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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-09
(45)【発行日】2025-09-18
(54)【発明の名称】結晶性酸化物膜
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20250910BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20250910BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20250910BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20250910BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20250910BHJP
【FI】
C30B29/16
C23C16/40
C30B25/02 Z
H01L21/205
H01L21/368 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020527473
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2019024654
(87)【国際公開番号】W WO2020004250
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-14
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2018121405
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 勲
(72)【発明者】
【氏名】四戸 孝
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】塩谷 領大
【審判官】河本 充雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100592号公報(JP,A)
【文献】特開2016-100593号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B29/16
C01G15/00
C01G55/00
C23C16/40
C30B25/18
H01L21/365
H01L21/368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コランダム構造の横方向成長領域を含む結晶性酸化物膜であって、前記横方向成長領域がファセット成長領域を含まないことを特徴とする結晶性酸化物膜。
【請求項2】
少なくとも周期律表第4周期~第6周期の1種または2種以上の金属を含む請求項に記載の結晶性酸化物膜。
【請求項3】
少なくともガリウム、インジウム、ロジウムまたはイリジウムを含む請求項1または2に記載の結晶性酸化物膜。
【請求項4】
α-Gaまたはその混晶を主成分として含む請求項1~のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の結晶性酸化物膜を含む半導体装置。
【請求項6】
前記結晶性酸化物膜がドーパントを含む半導体膜である請求項記載の半導体装置。
【請求項7】
パワーデバイスである請求項またはに記載の半導体装置。
【請求項8】
パワーモジュール、インバータまたはコンバータである請求項またはに記載の半導体装置。
【請求項9】
半導体装置を備える半導体システムであって、前記半導体装置が、請求項5~8のいずれかに記載の半導体装置である半導体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に有用な結晶性酸化物膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異種基板上に結晶成長させる際に、クラックや格子欠陥が生じる問題がある。この問題に対し、基板と膜の格子定数や熱膨張係数を整合させること等が検討されている。また、不整合が生じる場合には、ELOのような成膜手法等も検討されている。
【0003】
特許文献1には、異種基板上にバッファ層を形成し、前記バッファ層上に酸化亜鉛系半導体層を結晶成長させる方法が記載されている。特許文献2には、ナノドットのマスクを異種基板上に形成して、ついで、単結晶半導体材料層を形成することが記載されている。非特許文献1には、サファイア上に、GaNのナノカラムを介して、GaNを結晶成長させる手法が記載されている。非特許文献2には、周期的なSiN中間層を用いて、Si(111)上にGaNを結晶成長させて、ピット等の欠陥を減少させる手法が記載されている。
【0004】
しかしながら、いずれの技術も、成膜速度が悪かったり、基板にクラック、転位、反り等が生じたり、また、エピタキシャル膜に転位やクラック等が生じたりして、高品質なエピタキシャル膜を得ることが困難であり、基板の大口径化やエピタキシャル膜の厚膜化においても、支障が生じていた。
【0005】
また、高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。しかも、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての応用も期待されている。当該酸化ガリウムは非特許文献3によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはInAlGa(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5~2.5)を示し、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。
【0006】
しかしながら、酸化ガリウムは、最安定相がβガリア構造であるので、特殊な成膜法を用いなければ、コランダム構造の結晶膜を成膜することが困難であり、結晶品質等においてもまだまだ課題が数多く存在している。これに対し、現在、コランダム構造を有する結晶性半導体の成膜について、いくつか検討がなされている。
特許文献3には、ガリウム又はインジウムの臭化物又はヨウ化物を用いて、ミストCVD法により、酸化物結晶薄膜を製造する方法が記載されている。特許文献4~6には、コランダム型結晶構造を有する下地基板上に、コランダム型結晶構造を有する半導体層と、コランダム型結晶構造を有する絶縁膜とが積層された多層構造体が記載されている。
【0007】
また、最近では、特許文献7~9および非特許文献4に記載されているように、コランダム構造の酸化ガリウム膜をELO成長等させることが検討されている。特許文献7~9に記載されている方法によれば、良質なコランダム構造の酸化ガリウム膜を得ることは可能であるが、実際に結晶膜を調べてみると、ファセット成長する傾向があり、このファセット成長等の課題もあって、まだまだ満足のいくものではなかった。
なお、特許文献3~9はいずれも本出願人による特許または特許出願に関する公報である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-232623号公報
【文献】特表2010-516599号公報
【文献】特許第5397794号
【文献】特許第5343224号
【文献】特許第5397795号
【文献】特開2014-72533号公報
【文献】特開2016-100592号公報
【文献】特開2016-98166号公報
【文献】特開2016-100593号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Kazuhide Kusakabe., et al., “Overgrowth of GaN layer on GaN nano-columns by RF-molecular beam epitaxy”, Journal of Crystal Growth 237-239 (2002) 988-992
【文献】K. Y. Zang., et al.,”Defect reduction by periodic SiNx interlayers in gallium nitride grown on Si (111)”, Journal of Applied Physics 101, 093502 (2007)
【文献】金子健太郎、「コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性」、京都大学博士論文、平成25年3月
【文献】高塚章夫、織田真也、金子健太郎、藤田静雄、人羅俊実,“ミストエピタキシー法によるα型酸化ガリウムの横方向選択成長(ELO)”,2015年第62回応用物理学会春季学術講演会, 東海大学, (2015年3月11日-14日) 13a-P18-12.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ファセット成長による転位などの欠陥が低減された半導体装置等に有用な結晶品質に優れたコランダム構造を有するエピタキシャル膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、a軸方向に伸びているストライプ状のELOマスクを基板表面に配列したm面サファイア基板を用いて、供給律速にしてELO成膜をすることで、ファセット成長が抑制され、リーク電流等の原因となっていた各種欠陥が低減される結晶性酸化物膜が得られることを見出し、このようにして得られた結晶性酸化物膜が、上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを知見した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] コランダム構造の横方向成長領域を含む結晶性酸化物膜であって、前記横方向成長領域がファセット成長領域を実質的に含まないことを特徴とする結晶性酸化物膜。
[2] コランダム構造の横方向成長領域を含む結晶性酸化物膜であって、前記横方向成長領域の結晶成長方向がc軸または略c軸方向であることを特徴とする結晶性酸化物膜。
[3] 前記横方向成長領域が転位線を実質的に含んでいない前記[1]または[2]に記載の結晶性酸化物膜。
[4] コランダム構造の横方向成長領域を含む結晶性酸化物膜であって、前記横方向成長領域の一部または全部において、c軸または略c軸方向に結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士が互いに接合していることを特徴とする結晶性酸化物膜。
[5] コランダム構造の横方向成長領域を含む結晶性酸化物膜であって、前記横方向成長領域の一部または全部において、c軸または略c軸方向にそれぞれ異なる結晶成長速度で結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士が互いに接合していることを特徴とする結晶性酸化物膜。
[6] コランダム構造のエピタキシャル層を含む結晶性酸化物半導体膜であって、c軸または略c軸方向に結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士の接合面上のエピタキシャル層であることを特徴とする結晶性酸化物膜。
[7] コランダム構造のエピタキシャル層を含む結晶性酸化物半導体膜であって、c軸または略c軸方向にそれぞれ異なる結晶成長速度で結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士の接合面上のエピタキシャル層であることを特徴とする結晶性酸化物膜。
[8] 少なくとも周期律表第4周期~第6周期の1種または2種以上の金属を含む前記[1]~[7]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[9] 少なくともガリウム、インジウム、ロジウムまたはイリジウムを含む前記[1]~[8]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[10] α-Gaまたはその混晶を主成分として含む前記[1]~[9]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜。
[11] 前記[1]~[10]のいずれかに記載の結晶性酸化物膜を含む半導体装置。
[12] 前記結晶性酸化物膜がドーパントを含む半導体膜である前記[11]記載の半導体装置。
[13] パワーデバイスである前記[11]または[12]に記載の半導体装置。
[14]
パワーモジュール、インバータまたはコンバータである前記[11]または[12]に記載の半導体装置。
[15] 半導体装置を備える半導体システムであって、前記半導体装置が、前記[11]~[14]のいずれかに記載の半導体装置である半導体システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の結晶性酸化物膜は、ファセット成長による転位などの欠陥が低減されており、半導体装置等に有用であり、結晶品質に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に用いられる結晶基板の結晶成長面上に形成された凹凸部の一態様を模式的に示す断面図である。
図2】本発明に用いられる結晶基板の結晶成長面上に形成された凹凸部の一態様を模式的に示す断面図である。
図3】本発明に用いられる結晶基板の結晶成長面上に形成された凹凸部の一態様を模式的に示す断面図である。
図4】本発明に用いられる結晶基板の結晶成長面上に形成された凹凸部の一態様を模式的に示す断面図である。
図5】本発明に用いられる結晶基板の結晶成長面上に形成された凹凸部の一態様を模式的に示す断面図である。
図6】本発明に用いられる結晶基板の結晶成長面上に形成された凹凸部の一態様を模式的に示す断面図である。
図7】本発明の結晶性積層構造体を模式的に示す断面図である。
図8】本発明の結晶性積層構造体(バッファ層あり)を模式的に示す断面図である。
図9】本発明で好適に用いられる成膜装置の概略構成図である。
図10】本発明で好適に用いられる図9とは別態様の成膜装置(ミストCVD)の概略構成図である。
図11】電源システムの好適な一例を模式的に示す図である。
図12】システム装置の好適な一例を模式的に示す図である。
図13】電源装置の電源回路の好適な一例を示す回路図である。
図14】実施例における膜断面の顕微鏡観察結果を示す図である。
図15】実施例における膜上面の顕微鏡観察結果を示す図である。
図16】実施例における膜断面の顕微鏡観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の結晶性酸化物膜は、コランダム構造の横方向成長領域および/またはコランダム構造のエピタキシャル層を含む結晶性酸化物膜であって、下記(1)~(7)のいずれかの特長を有している。
(1)前記横方向成長領域がファセット成長領域を実質的に含まない。
(2)前記横方向成長領域の結晶成長方向がc軸または略c軸方向である。
(3)前記横方向成長領域が転位線を含んでおり、該転位線がc軸または略c軸方向に伸びている。
(4)前記横方向成長領域の一部または全部において、c軸または略c軸方向に結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士が互いに接合している。
(5)前記横方向成長領域の一部または全部において、c軸または略c軸方向にそれぞれ異なる結晶成長速度で結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士が互いに接合している。
(6)前記エピタキシャル層が、c軸または略c軸方向に結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士の接合面上のエピタキシャル層である。
(7)前記エピタキシャル層が、c軸または略c軸方向にそれぞれ異なる結晶成長速度で結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士の接合面上のエピタキシャル層である。
【0016】
本発明においては、前記結晶性酸化物膜が、少なくとも周期律表第4周期~第6周期の1種または2種以上の金属を含むのが好ましく、少なくともガリウム、インジウム、ロジウムまたはイリジウムを含むのがより好ましく、α-Gaまたはその混晶を主成分として含むのが最も好ましい。このような好ましい結晶性酸化物膜によれば、半導体装置により適しており、半導体特性により優れたものとなる。また、前記結晶性酸化物膜は、ドーパントを含むのも好ましい。前記ドーパントとしては、例えば、前記ドーパントとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、通常、約1×1016/cm~1×1022/cmであってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×1017/cm以下の低濃度にしてもよい。また、さらに、本発明によれば、ドーパントを約1×1020/cm以上の高濃度で含有させてもよい。
【0017】
前記結晶性酸化物膜は例えば次の好適な成膜方法により得ることができる。
すなわち、コランダム構造を有する結晶基板の結晶成長面上に、直接または他の層を介して、エピタキシャル膜を成膜する方法であって、前記結晶基板の結晶成長面上に、凹部または凸部からなる凹凸部が形成されており、前記成膜を、供給律速となる条件で行うことを特長とする成膜方法である。以下、詳細に説明する。
【0018】
<結晶基板>
前記結晶基板は、コランダム構造を有していれば特に限定されず、公知の基板であってよい。絶縁体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいし、半導体基板であってもよい。単結晶基板であってもよいし、多結晶基板であってもよい。前記結晶基板としては、例えば、コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基板が挙げられる。なお、前記「主成分」とは、基板中の組成比で、前記結晶物を50%以上含むものをいい、好ましくは70%以上含むものであり、より好ましくは90%以上含むものである。前記コランダム構造を有する結晶基板としては、例えば、サファイア基板、α型酸化ガリウム基板などが挙げられる。
【0019】
前記結晶基板は、サファイア基板であるのが好ましい。前記サファイア基板としては、例えば、c面サファイア基板、m面サファイア基板、a面サファイア基板などが挙げられる。また、前記サファイア基板はオフ角を有していてもよい。前記オフ角は、特に限定されないが、好ましくは0°~15°である。本発明の実施態様においては、前記サファイア基板が、m面サファイア基板であるのが好ましい。
なお、前記結晶基板の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、10~2000μmであり、より好ましくは50~1000μmである。
【0020】
<凹凸部>
前記凹凸部は、凸部または凹部からなるものであれば特に限定されず、凸部からなる凹凸部であってもよいし、凹部からなる凹凸部であってもよいし、凸部および凹部からなる凹凸部であってもよい。すなわち、前記凹凸部は、凹部または凸部を含むものであればそれでよい。また、前記凹凸部は、規則的な凸部または凹部から形成されていてもよいし、不規則な凸部または凹部から形成されていてもよい。なお、前記凹凸部は周期的に形成されているのが好ましく、周期的かつ規則的にパターン化されているのがより好ましい。前記凹凸部の形状としては、特に限定されず、例えば、ストライプ状、ドット状、メッシュ状またはランダム状などが挙げられるが、ストライプ状またはドット状が好ましく、ストライプ状がより好ましい。なお、ドット状に凹凸部を形成する場合には、例えば正方格子、斜方格子、三角格子、六角格子などの格子位置に、周期的かつ規則的に、三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形状、円状、楕円状などの凹凸部を配置することができる。前記凹凸部の凹部または凸部の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、コの字型、U字型、逆U字型、波型、または三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられる。
【0021】
前記凸部の構成材料は、特に限定されず、公知の材料であってよい。前記凸部の構成材料は、絶縁体材料であってもよいし、導電体材料であってもよいし、半導体材料であってもよいが、縦方向の結晶成長を阻害可能な材料が好ましい。また、前記凸部の構成材料は、非晶であってもよいし、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。前記凸部の構成材料としては、例えば、Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Ta、Sn等の酸化物、窒化物または炭化物、カーボン、ダイヤモンド、金属、これらの混合物などが挙げられる。より具体的には、SiO、SiNまたは多結晶シリコンを主成分として含むSi含有化合物、前記結晶性半導体の結晶成長温度よりも高い融点を有する金属(例えば、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属等)などが挙げられる。なお、前記構成材料の含有量は、凸部中、組成比で、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上が最も好ましい。
【0022】
前記凸部の形成手段としては、公知の手段であってよく、例えば、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、レーザーパターニング、その後のエッチング(例えばドライエッチングまたはウェットエッチング等)などの公知のパターニング加工手段などが挙げられる。本発明においては、前記凸部がストライプ状またはドット状であるのが好ましく、ストライプ状であるのがより好ましい。
【0023】
前記凹部の構成材料は、特に限定されないが、上記凸部の構成材料と同様のものであってよいし、結晶基板であってもよい。前記凹部は、ドット状であるのが好ましく、前記シリコン含有化合物からなるマスク層にドット状の凹部が設けてあるのがより好ましい。前記凹部の形成手段としては、前記の凸部の形成手段と同様の手段を用いることができる。また、前記凹部が結晶基板の結晶成長面上に設けられた空隙層であるのも好ましい。前記空隙層は、公知の溝加工手段により、結晶基板に溝を設けることで、前記結晶基板の結晶成長面上に形成することができる。空隙層の溝幅、溝深さ、テラス幅等は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、適宜に設定することができる。また、空隙層には、空気が含まれていてもよいし、不活性ガス等が含まれていてもよい。
【0024】
本発明においては、前記結晶基板の結晶成長面上に、c軸に垂直または略垂直な方向に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されているのが好ましい。このように凹凸部が形成されることにより、よりファセット成長を抑制することができ、より半導体装置に適した成膜を実現することができる。なお、本発明において、「c軸に垂直または略垂直」とは、通常、c軸方向との成す角度が90度±10度の範囲内であり、好ましくはc軸方向との成す角度が90度±5度の範囲内であることを意味する。
【0025】
以下、本発明のより好ましい成膜方法の態様を、図面を用いて説明する。
図1は、前記における結晶基板の結晶成長面上に設けられた凹凸部の一態様を示す。図1の凹凸部は、結晶基板1と、結晶成長面1a上の凸部2aとから形成されている。凸部2aはストライプ状であり、結晶基板1の結晶成長面1a上には、ストライプ状の凸部2aが周期的に配列されている。なお、凸部2aは、SiO等のシリコン含有化合物からなり、フォトリソグラフィー等の公知の手段を用いて形成することができる。
【0026】
図2は、結晶基板の結晶成長面上に設けられた凹凸部の一態様を示し、図1とは別の態様を示している。図2の凹凸部は、図1と同様、結晶基板1と、結晶成長面1a上に設けられた凸部2aとから形成されている。凸部2aはドット状であり、結晶基板1の結晶成長面1a上には、ドット状の凸部2aが周期的かつ規則的に配列されている。なお、凸部2aは、SiO等のシリコン含有化合物からなり、フォトリソグラフィー等の公知の手段を用いて形成することができる。
【0027】
図3は、結晶基板の結晶成長面上に設けられた凹凸部の一態様を示す。図3は、凸部ではなく凹部2bを備えている。図3の凹部は、結晶基板1と、マスク層4とから形成されている。マスク層は、結晶成長面1上に形成されており、ドット状に穴が空いている。マスク層4のドットの穴からは結晶基板1が露出しており、結晶成長面1a上にドット状の凹部2bが形成されている。なお、凹部2bは、フォトリソグラフィー等の公知の手段を用いて、マスク層4を形成することにより得ることができる。また、マスク層4は、縦方向の結晶成長を阻害可能な層であれば特に限定されない。マスク層4の構成材料としては、例えば、SiO等のシリコン含有化合物などの公知の材料等が挙げられる。
【0028】
図4は、結晶基板の結晶成長面上に設けられた凹凸部の一態様を示す。図4の凹凸部は、結晶基板1と空隙層とから形成されている。空隙層は、ストライプ状であり、結晶基板1の結晶成長面1a上には、ストライプ状の凹部2bが周期的に配列されている。なお、凹部2bは、公知の溝加工手段により形成することができる。
【0029】
また、図5にも、結晶基板1の結晶成長面1a上に設けられた凹凸部の一態様を示す。図5の凹凸部は、図4とは、凹部2bの間隔が異なっており、間隔の幅が小さくなっている。つまり、凹部2bのテラス幅が、図4では広くなっており、図5では狭くなっている。図5の凹部2bもまた、図4の凹部と同様、公知の溝加工手段を用いて形成することができる。
【0030】
図6は、図4および図5と同様、結晶基板の結晶成長面上に設けられた凹凸部の一態様を示し、図6の凹凸部は、結晶基板1と空隙層とから形成されている。空隙層は、図4および図5とは異なり、ドット状であり、結晶基板1の結晶成長面1a上には、ドット状の凹部2bが周期的かつ規則的に配列されている。なお、凹部2bは、公知の溝加工手段により形成することができる。
【0031】
凹凸部の凸部の幅および高さ、凹部の幅および深さ、間隔などが特に限定されないが、本発明においては、それぞれが例えば約10nm~約1mmの範囲内であり、好ましくは約10nm~約300μmであり、より好ましくは約10nm~約1μmであり、最も好ましくは約100nm~約1μmである。
【0032】
また、前記結晶基板上にバッファ層や応力緩和層等の他の層を設けもよく、他の層を設ける場合には、他の層上でも他の層下でも前記凹凸部を形成してもよいが、通常、他の層上に、前記凹凸部を形成する。
【0033】
上記のようにして、結晶基板の結晶成長面上に、直接または他の層を介して、凹部または凸部からなる凹凸部を形成する。凹凸部を形成した後は、供給律速となる条件にて成膜することにより、前記凹凸部上に、ファセット成長を伴わない横方向成長を実現することができ、良質なコランダム構造を有する結晶性半導体を主成分として含むエピタキシャル層を形成することができる。
【0034】
前記エピタキシャル結晶成長の手段は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知の手段であってよい。前記エピタキシャル結晶成長手段としては、例えば、CVD法、MOCVD法、MOVPE法、ミストCVD法、ミスト・エピタキシー法、MBE法、HVPE法またはパルス成長法などが挙げられる。本発明においては、前記エピタキシャル結晶成長手段が、ミストCVD法、ミスト・エピタキシー法またはHVPE法であるのが好ましく、ミストCVD法またはミスト・エピタキシー法であるのが好ましい。
【0035】
また、前記成膜を、金属を含む原料溶液を霧化し(霧化工程)、液滴を浮遊させ、得られた霧化液滴をキャリアガスでもって前記結晶基板近傍まで搬送し(搬送工程)、ついで、前記霧化液滴を熱反応させること(成膜工程)により行うのが好ましい。このようにして成膜することで、より容易にファセット成長を伴わない横方向成長を実現することができる。
【0036】
(原料溶液)
原料溶液は、成膜原料として金属を含んでおり、霧化可能であれば特に限定されず、無機材料を含んでいてもよいし、有機材料を含んでいてもよい。前記金属は、金属単体であっても、金属化合物であってもよく、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、ガリウム(Ga)、イリジウム(Ir)、インジウム(In)、ロジウム(Rh)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、レニウム(Re)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびジルコニウム(Zr)から選ばれる1種または2種以上の金属などが挙げられるが、本発明においては、前記金属が、少なくとも周期律表第4周期~第6周期の1種または2種以上の金属を含むのが好ましく、少なくともガリウム、インジウム、ロジウムまたはイリジウムを含むのがより好ましい。このような好ましい金属を用いることにより、半導体装置等により好適に用いることができるエピタキシャル膜を成膜することができる。
【0037】
本発明においては、前記原料溶液として、前記金属を錯体または塩の形態で有機溶媒または水に溶解または分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、有機金属塩(例えば金属酢酸塩、金属シュウ酸塩、金属クエン酸塩等)、硫化金属塩、硝化金属塩、リン酸化金属塩、ハロゲン化金属塩(例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩等)などが挙げられる。
【0038】
前記原料溶液の溶媒は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明においては、前記溶媒が水を含むのが好ましい。
【0039】
また、前記原料溶液には、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられる。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H)、過酸化ナトリウム(Na)、過酸化バリウム(BaO)、過酸化ベンゾイル(CCO)等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0040】
前記原料溶液には、ドーパントが含まれていてもよい。前記ドーパントは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記ドーパントとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウムまたはニオブなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、通常、約1×1016/cm~1×1022/cmであってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×1017/cm以下の低濃度にしてもよい。また、さらに、本発明によれば、ドーパントを約1×1020/cm以上の高濃度で含有させてもよい。
【0041】
(霧化工程)
前記霧化工程は、金属を含む原料溶液を調整し、前記原料溶液を霧化して霧化し、液滴を浮遊させ、霧化液滴を発生させる。前記金属の配合割合は、特に限定されないが、原料溶液全体に対して、0.0001mol/L~20mol/Lが好ましい。霧化手段は、前記原料溶液を霧化できさえすれば特に限定されず、公知の霧化手段であってよいが、本発明においては、超音波振動を用いる霧化手段であるのが好ましい。本発明で用いられるミストは、空中に浮遊するものであり、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、初速度がゼロで、空間に浮かびガスとして搬送することが可能なミストであるのがより好ましい。ミストの液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは1~10μmである。
【0042】
(搬送工程)
前記搬送工程では、前記キャリアガスによって前記霧化液滴を前記基体へ搬送する。キャリアガスの種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、不活性ガス(例えば窒素やアルゴン等)、または還元ガス(水素ガスやフォーミングガス等)などが好適な例として挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、キャリアガス濃度を変化させた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、前記搬送を供給律速となるような流量が好ましく、より具体的には1LPM以下が好ましく、0.1~1LPMがより好ましい。
【0043】
(成膜工程)
成膜工程では、前記霧化液滴を反応させて、前記凹凸部上に成膜する。前記反応は、前記霧化液滴から膜が形成される反応であれば特に限定されないが、本発明においては、熱反応が好ましい。前記熱反応は、熱でもって前記霧化液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、原料溶液の溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、高すぎない温度以下が好ましく、650℃以下がより好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが蒸発温度の計算がより簡単になり、設備等も簡素化できる等の点で好ましい。また、膜厚は成膜時間を調整することにより、設定することができる。
【0044】
以下、図面を用いて、本発明に好適に用いられる成膜装置19を説明する。図9の成膜装置19は、キャリアガスを供給するキャリアガス源22aと、キャリアガス源22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)源22bと、キャリアガス(希釈)源22bから送り出されるキャリアガス(希釈)の流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、成膜室30と、ミスト発生源24から成膜室30までをつなぐ石英製の供給管27と、成膜室30内に設置されたホットプレート(ヒーター)28とを備えている。ホットプレート28上には、基板20が設置されている。
【0045】
そして、図9に記載のとおり、原料溶液24aをミスト発生源24内に収容する。次に、基板20を用いて、ホットプレート28上に設置し、ホットプレート28を作動させて成膜室30内の温度を昇温させる。次に、流量調節弁23(23a、23b)を開いてキャリアガス源22(22a、22b)からキャリアガスを成膜室30内に供給し、成膜室30の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量と、キャリアガス(希釈)の流量とをそれぞれ調節する。次に、超音波振動子26を振動させ、その振動を、水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを微粒子化させて霧化液滴24bを生成する。この霧化液滴24bが、キャリアガスによって成膜室30内に導入され、基板20まで搬送され、そして、大気圧下、成膜室30内で霧化液滴24bが熱反応して、基板20上に膜が形成される。
【0046】
また、図10に示すミストCVD装置(成膜装置)19を用いるのも好ましい。図10のミストCVD装置19は、基板20を載置するサセプタ21と、キャリアガスを供給するキャリアガス供給手段22aと、キャリアガス供給手段22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)供給手段22bと、キャリアガス(希釈)供給手段22bから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる供給管27と、供給管27の周辺部に設置されたヒーター28と、熱反応後のミスト、液滴および排気ガスを排出する排気口29とを備えている。サセプタ21は、石英からなり、基板20を載置する面が水平面から傾斜している。成膜室となる供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。このミストCVD装置19は、前記の成膜装置19と同様に扱うことができる。
【0047】
前記の好適な成膜装置を用いれば、前記結晶基板の結晶成長面上に、より容易にエピタキシャル層を形成することができる。なお、エピタキシャル層は、通常、エピタキシャル結晶成長により形成される。
【0048】
また、前記の好ましい成膜方法によれば、通常、本発明の結晶性酸化物膜は、前記結晶基板とともに結晶性積層構造体として得ることができる。前記結晶性積層構造体は、通常、コランダム構造を有する結晶基板の結晶成長面上に、直接または他の層を介して、c軸に垂直または略垂直な方向に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されており、前記凹凸部上に、コランダム構造の横方向成長領域を含むエピタキシャル層が形成されている結晶性積層構造体であって、前記横方向成長領域の結晶成長方向が前記結晶基板の結晶成長面に対し平行方向または略平行方向であることを特長とする。本発明の実施態様においては、前記結晶基板の結晶成長面上に、直接または他の層を介して、a軸方向の凹部または凸部を含む凹凸部が形成されているのが好ましい。
【0049】
「結晶性積層構造体」とは、一層以上の結晶層を含む構造体であり、結晶層以外の層(例:アモルファス層)を含んでいてもよい。また、結晶層は、単結晶層であることが好ましいが、多結晶層であってもよい。また、本発明において、「結晶成長面に対し平行方向または略平行方向」とは、通常、結晶基板の結晶成長面(主面)に対する平行方向との成す角度が±10度の範囲内の方向であり、好ましくは±5度の範囲内の方向であることを意味する。
【0050】
図7は、前記結晶性積層構造体の断面図を示している。図7の結晶性積層構造体は、結晶基板1上に、凸部2aが形成されており、さらに、エピタキシャル層3が結晶成長により形成されている。エピタキシャル層3は、凸部2aにより、コランダム構造を有するエピタキシャル膜が横方向にも結晶成長しており、このようにして得られたコランダム構造を有する結晶膜は、凹凸部のないコランダム構造を有する結晶膜に比べて全く異なる高品質の結晶膜となる。また、バッファ層を設けた場合の例を図8に示す。図8の結晶性積層構造体は、結晶基板1上に、バッファ層5が形成されており、バッファ層5上に凸部2aが形成されている。そして、凸部2a上に、エピタキシャル層3が形成されている。図8の結晶性積層構造体も図7と同様に、凸部2aにより、コランダム構造を有する結晶膜が、横方向に結晶成長しており、高品質のコランダム構造を有する結晶膜が形成されている。
【0051】
前記エピタキシャル層は、通常、ファセット成長領域を実質的に含まないコランダム構造の横方向成長領域を含むが、本発明においては、前記横方向成長領域の結晶成長方向がc軸または略c軸方向であるのが好ましい。上記した好ましい成膜方法によれば、通常、c軸または略c軸方向にそれぞれ異なる結晶成長速度で結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士が互いに接合する。なお、本発明において、「c軸または略c軸」とは、通常、c軸方向との成す角度が±10度の範囲内であり、好ましくはc軸方向との成す角度が±5度の範囲内であることを意味する。また、前記横方向成長領域が転位線を含んでおり、該転位線が前記結晶基板の結晶成長面に対し平行方向または略平行方向に伸びているのも好ましく、前記横方向成長領域において、前記結晶基板の結晶成長面に対し平行方向または略平行方向に伸びている転位線が、他の軸方向に伸びている転位線よりも多いのがより好ましい。このようなエピタキシャル層は上記した好ましい成膜手段により容易に形成することができる。
【0052】
また、本発明においては、前記のコランダム構造の横方向成長領域が、少なくとも周期律表第4周期~第6周期の1種または2種以上の金属を含む金属酸化物を主成分とするのが好ましく、前記金属が、少なくともガリウム、インジウム、ロジウムまたはイリジウムを含むのがより好ましい。なお、「主成分」とは、例えば横方向領域に含まれる金属酸化物がα-Gaである場合、前記横方向領域内の金属元素中のガリウムの原子比が0.5以上の割合でα-Gaが含まれていればそれでよい。本発明においては、前記横方向領域内の金属元素中のガリウムの原子比が0.7以上であることが好ましく、0.8以上であるのがより好ましい。
【0053】
また、本発明においては、前記結晶性積層構造体のエピタキシャル層上にさらにエピタキシャル膜を成膜するのが好ましい。このようにさらに成膜することにより、コランダム構造を有する結晶基板の結晶成長面上に、直接または他の層を介して、c軸に垂直または略垂直な方向に凹部または凸部からなる凹凸部が形成されており、前記凹凸部上に、コランダム構造の横方向成長領域を含むエピタキシャル層が形成されている結晶性積層構造体であって、前記横方向成長領域の結晶成長方向が前記結晶基板の結晶成長面に対し平行方向または略平行方向である結晶性積層構造体をより容易に得ることができる。また、このようにさらに成膜することにより、コランダム構造のエピタキシャル膜を含む結晶性酸化物半導体膜であって、c軸または略c軸方向に結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士の接合面上のエピタキシャ層である結晶性酸化物膜を容易に得ることができる。また、このようにさらに成膜することにより、コランダム構造のエピタキシャル膜を含む結晶性酸化物半導体膜であって、c軸または略c軸方向にそれぞれ異なる結晶成長速度で結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士の接合面上のエピタキシャル層である結晶性酸化物膜をより容易に得ることができる。このような構成の結晶性酸化物膜によれば、コランダム構造のエピタキシャル膜であっても、横方向成長領域がファセット領域を実質的に含まず、且つ転位密度がさらにより低減されたものとすることができる。なお、前記結晶性積層構造体のエピタキシャル層上にさらにエピタキシャル膜を成膜する場合、前記エピタキシャル層(第1の結晶層)上に凹凸部を形成した後、さらに前記エピタキシャル膜(第2の結晶層)を成膜するのが、転位密度の低減効果をより好適に発現することができるので、好ましい。
【0054】
本発明においては、前記凹凸部上に、c軸または略c軸方向に結晶成長が拡がった結晶性酸化物同士が接合されているのが好ましく、前記エピタキシャル層が転位線を実質的に含んでいないか、または前記結晶基板の結晶成長面に対し平行方向または略平行方向に伸びている転位線を含むのも好ましい。また、前記エピタキシャル層が、ファセット成長領域を実質的に含まないのが好ましい。このようなエピタキシャル層は上記した好ましい成膜手段により容易に形成することができる。
【0055】
また、本発明においては、コランダム構造のエピタキシャル層が、少なくとも周期律表第4周期~第6周期の1種または2種以上の金属を含む金属酸化物を主成分とするのが好ましく、前記金属が、少なくともガリウム、インジウム、ロジウムまたはイリジウムを含むのがより好ましい。なお、「主成分」とは、例えばエピタキシャル層に含まれる金属酸化物がα-Gaである場合、前記エピタキシャル層の金属元素中のガリウムの原子比が0.5以上の割合でα-Gaが含まれていればそれでよい。本発明においては、前記エピタキシャル層の金属元素中のガリウムの原子比が0.7以上であることが好ましく、0.8以上であるのがより好ましい。
【0056】
前記結晶性積層構造体は半導体装置に有用である。前記結晶性積層構造体を用いて形成される半導体装置としては、MISやHEMT等のトランジスタやTFT、半導体‐金属接合を利用したショットキーバリアダイオード、JBS、他のP層と組み合わせたPN又はPINダイオード、受発光素子などが挙げられる。本発明においては、前記結晶性積層構造体をそのまま又は前記結晶基板と前記結晶性酸化物膜とを剥離等して、半導体装置に用いることができる。
【0057】
本発明の半導体装置は、上記した事項に加え、さらに公知の手段を用いて、パワーモジュール、インバータまたはコンバータとして好適に用いられ、さらには、例えば電源装置を用いた半導体システム等に好適に用いられる。前記電源装置は、公知の手段を用いて、配線パターン等に接続するなどすることにより、前記半導体装置からまたは前記半導体装置として作製することができる。図11に電源システムの例を示す。図11は、複数の前記電源装置171、172と制御回路173を用いて電源システム170を構成している。前記電源システムは、図12に示すように、電子回路181と電源システム182とを組み合わせてシステム装置180に用いることができる。なお、電源装置の電源回路図の一例を図13に示す。図13は、パワー回路と制御回路からなる電源装置の電源回路を示しており、インバータ192(MOSFETA~Dで構成)によりDC電圧を高周波でスイッチングしACへ変換後、トランス193で絶縁及び変圧を実施し、整流MOSFET194(A~B’)で整流後、DCL195(平滑用コイルL1,L2)とコンデンサにて平滑し、直流電圧を出力する。この時に電圧比較器197で出力電圧を基準電圧と比較し、所望の出力電圧となるようPWM制御回路196でインバータ192及び整流MOSFET194を制御する。
【0058】
(実施例1)
1.成膜装置
本実施例では図9に示す成膜装置19を用いた。
【0059】
2.原料溶液の作製
臭化ガリウム(GaBr)0.1Mの水溶液に、臭化水素酸(HBr)20体積%を加え、これを原料溶液とした。
【0060】
3.成膜準備
上記2.で得られた原料溶液24aをミスト発生源24内に収容した。次に、基板20として、a軸方向にストライプのパターンマスクが施されているm面サファイア基板を用いて、ホットプレート28上に設置し、ホットプレート28を作動させて基板温度を550℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23a、23bを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給手段22a、22bからキャリアガスを成膜室30内に供給し、成膜室30の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、供給律速となるように、キャリアガスの流量を1L/分に調節した。キャリアガスとして窒素を用いた。
【0061】
4.成膜
次に、超音波振動子26を2.4MHzで振動させ、その振動を、水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを霧化させてミスト(霧化液滴)24bを生成させた。このミスト24bが、キャリアガスによって、供給管27内を通って、成膜室30内に導入され、大気圧下、550℃にて、基板20上でミストが熱反応して、基板20上に成膜した。成膜時間は2時間であった。得られた膜は、X線回折装置を用いて同定したところ、α-Ga単結晶膜であった。また、得られた膜を顕微鏡にて断面形状を観察した。顕微鏡像を図14に示す。また、参考までに上面を観察した顕微鏡像を図15に示す。図14および図15から明らかなように、ファセット成長は特に確認できず、また、転位のない非常に良質な略c軸ELO膜が形成されていることがわかる。
【0062】
(比較例1)
キャリアガスの流量を、供給律速とはならないように4L/分とし、キャリアガス(希釈)の流量を0.5L/分としたこと以外は、実施例1と同様にして成膜した。得られた膜はα-Ga膜であったが、三角形のファセット構造が確認された。また、ファセット内部では、らせん転位が斜めに入っていた。
【0063】
(実施例2)
1.第1の結晶層の形成
成膜温度を600℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、第1の結晶層を形成した。得られた膜は、X線回折装置を用いて同定したところ、α-Ga単結晶膜であった。
【0064】
2.第2の結晶層の形成
上記1.で得られた第1の結晶膜上に、a軸方向にストライプのSiOからなるパターンを形成した。なお、パターンは、第1の結晶層における結晶性酸化物同士の接合面上に開口部が設けられるように形成した。得られたパターン付きの第1の結晶膜上に、上記1.と同様にして、第2の結晶層を形成した。得られた膜は、X線回折装置を用いて同定したところ、α-Ga単結晶膜であった。
【0065】
3.評価
得られた膜を顕微鏡にて断面形状を観察した。顕微鏡像を図16に示す。図16から明らかなように、c軸または略c軸方向に結晶成長が広がった結晶性酸化物同士が接合されており、さらに、該接合面上にコランダム構造のエピタキシャル層が形成されていることがわかる。さらに、得られた膜についてTEM観察を行った結果、ファセット成長は特に確認できなかった。また、転位密度を測定したところ、パターンマスクが施されていない基板を用いて成膜した場合と比較して転位密度が2桁以上低減されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の結晶性酸化物膜は、半導体(例えば化合物半導体電子デバイス等)、電子部品・電気機器部品、光学・電子写真関連装置、工業部材などあらゆる分野に用いることができるが、特に、半導体装置およびその部材等に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 結晶基板
1a 結晶成長面
2a 凸部
2b 凹部
3 エピタキシャル層
4 マスク層
5 バッファ層
19 成膜装置
20 基板
21 サセプタ
22a キャリアガス供給手段
22b キャリアガス(希釈)供給手段
23a 流量調節弁
23b 流量調節弁
24 ミスト発生源
24a 原料溶液
25 容器
25a 水
26 超音波振動子
27 供給管
28 ヒーター
29 排気口
30 成膜室
170 電源システム
171 電源装置
172 電源装置
173 制御回路
180 システム装置
181 電子回路
182 電源システム
192 インバータ
193 トランス
194 整流MOSFET
195 DCL
196 PWM制御回路
197 電圧比較器

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16