(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】コーティング組成物、基材上での親水性コーティングの製造方法、及びそのようなコーティングを含む医療用デバイス
(51)【国際特許分類】
C09D 175/14 20060101AFI20250909BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20250909BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20250909BHJP
C08F 299/06 20060101ALI20250909BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20250909BHJP
C08F 271/00 20060101ALI20250909BHJP
【FI】
C09D175/14
C09D7/63
C09D7/65
C08F299/06
C08F2/44 C
C08F271/00
(21)【出願番号】P 2022565782
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 EP2021062541
(87)【国際公開番号】W WO2021233743
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2024-05-07
(32)【優先日】2020-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM IP ASSETS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ベルト, ヨハネス, ヴィルヘルムス
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-197949(JP,A)
【文献】特開2011-236334(JP,A)
【文献】特表2010-503436(JP,A)
【文献】特表2009-518479(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073522(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/06
C09D 7/63
C09D 7/65
C08F 299/06
C08F 2/44
C08F 271/00
C09D 175/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性親水性コーティング組成物であって、
(a)式[1]の重合性化合物(式中、Gは疎水性ヒドロキシ官能性オリゴマーの残基であり;nは1~10であり、各R
1は、独立して、
2,4-トルエン、2,6-トルエン、ヘキサン、ブタン、シクロヘキサン又はイソホロンの残基であり、且つZは、
不飽和重合性基を有する部分である)と;
【化1】
(b)親水性ポリマーと;
(c)光開始剤と;
(d)任意選択的に1種又は複数種のさらなる成分と;
(e)成分(a)~(c)
を溶解することができる溶媒と
を含み;且つ
前記式[1]の重合性化合物が、前記
コーティング組成物の全乾燥質量に基づき、2.0~30質量%の量で存在する
、コーティング組成物。
【請求項2】
nが1.8~
3である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
nが1.8~2.2である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
Gが、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリレート、及びポリオレフィン、又はそれらのいずれかの組合せからなる群から選択される
疎水性ヒドロキシ官能
性オリゴマーの残基である、請求項1
~3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記
疎水性ヒドロキシ官能性オリゴマーがポリエーテ
ルである、請求項1~
4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記疎水性ヒドロキシ官能性オリゴマーが、ポリテトラヒドロフランジオール又はポリ(テトラヒドロフラン-co-メチルテトラヒドロフラン)ジオールである、請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記
不飽和重合性基が
、(メタ)アクリル系
基である、請求項1~
6のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
Zが、式[2]の(メタ)アクリル部分(式中、各R
2は独立して、C
1~C
10アルキルであり、且つ各R
3は独立して、水素又はメチルである)である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【化2】
【請求項9】
前記式[1]の重合性化合物が、
(i)テトラヒドロフランをベースとするか、又はテトラヒドロフラン及びメチルテトラヒドロフランを含むポリエーテルジオールと、
(ii)トルエンジイソシアネートと、
(iii)ヒドロキシエチルアクリレートとの反応生成物である、請求項1~
8のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記親水性ポリマーが非イオン性ポリマーを含
む、請求項1~
9のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドン又はポリエチレンオキシドである、請求項1~10のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
前記光開始剤がノリッシュII型
光開始剤を含
む、請求項1~
11のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
前記コーティング組成物が、ノリッシュII型光開始剤及びノリッシュI型光開始剤の混合物を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項14】
界面活性剤、酸化防止剤、浸透圧増加化合物、及び/又は親水性重合性化合物をさらに含む、請求項1~
13のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項15】
前記
コーティング組成物が40~99.5質量%の溶媒を含み、前記溶媒が
、水と混和する極性有機液体である、請求項1~
14のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項16】
前記コーティング組成物が40~99.5質量%の溶媒を含み、前記溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はテトラヒドロフランを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項17】
前記
コーティング組成物の全乾燥質量に基づき、
・2.0~30質量%の成分(a);
・97.8~30質量%の成分(b);
・0.2~5質量%の成分(c);及び
・0~35質量%の成分(d)
を含み、且つ(a)~(d)の合計は100%である、請求項1~
16のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項18】
親水性及び任意選択的に潤滑性のコーティングを物品に適用する方法であって、
・請求項1~
17のいずれか一項に記載のコーティング組成物を、前記物品の表面の少なくとも一部に適用するステップと;
・前記適用されたコーティング組成物から溶媒を少なくとも部分的に除去するステップと;
・溶媒除去の間又は後に放射線源に曝露することによって、前記適用されたコーティング組成物を硬化させ、親水性コーティングを形成するステップと;
・任意選択的に前記親水性コーティングを湿潤剤と接触させて、潤滑性コーティングを形成するステップと
を含む方法。
【請求項19】
その表面の少なくとも一部に、単層の親水性及び任意選択的に潤滑性のコーティングを有する
、医療用デバイス又はその構成部品
であって、
前記コーティングは、請求項1~17のいずれか一項に記載のコーティング組成物の硬化物である、医療用デバイス又はその構成部品。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[分野]
開示された発明は、湿潤剤を用いて湿潤した時に潤滑性になる親水性コーティングを基材上で製造するための光硬化性コーティング組成物に関する。また本発明は、医療用デバイス又はその部品の表面のような基材上で親水性コーティング又は潤滑性コーティングを製造する方法、及び血管内又は泌尿器系での応用のためのカテーテルのようなコーティングされた部品又は医療用デバイスにも関する。
【0002】
[背景]
ガイドワイヤ、イントロデューサ、カテーテル及び間欠カテーテルのような血管内デバイスなどの医療用デバイスは、患者に不快感を与えるか、或いは患者の軟組織を刺激又は損傷することなく、その機能を果たすために、体内の曲がりくねった経路に挿入され、続いてそこから除去されるものである。この理由のために、そのようなデバイスの表面は、潤滑性であるか、又は滑らかであることが必要である。潤滑性の表面特性は、患者の血管系内での操作を容易にし、軟組織の損傷を最小限に抑えるだけでなく、体内からの液体の排出を容易にし得る。したがって、そのような医療用デバイスは、しばしば親水性表面層又はコーティングを含有する。このコーティングは、例えば、患者の体内にデバイスを挿入する前に一定時間水性湿潤液を適用することによって、又は挿入時に体液と接触することによって湿潤及び吸水する時に潤滑性を帯び、低摩擦特性を獲得する。
【0003】
医療用デバイスでの使用のためのそのような(潤滑性)親水性コーティングの関連特性としては、生体適合性及び湿潤状態での低摩擦特性に加えて、使用中の粒子状物質の放出を防止するために、抽出物の量が少ないこと、表面への接着性が良好であること、そして高い耐久性又は耐摩耗性があることが挙げられる。
【0004】
ほとんどの親水性コーティングは、架橋された水溶性ポリマーをベースにしているが、このポリマーは比較的低い架橋密度を持ち、供給源への暴露時に容易に水を取り込み、時には乾燥状態の厚さの数倍にも膨潤してヒドロゲル様の層を形成する。ガイドワイヤ及びカテーテルのような多くの医療用デバイスは、金属、又はポリオレフィン、PVC、ポリアミド12若しくはポリアミドブロックコポリマー及びポリウレタンなどの可撓性のプラスチック材料から製造されている。一般に、そのような基材表面への親水性ポリマーの接着性は、医療用デバイス上でのコーティングとして使用するための要件を満たすには不十分である。したがって、基材によっては、基材と親水性コーティングとの間の接着レベルを向上させるために、例えばプラズマ若しくはコロナ処理を用いた表面の化学修飾のような前処理、及び/又はプライマー若しくはベースコート層の適用が必要となる場合がある。
【0005】
国際公開第2007/065720A2号パンフレットには、重合性基を有するポリエーテル及び光開始剤を含む非水性プライマー組成物、続いて非イオン性及びイオン性の親水性ポリマー並びに光開始剤を含む水性トップコート組成物をそれぞれ適用し、そしてUV硬化することによって製造されたプライマー層及びトップコート層を含む、尿道カテーテル用の2層親水性コーティングが記載されている。
【0006】
国際公開第2008/031596A1号パンフレットには、アクリルアミド官能性重合性化合物、非イオン性親水性ポリマー及び任意選択的にイオン性親水性ポリマー、並びに光開始剤を含む光硬化性親水性コーティング組成物が開示されている。この組成物は、例えば国際公開第2006/056482A1号パンフレット又は国際公開第2007/065720A2号パンフレットに記載の組成物を用いてプライマー層を適用し、医療用デバイスのポリマー表面上に2層親水性コーティングを形成するために使用される。
【0007】
欧州特許出願公開第0591091A1号明細書は、基材上に耐久性のある単層の潤滑性コーティングをもたらすであろうコーティング組成物を提案している。この組成物は、親水性ポリマー及び任意選択的に浸透圧増加化合物の水溶液であり、この中で水中に溶解しない重合性バインダー化合物が分散状態で存在し、接着性を向上させている。
【0008】
欧州特許出願公開第2173397A2号明細書に記載の親水性コーティング溶液は、多官能性アクリルネットワーク形成成分、親水性ポリマー及び2種の光開始剤に加えて、接着促進剤として酸官能化アクリレートを含む。この最後の化合物は、ネットワーク形成成分と共反応し、カテーテルのような基材のポリマー表面に結合するであろう。
【0009】
既知のコーティング組成物及びシステムの欠点としては、組成物、2層システムの限られた貯蔵寿命及び/又は比較的高い製造コストをもたらす長い硬化時間が含まれ得る。また、硬化したコーティングは、非常に高い浸出物又は抽出物の濃度を、及び不十分な機械的堅牢性を、特に水で湿潤及び膨潤した後に示し得る。文献には様々な改良が提案又記載されているが、様々な基材上で、好ましくは化学表面前処理若しくはプライマーコーティングの使用が省略され得るほどのレベルの接着性を示す親水性コーティングとして効率的に加工及び適用することができ、そして硬化したコーティングが湿潤剤との接触時に潤滑性になり、接着性及び耐久性のバランスのとれた組合せを示す、コーティング組成物の必要性が依然として存在すると思われる。
【0010】
[概要]
本開示の目的は、前記問題の少なくとも一部を克服するコーティング組成物、すなわち、貯蔵時に安定であり、基材上で単層親水性コーティングとして効率的に適用可能であり、且つ/又は湿潤時に強固な潤滑性を示すコーティングをもたらすコーティング組成物を提供することである。
【0011】
本明細書において以下に記載され、且つ特許請求の範囲において特徴付けられるような態様及び実施形態によって、基材上に親水性コーティングを製造するために適切であり、そのコーティングが湿潤剤との接触時に潤滑性になり、その組成物が、使用時に良好な接着性、潤滑性及び耐久性を示しながらも、種々の基材上で単層親水性コーティングを形成するために効率的に適用及び硬化されることが可能である、光硬化性コーティング組成物が提供される。したがって、本発明の一態様は、特許請求の範囲に記載のコーティング組成物、より具体的には、湿潤時に潤滑性となる親水性コーティングの製造のために適切である光硬化性コーティング組成物であって、
(a)式[1]の重合性化合物(式中、Gは疎水性ヒドロキシ官能性オリゴマーの残基であり;nは1~10であり、各R
1は、独立して、C
6~C
20脂肪族、環状脂肪族、又は芳香族炭化水素化合物の残基であり、且つZは、重合性基を有する部分である)と;
【化1】
(b)親水性ポリマーと;
(c)光開始剤と;
(d)任意選択的に1種又は複数種のさらなる成分と;
(e)成分(a)~(c)用の溶媒と
を含み;且つ
式[1]の重合性化合物が、組成物の全乾燥質量に基づき、2.0~30質量%の量で存在する組成物である。
【0012】
驚くべきことに、そのようなコーティング組成物から、脂肪族ポリアミド、ポリアミドブロックコポリマー、ポリウレタン及びポリ塩化ビニルなどの様々なポリマー基材の表面上に、典型的には接着促進プライマー層を設ける必要も、又は基材の表面を化学的に変性する必要もなく、良好に接着する単層親水性コーティングを製造することができることが見出された。コーティング組成物は安定であり、使用前に数年間貯蔵することができ、そして比較的短いサイクルタイムで従来のコーティング装置を使用して基材に効率的に適用することができる。水性湿潤剤などによる湿潤時に、コーティングは優れた潤滑性及び耐久性を示す。
【0013】
欧州特許出願公開第0591091A1号明細書は、基材上に単層親水性コーティングを製造するためのコーティング組成物を開示しているが、疎水性重合性バインダー化合物が他の成分の水溶液中に分散し、且つ溶解されない場合にのみ、十分な接着性を有するコーティングを得ることが可能であることも教示されている。そのような組成物の欠点は、安定性及び貯蔵寿命が制限されていることであり得る。
【0014】
米国特許出願公開第2018/0312697A1号明細書において、重合性基を有するアクリルポリマー、複数の重合性基を有する化合物、2~4個の重合性基を有するウレタン(メタ)アクリレート、及び光重合開始剤を含有する放射線硬化性コーティング組成物が記載されている。この組成物から硬化して高架橋となったコーティング層を製造することができ、これは外観が優れ、そして擦傷などの表面ダメージからの修復性を示す。そのようなコーティングは、潤滑性を示すヒドロゲルになるために必要な、有意な量の水を吸収する能力を欠いている。適用されるウレタン(メタ)アクリレート化合物は、疎水性ヒドロキシ官能性オリゴマーの残基を含有しない。
【0015】
別の態様において、本発明は、本発明によるコーティング組成物の層を硬化させることによって得られる親水性コーティングに関する。
【0016】
本発明のさらなる態様は、
・本発明によるコーティング組成物を物品の表面の少なくとも一部に適用するステップと;
・適用されたコーティング組成物から溶媒を少なくとも部分的に除去するステップと;
・溶媒除去の間又は後にUV光に曝露することによって、適用されたコーティング組成物を硬化させ、親水性コーティングを形成するステップと;
・任意選択的に、親水性コーティングを湿潤流体と接触させて、潤滑性コーティングを形成するステップと
を含む、物品に親水性及び任意選択的に潤滑性のコーティングを適用する方法に関する。
【0017】
本発明の別の態様は、その表面の少なくとも一部に単層親水性コーティング及び任意選択的に潤滑性コーティングを有する、本発明の方法によって得られる医療用デバイスのような物品に関する。そのようなコーティングを有することから利益を得ることができる物品の例としては、心臓血管及び神経血管デバイスのような血管内デバイス;尿路又は泌尿器系の治療のための泌尿器系デバイス;並びに眼科で用いるためのデバイス;例えば、カテーテル、ガイドワイヤ、及び例えば人工心臓弁又は眼内レンズ用の送達デバイスが挙げられる。
【0018】
本明細書は、一般に、ポリエーテルジオールベースの重合性化合物に関連し、それを例示するが、イソシアネート基と反応することが可能である末端基を有する他の疎水性、オリゴマー性又はポリマー性化合物を使用して、コーティング組成物での使用に適切である重合性化合物を製造することも可能である。
【0019】
[実施形態の詳細な説明]
水性組成物のような湿潤剤との接触時に潤滑性になるか又は滑らかになることが可能であるコーティング又は表面層は、本明細書中、親水性コーティングと記載され、湿潤後に得られるそのようなコーティングは、典型的にヒドロゲルであり、潤滑性コーティングと記載される。
【0020】
本開示に関して、疎水性は、水を引き寄せることを指す親水性とは対照的に、一見して水によってはじかれている分子又は表面の物理的特性を指す。疎水性化合物は非極性である傾向があり、他の中性分子及び非極性溶媒と親和する。水分子は極性であるため、ほとんどの疎水性化合物は水への溶解度が制限されているか、又は水中で溶解しない。疎水性分子は、その構造次第で、水中でクラスター化し、液滴を形成するか、又は界面活性剤の存在下でミセル若しくは他の半秩序構造を形成し得る。
【0021】
単層コーティングは、1つのコーティング組成物から、1つ又は任意選択的に複数のコーティングステップで基材上に適用されたコーティング層を指し、例えば、プライマー及びトップコート組成物のような2つの異なるコーティング組成物から適用された2層コーティングとは対照的である。プライマーとは、特定の機能を提供するが、基材表面に直接適用された時に不十分な接着性を示す、後続のトップコートの接着性を高めるために基材表面に適用されるコーティング組成物又はアンダーコートを意味する。
【0022】
一態様によれば、本発明は、
(a)式[1]の重合性化合物
(式中、Gは疎水性ヒドロキシ官能性オリゴマーの残基であり;nは1~10であり、各R
1は、独立して、C
6~C
20脂肪族、環状脂肪族、又は芳香族炭化水素化合物の残基であり、且つZは、重合性基を有する部分である)と;
【化2】
(b)親水性ポリマーと;
(c)光開始剤と;
(d)任意選択的に1種又は複数種のさらなる成分と;
(e)成分(a)~(c)用の溶媒と
を含み;
式[1]の重合性化合物が、組成物の全乾燥質量に基づき、2.0~30質量%の量で存在する、親水性コーティングの製造に適切である光硬化性コーティング組成物を提供する。
【0023】
本発明のコーティング組成物は光硬化性であり、このことは、電磁放射線に曝露することによって組成物を反応又は架橋させて、非水溶性であるが水膨潤性である親水性ポリマーネットワークを形成することができることを意味する。前記放射線の強度及び波長は、存在する光開始剤及び重合性又は反応性成分の種類及び量、並びに所望の架橋密度次第で選択することができる。特に、スペクトルのUV、可視又はIR部分の適切な波長が使用され得;典型的には、硬化を開始させるためにUV光源が使用される。Eビーム及びガンマ線のような高エネルギー放射線も、コーティングの硬化のために適用されてよい。当業者は、自身の知識、本開示、及び任意選択的にいくつかの実験に基づいて、適切な放射線源及び条件を選択することができるであろう。
【0024】
[式[1]の重合性化合物]
親水性コーティングを製造するためのコーティング組成物は、成分(a)とも呼ばれる式[1]の少なくとも1種の重合性化合物を含む。この組成物は、そのような重合性化合物の1種を含み得るが、例えばG、Z又はR1の1つ若しくは複数が異なる、化学的に異なる式[1]の重合性化合物の2種以上の混合物も含有し得る。さらに、重合性化合物は、1~10のような異なる数の重合性基を有する化合物などの、化学的に類似した化合物の混合物であってもよい。単一の化合物又は分子の場合、nは整数であろうが、化合物の混合物の場合、数nは、分子あたりの重合性基の数の平均値を表す(化合物の合成に使用した出発物質の種類及び量に基づいて計算することができるか、又は分析的に決定することができる)。実施形態において、組成物は、硬化したコーティングにおいて特定の架橋度をもたらすために、1より大きい、例えば少なくとも1.1の官能性nを有する式[1]の重合性化合物を含む。実施形態において、重合性化合物は多官能性であり、少なくとも1.2、1.4、1.6、1.8、1.9又は2.0の官能基nを有する。実施形態において、nは、最大で8、6、4、3又は2.5である。他の実施形態において、nは約1.8~3、又は好ましくは約1.8~2.2である。
【0025】
重合性化合物は、疎水性ヒドロキシ官能性オリゴマーの残基である基Gを含有する。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、本発明者は、G及び重合性化合物の疎水性が、おそらくウレタン(及び/又は尿素)結合の存在とともに、硬化したコーティングが基材の表面との相互作用及び接着を示すために重要な役割を果たすと仮定した。このオリゴマーは、典型的には、約200~8000g/モルの(数平均)モル質量Mnを有する。実施形態において、このオリゴマーは、少なくとも300、500又は700g/モルのモル質量Mnを有する。他の実施形態において、モル質量Mnは、最大で7000、6000、5000又は4000g/モルである。そのようなモル質量範囲は、式[1]の化合物の疎水性に影響を与え、コーティング組成物中の溶解度、基材の表面への親和性、及び硬化時の組成物の架橋度の間でのバランスを提供し得る。オリゴマーのモル質量は、例えばポリスチレン標準及び溶媒としてのTHFを用いたGPCのような既知の方法を使用して決定することができるか、又はその官能性n及び質量単位あたりのヒドロキシ末端基の数(これは例えば滴定のような化学分析によって決定することができる)から計算することができる。
【0026】
重合性化合物は、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリオレフィン、又はそれらのいずれかの組合せからなる群から選択され得るヒドロキシ官能性疎水オリゴマーの残基である基Gを含有する。実施形態において、ヒドロキシ官能性オリゴマーは、ポリエーテル、好ましくは、水に溶解しないポリエーテルである。適切なポリエーテルの例としては、ポリテトラヒドロフラン(ポリ(テトラメチレンエーテル)とも呼ばれる)、ポリ(テトラメチレンオキシド)、若しくはポリ(1,4-ブタンジオール)(典型的にはPTHFと略される);又はそのコポリマー、例えば1,4-ブタンジオール及び2-メチル-1,4-ブタンジオールをベースとするコポリエーター(テトラヒドロフランとメチルテトラヒドロフランのコポリマーとも称され、典型的にPTGLと略される)が挙げられる。実施形態において、ヒドロキシ官能性オリゴマーは、例えば、式[1]の重合性化合物の合成の間に、2つのヒドロキシル基を有するオリゴマーとジイソシアネート化合物との反応から生じる鎖延長によって、二量体又は三量体の形態で化合物中に部分的に存在することも可能である。
【0027】
実施形態において、成分(a)は、疎水性アミン官能性オリゴマーの残基である基Gを含有する重合性化合物をさらに含む。疎水性オリゴマーは官能性を有し、ヒドロキシ官能性オリゴマーについて上記したものと同等のオリゴマーの群から選択され得る。すなわち、そのような重合性化合物は尿素結合を含有し、式[1a]で表すことができる。式中、各R
1及びZは、独立して、式[1]の化合物について本明細書に記載されているのと同一であることが可能である。さらなる実施形態において、成分(a)は、式[1]及び[1a]の化合物の混合物を含むか、又はそれからなり、後者の化合物の量は、成分(a)の総量を基準として最大で80、60、40、20、10又は5質量%である。別の実施形態において、成分(a)は(実質的に)、式[1a]の化合物からなる。
【化3】
【0028】
式[1]の重合性化合物において、各R1は独立して、C6~C20脂肪族、環状脂肪族、又は芳香族炭化水素化合物の残基である。R1は、典型的に、ヒドロキシ官能性オリゴマー、ジイソシアネート化合物、及び重合性基を有する(ヒドロキシ官能性)化合物から重合性化合物を合成することによって生じたものである。実施形態において、各R1は、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート(TDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレン-1,4-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(HMDI)、又はイソホロンジイソシアネート(IPDI)からなる群から選択されるジイソシアネート化合物に由来するそのような残基である。他の実施形態において、各R1は、独立して、2,4-トルエン、2,6-トルエン、ヘキサン、ブタン、シクロヘキサン又はイソホロンの残基である。他の実施形態において、各R1は、TDI、HDI又はIPDIの残基である。
【0029】
式[1]の重合性化合物において、Zは重合性基を有する部分である。重合性基としては、放射線の影響下及び光開始剤の存在下、他の同様の基と反応して、例えばラジカル誘導付加反応を介してオリゴマー又はポリマーを形成する、当業者に既知のいずれの基も使用されてよい。光開始剤によって活性化された適切な重合性基は、コーティング組成物中に存在する親水性ポリマーと共反応して、前記ポリマー上にグラフトを形成し、且つ/又はポリマーを架橋し得る。当業者は、一般的な知識に基づいて、適切な基を選択することができるであろう。実施形態において、重合性基は不飽和基であり、オレフィン系基、スチレン系基、又は(メタ)アクリル系基から選択されてもよい。また、式[1]の重合性化合物は、異なる部分Zを有する、すなわち、異なる重合性基を有する化合物の混合物であってもよい。式[1]の重合性化合物の一部を形成する部分Zは、例えば、重合性基を有する少なくとも1つのヒドロキシ官能性化合物をR1のイソシアネート基と反応させた結果であることが可能である。
【0030】
実施形態において、式[1]の重合性化合物のZは、(メタ)アクリル系基を有する部分である。さらなる実施形態において、Zは、式[2]の(メタ)アクリル系化合物であり、各R
2は、独立して、C
1~C
10アルキルであり、且つ各R
3は、独立して、水素又はメチルである。
【化4】
【0031】
さらなる実施形態において、Zは、式[2]の部分であり、各R3は水素であり;すなわち、Zはアクリレート基を含む。他の実施形態では、各R2は、独立して、C2~C4アルキルである。実施形態において、各R2は、エチル又はプロピルである。他の実施形態では、各R2はエチルである。
【0032】
実施形態において、式[1]の重合性化合物は、一般に、少なくとも500g/モル又は少なくとも750g/モル又は1000g/モルの数平均モル質量(Mn)を有する。一般に重合性化合物は、最大で100000g/モル、又は最大で50000、25000、10000、6000、又は最大で4000g/モルのMnを有する。そのような範囲内のモル質量を有する重合性化合物は、好ましい架橋密度、すなわち、水膨潤性(潤滑性を提供するため)と機械的堅牢性(耐摩耗性及び接着性)との適切なバランスを有する硬化したコーティングをもたらし得る。
【0033】
実施形態において、式[1]の重合性化合物は、比較的極性の溶媒中に可溶性であるが、水中では溶解しないか、又は非常に限られた溶解度のみ有する。本開示に関して、これは、式[1]の重合性化合物の少なくとも1g、好ましくは少なくとも2、3、4又は5gが、25℃において、コーティング組成物の溶媒100gに溶解することができることを意味する。
【0034】
実施形態において、式[1]の重合性化合物は、ヒドロキシ官能性オリゴマーをジイソシアネートと、そして重合性基を有するヒドロキシ官能性化合物と反応させることにより製造することができる。そのような反応は当技術分野で知られており、当業者であれば、適切な手順及び条件を選択して、そのような合成を行うことができるであろう。例えば、ヒドロキシ官能性オリゴマーを、ヒドロキシ基に対するイソシアネートのモル比が2のジイソシアネートと最初に反応させ、続いて、残りのイソシアネート基を、重合性基を有するヒドロキシ官能性化合物と反応させてもよい。オリゴマーの統計的な鎖延長が望まれない場合、モル過剰のジイソシアネートとの反応を実行してもよく、この過剰分は、前記重合性基を有する化合物と反応させる前に、例えば蒸留によって除去することが可能である。例示的な実施形態において、式[1]による重合性化合物は、テトラヒドロフランをベースとするか、又はテトラヒドロフラン及びメチルテトラヒドロフランをベースとするコポリエーテルジオール、トルエンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートの反応生成物である。
【0035】
湿潤時に潤滑性になることができる親水性コーティングの製造に適切な光硬化性コーティング組成物は、式[1]の重合性化合物を含み、この化合物は、組成物の全乾燥質量に基づいて;すなわち、溶媒成分e)を除く成分a)、b)、c)及びd)の質量の合計に基づいて、約2.0~30質量%の量で存在し得る。コーティング組成物の全乾燥質量に基づく量は、代替的に、組成物から得られる乾燥及び硬化したコーティングの質量に基づくものとして報告することができ、これは実質的に同一である。
【0036】
他の実施形態において、組成物中の成分(a)は、少なくとも0.5質量%という比較的低い量で存在し得るが、その場合、基板上のコーティングの満足な性能を得るために、硬化時間及び/又は光開始剤の量を増やす必要があり得る。したがって、そのような実施形態では、コーティング組成物は、組成物の全乾燥質量に基づいて、少なくとも0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.4、1.5又は1.8質量%の量の式[1]の多官能重合性化合物を含む。
【0037】
さらなる実施形態において、コーティング組成物は、式[1]の多官能性重合性化合物を、組成物の全乾燥質量に基づき、少なくとも2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5又は6.0質量%の量で含む。他の実施形態において、コーティング組成物は、組成物の全乾燥質量に基づき、最大で25、20、15、12又は10質量%の量の式[1]の多官能性重合性化合物を含む。
【0038】
[親水性ポリマー]
親水性コーティングを製造するためのコーティング組成物は、成分(b)として少なくとも1種の親水性ポリマーを含む。本明細書中、親水性ポリマーとは、水及び他の極性液体に対して親和性を示し、水中で可溶性であり得る、高モル質量の、直鎖状又は分岐状のポリマーであると理解される。そのような親水性ポリマーは、表面上の硬化したコーティング中に存在する場合であっても、水を引き寄せ、及び/又は吸収する。コーティングに親水性を与えることができる親水性ポリマーは、天然、合成又は生物由来のポリマーであり得、コポリマー、又は2種以上のそのような(コ)ポリマーの混合物であることができる。親水性ポリマーは、コーティング組成物の(一般に極性有機)溶媒中で可溶性であり、典型的には、非イオン性ポリマーである。親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドンのようなポリ(ラクタム)、ポリウレタン、(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とのコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリアミド、ポリ無水物、ポリホスファゼン、セルロース系、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース、ヘパリン、デキストラン、ポリサッカライド、例えばキトサン、ヒアルロン酸、アルギネート、ゼラチン及びキチン、ポリエステル、例えばポリラクチド、ポリグリコリド及びポリカプロラクトン、ポリペプチド、例えばコラーゲン、アルブミン、オリゴペプチド、ポリペプチド、短鎖ペプチド、タンパク質及びオリゴヌクレオチドからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーであり得る。典型的には、親水性ポリマーは、不飽和基のような重合性基を含まないが、ポリマーは、光開始剤及び/又は式[1]の重合性化合物から、又はそれによって形成される種と共反応し得る。実施形態において、親水性ポリマーは、例えばコーティング組成物を放射線に曝露することによって生成するラジカルとの反応に感受性があり、特定の架橋度がもたらされる。この架橋は、親水性ポリマーが依然として水を吸収することを可能にするが、例えば、使用の間、水性媒体に曝露される医療用デバイスの表面上に存在する時、コーティングからポリマーが抽出されることを低減するか又は防止するであろう。一般に、親水性ポリマーは、約8~5000kg/モルの範囲内のモル質量Mnを有する。実施形態において、モル質量は、約20~3000、又は200~2000kg/モルである。モル質量(Mn)は、GPC又は光散乱のような一般的な技術を使用して決定され得る。
【0039】
実施形態において、コーティング組成物中の親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)又はポリエチレンオキシドである。さらなる実施形態では、親水性ポリマーは、PVP又はそのコポリマーである。PVP及び同一クラスのポリマーについて、K値は、典型的には、そのモル質量の表示として使用される。K値は、Viscotek Y501自動相対粘度計の方法W1307、改訂5/2001によって決定可能であり;マニュアルは、www.ispcorp.com/products/hairscin/index_3.htmlで見ることができる。実施形態において、PVPは、少なくともK15に相当するモル質量を有し、又は少なくともK30若しくはK80が好ましい。さらなる実施形態において、少なくともK90及び最大でK120のPVPがコーティング組成物中に適用される。
【0040】
代替的な実施形態において、コーティング組成物は、非イオン性親水性ポリマーに加えて、高分子電解質とも呼ばれる少なくとも1つのイオン性又はイオン化可能な親水性ポリマーを任意選択的に含み得る。本明細書中、高分子電解質とは、そのモノマー単位の5~100%が、高分子電解質が適切なpHの水性媒体中にある時にイオン化可能な基;又はイオン化した基を含有する、高モル質量の直鎖状又は分岐状のポリマーであると理解される。本明細書中、イオン化可能とは、中性水溶液、すなわちpHが6から8の間の溶液中では(完全に)イオン化しないが、pHのような条件を変えることによってイオン化することができることを意味すると理解される。コーティング組成物中の高分子電解質の存在は、湿潤した親水性コーティングの潤滑性及びドライアウト時間を改善し得る。本明細書中、ドライアウト時間とは、親水性コーティングを含むデバイスが、それが貯蔵及び/又は湿潤されていた湿潤液から取り出された後、親水性コーティングが外気中で潤滑性を維持する期間として定義される。改善されたか又はより長いドライアウト時間を有する親水性コーティングは、患者の体内への挿入前、又は体内で例えば粘膜若しくは静脈と接触した時に、水を失って乾燥する傾向がより低くなる。水を失って乾燥する傾向があると、体内でデバイスを操作する間に合併症及び/又は組織の損傷を引き起こす可能性がある。適切な高分子電解質を選択する際に考慮すべき点は、例えばその生体適合性に加えて、本コーティング組成物に使用される溶媒に対して水性媒体中での溶解度及び粘性である。比較的高いモル質量の高分子電解質は、ドライアウト時間を増加させるために好ましく、またコーティングから移動する傾向が減少することを示すであろう。したがって、モル質量(Mn)は、取り扱い性及び溶解性のために、少なくとも20、50又は100kg/モル、及び1000、500又は300kg/モル未満であることが好ましい。
【0041】
高分子電解質中に存在し得るイオン化可能な(又はイオン化された)基の例は、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基、カルボキシレート基、スルフェート基、スルフィン基、スルホン基、ホスフェート基、及びホスホン基である。そのような基は、水を結合させるのに非常に有効である。また、高分子電解質は、Na+、Li+若しくはK+などのアルカリ金属イオン、又はCa2+及びMg2+などのアルカリ土類金属イオンのような金属イオンを含んでいてもよい。特に高分子電解質が第4級アミン塩、例えば第4級アンモニウム基を含む場合、アニオンが存在してもよい。そのようなアニオンは、例えば、Cl-、Br-、I-及びF-などのハロゲナイド、また、スルフェート、ニトレート、カーボネート及びホスフェートであることができる。
【0042】
適切な高分子電解質は、例えばアクリル酸のホモ及びコポリマーの塩、メタクリル酸のホモ及びコポリマーの塩、マレイン酸のホモ及びコポリマーの塩、フマル酸のホモ及びコポリマーの塩、スルホン酸基を含むモノマーのホモ及びコポリマーの塩、第4級アンモニウム塩を含むモノマーのホモ及びコポリマー、並びにこれらの混合及び/又は誘導体である。適切な高分子電解質の例は、ポリ(アクリルアミド-co-アクリル酸)塩、例えば、ポリ(アクリルアミド-co-アクリル酸)ナトリウム塩、ポリ(アクリルアミド-co-メタクリル酸)塩、例えば、ポリ(アクリルアミド-co-メタクリル酸)ナトリウム塩、ポリ(メタクリルアミド-co-アクリル酸)塩、例えば、ポリ(メタクリルアミド-co-アクリル酸)ナトリウム塩、ポリ(メタクリルアミド-co-メタクリル酸)塩、例えば、ポリ(メタクリルアミド-co-メタクリル酸)ナトリウム塩、ポリ(アクリル酸)塩、例えば、ポリ(アクリル酸)ナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸)塩、例えば、ポリ(メタクリル酸)ナトリウム塩、ポリ(アクリル酸-co-マレイン酸)塩、例えば、ポリ(アクリル酸-co-マレイン酸)ナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸-co-マレイン酸)塩、例えば、ポリ(メタクリル酸-co-マレイン酸)ナトリウム塩、ポリ(アクリルアミド-co-マレイン酸)塩、例えば、ポリ(アクリルアミド-co-マレイン酸)ナトリウム塩、ポリ(メタクリルアミド-co-マレイン酸)塩、例えば、ポリ(メタクリルアミド-co-マレイン酸)ナトリウム塩、ポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)塩、ポリ(4-スチレンスルホン酸)塩、ポリ(アクリルアミド-co-ジアルキルアンモニウムクロリド)、第4級化ポリ[ビス-(2-クロロエチル)エーテル-alt-1,3-ビス[3-(ジメチルアミノ)プロピル[ウレア]、ポリアリルアンモニウムホスフェート、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(ナトリウムトリメチレンオキシエチレンスルホン酸)、ポリ(ジメチルドデシル(2-アクリルアミドエチル)アンモニウムブロミド)、ポリ(2-Nメチルピリジニウムエチレンヨージド)、ポリビニルスルホン酸、並びにポリ(ビニル)ピリジン、ポリエチレンイミン及びポリリジンの塩である。
【0043】
本(非水性)組成物における使用に特に適切な高分子電解質は、ランダム又はブロックコポリマーであり得るコポリマー高分子電解質である。前記コポリマー高分子電解質は、少なくとも2種類の異なるモノマー単位を含むコポリマーであり、少なくとも1種類の単位がイオン化可能又はイオン化した基を含み、且つ少なくとも1種類の構成単位がイオン化可能又はイオン化した基を含まないものである。そのような共重合体高分子電解質の例は、ポリ(アクリルアミド-co-アクリル酸)塩である。
【0044】
イオン性又はイオン化可能なポリマーは、塩化ナトリウムのような低モル質量のイオン性又はイオン化可能な化合物と同様に浸透圧増加成分としても機能し得ることに留意されたい。
【0045】
コーティング組成物が高分子電解質を含む場合、その濃度は比較的低く、少なくとも親水性ポリマーの濃度より低くなる。実施形態において、コーティング組成物は高分子電解質を含み、非イオン性親水性ポリマー対高分子電解質の質量比は99:1~60:40、又は95:5~75:25である。
【0046】
コーティング組成物中の親水性ポリマーの量は、他の成分にも依存し、広く変化し得る。一般に、親水性ポリマーの量は、組成物の乾燥質量に基づき、少なくとも10、20、30、40、50、60、70又は80質量%、そして最大で97、95、93、92、91又は90質量%である。
【0047】
[光重合開始剤]
本発明の親水性コーティングを製造するためのコーティング組成物は、成分(c)として少なくとも1種の光開始剤を含む。コーティング組成物中、ノリッシュ(Norrish)I型及び/又はノリッシュII型の開始剤を適用してよい。両タイプともフリーラジカル生成光開始剤であるが、開始ラジカルを形成するプロセスによって区別される。照射時に単分子結合が開裂してラジカルを生成する化合物は、ノリッシュI型又はホモリック光開始剤と呼ばれる。ノリッシュII型光開始剤は、低モル質量化合物又はポリマーであり得る適切な相乗剤からの水素引き抜きにより、間接的にラジカルを発生させるものである。
【0048】
適切なノリッシュI型又はフリーラジカル光開始剤の例は、ベンゾイン誘導体、メチロールベンゾイン及び4-ベンゾイル-1,3-ジオキソラン誘導体、ベンジルケタール、α,α-ジアルコキシアセトフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、α-アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、アシルホスフィンスルフィド、ハロゲン化アセトフェノン誘導体などである。適切なノリッシュI型光開始剤の市販例は、Irgacure 2959(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン)、Irgacure 651(ベンジルジメチルケタール又は2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン、Ciba-Geigy)、Irgacure 184(活性成分として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、Ciba-Geigy)、Darocur 1173(活性成分として2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、Ciba-Geigy)、Irgacure 907(2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、Ciba-Geigy)、Irgacure 369(活性成分として2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、Ciba-Geigy)、Esacure KIP 150(ポリ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパン-1-オン}、Fratelli Lamberti)、Esacure KIP 100F(ポリ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパン-1-オン}及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンのブレンド、Fratelli Lamberti)、Esacure KTO 46(ポリ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパン-1-オン}、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド及びメチルベンゾフェノン誘導体のブレンド、Fratelli Lamberti)、アシルホスフィンオキシド、例えばLucirin TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、BASF)、Irgacure 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニル-ホスフィン-オキシド、Ciba-Geigy)、Irgacure 1700(ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンの25:75%ブレンド、Ciba-Geigy)などである。I型光開始剤の混合物も使用することができる。
【0049】
本発明によるコーティング組成物に使用できるノリッシュII型光開始剤の例としては、ベンゾフェノン、キサントン、ベンゾフェノンの誘導体(例えば、クロロベンゾフェノン)、ベンゾフェノン及びベンゾフェノン誘導体の置換ベンゾフェノンブレンド(例えば、Photocure 81、4-メチルベンゾフェノン及びベンゾフェノンの50/50ブレンド)、ミヒラーズケトン(Michler’s Ketone)、エチルミヒラーズケトン(Ethyl Michler’s Ketone)、チオキサントン及びQuantacure ITX(イソプロピルチオキサントン)のような他のキサントン誘導体、ベンジル、アントラキノン(例えば、2-エチルアントラキノン)、クマリン、又はこれらの光開始剤の化学誘導体若しくは組合が挙げられる。さらなる例としては、2-ベンゾイル安息香酸、3-ベンゾイル安息香酸、4-ベンゾイル安息香酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4-ベンゾイル-N,N,N,-トリメチルベンゼン-メタミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(4-ベンゾイルフェノキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサントン-2-イルオキシ)-N,N,N,N-トリメチル-1-プロパナンアミニウムクロリド、チオキサントン-3-カルボン酸、チオキサントン-4-カルボン酸、アントラキノン2-スルホン酸、9,10-アントラキノン2,6-ジスルホン酸、アントラキノン2-スルホン酸、アントラキノン2-カルボン酸、並びにナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅及び亜鉛塩などのこれらの誘導体の塩が挙げられる。
【0050】
実施形態において、コーティング組成物は、ノリッシュII型光開始剤を含む。そのような開始剤の存在は、そのような化合物が、式[I]の重合性化合物の重合を開始することに加えて、PVPのようなポリマーの架橋を誘発することもできるため、有利であり得る。
【0051】
さらなる実施形態において、コーティング組成物は、ノリッシュI型及びノリッシュII型光開始剤の混合物を含む。混合物が適用される場合、ノリッシュI型光開始剤とノリッシュII型光開始剤との質量比は、典型的には10:1~1:10である。実施形態において、前記質量比は、7:1~1:7、又は5:1~1:5、好ましくは2:1~1:2である。
【0052】
実施形態において、コーティング組成物中の光開始剤の量は、乾燥質量に基づき、0.2~5質量%であり得る。他の実施形態において、コーティング組成物中の光開始剤の量は、組成物の乾燥質量に基づき、少なくとも0.3、0.4又は0.5質量%、及び最大で4.5、4.0、3.5又は3.0質量%である。
【0053】
[さらなる成分]
親水性コーティングを製造するためのコーティング組成物は、上述した成分(a)~(c)に加えて、成分(d)として少なくとも1種のさらなる成分(又は添加剤)を任意選択的に含み得る。さらなる成分の例としては、親水性重合性化合物(したがって、成分(a)とは異なる);低モル質量の浸透圧増加成分、例えば尿素、グリセロール、又は塩化ナトリウムのようなイオン性若しくはイオン化性化合物などが挙げられる。他の例としては、界面活性剤;酸化防止剤;ラジカル安定剤;UV吸収剤;光安定剤;熱重合防止剤;(シラン)カップリング剤;コーティング表面改良剤;レベリング剤;着色剤、例えば顔料若しくは染料;保存剤;可塑剤;潤滑剤;フィラー;湿潤性改良剤;又は連鎖移動剤のような1種又は複数種の慣用の添加剤が挙げられる。そのような添加剤化合物のほとんどは、典型的には、コーティング組成物の全乾燥質量に基づき、0.01~3質量%のような比較的低い濃度で適用される。
【0054】
実施形態において、コーティング組成物は、成分(d)として界面活性剤を含む。界面活性剤は、例えば、基材の表面上におけるコーティング組成物の広がり、及び/又は適用され硬化したコーティングの表面特性を改善し得る。一般に、界面活性剤は、親水性又は水溶性向上官能基に結合した疎水性部分、通常は長鎖アルキルから構成される表面活性剤である。界面活性剤は、(水性媒体中で解離した後)分子の親水性部分に存在する電荷次第で、イオン性界面活性剤、例えばアニオン性又はカチオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤に分類することができる。イオン性界面活性剤の例としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム、ビス(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム塩、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、ラウリルジメチルアミン-オキシド(LDAO)、N-ラウリルサルコシンナトリウム塩及びデオキシコール酸ナトリウム(DOC)が挙げられる。非イオン性界面活性剤の例としては、アルキルポリグルコシド、例えば、Triton(商標)BG-10 Surfactant及びTriton CG-110 Surfactant、分岐状第2級アルコールエトキシレート、例えば、Tergitol(商標)TMNシリーズ、エチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマー、例えば、Tergitol Lシリーズ及びTergitol XD、XH及びXJ Surfactant、ノニルフェノールエトキシレート、例えば、Tergitol NPシリーズ、オクチルフェノールエトキシレート、例えば、Triton Xシリーズ、第2級アルコールエトキシレート、例えば、Tergitol 15-Sシリーズ、並びに特殊アルコキシレート、例えば、Triton CA Surfactant、Triton N-57 Surfactant、Triton X-207 Surfactant、Tween 80(ポリエチレングリコールソルビタンモノオレエート、約80のエチレンオキシド単位を有する)、及びTween 20(ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート;約20のエチレンオキシド単位を有する)が含まれる。使用される場合、界面活性剤は、典型的には比較的低い濃度、例えば乾燥コーティングの全質量に基づき0.1~2質量%で適用される。
【0055】
実施形態において、コーティング組成物はまた、成分(d)として、式[1]の重合性化合物とは異なる、より親水性の性質を有する重合性化合物のような1種又は複数種のさらなる重合性化合物も含む。この化合物は、低モル質量であっても、又はオリゴマーであってもよく、オレフィン系、スチレン系又は(メタ)アクリル系不飽和基のような重合性基を平均1個又は複数個有していてもよい。適切な例としては、しばしば架橋性モノマーと呼ばれる2個以上の重合性基を有する多官能性化合物が挙げられる。そのような化合物は当業者には周知であり、硬化されたコーティングの架橋密度を増加及び/又は制御するために添加され得る。例として、ジメタクリレート、ジアクリレート、又はジアクリルアミドのような様々な市販の架橋剤が挙げられる。他の例としては、ポリ(エチレンオキシド)ジアクリレート(PEG-DA)又はポリ(エチレンオキシド)ジアクリルアミド(PEG-DAA)のようなオリゴマー性化合物が挙げられる。そのような化合物がコーティング組成物中に存在する場合、それらの濃度は、少なくとも0.1、1、2又は3質量%、最大で30、25、20、15、10又は5質量%であり得る。他の実施形態において、そのような親水性重合性化合物の濃度は、式[1]の疎水性重合性化合物の濃度よりも低く、例えば、疎水性重合性化合物の質量に対して最大で80、60、40、20又は10質量%である。
【0056】
実施形態において、成分(d)は溶媒中で可溶性であり、コーティング組成物中に溶解される。当業者は、成分(d)の種類次第で、コーティング組成物からのコーティング層の形成及び硬化に悪影響を及ぼさない限り、そのような成分も組成物中に分散され得ることを理解するであろう。
【0057】
[溶媒]
親水性コーティングを製造するためのコーティング組成物は、成分(e)として少なくとも1種の溶媒を含み、成分(a()~c、及びまた任意選択的に(d))は、均質に溶解させることが可能である。適切な溶媒の例は、一般に、比較的極性の有機液体である。実施形態において、溶媒は、水と少なくともある程度の範囲まで混和性である。適切な溶媒の例には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノールなどのC1~C6アルコール;アセトン;メチルエチルケトン;テトラヒドロフラン;及びこれらの混合物が含まれる。溶媒は水を含有していてもよいが、ただし、そのような混合溶媒が、組成物の少なくとも成分(a)~(c)、好ましくは全ての成分(a)~(d)を溶解することができることが条件である。さらなる実施形態において、溶媒は、メタノール、エタノール、及びイソプロパノールから選択される少なくとも1種であり、それらの混合物、又は96%エタノール(約4%の水を含む)のように、いくらかの水を含む混合物も含まれる。実施形態において、溶媒又は溶媒の混合物は、基材に適用されたコーティング組成物の層から溶媒が迅速に蒸発することができるように、比較的高い揮発性、又は例えば最大で150、130、120、110又は100℃の比較的低い沸点を有し;それによって、液体組成物の比較的迅速な固化及びコーティングの迅速な硬化が可能となり、短いサイクル時間並びに効率的及び経済的コーティングプロセスが可能となる。
【0058】
コーティング組成物は、広く様々な量の溶媒を含むことができ、これによって、種々のコーティング技術で使用するために調整可能な粘度を有する溶液を作成することが可能となる。他の実施形態において、コーティング組成物は、溶液が比較的低い粘度を有するような量の溶媒を含み、カテーテル及びガイドワイヤのような細長い物品上で、例えばディップコーティングプロセスを介して薄いコーティング層を適用することが可能である。
【0059】
実施形態において、コーティング組成物は、組成物の全量に基づき、40~99.5質量%の溶媒を含む。他の実施形態において、コーティング組成物は、少なくとも50、60、70、80、85、90質量%の溶媒、及び最大で99.0、98.5、98、97.5、97.0、96.5、96.0、95.5又は95.0質量%の溶媒を含む。
【0060】
例示的な実施形態において、光硬化性コーティング組成物は、組成物の全乾燥質量に基づいて、
・2.0~30質量%の成分(a);
・97.8~30質量%の成分(b);
・0.2~5質量%の成分(c);及び
・0~35質量%の成分(d)
を含み、且つ(a)~(d)の合計は100%である。
【0061】
他の例示的な実施形態において、光硬化性コーティング組成物は、組成物の全乾燥質量に基づいて、
・3.5~30質量%の成分(a);
・96.3~30質量%の成分(b);
・0.2~5質量%の成分(c);及び
・0~35質量%の成分(d)
を含み、且つ(a)~(d)の合計は100%である。
【0062】
他の実施形態では、光硬化性コーティング組成物は、組成物の全乾燥質量に基づいて、4~25質量%の成分(a);95.2~46質量%の成分(b);0.3~4質量%の成分(c);及び0.5~25質量%の成分(d)を含み;且つ(a)~(d)の合計は100%である。
【0063】
さらなる実施形態において、光硬化性コーティング組成物は、組成物の全乾燥質量に基づいて、5~20質量%の成分(a);93.6~46質量%の成分(b);0.4~3.5質量%の成分(c);及び1~20質量%の成分(d)を含み;且つ(a)~(d)の合計は100%である。
【0064】
他の実施形態において、光硬化性コーティング組成物は、組成物の全乾燥質量に基づいて、6~12質量%の成分(a);91.5~75質量%の成分(b);0.5~3質量%の成分(c);及び2~10質量%の成分(d)を含み;且つ(a)~(d)の合計は100%である。
【0065】
例示的な実施形態において、光硬化性コーティング組成物は、実験項で示されるように25℃においてUbbelohde粘度計を用いて決定される、約5~200mm2/s(又はcSt;センチストーク)の動粘度を有する。コーティング組成物の粘度は、基材表面に適用されるコーティング層の厚さに影響を与えるために変動され得る変数の1つである。カテーテルのような血管用途の場合、比較的薄い親水性コーティング層が好まれ得る。したがって、実施形態において、コーティング組成物は、約5~50mm2/s;好ましくは少なくとも6、8又は10、最大で40、35、30又は25mm2/sの動粘度を有する。例えば間欠カテーテル又はフォーリー(Foley)カテーテルの場合のように、幾分厚い親水性コーティング層が望まれる場合、コーティング組成物は、50~200mm2/s;好ましくは少なくとも60、70、80、90又は100mm2/s、最大で450、400、350、300又は250mm2/sの動粘度を有する。コーティング組成物は、典型的には、当技術分野で公知の方法、例えば、温和な条件下で選択された溶媒に全ての成分を溶解させることによって調製される。
【0066】
別の態様において、本発明は、本発明によるコーティング組成物の層を乾燥及び硬化させることによって得られる親水性コーティングに関する。
【0067】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるコーティング組成物の層を乾燥及び硬化させ、その後、コーティングを湿潤剤と接触させることによって得られる潤滑性の親水性コーティングに関する。
【0068】
湿潤剤は、典型的には水を含む液体組成物として定義され、これは、例えば、コーティングが湿潤剤の1種又は複数種の成分を特定量吸収し、コーティングの潤滑性を増大させるように、基材上のコーティングの表面を接触させることによって、親水性コーティングを湿潤させるために使用される。当技術分野では、油ベースの湿潤剤及び水ベースの湿潤剤の両方が記載されている。実施形態において、本発明の親水性コーティングを湿潤させるために、水ベース又は水性湿潤剤が適用される。典型的には、そのような水性湿潤剤は、水に加えて、当該技術分野で公知の1種又は複数種の他の成分;表面張力を下げ、且つコーティング表面上での湿潤剤の広がりを容易にする化合物、例えば界面活性剤、又は高級アルコール若しくはグリセロールエステルのような水に可溶な他の有機化合物;ビタミンEなどの酸化防止剤のような湿潤したコーティングを安定させる化合物;塩又は尿素のような湿潤した親水性コーティング中の水をより良好に保持するのに役立つ化合物;有機又は無機緩衝剤のようなpHを制御する化合物;及び/又は抗生性若しくは抗菌性化合物を含有してもよい。状況に応じて、当業者は、一般的な知識及び任意選択的にいくつかの日常的な実験に基づいて、適切な組成の湿潤剤を選択することができるであろう。
【0069】
本発明のさらなる態様は、
・物品の表面の少なくとも一部に、本明細書中で上記されたような本発明によるコーティング組成物を適用するステップと;
・適用されたコーティング組成物から溶媒を少なくとも部分的に除去するステップと;
・溶媒除去の間又は後にUV光に曝露することによって、適用されたコーティング組成物を硬化させ、親水性コーティングを形成するステップと;
・任意選択的に、親水性コーティングを湿潤剤と接触させて、潤滑性コーティングを形成するステップと
を含む、物品に親水性及び任意選択的に潤滑性のコーティングを適用する方法に関する。
【0070】
この方法において、コーティング組成物は、物品の種類次第で、ディップコーティング、スプレーコーティング、ウォッシュコーティング、蒸着、又はブラシ若しくはローラーの使用によって、当該技術分野において既知の技術を使用して表面に適用され得る。ガイドワイヤ及びカテーテルのような細長く比較的薄い物品に関しては、ディップコーティングが好ましい適用技術であり得る。物品は、フィルム、シート、ロッド、チューブ、規則的又は不規則的な形状の成形部品、繊維、及び布を含む、様々な形状を有し得;そして多孔質、非多孔質、平滑、粗い、均一又は不均一表面のように異なる材料から製造され、そして異なる質感を有する表面を有することができる。ほとんどの場合、好ましくはクリーニングされているが、プライマーコーティングの化学的前処理を必要とせずに前記表面に直接適用できることは、本発明コーティング組成物の利点である。したがって、本プロセスは、典型的には、本発明のコーティング組成物を適用する前に、コーティングされる表面に化学的に前処理を行うステップ、又はプライマー組成物を適用するステップを含まない。
【0071】
適用されたコーティング組成物の層の厚さ、並びに乾燥及び硬化後の親水性コーティングの厚さは、親水性コーティング配合物の浸漬時間、引き上げ速度、又は粘度のようなコーティングパラメータ及びコーティングステップの数を変更することによって制御され得る。典型的には、物品の表面上の乾燥親水性コーティングの厚さは0.1~300μm、好ましくは少なくとも0.2、0.3、0.4、0.5μm、さらに好ましくは最大で200、100、50、40、30、20又は15μmの範囲である。
【0072】
本方法において、光硬化のステップは、コーティング中の重合性化合物を実質的に反応させるために十分な時間で、物品をUVランプのような適切な放射線源に暴露することを含む。当業者は、光開始剤の種類に応じて、また一般的な知識及びいくつかの実験に基づいて、放射線の強度及び波長、並びに暴露時間などの適切な条件を選択することができるであろう。一般に、暴露又は硬化時間は、使用する放射線源の種類とエネルギーに応じて、約5、10、20から約50、100、250又は500秒までである。
【0073】
親水性コーティングを湿潤剤と接触させて潤滑性コーティングを形成する任意選択的なステップにおいて、湿潤剤は、そのような目的のために当該技術分野で知られているような組成物であってよい。実施形態において、湿潤剤は、本明細書中で上記されたような水性湿潤剤である。
【0074】
本発明の別の態様は、その表面の少なくとも一部に、単層の、親水性、任意選択的に潤滑性のコーティングを有する医療用デバイスのような、本発明の方法によって得られる物品に関する。
【0075】
実施形態において、前記医療用デバイスは、単層の親水性コーティングを有し、このコーティングは、湿潤後、Harland Friction Tester FTS 6000を用いた実験項に記載の方法によって平均摩擦として決定される、最大で15gの潤滑性を示す。他の実施形態において、医療用デバイスは単層の親水性コーティングを有し、このコーティングは、湿潤後、最大で14、13、12、11、10、9、8又は7gの潤滑性を示す。
【0076】
本発明によるそのようなコーティングを有することから利益を得ることができる物品の例には、診断、治療及び実験的なヒト医学、獣医学、並びに農業分野を含む、生細胞及び生体系の研究において使用される基材が含まれる。他の物品としては、診断及び/又は治療目的の医療用デバイス;心臓血管デバイス、神経血管デバイス、末梢血管デバイス、尿路で使用するためのデバイス、及び眼科、整形外科、外科で使用するためのデバイスなどが挙げられる。例としては、カテーテル、ガイドワイヤ、ステント、例えば人工心臓弁用の送達デバイス、又は眼内レンズ、コンタクトレンズ、埋め込み型デバイス、体外デバイス、並びに工具及び器具が挙げられる。表面の少なくとも一部に本発明の親水性及び任意選択的に潤滑性のコーティングを適用することから特に利益を得る物品には、間欠カテーテル、バルーンカテーテル、PTCAカテーテル、ステント送達カテーテル、導入器シース、ガイドワイヤ、ステント、注射器、金属及びプラスチックインプラント、コンタクトレンズ及び医療チューブなどの医療用デバイス又は部品が含まれる。
【0077】
本発明の記載に関連する(特に以下の特許請求の範囲に関連する)用語「1つの(a)」、及び「1つの(an)」、及び「その(the)」並びに類似の使用は、本明細書中に他に示されない限り又は明らかに文脈上相反しない限り、単数及び複数の両方を含むものとして解釈される。語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」は、特に明記されない限り、非限定的な用語として解釈される(即ち「含むが、限定されない」ことを意味する)。本明細書中の値の範囲の詳述は、単に、範囲内に含まれるそれぞれの別個の値を個々に参照する簡単な方法として役立つように意図され、及びそれぞれの別個の値は、それが本明細書中に個々に記載されるように、明細書中に組み込まれる。他に請求されない限り、本明細書に提供される任意の、及び全ての実施例、又は例示的な言語(例えば、「など」又は「のような」)の使用は、単に本発明をより良好に説明するためにのみ意図されて、本発明の範囲に対する制限を課すものではない。本明細書中の言語は、本発明を実行するために本質的な任意の請求されない要素を示すものとして解釈されてはならない。
【0078】
本発明を実行するための、本発明者らに既知の最良の態様を含む本発明の好ましい実施形態が本明細書中に記載される。それらの好ましい実施形態の変形形態は、上記の記載を読むことで当業者にとって明らかになり得る。本発明者らは、当業者がそのような変形形態を適切に利用することを期待し、及び本発明者らは、本発明が、特に本明細書中に記載される様式以外でも実行されることを意図する。したがって、本発明は、適用法によって容認される、本明細書に添付された特許請求の範囲に記載される主題の全ての修正形態及び均等物を含む。特定の任意の特徴が本発明の実施形態として記載されるが、この記載は、特に別途示されるか又は物理的に不可能でない限り、これらの実施形態の全ての組み合わせを含み、特に開示するように意味される。
【0079】
上記したような本発明の様々な態様、実施形態及び実行方法は、以下、一連の例示的な実施形態によってさらに要約される。
【0080】
[1]親水性コーティングの製造のために適切である光硬化性コーティング組成物であって、
(a)式[1]の重合性化合物
(式中、Gは疎水性ヒドロキシ官能性オリゴマーの残基であり;nは1~10であり、各R
1は、独立して、C
6~C
20脂肪族、環状脂肪族、又は芳香族炭化水素化合物の残基であり、且つZは、重合性基を有する部分である)と;
【化5】
(b)親水性ポリマーと;
(c)光開始剤と;
(d)任意選択的に1種又は複数種のさらなる成分と;
(e)成分(a)~(c)用の溶媒と
の成分を含む組成物。
【0081】
[2]成分(a)が、組成物の全乾燥質量に基づき、0.5~30質量%の量で存在する、実施形態1の組成物。
【0082】
[3]成分(a)が、組成物の全乾燥質量に基づき、少なくとも0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.4、1.5又は1.8質量%の量で存在する、実施形態2の組成物。
【0083】
[4]成分(a)が、組成物の全乾燥質量に基づき、2.0~30質量%の量で存在する、実施形態1の組成物。
【0084】
[5]組成物が、式[1]の1種の重合性化合物を含む、実施形態1~4のいずれか1つの組成物。
【0085】
[6]組成物が、例えばG、Z又はR1の1つ又は複数が異なる、式[1]の2種以上の化学的に異なる重合性化合物の混合物を含む、実施形態1~4のいずれか1つの組成物。
【0086】
[7]組成物が、重合性基の数が異なる式[1]の化学的に類似した化合物の混合物を含み、好ましくはnが1~10の平均値を有する、実施形態1~4のいずれか1つの組成物。
【0087】
[8]成分(a)が、疎水性アミン官能性オリゴマーの残基である基Gを含有する重合性化合物をさらに含む、実施形態1~7のいずれか1つの組成物。
【0088】
[9]組成物が、1より大きい官能性n、好ましくは少なくとも1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、1.9又は2.0及び最大で8、6、4、3又は2.5の官能性nを有する式[1]の重合性化合物を含む、実施形態1~8のいずれか1つの組成物。
【0089】
[10]官能性nが約1.8~3、又は約1.8~2.2である、実施形態[5]の組成物。
【0090】
[11]基Gが、約200~8000g/モルの(数平均)モル質量Mnを有する少なくとも1種の疎水性オリゴマーの残基であり、好ましくはオリゴマーが少なくとも300、500又は700g/モル、最大で7000、6000、5000又は4000g/モルのモル質量Mnを有する、実施形態1~10のいずれか1つの組成物。
【0091】
[12]基Gが、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリレート及びポリオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種の疎水性オリゴマーの残基である、実施形態1~11のいずれか1つの組成物。
【0092】
[13]基Gが、ポリテトラヒドロフラン又はそのコポリマー、例えば1,4-ブタンジオール及び2-メチル-1,4-ブタンジオールをベースとするコポリマーのような、ポリエーテルオリゴマー、好ましくは水中で不溶性であるポリエーテルオリゴマーの残基である、実施形態1~12のいずれか1つの組成物。
【0093】
[14]基Gが、例えば2つのヒドロキシル基を有するオリゴマーとジイソシアネートとの反応から生じる二量体又は三量体の形態で少なくとも部分的に存在する疎水性オリゴマーの残基である、実施形態1~13のいずれか1つの組成物。
【0094】
[15]各R1が、独立して、C6~C20脂肪族、環状脂肪族又は芳香族炭化水素化合物の残基である、実施形態1~14のいずれか1つの組成物。
【0095】
[16]R1が、ヒドロキシ官能性オリゴマー、重合性基を有するヒドロキシ官能性化合物、及びジイソシアネート化合物OCN-R1-NCOから式[1]の重合性化合物を合成することによって生じた、実施形態1~15のいずれか1つの組成物。
【0096】
[17]ジイソシアネート化合物が、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート(TDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレン-1,4-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(HMDI)及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)からなる群から選択される少なくとも1種である、実施形態16の組成物。
【0097】
[18]各R1が、独立して、2,4-トルエン、2,6-トルエン、ヘキサン、ブタン、シクロヘキサン及びイソホロンからなる群から選択される少なくとも1種の残基である、実施形態1~17のいずれか1つの組成物。
【0098】
[19]各R1が、TDI、HDI又はIPDIの残基である、実施形態1~18のいずれか1つの組成物。
【0099】
[20]Zが、放射線の影響下及び光開始剤の存在下で、他の同様の基と反応して、好ましくはラジカル誘導付加反応を介してオリゴマー又はポリマーを形成する重合性基を有する、実施形態1~19のいずれか1つの組成物。
【0100】
[21]Zが、光開始剤によって活性化された時に、コーティング組成物中に存在する親水性ポリマーと共反応して、前記ポリマー上にグラフトを形成し、且つ/又は前記ポリマーを架橋する重合性基を有する、実施形態1~20のいずれか1つの組成物。
【0101】
[22]Zが、好ましくはオレフィン系基、スチレン系基及び(メタ)アクリル系基からなる群から選択される不飽和重合性基を有する、実施形態1~21のいずれか1つの組成物。
【0102】
[23]Zが(メタ)アクリル基を有する、実施形態1~22のいずれか1つの組成物。
【0103】
[24]Zが、重合性基を有するヒドロキシ官能性化合物をR1のイソシアネート基と反応させることから得られる、実施形態1~23のいずれか1つの組成物。
【0104】
[25]Zが、式[2]の(メタ)アクリル系部分であり、各R2が独立してC1~C10アルキルであり、且つ各R3が独立して水素又はメチルである、実施形態1~24のいずれか1つの組成物。
【0105】
[26]Zが、式[2]の一部分であり、各R3が水素である、実施形態25の組成物。
【0106】
[27]Zが、式[2]の一部分であり、各R2が独立してC2~C4アルキルであり、好ましくは各R2がエチル又はプロピルであるか、或いは各R2がエチルである、実施形態25又は26の組成物。
【0107】
[28]式[1]の重合性化合物が、500~100000g/モル、好ましくは少なくとも750又は1000g/モル、及び最大で50000、25000、10000、6000又は4000g/モルの数平均モル質量(Mn)を有する、実施形態1~27のいずれか1つの組成物。
【0108】
[29]式[1]の重合性化合物が、比較的極性の溶媒中で溶解するが、水中では溶解しないか、又は水中では溶解性が低い、実施形態1~28のいずれか1つの組成物。
【0109】
[30]式[1]の重合性化合物が、ヒドロキシ官能性オリゴマーと、ジイソシアネート及び重合性基を有するヒドロキシ官能性化合物とを反応させることによって製造された、実施形態1~29のいずれか1つの組成物。
【0110】
[31]式[1]の重合性化合物が、最初にヒドロキシ官能性オリゴマーを、ヒドロキシ基に対するイソシアネートのモル比が2でジイソシアネートと反応させ、続いて残りのイソシアネート基を、重合性基を有するヒドロキシ官能性化合物と反応させることによって製造された、実施形態1~30のいずれか1つの組成物。
【0111】
[32]式[1]の重合性化合物が、まずヒドロキシ官能性オリゴマーをモル過剰のジイソシアネートと反応させ、続いて非反応のジイソシアネートを除去し、次に残りのイソシアネート基を、重合性基を有するヒドロキシ官能性化合物と反応させることによって作られた、実施形態1~30のいずれか1つの組成物。
【0112】
[33]式[1]による重合性化合物が、テトラヒドロフランをベースとする、又はテトラヒドロフラン及びメチルテトラヒドロフランをベースとするコポリエーテルジオールと、トルエンジイソシアネートと、ヒドロキシエチルアクリレートとの反応生成物である、実施形態1~32のいずれか1つの組成物。
【0113】
[34]式[1]の重合性化合物が、組成物の全乾燥質量に基づいて、少なくとも2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5又は6.0質量%の量で存在する、実施形態1~33のいずれか1つの組成物。
【0114】
[35]式[1]の重合性化合物が、組成物の全乾燥質量に基づいて、最大で30、25、20、15、12又は10質量%の量で存在する、実施形態1~34のいずれか1つの組成物。
【0115】
[36]コーティング組成物が、成分(b)として少なくとも1種の親水性ポリマーを含み、このポリマーが、直鎖状又は分岐状ポリマー;ホモポリマー又はコポリマー;天然、生物由来又は合成ポリマー;これらのブレンドである、実施形態1~35のいずれか1つの組成物。
【0116】
[37]親水性ポリマーが、コーティング組成物の(有機)溶媒中で可溶性である非イオン性ポリマーである、実施形態1~36のいずれか1つの組成物。
【0117】
[38]親水性ポリマーが、ポリラクタム、ポリウレタン、(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とのコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリアミド、ポリエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、セルロース系、ヘパリン、デキストラン、ポリサッカライド、アルギネート、ゼラチン、ポリペプチド、タンパク質及びオリゴヌクレオチドからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーである、実施形態1~37のいずれか1つの組成物。
【0118】
[39]親水性ポリマーが約8~5000kg/モルのモル質量Mnを有し、好ましくはモル質量が約20~3000又は200~2000kg/モルである、実施形態1~38のいずれか1つの組成物。
【0119】
[40]親水性ポリマーがポリビニルピロリドン(PVP)又はポリエチレンオキシドである、実施形態1~39のいずれか1つの組成物。
【0120】
[41]親水性ポリマーがPVP又はそのコポリマーであり、好ましくはPVPが少なくともK15、又は少なくともK30若しくはK80に相当するモル質量を有する、実施形態1~40のいずれか1つの組成物。
【0121】
[42]親水性ポリマーがPVP又はそのコポリマーであり、少なくともK90及び最大K120に相当するモル質量を有する、実施形態1~41のいずれか1つの組成物。
【0122】
[43]コーティング組成物が、コーティング組成物の(有機)溶媒中で可溶性である高分子電解質をさらに含む、実施形態1~42のいずれか1つの組成物。
【0123】
[44]高分子電解質が、少なくとも20、50又は100kg/モル、及び1000、500又は300kg/モル未満のモル質量Mnを有する、実施形態43の組成物。
【0124】
[45]高分子電解質が、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基、カルボキシレート基、スルフェート基、スルフィン基、スルホン基、ホスフェート基、及びホスホン基から選択され得るイオン化可能又はイオン化した基を有する、実施形態43~44のいずれか1つの組成物。
【0125】
[46]高分子電解質が、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンのような金属イオンを含む、実施形態43~45のいずれか1つの組成物。
【0126】
[47]高分子電解質が、ハロゲナイド、スルフェート、ニトレート、カーボネート及びホスフェートのようなアニオンを含む、実施形態43~46のいずれか1つの組成物。
【0127】
[48]高分子電解質が、アクリル酸のホモ及びコポリマー、メタクリル酸のホモ及びコポリマー、マレイン酸のホモ及びコポリマー、フマル酸のホモ及びコポリマー、スルホン酸基を含むモノマーのホモ及びコポリマー、第4級アンモニウム塩を含むモノマーのホモ及びコポリマー、或いはこれらの混合物及び/若しくは誘導体の塩である、実施形態43~47のいずれか1つの組成物。
【0128】
[49]高分子電解質が、ポリ(アクリルアミド-co-アクリル酸)塩、ポリ(アクリルアミド-co-メタクリル酸)塩、ポリ(メタクリルアミド-co-アクリル酸)塩、ポリ(メタクリルアミド-co-メタクリル酸)塩、ポリ(アクリル酸)塩、ポリ(メタクリル酸)塩、ポリ(アクリル酸-co-マレイン酸)塩、ポリ(メタクリル酸-co-マレイン酸)塩、ポリ(アクリルアミド-co-マレイン酸)塩、ポリ(メタクリルアミド-co-マレイン酸)塩、ポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)塩、ポリ(4-スチレンスルホン酸)塩、ポリ(アクリルアミド-co-ジアルキルアンモニウムクロリド)、第4級化ポリ[ビス-(2-クロロエチル)エーテル-alt-1,3-ビス[3-(ジメチルアミノ)プロピル[ウレア]、ポリアリルアンモニウムホスフェート、ポリ(ジアルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(トリメチレンオキシエチレンスルホン酸ナトリウム)、ポリ(ジメチルドデシル(2-アクリルアミドエチル)アンモニウムブロミド)、ポリ(2-Nメチルピリジニウムエチレンヨージド)、ポリビスルホン酸、ポリ(ビニル)ピリジンの塩、ポリエチレンイミン塩又はポリリジン塩である、実施形態43~48のいずれか1つの組成物。
【0129】
[50]高分子電解質が、少なくとも2種類の異なるモノマー単位を含むランダム又はブロックコポリマーのようなコポリマーである、実施形態43~49のいずれか1つの組成物。
【0130】
[51]高分子電解質が、ポリ(アクリルアミド-co-アクリル酸)塩のようなイオン化可能又はイオン化された基を有するモノマーと、イオン化可能又はイオン化された基を有さないモノマーとを含むコポリマーである、実施形態43~50のいずれか1つの組成物。
【0131】
[52]高分子電解質が親水性ポリマーの濃度よりも低い濃度で存在する、実施形態43~51のいずれか1つの組成物。
【0132】
[53]非イオン性親水性ポリマーと高分子電解質との質量比が、99:1~60:40、又は95:5~75:25である、実施形態43~52のいずれか1つの組成物。
【0133】
[54]親水性ポリマーが、組成物の乾燥質量に基づいて、少なくとも10、20、30、40、50、60、70又は80質量%、及び最大で97、95、93、92、91又は90質量%の量で存在する、実施形態1~53のいずれか1つの組成物。
【0134】
[55]成分(c)が、少なくとも1種のノリッシュI型光開始剤及び/又は少なくとも1種のノリッシュII型光開始剤である、実施形態1~54のいずれか1つの組成物。
【0135】
[56]光開始剤が、ベンゾイン誘導体、メチロールベンゾイン及び4-ベンゾイル-1,3-ジオキソラン誘導体、ベンジルケタール、α,α-ジアルコキシアセトフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、α-アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、アシルホスフィンスルフィド、及びハロゲン化アセトフェノン誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のノリッシュI型光開始剤である、実施形態1~55のいずれか1つの組成物。
【0136】
[57]光開始剤が、芳香族ケトン、例えば、ベンゾフェノン、キサントン、ベンゾフェノンの誘導体(例えばクロロベンゾフェノン)、置換ベンゾフェノン、ベンゾフェノン、ベンゾフェノン誘導体のブレンド(例えばPhotocure 81、4-メチルベンゾフェノンとベンゾフェノンとの50/50ブレンド)、ミヒラーズケトン(Michler’s Ketone)、エチルミヒラーズケトン(Ethyl Michler’s Ketone)、チオキサントン、Quantacure ITX(イソプロピルチオキサントン)などのキサントン誘導体、ベンジル、アントラキノン(例えば2-エチルアントラキノン)、クマリン及びこれらの光開始剤の化学誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のノリッシュII型光開始剤である、実施形態1~56のいずれか1つの組成物。
【0137】
[58]光開始剤が、2-ベンゾイル安息香酸、3-ベンゾイル安息香酸、4-ベンゾイル安息香酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4-ベンゾイル-N,N,N,-トリメチルベンゼン-メタミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(4-ベンゾイルフェノキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパナンアミニウムクロリド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサントン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロリド、チオキサントン-3-カルボン酸、チオキサントン-4-カルボン酸、アントラキノン-2-スルホン酸、9,10-アントラキノン-2,6-ジスルホン酸、アントラキノン-2-スルホン酸、アントラキノン-2-カルボン酸、及びこれらの誘導体の塩からなる群から選択される少なくとも1種のノリッシュII型光開始剤である、実施形態1~57のいずれか1つの組成物。
【0138】
[59]コーティング組成物が、少なくともノリッシュII型光開始剤を含む、実施形態1~58のいずれか1つの組成物。
【0139】
[60]コーティング組成物が、ノリッシュII型光開始剤とノリッシュI型光開始剤との混合物を含有し、好ましくは、ノリッシュII型光開始剤とノリッシュI型光開始剤との質量比が10:1~1:10;7:1~1:7;5:1~1:5;又は2:1~1:2である、実施形態1~59のいずれか1つの組成物。
【0140】
[61]コーティング組成物中の光開始剤の量が0.2~5質量%であり、好ましくはその量が、(組成物の乾燥質量に基づき)少なくとも0.3、0.4又は0.5質量%、及び最大で4.5、4.0、3.5又は3.0質量%である、実施形態1~60のいずれか1つの組成物。
【0141】
[62]組成物が、成分(d)として、尿素、グリセロール、又は塩化ナトリウムのようなイオン性若しくはイオン化可能な化合物などの低モル質量の浸透圧増加成分;界面活性剤;酸化防止剤;ラジカル安定剤;UV吸収剤;光安定剤;熱重合抑制剤;シラン化合物などのカップリング剤;コーティング表面改良剤;レベリング剤;顔料若しくは染料などの着色剤;防腐剤;可塑剤;潤滑剤;充填剤;湿潤性改良剤;又は連鎖移動剤を含み得る1種又は複数種のさらなる成分を含む、実施形態1~61のいずれか1つの組成物。
【0142】
[63]それぞれのさらなる成分が、組成物の全乾燥質量に基づき、0.01~3質量%の量で存在することができる、実施形態62の組成物。
【0143】
[64]コーティング組成物が、成分(d)として界面活性剤をさらに含む、実施形態1~63のいずれか1つの組成物。
【0144】
[65]界面活性剤が、アニオン性又はカチオン性界面活性剤である、実施形態64の組成物。
【0145】
[66]イオン性界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム、ビス(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム塩、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、ラウリルジメチルアミン-オキシド(LDAO)、N-ラウリルサルコシンナトリウム塩及びデオキシコール酸ナトリウム(DOC)からなる群から選択される化合物である、実施形態65の組成物。
【0146】
[67]界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、実施形態64の組成物。
【0147】
[68]界面活性剤が、Triton(商標)BG-10及びTriton(商標)CG-110などのアルキルポリグルコシド;Tergitol(商標)TMNなどの分岐状第2級アルコールエトキシレート;Tergitol L及びTergitol XD、XH、及びXJなどのエチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマー;Tergitol NPなどのノニルフェノールエトキシレート;Triton Xなどのオクチルフェノールエトキシレート;Tergitol 15-Sなどの第2級アルコールエトキシレート;Triton CA、Triton N-57、Triton X-207などの特殊アルコキシレート;Tween 80(約80のエチレンオキシド単位を有するソルビタンモノオレートポリエチレングリコール);及びTween 20(約20のエチレンオキシド単位を有するモノラウレートポリエチレングリコール)からなる群から選択される化合物である、実施形態67の組成物。
【0148】
[69]界面活性剤が、乾燥コーティングの全質量に基づいて0.1~2質量%の量で存在する、実施形態64~68のいずれか1つの組成物。
【0149】
[70]コーティング組成物が、成分(d)として、式[1]の重合性化合物とは異なる1種又は複数種のさらなる重合性化合物を含む、実施形態1~69のいずれか1つの組成物。
【0150】
[71]さらなる重合性化合物が、式[1]の重合性化合物よりも親水性の特徴を有する、実施形態70の組成物。
【0151】
[72]さらなる重合性化合物がオリゴマーであり、オレフィン系、スチレン系又は(メタ)アクリル系不飽和基のような重合性基を平均1個又は複数個有する、実施形態70又は71の組成物。
【0152】
[73]さらなる重合性化合物が2個以上の重合性基を有する、実施形態70~72のいずれか1つの組成物。
【0153】
[74]さらなる重合性化合物が、ジメタクリレート、ジアクリレート又はジアクリルアミドである、実施形態70~73のいずれか1つの組成物。
【0154】
[75]さらなる重合性化合物が、ポリ(エチレンオキシド)ジアクリレート(PEG-DA)又はポリ(エチレンオキシド)ジアクリルアミド(PEG-DAA)である、実施形態70~74のいずれか1つの組成物。
【0155】
[76]さらなる重合性化合物が、組成物の全乾燥質量に基づいて、少なくとも0.1、1、2又は3質量%、及び最大で25、20、15、10、5、4、3、2又は1質量%の量で存在する、実施形態70~75のいずれか1つの組成物。
【0156】
[77]さらなる重合性化合物が、式[1]の重合性化合物よりも低い量で存在し;好ましくは、式[1]の重合性化合物の質量の最大で80、60、40、20又は10質量%の量で存在する、実施形態70~76のいずれか1つの組成物。
【0157】
[78]コーティング組成物が、成分(e)として、他の成分(a)~(c)及び任意選択的に(d)を溶解することができ、且つ少なくとも水とある程度混和性である、少なくとも1種の溶媒を含む、実施形態1~77のいずれか1つの組成物。
【0158】
[79]溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール;アセトン;メチルエチルケトン;テトラヒドロフラン;又はそれらの混合物のようなC1~C6アルコールから選択される比較的極性の有機液体である、実施形態1~78のいずれか1つの組成物。
【0159】
[80]溶媒が水を含有する、実施形態1~79のいずれか1つの組成物。
【0160】
[81]溶媒が、メタノール、エタノール及びイソプロパノールから選択される少なくとも1種であり;それらの混合物又は96%エタノールのようないくらかの水を含む混合物を含む、実施形態1~80のいずれか1つの組成物。
【0161】
[82]コーティング組成物が、40~99.5質量%の溶媒を含有する、実施形態1~81のいずれか1つの組成物。
【0162】
[83]コーティング組成物が、少なくとも50、60、70、80、85、90又は95質量%の溶媒、及び最大で99.0、98.5、98、97.5又は97.0質量%の溶媒を含有する、実施形態1~82のいずれか1つの組成物。
【0163】
[84]コーティング組成物が、溶液が比較的低い粘度を有し、カテーテル及びガイドワイヤのような細長い物品に、例えばディップコーティングプロセスを介して薄いコーティング層を適用できるような量の溶媒を含有する、実施形態1~83のいずれか1つの組成物。
【0164】
[85]コーティング組成物が、25℃においてUbbelohde粘度計を用いて決定された約5~200mm2/sの動粘度を有し、好ましくは、動粘度は少なくとも6、8又は10、及び最大で450、400、350、300又は250mm2/sである、実施形態1~84のいずれか1つの組成物。
【0165】
[86]コーティング組成物が、約5~50mm2/s;好ましくは少なくとも6、8又は10及び最大で40、35、30又は25mm2/sの動粘度を有する、実施形態1~85のいずれか1つの組成物。
【0166】
[87]コーティング組成物が約50~200mm2/s;好ましくは少なくとも60、70、8090又は100mm2/s、及び最大で450、400、350、300又は250mm2/sの動粘度を有する、実施形態1~85のいずれか1つの組成物。
【0167】
[88]光硬化性コーティング組成物が、組成物の全乾燥質量に基づいて、2.0~30質量%の成分(a);97.8~30質量%の成分(b);0.2~5質量%の成分(c);及び0~35質量%の成分(d)を含み;且つ(a)~(d)の合計が100%である、実施形態1~87のいずれか1つの組成物。
【0168】
[89]光硬化性コーティング組成物が、組成物の全乾燥質量に基づいて、3.5~30質量%の成分(a);96.3~30質量%の成分(b);0.2~5質量%の成分(c);及び0~35質量%の成分(d)を含み;且つ(a)~(d)の合計が100%である、実施形態1~87のいずれか1つの組成物。
【0169】
[90]光硬化性コーティング組成物が、組成物の総乾燥質量に基づいて、4~25質量%の成分(a);95.2~46質量%の成分(b);0.3~4質量%の成分(c);及び0.5~25質量%の成分(d)を含み;且つ(a)~(d)の合計が100%である、実施形態1~87のいずれか1つの組成物。
【0170】
[91]光硬化性コーティング組成物が、組成物の総乾燥質量に基づいて、5~20質量%の成分(a);93.6~46質量%の成分(b);0.4~3.5質量%の成分(c);及び1~20質量%の成分(d)を含み;且つ(a)~(d)の合計が100%である、実施形態1~87のいずれか1つの組成物。
【0171】
[92]光硬化性コーティング組成物が、組成物の総乾燥質量に基づいて、2~10質量%の成分(a);95.5~77質量%の成分(b);0.5~3質量%の成分(c);及び2~10質量%の成分(d)を含み;且つ(a)~(d)の合計が100%である、実施形態1~87のいずれか1つの組成物。
【0172】
[93]全ての成分を温和な条件下で選択された溶媒に溶解させることによって、実施形態1~92のいずれか1つの組成物を製造する方法。
【0173】
[94]実施形態1~923のいずれか1つのコーティング組成物の層を乾燥及び硬化させることによって得られる親水性コーティング。
【0174】
[95]実施形態1~92のいずれか1つのコーティング組成物の層を乾燥及び硬化させ、その後、乾燥及び硬化した層を湿潤剤と接触させることによって得られる潤滑性の親水性コーティング。
【0175】
[96]
・実施形態1~92のいずれか1つのコーティング組成物を、物品の表面の少なくとも一部に適用するステップと;
・適用されたコーティング組成物から溶媒を少なくとも部分的に除去するステップと;
・溶媒除去の間又は後に放射線源に曝露することによって、適用されたコーティング組成物を光硬化させ、親水性コーティングを形成するステップと;
・任意選択的に親水性コーティングを湿潤剤と接触させて、潤滑性コーティングを形成するステップと
を含む、親水性及び任意選択的に潤滑性のコーティングを物品に適用する方法。
【0176】
[97]コーティング組成物が、ディップコーティング、スプレーコーティング、ウォッシュコーティング、蒸着、ブラシ又はローリングによって表面の少なくとも一部に適用される、実施形態96の方法。
【0177】
[98]物品がフィルム、シート、ロッド、チューブ、成形品、繊維、又は布である、実施形態96~97のいずれか1つの方法。
【0178】
[99]物品が、多孔質、非多孔質、平滑、粗い、均一又は不均一である表面を有する、実施形態96~98のいずれか1つの方法。
【0179】
[100]物品が、例えばガイドワイヤ又はカテーテルのように細長く、且つ比較的薄く、コーティング組成物がディップコーティング又はスプレー技術を使用して適用される、実施形態96~99のいずれか1つの方法。
【0180】
[101]表面をクリーニングした後であるが、コーティングされる表面を化学的に前処理することなく、又はプライマー組成物を適用することなく、コーティング組成物が適用される、実施形態96~100のいずれか1つの方法。
【0181】
[102]放射源がUVランプである、実施形態96~101のいずれか1つの方法。
【0182】
[103]乾燥及び硬化後の親水性コーティングが0.1~300μmの厚さを有し、好ましくは、厚さは少なくとも0.2、0.3、0.4、0.5μm、及び最大で200、100、50、40、30、20又は15μmである、実施形態96~102のいずれか1つの方法。
【0183】
[104]湿潤剤が油ベース又は水ベースである、実施形態96~103のいずれか1つの方法又は実施形態95の潤滑性親水性コーティング。
【0184】
[105]湿潤剤が水ベース又は水性湿潤剤である、実施形態96~103のいずれか1つの方法、又は実施形態95の潤滑性親水性コーティング。
【0185】
[106]湿潤剤が水ベースの組成物であり、且つ表面張力を下げ、且つコーティング表面上での湿潤剤の広がりを容易にする化合物、例えば界面活性剤、又は高級アルコール若しくはグリセロールエステルのような水に可溶な他の有機化合物;ビタミンEなどの酸化防止剤のような湿潤したコーティングを安定させる化合物;塩又は尿素のような湿潤した親水性コーティング中の水の保持を向上させる化合物;有機又は無機緩衝剤のようなpHを制御する化合物;及び抗生性又は抗菌性化合物から選択される少なくとも1つの成分をさらに含む、実施形態96~103のいずれか1つの方法又は実施形態95の潤滑性親水性コーティング。
【0186】
[107]その表面の少なくとも一部に、単層の親水性及び任意選択的に潤滑性のコーティングを有し、実施形態96~106のいずれか1つの方法によって得られる、医療用デバイス又はその構成部品などの物品。
【0187】
[108]単層親水性コーティングが、湿潤後、Harland Friction Tester FTS 6000を使用して実験項に記載の方法によって平均摩擦として決定される、最大で15gの潤滑性を示す、実施形態107の物品。
【0188】
[109]単層親水性コーティングが、湿潤後、最大14、13、12、11、10、9、8又は7gの潤滑性を示す、実施形態108の物品。
【0189】
[110]診断、治療、及び実験的なヒト医学、獣医学、及び農業分野を含む、生細胞及び生体系の研究において使用するための基材である、実施形態107~109のいずれか1つの物品。
【0190】
[111]心臓血管デバイス、神経血管デバイス、末梢血管デバイス、又は泌尿器、眼科、整形外科、若しくは一般外科で使用するためのデバイスなどの診断及び/又は治療用途の医療用デバイスである、実施形態107~109のいずれか1つの物品。
【0191】
[112]カテーテル、ガイドワイヤ、人工弁用の送達デバイス、眼内レンズ用の送達デバイス、コンタクトレンズ、移植可能なデバイス、体外デバイス、又は医療用具若しくは器具である、実施形態111の物品。
【0192】
[113]間欠カテーテル、バルーンカテーテル、PTCAカテーテル、ステント送達カテーテル、ガイドワイヤ、ステント、注射器、金属若しくはプラスチックインプラント、又は医療用チューブである、実施形態111~112のいずれか1つの物品。
さらなる例示的な実施形態は、以下の項目1~15のとおりである。
[項目1]
光硬化性親水性コーティング組成物であって、
(a)式[1]の重合性化合物(式中、Gは疎水性ヒドロキシ官能性オリゴマーの残基であり;nは1~10であり、各R
1
は、独立して、C
6
~C
20
脂肪族、環状脂肪族、又は芳香族炭化水素化合物の残基であり、且つZは、重合性基を有する部分である)と;
【化6】
(b)親水性ポリマーと;
(c)光開始剤と;
(d)任意選択的に1種又は複数種のさらなる成分と;
(e)成分(a)~(c)用の溶媒と
を含み;且つ
上記式[1]の重合性化合物が、上記組成物の全乾燥質量に基づき、2.0~30質量%の量で存在する組成物。
[項目2]
nが1.8~3、又は好ましくは1.8~2.2である、項目1に記載のコーティング組成物。
[項目3]
Gが、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリレート、及びポリオレフィン、又はそれらのいずれかの組合せからなる群から選択されるヒドロキシ官能性疎水オリゴマーの残基である、項目1又は2に記載のコーティング組成物。
[項目4]
上記ヒドロキシ官能性オリゴマーがポリエーテルであり、好ましくはポリテトラヒドロフランジオール又はポリ(テトラヒドロフラン-co-メチルテトラヒドロフラン)ジオールである、項目1~3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[項目5]
R
1
が、2,4-トルエン、2,6-トルエン、ヘキサン、ブタン、シクロヘキサン又はイソホロンの残基である、項目1~4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[項目6]
上記重合性基が、オレフィン系基、スチレン系基又は(メタ)アクリル系基のような不飽和基である、項目1~4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[項目7]
Zが、式[2]の(メタ)アクリル部分(式中、各R
2
は独立して、C
1
~C
10
アルキルであり、且つ各R
3
は独立して、水素又はメチルである)である、項目1~6のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【化7】
[項目8]
上記式[1]の重合性化合物が、テトラヒドロフランをベースとするか、又はテトラヒドロフラン及びメチルテトラヒドロフランを含むポリエーテルジオールと、トルエンジイソシアネートと、ヒドロキシエチルアクリレートとの反応生成物である、項目1~7のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[項目9]
上記親水性ポリマーが非イオン性ポリマーを含み、好ましくは、上記親水性ポリマーがポリビニルピロリドン又はポリエチレンオキシドである、項目1~8のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[項目10]
上記光開始剤がノリッシュII型開始剤を含み、好ましくは、上記コーティング組成物が、ノリッシュII型光開始剤及びノリッシュI型光開始剤の混合物を含む、項目1~9のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[項目11]
界面活性剤、酸化防止剤、浸透圧増加化合物、及び/又は親水性重合性化合物をさらに含む、項目1~10のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[項目12]
上記組成物が40~99.5質量%の溶媒を含み、上記溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール;アセトン、メチルエチルケトン又はテトラヒドロフランの少なくとも1種のような水と混和する極性有機液体である、項目1~11のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[項目13]
上記組成物の全乾燥質量に基づき、
・2.0~30質量%の成分(a);
・97.8~30質量%の成分(b);
・0.2~5質量%の成分(c);及び
・0~35質量%の成分(d)
を含み、且つ(a)~(d)の合計は100%である、項目1~12のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[項目14]
親水性及び任意選択的に潤滑性のコーティングを物品に適用する方法であって、
・項目1~13のいずれか一項に記載のコーティング組成物を、上記物品の表面の少なくとも一部に適用するステップと;
・上記適用されたコーティング組成物から溶媒を少なくとも部分的に除去するステップと;
・溶媒除去の間又は後に放射線源に曝露することによって、上記適用されたコーティング組成物を硬化させ、親水性コーティングを形成するステップと;
・任意選択的に上記親水性コーティングを湿潤剤と接触させて、潤滑性コーティングを形成するステップと
を含む方法。
[項目15]
その表面の少なくとも一部に、単層の親水性及び任意選択的に潤滑性のコーティングを有する、項目14に記載の方法によって得られる、医療用デバイス又はその構成部品などの物品。
【0193】
以下の実験及び試料は、本発明の実施形態をさらに解明するものであるが、当然ながら、特許請求の範囲を何ら限定するものと解釈されるべきではない。
【0194】
[実験]
[組成物]
[使用した化合物]
ComfortCoat(登録商標)41002/43003及び41001/43005は、DSM Biomedical(Sittard-Geleen,NL)の市販の医療用(プライマー/トップコート)親水性コーティング製品である。
【0195】
国際公開第2008031596A1号パンフレットに記載されているようにポリエチレンオキシドジアミン(Mn 1500g/モル;Aldrich)及び塩化アクリロイルから調製されるPEG-DAA、ポリエチレングリコール-ジアクリルアミド。
【0196】
PTGL-TDI-HEA、コポリエーテルジ(ウレタンアクリレート)は、国際公開第2008031596A1号パンフレットに記載の通り、ポリ(2-メチル-1,4-ブタンジオール)-co-(1,4-ブタンジオール)ジオール(PTGL、Mn 1000g/モル;Hodogaya)、トルエンジイソシアネート(TDI;Aldrich)及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA;Aldrich)から調製した。
【0197】
PTGL-IPDI-HEA、コポリエーテルジ(ウレタンアクリレート)は、ポリ(1,4-ブタンジオール)-co-(2-メチル-1,4-ブタンジオール)ジオール(PTGL、Mn 1000g/モル;Hodogaya)、イソホロンジイソシアンテ(IPDI;Aldrich)及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA;Aldrich)から、以下の一般手順に従って調製した。該当するポリエーテルジオールの量を250mlの反応器(攪拌機、空気導入口、滴下漏斗及び冷却器を装備)に装入した。充填後、反応器を45℃に加熱した後、乾燥した清浄な空気を反応器にパージした。次に、(2/1モル比のジイソシアネート/ジオールに基づく)該当するジイソシアネートの計算された量を、攪拌しながら反応器に装入した。このステップの後、ジオールに基づき1.5モル%のBHTを反応器に添加した。反応開始まで1時間待機後、温度を60℃に上げ、さらに2時間維持した。その後、電位差滴定装置を用いて混合物中のイソシアネート(NCO)含有量を測定し、理論上のイソシアネート含有量の10%以内であることを確認した。測定値が10%以内ではない場合、さらに15分間反応を継続させ、その値が得られるまで再確認を行った。次に、算出した量のヒドロキシエチルアクリレートを、触媒として0.1モル%のDBTDLと一緒に混合物に添加した。次に、温度を85℃に上げた。得られた混合物を85℃でさらに1時間反応させ、その後、電位差滴定によりNCO含有量を確認した。イソシアネート含有量が成分の質量に対して0.1%未満になったら、反応を停止するか、或いは混合物をさらに85℃で15分間加熱した。
【0198】
上記と同様に、以下の重合性化合物を調製した。
ポリ(テトラヒドロフラン)ジオール(PTHF、Mn 1000g/モル;Aldrich)、イソホロンジイソシアネート(IPDI;Aldrich)及びヒドロキシエチルアクリレート(HEA;Aldrich)をベースとする、PTHF-IPDI-HEA;
ポリ(プロピレンオキシド)ジオール(PPG、Mn 1000g/モル;Aldrich)、IPDI(Aldrich)及び(HEA;Aldrich)をベースとする、PPG1000-IPDI-HEA;
ポリ(プロピレンオキシド)ジオール(PPG、Mn 2000g/モル;Aldrich)、IPDI(Aldrich)及び(HEA;Aldrich)をベースとする、PPG2000-TDI-HEA;
ポリ(プロピレンオキシド)ジオール(PPG、Mn 8000g/モル;Aldrich)、IPDI(Aldrich)及び(HEA;Aldrich)をベースとする、PPG8000-TDI-HEA;及び
ポリ(エチレンオキシド)ジオール(PPG、Mn 1000g/モル;Aldrich)、IPDI(Aldrich)及び(HEA;Aldrich)をベースとする、PEG-IPDI-HEA。
【0199】
ポリビニルピロリドンとして、特に指示しない限り、グレードPVP K 90(供給者BASF)を使用した。
【0200】
ベンゾフェノンは、Ciba Specialty Chemicalsから入手した(商品名Darocure(商標))。
【0201】
2-ヒドロキシ-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(Irgacure(商標)2959)は、Aldrichから入手した。
【0202】
Tween 80(ポリオキシエチレン(80)ソルビタンモノオレエート)は、Merckから入手した。
【0203】
エタノール(96%、超純粋)は、Merckから入手した。
【0204】
[コーティング組成物]
表1~4に、溶媒のエタノールを除き、以下の実験で使用したコーティング組成物の成分を記載する。したがって、示された質量%は、液体コーティング溶液(中の非揮発性物質)の乾燥質量に関連し、これは、乾燥及び硬化したコーティング中の(対応する反応した成分の)質量%に実質的に相当するであろう。組成物は、最初に、決められた量のウレタンアクリレート化合物をエタノール(室温、暗黒)に溶解し、次にPVP及び他の成分を一晩穏やかに振盪しながら添加することによって調製された。コーティング組成物のエタノール含有量は、目標とする溶液粘度次第で、約90~98質量%の間で変動した。全てのコーティング組成物は、特に指示しない限り、典型的には10~22mm2/sの範囲の動粘度(25.0±0.3℃でUbbelohde粘度計を使用して決定)を有していた。
【0205】
[基材]
コーティングの基材として、以下のものを使用した。外径1mm及び長さ600mmのポリアミド12ロッド(Zeus、品番192124);14FrのPVCチューブ(Raumedic AG、DE);外径4.7mm、内径4.57mmのポリアミド12ナチュラルチューブ(Nordson、品番115-2621);Pebax 63Dブルー、外径2.24mm、内径2.16mmのチューブ(Nordson、品番115-1327);及びPebax 72D、透明、外径1.98mm、内径1.22mmのチューブ(Nordson、品番115-0678)。
【0206】
[方法]
[コーティング]
Allmepp CCS-12.175コーターを用いて、長さ約40cmのポリマーロッド又はチューブをクリーンルーム内でディップコーティングした。UVランプの強度は、ILT SEL0052224検出器を装備したILT-1400メーターで測定した。ポリマーロッド又はチューブ(底部を密閉し、金属ワイヤーを挿入)をクリーニングし、コーターの12の位置のうちの1つにそれぞれ固定し、コーティング配合物中に約30cmの長さで10秒間含浸させ、0.5~10cm/秒の速度で引き上げ、60~360秒間、4rpmで回転させながらUV光に暴露した。2層コーティングシステムの場合、試料を最初にプライマーに浸漬し、1cm/秒で引き上げ、30秒間硬化させた後、上記のようにトップコートを適用した。コーティングされた試料を、密閉PEバッグ中に貯蔵した。
【0207】
[潤滑性、耐久性及びドライアウト]
コーティングされた試料の潤滑性及び耐久性を決定するための試験は、Harland Friction Tester FTS 6000を用いて、2つの摩擦パッドを300gのクランプ力で試料に適用し、試料を室温(約20~22℃)のデミ水中に浸漬して実施した。チューブ上のコーティングを試験する場合、チューブ内にワイヤー(又はマンドレル)を挿入した。各サイクルにおいて、摩擦力を測定しながら試料を10mm/秒で12cm上方に移動させ、クランプを開き、試料を開始位置まで戻すという試験を25サイクル行った。10サイクル、15サイクル、20サイクル後にパッドをクリーニングした。コーティングの潤滑性は25サイクルの平均摩擦力として報告され(平均摩擦)、コーティングの耐久性(又は耐摩耗性)は最後の3サイクル及び最初の3サイクルの平均摩擦力の差として報告された(摩擦変化)。報告値は10の試料の平均値である。
【0208】
平均摩擦力15gが適切な潤滑性能の最大値と考えられ;そのようなレベルを超える場合、コーティング層の許容できない損傷、又はコーティングの一部の損失が典型的に認められる。
【0209】
泌尿器カテーテル用チューブにおける湿潤親水性コーティングのドライアウト挙動、すなわち、潤滑性の経時変化傾向についても、Harland摩擦試験機を使って検討した。この試験では、湿潤の5分及び10分後、20~22℃及び相対湿度45~55%の空気中、湿潤コーティング上で摩擦力を測定する。10分後の最大10gの平均摩擦力は、ヒトが実際に使用する尿道カテーテルの適切な潤滑性能を与えるための最大値であると考えられる。
【0210】
[貯蔵寿命評価]
コーティング配合物の貯蔵寿命は、50℃及び60℃で促進老化を行い、60℃の場合は1.5ヶ月後及び3ヶ月後に、そして50℃の場合は6ヶ月後に試料を採取して評価した。粘度、光開始剤及び重合性化合物の濃度を測定した。
【0211】
コーティング製品の貯蔵寿命は、引き上げ速度0.5cm/秒及び硬化時間120秒でポリアミド12ロッド上にコーティング配合物を適用し、初期潤滑性及び摩耗性能を上記と同様に評価した。試料をパウチに入れ、エチレンオキシドに暴露することによって滅菌し(約3時間、46℃、0.37バールEtO;Synergy Health,Venlo NL)、その後、オーブン中で貯蔵した。50℃で6ヶ月間貯蔵後、並びに60℃で1.5ヶ月間及び3ヶ月間オーブン中で貯蔵後に潤滑性及び摩耗性能を測定し、滅菌コーティングされたポリアミド12ロッドの貯蔵寿命を評価した。
【0212】
[結果]
[比較実験A]
実施例1~19の参照として、市販の2層親水性コーティング系、すなわち、ComfortCoat(登録商標)41002(プライマー)及びComfortCoat(登録商標)43003(親水性トップコート)を使用した。
【0213】
表1の結果から、ディップコーティング及びUV硬化によって、この2層系をポリアミド12(PA 12)基材ロッドに適用して、薄く、良好に接着するコーティングを得ることができることが示される。これは、水で湿潤後に優れた潤滑性能を示し、試験サイクル中に潤滑性の変化が少ないという高い耐久性を示す(CE A)。プライマーを使用せず、トップコートのみを使用した場合、PA 12基材は、コーティング条件を変化させても、安定した接着性のあるコーティングを形成することができない。
【0214】
[実施例1~4及び比較実験B~D]
これらの実験では、溶媒としてのエタノール(96%)、親水性ポリマー(PVP)、2種の光開始剤及び界面活性剤に加えて、重合性末端基を有するポリエーテルジオールオリゴマーをベースとする異なる質量比で適用された2種の異なる重合性化合物;すなわち、アクリルアミド基を有するポリエチレンオキシド(PEG-DAA)及びウレタンアクリレート末端基を有する1,4-ブタンジオールとメチル化1,4-ブタンジオールとのコポリエーテル(PTGL-TDI-HEA)を含有するコーティング組成物が調製された。表1にまとめた結果から、組成物が非水溶性PTGL-TDI-HEA化合物を一定量含む場合のみ、良好な接着性、高潤滑性及び低摩耗性を兼ね備えた架橋コーティングが得られることが明らかである。摩擦試験では、15gを超える摩擦力は、不十分な潤滑性を有するコーティングを示すものとして判断される。また、試験後のコーティングをCongo Redで染色することによって、コーティングに例えば傷として目に見える損傷がないことが目視によって決定され、前記摩擦試験性能が確認される。
【0215】
[実施例5~13]
いくらかの少量のPTGL-TDI-HEAが接着のために必要となり得るが、多量であれば多すぎる架橋を誘発し、コーティングの潤滑性を減少させ得ると思われるため、唯一の重合性ポリエーテルとしてPTGL-TDI-HEAを異なる量で適用する一連の組成物を試験した。表1の結果から、約4~25質量%の量では、60秒のみのUV硬化時間後でも優れたコーティング性能が得られることが示される。また、ノリッシュI型開始剤の存在は必須ではなく、一般に表面上でのコーティングの広がりを改善する界面活性剤を省いても、摩擦試験の結果は悪化しないようである。
【0216】
[実施例14~15及び比較実験E~I]
これらの実験では、異なる極性又は水溶性を有するいくつかのポリエーテルウレタンアクリレートを、コーティング組成物中の重合性化合物として評価した。
【0217】
実施例14は、重合性化合物が芳香族化合物の代わりに脂肪族ジイソシアネートによって製造された点で、例えば実施例6と(IPDI対TDI)、そしてポリ(テトラヒドロフラン)ジオール(PTHF)が追加的にコポリエーテルを置き換えた点で実施例15と主に異なる。これらの化合物を含有するコーティング組成物は、良好な性能を示す親水性コーティングをもたらす。
【0218】
比較実験E~Iは、ポリ(エチレンオキシド)ジオール(PEG)及びポリ(プロピレンオキシド)ジオール(PPG)をベースとする重合性化合物を用いて実施される。試験結果は、コーティング組成物が、より極性であり、少なくとも部分的に水に溶解する重合性化合物としてポリエーテルウレタンアクリレートを含む場合、PA 12基材への不十分な接着が摩擦試験中にコーティングの損傷及び損失を引き起こすことを実証している。
【0219】
[実施例16~19及び比較実験J~M]
これらの実験では、重合性化合物としてPTGL-IPDI-HEAをベースとする組成物から製造されたコーティングの性能を、血管デバイスで典型的に使用される材料である異なる基材上で評価し、参照2層コーティング系と比較した。その結果、全ての基板において、同様の優れた性能を得ることができることが示された。
【0220】
[コーティング組成物及びコーティングされた物品の貯蔵寿命]
実施例6によるコーティング組成物(約97質量%のエタノールを含む)を用いて、促進老化実験を行った。6ヶ月/50℃及び3ヶ月/60℃での老化は、約4年の周囲条件での貯蔵寿命に変換されると考えられる。
【0221】
コーティング組成物の試験中、重合性成分及び開始剤の濃度、並びに溶液の動粘度を、開始時及び1.5及び3ヶ月後(60℃)並びに6ヶ月後(50℃)に決定した。Irganox 2959開始剤成分の濃度が約20%(3ヶ月/60℃)及び10%(6ヶ月/50℃)低下した以外、全てのパラメータが実験誤差の範囲内で安定していることが確認された。続いて、老化させた組成物をPA 12基材に適用し、300g及び800gのクランプ力を用いた摩擦試験を実施した。全ての試験結果において、コーティング性能は同等であり、加速老化による劣化の影響がないことが示された。
【0222】
コーティングを適用及び硬化させた滅菌PA 12基材の老化を同様に摩擦試験により評価した。50℃及び60℃での滅菌及び老化により、潤滑性及び耐久性は劣化しないことがわかった。
【0223】
[比較実験N及び実施例20~24]
他の実験の参照として、市販の2層親水性コーティング系;すなわち、ComfortCoat(登録商標)41001(プライマー)及びComfortCoat(登録商標)43005(親水性トップコート)を使用した。このコーティング系は、2ステップでディップコーティング及びUV硬化によってPVCチューブに適用され、水での湿潤後に優れた潤滑性を示し、良好なドライアウト挙動を示す、例えば、少ない潤滑性の経時変化を示す、良好に接着するコーティングが得られた。この親水性コーティング系は、一般的に尿道カテーテルに適用され、以前の実験セットよりも大きい層厚を有する。高い潤滑性及び約10分後の少ないドライアウトは、そのような間欠カテーテルシステムを使用して排水バッグで膀胱を空にすることを日常的に必要とする人々にとって重要な性能パラメータである。
【0224】
プライマーの使用を省略し、トップコート組成物のみを適用した場合、PVC基材上に安定した接着性のあるコーティングを製造することができないことが観察され、またコーティング条件を変更することによっても不可能であることが観察された。
【0225】
表4にまとめた実験結果は、本発明による、溶媒としてエタノールをベースとする親水性コーティング組成物も、尿道カテーテル上に単層親水性及び潤滑性コーティングとして適用でき、市販の参照ComfortCoat(登録商標)41001/43005のように、所望のウィンドウ内の性能(実施例20~24)が提供されることを実証する。本発明のコーティング組成物は、例えば架橋剤(PTGL-TDI-HEA)及び溶媒(エタノール)において、この2層システムとは有意に異なるので、架橋剤濃度及びコーティング組成物の粘度のようなパラメータは、引き上げ速度及び硬化時間のようなコーティング条件と組み合わせて、最適化が必要である。実施例20の組成物を適用した場合の試験結果は、試験条件下では目標性能の境界にあったが、実施例21~24のデータは、処理条件を変えることによって、そのような組成物でさらなる改善が可能であることを示している(表4参照)。
【0226】
【0227】
【0228】
【0229】