(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-16
(45)【発行日】2025-09-25
(54)【発明の名称】歯を機械加工する工作機械、ワークの歯面を機械加工する方法、及びこのタイプの工作機械を使用して歯を機械加工する工具をドレッシングする方法
(51)【国際特許分類】
B23F 5/04 20060101AFI20250917BHJP
B23F 19/00 20060101ALI20250917BHJP
B23Q 5/56 20060101ALI20250917BHJP
B24B 19/00 20060101ALI20250917BHJP
B24B 53/12 20060101ALI20250917BHJP
B24B 41/04 20060101ALI20250917BHJP
B23F 1/02 20060101ALI20250917BHJP
B23F 9/02 20060101ALI20250917BHJP
B24B 53/00 20060101ALN20250917BHJP
【FI】
B23F5/04
B23F19/00
B23Q5/56 Z
B24B19/00 Z
B24B53/12 Z
B24B41/04
B23F1/02
B23F9/02
B24B53/00 Z
(21)【出願番号】P 2022515820
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 EP2020074836
(87)【国際公開番号】W WO2021052787
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-06-09
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】599172531
【氏名又は名称】ライシャウァー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ミシェル
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102012016515(DE,A1)
【文献】特開2016-112680(JP,A)
【文献】特開2012-000752(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104028849(CN,A)
【文献】特開平10-076424(JP,A)
【文献】実開平01-129059(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/02-14
B23F 9/02,12、14
B23F 19/00
B23F 23/00
B23F 1/02-08
B24B 19/00
B24B 41/04
B24B 53/00、12
B23Q 1/56
B23Q 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車を機械加工する工作機械(1)であって、
ワーク(18)をワーク軸(C1)周りに回転駆動するワークスピンドル(16)と、
工具(12)を工具軸(B)周りに回転駆動する工具スピンドル(11)と、
前記ワーク軸(C1)に対して前記工具スピンドル(11)と前記ワークスピンドル(16)との間の相対軸方向送り位置を変更するように構成された軸方向キャリッジ(7)と、
を備え、
前記軸方向キャリッジ(7)は、傾斜角(ψ)だけ前記ワーク軸(C1)に対して傾斜している軸方向案内方向(Z’)に沿って案内され、前記傾斜角(ψ)は0.1°~30°の絶対値を有し、
前記工具軸(B)と前記ワーク軸(C1)との間の径方向距離を径方向送り込み方向(X)に沿って変更するように構成された送りキャリッジ(5)を備え、前記軸方向案内方向(Z’)は、前記ワーク軸(C1)及び前記径方向送り込み方向(X)との共通平面内に延びており、
該工作機械(1)を制御するように構成された制御装置(2、3)を備え、
前記制御装置(2、3)は、
前記工具スピンドル(11)にクランプされた工具(12)が、前記ワークスピンドルにクランプされた前記ワーク(18)と機械加工係合している間に、前記軸方向案内方向(Z’)及び前記径方向送り込み方向(X)に沿って前記工具スピンドル(11)と前記ワークスピンドル(16)との間の同時移動を行うように構成され、
前記軸方向案内方向(Z’)に沿った移動は、軸方向案内速度で行われ、前記径方向送り込み方向(X)に沿った移動は、径方向送り込み速度で行われ、
前記径方向送り込み速度は、機械加工ストローク時にその符号を変化させず、かつ、機械加工ストローク時の前記径方向送り込み速度は、所定の最小速度に対応する閾値を下回らない、工作機械。
【請求項2】
請求項1に記載の工作機械(1)であって、前記傾斜角(ψ)は0.5°~30°の絶対値を有する、工作機械。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の工作機械であって、前記径方向送り込み方向(X)は、前記ワーク軸(C1)に対して60°~120°の角度で延びている、工作機械。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の工作機械であって、前記径方向送り込み方向(X)は、前記ワーク軸(C1)に対して垂直である、工作機械。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の工作機械(1)であって、
機械ベッド(4)を備え、
前記送りキャリッジ(5)は、前記径方向送り込み方向(X)に沿って変位可能となるように前記機械ベッド(4)上で案内され、工具キャリアを構成し、
前記軸方向キャリッジ(7)は、前記軸方向案内方向(Z’)に沿って前記送りキャリッジ(5)上で案内される、工作機械。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の工作機械(1)であって、前記工具スピンドル(11)は、前記軸方向キャリッジ(7)に対して旋回軸(A)周りに旋回可能であり、前記旋回軸(A)は、前記径方向送り込み方向(X)に対して0°~30°の絶対値を有する角度で、前記ワーク軸(C1)及び前記径方向送り込み方向(X)との共通平面内に延びている、工作機械。
【請求項7】
請求項6に記載の工作機械(1)であって、前記工具スピンドル(11)は、前記工具軸(B)に対して平行に延びているシフト方向(Y)に沿って前記軸方向キャリッジ(7)に対して変位可能であり、前記シフト方向(Y)は前記旋回軸(A)に対して垂直に延びている、工作機械。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の工作機械(1)であって、前記制御装置(2、3)は、前記径方向送り込み速度及び前記軸方向案内速度が、機械加工ストローク時に変化する比率を有するように、前記径方向送り込み速度及び前記軸方向案内速度を制御するように構成された、工作機械。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の工作機械(1)であって、前記制御装置(2、3)は、前記径方向送り込み速度が、結果として生じる前記径方向送り込み方向(X)に沿った前記工具スピンドル(11)と前記ワークスピンドル(16)との間の移動が、機械加工ストローク時にその符号を変化させる速度(v
X)を有するように、前記径方向送り込み速度及び前記軸方向案内速度を制御するように構成された、工作機械。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の工作機械(1)であって、前記制御装置(2、3)は、
前記径方向送り込み方向(X)及び前記軸方向案内方向(Z’)に沿って測定された位置変数(x’、z’)を、前記径方向送り込み方向(X)と前記ワーク軸(C1)に対して平行な軸方向送り方向(Z)とに沿った変換済み位置変数(x、z)へと変換する第1の変換装置(43)と、
前記ワーク軸(C1)に対して平行な軸方向送り方向(Z)に沿った前記ワークスピンドル(16)に対する前記工具スピンドル(11)の移動のための制御コマンドを、前記軸方向案内方向(Z’)及び前記径方向送り込み方向(X)に沿った前記工具スピンドル(11)の同時移動のための変換済み制御コマンド(Ax’、Az’)へと変換する第2の変換装置(45)と、
のうちの少なくとも1つを備える、工作機械。
【請求項11】
歯車を機械加工する工作機械(1)であって、
ワーク(18)をワーク軸(C1)周りに回転駆動するワークスピンドル(16)と、
工具(12)を工具軸(B)周りに回転駆動する工具スピンドル(11)と、
前記ワーク軸(C1)に対して前記工具スピンドル(11)と前記ワークスピンドル(16)との間の相対軸方向送り位置を変更するように構成された軸方向キャリッジ(7)と、
を備え、
前記軸方向キャリッジ(7)は、傾斜角(ψ)だけ前記ワーク軸(C1)に対して傾斜している軸方向案内方向(Z’)に沿って案内され、前記傾斜角(ψ)は0.1°~30°の絶対値を有し、
前記工具軸(B)と前記ワーク軸(C1)との間の径方向距離を径方向送り込み方向(X)に沿って変更するように構成された送りキャリッジ(5)を備え、前記軸方向案内方向(Z’)は、前記ワーク軸(C1)及び前記径方向送り込み方向(X)との共通平面内に延びており、
ドレッシング工具(14)を備えるドレッシング装置(13)と、
前記軸方向案内方向(Z’)及び前記径方向送り込み方向(X)に沿って前記工具スピンドル(11)と前記ワークスピンドル(16)との間の同時移動を行うように構成された制御装置(2、3)を備え、
前記制御装置(2、3)は、前記工具軸(B)が前記軸方向案内方向(Z’)及び前記径方向送り込み方向(X)が張る平面内にある又は該平面に対して平行である、ドレッシング向きへと工具スピンドル(11)を移すように構成され、かつ、前記軸方向案内方向(Z’)及び前記径方向送り込み方向(X)に沿った同時移動を生じさせながら、前記ドレッシング工具(14)を用いて前記工具(12)をドレッシングするように構成され、
前記軸方向案内方向(Z’)に沿った移動は、軸方向案内速度で行われ、前記径方向送り込み方向(X)に沿った移動は、径方向送り込み速度で行われ、
前記径方向送り込み速度は、
ドレッシング時にその符号を変化させず、かつ、
ドレッシング時の前記径方向送り込み速度は、所定の最小速度に対応する閾値を下回らない、工作機械。
【請求項12】
請求項
11に記載の工作機械(1)であって、前記ドレッシング装置(13)は、ドレッシングスピンドル軸周りに前記ドレッシング工具(14)を回転駆動するように構成されたドレッシングスピンドルを備え、該ドレッシングスピンドルは、前記工具スピンドル(11)が前記ドレッシング向きにあるとき、前記ドレッシング工具(14)を前記工具(12)と係合させるために、少なくとも1つのドレッシング旋回軸周りに旋回可能であ
り、前記ドレッシング旋回軸は、前記軸方向案内方向(Z’)に対して60°~120°の角度で延在している、工作機械。
【請求項13】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の工作機械(1)であって、該工作機械は、連続創成研削、部分創成研削、不連続若しくは連続成形研削、歯車ホーニング、ホビング又はホブピーリングのうちの1つのプロセスを行うように構成された、工作機械。
【請求項14】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の工作機械(1)を用いてワーク(18)の歯面を機械加工する方法であって、
前記工具スピンドル(11)にクランプされた工具(12)が、前記ワークスピンドルにクランプされた前記ワーク(18)と機械加工係合している間に、前記軸方向案内方向(Z’)及び前記径方向送り込み方向(X)に沿った前記工具スピンドル(11)と前記ワークスピンドル(16)との間の同時移動を行うことを含み、前記軸方向案内方向(Z’)に沿った移動は、軸方向案内速度で行われ、前記径方向送り込み方向(X)に沿った移動は、径方向送り込み速度で行われ、
前記径方向送り込み速度は、機械加工ストローク時に変化しない符号を有し、かつ、機械加工ストローク時に所定の最小速度に対応する閾値を下回らない絶対値を有する、方法。
【請求項15】
前記径方向送り込み速度が、結果として生じる前記径方向送り込み方向(X)に沿った前記工具スピンドル(11)と前記ワークスピンドル(16)との間の移動が、機械加工ストローク時にその符号を変化させる速度(v
X)を有するように、前記径方向送り込み速度及び前記軸方向案内速度は時間的に変化する比率を有する、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
請求項11
又は12に記載の機械を用いて歯車を機械加工する工具(12)をドレッシングする方法であって、
前記工具(12)が該工具(12)をドレッシングするドレッシング工具(14)と係合されている間、前記工具(12)と、前記ドレッシング装置(13)との間で前記傾斜した軸方向案内方向(Z’)に沿った相対移動を生じさせ
、
ドレッシング前に、前記工具スピンドル(11)は、前記工具軸(B)が前記軸方向案内方向(Z’)及び前記径方向送り込み方向(X)が張る平面内で又は該平面に対して平行に延びているドレッシング向きに移されることを含む、方法。
【請求項17】
前記ドレッシング装置(13)は、前記ドレッシング工具(14)をドレッシングスピンドル軸周りに回転駆動するように構成されたドレッシングスピンドルを備え、前記方法は、
前記工具スピンドル(11)が前記ドレッシング向きにあるとき、前記ドレッシング工具(14)を前記工具(12)と係合させるために前記ドレッシングスピンドルを少なくとも1つのドレッシング旋回軸周りに旋回させることを含み、前記ドレッシング旋回軸は、前記軸方向案内方向(Z’)に対して横方向に延在する、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記径方向送り込み方向(X)及び前記傾斜した軸方向案内方向(Z’)に沿って位置変数(x’、z’)を測定することと、
前記測定された位置変数(x’、z’)を、前記径方向送り込み方向(X)と前記ワーク軸(C1)に対して平行に延びている軸方向送り方向(Z)とに沿った変換済み位置変数(x、z)へと変換することと、
を含む、請求項
14~
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ワーク軸(C1)に対して平行に延びている軸方向送り方向(Z)に沿った前記ワークスピンドル(16)に対する前記工具スピンドル(11)の移動のための制御コマンド(Ax、Az)を生成することと、
前記生成された制御コマンドを、前記軸方向案内方向(Z’)及び前記径方向送り込み方向(X)に沿った前記工具スピンドル(11)の同時移動のための変換済み制御コマンド(Ax’、Az’)へと変換することと、
を含む、請求項
14~
18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法は、連続創成研削、部分創成研削、不連続若しくは連続成形研削、歯車ホーニング、ホビング又はホブピーリングのうちの1つの方法である、請求項
14又は
15に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~
13のいずれか一項に記載の工作機械(1)の制御装置(2、3)に、請求項
14~
20のいずれか一項に記載の方法を行わせる命令を含むコンピュータープログラム。
【請求項22】
請求項
21に記載のコンピュータープログラムが記憶されているコンピューター可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車を機械加工する工作機械、その動作方法、該方法を実行するコンピュータープログラム、及び該コンピュータープログラムが記憶されるコンピューター可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車製造技術において、歯すじがクラウニングによって修整されるストレートギア又はヘリカルギアが生産されることが多い。修整の度合いは、数十マイクロメートルを下回る範囲でしかないことが多い。このようにして修整された歯車は、負荷挙動及びノイズ発生に関して特定の利点を有する。
【0003】
クラウニング済み歯車の生産のために、従来技術のプロセスにおいて、機械加工ストローク時にワークと工具との間の中心距離が径方向送り込み方向に沿って連続的に変更されることが提案されている。具体的には、従来技術において、機械加工ストローク時に、工具がワーク軸に対して平行に連続的に前進している間に、まず中心距離を増加させ、歯車装置の中間の停止点に至り、次いで再び中心距離を減少させる、径方向送り込み方向に沿った移動を行うことが提案されている。
【0004】
このプロセスは、径方向送り込み移動の方向が機械加工ストローク中に反転するという点で問題になる。径方向送り込み移動は、間に弾性力及び摩擦力が発生する複数の構成要素を伴う。方向が反転すると、摺動摩擦から静止摩擦への移行が、特に関与するシールにおいて生じる。結果として、方向が変化したら、摺動摩擦が再び生じる前に、先に静止摩擦を克服する必要がある。その結果、反転点における径方向送り込み移動は、所望の仕様に完全に従うことができず、作用力が静止摩擦力を再び克服するまで特定の期間にわたって完全に停止する。そのため、側面形状が仕様からの望ましくない逸脱に繋がるおそれがある。
【0005】
特に、非常に小さい許容差のみが除去される仕上げ動作において、機械加工力は比較的小さいものであり得る。これにより、径方向送り込み方向が反転したときに荷重変化に繋がるおそれがあり、関与する構成要素の硬度が有限であるため更なる望ましくない反転の影響に繋がる。
【0006】
加えて、摩擦の影響は、方向反転とは無関係であっても、非常に低速の径方向送り込み移動の場合に生じる可能性があり、弾性力と相まって、摩擦によって発生する振動に繋がるおそれがある。このような影響は、クラウニングによる修整以外の他の修整、例えば、円錐修整の生産時にも生じる。
【0007】
これらの影響は様々な対策によって相殺することができる。特に、特別な低摩擦の案内構成要素及び駆動構成要素を使用して、摩擦の影響を低減することができる。反転の影響を低減するために、案内構成要素及び駆動構成要素の剛性を、減衰と共に増大又は最適化させることができる。最後に、これらの影響は、制御アルゴリズムによっても相殺することができる。しかしながら、これらの対策は全て、上述した問題の軽減にしか繋がらず、完全に排除し得ない。
【0008】
特許文献1は、成形ヘッドキャリッジが機械スタンドに傾斜して取り付けられている歯車成形機械を開示している。このようにして、鉛直方向の変位により、戻りストローク時にワークから成形工具を持ち上げるために水平方向における成形工具の同時変位が生じる。修整の生成には対処されていない。
【0009】
特許文献2は、2つのワークスピンドル及び1つの工具スピンドルを有する創成歯車研削機械を開示している。工具スピンドルは、水平面における傾斜軸に対して平行に延在するリニアガイドに沿って摺動可能に取り付けられる。ワークスピンドルは、水平方向の傾斜軸から同じ水平距離を置いて配置される。水平投影において、工具回転軸は水平方向の傾斜軸に対して鋭角をなす。これにより工具スピンドルとワークとの衝突が防止される。ここでも修整の生成には対処されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】独国公開特許第102012016515号
【文献】米国公開特許第2016/176010号
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、修整済み歯面の生産をより高い精度で可能にする歯車製造機械を提供することである。
【0012】
この目的は、請求項1に係る歯車を機械加工する工作機械によって達成される。更なる実施形態が従属請求項において明記されている。
【0013】
歯車を機械加工する工作機械が提案される。工作機械は、
ワークをワーク軸周りに回転駆動するワークスピンドルと、
工具(機械加工工具)を工具軸周りに回転駆動する工具スピンドルと、
ワーク軸に対して工具スピンドルとワークスピンドルとの間の相対軸方向送り位置を変更するように構成された軸方向キャリッジと、
を備える。
【0014】
本発明によれば、軸方向キャリッジは、傾斜角だけワーク軸に対して傾斜している軸方向案内方向に沿って案内される。傾斜角は0.1°~30°、好ましくは0.1°~15°、特に好ましくは0.1°~3°の値を有する。幾つかの実施の形態において、傾斜角は0.5°~30°、0.5°~15°、又は0.5°~3°の値を有する。
【0015】
軸方向キャリッジは、ワークスピンドル又は工具スピンドルを担持する。軸方向キャリッジの案内が傾斜しているため、工具軸とワーク軸との間の径方向距離は、軸方向キャリッジが軸方向案内方向に沿って移動するときに変化する。これにより、歯車の機械加工時に径方向送り込み移動の方向を反転する必要なく歯すじを修整した歯車を生産することが可能である。これにより、方向が反転したときに生じる上述の問題が回避される。さらに、問題となる摩擦の影響を生じることなく、どれ程僅かな歯すじの修整であっても生産することが可能である。
【0016】
好ましくは、工作機械は、工具軸とワーク軸との間の中心距離を送り込み方向に沿って更に変更することができる送りキャリッジを備える。この送り込み移動は、軸方向案内方向に沿った移動とは無関係に行うことができる。送り込み移動は、軸方向キャリッジの案内が傾斜しているため、中心距離の変化に重ね合わされる。これに応じて、歯面の機械加工時に、軸方向キャリッジ及び送りキャリッジの同時移動が行われる。
【0017】
送り込み方向は、ワーク軸に対して垂直であり得るが、そうである必要はない。以下、送り込み方向は、この方向が必ずしも厳密にワーク軸に対して径方向になくても、すなわち、必ずしも厳密にワーク軸に対して垂直でなくても「径方向送り込み方向」と称される。例えば、径方向送り込み方向は、ワーク軸と60°~120°の範囲の角度をなすことができる。
【0018】
軸方向案内方向は、ワーク軸及び径方向送り込み方向との共通平面内に延びていることが好ましい。この平面における傾斜角は、正としても負としてもよく、すなわち、軸方向案内方向は(機械ベッドから見たとき)ワーク軸から離れるように傾斜してもよく、ワーク軸に向かって傾斜してもよい。
【0019】
好ましくは、工具スピンドルは、軸方向キャリッジに直接又は間接的に(すなわち更なるキャリッジ及び/又は旋回体を介して)配置される。すなわち、工具スピンドルは、工作機械の機械ベッドに対して傾斜した軸方向案内方向に沿って移動を行う。この場合、軸方向キャリッジは工具キャリアを構成する。ただし、ワークスピンドルが軸方向キャリッジに直接又は間接的に取り付けられること、すなわち、ワークスピンドルが機械ベッドに対して傾斜した軸方向案内方向に沿って移動を行うことも考えられる。
【0020】
特に、次の軸シーケンスがあり得る。送りキャリッジを、径方向送り込み方向に沿って変位可能となるとともに工具キャリアを構成するように、機械ベッド上で案内することができ、次に軸方向キャリッジを、軸方向案内方向に沿って案内されるように送りキャリッジに配置することができる。
【0021】
有利な実施の形態において、工具スピンドルは、軸方向キャリッジに対して旋回軸周りに旋回するように構成されている。このために、工作機械は旋回体を備えることができる。特に、旋回体を軸方向キャリッジに配置することができる。工具が研削工具である場合、旋回体は研削ヘッドとも呼ばれる。旋回軸は、径方向送り込み方向に対して平行に、又はワーク軸に対して垂直に延びていることが好ましい。ただし、旋回軸は、径方向送り込み方向に対して0°から逸れた角度で延びてもよい。この角度は0°~30°の絶対値を有することが好ましい。旋回軸はワーク軸に対して90°から逸れた角度で延びてもよい。この角度は60°~120°の範囲内であることが好ましい。特に、旋回軸は軸方向案内方向に対して垂直に延びてもよい。旋回軸がワーク軸及び軸方向案内方向が張る平面内に存在すると有利である。
【0022】
連続創成研削に特に適した実施の形態において、工具スピンドルは、工具軸に対して平行なシフト方向に沿って軸方向キャリッジに対して移動させることができる。このために、工作機械はシフトキャリッジを備えることができる。特に、シフトキャリッジは、シフト方向に沿って旋回体に対して移動できるように、旋回体に取り付けることができる。シフト方向は、工具スピンドルを旋回させることができる旋回軸に対して垂直であることが好ましい。幾つかの実施の形態において、シフト方向は径方向送り込み方向に対して垂直でもある。
【0023】
本発明は、上記で示したタイプの工作機械を用いてワークの歯面を機械加工する方法も提供する。本方法は、
工具スピンドルにクランプされた工具が、ワークスピンドルにクランプされたワークと機械加工係合している間に、傾斜した軸方向案内方向に沿って工具スピンドルとワークスピンドルとの間の移動を行うことによって機械加工ストロークを行うことと、
機械加工ストロークと同時に径方向送り込み方向に沿って工具スピンドルとワークスピンドルとの間の送り込み移動を行うことと、
を含み、
傾斜した軸方向案内方向に沿った移動は、軸方向案内速度で行われ、径方向送り込み方向に沿った移動は、径方向送り込み速度で行われる。
【0024】
したがって、機械は、傾斜した軸方向案内方向及び径方向送り込み方向に沿って工具スピンドルとワークスピンドルとの間の対応する同時移動を行うように工作機械を制御するように設計される制御装置を備えることが好ましい。
【0025】
軸方向案内速度の符号は、機械加工ストローク時に変化しないことが好ましい。径方向送り込み速度の符号もまた、機械加工ストローク時に変化しないことが好ましい。機械加工ストローク時(ひいては各個々の歯面の機械加工時)の径方向送り込み速度が、所定の閾値を下回らないと有利である。これにより径方向送り込み移動時に負の影響が防止される。結果として、従来技術と比して精度を増して歯すじの修整を製造することができる。
【0026】
径方向送り込み速度及び軸方向案内速度が経時的に変化する比率を有すると特定の利点が得られる。特に、これらの速度は、径方向送り込み速度が、機械加工ストローク時(ひいては歯面の機械加工時)にその符号を変化させないが、結果として生じる径方向送り込み方向に沿って工具スピンドルとワークスピンドルとの間の移動が、歯面の機械加工時(又は機械加工ストローク時)にその符号を変化させる速度を有するような、可変の比率を有することができる。これにより、従来技術の上述した不利点なしで特に幅クラウニングによって歯車を生産することが可能になる。
【0027】
本方法は、
径方向送り込み方向及び傾斜した軸方向案内方向に沿って位置変数を測定することと、
測定された位置変数を、径方向送り込み方向とワーク軸に対して平行に延びている軸方向送り方向とに沿った変換済み位置変数へと変換することと、
を含むことができる。
【0028】
本方法は、
ワーク軸に対して平行な軸方向送り方向に沿ったワークスピンドルに対する工具スピンドルの移動のための制御コマンドを生成することと、
生成された制御コマンドを、傾斜した軸方向案内方向及び径方向送り込み方向に沿った工具スピンドルの同時移動のための変換済み制御コマンドへと変換することと、
を含むこともできる。
【0029】
これらの対策により、軸方向案内方向がワーク軸の方向に対して平行な機械用に設計されたコントローラーによって機械を制御することが可能である。
【0030】
したがって、工作機械の制御装置は、
径方向送り込み方向及び傾斜した軸方向案内方向に沿って測定された位置変数を、径方向送り込み方向とワーク軸に対して平行な軸方向送り方向とに沿った変換済み位置変数へと変換する第1の変換装置と、
ワーク軸に対して平行な軸方向送り方向に沿ったワークスピンドルに対する工具スピンドルの移動のための制御コマンドを、傾斜した軸方向案内方向及び径方向送り込み方向に沿った工具スピンドルの同時移動のための変換済み制御コマンドへと変換する第2の変換装置と、
のうちの少なくとも1つの変換装置を備える。
【0031】
特に、工作機械は、連続創成研削、部分創成研削、不連続若しくは連続成形研削、歯車ホーニング、ホビング又はホブピーリング(歯車スカイビング)のうちの1つのプロセスを行うように構成することができる。このために、適切な工具を工具スピンドルにクランプすることができる。制御装置は、それぞれのプロセスに典型的な工具スピンドル及びワークスピンドルの移動を行うように工作機械を制御するように構成することができる。
【0032】
工作機械は、ドレッシング工具を有するドレッシング装置を備えることができる。そして、制御装置は、ドレッシング工具を用いて工具、特に研削ウォームをドレッシングし、ドレッシング時に傾斜した軸方向案内方向に沿った移動を生じるように構成することができる。このようなドレッシングは、工具がドレッシング工具との係合中に、傾斜した軸方向案内方向に沿った工具とドレッシング工具との相対移動を伴う。このようにして、歯車機械加工と同様の利点をドレッシングにおいても実現することができる。
【0033】
特に、制御装置は、工具軸が軸方向案内方向及び径方向送り込み方向が張る平面内にある又は該平面に対して平行となるように、関連する旋回軸を使用して、工具スピンドルを軸方向キャリッジに対して位置合わせするように構成することができる。以下、工具スピンドルのこの向きはドレッシング向きと称される。ドレッシング向きを規定通りに選択することは、工具が研削ウォームである場合には特に有利である。ドレッシングプロセス時に、研削ウォームは、このようにして、研削ウォームをその幅全体にわたってドレッシングするために、傾斜した軸方向案内方向に沿って研削ウォームを移動させることによって、ドレッシング工具に対して、その長手方向軸に沿って、すなわち、工具軸に沿って容易に移動させることができる。軸方向キャリッジをこのために使用することができる。工具スピンドルがシフトキャリッジに取り付けられる場合、実施の形態に応じてシフトキャリッジを代替的に又は付加的に使用することができる。
【0034】
ドレッシング装置は、ドレッシング工具をドレッシングスピンドル軸周りに回転駆動するように設計されるドレッシングスピンドルを備えることができる。ドレッシングスピンドルは、工具スピンドルが上述したドレッシング向きにあるときに、ドレッシング工具を機械加工工具と係合させるように、少なくとも1つの旋回軸周りに旋回するように構成されていることが好ましい。このために、ドレッシング装置は対応する旋回体を備えることができる。ドレッシングスピンドルの旋回軸は、好ましくは軸方向送り方向に対して横方向に、特に軸方向送り方向に対して60°~120°の角度で、且つ、ワーク軸に対して横方向に、好ましくはワーク軸に対して60°~120°の角度で、特にワーク軸に対して垂直である。ワーク軸が空間的に鉛直方向である場合、ドレッシングスピンドルの旋回軸は水平方向であることが好ましい。
【0035】
ドレッシング装置は、少なくとも1つのワークスピンドルと一緒に可動工具キャリアに取り付けてもよいし、機械ベッドに対して固定して配置してもよい。
【0036】
本発明は、コンピュータープログラムも提供する。コンピュータープログラムは、上記で説明したタイプの工作機械の制御装置、特に制御装置の1つ以上のプロセッサに、上記で説明したプロセスを行わせる命令を含む。コンピュータープログラムは適切なメモリ装置に記憶することができる。
【0037】
さらに、本発明は、コンピュータープログラムが記憶されるコンピューター可読媒体を提供する。この媒体は、フラッシュメモリ、CD、ハードディスク等の不揮発性媒体とすることができる。
【0038】
本発明の好ましい実施形態について、以下で図面を参照しながら説明する。図面は、説明のためのものであり、限定として解釈すべきものではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】第1の実施形態に係る創成歯車研削機械の概略斜視図である。
【
図2】
図1の創成歯車研削機械の概略側面図である。
【
図3】円筒歯車の機械加工時の座標変換を示す図である。
【
図4】クラウニングによって修整された歯を有する円筒歯車の概略側面図である。
【
図5】
図4に係る円筒歯車を機械加工する際の座標変換を示す図である。
【
図6】軸方向送り移動を制御する機能ユニットの概略ブロック図である。
【
図7】第2の実施形態に係る創成歯車研削機械の概略側面図である。
【
図8】第3の実施形態に係る創成歯車研削機械の概略側面図である。
【
図9】第4の実施形態に係る創成歯車研削機械の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
<創成歯車研削機械の例示的な構造>
図1及び
図2は、歯車を機械加工する工作機械の一例として第1の実施形態に係る創生歯車研削機械1を示す。機械は機械ベッド4を備え、機械ベッド4上で、工具キャリア5がリニアガイド6によって径方向送り込み方向Xに沿って案内される。工具キャリア5は軸方向キャリッジ7を担持し、軸方向キャリッジ7は、工具キャリア5に対して軸方向案内方向Z’に沿って変位可能に案内される。研削ヘッド9は軸方向キャリッジ7に取り付けられ、機械加工対象の歯車のねじれ角に適合するために、X方向に対して平行に延びる旋回軸A周りに旋回することができる。そして、研削ヘッド9は、工具スピンドル11がシフト方向Yに沿って移動するように配置されるシフトキャリッジを担持する。シフト方向Yは、旋回軸Aに対して垂直に、したがってX方向にも垂直に延びるが、必ずしもZ’方向に垂直である必要はない。ウォーム形状の研削ホイール(研削ウォーム)12の形態の仕上げ工具が、工具スピンドル11上でクランプされる。研削ウォーム12は、工具スピンドル11によって工具軸B周りに回転するように駆動される。工具軸BはY方向に対して平行に延びている。
【0041】
機械ベッド4は、タレットの形態の旋回ワークキャリア15も担持し、旋回ワークキャリア15は、少なくとも2つの位置の間で鉛直軸C3周りに旋回することができる。2つの同一のワークスピンドル16、17が、ワークキャリア15上で互いに正反対に取り付けられる。
図2の左に示すワークスピンドル16は、機械加工位置にあり、この位置において、ワークスピンドル16上にクランプされたワーク18を研削ウォーム12によって機械加工することができる。このために、このワークスピンドルは、ワーク18を鉛直方向の第1のワーク軸C1周りに回転するように駆動する。他方のワークスピンドル17は、180°オフセットしており、ワーク交換位置にある。この位置において、仕上げ済みワーク19をこのスピンドルから取り外すことができ、新たなブランクをクランプすることができる。この位置にあるワークスピンドルの軸は、第2のワーク軸C2と称される。
【0042】
加えて、ドレッシング工具14を有するドレッシング装置13(概略的にのみ示す)がタレット上に取り付けられている。ドレッシング装置13は、研削ウォーム12をドレッシングする役割を果たす。
【0043】
歯車研削機械1の駆動直線軸及び駆動回転軸は全て、オペレーターパネル2及び軸モジュール3を有する機械制御装置によってデジタル制御される。各軸モジュール3は、その出力において1つの機械軸に対して(すなわち、サーボモーター等、関連する機械軸を駆動するために使用される少なくとも1つのアクチュエーターに対して)制御信号を提供する。
【0044】
<ワークの機械加工>
機械加工されていない、プレ歯付きワーク(ブランク)19を機械加工するために、ワーク19は、ワーク交換位置にあるワークスピンドル17上の自動ワーク交換機によってクランプされる。ワークは、機械加工位置にある他方のワークスピンドル16上の別のワーク18の機械加工時に交換される。機械加工対象の新たなワーク19がクランプされ、他方のワーク18の機械加工が完了したとき、ワークキャリア15はC3軸周りに180°旋回し、これにより、機械加工対象の新たなワークを有するスピンドルは機械加工位置に到達する。旋回動作前及び/又は旋回動作時、歯合せプローブによってメッシュ加工動作が行われる。歯合せプローブは、図示しておらず、ワークキャリア15上に配置される。このために、ワークスピンドル17は回転状態に設定され、ワーク19の歯溝の位置は歯合せプローブによって測定される。これに基づいて、回転角が設定される。
【0045】
機械加工対象のワーク19を担持するワークスピンドル17が機械加工位置に到達すると、工具キャリア5をX軸に沿って移動させることによって、ワーク19は研削ウォーム12と係合する。この時点でワーク19は、転動係合状態にある回転研削ウォーム12によって機械加工される。機械は、X軸、Y軸及びZ’軸に沿って協調移動を行う。機械加工を1つ以上の軸方向機械加工ストロークにおいて行うことができる。各機械加工ストローク時、機械は、Z’軸に沿った移動を行うが、その速度で符号は変わらない。
【0046】
ワークの機械加工と並行して、仕上げ済みワーク18は他方のワークスピンドル16から取り外され、別のブランクがこのスピンドルにクランプされる。
【0047】
<軸方向>
先述の方向X、Y及びZ’に加えて、更なる方向Zが定義されている。定義上、この方向は、ワーク軸C1に対して平行に、すなわち、加工位置にあるワークの回転軸に対して平行である。Z’軸に沿った機械加工ストロークは、ワークの幅全体にわたって歯を機械加工するため、ワークの機械加工時に、Z方向に沿ったワークに対して工具の位置を連続的に変更する。これは軸方向送りと呼ばれ、それゆえ、Z方向は軸方向送り方向とも呼ばれる。
【0048】
従来技術において、軸方向案内方向Z’、すなわち、軸方向キャリッジ7が変位可能に案内される方向は、通常、軸方向送り方向Zと一致する。しかしながら、本機械において、これらの方向は互いに異なる。具体的には、Z’方向は、X方向とZ方向にまたがる平面内に、Z方向に対して角度ψに傾斜して延びている。ψの絶対値は、0.1°~30°、特に0.1°~30°、好ましくは0.1°~15°である。比較的小さい角度が十分なものであり得、例えば、0.1°~3°、特に0.5°~3°であり得る。
【0049】
方向X、Y、Z、Z’、A、B及びC1の目下提案される配置について、以下の関係が成り立つ。
【数1】
【0050】
【0051】
<座標変換>
機械コントローラーは、通常、歯の所望の側面形状について、座標系X、Y、Zにおいて対応する制御コマンドを計算する。本機械において、Z方向に沿った純粋な送り移動には、X方向及びZ’方向に沿った同時移動が必要となる。全ての機械プログラムを書き直す必要なく本機械を動作できるようにするためには、機械制御装置は、Z方向に沿った移動用の通常送りコマンドを、X方向及びZ’方向に沿った同時移動用の制御コマンドに変換するように設計されることが有利である。
【0052】
図3を参照してこれを以下に説明する。工具は、Z方向に沿って一定速度v
Zで、ワークに対して一定の中心距離を置いて座標x=x
0、z=z
0の初期位置から座標x=x
0、z=z
1の終了位置へと移動するものと仮定する。対応する移動プロファイル31を
図3の(a)に示す。このような移動プロファイルは、円筒歯車が、更なる軸方向移動による側面の修整なしに機械加工される場合に選択される。
【0053】
そのような移動プロファイルを本機械において生成するためには、ドライブをX方向及びZ’方向に沿って同時に動作させなければならない。これを
図3の(b)に示す。この図から分かるように、軸方向案内方向Z’の傾斜を補償するために、軸方向キャリッジ7は正のZ’方向に沿って連続的に移動するのに対し、工具キャリア5は負のX方向に連続的に移動する(すなわち、
図2の右へ)。総体的には、
軸方向キャリッジ7が、Z’方向に沿って位置z’
0から位置z’
1まで一定速度で移動すると同時に、X方向に沿って位置x
0から位置x
1まで一定速度で移動する。開始位置及び終了位置について以下が成り立つ。
z’
1-z’
0=(z
1-z
0)/cosψ
x
1-x
0=-(z
1-z
0)・tanψ
【0054】
したがって、Z’方向に沿った速度v’Z及びX方向に沿ったvXについて以下が成り立つ。
v’Z=vZ/cosψ
vX=-vZ・tanψ
【0055】
X方向及びZ’方向に沿った対応する移動プロファイル31’を
図3の(b)に示す。
【0056】
これに基づいて、Z方向に沿った送りコマンドをX方向及びZ’方向に沿った変換済み送りコマンドに変換することが容易に可能である。
【0057】
工具がY軸に沿ってシフト移動を同時に行う場合、この移動は、X、Y、Z’座標系への変換に影響を受けることはない。また、例えば、機械加工時に行われる場合にはA軸周りの傾動、又はワークと工具との間の更なる回転運動を生じるための転動角度の変更も、影響を受けることはない。
【0058】
Z方向の座標原点とZ’方向の座標原点とが一致すると仮定すると、座標系X、Y、Z内の空間座標x、y、zを、以下のように座標系X、Y、Z’内の空間座標x’、y’、z’へと変換することができる。
x’=x-z・tanψ
y’=y
z’=z/cosψ
【0059】
X方向及びZ’方向に沿って配置される測定システムによって測定される場合、逆変換T-1が適用され、このような測定値に基づいて、軸方向キャリッジ7のX座標及びZ座標が決定される。この逆変換は、機械制御に測定された座標を必要な形態で提供するために必要であり得る。この場合、座標系X、Y、Z’内の座標x’、y’、z’から、座標系X、Y、Z内の座標x、y、zが以下のように計算される。
x=x’+z’・sinψ
y=y’
z=z’・cosψ
【0060】
<クラウニングによる修整の生成>
以下において、
図4及び
図5を参照して円筒歯車におけるクラウニングによる修整の生成を説明する。
【0061】
その幅に沿ってクラウニングされた修整済み円筒歯車32を
図4に概略的に示す。円筒歯車の歯は、幅方向に沿って(機械加工時、これはZ方向である)両端よりも中心の方が厚く、歯面の歯すじはそれに応じて湾曲している。場合によって、生産上の理由から、歯先円直径も歯車の両端よりも中心において大きく、これにより、歯車も樽形の外形を有する。
図4において、原理をより容易に説明するために樽形の外形を極端に誇張して描いてある。現実には、そのような修整は、通常、数マイクロメートルの範囲でしかなく、裸眼では見えない。
【0062】
従来技術から、X方向における低速の径方向送り込み移動をZ方向に沿った送り移動に重ね合わせることによって、クラウニングされた円筒歯車を生成することが知られている。そのような移動プロファイル33を
図5の(a)に示す。Z方向に沿って一定速度での均一な軸方向送り移動は、X方向に沿った送り込み移動と重ね合わされる。送り込み移動は最初に正の速度を有し(座標xが増大する)、これは、歯車幅の中心における送り込み速度が0になり符号が変わる(すなわち、座標xが再び減少する)まで減少する。
【0063】
非常に低速の径方向送り込み速度は、摩擦の影響が避けられないため問題になる。送り込み移動の方向の反転も、X方向に沿った案内に関与する要素が不可避の反転の影響を示すことから同様に問題になる。
【0064】
本機械に関して、修整を生成するときに送り込み移動の方向の反転が回避され、送り込み速度は、クラウニングの必要量が多すぎないことを前提として、歯の機械加工時に所定の最小速度を決して下回ることはない。これを
図5の(b)に示す。
図5の(b)には得られる移動プロファイル33’を示す。工具キャリア5は、Z’方向の傾斜を補償するために、負のX方向に連続的に移動する。この連続的な基本移動が移動と重ね合わされ、修整を生成する。しかしながら、重ね合わせた移動の速度は、常に基本移動の速度未満であり、これにより、歯の機械加工時に方向が決して反転せず、所定の最小速度を決して下回ることはない。
【0065】
<軸方向送り移動及び径方向送り込み移動を制御する機能ユニット>
図6は、Z方向に沿った軸方向送り移動及びX方向に沿った径方向送り込み移動を生成するために使用される様々な機能ユニットを概略的に示す。位置センサー41、42は、X方向及びZ’方向に沿って
軸方向キャリッジ7の位置x’、z’を検出する。第1の変換装置43は、逆変換T
-1を適用することにより座標系X、Y、Z’でのこれらの位置を座標系X、Y、Zでの位置x及びzへと変換し、これらの実際の値を機械コントローラーの制御コンピューター44に転送する。制御コンピューター44は、座標系X、Y、Zでの
軸方向キャリッジ7の位置の名目値に対応する制御信号Ax、Azを生成する。第2の変換装置45は、これらの制御信号を座標系X、Y、Z’での変換済み制御信号Ax’、Az’へと変換し、これらの変換済み制御信号を機械コントローラーの軸モジュール3に転送する。
【0066】
<ドレッシング時の用途>
従来技術から、対角線論法で後続する機械加工時に研削ウォームの側面に対する修整をワーク側面に移すために、対応する軸方向移動によってドレッシング時にこれらの修整を作ることが知られている。このために、回転ドレッシングホイールを備える空間的に固定されたドレッシング装置を研削ウォームと係合させ、機械軸X及びYに関して必要な移動を生成することが知られている。
【0067】
本機械に関して異なるドレッシング戦略が可能である。このドレッシング戦略の場合、研削ウォームは、シフト軸Y及び工具軸Bが鉛直となる、すなわち、Z方向に沿って延びるようにA軸周りに旋回する。ドレッシング装置もそれに応じて位置合わせされる。
【0068】
図2はドレッシング装置13を示すが、破線で概略的にしか示されていない。ドレッシング装置はワークキャリア(タレット)15に取り付けられる。ドレッシング装置は、タレットを90°旋回させることにより、研削ウォーム12とは反対の位置に移すことができる。ドレッシング装置13は、ドレッシングホイール14が取り付けられるとともに回転駆動するドレッシングスピンドルを備える。ドレッシングスピンドルは旋回体21に取り付けられる。旋回体はワークキャリアに接続され、これにより、ドレッシングホイール14をウォームねじ山の方向において研削ウォームプロファイルに対して位置合わせすることができるように、旋回体を旋回させることができる。対応する旋回軸は、各ワーク軸C1、C2に対して垂直に、空間的に水平方向に延びている。
図2において、対応する旋回軸は図面平面に対して垂直に延びている。加えて、ドレッシングスピンドルは、同様に空間的に水平方向に且つ上記旋回軸に対して垂直に延びている更なる旋回軸周りに旋回することができる。
図2において、この更なる旋回軸は、図面平面に水平に延びている。この更なる旋回軸は、例えば、ドレッシング時にプロファイル角度を変更するために使用することができる。
【0069】
この時点で、工具軸Bに沿って必要なドレッシング運動が、通例に倣ったY軸に沿ったシフトキャリッジではなく軸方向キャリッジ7によって生成される。ワーク機械加工について上記で検討した事項と同様の検討事項がここで適用される。特に、このようにして、研削ウォーム側面に修整が生成されるときに方向の反転がX方向に沿って発生することを回避することができる。
【0070】
同様に、本発明は、ワークスピンドルにクランプされた歯車状のドレッシングホイールによってドレッシングが行われる場合に有利である。
【0071】
<更なる用途>
クラウニング済み円筒歯車の生産の例を用いて本発明の利点を上記で説明した。ただし、本発明はこの用途に限定されず、有利には他の歯又は歯車の生産においても使用することができる。特に、本発明は、他の方法で修整された歯、例えば、円錐状に修整された歯の生産においても利点を有し、これは、本発明をそこでも問題となる摩擦の影響を回避するために使用することができるからである。
【0072】
<第2の実施形態>
図7は、第2の実施形態に係る創成歯車研削機械を概略的に示す。この実施形態が第1の実施形態と異なるのは、A軸がZ方向に対して垂直ではなく且つX方向に対して平行ではなく、Z’方向に対して垂直であり、それに応じてX方向に対して角度ψにある点である。これはつまり、A軸周りの旋回角度が
図7に示す位置から逸れるとすぐにY軸及び工具軸BがX方向に対して垂直でなくなることを意味する。それにもかかわらず、上述した利点をこの配置によっても実現することができる。この実施形態は、0.1°~3°の小さい傾動角度に特に好適である。
【0073】
概して、この実施形態において、方向X、Y、Z、Z’、A、B及びC1の配置に以下が適用される。
【数3】
【0074】
傾斜したA軸により、機械軸X、Y、Z’、A、B、C1によって規定される座標系から、直交座標系へと又は機械コントローラーの従来の座標系へと及びその逆へと移るために、第1の実施形態と比較して更なる座標変換が必要となる。しかしながら、単純な三角法を考慮することにより対応する変換を容易に導出することができる。
【0075】
<第3の実施形態>
図8は、第3の実施形態に係る創成歯車研削機械を概略的に示す。この実施形態において、軸方向キャリッジ7、シフトキャリッジ及び研削ヘッド9を備える工具キャリア5全体は従来通りに構成されている。特に、軸方向案内方向Z’は、送り込み方向Xに対して垂直である。その代わり、ワークキャリア(タレット)15は鉛直線に対して傾斜している。結果として、特にワーク軸C1、ひいては、定義によればワーク軸C1に対して平行に延びている軸方向送り方向ZもX方向に対して垂直でなくなる。
【0076】
この実施形態でも同様に、機械軸X、Y、Z’、A、B、C1によって規定される座標系から、直交座標系へと又は機械コントローラーの従来の座標系へと及びその逆へと移るためには、第1の実施形態と比して更なる座標変換が必要となる。ここでも、単純な三角法を考慮することにより対応する変換を容易に導出することができる。
【0077】
<第4の実施形態>
図9は、第4の実施形態に係る創成歯車研削機械を概略的に示す。第1の実施形態及び第2の実施形態と同様に、軸C1及びC3を有するタレットは空間的に鉛直方向に位置決めされ、軸方向キャリッジ7は軸方向案内方向Z’に沿って工具キャリア5に対して案内される。軸方向案内方向Z’は、空間的に鉛直方向に延びている軸C1に対して、鉛直線に対する傾斜角ψだけ傾斜している。しかしながら、第1の実施形態及び第2の実施形態とは異なり、軸方向キャリッジ7、シフトキャリッジ及び研削ヘッド9を合わせて有する工具キャリア5全体は、機械ベッド4上で厳密に水平方向に案内されず、傾斜角ψだけ水平方向に傾斜している方向に沿って案内される。上記で論じた実施形態と同様、案内方向はここでもX方向と称される。したがって、ここでのX方向はZ方向に対して垂直ではなく、Z’方向に対して垂直である。第1の実施形態と同様、A軸は空間的に水平方向にあり、したがってZ方向に対して垂直である。傾斜したX軸により、A軸はX方向に対して平行ではない。
【0078】
概して、この実施形態において、方向X、Y、Z、Z’、A、B及びC1の配置に以下が適用される。
【数4】
【0079】
この実施形態でも同様に、機械軸X、Y、Z’、A、B、C1によって規定される座標系から、直交座標系へと又は機械コントローラーの従来の座標系へと及びその逆へと移るためには、第1の実施形態と比して更なる座標変換が必要となる。ここでも、単純な三角法を考慮することにより対応する変換を容易に導出することができる。
【0080】
<変形例>
上記で論じた例において、傾斜角ψは正である。すなわち、Z’軸は正のX方向に、ワーク軸C1から離れる方向に傾斜している。ただし、この角度は負であってもよい。言及した変換はこの状況においても有効性を保つ。最後の仕上げストロークが負のZ方向に沿ったもの(すなわち、
図2の上から下)である場合、負の傾斜角ψが特に有利であり得る。なぜなら、この場合、工具キャリア5が、補償運動を生成するように負のX方向に沿って、すなわちワークに向かって移動するからである。これが有利なのは、このようにして、径方向の機械加工力が補償運動を相殺し、X移動の生成に関与する構成要素において規定の力条件が生じるからである。
【0081】
本発明は、具体的な加工方法に限定されない。連続創成研削を参照して本発明の利点を上記で説明した。しかしながら、本発明は、幾何学的に規定のない刃先を用いるプロセス、及び幾何学的に規定のある刃先を用いるプロセスを含む、他の歯車製造プロセスにおいても利点を示す。そのようなプロセスの例は、部分創成研削、不連続若しくは連続成形研削、歯車ホーニング、歯車ホビング又はホブピーリング(歯車スカイビング)である。本発明は、外歯ワーク及び内歯ワークの双方の生産に使用することができる。本発明は、プレ歯付きワークの微細機械加工(仕上げ)、特にハード微細機械加工において特に有利である。
【0082】
本発明は、具体的な機械軸シーケンスに限定されない。機械のタイプに応じて、例えば、ワークスピンドルを移動させることによって径方向送り込みを実現するために、軸方向キャリッジを機械ベッド上に直接配置し、ワークスピンドルを径方向キャリッジ上に配置することも有利であり得る。
【0083】
本発明は、径方向送り込み方向Xがワーク軸C1に対して垂直である状況にも限定されない。例えば、第3の実施形態及び第4の実施形態において、径方向送り込み方向Xは、ワーク軸C1に対して90°異なる角度に延びている。しかしながら、この状況において、軸方向案内方向Z’が径方向送り込み方向X及びワーク軸C1との共通平面にある場合にも有利である。
【0084】
2つのワークスピンドルの代わりに、3つ以上のワークスピンドルもあり得るし、単一のワークスピンドルもあり得る。少なくとも1つのワークスピンドルを可動ワークキャリア上に配置する必要はなく、機械ベッド上に直接載置してもよい。他の実施形態において、少なくとも1つのワークスピンドルは可動ワークキャリア上に配置され、X方向に沿った径方向送り込み移動が実現する。また、A軸を工具側ではなくワーク側において実現してもよい。
【0085】
ドレッシング装置13を可動ワークキャリアではなく機械ベッドに取り付けてもよい。この場合、例えば米国特許第5857894号にあるように、工具キャリア5は、機械加工工具をドレッシング工具へと移動させるために機械ベッドに対して旋回するように構成することができる。
【0086】
上記から、関与する軸の相対配置が非常に多数あり得ることが分かる。本発明は具体的な配置に限定されない。
【0087】
さらに、本発明は、様々なリニアガイド用の特定のタイプのドライブに限定されない。ドライブは、従来技術において既知の任意の方法で、例えば、ボールねじドライブ又はリニアモーターによって作動することができる。