(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-02
(45)【発行日】2025-09-10
(54)【発明の名称】放射線療法のための複数の治療計画の生成
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20250903BHJP
【FI】
A61N5/10 P
(21)【出願番号】P 2021559985
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2020058928
(87)【国際公開番号】W WO2020207838
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-03-24
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-24
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ボクランツ,ラスマス
(72)【発明者】
【氏名】ヤンソン,マーティン
【合議体】
【審判長】井上 哲男
【審判官】土田 嘉一
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/174625(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3421085(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0304503(US,A1)
【文献】特開2018-108284(JP,A)
【文献】国際公開第2011/162021(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/032609(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線療法の複数の治療計画に基づいて線量分布を計算するための方法であって、各治療計画が複数の幾何学的に定義されたフルエンス要素のウェイトを指定し、各ウェイトが標的体積に放射線量を提供する放射線フルエンスの量を定義
し、前記方法は、治療計画作成システムで実行され、
前記治療計画作成システムが、前記複数の治療計画を含む第1の治療計画セットであって、前記フルエンス要素の最初のセットを含む第1の治療計画セットを生成するステップと、
前記治療計画作成システムが、前記第1の治療計画セットに基づいて、
閾値ウェイト
未満の統計的尺度を有する前記フルエンス要素
を破棄することによって、サブセットを決定するステップと、
前記サブセットにおける前記閾値以上のウェイトを有する前記フルエンス要素を含む治療計画を少なくとも2つ含む第2の治療計画セットを生成するステップと、
前記治療計画作成システムが、グラフィカルユーザインターフェースとナビゲーション制御インターフェースを備えるオペレータナビゲーションシステムにおいて、前記第2の治療計画セット
の各治療計画を相互補間
することによって線量分布を計算するステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第2の治療計画セットのフルエンス要素の非ゼロのウェイトは、
前記閾値ウェイト以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の治療計画セットを生成するステップは、前記フルエンス要素の決定されたサブセットに含まれないフルエンス要素はゼロであるものとするという制約を適用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の治療計画セットが定義する放射線フルエンスの量に関連した線量分布に基づいて前記第1の治療計画セットを最適化するために使用される、第1の多基準最適化問題と、前記第2の治療計画セットが定義する放射線フルエンスの量に関連した線量分布に基づいて前記第2の治療計画セットを最適化するために使用される、第2の多基準最適化問題とは、異なるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の多基準最適化問題は、前記フルエンス要素の決定されたサブセットに含まれないフルエンス要素はゼロであるものとするという制約により、前記第1の多基準最適化問題とは異なる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記グラフィカルユーザインターフェースは、前記ナビゲーションの線量分布を視覚化することができ、前記ナビゲーション制御インターフェースは、オペレータが前記ナビゲーションの線量分布を調整することを可能にする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記統計的尺度は、前記第1の治療計画セットのすべての治療計画の各フルエンス要素のウェイトについて計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記統計的尺度は、平均値又はパーセンタイル値を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記フルエンス要素のサブセットを決定するステップは、前記標的体積に幾何学的に定義されたフルエンス要素の十分な密度があることを保証することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
各治療計画は、走査イオンビームを使用して、各治療計画が定義する放射線フルエンスを前記標的体積に送達するように、構成され、各フルエンス要素は、ビームの走査スポットと関連付けられ、前記走査スポットは、ビームの走査位置とビームエネルギーによって定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
各治療計画は、バイナリマルチリーフコリメータMLCによって平行化された放射線ビームを使用して、各治療計画が定義する放射線フルエンスを前記標的体積に送達するように、構成され、前記MLCの各リーフは、開位置と閉位置に交互に切り替えることができ、各フルエンス要素は、前記標的体積に対するビームの特定の入射方向での前記MLCの特定のリーフと関連付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記標的体積に対する放射線ビームの各入射方向は、回転ガントリと可動カウチのいずれか又は両方の位置に基づいて決定される、請求項
10または11に記載の方法。
【請求項13】
各治療計画は、前記標的体積に対する放射線ビームの入射方向を送達の過程で変化させる状態で、各治療計画が定義する放射線フルエンスを、前記標的体積に送達するように構成される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
各治療計画は、バイナリマルチリーフコリメータMLCによって平行化された放射線ビームを使用して、各治療計画が定義する放射線フルエンスを、前記標的体積に送達するように構成され、前記MLCのリーフは、対向するリーフペアで配置され、各リーフは、最小位置と最大位置との間の複数の位置のいずれか1つをとることができ、各フルエンス要素は、ビクセルと関連付けられ、各ビクセルは、前記標的体積に対する特定の入射方向でのビームの断面における表面要素である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
放射線療法の複数の治療計画に基づいて線量分布を計算するための治療計画作成システムであって、各治療計画が複数の幾何学的に定義されたフルエンス要素のウェイトを指定し、各ウェイトが標的体積に放射線量を提供する放射線フルエンスの量を定義
し、
プロセッサと、
命令を格納するメモリと、
を備え、前記命令は、前記プロセッサによって実行されるときに、前記治療計画作成システムに、
前記複数の治療計画を含む第1の治療計画セットであって、前記フルエンス要素の最初のセットを含む第1の治療計画セットを生成させ、
前記第1の治療計画セットに基づいて、
閾値ウェイト
未満の統計的尺度を有するフルエンス要素
を破棄することによってサブセットを決定させ、
前記サブセットにおける前記閾値以上のウェイトを有する前記フルエンス要素を含む治療計画を少なくとも2つ含む第2の治療計画セットを生成させ、
グラフィカルユーザインターフェースとナビゲーション制御インターフェースを備えるオペレータナビゲーションシステムにおいて、前記第2の治療計画セット
の各治療計画を相互補間
することによって線量分布を計算させる、
治療計画作成システム。
【請求項16】
放射線療法の複数の治療計画に基づいて線量分布を計算するためのコンピュータプログラム
が記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であって、各治療計画は、複数の幾何学的に定義されたフルエンス要素のウェイトを指定し、各ウェイトは、標的体積に放射線量を提供する放射線フルエンスの量を定義し、前記コンピュータプログラムは、治療計画作成システム上で実行されるときに、前記治療計画作成システムに、
前記複数の治療計画を含む第1の治療計画セットであって、前記フルエンス要素の最初のセットを含む第1の治療計画セットを生成させ、
第1の治療計画セットに基づいて、
閾値ウェイト
未満の統計的尺度を有する前記フルエンス要素
を破棄することによってサブセットを決定させ、
前記サブセットにおける前記閾値以上のウェイトを有する前記フルエンス要素を含む治療計画を少なくとも2つ含む第2の治療計画セットを生成させ、
グラフィカルユーザインターフェースとナビゲーション制御インターフェースを備えるオペレータナビゲーションシステムにおいて、前記第2の治療計画セット
の各治療計画を相互補間
することによって線量分布を計算させる、
ことを実行させる、コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線療法の分野に関し、特に、その計画をフルエンス要素のサブセットに制約しながら生成することに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療計画のための、多目的最適化とも呼ばれる多基準最適化(MCO)は、ユーザが例えばそれぞれ線量分布に影響する基準を表すスライダバーの組を通じてナビゲートされた線量分布を変更することを可能にする開発である。ナビゲートされた線量は、事前に計算された基本計画セットの線量分布の凸結合である(凸結合は、ウェイトが非負で合計が1になる加重平均である)。ナビゲートされた線量分布は、現在のスライダ位置に基づいてリアルタイムで更新される。実行可能な治療計画、すなわち、計画パラメータに関する送達システムのすべての制限を考慮に入れた計画によってナビゲートされた線量分布を正確に再現できる場合に、ナビゲーションは直接送達可能である。
【0003】
物理的線量とスポットウェイトとの関係性は線形であるにもかかわらず、走査イオンの直接送達可能なナビゲーションは自明ではない。線形性とは、基本計画のスポットウェイトの凸結合(凸係数はナビゲートされた線量分布に用いられるものと同一である)が、ナビゲートされた線量分布を正確に再現する治療計画を定義することを意味する。しかしながら、これらのナビゲートされたスポットウェイトは、各ウェイトがゼロであるか又は下限と上限の間にある必要があるという特定の制限を満たしていなければならない。これらの限界値は、固定である場合もあれば、ビームエネルギーに依存する場合もある。連続走査に対応しているイオン送達システムでは、スポットウェイトの限界値は、スポットセグメントの長さに依存する場合もある。ナビゲートされたスポットウェイトは、基本計画のすべてのスポットウェイトが実行可能であっても、一般に、制限との兼ね合いで実行可能ではない。
【0004】
トモセラピー及び強度変調回転放射線療法(VMAT)などのアークベースの光子ビーム放射線療法の送達も、フルエンス要素のウェイトによって支配され、各ウェイトはゼロであるか又は下限と上限の間にある必要があるという制限を満たしていなければならない。イオンビーム療法の場合と同様に、基本計画のすべてのフルエンスウェイトが実行可能であっても、ナビゲートされたフルエンスウェイトは、一般に、制限との兼ね合いで実行可能ではない。
【0005】
従来技術では、送達可能な治療計画に到達するために後処理を用いることがある。例えば、スポットウェイト制限との兼ね合いで実行不可能なナビゲートされたスポットウェイトが最も近い実行可能値に丸められる。このような後処理によって、送達可能な計画の線量分布がナビゲートされた線量分布から逸脱することがある。ナビゲートされた線量分布と送達可能な計画の線量分布との不一致を補償する必要があるため、治療計画作成のワークフローが時間のかかる試行錯誤プロセスになる場合がある。
【0006】
線量分布計画のコンピュータ支援によるカスタマイズ方法がUS20130304503A1で開示されている。最初の計画から離れて、ユーザは、最初の計画でカバーされる総体積のごく一部(5%以下)であり得る、ボクセルのローカルグループの新しい線量値を指定する。その目的は、リスク領域の局所的な過剰線量又は標的領域の局所的な過少線量を回避することであり得る。次いで、最初の計画が、最初の計画の場合と実質的に同じ様態で、指定された新しい線量値を有するナビゲーションの計画に変換される。最初の計画は局所的にのみ変更されるため、最初の計画はほぼ維持される。最初の計画とそれから導出されたナビゲーションの計画との凸結合は、ユーザが各計画のウェイトを変更できる入力手段で一緒に視覚化される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1つの目的は、送達可能な治療計画を達成する方法を改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様によれば、放射線療法の複数の治療計画を生成するための方法が提供され、各治療計画は、複数の幾何学的に定義されたフルエンス要素のウェイトを指定する。各ウェイトは、標的体積に放射線量を提供する放射線フルエンスの量を定義する。方法は、治療計画作成システムで実行され、治療計画の第1のセットを生成するステップと、治療計画の第1のセットに基づいてフルエンス要素のサブセットを決定するステップと、少なくとも2つの治療計画の第2のセットを生成するステップとを含み、治療計画は、フルエンス要素のサブセットのウェイトのみを含む。
【0009】
治療計画の第2のセットのフルエンス要素の各非ゼロのウェイトは、最小ウェイト以上であり得る。
【0010】
2つの治療計画の第2のセットを生成するステップは、サブセット外のフルエンス要素はゼロであるものとするという制約を適用することを含み得る。
【0011】
治療計画の第1のセットは、第1の多基準最適化問題に関する最適化の結果であり、治療計画の第2のセットは、第2の多基準最適化問題に関する最適化の結果であり得る。第2の多基準最適化問題は、サブセット外のフルエンス要素はゼロであるものとするという制約により、第1の多基準最適化問題とは異なり得る。
【0012】
方法は、治療計画の第2のセットに関連した線量分布の補間によってナビゲートされた線量分布を計算することを含む、治療計画の第2のセットをオペレータナビゲーションシステムで使用するステップをさらに含み得る。
【0013】
治療計画の第2のセットをオペレータナビゲーションシステムで使用するステップは、ナビゲートされた線量分布を視覚化するグラフィカルユーザインターフェースと、ナビゲーション制御インターフェースを提供することを含み、ナビゲーション制御インターフェースは、オペレータがナビゲートされた線量分布を調整することを可能にする。
【0014】
フルエンス要素のサブセットを決定するステップは、閾値ウェイト未満の統計的尺度を有するフルエンス要素を破棄することを含み、統計的尺度は、治療計画の第1のセットのすべての治療計画の各フルエンス要素について計算される。
【0015】
統計的尺度は、平均値及び/又はパーセンタイル値を含み得る。
【0016】
フルエンス要素のサブセットを決定するステップは、標的体積全体にフルエンス要素の十分な密度があることを保証することを含み得る。その効果は、腫瘍などの標的体積全体への十分な線量を保証することであり、これは、すべてのコロニー形成腫瘍細胞の完全な排除に対応し得る。
【0017】
各治療計画は、走査イオンビームを使用して送達されるように構成されてもよく、各フルエンス要素は、ビームの走査スポットと関連付けられ、走査スポットは、ビームの走査位置とビームエネルギーによって定義される。
【0018】
各治療計画は、バイナリマルチリーフコリメータ(MLC)によって平行化された放射線ビームを使用して送達されるように構成されてもよく、MLCの各リーフは、開位置と閉位置に交互に切り替えることができる。この場合、各フルエンス要素は、標的体積に対するビームの特定の入射方向でのMLCの特定のリーフと関連付けられる。
【0019】
各治療計画は、MLCによって平行化された放射線ビームを使用して送達されるように構成されてよく、MLCのリーフは、対向するリーフのペアで配置され、各リーフは、最小位置と最大位置との間の複数の位置のいずれか1つをとることができる。以下、このようなMLCを「連続MLC」と呼ぶ。この場合、各フルエンス要素は、ビクセルと関連付けられ、各ビクセルは、標的体積に対する特定の入射方向でのビームの断面における表面要素である。
【0020】
標的体積に対する放射線ビームの各入射方向は、回転ガントリと可動カウチのいずれか又は両方によって決定され得る。
【0021】
各治療計画は、標的体積に対する放射線ビームの入射方向を送達の過程で変化させる状態で送達されるように構成され得る。
【0022】
第2の態様によれば、各治療計画が複数の幾何学的に定義されたフルエンス要素のウェイトを指定し、各ウェイトが標的体積に放射線量を提供する放射線フルエンスの量を定義する、放射線療法の複数の治療計画を生成するための治療計画作成システムが提供される。治療計画作成システムは、プロセッサと、メモリとを備え、メモリは、プロセッサによって実行されるときに、治療計画作成システムに、治療計画の第1のセットを生成させ、治療計画の第1のセットに基づいてフルエンス要素のサブセットを決定させ、少なくとも2つの治療計画の第2のセットを生成させる命令を格納し、治療計画は、フルエンス要素のサブセットのウェイトのみを含む。
【0023】
第3の態様によれば、各治療計画が複数の幾何学的に定義されたフルエンス要素のウェイトを指定し、各ウェイトが標的体積に放射線量を提供する放射線フルエンスの量を定義する、放射線療法の複数の治療計画を生成するためのコンピュータプログラムであって、治療計画作成システム上で実行されるときに、治療計画作成システムに、治療計画の第1のセットを生成させ、治療計画の第1のセットに基づいてフルエンス要素のサブセットを決定させ、少なくとも2つの治療計画の第2のセットを生成させる、コンピュータプログラムコードを備え、治療計画は、フルエンス要素のサブセットのウェイトのみを含む、コンピュータプログラムが提供される。
【0024】
第4の態様によれば、第3の態様に係るコンピュータプログラムと、前記コンピュータプログラムが格納されているコンピュータ可読手段とを備える、コンピュータプログラム製品が提供される。
【0025】
一般に、特許請求の範囲で用いられるすべての用語は、本明細書で別途明示的に定義されない限り、当該技術分野でのそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。「要素、装置、構成要素、手段、ステップなど」へのすべての言及は、別途明示的に記載のない限り、要素、装置、構成要素、手段、ステップなどのうちの少なくとも1つの例を指すものとして広義に解釈されるべきである。本明細書で開示される任意の方法のステップは、明示的に記載のない限り、開示された正確な順序で実行される必要はない。
【0026】
次に、例として、添付図を参照しながら態様及び実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本明細書で提示される実施形態を適用できる環境を例示する概略図である。
【
図2】一実施形態に係る、
図1の治療計画作成システムの機能モジュールを例示する概略図である。
【
図3】
図1の標的体積での異なるエネルギー層のブラッグピークの位置を例示する概略図である。
【
図4】一実施形態に係る、
図3のエネルギー層のうちの1つにおけるスポットの横方向分布を例示する概略図である。
【
図5】連続MLCを採用する放射線送達システムを例示する、治療マシンの概略的な斜視図である。
【
図7】
図1の治療計画作成システムで実行される、放射線療法の複数の治療計画を生成するための方法の実施形態を例示するフローチャートである。
【
図8】一実施形態に係る、
図1の治療計画作成システムの構成要素を例示する概略図である。
【
図9】コンピュータ可読手段を含むコンピュータプログラム製品の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ここで、本発明の特定の実施形態が示されている添付図を参照しながら本開示の態様を以下により十分に説明する。しかしながら、これらの態様は多くの異なる形態で具体化することができ、限定するものとして解釈されるべきではなく、むしろこれらの実施形態は、本開示が徹底的且つ完全となるように、また、本発明のすべての態様の範囲を当業者に十分に伝えるために例として提供される。同様の番号は、説明の全体を通して同様の要素を指す。
【0029】
図1は、本明細書で提示される実施形態を適用できる環境を例示する概略図である。治療計画作成システム1は、放射線が標的体積3にどのように送達されるかを決定する。より詳細には、治療計画作成システムは、放射線送達システム2に治療計画12を供給する。治療計画12は、複数の幾何学的に定義されたフルエンス要素のウェイトを指定する。各ウェイトは、標的体積3に放射線量を提供する放射線フルエンスの量を定義する。標的体積3の近くにリスク臓器5が存在する場合がある。その場合、治療計画は、リスク臓器5への線量送達を低く保ちながら、標的体積3への十分な線量送達とのバランスをとって決定される。
【0030】
放射線送達システム2がビームを生成し、線量を送達する様態は、当該技術分野でよく知られているように、治療モダリティ(光子、電子、又はイオンなど)と幾何学的構成によって異なる。しかしながら、共通の目標は、腫瘍がどこにあるかに応じてリスク臓器5への線量を最小にしながら、処方線量に可能な限り近い線量を標的体積3(すなわち、腫瘍)に送達することである。
【0031】
図3及び
図4を参照して以下により詳細に説明するイオンビームの実施形態では、治療計画は、走査イオンビームを使用して送達される。その場合、各フルエンス要素は、ビームの走査スポットと関連付けられる。走査スポットは、ビームの横方向の走査位置とビームエネルギーによって定義される。連続走査に対応しているイオン送達システムでは、スポットのフルエンス要素は、2つの走査位置間で送達されるフルエンスとして定義される。治療計画は、エネルギー層のセットで構成され、各層は、イオンビーム療法の走査スポットの分布を有する。これは治療計画12としてイオンビームシステムに通信される。治療計画12に基づいて、イオンビームシステムは、患者の標的体積3上でスポットごとに走査されるイオンビーム7を生成する。各走査スポットは、患者の標的体積3のスポット線量分布を生成する。
図1に示す座標系では、深さはz軸に沿って表され、y軸は上向きである。したがって、
図1の図は側面図と考えることができる。深さ方向の、すなわちz軸に沿ったスポット線量分布の最大線量(ブラッグピーク)の位置はイオンの運動エネルギーによって制御され、より高いエネルギーはより深い場所に最大線量をもたらす。さらに、y軸及びx軸(
図1には図示せず)に沿った横方向の位置は、電磁石を使用してビーム7を偏向させることで制御される。このようにして、走査スポットを提供することで、標的体積3を三次元でカバーする線量分布を達成することができる。
【0032】
図5及び
図6を参照して以下により詳細に説明するアークベースの光子ビーム放射線療法の実施形態では、治療計画は、マシンガントリ及び/又は患者カウチの回転移動中に送達される。さらに、患者カウチは、送達の過程で平行移動することができる。マシンガントリと患者カウチの位置が、どの時点においても入射方向を定義する。一実施形態では、治療マシンは、バイナリMLCを装備している。移動中に、各リーフを完全に開く又は完全に閉じること、すなわちバイナリ構成によって、バイナリMLCの構成を調整することができる。次いで、MLCの各リーフを開位置と閉位置に交互に切り替えることができるように、バイナリMLCによって平行化された放射線ビームを使用して各治療計画が送達される。この実施形態では、各フルエンス要素は、標的体積に対するビームの特定の入射方向でのMLCの特定のリーフと関連付けられる。別の実施形態では、バイナリMLCの代わりに、MLCは、リーフが最大位置(例えば全開)と最小位置(例えば全閉)との間の複数の位置のいずれか1つをとることができる、連続MLCとすることができる。この実施形態では、各フルエンス要素は、標的体積に対する特定の入射方向でのビームの断面における表面要素である、ビクセルと関連付けられる。以下により詳細に説明するように、標的体積に対する放射線ビームの各入射方向は、回転するマシンガントリと可動の患者カウチのいずれか又は両方によって決定される。
【0033】
図2は、一実施形態に係る、
図1の治療計画作成システムの機能モジュールを例示する概略図である。
【0034】
治療計画作成システムは、最適化モジュール10と、ナビゲーションモジュール11を備える。これらのモジュール10、11のそれぞれは、ソフトウェアで実装することができる。
【0035】
最適化モジュール10は、総線量、局所線量、最小/最大線量、放射線感受性の高い組織での線量、投影数などの様々な基準に関して最適化されたいくつかの基本計画を作成する。以下に提示する実施形態によれば、基本計画は、治療計画の第2のセットに対応する。
【0036】
ナビゲーションモジュール11は、ユーザがスライダバーの組を通じてナビゲートされた線量分布を修正することを可能にし、各スライダバーは、線量分布に影響する基準を表す。グラフィカルユーザインターフェース(GUI)の分野でそれ自体がよく知られているように、スライダバーは、スカラー量の現在値を設定、修正、及び/又は表示することを可能にする要素である。さらに、スライダバーはこの機能をもつ要素の一例にすぎないことが公知であり、本発明の範囲は、スライダバーに限定されず、任意の同等のGUI要素を包含する。ナビゲートされた線量分布は、基本計画のセットの線量分布の凸結合である。各基本計画は、基準のうちの1つに特に重点を置いて対応しており、これはMCOの目的関数のうちの1つに対応し得る。ナビゲートされた線量分布は、現在のスライダ位置に基づいてリアルタイムで更新される。更新は、凸結合の再計算を含み得るが、普通はMCOを新たに解く必要はない。各スライダは基準と関連付けられ、スライダを増加させることは、その基準に特に重点を置いている基本計画に凸結合でより大きいウェイトをつけることに対応する。本明細書で提示される実施形態によれば、ナビゲートされた線量分布は、放射線送達システムによって直接送達可能である。
【0037】
図3は、走査イオンビームを使用して放射線が送達されるときの
図1の標的体積3のエネルギー層のブラッグピーク位置を例示する概略図である。
図3は、
図1の図と同じ視点からの側面図である。前述のように、ブラッグピークの深さはエネルギー準位に依存する。ここでは、4つのエネルギー準位17a~17dのブラッグピークの深さが標的体積3に示されている。第1のエネルギー準位17aは、
図1のシステムのイオンビーム療法を使用して異なる横方向偏向を有する第1のエネルギー量のイオンが供給されるときの、そのエネルギー準位でブラッグピークが生じるラインによって例示される。第2のエネルギー準位17bは、第2のエネルギー量のイオンが供給されるときの、ブラッグピークが生じるラインによって例示され、以下同様である。イオンビームが通過する組織の密度が、深さに影響することに留意されたい。例えば、ビームが骨を通過する場合、ビームが軟組織のみを通過する場合とは異なるブラッグピークの深さとなる。その結果、各エネルギー準位17a~17dのブラッグピークの深さは、特定の深さの直線である必要はない。
【0038】
図4は、一実施形態に係る、
図3のエネルギー層(17a~17d参照)のうちの1つにおける走査スポットの横方向分布を例示する概略図である。エネルギー層はx-y平面に沿って示されている。エネルギー層は、患者の標的体積において完全に平坦である必要はないが、エネルギー層は、ここでは平坦な層として示されている。
【0039】
図4に円として例示されている走査スポット14は、そのエネルギー層で標的体積3をカバーするようにそのエネルギー層全体にある。例えば、特定のスポットでの走査時間を制御することによって適用できるウェイトは走査スポット間で異なり得る。各走査スポットのウェイトは、最小スポットウェイト以上でなければならず、これは、キッカー磁石がイオンビーム送達システムのビームラインをどれだけ速く開閉できるかに依存し得る。
【0040】
図4は、1つのエネルギー層における走査スポットの分布のみを開示しており、標的体積に用いられるエネルギー層ごとに、走査スポットの対応する分布が存在する。
【0041】
図5は、アークベースの放射線療法のための放射線送達システムを例示する、治療マシンの概略的な斜視図である。次元x、y、及びzのデカルト座標系も示されている。この座標系は、
図1、
図3、及び
図4の座標系とは異なることに留意されたい。
【0042】
ガントリ31は、ここではz軸に平行なガントリ軸の周りを回転可能である。ガントリ角度36がガントリの回転範囲を定義する。この定義が一貫している限り、ガントリ角度36がどこから定義されるかは重要ではない。
【0043】
治療中に患者(図示せず)が横たわるカウチ30が提供される。それ自体が公知である様々な固定機構を適用して、患者及び治療体積を既知の位置に確実に固定することができる。カウチ30は、ここではy軸に平行なカウチ軸の周りを回転可能である。カウチ角度35がカウチの回転範囲を定義する。この定義が一貫している限り、カウチ角度35がどこから定義されるかは重要ではない。さらに、カウチは、z方向に移動可能であり得る。
【0044】
ガントリ31にマウントされたMLC33が提供され、それを通して、治療中に放射線が提供される。MLC33は、コリメータ軸の周りを回転可能であり得る。コリメータ軸は、ガントリ31の回転に応じて(デカルト座標系の)その向きが変化する。コリメータ角度37がMLCの回転範囲を定義する。この定義が一貫している限り、コリメータ角度37がどこから定義されるかは重要ではない。
【0045】
カウチ角度35と、ガントリ角度36と、随意的にコリメータ角度37の値の組み合わせによって入射方向が定義される。入射方向は、放射線が患者を治療する角度を定義する。ビーム平面は、ビーム方向、すなわち、コリメータ軸の法線面である。
【0046】
各軌道は、開始時間から終了時間まで弧状に生じ、入射方向間の動きを定義する。一実施形態では、ヘリカルトモセラピーの場合、動きは螺旋形であり、その場合、カウチとガントリ間の平行移動がz軸に沿って可能となる。
【0047】
トモセラピーは、患者の周りを連続的に回転するスリットビームを患者に照射する、光子ビーム療法の一形態である。回転は、計画作成のためにいくつかの投影に離散化される(普通は、1回転につき51投影)。スリットの幅は、一対の可動ジョーによって定義され、典型的な幅は0.5~5cmであり、スリットを通る照射は、空気圧で駆動されるMLCリーフのセットによって平行化される。リーフによってもたらされる平行化は、リーフの全開又は全閉のいずれかのみが可能であるという意味で、バイナリであり得る。本明細書で提示される実施形態では、フルエンス要素のウェイトは、特定の入射方向でのMLCリーフの開時間に対応する。ウェイト、すなわち、リーフの開時間は、すべての開いたMLCリーフの下限以上である必要がある。下限は最小リーフ開時間に対応し、これは、MLCのリーフ速度が有限であることに起因して、リーフを開構成にすることができる可能な最短時間に依存し得る。閉じたリーフに対応するゼロのウェイトも可能である。連続する投影間のウェイトはまた、最小(非ゼロ)の閉時間制約を満たしていなければならない。2つの連続する投影間でリーフを閉じる必要はないため、ゼロの閉時間も可能である。
【0048】
一実施形態では、動きはVMATで行われる。弧状軌道は、カウチ角度35、コリメータ角度37、及びガントリ角度36のうちの1つ又は複数の変化を用いて実装される動きを定義する。MLCは、ここでは連続構成であり、MLCの各リーフは、全開位置と全閉位置との間の複数の位置のいずれか1つをとることができる。連続MLCのリーフ位置は、一般に、機械モータによって制御される。リーフはまた、対向するリーフのペアで配置される。この場合、各フルエンス要素は、標的体積に対する特定の入射方向でのビームの断面(すなわち、ビーム平面)における表面要素であるビクセルと関連付けられる。表面要素は、1つのリーフ又はリーフペアなどの、MLCの最小の制御可能単位に対応し得る。本明細書で提示される実施形態では、フルエンス要素のウェイト、すなわち、ビクセルウェイトは、ビクセルがMLCリーフによって遮断されていない間に送達される放射線フルエンスの量に対応する。ビクセルウェイトは下限以上でなければならず、これは、対向するリーフ間の最小チップギャップと、有限の最大リーフ速度に依存し得る。MLCリーフによって常に遮蔽されているビクセルに対応する、ゼロのビクセルウェイトも実行可能であり得る。
【0049】
一実施形態では、放射線は、各弧状軌道の全期間にわたってオンにされる。弧状軌道中の動きの速度は一定とすることができ、又は変化させることができる。
【0050】
図6は、連続構成で適用されたときの
図5のMLC33を例示する概略図である。MLC33は、リーフのペア20a~20b、21a~21b、...、26a~26bを備える。各リーフは一次元にのみ移動可能である。
【0051】
対向するリーフの各ペアは、リーフ間にスペースがあるように配置することができる。このようにして、放射線が通ることができる開口部28を画定することができる。開口部28は、周囲組織への放射線を低減しながら、標的体積3をカバーするように調整することができる。リーフ20a~20b、21a~21b、...、26a~26bは単一の次元に沿ってのみ移動可能であるため、開口部28の可能な形状はMLC33の回転角37に依存する。MLC33がバイナリ構成のとき、各リーフは、全開位置又は全閉位置にのみとどまることができる。バイナリ構成では、
図6に示したものと同様にリーフのペアが存在してよく、又は
図6の各垂直位置に対応する、1つの構成可能な開口部につき1つだけのリーフが存在してよい。
【0052】
図7は、放射線療法の複数の治療計画を生成するための方法の実施形態を例示するフローチャートである。方法は、
図1の治療計画作成システムで実行される。各治療計画は、複数の幾何学的に定義されたフルエンス要素のウェイトを指定する。さらに、各ウェイトは、標的体積に放射線量を提供する放射線フルエンスの量を定義する。
【0053】
治療計画の第1のセットを生成するステップ40において、治療計画作成システムは、治療計画の第1のセットを生成する。治療計画の第1のセットの生成において、これらは治療計画の第1のセットのすべての計画について等しく選択される、フルエンス要素の最初のセットに関して生成される。さらに、計画は、フルエンス要素の(非ゼロ)最小ウェイトを考慮せずに生成される。それにもかかわらず、最大ウェイトの考慮を治療計画の第1のセットの生成に含めることができる。治療計画の第1のセットは、第1の多基準最適化問題に関する最適化の結果であり、いくつかの異なる目的関数が(順次に)用いられ得る。治療計画の第1のセットの各治療計画は、特定の最適化基準、又は1つよりも多い基準の特定のウェイトづけを表すことができる。特定の最適化基準は、その治療計画を生成するのに用いられる目的関数の観点で及び/又は適用される制約の観点で表され得る。
【0054】
フルエンス要素を決定するステップ42において、治療計画作成システムは、治療計画の第1のセットに基づいてフルエンス要素のサブセットを決定する。これは、閾値ウェイト未満の統計的尺度を有するフルエンス要素を破棄することを含み得る。統計的尺度は、治療計画の第1のセットのすべての治療計画の各フルエンス要素について計算される。例えば、統計的尺度は、平均値又はパーセンタイル値を含み得る。このようにして、例えば、第1のセットの治療計画のウェイト(平均値又はパーセンタイル値として測定される)が小さすぎるフルエンス要素は、治療計画への寄与が小さすぎて、送達可能な最小ウェイトを下回る場合があるため、破棄される。
【0055】
随意的に、このステップは、標的体積全体にフルエンス要素の十分な密度があることを保証することを含む。このような随意的な保証は、閾値ウェイトとの比較後に、しかし意思決定の前に適用することができ、これにより、十分な密度を維持するのに重要なフルエンス要素が、破棄から除外される。したがって、前述の閾値ウェイトとの比較が排他的に適用された場合に、標的体積の十分なカバレッジを提供するフルエンス要素のセットを維持するという随意的なさらなる目標が考慮されるとき、破棄されていたであろうフルエンス要素は、事実上破棄されない。
【0056】
ここで、フルエンス要素を決定するステップ42を実施する可能なプロセスを説明する。第1のサブステップにおいて、治療計画の第1のセットの各治療計画に関して又は治療計画の第1のセットのすべての治療計画に関してまとめて、参照カバレッジが計算される。参照カバレッジは、線量を受ける体積(volume-at-dose)、すなわち、最小の線量dを受ける標的体積Vの特定の領域V
dの体積μ(V
d)として計算することができる:
【数1】
式中、D(x)は、第1のセットの治療計画に従うポイントxでの線量を示す。セットV
dは、送達される治療の観点から適切な最小の線量dに関して定義することができ、例えば、処方線量D
pの90%又は95%又は100%である。例えば、処方線量がD
p=60Gyの場合、参照カバレッジは、その領域の体積V
56Gyであり得る。第1のセットが複数の治療計画を含む場合、参照カバレッジは、第1のセットの、最小値、最大値、中央値、又は平均値の、線量を受ける体積であり得る。代替的に、線量を受ける体積は、第1のセットの治療計画のうちの少なくともいくつかの組み合わせ(例えば、凸結合、線形補間)に基づいて計算することができる。特に、このような組み合わせは、臨床的、生物学的、又は技術的な望ましさ因子の観点からバランスがとられた治療計画であり得る。
【0057】
第2のサブステップにおいて、治療計画作成システムは、前述のようにフルエンス要素のサブセットFを決定する。
【0058】
ステップ42の第3のサブステップにおいて、フルエンス要素のサブセットFを使用して参照カバレッジを達成できるかどうかが判定される。フルエンス要素のサブセットFを照射できる領域I
Fの外部にV
dのポイント又はボクセルが多くありすぎる場合、参照カバレッジは達成可能ではないと考えられる。これは、領域V
dの少なくとも一部γが照射可能であり続けることを要求する以下の定量的基準を適用することで評価することができる:
【数2】
この式では、例えば、γ=0.90又はγ=0.95又はさらにはγ=1を適用することができる。一般に、γの値が高いほど、第2のセットの治療計画にウェイトを含めることができるサブセットFに属するフルエンス要素の数が増加する傾向がある。領域V
dの非常に小さい一部にフルエンス要素のサブセットFを照射可能であると判断される場合、治療計画作成システムは、異なる初期値、異なるランダム化(例えば、ランダムシード)、又は調整されたパラメータをもつフルエンス要素のサブセットの決定を繰り返す。パラメータを調整することは、例えば、閾値ウェイトよりも小さい統計的尺度を有するフルエンス要素を破棄する上記のプロセスで用いられる閾値ウェイトを減らすことを含み得る。閾値ウェイトは、数パーセント、1パーセント、又は1パーセントの何分の1かに等しい固定の割合だけ減らすことができ、これは、各特定の実装を鑑みて望ましい処理時間と精度との兼ね合いであり得る。次いで、減らした閾値ウェイトとの比較が行われ、得られたフルエンス要素の新しいサブセットF’を用いて、参照カバレッジが達成可能であるかどうかが検証され、これは、上記のγに依存する定量的基準を適用することを含み得る。参照カバレッジが達成可能である場合、新しいサブセットF’はステップ42の出力を生成することになる。
【0059】
さらにステップ42の第3のサブステップの下で、領域Vdのいくつかのポイント又はボクセルにフルエンス要素のサブセットを照射できないという判定への代替的な対応は以下の通りである:治療計画作成システムは、治療計画の第1のセットのうちのいくつかで用いられ、且つ、サブセットにリストアされた場合に領域Vdの大部分を再照射可能にする、さらなるフルエンス要素を探索する。探索は、フルエンス要素のサブセットの境界上又は境界に隣接するフルエンス要素に制約され得る。このような境界は、フルエンス要素の二次元表現のポイントセット(又は離散化されたポイントセット)であり得る。その場合、ステップ42の最終的な出力は、このセットからの1つ又は複数のさらなるフルエンス要素を含み得る。言い換えれば、これらのさらなるフルエンス要素は、標的体積の十分なカバレッジを提供するフルエンス要素のセットを維持するという随意的なさらなる目的が考慮されるときに、事実上破棄されない。要約すると、標的体積全体にフルエンス要素の十分な密度があることを保証することを含むこのステップ42の随意的な実装の挙動は、主に、パラメータd及びγに割り当てられた値によって、及び、適用可能な場合は線量を受ける体積をまとめて計算する方法によって制御される。
【0060】
治療計画の第2のセットを生成するステップ44において、治療計画作成システムは、少なくとも2つの治療計画の第2のセットを生成する。これらの治療計画は、フルエンス要素のサブセットのウェイトのみを含み、フルエンス要素のサブセットの各フルエンス要素のウェイトは、最小ウェイト要件と最大ウェイト要件を満たすように制約される。第2のセットの各治療計画は、第1のセットの治療計画に対応し得る。このような対応は、同一の目的関数が用いられること、又は最小ウェイト要件を含むように修正された目的関数のみが用いられることを含み得る。治療計画の第2のセットは、第2の多基準最適化問題に関する最適化の結果であり得る。
【0061】
第2の多基準最適化問題は、サブセット外のフルエンス要素はゼロであるものとするという制約を含むという点で、第1の多基準最適化問題とは異なり得る。当業者によく知られているように、このような制約は、例えばバリア関数項の追加による、目的関数の変更の観点で表現され得る。一実施形態では、ゼロ制約は、サブセットを除く標的体積のすべてのフルエンス要素に適用される。別の実施形態では、ゼロ制約は、(i)治療計画の第1のセットのいずれかにおいて非ゼロのウェイトを有する、及び、(ii)決定されたサブセット外にある、ようなフルエンス要素に適用される。
【0062】
一実施形態では、治療計画の第2のセットのフルエンス要素の各非ゼロのウェイトは、最小ウェイト以上であり、且つ、最大ウェイト以下である。最小ウェイト及び最大ウェイトは、放射線送達システムの物理的制限に基づいて決定することができる。イオンビームの実施形態の場合、フルエンス要素は走査スポットである。トモセラピーの実施形態の場合、フルエンス要素は、標的体積に対するビームの特定の入射方向でのMLCの特定のリーフに対応する。VMATの実施形態の場合、フルエンス要素は、標的体積に対するビームの特定の入射方向に垂直な平面における表面要素であるビクセルに対応する。
【0063】
計画をナビゲーションに使用するステップ46において、治療計画作成システムは、治療計画の第2のセットを、
図2に示した前述のナビゲーションモジュールなどのオペレータナビゲーションシステムで使用する。これは、治療計画の第2のセットに関連した線量分布の補間によって
ナビゲートされた線量分布を計算することを含む。補間は、例えば、治療計画の第2のセットに関連した線量分布の凸結合を形成することによって実施することができる。これは、
ナビゲートされた線量分布を視覚化するグラフィカルユーザインターフェースを提供することを含み得る。この場合、ナビゲーション制御インターフェースも提供される。ナビゲーション制御インターフェースは、例えばスライダバーを使用して、オペレータが
ナビゲートされた線量分布を調整することを可能にする。
【0064】
治療計画の第1のセットは、第1の多基準最適化問題に関する最適化の結果とすることができ、一方、治療計画の第2のセットは、第2の多基準最適化問題に関する最適化の結果とすることができる。言い換えれば、最適化問題は、治療計画の第1のセットと第2のセットとで異なり得る。
【0065】
前述のように、一実施形態では、各治療計画は、走査イオンビームを使用して送達されるように構成される(
図3及び
図4参照)。このような場合、各フルエンス要素は、イオンビームの走査スポットと関連付けられる。
【0066】
代替的に、各治療計画は、MLCによって平行化された放射線ビームを使用して送達されるように構成される。MLCは、バイナリ構成又は連続構成の形態とすることができる。各治療計画は、標的体積に対する放射線ビームの入射方向を送達の過程で変化させる状態で送達されるように構成することができる。
【0067】
本明細書で提示される実施形態を使用すると、第2のセットからの治療計画の凸結合を直接送達可能である、すなわち、治療マシンで直接用いることができ、これは臨床での意思決定を単純化する。さらに、計画の組み合わせを送達可能にするのにMCOナビゲーション後の後処理の必要はない。後処理はエラーを引き起こし、実行に時間がかかることがあるため、これは非常に価値がある。
【0068】
図8は、一実施形態に係る、
図1の治療計画作成システムの構成要素を例示する概略図である。プロセッサ60は、メモリ64に記憶されたソフトウェア命令67を実行することができる適切な中央処理装置(CPU)、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路などのうちの1つ又は複数の任意の組み合わせを用いて提供され、したがって、コンピュータプログラム製品とすることができる。プロセッサ60は、上記の
図7を参照して説明した方法を実行するように構成することができる。
【0069】
メモリ64は、ランダムアクセスメモリ(RAM)と読出し専用メモリ(ROM)の任意の組み合わせとすることができる。メモリ64はまた、例えば、磁気メモリ、光メモリ、ソリッドステートメモリ、又はさらには遠隔に設置されたメモリのうちの任意の単一又は組み合わせとすることができる永続ストレージを含む。
【0070】
プロセッサ60でのソフトウェア命令の実行中にデータを読み出す及び/又は記憶するためのデータメモリ66も提供される。データメモリ66は、ランダムアクセスメモリ(RAM)と読出し専用メモリ(ROM)の任意の組み合わせとすることができる。
【0071】
治療計画作成システム1は、他の外部エンティティと通信するためのI/Oインターフェース62をさらに備える。随意的に、I/Oインターフェース62はまた、ユーザインターフェースを含む。
【0072】
治療計画作成システム1の他の構成要素は、本明細書で提示される概念を不明瞭にしないように省略されている。
【0073】
図9は、コンピュータ可読手段を含むコンピュータプログラム製品の一例を示す。このコンピュータ可読手段に、コンピュータプログラム91を格納することができ、このコンピュータプログラムは、プロセッサに、本明細書に記載の実施形態に係る方法を実行させることができる。この例では、コンピュータプログラム製品は、CD(コンパクト・ディスク)又はDVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)又はブルーレイディスクなどの光ディスクである。前述のように、コンピュータプログラム製品はまた、
図8のコンピュータプログラム製品64などのデバイスのメモリで具現化することもできる。コンピュータプログラム91は、ここでは、図示した光ディスク上のトラックとして概略的に示されているが、コンピュータプログラムは、取り外し可能なソリッドステートメモリ、例えば、ユニバーサルシリアルバス(USB)ドライブなどのコンピュータプログラム製品に適した任意の様態で格納することができる。
【0074】
本開示の態様を、主に、いくつかの実施形態を参照して上記に説明してきた。しかしながら、当業者には容易に理解されるように、上に開示した実施形態以外の他の実施形態が、付属の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内で等しく可能である。したがって、種々の態様及び実施形態が本明細書で開示されているが、他の態様及び実施形態が当業者には明白であろう。本明細書で開示される種々の態様及び実施形態は、例示を目的としており、限定することを意図しておらず、真の範囲及び精神は以下の特許請求の範囲によって示される。