し、あらかじめ決められた既知の動作を無線端末2-iが行うことで、その際に得られたチャネル情報から生成した入力特徴量から、位置推定モデルを生成したり、アップデートしたりしてもよい。
【0037】
別途取得する無線端末2-iの位置情報とは、位置測定データを取得する何らかの手段は、例えば、無線端末2-iに搭載されたセンサ、カメラ、無線測位、SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)、GPS(Global Positioning System)、および、環境に設置されたセンサ、カメラ等を用いて実現できる。
【0038】
位置測定データは、例えば無線端末2-iの位置情報及び時間情報であり、無線端末2-iに記憶された後、位置推定モデル訓練部1-4に入力されたり、位置推定モデル訓練部1-4に記憶されたりして用いられる。入力特徴量生成部1-2において生成される、位置測定データと同じ時間に対応する入力特徴量と、当該位置測定データからなる訓練データと、を用いて、位置推定モデル訓練部1-4において、位置推定モデルがアップデートされたり、生成されたりする。
【0039】
位置推定モデル訓練部1-4は、記憶された無線端末2-iの位置及び時間情報と、同じく記憶部に記憶している入力特徴量及び時間情報とを、同じ時間軸で整理した訓練データにより両者の関係性を学習することで、位置推定モデルを訓練できる。訓練データは、短い時間で多様な組み合わせを形成すると、位置推定モデルの性能を上げることができる。訓練データの生成方法は後述する。
【0040】
すなわち、位置推定モデル訓練部1-4は、位置推定モデル利用部1-3で推定計算する方法(本発明の方法)以外の方法で得られた複数の時間に対応する無線端末2-iの複数の位置情報と、複数の時間に対応する複数の入力特徴量と、を同じ時間でそろえた訓練データセット(複数の訓練データを含む訓練データセット)を生成し、当該訓練データセットを用いて入力特徴量と位置情報の間の関係の精度を高めるように、位置推定モデルを生成またはアップデートし、位置推定モデルの重みやバイアス等をアップデートする機能を備える。
【0041】
また、位置推定モデル訓練部1-4は、無線端末2-iがあらかじめ定めた既知の位置に位置することを検知した時間に、または無線端末2-iがあらかじめ定めた既知の動作を行っていることを検知した時間に無線端末2-iから取得したチャネル情報に係る入力特徴量と、あらかじめ定められた無線端末2-iの既知の位置情報と、を用いて、訓練データセットを生成またはアップデートする機能を備える。
【0042】
また、前記位置推定モデル訓練部1-4は、訓練データセットに含まれる複数の訓練データの中から異なる時間間隔でそれぞれ訓練データを抽出した複数の訓練データセットを用いて、位置推定モデルを生成またはアップデートし、位置推定モデルの重みやバイアス等をアップデートする機能を備える。
【0043】
[無線通信システムの動作]
[無線端末の位置推定方法(第1例)]
図2は、無線端末の位置を推定する位置推定フロー(第1例)を示す図である。
【0044】
まず、無線端末2-iの無線通信部2-i-1が、予め定められた無線通信機との間で無線通信を行い、パイロット信号又はチャネル情報を含む無線信号の送信を開始する(ステップS1-1)。
【0045】
次に、位置推定装置1の無線通信部1-1が、無線端末2-iの無線通信部2-i-1から送信された無線信号を受信し、受信した無線信号から電波伝搬に関するチャネル情報を取得する(ステップS1-2)。
【0046】
次に、入力特徴量生成部1-2が、取得した電波伝搬に関するチャネル情報を、位置推定モデルへの入力に適した入力特徴量であって、複数の時間に対応する複数の入力特徴量に変換して記憶する(ステップS1-3)。
【0047】
入力特徴量とは、例えば、アンテナ間の電波伝搬の係数であるチャネル情報や、チャネル情報に様々な演算を施して得られる数値である。受信電力、信号電力、信号対雑音電力比、信号対雑音干渉電力比、複数の送受のアンテナ間の電波伝搬係数を要素とするチャネル行列に関する係数、チャネル行列の列や行ベクトルであるチャネルベクトルやそれらを一定の値で割ったものである。チャネル行列とチャネル行列のエルミート行列の乗算により得られる相関行列やチャネル行列やチャネルベクトルの絶対値やフロベニウムノルム等を一定にするよう規格化したものである。相関行列やチャネル行列やチャネルベクトルを角度情報に変換したものである。相関行列やチャネル行列やチャネルベクトルの絶対値やフロベニウムノルムを一定値で割ったものである。相関行列やチャネル行列やチャネルベクトルをデシベル単位に変換して一定値で減算したものである。また、移動平均を用い、直近の一定時間における電力情報や電力比情報やチャネル情報から得られる値の平均値を取得し、その値で規格化した値である。また、それらの情報のうち少なくとも1つの時系列情報を用いることができる。入力特徴量の具体的な計算方法については、後述する。
【0048】
また、位置推定装置1は、位置推定モデルに入力するチャネル情報以外の補助情報を別途生成し、生成した補助情報を入力特徴量に追加してもよい(ステップS1-4)。補助情報とは、例えば、無線端末2-iを特定する特定情報、無線端末2-1の搭載物・所有者情報、カメラ・センサ等の温度・位置情報、推定対象装置やその周辺の反射構造体に関する位置・速度・設定等の状態情報、気温、湿度、混雑状況、無線通信システムの設定情報である。
【0049】
最後に、位置推定モデル利用部1-3が、変換したチャネル情報である複数の時間に対応する複数の入力特徴量を位置推定モデルに入力することで、無線端末2-iの位置情報を推定計算して出力する(ステップS1-5)。
【0050】
[位置推定モデルの訓練方法(第1例)]
図3は、位置推定モデルを訓練する訓練フロー(第1例)を示す図である。
【0051】
まず、無線端末2-iが、特定の時間に既知の位置に位置し、または既知の動作パターンを実施しつつ、チャネル情報を取得可能な無線信号を送信する(ステップS2-1)。
【0052】
次に、位置推定装置1の無線通信部1-1が、無線端末2-iが既知の位置に位置することを検知し、または無線端末2-iが既知の動作を行っていることを検知し、検知した時間に無線端末2-iから受信した無線信号よりチャネル情報を取得する(ステップS2-2)。ここで、無線端末2-iは、すべての位置推定対象となる無線端末2-1~2-Qでもよいし、この中から選ばれた一つ以上の無線端末でもよい。
【0053】
次に、入力特徴量生成部1-2が、取得したチャネル情報から入力特徴量を生成する(ステップS2-3)。
【0054】
このとき、位置推定装置1は、位置推定モデルに入力するチャネル情報以外の補助情報を別途生成し、生成した補助情報を入力特徴量に追加してもよい(ステップS2-4)。
【0055】
最後に、位置推定モデル訓練部1-4が、生成した入力特徴量と、当該入力特徴量の時間に対応する時間における無線端末2-iの位置または動作と、を用いて訓練データセットを生成し、当該訓練データセットを用いて位置推定モデルを生成またはアップデートする(ステップS2-5)。
【0056】
[位置推定モデルの訓練方法(第2例)]
図4は、位置推定モデルを訓練する訓練フロー(第2例)を示す図である。
【0057】
まず、位置推定モデル訓練部1-4が、本発明ではない別の位置推定技術や測定結果から位置情報を生成または取得し、同じ時間に対応する位置情報と入力特徴量とを関連付けた訓練データを生成して取得する(ステップS3-1)。
【0058】
例えば、自動走行車両やロボット等の無線端末2-iにおいて、位置情報に関するログを記憶し、一定の頻度で位置推定装置1に通知し、ログの時間に対応する入力特徴量を位置推定装置1において記憶しておき、両者を時間により整理することで、訓練データを得ることができる。
【0059】
このとき、位置推定装置1は、位置推定モデルに入力するチャネル情報以外の補助情報を別途生成し、生成した補助情報を入力特徴量に追加して、訓練データを生成してもよい(ステップS3-2)。
【0060】
最後に、位置推定モデル訓練部1-4は、得られた訓練データを用いて、位置推定モデルを生成またはアップデートする(ステップS3-3)。例えば、位置推定モデル訓練部1-4は、訓練データセットを用いて入力特徴量と位置情報の間の関係の精度を高めるように、位置推定モデルの重み又はバイアスを更新する。
【0061】
[訓練データの拡張方法]
図5は、訓練データを拡張する拡張フローを示す図である。この拡張方法は、位置推定モデルが複数の時間情報を含む時系列データを入力特徴量とする場合に、有効となる。
【0062】
まず、位置推定モデル訓練部1-4が、位置推定モデルをアップデートしたり、生成したりするための訓練データを取得する(ステップS4-1)。当該訓練データは、時間に対して、位置情報と入力特徴量とを有する。
【0063】
次に、位置推定モデル訓練部1-4は、取得した訓練データに対して時系列の並べ方を変更したり、使用する複数の訓練データを任意に設定したりすることにより、有効なデータ数を増やす(ステップS4-2)。例えば、前記位置推定モデル訓練部1-4は、複数の訓練データの中から時間軸方向で異なる抽出頻度でそれぞれ訓練データを抽出した複数の訓練データセットを生成する。このようにすることで、有効データ数を増加させ、位置推定の精度をさらに高めることができる。
【0064】
このとき、位置推定装置1は、位置推定モデルに入力するチャネル情報以外の補助情報を別途生成し、生成した補助情報を入力特徴量に追加して、訓練データを生成してもよい(ステップS4-3)。
【0065】
最後に、位置推定モデル訓練部1-4は、生成された訓練データを用いて、位置推定モデルの生成またはアップデートを行う(ステップS4-4)。例えば、位置推定モデル訓練部1-4は、位置推定モデルの重み又はバイアスを更新する。
【0066】
なお、位置推定モデル訓練部1-4は、位置推定モデルに入力する入力特徴量の取得頻度、または対象となる位置検出対象の速度に応じて、複数の訓練データセットを用いる順番を決定し、決定後の順番に複数の訓練データセットを用いて、位置推定モデルを生成又は更新してもよい。
【0067】
一般には、訓練に用いる時系列な訓練データ全体をバッチデータに分割し、出力の誤差からモデル全体の係数や重みを更新する処理を全データに対して1エポックとして行う。
【0068】
本実施形態により生成した複数の訓練データセットの中から、これから推定を行う位置推定対象から得る入力情報の頻度とのずれが大きいものから順に選択して、その選択順に複数の訓練データセットを用いてモデル更新を行い、最後に最も位置予測を実施時の頻度とのずれが小さい時系列の訓練データを用いて1エポックのモデル更新を完了し、この処理を複数回繰り返して位置推定モデルの位置推定精度を高める。
【0069】
このように、1エポック当たりの有効データ量を増やすとともに、再度のモデル更新を利用時の時系列条件に最も近い条件とすることで、エポックごとに得られる位置推定モデルの位置推定性能を高めることができる。
【0070】
特に、訓練時と推論時で位置推定対象の速度条件が同様であれば、推論時に入力特徴量の取得間隔と最も近い時間間隔となる時系列の訓練データを最後に用いる。位置推定の実行時の位置推定対象の期待される速さが訓練データ生成時の速さのV倍になっている場合、推論時の入力特徴量の取得の時間間隔がTpであり、訓練時に取得した時系列の時間間隔がTtとなる場合、推論時の時間間隔Tpに位置推定対象が動く距離と最も近い距離動くと想定される時間間隔の時系列の訓練データを最後に用いるようにしてもよい。ここで、間隔Ttで生成した訓練データから、Tt、2Tt、3Ttの3つの時間間隔の時系列訓練データを生成した場合、VTtに近い値の時系列の訓練データを最後に用いるようにエポックごとの訓練を実施できる。
【0071】
図6は、訓練データの拡張例(第1例)を示す図である。時間に対して入力特徴量In-1~In-Lと、推定対象となる無線端末の位置情報(X,Y)と、が並ぶ訓練データである。取得時間は完全一致する必要はない。この例では、100msの時間幅で整理した形式としている。時間的に補完したり、欠損値を時間的に手前の値をコピーしたりしてもよい。そのほか、機械学習で用いられる補完技術を用いることができる。
【0072】
図6の例では、もともと100ms間隔で得られた訓練データを200ms周期で再抽出している。200ms周期の場合は、再抽出の開始点により、2パターンの訓練データセットが得られるのがわかる。当初訓練データセットに含まれる訓練データのタイムステップ数を全部でDとすると、200ms周期にした場合のタイムステップ数は、D/2となり、2つの訓練データセットができる。100ms周期と200ms周期との両方を訓練データとすれば、D+(D/2)×2となり、訓練データは2倍になるのがわかる。
【0073】
300ms周期、400ms周期等と異なる時間幅に対して訓練データを再構成すれば、時間幅の種類だけ訓練データを増やすことができる。タイムステップの時間幅を長く設定しなおすことは、すなわち位置推定対象の移動速度を早くした場合を模擬していることになる。チャネル情報が無線端末の移動速度に影響を大きく受けていなければ、同じ訓練データセットから、無線端末の様々な移動速度を模擬した疑似データを増やしていることになる。
【0074】
図7は、訓練データの拡張例(第2例)を示す図である。訓練データをランダムに除去したパターンの訓練データを生成する。時間幅を単に最小時間幅の一定倍にした場合と違い、より複雑な無線端末の動きを疑似的に生成することになる。図6では無線端末の速度を等価的には早めてしまうが、この方法では、速度を極端に早くすることなく、多数の訓練データを生成できる。
【0075】
図8は、訓練データの拡張例(第3例)を示す図である。訓練データの時間的な並びを逆順にする方法である。未来から過去へ並べ替えることで訓練データを生成する。このようにすることで無線端末が実際の動きと逆の動きをした場合と等価な疑似データが生成できる。また、図8で生成した訓練データセットとともに、図6図7に示した訓練データセットを併せて用いることで、訓練データをさらに増やすこともできる。
【0076】
[無線端末の位置推定方法(第2例)]
次に、複数の基地局の通信エリアを移動する等、無線端末2-iの移動距離が長い場合の位置推定方法を説明する。
【0077】
広いエリアに無線通信部1-1~1-Rを配置し、パイロット信号により推定するチャネル情報から入力特徴量を生成する場合には、無線通信部1-1~1-Rに対応して複数の位置推定モデルを用意したり、無線通信部1-1~1-Rの組み合わせに対して複数の位置推定モデルを用意したりして、適切な位置推定モデルに入力することで、無線端末2-iの位置を推定する。
【0078】
また、無線端末2-iからの無線信号に含まれるチャネル情報のフィードバックにより入力特徴量を生成する場合には、どの無線通信部で受信してもチャネル情報の内容は変わらないため、無線端末2-iがどの基地局に対してフィードバックした無線信号なのかを判定する必要がある。この場合のフローを図9に示す。
【0079】
まず、無線端末2-iが、設置された複数の基地局の中から適切な基地局と通信し、チャネル情報を含む無線信号を送信する(ステップS5-1)。
【0080】
次に、位置推定装置1の無線通信部1-1が、無線信号を受信し、チャネル情報と接続先の基地局IDを取得する(ステップS5-2)。
【0081】
次に、位置推定モデル利用部1-3が、複数の位置推定モデルの中から基地局IDに対応する位置推定モデルを選択する(ステップS5-3)。
【0082】
次に、入力特徴量生成部1-2が、チャネル情報を入力特徴量に変換する(ステップS5-4)。
【0083】
このとき、位置推定装置1は、位置推定モデルに入力するチャネル情報以外の補助情報を別途生成し、生成した補助情報を入力特徴量に追加してもよい(ステップS5-5)。
【0084】
最後に、位置推定モデル利用部1-3が、入力特徴量を、選択していた位置推定モデルに入力することで、無線端末2-iの位置を出力する(ステップS5-6)。
【0085】
[チャネル情報の収集方法、入力特徴量の計算方法]
チャネル情報の収集方法、入力特徴量の計算方法の例を以下説明する。
【0086】
[チャネル情報の収集方法、入力特徴量の計算方法(第1例)]
第1の方法では、無線端末2-iは、送受で既知となるパイロット信号を送信する。予め、既知のパターンを送信することで、位置推定装置1の無線通信部1-r(1≦r≦R)は、自身の無線通信部1-rのアンテナ(受信アンテナ数:Mr)と、パイロット信号を送信した無線通信部2-i-1のアンテナ(送信アンテナ数:Ni)と、の間のチャネル行列を取得できる。様々な無線通信システムで利用されているOFDM(直交波分割多重方式)であれば、複数の周波数に対応するサブキャリアのチャネル行列を得ることが可能である。
【0087】
このようにして得られた「送信アンテナ数Ni×受信アンテナ数Mr」のチャネル行列Hから、位置推定モデル利用部1-3に入力する入力特徴量を生成する。例えば、OFDMにより複数のサブキャリアに対してチャネル行列を得る場合、η番目のサブキャリアのチャネル行列をHηと定義する。そして、入力特徴量に変換する方法としては、まず、式(1)のように、チャネル行列Hηを、予め定めたノルムで規格化した規格化チャネル行列Gηと、振幅情報γη又は電力情報γη 2と、に分離する。
【0088】
【数1】
【0089】
Gηは、例えば、||Gη||F=1となるように設定できる。||・|| Fは、フロベニウムノルムを表す。γηは、一般に大きな振れ幅を持ち、10の5乗やそれ以上の値の変化がありうる。このため、γηやγη 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これを異なる周波数条件やアンテナ条件に対して複数選択したり平均したりした値γallを用いてもよい。
【0090】
その他、式(2)のように、振幅情報γηをアンテナ毎に分離し、ノルム値をある値に規格化した各列ベクトルg1,η~gMr,ηと、その振幅値γ1,η~γMr,ηと、を得るようにしてもよい。
【0091】
【数2】
【0092】
ga,ηは、例えば、||ga,η||F=1となるように規定ベクトルとして設定できる。γa,ηやγa,η 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これをηに対して複数選択したり平均したりしたa番目の列ベクトルに対応する値γa,allを用いてもよい。
【0093】
その他、式(3)のように、振幅情報γηをアンテナ毎に分離し、ノルム値をある値に規格化した各行ベクトルg’1,η~g’Ni,ηと、その振幅値γ’1,η~γ’Ni,ηと、を得るようにしてもよい。
【0094】
【数3】
【0095】
g’b,ηは、例えば、||g’b,η||F=1となるように規定ベクトルとして設定できる。γ’b,ηやγ’b,η 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これをηに対して複数選択したり平均したりしたb番目の列ベクトルに対応する値γ’b,allを用いてもよい。
【0096】
チャネル行列Hη、規格化チャネル行列Gη、規格化ベクトルga,η、規格化ベクトルg’b,ηは、各要素の実部と虚部をそれぞれ入力特徴量としたり、虚数のまま入力情報としたり、角度情報等の別形式に変換したり、量子化したりすることができる。
【0097】
また、上記のように、受信した信号からHのようなチャネル行列を取得することなく、単に、何かを受信した段階で、受信信号の電力をγη 2として取得してもよい。このような情報は、多くのシステムでRSSI(Received Signal Strength Index)として得ることができる。そのほか、LTEや5GシステムにおけるRSRQ(Reference Signals Received Power)やRSRP(Reference Signal Received Quality)等、電力に関するあらゆる情報を用いてもよい。
【0098】
また、電力情報は、時間とともに、電波伝搬環境の湿度や温度、端末や基地局の温度等により、時間変動するため、振幅値情報には、移動平均や比較情報とすることも有効である。つまり、ある時間に取得した振幅情報や電力情報やRSSIなどの値をγ[t]とすると、電力比情報ω[t]として、式(4)のような計算値を用いてもよい。
【0099】
【数4】
【0100】
得られた値をそのまま用いてもよいし、dB単位としてもよい。
【0101】
また、チャネル行列Hηを用いて生成される相関行列HηHη H、Hη HHηを用いることができる。規格化チャネル行列Gηを用いて生成される相関行列GηGη H、Gη HGηを用いることができる。チャネル行列Hη、規格化チャネル行列Gη、それらの相関行列HηHη H、Hη HHη、GηGη H、Gη HGηを、複数の周波数に対して和や平均をとった行列ΣHη、ΣGη、ΣHηHη H、ΣHη HHη、ΣGηGη H、ΣGη HGηを用いることができる。これら行列のQR分解、SVD(Singular value decomposition)、固有ベクトル分解等をすることで得られる固有値、対角行列、ユニタリ行列を用いることができる。
【0102】
また、上記行列ΣHη、ΣGη、ΣHηHη H、ΣHη HHη、ΣGηGη H、ΣGη HGηを用いて、到来波方向推定技術により得られる、通信機に対する到来方向に対する電力特性を入力特徴量としてもよい。例えば、ベクトル成分に、(1,exp(jdθ),exp(j2dθ),…,exp(jNdθ))をそれぞれ乗算して得られる値をθに対して計算できる。0~2πまでのθを任意の角度間隔で生成し、複数のθに対しての出力を入力特徴量とすることもできる。dは、予め定めた定数である。Nは、ベクトルの要素数である。
【0103】
つまり、入力特徴量生成部1-2は、入力特徴量として、無線信号の受信電力、信号電力、受信電力や信号電力の移動平均から得られる電力比情報、複数アンテナ間の電波伝搬係数からなるチャネル行列、チャネル行列の相関行列または疑似相関行列、チャネル行列を信号処理して得られる演算行列、相関行列または疑似相関行列を信号処理して得られる演算行列、複数の周波数に対応するチャネル行列または相関行列または疑似相関行列を信号処理して得られる演算行列、チャネル行列を線形演算して得られるユニタリ行列、相関行列または疑似相関行列を線形演算して得られるユニタリ行列、演算行列を線形演算して得られるユニタリ行列、チャネル行列を線形演算して得られる対角行列、相関行列または疑似相関行列を線形演算して得られる対角行列、演算行列を線形演算して得られる対角行列、チャネル行列を線形演算して得られる三角行列、相関行列または疑似相関行列を線形演算して得られる三角行列、演算行列を線形演算して得られる三角行列に関する特徴量のうち、1つ以上の特徴量の位相、振幅、実数成分、虚数成分の値、及びそれら1つ以上の値の係数の範囲を規格化した値を生成する。入力特徴量生成部1-2は、このような入力特徴量を時系列のデータとして記憶し、過去から現在までの複数の時間に対応する入力特徴量を位置推定モデルに出力する。
【0104】
等化技術を用いる無線通信システムであれば、到来する電気信号のパスの到来時間と電力と位相条件を推定することができる。このように時系列で得られたチャネル情報であっても、電力の規格化、周波数成分への変換、既存の到来波方向技術で抽出される特徴量や角度情報を用いて位置推定モデルの入力特徴量とすることができる。
【0105】
[チャネル情報の収集方法、入力特徴量の計算方法(第2例)]
第2の方法では、無線端末2-iは、ある特定の無線基地局と通信を行い、当該特定の無線基地局から送信され受信するパイロット信号からチャネル情報を推定し、何らかの形で量子化してフィードバック情報を生成し、生成したフィードバック情報を含む無線信号を送信する。位置推定装置1の無線通信部1-rは、当該無線信号を受信し、受信した無線信号の中に含まれる特定の無線基地局と無線端末2-iとの間のチャネル情報を取得する。
【0106】
まず、特定の無線既知基地局から、送受で既知となるパイロット信号を送信する。予め、既知のパターンを送ることで、無線端末2-iの無線通信部2-i-1は、自身の受信するアンテナ(受信アンテナ数:Ni)と、パイロット信号を送信した特定の無線基地局のアンテナ(送信アンテナ数:Mt)と、の間のチャネル行列を取得できる。様々な無線通信システムで利用されているOFDMであれば、複数の周波数に対応するサブキャリアのチャネル行列を得ることができる。
【0107】
このようにして得られた「送信アンテナ数Mt×受信アンテナ数Ni」のチャネル行列Hαから、位置推定モデル利用部1-3に入力する入力特徴量を生成する。例えば、OFDMにより複数のサブキャリアに対してチャネル行列を得る場合、η番目のサブキャリアのチャネル行列をHα,ηと定義する。ここで、特定の無線基地局が位置推定装置1の無線通信部1-rである場合、送信アンテナ数Mtは、第1の方法において無線通信部1-rに対して定義した受信アンテナ数Mrと等しい。また、この場合、チャネル行列Hα,ηは、チャネル行列Hηの転置行列に対応する。
【0108】
そこで、入力特徴量に変換する方法としては、第1の方法と同じように、式(5)のように、チャネル行列Hα,ηを、予め定めたノルムで規格化した規格化チャネル行列Gα,ηと、振幅情報γα,η又は電力情報γη 2と、に分離する。
【0109】
【数5】
【0110】
Gα,ηは、例えば、||Gα,η||F=1となるように設定できる。||・||Fは、フロベニウムノルムを表す。γα,ηやγα,η 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これを複数選択したり平均したりした値γα,allを用いてもよい。γα,allを平均化して得る場合には、真値で平均化してもよいし、dBにしてから平均にしてもよいし、真値で平均化したものをdB単位にしてもよい。
【0111】
その他、式(6)のように、振幅情報γα,ηをアンテナ毎に分離し、ノルム値をある値に規格化した各列ベクトルgα,1,η~gα,Ni,ηと、その振幅値γα,1,η~γα,Ni,ηと、を得るようにしてもよい。
【0112】
【数6】
【0113】
gα,a,ηは、例えば、||gα,a,η||F=1となるように規定ベクトルとして設定できる。γα,a,ηやγα,a,η 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これをηに対して複数選択したり平均したりしたa番目の列ベクトルに対応する値γα,a,allを用いてもよい。
【0114】
その他、式(7)のように、振幅情報γα,ηをアンテナ毎に分離し、ノルム値をある値に規格化した各行ベクトルg’α,1,η~g’α,Mt,ηと、その振幅値γ’α,1,η~γ’α,Mt,ηと、を得るようにしてもよい。
【0115】
【数7】
【0116】
g’α,b,ηは、例えば、||g’α,b,η||F=1となるように規定ベクトルとして設定できる。γ’α,b,ηやγ’α,b,η 2をdBに変換し、その最大値と最小値を規定し、その範囲を0~1の範囲内等で規格化した値で表現するように変換した値を用いてもよい。これをηに対して複数選択したり平均したりしたb番目の列ベクトルに対応する値γ’α,b,allを用いてもよい。
【0117】
チャネル行列Hα,η、規格化チャネル行列Gα,η、規格化ベクトルgα,a,η、規格化ベクトルg’α,b,ηは、各要素の実部と虚部をそれぞれ入力特徴量としたり、虚数のまま入力情報としたり、角度情報等の別形式に変換したり、量子化したりすることができる。
【0118】
また、チャネル行列Hα,ηを用いて生成される相関行列Hα,ηHα,η H、Hα,η HHα,ηを用いることができる。規格化チャネル行列Gα,ηを用いて生成される相関行列Gα,ηGα,η H、Gα,η HGα,ηを用いることができる。チャネル行列Hα,η、規格化チャネル行列Gα,η、それらの相関行列Hα,ηHα,η H、Hα,η HHα,η、Gα,ηGα,η H、Gα,η HGα,ηを、複数の周波数に対して和や平均をとった行列ΣHα,η、ΣGα,η、ΣHα,ηHα,η H、ΣHα,η HHα,η、ΣGα,ηGα,η H、ΣGα,η Hα,ηを用いることができる。これら行列のQR分解、SVD、固有ベクトル分解等をすることで得られる固有値、対角行列、ユニタリ行列を用いることができる。
【0119】
一例として、無線LAN規格であるIEEE 802.11n/ac/axで用いられているチャネル情報のフィードバックを用いる場合を示す。これは、上述の例のうちチャネル行列Hα,ηのSVDで得られる右特異行列を角度情報に圧縮し、量子化したものを複数の周波数に対応して生成し、フィードバックするものである。
【0120】
【数8】
【0121】
ここで、UηはNi×Niの左特異行列、Σηは固有値λ1,η~λNi,ηを対角要素とするNi×Niの対角行列、0はNi×(Mt-Ni)のゼロを要素とする行列、(VS,η VN,ηHはMt×Mtの右特異行列であり、VS,ηは、固有値に対応するベクトルで、VN,ηは0行列に対応している。Niは、受信アンテナ数である。Mtは、送信アンテナ数である。フィードバックでは、空間多重するストリーム数分だけのベクトルと固有値を生成する。以下、受信アンテナ数Ni分のフィードバックを行う想定で記載するが、Ni以下の任意の数としてもよい。フィードバックされるのは右得意行列のうち、Ni個のベクトルVηと、固有値から得られるSNRの値となる。SNRは各サブキャリアではなく、平均化処理がなされ、例えば、λ1,η~λNi,ηを、産出されたサブキャリアで平均し、λ1,~λNiを熱雑音レベルで割った値をS1~SNiをフィードバックできる。Vηと、式(9)のように、角度情報(φ,ψ)に変換してフィードバックできる。
【0122】
【数9】
【0123】
この表現は、ある周波数に注目して表記しており、式(9)のV行列は、指定されたサブキャリア数分存在し、サブキャリア毎に角度情報が生成される。更に、指定された量子化ビット数で量子化され、無線信号に格納されて送信される。位置推定装置1の無線通信部1-rは、この角度情報及びSNR情報を得ることができ、更には当該無線信号のRSSI情報を得ることができる。
【0124】
角度情報は、そのまま入力特徴量としてもよい。角度情報から算出した正弦と余弦成分を入力特徴量としてもよい。式(9)を用いて、角度情報を右特異行列に戻した行列を用いてもよい。角度情報を右特異行列に戻した後、右特異行列又はその相関行列を周波数方向に平均化した平均化行列を用いてもよい。平均化行列に更にQR分解等の信号処理を加えた行列を用いてもよい。たとえば、相関行列に戻す場合には、η番目のサブキャリアに対応するVηが得られる一方、SNRは全体での代表値しか得られない。このため、近似としてえられる、疑似相関行列は、例えば式(10)のように計算される。
【0125】
【数10】
【0126】
ここでΘは、Vηを取得したサブキャリアのグループを表し、NΘはΘの要素数である。ここで得られる相関行列は非対角要素の下三角部分と、上三角部分が互いに複素共役の関係であるため、機械学習における入力特徴量として用いる場合には、ここで得られる疑似相関行列Rのうち、対角要素、および非対角要素のうちした左下半分、又は右上半分を用いることができる。非対角要素は虚数であるため、実部と虚部をそれぞれ実数として、入力特徴量とすることで、一般的な機械学習アルゴリズムが適用できる。
【0127】
また、式(10)において、フィードバックされるVηの列数や、SNR(固有値)の数が、時間的に変わることが生じても、式(10)の相関行列が影響を受けないように、Vηのうち、1番目のベクトルと、1番目のSNRのみを用いて、式(10)による相関行列を求めたり、現在得られている列数(式(10)の場合では、NΘ)より小さい数のベクトル数NΘ’の列数とSNR数を選択し、相関行列を求めて、入力特徴量として求めてもよい。また、このとき、
【0128】
【数11】
【0129】
として計算することで、算出されるRの要素が0~1または-1~1の範囲となるようにすることもでき、深層学習に入力するさいの規格化の処理を省くこともできる。
【0130】
さらに、前述のように、1番目のベクトルを選択する方法で相関行列を求める場合には、1番目の対角要素は1となるため、単に、
【0131】
【数12】
【0132】
として相関行列を計算できる。ここで、Vη,1はVηの1番目の列ベクトルを表す。前述のようにRの範囲を規格化するため、式(10)~式(12)の分母は省略し、規格化のための係数で割るようにしてもよい。
【0133】
また、右得意行列Vを角度情報から復元した場合、各列ベクトルの最後の要素の虚部は必ず0になるため、右特異行列をM×Niの行列として得たとすると、各要素の実部と虚部の数値から、2×Mt×Ni-Niの数値が意味のある情報となる。例えば、右特異行列を4×1の行列とした場合、実部4、虚部3の計7つの要素が意味のある情報であり、4×2の行列を得た場合は、実部8、虚部6の計14つの要素が意味のある情報である。各列の最後の要素の虚部は0であるため、各列の最後の要素は用いなくてもよい。
【0134】
[実験結果]
具体的な例と屋内実験結果を交えて、本実施形態の位置推定方法とその効果を説明する。
【0135】
図10に示す屋内の実験環境エリア内に、2つの無線通信部1-1、1-2を設置し、無線端末2-1の位置を推定した。無線端末2-1は、実験環境エリア内の中央部を8の字で走行しており、基地局(AP:Access Point)に対して、チャネル情報を含む無線信号をフィードバック送信している。
【0136】
無線端末2-1は、基地局APから100ms毎にチャネル情報の報告を求められており、無線LANの標準化規格IEEE 802.11acで定められたチャネル情報のフィードバック方法によりチャネル情報の角度情報をフィードバック送信している。基地局APのアンテナ数は、4つである。無線端末2-1と無線通信部1-1、1-2との各アンテナ数は、それぞれ、2つである。
【0137】
2つの無線通信部1-1、1-2は、無線端末2-1と基地局APとの間のチャネル行列の右特異行列から生成した角度情報、SNR(λ,λ)を得ることができる。無線通信部1-1では、RSSIの値(γ11,γ12)も得ることができ、無線通信部1-2でもRSSIの値(γ21,γ22)を得ることができる。RSSIの値がそれぞれ2つあるのは、無線通信部1-1と1-2がそれぞれ受信アンテナを2つ搭載しているためであり、2つの値はそれぞれのアンテナに対応する。
【0138】
入力特徴量生成部1-2は、前述の数式に従い角度情報から疑似相関行列を算出し、算出した疑似相関行列を周波数で平均化し、式(10)において、疑似相関行列Rを算出し、得られたRの対角項の和でRを割り、規格化を行った。疑似相関行列Rとしては、対角項4つ、非対角項のうち左下半分の6要素の実部と虚部で12つ、の計16つの入力特徴量を生成した。これを疑似相関行列特徴量(R1, …, R16)とし、Rと表記する。フィードバック信号に含まれる2つのSNR(λ1、λ2)のdB値を、実験環境で観測されうる値を上回る値で割り、規格化を行った係数をSNRと表記する。また、無線通信部1-1の受信アンテナにおけるRSSI(γ11,γ12)のdB値を0から1の範囲で分布するように規格化したものをRSSIと表記し、RSSIは無線通信部1-1を用いた結果を用いる。
【0139】
ここで、位置推定モデルの生成方法を説明する。
【0140】
本実施形態に係る位置推定モデルを生成するため、屋内の実験環境エリア内において、無線端末2-1である自律走行ロボットを4日間走行させた。図10に示した8の字状に残る線が自律走行ロボットの実際の経路であり、動作を複雑化するため、60cm四方の四角で定義されたゴール地点へロボットは向かうが、この四角の中で、実際に目指すポイントをランダムにし、50%の確率でスキップするように設定した。
【0141】
この際、位置推定モデル訓練部1-4は、無線端末2-1に具備されたLIDAR(light detection and ranging)とタイヤの制御情報とから得られる高精度な自律走行ロボットの位置情報と、上述の伝搬伝搬に関する入力特徴量と、を200ms周期で同じ時系列で整理した訓練データを生成する。前述のように、入力特徴量の生成周期は100msであるが、200ms周期で区切った時間幅で得られる最新の情報を選択して用いて訓練データを生成した。
【0142】
そして、生成した8時間分の訓練データを用いて、GRU(Gated Reccurent Unit)と直接結合とを用いた深層ニューラルネットワークによる位置推定モデルを訓練した。学習率は0.0002、最適化アルゴリズムはADAMを用いた。GRUは隠れ層1、次元を400とし、入力400、出力400の2つの直接結合層と、入力400、出力2の1つの直接結合層と、を用いて、実験環境エリア内におけるX座標とY座標の情報を出力するように、位置推定モデルの重みとバイアスを逆伝搬により更新した。バリデーション用として用いる30分のデータにより、MSEが最小となる更新後の位置推定モデルを用いた。
【0143】
図11は、本実施形態により生成した位置推定モデルを用いて、無線端末2-1の位置を推定した場合の位置ずれ量を誤差として累積確率分布(CDF:Cumulative Distribution Function)でプロットした図である。
【0144】
「SNR/RSSI/R」のグラフは、前述の疑似相関行列R、SNR、RSSIの計20(=16+2+2)の入力特徴量を用い、それぞれの時系列データとして20サンプルをそれぞれRNN(Recurrent Neural Network)に入力し、訓練を行い生成した位置推定モデルによる位置推定の誤差結果である。
【0145】
「SNR/RSSI/R(訓練直後)」のグラフは、4日間走行させ、そのうち訓練データとは異なる時間で測定したテストデータに対して位置推定モデルを用いた誤差結果であり、「SNR/RSSI/R」よりも低い位置推定誤差を確認できる。
【0146】
それ以外の誤差結果(「R」、「SNR/RSSI」、「単一時間SNR/RSSI」のグラフ)は、4日間の訓練データを用いて生成された位置推定モデルを30日後に同様の特徴量を測定し、位置を推定した際の誤差の累積確率分布である。
【0147】
まず、「SNR/RSSI/R」の計20の入力特徴量を用いた結果は、訓練直後に用いた特性より、位置推定誤差が増加し、中央値で7.7cmだった誤差が12.7cmに増加しているものの、依然として10cm程度の位置推定誤差という高精度な位置推定効果が得られることがわかる。これは、SNRとRSSIの計4つの入力特徴量を時系列に20サンプル用いて訓練し、30日後の訓練データに適用した「SNR/RSSI」での推定結果よりも、著しく高い結果であることを確認できる。時系列データを用いず、時間方向に単一のサンプルのみを用いた「単一時間SNR/RSSI」は、さらに著しく位置推定誤差が大きい。それ故、疑似相関行列Rによる高い位置推定精度が確認できる。
【0148】
図12は、前述の深層学習の位置推定モデルの次元を大きくし、GRUの次元を2000、全結合層の初めの2層を入力2000、出力2000、最後の1層を入力2000、出力2とし、前述のケースと同様に4日間のデータで訓練し、4日間内の訓練とは時間の異なるテストデータ、34日後のデータ、6日後のデータに対し、「SNR/RSSI/R」、「R」、「SNR/RSSI」の各推定誤差の累積確率分布をプロットした図である。
【0149】
この結果では、疑似相関行列Rの結果がさらに改善し、「SNR/RSSI/R」の推定誤差に漸近しているほか、「SNR/RSSI」は訓練直後に用いた場合の特性は大きく向上するものの、1か月、2か月と経過すると、位置推定精度が低下していくことが確認できる。
【0150】
図13図14は、前述の訓練方法を検証したグラフを示す図である。ここでは、GRUの次元を500、全結合層の初めの2層を入力500、出力500、最後の1層を入力500、出力2として評価し、100ms間隔で得られるフィードバック信号による訓練データを用いて、以下のケースの位置推定モデルを訓練することを考える。
【0151】
ケース1は、100ms毎に得られるフィードバック信号により、100ms毎の入力特徴量を40サンプル分、時系列で深層学習の位置推定モデルに入力し、ロボットの位置推定を行う位置推定モデルを訓練する場合である。
【0152】
ケース2は、200ms毎に得られるフィードバック信号により、200ms毎の入力特徴量を40サンプル分、時系列で深層学習の位置推定モデルに入力し、ロボットの位置推定を行う位置推定モデルを訓練する場合である。
【0153】
図13において、位置推定モデルを訓練する際に、オリジナルの100ms毎に得られた訓練データのみを用いた場合を「100ms間隔データのみ」と記載している。
【0154】
また、図6に示したデータの拡張方法を用いて、100ms間隔のデータセットを、200ms間隔の2つのデータ系列に再構成し、訓練する際に当該2つのデータ系列のデータを分割してバッチデータとし、全てのバッチデータに対して出力の誤差を1エポックとして評価し、位置推定モデル全体の係数や重みを更新する。また、200ms間隔の訓練データからバッチデータごとの出力からモデルを更新し、全データ検討後、さらに100ms間隔の訓練データからバッチデータを生成し、この中の全データを検討して、1エポックとして、位置推定モデルを更新していく。この場合の推定誤差を「200、100ms間隔データ」と記載している。
【0155】
さらに、「400、300、200、100ms間隔データ」は、400ms間隔の4つのデータ系列、300ms間隔の3つデータ、200ms間隔の2つのデータ、100ms間隔のデータ、を順に用いて1エポックの訓練を繰り返した結果である。本発明のデータ拡張により生成した200msの訓練データを用いて適用した場合で、推定誤差を7%低減している。
【0156】
すなわち、図13では、位置推定モデル訓練部1-4は、「400、300、200ms間隔データ」といった複数の訓練データセットを用いて位置推定モデルを更新した後に、予め生成していた「100ms間隔データ」であるオリジナルの訓練データセットを最後に用いて位置推定モデルを更新している。これにより、上述の通り、位置推定誤差を更に低減可能となる。
【0157】
図14では、200ms毎の時系列の入力特徴量を用いて位置を推定する位置推定モデルにおいて、同様に図6のデータ拡張方法の効果を検証している。まず、「200ms間隔のデータのみ」の訓練データは、図6に示したデータ拡張方法のように、100ms間隔で存在した訓練データから2つの200ms間隔の訓練データを抽出することで、100ms間隔の訓練データと同等の訓練データを学習のために用いる。図14図13と比較すると、用いるデータの使用頻度を半分にしているにもかかわらず、位置推定性能が図13とほぼ同等になっていることも確認できる。
【0158】
また、オリジナルの100msの訓練データから300ms間隔のデータを3つ生成し、300ms間隔の訓練データで位置推定モデルを訓練したのち、200ms間隔の訓練データで位置推定モデルを訓練する場合を「300、200ms間隔データ」で示しており、図13に示した「100ms間隔データのみ」の場合と同様に、位置推定精度を向上し、誤差を低減していることが確認できる。
【0159】
さらに、400、300、200ms間隔のデータをこの順番で用いて訓練することで得られた位置推定モデルによる「400、300、200ms間隔データ」の結果についても、同様に高い効果を得られている。このようにデータ拡張により、限られた訓練データを拡張することで、位置推定モデルの位置推定精度を向上することができる。
【0160】
すなわち、図14では、位置推定モデル訓練部1-4は、「400、300、200ms間隔データ」といった複数の訓練データセットのうち、訓練データの時間間隔が予め生成していた「100ms間隔データ」であるオリジナルの訓練データセットにより近い訓練データセットほどより後に用いて位置推定モデルを更新している。これにより、上記の通り、位置推定誤差を更に低減可能となる。
【0161】
疑似相関行列の効果を確認するため、疑似相関行列Rの16の特徴量の代わりに、フィードバック情報から復元されるV行列をサブキャリア数で平均し、得られる4×2の行列の実部と虚部の情報Vを用いた場合との位置推定精度の違いを図15に示す。図15より、疑似相関行列RとSNRとRSSIを用いる場合の方が、V行列平均の場合よりも、位置推定性能が高いことを確認できる。
【0162】
図16は、図10に示した実験環境エリアにおいて、無線通信部1-1におけるRSSIの値(γ11,γ12)と、無線通信部1-2におけるRSSIの2つの値(γ21,γ22)とを用いて、GRUの次元を400、全結合層の初めの二層を入力400、出力400、最後の1層を入力400、出力2とし、前述のケースと同様4日間のデータで訓練し、無線通信部1-1におけるRSSIの値(γ11,γ12)のみを用いた場合との推定精度を比較した図である。無線通信部1-2を加えた効果は大きくはないが、中央値で6.48cmの誤差を5.97cmまで改善している。
【0163】
[本実施形態の効果]
本実施形態によれば、位置推定装置1は、無線端末の無線通信部から送信される無線信号を受信し、前記無線信号から電波伝搬に関するチャネル情報を取得する無線通信部1-1~1-Rと、前記チャネル情報を位置推定モデルに入力可能な入力特徴量に変換して記憶し、複数の時間に対応する複数の入力特徴量を位置推定モデルへ出力する入力特徴量生成部1-2と、前記複数の入力特徴量を、前記電波伝搬に関するチャネル情報と前記無線端末の位置情報との関係性を機械学習によりモデル化した位置推定モデルに入力することで、前記無線端末の位置を推定計算する位置推定モデル利用部1-3と、を備える。つまり、無線端末の無線信号に含まれる電波伝搬に関するチャネル情報と位置推定モデルとを用いて無線端末の位置を推定するので、無線端末の位置推定を汎用的な無線通信で行うことが可能となり、無線端末の位置を低コストかつ高精度で推定可能な技術を提供できる。
【0164】
[その他]
本発明は、上記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0165】
上記説明した本実施形態の位置推定装置1は、例えば、図16に示すように、CPU901と、メモリ902と、ストレージ903と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906と、を備えた汎用的なコンピュータシステムを用いて実現できる。メモリ902及びストレージ903は、記憶装置である。当該コンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、位置推定装置1の各機能が実現される。
【0166】
位置推定装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよい。位置推定装置1は、複数のコンピュータで実装されてもよい。位置推定装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであってもよい。位置推定装置1用のプログラムは、HDD、SSD、USBメモリ、CD、DVD等のコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶できる。位置推定装置1用のプログラムは、通信ネットワークを介して配信することもできる。
【符号の説明】
【0167】
1:位置推定装置
1-1~1-R:無線通信部
1-2:入力特徴量生成部
1-3:位置推定モデル利用部
1-4:位置推定モデル訓練部
2-1~2-Q:無線端末
2-1-1~2-Q-1:無線通信部
図1
図2
図3
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図5
図6
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図10
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図12
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