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特許7735731ポリイミド前駆体溶液、多孔質ポリイミド膜、及び絶縁電線
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  • 特許-ポリイミド前駆体溶液、多孔質ポリイミド膜、及び絶縁電線 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体溶液、多孔質ポリイミド膜、及び絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20250902BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250902BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20250902BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20250902BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20250902BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20250902BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08L101/00
C08K3/00
C08K5/092
C08K5/17
H01B7/02 G
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021141529
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023034978
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2024-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】清徳 滋
(72)【発明者】
【氏名】岩永 猛
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 英一
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/040356(WO,A1)
【文献】特開2010-106207(JP,A)
【文献】特開2010-235773(JP,A)
【文献】特開2018-138645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L79
C08G73
C08J9
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体であるポリイミド前駆体と、
粒子と、
溶剤と、
1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物と、
を含有し、
前記粒子が、樹脂粒子、シリカ粒子、酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、炭酸カルシウム粒子、酸化カルシウム粒子、二酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、及び酸化セリウム粒子よりなる群から選択される粒子であり、
前記粒子の体積平均粒径D50vが、0.1μm以上30μm以下であり、
前記粒子の含有量が、前記ポリイミド前駆体及び前記粒子の合計体積に対し、体積割合で50体積%以上70体積%以下であるポリイミド前駆体溶液。
【請求項2】
前記粒子の含有率が、前記ポリイミド前駆体及び前記粒子の合計体積に対し、体積割合で50体積%以上60体積%以下である請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項3】
前記粒子の体積平均粒径D50Vが、0.25μm以上1μm以下である請求項2に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項4】
前記1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物の含有量は、前記テトラカルボン酸二無水物100モル部に対し、0.3モル部以上2.0モル部以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項5】
前記1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物の含有量は、前記テトラカルボン酸二無水物100モル部に対し、0.5モル部以上1.5モル部以下である、請求項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項6】
前記1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物は、芳香族テトラカルボン酸である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項7】
前記芳香族テトラカルボン酸の1分子中における芳香環数は5以下である、請求項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項8】
前記ポリイミド前駆体は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物との重合体である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項9】
前記溶剤は、水を含む、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項10】
さらに有機アミン化合物を含有する、請求項9に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体溶液から得られ空孔を有する多孔質焼成物である、多孔質ポリイミド膜。
【請求項12】
空孔率が50体積%以上70体積%以下である、請求項11に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項13】
電線本体と、
前記電線本体の表面に設けられた請求項11又は請求項12に記載の多孔質ポリイミド膜と、
を有する、絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体溶液、多孔質ポリイミド膜、及び絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、線状の導体と、導体の外周側の面を取り囲むように配置される絶縁被膜と、を備え、絶縁被膜が、特定の繰り返し単位を特定のモル比率で含む分子構造を有しするポリイミド層を含み、ポリイミド層が複数の気孔を特定の割合で有する絶縁電線が開示されている。
【0003】
特許文献2には、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、絶縁層の少なくとも1層が複数の中空無機粒子を含み、ASTM D3102-78に準拠してグリセロール法により測定される中空無機粒子の耐圧強度が10MPa以上である絶縁電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/230706号
【文献】特開2017-45662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
絶縁電線における絶縁被膜として用いられるポリイミド膜においては、電線のコロナ放電開始電圧を高くする目的で、低い誘電率が求められる。低い誘電率のポリイミド膜を得る方法としては、例えば、ポリイミド膜を多孔質化し、かつ、ポリイミド膜における空孔率を高くする方法が挙げられる。
一方、多孔質ポリイミド膜の誘電率を低くするために空孔率を上げると、ポリイミド膜自体の機械的強度が低下することがある。
【0006】
本発明の課題は、ポリイミド前駆体と粒子と溶剤とのみを含有する場合に比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち
【0008】
<1>
テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体であるポリイミド前駆体と、
粒子と、
溶剤と、
1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物と、
を含有するポリイミド前駆体溶液。
<2>
前記1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物の含有量は、前記テトラカルボン酸二無水物100モル部に対し、0.3モル部以上2.0モル部以下である、<1>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<3>
前記1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物の含有量は、前記テトラカルボン酸二無水物100モル部に対し、0.5モル部以上1.5モル部以下である、<2>に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0009】
<4>
前記1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物は、芳香族テトラカルボン酸である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
<5>
前記芳香族テトラカルボン酸の1分子中における芳香環数は5以下である、<4>に記載のポリイミド前駆体溶液。
<6>
前記ポリイミド前駆体は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物との重合体である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
【0010】
<7>
前記粒子は、樹脂粒子である、<1>~<6>のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
<8>
前記粒子の含有率は、前記ポリイミド前駆体及び前記粒子の合計体積に対し、体積割合で50体積%以上70体積%以下である、<1>~<7>のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
<9>
前記溶剤は、水を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液。
<10>
さらに有機アミン化合物を含有する、<9>に記載のポリイミド前駆体溶液。
【0011】
<11>
<1>~<10>のいずれか1つに記載のポリイミド前駆体溶液から得られ空孔を有する多孔質焼成物である、多孔質ポリイミド膜。
<12>
空孔率が50体積%以上70体積%以下である、<11>に記載の多孔質ポリイミド膜。
<12>
電線本体と、
前記電線本体の表面に設けられた<11>又は<12>に記載の多孔質ポリイミド膜と、
を有する、絶縁電線。
【発明の効果】
【0012】
<1>に係る発明によれば、ポリイミド前駆体と粒子と溶剤とのみを含有する場合に比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<2>に係る発明によれば、前記1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物の含有量が前記テトラカルボン酸二無水物100モル部に対し0.3モル部未満である場合に比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<3>に係る発明によれば、前記1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物の含有量が前記テトラカルボン酸二無水物100モル部に対し0.5モル部未満である場合に比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0013】
<4>に係る発明によれば、前記1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物が脂肪族テトラカルボン酸である場合に比べ、高い機械的強度を有する多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<5>に係る発明によれば、前記芳香族テトラカルボン酸の1分子中における芳香環数が5より大きい場合に比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<6>に係る発明によれば、前記ポリイミド前駆体が脂肪族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族ジアミン化合物との重合体である場合に比べ、高い機械的強度を有する多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0014】
<7>に係る発明によれば、前記粒子が無機粒子である場合に比べ、低コストで多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<8>に係る発明によれば、前記粒子の含有率は、前記ポリイミド前駆体の固形分、及び前記粒子の合計体積に対し、体積割合で50体積%未満又は70体積%超えである場合に比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<9>に係る発明によれば、溶剤が水を含まない場合に比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
<10>に係る発明によれば、有機アミン化合物を含有しない場合に比べ、高い機械的強度を有する多孔質ポリイミド膜が得られるポリイミド前駆体溶液が提供される。
【0015】
<11>に係る発明によれば、ポリイミド前駆体と粒子と溶剤とのみを含有するポリイミド前駆体溶液を適用した場合に比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が提供される。
<12>に係る発明によれば、空孔率が50体積%未満又は70体積%超えである場合に比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が提供される。
<13>に係る発明によれば、ポリイミド前駆体と粒子と溶剤とのみを含有するポリイミド前駆体溶液を適用した場合に比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜を有する絶縁電線が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のポリイミド前駆体溶液を用いて得られた多孔質ポリイミドフィルムの形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0018】
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0019】
本実施形態において、「膜」は、一般的に「膜」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「フィルム」及び「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
【0020】
[ポリイミド前駆体溶液]
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体であるポリイミド前駆体と、粒子と、溶剤と、1分子中に4以上のカルボキシ基を有する化合物(以下「特定化合物」ともいう)と、を含有する。
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、上記構成とすることで、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が得られる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0021】
前記の通り、低い誘電率のポリイミド膜を得る方法としては、例えば、ポリイミド膜を多孔質化し、かつ、ポリイミド膜における空孔率を高くする方法が挙げられる。一方、多孔質ポリイミド膜の誘電率を低くするために空孔率を上げると、ポリイミド膜自体の機械的強度が低下することがある。
【0022】
これに対して、本実施形態では特定化合物を含有する。特定化合物は、無水化されていないカルボキシ基を1分子中に4以上含む化合物である。
ここで、多孔質ポリイミド膜は、例えば、ポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させて皮膜を形成し、皮膜を焼成(つまり、イミド化)して粒子を除去することで製造される。
特定化合物は、皮膜の焼成時にカルボキシ基の脱水により無水化し、無水カルボン酸に変化すると考えられる。そして、特定化合物が無水化した無水物が、ポリイミド前駆体におけるジアミンに由来する単位と反応し、架橋構造を形成すると考えられる。つまり、特定化合物が架橋剤の役割を果たし、空孔率が高くても機械的強度が高くなることで、得られる多孔質ポリイミド膜における低い誘電率と高い機械的強度とが両立されると推測される。
以下、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液に含まれる各成分について説明する。
【0023】
<ポリイミド前駆体>
本実施形態のポリイミド前駆体溶液は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体であるポリイミド前駆体を含む。ポリイミド前駆体は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とが1:1のモル比で重合した重合体であり、テトラカルボン酸二無水物に由来する単位とジアミン化合物に由来する単位とを含む重合体である。
ポリイミド前駆体としては、例えば、一般式(I)で表される繰り返し単位を有する樹脂(ポリイミド前駆体)が挙げられる。
【0024】
【化1】
【0025】
(一般式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。)
【0026】
ここで、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基としては、原料となるテトラカルボン酸二無水物より4つのカルボキシル基を除いたその残基である。
一方、Bが表す2価の有機基としては、原料となるジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基である。
【0027】
つまり、一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である。
【0028】
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族化合物及び脂肪族化合物のいずれも挙げられるが、高い機械的強度を有する多孔質ポリイミド膜を得る観点から、テトラカルボン酸二無水物は、芳香族化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0029】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン等が挙げられる。
【0030】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物がよく、具体的には、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、更に、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、特に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がよい。
【0032】
なお、テトラカルボン酸二無水物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族テトラカルボン酸二無水物、又は脂肪族テトラカルボン酸を各々併用しても、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族テトラカルボン酸二無水物とを組み合わせてもよい。
【0033】
一方、ジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物である。ジアミン化合物としては、芳香族化合物及び脂肪族化合物のいずれも挙げられるが、高い機械的強度を有する多孔質ポリイミド膜を得る観点から、ジアミン化合物は、芳香族化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Bが表す2価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0034】
ジアミン化合物としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,7-ジアミノフルオレン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2’,5,5’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジクロロ-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)-ビフェニル、1,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]-ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、ジアミン化合物としては、芳香族ジアミン化合物がよく、具体的には、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンがよく、特に、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミンがよい。
【0036】
なお、ジアミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族ジアミン化合物、又は脂肪族ジアミン化合物を各々併用しても、芳香族ジアミン化合物と脂肪族ジアミン化合物とを組み合わせてもよい。
【0037】
ポリイミド前駆体は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物との重合体、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族ジアミン化合物との重合体、脂肪族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物との重合体、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族ジアミン化合物との重合体のいずれでもよい。これらの中でも、ポリイミド前駆体は、高い機械的強度を有する多孔質ポリイミド膜を得る観点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物との重合体であることが好ましい。
【0038】
本実施形態に用いられるポリイミド前駆体の重量平均分子量は、好ましくは5000以上300000以下であり、より好ましくは10000以上150000以下である。
【0039】
ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される。
・カラム:東ソーTSKgelα-M(7.8mm I.D×30cm)
・溶離液:DMF(ジメチルホルムアミド)/30mMLiBr/60mMリン酸
・流速:0.6mL/min
・注入量:60μL
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0040】
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液に含まれるポリイミド前駆体の含有率は、ポリイミド前駆体溶液の全質量に対して、0.1質量%以上40質量%以下であることがよく、好ましくは1質量%以上25質量%以下である。
【0041】
<粒子>
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は粒子を含む。
粒子の材質は、ポリイミド前駆体溶液中において溶解せず分散している状態であり、さらに、多孔質ポリイミド膜を作製するときに、後述する粒子除去工程で除去可能であれば、特に限定されない。粒子は、後述する樹脂粒子及び無機粒子に大別される。
ここで、本明細書中において、「粒子が溶解しない」とは、25℃において、粒子が、対象となる液体に対して溶解しないことに加え、3質量%以下の範囲内で溶解することも含む。
【0042】
粒子の体積平均粒径D50vは、特に限定されない。粒子の体積平均粒径D50vは、例えば、0.1μm以上30μm以下の範囲が挙げられ、0.15μm以上10μm以下であることが好ましく、0.2μm以上5μm以下であることがより好ましく、0.25μm以上1μm以下であることがさらに好ましい。粒子の体積平均粒径が、この範囲であると、粒子の凝集が抑制されやすくなり、多孔質ポリイミド膜における空孔の偏在が抑制され、低い誘電率と高い機械的強度とをさらに両立した多孔質ポリイミド膜が得られやすくなる。また、粒子が樹脂粒子である場合、樹脂粒子の生産性が向上しやすくなる。
また、粒子の体積粒度分布指標(GSDv)は、1.30以下が好ましく、1.25以下がより好ましく、1.20以下が最も好ましい。粒子の体積粒度分布指標は、ポリイミド前駆体溶液中の粒子の粒度分布から、(D84v/D16v)1/2として算出される。
【0043】
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液中の粒子の粒度分布は、次のようにして測定する。測定対象となる溶液を希釈してコールターカウンターLS13(ベックマン・コールター社製)を用いて、液中の粒子の粒度分布を測定する。測定される粒度分布を基にして、分割された粒度範囲(チャンネル)に対して、小径側から体積累積分布を描いて粒度分布を測定する。
そして、小径側から描いた体積累積分布のうち、累積16%となる粒径を体積粒径D16v、累積50%となる粒径を体積平均粒径D50v、累積84%となる粒径を体積粒径D84vとする。
【0044】
なお、本実施形態のポリイミド前駆体溶液中の粒子の体積粒度分布が、上記方法で測定し難い場合、動的光散乱法等の方法にて測定してもよい。
【0045】
粒子の形状は球状であることがよい。球状の粒子を用いて、多孔質ポリイミド膜を作製すると、球状の空孔を備えた多孔質ポリイミド膜が得られる。
なお、本明細書中において、粒子における「球状」とは、球状、及びほぼ球状(球状に近い形状)の両者の形状を包含するものである。具体的には、長径と短径の比(長径/短径)が1以上1.5以下である粒子の割合が90%以上存在することを意味する。長径と短径の比が1に近づくほど真球状に近くなる。
【0046】
粒子としては、樹脂粒子及び無機粒子のいずれを用いてもよいが、樹脂粒子を使用することが好ましい。
粒子として樹脂粒子を用いると、多孔質ポリイミド膜を形成する過程において、ポリイミド前駆体溶液の皮膜を焼成する際の加熱により粒子が除去される。そのため、粒子として樹脂粒子を用いた場合は、粒子として無機粒子を用いた場合のように別途粒子を除去する操作を行う必要がなく、低コストで多孔質ポリイミド膜が得られやすくなる。
また、樹脂粒子及びポリイミド前駆体はいずれも有機材料であることから、樹脂粒子を使用した場合は、無機粒子を使用する場合と比較し、ポリイミド前駆体溶液中又はポリイミド前駆体溶液の塗膜中の粒子分散性、ポリイミド前駆体との界面密着性等が向上しやすい。さらに、ポリイミド膜を製造する際のイミド化工程において、樹脂粒子は体積収縮を吸収しやすいため、この体積収縮によるポリイミド膜に生じる亀裂を生じにくくしやすい。
【0047】
以下、樹脂粒子及び無機粒子の具体的な材料について説明する。
【0048】
-樹脂粒子-
樹脂粒子としては、具体的には、例えば、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸類、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルエーテルなどに代表されるビニル系ポリマー;ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミドなどに代表される縮合系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンなどに代表される炭化水素系ポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオリドなどに代表されるフッ素系ポリマー;などの樹脂粒子が挙げられる。
ここで、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」のいずれをも含むことを意味する。また、(メタ)アクリル酸類とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドを含む。
【0049】
樹脂粒子は、架橋されていても架橋されていなくてもよい。架橋する場合は、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ノナンジアクリレート、デカンジオールジアクリレートなどの二官能単量体、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能単量体を併用してもよい。
【0050】
樹脂粒子がビニル樹脂粒子である場合、単量体を重合して得られる。ビニル樹脂の単量体としては、以下に示す単量体が挙げられる。例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン等)、ビニルナフタレン等のスチレン骨格を有するスチレン類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル類;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ケイ皮酸、フマル酸、ビニルスルホン酸等の酸類;エチレンイミン、ビニルピリジン、ビニルアミン等の塩基類;等の単量体を重合体させたビニル樹脂単位が挙げられる。
その他の単量体として、酢酸ビニルなどの単官能単量体を併用してもよい。
また、ビニル樹脂は、これらの単量体を単独で用いた樹脂でもよいし、2種以上の単量体を用いた共重合体である樹脂であってもよい。
【0051】
樹脂粒子としては、製造性、後述する粒子除去工程の適応性の観点から、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸類の樹脂粒子であることが好ましい。具体的には、ポリスチレン、スチレン-(メタ)アクリル酸類共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸類の樹脂粒子がさらに好ましく、ポリスチレン及びポリ(メタ)アクリル酸エステル類の樹脂粒子が最も好ましい。これらの樹脂粒子は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
樹脂粒子は、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液の作製の過程、及び多孔質ポリイミド膜を作製するときのポリイミド前駆体溶液の塗布、塗膜の乾燥の過程のうち樹脂粒子除去の前において、粒子の形状が保持されていることが好ましい。この観点から、樹脂粒子のガラス転移温度としては、60℃以上であることがよく、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
【0053】
なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により得られたDSC曲線より求め、より具体的にはJIS K 7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」のガラス転移温度の求め方に記載の「補外ガラス転移開始温度」により求められる。
【0054】
-無機粒子-
無機粒子としては、例えば、具体的には、シリカ(二酸化ケイ素)粒子、酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、炭酸カルシウム粒子、酸化カルシウム粒子、二酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化セリウム粒子などの無機粒子が挙げられる。粒子の形状は、上述した通り、球状であることがよい。この観点で、無機粒子としては、シリカ粒子、酸化マグネシウム粒子、炭酸カルシウム粒子、酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子の無機粒子が好ましく、シリカ粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子の無機粒子がより好ましく、シリカ粒子がさらに好ましい。これらの無機粒子は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
なお、ポリイミド前駆体溶液の溶剤への無機粒子の濡れ性及び分散性が不十分である場合は、必要に応じて、無機粒子の表面を修飾してもよい。表面修飾の方法としては、例えば、シランカップリング剤に代表される有機基を有するアルコキシシランで処理する方法;シュウ酸、クエン酸、乳酸などの有機酸でコーティングする方法;などが挙げられる。
【0056】
本実施形態において、粒子の含有率は、前記ポリイミド前駆体及び粒子の合計体積に対し、体積割合で50体積%以上70体積%以下であることが好ましく、52体積%以上68体積%以下であることがより好ましく、55体積%以上65体積%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、特定化合物を含有するため、粒子の含有率が上記範囲であっても、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が得られる。
また、粒子の含有率が上記範囲であることにより、上記範囲よりも少ない場合に比べて誘電率の低い多孔質ポリイミド膜が得られ、上記範囲よりも多い場合に比べて機械的強度の高い多孔質ポリイミド膜が得られる。
【0057】
ここで、特定量のポリイミド前駆体溶液中に含まれる粒子の体積を求める方法としては、ポリイミド前駆体溶液をろ過し、ろ過前におけるポリイミド前駆体溶液の体積と、ろ過後におけるろ液の体積と、の差を求める方法が挙げられる。
また、特定量のポリイミド前駆体溶液中に含まれるポリイミド前駆体の体積を求める方法としては、ポリイミド前駆体溶液を基材に塗布し、200℃で1時間乾燥させた乾燥膜の体積をレーザー体積計で測定し、得られた乾燥膜の体積と、前述の方法により求められた粒子の体積と、の差からポリイミド前駆体の体積を求める方法が挙げられる。
【0058】
また、粒子の含有率は、ポリイミド前駆体溶液の全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
【0059】
<溶剤>
本実施形態のポリイミド前駆体溶液は溶剤を含む。
溶剤は、ポリイミド前駆体溶液中で、ポリイミド前駆体が溶解し、かつ粒子が溶解せずに分散している状態となるものであれば、特に限定されるものではない。
溶剤は、水を含むことが好ましい。水を含む溶剤は、水を含まない溶剤に比べて特定化合物の溶解度が高くなりやすく、特定化合物の濃度を高くすることにより、低い誘電率と高い機械的強度とを両立する多孔質ポリイミド膜が得られやすくなる。
【0060】
水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、限外濾過水、純水等が挙げられる。
溶剤全体に対する水の含有率は、特定化合物の濃度を高くする観点から、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
以下、溶剤全体に対する水の含有率が50質量%以上である溶剤を「水性溶剤」ともいい、溶剤全体に対する水の含有率が50質量%未満であり有機溶剤を含む溶剤を「有機系溶剤」ともいう。
【0061】
-水性溶剤-
水性溶剤は、水以外の溶剤を含んでもよい。水以外の溶剤としては、例えば、水溶性の有機溶剤、非プロトン性極性溶剤が挙げられる。水以外の溶剤としては、多孔質ポリイミド膜の機械的強度等の点から、水溶性の有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0062】
粒子として樹脂粒子を用い、溶剤として水溶性の有機溶剤を含む水性溶剤を用いる場合、ポリイミド前駆体溶液中での粒子の溶解、膨潤を抑制するため、水溶性の有機溶剤の含有率は、全水性溶剤に対して40質量%以下、好ましくは30質量%以下であることがよい。また、ポリイミド前駆体溶液の塗膜を乾燥し、皮膜化する際の樹脂粒子の溶解、膨潤を抑制するため、水溶性の有機溶剤の含有量は、ポリイミド前駆体溶液中の粒子とポリイミド前駆体の合計量に対し、3質量%以上50質量%以下、好ましくは、5質量%以上40質量%以下、より好ましくは、5質量%以上35質量%以下で用いることがよい。
【0063】
水溶性の有機溶剤の例としては、例えば、以下に示す水溶性エーテル系溶剤、水溶性ケトン系溶剤、水溶性アルコール系溶剤が挙げられる。
【0064】
水溶性エーテル系溶剤は、一分子中にエーテル結合を持つ水溶性の有機溶剤である。水溶性エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、水溶性エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンが好ましい。
【0065】
水溶性ケトン系溶剤は、一分子中にケトン基を持つ水溶性の有機溶剤である。水溶性ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中でも、水溶性ケトン系溶剤としては、アセトンが好ましい。
【0066】
水溶性アルコール系溶剤は、一分子中にアルコール性水酸基を持つ水溶性の有機溶剤である。水溶性アルコール系溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテル、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール等が挙げられる。これらの中でも、水溶性アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテルが好ましい。
【0067】
多孔質ポリイミド膜の諸特性(例えば、透明性、機械的強度、耐熱性、電気特性、耐溶剤性等)向上の点から、水性溶剤に非プロトン性極性溶剤を含ませてもよい。この場合、ポリイミド前駆体溶液中の粒子の溶解、膨潤を抑制するため、非プロトン性極性溶剤の含有率は、全水性溶剤に対して40質量%以下、好ましくは30質量%以下であることがよい。また、ポリイミド前駆体溶液を乾燥し、膜化する際の樹脂粒子の溶解、膨潤を抑制するため、非プロトン性極性溶剤の含有量は、ポリイミド前駆体溶液中の粒子とポリイミド前駆体の合計含有量(固形分)に対し、3質量%以上200質量%以下、好ましくは、3質量%以上100質量%以下、より好ましくは、3質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは、5質量%以上50質量%以下であることがよい。
上記非プロトン性極性溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0068】
水性溶剤として水以外の非プロトン性極性溶剤を含有する場合、併用される非プロトン性極性溶剤としては、沸点150℃以上300℃以下で、双極子モーメントが3.0D以上5.0D以下の有機溶剤が挙げられる。非プロトン性極性溶剤として具体的には、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチレンホスホルアミド(HMPA)、N-メチルカプロラクタム、N-アセチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。
【0069】
なお、水性溶剤として水以外の溶剤を含有する場合、併用される溶剤は、沸点が270℃以下であることがよく、好ましくは60℃以上250℃以下、より好ましくは80℃以上230℃以下である。併用される溶剤の沸点を上記範囲とすると、水以外の溶剤がポリイミド膜に残留し難くなり、また、機械的強度の高いポリイミド膜が得られ易くなる。
【0070】
-有機系溶剤-
有機系溶剤は、ポリイミド前駆体溶液中において、ポリイミド前駆体は溶解し、粒子は溶解せず分散している状態が得られるように選択される。有機系溶剤は、ポリイミド前駆体に対する良溶剤(S1)と、良溶剤(S1)以外の溶剤(S2)との混合溶剤であることが好ましい。
【0071】
ポリイミド前駆体に対する良溶剤(S1)とは、ポリイミド前駆体の溶解度が5質量%以上を示す溶剤を指す。良溶剤(S1)として、具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルプロピレンウレア、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトン、β-プロピオラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン等の非プロトン性極性溶剤が挙げられる。
これらの中でも、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトンが好ましく、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトンがより好ましく、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ―ブチロラクトンがさらに好ましい。
【0072】
ポリイミド前駆体に対する良溶剤以外の溶剤(S2)としては、用いる粒子の溶解度が低いものを選択する。溶剤の選択法の例としては、例えば、対象となる溶剤に粒子を添加して、溶解量が3質量%以下のものを選択する方法が挙げられる。
【0073】
ポリイミド前駆体に対する良溶剤以外の溶剤(S2)としては、例えば、n-デカン、トルエンなどの炭化水素系溶剤;イソプロピルアルコール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、フェネチルアルコールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤;ジグライム、トリグライム、テトラグライム、メチルセロソルブアセテートなどのエーテル系溶剤;フェノール、クレゾールなどのフェノール系溶剤;などが挙げられる。
【0074】
粒子として、前述の樹脂粒子を用いる場合、溶剤(S1)は極性が高いことが多いため、溶剤(S1)単独では、ポリイミド前駆体だけでなく、樹脂粒子をも溶解してしまう場合がある。そのため、溶剤(S1)と溶剤(S2)の混合比率は、ポリイミド前駆体が溶解し、樹脂粒子が溶解しないように決定すればよい。また、ポリイミド前駆体溶液の塗膜の加熱過程で樹脂粒子が溶解して、例えば空孔の形状が乱れてしまうことを抑制するため、溶剤(S2)の沸点は、溶剤(S1)よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。
【0075】
<特定化合物>
本実施形態のポリイミド前駆体溶液は、特定化合物を含む。
特定化合物は、無水化されていないカルボキシ基を1分子中に4以上有する化合物であれば、特に限定されるものではない。
特定化合物が1分子中に有するカルボキシ基の数は、例えば4以上6以下の範囲が挙げられ、4以上5以下の範囲であることが好ましく、4であることがより好ましい。
【0076】
特定化合物は、芳香環を有する化合物であってもよく、芳香環を有さない化合物であってもよい。高い機械的強度を有する多孔質ポリイミド膜を得る観点から、特定化合物は、芳香環を有する化合物であることが好ましく、芳香族テトラカルボン酸であることがより好ましい。
芳香族化合物である特定化合物は、芳香環として、ベンゼン環を有してもよく、芳香族複素環を有してもよく、ベンゼン環及び芳香族複素環の両方を有してもよい。
芳香族複素環は、環内に炭素以外の元素を含む芳香環であり、例えば、チオフェン環、チオフィン環、ピロール環、フラン環、これらの3位及び4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環、ピリジン環等が挙げられる。
【0077】
芳香族化合物である特定化合物は、1分子中に1つの芳香環を有する化合物であってもよく、1分子中に2以上の芳香環を有する化合物であってもよい。芳香族化合物である特定化合物における芳香環数は、1以上8以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましく、1以上3以下であることがさらに好ましい。特定化合物は、1以上8以下の芳香環を有するテトラカルボン酸であることが好ましく、1以上5以下の芳香環を有するテトラカルボン酸であることがより好ましく、1以上3以下の芳香環を有するテトラカルボン酸であることがさらに好ましい。
【0078】
2以上の芳香環を有する芳香族化合物としては、それぞれの環を構成する原子同士が結合した多核芳香環を有する化合物、環を構成する2以上の原子を他の環と共有する縮合芳香環を有する化合物等が挙げられる。多核芳香環は、それぞれの環を構成する原子同士が、共有結合により直接結合されたものでもよく、連結基を介して結合されたものでもよい。
多核芳香環を有する化合物としては、例えば、ビフェニル、ターフェニル、スチルベン、トリフェニルエチレン等の骨格を有する化合物が挙げられる。また、縮合芳香環を有する化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、フルオレン等の骨格を有する化合物が挙げられる。
2以上の芳香環を有する芳香族化合物は、多核芳香環及び縮合芳香環の両方を有する化合物であってもよい。
【0079】
芳香族化合物である特定化合物の具体例としては、例えば、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン等の芳香族テトラカルボン酸が挙げられる。
【0080】
脂肪族化合物である特定化合物の具体例としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸等の脂肪族テトラカルボン酸が挙げられる。
【0081】
特定化合物は、これらの中でも、芳香族テトラカルボン酸であることが好ましく、ベンゼン環及びナフタレン環の少なくとも一方を有するテトラカルボン酸であることがより好ましく、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましく、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、及び2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0082】
特定化合物の分子量は、特に限定されるものではなく、150以上500以下の範囲が挙げられ、180以上480以下の範囲であることが好ましく、200以上450以下の範囲であることがより好ましい。
【0083】
特定化合物の含有量は、ポリイミド前駆体に含まれるテトラカルボン酸二無水物に由来する単位100モル部に対し、0.3モル部以上2.0モル部以下であることが好ましく、0.4モル部以上1.7モル部以下であることがより好ましく、0.5モル部以上1.5モル部以下であることがさらに好ましい。
特定化合物の含有量が上記範囲であることにより、上記範囲より少ない場合に比べ、特定化合物の架橋剤としての効果が得られやすく、低い誘電率と高い機械的強度とを両立した多孔質ポリイミド膜が得られやすくなる。また、特定化合物の含有量が上記範囲であることにより、上記範囲より多い場合に比べ、ポリイミド前駆体溶液の皮膜を焼成した後に未反応の特定化合物が残留しにくく、残留した未反応の特定化合物に起因する多孔質ポリイミド膜の強度低下が起こりにくくなる。
【0084】
<有機アミン化合物>
溶剤が水を含む場合、ポリイミド前駆体を溶剤に溶解させるため、ポリイミド前駆体溶液は、必要に応じて有機アミン化合物をさらに含有してもよい。特に溶剤が水性溶剤である場合、ポリイミド前駆体溶液は有機アミン化合物を含有することが好ましい。ポリイミド前駆体溶液が有機アミン化合物を含有することで、ポリイミド前駆体が水溶化される。有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体のカルボキシ基をアミン塩化して、水を含む溶剤に対する溶解性を高めると共に、イミド化促進剤としても機能する化合物である。したがって、溶剤として水を含む溶剤を用い、かつ、ポリイミド前駆体溶液に有機アミン化合物をさらに含有させることで、機械的強度の高い多孔質ポリイミド膜が得られやすくなる。
有機アミン化合物は、具体的には、分子量170以下のアミン化合物であることがよい。有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体の原料となるジアミン化合物を除く化合物であることがよい。
なお、有機アミン化合物は、水溶性の化合物であることがよい。水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0085】
有機アミン化合物としては、1級アミン化合物、2級アミン化合物、3級アミン化合物が挙げられる。
これらの中でも、有機アミン化合物は、2級アミン化合物及び3級アミン化合物からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、3級アミン化合物であることがより好ましい。有機アミン化合物として、2級アミン化合物及び3級アミン化合物からなる群から選択される少なくとも一種を適用すると、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなり、また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性が向上し易くなる。
【0086】
また、有機アミン化合物としては、1価のアミン化合物以外にも、2価以上の多価アミン化合物も挙げられる。2価以上の多価アミン化合物を適用すると、ポリイミド前駆体の分子間に疑似架橋構造を形成し易くなり、また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性が向上し易くなる。
【0087】
1級アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、2-エタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、などが挙げられる。
2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、モルホリンなどが挙げられる。
3級アミン化合物としては、例えば、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0088】
ポリイミド前駆体溶液のポットライフ、膜厚均一性の観点で、3級アミン化合物が好ましい。この点で、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。さらに、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも一種であることが最も好ましい。
【0089】
ここで、有機アミン化合物としては、製膜性の点から、窒素を含有する複素環構造を有するアミン化合物(特に、3級アミン化合物)も好ましい。窒素を含有する複素環構造を有するアミン化合物(以下、「含窒素複素環アミン化合物」と称する)としては、例えば、イソキノリン類(イソキノリン骨格を有するアミン化合物)、ピリジン類(ピリジン骨格を有するアミン化合物)、ピリミジン類(ピリミジン骨格を有するアミン化合物)、ピラジン類(ピラジン骨格を有するアミン化合物)、ピペラジン類(ピペラジン骨格を有するアミン化合物)、トリアジン類(トリアジン骨格を有するアミン化合物)、イミダゾー
ル類(イミダゾール骨格を有するアミン化合物)、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)、ポリアニリン、ポリピリジン、ポリアミンなどが挙げられる。
【0090】
含窒素複素環アミン化合物としては、製膜性の点から、モルホリン類、ピリジン類、ピペリジン類、及びイミダゾール類よりなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)であることがより好ましい。これらの中でも、N-メチルモルホリン、N-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、及びピコリンよりなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましく、N-メチルモルホリンであることがより好ましい。
【0091】
これらの中でも、有機アミン化合物としては、沸点が60℃以上(好ましくは60℃以上200℃以下、より好ましくは70℃以上150℃以下)の化合物であることがよい。有機アミン化合物の沸点を60℃以上とすると、保管するときに、ポリイミド前駆体溶液から有機アミン化合物が揮発するのを抑制し、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性の低下が抑制され易くなる。
【0092】
有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体のカルボキシ基(-COOH)に対して、50モル%以上500モル%以下で含有することがよく、好ましくは80モル%以上250モル%以下、より好ましくは90モル%以上200モル%以下で含有することである。
有機アミン化合物の含有量を上記範囲とすると、ポリイミド前駆体の水性溶剤に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなる。また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性も向上し易くなる。
【0093】
上記の有機アミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0094】
<その他の添加剤>
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、イミド化反応促進のための触媒、製膜品質向上のためのレベリング材などを含んでいてもよい。
イミド化反応促進のための触媒には、酸無水物など脱水剤、フェノール誘導体、スルホン酸誘導体、安息香酸誘導体などの酸触媒などを使用してもよい。
【0095】
また、例えば、導電性付与のために添加される導電材料を含有していてもよい。導電材料は、導電性(例えば、体積抵抗率10Ω・cm未満)の材料であってもよく、半導電性(例えば、体積抵抗率10Ω・cm以上1013Ω・cm以下)の材料であってもよい。
導電材料としては、例えば、カーボンブラック(例えばpH5.0以下の酸性カーボンブラック);金属(例えばアルミニウムやニッケル等);金属酸化物(例えば酸化イットリウム、酸化錫等);イオン導電性物質(例えばチタン酸カリウム、LiCl等);等が挙げられる。これら導電材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
また、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液は、リチウムイオン電池の電極として用いられる、LiCoO、LiMnOなどを含んでもよい。
【0096】
<ポリイミド前駆体溶液の製造方法>
本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液の作製方法としては、下記(i)の方法、下記(ii)の方法等が挙げられる。
(i)ポリイミド前駆体の溶液を作製した後に、粒子及び特定化合物の添加を行う方法
(ii)粒子分散液を作製し、その分散液中でポリイミド前駆体を合成した後に、特定化合物の添加を行う方法
これらの中でも、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を作製する方法としては、粒子の分散性向上の観点で、上記(ii)の方法が好ましい。
【0097】
・(i)ポリイミド前駆体の溶液を作製した後に、粒子及び特定化合物の添加を行う方法
まず、粒子を分散する前におけるポリイミド前駆体の溶液は、公知の方法により得る。具体的には、例えば、溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合し、ポリイミド前駆体を生成して、ポリイミド前駆体の溶液を得る。
なお、溶剤として水性溶剤を用いる場合は、有機アミンの存在下で重合してポリイミド前駆体の溶液を得てもよい。他の例においては、例えば、非プロトン性極性溶剤等(例えば、N-メチルピロリドン(NMP)等)の有機溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合してポリイミド前駆体を生成した後、水性溶剤に投入してポリイミド前駆体を析出させる。その後、水性溶剤に、ポリイミド前駆体と有機アミン化合物とを溶解させ、ポリイミド前駆体の溶液を得る方法が挙げられる。
【0098】
次に、得られたポリイミド前駆体の溶液に対し、粒子及び特定化合物の添加を行う。得られたポリイミド前駆体の溶液に対する粒子の添加及び特定化合物の添加の順序は、特に限定されるものではない。ポリイミド前駆体の溶液に対し、粒子の添加を行った後に特定化合物の添加を行ってもよく、特定化合物の添加を行った後に粒子の添加を行ってもよく、粒子の添加と特定化合物の添加とを同時に行ってもよい。
【0099】
粒子については、例えば、粒子がビニル樹脂粒子である場合、公知の重合法(乳化重合、ソープフリー乳化重合、懸濁重合、ミニエマルション重合、マイクロエマルション重合等のラジカル重合法)により、水性溶剤中で作製してもよい。
例えば、ビニル樹脂粒子の製造に乳化重合法を適用する場合、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤を溶解させた水性溶剤中に、スチレン類、(メタ)アクリル酸類等の単量体を加える。そして、さらに必要に応じて、ドデシル硫酸ナトリウム、ジフェニルオキサイドジスルホン酸塩類等の界面活性剤を添加し、攪拌を行いながら加熱することにより重合を行うことで、ビニル樹脂粒子が得られる。
【0100】
水性溶剤を含むポリイミド前駆体の溶液に上記ビニル樹脂粒子を添加する場合は、例えば、上記の方法によって得られた樹脂粒子の水性溶剤分散液と、上記で得られたポリイミド前駆体溶液とを混合及び撹拌することで、粒子の添加が行われる。
【0101】
有機系溶剤を含むポリイミド前駆体の溶液に上記ビニル樹脂粒子を添加する場合は、樹脂粒子の水性溶剤分散液を、再沈や凍結乾燥など公知の方法で、樹脂粒子を粉体として取出し、上記で得られたポリイミド前駆体の溶液と混合及び撹拌する。又は、取り出した樹脂粒子粉体を、樹脂粒子を溶解させない有機系溶剤に再分散させてから、ポリイミド前駆体の溶液と混合及び撹拌してもよい。
なお、混合、攪拌、及び分散の方法は特に制限されない。また、粒子の分散性を向上させるため、公知の非イオン性又はイオン性の界面活性剤を添加してもよい。
【0102】
市販品の粒子(樹脂粒子又は無機粒子)を使用する場合、粒子が粉体として入手されたときには、ポリイミド前駆体溶液の溶剤が有機系溶剤であるか又は水性溶剤であるかを問わず、目的とする濃度で、粒子の混合及び分散を行う。粒子が、粒子の分散液として入手されたときには、前述の粒子を作製する場合と同様の方法で、粒子の分散液と上記で得られたポリイミド前駆体の溶液とを混合及び分散して、粒子の添加を行う。
【0103】
特定化合物の添加においては、粒子が添加されたポリイミド前駆体の溶液に対し、特定化合物をそのまま添加してもよく、特定化合物が溶剤に溶解した溶液を添加してもよい。また、特定化合物は、粒子が添加される前のポリイミド前駆体の溶液に対し、そのまま添加されてもよく、特定化合物が溶剤に溶解した溶液の状態で添加されてもよく、特定化合物が粒子分散液に溶解した特定化合物含有粒子分散液の状態で添加されてもよい。
【0104】
・(ii)粒子分散液を作製し、その分散液中でポリイミド前駆体を合成した後に、特定化合物の添加を行う方法
ポリイミド前駆体溶液の溶剤として有機系溶剤を用いる場合は、まず、粒子が溶解せずポリイミド前駆体が溶解する有機系溶剤に、粒子が分散された分散液を準備する。次に、その分散液中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合してポリイミド前駆体を生成して粒子が分散したポリイミド前駆体の溶液を得る。その後、得られた溶液に、特定化合物をそのまま添加するか、又は特定化合物が溶剤に溶解した溶液を添加することで、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を得る。
【0105】
ポリイミド前駆体溶液の溶剤として水性溶剤を用いる場合は、まず、粒子の水性溶剤分散液を準備する。次に、その分散液中で、かつ有機アミンの存在下で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合してポリイミド前駆体を生成して粒子が分散したポリイミド前駆体の溶液を得る。その後、得られた溶液に、特定化合物をそのまま添加するか、又は特定化合物が溶剤に溶解した溶液を添加することで、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液を得る。
【0106】
粒子として樹脂粒子を用いる場合、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液中での分散性を向上させるため、樹脂粒子表面を、元の樹脂とは異なる化学構造の樹脂で被覆してもよい。被覆する樹脂としては、用いる溶剤やポリイミド前駆体の化学構造に応じて変更してもよい。被覆する樹脂としては、例えば、酸性基又は塩基性基を有する樹脂等が挙げられる。樹脂粒子表面への樹脂を被覆する方法としては、例えば、ビニル樹脂粒子を乳化重合で作製する場合、元の樹脂粒子に由来する単量体の重合を終えた後で、さらにメタクリル酸やメタクリル酸2-ジメチルアミノエチルなどの酸性基や塩基性基を有する単量体を少量添加して重合を継続する方法が挙げられる。
【0107】
[多孔質ポリイミド膜]
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、前述のポリイミド前駆体溶液から得られ空孔を有する多孔質焼成物である。本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、ポリイミド前駆体溶液に含有されるポリイミド前駆体のイミド化物と、ポリイミド前駆体溶液に含有される特定化合物と、の反応生成物を含む。
【0108】
<多孔質ポリイミド膜の製造方法>
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、以下の製造方法により得られる。
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法は、前述のポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布して塗膜を形成した後、塗膜を乾燥して、ポリイミド前駆体、特定化合物、及び前記粒子を含む皮膜を形成する第1の工程と、皮膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド膜を形成する第2の工程であって、粒子を除去する処理を含む第2の工程と、を有する。
ここで、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法によれば、球状の粒子を用いることで、球状の空孔を備えている多孔質ポリイミド膜が得られる。
【0109】
以下、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の好適な製造方法の一例について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法で得られる多孔質ポリイミド膜の構成を示す模式図である。
図1中、31は基材、10Aは空孔、10は多孔質ポリイミド膜を表す。
【0110】
(第1工程)
第1工程では、まず、上述のポリイミド前駆体溶液を準備する。次に、ポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布して塗膜を形成した後、塗膜を乾燥して、ポリイミド前駆体及び粒子を含む皮膜を形成する。
【0111】
上記塗膜の形成は、既述の方法で得られたポリイミド前駆体溶液を基材上に塗布することで行う。得られた塗膜は、ポリイミド前駆体、粒子、特定化合物、及び溶剤を少なくとも含んでいる。
【0112】
ポリイミド前駆体溶液が塗布される基材(図1中の基材31)は、得られる多孔質ポリイミド膜の用途に応じて選択される。多孔質ポリイミド膜を単体で用いる場合は、基材としてポリイミド膜形成用基板を用いてもよい。また、部材の表面を被覆する被覆膜として多孔質ポリイミド膜を用いる場合は、基材として部材そのものを用いてもよい。
【0113】
ポリイミド膜形成用基板としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂製基板;ガラス製基板;セラミック製基板;鉄、ステンレス鋼(SUS)等の金属基板;これらの材料が組み合わされた複合材料基板等が挙げられる。
また、ポリイミド膜形成用基板には、必要に応じて、例えば、シリコーン系、フッ素系の剥離剤等による剥離処理を行って剥離層を設けてもよい。また、ポリイミド膜形成用基板の表面を粒子の粒径程度の大きさに粗面化し、基板接触面での粒子の露出を促進することも効果的である。
【0114】
なお、部材の表面を被覆する被覆膜として多孔質ポリイミド膜を用いる場合、基材として用いられる部材として、具体的には、例えば、後述する絶縁電線における電線本体;液晶素子に適用される各種基材;集積回路が形成された半導体基材、配線が形成された配線基材、電子部品及び配線が設けられたプリント基板の基材;等が挙げられる。
【0115】
基材上にポリイミド前駆体溶液を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、スプレー塗布法、回転塗布法、ロール塗布法、バー塗布法、スリットダイ塗布法、インクジェット塗布法等の各種の方法が挙げられる。
ポリイミド前駆体溶液の塗布量としては、予め定められた膜厚が得られる量に設定すればよい。
【0116】
上記皮膜の形成は、基材上に形成された塗膜を乾燥させることで行う。皮膜は、ポリイミド前駆体、特定化合物、及び粒子を少なくとも含む。
基材上に形成された塗膜を乾燥させる方法としては、特に制限されず、例えば、加熱乾燥、自然乾燥、真空乾燥等の各種の方法が挙げられる。より具体的には、皮膜に残留する溶剤が、皮膜の固形分に対して50質量%以下(好ましくは30質量%以下)となるように、塗膜を乾燥させて、皮膜を形成することが好ましい。
【0117】
(第2工程)
第2工程は、第1工程で得られた皮膜を加熱してポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド膜を形成する工程であって、粒子を除去する処理を含む。粒子を除去する処理を経て、多孔質ポリイミド膜が得られる。
【0118】
第2工程では、具体的には、第1工程で得られた皮膜を加熱して、イミド化を進行させることでポリイミド膜が形成される。なお、イミド化が進行し、イミド化率が高くなるに従い、ポリイミド膜は溶剤に溶解し難くなる。
【0119】
そして、第2工程において、粒子を除去する処理を行う。粒子の除去により、粒子が存在していた領域が空孔(図1中の空孔10A)になり、多孔質ポリイミド膜(図1中の多孔質ポリイミド膜10)が得られる。
粒子の除去は、皮膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において除去してもよく、イミド化後のポリイミド膜から除去してもよい。
【0120】
粒子を除去する処理は、粒子の除去性等の点で、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において、ポリイミド膜中におけるポリイミド前駆体のイミド化率が10%以上であるときに行うことが好ましい。イミド化率が10%以上になると、膜の形状を維持しやすい。
【0121】
-粒子の除去-
次に、粒子を除去する処理について説明する。
まず、樹脂粒子を除去する処理について説明する。
樹脂粒子を除去する処理としては、例えば、樹脂粒子を加熱により除去する方法、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法、樹脂粒子をレーザ等による分解により除去する方法等が挙げられる。これらのうち、樹脂粒子を加熱により除去する方法、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法が好ましい。
【0122】
加熱により除去する方法としては、例えば、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において、イミド化を進行させるための加熱によって、樹脂粒子を分解させることで除去してもよい。この場合には、有機溶剤により樹脂粒子を除去する操作がない点で、工程の削減に対して有利である。
加熱により樹脂粒子を除去して多孔質化する場合は、塗布後の乾燥温度では分解せず、ポリイミド前駆体の皮膜をイミド化させる温度により熱分解させる。この観点から、樹脂粒子の熱分解開始温度は、150℃以上320℃以下であることがよく、180℃以上300℃以下であることが好ましく、200℃以上280℃以下であることがより好ましい。
【0123】
樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法としては、例えば、樹脂粒子が溶解する有機溶剤と接触(例えば、有機溶剤中に浸漬)させ、樹脂粒子を溶解して除去する方法が挙げられる。有機溶剤中に浸漬する方法は、樹脂粒子の溶解効率が高くなる点で好ましい。
樹脂粒子を除去するための有機溶剤としては、ポリイミド膜、及びイミド化が完了したポリイミド膜を溶解せず、樹脂粒子が可溶な有機溶剤であれば、特に限定されるものではない。有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;トルエン等の芳香族類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;が挙げられる。
溶解除去により樹脂粒子を除去して多孔質化する場合は、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、酢酸エチルなどの汎用溶剤に溶解する樹脂粒子を用いることが好ましい。なお、使用する樹脂粒子及びポリイミド前駆体の種類によっては、樹脂粒子を除去する溶剤として水を使用してもよい。
【0124】
次に、無機粒子を除去する処理について説明する。
無機粒子を除去する処理としては、無機粒子は溶解するがポリイミド前駆体又はポリイミドは溶解しない液体(以下、「粒子除去液」と称することがある)を用いて除去する方法が挙げられる。粒子除去液は、使用する無機粒子の種類に応じて選択される。粒子除去液としては、例えば、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ホウ酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸などの酸の水溶液;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、上述の有機アミンなどの塩基の水溶液;が挙げられる。また、使用する無機粒子及びポリイミド前駆体の種類によっては、粒子除去液として水単独で使用してもよい。
【0125】
-イミド化-
第2工程において、皮膜中のポリイミド前駆体をイミド化するための加熱には、例えば、2段階以上の多段階での加熱が好ましく用いられる。具体的には、例えば、以下に示す加熱条件が採用される。
第1段階の加熱条件は、粒子の形状が保持される温度であることが望ましい。第1段階の加熱温度は、50℃以上150℃以下の範囲がよく、60℃以上140℃以下の範囲が好ましい。また、第1段階の加熱時間は、10分間以上60分間以下の範囲がよい。第1段階における加熱温度が高いほど、第1段階における加熱時間は短くてよい。
第2段階の加熱条件としては、例えば、150℃以上450℃以下(好ましくは200℃以上400℃以下)で、20分間以上120分間以下の条件が挙げられる。この範囲の加熱条件とすることで、イミド化反応が更に進行する。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することがよい。
なお、加熱条件は上記の2段階の加熱方法に限らず、例えば、1段階で加熱する方法を採用してもよい。1段階で加熱する方法の場合、例えば、上記の第2段階で示した加熱条件のみによってイミド化を完了させてもよい。
【0126】
なお、多孔質ポリイミド膜を単体で用いる場合は、第2の工程において、第1の工程で使用したポリイミド膜形成用基板を、乾燥した皮膜となったときに剥離してもよく、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体が有機溶剤に溶解し難い状態となったときに剥離してもよく、イミド化が完了した膜になった状態のときに剥離してもよい。
【0127】
以上の工程を経て、多孔質ポリイミド膜が得られる。そして、多孔質ポリイミド膜は、使用目的によって後加工してもよい。
【0128】
なお、本実施形態のポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体溶液の塗膜を形成する前に、ポリイミド前駆体溶液の脱泡処理を行ってもよい。脱泡処理を施したほうが、脱泡処理を行わない場合に比べ、多孔質ポリイミド膜とした場合の欠陥が抑制された膜が得られやすくなるため好適である。
脱泡処理の方法は、特に限定されず、減圧下での脱泡(減圧脱泡)でもよく、常圧下での脱泡でもよい。常圧下の脱泡処理としては、例えば、自転や公転などの遠心力をかける方法などが挙げられる。なお、常圧下の脱泡でも減圧下の脱泡でも、必要に応じて、撹拌、加熱などの処理を加えながら脱泡処理を行ってもよい。脱泡処理は、減圧下での脱泡処理が簡便であり脱泡能が大きいため好適である。脱泡処理の条件は、気泡の残存程度によって設定すればよい。
【0129】
-イミド化率-
ここで、ポリイミド前駆体のイミド化率について説明する。
一部がイミド化したポリイミド前駆体は、例えば、下記一般式(I-1)、下記一般式(I-2)、及び下記一般式(I-3)で表される単位を有する構造の前駆体が挙げられる。
【0130】
【化2】

【0131】
一般式(I-1)、一般式(I-2)、及び一般式(I-3)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。lは1以上の整数を示し、m及びnは、各々独立に0又は1以上の整数を示す。
【0132】
なお、一般式(I-1)、(I-2)、及び(I-3)中のA及びBは、前述の一般式(I)中のA及びBと同義である。
【0133】
ポリイミド前駆体のイミド化率は、ポリイミド前駆体の結合部(テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応部)において、イミド閉環している結合部数(2n+m)の全結合部数(2l+2m+2n)に対する割合を表す。つまり、ポリイミド前駆体のイミド化率は、「(2n+m)/(2l+2m+2n)」で示される。
【0134】
なお、ポリイミド前駆体のイミド化率(「(2n+m)/(2l+2m+2n)」の値)は、次の方法により測定される。
【0135】
-ポリイミド前駆体のイミド化率の測定-
・ポリイミド前駆体試料の作製
(i)測定対象となるポリイミド前駆体溶液を、シリコーンウェハー上に、膜厚1μm以上10μm以下の範囲で塗布して、塗膜試料を作製する。
(ii)塗膜試料をテトラヒドロフラン(THF)中に20分間浸漬させて、塗膜試料中の溶剤をテトラヒドロフラン(THF)に置換する。浸漬させる溶剤は、THFに限定されることなく、ポリイミド前駆体を溶解せず、ポリイミド前駆体溶液に含まれている溶剤成分と混和し得る溶剤より選択される。具体的には、メタノール、エタノールなどのアルコール溶剤、ジオキサンなどのエーテル化合物が使用される。
(iii)塗膜試料を、THF中より取り出し、塗膜試料表面に付着しているTHFにNガスを吹き付け、取り除く。10mmHg以下の減圧下、5℃以上25℃以下の範囲にて12時間以上処理して塗膜試料を乾燥させ、ポリイミド前駆体試料を作製する。
【0136】
・100%イミド化標準試料の作製
(iv)上記(i)と同様に、測定対象となるポリイミド前駆体溶液をシリコーンウェハー上に塗布して、塗膜試料を作製する。
(v)塗膜試料を380℃にて60分間加熱してイミド化反応を行い、100%イミド化標準試料を作製する。
【0137】
・測定と解析
(vi)フーリエ変換赤外分光光度計(堀場製作所製、FT-730)を用いて、100%イミド化標準試料、ポリイミド前駆体試料の赤外吸光スペクトルを測定する。100%イミド化標準試料の1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab’(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab’(1780cm-1))の比I’(100)を求める。
(vii)同様にして、ポリイミド前駆体試料について測定を行い、1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab(1780cm-1))の比I(x)を求める。
【0138】
そして、測定した各吸光ピークI’(100)、I(x)を使用し、下記式に基づき、ポリイミド前駆体のイミド化率を算出する。
・式: ポリイミド前駆体のイミド化率=I(x)/I’(100)
・式: I’(100)=(Ab’(1780cm-1))/(Ab’(1500cm-1))
・式: I(x)=(Ab(1780cm-1))/(Ab(1500cm-1))
【0139】
なお、このポリイミド前駆体のイミド化率の測定は、芳香族ポリイミド前駆体のイミド化率の測定に適用される。脂肪族ポリイミド前駆体のイミド化率を測定する場合、芳香環の吸光ピークに代えて、イミド化反応前後で変化のない構造由来のピークを内部標準ピークとして使用する。
【0140】
<多孔質ポリイミド膜の特性>
(空孔)
上記多孔質ポリイミド膜の空孔率は、特に限定されるものではなく、45体積%以上70体積%以下であることが好ましく、50体積%以上70体積%以下であることがより好ましく、52体積%以上68体積%以下であることがさらに好ましく、55体積%以上65体積%以下であることが特に好ましい。多孔質ポリイミド膜の空孔率が上記範囲であることにより、上記範囲より低い場合に比べて多孔質ポリイミド膜の誘電率が低くなり、上記範囲より高い場合に比べて多孔質ポリイミド膜の機械的強度が高くなる。
【0141】
ここで、多孔質ポリイミド膜における空孔率は、多孔質ポリイミド膜の見かけ密度及び真密度から求める。
見かけの密度dとは、多孔質ポリイミド膜の質量(g)を、空孔を含めた多孔質ポリイミド膜の体積(cm)で除した値である。見かけ密度dは、多孔質ポリイミド膜の単位面積当たりの質量(g/m)を、多孔質ポリイミド膜の厚み(μm)で除して求めてもよい。
真密度ρとは、多孔質ポリイミド膜の質量(g)を、多孔質ポリイミド膜から空孔を除いた体積(即ち、樹脂による骨格部のみの体積)(cm)で除した値である。
【0142】
多孔質ポリイミド膜の空孔率は、下記式(II)にて算出される。
・式(II) 空孔率(体積%)={1-(d/ρ)}×100=[1-{(w/t)/ρ)}]×100
d:多孔質ポリイミド膜の見かけ密度(g/cm
ρ:多孔質ポリイミド膜の真密度(g/cm
w:多孔質ポリイミド膜の単位面積当たりの質量(g/m
t:多孔質ポリイミド膜の厚み(μm)
【0143】
空孔の形状は、球状又は球状に近い形状であることが好ましい。また、空孔は、空孔どうしが互いに連結されて連なった形状であることが好ましい。
【0144】
空孔径の平均値は、特に限定されないが、0.1μm以上0.5μm以下の範囲であることがよく、0.25μm以上0.48μm以下の範囲が好ましく、0.25μm以上0.45μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0145】
空孔径の平均値は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察及び計測される値である。具体的には、まず、多孔質ポリイミド膜を厚さ方向に切り出し、切断面を測定面とする測定用試料を準備する。そして、この測定用試料をキーエンス(KEYENCE)社製のVE SEMにより、標準装備されている画像処理ソフトにて観察及び計測を実施する。観察及び計測は、測定用試料断面のうち、空孔部分のそれぞれについて100個行い、空孔径の分布を求め、それらの値を平均することで空孔径の平均値を求める。空孔の形状が円形でない場合には、最も長い部分を径とする。
【0146】
(膜厚)
多孔質ポリイミド膜の平均膜厚は、特に限定されず、用途に応じて選択される。
多孔質ポリイミド膜の平均膜厚は、例えば、10μm以上1000μm以下であってもよい。多孔質ポリイミド膜の平均膜厚は、20μm以上であってもよく、30μm以上であってもよく、また、多孔質ポリイミド膜の平均膜厚は、500μm以下であってもよく、400μm以下であってもよい。
例えば、多孔質ポリイミド膜を後述する絶縁電線における被覆膜である絶縁被膜として用いる場合は、絶縁を十分に保ちつつ絶縁電線の体積効率を損なわないという観点から、多孔質ポリイミド膜の平均膜厚が5μm以上200μm以下であることが好ましく、7μm以上150μm以下であることがより好ましく、10μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
多孔質ポリイミド膜の平均膜厚は、サンコー電子社製渦電流式膜厚計CTR-1500Eを使用し、5点の多孔質ポリイミド膜の膜厚を測定し、その算術平均で算出する。
【0147】
(誘電率)
多孔質ポリイミド膜の1kHzにおける比誘電率は、特に限定されるものではない。例えば多孔質ポリイミド膜を後述する絶縁電線における被覆膜である絶縁被膜として用いる場合は、電線のコロナ放電開始電圧を高くする観点から、多孔質ポリイミド膜の1kHzにおける比誘電率が2.5以下であることが好ましく、2.3以下であることがより好ましく、2.1以下であることが更に好ましい。比誘電率の下限値は特に特定されないが、空気の比誘電率である1より大きいことが好ましい。
【0148】
1kHzにおける比誘電率は、LCRメータ(エヌエフ回路設計ブロック社製、ZM2353」)を用いて、1V、1kHzの交流電場を印加したときの静電容量の測定結果から、下記の式を用いて求める。なお、下記式中、εは比誘電率、εは誘電率、Cは静電容量、lは厚さ、Aは静電容量測定時の電極面積、εは真空の誘電率を示す。
【0149】
【数1】
【0150】
<多孔質ポリイミド膜の用途>
多孔質ポリイミド膜の用途としては、例えば、後述する絶縁電線における被覆膜である絶縁被膜;リチウム電池等の電池セパレータ;電解コンデンサー用のセパレータ;燃料電池等の電解質膜;電池電極材;気体又は液体の分離膜;低誘電率材料;ろ過膜;等が挙げられる。
【0151】
[絶縁電線]
本実施形態に係る絶縁電線は、電線本体と、電線本体の表面に設けられた前述の多孔質ポリイミド膜と、を有する。本実施形態に係る絶縁電線においては、電線本体を被覆する被覆膜である絶縁被膜として、前述の多孔質ポリイミド膜を用いる。
【0152】
電線本体としては、例えば、軟銅、硬銅、無酸素銅、クロム鉱、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼等の金属又は合金製の線材、棒材、又は板材が挙げられる。電線本体は、複数の線材を撚り合わせた撚り線であってもよい。
電線本体の太さは、特に限定されず、例えば0.1mm以上5.0mm以下の範囲が挙げられる。なお、上記電線本体の太さは、電線本体の長手方向に垂直な断面における長径を意味する。
【0153】
多孔質ポリイミド膜は、例えば、電線本体の外周面を取り囲むように設けられる。多孔質ポリイミド膜は、電線本体の外周面全体を被覆してもよく、電線本体の外周面の一部を被覆してもよい。
多孔質ポリイミド膜は、電線本体の表面に接して設けられてもよく、他の層を介して設けられてもよい。電線本体と多孔質ポリイミド膜との間に設けられうる他の層としては、例えば、内部半導電層が挙げられる。
また、多孔質ポリイミド層の外周面に他の層が設けられてもよい。多孔質ポリイミド層の外周面に設けられうる他の層としては、例えば、外部半導電層が挙げられる。
【0154】
絶縁被膜である多孔質ポリイミド膜は、電線本体の外周面に前述のポリイミド前駆体溶液を塗布し、乾燥、イミド化、及び粒子の除去を行うことで形成してもよい。また、ポリイミド膜形成用基板の表面にポリイミド前駆体溶液を塗布して、乾燥した後に得られる皮膜、皮膜の焼成によりイミド化されたポリイミド膜、又は皮膜の焼成によりイミド化及び粒子の除去がなされた多孔質ポリイミド膜を、ポリイミド膜形成用基板から剥離して電線本体の外周面に設け、必要に応じて加熱等を行うことで、絶縁被膜を形成してもよい。
【実施例
【0155】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0156】
〔樹脂粒子分散液の調製〕
-樹脂粒子分散液(1)-
スチレン360質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47質量%溶液、ダウ・ケミカル社)11.9質量部、脱イオン水150質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、単量体乳化液を作製した。続いて、Dowfax2A1(47質量%溶液、ダウ・ケミカル社製)0.9質量部、脱イオン水446.8質量部を反応容器に投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、単量体乳化液のうち24質量部を添加した。その後、過硫酸アンモニウム5.4質量部を脱イオン水25質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りの単量体乳化液を180分かけて滴下し、更に180分間反応させたのち、冷却して、樹脂粒子分散液(1)を得た。樹脂粒子分散液(1)の固形分濃度は36.0質量%であった。また、この樹脂粒子の体積平均粒径は0.38μmであった。
【0157】
〔ポリイミド前駆体含有液の調製〕
-ポリイミド前駆体含有液(A)-
イオン交換水560.0質量部を窒素気流下で50℃に加熱し、撹拌しながら、p-フェニレンジアミン53.75質量部(50モル部)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物146.25質量部(50モル部)を添加した。N-メチルモルホリン(以下、「MMO」とも称す。)150.84質量部(150モル部)とイオン交換水89.16質量部の混合物を窒素気流下、50℃で、撹拌しながら20分かけて添加した。50℃で15時間反応させることで、ポリイミド前駆体含有液(A)を得た。ポリイミド前駆体含有液(A)の固形分濃度は20.0質量%であった。
【0158】
<実施例1>
〔樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(PAA-1)の調製〕
ポリイミド前駆体含有液(A):289.65質量部、樹脂粒子分散液(1):172.41質量部、及び水性溶剤(NMPと水との混合溶液、質量比=30.41:107.53):137.94質量部を混合した。混合は50℃にて30分間、超音波分散させた。そこへ、架橋剤として特定化合物であるピロメリット酸を0.37質量部(0.14モル部)加え、ポリイミド前駆体溶液(PAA-1)を得た。
ポリイミド前駆体溶液(PAA-1)に含まれるポリイミド前駆体(A1)の重量平均分子量は30000であった。
ポリイミド前駆体及び粒子の合計量に対する樹脂の含有率(表中の「粒子含有率(体積%)」)を前述の方法により測定した結果を表1に示す。また、ポリイミド前駆体に含まれるテトラカルボン酸二無水物に由来する単位100モル部に対する特定化合物の含有量(表中の「含有比(モル部)」)を表1に示す。
【0159】
<実施例2~7>
ポリイミド前駆体及び粒子の合計量に対する粒子の含有率(表中の「粒子含有率(体積%)」)、特定化合物の種類(表中の「種類」)、及びポリイミド前駆体に含まれるテトラカルボン酸二無水物に由来する単位100モル部に対する特定化合物の含有量(表中の「含有比(モル部)」)を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体溶液(PAA-2)~(PAA-7)を得た。
なお、表1中、特定化合物1~4は、下記化合物を意味する。
特定化合物1:ピロメリット酸
特定化合物2:1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸
特定化合物3:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸
特定化合物4:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸
【0160】
<比較例1>
特定化合物を用いない以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体溶液(PAA-8)を得た。
なお、表1中、「-」は、該当する成分を添加していないことを示す。
【0161】
<比較例2>
特定化合物の代わりに、架橋剤として水系ウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社製、品名:エラストロン BN-P17)を7.1質量部(0.14モル部)用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド前駆体溶液(PAA-9)を得た。
【0162】
<評価>
各例で得られたポリイミド前駆体溶液を用いて、多孔質ポリイミド膜を製造した。
【0163】
(多孔質ポリイミド膜の製造)
各例で得られたポリイミド前駆体溶液を、厚さ1.0mmのガラス基板上に、アプリケーターを用いて10cm×10cmの面積で塗布し、80℃のオーブンで30分乾燥することで皮膜を得た。なお、アプリケーターのギャップを、乾燥後の皮膜における膜厚の平均値が30μmになるように調整した。
皮膜が形成されたガラス基板を、400℃に加熱したオーブンの中で2時間静置することで皮膜を焼成した後、イオン交換水に浸漬してガラス基板から剥離し、乾燥することで、多孔質ポリイミド膜を得た。
【0164】
(空孔率の測定)
得られた多孔質ポリイミド膜の空孔率(体積%)を前述の方法により測定した結果を併せて表1に示す。
【0165】
(誘電率の測定)
得られた多孔質ポリイミド膜の比誘電率を、前述の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0166】
(引張強度の評価)
得られた多孔質ポリイミド膜の25℃における引張強度を、引張試験機(東洋精機社製、ストログラフVI-C)により測定し、下記基準で評価した。結果を表1に示す。
-評価基準-
A:引張強度が80MPa以上
B:引張強度が60MPa以上80MPa未満
C:引張強度が60MPa未満
【0167】
(折り曲げ耐性の評価)
得られた多孔質ポリイミド膜を、山折りにして半分に折り曲げ、折り目に500gの荷重をかけて24時間静置した。その後、荷重を解き、折り曲げていた部分を目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
-評価基準-
A:折り曲げた跡がつくが、膜の破損は見られない
B:折り曲げた跡がつき、折り曲げた部分の一部で膜割れが見られる
C:折り曲げた部分で膜が割れる
【0168】
【表1】
【0169】
表1に示された結果から、本実施例で得られたポリイミド前駆体溶液を使用して作製された多孔質ポリイミド膜は、比較例で得られたものに比べ、低い誘電率と高い機械的強度とを両立していることがわかる。
【符号の説明】
【0170】
10 多孔質ポリイミドフィルム
10A 空孔
31 基材
図1