(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-29
(45)【発行日】2025-09-08
(54)【発明の名称】処理システム及び処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/04 20060101AFI20250901BHJP
B09B 3/65 20220101ALI20250901BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20250901BHJP
C02F 3/28 20230101ALI20250901BHJP
【FI】
C02F11/04 A ZAB
B09B3/65
C02F1/44 F
C02F3/28 Z
(21)【出願番号】P 2021062293
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】野口 真人
(72)【発明者】
【氏名】中野 淳
【審査官】山本 絵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-205300(JP,A)
【文献】特開2006-326534(JP,A)
【文献】特開2018-051483(JP,A)
【文献】特開2000-061491(JP,A)
【文献】特開2004-351324(JP,A)
【文献】特開2018-167258(JP,A)
【文献】特開2011-230100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
C02F 3/28- 3/34
C02F 11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物質を含有する処理対象物の処理を行う処理システムであって、
前記処理対象物をメタン発酵処理するメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽で生じた処理液を膜分離し、濃縮液と透過液を得る膜モジュールと、
前記処理液を前記膜モジュールに送液し、かつ、前記濃縮液を前記メタン発酵槽に返送する循環ポンプと、
前記膜モジュールの閉塞状態を検知する検知手段と、
前記検知手段による検知結果に基づき、前記メタン発酵槽における微生物の濃度を維持する微生物濃度維持手段と、を備え、
前記検知手段は、
前記循環ポンプの圧力変動の監視手段、
又は、前記メタン発酵槽の撹拌手段に係る負荷変動の監視手段、
又は、前記膜モジュールにおける処理液入口圧力と濃縮液出口圧力に係る圧力差変動の監視手段からなる群から選択される少なくとも一つの監視手段を有することを特徴とする、処理システム。
【請求項2】
有機物質を含有する処理対象物の処理を行う処理システムであって、
前記処理対象物をメタン発酵処理するメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽で生じた処理液を膜分離し、濃縮液と透過液を得る、複数の膜モジュールと、
前記処理液を前記膜モジュールに送液し、かつ、前記濃縮液を前記メタン発酵槽に返送する循環ポンプと、
前記膜モジュールの閉塞状態を検知する検知手段と、
前記検知手段による検知結果に基づき、前記メタン発酵槽における微生物の濃度を維持する微生物濃度維持手段と、を備え、
前記複数の膜モジュールは、濃縮液を下流側の膜モジュールに供給するように配列されており、
前記検知手段は、前記複数の膜モジュールの最上流側の処理液入口圧力と、前記複数の膜モジュールの最下流側の濃縮液出口圧力と、に係る圧力差変動の監視手段を有することを特徴とする、処理システム。
【請求項3】
有機物質を含有する処理対象物の処理を行う処理方法であって、
前記処理対象物をメタン発酵処理するメタン発酵工程と、
前記メタン発酵工程で生じた処理液を膜モジュールで膜分離し、濃縮液と透過液を得る膜分離工程と、
前記処理液を前記膜モジュールに送液し、かつ、前記濃縮液をメタン発酵槽に返送する循環ポンプを用いた循環工程と、
前記膜モジュールの閉塞状態を検知する検知工程と、
前記検知工程による検知結果に基づき、前記メタン発酵槽における微生物の濃度を維持する微生物濃度維持工程と、を備え、
前記検知工程は、
前記循環工程における前記循環ポンプの圧力変動の監視手段、
又は、前記メタン発酵工程の撹拌手段に係る負荷変動の監視手段、
又は、前記膜分離工程における前記膜モジュールの処理液入口圧力と濃縮液出口圧力に係る圧力差変動の監視手段からなる群から選択される少なくとも一つの監視手段を用いて行うことを特徴とする、処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物質を含有する処理対象物の処理に係る処理システム及び処理方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、メタン発酵処理と膜分離処理を組み合わせた膜分離メタン発酵処理に関する処理システム及び処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機性廃液や有機性廃棄物等、有機物質を含有する処理対象物を処理する技術としては、嫌気性微生物を用いた生物処理が広く行われている。特に、メタン発酵処理は、処理対象物の減量とともに、発生するメタンをエネルギーとして利用できることから有用性の高い技術として注目されている。
【0003】
また、生物処理(メタン発酵処理)後の処理液に含まれる嫌気性微生物を、処理液中から分離、回収する固液分離を行い、嫌気性微生物を多く含む固体分(濃縮液)を再度生物処理に供することも行われている。生物処理後の処理液に対する固液分離処理としては、遠心分離装置による遠心分離、沈殿槽による沈降分離、脱水装置による脱水のほか、膜による膜分離(膜濾過)が知られており、特に、膜分離とメタン発酵処理の組み合わせ(膜分離メタン発酵処理)は広く知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、高濃度有機性廃棄物を処理対象物とし、発酵槽と膜分離槽を用いた処理方法であり、発酵槽でメタン発酵処理を行った後、発酵汚泥を発酵槽と膜分離槽との間で循環させ、膜分離槽に浸漬した膜分離装置によって発酵汚泥を固液分離し、膜分離装置を通った膜透過液を系外に排出することで、発酵槽内のSS濃度がメタン発酵の維持に必要な有効値以上となるようにする処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
膜分離メタン発酵処理は、特許文献1にも記載されるように、メタン発酵処理後の処理液を膜分離に供するものである。そのため、メタン発酵処理効率に大きく関与する嫌気性微生物(メタン菌等)の濃度を高濃度とするために、メタン発酵槽での固体分(SS)の濃度が過剰となってしまうと、処理液に含まれる固体分の量が多くなるため、後段の膜分離における閉塞が生じやすくなり、閉塞状態を解消するための作業コストや、処理全体を停止することによる処理効率の低下などが問題となる。
したがって、膜分離メタン発酵処理においては、メタン発酵処理効率を適切に維持しつつ、膜分離における処理効率の急速な低下を抑制することが求められる。
【0007】
特許文献1には、膜分離メタン発酵処理において、SS濃度を嫌気性微生物濃度に相当するものとみなし、メタン発酵槽におけるSS濃度を所定値に維持することで、メタン発酵槽におけるメタン発酵処理効率を適切な維持を図ることが記載されている。
一方、特許文献1には、SS濃度の検出手段については特に記載されていないが、SS濃度についてはSS濃度計(汚泥濃度計)等の計器を用いて測定を行うことが一般的である。しかし、SS濃度を測定する計器は、測定可能な濃度範囲が限定されることや、測定精度に課題がある等、SS濃度を迅速かつ正確に把握することが困難である。したがって、膜分離メタン発酵処理におけるSS濃度を直接測定し、その値を用いて安定した処理を行うことは困難である。
また、特許文献1には、SS濃度を所定値に維持することによる膜分離への影響については何ら記載されていない。
【0008】
また、生物処理と膜分離を組み合わせた処理においては、SS濃度を直接測定するのではなく、生物処理槽で生じた処理液の粘度を測定し、この粘度が所定値となるように、生物処理槽から固体分(汚泥)を引き抜くことで、生物処理及び膜分離の効率化を図ることも行われている。しかし、処理液の粘度についても、処理システムの中で迅速かつ正確に測定を行い、その値を取得することは困難である。
【0009】
そして、膜分離メタン発酵処理における処理工程全体を安定かつ効率よく進行させるため、上述したSS濃度や処理液の粘度に係る値だけでは、実際に稼働している処理システムの運転状況を把握することは困難である。すなわち、処理システムの一部でSS濃度や処理液の粘度に係る値を求めることだけでは、処理システム全体の運転状況を把握するために必要十分なパラメータを取得しているとは必ずしもいえないため、処理システムを安定かつ効率よく運転させることについては課題がある。しかし、処理システム全体に対して、複数のSS濃度計や粘度計を設けることはコストアップにつながるとともに、それぞれの計器で得られるデータを比較するためには、各計器の精度や測定条件を鑑みた補正演算処理等が必要になってくるため、処理システムが複雑化するという問題が生じる。
【0010】
したがって、膜分離メタン発酵処理においては、メタン発酵槽内のSS濃度や処理液の粘度に係る値を測定することによらず、処理システムの運転状況に係る実態を簡便に把握し、かつ、把握した実態に応じて適切な対応を行うことで、膜分離メタン発酵処理に係る処理システム全体としての処理を円滑に進行させることが求められている。
【0011】
本発明の課題は、有機物質を含有する処理対象物の処理において、メタン発酵処理及び膜分離を行う処理システムの運転状況に係る実態を簡便に把握するとともに、処理システム全体としての処理を安定かつ効率よく進行することが可能な処理システム、及び、この処理システムを用いた処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、メタン発酵処理と膜分離を行う処理システムにおける運転状況を把握するための手段として、膜分離に用いる膜モジュールの閉塞状態を検知する手段を設け、この検知手段が処理液の物性を直接測定するものではなく、処理システムのプロセスに係るパラメータを監視する手段を含むものとすることで、処理システムの運転状況に係る実態を容易に把握することが可能となる。また、膜モジュールの閉塞状態に係る検知結果に基づき、メタン発酵処理におけるメタン菌等の微生物濃度を維持するための手段を設けることで、メタン発酵処理効率を適切に維持しつつ、膜分離における処理効率の急速な低下を抑制することができ、膜分離メタン発酵に係る処理システム全体としての処理を安定かつ効率よく進行することが可能となることを見出して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の処理システム及び処理方法である。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の処理システムは、有機物質を含有する処理対象物の処理を行う処理システムであって、処理対象物をメタン発酵処理するメタン発酵槽と、メタン発酵槽で生じた処理液を膜分離し、濃縮液と透過液を得る膜モジュールと、処理液を膜モジュールに送液し、かつ、濃縮液をメタン発酵槽に返送する循環ポンプと、膜モジュールの閉塞状態を検知する検知手段と、検知手段による検知結果に基づき、メタン発酵槽における微生物の濃度を維持する微生物濃度維持手段と、を備え、検知手段は、循環ポンプの圧力変動の監視手段、又は、メタン発酵槽の撹拌手段に係る負荷変動の監視手段、又は、膜モジュールにおける処理液入口圧力と濃縮液出口圧力に係る圧力差変動の監視手段からなる群から選択される少なくとも一つの監視手段を有することを特徴とする。
この処理システムによれば、メタン発酵処理と膜分離を行う処理システムにおいて、処理システムの運転状況を把握するための手段として、膜分離に用いる膜モジュールの閉塞状態を検知する検知手段を設け、この検知手段が、循環ポンプの圧力、撹拌手段に係る負荷、膜モジュールの入口及び出口における圧力差といった処理システムのプロセスに係るパラメータを監視する手段を含むものとすることで、膜モジュールの閉塞状態に係る予測及び判断を可能とするとともに、処理システムの運転状況に係る実態を容易に把握することが可能となる。特に、これらのパラメータは、検知に係る操作及び装置が簡便であり、イニシャルコスト及びランニングコストの面でも好ましい。また、膜モジュールの閉塞状態に係る検知結果に基づき、メタン発酵処理におけるメタン菌等の微生物濃度を維持するための微生物濃度維持手段を設けることで、メタン発酵処理効率を適切に維持しつつ、膜分離における処理効率の急速な低下を抑制することができ、膜分離メタン発酵に係る処理システム全体としての処理を安定かつ効率よく進行することが可能となる。
【0014】
また、本発明の処理システムの一実施態様としては、検知手段は、メタン発酵槽の撹拌手段に係る負荷変動の監視手段を有し、撹拌手段に係る電流値、振動、温度のうち、少なくとも一つを監視するものであるという特徴を有する。
一般に、メタン発酵槽においては、槽内を均質化し、処理効率を高めるために、処理液を撹拌するための撹拌手段が設けられている。ここで、処理液のSS濃度や粘度によって、撹拌のしやすさが変わるため、処理液のSS濃度や粘度に変化が生じた場合、撹拌手段に係る負荷も変化する。
したがって、この特徴のように、検知手段として、メタン発酵槽の撹拌手段に係る負荷変動の監視手段を有するものとすることで、処理液の物性を直接測定することなく、処理液の状態を把握することが可能となる。そして、処理液の状態から、膜モジュールの閉塞状態についての予測や判断が可能となる。これにより、膜モジュールの閉塞状態に係る検知と併せて、メタン発酵槽内の処理液の状態についても把握することが可能となる。また、撹拌手段に係る電流値、振動、温度のうち、少なくとも一つに係る監視を行い、負荷変動の監視とすることで、処理液の物性(SS濃度や粘度)に係る測定よりも簡便かつ高精度で、処理液の状態(あるいは状態に係る変化)を把握することが可能となる。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の処理方法は、有機物質を含有する処理対象物の処理を行う処理方法であって、処理対象物をメタン発酵処理するメタン発酵工程と、メタン発酵工程で生じた処理液を膜モジュールで膜分離し、濃縮液と透過液を得る膜分離工程と、処理液を膜モジュールに送液し、かつ、濃縮液をメタン発酵槽に返送する循環ポンプを用いた循環工程と、膜モジュールの閉塞状態を検知する検知工程と、検知工程による検知結果に基づき、メタン発酵槽における微生物の濃度を維持する微生物濃度維持工程と、を備え、検知工程は、循環工程における循環ポンプの圧力変動の監視手段、又は、メタン発酵工程の撹拌手段に係る負荷変動の監視手段、又は、膜分離工程における膜モジュールの処理液入口圧力と濃縮液出口圧力に係る圧力差変動の監視手段からなる群から選択される少なくとも一つの監視手段を有することを特徴とする。
この処理方法によれば、メタン発酵工程と膜分離工程を行う処理方法において、処理システムの運転状況を把握するために、膜分離工程で用いる膜モジュールの閉塞状態を検知する検知工程を備え、この検知工程が、循環ポンプの圧力、撹拌手段に係る負荷、膜モジュールの入口及び出口における圧力差といった処理システムのプロセスに係るパラメータを監視する手段を含むものとすることで、膜モジュールの閉塞状態に係る予測及び判断を可能とするとともに、処理システムの運転状況に係る実態を容易に把握することが可能となる。特に、これらのパラメータは、検知に係る操作及び装置が簡便であり、イニシャルコスト及びランニングコストの面でも好ましい。また、膜モジュールの閉塞状態に係る検知結果に基づき、メタン発酵処理における微生物濃度を維持するための微生物濃度維持工程を備えることで、メタン発酵処理効率を適切に維持しつつ、膜分離における処理効率の急速な低下を抑制することができ、膜分離メタン発酵に係る処理を安定かつ効率よく進行することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機物質を含有する処理対象物の処理において、メタン発酵処理及び膜分離を行う処理システムの運転状況に係る実態を簡便に把握するとともに、処理システム全体としての処理を安定かつ効率よく進行することが可能な処理システム、及び、この処理システムを用いた処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施態様における処理システムの構造を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の実施態様における処理システムの別態様を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の処理システム及び処理方法は、有機物質を含有する処理対象物の処理を行う処理システム及び処理方法である。また、本発明の処理システム及び処理方法は、メタン発酵処理と膜分離処理を組み合わせた膜分離メタン発酵処理に関する処理システム及び処理方法である。
【0019】
本発明における処理対象物としては、例えば、生ごみ、食品廃棄物、草木、汚泥等の固体分を含む有機性排水のほか、家畜糞尿、余剰汚泥などの有機性廃液や有機性廃棄物が挙げられる。
特に、本発明における処理対象物としては、固体分が少なく、生物処理により分解されやすい有機物質を含む有機性排水や有機性廃液が好ましい。これにより、メタン発酵処理において、嫌気性微生物濃度を高めることが容易になるとともに、処理液に含まれる固体分が少なくなるため、膜分離における膜モジュールの閉塞状態への進行を抑制することが可能となる。このような処理対象物としては、例えば、食品工場や化学工場等から排出される有機性排水、高濃度廃液等が挙げられる。より具体的には、メタノール、エタノール等のアルコール類、グルコース類、グリセリン、酢酸等の有機酸、高級脂肪酸、界面活性剤、フェノール類等を含む有機性排水及び高濃度廃液等が挙げられる。
なお、本発明における処理対象物はこれに限定されるものではなく、嫌気性下でメタン発酵処理が可能な有機物質を含むものであれば、本発明の処理対象物となる。
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る処理システム及び処理方法に係る実施態様を詳細に説明する。また、本発明に係る処理方法の説明については、本発明に係る処理システムの構成及び動作に係る説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する処理システムについては、本発明に係る処理システムを説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。また、本実施態様の処理方法は、以下の処理システムを用いた処理方法を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0021】
[処理システム]
図1は、本発明の実施態様における処理システムの構造を示す概略説明図である。
本発明の実施態様に係る処理システム100は、処理対象物Sに対し、メタン発酵処理及び膜分離処理を行うものであり、
図1に示すように、ラインL1を介して供給される処理対象物Sをメタン発酵処理するメタン発酵槽1と、メタン発酵槽1で生じた処理液Wを膜分離し、濃縮液F1と透過液F2を得る膜モジュール2と、処理液Wを膜モジュール2に送液し、かつ濃縮液F1をメタン発酵槽1に返送する循環ポンプ3と、膜モジュール2の閉塞状態を検知する検知手段4と、メタン発酵槽1におけるメタン菌等の微生物濃度を維持するための微生物濃度維持手段5と、を備えている。
【0022】
なお、本発明に係る処理システム100は、
図1に示した構成以外の設備を設けるものとしてもよい。例えば、メタン発酵槽1の前段に、処理対象物Sの濃縮を行う濃縮槽、処理対象物Sの可溶化を行う可溶化槽、メタン発酵槽1に供給する処理対象物Sの供給量を調整するための調整槽などを設けるものとしてもよい。また、膜モジュール2の後段に、透過液F2の処理を行う水処理設備を設けるものとしてもよい。また、メタン発酵槽1から発生するバイオガス(メタンガス)を、ラインL2を介して回収し、このバイオガスを利用するための脱硫装置及びガス貯留タンクを含むバイオガス利用設備を設けるものとしてもよい。
【0023】
図1に基づき、本実施態様における処理システム100による処理対象物の処理について、概要を説明する。
まず、ラインL1を介して、処理対象物Sがメタン発酵槽1に供給される。そして、メタン発酵槽1内で処理対象物Sに対してメタン発酵処理が行われる。そして、メタン発酵槽1で処理された処理対象物Sは、処理液Wとなり、膜モジュール2側へ送液される。このとき、循環ポンプ3及び配管31a~31d、32a~32cを介し、処理液Wは、複数の膜モジュール2を経由して膜分離され、濃縮液F1と透過液F2を得る。透過液F2は系外に排出されるが、濃縮液F1はメタン発酵槽1に返送される。
以上が、本実施態様における処理システム100における膜分離メタン発酵処理に係る流れとなる。
なお、
図1には図示していないが、処理システム100において、メタン発酵槽1の液位が低下しないように、透過液F2をメタン発酵槽1に返送するラインを設けるものとしてもよい。
【0024】
そして、本実施態様における処理システム100では、処理システム100の運転状況を把握するための手段として、膜分離に用いる膜モジュール2の閉塞状態を検知する検知手段4を設けている。この検知手段4が、循環ポンプ3の圧力、メタン発酵槽1における撹拌手段10に係る負荷、膜モジュール2の処理液入口及び濃縮液出口における圧力差といった処理システム100のプロセスに係るパラメータを監視する監視手段4a~4cのうち、少なくとも一つを含むものとすることで、膜モジュール2の閉塞状態に係る予測及び判断を可能とするとともに、処理システム100の運転状況に係る実態を容易に把握することが可能となる。特に、これらのパラメータは、検知に係る操作及び装置が簡便であり、イニシャルコスト及びランニングコストの面でも好ましい。
【0025】
また、本実施態様における処理システム100には、膜モジュール2の閉塞状態に係る検知結果に基づき、メタン発酵処理における微生物濃度を維持するための微生物濃度維持手段5を設けている。これにより、メタン発酵処理効率を適切に維持しつつ、膜分離における処理効率の急速な低下を抑制することができ、膜分離メタン発酵に係る処理システム全体としての処理を安定かつ効率よく進行することが可能となる。
【0026】
以下、本実施態様の処理システム100における各構成について説明する。
【0027】
(メタン発酵槽)
メタン発酵槽1は、処理対象物Sを嫌気性微生物(メタン菌等)によりメタン発酵処理するための処理槽であり、嫌気性を維持するために密閉容器とすることが望ましく、それ以外の具体的な構造については特に限定されない。
メタン発酵槽1の構造としては、例えば、処理対象物Sに応じて適宜選択することが好ましい。より具体的には、液体成分を多く含む有機性排水や有機性廃液の嫌気性処理に利用される処理槽の構造や、固体成分を多く含む有機性廃棄物の嫌気性処理に利用される処理槽の構造等を適宜選択し、使用することができる。
なお、本実施態様の処理システム100は、メタン発酵槽1で生じた処理液Wを膜モジュール2に供給して膜分離を行うものである。このため、メタン発酵槽1でグラニュールを利用したメタン発酵処理を行うと、メタン発酵槽1で生じる処理液Wに、グラニュール等、粒子径の大きな固体分が混入し、メタン発酵槽1の後段に配置された膜モジュール2の閉塞を進行させてしまうおそれがある。したがって、本実施態様におけるメタン発酵槽1は、完全混合型メタン発酵槽として公知の構造からなるものを用い、メタン発酵処理を行うことが好ましい。
【0028】
本実施態様におけるメタン発酵槽1は、内部を撹拌するために撹拌手段10を設けるものとすることが好ましい。
撹拌手段10の具体的な構成としては、例えば、
図1に示すように回転軸に設置された撹拌羽根11a及び駆動部11bを備える撹拌機11が挙げられる。また、撹拌手段10には、後述する検知手段4に係る監視手段4bが設けられる。
図1に示した処理システム100では、撹拌機11の駆動部11bに監視手段4bが設けられている。
【0029】
本実施態様における撹拌手段10は、撹拌羽根11aを有する撹拌機11に限定されるものではない。
図2は、本実施態様における処理システムの別態様を示す概略説明図である。
図2に示すように、撹拌手段10として、撹拌機11に代えて、メタン発酵槽1内の処理液Wを循環させる撹拌ポンプ12及び配管12aからなるものとしてもよい。このとき、監視手段4bは、撹拌ポンプ12に対して設けられる。
【0030】
なお、メタン発酵槽1の具体的な構造に係る一例としては、メタン発酵槽1の底部に傾斜を有することが好ましい。これにより、固形物残渣の回収を容易とするとともに、メタン発酵槽1底部における撹拌効率も向上する。
また、メタン発酵槽1に係るその他の構造に係る一例としては、例えば、撹拌手段10による撹拌効率を上げるための内部構造等をさらに備えるものなどが挙げられる。
【0031】
本実施態様におけるメタン発酵槽1で処理された処理対象物Sは、処理液Wとして、膜モジュール2へと送液される。
【0032】
(膜モジュール)
膜モジュール2は、メタン発酵槽1で生じた処理液Wに対し、膜による固液分離(膜分離)を行い、濃縮液F1と透過液F2とを得るものである。
また、本実施態様における膜モジュール2の個数については特に限定されない。例えば、
図1に示すように、複数個の膜モジュール2a、2b、2cを直列に配置するものとし、濃縮液F1を順次膜モジュール2に供給することで、処理液W中の固体分(メタン発酵汚泥)の濃縮率を高めるものとすることが挙げられる。なお、膜モジュール2の配置(配列)についても特に限定されない。例えば、複数の膜モジュール2を並列につなぐ配列を形成するものとしてもよく、複数の膜モジュール2を直列につないだものをユニット化し、このユニットを複数並列につなぐ配列を形成するものとしてもよい。
【0033】
また、
図1に示すように、濃縮液F1は、循環ポンプ3及び配管31a~31dを介し、メタン発酵槽1に返送される。一方、透過液F2は、配管32a~32cを介し、系外に排出される、なお、上述したように、系外に排出された透過液F2については、他の水処理設備により、さらに処理が行われるものとしてもよい。
【0034】
ここで、膜モジュール2に送液される処理液Wは、メタン発酵槽1における嫌気性微生物(メタン菌等)を含んでいる。つまり、メタン発酵槽1から処理液Wを排出させ、膜モジュール2に送液することに伴い、嫌気性微生物(メタン菌等)もメタン発酵槽1から排出されてしまう。
一方、
図1に示すように、本実施態様における処理システム100では、複数の膜モジュール2a、2b、2cを備え、循環ポンプ3及び配管31a~31dを介し、処理液Wを循環させ、濃縮液F1としてメタン発酵槽1に返送することで、メタン発酵槽1から流出した嫌気性微生物(メタン菌等)が、濃縮液F1として回収され、メタン発酵槽1に返送されることになる。これにより、メタン発酵槽1から嫌気性微生物が流出することを抑止し、メタン発酵槽1内の微生物濃度を維持することが可能となる。
【0035】
膜モジュール2としては、処理液Wの膜分離を行い、嫌気性微生物(メタン菌等)を多く含む固体分(メタン発酵汚泥)を含有する濃縮液F1と、固体分が除去された透過液F2を得ることができるものであればよい。
膜モジュール2の具体的な例としては、チューブラー型、中空糸型、浸漬型平膜等が挙げられる。本実施態様における膜モジュール2としては、
図1に示すように、メタン発酵槽1外に設けた槽外型と呼ばれるものを用いることが好ましい。また、膜モジュール2としてはチューブラー型を用いることが特に好ましい。チューブラー型は、膜面線速を高めて膜面近くに乱流を起こし、可逆的ファウリングを抑制するという、いわゆるクロスフロー方式による膜分離を行うことができる。このため、送液する処理液Wの物性としてSS濃度や粘度の高いものであっても、膜モジュール2の閉塞が生じにくいという利点を有する。
【0036】
本実施態様の膜モジュール2における処理液入口と濃縮液出口には、それぞれ圧力計を設け、後述する検知手段4による監視手段4cを設けるものとする。なお、複数の膜モジュール2を配列した場合、膜モジュール2を設けた最上流側の処理液入口と最下流側の濃縮液出口の圧力差に係る情報が取得できるものであればよい。具体的には、
図1に示すように、一番上流側の膜モジュール2aにおける処理液入口に圧力計PI1を設け、一番下流側の膜モジュール2cにおける濃縮液出口に圧力計PI2を設けることが挙げられる。そして、この圧力計PI1及びPI2に対して監視手段4cが設けられる。
【0037】
なお、膜モジュール2に対しては、逆洗用のラインを別途設けるものとしてもよい(不図示)。
【0038】
(循環ポンプ)
循環ポンプ3は、メタン発酵槽1で生じた処理液Wを膜モジュール2に送液し、かつ、濃縮液F1をメタン発酵槽1に返送するためのものである。これにより、メタン発酵槽1から排出された処理液W中に含まれる嫌気性微生物(メタン菌等)は、濃縮液F1としてメタン発酵槽1に返送されるため、メタン発酵槽1における嫌気性微生物の流出を抑制することが可能となる。
なお、
図1では、循環ポンプ3は、メタン発酵槽1で生じた処理液Wを、配管31aを介して膜モジュール2(膜モジュール2a)に送液し、かつ、濃縮液F1を、配管31b~31dを介して膜モジュール2(膜モジュール2b及び2c)を順次通過させ、メタン発酵槽1に返送するものを示している。
【0039】
また、循環ポンプ3には、後述する検知手段4による監視手段4aを設けるものとする。
【0040】
(検知手段)
検知手段4は、膜モジュール2の閉塞状態を検知するものである。
本実施態様における検知手段4は、膜モジュール2の閉塞状態を検知するに当たり、処理液Wの物性(SS濃度や粘度等)を直接測定するのではなく、処理システム100のプロセスに係るパラメータを監視する手段を含むものである。これにより、処理システム100の運転状況を容易に把握できるとともに、膜モジュール2の閉塞状態に係る予測及び判断が可能となる。
【0041】
本実施態様における検知手段4は、循環ポンプ3の圧力変動を監視する監視手段4a、又は、メタン発酵槽1の撹拌手段10に係る負荷変動を監視する監視手段4b、又は、膜モジュール2における処理液入口圧力と濃縮液出口圧力に係る圧力差変動を監視する監視手段4cからなる群から少なくとも一つ選択されるものである。
これらの監視手段4a~4cにより監視する対象は、処理システム100のプロセスに係るパラメータであり、かつ、処理液WのSS濃度や粘度の変化によって変動するパラメータでもある。このため、監視手段4a~4cにより監視対象(パラメータ)の変動が生じた場合、処理液WのSS濃度や粘度にも変化が生じていることになるため、処理システム100の運転状況の把握や、膜モジュール2の閉塞状態に係る予測あるいは判断を行うことが容易となる。
【0042】
監視手段4a~4cによる監視については、処理システム100が稼働している間、常時行うものとしてもよく、定期あるいは不定期に監視を行うものとしてもよい。
また、監視手段4a~4cによる監視結果に基づき、膜モジュール2の閉塞状態に係る予測あるいは判断を行う手段としては、各監視手段4a~4cごとに、あらかじめ監視結果における閾値を設定しておくことが挙げられる。例えば、監視手段4a~4cにおける監視結果において、いずれか一つでも閾値を超えた場合においては、処理システム100の運転状況に係る実態として、膜モジュール2の閉塞状態が進行する条件下にあり、安定かつ効率のよい処理が困難になる傾向にあると判断することができる。そして、後述する微生物濃度維持手段5による対応を行うことで、処理システム100による処理を安定かつ効率よく進行させることが可能となる。
【0043】
以下、各監視手段について説明する。
【0044】
監視手段4aは、循環ポンプ3の圧力変動を監視するものであり、循環ポンプ3が備える圧力ゲージ等の読み取りを行うものや、循環ポンプ3側からの圧力データの送受信を行うものなどが挙げられる。また、循環ポンプ3側から圧力に係るデータを直接得ること以外にも、循環ポンプ3が設けられた配管31aに対し、循環ポンプ3近傍に圧力計等の計器を設け、この計器における数値変化を監視することで、循環ポンプ3の圧力変動を監視するものとしてもよい。
【0045】
ここで、循環ポンプ3の圧力変動が生じる要因は、メタン発酵槽1から供給される処理液WのSS濃度や粘度の変動(増減)によるものである。例えば、循環ポンプ3により処理液Wを送液する際に、それまでよりも送液における圧力が必要となった場合(監視手段4aにより、循環ポンプ3の圧力が上昇したという圧力変動を検知した場合)、処理液Wの粘度あるいはSS濃度が増加しているものと判断することができる。すなわち、膜モジュール2における閉塞状態が生じやすい運転状況となっているといった判断が可能となる。
【0046】
監視手段4bは、メタン発酵槽1の撹拌手段10に係る負荷変動を監視するものである。
例えば、撹拌手段10が、
図1に示すような撹拌機11からなるものである場合、撹拌手段10に係る「負荷」とは、撹拌手段10(撹拌機11)における回転力に加わる力(抵抗力)を指すものであり、より具体的には、撹拌手段10(撹拌機11)のトルク負荷のことを指すものである。
したがって、監視手段4bとしては、撹拌機11のトルク負荷変動を監視することができるものであればよく、例えば、監視対象として、撹拌機11の電流値、振動、温度のうち、少なくとも一つから選択し、監視を行うものとすることが挙げられる。より具体的には、例えば、撹拌機11の駆動部11bにおける電流値、振動、温度について、駆動部11bが元々備える機能を利用することや、測定計器を設けること等が挙げられる。なお、ここで「振動」とは、振動速度、振動化速度、周波数解析などを含むものである。
さらに具体的には、電流値については、駆動部11bに電流計を設けることや、駆動部11bに備えられた電流の入出力手段を用いること等が挙げられる。また、振動に関しては、駆動部11bに低周波数帯~高周波数帯を利用した接触式振動計や非接触式振動計を用いることなどが挙げられる。なお、高周波数帯を利用した振動計により、駆動部11bの損傷についても併せて検知することが可能となる。さらに、温度については、駆動部11bに温度センサを設けることや、赤外線カメラ等、感知した熱を外部出力可能なものを設けることなどが挙げられる。
【0047】
ここで、撹拌手段10の負荷変動が生じる要因は、メタン発酵槽1内における処理液WのSS濃度や粘度の変動(増減)によるものである。例えば、撹拌手段10(撹拌機11)による撹拌中に、それまでよりも駆動部11bで必要とする電流値が高くなっている場合、メタン発酵槽1内の処理液Wの粘度あるいはSS濃度が増加しているものと判断することができる。すなわち、膜モジュール2における閉塞状態が生じやすい運転状況となっているといった判断が可能となる。
【0048】
また、例えば、撹拌手段10が、
図2に示すような撹拌ポンプ12からなるものである場合、撹拌手段10に係る「負荷」とは、撹拌手段10(撹拌ポンプ12)の駆動に必要となる力を指すものであり、より具体的には、撹拌手段10(撹拌ポンプ12)の駆動部における出力負荷のことを指すものである。監視手段4bとしては、撹拌ポンプ12の負荷変動を監視するものであればよく、監視対象を、撹拌ポンプ12に係る圧力、電流値、振動、温度のうち、少なくとも一つから選択し、監視を行うものとする。これにより、撹拌機11と同様に、処理システム100の運転状況を把握し、膜モジュール2における閉塞状態に関する判断を行うことが可能となる。
【0049】
監視手段4cは、膜モジュール2の処理液入口圧力と濃縮液出口圧力に係る圧力差変動を監視するものである。監視手段4cとしては、例えば、
図1に示すように、膜モジュール2aの処理液入口側(配管31a上)に設けられた圧力計PI1の値と、膜モジュール2cの濃縮液出口側(配管31d上)に設けられた圧力計PI2の値とを取得し、その圧力差を求めることが挙げられる。
【0050】
ここで、膜モジュール2の入口及び出口に係る圧力差変動が生じる要因は、メタン発酵槽1から供給される処理液WのSS濃度や粘度の変動(増減)によるものに加え、膜モジュール2の閉塞状態が進行していることによるものでもある。例えば、膜モジュール2における処理液入口圧力と濃縮液出口圧力の圧力差変動が生じた場合、膜モジュール2の閉塞状態が進行しているとともに、処理液Wの粘度あるいはSS濃度が増加しているものと判断することができる。
【0051】
検知手段4としての監視手段4a~4cは、少なくとも一つを備えるものであればよい。したがって、監視手段4a~4cの中から、いずれか一つを選択するものであってもよく、複数あるいは全てを備えるものであってもよい。
【0052】
特に、本実施態様における検知手段4としては、少なくとも、メタン発酵槽1の撹拌手段10に係る負荷変動の監視手段4bを有するものとすることが好ましい。これにより、膜モジュール2の閉塞状態に係る検知と併せて、メタン発酵槽1内の処理液Wに係る状態についても把握することが可能となる。また、撹拌手段10に係る電流値、振動、温度のうち、少なくとも一つに係る監視を行い、負荷変動の監視とすることで、処理液Wの物性(SS濃度や粘度)に係る測定よりも簡便かつ高精度で、処理液Wの状態(あるいは状態に係る変化)を把握することが可能となる。
【0053】
検知手段4によって、膜モジュール2の閉塞状態あるいは膜モジュール2の閉塞状態が進行していることを検知した場合、この条件のまま処理システム100の運転を継続すると、処理システム100の運転に支障が出る状態となる。
したがって、検知手段4による膜モジュール2の閉塞状態に係る検知結果に基づき、処理システム100に係る運転を安定化させる対応を行い、監視手段4a~4cで監視する対象が、閾値を超えることなく、膜モジュール2の閉塞状態への進行を抑制することを可能とすることが挙げられる。
より具体的には、例えば監視手段4aであれば、循環ポンプ3の圧力変動が上昇傾向あるいは下降傾向にある際に、圧力変動差が一定範囲に収まるように、処理液Wの物性や処理液Wの処理状態・処理条件を調整することが挙げられる。特に、メタン発酵槽1における微生物(メタン菌等)の濃度を維持するような調整を行い、処理液WのSS濃度や粘度等が過剰に高く、あるいは低くならないようにするとともに、メタン発酵槽1内で安定したメタン発酵処理を進行させることが挙げられる。これにより、メタン発酵処理効率を適切に維持しつつ、膜分離における閉塞状態への進行を抑制することで、処理効率の急速な低下を抑制することができ、膜分離メタン発酵に係る処理システム全体としての処理を安定かつ効率よく進行することが可能となる。
【0054】
(微生物濃度維持手段)
微生物濃度維持手段5は、メタン発酵槽1における微生物の濃度を維持するための手段であり、検知手段4で検知した検知結果に基づき作動するものである。なお、微生物濃度維持手段5の対象となる「メタン発酵槽1における微生物」とは、メタン発酵に関与する微生物全般を含むものである。メタン発酵槽1における微生物としては、より具体的には、メタン菌のほか、有機物質の低分子化や加水分解、あるいは酸生成に関与する微生物等が挙げられる。
【0055】
微生物濃度維持手段5は、メタン発酵槽1における微生物濃度を一定に維持することができるものであればよく、例えば、メタン発酵槽1の処理条件(微生物の栄養源の添加、温度、撹拌条件等)を制御することにより、メタン発酵槽1内におけるメタン菌等の活性を制御して微生物濃度の維持を行うことや、メタン発酵槽1内のメタン発酵汚泥を引き抜くことで、微生物濃度の維持を行うこと等が挙げられる。
本実施態様における微生物濃度維持手段5としては、操作が簡便であり、かつ一定の精度で微生物濃度の維持を行うことができるという観点から、メタン発酵槽1内のメタン発酵汚泥を引き抜くものについて例示し、説明を行う。
【0056】
微生物濃度維持手段5は、
図1に示すように、配管31aから分岐した配管51と、配管51上に設けられた引き抜き部52からなるものである。引き抜き部52は、検知手段4の検知結果に応じて引き抜き操作が制御されるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、
図1に示すように、配管51上に設けた流量調節用バルブと送液ポンプの組み合わせからなるもの等が挙げられる。
【0057】
引き抜き部52によるメタン発酵汚泥の引き抜き量は、検知手段4の検知結果に応じたものとする。より具体的には、検知手段4の監視手段4a~4cにおいて、監視対象の変動幅が一定の範囲に収まるよう、引き抜き部52によって連続的または間欠的にメタン発酵汚泥の引き抜きを行うことが挙げられる。これにより、メタン発酵槽1内の微生物濃度を適切に維持することができ、メタン発酵処理効率を適切に維持しつつ、膜分離における処理効率の急速な低下を抑制することができ、膜分離メタン発酵に係る処理システム100全体としての処理を安定かつ効率よく進行することが可能となる。
【0058】
本実施態様における微生物濃度維持手段5としては、
図1に示すように、メタン発酵槽1と膜モジュール2(膜モジュール2a)を接続し、メタン発酵槽1から排出される処理液Wを膜モジュール2(膜モジュール2a)に対して供給する配管31aに設けることに限定されない。その他の例としては、例えば、膜モジュール2(膜モジュール2c)とメタン発酵槽1を接続し、膜モジュール2(膜モジュール2c)からメタン発酵槽1に向かって濃縮液F1を供給する配管31d上に、分岐した配管51及び引き抜き部52を設け、濃縮液F1からメタン発酵汚泥を引き抜くものとすることが挙げられる。
【0059】
なお、上述した実施態様は処理システム及び処理方法の一例を示すものである。本発明に係る処理システム及び処理方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る処理システム及び処理方法を変形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の処理システム及び処理方法は、有機性廃液や有機性廃棄物等、有機物質を含有する処理対象物に対する処理に利用される。また、本発明の処理システム及び処理方法は、メタン発酵処理及び膜分離による膜分離メタン発酵処理として、特に好適に利用される。
【符号の説明】
【0061】
100 処理システム、1 メタン発酵槽、10 撹拌手段、11 撹拌機、11a 撹拌羽根、11b 駆動部、12 撹拌ポンプ、12a 配管、2,2a,2b,2c 膜モジュール、3 循環ポンプ、31a~31d 配管、32a~32c 配管、4 検知手段、4a~4c 監視手段、5 微生物濃度維持手段、51 配管、52 引き抜き部、F1 濃縮液、F2 透過液、L1,L2 ライン、PI1,PI2 圧力計、S 処理対象物、W 処理液