(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】レーザ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 6/42 20060101AFI20250909BHJP
H01S 5/02253 20210101ALI20250909BHJP
H01S 5/02251 20210101ALI20250909BHJP
【FI】
G02B6/42
H01S5/02253
H01S5/02251
(21)【出願番号】P 2021176503
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2024-08-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」委託研究、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】山下 亮一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隼規
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/051450(WO,A1)
【文献】特開2013-235943(JP,A)
【文献】特開2019-015769(JP,A)
【文献】特開2007-017925(JP,A)
【文献】国際公開第2015/145609(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0031850(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03896508(EP,A1)
【文献】国際公開第2018/168063(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/26-6/27
6/30-6/34
6/42-6/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ装置であって、
それぞれレーザ光を出射させる第1、第2
及び第3レーザ光源と、
軸心を有し、前記レーザ装置からレーザ光を外部に出力する出力用光ファイバと、
前記第1、第2
及び第3レーザ光源から到来するレーザ光を合波して前記出力用光ファイバに入射させる合波光学系とを備え、
前記合波光学系は、
前記第1、第2
及び第3レーザ光源から到来するレーザ光をそれぞれ平行光に変換する第1、第2
及び第3コリメータと、
前記第2コリメータから到来するレーザ光を前記軸心に
平行な方向に誘導する表面
を持つ第1プリズムミラーと、前記第3コリメータから到来するレーザ光を前記軸心に平行な方向に誘導する表面を持つ第2プリズムミラーとを有する誘導光学系と、
前記第1
コリメータから到来する
前記軸心に平行なレーザ光と、前記第2
及び第3コリメータで平行光に変換された後に前記誘導光学系で前記軸心に平行な方向に誘導されて到来する
各レーザ光とを
、前記出力用光ファイバに集光する集光光学系とを備え
るものであり、
前記誘導光学系は、前記第1コリメータから到来するレーザ光の光軸と、前記第2及び第3コリメータで平行光に変換された後に当該誘導光学系で誘導された各レーザ光の光軸とを結んだ直線が正三角形となるように、且つ、当該正三角形の図心が前記軸心に一致するように、前記第2及び第3コリメータから到来するレーザ光を誘導するものであり、
前記第1及び第2プリズムミラーの各々は、前記第1コリメータから到来するレーザ光に面した平面である頂面をそれぞれ有し、当該第1及び第2プリズムミラーの各頂面が前記第1コリメータから到来するレーザ光に面した側でなす角度が120°に設定されている
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記第1、第2
及び第3レーザ光源はそれぞれ、複数のレーザ素子と、当該複数のレーザ素子から出射したレーザ光を整形する整形光学系と、
当該整形光学系の後段に設けられた光源用光ファイバとを有することを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記
第2コリメータから到来するレーザ光を反射させ、
前記第1プリズムミラーに誘導する
第1反射光学系
と、前記第3コリメータから到来するレーザ光を反射させ、前記第2プリズムミラーに誘導する第2反射光学系とをさらに備えたことを特徴とする請求項1~
2の何れかに記載のレーザ装置。
【請求項4】
第1レーザ光と、当該第1レーザ光の光軸と平行でない光軸をもつ第2及び第3レーザ光とが、それぞれ所定の方向から入射される誘導光学系であって、
前記誘導光学系は、前記第2レーザ光の光軸が前記第1レーザ光の光軸と平行な方向となるように当該第2レーザ光を誘導する表面を持つ第1プリズムミラーと、前記第3レーザ光の光軸が前記第1レーザ光の光軸と平行な方向となるように当該第3レーザ光を誘導する表面を持つ第2プリズムミラーとを有し、
前記誘導光学系は、前記第1レーザ光の光軸と、前記第1及び第2プリズムミラーで誘導された前記第2及び第3レーザ光の光軸とを結んだ直線が正三角形となるように、前記第2及び第3レーザ光を誘導するものであり、
前記第1及び第2プリズムミラーの各々は、前記第1レーザ光に面した平面である頂面をそれぞれ有し、当該第1及び第2プリズムミラーの各頂面が前記第1レーザ光に面した側でなす角度が120°に設定されている
ことを特徴とする誘導光学系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレーザ光源からそれぞれ出射する各レーザ光を結合(合波)させて1本の出力用光ファイバに入射させるための合波光学系を備えるレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、製品の加工(レーザ加工)や回路基板上での部品のはんだ付けなどに用いられるハイパワーのレーザ装置には、複数のレーザ光源または複数の光ファイバからそれぞれ出射する各レーザビームを結合させて1本の光ファイバ(マルチモード光ファイバ)に入射させるレーザ合波装置(光パワー合成用光学系)が用いられている。このようなレーザ合波装置に関しては、今までに種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、同一平面上に配置された複数のレーザ光源と、各レーザ光源からそれぞれ出射するレーザビームを受ける光ファイバと、複数のレーザビームを集光させて1本の光ファイバの入射端面に結合させる複数のレンズを備えるレーザ合波装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、筐体に光源としての第1発光素子と第2発光素子とを互いに直交させて配置し、これらの第1発光素子と第2発光素子から出射するレーザビームをハーフミラーを介して1本の光ファイバに入射させるレーザ合波装置が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1において提案されたレーザ合波装置においては、光ファイバへの入射角度が大きな状態で光ファイバにレーザビームが斜めに入射するために光損失が大きく、ファイバ結合効率が低下するという問題がある。
【0006】
また、特許文献2において提案されたレーザ合波装置においては、ハーフミラーによる光損失によって結合効率が低下するとともに、光源を互いに90°曲げた方向に配置するために装置が大型化するという問題がある。
【0007】
そこで、特許文献3には、複数のレーザ光源を、該レーザ光源における出射光の光軸が光ファイバの入射面の法線に対してそれぞれ傾斜するように配置するとともに、レーザ光源と光ファイバとの間にプリズム(光学部材)を配置し、このプリズムの出射面からの出射光の光軸と光ファイバの入射面の法線とのなす角度(光ファイバへの入射角度)を、プリズムの入射面への各レーザ光源からの出射光の光軸と光ファイバの入射面の法線とのなす入射光傾斜角度よりも小さく設定したレーザ合波装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-248581号公報
【文献】特開2013-045092号公報
【文献】特開2015-064537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3において提案されたレーザ合波装置においては、複数のレーザ光源が二次元平面内に光ファイバの入射面の法線に対して傾斜した角度で配置されているため、これらのレーザ光源の設置スペースが大きくなり、装置が大型化するという問題がある。
【0010】
ところで、レーザ合波装置に用いられるレンズ等の光学素子の角度や位置を調整する調整機構を設けた場合、高出力時の発熱や輸送時の振動、調整機構の構造に由来する長期安定性の欠如などに起因してファイバ結合効率が低下するという問題が発生する。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、ファイバ結合効率の向上と小型化を実現することができるレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るレーザ装置は、
それぞれレーザ光を出射させる第1、第2及び第3レーザ光源と、
軸心を有し、前記レーザ装置からレーザ光を外部に出力する出力用光ファイバと、
前記第1、第2及び第3レーザ光源から到来するレーザ光を合波して前記出力用光ファイバに入射させる合波光学系とを備え、
前記合波光学系は、
前記第1、第2及び第3レーザ光源から到来するレーザ光をそれぞれ平行光に変換する第1、第2及び第3コリメータと、
前記第2コリメータから到来するレーザ光を前記軸心に平行な方向に誘導する表面を持つ第1プリズムミラーと、前記第3コリメータから到来するレーザ光を前記軸心に平行な方向に誘導する表面を持つ第2プリズムミラーとを有する誘導光学系と、
前記第1コリメータから到来する前記軸心に平行なレーザ光と、前記第2及び第3コリメータで平行光に変換された後に前記誘導光学系で前記軸心に平行な方向に誘導されて到来する各レーザ光とを、前記出力用光ファイバに集光する集光光学系とを備えるものであり、
前記誘導光学系は、前記第1コリメータから到来するレーザ光の光軸と、前記第2及び第3コリメータで平行光に変換された後に当該誘導光学系で誘導された各レーザ光の光軸とを結んだ直線が正三角形となるように、且つ、当該正三角形の図心が前記軸心に一致するように、前記第2及び第3コリメータから到来するレーザ光を誘導するものであり、
前記第1及び第2プリズムミラーの各々は、前記第1コリメータから到来するレーザ光に面した平面である頂面をそれぞれ有し、当該第1及び第2プリズムミラーの各頂面が前記第1コリメータから到来するレーザ光に面した側でなす角度が120°に設定されている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3つのレーザ光源から出射して合波光学系によって合波されたレーザ光が出力用光ファイバの軸心に効率よく入射するため、ファイバ結合効率が一層高められる。また、第1レーザ光源から出射するレーザ光が、2つのプリズムミラーの傾斜面によって挟まれる角度120°の空間を2つのプリズムミラーに干渉することなく直進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るレーザ装置の基本構成を示す模式的平面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るレーザ装置の基本構成を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るレーザ装置のベースの平面図である。
【
図5】プリズムミラーを示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図((a)の矢視B方向の図)、(c)は側面図((a)の矢視C方向の図)である。
【
図6】本発明の実施形態に係るレーザ装置の出力部分の斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るレーザ装置における光軸のズレを調整する方法を示す模式的平面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るレーザ装置におけるケラレの発生を抑制する方法を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明の実施の形態に係るレーザ装置の基本構成を示すブロック図、
図2は同レーザ装置の基本構成を示す斜視図、
図3は同レーザ装置のベースの平面図、
図4は
図3の矢視A方向の図である。
【0017】
本実施の形態に係るレーザ装置1は、
図1に示すように、それぞれレーザ光LB1,LB2,LB3を出射する第1~第3レーザ光源R1,R2,R3と、これらの第1~第3レーザ光源R1~R3から出射されるレーザ光LB1,LB2,LB3を合波する合波光学系CWと、この合波光学系CWによって合波されたレーザ光LBが入射する1本の出力用光ファイバFを備えている。なお、以下の説明においては、
図1及び
図2に矢印にて示す方向をそれぞれ互いに直交する「X軸方向」、「Y軸方向」、「Z軸方向」とする。
【0018】
上記第1~第3レーザ光源R1,R2,R3は、不図示のレーザ素子(LD)と、これらのレーザ素子から出射するレーザ光LB1,LB2,LB3をそれぞれ整形する不図示の整形光学系と、各整形光学系の後段に設けられた光源用光ファイバF1,F2,F3によってそれぞれ構成されている。ここで、3本の光源用ファイバF1~F3は、Y軸方向(幅方向)に等間隔にX軸方向(前後方向)に沿って配置されているが、Y軸方向において中央に位置する光ファイバF1は、
図2に示すように、その両側(
図1の上下)に配置された2本の光源用光ファイバF2,F3よりもZ軸方向(高さ方向)に
図4に示すΔhだけオフセットした位置(高い位置)に配置されている。このように、不図示のレーザ素子と3本の光源用光ファイバF1~F3は、三次元空間内に互いに平行に配置されている。ここで、3本の光源用光ファイバF1~F3は、中心波長450nm、出力600Wのレーザ光LB1~LB3を伝搬させることができるものであって、その直径はφ200μm、開口数NAは0.2である。
【0019】
なお、光源用光ファイバF1~F3は、図示しないが、芯であるコアとこのコアの外側を覆うクラッドとの二重構造となっており、コアとクラッドは、光透過率の高い石英ガラスによって構成されている。また、合波された1本のレーザ光LBが入射する1本の出力用光ファイバFも同様に構成されているが、本実施の形態では、この出力用光ファイバFは、マルチモード光ファイバによって構成されている。
【0020】
また、前記合波光学系CWは、第1~第3レーザ光源から出射するレーザ光LB1,LB2,LB3を合波して出力用光ファイバFに入射させるものであって、第1~第3コリメータ2,3,4と、第1誘導光学系を構成するプリズムミラー5と、第2誘導光学系を構成するプリズムミラー6と、集光光学系を構成する集光レンズ7を含んで構成されている。
【0021】
上記第1~第3コリメータ2,3,4は、各光源用光ファイバF1~
F3から出射する指向性の高いレーザ光BL1~BL3を平行光とするものであって、
図1及び
図2に示すように、各光源用光ファイバF1~F3の光出射方向(X軸方向)前方(
図1の右方)にそれぞれ配置されている。具体的には、各コリメータ2~3は、各光源用光ファイバF1~F3の出射端面から当該コリメータ2~4の焦点距離f1だけ離れた位置に配置されている。
【0022】
前記合波光学系CWは、第1~第3レーザ光源から出射するレーザ光LB1,LB2,LB3を合波して出力用光ファイバFに入射させるものであって、第1~第3コリメータ2,3,4と、第1誘導光学系を構成するプリズムミラー5と、第2誘導光学系を構成するプリズムミラー6と、反射光学系を構成する反射ミラー8,9と、集光光学系を構成する集光レンズ7を含んで構成されている。
【0023】
ここで、上記第1~第3コリメータ2,3,4は、第1~第3レーザ光源R1,R2,R3からそれぞれ出射するレーザ光LB1,LB2,LB3を平行光L1,L2,L3に変換するものであって、各光源用光ファイバF1,F2,F3の後段(レーザ光LB1,LB2,LB3の出射方向後段)にそれぞれ配置されている。具体的には、各コリメータ2~4は、各光源用光ファイバF1~F3の出射端面から当該コリメータ2~4の焦点距離f1だけ離れた位置に配置されている。
【0024】
ここで、
図1に示すように、幅方向(Y軸方向)中央に配置された光源用光ファイバF1の軸心と、合波された1本のレーザ光LBが入射する出力用光ファイバFの軸心とは平面視において一致している。つまり、幅方向中央の光源用光ファイバF1と出力用光ファイバFは、平面視において同軸上に配置されている。そして、
図1に示すように、幅方向中央に配置された光源用光ファイバF1から出射してコリメータ2によって平行光とされる平行光L1の光路上であって、且つ、コリメータ2の光出射方向(X軸方向)前方(
図1及び
図2の右方)には、ブロック状の2つのプリズムミラー5,6がX軸方向に離間した状態で配置されている。
【0025】
また、平面視において同軸上に配置された光源用光ファイバF1と出力用光ファイバFの軸心上であって、且つ、プリズムミラー5,6と出力用光ファイバFとの間には、光透過型の集光レンズ7が配置されている。この集光レンズ7は、光源用光ファイバF1~F3から出射するレーザ光LB1~LB3がコリメータ2~4によってそれぞれ平行化(コリメート)されることによって得られる平行光L1~L3を出力用光ファイバFの入射面の中心(コアの軸心)に集光させるためのものである。なお、集光レンズ7と出力用光ファイバFの入射端面との間の距離は、集光レンズ7の焦点距離f2に設定されている。
【0026】
他方、Y軸方向(幅方向)において中央の光源用光ファイバ1の両側(
図1の上下)に配置された光源用光ファイバF2,F3から出射してコリメータ3,4によってそれぞれ平行化された平行光L2,L3の各光路上であって、且つ、各コリメータ3,4よりも光出射方向前方(
図1の右方)には、平行光L2,L3を各プリズムミラー5,6に向かって反射させる反射ミラー8,9が平面視において45°傾斜した状態でそれぞれ配置されている。
【0027】
ここで、プリズムミラー5の構成の詳細を
図5に基づいて以下に説明する。なお、2つのプリズムミラー5,6の基本構成は同じであるため、以下、一方のプリズムミラー5のみの構成について説明する。
【0028】
図5はプリズムミラーを示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図((a)の矢視B方向の図)、(c)は側面図((a)の矢視C方向の図)であり、図示のプリズムミラー5は、光透過率が高くて熱膨張率の小さい石英ガラスによって矩形ブロック状に構成されている。このプリズムミラー5は、
図2に示すように、反射ミラー8と共に矩形平板状のベース10に固定配置されており、その側面の1つは、平面視において斜め45°にカットされた反射面5aを構成している(
図5(a)参照)。なお、反射面5aには、HRコーティングが施されている。
【0029】
また、プリズムミラー5の頂面は、
図5(b)に示すように、垂直面に対して図示の角度60°だけ傾斜した傾斜面を構成しており、この頂面5bには、反射コーティングが施されている。
【0030】
ところで、
図4に示すように、2つのプリズムミラー5,6は、ベース10の上面に段違いに形成された深さが異なる矩形溝10a,10bにそれぞれ嵌合して位置決めされており、
図3に示すように、これらのプリズムミラー5,6は、
図3に示す3つの基準面S1,S2,S3に対する垂直度と平行度がそれぞれ0.05
mm以下に設定され、不図示の板バネによってそれぞれ固定されている。
【0031】
ここで、プリズムミラー5の反射面5aは、平面視で斜め45°に傾斜する斜面を形成しているため、この反射面5aにおいては平行光L2は、楕円形の光像を形成する。この楕円形の光像の長軸の長さは、平行光束L2の直径の√2倍(1.42倍)となるため、反射面5aに長さM(
図5(a)参照)は、平行光L2の直径d(
図1参照)の1.5倍以上である必要がある(M≧1.5d)。なお、図示しないが、他方のプリズムミラー6についても同様である。
【0032】
ところで、上述のようにベース10上に設置された2つのプリズムミラー5,6をX軸方向から見た場合、これら2つのプリズムミラー5,6は、
図4に示すように、その側面5d,6d同士が互いに同一垂直面上に位置するように配置されているが、両プリズムミラー5,6の傾斜する頂面5b,6bによって挟まれる角度は、図示のように120°(正確に120°を含み、公差上のずれをカバーする範囲)に設定されている。したがって、両プリズムミラー5,6の頂面5b,6bの間には、X軸方向視においてV字状の空間が形成されるが、この空間内に幅方向中央に配置された光源用光ファイバF1から出射してコリメータ2によって平行化された平行光L1が通過する。なお、
図3に示すように、プリズムミラー5,6の各側面5d,6dは、幅方向中央に配置された第1光源R1(光源用光ファイバF1)から出射するレーザ光LB1の光軸方向に延びる平面を構成している。
【0033】
なお、
図4に示すように、幅方向中央に配置された光源用光ファイバF1から出射してコリメータ2によって平行化された平行光L1の光軸O1と、中央の光源用光ファイバF1の幅方向両側に配置された光源用光ファイバF2,F3からそれぞれ出射してコリメータ3,4によって平行化され、反射ミラー8,9とプリズムミラー5,6によって反射した平行光L2,L3の光軸O2,O3とを結ぶ正三角形の図心Gは、出力用光ファイバFの軸心に一致している。
【0034】
ここで、本実施の形態に係るレーザ装置1の出力部の構成を
図6及び
図7に基づいて以下に説明する。
【0035】
図6は本発明の実施形態に係るレーザ装置の出力部分の断面斜視図、
図7は
図6のD-D線断面図であり、内部にベース10(
図2及び
図3参照)が収容されたハウジング20の外面には、矩形プレート状のコリメータベース21がYZ軸方向(左右及び上下方向)に位置調整可能に取り付けられている。このコリメータベース21の内面には、ハウジング20の側壁に開口ずる円孔状の孔部20a(
図7参照)に嵌め込まれる円筒部21Aが一体に突設されており、コリメータベース21の外面には、ファイバレセプタクル22が取り付けられている。そして、このファイバレセプタクル22には、金属製のファイバコネクタ23が差し込まれて固定されており、このファイバコネクタ23の軸心には、直径がφ400μm、開口数NAが0.2の出力用光ファイバFが挿通している。
【0036】
また、ハウジング20内には、
図7に示すように、集光レンズ7を保持する円筒状のレンズホルダ24が収容されており、このレンズホルダ24の位置は、XYZ軸方向(上下、左右及び前後方向)に調整可能である。そして、このレンズホルダ24は、その外周側に設けられた連結リング25によってコリメータベース21の円筒部21Aに連結されている。
【0037】
なお、以上は本実施の形態に係るレーザ装置1の出力部の構成について説明したが、入力部における3本の光源用光ファイバF1~F3の取付構造やコリメータ2~4の保持構造は、出力部におけるものと同じであるため、これについての図示及び説明は省略する。
【0038】
次に、以上のように構成されたレーザ装置1の作用について説明する。
【0039】
3つの第1~第3レーザ光源R1,R2,R3レーザの各レーザ素子からそれぞれ出射するレーザ光LB1~LB3が計3本の各光源用光ファイバF1~F3をそれぞれ伝搬し、
図1に示すように、各光源用光ファイバF1~F3からレーザ光LB1~LB3がそれぞれ出射すると、各レーザ光LB1~LB3は、各コリメータ2~4をそれぞれ透過することによって平行化されて平行光L1~L3となる。ここで、幅方向中央に配置されたコリメータ2によって平行化された平行光L1は、そのまま直進して集光レンズ7を透過することによって1本の出力用光ファイバFの入射端面の軸心に集光される。
【0040】
そして、中央のコリメータ2の両側に配置された2つのコリメータ3,4のうち、一方(
図1の上側)に配置されたコリメータ3を透過して平行化された平行光L2は、反射ミラー8によって反射してその進行方向が直角に曲げられてY軸方向に沿ってプリズムミラー5に向かう。そして、この平行光L2は、プリズムミラー5の反射面5aで反射してその進行方方向が直角に曲げられてX軸方向に沿って集光レンズ7へと向かい、該集光レンズ7を透過することによって1本の出力用光ファイバFの入射端面の軸心に集光される。
【0041】
また、他方(
図1の下側)に配置されたコリメータ4を透過して平行化された平行光L3は、反射ミラー9によって反射してその進行方向が直角に曲げられてY軸方向に沿ってプリズムミラー6に向かう。そして、この平行光L3は、プリズムミラー6の反射面6aで反射してその
進行方向が直角に曲げられてX軸方向に沿って集光レンズ7へと向かい、該集光レンズ7を透過することによって1本の出力用光ファイバFの入射端面の軸心に集光される。
【0042】
以上のように、本実施の形態に係るレーザ装置1においては、3本の光源用光ファイバF1~F3からそれぞれ出射する計3本のレーザ光LB1~LB3は、最終的に集光レンズ7によって1本のレーザ光LBに結合(合波)されて1本の出力用光ファイバFの入射端面の軸心に集光し、この出力用光ファバFの入射端面から当該出力用光ファイバF内に入射してコア内を全反射しながら伝搬する。そして、合波によって高出力化した1本のレーザ光LBは、出力用光ファイバFの出射面から出射してレーザ加工などの用途に供される。
【0043】
以上において、本実施の形態に係るレーザ装置1においては、3本の光源用光ファイバF1~F3を三次元空間内に互いに平行に配置したため、これらの光源用光ファイバF1~F3の設置スペースが小さくて済み、当該レーザ装置1の小型化が可能となる。
【0044】
また、
図4に示すように、幅方向中央に配置された光源用光ファイバF1から出射してコリメータ2によって平行光とされた平行光L1の光O1と、中央の光源用光ファイバF1の両側に配置された光源用光ファイバF2,F3から出射してコリメータ3,4によってそれぞれ平行化されるとともに、反射ミラー8,9とプリズムミラー5,6によって幅方向中央へとそれぞれ集光された平行光L2,L3の光軸O2,O3とを結ぶ正三角形の図心Gを出力用光ファイバFの軸心Oに一致させたため、各平行光L1~L3が集光レンズ7によって合波され、損失が最小限に抑えられて出力用光ファイバFの軸心Oに効率良く入射する。このため、本実施の形態に係るレーザ装置1におけるファイバ結合効率が高められる。
【0045】
さらに、本実施の形態では、
図7に示すように、出力側の出力用光ファイバFを剛性の高い金属製のファイバコネクタ23を用いて同じく剛性の高い金属製のハウジング10に取り付けるようにし、入力側の3本の光源用光ファイバF1~F3も同様に金属製の不図示のファイバコネクタを用いて金属製のハウジング10に取り付けるようにしたため、高出力時の発熱や輸送時の振動、調整機構の構造に由来する長期安定性の欠如などに起因してファイバ結合効率が低下するという問題が発生しない。例えば、ファイバコネクタ23やこれに接続された出力用光ファイバFに数Nの荷重を加えた場合であってもファイバ結合効率に変化はなかった。
【0046】
ところで、本実施の形態では、コリメータベース21とレンズホルダ24に位置調整機構が設けられているが、これらの位置調整機構による位置調整精度以上の精度で位置調整を行う場合には、
図8に示すように、例えば、平行光L2の光路上のコリメータ3と反射ミラー8との間に平行プレート13を配置し、この平行プレート13によって光軸垂直方向の位置ズレを修正するようにしても良い。
【0047】
また、
図8に示すように、例えば、コリメータ4によって平行化された平行光L3の光軸がずれた場合には、この平行光L3の光路上のコリメータ4と反射ミラー9との間に傾斜プレート14を配置し、この傾斜プレート14によって光軸のズレを調整することができる。なお、平行プレート13や傾斜プレート14としては、光透過率が十分に確保できる範囲内で分厚く、屈折率が高いものが望ましい。
【0048】
さらに、プリズムミラー6によるケラレを最小に抑えるために、
図9に示すように、出力用光ファイバF1とコリメータ2の光軸を意図的にずらすようにすることが望ましい。この場合、光源用光ファイバF1またはコリメータ2を僅かな角度(数mrad以下)を付けて固定することも可能である。出力用光ファイバFの入射面での集光スポット径は、軸ズレ収差によってより大きくなり得るが、プリズムミラー6によるケラレ成分の減少効果の方が大きくなった場合には、ファイバ結合効率がさらに高められる。
【0049】
なお、光ファイバやコリメータ、集光レンズ等の光学素子にHRコーティング(反射防止コーティング)を施すとフレネル損失が減り、光ファイバから出力されるレーザ光の出力が高められる。
【0050】
また、プリズムミラーで反射されなかった光成分をダンパーによって吸収したり、拡散板によって拡散させても良い。さらに、ファイバ結合に寄与しないレーザ光を取り除いたり、散乱光を効果的に除去するために、プリズムミラーの反射面以外の面にARコーティングを施したり、砂面加工を施すようにしても良い。
【0051】
ところで、レーザ出力が大きくなると、透過型素子である集光レンズが破損する可能性があるため、このような集光レンズに代えて放射線ミラーを使用することもできる。或いは、集光レンズに冷却機構(空冷機構や水冷機構)を設けても良い。
【0052】
なお、以上の実施の形態では、複数(3つ)のレーザ光源から出射するレーザ光を複数(3本)の光源用光ファイバF1~F3によって伝搬し、各光源用光ファイバF1~F3から出射するレーザ光LB1~LB3を各コリメータ2~4にそれぞれ導くような構成を採用したが、複数のレーザ光源から出射するレーザ光を各コリメータ2~4に直接導くような構成を採用しても良い。
【0053】
また、以上の実施の形態では、レーザ光源とこのレーザ光源から出射するレーザ光を伝搬させる光源用光ファイバF1~F3の数を3としたが、これらの数は限定されたものではなく、2或いは4以上の数であっても良い。
【0054】
ところで、以上説明した実施の形態は、本発明の一例を示すものであって、本発明は、実施の形態にその適用範囲が限定されるべきものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0055】
すなわち、以上において説明した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0056】
(第1項)第1項に記載のレーザ装置は、
それぞれレーザ光を出射させる第1、第2及び第3レーザ光源と、
軸心を有し、前記レーザ装置からレーザ光を外部に出力する出力用光ファイバと、
前記第1、第2及び第3レーザ光源から到来するレーザ光を合波して前記出力用光ファイバに入射させる合波光学系とを備え、
前記合波光学系は、
前記第1、第2及び第3レーザ光源から到来するレーザ光をそれぞれ平行光に変換する第1、第2及び第3コリメータと、
前記第2コリメータから到来するレーザ光を前記軸心に平行な方向に誘導する表面を持つ第1プリズムミラーと、前記第3コリメータから到来するレーザ光を前記軸心に平行な方向に誘導する表面を持つ第2プリズムミラーとを有する誘導光学系と、
前記第1コリメータから到来する前記軸心に平行なレーザ光と、前記第2及び第3コリメータで平行光に変換された後に前記誘導光学系で前記軸心に平行な方向に誘導されて到来する各レーザ光とを、前記出力用光ファイバに集光する集光光学系とを備えるものであり、
前記誘導光学系は、前記第1コリメータから到来するレーザ光の光軸と、前記第2及び第3コリメータで平行光に変換された後に当該誘導光学系で誘導された各レーザ光の光軸とを結んだ直線が正三角形となるように、且つ、当該正三角形の図心が前記軸心に一致するように、前記第2及び第3コリメータから到来するレーザ光を誘導するものであり、
前記第1及び第2プリズムミラーの各々は、前記第1コリメータから到来するレーザ光に面した平面である頂面をそれぞれ有し、当該第1及び第2プリズムミラーの各頂面が前記第1コリメータから到来するレーザ光に面した側でなす角度が120°に設定されている
ことを特徴とする。
【0057】
第1項に記載のレーザ装置によれば、3つのレーザ光源から出射して合波光学系によって合波されたレーザ光が出力用光ファイバの軸心に効率よく入射するため、ファイバ結合効率が一層高められる。
【0058】
また、第1項に記載のレーザ装置によれば、第1レーザ光源から出射するレーザ光が、2つのプリズムミラーの傾斜面によって挟まれる角度120°の空間を2つのプリズムミラーに干渉することなく直進することができる。
【0059】
(第2項)
第2項に記載のレーザ装置において、前記第1、第2及び第3レーザ光源はそれぞれ、複数のレーザ素子と、当該複数のレーザ素子から出射したレーザ光を整形する整形光学系と、当該整形光学系の後段に設けられた光源用光ファイバとを有することを特徴とする。
【0060】
第2項に記載のレーザ装置によれば、第1、第2及び第3レーザ光源は、レーザ素子と整形光学系及び光源用光ファイバによって構成されて指向性の高いレーザ光をそれぞれ出射する。
【0061】
(第3項)第3項に記載のレーザ装置は、
前記第2コリメータから到来するレーザ光を反射させ、前記第1プリズムミラーに誘導する第1反射光学系と、前記第3コリメータから到来するレーザ光を反射させ、前記第2プリズムミラーに誘導する第2反射光学系とをさらに備えたことを特徴とする。
【0062】
第3項に記載のレーザ装置によれば、第2及び第3コリメータによって平行化されたレーザ光を反射光学系によって反射させて誘導光学系へと導くことができる。
【0063】
(第4項)第4項に記載の誘導光学系は、
第1レーザ光と、当該第1レーザ光の光軸と平行でない光軸をもつ第2及び第3レーザ光とが、それぞれ所定の方向から入射される誘導光学系であって、
前記第2レーザ光の光軸が前記第1レーザ光の光軸と平行な方向となるように当該第2レーザ光を誘導する表面を持つ第1プリズムミラーと、前記第3レーザ光の光軸が前記第1レーザ光の光軸と平行な方向となるように当該第3レーザ光を誘導する表面を持つ第2プリズムミラーとを有し、
前記誘導光学系は、前記第1レーザ光の光軸と、前記第1及び第2プリズムミラーで誘導された前記第2及び第3レーザ光の光軸とを結んだ直線が正三角形となるように、前記第2及び第3レーザ光を誘導するものであり、
前記第1及び第2プリズムミラーの各々は、前記第1レーザ光に面した平面である頂面をそれぞれ有し、当該第1及び第2プリズムミラーの各頂面が前記第1レーザ光に面した側でなす角度が120°に設定されている。
【0064】
第4項に記載の誘導光学系によれば、3つのレーザ光が出力用光ファイバの軸心に効率よく入射するため、ファイバ結合効率が一層高められる。
【0065】
また、第4項に記載の誘導光学系によれば、第1レーザ光が2つのプリズムミラーの傾斜面によって挟まれる角度120°の空間を2つのプリズムミラーに干渉することなく直進することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 レーザ装置
2 第1コリメータ
3 第2コリメータ
4 第3コリメータ
5 プリズムミラー(第1誘導光学系)
6 プリズムミラー(第2誘導光学系)
5a,5b プリズムミラーの反射面
5b,6b プリズムミラーの頂面
7 集光レンズ(集光光学系)
8,9 反射ミラー(反射光学系)
10 ベース
13 平行プレート
14 傾斜プレート
24 レンズホルダ
CW 合波光学系
F 出力用光ファイバ
F1~F3 光源用光ファイバ
G 正三角形の図心
LB,LB1~LB3 レーザ光
L1~L3 平行光
O1~O3 平行光の軸心
R1 第1レーザ光源
R2 第2レーザ光源
R3 第3レーザ光源
S1~S3 ベースの基準面