(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】光ファイバ振動センシング装置及び光ファイバ振動センシング方法
(51)【国際特許分類】
G01H 9/00 20060101AFI20250902BHJP
【FI】
G01H9/00 C
(21)【出願番号】P 2022130139
(22)【出願日】2022-08-17
【審査請求日】2024-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】NTT株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004613
【氏名又は名称】弁理士法人アイル知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤志
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 哲也
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-127705(JP,A)
【文献】特開2004-319750(JP,A)
【文献】特開2012-253418(JP,A)
【文献】特開2005-321376(JP,A)
【文献】特開2012-088174(JP,A)
【文献】特開2007-232515(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101625258(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/00 - 9/10
G01D 5/353
G01H 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を送出する光源からの光を分岐して、それぞれ第1の光伝送路の一端及び前記第1の光伝送路と同じ光伝送媒体に含まれる第2の光伝送路の一端に入力し、前記第1の光伝送路の他端及び前記第2の光伝送路の他端からの光を結合して第1の受光器で受光する順方向マッハツェンダ型干渉計と、
前記光源からの光を分岐して、それぞれ前記第1の光伝送路の他端及び前記第2の光伝送路の他端に入力し、前記第1の光伝送路の一端及び前記第2の光伝送路の一端からの光を結合して第2の受光器で受光する逆方向マッハツェンダ型干渉計と、
前記第1の受光器からの第1の干渉波信号及び前記第2の受光器からの第2の干渉波信号をそれぞれフーリエ変換し、複数の周波数に対するフーリエ変換後の2つの信号の位相差の傾きから遅延時間差を求め、当該遅延時間差より振動の発生位置を計算する振動位置測定計と、
を備える光ファイバ振動センシング装置。
【請求項2】
前記振動位置測定計は、
前記第1の受光器からの第1の干渉波信号の直流成分を遮断する第1の直流遮断フィルタと、
前記第2の受光器からの第2の干渉波信号の直流成分を遮断する第2の直流遮断フィルタと、
前記第1の直流遮断フィルタからの信号をAD変換し、第1の干渉信号として出力する第1のAD変換器と、
前記第2の直流遮断フィルタからの信号をAD変換し、第2の干渉信号として出力する第2のAD変換器と、
前記第1のAD変換器からの第1の干渉信号及び前記第2のAD変換器からの第2の干渉信号を解析して振動の発生位置を計算する解析部と、
を備えることを特徴とする請求項
1に記載の光ファイバ振動センシング装置。
【請求項3】
前記解析部は、
前記第1の干渉信号及び前記第2の干渉信号をそれぞれ一定時間取得し、
取得した前記第1の干渉信号及び前記第2の干渉信号をそれぞれ離散フーリエ変換して第1の離散周波数信号及び第2の離散周波数信号を得て、
得られた前記第1の離散周波数信号と前記第2の離散周波数信号との複数の周波数における位相差を計算し、
前記複数の周波数に対する前記位相差の傾きから前記遅延時間差を計算し、
計算した前記遅延時間差から振動の発生位置を計算する
ことを特徴とする請求項
2に記載の光ファイバ振動センシング装置。
【請求項4】
コンピュータに、
共用して備える光源、共用して備える2本の光伝送路及び個別に備える2個の受光器を用いて光の進行方向をそれぞれ逆にした順方向マッハツェンダ型干渉計からの第1の干渉信号及び逆方向マッハツェンダ型干渉計からの第2の干渉信号をそれぞれ一定時間取得するデータ取得工程と、
取得した前記第1の干渉信号及び前記第2の干渉信号をそれぞれ離散フーリエ変換して第1の離散周波数信号及び第2の離散周波数信号を得る離散フーリエ変換工程と、
得られた前記第1の離散周波数信号と前記第2の離散周波数信号との複数の周波数における位相差を計算する位相差計算工程と、
前記複数の周波数に対する前記位相差の傾きから遅延時間差を計算する遅延時間差計算工程と、
計算した前記遅延時間差から振動の発生位置を計算する振動発生位置計算工程と、
を実行させる光ファイバ振動センシング方法。
【請求項5】
コンピュータに請求項
4に記載の光ファイバ振動センシング方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マッハツェンダ型干渉計を用いた光ファイバ振動センシング技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでのマッハツェンダ型干渉計を用いた光ファイバ振動センシング技術としては、2つのマッハツェンダ型干渉計から得られる2つの干渉波形の相互相関関数により干渉波の到着時間差を計算し、振動の発生位置を特定する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】B.Kizlik, “Fibre Optic Distributed Sensor in Mach-Zehnder Interferometer Configuration”, Modern Problems of Radio Engineering, Telecommunications and Computer Science, pp. 128-130, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1の技術では、2つのマッハツェンダ型干渉計から得られる2つの干渉波形が偏波等の状態により大きく変化することがあり、その結果、2つの干渉波形が異なってしまう。
【0005】
非特許文献1で提案されている相互相関関数により振動の発生位置を特定するためには、2つのマッハツェンダ型干渉計から得られる2つの干渉波形が相似形である必要がある。2つの干渉波形が相似形でない場合は、相互相関関数により得られる遅延時間差計算に大きな誤差を生じてしまう。
【0006】
本開示は、上記事情に着目してなされたもので、振動の発生位置の測定精度が干渉波の形状に依存しない光ファイバ振動センシングを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
マッハツェンダ型干渉計から得られる干渉波形が第一種ベッセル関数で級数展開できることに着目し、単一周波数の振動が付与されても複数の周波数からなる干渉波形が発生することを定式化する。これにより、対向する2つのマッハツェンダ型干渉計から得られる2つの干渉波形の位相差が周波数の一次関数であることを見出した。
【0008】
本開示では、共通の光源、共通の2本の光伝送路及び個別の2個の受光器を用いて光の進行方向をそれぞれ逆にした順方向マッハツェンダ型干渉計からの干渉波信号及び逆方向マッハツェンダ型干渉計からの干渉波信号をそれぞれ取得することとした。
【0009】
具体的には、本開示の光ファイバ振動センシング装置は、
光を送出する光源からの光を分岐して、それぞれ第1の光伝送路の一端及び前記第1の光伝送路と同じ光伝送媒体に含まれる第2の光伝送路の一端に入力し、前記第1の光伝送路の他端及び前記第2の光伝送路の他端からの光を結合して第1の受光器で受光する順方向マッハツェンダ型干渉計と、
前記光源からの光を分岐して、それぞれ前記第1の光伝送路の他端及び前記第2の光伝送路の他端に入力し、前記第1の光伝送路の一端及び前記第2の光伝送路の一端からの光を結合して第2の受光器で受光する逆方向マッハツェンダ型干渉計と、
を備える光ファイバ振動センシング装置
を備える。
【0010】
本開示の光ファイバ振動センシング装置は、さらに振動位置測定計を備え、振動の発生位置を特定する。
【0011】
具体的には、本開示の光ファイバ振動センシング装置は、
前記第1の受光器からの第1の干渉波信号及び前記第2の受光器からの第2の干渉波信号をそれぞれフーリエ変換し、複数の周波数に対するフーリエ変換後の2つの信号の位相差の傾きから遅延時間差を求め、当該遅延時間差より振動の発生位置を計算する振動位置測定計を
さらに備える。
【0012】
具体的には、本開示の
前記順方向マッハツェンダ型干渉計及び前記逆方向マッハツェンダ型干渉計は、
前記光源と、
前記光源からの光を2つに分岐して第1の端子及び第2の端子から出力する光源分岐カプラと、
4端子を有し、第1の端子に入力される前記光源分岐カプラの第1の端子からの光を、第3の端子に接続される前記第1の光伝送路の一端及び第4の端子に接続される前記第2の光伝送路の一端に分岐して入力し、前記第3の端子に接続される前記第1の光伝送路の一端からの光及び前記第4の端子に接続される前記第2の光伝送路の一端からの光を合波して第2の端子に出力する第2の光合分岐カプラと、
4端子を有し、第1の端子に入力される前記光源分岐カプラの第2の端子からの光を、第3の端子に接続される前記第1の光伝送路の他端及び第4の端子に接続される前記第2の光伝送路の他端に分岐して入力し、前記第3の端子に接続される前記第1の光伝送路の他端からの光及び前記第4の端子に接続される前記第2の光伝送路の他端からの光を合波して第2の端子に出力する第1の光合分岐カプラと、
前記第1の光伝送路及び前記第2の光伝送路と、
を共用して備え、
前記順方向マッハツェンダ型干渉計は、第1の受光器で前記第1の光合分岐カプラの第2の端子からの出力光を受光して電気信号に変換し、
前記逆方向マッハツェンダ型干渉計は、第2の受光器で前記第2の光合分岐カプラの第2の端子からの出力光を受光して電気信号に変換する
ことを特徴とする。
【0013】
具体的には、本開示の
前記振動位置測定計は、
前記第1の受光器からの第1の干渉波信号の直流成分を遮断する第1の直流遮断フィルタと、
前記第2の受光器からの第2の干渉波信号の直流成分を遮断する第2の直流遮断フィルタと、
前記第1の直流遮断フィルタからの信号をAD変換し、第1の干渉信号として出力する第1のAD変換器と、
前記第2の直流遮断フィルタからの信号をAD変換し、第2の干渉信号として出力する第2のAD変換器と、
前記第1のAD変換器からの第1の干渉信号及び前記第2のAD変換器からの第2の干渉信号を解析して振動の発生位置を計算する解析部と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
具体的には、本開示の
前記解析部は、
前記第1の干渉信号及び前記第2の干渉信号をそれぞれ一定時間取得し、
取得した前記第1の干渉信号及び前記第2の干渉信号をそれぞれ離散フーリエ変換して第1の離散周波数信号及び第2の離散周波数信号を得て、
得られた前記第1の離散周波数信号と前記第2の離散周波数信号との複数の周波数における位相差を計算し、
前記複数の周波数に対する前記位相差の傾きから前記遅延時間差を計算し、
計算した前記遅延時間差から振動の発生位置を計算する
ことを特徴とする。
【0015】
具体的には、本開示の光ファイバ振動センシング装置は、
前記第1の光伝送路及び前記第2の光伝送路として、複数の光ファイバを有する多芯光ファイバケーブルの2本の光ファイバ、複数のコアを有するマルチコア光ファイバの2個のコア、又は複数の伝搬モードを有するマルチ伝搬モード光ファイバの異なる2つの伝搬モードの光伝送路であることを特徴とする。
【0016】
本開示では、順方向マッハツェンダ型干渉計及び逆方向マッハツェンダ型干渉計からの干渉信号をそれぞれフーリエ変換し、複数の周波数に対するフーリエ変換後の2つの信号の位相差の傾きから遅延時間差を求め、当該遅延時間差より振動の発生位置を計算する。
【0017】
具体的には、本開示の光ファイバ振動センシング方法は、
コンピュータに実行させる、
共用して備える光源、共用して備える2本の光伝送路及び個別に備える2個の受光器を用いて光の進行方向をそれぞれ逆にした順方向マッハツェンダ型干渉計からの第1の干渉信号及び逆方向マッハツェンダ型干渉計からの第2の干渉信号をそれぞれ一定時間取得するデータ取得工程と、
取得した前記第1の干渉信号及び前記第2の干渉信号をそれぞれ離散フーリエ変換して第1の離散周波数信号及び第2の離散周波数信号を得る離散フーリエ変換工程と、
得られた前記第1の離散周波数信号と前記第2の離散周波数信号との複数の周波数における位相差を計算する位相差計算工程と、
前記複数の周波数に対する前記位相差の傾きから遅延時間差を計算する遅延時間差計算工程と、
計算した前記遅延時間差から振動の発生位置を計算する振動発生位置計算工程と、
を備える。
【0018】
具体的には、本開示は、
コンピュータに、
上記記載の光ファイバ振動センシング方法を実行させるためのプログラム
である。
【0019】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、振動の発生位置の測定精度が干渉波の形状に依存しない光ファイバ振動センシングを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の光ファイバ振動センシング装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】本開示の光ファイバ振動センシング装置の動作の例を示す図である。
【
図3】本開示の光ファイバ振動センシング装置の動作の例を示す図である。
【
図4】本開示の光ファイバ振動センシング方法の処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0023】
本開示の光ファイバ振動センシング装置の構成を
図1に示す。
図1において、101は光源、102は光源分岐カプラ、111は第1の光合分岐カプラ、112は第2の光合分岐カプラ、120は複数の光伝送路を有する光伝送媒体、121は第1の光伝送路、122は第2の光伝送路、131は第1の受光器、132は第2の受光器、211は第1の直流遮断フィルタ、212は第2の直流遮断フィルタ、221は第1のAD変換器、222は第2のAD変換器、300は解析部である。光源分岐カプラ102、第1の光合分岐カプラ111及び第2の光合分岐カプラ112の丸付き数字はそれぞれの端子番号である。
【0024】
本開示の光ファイバ振動センシング装置は順方向マッハツェンダ型干渉計と逆方向マッハツェンダ型干渉計とを備える。順方向マッハツェンダ型干渉計は、光を送出する光源101からの光を分岐して、それぞれ第1の光伝送路121の一端及び第2の光伝送路122の一端に入力し、第1の光伝送路121の他端及び第2の光伝送路122の他端からの光を結合して第1の受光器131で受光する。逆方向マッハツェンダ型干渉計は、光を送出する光源101からの光を分岐して、それぞれ第1の光伝送路121の他端及び第2の光伝送路122の他端に入力し、第1の光伝送路121の一端及び第2の光伝送路122の一端からの光を結合して第2の受光器132で受光する。順方向マッハツェンダ型干渉計と逆方向マッハツェンダ型干渉計とでは、光の進行方向が逆である。
【0025】
振動位置測定計は、第1の受光器131からの第1の干渉波信号及び第2の受光器132からの第2の干渉波信号をそれぞれフーリエ変換し、複数の周波数に対するフーリエ変換後の2つの信号の位相差の傾きから遅延時間差を求め、この遅延時間差より振動の発生位置を計算する振動位置測定計をさらに備える。
【0026】
順方向マッハツェンダ型干渉計の動作を
図2で説明する。
図2では、光の流れを太矢印で示している。光源101が光を送出する。光源分岐カプラ102は光源101からの光を2つに分岐して、第1の端子から出力する。第2の光合分岐カプラ112は、第1の端子に入力される光源分岐カプラ102の第1の端子からの光を、第3の端子に接続される第1の光伝送路121の一端及び第4の端子に接続される第2の光伝送路122の一端に分岐して入力する。第1の光伝送路121及び第2の光伝送路122はそれぞれ光を伝搬する。第1の光合分岐カプラ111は、第3の端子に接続される第1の光伝送路121の他端からの光及び第4の端子に接続される第2の光伝送路122の他端からの光を合波して第2の端子に出力する。第1の受光器131は第1の光合分岐カプラ111の第2の端子からの出力光を受光して電気信号に変換する。
【0027】
逆方向マッハツェンダ型干渉計の動作を
図3で説明する。
図3では、光の流れを太矢印で示している。光源101が光を送出する。光源分岐カプラ102は光源101からの光を2つに分岐して、第2の端子から出力する。第1の光合分岐カプラ111は、第1の端子に入力される光源分岐カプラ102の第2の端子からの光を、第3の端子に接続される第1の光伝送路121の他端及び第4の端子に接続される第2の光伝送路122の他端に分岐して入力する。第1の光伝送路121及び第2の光伝送路122はそれぞれ光を伝搬する。第2の光合分岐カプラ112は、第3の端子に接続される第1の光伝送路121の一端からの光及び第4の端子に接続される第2の光伝送路122の一端からの光を合波して第2の端子に出力する。第2の受光器132は第2の光合分岐カプラ112の第2の端子からの出力光を受光して電気信号に変換する。
【0028】
順方向マッハツェンダ型干渉計と逆方向マッハツェンダ型干渉計は、光源101、光源分岐カプラ102、第2の光合分岐カプラ112、第1の光合分岐カプラ111、第1の光伝送路121、第2の光伝送路122を共用して備える。第1の光伝送路121及び第2の光伝送路122は同じ光伝送媒体120に含まれる。順方向マッハツェンダ型干渉計は第1の受光器131を個別に備え、逆方向マッハツェンダ型干渉計は第2の受光器132を個別に備える。
【0029】
図2において、複数の光伝送路を有する光伝送媒体120に振動が付加されると、これに応じた振動が順方向マッハツェンダ型干渉計を構成する第1の光伝送路121及び第2の光伝送路122にも付加される。しかし、2つの光伝送路の物理的な位置の違いにより、まったく同じ時刻に同じ振動が付加されることはない。これは2つの光伝送路を伝送する光速と光ファイバケーブル、光ファイバ被覆、光ファイバ等の固体中を伝搬する音速との間に大きな差があるからである。
【0030】
ここでは、複数のコアを複数の光伝送路として有する光伝送媒体としてのマルチコア光ファイバを例に説明する。光ファイバを構成する石英中の光速は約20万km/秒であるのに対し、光ファイバを構成する石英中の音速は約5740m/秒程度である。マルチコア光ファイバの隣接するコア間の距離を約20μmとすると、振動がコア間を伝搬する時間はおよそ3.5×10-9秒となる。この間に光が光ファイバ中を伝搬する距離は約0.7mであるのに対し、干渉計に用いる光源の波長を通信波長帯とすると1.3μm~1.6μmである。よって、コア間を振動が伝搬する間に、波長以上の距離を光が伝搬することから、マッハツェンダ型干渉計における2つの光伝送路が近接している場合においても、2つの光伝送路に同時刻に同じ振動が付加されることはない。
【0031】
このことから、順方向マッハツェンダ型干渉計では、付加された振動に応じた干渉波を観測することになる。同様に、
図3において、逆方向マッハツェンダ型干渉計でも、付加された振動に応じた干渉波を観測することができる。
【0032】
本開示の振動位置測定計は、第1の受光器131からの第1の干渉波信号の直流成分を遮断する第1の直流遮断フィルタ211と、第2の受光器132からの第2の干渉波信号の直流成分を遮断する第2の直流遮断フィルタ212と、第1の直流遮断フィルタ211からの信号をAD変換し、第1の干渉信号として出力する第1のAD変換器221と、第2の直流遮断フィルタ212からの信号をAD変換し、第2の干渉信号として出力する第2のAD変換器222と、第1のAD変換器221からの第1の干渉信号及び第2のAD変換器222からの第2の干渉信号を解析して振動の発生位置を特定する解析部300と、を備えてもよい。
【0033】
第1の直流遮断フィルタ211で解析に不要な直流成分を遮断することによって、第1のAD変換器221のダイナミックレンジを小さくすることができる。第2の直流遮断フィルタ212でも同様である。ダイナミックレンジが許容されれば、第1の直流遮断フィルタ211及び第2の直流遮断フィルタ212は省略してもよい。また、第1の直流遮断フィルタ211と第1のAD変換器221との順番及び第2の直流遮断フィルタ212と第2のAD変換器222との順番は逆でもよい。逆の場合は、第1の直流遮断フィルタ211及び第2の直流遮断フィルタ212ではディジタル処理することになる。なお、第1のAD変換器221からの第1の干渉信号及び第2のAD変換器222からの第2の干渉信号と第1の直流遮断フィルタ211の出力信号及び第2の直流遮断フィルタ212の出力信号とは、ディジタルかアナログかという点だけで、本質的な差はないため、以下の説明では、第1の直流遮断フィルタ211の出力信号及び第2の直流遮断フィルタ212の出力信号をそれぞれ第1の干渉信号及び第2の干渉信号と称することがある。
【0034】
順方向マッハツェンダ型干渉計における第1の光伝送路121および第2の光伝送路122における電界を
【数1】
【数2】
とすると、第1の受光器131で観測される干渉波は、
【数3】
となる。ただし、E
A1及びE
A2はそれぞれ第1の光伝送路121及び第2の光伝送路122を伝搬する光の振幅、ωは第1の光伝送路121及び第2の光伝送路122を伝搬する光の角周波数、φ
A1及びφ
A2は位相である。
【0035】
このとき、第1の受光器131の出力する第1の干渉波信号は、
【数4】
となる。ここで、振動の発生位置Pvおいて角周波数ω
ν=2πf
νの振動が付加されると、第1の光伝送路121及び第2の光伝送路122における位相が変化し、次式を得る。
【数5】
ただし、V
Aは振動により与えられる位相変化の係数、θ
Aは第1の光伝送路121及び第2の光伝送路122の全長差や偏波状態に起因した位相差である。
【0036】
数5を第一種ベッセル関数J
n(*)で級数展開すると次式を得る。
【数6】
【0037】
第1の直流遮断フィルタ211を通過後の信号は、
【数7】
ただし、A’は第1の直流遮断フィルタ211を通過後の振幅を表す定数である。
【0038】
同様に、逆方向マッハツェンダ型干渉計の第2の受光器132で出力光を電気信号の第2の干渉波信号に変換して、第2の直流遮断フィルタ212を通すと次式を得る。
【数8】
ただし、V
Bは振動により与えられる位相変化の係数、θ
Bは第1の光伝送路121及び第2の光伝送路122の全長差や偏波状態に起因した位相差、B’は第2の直流遮断フィルタ212を通過後の振幅を表す定数である。
【0039】
ここで、第1の光合分岐カプラ111から第2の光合分岐カプラ112までの距離をLとし、振動の発生位置PvがL/2に等しいときの時刻を基準とする。このとき数7及び数8で得た干渉信号に基準より時間差ΔTがあるとすると、
【数9】
【数10】
となる。
【0040】
数7及び数8の各周波数f
k=kω
ν/2π(k=1、2、・・・、K)におけるI’
A及びI’
B間の位相差Δφ
kには、時間差ΔTと第1の光伝送路121と第2の光伝送路122の偏波等の状態による位相差θ
A及びθ
Bが含まれ、以下で表される。
【数11】
但し、θ
ABは、位相差θ
A及びθ
Bによって決まる定数である。数11はΔφ
k、f
kについての1次式である。よって、複数の周波数f
kについての位相差Δφ
kを用いて最小二乗法により回帰直線の回帰係数を計算することで、2πΔT即ち、時間差ΔTを求めることができる。
【0041】
遅延時間差の推定値をΔTバーとすると、第2の光合分岐カプラ112から振動の発生位置Pvまでの距離Lvは次式で求められる。
【数12】
但し、cは光速、n
γは第1の光伝送路121及び第2の光伝送路122の屈折率である。
【0042】
本開示の解析部300の動作を
図4に示す。データ取得工程700では、第1のAD変換器221でディジタル化された第1の干渉信号I’
A(t)及び第2のAD変換器222でディジタル化された第2の干渉信号I’
B(t)を一定時間取得し、メモリに格納する。格納したN点のデータを
【数13】
【数14】
とする。
【0043】
離散フーリエ変換工程701では、x
A及びx
Bに離散フーリエ変換を行う。得られたデータを
【数15】
【数16】
とすると、第1の離散周波数信号X
A及び第2の離散周波数信号X
Bは周波数f
k=(f
s/2N)×kにおける複素振幅を表す。但し、f
sはAD変換器のサンプリング周波数である。
【0044】
位相差計算工程702では、次式により一定以上の振幅を持つ周波数f
kについて、位相差Δφ
kを求める。
【数17】
但し、X
Thは閾値、Arg(X)はXの位相を表す。
【0045】
遅延時間差計算工程703では、X
Thより大きい場合の位相差Δφ
k及び周波数f
kから次式に従って、遅延時間差の推定値ΔTバーを計算する。
【数18】
ただし、mは回帰直線を計算するために用いる周波数f
iと位相差Δφ
iのペアの数、fバーはm個の周波数f
iの平均、Δφバーはm個の位相差Δφ
iの平均である。
【0046】
振動発生位置計算工程704では、遅延時間差の推定値ΔTバーを用いて、式(12)により振動の発生位置Pvまでの距離Lvを求める。
【0047】
これにより、偏波状態等により対向する2つのマッハツェンダ型光ファイバ干渉計で得られる干渉波形に違いがある場合においても、干渉波形に依存しない高精度な振動位置の特定が可能となる。
【0048】
以上説明したように、本開示の光ファイバ振動センシング装置及び光ファイバ振動センシング方法は、簡易な構成で、振動が付加された位置を特定することが可能な光ファイバ振動センシングを実現することができる。
【0049】
第1の光伝送路及び第2の光伝送路として、複数の光ファイバを有する多芯光ファイバケーブルの2本の光ファイバ、複数のコアを有するマルチコア光ファイバの2個のコア、又は複数の伝搬モードを有するマルチ伝搬モード光ファイバの異なる2つの伝搬モードの光伝送路を適用することができる。
【0050】
本発明の解析部はコンピュータとプログラムによっても実現できる。コンピュータに実行させるプログラムを記録媒体に記録することも、通信ネットワークを通して提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
101:光源
102:光源分岐カプラ
111:第1の光合分岐カプラ
112:第2の光合分岐カプラ
120:光伝送媒体
121:第1の光伝送路
122:第2の光伝送路
131:第1の受光器
132:第2の受光器
211:第1の直流遮断フィルタ
212:第2の直流遮断フィルタ
221:第1のAD変換器
222:第2のAD変換器
300:解析部