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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-21
(45)【発行日】2025-08-29
(54)【発明の名称】印刷用パッド
(51)【国際特許分類】
   B41M 1/40 20060101AFI20250822BHJP
   B41F 17/34 20060101ALI20250822BHJP
【FI】
B41M1/40 C
B41F17/34 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024517755
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2022019263
(87)【国際公開番号】W WO2023209941
(87)【国際公開日】2023-11-02
【審査請求日】2024-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000145378
【氏名又は名称】株式会社秀峰
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岡 貢治
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-085140(JP,U)
【文献】国際公開第2021/166115(WO,A1)
【文献】特開2013-146569(JP,A)
【文献】特開2017-170910(JP,A)
【文献】米国特許第07870823(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/40
B41F 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキが置かれた印刷原版及び印刷する対象である被印刷面に押し付けられる印刷面と、
内部に配置された内部層と、
前記内部層の前記印刷面が配置されている側の表面に接して設けられている外部層と、を備え、
前記外部層は、
外側の表面に前記印刷面を有し、前記被印刷面に押し付けた際に前記印刷面が前記被印刷面に追従して密着するように構成され、
前記内部層は、
内部に空洞が形成されており、前記外部層よりも高い硬度を有する、印刷用パッド。
【請求項2】
インキが置かれた印刷原版及び印刷する対象である被印刷面に押し付けられる印刷面と、
内部に配置された内部層と、
前記内部層の前記印刷面が配置されている側の表面に接して設けられている外部層と、を備え、
前記外部層は、
外側の表面に前記印刷面を有し、前記被印刷面に押し付けた際に前記印刷面が前記被印刷面に追従して密着するように構成され、
前記内部層は、
内部に空洞が形成されており
前記印刷面が配置されている側の端部とは反対側の端部が開口された碗状の部材である、印刷用パッド。
【請求項3】
インキが置かれた印刷原版及び印刷する対象である被印刷面に押し付けられる印刷面と、
内部に配置された内部層と、
前記内部層の前記印刷面が配置されている側の表面に接して設けられている外部層と、を備え、
前記外部層は、
外側の表面に前記印刷面を有し、前記被印刷面に押し付けた際に前記印刷面が前記被印刷面に追従して密着するように構成され、
前記内部層は、
内部に空洞が形成されており
前記内部層の前記空洞を含めた体積は、
前記外部層及び前記空洞を含めた前記内部層を合わせた体積の40%以下である、印刷用パッド。
【請求項4】
インキが置かれた印刷原版及び印刷する対象である被印刷面に押し付けられる印刷面と、
内部に配置された内部層と、
前記内部層の前記印刷面が配置されている側の表面に接して設けられている外部層と、を備え、
前記外部層は、
外側の表面に前記印刷面を有し、前記被印刷面に押し付けた際に前記印刷面が前記被印刷面に追従して密着するように構成され、
前記内部層は、
内部に空洞が形成されており表面形状が、前記印刷面が前記被印刷面に押し付けられた状態における前記外部層の表面形状と近似しており、
前記内部層の表面に設けられた凹部は、前記被印刷面に押し付けられた状態の前記外部層の表面形状の凹形状と対応した位置に形成されている、印刷用パッド。
【請求項5】
インキが置かれた印刷原版及び印刷する対象である被印刷面に押し付けられる印刷面と、
内部に配置された内部層と、
前記内部層の前記印刷面が配置されている側の表面に接して設けられている外部層と、を備え、
前記外部層は、
外側の表面に前記印刷面を有し、前記被印刷面に押し付けた際に前記印刷面が前記被印刷面に追従して密着するように構成され、
前記内部層は、
内部に空洞が形成されており押し付け方向に長い形状であり、
前記外部層の厚みは、
頂点において最も薄く、周辺部に向かうに従い厚くなる、印刷用パッド。
【請求項6】
前記内部層及び前記外部層は、
前記印刷面が配置されている側の端部とは反対側の端部においてそれぞれ支持部材に固定されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の印刷用パッド。
【請求項7】
前記内部層は、
プラスチック発泡体により構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の印刷用パッド。
【請求項8】
前記内部層は、
前記印刷面が配置されている側の端部とは反対側の端部が開口された碗状の部材である、請求項1、3、4、5のいずれか1項に記載の印刷用パッド。
【請求項9】
前記内部層の前記空洞を含めた体積は、
前記外部層及び前記空洞を含めた前記内部層を合わせた体積の40%以下である、請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載の印刷用パッド。
【請求項10】
前記内部層及び前記外部層の前記印刷面が配置されている側の表面は、
形状が相似である、請求項1~5のいずれか1項に記載の印刷用パッド。
【請求項11】
前記内部層は、
表面形状が、前記印刷面が前記被印刷面に押し付けられた状態における前記外部層の表面形状と近似しており、
前記内部層の表面に設けられた凹部は、前記被印刷面に押し付けられた状態の前記外部層の表面形状の凹形状と対応した位置に形成されている、請求項1、2、3、5のいずれか1項に記載の印刷用パッド。
【請求項12】
前記内部層は、
押し付け方向に長い形状であり、
前記外部層の厚みは、
頂点において最も薄く、周辺部に向かうに従い厚くなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の印刷用パッド。
【請求項13】
前記外部層の外側の表面に接して設けられた保護被膜層を更に備え、
前記保護被膜層は、
前記外部層よりもアスカーC硬度が高く、
前記印刷面は、
前記保護被膜層の外側の表面に形成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の印刷用パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直線的に移動させて印刷面を被印刷面に押し付けて印刷を行う印刷用パッドに関し、特に、印刷用パッドの内部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オフセット印刷は、印刷原版に印刷用パッドの印刷面を押し付け、印刷原版に印刷パターンに応じて載せられたインクを印刷用パッドに転写する。そして、インクが転写された印刷用パッドの印刷面を被印刷面に押し付けて、インクを被印刷面に転写することによって、被印刷面に印刷パターンを印刷するものである。
【0003】
特許文献1に開示されている発明においては、印刷用パッドは、印刷原版に押し付けられる。印刷原版は、微細ドットパターンのインクが載置されている。印刷原版に押し付けられた印刷用パッドは、印刷原版に保持されたインクが転写される。また、印刷用パッドは、印刷原版に押し付けられてインクが転写され印刷物は、印刷用パッドからインクが転写される。
【0004】
特許文献1に開示されている印刷用パッド(印刷用ブランケット)は、印刷原版に載置されたインクが印刷面に転写され、印刷面に転写されたインクを印刷物に転写する。印刷用パッドは、内部層と内部層の外側に接して設けられた外部層とを備え、内部層及び外部層の硬度を変えることにより、凹凸形状を有する印刷物に追従するため、複雑形状の被印刷面であっても印刷が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6689375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の印刷用パッドは、複雑な形状の被印刷面に印刷をするため、表面の印刷面が被印刷面よりも大きく形成されている。印刷用パッドは、例えばシリコーンゴムなどの弾性体で構成されており、複雑な形状の被印刷面に追従するよう、印刷面が印刷の対象となる被印刷面の全域に密着する程度に変形させる必要がある。従って、印刷用パッドは、印刷面を構成する弾性体を多く必要とし、寸法的にも重量的にも大きくなり、交換時などに取り扱いが困難であるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、複雑な形状の被印刷面への印刷を可能としながら、軽量かつ材料の使用量を抑制できる印刷用パッドを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る印刷用パッドは、インキが置かれた印刷原版及び印刷する対象である被印刷面に押し付けられる印刷面と、内部に配置された内部層と、前記内部層の前記印刷面が配置されている側の表面に接して設けられている外部層と、を備え、前記外部層は、外側の表面に前記印刷面を有し、前記被印刷面に押し付けた際に前記印刷面が前記被印刷面に追従して密着するように構成され、前記内部層は、内部に空洞が形成されており、前記外部層よりも高い硬度を有する
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、印刷用パッドに使用される弾性体の重量を削減できるため、交換時などの取り扱いが容易になり、印刷用パッドに掛かる材料費も少なくコストを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る印刷装置100の一例を表した側面図である。
図2】実施の形態1に係る印刷装置100が備える印刷用パッド10の一例を示す断面図である。
図3】実施の形態1に係る印刷装置100が備える印刷用パッド10が印刷物70に押し付けられる際の断面図である。
図4】実施の形態1に係る印刷装置100が備える印刷用パッド10が印刷物70に押し付けられる際の断面図である。
図5】実施の形態1に係る印刷装置100に用いられる印刷原版50の一例を示す断面図である。
図6】実施の形態1に係る印刷装置100の印刷ステージ87周辺の模式図である。
図7】実施の形態1に係る印刷装置100の送風機66の変形例である。
図8】実施の形態1に係る印刷装置100の機能ブロック図の一例である。
図9】実施の形態1に係る印刷装置100による印刷物70の製造方法のフローチャートである。
図10図4の印刷面4と被印刷面71、72、及び73との接触部の拡大図である。
図11図10の被印刷面73に転写されるインク40f又は40gの拡大図である。
図12】実施の形態1に係る印刷装置100による印刷物70の製造方法のフローチャートのうち、印刷用パッド10が印刷原版50からインク40を受け取り、印刷物70に押し付けられるまでのフローチャートの変形例である。
図13】実施の形態2に係る印刷用パッド10の内部層1の単品斜視図である。
図14】実施の形態1に係る印刷用パッド10の変形例を示す断面図である。
図15】実施の形態1に係る印刷用パッド10の変形例の断面図である。
図16図15の印刷用パッド10を印刷物70に押し付けた状態の断面図である。
図17】実施の形態1に係る印刷用パッド10の変形例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、本発明に係る印刷用パッドについて、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図において同じ部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。また、各図は模式的に描かれたものであって、本発明は図示された形状に限定されるものではない。また、本明細書において、弾性体又は弾性とは、これに加わる荷重と該荷重によって生じる変形量とが直線的な関係にあるものに限定するものではない。加わる荷重と該荷重によって生じる変形量とが非直線的な関係であって、加わっていた荷重が除かれた場合に、即時又は所定の時間後に、元の形状に戻るものを含んでいる。
【0012】
<印刷装置100>
図1は、実施の形態1に係る印刷装置100の一例を表した側面図である。印刷装置100は、印刷原版50の上に載置されたインクを印刷用パッド10の印刷面4に転写し、さらに印刷面4に転写されたインクを印刷物70の被印刷面71に転写するものである。被印刷面71は、凹凸形状を備える場合がある。印刷装置100は、印刷用パッド10の押し付け方向に対し被印刷面71が傾斜した面を有していた場合に、その傾斜した面に対しても印刷が可能なものである。
【0013】
印刷装置100は、上下方向に直線的に移動可能な印刷用パッド10を備える。印刷用パッド10は、印刷装置100が備える上下方向移動装置11により上下動され、印刷物70の被印刷面71に印刷面4を押し付け、印刷面4に転写されたインクを被印刷面71に転写するものである。また、印刷装置100は、水平方向移動装置12を備える。水平方向移動装置12は、印刷用パッド10及び上下方向移動装置11を水平方向に移動させる。印刷用パッド10は、水平方向移動装置12により、印刷物70、クリーニング装置60、活性化装置61、エアーブロー装置62又は印刷原版50の上方に移動される。印刷用パッド10の印刷面4は、上下方向移動装置11により上下動し、印刷物70、クリーニング装置60、活性化装置61又は印刷原版50のそれぞれに押し付けられる。図1において、印刷装置100は、左側から印刷物70を載置する印刷ステージ87と、クリーニング装置60、活性化装置61及びエアーブロー装置62を備える表面処理ステージ86と、印刷原版50が載置される印刷原版ステージ85とを有する。ただし、印刷装置100において、これらのステージは、自由に配置することができ、作業者又は印刷装置100が設置される場所等の都合に合わせて適宜変更することが出来る。また、印刷装置100の各装置は、必要に応じて印刷装置100に設置されるものであり、設置されていない場合もある。
【0014】
図1に示す様に、印刷ステージ87には送風機66が設置されている。送風機66は、印刷用パッド10の印刷面4に向かって送風するものである。なお、印刷装置100は、送風機66又はエアーブロー装置62の何れか一方を備え、送風機66及びエアーブロー装置62として機能させても良い。
【0015】
<印刷用パッド10>
図2は、実施の形態1に係る印刷装置100が備える印刷用パッド10の一例を示す断面図である。図2は、図1の印刷用パッド10の断面図であり、印刷用パッド10の頂点6を通り、基材5が固定された支持部材7の平面13に対し垂直な断面を示している。印刷用パッド10は、例えば略半球形状である。印刷用パッド10の形状はこれに限定されず、例えば、砲弾形状、放物線をその対称軸周りに回転させてできる曲面を有する形状、楕円体を切断した一部等の形状、若しくは砲弾形状又は半円形状の断面を一直線上に連続的に伸ばした形状等、印刷物70の仕様等に応じて適宜形状を変更できる。印刷用パッド10は、印刷物70又は印刷原版50に最初に接触する頂部を備え、頂部が点又は線で構成される。これにより、印刷用パッド10は、印刷物70又は印刷原版50に押し付けられた際に、印刷面4と印刷物70又は印刷原版50との間に空気を噛み込むことが抑制される。空気の噛み込みを回避することにより、印刷原版50から印刷用パッド10へのインク40の転写の抜け及び印刷物70に施される印刷画像に抜けが発生するのを抑制できる。実施の形態1においては、印刷用パッド10の表面のうち、頂点6を中心とした所定の範囲が、印刷原版50からインク40を移し取り、印刷物70に転写する印刷面4となる。ただし、印刷面4は、頂点6を含まない様に設定されていても良い。
【0016】
図2に示されるように、印刷用パッド10の基材5は、内部層1と内部層1の外側の表面を覆うように配置された外部層2とを備える。内部層1及び外部層2は、それぞれが支持部材7に固定されている。なお、印刷用パッド10は、2層構造だけでなく更に多層構造であっても良い。
【0017】
外部層2は、例えばシリコーンゴムを成形して構成される。外部層2は、弾性(可撓性)を備え、変形しやすくするためにシリコーンオイルが混合されている。実施の形態1においては、外部層2は、略半球形状になっているが、印刷物70の仕様等に応じて適宜形状を変更することができる。外部層2は、印刷用パッド10が印刷原版50に押し付けられた際に変形し、印刷原版50の載置面51に載置されたインク40(図3参照)を印刷面4に移し取る。印刷原版50の載置面51に載置されたインク40は、印刷物70に印刷される画像に対応し配置されており、印刷パターンを形成している。
【0018】
図3及び図4は、実施の形態1に係る印刷装置100が備える印刷用パッド10が印刷物70に押し付けられる際の断面図である。例えば、内部層1は、図4に示されているように、外部層2が印刷物70に押し付けられ、印刷面4が被印刷面71、72及び73に追従して変形している場合においても、ほとんど変形しないように構成されている。その場合、例えば、印刷面4に近い部分を構成する外部層2の材料は、アスカーC硬度で0~20ポイントの範囲に設定される。そして、外部層2の内側にある内部層1は、例えばプラスチックの発泡体である。例えば、内部層1は、ABS発泡体、発泡スチロールなどの発泡プラスチックで構成されている。つまり、内部層1は、内部に空洞を有する構造である。実施の形態1においては、その空洞は、微細な気泡である。内部層1は、内部に空洞を有しながら、印刷物70への押し付け時に形状が維持できる程度の強度及び剛性を有する部材で構成されている。
【0019】
内部層1は、印刷時に印刷面4を被印刷面71、72、及び73に押し付けるための力を加えられる側に位置しており、印刷面4側から見て外部層2の内側に配置されている。支持部材7は、上下方向移動装置11に接続されており、上下方向移動装置11からの力を印刷用パッド10に伝達する部分である。
【0020】
印刷用パッド10が変形して被印刷面71、72及び73へ追従するためには、印刷用パッド10の硬度は低く(柔らかく)設定されるのが望ましいため、印刷物70に押し付けられる印刷面4側の部分の硬度、すなわち外部層2の硬度は、内部層1に対して低く設定されている必要がある。外部層2がこのように構成されることにより、印刷面4は柔らかい層により被印刷面71、72及び73に追従し易くなるとともに、印刷用パッド10の全体の形状は印刷物70に押し付けてもほぼ変形を生じない内部層1により保持されやすくなる。それと共に、被印刷面71、72、及び73に直接押し付けられる外部層2は、被印刷面71だけでなく、曲面である被印刷面72、及び印刷用パッド10が移動する方向に対し傾斜した被印刷面73へ追従するように変形し易いという利点がある。ただし、基材5の各部の硬度は上記の硬度に限定されるものではない。
【0021】
印刷用パッド10は、少なくとも印刷面4が被印刷面71、72及び73の面積の1.5倍以上の面積を確保するように構成されると良い。これにより、印刷用パッド10は、印刷物70に押し付けた際の変形率(印刷用パッド10の大きさに対する変形量の割合)が小さくなるため、印刷面4の被印刷面に対するすべりを抑えられる。また、印刷用パッド10の硬度を低くすることによっても、印刷面4の被印刷面に対するすべりを抑えられる。実施の形態1においては、印刷面4は、外部層2の表面にある。内部層1の表面(印刷面4)側を向いた表面は、外部層2の表面の形状と相似形状であっても良い。内部層1は、内部の空洞(実施の形態1においては内部の気泡)を含めた体積が基材5全体の体積の40%以下に設定されていると良い。
【0022】
<クリーニング装置60>
図1に示される様に、印刷装置100の印刷ステージ87の隣には表面処理ステージ86が配置されている。表面処理ステージ86には、クリーニング装置60が設置されている。クリーニング装置60は、例えば紙又は粘着テープを備える。印刷用パッド10の印刷面4は、紙又は粘着テープの表面に押し付けられることにより、印刷後に残存するインク40、汚れ、又はゴミ等が除去される。
【0023】
<活性化装置61>
活性化装置61は、液体を貯留する貯留槽、液体を吸収して保持する吸収ユニットを備える。印刷用パッド10の印刷面4は、吸収ユニットの表面に押し付けられることにより、吸収ユニットが保持する液体が付着する。印刷用パッド10は、基材5に水又は溶剤を付着、又はしみ込ませることにより、印刷原版50に載置されたインク40を印刷面4に転写し易くさせるものである。液体は、インク40との性質に応じて適宜選定されるものであって、硬いインク40を軟化させる性質を有する。インク40は、水又は溶剤に顔料又は染料を加えて構成されている。活性化装置61に用いられる液体は、例えば、アクリル樹脂又はウレタン樹脂等の合成樹脂類、及び水、シンナー、キシレン、又はトルエン等の混合剤であり、インク40に含まれる溶剤との親和性が高いものを選択すると良い。ただし、活性化装置61に用いられる液体は、上記のみに限定されるものではない。
【0024】
活性化装置61の吸収ユニットは、例えば薄いシート状の吸収材を積層して構成されていても良い。吸収材は、例えば紙によって構成されているが、紙のみに限定されず、液体を吸収するものであれば、布や樹脂などの他の材質により構成しても良い。例えば、吸収ユニットは、スポンジ状の樹脂の上に紙を積層させたものであっても良い。印刷用パッド10の印刷面4が押し付けられる吸収ユニットの表面は、印刷用パッド10の印刷面4に残存したインク40等の汚れが付着したり、吸収ユニットの表面が削られたりして吸収ユニットを構成する紙が破れたりする場合がある。よって、吸収ユニットの最も上の層に位置する紙は、吸収ユニットの最も上の層から剥離して除去し、積層してある一枚ずつを除去するか、機械的に上層部を交換できる様に構成されている。ただし、最も上の層に位置する紙の交換方法はこの方法のみに限定されるものではない。吸収ユニットは、最も上の層を構成する紙などを除去又は交換自在に構成され、表面が常に清浄に保たれており、かつ液体が染み渡っている。そのため、印刷用パッド10の印刷面4を吸収ユニットの表面に押し付ければ印刷面を活性化させることができる。なお、活性化装置61の吸収ユニットは、積層した構造に限定するものではなく、単一の部材により構成されていても良い。
【0025】
<エアーブロー装置62>
エアーブロー装置62は、活性化装置61により印刷用パッド10の印刷面4に付着した水又は溶剤を適量に調整するものである。エアーブロー装置62は、活性化装置61に押し付けられた後であってインクが転写される前の印刷面4に向けて空気を吹き付け、印刷面4から余分な水又は溶剤を除去する。なお、エアーブロー装置62の形式、数量、及び空気を吹き付ける方向は限定されるものではない。また、活性化装置61において印刷面4に付着する液体を適量に制御できるのであれば、エアーブロー装置62は省略しても良い。
【0026】
<印刷原版50>
印刷原版50は、印刷原版ステージ85の上に載置されるものであり、載置面51にインク40が載置され、印刷用パッド10の印刷面4を載置面51に押し付けることにより、印刷面4にインク40を転写する。
【0027】
図5は、実施の形態1に係る印刷装置100に用いられる印刷原版50の一例を示す断面図である。図5に示されている印刷原版50は、凹版である。印刷原版50は、平板形状であり、支持体53及び支持体53の上に形成された表面層52を備える。表面層52は、少なくとも印刷用パッド10の印刷面4が押し付けられる載置面51側が疎インク性を有する材料で形成されている。表面層52は、例えばレーザー光により部分的に破壊され除去されることにより、疎インク性を有する材料で形成された部分が除去されるものである。つまり、表面層52は、例えばレーザー光により除去され、載置面51に開口する凹部54が形成される。凹部54の底部55は、親インク性の材料で形成された支持体53が露出している。実施の形態1においては、表面層52は、インク40が付着しにくい疎インク性を備える疎インク層である。また、支持体53は、インク40が付着し易い親インク性を備える親インク層である。実施の形態1において、表面層52は、例えばシリコーンゴム又はシリコーン樹脂により形成されている。シリコーンゴム及びシリコーン樹脂は、疎インク性を備え、化学的に安定であるため、印刷原版50の表面層52として好適に用いられる。ただし、表面層52は、シリコーンゴム及びシリコーン樹脂にのみ限定されるものではなく、疎インク性を備える材質であれば、その他の材質を用いても良い。
【0028】
図5においては表面層52及び支持体53は、それぞれ1層で形成されているが、この形態に限定されるものではない。表面層52は、疎インク性を備え、例えばレーザー光により破壊される材料により1層で形成されても良いし、印刷用パッド10が押し付けられる側に疎インク層を備え、支持体53側に記録層を備えても良い。記録層は、例えばレーザー光を吸収し熱に変換し、記録層と疎インク層との間の接着強度を低下させることにより疎インク層を印刷原版50から除去できるようにするものである。または、記録層は、例えばレーザー光を吸収し熱に変換し、記録層が熱により破壊されることにより、支持体53と表面層52との間の結合力を低下させ、疎インク性を備える表面層52を印刷原版50から除去できるようにするものである。表面層52が疎インク層と記録層とにより構成される場合、疎インク層は、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂により形成され、記録層は、感熱又は感光する材質で形成される。なお、実施の形態1においては、凹版印刷にて印刷を行っているが、凸版印刷で行うこともできる。
【0029】
支持体53は、例えば印刷原版50の形状を保持するための例えばアルミニウム製の金属板の1層により形成されていても良いし、金属板の表面に親インク性を有する材料で形成された親インク層を備えても良い。また、支持体53は、金属板の表面を腐蝕させる等の手段により面を粗くする表面処理が施されていても良い。また、支持体53の表面は、表面層52との結合力を向上させるためのプライマー層が形成されていても良い。
【0030】
印刷原版50は、表面層52が除去されることにより凹部54が形成されている。凹部54は、インク載置装置63により載置面51にインク40が供給され、内側にインク40が載置される。このとき、表面層52が残っている部分は、疎インク領域57を形成し、インク40が付着されない。凹部54は、親インク領域58を形成し、インク40が載置される。即ち、載置面51は、疎インク領域57と親インク領域58とを有し、インク載置装置63により、親インク領域58にのみインク40が載置される。
【0031】
実施の形態1において、表面層52の厚さh1は、例えば3μm以下に形成されている。表面層52を除去して凹部54を形成した場合、凹部54の底部55の載置面51に沿った方向の幅寸法である幅w2に対し、凹部54の開口部56の幅寸法である幅w1は大きくなってしまう。しかし、表面層52の厚さh1を3μm以下にすることにより、凹部54の底部55の幅w2と開口部56の幅w1との差が小さくなる。これにより凹部54の内部の容積が小さくなる。また、表面層52の厚さh1が3μm以下に形成されていることにより、レーザー光により凹部54を形成するときに、レーザー光に感光する層へのエネルギーの供給が容易になる。そして、レーザー光は、印刷原版50の凹部54の底部55の形状を精度良く形成することができ、幅w2をより小さくすることが可能となる。凹部54の底部55の幅w2は、20μm以下に形成されており、望ましくは10μm以下に形成され、更に望ましくは5μm以下に形成される。
【0032】
<インク載置装置63>
図1に示される様に、インク載置装置63は、インクを保持する材質を表面に備えるローラーであるインク保持部64を備える。インク保持部64は、回転軸65周りに回転するように構成されている。インク載置装置63は、印刷原版50の載置面51にインク保持部64を接触させて、インク保持部64が載置面51上を回転移動することにより、インク40を載置面51の親インク領域58に載置する。インク載置装置63は、図1に示されるローラーを備える構成に限定されるものではなく、インク保持部64と印刷原版50の載置面51とが接触できる構成になっていれば、例えばインク保持部64が載置面51に対し垂直移動する形式であっても良い。
【0033】
印刷原版50が疎インク領域57及び親インク領域58を備えており、疎インク領域57がインクを弾くため、インク載置装置63は、親インク領域58が細かくても親インク領域58にインクを載せることができる。また、インク載置装置63は、疎インク領域57が余分なインクを弾くため、インクを載せた後に余分なインクを取り除くドクターブレードを備えていなくとも良い。
【0034】
また、印刷物70の表面にカラー画像を印刷する際には、複数の単色用印刷原版50を用いる場合がある。その場合、印刷装置100は、複数のインク載置装置63を備えていてもよい。または、複数の印刷装置100により1つの印刷物70を印刷しても良い。このとき、複数の印刷装置100のそれぞれは、複数の単色用印刷原版50のそれぞれに対応している。
【0035】
<送風機66>
図6は、実施の形態1に係る印刷装置100の印刷ステージ87周辺の模式図である。印刷装置100は、印刷用パッド10の印刷面4にインク40が転写された状態において、印刷面4に空気を送る送風機66を備える。実施の形態1においては、印刷ステージ87の印刷物70が載置される周辺に送風機66が配置されている。送風機66は、インク40が付着した状態であって被印刷面71、72及び73に押し付けられる前の印刷面4に空気を吹き付ける。送風機66は、印刷面4に向かって空気を吹き付けることにより、活性化装置61で印刷面4に付着した液体及びインク40にしみ込んだ溶剤などの液体も蒸発させる。これにより、インク40と印刷面4との親和性が低下する。また、インク40の粘度が増加する。つまり、送風機66による送風により、インク40は硬化する。
【0036】
実施の形態1において、送風機66は、印刷物70に接触する前の印刷用パッド10の印刷面4に向かって送風口66aを向けて配置されている。送風機66は、印刷面4に空気が当たるように複数箇所に設置されていると良い。また、送風機66は、内部にヒーター67を備え、印刷面4に送る空気の温度を調整しても良い。印刷面4に送る空気の温度の調整は、印刷面4に送る空気の温度を温度センサ68(図8参照)により検知しヒーター67の出力を調整することにより行っても良い。また、温度センサ68が印刷装置100の置かれている環境の室温を検知し、室温に応じてヒーター67の出力を調整しても良い。例えば、送風機66は、筒状の筐体の一端が送風口66aとなり、筐体の他端側の内部にファン及びヒーター67が設置され空気を取り入れる流入口66bを有する。
【0037】
図7は、実施の形態1に係る印刷装置100の送風機66の変形例である。送風機66は、図6に示したようなドライヤー形式のものに限定されず、例えば平板に多数の孔を設けるなどして送風口66aとした形態であっても良い。図7に示す送風機66は、印刷ステージ87又はその他に設けられていても良い。例えば、図1に示す送風機66Aのように表面処理ステージ86に設けられていても良い。インク40が転写された印刷用パッド10は、印刷物70に押し付けられる前に送風機66の送風口66aの前に印刷面4を移動させ、印刷面4に送風機66からの空気が当たるように制御される。図7の送風機66においては、送風口66aの設けられている範囲Sが印刷面4の幅よりも大きく設定されていることが望ましい。例えば、図7に示されている送風機66は、流入口66bから空気が供給され、内部に配置されたヒーター67により加熱された空気を送風口66aから吹き出すように構成されている。
【0038】
<印刷装置100による印刷物70の製造方法>
図8は、実施の形態1に係る印刷装置100の機能ブロック図の一例である。次に、印刷装置100による印刷物の製造方法について説明する。図1及び図8に示す様に、印刷装置100は、制御装置20を備える。制御装置20は、例えばマイクロコンピュータで構成され、演算装置20a及び記憶装置20bを備える。制御装置20の機能、すなわち図8に示される各機能ブロックは、演算装置20a及び記憶装置20b(図1参照)を用いて実現される。
【0039】
記憶装置20bは、プログラム及びデータ等を予め保持しているROM、プログラムの実行に際してデータを一時的に記憶するためのRAM等である。また、記憶装置20bとして、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable and Programmable ROM)およびEEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリなどが用いられる。また、記憶装置20bとして、例えば、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、CD(Compact Disc)、MD(Mini Disc)およびDVD(Digital Versatile Disc)などの着脱可能な記録媒体が用いられてもよい。記憶装置20bは、温度センサ68などから得た情報、演算装置20aにおいて処理された情報を記憶できる。
【0040】
演算装置20aは、制御装置20の機能を実行するための各種処理を行うものである。演算装置20aは、例えば温度センサ68からの室温の情報と予め記憶装置20bに保存されていた温度の閾値とを比較し、室温が閾値よりも高いか否かを判定する。制御装置20は、室温が閾値よりも高い場合には、ヒーター67の出力を所定値に抑える制御を行う。または、制御装置20は、室温が閾値よりも高い場合に、送風機66の運転時間を短くする制御を行っても良い。あるいは、制御装置20は、印刷用パッド10が送風機66の前に停止して空気を浴びる時間を制限するなどの制御を行ってもよい。
【0041】
図9は、実施の形態1に係る印刷装置100による印刷物70の製造方法のフローチャートである。印刷装置100は、印刷装置100の起動時又は運転再開時に行われる開始工程と、複数の印刷物70を製造する繰り返し工程と、を備える。開始工程は、印刷用パッド10の状態に応じて行われるものであり、省略されてもよい。
【0042】
(開始工程)
開始工程は、例えば印刷装置100を起動した直後に行われる工程である。印刷用パッド10は、印刷物70の製造を開始した直後に、表面が活性化されていない場合があるため、印刷用パッド10の印刷面4を適正に活性化する工程を行う。印刷用パッド10は、シリコーンゴムなどの硬いインク40が付着しにくい材質で構成されているため、そのまま印刷原版50に押し付けてもインク40が意図した通りに転写されない場合がある。したがって、実施の形態1に係る印刷装置100は、開始工程において必要に応じて印刷面4を活性化する。
【0043】
まず、印刷装置100が起動されたら、印刷装置100は、印刷用パッド10を活性化装置61の上方に移動させ、活性化装置61に向かって降下させる。印刷用パッド10は、印刷面4が活性化装置61の吸収ユニットに押し付けられ、印刷面4を含む所定の範囲が吸収ユニットに接触した後に、上昇される。これを活性化工程と称する(SP1)。これにより、活性化装置61の吸収ユニットにしみ込んでいる水又は溶剤等の液体が、印刷用パッド10の印刷面4に付着又はしみ込む。なお、印刷面4は、表面に微小な凹凸が形成されており、吸収ユニットからの液体が付着したときに保持することができる。印刷面4の凹凸は、望ましくは2~5μmの高低差を有するように形成されると良い。制御装置20のパッド制御部21は、上下方向移動装置11及び水平方向移動装置12を制御する。これにより、印刷用パッド10の位置、製造開始時の位置から活性化装置61への移動及び押し付けの動作が制御される。活性化部24は、活性化装置61の吸収ユニットに含まれている液体の量を所定の量に維持するように制御又は報知する。また、活性化部24は、吸収ユニットが劣化した場合には、吸収ユニットの更新を行うように制御又は報知する。
【0044】
活性化工程(SP1)が完了した後、印刷用パッド10の印刷面4に付着している液体が適量であるか否かを判断する(SP2)。印刷面4に付着している液体が適量でない場合(SP2でNOの場合)、印刷装置100は、エアーブロー工程を行う(SP3)。エアーブロー工程においては、エアーブロー装置62は、印刷用パッド10の印刷面4に空気を吹き付け、印刷面4に付着した余分な液体を除去する。なお、印刷面4に付着している液体が適量でない場合とは、印刷面4に液体が過剰に付着している場合である。制御装置20のエアーブロー部23は、エアーブロー装置62の運転を制御するものである。エアーブロー部23は、印刷用パッド10がエアーブロー装置62から送られる空気が当たるところに移動したところで、エアーブロー工程を行うようエアーブロー装置62を駆動する。
【0045】
エアーブロー工程(SP3)を完了した後に、印刷用パッド10の印刷面4に付着している液体が適量であるか否かを判断する(SP4)。まだ、印刷用パッド10の印刷面4に余分な水又は溶剤が付着している場合(SP4においてNOの場合)、印刷装置100は、吸収工程を行う(SP5)。吸収工程においては、印刷装置100は、印刷用パッド10の印刷面4をクリーニング装置60に押し付ける。これにより、印刷用パッド10の印刷面4に付着した余分な液体を除去する。
【0046】
なお、印刷用パッド10に適量の水または溶剤が付着またはしみ込んでいる場合(SP2においてYES又はSP4においてYESの場合)は、エアーブロー工程(SP3)および吸収工程(SP5)の一方または両方の実施を省略してもよい。また、エアーブロー工程と吸収工程とは、実施の順序を変更しても良い。さらに、エアーブロー工程及び吸収工程は、複数回実施されても良い。印刷面4に付着している液体が適量であるか否かは、作業者が視認しても良い。作業者が印刷面4に余分な液体が付着していると判断した場合は、作業者が吸収工程の指示を行い、制御装置20のパッド制御部21が印刷用パッド10をエアーブロー工程及び吸収工程の少なくとも一方に進む様に移動させても良い。
【0047】
(繰り返し工程)
開始工程が完了し、印刷用パッド10の印刷面4の状態が適正に活性化処理されると、繰返し工程に移行する。繰返し工程は、インク載置工程(S1)、インク転写工程(S2)、送風工程(S3)、印刷工程(S4)、クリーニング工程(S5)、活性化工程(S6)、エアーブロー工程(S8)、及び吸収工程(S10)を備える。図9に示される様に、印刷装置100は、インク載置工程(S1)、インク転写工程(S2)、送風工程(S3)、印刷工程(S4)、クリーニング工程(S5)、活性化工程(S6)、エアーブロー工程(S8)、及び吸収工程(S10)の順に工程を進める。ただし、繰り返し工程は、この順番のみに限定されるものではない。例えば、インク載置工程(S1)及びインク転写工程(S2)が完了した後に、印刷装置100は、送風工程(S3)から吸収工程(S10)を実施する。その一方で、印刷装置100は、送風工程(S3)から吸収工程(S10)を実施している間に次の回のインク載置工程(S1)を並行して行っても良い。
【0048】
繰り返し工程は、印刷工程(S4)を行う毎に印刷物70の表面に印刷画像が形成される。印刷物70は、1つに限定されず、複数同時に印刷しても良い。複数同時に印刷する場合は、印刷用パッド10を印刷装置100に複数設置しても良い。
【0049】
(インク載置工程)
インク載置工程(S1)は、インク載置装置63によりインク40を印刷原版50に載置する工程である。インク載置装置63は、インク保持部64を印刷原版50の載置面51に接触させ、載置面51の上にインク保持部64を転動させる。インク保持部64に吸収されているインク40は、載置面51に設けられた親インク領域58にのみ載置される。インク40が吸収されているインク保持部64は、疎インク領域57にも接触する。しかし、疎インク領域57は、インク40を弾くため、インク40が載置されない。インク40は、疎インク領域57に弾かれるようにするために、硬めに設定されるのが望ましい。例えば、インク40の粘度は、700~1200P(Poise)の範囲に設定されると良い。制御装置20のインク載置部25は、インク載置装置63の動作を制御し、印刷用パッド10が印刷原版50に押し付けられる前にインク40を印刷原版50に載置する。
【0050】
(インク転写工程)
インク転写工程(S2)においては、印刷用パッド10の印刷面4は、印刷原版50の載置面51に押し付けられる。印刷用パッド10の印刷面4は、印刷原版50の親インク領域58に載置されたインク40に接触する。その後、印刷用パッド10は、上方に移動し、印刷面4が印刷原版50の載置面51から離脱する。印刷面4に接触したインク40は、そのまま印刷面4に移動する。印刷原版50の載置面51に配置された親インク領域58に応じて、インク40は印刷面4に配置されることになる。印刷用パッド10の印刷原版50への押し付けもパッド制御部21により制御される。
【0051】
印刷用パッド10の印刷面4は、活性化工程(SP1、又はS6)により、水又は溶剤が付着又はしみ込んでおり、インク40が付着しやすくなっている。特に、精度の高い印刷画像を得るためには、印刷面4に転写されるインク40のドット1つ当たりの大きさを小さくし、隣り合うインク40同士の間隔も狭くする必要がある。そのため、インク40は、粘度が高いものを用いることが望ましい。具体的には、上記に述べた通り、インク40の粘度は、700P~1200Pの範囲に構成されることが望ましい。印刷装置100によれば、印刷用パッド10の印刷面4は、活性化装置61により活性化されており、インク40の粘度が高くてもインク40が付着しやすくなっている。
【0052】
(送風工程)
送風工程(S3)においては、印刷用パッド10は、送風機66から送られる空気が印刷面4に当たる位置に移動されている。印刷用パッド10が所定の位置に移動したところで、送風機66の運転が開始され、印刷面4に空気が吹き付けられる。印刷面4に空気が吹き付けられて所定時間が経過した後に、制御装置20の送風部22は、送風機66の運転を停止する制御を行っても良いし、停止していた印刷用パッド10の移動を開始するように制御を行っても良い。送風機66から吹き出される空気は、例えば40~80℃に制御されている。
【0053】
また、送風工程(S3)においては、印刷用パッド10に空気を吹き付ける時間を室内環境の温度により制御しても良い。送風部22は、温度センサ28から室温の情報を受け取り、室温に応じて設定された長さの時間だけ空気を吹き付ける運転を行うよう送風機66の運転を制御する。例えば、室温が高ければ吹き付け時間を短くするなどの制御を行う。
【0054】
また、送風機66に内蔵されたヒーター67の出力を制御する温度制御部26からの情報に応じて、送風部22は、空気を吹き付ける時間の長さを調節しても良い。具体的には、送風部22は、温度センサ68により温度が測定された送風機66から吹き出される空気の温度の情報に基づき、空気を吹き付ける量を制御する。空気を吹き付けることにより、印刷面4のインク40の粘度は、例えば900P以上1100P以下の範囲に調整されると良い。ただし、インクの粘度は、上記に説明したものに限定されるものではない。
【0055】
(印刷工程)
印刷工程(S4)においては、インク40が付着した状態の印刷用パッド10の印刷面4は、印刷物70に押し付けられる。実施の形態1に係る印刷装置100は、平面にも印刷できるが、図3及び図4に示される様な印刷物70の被印刷面71、72、及び73にも印刷できる。印刷物70の被印刷面71は、平面である。しかし、被印刷面72は、曲面で構成され、被印刷面73は、平面であるが、印刷用パッド10が移動する方向に対して傾斜した面で構成されている。印刷工程(S4)においては、インク40が付着した印刷面4を被印刷面71、72、及び73に密着するように印刷用パッド10を印刷ステージ87側に向かって押し付ける。印刷面4に付着していたインク40は、被印刷面71、72、及び73に接触し、転写される。印刷工程における印刷用パッド10の移動もパッド制御部21により制御される。
【0056】
印刷物70は、印刷ステージ87上において、位置決め固定されている。これにより、印刷用パッド10と被印刷面71、72、及び73との位置関係が決まり、被印刷面71、72、及び73に精度良く印刷を施すことができる。
【0057】
(クリーニング工程)
クリーニング工程(S5)では、被印刷面71、72、及び73にインク40を転写した後の印刷用パッド10の印刷面4を、クリーニング装置60の平坦なクリーニング面に押し付ける。印刷用パッド10に残存するインク40を、クリーニング面に付着させる。クリーニング面は紙又は粘着テープで構成されるが、これらに限定するものではない。
【0058】
(活性化工程、エアーブロー工程、吸収工程)
活性化工程(S6)は、開始工程における活性化工程(SP1)と同じ内容の工程である。エアーブロー工程(S8)は、開始工程におけるエアーブロー工程(SP3)と同じ内容の工程である。吸収工程(S10)も、開始工程における吸収工程(SP5)と同じ内容の工程である。エアーブロー工程(S)及び吸収工程(S10)は、印刷用パッド10の印刷面4に付着している水又は溶剤などの液体の量に応じて実施され、一方を省略しても良いし、少なくとも一方を複数回実施しても良い。エアーブロー工程(S8)及び吸収工程(S10)は、それぞれの工程の前において、印刷用パッド10の印刷面4の状態を確認(S7及びS9)した後に、印刷面4の活性化状態に応じて実施されるものである。
【0059】
S7又はS9において、印刷面4の状態がインク40を転写するのに適正な状態と判断された後、次の印刷物70を印刷する場合は、フローは再度S1に戻り、印刷物70の製造を終了する場合は、フローは終了する(S11)。以上のように、印刷装置100は、起動時に開始工程を実施し、その後は繰り返し工程を行うことにより、多数の印刷物70に対し印刷を行うものである。
【0060】
印刷原版50が例えば複数の単色用印刷原版50により構成される場合は、複数の単色用印刷原版50のそれぞれに対応した複数の印刷装置100を用いて印刷を行っても良い。例えば、1つの印刷装置100は、単色用印刷原版50を備えており、印刷物70に対しマゼンダのインクのみを用いて印刷する。その後、印刷物70は、単色用印刷原版50を備える他の印刷装置100において、シアンのインクのみを用いて印刷される。これを、複数の単色用印刷原版50の数量だけ繰り返して印刷を行うことができる。
【0061】
印刷装置100が複数の単色用印刷原版50に対応して複数の印刷原版ステージ85及び複数のインク載置装置63を備える場合は、印刷装置100は、1つの印刷物70に対し、少なくともインク載置工程、インク転写工程、及び印刷工程を複数の単色用印刷原版50の数量と同じ回数だけ繰り返す。また、印刷装置100は、クリーニング工程、活性化工程、エアーブロー工程、及び吸収工程の少なくとも1つを複数の単色用印刷原版50の数量と同じ回数だけ繰り返しても良い。
【0062】
以上において、印刷装置100による印刷物70の製造方法を説明したが、製造方法は、上記に限定されるものではなく、各工程を適宜変更して実施することができる。
【0063】
(実施の形態1の効果)
実施の形態1に係る印刷用パッド10は、表面に位置し、インキが置かれた印刷原版及び印刷する対象である被印刷面71、72及び73に押し付けられる印刷面4と、内部に配置された内部層1と、内部層1の印刷面4が配置されている側の表面に接して設けられている外部層2と、を備え、外部層2は、被印刷面71、72及び73に押し付けた際に印刷面4が被印刷面71、72及び73に追従して密着するように構成され、内部層1は、内部に空洞が形成されている。
このように構成されることにより、印刷用パッド10は、内部層1が空洞を有するため、軽量化を図れる。また、印刷用パッド10は、外部層2が変形し印刷物70の被印刷面71、72及び73の形状に追従して変形させて凹凸のある印刷物70に印刷できるように構成されており、軽量化を図りつつ、複雑な被印刷面を備える印刷物70に印刷が可能となる。また、印刷用パッド10は、内部層1の分だけ外部層2を構成する弾性材料を削減できる。
【0064】
また、内部層1及び外部層2は、印刷面4が配置されている側の端部とは反対側の端部においてそれぞれ支持部材7に固定されている。これにより、印刷装置100は、支持部材7及び内部層1を介して外部層2に荷重を加えて変形させるため、被印刷面72及び73のように傾斜した面に対しても印刷面4を追従するように外部層2を変形させることができる。
【0065】
仮に、印刷用パッド10の内部層1が無い構成で印刷した場合、つまり内部層1が入っている部分に空間がある印刷用パッド10で印刷した場合、外部層2は、水平方向に膨らむように変形し、被印刷面73まで印刷面4が密着しない。また、外部層2は、内部層1が本来あるべき空間を小さくする方向にも変形できるため、印刷面4のうち頂点6から離れた周辺部を印刷ステージ87の上面に向かって押し込みにくい。しかし、実施の形態1に係る印刷用パッド10においては、内部層1が変形しにくい材料で構成されているため、外部層2は、内側に変形するのが抑えられる。また、外部層2は内部層1の表面に固定されているため、外部層2が外側に膨らむ様に変形するのを抑えられる。これにより、印刷面4が被印刷面72及び73にも追従しやすい。
【0066】
印刷用パッド10の内部層1は、例えばプラスチック発泡体で構成されている。これにより、内部層1は印刷用パッド10が印刷物70に押し付けられても、変形が抑えられ、印刷装置100からの荷重が外部層2に伝達されやすい。また、内部層1は、外部層2と比較して剛性が高いため、外部層2のみを効率的に変形させつつ、印刷用パッド10の軽量化を図れる。特に、外部層2は、例えば柔らかいシリコーンゴムで形成されているため、重く、材料費も比較的高いが、内部層1の体積分だけシリコーンゴムを削減できるため、印刷用パッド10全体として、重量を削減し、費用も低減できるという利点がある。
【0067】
なお、内部層1の空洞を含めた体積は、外部層2及び空洞を含めた内部層1を合わせた体積の30%以下であると良い。このように構成されることにより、外部層2は、複雑な凹凸形状があっても印刷物70に追従できる。例えば、印刷物70の凸部の寸法Hに応じて印刷用パッド10の高さ寸法を決定することにより、内部層1の体積が30%であれば、印刷用パッド10の厚さの約半分が外部層2となるため、印刷面4は被印刷面72及び73に追従できる。また、内部層1及び外部層2の印刷面4が配置されている側の表面は、形状が相似であるため、外部層2は、印刷面4に沿って厚さが均一となり、変形にムラがなく、被印刷面72及び73にも追従し易い。ただし、内部層1の形状は、外部層2の表面形状に相似のものだけに限定されるものではない。
【0068】
また、実施の形態1に係る印刷装置100は、印刷面4を有する印刷用パッド10と、インク40が載置される載置面51にインク40を受容しない疎インク領域57及びインク40を受容する親インク領域58を有する印刷原版50を載置する印刷原版ステージ85と、印刷物70を載置するための印刷ステージ87と、印刷用パッド10の印刷面4に向かって空気を送る送風機66と、を備える。印刷用パッド10は、印刷原版ステージ85と印刷ステージ87との間を移動可能に構成され、印刷原版ステージ85又は印刷ステージ87に対し上下移動するように構成されている。そして、送風機66は、印刷原版50の載置面51の上のインク40が印刷面4に転写された状態の印刷用パッド10の印刷面4に向かって空気を送る。
【0069】
以上のように構成されることにより、印刷装置100は、印刷物70にインク40を転写させる直前に、印刷用パッド10の印刷面4に付着している又はしみ込んでいる液体を蒸発させることができる。これにより、活性化工程において水又は溶剤等の液体が付着しインク40が比較的付着し易い状態であった印刷面4は、印刷物70に押し付ける直前にインク40との親和性が抑制される。そのため、被印刷面71、72及び73と印刷面4との間にすべりが発生した場合であっても、インク40は、印刷面4と付着しにくい状態になっており、被印刷面71、72及び73に付着した後で変形又は移動するのを抑えることができる。なお、すべりとは、被印刷面71、72及び73に印刷面4を押し付けた状態で印刷面4が被印刷面71、72及び73に沿った方向にずれることを意味する。
【0070】
図10は、図4の印刷面4と被印刷面71、72、及び73との接触部の拡大図である。図11は、図10の被印刷面73に転写されるインク40f又は40gの拡大図である。なお、図10及び図11において印刷用パッド10の各部及びインク40a~40gの変形は模式的に表されているものであり、印刷用パッド10の構造、材質及び印刷装置100の構成を限定するものではない。図11において、左側の図は、印刷用パッド10が印刷物70に押し付けられている状態におけるインク40を示している。図11において、右側の図は、印刷物70の表面にインク40f又は40gが転写された状態を示している。実施の形態1に係る印刷装置100は、被印刷面72及び73のように、曲面又は印刷用パッド10の移動方向に対し傾斜した面にインク40を転写する場合がある。印刷用パッド10の印刷面4には、印刷原版50から転写されたインク40a~40gが載っている。インク40a~40dは、印刷用パッド10の移動方向に対し垂直な被印刷面71に転写される。インク40eは、曲面である被印刷面72に転写される。インク40f及び40gは、印刷用パッド10の移動方向に垂直な面に対し傾斜した面である被印刷面73に転写される。なお、印刷物70の被印刷面71、72、及び73は一例であり、印刷物70は、他の凹凸形状を有していても良い。
【0071】
印刷用パッド10は、凹凸形状を有する被印刷面72及び73にも印刷面4が追従するように変形する。このとき、印刷面4は、被印刷面72及び73に沿った方向に微小に変位する。従って、図11に示される様に、印刷面4と被印刷面73との両方に接触したインク40f及び40gは、印刷面4のひずみε1に応じて被印刷面73に沿った方向にすべりながら転写される。インク40と被印刷面73とは、印刷面4と被印刷面73とが距離L1離れた状態で接触する。印刷面4は、印刷用パッド10が印刷物70に押し付けられて押しつぶされる間、変形し続ける。よって、インク40f及び40gは、被印刷面73と接触してから印刷用パッド10が変形しきるまでの期間、印刷面4と被印刷面73との間で変形されるため、当初の幅d1であったインク40f及び40gが幅d2となって被印刷面73に転写される。このとき、インク40f及び40gは、インク40f及び40gが被印刷面73に接触してから印刷用パッド10の変形が終了するまでのひずみε1により、d2=d1・ε1となる。ここで、ε1>1である。なお、図11に示すインク40f及び40gの変形は、印刷用パッド10の変形量が大きい場合には、インク40a~40fのいずれにも生ずる可能性がある。なお、以下の説明において、インク40a~40fは、まとめてインク40と呼ぶ場合がある。
【0072】
実施の形態1においては、印刷面4の表面に送風が行われることにより、インク40が硬化し、印刷面4とインク40の親和性が低下する。従って、図11の左側の図において、印刷面4が被印刷面73に沿った方向にすべるように変形しても、インク40は硬化しているため潰れ及びすべりが抑制され、印刷面4の変形の影響を受けにくい。そのため、図11の右側の図に示されるd2は、小さく抑えられる。つまり、実施の形態1に係る印刷装置100による印刷によれば、印刷用パッド10のひずみε1があっても、図11のd1とd2との差は小さく抑えられる。また、図11においては、右側の図においてインク40の形状が三角形に変形しているが、実施の形態1に係る印刷装置100による印刷によれば、インク40が被印刷面73に転写される前に硬化しているため、インク40の変形も抑えられる。
【0073】
つまり、印刷物70は、図3等に示す様に、印刷用パッド10が押し付けられる方向に対し傾斜した被印刷面72及び73を備え、被印刷面72及び73にも印刷面4を押し付けてインク40の転写が行われる。このとき、印刷用パッド10は、被印刷面72及び73に沿って変形し、被印刷面72、73及び印刷ステージ87の上面に密着する程度まで押し付けられる。印刷用パッド10は、変形し易い材料で構成され、例えばシリコーンゴムにより構成されている。印刷物70の凹凸形状が大きい場合や形状が複雑な場合においては、印刷原版50に押し付けたときよりも印刷物70に押し付けたときのほうが印刷用パッド10の変形量が大きく、印刷面4に伸び又は圧縮される部分が生じる場合がある。すると、被印刷面71、72又は73と印刷面4との間に、すべりが生じる。
【0074】
また、活性化工程直後においては、印刷面4は液体が付着又はしみ込んでおり、インク40との親和性が高い状態になっている。そのため、印刷面4は、印刷原版50からインク40が付着し易い状態になっている。
【0075】
上記の様に印刷面4にインク40が付着し易い状態のまま、印刷面4を印刷物70に押し付けた場合、インク40は、被印刷面71、72又は73に付着し、かつ印刷面4にもインク40が比較的付着し易い状態である。そのため、インク40が印刷面4及び印刷物70の両方に当接した状態になると、印刷面4が印刷物70に付着したインク40を変形または移動させてしまう。特に印刷面4と印刷物70の表面とのすべりが比較的生じ易い被印刷面72及び73は、図11において説明したように転写されたインク40が印刷物70の表面に沿った方向に変形される場合がある。または印刷面4は、当初にインク40が印刷物70の表面に接触した位置から移動される場合もある。すると、インク40は、印刷物70の表面において想定した位置及び形状で配置されない場合が生じ、印刷画像の精度が低下する場合がある。
【0076】
しかし、上記において説明したように、実施の形態1に係る印刷装置100によれば、印刷面4を印刷物70に押し付ける前に、印刷面4に空気を吹き付けることにより、インク40は硬化し潰れ及びすべりにくくなり、印刷面4とインク40との親和性を低下させた状態にできる。そのため、印刷面4を印刷物70に押し付けた際に印刷面4からインク40が離れ易く、印刷面4と被印刷面71、72及び73とのすべりが発生しても、インク40は印刷面4のすべりによる移動に引きずられて変形又は移動することが抑えられる。つまり、インク40は、硬化し潰れにくくかつすべりにくいため、被印刷面71、72又は73に当接した時点で、印刷面4がすべっても付着した位置にとどまる。インク40は硬くなっており、印刷面4とは互いに親和性が低いため、インク40が被印刷面71、72又は73に付着すれば、印刷面4がすべりにより移動しても、インク40は印刷面4の表面をすべるため付着した位置から移動するのが抑えられる。
【0077】
また、印刷面4に空気が吹き付けられた際に、インク40にしみ込んだ水又は溶剤が蒸発し、粘度が上昇する。つまり、印刷面4に付着したままインク40が比較的硬くなる。これにより、印刷面4から被印刷面71、72及び73に転写される時点においては、インク40が比較的硬くなっているため、印刷面4のすべりによりインク40が変形するのを抑えられる。
【0078】
以上の様に、印刷装置100によれば、インク40が被印刷面71、72及び73に当接した後に印刷面4が被印刷面71、72及び73に沿って変位した際のインク40の変形及び移動を抑制できる。なお、図11において説明したように、インク40は小さい方がより変形及び移動を抑えることができる。従って、印刷装置100は、上記で説明した印刷用パッド10、印刷原版50及び送風機66による送風を併用することにより、より精度の高い印刷が可能となる。
【0079】
図12は、実施の形態1に係る印刷装置100による印刷物70の製造方法のフローチャートのうち、印刷用パッド10が印刷原版50からインク40を受け取り、印刷物70に押し付けられるまでのフローチャートの変形例である。印刷用パッド10は、印刷原版50に押し付けられた後に印刷物70が載置されている印刷ステージ87に移動し印刷物70に押し付けられる。印刷用パッド10は、その間に印刷面4に送風機66及び66Aからの空気が吹き付けられ、続いて印刷物70に印刷面4が押し付けられる。図10においては、その際の印刷用パッド10の移動に関する制御フローの詳細を示している。
【0080】
(インク転写工程)
インク転写工程(S2)においては、印刷用パッド10の印刷面4は、印刷原版50の載置面51に押し付けられる。次に、印刷用パッド10は、印刷原版50から上方に離脱される(S2-2)。そして、印刷用パッド10は印刷原版ステージ85から印刷ステージ87の上方に移動される(S2-3)。以上の工程は、基本的に実施の形態1と同様である。
【0081】
(印刷工程)
印刷ステージ87の上方に移動した印刷用パッド10は、印刷ステージ87の上に載置された印刷物70に向かって第1速度で移動する。第1速度は、印刷工程に掛かる時間をなるべく少なくする様に考慮して設定されたものである(S2-4)。パッド制御部21は、大きさ及び硬度などの印刷用パッド10の仕様に応じて印刷用パッド10の速度を制御する。
【0082】
第1速度で移動している印刷用パッド10は、印刷物70から離れた所定の位置で停止される(S2-5)。この工程は、次の送風工程(S3)のために印刷用パッド10を停止させ、印刷面4に送風機66の空気が当たるようにするとともに、柔らかい材料で構成された印刷用パッド10が第1速度で移動することによって振動したのを抑えるための工程である。パッド制御部21は、印刷用パッド10の大きさ、硬度、第1速度の設定、及び印刷などの情報に基づき、印刷用パッド10の停止させる時間を制御する。
【0083】
印刷用パッド10が停止した後、又は停止すると同時に、送風機66は、印刷用パッド10の印刷面4に送風を行う(S3)。この工程は、実施の形態1と同様である。
【0084】
次に、印刷用パッド10は、第2速度で移動される(S3-2)。パッド制御部21は、送風が完了したところで、印刷物70が載置されている印刷ステージ87に向かって印刷用パッド10を移動させる。第2速度は、第1速度よりも低く設定する。また、パッド制御部21は、印刷用パッド10を第2速度に到るまで徐々に増加させるように制御しても良い。また、パッド制御部21は、例えば印刷用パッド10の振動を検出する加速度センサ69(図8参照)からの信号を受け、振動による加速度が所定以下になったところで印刷用パッド10の移動を開始するように制御しても良い。なお、印刷用パッド10の移動開始は、作業者の指示により行うことも可能である。
【0085】
第2速度で移動する印刷用パッド10は、印刷物70の被印刷面71、72及び73に押し付けられる。パッド制御部21は、第2速度を維持したまま、印刷用パッド10を印刷物70に押し付けても良いし、さらに遅い速度に落としてもよい。
【0086】
以上の変形例に係る工程によれば、印刷装置100は、印刷用パッド10を印刷ステージ87に載置された印刷物70に向かって移動させる際に、印刷用パッドを第1速度での移動状態及び停止状態の少なくとも2つの状態に制御可能なパッド制御部21を備える。停止状態は、少なくとも印刷用パッド10が被印刷面71、72及び73に当接する前に行われる。そして、停止状態から所定時間経過後に印刷用パッド10に向かって動く。これにより、印刷用パッド10は、送風機66による送風中に停止され振動が抑えられるため、インク40を印刷物70に転写する際の印刷画像の精度の悪化を抑えられる。
【0087】
また、印刷用パッド10は、印刷物70に押し付けられる直前に第1速度よりも低い第2速度で移動する様に制御され、印刷物70押し付けられるため、第2速度での移動により印刷用パッド10の振動が抑えられ、印刷画像の精度の悪化が抑えられる。また、比較的遅い速度で印刷用パッド10が変形するため、印刷面4の急な変形が抑えられる。
【0088】
また、印刷用パッド10の振動を抑えるための停止時間の間に送風機66による送風が行われるため、インク40の変形及び移動の影響を抑えつつ印刷に掛かる時間の短縮を図れる。
【0089】
(印刷用パッド10の移動制御の変形例)
図12においては、印刷用パッド10が停止した後、又は停止すると同時に送風機66が送風を行っているが、停止する前に送風を行っても良い。つまり、図12に示すフローにおいてステップS3は、ステップS2-3の直前又はステップS2-4の直前に位置しても良い。送風機66は、印刷用パッド10が印刷ステージ87の上方に来る直前から送風を開始しても良いし、印刷用パッド10が印刷ステージ87の上方に来ると同時に又は来た直後に、送風を開始しても良い。移動しながら送風することにより、印刷用パッド10の停止時間を省略し、印刷に掛かる時間を短縮することができる。
【0090】
また、図12に示すフローにおいて、ステップS2-5の印刷用パッド10の停止を省略しても良い。この場合、第1速度及び第2速度を同じにし、印刷用パッド10が移動している一部の時間又は全ての時間において、送風機66は、印刷面4に対し送風を行っても良い。
【0091】
印刷装置100は、印刷用パッド10が印刷原版ステージ85から印刷ステージ87へ移動する途中に印刷面4への送風を行う送風機66Aを備えていても良い。送風機66Aは、印刷原版ステージ85、表面処理ステージ86及び印刷ステージ87から独立して設けられていても良い。また、送風機66Aは、印刷用パッド10と共に移動するように構成されていても良い。この場合、印刷原版ステージ85から印刷ステージ87への移動中に印刷面4への送風が可能となり、印刷に掛かる時間の短縮に寄与できる。
【0092】
(印刷用パッド10の変形例)
図15は、実施の形態1に係る印刷用パッド10の変形例の断面図である。図16は、図15の印刷用パッド10を印刷物70に押し付けた状態の断面図である。印刷用パッド10の内部層1は、図2及び図3に示した外部層2の表面と相似の形態のみに限定されるものではない。図15に示す様に、内部層1の外面1dは、印刷物70の形状に応じて外部層2の表面と異なる形状であっても良い。図15及び図16に示す印刷用パッド10は、内部層1の表面が印刷物70に設けられた突起70Aに合わせて凹部1fを有している。
【0093】
図16に示す様に、外面1dは、印刷用パッド10が印刷物70に押し付けられた状態を想定して形成されていると良い。つまり、内部層1の外面1dは、外部層2の表面が印刷物70に押し付けられた状態の形状に近似した形状であると良い。さらに言い換えると、内部層1の外面1dは、印刷物70の被印刷面71に設けられた突起70Aに対応する凹部1fを備える。つまり、内部層1は、表面形状が、印刷面4が被印刷面71に押し付けられた状態における外部層2の表面形状と近似している。そして、内部層1の表面に設けられた凹部1fは、被印刷面71に押し付けられた状態の外部層2の表面形状の凹形状2fと対応した位置に形成されている。
【0094】
変形例に係る印刷用パッド10は、印刷面4が印刷物70に押し付けられた状態で、突起70Aと凹部1fとが印刷用パッド10の押し付け方向に並んでおり、外部層2が変形した状態で、外部層2の表面と内部層1に接している面とが概ね相似の形状になっている。これにより印刷用パッド10から印刷物70に加わる荷重が被印刷面71の各部において平均化される。
【0095】
図17は、実施の形態1に係る印刷用パッド10の変形例の断面図である。印刷用パッド10の内部層1は、外部層2の表面と相似形状ではなく、押し付け方向に長い形状であっても良い。つまり、外部層2の厚みが、印刷用パッド10の頂点6において最も薄く、周辺部(支持部材7側)に向かうに従い厚くなる様に構成されていても良い。この場合、外部層2は、頂点6の周辺において変形量が小さく、周辺部に行くほど変形量が大きくなる。
【0096】
実施の形態2.
実施の形態2においては、実施の形態1に係る印刷用パッド10の内部層1を変更したものである。実施の形態2に係る印刷装置100においては、実施の形態1に対する変更点を中心に説明する。実施の形態2に係る印刷用パッド10の各部については、各図面において同一の機能を有するものは実施の形態1の説明で使用した図面と同一の符号を付して表示するものとする。
【0097】
(印刷用パッド10)
図13は、実施の形態2に係る印刷用パッド10の内部層1の単品斜視図である。印刷用パッド10の内部層1は、一方が開放された碗状又は箱状などの空洞を有する構造でも良い。実施の形態2に係る印刷用パッド10は、一方の端部1aは開放され、外面1dが図13の下方、すなわち頂点1bに向かって凸のドーム状に形成されている。外面1dは、外部層2の表面と形状が相似に形成されている。また、内面1cも端部1aから下方に向かってドーム状に形成されており、内面1cと外面1dとの間の肉厚が均一になる様に形成されている。しかし、内面1cは、上記の形態に限定されるものではなく、実施の形態1の変形例に係る印刷用パッド10と同様に、内面1cを印刷物70に設けられた凸形状に合わせて形成しても良いし、外部層2の肉厚が変化するように内面1cの形状を設定しても良い。また、端部1aは、印刷用パッド10の支持部材7に当接している。
【0098】
内部層1は、例えばプラスチックにより形成されており、印刷用パッド10が印刷物70に押し付けられたときにほぼ変形しない程度の剛性及び強度を有する。内部層1を構成する材質によっては、内面1cから外面1dまでの肉厚を設定し、必要に応じて内部にリブ1e等を設けることにより、剛性及び強度を確保すると良い。図13においてリブ1eは、板状に形成され中央部で交差しているが、この形態のみに限定するものではない。また、内部層1は、例えば射出成形により成形されたものであっても良い。
【0099】
また、内部層1は、図13の碗状の開放された端部1aが閉塞された構造であっても良い。さらに内部層1は、支持部材7に一体に成形されていても良い。
【0100】
図14は、実施の形態1に係る印刷用パッド10の変形例を示す断面図である。実施の形態1に係る印刷用パッド10は、基材5の表面を覆う保護被膜層3を備えていても良い。保護被膜層3は、印刷用パッド10の外側の印刷面4を構成する。保護被膜層3は、例えば0.5mmのシリコーンゴムのシートを外部層2の表面に貼り付けて構成される。保護被膜層3は、内部の軟らかいシリコーンゴムに含まれたシリコーンオイルが印刷面4に滲み出ないようにするものである。また、保護被膜層3の外側の表面は、印刷面4を構成し、印刷原版50及び被印刷面71、72、及び73に繰り返し押し付けられるため、傷、摩耗に対する耐久性が必要となる。そのため、保護被膜層3は、外部層2に対し硬度が高い材料を使用し、かつ、印刷面4が被印刷面71、72、及び73に押し付けられた際に被印刷面71、72、及び73に追従するように薄くなっている。実施の形態1においては、保護被膜層3の厚さは、可能な範囲で薄く構成されており、例えば0.1mm~1mmの範囲で構成されていると良い。また、保護被膜層3を基材5に貼り付ける工程において、基材5の表面に沿って貼り付けられるように、十分な伸縮性を有していることが望ましい。なお、印刷用パッド10は、更に多層構造に形成されても良い。例えば、図13に示される印刷用パッド10の外部層2を更に硬度の異なる材料で多層構造に形成しても良い。
【0101】
保護被膜層3は、基材5の表面に貼り付けられているが、傷又は摩耗等の損傷が生じた場合に、基材5の表面から剥がし、新しいものに交換することができる。保護被膜層3は、薄いシート状に形成されており、例えば半球状に形成されている基材5に比較して安価であり、交換により内部の基材5をそのまま利用することが出来る。そのため、保護被膜層3を更新することにより高価な基材5を繰り返し使用でき、印刷用パッド10の印刷面4の状態を印刷に適した状態に保つことができる。ひいては、実施の形態1に係る印刷装置100は、印刷に掛かる費用を抑えることができる。
【0102】
以上のように、実施の形態1~2を説明したが、各実施の形態は一例であり、各実施の形態及び変形例同士を組み合わせることもでき、また別の公知の技術と組み合わせることもできる。また本開示の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略変更することもできる。また、上記に説明した印刷用パッド10は、以下の付記1~9に示す各特徴の組み合わせも含み得るものである。その組み合わせについて下記に示す。
[付記1]
インキが置かれた印刷原版50及び印刷する対象である被印刷面71に押し付けられる印刷面4と、
内部に配置された内部層1と、
前記内部層1の前記印刷面4が配置されている側の表面に接して設けられている外部層2と、を備え、
前記外部層2は、
外側の表面に前記印刷面4を有し、前記被印刷面71に押し付けた際に前記印刷面4が前記被印刷面71に追従して密着するように構成され、
前記内部層1は、
内部に空洞が形成されている、印刷用パッド10。
[付記2]
前記内部層1及び前記外部層2は、
前記印刷面4が配置されている側の端部とは反対側の端部においてそれぞれ支持部材7に固定されている、付記1に記載の印刷用パッド10。
[付記3]
前記内部層1は、
プラスチック発泡体により構成されている、付記1又は2に記載の印刷用パッド10。
[付記4]
前記内部層1は、
前記印刷面4が配置されている側の端部とは反対側の端部が開口された碗状の部材である、付記1又は2に記載の印刷用パッド10。
[付記5]
前記内部層1の前記空洞を含めた体積は、
前記外部層2及び前記空洞を含めた前記内部層1を合わせた体積の40%以下である、付記1~4の何れか1項に記載の印刷用パッド10。
[付記6]
前記内部層1及び前記外部層2の前記印刷面4が配置されている側の表面は、
形状が相似である、付記1~5の何れか1項に記載の印刷用パッド10。
[付記7]
前記内部層1は、
表面形状が、前記印刷面4が前記被印刷面71に押し付けられた状態における前記外部層2の表面形状と近似しており、
前記内部層1の表面に設けられた凹部1fは、前記被印刷面71に押し付けられた状態の前記外部層2の表面形状の凹形状と対応した位置に形成されている、付記1~5の何れか1項に記載の印刷用パッド10。
[付記8]
前記内部層1は、
押し付け方向に長い形状であり、
前記外部層2の厚みは、
頂点1bにおいて最も薄く、周辺部に向かうに従い厚くなる、付記1~5の何れか1項に記載の印刷用パッド10。
[付記9]
前記外部層2の外側の表面に接して設けられた保護被膜層3を更に備え、
前記保護被膜層3は、
前記外部層2よりもアスカーC硬度が高く、
前記印刷面4は、
前記保護被膜層3の外側の表面に形成されている、付記1~8の何れか1項に記載の印刷用パッド10。
【符号の説明】
【0103】
1 内部層、1a 端部、1b 頂点、1c 内面、1d 外面、1e リブ、1f 凹部、2 外部層、2f 凹形状、3 保護被膜層、4 印刷面、5 基材、6 頂点、7 支持部材、10 印刷用パッド、11 上下方向移動装置、12 水平方向移動装置、13 平面、20 制御装置、20a 演算装置、20b 記憶装置、21 パッド制御部、22 送風部、23 エアーブロー部、24 活性化部、25 インク載置部、26 温度制御部、28 温度センサ、40 インク、40a インク、40b インク、40c インク、40d インク、40e インク、40f インク、40g インク、50 (単色用)印刷原版、51 載置面、52 表面層、53 支持体、54 凹部、55 底部、56 開口部、57 疎インク領域、58 親インク領域、60 クリーニング装置、61 活性化装置、62 エアーブロー装置、63 インク載置装置、64 インク保持部、65 回転軸、66 送風機、66a 送風口、66b 流入口、67 ヒーター、68 温度センサ、69 加速度センサ、70 印刷物、70A 突起、71 被印刷面、72 被印刷面、73 被印刷面、85 印刷原版ステージ、86 表面処理ステージ、87 印刷ステージ、100 印刷装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17