(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-18
(45)【発行日】2025-08-26
(54)【発明の名称】2次元粒子、導電性膜、導電性ペーストおよび複合材料
(51)【国際特許分類】
C01B 32/90 20170101AFI20250819BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20250819BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20250819BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20250819BHJP
【FI】
C01B32/90
H01G11/24
H01G11/30
H01G11/86
(21)【出願番号】P 2023567718
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2022044947
(87)【国際公開番号】W WO2023112778
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2024-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2021204423
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100206324
【氏名又は名称】齋藤 明子
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼町 章麿
(72)【発明者】
【氏名】阿部 匡矩
(72)【発明者】
【氏名】一条 直規
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】JAMBHULKAR Sayli et al.,Aligned Ti3C2Tx MXene for 3D Micropatterning via Additive Manufacturing,ACS Nano,Vol. 15,pp. 12057-12068
【文献】CHEN Hongwu et al.,Pristine Titanium Carbide MXene Films with Environmentally Stable Conductivity and Superior Mechanical Strength,Advanced Functional Materials,Vol. 30,1906996
【文献】UNAL Mehmet et al.,2D MXenes with antiviral and immunomodulatory properties: A pilot study against SAR-CoV-2,Nano Today,Vol. 38,101136
【文献】VOIGT, C. A. et al.,Anion adsorption, Ti3C2Tz MXene multilayers and clay-like swelling,The Journal of Physical Chemistry C,Vol. 122, Issue 40 ,pp. 23172-23179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/90
H01B 1/22
H01B 5/16
H01G 11/24
H01G 11/30
H01G 11/86
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の層を有する2次元粒子であって、
Li原子を含み、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
Li原子は、第1成分と、前記第1成分よりも、
7Li NMRにより測定される化学シフトが大きい第2成分とを含み、
前記第1成分と前記第2成分の合計における、前記第1成分の割合は、17原子%以上70原子%以下である、2次元粒子。
【請求項2】
前記
7Li NMRにより測定される第1成分の化学シフトは0.6ppm未満であり、前記
7Li NMRにより測定される第2成分の化学シフトは0.6ppm以上2.0ppm以下である、請求項1に記載の2次元粒子。
【請求項3】
リン原子を含む、請求項1に記載の2次元粒子。
【請求項4】
前記リン原子の含有率が、0.1質量%以上14質量%以下である、請求項1に記載の2次元粒子。
【請求項5】
前記リン原子は、PO
4
3-の形態である、請求項1に記載の2次元粒子。
【請求項6】
平均厚さは、1nm以上10nm以下である、請求項1に記載の2次元粒子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の2次元粒子を含む、導電性膜。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の2次元粒子を含む、導電性ペースト。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の2次元粒子と樹脂とを含む、導電性複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2次元粒子、導電性膜、導電性ペーストおよび複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる2次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含みうる)の形態を有する。
【0003】
現在、種々の電気デバイスへのMXeneの応用に向けて様々な研究がなされている。上記応用に向け、MXeneを含む材料の導電性および耐湿性をより高めることが求められている。その検討の一環として、MXeneの洗浄処理法について検討されている。
【0004】
非特許文献1には、酸の存在下でMXeneを洗浄処理することにより、Li+が除去されうることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hongwu Chen, et al., "Pristine Titanium Carbide MXene Films with Environmentally Stable Conductivity and Superior Mechanical Strength" Adv. Mater. 2020, 30, 1906996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載のMXeneでは、Li+は除去されているものの、吸湿により導電率が20%程度低下する。また、非特許文献1に記載のMXeneでは、フィルムの導電率が十分に満足できるものではなかった。
【0007】
本開示は、導電性が高く、耐湿性を有する導電性膜を実現可能な2次元粒子の提供を目的とする。また、本開示は、かかる2次元粒子を用いた導電性膜、導電性ペーストおよび導電性複合材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下を含む。
[1]1つまたは複数の層を有する2次元粒子であって、
Li原子を含み、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
Li原子は、第1成分と、前記第1成分よりも、7Li NMRにより測定される化学シフトが大きい第2成分とを含み、
前記第1成分と前記第2成分の合計における、前記第1成分の割合は、17原子%以上70原子%以下である、2次元粒子。
[2]前記7Li NMRにより測定される第1成分の化学シフトは0.6ppm未満であり、前記7Li NMRにより測定される第2成分の化学シフトは0.6ppm以上2.0ppm以下である、[1]に記載の2次元粒子。
[3]リン原子を含む、[1]または[2]に記載の2次元粒子。
[4]前記リン原子の含有率が、0.1質量%以上14質量%以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の2次元粒子。
[5]前記リン原子は、PO4
3-の形態である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の2次元粒子。
[6]平均厚さは、1nm以上10nm以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の2次元粒子。
[7][1]~[6]のいずれか1つに記載の2次元粒子を含む、導電性膜。
[8][1]~[6]のいずれか1つに記載の2次元粒子を含む、導電性ペースト。
[9][1]~[6]のいずれか1つに記載の2次元粒子と樹脂とを含む、導電性複合材料。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、導電性が高く、耐湿性を有する導電性膜を実現可能な2次元粒子の提供しうる。また、本開示は、かかる2次元粒子を用いた導電性膜、導電性ペーストおよび導電性複合材料を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の1つの実施形態における層状材料のMXene粒子を示す概略模式断面図であって、(a)は単層MXene粒子を示し、(b)は多層(例示的に二層)MXene粒子を示す。
【
図2】本開示の1つの実施形態における導電性膜を示す概略模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1:2次元粒子)
以下、本開示の1つの実施形態における2次元粒子について詳述するが、本開示はかかる実施形態に限定されない。
【0012】
本実施形態における2次元粒子は、1つまたは複数の層を有する層状材料の2次元粒子であって、Li原子を含む。
【0013】
上記層は、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有しうる)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
Li原子は、第1成分と、7Li NMR(核磁気共鳴)により測定される化学シフトが上記第1成分よりも大きい第2成分とを含み、
上記第1成分と上記第2成分の合計における、上記第1成分の割合は、17原子%以上70原子%以下である。
【0014】
これにより、本開示の2次元粒子を用いて得られる導電性膜は、高い導電率を有し、耐湿性が良好である。本開示において、耐湿性は、高湿条件下で長時間置かれた場合であっても導電率を維持しうることを意味する。さらに、かかる導電性膜を含む電極は、高導電率および高耐湿性が求められる用途、例えば、アンテナ用電極、特に、RFID(無線識別装置:radio frequency identifier)用の電極として用いられ得る。
【0015】
本開示において、ある元素について「原子」という場合、その元素の酸化数は、0に限られず、その元素の取りうる酸化数の範囲内において、任意の数でありうる。
【0016】
上記層状材料は、層状化合物として理解され得、「MmXnTs」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxまたはzが使用されることもある。代表的には、nは、1、2、3または4でありうるが、これに限定されない。
【0017】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0018】
MXeneは、上記の式:MmXnが、以下のように表現されるものが知られている。
Sc2C、Ti2C、Ti2N、Zr2C、Zr2N、Hf2C、Hf2N、V2C、V2N、Nb2C、Ta2C、Cr2C、Cr2N、Mo2C、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)2C、(Ti,Nb)2C、W2C、W1.3C、Mo2N、Nb1.3C、Mo1.3Y0.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti3C2、Ti3N2、Ti3(CN)、Zr3C2、(Ti,V)3C2、(Ti2Nb)C2、(Ti2Ta)C2、(Ti2Mn)C2、Hf3C2、(Hf2V)C2、(Hf2Mn)C2、(V2Ti)C2、(Cr2Ti)C2、(Cr2V)C2、(Cr2Nb)C2、(Cr2Ta)C2、(Mo2Sc)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Zr)C2、(Mo2Hf)C2、(Mo2V)C2、(Mo2Nb)C2、(Mo2Ta)C2、(W2Ti)C2、(W2Zr)C2、(W2Hf)C2、
Ti4N3、V4C3、Nb4C3、Ta4C3、(Ti,Nb)4C3、(Nb,Zr)4C3、(Ti2Nb2)C3、(Ti2Ta2)C3、(V2Ti2)C3、(V2Nb2)C3、(V2Ta2)C3、(Nb2Ta2)C3、(Cr2Ti2)C3、(Cr2V2)C3、(Cr2Nb2)C3、(Cr2Ta2)C3、(Mo2Ti2)C3、(Mo2Zr2)C3、(Mo2Hf2)C3、(Mo2V2)C3、(Mo2Nb2)C3、(Mo2Ta2)C3、(W2Ti2)C3、(W2Zr2)C3、(W2Hf2)C3、(Mo2.7V1.3)C3(上記式中、「2.7」および「1.3」は、それぞれ約2.7(=8/3)および約1.3(=4/3)を意味する。)
【0019】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子でありうる。例えば、MAX相は、Ti3AlC2であり、MXeneは、Ti3C2Tsである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0020】
なお、本開示において、MXeneは、前駆体のMAX相に由来するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下でありうる。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、2次元粒子の用途や使用条件によっては問題がない場合もありうる。
【0021】
本開示において、上記層をMXene層という場合があり、上記2次元粒子をMXene2次元粒子またはMXene粒子という場合がある。
【0022】
本実施形態の2次元粒子は、
図1(a)に模式的に例示する1つの層のMXeneの粒子(以下、単に「MXene粒子」という)10a(単層MXene粒子)を含む集合物である。MXene粒子10aは、より詳細には、M
mX
nで表される層本体(M
mX
n層)1aと、層本体1aの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T3a、5aとを有するMXene層7aである。よって、MXene層7aは、「M
mX
nT
s」とも表され、sは任意の数である。
【0023】
本実施形態の2次元粒子は、1つまたは複数の層を含みうる。複数の層のMXene粒子(多層MXene粒子)として、
図1(b)に模式的に示す通り、2つの層のMXene粒子10bが挙げられるが、これらの例に限定されない。
図1(b)中の、1b、3b、5b、7bは、前述の
図1(a)の1a、3a、5a、7aと同じである。多層MXene粒子の、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。上記MXene粒子10aは、上記多層MXene粒子10bが個々に分離されて1つの層で存在するものであり、分離されていない多層MXene粒子10bが残存し、上記単層MXene粒子10aと多層MXene粒子10bの混合物である場合がある。
【0024】
本実施形態を限定するものではないが、MXene粒子に含まれる各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下である(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なりうる)。含まれうる多層MXene粒子の、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、
図1(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm以下、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmであり、層の総数は、2以上、20,000以下でありうる。
【0025】
本実施形態の2次元粒子は、上記含みうる多層MXene粒子が、デラミネーション処理を経て得られた、層数の少ないMXene粒子であることが好ましい。上記「層数が少ない」とは、例えばMXene層の積層数が6層以下であることをいう。また、層数の少ない多層MXene粒子の積層方向の厚さは、15nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは10nm以下である。以下、この「層数の少ない多層MXene粒子」を「少層MXene粒子」ということがある。また、単層MXene粒子と少層MXene粒子を併せて「単層・少層MXene粒子」ということがある。
【0026】
本実施形態の2次元粒子は、好ましくは、単層MXene粒子と少層MXene粒子、すなわち単層・少層MXene粒子を含む。本実施形態の2次元粒子は、厚さが15nm以下である単層・少層MXene粒子の割合は、90体積%以上であることが好ましく、より好ましくは95体積%以上である。
【0027】
上記Li原子は、第1成分と、7Li NMRにより測定される化学シフトが第1成分よりも大きい第2成分とを含み、上記第1成分と上記第2成分の合計における、上記第1成分の割合は、17原子%以上70原子%以下である。これにより、導電性が高く、耐湿性を有する導電性膜を実現し得る。
【0028】
第1成分と第2成分の合計における、第1成分の割合は、7Li NMRにより測定できる。例えば、7Li NMRスペクトルにおいて、第1成分に帰属されるピークの相対面積をS1とし、第2成分に帰属されるピークの相対面積をS2としたとき、第1成分と第2成分の合計における、第1成分の割合は、S1/(S1+S2)として算出できる。一態様において、7Li NMR測定の際の積算遅延時間は、4秒とする。
【0029】
特定の理論に拘束されないが、第1成分は、水に束縛され、自由度が低い状態で存在していると考えられ、第2成分は、2次元粒子の層表面に緩く吸着し、自由度が比較的高い状態で存在していると考えられる。そして、第1成分と第2成分とが特定の存在比で共存することで、単層・少層化を達成しつつ、水分の吸着を防ぐことができ、高導電率と高耐湿性を発揮できると考えられる。
【0030】
第1成分と第2成分の自由度は、例えば、T2緩和時間(スピン-スピン緩和時間)の比較により確認できる。特定の理論に拘束されないが、T2緩和時間は、各成分の運動性と関連があると考えられ、T2緩和時間が短いほど、物質と強く相互作用していると考えられる。一態様において、第1成分のT2緩和時間は、第2成分のT2緩和時間より短く、例えば、第1成分のT2緩和時間は0.6ms以下、第2成分のT2緩和時間は1.2ms以上である。第1成分と第2成分のT2緩和時間の比較から、第2成分に比べて、第1成分の方が物質と強く相互作用していると考えられる。
【0031】
一態様において、7Li NMRにより測定される第1成分の化学シフトは、例えば0.6ppm未満、さらに-0.2ppm以上0.55ppm以下、とりわけ-0.15ppm以上0.5ppm以下であり得る。また、7Li NMRにより測定される第2成分の化学シフトは、例えば0.6ppm以上2.0ppm以下、さらに0.7ppm以上1.7ppm以下であり得る。一態様において、7Li NMR測定の際の基準物質は、1mol/L LiCl水溶液におけるLiとする。
【0032】
本開示において、7Li NMRにより測定される第1成分の化学シフトは、7Li NMRスペクトルにおいて、第1成分に帰属されるピークの化学シフト値を表す。同様に、7Li NMRにより測定される第2成分の化学シフトは、7Li NMRスペクトルにおいて、第2成分に帰属されるピークの化学シフト値を表す。第2成分の化学シフトは、7Li NMRにより測定される第1成分の化学シフトよりも大きく、第2成分に帰属されるピークは、第1成分に帰属されるピークに対して、7Li NMRスペクトルの低磁場側に位置する。7Li NMRにおいて、第1成分に帰属されるピークと第2成分に帰属されるピークとが重なり合う場合、ローレンツ曲線で回帰することによりピーク分離してよい。
【0033】
上記Li原子は、代表的には、上記層上に存在している。すなわち、上記層に接していてもよく、上記層上に他の元素を介して存在していてもよい。
【0034】
上記2次元粒子(例えば、上記層および上記金属カチオンの合計)における、Li原子の含有率は、例えば0.1質量%以上20質量%以下、さらに0.1質量%以上10質量%以下、とりわけ0.2質量%以上5質量%以下、特に0.2質量%以上3質量%以下であってよい。
【0035】
上記Li原子の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)などにより測定可能である。
【0036】
一態様において、上記2次元粒子は、リン原子を含む。リン原子を含むことで、第2成分のLi原子が存在しやすくなると考えられ、高導電率と高耐湿性が発揮されやすくなる。リン原子の含有率は、例えば0.1質量%以上14質量%以下、さらに0.15質量%以上5質量%以下、とりわけ0.15質量%以上1質量%以下であり得る。
【0037】
上記リン原子は、例えば、リン原子を含むアニオンの形態で存在し、とりわけ、PO4
3-の形態で存在し得る。リン原子を含むアニオンは、上記層のMと結合していてよい。また、特定の理論に拘束されないが、リン原子を含むアニオンに緩く吸着しているLi原子が、上記第2成分に該当すると考えられる。
【0038】
一態様において、(2次元粒子の2次元面の長径の平均値)/(2次元粒子の厚さの平均値)の比率は、1.2以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上である。上記2次元粒子の2次元面の長径の平均値と、上記2次元粒子の厚さの平均値は、後述する方法で求めればよい。
【0039】
(2次元粒子の2次元面の長径の平均値)
本実施形態の2次元粒子は、2次元面の長径の平均値が、1μm以上20μm以下である。以下、2次元面の長径の平均値を「平均フレークサイズ」ということがある。
【0040】
上記平均フレークサイズが大きいほど、導電性膜の導電率は大きくなる。本実施形態の2次元粒子は、平均フレークサイズが1.0μm以上であり大きいため、この2次元粒子を用いて形成された膜、例えばこの2次元粒子を積層させて得られる膜は、2,000S/cm以上の導電率を達成できる。2次元面の長径の平均値は、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは2.5μm以上である。MXeneに超音波処理を施すことでMXeneのデラミネーション処理を行った場合、超音波処理により大部分のMXeneが長径で約数百nmに小径化するため、超音波処理によりデラミネーションされた単層MXeneで形成される膜は導電率が低いと考えられる。
【0041】
2次元面の長径の平均値は、分散媒中の分散性の観点から、20μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0042】
上記2次元面の長径は、後記の実施例に示す通り、電子顕微鏡写真において、各MXene粒子を楕円形状に近似したときの長径をいい、上記2次元面の長径の平均値は、80粒子以上の上記長径の個数平均をいう。電子顕微鏡として、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を用いることができる。
【0043】
本実施形態の2次元粒子の長径の平均値は、該2次元粒子を含む導電性膜を溶媒に溶解させ、上記2次元粒子を該溶媒に分散させて測定してもよい。または、上記導電性膜のSEM画像から測定してもよい。
【0044】
(2次元粒子の厚さの平均値)
本実施形態の2次元粒子の厚さの平均値は、1nm以上15nm以下であることが好ましい。上記厚さは、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは7nm以下であり、さらに好ましくは5nm以下である。一方、単層MXene粒子の厚さを考慮すると、2次元粒子の厚さの下限は1nmとなりうる。
【0045】
上記2次元粒子の厚さの平均値は、原子間力顕微鏡(AFM)写真または透過型電子顕微鏡(TEM)写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)として求められる。
【0046】
(実施形態2:2次元粒子の製造方法)
以下、本開示の1つの実施形態における2次元粒子の製造方法について詳述するが、本開示はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0047】
本実施形態の2次元粒子の製造方法は、
(a)所定の前駆体を準備すること、
(b)エッチング液を用いて、上記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチング処理を行うこと、
(c)上記エッチング処理により得られたエッチング処理物を、水洗浄する工程を含む、水洗浄処理を行うこと、
(d)上記水洗浄により得られた水洗浄処理物と、金属含有化合物とを混合する工程を含む、インターカレーション処理を行うこと、
(e)上記インターカレーション処理して得られたインターカレーション処理物を撹拌する工程を含む、デラミネーション処理を行って2次元粒子を得ることを含み、
上記エッチング液は、リン原子を含み、
上記金属含有化合物は、Li原子を少なくとも含む。
【0048】
以下、各工程について詳述する。
【0049】
・工程(a)
まず、所定の前駆体を準備する。本実施形態において使用可能な所定の前駆体は、MXeneの前駆体であるMAX相であり、
以下の式:
MmAXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される。
【0050】
上記M、X、nおよびmは、第1実施形態で説明した通りである。Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである。
【0051】
MAX相は、MmXnで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有しうる)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「MmXn層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。
【0052】
上記MAX相は、既知の方法で製造することができる。例えばTiC粉末、Ti粉末およびAl粉末を、ボールミルで混合し、得られた混合粉末をAr雰囲気下で焼成し、焼成体(ブロック状のMAX相)を得る。その後、得られた焼成体をエンドミルで粉砕して次工程用の粉末状MAX相を得ることができる。
【0053】
・工程(b)
工程(b)では、エッチング液を用いて、上記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去する、エッチング処理を行う。
【0054】
上記エッチング液は、リン原子を含み、とりわけ、リン原子を含むアニオンを含む。これにより、リン原子、例えばリン原子、とりわけリン原子を含むアニオンがM原子に結合し得る。また、特定の理論に拘束されないが、上記エッチング液がリン原子を含むことで、第2成分のLi原子が存在しやすくなると考えられる。さらに、十分なエッチング処理が可能となり、後のインターカレーション処理において、Li原子をインターカレートしやすくなる。上記リン原子を含むアニオンの存在形態は特に限定されず、イオンとして存在していてもよく、H+と結合して酸として存在していてもよく、カチオンと結合して塩として存在していてもよい。
【0055】
リン原子を含むアニオンとしては、PO4
3-が挙げられる。
【0056】
上記エッチング液は、H3PO4を含むことが好ましく、HFをさらに含んでいてもよい。上記エッチング液の具体例としては、HFの水溶液と、H3PO4の水溶液との混合液が挙げられる。上記エッチング液は、HCl、LiFをさらに含んでいてもよい。
【0057】
上記エッチング液において、リン原子を含むアニオン、とりわけPO4
3-の濃度は、例えば2mol/L以上20mol/L以下、さらに2.5mol/L以上18mol/L以下、とりわけ3mol/L以上15mol/L以下であり得る。
【0058】
上記エッチング液において、HFの濃度は、例えば2mol/L以上20mol/L以下、さらに2.5mol/L以上18mol/L以下、とりわけ2.5mol/L以上15mol/L以下であり得る。
【0059】
また、上記エッチング液において、リン原子を含むアニオンの濃度とHFの濃度の合計は、例えば7mol/L以上30mol/L以下、さらに7.5mol/L以上27mol/L以下、とりわけ8mol/L以上25mol/L以下であり得る。
【0060】
上記エッチング液を用いたエッチングの操作およびその他の条件には、従来実施されている条件を採用できる。
【0061】
・工程(c)
上記エッチング処理により得られたエッチング処理物を、水洗浄する。水洗浄を行うことによって、上記エッチング処理で用いた酸等を十分に除去できる。エッチング処理物と混合させる水の量や洗浄方法は特に限定されない。例えば水を加えて撹拌、遠心分離等を行うことが挙げられる。撹拌方法として、ハンドシェイク、オートマチックシェイカー、シェアミキサー、ポットミルなどを用いた撹拌が挙げられる。撹拌速度、撹拌時間等の撹拌の程度は、処理対象となる酸処理物の量や濃度等に応じて調整すればよい。上記水での洗浄は1回以上行えばよい。好ましくは水での洗浄を複数回行うことである。例えば具体的に、(i)(エッチング処理物または下記(iii)で得られた残りの沈殿物に)水を加えて撹拌、(ii)撹拌物を遠心分離する、(iii)遠心分離後に上澄み液を廃棄する、の工程(i)~(iii)を2回以上、例えば15回以下の範囲内で行うことが挙げられる。
【0062】
・工程(d)
上記水洗浄により得られた水洗浄処理物と、金属イオンを含む金属含有化合物とを混合する工程を含む、インターカレーション処理を行う。これにより、金属イオンが層間にインターカレートされる。
【0063】
上記金属イオンとしては、1価の金属イオンが挙げられ、具体的にはリチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオン等のアルカリ金属イオン、銅イオン、銀イオン、金イオンが挙げられる。上記金属イオンを含む金属含有化合物としては、上記金属イオンのヨウ化物、リン酸塩、硫酸塩を含む硫化物塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。
【0064】
上記金属イオンは、リチウムイオンを少なくとも含む。また、金属含有化合物としては、リチウムイオンを含む金属化合物を含むことが好ましく、リチウムイオンのイオン性化合物を含むことがより好ましく、リチウムイオンのヨウ化物、リン酸塩、硫化物塩のうちの1以上を含むことがさらに好ましく、リチウムイオンのリン酸塩を含むことがとりわけ好ましい。金属イオンとしてリチウムイオンを用いることにより、得られる2次元粒子がLi原子を含むものとなり得る。
【0065】
上記水洗浄処理物と金属含有化合物とを混合する際のインターカレーション処理用配合物において、金属含有化合物の含有率は、例えば0.001質量%以上10質量%以下、さらに0.01質量%以上1質量%以下、とりわけ0.1質量%以上1質量%以下であり得る。金属含有化合物の含有率が前記範囲にあると、インターカレーション処理用配合物における分散性が良好である。
【0066】
インターカレーション処理の具体的な方法は特に限定されず、例えば、上記水洗浄処理物に対して、金属含有化合物を混合し、撹拌を行ってもよいし、静置してもよい。例えば室温で撹拌することが挙げられる。上記撹拌の方法は、例えば、スターラー等の撹拌子を用いる方法、撹拌翼を用いる方法、ミキサーを用いる方法、および遠心装置を用いる方法等が挙げられ、撹拌時間は、単層・少層MXene粒子の製造規模に応じて設定することができ、例えば12~24時間の間で設定できる。
【0067】
・工程(e)
工程(e)では、インターカレーション処理を行って得られたインターカレーション処理物を撹拌する工程を含む、デラミネーション処理を行う。デラミネーション処理により、MXene粒子の単層・少層化を図ることができる。
【0068】
デラミネーション処理の条件は特に限定されず、既知の方法で行うことができる。例えば撹拌方法として、超音波処理、ハンドシェイク、オートマチックシェイカーなどを用いた撹拌が挙げられる。撹拌速度、撹拌時間等の撹拌の程度は、処理対象となる処理物の量や濃度等に応じて調整すればよい。例えば、上記インターカレーション後のスラリーを、遠心分離して上澄み液を廃棄した後に、残りの沈殿物に純水を添加し、例えばハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーによる撹拌を行って層分離を行うことが挙げられる。未剥離物の除去は、遠心分離して上澄みを廃棄後、残りの沈殿物を水で洗浄する工程が挙げられる。例えば、(i)上澄み廃棄後の残りの沈殿物に、純水を追加して撹拌、(ii)遠心分離し、(iii)上澄み液を回収する。この(i)~(iii)の操作を、1回以上、好ましくは2回以上、10回以下繰り返して、デラミネーション処理物として、酸処理前の単層・少層MXene粒子を含む上澄み液を得ることが挙げられる。または、この上澄み液を遠心分離して、遠心分離後の上澄み液を廃棄し、デラミネーション処理物として、酸処理前の単層・少層MXene粒子を含むクレイを得てもよい。
【0069】
本実施形態の製造方法では、デラミネーションの際、リン原子を共存させてもよい。かかるリン原子は、リン原子を含むアニオンの形態で存在していてよく、PO4
3-の形態で存在していてよい。この場合、沈殿物に添加する純水をリン酸水溶液としてよい。かかるリン酸水溶液のpHは、例えば2~5であってよく、2.5~4.5であってよい。
【0070】
一態様において、層分離の際にのみリン原子を共存させ、洗浄の際には、リン原子を共存させなくともよい。例えば、上記インターカレーション後のスラリーを、遠心分離して上澄み液を廃棄した後に、残りの沈殿物に添加する純水の代わりにリン酸水溶液を用い、(i)の操作では純水を追加してよい。また、別の態様において、層分離および洗浄の際にリン原子を共存させてもよい。例えば、上記インターカレーション後のスラリーを、遠心分離して上澄み液を廃棄した後に、残りの沈殿物に添加する純水の代わりにリン酸水溶液を用い、(i)の操作で追加する純水の代わりにリン酸水溶液を用いてよい。
【0071】
本実施形態の製造方法では、デラミネーション処理の際、超音波処理を行わなくともよい。超音波処理を行わない場合、粒子破壊が生じ難く、粒子の層に平行な平面、すなわち2次元面の大きい単層・少層MXene粒子を得ることが容易となる。
【0072】
撹拌して得られたデラミネーション処理物は、そのまま単層・少層MXene粒子を含む2次元粒子として用いることができ、必要に応じ水で洗浄してもよい。
【0073】
(実施形態3:導電性膜)
本実施形態の2次元粒子の用途として、2次元粒子を含有する導電性膜が挙げられる。かかる導電性膜は、高い導電率および高い耐湿性を有するとともに、高い平滑性を有する。
図2を参照して、本実施形態の導電性膜を説明する。
図2では2次元粒子10のみが積層して得られた導電性膜30を例示しているが、これに限定されない。導電性膜は、必要に応じて、膜形成時に添加されるバインダー等の添加物が含まれていてもよい。上記添加物は、導電性膜(乾燥時)に占める割合で好ましくは30体積%以下、更に好ましくは10体積%以下、より更に好ましくは5体積%以下であり、最も好ましくは0体積%である。
【0074】
上記バインダー等を使用せずに導電性膜を作製する方法として、上記デラミネーションにて得られた、2次元粒子を含む上澄み液を、吸引ろ過すること、または、2次元粒子を分散媒と混合し適度な濃度のスラリーとした形態でスプレーした後に分散媒を乾燥等により除去する工程を1回もしくは複数回行うことで、導電性膜を作製できる。上記スプレーの方法は、例えば、エアレススプレー法またはエアースプレー法であってよく、具体的には、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いてスプレーする方法が挙げられる。スラリーに含まれうる分散媒としては、水;N-メチルピロリドン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、酢酸等の有機系媒体等が挙げられる。
【0075】
上記バインダーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0076】
上記導電性膜の導電率は、好ましくは2,000S/cm以上、より好ましくは5,000S/m以上、さらに好ましくは10,000S/cm以上であり、例えば100,000S/cm以下、さらには50,000S/cm以下であってよい。
【0077】
本実施形態の導電性膜の導電率は、導電性膜の厚さと、4探針法で測定した導電性膜の表面抵抗率を下記式に代入して求められる。
導電率[S/cm]=1/(導電性膜の厚さ[cm]×導電性膜の表面抵抗率[Ω/sq.])
【0078】
(実施形態4:導電性ペーストおよび導電性複合材料)
本実施形態の2次元粒子を用いたその他の用途として、上記2次元粒子と必要に応じて用いる樹脂や添加剤(分散媒、粘度調整剤等)とを含む導電性ペースト、上記2次元粒子と樹脂とを含む導電性複合材料が挙げられる。これらも、高湿条件下であっても高い導電率を維持できることが求められる用途に適している。
【0079】
上記導電性ペースト、導電性複合材料に含まれうる樹脂としては、導電性膜に含まれうる樹脂と同様の樹脂が挙げられる。また、導電性ペーストに含まれうる分散媒としては、水;N-メチルピロリドン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、酢酸等の有機系媒体等が挙げられる。
【0080】
(実施形態5:電極)
本実施形態に係る電極は、上記導電性膜を含む。かかる電極は、上記導電性膜のみから形成されていてもよいし、上記導電性膜と、例えば基材とを含んでいてもよい。
【0081】
本実施形態の電極は、上記導電性膜を含んでいればよく、具体的な形態まで限定されない。電極は、固体状態のものから、フレキシブル性のある軟質状態のものまで挙げられる。
【0082】
本実施形態の電極において、上記導電性膜は、測定対象物と直接接するように外気にさらされていてもよいし、基材等で覆われていてもよい。
【0083】
本実施形態の電極が基材を有する場合、上記導電性膜と基材は直接接触していてもよい。基材の材質は、特に限定されず、例えば、セラミック、ガラス等の無機材料であってよく、有機材料であってよい。かかる有機材料として、例えば、フレキシブル有機材料が挙げられ、具体的には熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、PETフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。また、基材の材質は、紙、布等の繊維材料(例えば、シート状繊維材料)であってよい。
【0084】
(電極の用途)
本実施形態の電極は、任意の適切な用途に利用され得る。例えば、電気化学測定をする際の対極や参照極、電気化学キャパシタ用電極、電池用電極、生体電極、センサ用電極、アンテナ用電極などが挙げられる。電磁シールド(EMIシールド)等、高い導電率を維持すること(初期導電率の低下を低減し、酸化を防止すること)が要求されるような用途にも利用され得る。以下、これらの用途の詳細について説明する。
【0085】
電極は、特に限定されないが、例えばキャパシタ用電極、バッテリ用電極、生体信号センシング電極、センサ用電極、アンテナ用電極などであり得る。上記導電性膜を使用することにより、より小さい容積(装置占有体積)でも、大容量のキャパシタおよびバッテリ、低インピーダンスの生体信号センシング電極、高感度のセンサおよびアンテナを得ることができる。
【0086】
キャパシタは、電気化学キャパシタであり得る。電気化学キャパシタは、電極(電極活物質)と電解液中のイオン(電解質イオン)との間での物理化学反応に起因して発現する容量を利用したキャパシタであり、電気エネルギーを蓄えるデバイス(蓄電デバイス)として使用可能である。バッテリは、繰り返し充放電可能な化学電池であり得る。バッテリは、例えばリチウムイオンバッテリ、マグネシウムイオンバッテリ、リチウム硫黄バッテリ、ナトリウムイオンバッテリなどであり得るが、これらに限定されない。
【0087】
生体信号センシング電極は、生体信号を取得するための電極である。生体信号センシング電極は、例えばEEG(脳波)、ECG(心電図)、EMG(筋電図)、EIT(電気インピーダンストモグラフィ)を測定するための電極であり得るが、これらに限定されない。
【0088】
センサ用電極は、目的の物質、状態、異常等を検知するための電極である。センサは、例えばガスセンサ、バイオセンサ(生体起源の分子認識機構を利用した化学センサ)などであり得るが、これらに限定されない。
【0089】
アンテナ用電極は、空間に電磁波を放射する、および/または、空間中の電磁波を受信するための電極である。アンテナ用電極が構成するアンテナは、携帯電話を始めとするモバイルコミュニケーション用のアンテナ(いわゆる3G、4G、5G用のアンテナ)や、RFID用のアンテナ、あるいはNFC(Near Field Communication)用のアンテナなど特に限定されない。
【0090】
本実施形態の電極は、好ましくはアンテナ用電極として用いられる。上記導電性膜を含む電極は、高い導電率および高い耐湿性を有するとともに、導電性膜として高い平滑性を有する。このような特性を有する電極は通信距離を伸ばすうえで有利に用いることができる。
【0091】
以上、本開示の1つの実施形態における2次元粒子について詳述したが、種々の改変が可能である。なお、本開示の2次元粒子は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本開示の2次元粒子の製造方法は、上述の実施形態における2次元粒子を提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0092】
以下の実施例により本開示を更に具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【0093】
[実施例1~8、比較例1~2]
〔2次元粒子の作製〕
実施例1~8、比較例1~2では、以下に詳述する、(1)前駆体(MAX)の準備、(2)前駆体のエッチング、(3)洗浄、(4)インターカレーション、(5)デラミネーション、(6)水洗浄、を順に実施して、2次元粒子を作製した。
【0094】
(1)前駆体(MAX)の準備
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1,350℃で2時間焼成した。得られた焼成体(ブロック)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、前駆体(MAX)としてTi3AlC2粒子を得た。
【0095】
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチング条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成は表1参照
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24時間
・スターラー回転数:400rpm
【0096】
(3)洗浄
上記スラリーを2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。各遠沈管に純水35mLを追加し、再度3500Gで5分間遠心分離を行って上澄み液を分離除去する操作を11回繰り返した。最終遠心分離後に、上澄み液を廃棄し、Ti3C2Ts-水分媒体クレイを得た。
【0097】
(4)インターカレーション
上記方法で調製したTi3C2Ts-水分媒体クレイに対し、85質量%リン酸水溶液 5.3g、Li3PO4 0.68g、純水31.9gとを添加し、20℃以上25℃以下で24時間撹拌して、リチウムイオンをインターカレーターとするインターカレーションを行った。インターカレーションの詳細な条件は以下の通りである。
(インターカレーションの条件)
・Ti3C2Ts-水分媒体クレイ(洗浄後MXene):固形分0.5g
・金属含有化合物:Li3PO4 0.68g
・インターカレーション容器:100mLアイボーイ
・温度:20℃以上25℃以下(室温)
・時間:24時間
・スターラー回転数:700rpm
【0098】
(5)デラミネーション
インターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3,500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を回収した。さらに、pH3.5に調整したリン酸水溶液35mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3,500Gで5分間遠心分離し、上澄み液を単層MXene粒子含有液として回収する操作を、4回繰り返して、単層MXene粒子含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液に対し、遠心分離機を用いて4,300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。
【0099】
[実施例9]
前駆体(MAX)の準備、エッチング工程、洗浄工程およびデラミネーション工程を実施例1と同様に行った後、下記(5)の工程を実施して、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを作製した。
(1)前駆体(MAX)の準備:実施例1~8と同じ
(2)前駆体のエッチング:実施例1~8と同じ
(3)洗浄:実施例1と同じ
(4)インターカレーション:実施例1~8と同じ
(5)デラミネーション
インターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を得た。さらに、この上澄み液に対し、遠心分離機を用いて4,300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。
【0100】
[実施例10]
前駆体(MAX)の準備、エッチング工程、洗浄工程およびデラミネーション工程を実施例1と同様に行った後、下記(5)の工程を実施して、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを作製した。
(1)前駆体(MAX)の準備:実施例1~8と同じ
(2)前駆体のエッチング:実施例1~8と同じ
(3)洗浄:実施例1と同じ
(4)インターカレーション:実施例1~8と同じ
(5)デラミネーション
インターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3,500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を回収し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。さらに、純水35mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3,500Gで5分間遠心分離し、上澄み液を単層MXene粒子含有液として回収する操作を行って、単層MXene粒子含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液に対し、遠心分離機を用いて4,300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。
【0101】
[実施例11]
前駆体(MAX)の準備、エッチング工程、洗浄工程およびデラミネーション工程を実施例1と同様に行った後、下記(5)の工程を実施して、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを作製した。
(1)前駆体(MAX)の準備:実施例1~8と同じ
(2)前駆体のエッチング:実施例1~8と同じ
(3)洗浄:実施例1と同じ
(4)インターカレーション:実施例1~8と同じ
(5)デラミネーション
インターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3,500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を回収し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。さらに、純水35mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3,500Gで5分間遠心分離し、上澄み液を単層MXene粒子含有液として回収する操作を、2回繰り返し、単層MXene粒子含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液に対し、遠心分離機を用いて4,300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。
【0102】
[実施例12]
前駆体(MAX)の準備、エッチング工程、洗浄工程およびデラミネーション工程を実施例1と同様に行った後、下記(5)の工程を実施して、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを作製した。
(1)前駆体(MAX)の準備:実施例1~8と同じ
(2)前駆体のエッチング:実施例1~8と同じ
(3)洗浄:実施例1と同じ
(4)インターカレーション:実施例1~8と同じ
(5)デラミネーション
インターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3,500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を回収し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。さらに、純水35mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3,500Gで5分間遠心分離し、上澄み液を単層MXene粒子含有液として回収する操作を、3回繰り返し、単層MXene粒子含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液に対し、遠心分離機を用いて4,300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。
【0103】
[実施例13]
前駆体(MAX)の準備、エッチング工程、洗浄工程およびデラミネーション工程を実施例1と同様に行った後、下記(5)の工程を実施して、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを作製した。
(1)前駆体(MAX)の準備:実施例1~8と同じ
(2)前駆体のエッチング:実施例1~8と同じ
(3)洗浄:実施例1と同じ
(4)インターカレーション:実施例1~8と同じ
(5)デラミネーション
インターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3,500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を回収し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。さらに、純水35mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3,500Gで5分間遠心分離し、上澄み液を単層MXene粒子含有液として回収する操作を、4回繰り返し、単層MXene粒子含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液に対し、遠心分離機を用いて4,300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。
【0104】
[比較例3]
前駆体(MAX)の準備を実施例1と同様に行った後、下記(2)の工程を実施し、洗浄工程は実施例と同様に行い、さらに下記(4)および(5)の工程を実施して、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを作製した。
(1)前駆体(MAX)の準備:実施例1と同じ
(2)前駆体のエッチング
上記(1)の工程で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチング条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:49%HF 6mL
H2O 18mL
HCl(12M) 36mL
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
(3)洗浄:実施例1と同じ
(4)インターカレーション
上記方法で調製したTi3C2Ts-水分媒体クレイに対し、LiCl 0.75gと、純水37.2gとを添加し、20℃以上25℃以下で24時間撹拌して、リチウムイオンをインターカレーターとするインターカレーションを行った。インターカレーションの詳細な条件は以下の通りである。
(インターカレーションの条件)
・Ti3C2Ts-水分媒体クレイ(洗浄後MXene):固形分0.5g
・金属含有化合物:LiCl 0.75g
・インターカレーション容器:100mLアイボーイ
・温度:20℃以上25℃以下(室温)
・時間:24時間
・スターラー回転数:700rpm
(5)デラミネーション
インターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3,500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を回収し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。さらに、純水35mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3,500Gで5分間遠心分離し、上澄み液を単層MXene粒子含有液として回収する操作を、4回繰り返し、単層MXene粒子含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液に対し、遠心分離機を用いて4,300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。
【0105】
[比較例4]
前駆体(MAX)の準備を実施例1と同様に行った後、下記(2)の工程を実施し、洗浄工程を実施した後、下記(5)の工程を実施して、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを作製した。
(1)前駆体(MAX)の準備:実施例1と同じ
(2)前駆体のエッチングおよびインターカレーション
上記(1)の工程で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(スラリー)を得た。
(エッチングおよびインターカレーション条件)
・前駆体:Ti3AlC2(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:LiF 3g
HCl(9M) 30mL
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
(3)洗浄:実施例1と同じ
(5)デラミネーション
インターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3,500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を回収し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。さらに、純水35mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3,500Gで5分間遠心分離し、上澄み液を単層MXene粒子含有液として回収する操作を、4回繰り返し、単層MXene粒子含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液に対し、遠心分離機を用いて4,300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。
【0106】
[比較例5、6]
前駆体(MAX)の準備、エッチング工程、洗浄工程およびデラミネーション工程を実施例1と同様に行った後、下記(5)の工程を実施して、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを作製した。
(1)前駆体(MAX)の準備:実施例1~8と同じ
(2)前駆体のエッチング:実施例1~8と同じ
(3)洗浄:実施例1と同じ
(4)インターカレーション:実施例1~8と同じ
(5)デラミネーション
インターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3,500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を回収し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。さらに、純水35mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3,500Gで5分間遠心分離し、上澄み液を単層MXene粒子含有液として回収する操作を、4回繰り返し、単層MXene粒子含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液に対し、遠心分離機を用いて4,300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを得た。
【0107】
(リン原子含有率の測定方法)
実施例1~13、比較例1~6で得られた2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを吸引ろ過した。ろ過後は80℃で24時間の真空乾燥を行って2次元粒子を含む導電性膜を作製した。吸引ろ過のフィルターには、メンブレンフィルター(メルク株式会社製、デュラポア、孔径0.45μm)を用いた。上記上澄み液中には、2次元粒子の固形分で0.05g、純水40mLが含まれていた。
【0108】
得られた2次元粒子を含む導電性膜をX線光電子分光法(XPS)により測定し、2次元粒子に含まれるリン原子の含有率を測定した。XPS測定には、アルバック・ファイ社製Quantum2000を使用した。
【0109】
2次元粒子に含まれるリン原子の含有率は、実施例1では0.20質量%、実施例2では0.25質量%、実施例3では0.32質量%、実施例4では0.34質量%、比較例1では0.14質量%、比較例2では0.18質量%、比較例5では0.20質量%、比較例6では0.34質量%であった。
【0110】
(Li原子含有率の測定方法)
実施例1~13、比較例1~6で得られた2次元粒子(単層MXene粒子)をアルカリ溶融法により溶液化して得られた溶液を、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により測定し、2次元粒子に含まれる金属カチオンを検出した。ICP-AES測定には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のiCAP7400を使用した。
【0111】
2次元粒子に含まれるLi原子の含有率は、実施例1では0.30質量%であった。
【0112】
【0113】
(7Li NMR測定方法:第1成分および第2成分の定量)
Ar雰囲気(露点-60℃未満)のグローブボックス内において、2次元粒子(単層MXene粒子)と乾燥させたAl2O3粉とを、質量比1:9で混合し、メノウ乳鉢で粉砕して、混合粉を得た。混合粉を、上記グローブボックス内において、外径4mmの固体NMR用ジルコニア製試料管に充填し、Kel-F製キャップをし、NMR測定試料とした。2次元粒子(単層MXene粒子)とAl2O3粉とを合わせた試料の量は、200mgとした。
【0114】
7Li NMR装置(分光計)として、Bruker社製のAVANCE III 400(磁場強度9.4T、7Li核の共鳴周波数155.455MHz)を用いた。プローブとしては、Bruker社製のPH MAS 400S1 BL4 N-P/H VTNを用いた。
【0115】
以下の条件で7Li NMR測定を実施し、1次元の7Li NMRスペクトルを得た。
測定法:マジック角回転+シングルパルス法
マジック角回転速度:15kHz
パルス強度:28~56kHz(出力は100Wに固定)
パルスフリップ角:90°
積算遅延時間:4秒
積算回数:1,024回
【0116】
得られた7Li NMRスペクトルに対し、2成分のローレンツ曲線で回帰し、各ピークの化学シフト値および相対面積を求めた。基準物質は、1mol/L LiCl水溶液におけるLiとした。Liの回帰計算、化学シフト値および相対面積の算出には、Bruker社製NMRコンソールソフトウェア付属のスペクトルフィッティング機能を用いた。化学シフト値から、第1成分、第2成分のそれぞれに帰属されるピークを特定し、第1成分に帰属されるピークの相対面積S1および第2成分に帰属されるピークの相対面積S2から、第1成分の割合(原子基準)を、S1/(S1+S2)として算出した。結果を表2に示す。
【0117】
【0118】
実施例の2次元粒子では、第1成分と第2成分の合計における第1成分の割合が、17原子%以上70原子%以下の範囲であった。特に、実施例4、5では、デラミネーションの際にリン酸水溶液を用いた一方、実施例9~13では、デラミネーションの際、リン酸水溶液を用いず、純水のみを用いている。実施例4、5と実施例9~13では、エッチング条件が異なるため、MXene層の表面基の状態が異なっており、実施例9~13では、純水のみのデラミネーションで、第1成分と第2成分の合計における第1成分の割合が、17原子%以上70原子%以下である2次元粒子が得られたものと考えられる。一方、比較例3、4の2次元粒子では、第1成分と第2成分の合計における第1成分の割合が、70原子%を超えており、比較例5、6の2次元粒子では、第1成分は検出されなかった。
【0119】
(7Li NMR測定方法:T2緩和時間の測定)
実施例5および比較例2~4の2次元粒子について、第1成分および第2成分の定量と同様にNMR測定試料を調製し、第1成分および第2成分の定量と同じ7Li NMR装置を用いた。
【0120】
以下の条件で7Li NMR測定を実施し、1次元の7Li NMRスペクトルを得た。
測定法:マジック角回転+CPMG法
マジック角回転速度:12.5kHz
パルス強度:28~56kHz(出力は100Wに固定)
エコー時間:160μ秒
エコー回数:48回
積算遅延時間:4秒
積算回数:1,024回
【0121】
得られた時間領域データに位相補正を施した後の実成分に対し、各エコーの相対面積を、リフォーカス時刻に対してプロットした。このエコー減衰プロファイルに対し、上記の定量測定で得られた第1成分および第2成分の相対面積を係数比として固定した指数関数の和で回帰し、それぞれの時定数(T2緩和時間)を求めた。
【0122】
実施例5の2次元粒子における第1成分のT2緩和時間は0.47ms、第2成分のT2緩和時間は、1.7msであった。比較例2の2次元粒子における第1成分のT2緩和時間は0.36ms、第2成分のT2緩和時間は2msであった。比較例3の2次元粒子における第1成分のT2緩和時間は0.56ms、第2成分のT2緩和時間は1.5msであった。比較例4の2次元粒子における第1成分のT2緩和時間は0.44ms、第2成分のT2緩和時間は1.2msであった。これらの2次元粒子において、第1成分のT2緩和時間は、第1成分のT2緩和時間より短く、第1成分の方が、物質と強く相互作用していると考えられる。
【0123】
(導電性コンポジット膜作製方法1)
実施例5の2次元粒子の分散液(2次元粒子(MXene固形分)濃度:6.4質量%)50gにポリウレタン溶液(大日精化工業株式会社製、不揮発分濃度35質量%)を純水で100倍希釈した溶液を52.750g加え、コンポジットとした。その後、コンポジットをオートマチックシェイカー(F&FM社製 SK550)を用いて15分攪拌した。ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製カプトンフィルム)を用意し、酸素プラズマ処理(サムコ株式会社製 PC-1000)でポリイミドフィルム表面を親水化させた後、前述のコンポジットをフィルムに30回スプレー塗付した。なお、1回スプレー塗布ごとにドライヤーで2分乾燥させた。スプレーノズルにはATOMAX社製ノズルを用いた。
【0124】
塗付後、80℃の常圧オーブンで2時間乾燥させ、その後150℃の真空オーブンで一晩乾燥させ、スプレー膜を得た。得られたコンポジットスプレー膜の膜厚は4.4μmであり、後述する導電率測定方法により測定した初期導電率は17,668S/cmであった。また、常温で湿度99%下、14日間耐湿性試験を実施した後、同様に測定した導電率は8,127S/cmであり、初期導電率からの変化率は、46%であった。
【0125】
比較例3の2次元粒子の分散液(2次元粒子(MXene固形分)濃度:3.25質量%)25.221gにポリウレタン溶液(大日精化工業株式会社製、不揮発分濃度35質量%)を純水で100倍希釈した溶液を14.779g加え、コンポジットとした。その後、コンポジットをオートマチックシェイカー(F&FM社製 SK550)を用いて15分攪拌した。ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製カプトンフィルム)を用意し、酸素プラズマ処理(サムコ株式会社製 PC-1000)でポリイミドフィルム表面を親水化させた後、前述のコンポジットをフィルムに30回スプレー塗付した。なお、1回スプレー塗布ごとにドライヤーで2分乾燥させた。スプレーノズルにはATOMAX社製ノズルを用いた。
【0126】
塗付後、80℃の常圧オーブンで2時間乾燥させ、その後150℃の真空オーブンで一晩乾燥させ、スプレー膜を得た。得られたコンポジットスプレー膜の膜厚は3.2μmで、後述する導電率測定方法により測定した初期導電率は10,269S/cmであり、実施例5の2次元粒子を用いた場合よりも低い結果となった。また、常温湿度99%下14日間耐湿性試験を実施した後、同様に測定した導電率は3,081S/cmであり、初期導電率からの変化率は、30%であった。
【0127】
以上より、実施例5の2次元粒子を含む導電性コンポジット膜では、初期導電率が高く、耐湿性も良好であることが確認された。一方、比較例3の2次元粒子では、第1成分と第2成分の合計における、第1成分の割合が70原子%を超えており、初期導電率、耐湿性が十分に満足できるものではなかった。
【0128】
(導電性膜の製造方法1)
実施例4、6、7、比較例3、4で得られた2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイ0.5gに純水15mLを加えた後、ヌッチェを用いて吸引ろ過した。ろ過後は、80℃で24時間の真空乾燥を行って2次元粒子を含む導電性膜を作製した。吸引ろ過のフィルターには、メンブレンフィルター(孔径0.22um)を用いた。
【0129】
実施例4で得られた2次元粒子を含む導電性膜のフィルム密度は3.6g/cm3であり、導電率は14,000S/cmであった。実施例6で得られた2次元粒子を含む導電性膜のフィルム密度は3.7g/cm3であり、導電率は15,700S/cmであり、導電率変化率は95%であった。実施例7で得られた2次元粒子を含む導電性膜のフィルム密度は3.2g/cm3であり、導電率は13,600S/cmであり、導電率変化率は94%であった。比較例3で得られた2次元粒子を含む導電性膜のフィルム密度は2g/cm3であり、導電率は9,000S/cmであり、導電率変化率は78%であった。比較例4で得られた2次元粒子を含む導電性膜のフィルム密度は2g/cm3であり、導電率は6,000S/cmであり、導電率変化率は23%であった。
【0130】
以上より、実施例で得られた2次元粒子を含む導電性膜は、高導電率を有し、耐湿性も良好であることが確認された。一方、比較例3、4では、第1成分と第2成分の合計における第1成分の割合が70原子%を超えており、得られた導電性膜の導電率、導電率変化率とも十分に満足できるものではなかった。
【0131】
(導電性膜の製造方法2)
実施例1~13で得られた2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイを、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラー)上に120μm以下の厚さとなるように塗工した。その後、空気乾燥して、塗工による導電性膜を得た。得られた導電性膜の膜厚は、1μmであった。
【0132】
(導電性膜の製造方法3)
実施例1~13で得られた2次元粒子(単層MXene粒子)を含むクレイ0.5gに純水4mLを加えた。その後、スプレーガン(タミヤ製エアブラシ)で、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラー)上に1~30回スプレー塗布した。なお、1回スプレー塗布ごとにドライヤーで2分乾燥させた。塗付後、80℃の常圧オーブンで2時間乾燥させ、その後150℃の真空オーブンで一晩乾燥させ、スプレー膜を得た。
【0133】
導電性膜のフィルム密度、導電率、導電率変化率は、以下の方法により測定した。
【0134】
(フィルム密度測定方法)
フィルムをパンチで直径12mmφに打ち抜き、電子天秤で重量を測定し、ハイトゲージで厚さを測定した。得られた値からフィルム密度を計算した。
【0135】
(導電性膜の導電率測定方法)
得られた2次元粒子を含む導電性膜の導電率を求めた。導電率は、1サンプルにつき3箇所で、抵抗率(Ω)および厚さ(μm)を測定して、これら測定値から導電率(S/cm)を算出し、これにより得られた3つの導電率の平均値を採用した。抵抗率測定には、簡易型低抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリティック製、ロレスタAX MCP-T370)を用いて導電性膜の表面抵抗を4端子法にて測定した。厚さ測定には、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、MDH-25MB)を用いた。そして、得られた表面抵抗と導電性膜の厚さから体積抵抗率を求め、その値の逆数を取ることで導電率を求めE0とした。
【0136】
(導電率変化率測定方法)
相対湿度99%温度25℃の恒温恒湿槽内に導電性膜を設置した。7日間静置後、導電率を測定し、Eとした。EをE0で除することで、導電率変化率とした。
【符号の説明】
【0137】
1a、1b 層本体(MmXn層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10、10a、10b MXene粒子(層状材料の2次元粒子)