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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-26
(45)【発行日】2025-09-03
(54)【発明の名称】フッ素系溶剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/50 20060101AFI20250827BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20250827BHJP
【FI】
C11D7/50
C09K5/04 C
C09K5/04 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021123908
(22)【出願日】2021-07-29
(65)【公開番号】P2023019285
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】菊地 秀明
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/131810(WO,A1)
【文献】特開2017-200989(JP,A)
【文献】特開2021-004353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
C09K 5/04
C23G 5/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルノナフルオロブチルエーテル及び1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含有する共沸組成物または共沸様組成物であって、気相線が示す温度と液相線が示す温度の温度差が2℃以内である組成を有する、共沸組成物または共沸様組成物。
【請求項2】
洗浄剤組成物である、請求項1に記載の共沸組成物または共沸様組成物。
【請求項3】
0.1~11.0質量%のエチルノナフルオロブチルエーテル、及び89.0~99.9質量%の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、請求項1に記載の共沸組成物または共沸様組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の共沸組成物または共沸様組成物を用いて物品を洗浄する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロフルオロエーテルとクロロトリフルオロプロペンとを含有する共沸組成物または共沸様組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの産業において、これまで、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)およびハイドロフルオロカーボン(HFC)などのハロゲン化炭化水素を含むフッ素系溶剤が、エアゾール噴射剤、冷媒、溶媒、洗浄剤、熱可塑性および熱硬化性発泡体用の発泡剤、熱媒体、ガス状誘電体、消火剤および鎮火剤、動力サイクル作動流体、重合媒体、微粒子除去流体、キャリア流体、バフ研磨剤、および置換乾燥剤等をはじめとする広範囲の用途に使用されてきた。
【0003】
しかしながら、CFCやHCFCはオゾン層破壊物質として知られており、特にHCFC-225に代表されるHCFC類はその不燃性、ポリマー適合性、安定性等に優れ汎用されてきたが、HCFCはオゾン破壊係数を有し、且つ、地球温暖化係数も高いため2019年をもって全廃となった。
一方、HFCはオゾン層を破壊する危険はないものの、温室効果ガスとして地球温暖化に影響を及ぼすことから、より環境負荷の少ない、すなわち、オゾン破壊係数がゼロであり、地球温暖化係数が非常に低い代替品が求められている。
【0004】
そのような代替品として、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、パーフルオロオレフィン(PFO)及びハイドロフルオロエーテル(HFE)が開発されている。
このうち、HCFOは、油除去性には優れているがポリマーアタック性(ポリマーの白濁、クラック、溶解等を生じる)が強いため、洗浄剤としてポリマーを含有する多くの製品には使用できないとの問題点が知られている。
一方、1,2,2,2-テトラフルオロエチル-ヘプタフルオロプロピルエーテル、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヘプタフルオロプロピロキシ-3-(1,2,2,2-テトラフルオロエトキシ)-プロパン、ヘプタフルオロプロピル-メチルエーテル、エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテルなどのHFEは、オゾン破壊係数がゼロであり地球温暖化係数も低く、ポリマーアタック性が低いことから、溶剤として各種の使用の提案がなされている。
【0005】
また、洗浄剤等として使用するに際して、使用中或いは回収時の蒸留中に分留されない、すなわち、沸騰・蒸発時に分留しない定沸点特性を有する共沸組成物が有用であることが知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5)が、特許文献1にも記載されているとおり、共沸組成物を形成するかどうかを理論的に予測することは不可能であり、種々の組み合わせについて、優れた特性を有する新規な共沸組成物の探索が続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-110035号公報
【文献】国際公開第2019/213193号
【文献】特表平6-501949号公報
【文献】特表2013-514444号公報
【文献】特表2012-528922号公報
【文献】国際公開第2018/092780号
【文献】特開平10-036894号公報
【文献】特開2002-256295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決する、産業上、広範囲の用途に利用できる新規な共沸組成物または共沸様組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、オゾン破壊係数が0であり、且つ、地球温暖化係数が低いハイドロフルオロエーテル(HFE)と、油除去性に優れたクロロトリフルオロプロペンとを含有する組成物が、安全性が高く地球環境に優しく、且つ、ポリマー適合性に優れた(ポリマーアタック性が抑制された)組成物であること、並びに単一化合物と同様の挙動を示す共沸組成物または共沸様組成物を形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の点を特徴とする。
1.ハイドロフルオロエーテル及びクロロトリフルオロプロペンを含有する共沸組成物または共沸様組成物であって、気相線が示す温度と液相線が示す温度の温度差が2℃以内である組成を有する、共沸組成物または共沸様組成物。
2.洗浄剤組成物である、上記1.に記載の共沸組成物または共沸様組成物。
3.ハイドロフルオロエーテルが、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、2,2,2-トリフロロエチル-1,1,2,2-テトラフロロエチルエーテル及びそれらの異性体から選択される少なくとも1種である、上記1.または2.に記載の共沸組成物または共沸様組成物。
4.クロロトリフルオロプロペンが、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、及びそれらの異性体から選択される少なくとも1種である、上記1.または2.に記載の共沸組成物または共沸様組成物。
5.0.1~83.0質量%のメチルノナフルオロブチルエーテル、及び17.0~99.9質量%の1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、上記1.~4.のいずれかに記載の共沸組成物または共沸様組成物。
6.0.1~40.5質量%のメチルノナフルオロブチルエーテル、及び59.5~99.9質量%の1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、上記1.~4.のいずれかに記載の共沸組成物または共沸様組成物。
7.0.1~35.0質量%のエチルノナフルオロブチルエーテル、及び65.0~99.9質量%の1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、上記1.~4.のいずれかに記載の共沸組成物または共沸様組成物。
8.0.1~99.9質量%の2,2,2-トリフロロエチル-1,1,2,2-テトラフロロエチルエーテル及び0.1~99.9質量%の1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、上記1.~4.のいずれかに記載の共沸組成物または共沸様組成物。
9.上記1.~8.のいずれかに記載の共沸組成物または共沸様組成物を用いて物品を洗浄する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オゾン破壊係数が0であり、地球温暖化係数の非常に低い、組成物を提供することができる。
本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、ハイドロフルオロエーテルと油除去性に優
れたクロロトリフルオロプロペンとを含有する組成物であって、安全性が高く地球環境に優しく、且つ、ポリマー適合性に優れた(ポリマーアタック性が抑制された)組成物である。本発明はまた、単一化合物と同様の挙動を示す共沸組成物または共沸様組成物であって、引火性でないという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の気液平衡曲線を示す。
図2】実施例2の気液平衡曲線を示す。
図3】実施例3の気液平衡曲線を示す
図4】実施例4の気液平衡曲線を示す。
図5】実施例5の気液平衡曲線を示す。
図6】実施例6の気液平衡曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、ハイドロフルオロエーテル(HFE)およびクロロトリフルオロプロペン(HCFO-1233)から本質的になり、両成分併せて組成物中の50質量%以上、望ましくは55質量%以上、さらに望ましくは60質量%以上を占めることが好ましい。
【0013】
本発明において、一方の成分であるHFEは、その構造異性体・立体異性体に特に制限はなく、単一の異性体でも、それら異性体の混合物であってもよい。好ましくは、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、2,2,2-トリフロロエチル-1,1,2,2-テトラフロロエチルエーテル、及びそれらの異性体から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0014】
また、もう一方の成分であるHCFO-1233に関し、各種の異性体が存在することが知られているが、本発明に用いられるHCFO-1233は、その構造異性体・立体異性体に特に制限はない。そして、使用されるHCFO-1233は、単一の異性体でも、また、各異性体の混合物でもよい。具体的には、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233zd)、或いはそれらの混合物であることが好ましい。また、HCFO-1233ydは、シス-HCFO-1233ydまたはシス-HCFO-1233ydを含む混合物であることが好ましい。
【0015】
当該技術分野で認められているように、共沸組成物は、2つ以上の異なる成分の混合物であり、それは、所与の圧力下で液体形態にあるとき、実質的に一定温度で沸騰し、その温度は、個々の成分の沸騰温度より高いかまたは低く、かつ、それは沸騰中の全体液体組成と本質的に同一である蒸気組成を提供する(例えば、M.F.Doherty and
M.F.Malone、Conceptual Design of Distillation Systems、McGraw-Hill(New York)、2001年、185~186、351~359頁を参照)。
【0016】
この時、混合液の組成を種々変化させて定圧の気液平衡関係を測定してみると、共沸組成物となる組成において、その沸点が極大又は極小となることが知られている。
【0017】
従って、共沸組成物の本質的な特徴は、所与の圧力で、液体組成物の沸点が固定されていること、かつ、沸騰中の組成物の気相中の組成が本質的に、沸騰中の液相中の組成である(すなわち、液体組成物の成分の分留が全く起こらない)ことである。共沸組成物が異なる圧力で沸騰にかけられるとき、共沸組成物の各成分の沸点および質量百分率の両方が
変わる場合があることもまた当該技術分野で認められている。従って、共沸組成物は、成分間に存在する特有の関係の観点からまたは成分の組成範囲の観点から、または指定圧力での固定沸点によって特徴付けられる組成物の各成分の正確な質量百分率の観点から定義されてもよい。
【0018】
本発明の「共沸様組成物」は、共沸組成物のように挙動する(すなわち、定沸点特性または沸騰もしくは蒸発時に分留しない傾向を有する)組成物、すなわち液相の組成と気相の組成が限りなく近く、経時変化が起こり難いことを意味し、気液平衡曲線において、所与の圧力下での液相温度と気相温度との温度差が、2℃以下を示す組成物であることが好ましい。より好ましくは1℃以下、更に好ましくは0.5℃以下である。これは、沸騰もしくは蒸発中に、気液組成がかなりの程度変化する非共沸様組成物とは対照的である。
【0019】
本発明のハイドロフルオロエーテルおよびクロロトリフルオロプロペンを含む共沸組成物または共沸様組成物は、大気圧下での沸点が、30~100℃、好ましくは35~100℃、より好ましくは40~80℃の範囲にあることが望ましい。
【0020】
本発明において、クロロトリフルオロプロペンが1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd)である場合、本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、大気圧下での沸点が50~58℃であることが好ましく、51~58℃であることがより好ましい。
これに対するハイドロフルオロエーテルの配合量は、メチルノナフルオロブチルエーテル:HCFO-1233yd=0.1~83.0:17.0~99.9質量%であることが好ましく、より好ましくは2.0~80.0:20.0~98.0質量%である。また、エチルノナフルオロブチルエーテル:HCFO-1233yd=0.1~35.0:65.0~99.9質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~30.0:70.0~99.9質量%である。そして、2,2,2-トリフルオロエチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル:HCFO-1233yd=0.1~99.9:0.1~99.9質量%、より好ましくは1.0~99.0:1.0~99.0質量%であることが好ましい。
HFEが5.0質量%未満の場合には(すなわち、HCFOがHFEに対して多量すぎると)、ポリマーアタック性の増加が生じることがあり、逆に、HFEが95.0質量%を超える場合には(すなわち、HCFOがHFEに対して少量すぎると)、油除去率の低下が生じることがある。
【0021】
本発明において、クロロトリフルオロプロペンが1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)である場合、本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、大気圧下での沸点が38~46℃であることが好ましく、39~45℃であることがより好ましい。
また、クロロトリフルオロプロペンが1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233zd)である場合、ハイドロフルオロエーテルの配合量は、メチルノナフルオロブチルエーテル:HCFO-1233zd=0.1~40.5:59.5~99.9質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~35.0:65.0~99.9質量%である。また、エチルノナフルオロブチルエーテル:HCFO-1233zd=0.1~11.0:89.0~99.9質量%であることが好ましい。そして、2,2,2-トリフルオロエチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル:HCFO-1233zd=0.1~38.0:62.0~99.9質量%であることが好ましい。
その配合量は、HFEが10.0質量%未満の場合には(すなわち、HCFOがHFEに対して多量すぎると)、ポリマーアタック性の増加が生じることがあり、逆に、HFEが75.0質量%を超える場合には(すなわち、HCFOがHFEに対して少量すぎると
)、油除去率の低下が生じることがある。
【0022】
本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、必要に応じて安定化剤として、ニトロアルカン類、エポキシド類、フラン類、ベンゾトリアゾール類、フェノール類、アミン類またはホスフェイト類を1種またはそれ以上含んでもよく、その配合量は、組成物に対して0.01~5.00質量%、好ましくは0.05~0.50質量%である。
【0023】
本発明の共沸組成物または共沸様組成物はまた、本発明の特徴を損なわない範囲で、必要に応じて、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭化水素類、アミン類、グリコールエーテル類、シロキサン類などの他の成分を含んでもよい。
【0024】
本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、オゾン層破壊係数(ODP)が0であり、地球温暖化係数(GWP)が約100以下、好ましくは50以下、より好ましくは10以下である。ここで、本発明におけるODPおよびGWPは、世界気象機関の報告書である「Scientific Assessment of Ozone Depletion,2002」に定義されるものである。
【0025】
本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、従来からハロゲン化炭化水素が使用されてきた、エアゾール噴射剤、冷媒、溶媒、洗浄剤、微粒子除去流体、熱可塑性および熱硬化性発泡体用の発泡剤(発泡体膨張剤)、熱媒、ガス状誘電体、消火剤および鎮火剤、動力サイクル作動流体、重合媒体、キャリア流体、バフ研磨剤、および置換乾燥剤等の広範囲の用途に使用することができる。
【0026】
尚、本発明を洗浄剤として用いる場合、本発明の共沸組成物または共沸様組成物により洗浄される対象は、特に限定されるものではないが、電子・電機・機械部品等、或いは、自動車の小型部品等、連続的に生産、洗浄されるべきもの等に好適に用いることが出来る。
中でも、本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、有機成分(油分)や無機成分の汚れを表面に有する固体表面、例えば、半導体表面、電子基板表面、電子回路、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、ハードディスク表面、その他微細構造を有する表面を洗浄するための洗浄剤として好適に使用することができる。
【0027】
特に、本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、安全性が高く地球環境に優しく、且つ、ポリマー適合性に優れる(ポリマーアタック性が抑制される)と共に、油分除去性が高く洗浄性にも優れ、単一化合物と同様な挙動を示す共沸組成物または共沸様組成物を形成することから、樹脂製品の洗浄に適している。
【0028】
また、本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、冷却を行うための冷媒として好適に使用することができる。特に共沸を示すことから、本発明の組成物を凝縮させる工程と、冷却する物体の近くで蒸発させる工程を含む冷却方法(沸騰冷却)に用いる冷媒としても好適である。
【0029】
さらに、本発明の共沸組成物または共沸様組成物は、熱可塑性または熱硬化性発泡体を製造するための発泡剤(発泡体膨張剤)として好適に使用することができる。
以下、実施例により、本発明を詳細に説明する。
【実施例
【0030】
HFE、およびHCFO-1233ydまたはHCFO-1233zdよりなる混合物
の沸点、表面張力、密度、粘度、引火点の測定及び算出、並びに油除去度試験及び樹脂適合性試験を、それぞれ以下の方法で行った。
【0031】
[沸点(平衡還流沸点)]
冷却水温度を5℃とし、またホットプレートとフラスコの間に何もしかずに直に加熱した以外は、JIS K 2233に準じて沸点(平衡還流沸点)を測定した。
【0032】
・密度:アマガーの法則
m=Σxjj
V:密度
x:モル分率
なお、HFEの密度値は、メチルノナフルオロブチルエーテルが1.52g/ml、エチルノナフルオロブチルエーテルが1.43g/ml、2,2,2-トリフロロエチル-1,1,2,2-テトラフロロエチルエーテルが1.47g/ml(メーカー公表値、25℃設定)、HCFO-1233ydの密度は1.39g/ml(AGC Research Report 69(2019)環境対応型フッ素系溶剤AMOLEA(登録商標)AS-300の開発より引用)、及びHCFO-1233zdの密度は1.31g/ml、(セントラル硝子社、1233Z 優れた環境性能、高い洗浄力 次世代フッ素系溶剤 2015年10月より引用)を用いた。
【0033】
組成物の粘度を以下の計算式により算出した。
・粘度:McAllisterの方法
lnηm=Σxif(ηi
η:粘度
x:モル分率
f(η):粘度の対数
なお、HFEの粘度は、メチルノナフルオロブチルエーテルが0.58mPa・s、エチルノナフルオロブチルエーテルが0.57mPa・s、2,2,2-トリフロロエチル-1,1,2,2-テトラフロロエチルエーテルが0.65mPa・s(メーカー公表値、25℃設定)、HCFO-1233ydの粘度は0.57mPa・s(AGC Research Report 69(2019)環境対応型フッ素系溶剤AMOLEA(登録商標)AS-300の開発より引用)、及びHCFO-1233zdの粘度は0.41mPa・s、(セントラル硝子社、1233Z 優れた環境性能、高い洗浄力 次世代フッ素系溶剤 2015年10月より引用)を用いた。
【0034】
[表面張力]
組成物の表面張力を以下の計算式により算出した。
・表面張力:Macleod-Sugdenの相関式
σ1/4=[P](ρL-ρV)/MW
σ;表面張力
P:パラコール係数
ρL:液比重
ρv:蒸気比重,
MW:分子量
なお、HFEの表面張力値は、メチルノナフルオロブチルエーテルが13.6mN/m、エチルノナフルオロブチルエーテルが13.6mN/m、2,2,2-トリフロロエチル-1,1,2,2-テトラフロロエチルエーテルが16.4mN/m(メーカー公表値、25℃設定)、HCFO-1233ydの表面張力は21.7mN/m(AGC Research Report 69(2019)環境対応型フッ素系溶剤AMOLEA(登録商標)AS-300の開発より引用)、及びHCFO-1233zdの表面張力は1
8.6mN/m(セントラル硝子社、1233Z 優れた環境性能、高い洗浄力 次世代フッ素系溶剤 2015年10月より引用)を用いた。
【0035】
[引火点]
引火点の測定は、JIS K 2265-1980に準じたタグ密閉式およびクリーブランド開放式引火点試験により測定した。
【0036】
[油除去率]
洗浄性能を示す指標として油除去率を用いる。油除去率は、次式により算出した。
【数1】
【0037】
[洗浄条件]
洗浄剤として、表1に示す組成物を使用した。
装置として、卓上型超音波洗浄機(3周波超音波洗浄機VS-100III型)を用い、超音波周波数28kHz、出力100W、洗浄時間3分、室温で洗浄した。
【0038】
[樹脂適合性試験(ポリカーボネート(PC))]
PC樹脂からなるテストピース(2×20×100mm)を、表1に記載の組成物中に室温にて15分間浸漬し、重量変化および硬度変化を測定した。
【0039】
実施例及び比較例で用いたHFE、およびHCFO-1233ydまたはHCFO-1233zdは、以下の通りである。
・HFE
メチルノナフルオロブチルエーテル
(3M(登録商標)社製、Novec(登録商標)7100)
エチルノナフルオロブチルエーテル
(3M(登録商標)社製、Novec(登録商標)7200)
2,2,2-トリフロロエチル-1,1,2,2-テトラフロロエチルエー テル
(AGC(登録商標)社製、アサヒクリン(登録商標) AE3000)
・HFO-1233
HCFO-1233yd
(AGC(登録商標)社製 AMOLEA(登録商標)AS-300)
HCFO-1233zd
(セントラル硝子(登録商標)社製、セレフィン(登録商標)1233Z)
また、実施例及び比較例で用いた油類、樹脂類は、以下の通りである。
・油類
シリコーンオイル(信越化学社製、KF-96-100)
・樹脂類
PC樹脂 (スタンダードテストピース社製)
【0040】
[実施例1~6、比較例1~5]
本発明の各組成物、並びにHFE、HCFO-1233yd、及びHCFO-1233zdの沸点、表面張力、密度、粘度、引火点を表1に示す。実施例1~6、及び比較例1~3の油除去率、更に、PCの樹脂適合性試験結果を表1に示す。
また、実施例1~6の気液平衡曲線を、図1~6にそれぞれ示す。図1~6で、実線は
液相線を破線は気相線を示す。また、図3を除き、図中の四角囲みの温度は、各組成における組成の範囲の最大値(図中の四角囲みの組成%のうちの大きな方の値)で、液相線、気相線が示す温度である。なお、図3においては、図中の四角囲みの温度は、気相線と液相線の差が最も大きい組成(2,2,2-トリフルオロエチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテルが83.0質量%)における温度である。
【0041】
図1においては、メチルノナフルオロブチルエーテル/HCFO-1233ydの質量比が45/55で極小沸点51℃の共沸を示し、 0.1/99.9~83.0/17.0の範囲で共沸様を示し、気相線と液相線の温度差が2℃以内であることが確認された。
図2においては、エチルノナフルオロブチルエーテル/HCFO-1233ydの質量比がエチルノナフルオロブチルエーテル/HCFO-1233ydの質量比が2.8/97.2~11.5/88.5で極小沸点54.9℃の共沸を示し、0.1/99.9~35.0/65.0範囲で共沸様を示し、気相線と液相線の温度差が2℃以内であることが確認された。
図3においては、2,2,2-トリフルオロエチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル/HCFO-1233ydの質量比が45/55で極小沸点53℃の共沸を示し、0.1/99.9~99.9/0.1の範囲で共沸様を示し、気相線と液相線の温度差が2℃以内であることが確認された。
【0042】
図4においては、メチルノナフルオロブチルエーテル/HCFO-1233zdの質量比が0.1/99.9~40.5/59.5の範囲で共沸様を示し、気相線と液相線の温度差が2℃以内であることが確認された。
図5においてはエチルノナフルオロブチルエーテル/HCFO-1233zdの質量比が0.1/99.9~11.0/89.0の範囲で共沸様を示し、気相線と液相線の温度差が2℃以内であることが確認された。
図6においては2,2,2-トリフルオロエチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル/HCFO-1233zdの質量比が0.1/99.9~38.0/62.0の範囲で共沸様を示し、気相線と液相線の温度差が2℃以内であることが確認された。
【0043】
また、表1において、比較例4のものでは、ポリマーアタック性(ポリカーボネート樹脂の著しい硬度変化)が観察されたが、実施例1~6のものでは、ポリマーアタック性(硬度変化)の抑制が観察された。
表1が示すように、実施例の組成物は、優れた油除去率、高い洗浄力を示しつつ、また、ポリマーアタック性が非常に低いものである。
【0044】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6