(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-09
(45)【発行日】2025-09-18
(54)【発明の名称】最終糖化産物吸着材
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20250910BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20250910BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20250910BHJP
A61M 1/36 20060101ALN20250910BHJP
【FI】
B01J20/26 H
B01J20/30
B01D15/00 Z
A61M1/36 161
(21)【出願番号】P 2020190574
(22)【出願日】2020-11-16
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】山村 泰史
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-238404(JP,A)
【文献】国際公開第2019/135371(WO,A1)
【文献】特開2013-103208(JP,A)
【文献】国際公開第2007/037554(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/28
B01J20/30-20/34
B01D15/00-15/42
A61M 1/00- 1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリメタクリル酸メチル、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート、ポリメチルビニルエーテル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、酢酸セルロース、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシド-ポリ(テレフタル酸ブチレン)共重合体、及びポリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の基材、及び(B)質量平均分子量が1000~100万である、カルボキシル基を有するアクリル系水溶性ポリマーを含む複合体を備える、最終糖化産物吸着材。
【請求項2】
複合体が多孔質である、請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
(A)基材が水不溶性ポリマーである、請求項1又は2に記載の吸着材。
【請求項4】
(B)酸性基を有するポリマーが水溶性ポリマーである、請求項1~3の何れかに記載の吸着材。
【請求項5】
複合体がさらに(C)多価金属イオンを含む、請求項1~4の何れかに記載の吸着材。
【請求項6】
多価金属濃度が、複合体の乾燥重量での全量に対して1~30重量%である、請求項5に記載の吸着材。
【請求項7】
さらにリンを吸着するための、請求項5又は6に記載の吸着材。
【請求項8】
請求項1~4の何れかに記載の吸着材が充填された、最終糖化産物吸着用カラム。
【請求項9】
請求項5又は6に記載の吸着材が充填された、最終糖化産物とリンを吸着するためのカラム。
【請求項10】
(A)ポリメタクリル酸メチル、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート、ポリメチルビニルエーテル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、酢酸セルロース、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシド-ポリ(テレフタル酸ブチレン)共重合体、及びポリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の基材及び(B)質量平均分子量が1000~100万である、カルボキシル基を有するアクリル系水溶性ポリマーを含む溶液又は懸濁液と、(C)多価金属イオンの塩を含む基材の貧溶媒とを接触させる工程を含む、最終糖化産物吸着材の製造方法。
【請求項11】
(A)基材及び(B)酸性基を有するポリマーを含む溶液又は懸濁液における(A)基材の含有量が、乾燥重量で、(B)酸性基を有するポリマーの1重量部に対して、1~50重量部である、請求項
10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1~4の何れかに記載の吸着材と、最終糖化産物吸着対象試料又は除去対象材料とを接触させる工程を含む、最終糖化産物が除去された又は減少した試料又は材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病合併症など多くの疾患の原因となる最終糖化産物を効率的に除去できる最終糖化産物吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
糖類は、生命活動に必要な栄養素であるが、生体内のタンパク質のリジン残基やアルギニン残基などを修飾し架橋を形成することによりタンパク質の立体構造を変化させ、その活性や物性に影響を及ぼす。グルコースの種々の代謝産物がタンパク質と結合し、さらに酸化、脱水、縮合などの多段階の反応を経て生成した最終産物が、最終糖化産物(AGEs:Advanced Glycation End-products;以下、「AGEs」という)である。タンパク質と結合してAGEsを生成するグルコース代謝産物として、グリオキサゾール、グリコールアルデヒド、アマドリ化合物、3-デオキシグルコソン、メチルグリオキサゾール、グリセルアルデヒド、ヘインズ化合物などが知られている。
生体内で生成するAGEsの中でも、特にグリセルアルデヒド由来のAGEsは毒性が強く、糖尿病合併症、動脈硬化、骨粗しょう症、後縦靭帯骨化症、筋萎縮、関節リウマチ、加齢黄班変性、白内障、非アルコール性脂肪肝炎、インスリン抵抗性、歯周病、アルツハイマー病、皮膚疾患、皮膚老化などの多様な疾患の発症や進展に関わっている。
【0003】
AGEsを生成し易い食品の摂取を控えることで体内のAGEsを減少させることができるが、それでは不十分な患者には、血液を体外に取り出し、血液中のAGEsを除去して、その患者の体内に戻す治療法が提案されている。
【0004】
血液体外循環によるAGEsの除去に用いる吸着材として種々のものが提案されている。例えば、特許文献1は、特定のアミノ酸配列を有するペプチドがAGEsに親和性を有し、このペプチドを水不溶性担体に固定化したものがAGEs吸着材として使用できることを教えている。
また、特許文献2は、AGEsの一種が結合することで、糖尿病合併症の発症を引き起こす受容体であるRAGE(Receptor to r AGE)の全アミノ酸配列又は部分アミノ酸配列を有するペプチドを水不溶性担体に固定化したものは、血液体外循環用途のAGEs吸着材として使用できることを教えている。
しかし、これらの吸着材は、ペプチドであることから、流通や保管に特別の注意が必要であり、簡便に使用できるものではない。
【0005】
また、特許文献3は、特定の親水性メタクリレート含有共重合体はAGEsを吸着し、AGEsを除去するための血液透析カラムの充填材として使用できることを教えている。
また、特許文献4は、芳香環を有するアルキルアミノ化合物がAGEsと低密度リポタンパク質に親和性を有し、このアルキルアミノ化合物を有機高分子支持体に結合させたものは、AGEsと低密度リポタンパク質を除去するための吸着材として使用できることを教えている。
これらの吸着材は、変性し易いペプチドやタンパク質を含まないため、取り扱いが容易であるが、血液中のAGEsの吸着効率が実用上十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-63024号
【文献】国際公開2001/18060号
【文献】国際公開2007/037554号
【文献】特開2013-17536号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、AGEsを効率よく吸着できる、取り扱いが容易なAGEs吸着材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者は研究を重ね、以下の知見を得た。
(1) (A)基材と(B)酸性基を有するポリマーを含む複合体は、AGEsを効率よく吸着する。
(2) 複合体が、(A)基材と(B)酸性基を有するポリマーに加えて、さらに(C)多価金属イオンを含むときは、AGEsに加えてリンを効率よく吸着する。
【0009】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の〔1〕~〔14〕を提供する。
〔1〕 (A)基材、及び(B)酸性基を有するポリマーを含む複合体を備える、最終糖化産物吸着材。
〔2〕 複合体が多孔質である、〔1〕に記載の吸着材。
〔3〕 (A)基材が水不溶性ポリマーである、〔1〕又は〔2〕に記載の吸着材。
〔4〕 (B)酸性基を有するポリマーが水溶性ポリマーである、〔1〕~〔3〕の何れかに記載の吸着材。
〔5〕 複合体がさらに(C)多価金属イオンを含む、〔1〕~〔4〕の何れかに記載の吸着材。
〔6〕 多価金属濃度が、複合体の乾燥重量での全量に対して1~30重量%である、〔5〕に記載の吸着材。
〔7〕 さらにリンを吸着するための、〔5〕又は〔6〕に記載の吸着材。
〔8〕 〔1〕~〔4〕の何れかに記載の吸着材が充填された、最終糖化産物吸着用カラム。
〔9〕 請求項5又は6に記載の吸着材が充填された、最終糖化産物とリンを吸着するためのカラム。
〔10〕 (A)基材及び(B)酸性基を有するポリマーを含む溶液又は懸濁液を、基材の貧溶媒を含む溶液と接触させる工程を含む方法により得られる複合体を備える、最終糖化産物吸着材。
〔11〕 (A)基材及び(B)酸性基を有するポリマーを含む溶液又は懸濁液における(A)基材の含有量が、乾燥重量で、(B)酸性基を有するポリマーの1重量部に対して、1~50重量部である、〔10〕に記載の吸着材。
〔12〕 (A)基材及び(B)酸性基を有するポリマーを含む溶液又は懸濁液と、(C)多価金属イオンの塩を含む基材の貧溶媒とを接触させる工程を含む、最終糖化産物吸着材の製造方法。
〔13〕 (A)基材及び(B)酸性基を有するポリマーを含む溶液又は懸濁液における(A)基材の含有量が、乾燥重量で、(B)酸性基を有するポリマーの1重量部に対して、1~50重量部である、〔12〕に記載の製造方法。
〔14〕 〔1〕~〔4〕の何れかに記載の吸着材と、最終糖化産物吸着対象試料又は除去対象材料とを接触させる工程を含む、最終糖化産物が除去された又は減少した試料又は材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸着材は、(A)基材と(B)酸性基を有するポリマーを含む複合体であることにより、AGEsを効率よく吸着する。従って、例えば、患者血液を同じ患者に戻すことを前提とした血液体外循環によるAGEsの吸着除去に好適に使用できる。また、食品、化粧品、血液製剤のような医薬品の中のAGEsを除去するために使用することもできる。
AGEsが原因となる各種疾患の中でも、糖尿病合併症の一つである糖尿病性腎不全の患者は、透析治療を受ける場合があるが、本発明の吸着材は、糖尿病性腎不全患者の透析と併用して、AGEsを除去するのに有用である。
【0011】
また、本発明の吸着材が、(A)基材と(B)酸性基を有するポリマーに加えて、(C)多価金属イオンを含むときは、AGEsに加えてリンを効率よく吸着する。
リンは、生体を構成する不可欠な成分であり、主要な細胞内イオンであり、エネルギー代謝にも関与するため、血液中のリン濃度は適切な範囲に保たれる必要がある。ところが、腎機能不全などに起因して、腎臓からのリン排泄が低下すると、血液中のリン濃度が異常に高くなる高リン血症に陥る。高リン血症は、骨を脆くし、軟部組織の石灰化を引き起こして脳卒中や心筋梗塞の原因となる。
AGEsが原因となる各種疾患の中でも、糖尿病合併症の一つである糖尿病性腎不全の患者は、現在の透析条件ではリンを十分に排出できないため、高リン血症に陥り易い。従って、本発明の吸着材が(C)多価金属イオンを含むことにより、AGEsに加えてリンを効率よく吸着する場合は、例えば、糖尿病性腎不全患者の透析と併用して、AGEsとリンを同時に除去するのに有用である。
【0012】
本発明の吸着材が多価金属イオンを含む場合の多価金属イオンは、リン酸イオンのようなリン含有アニオンとの結合により、酸性基を有するポリマーの酸性基との結合数が低下して酸性基を有するポリマーから遊離し易い状態になるが、実際には、多価金属イオンとアニオンとの塩はこの複合体から脱離し難い。この理論に拘束されないが、金属イオンが多価イオンであるためアニオンと結合を生じるとともに酸性基を有するポリマーの酸性基との結合を一部残しているため、あるいは、基材と酸性基を有するポリマーとの複合体が、酸性基から遊離した多価金属塩を包接ないしは埋設して、複合体からの脱離を抑制しているためと考えられる。このように、生成した多価金属塩が複合体に保持されるため、リンの吸着後に吸着材からの不要な成分の溶出が抑えられており、本発明の吸着材は、患者血液を同じ患者に戻すことを前提とした血液体外循環による吸着除去に好適に用いることができる。また、食品、化粧品、医薬品の処理に用いても、これらへの多価金属の混入による毒性発現の恐れがない。
【0013】
また、本発明の吸着材が多価金属イオンを含む場合、吸着対象試料中のアニオンと多価金属の結合に伴い酸性基を有するポリマーの酸性基がフリーとなっても、酸性基を有するポリマーが基材と強固に絡み合った複合体を形成していると考えられるため、酸性基を有するポリマーは複合体から脱離しない。従って、吸着対象試料中に余計な成分を増やすことがない。特に、体外循環させた血液、食品、化粧品、医薬品といった人に適用する試料では、処理後の吸着対象試料中に余計な成分が入ることは避けるべきであるため、この点でも、本発明の吸着材は、血液体外循環によるAGEs、リンの除去や、食品、化粧品、医薬品からのAGEs、リンの除去に好適に用いることができる。
【0014】
本発明の吸着材は、ペプチドやタンパク質ではないため、流通、保存時の変性を抑えるための特別の管理を必要とせず、取り扱いが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の吸着材によるカルボキシメチルリジンの吸着率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のAGEs吸着材は、(A)基材、及び(B)酸性基を有するポリマーを含む複合体を備える吸着材である。
【0017】
(1)複合体
(A)基材
基材としては、ポリマーを用いることができる。基材は、酸性基を有するポリマーと共に複合体を形成した状態又は酸性基を有するポリマー及び多価金属イオンと共に複合体を形成した状態で、水不溶性になるものであればよい。具体的には、使用目的に適した温度範囲で複合体が水不溶性となるものであればよく、好ましくは25~45℃の温度下で水不溶性となるものであればよい。体温付近の温度である25~45℃の温度下で複合体が水不溶性となるものであれば、血液体外循環における吸着材として好適に用いることができる。
中でも、複合体を水不溶性にし易い点で、基材自体が水不溶性ポリマーであることが好ましい。本発明において、水不溶性ポリマーには、温度、pH、イオン強度、溶媒などの条件の調整により水不溶性となるポリマーも含まれる。例えば、デンプンは、水中での加熱とその後の冷却により水を含んだハイドロゲルを形成し、水不溶性となるため、このようなポリマーも本発明の水不溶性ポリマーに含まれる。また、本発明において、水難溶性ポリマーも水不溶性ポリマーに含まれる。
【0018】
基材としては、合成ポリマーでは、アクリレート系ポリマー(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレートなど)、ポリメチルビニルエーテル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリスチレン、ポリエチレンのようなビニル系ポリマー;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホンのようなスルホニル基含有ポリマー;ポリカーボネート;ポリプロピレン;酢酸セルロースのようなセルロース誘導体;ポリラクチド(PLA);ポリグリコリド(PGA);ポリカプロラクトン(PCL);ポリエチレンオキシド-ポリ(テレフタル酸ブチレン)共重合体;ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
また、天然ポリマーでは、グルカン(デンプン、セルロース、カードラン、プルラン、グリコーゲンなど)、キトサン、キチン、アガロース又は寒天、ゼラチン、コラーゲン、リグニンなどが挙げられる。デンプンは、直鎖状のアミロースと分岐鎖状のアミロペクチンを含む。
これらは、生体適合性がある又は生体適合性が高い水不溶性ポリマーである。
なお、ポリスルホンのように疎水性の強いポリマーは、AGEs吸着対象試料との親和性を向上させるために、ポリビニルピロリドン(PVP)などの親水化剤と混合して親水性を高めることが望ましい。
中でも、ポリマー組成の均一性の点で、合成ポリマーが好ましく、中でも血液体外循環用途に使用された臨床実績のあるポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンがより好ましい。
基材は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
(B)酸性基を有するポリマー
酸性基を有するポリマーは、複合体中で多価金属イオンを静電的に担持することができる。
酸性基の位置及び数は特に制限されない。また、単一モノマーの重合体であってもよく、複数種のモノマーの共重合体であってもよい。酸性基を有するモノマーをその構成成分として多く有する重合体であれば、分子全体に多数の酸性基を有することになる。
また、酸性基を有するポリマーは、水溶性ポリマー又は水不溶性ポリマーの何れであってもよいが、水との親和性が高く血液や食品中でAGEsを吸着し易い点で、水溶性ポリマーであることが好ましい。
【0020】
酸性基としては、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基などが挙げられる。
カルボキシル基を有するポリマーとしては、ポリアクリル酸(PAA)などのアクリル系ポリマー、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロースなどのセルロース系ポリマー、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシビニルポリマーのような合成ポリマー;ペクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸のような天然ポリマーが挙げられる。
スルホ基を有するポリマーとしては、ポリエチレンスルホン酸(ポリビニルスルホン酸)、ポリスチレンスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパン-スルホン酸)、ポリ(3-(メタ)アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、ポリ(2-メチル-1,3-ブタジエン-1-スルホン酸)、ポリ(2-ヒドロキシ-3-アクリルアミドプロパンスルホン酸)、デキストラン硫酸のような合成ポリマー;カラギーナン、ケラタン硫酸、コンドロイチン硫酸、フコイダン、ヘパラン硫酸のような天然ポリマーが挙げられる。
また、カルボキシル基とスルホ基を併せ持つポリマーとして、アクリル酸・エチレンスルホン酸共重合体、メタクリル酸・スチレンスルホン酸共重合体、アクリル酸・ビニル硫酸共重合体、アクリル酸・スチレンスルホン酸共重合体、メタクリル酸・エチレンスルホン酸共重合体、メタクリル酸・ビニル硫酸共重合体などの合成ポリマーが挙げられる。
また、アクリル系ポリマーなどの汎用ポリマーにカルボキシル基、スルホ基、及び/又はリン酸基などを導入した誘導体なども用いることもできる。
この他、市販の陽イオン交換樹脂も用いることができる。
中でも、ポリマー組成の均一性の点で、合成ポリマーが好ましく、中でもコスト、原材料の安定供給の点で、ポリアクリル酸がより好ましい。
【0021】
酸性基を有するポリマーの質量平均分子量は、1000以上、中でも2000以上、中でも5000以上が好ましく、5000000以下、中でも2000000以下、中でも1000000以下が好ましい。分子量が極端に低すぎると、基材との分子の絡み合い度合いが小さくなり溶出する場合があり、一方で、分子量が極端に高すぎると、複合体成形に使用する酸性基を有するポリマーを含む溶液又は懸濁液の粘度が高くなり成形が困難になる場合があるが、上記範囲であればこのような問題は生じない。本発明において、酸性基を有するポリマーの質量平均分子量は、測定対象の物質を溶解させる溶媒に溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により測定した値である。
酸性基を有するポリマーの質量平均分子量としては、例えば、1000~5000000、1000~2000000、1000~1000000、2000~5000000、2000~2000000、2000~1000000、5000~5000000、5000~2000000、5000~1000000が挙げられる。
酸性基を有するポリマーは、1種又は2種以上を使用することができる。
【0022】
基材と酸性基を有するポリマーとの組み合わせとしては、複合体を製造する時の原液となるこれら両成分を含む溶液内で相溶するポリマー同士の組み合わせが、複合体内で基材と酸性基を有するポリマーの分子同士の絡み合いの度合いが高くなることから好ましい。
例えば、アクリレート系ポリマー、グルカン、及びスルホニル基含有ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の基材と、カルボキシル基を有するポリマー(中でも、カルボキシル基を有するアクリレート系ポリマー、カルボキシル基を有するセルロース系ポリマー、及びカルボキシル基を有する天然ポリマー)からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸性基を有するポリマーとの組み合わせなどが挙げられる。
好ましくは、アクリレート系ポリマーとカルボキシル基を有するポリマー(中でも、カルボキシル基を有するアクリレート系ポリマー)との組み合わせ、グルカンとカルボキシル基を有するポリマー(中でも、カルボキシル基を有するアクリレート系ポリマー、セルロース系ポリマー、又は天然ポリマー)との組み合わせ、スルホニル基含有ポリマーとカルボキシル基を有するポリマー(中でも、カルボキシル基を有するアクリレート系ポリマー)との組み合わせが挙げられる。
特に好ましくは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)とポリアクリル酸(PAA)との組み合わせ、デンプンとポリアクリル酸(PAA)との組み合わせ、デンプンとカルボキシメチルセルロース(CMC)との組み合わせ、デンプンとアルギン酸との組み合わせ、ポリエーテルスルホン(PES)とポリアクリル酸(PAA)との組み合わせ、ポリスルホン(PSU)とポリアクリル酸(PAA)との組み合わせが挙げられる。
【0023】
複合体の製造方法
基材と酸性基を有するポリマーを含む溶液又は懸濁液(以下、「吸着材原液」ということがある)を、基材の貧溶媒と接触させることにより、吸着材原液が凝固して、基材と酸性基を有するポリマーを含む複合体が得られる。
【0024】
基材と酸性基を有するポリマーを溶解又は懸濁させる溶媒は、基材と酸性基を有するポリマーとの混合物を溶解又は懸濁させるものであればよく、水、親水性溶媒又は極性溶媒、疎水性溶媒が挙げられる。成形性の点から、基材と酸性基を有するポリマーを共に溶解できる溶媒であることが好ましい。また、常温では溶解できなくとも、加熱することで溶解させるような溶媒であってもよい。
親水性溶媒ないしは極性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールのような低級アルコール;エチレングルコール、プロピレングリコールのようなグリコール類;アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンのようなアルキルエーテル類;ジメチルスルホキシド;ジメチルアセトアミド;ジメチルホルムアミド;N-メチルピロリドン;アセトニトリル;ジオキサンなどが挙げられる。
疎水性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族化合物;ヘキサン、シクロヘキサンのような脂肪族炭化水素化合物;酢酸メチル、酢酸エチルのような酢酸エステル;クロロホルム、ジクロロメタンのようなハロゲン化炭化水素化合物などが挙げられる。
中でも、後の洗浄工程において水によって容易に除去できる点で、水、親水性溶媒、及び/又は極性溶媒が好ましく、中でも透析器用の中空糸膜の原液溶媒に使われるなど、血液体外循環用途に用いられる既存の材料の製造において既に使用されている実績がある点で、水、低級アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが好ましい。また、基材又は酸性基を有するポリマーが天然ポリマーである場合は、溶媒は水が好ましい。
溶媒は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0025】
基材と酸性基を有するポリマーとの使用比率は、乾燥重量で、酸性基を有するポリマー1重量部に対して、基材が1重量部以上(特に、1重量部超)が好ましく、2重量部以上、5重量部以上、10重量部以上、又は30重量部以上とすることもできる。この範囲であれば、複合体を粒子状や糸状などの一定の形状に成形することができ、また、吸着材の使用中に複合体が崩壊せず、形状を維持することができる。また、吸着材の使用中に酸性基を有するポリマーが複合体から脱離して吸着対象試料中に混入することが抑えられる。
また、基材と酸性基を有するポリマーとの使用比率は、乾燥重量で、酸性基を有するポリマー1重量部に対して、基材が50重量部以下、中でも40重量部以下、中でも30重量部以下、中でも20重量部以下が好ましい。また、10重量部以下とすることもできる。この範囲であれば、さらに多価金属イオンを含む場合にその担持量が十分になり、その結果、実用上十分なリン吸着能が得られる。
基材と酸性基を有するポリマーとの使用比率としては、酸性基を有するポリマー1重量部に対して、例えば、基材が1重量部~50重量部(特に、l重量部を超えて50重量部以下)、1重量部~40重量部(特に、l重量部を超えて40重量部以下)、1重量部~30重量部(特に、l重量部を超えて30重量部以下)、1重量部~20重量部(特に、l重量部を超えて20重量部以下)、1重量部~10重量部(特に、l重量部を超えて10重量部以下)、2重量部~50重量部、2重量部~40重量部、2重量部~30重量部、2重量部~20重量部、2重量部~10重量部、5重量部~50重量部、5重量部~40重量部、5重量部~30重量部、5重量部~20重量部、5重量部~10重量部、10重量部~50重量部、10重量部~40重量部、10重量部~30重量部、10重量部~20重量部、30重量部~50重量部、30重量部~40重量部が挙げられる。
【0026】
吸着材原液中の基材濃度は、吸着材原液の全量に対して、2.5重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましく、5重量%以上がさらに好ましい。また、50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。この範囲であれば、吸着材原液と基材の貧溶媒との接触により、複合体を粒子状や糸状などの吸着材に適した形状に成形することができる。また、基材の種類によってはゲル状の複合体が得られる場合もあるが、上記濃度範囲であれば、基材の貧溶媒中にゲル塊を形成することができる。
吸着材原液の全量に対する基材濃度としては、例えば、2.5重量%~50重量%、2.5重量%~30重量%、2.5重量%~20重量%、3重量%~50重量%、3重量%~30重量%、3重量%~20重量%、5重量%~50重量%、5重量%~30重量%、5重量%~20重量%が挙げられる。
【0027】
吸着材原液中の酸性基を有するポリマーの濃度は、吸着材原液の全量に対して、0.3重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、1重量%以上がより好ましく、2重量%以上がさらに好ましい。また、15重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。この範囲であれば、吸着材原液と基材の貧溶媒との接触により、複合体を粒子状や糸状などの吸着材に適した形状に成形することができる。また、基材の種類によってはゲル状の複合体が得られる場合もあるが、上記濃度範囲であれば、基材の貧溶媒中にゲル塊を形成することができる。
吸着材原液の全量に対する酸性基を有するポリマーの濃度としては、例えば、0.3重量%~15重量%、0.3重量%~10重量%、0.3重量%~5重量%、0.5重量%~15重量%、0.5重量%~10重量%、0.5重量%~5重量%、1重量%~15重量%、1重量%~10重量%、1重量%~5重量%、2重量%~15重量%、2重量%~10重量%、2重量%~5重量%が挙げられる。
【0028】
吸着材原液を、基材の貧溶媒に液滴状に吐出することにより、吸着材原液はこの貧溶媒と接触することで凝固して、基材と酸性基を有するポリマーの複合体を含む粒子が得られる。
また、基材と酸性基を有するポリマーを加熱により溶媒に溶解又は融解させたポリマー液を滴下しながら冷却することでも基材と酸性基を有するポリマーの複合体を含む粒子が得られる。基材の貧溶媒中に吸着材原液を液滴状に吐出するためには、例えば、吸着材原液を基材の貧溶媒中に液滴状に滴下したり、吸着材原液を収容した、孔を有するノズルを、基材の貧溶媒中で回転させて、吸着材原液を液滴状に飛散させればよい。
吸着材原液は、必要に応じて、50℃~80℃程度に加温して調製すればよい。吸着材原液の吐出口径や吸着材原液のポリマー濃度、温度、粘度などを調節することにより、生成する粒子の粒子径を制御できる。
【0029】
また、吸着材原液の粘度を調節して、吸着材原液を基材の貧溶媒中に糸状に吐出させれば、基材と酸性基を有するポリマーの複合体を含む糸が得られる。例えば、吸着材原液を基材の貧溶媒中に流下したり、吸着材原液を収容した、孔を有するノズルを、基材の貧溶媒中で回転させて、吸着材原液を連続的に吐出させることにより、糸状の複合体を得ることができる。環状の吐出口を有するオリフィスを用いれば中空糸が得られる。
この場合、吸着材原液のポリマー濃度、温度、粘度などを調節したり、吸着材原液を断続的に吐出させたり、糸を切断することにより、繊維状の複合体とすることもできる。
糸状又は繊維状の複合体を膜状、柱状(柱塊状)などの任意の形態に加工して用いることもできる。成形は、例えば、製紙プロセスにより行える。
【0030】
何れの形状の場合も、得られた複合体を水洗して、複合体に残存する溶媒などの不要成分を除去すればよい。また、複合体は、湿潤状態のまま、又は乾燥して用いることができる。
【0031】
基材と酸性基を有するポリマーの種類によっては、得られる複合体がゲル状になる場合もある。例えば、基材として、デンプン、アガロース又は寒天、ゼラチン、コラーゲンなどの天然ポリマーを用いる場合は、吸着材原液を80~100℃程度に加温した後、0~30℃程度に冷却することにより、吸着材原液がゲル化又は複合体を含むゲルが析出する。複合体を含むゲルを水洗して、複合体に残存する溶媒などの不要成分を除去すればよい。また、複合体は、湿潤状態のまま、又は乾燥して用いることができる。
【0032】
(C)多価金属イオン
本発明の吸着材における複合体は、さらに多価金属イオンを含むことができる。
多価金属イオンとしては、アルカリ土類金属イオン(カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+))、鉄族元素イオン(鉄イオン(Fe2+、Fe3+)、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+))、マグネシウム族元素イオン(マグネシウムイオン(Mg2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、ベリリウムイオン(Be2+))、スズ族元素イオン(チタンイオン(Ti4+)、ジルコニウムイオン(Zr3+、Zr4+)、スズイオン(Sn2+、Sn4+、Sn6+)、ハフニウムイオン(Hf4+))、アルミニウム族元素イオン(アルミニウムイオン(Al3+)、ガリウムイオン(Ga3+)、インジウムイオン(In3+))、希土類元素イオン(イットリウムイオン(Y3+)、ランタンイオン(La3+)、セリウムイオン(Ce3+、Ce4+)、プラセオジムイオン(Pr3+)、ネオジムイオン(Nd3+)、サマリウムイオン(Sm3+)、ユウロピウムイオン(Eu3+))、銅族元素イオン(銅イオン(Cu2+)、金イオン(Au3+))、白金族元素イオン(白金イオン(Pt2+、Pt4+))、マンガン族元素イオン(マンガンイオン(Mn2+)、レニウムイオン(Re4+、Re7+))、土酸元素イオン(ニオブイオン(Nb2+、Nb3+、Nb4+、Nb5+)、タンタルイオン(Ta2+、Ta3+、Ta4+、Ta5+))、クロム族元素イオン(モリブデンイオン(Mo4+))、ランタノイドイオン(トリウムイオン(Th4+))などが挙げられる。
中でも、酸性基を有するポリマーと架橋を形成するのに有利であり、リン酸イオンとの結合力が高い点で、3価以上(例えば、3~6価)、中でも3価の多価金属イオンが好ましく、中でもFe3+、Al3+、La3+がより好ましく、中でも血液内に多く存在し毒性の低いFe3+がさらにより好ましい。多価金属イオンがFe3+である場合、血液体外循環用途にも好適に使用できる吸着材となる。なお、Fe3+以外であっても、毒性の低い多価金属イオンであれば、本発明の吸着材は血液体外循環用途に用いることができる。また、2価の多価金属イオンでは高いリン吸着能が得られる点でCa2+が好ましい。
多価金属イオンは、1種又は2種以上を使用できる。
【0033】
本発明の効果を得る上で、基材及び/又は酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの組み合わせは特に重要ではないが、例えば、基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの組み合わせとして、アクリレート系ポリマー、グルカン、及びスルホニル基含有ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の基材と、カルボキシル基を有するポリマー(中でも、カルボキシル基を有するアクリレート系ポリマー、カルボキシル基を有するセルロース系ポリマー、カルボキシル基を有する天然ポリマー)からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸性基を有するポリマーと、アルカリ土類金属イオン、鉄族元素イオン、及び希土類元素イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価金属イオンとの組み合わせなどが挙げられる。
中でも、アクリレート系ポリマーとカルボキシル基を有するポリマー(中でも、カルボキシル基を有するアクリレート系ポリマー)と鉄族元素イオン(中でも、鉄イオン)との組み合わせ、グルカンとカルボキシル基を有するポリマー(中でも、カルボキシル基を有するアクリレート系ポリマー、セルロース系ポリマー、又は天然ポリマー)とアルカリ土類金属イオン(中でも、カルシウムイオン)、鉄族元素イオン(中でも、鉄イオン)、又は希土類元素イオン(中でも、ランタンイオン)との組み合わせ、スルホニル基含有ポリマーとカルボキシル基を有するポリマー(中でも、カルボキシル基を有するアクリレート系ポリマー)と鉄族元素イオン(中でも、鉄イオン)との組み合わせなどが挙げられる。
中でも、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)とポリアクリル酸(PAA)と鉄イオンとの組み合わせ、デンプンとポリアクリル酸(PAA)と鉄イオンとの組み合わせ、デンプンとカルボキシメチルセルロース(CMC)と鉄イオンとの組み合わせ、デンプンとアルギン酸とカルシウムイオン、鉄イオン、又はランタンイオンとの組み合わせ、デンプンとカルボキシメチルセルロース(CMC)とカルシウムイオン、鉄イオン、又はランタンイオンとの組み合わせ、ポリエーテルスルホン(PES)とポリアクリル酸(PAA)と鉄イオンとの組み合わせ、ポリスルホン(PSU)とポリアクリル酸(PAA)と鉄イオンとの組み合わせなどが挙げられる。
【0034】
多価金属イオンを含む複合体の製造方法
基材と酸性基を有するポリマーを含む溶液又は懸濁液(吸着材原液)と、多価金属塩の水性溶液(中でも、水溶液)とを接触させることにより、酸性基を有するポリマーの酸性基においてカウンターイオンと多価金属イオンとの間で陽イオン交換反応が起こると共に、多価金属イオンを静電的に結合した酸性基を有するポリマーと基材とが複合化して、基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの複合体を形成することができる。
多価金属塩の水性溶液は、基材の貧溶媒である。
【0035】
多価金属塩は水溶性塩であればよく、例えば、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、硫化物、水酸化物、ホウ化物などが挙げられる。
具体的には、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、塩素酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、過マンガン酸カルシウム;硝酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム;酢酸バリウム、塩化バリウム、臭化バリウム、塩素酸バリウム、過塩素酸バリウム、シアン化バリウム;塩化鉄(塩化第一鉄、塩化第二鉄)、臭化鉄(臭化第一鉄、臭化第二鉄)、硝酸鉄(硝酸第一鉄、硝酸第二鉄)、硫酸鉄(硫酸第一鉄、硫酸第二鉄)、硫化鉄(硫化第二鉄)、過塩素酸鉄(過塩素酸第二鉄);塩化コバルト、臭化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩素酸コバルト、過塩素酸コバルト;塩化ニッケル、臭化ニッケル、塩素酸ニッケル、過塩素酸ニッケル;酢酸マグネシウム、チオ硫酸マグネシウム、フッ化マグネシウム、塩化マグネシム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、水素化マグネシウム、二ホウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩素酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム;塩化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸亜鉛、塩素酸亜鉛;塩化ベリリウム、過塩素酸ベリリウム、硫酸ベリリウム;塩化チタン;硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム;硫化スズ、フッ化スズ、塩化スズ、臭化スズ;フッ化ハフニウム、塩化ハフニウム;塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム;臭化インジウム;塩化ガリウム、硫酸ガリウム、硝酸ガリウム;塩化イットリウム、臭化イットリウム、硝酸イットリウム、オルトバナジン酸イットリウム、二酸化硫化イットリウム;塩化ランタン、酢酸ランタン、硝酸ランタン、臭素酸ランタン、硝酸ランタン、セレン酸ランタン、臭素酸ランタン;水酸化セリウム、フッ化セリウム、塩化セリウム、臭化セリウム、ヨウ化セリウム、硫酸セリウム、硝酸セリウム、過塩素酸セリウム、硫化セリウム、シュウ酸セリウム、酢酸セリウム;塩化プラセオジム、硝酸プラセオジム、硫酸プラセオジム、臭素酸プラセオジム;硝酸ネオジム、水酸化ネオジム、硫酸ネオジム、フッ化ネオジム、塩化ネオジム、臭化ネオジム、ヨウ化ネオジム、臭素酸ネオジム、ホウ化ネオジム、酢酸ネオジム;塩化サマリウム、硫化サマリウム;塩化ユウロピウム、硫化ユウロピウム、オキシ塩化ユウロピウム、硫酸ユウロピウム、硝酸ユウロピウム、酢酸ユウロピウム;硫化銅、硝酸銅、塩化銅、臭化銅、硫酸銅、塩素酸銅;フッ化金、塩化金、臭化金、ヨウ化金、水酸化金、テトラクロリド金酸;塩化白金;塩化マンガン、臭化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン;過レニウム酸、過レニウム酸アンモニウム、硫化レニウム;フッ化ニオブ、塩化ニオブ、臭化ニオブ、ヨウ化ニオブ、硫化ニオブ;硫化タンタル、フッ化タンタル、塩化タンタル、臭化タンタル、ヨウ化タンタル;硫化モリブデン;硝酸トリウムなどが挙げられる。
【0036】
多価金属塩水性溶液中の多価金属塩の濃度は、この水性溶液の全量に対して、1重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。この範囲であれば、酸性基を有するポリマーの酸性基に十分に多価金属イオンを結合させることができる。
また、多価金属塩水性溶液中の多価金属塩の濃度は、この水性溶液の全量に対して、50重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、15重量%以下がさらに好ましい。多価金属塩水性溶液中の多価金属塩の濃度が極端に高いと、多価金属塩水性溶液中に、吸着材原液が沈まず、意図した形状の複合体が形成できない場合や、複合体内部まで十分に多価金属イオンを含浸させることができない場合があるが、この範囲であれば、複合体内部に十分に多価金属イオンを含浸させることができる。
多価金属塩水性溶液中の多価金属塩の濃度としては、例えば、1重量%~50重量%、1重量%~20重量%、1重量%~15重量%、5重量%~50重量%、5重量%~20重量%、5重量%~15重量%、10重量%~50重量%、10重量%~20重量%、10重量%~15重量%が挙げられる。
【0037】
水性溶液は、代表的には水溶液であるが、水と親水性溶媒又は極性溶媒との混合物であってもよい。
親水性溶媒又は極性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールのような低級アルコール;エチレングルコール、プロピレングリコールのようなグリコール類;アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンのようなアルキルエーテル類;ジメチルスルホキシド;ジメチルアセトアミド;ジメチルホルムアミド;N-メチルピロリドン;アセトニトリル;ジオキサンなどが挙げられる。
親水性溶媒又は極性溶媒は、1種又は2種以上を使用できる。
水と親水性溶媒又は極性溶媒との混合物の場合、水の含有量は80容量%以上が好ましい。
【0038】
前述した通り、吸着材原液を、基材の貧溶媒に液滴状に吐出することにより、吸着材原液はこの貧溶媒と接触することで凝固して、基材と酸性基を有するポリマーの複合体が得られる。この基材と酸性基を有するポリマーの複合体を多価金属塩の水性溶液中に浸漬することで、基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの複合体を含む粒子が得られる。或いは、吸着材原液を多価金属塩を含む基材の貧溶媒、例えば多価金属塩の水性溶液中に液滴状に吐出することにより、凝固と多価金属イオンの付与を並行して進行させることができ、効率よく基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの複合体を含む粒子が得られる。
また、前述した通り、基材と酸性基を有するポリマーを加熱により溶媒に溶解又は融解させたポリマー液を滴下しながら冷却することでも基材と酸性基を有するポリマーの複合体を含む粒子が得られる。この場合も、多価金属塩の水性溶液中にこの複合体を浸漬、あるいは多価金属塩の水性溶液中に吸着材原液を液滴状に吐出することで、基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの複合体を含む粒子が得られる。
吸着材原液は、必要に応じて、50℃~80℃程度に加温して調製すればよい。吸着材原液の吐出口径や吸着材原液のポリマー濃度、温度、粘度などを調節することにより、生成する粒子の粒子径を制御できる。
【0039】
また、吸着材原液の粘度を調節して、吸着材原液を、多価金属塩の水性溶液中に糸状に吐出させれば、基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの複合体を含む糸が得られる。或いは、粘度を調節した吸着材原液を、基材の貧溶媒溶液に糸状に吐出させて凝固させた後に、多価金属塩の水性溶液中に浸漬することで、基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの複合体を含む糸を得ることもできる。
この場合、吸着材原液のポリマー濃度、温度、粘度などを調節したり、吸着材原液を断続的に吐出させたり、糸を切断することにより、繊維状の複合体とすることもできる。
糸状又は繊維状の複合体を膜状、柱状(柱塊状)などの任意の形態に加工して用いることもできる。成形は、例えば、製紙プロセスにより行える。
【0040】
何れの形状の場合も、得られた複合体を水洗して、複合体に残存する溶媒などの不要成分を除去すればよい。また、複合体は、湿潤状態のまま、又は乾燥して用いることができる。
【0041】
また、前述した通り、基材と酸性基を有するポリマーの種類によっては、得られる複合体がゲル状になる場合もある。このゲルを多価金属塩の水性溶液中に浸漬すれば、ゲルに多価金属イオンが含浸されて、基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとのゲル状複合体が得られる。
複合体を含むゲルを水洗して、複合体に残存する溶媒などの不要成分を除去すればよい。また、複合体は、湿潤状態のまま、又は乾燥して用いることができる。
【0042】
複合体の特性
複合体が粒状である場合、球状、長球(長楕円体)状、柱状、不定形などの種々の形状とすることができる。粒子の大きさは、平均粒子径が100μm以上、中でも500μm以上、中でも1mm以上であることが好ましい。この範囲であれば、血球(直径:2μm~20μm)よりも十分に大きいため、血漿からだけでなく、全血からのAGEsの除去にも用いることができる。即ち、複合体を含む吸着材を充填したカラムなどに全血を通液する場合、吸着材がカラムから流出することを阻止するため、吸着材の粒子径より小さい目開きのフィルターが設置されるが、複合体粒子が血球より十分に大きければ、血球より大きな目開きのフィルターを用いることができ、血球がフィルターに詰まることなく通過でき、かつ、カラムからの吸着材の流出を阻止できる。
また、粒子の大きさは、平均粒子径1cm以下、中でも5mm以下、中でも3mm以下であることが好ましい。この範囲であれば、吸着対象試料との接触面積が広くなり、吸着効率が良い。
複合体が粒状である場合の平均粒子径としては、例えば、100μm~1cm、100μm~5mm、100μm~3mm、500μm~1cm、500μm~5mm、500μm~3mm、1mm~1cm、1mm~5mm、1mm~3mmが挙げられる。
本発明において、平均粒子径は、ふるい分け法で測定した値である。
【0043】
複合体が繊維状である場合、平均繊維径は50μm以上、中でも100μm以上、中でも200μm以上が好ましく、1mm以下、中でも500μm以下、中でも300μm以下が好ましい。この範囲であれば、血球の直径よりも十分に大きいため、全血からのAGEsの除去にも用いることができる。また、吸着対象試料との接触面積が十分になり、吸着効率が良い。
複合体が繊維状である場合の平均繊維径としては、50μm~1mm、50~500μm、50μm~300μm、100μm~1mm、100μm~500μm、100μm~300μm、200μm~1mm、200~500μm、200μm~300μmが挙げられる。
また、平均繊維長は500μm~10cmであればよい。この範囲であれば、カラムへの充填やさらなる成形加工が容易である。平均アスペクト比は10~10000であればよい。「平均アスペクト比」とは、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)をいう。
本発明において、平均繊維径、平均繊維長、及び平均アスペクト比は、繊維の大きさに応じて電子顕微鏡や光学顕微鏡などを用いて、少なくとも20本のランダムに選択された繊維の寸法を測定した結果から算出した値である。
【0044】
複合体が糸状である場合、糸径(中空糸である場合は外径)は、極端に小さすぎるとカラムの圧力損失を増大させる場合や、糸自体がフィルターを通り抜ける場合がある。一方で、極端に大きすぎると、吸着対象試料との接触面積が低下し、除去効率を悪化させる。そのため糸径は、30μm以上、中でも50μm以上、中でも70μm以上が好ましく、1mm以下、中でも500μm以下、中でも300μm以下が好ましい。
複合体が糸状である場合の糸径としては、例えば、30μm~1mm、30μm~500μm、30μm~300μm、50μm~1mm、50μm~500μm、50μm~300μm、70μm~1mm、70μm~500μm、70μm~300μmが挙げられる。
また、複合体が中空糸状である場合は、内径は、50μm以上、中でも100μm以上、中でも120μm以上が好ましく、250μm以下、中でも200μm以下、中でも180μm以下が好ましい。この範囲であれば、吸着対象試料が全血である場合に、糸内腔への通液により血球が詰まることがない。また、糸内腔面と吸着対象試料を含む試料との接触面積が十分になり、吸着効率が良い。
複合体が中空糸状である場合の内径としては、50μm~250μm、50μm~200μm、50μm~180μm、100μm~250μm、100μm~200μm、100μm~180μm、120μm~250μm、120μm~200μm、120μm~180μmが挙げられる。
【0045】
複合体は多孔質であることが望ましい。
多孔質の複合体粒子を製造する方法としては、例えば次の方法がある。基材と酸性基を有するポリマーを、基材の良溶媒及び貧溶媒の混合溶液に溶解させた吸着材原液を、基材の貧溶媒を含む溶液に液滴状に吐出し、非溶媒誘起相分離を進行させ凝固させることで基材と酸性基を有するポリマーからなる多孔質粒子が得られる。
また、多価金属イオンを含む複合体とする場合は、この多孔質粒子を多価金属塩の水性溶液中に浸漬することで基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの複合体を含む多孔質粒子が得られる。また、基材と酸性基を有するポリマーを、基材の良溶媒及び貧溶媒の混合溶液に溶解させた吸着材原液を、多価金属塩を溶解させた基材の貧溶媒に液滴状に吐出することで、相分離と多価金属イオンの取り込みを並行して行うことができ、効率よく基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの複合体を含む多孔質粒子が得られる。
【0046】
また、高温で基材を溶解させた吸着材原液を滴下しながら冷却することで熱誘起相分離を進行させ凝固させることでも、基材と酸性基を有するポリマーからなる多孔質粒子を得ることができる。
また、多価金属イオンを含む複合体とする場合は、多価金属塩の水性溶液中に多孔質粒子を浸漬することで基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの複合体を含む多孔質粒子が得られる。あるいは、多価金属塩の水性溶液中に高温で基材を溶解させた吸着材原液を液滴状に吐出することでも、基材と酸性基を有するポリマーと多価金属イオンとの複合体を含む多孔質粒子が得られる。
【0047】
但し、基材として、デンプンやゼラチンなどを用い、基材と酸性基を有するポリマーを溶解又は懸濁させる溶媒として水又は水を含む親水性溶媒を用いる場合は、ゲル状の複合体が得られるが、このゲルは多孔質ではない。
【0048】
複合体が多孔質である場合、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した平均細孔半径は0.5nm以上、中でも1.5nm以上、中でも2nm以上が好ましく、200nm以下、中でも40nm以下、25nm以下が好ましい。この範囲であれば、AGEsを効率よく吸着できる。孔径が極端に大きすぎると吸着材と吸着対象試料との接触面積が小さくなり、吸着効率が低くなる。一方で、孔径が極端に小さすぎると吸着対象試料が細孔内まで浸透できないため、細孔内表面を有効に活用できず、吸着効率が低下する。
DSCを用いて測定した平均細孔半径としては例えば、0.5nm~200nm、0.5nm~40nm、0.5nm~25nm、1.5nm~200nm、1.5nm~40nm、1.5nm~25nm、2nm~200nm、2nm~40nm、2nm~25nmが挙げられる。
また、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した細孔比表面積は、10m2/g以上、中でも20m2/g以上、中でも50m2/g以上が好ましく、1000m2/g以下、中でも800m2/g以下、中でも500m2/g以下が好ましい。細孔比表面積を大きくすることで吸着性能を向上させることができる。一方で、細孔比表面積が極端に大きすぎると吸着材の機械的強度が不足する。この範囲であれば、吸着対象試料との接触面積が十分になり、吸着効率が良く、十分な機械的強度も得られる。
DSCを用いて測定した細孔比表面積としては、例えば、10m2/g~1000m2/g、10m2/g~800m2/g、10m2/g~500m2/g、20m2/g~1000m2/g、20m2/g~800m2/g、20m2/g~500m2/g、50m2/g~1000m2/g、50m2/g~800m2/g、50m2/g~500m2/gが挙げられる。
【0049】
複合体が多価金属イオンを含む場合、得られる複合体中の多価金属濃度は、複合体の全量(乾燥重量)に対して、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましく、5重量%以上がさらに好ましい。この範囲であれば、吸着効率が実用上十分になる。また、多価金属濃度が極端に高すぎる場合、多価金属の流出の可能性や架橋度が高くなりすぎることで複合体が脆くなる可能性がある。これらの観点から、複合体中の多価金属濃度は、複合体の全量(乾燥重量)に対して、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
複合体の全量(乾燥重量)に対する多価金属濃度としては、例えば、1重量%~30重量%、1重量%~20重量%、1重量%~10重量%、2重量%~30重量%、2重量%~20重量%、2重量%~10重量%、5重量%~30重量%、5重量%~20重量%、5重量%~10重量%が挙げられる。
多価金属が鉄である場合の複合体中の多価金属濃度は、実施例の項目に記載の方法で測定した値である。多価金属が鉄以外の場合も、この方法に準じて、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて測定する。
【0050】
(2)吸着材
本発明の吸着材は、上記複合体からなるものであってよく、或いは、上記複合体とその他の構成要素からなるものであってもよい。その他の構成要素としては、他のAGEs吸着材、他の物質(IL-6、IL-8、TNF-αのようなサイトカイン、LDLやVLDL、リン、β2-ミクログロブリンなどの血液中成分、重金属など)の吸着材などが挙げられる。
上記複合体とその他の構成要素からなる吸着材である場合、その形状は、上記説明した複合体と同様に、粒状、繊維状、糸状、膜状、柱状などとすることができる。また、吸着材全体の平均粒子径、平均繊維径、平均繊維長、アスペクト比、糸の外径及び内径、平均細孔半径、細孔比表面積、多価金属含有量などの物性も、上記説明した複合体と同様とすることができる。
【0051】
本発明の吸着材は、ヒトから採取した血液を処理後に同じヒトに戻す血液処理において、血液中のAGEsの吸着や、血液中のAGEsとリンの吸着に用いることができる。例えば、血液透析回路において、血液透析器と直列又は並列に本発明の吸着材を配置することができる。本発明の吸着材の好適な吸着対象試料は、血液(全血、血清、血漿などを包含する)である。また、食品、化粧品、血液製剤などの医薬品中のAGEsやリンの吸着にも用いることができる。
【0052】
AGEsは通常排除することが望ましいため、本発明の吸着材は、AGEsの除去材と捉えることもできる。従って、本発明において、AGEs吸着対象試料はAGEs除去対象材料を包含する。
また、複合体が多価金属イオンを含むときは、さらにリンを吸着でき、リンは通常排除することが望ましいため、本発明の吸着材はAGEsとリンの除去材と捉えることもできる。従って、本発明において、AGEsとリンの吸着対象試料はAGEsとリンの除去対象材料を包含する。
【0053】
本発明の吸着材は、代表的には、カラム容器に充填してカラムとして用いることができる。本発明の吸着材が充填されたカラムは、AGEs吸着用、或いはAGEs除去用のカラムとして用いることができる。複合体が多価金属イオンを含むときは、AGEsとリンの吸着用、或いはAGEsとリンの除去用のカラムとして用いることができる。
【0054】
また、血液透析器の透析材(通常は、中空糸状に成形されている)を本発明の吸着材で形成すれば、AGEsの吸着能、又はAGEsとリンの吸着能を有する血液透析器となる。
【0055】
AGEsは、前述した通り、グルコースの種々の代謝産物がタンパク質と結合し、さらに酸化、脱水、縮合などの反応を経て生成した最終産物の総称である。構造が明らかにされたAGEsとして、カルボキシメチルリジン、カルボキシエチルリジン、カルボキシメチルアルギニン、ペントシジン、クロスリン、フルオロリンク、イミダゾロン、アルグピリミジン、ピロピリジン、ピラリンなどがあるが、本発明においてAGEsは、これらに限らず、生体内で糖とタンパク質の結合により生成する最終産物の全てを包含する。
【0056】
本発明の吸着材は、複合体中の多価金属イオンの有無に拘わらず、血液試料中のAGEsの吸着率が、10%以上、中でも30%以上、中でも60%以上であり得る。血液試料中のAGEsの吸着率の上限は100%である。
また、複合体が多価金属イオンを含むとき、本発明の吸着材は、血液試料中のリンの吸着率が、10%以上、中でも50%以上、中でも80%以上であり得る。血液試料中のリンの吸着率の上限は100%である。
【0057】
本発明の吸着材および吸着カラムを医療用具等として用いる際には、殺菌又は滅菌して用いることが好ましい。殺菌又は滅菌の方法としては、種々の方法が使用できる。例えば、高圧蒸気滅菌、ガンマ線滅菌、電子線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、紫外線滅菌などが挙げられる。これらの方法のうち、高圧蒸気滅菌、ガンマ線滅菌、電子線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌は、滅菌効率が高いため好ましい。
【0058】
(3)吸着方法
本発明の吸着材と、AGEs(又はAGEsとリン)吸着対象試料又は除去対象材料とを接触させることにより、この吸着対象試料又は除去対象材料中のAGEs(又はAGEsとリン)が吸着材に吸着する。
従って、本発明は、本発明の吸着材とAGEs(又はAGEsとリン)吸着対象試料又は除去対象材料とを接触させる工程を含む、AGEs(又はAGEsとリン)の吸着方法、AGEs(又はAGEsとリン)の除去方法、或いはAGEs(又はAGEsとリン)が除去された又は減少した試料又は材料の製造方法を提供する。
【0059】
本発明の吸着材とAGEs(又はAGEsとリン)吸着対象試料又は除去対象材料との接触は、バッチ法により行うことができる。バッチ法は、静置して実施してもよく、撹拌や振盪して実施してもよい。接触時間は、1時間~24時間、中でも3時間~5時間とすればよい。また、接触時の温度は、吸着対象試料又は除去対象材料の種類などにより異なるが、10℃~50℃、中でも25℃~45℃とすればよい。
【0060】
また、本発明の吸着材と吸着対象試料又は除去対象材料との接触は、流動的分離法、即ち、本発明の吸着材に吸着対象試料又は除去対象材料を通液する方法でも行える。例えば、本発明の吸着材をカラムに充填し、このカラムに吸着対象試料又は除去対象材料を通液する方法、フィルター状に成形した本発明の吸着材に吸着対象試料又は除去対象材料を通液する方法、柱状に成形した本発明の吸着材に吸着対象試料又は除去対象材料を通液する方法などが挙げられる。フィルターとしては、メンブランフィルター、中空糸膜、チューブラー膜などの形態が挙げられる。柱状物は、例えば、微小な孔を有する連続した多孔体としてモノリスクロマトグラフィーに供することができる。また、ろ紙上に本発明の吸着材を載せ、そこに吸着対象試料又は除去対象材料を通液することもできる。
【0061】
本発明方法は、さらに、吸着材と接触後の、AGEs(又はAGEsとリン)が除去された又は減少した吸着対象試料又は除去対象材料とAGEs(又はAGEsとリン)を吸着した吸着材とを分離する工程を含むことができる。分離は、ろ過や遠心分離などにより行える。即ち、本発明方法は、さらに、本発明の吸着材とAGEs(又はAGEsとリン)吸着対象試料又は除去対象材料との混合物から、AGEs(又はAGEsとリン)が除去された又は減少した試料又は材料を回収する工程を含むことができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(1)試験方法
吸着材の含水率測定
吸着材を製造後、乾燥させることなく水に浸漬した状態で保管した吸着材を測定サンプルとした。吸着材を水から取り出し、含水状態の吸着材の表面に付着した水をウエスで拭き取った後、重量を測定し、これを含水状態の重量Ww(g)とした。
この含水状態の吸着材を減圧乾燥によって絶乾したのち、再び重量測定し、これを乾燥状態の重量Wd(g)とした。
吸着材の含水率は以下の式で算出した。
吸着材の含水率(%)=[(Ww(g)-Wd(g))/Ww(g)]×100
【0064】
AGEsの吸着率測定
市販のFBS(コロンビア産、Biowest社)を用いた。
乾燥重量換算で0.5g分の含水状態の吸着材に対して、FBSを10gの割合で添加して、室温で4時間、マグネチックスターラーで撹拌した後、上澄み液を回収し、吸着後FBSとした。吸着材を添加していないFBSを吸着前FBSとして、吸着前FBS及び吸着後FBSの2サンプルについて、AGEsの一種であるカルボキシメチルリジン(CML)の濃度を測定キット(CircuLex CML/Nε-(Carboxymethyl)lysine ELISA Kit、MBL社)を用いて測定した。
吸着前FBS中のカルボキシメチルリジン濃度をCs(μg/mL)、吸着後FBS中のカルボキシメチルリジン濃度をCe(μg/mL)として、FBS中のカルボキシメチルリジンの吸着率は、Cs(μg/mL)、Ce(μg/mL)、添加した含水状態のリン吸着材の重量Ww(g)、リン吸着材の含水率u(%)、及び添加したFBS重量F(g)を用いて、リン吸着材に含まれる水分によって希釈されることによるカルボキシメチルリジン濃度の低下分を補正した以下の式で算出した。
FBS中のカルボキシメチルリジンの吸着率(%)=[[Cs(μg/mL)-{1+Ww(g)×(u(%)/100)/F(g)}×Ce(μg/mL)]/Cs(μg/mL)]×100
【0065】
FBS中のリン含有量測定
12g/Lの七モリブデン酸六アンモニウム四水和物と、0.48g/Lのビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)二カリウム三水和物と、294g/Lの硫酸を含む水溶液を調製し、モリブデン酸アンモニウム溶液とした。
72g/LのL(+)-アスコルビン酸を含む水溶液を調製し、アスコルビン酸溶液とした。
リン濃度測定の直前にモリブデン酸アンモニウム溶液とアスコルビン酸溶液を体積比で5:1の割合で混合し発色試薬とした。
測定対象のFBSもしくは注射用水で所定の倍率に希釈したFBSサンプル10mLに対して発色試薬を0.8mL加え、ボルテックスミキサーで30秒以上撹拌した後、15分間以上静置し、880nmにおける吸光度を測定した。この吸光度をFBS中のリン含有量の指標とした。
【0066】
リンの吸着率測定
市販のFBS(コロンビア産、リン濃度9.3mg/dL(3.1mM)、Biowest社)を用いた。
乾燥重量換算で0.5g分の含水状態の吸着材に対して、FBSを10gの割合で添加して、室温で4時間、マグネチックスターラーで撹拌した後、上澄み液を回収し、吸着後FBSとした。吸着材を添加していないFBSを吸着前FBSとして、吸着前FBS及び吸着後FBSの2サンプルをそれぞれ注射用水で100倍に希釈し、これら希釈液に対して上記FBS中のリン含有量測定に記載の方法で880nmにおける吸光度を測定した。吸着前FBSの吸光度をAs、吸着後FBSの吸光度をAeとして、As、Ae、添加した含水状態のリン吸着材の重量Ww(g)、リン吸着材の含水率u(%)、及び添加したFBS重量F(g)を用いて、FBS中のリン吸着率を、リン吸着材に含まれる水分によって希釈されることによるリン濃度の低下分を補正した以下の式で算出した。
FBS中のリン吸着率(%)=[[As-{1+Ww(g)×(u(%)/100)/F(g)}×Ae]/As]×100
【0067】
(2)吸着材の製造と吸着性能評価
実施例1
メタクリル酸メチルポリマー (PMMA、富士フイルム和光純薬(株))2.0gとポリアクリル酸250,000(PAA、富士フイルム和光純薬(株)) 0.5gをDMSO 13.8gに添加し、80℃温浴で加熱しながらマグネチックスターラーで撹拌し溶解し、吸着材原液を調製した。この吸着材原液をスポイトで吸い上げ、すぐに水50mL中に滴下、その後約24時間静置することで粒子を作製した。この粒子をろ過により回収した後、水に分散する洗浄とろ過回収を、3回繰り返した。その後、目開きが2mmの篩で粒子径の小さな成分を取り除いたのち、目視で変形した粒子や融合した粒子を取り除き、PMMAとPAAからなる粒子を得た。
【0068】
実施例2
メタクリル酸メチルポリマー(PMMA、富士フイルム和光純薬(株)) 2.0gとポリアクリル酸250,000(PAA、富士フイルム和光純薬(株)) 0.5gをジメチルスルホキシド(DMSO)28.7gに添加し、80℃温浴で加熱しながらマグネチックスターラーで撹拌し溶解し、吸着材原液を調製した。この吸着材原液をスポイトで吸い上げ、すぐに10重量%の塩化第二鉄水溶液(塩化第二鉄六水和物;富士フイルム和光純薬(株)を使用)100mL中に滴下し、その後約24時間静置することで粒子を作製した。この粒子をろ過により回収した後、水に分散する洗浄とろ過回収を、洗浄液の着色がなくなるまで繰り返した。その後、目開きが2mmの篩で粒子径の小さな成分を取り除いたのち、目視で変形した粒子や融合した粒子を取り除き、PMMAとPAAと鉄イオンからなる粒子を得た。
【0069】
比較例1
メタクリル酸メチルポリマー(PMMA、富士フイルム和光純薬(株))2.0gをジメチルスルホキシド(DMSO)11.3gに添加し、80℃温浴で加熱しながらマグネチックスターラーで撹拌し溶解し、吸着材原液を調製した。この吸着材原液をスポイトで吸い上げ、すぐに水中に滴下し、その後約24時間静置することで粒子を作製した。この粒子をろ過により回収した後、水に分散する洗浄とろ過回収を、3回繰り返した。その後、目開きが2mmの篩で粒子径の小さな成分を取り除いたのち、目視で変形した粒子や融合した粒子を取り除き、PMMAからなる粒子を得た。
【0070】
実施例1、2、比較例1の吸着材を用いた場合のFBS中のカルボキシメチルリジン及びリンの吸着率をそれぞれ測定した。結果を
図1に示す。
図1に示すように、PMMAとPAAからなる実施例1の吸着材は、AGEs(CML)を70%という高い吸着率で吸着した。また、PMMAとPAAと鉄イオンからなる実施例2の吸着材は、実施例1の吸着材と同程度にAGEs(CML)を69%吸着し、さらに、リンを95%という極めて高い吸着率で吸着した。これに対して、PMMAからなる比較例1の粒子は、AGEs(CML)もリンも全く吸着しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の吸着材は、AGEsを効率よく吸着するため、体外に循環させた血液からのAGEsの除去に好適に使用でき、糖尿病合併症などのAGEsに起因する疾患の改善に有用である。本発明の吸着材が多価金属イオンを含む場合は、リンも吸着するため、例えば、糖尿病合併症の一つである腎不全患者のように、リンとAGEsの両方を減少させることが必要な患者の血液の処理に有用である。また、本発明の吸着材は、食品、化粧品、血液製剤などからのAGEsやリンの除去にも使用できる。