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特許7744667RAFT剤として使用可能な化合物及びそれを用いたポリマーの製造方法
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  • 特許-RAFT剤として使用可能な化合物及びそれを用いたポリマーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-17
(45)【発行日】2025-09-26
(54)【発明の名称】RAFT剤として使用可能な化合物及びそれを用いたポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 329/00 20060101AFI20250918BHJP
   C07F 9/38 20060101ALI20250918BHJP
   C07F 9/40 20060101ALI20250918BHJP
   C08F 4/40 20060101ALI20250918BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20250918BHJP
【FI】
C07C329/00 CSP
C07F9/38 C
C07F9/40 C
C08F4/40
C08F2/38
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021110820
(22)【出願日】2021-07-02
(65)【公開番号】P2023007764
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2024-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】原田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】北山 雄己哉
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0073109(US,A1)
【文献】国際公開第2007/003782(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108373515(CN,A)
【文献】特表2005-538174(JP,A)
【文献】特表2008-542464(JP,A)
【文献】特表2011-522087(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093401(WO,A1)
【文献】特開2003-064132(JP,A)
【文献】特開2010-275442(JP,A)
【文献】特表2008-516017(JP,A)
【文献】TAO, Peng et al.,Refractive Index Engineering of Polymer Nanocomposites Prepared by End-grafted Polymer Chains onto Inorganic Nanoparticles,MATERIALS RESEARCH SOCIETY SYMPOSIUM PROCEEDINGS,2011年,Volume 1359,pp. 163-168
【文献】VISWANATH, Anand et al.,GRAFTING POLY(METHYL METACRYLATE) FROM ITO NANOPARTICLES BY PHOSPHATE FUNCTIONALIZED RAFT AGENTS,Polymer Preprints,2012年,53(1),pp. 459-460
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/38
C07C 329/00
C07F 9/38
C07F 9/40
C08F 4/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
(式(1)中、
は、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、
は、リン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、及びホスホン酸エステル基からなる群より選ばれるリン含有基を含む1価の有機基であり、
Xは、単結合、S、O、及びNRからなる群より選ばれ、
は、水素原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、Rと結合して複素環構造を形成してもよい。)
で表される化合物であって、
式(1)中、Xが単結合又はSであり、
式(1)中、R が、式(2)
【化2】
(式(2)中、
は、シアノ基、炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基、カルボキシ基、炭素原子数2~20の置換又は非置換のアルコキシカルボニル基、及び炭素原子数7~20の置換又は非置換のアリールオキシカルボニル基からなる群より選ばれ、
は、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基からなる群より選ばれ、
は、炭素原子数1~30の2価の有機基であり、
は、水素原子、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基、及び炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基からなる群より選ばれ、
Yは、単結合、及びOからなる群より選ばれ、
*は、硫黄原子との結合部位を表す。)
で表される化合物。
【請求項2】
式(1)中、Xが単結合であり、R が置換基を有してもよい炭素原子数6~14のアリール基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(2)中、R がシアノ基であり、R が炭素原子数1~20の非置換アルキル基である、請求項1又は2のいずれかに記載の化合物。
【請求項4】
式(2)中、YがOであり、Rが水素原子である、請求項1~のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
式(2)中、Rがアミド結合又はエーテル結合を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物が、式(3)
【化3】
で表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物を用いてRAFT重合を行うことを含む、ポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記RAFT重合が水性溶媒中で行われる、請求項7に記載のポリマーの製造方法。
【請求項9】
式(4)
【化4】
(式(4)中、
は、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、
は、リン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、及びホスホン酸エステル基からなる群より選ばれるリン含有基を含む1価の有機基であり、
Xは、単結合、S、O、及びNRからなる群より選ばれ、
は、水素原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、Rと結合して複素環構造を形成してもよく、
Polyは、ポリマー鎖を表す。)
で表されるポリマーであって、
式(4)中、Xが単結合又はSであり、
式(4)中、R が、式(2)
【化5】
(式(2)中、
は、シアノ基、炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基、カルボキシ基、炭素原子数2~20の置換又は非置換のアルコキシカルボニル基、及び炭素原子数7~20の置換又は非置換のアリールオキシカルボニル基からなる群より選ばれ、
は、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基からなる群より選ばれ、
は、炭素原子数1~30の2価の有機基であり、
は、水素原子、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基、及び炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基からなる群より選ばれ、
Yは、単結合、及びOからなる群より選ばれ、
*は、硫黄原子との結合部位を表す。)
で表されるポリマー
【請求項10】
式(4)中、Polyが両性イオン構造を有する構造単位を少なくとも1つ含む、請求項9に記載のポリマー。
【請求項11】
酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びヒドロキシアパタイトからなる群より選ばれる無機基材と、請求項9又は10のいずれかに記載のポリマーとを含む複合材料であって、前記ポリマーの前記リン含有基を介して前記無機基材の表面が前記ポリマーで修飾されている、複合材料。
【請求項12】
酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びヒドロキシアパタイトからなる群より選ばれる無機基材と、請求項9又は10のいずれかに記載のポリマーとを、pH7以上の水性溶媒中で接触させることを含む、ポリマーで表面が修飾された複合材料の製造方法。
【請求項13】
酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びヒドロキシアパタイトからなる群より選ばれる無機基材と、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物とを含む固相RAFT剤であって、前記化合物の前記リン含有基を介して前記無機基材の表面が前記化合物で修飾されている、固相RAFT剤。
【請求項14】
請求項13に記載の固相RAFT剤を用いてRAFT重合を行うことを含む、ポリマーの製造方法。
【請求項15】
前記RAFT重合が水性溶媒中で行われる、請求項14に記載のポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、RAFT剤として使用可能な化合物及びそれを用いたポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子量が制御されたポリマー及びコポリマーを得るための方法として、リビングラジカル重合(「制御ラジカル重合」ともいう。)が知られている。リビングラジカル重合の一例として、可逆的付加-開裂連鎖移動(Reversible Addition/Fragmentation Chain Transfer、以下「RAFT」ともいう。)重合が挙げられる。RAFT重合では、重合中の成長反応を制御するために、連鎖移動剤(「RAFT剤」ともいう。)を介した可逆的な連鎖移動反応を利用する。これにより、分子量分布の狭いポリマー及びブロックコポリマーを生成することができる。RAFT重合は、多くのラジカル重合性モノマーに適用することができ、モノマー及び溶媒の官能基に対する許容性が高いため、水又はプロトン性溶媒中で多様なポリマー及びブロックコポリマーを合成することができる。また、RAFT重合では、RAFT剤のフラグメントがポリマー鎖の末端に結合した状態でポリマーが得られるため、RAFT剤の有する官能基によりポリマーに機能性を付与することができる。
【0003】
特許文献1(国際公開第2011/093401号)には、界面活性能と重合制御能を兼ね備えたRAFT剤として、下記一般式(1)で表される化合物において、Rがグリフィン法で求めた疎水-親水バランス(HLB)値が3以上である有機基である化合物が記載されている。
【化1】
【0004】
非特許文献1(Macromolecules 2001, 34, 7269-7275)には、ベンジル(ジエトキシホスホリル)ジチオホルメート、及びベンジル(ジエトキシチオホスホリル)ジチオホルメートをRAFT剤として使用して、スチレンをRAFT重合したことが記載されている。
【0005】
非特許文献2(Polymer 48 (2007) 5850-5858)には、RAFT重合によりTiO/ポリアクリル酸(PAA)ナノコンポジットを形成したことが記載されている。RAFT剤としては、2-(((ブチルスルファニル)カルボノチオイル)スルファニル)プロパン酸、及び2-(エトキシチオカルボニル)-2-メチルマロネートが使用されている。
【0006】
非特許文献3(Polymer 51 (2010) 5345-5351)には、4-シアノ-4-(ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニル)ペンタン酸をナノチタニア(n-TiO)表面に配位させたものをRAFT剤として使用して、メチルメタクリレートをRAFT重合することにより、n-TiO/ポリメチルメタクリレート(PMMA)ナノコンポジットを形成したことが記載されている。
【0007】
非特許文献4(J. Mater. Chem. C, 2013, 1, 484-492)には、2-(((ドデシルチオ)カルボノチオイル)チオ)-2-メチルプロパン酸をルチル型TiOナノ粒子に配位させたものをRAFT剤として使用して、スチレンをRAFT重合することにより、ルチル型TiO-ポリスチレンコンポジットを形成したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2011/093401号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Macromolecules 2001, 34, 7269-7275
【文献】Polymer 48 (2007) 5850-5858
【文献】Polymer 51 (2010) 5345-5351
【文献】J. Mater. Chem. C, 2013, 1, 484-492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示は、水などの極性の高い溶媒中でのRAFT重合のRAFT剤として用いることができ、金属酸化物などの多様な基材の表面修飾に応用することができる、新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、特定のリン含有基を有するチオカルボニルチオ基含有化合物が、水などの極性の高い溶媒中でRAFT重合を効果的に進行させること、及びそのリン含有基を介して当該化合物で、又は当該化合物を用いたRAFT重合により得られるポリマーで、金属酸化物などの基材の表面を修飾できることを見出した。
【0012】
本発明は以下の態様を包含する。
【0013】
[態様1]
式(1)
【化2】
(式(1)中、
は、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、
は、リン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、及びホスホン酸エステル基からなる群より選ばれるリン含有基を含む1価の有機基であり、
Xは、単結合、S、O、及びNRからなる群より選ばれ、
は、水素原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、Rと結合して複素環構造を形成してもよい。)
で表される化合物。
[態様2]
式(1)中、Xが単結合又はSである、態様1に記載の化合物。
[態様3]
式(1)中、Rが、式(2)
【化3】
(式(2)中、
は、水素原子、シアノ基、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基、炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基、カルボキシ基、炭素原子数2~20の置換又は非置換のアルコキシカルボニル基、及び炭素原子数7~20の置換又は非置換のアリールオキシカルボニル基からなる群より選ばれ、
は、水素原子、及び炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基からなる群より選ばれ、
は、炭素原子数1~30の2価の有機基であり、
は、水素原子、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基、及び炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基からなる群より選ばれ、
Yは、単結合、及びOからなる群より選ばれ、
*は、硫黄原子との結合部位を表す。)
で表される、態様1又は2のいずれかに記載の化合物。
[態様4]
式(2)中、YがOであり、Rが水素原子である、態様3に記載の化合物。
[態様5]
式(2)中、Rがアミド結合又はエーテル結合を含む、態様3又は4のいずれかに記載の化合物。
[態様6]
前記化合物が、式(3)
【化4】
で表される、態様1に記載の化合物。
[態様7]
態様1~6のいずれかに記載の化合物を用いてRAFT重合を行うことを含む、ポリマーの製造方法。
[態様8]
前記RAFT重合が水性溶媒中で行われる、態様7に記載のポリマーの製造方法。
[態様9]
式(4)
【化5】
(式(4)中、
は、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、
は、リン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、及びホスホン酸エステル基からなる群より選ばれるリン含有基を含む1価の有機基であり、
Xは、単結合、S、O、及びNRからなる群より選ばれ、
は、水素原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、Rと結合して複素環構造を形成してもよく、
Polyは、ポリマー鎖を表す。)
で表されるポリマー。
[態様10]
式(4)中、Polyが両性イオン構造を有する構造単位を少なくとも1つ含む、態様9に記載のポリマー。
[態様11]
酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びヒドロキシアパタイトからなる群より選ばれる無機基材と、態様9又は10のいずれかに記載のポリマーとを含む複合材料であって、前記ポリマーの前記リン含有基を介して前記無機基材の表面が前記ポリマーで修飾されている、複合材料。
[態様12]
酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びヒドロキシアパタイトからなる群より選ばれる無機基材と、態様9又は10のいずれかに記載のポリマーとを、pH7以上の水性溶媒中で接触させることを含む、ポリマーで表面が修飾された複合材料の製造方法。
[態様13]
酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びヒドロキシアパタイトからなる群より選ばれる無機基材と、態様1~6のいずれかに記載の化合物とを含む固相RAFT剤であって、前記化合物の前記リン含有基を介して前記無機基材の表面が前記化合物で修飾されている、固相RAFT剤。
[態様14]
態様13に記載の固相RAFT剤を用いてRAFT重合を行うことを含む、ポリマーの製造方法。
[態様15]
前記RAFT重合が水性溶媒中で行われる、態様14に記載のポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化合物は、水などの極性の高い溶媒中でのRAFT重合のRAFT剤として用いることができ、金属酸化物などの多様な基材の表面修飾にも応用することができる。
【0015】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】例1のRAFT剤のH-NMR(400MHz、DO)チャートである。
図2A】例1のRAFT剤のUV-Visスペクトルである。
図2B】原料として使用したRAFT-NHSのUV-Visスペクトルである。
図3】例2のポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)のH-NMR(400MHz、DO)チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0018】
本開示において「(メタ)アクリル」とはアクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0019】
[化合物]
一実施態様の化合物は、式(1)
【化6】
で表される。
【0020】
式(1)において、Rは、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、Rは、リン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、及びホスホン酸エステル基からなる群より選ばれるリン含有基を含む1価の有機基であり、Xは、単結合、S、O、及びNRからなる群より選ばれ、Rは、水素原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、Rと結合して複素環構造を形成してもよい。
【0021】
この実施態様の化合物は、特定のリン含有基を有することから、水などの高い極性溶媒への溶解性が高く、チオカルボニルチオ基(-(C=S)-S-)を有することからRAFT剤として機能する。そのため、この化合物を用いて水性溶媒中でRAFT重合を有利に行うことができる。更に、この化合物のリン含有基を介して、当該化合物で、又は当該化合物を用いてRAFT重合することにより得られるポリマーで、金属酸化物などの基材の表面を修飾することができる。
【0022】
は、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる。
【0023】
の非置換アルキル基は、好ましくは炭素原子数1~20のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~16のアルキル基である。炭素原子数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-テトラデシル基、及びn-ヘキサデシル基が挙げられる。
【0024】
の非置換アリール基は、好ましくは炭素原子数6~20のアリール基であり、より好ましくは炭素原子数6~14のアリール基である。炭素原子数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アントリル基、及びフェナントレニル基が挙げられる。
【0025】
の非置換ヘテロアリール基は、好ましくは炭素原子数3~20のヘテロアリール基であり、より好ましくは炭素原子数4~14のヘテロアリール基である。炭素原子数3~20のヘテロアリール基としては、例えば、フラニル基、ピリジル基、チエニル基、キノリニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、及びインドリル基が挙げられる。
【0026】
の置換アルキル基、置換アリール基、及び置換ヘテロアリール基は、それぞれ、上記非置換アルキル基、非置換アリール基、及び非置換ヘテロアリール基の1つ以上の水素原子が置換基で置換されたものである。置換基としては、例えば、アルキル基(置換アルキル基の場合を除く)、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシアルキル基(置換アルキル基の場合を除く)、アルコキシアルキル基(置換アルキル基の場合を除く)、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、イソシアナト基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、エポキシ基、及びシリル基が挙げられる。置換基の炭素原子数の合計は、好ましくは1~30であり、より好ましくは1~18である。
【0027】
は、好ましくは、置換基を有してもよい炭素原子数1~16のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数6~14のアリール基、又は置換基を有してもよい炭素原子数4~14のヘテロアリール基であり、より好ましくは、置換基を有してもよい炭素原子数1~16のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素原子数6~14のアリール基である。
【0028】
が置換基を有する実施態様において、置換基は、好ましくは、炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基、シアノ基、又はシリル基である。
【0029】
は、リン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、及びホスホン酸エステル基からなる群より選ばれるリン含有基を含む1価の有機基である。式(1)で表される化合物をRAFT剤としてRAFT重合に使用するとき又はRAFT重合を行った後に、リン含有基であるリン酸エステル基又はホスホン酸エステル基を加水分解して、リン酸基又はホスホン酸基に変換してもよい。
【0030】
のリン含有基は、好ましくはリン酸基又はホスホン酸基であり、より好ましくはリン酸基である。リン酸基及びホスホン酸基は、水などの高い極性溶媒に対する式(1)で表される化合物の溶解性をより高めることができる。
【0031】
の炭素原子数は、好ましくは1~60であり、より好ましくは1~40であり、更に好ましくは1~30である。Rの炭素原子数を1~60とすることにより、水などの高い極性溶媒に対する式(1)で表される化合物の溶解性を高めることができる。
【0032】
一実施態様では、Rは、式(2)
【化7】
で表される。
【0033】
式(2)において、Rは、水素原子、シアノ基、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基、炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基、カルボキシ基、炭素原子数2~20の置換又は非置換のアルコキシカルボニル基、及び炭素原子数7~20の置換又は非置換のアリールオキシカルボニル基からなる群より選ばれ、Rは、水素原子、及び炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基からなる群より選ばれ、Rは、炭素原子数1~30の2価の有機基であり、Rは、水素原子、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基、及び炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基からなる群より選ばれ、Yは、単結合、及びOからなる群より選ばれ、*は、硫黄原子との結合部位を表す。
【0034】
は、水素原子、シアノ基、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基、炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基、カルボキシ基、炭素原子数2~20の置換又は非置換のアルコキシカルボニル基、及び炭素原子数7~20の置換又は非置換のアリールオキシカルボニル基からなる群より選ばれる。
【0035】
の炭素原子数1~20の非置換アルキル基、及びRの炭素原子数6~20の非置換アリール基は、Rについて説明したものと同じである。
【0036】
の炭素原子数2~20の非置換アルコキシカルボニル基としては、例えば、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、及びtert-ブトキシカルボニル基が挙げられる。非置換アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、好ましくは2~13である。
【0037】
の炭素原子数7~20の非置換アリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アントリルオキシカルボニル基、及びフルオレニルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0038】
の置換アルキル基、置換アリール基、置換アルコキシカルボニル基、及び置換アリールオキシカルボニル基は、それぞれ、非置換アルキル基、非置換アリール基、非置換アルコキシカルボニル基、及び非置換アリールオキシカルボニル基の1つ以上の水素原子が置換基で置換されたものである。置換基としては、例えば、アルキル基(置換アルキル基及び置換アルコキシカルボニル基の場合を除く)、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシアルキル基(置換アルキル基及び置換アルコキシカルボニル基の場合を除く)、アルコキシアルキル基(置換アルキル基及び置換アルコキシカルボニル基の場合を除く)、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、イソシアナト基、アシル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、エポキシ基、及びシリル基が挙げられる。置換基の炭素原子数の合計は、好ましくは1~30であり、より好ましくは1~18である。
【0039】
は、水素原子、及び炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基からなる群より選ばれる。Rの炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基は、Rについて説明したものと同じである。
【0040】
とチオカルボニルチオ基を構成する硫黄原子(S)との間の結合(S-R)は、RAFT重合の際にホモリティックに開裂し、フリーラジカルとして脱離したR・は、重合開始種となって重合を再開始する。そのため、式(2)において、チオカルボニルチオ基を構成する硫黄原子(S)の結合炭素原子上の置換基であるR及びRは、重合させるモノマーの種類、具体的にはモノマーの重合活性に応じて適宜選択される。
【0041】
例えば、メチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレンなどの高活性モノマーのRAFT重合においては、Rは、シアノ基、炭素原子数6~20の置換若しくは非置換のアリール基、カルボキシ基、炭素原子数2~20の置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、又は炭素原子数7~20の置換若しくは非置換のアリールオキシカルボニル基であることが好ましく、シアノ基、又は炭素原子数6~20の置換若しくは非置換のアリール基であることがより好ましい。この実施態様において、Rは、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基であることが好ましい。
【0042】
一方で、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾールなどの低活性モノマーのRAFT重合においては、R及びRの少なくとも一方が水素原子であるか、あるいはR及びRが炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基であることが好ましい。
【0043】
一実施態様では、Rは、シアノ基であり、Rは、炭素原子数1~20の非置換アルキル基である。
【0044】
は、炭素原子数1~30の2価の有機基である。
【0045】
としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、ドデカン-1,12-ジイル基などの炭素原子数1~20の直鎖状アルカンジイル基;シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基、ノルボルナンジイル基、アダマンタンジイル基などの炭素原子数5~20の飽和環状炭化水素基;及びフェニレン基、ナフチレン基などの炭素原子数6~30の不飽和環状炭化水素基が挙げられる。これらの基の水素原子の一部又は全てが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などのアルキル基、又は酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子などのヘテロ原子を含有する基で置換されていてもよい。Rを構成する炭素原子の間に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子が介在していてもよい。
【0046】
は、アミド結合又はエーテル結合を含むことが好ましく、アミド結合を含むことがより好ましい。アミド結合及びエーテル結合は、水などの高い極性溶媒に対する式(1)で表される化合物の溶解性を高めることができる。エーテル結合を含むRとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)などのポリアルキレンオキシド部位を含む基が挙げられる。
【0047】
は、水素原子、炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基、及び炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基からなる群より選ばれる。Rの炭素原子数1~20の置換又は非置換のアルキル基、及び炭素原子数6~20の置換又は非置換のアリール基は、Rについて説明したものと同じである。
【0048】
は、好ましくは水素原子、置換基を有してもよい炭素原子数1~16のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素原子数6~14のアリール基であり、より好ましくは水素原子である。
【0049】
Yは、単結合、及びOからなる群より選ばれる。Yが単結合である場合、リン含有基はホスホン酸基又はホスホン酸エステル基である。YがOである場合、リン含有基はリン酸基又はリン酸エステル基である。
【0050】
一実施態様では、YはOであり、Rは水素原子である。
【0051】
Xは、単結合、S、O、及びNRからなる群より選ばれる。XはRと一緒になって、RAFT重合の際の付加-開裂反応の速度に影響する。
【0052】
例えば、メチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレンなどの高活性モノマーのRAFT重合においては、Xは、単結合又はSであることが好ましい。Xが単結合である実施態様では、Rは、置換基を有してもよい炭素原子数6~14のアリール基であることが好ましい。XがSである実施態様では、Rは、置換基を有してもよい炭素原子数1~16のアルキル基であることが好ましい。
【0053】
一方で、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾールなどの低活性モノマーのRAFT重合においては、Xは、O又はNRであることが好ましい。XがOである実施態様では、Rは、置換基を有してもよい炭素原子数1~16のアルキル基であることが好ましい。XがNRである実施態様では、Rは、置換基を有してもよい炭素原子数1~16のアルキル基であることが好ましい。
【0054】
は、水素原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる。Rの置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基は、及び置換又は非置換のヘテロアリール基は、Rについて説明したものと同じである。
【0055】
は、好ましくは、置換基を有してもよい炭素原子数1~16のアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素原子数6~14のアリール基である。
【0056】
は、Rと結合して複素環構造を形成してもよい。複素環構造としては、例えば、ピロリジン環、イミダゾリジン環、ピラゾリジン環、ピペリジン環などの飽和複素環、及びピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピリジン環などの不飽和複素環が挙げられる。複素環構造を構成する炭素原子上又はヘテロ原子上の水素原子の一部又は全てが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などのアルキル基;又はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0057】
一実施態様では、Xは単結合又はSである。
【0058】
一実施態様の化合物は、式(3)
【化8】
で表される。
【0059】
[化合物の製造方法]
式(1)で表される化合物は、公知の方法で合成することができる。例えば、チオカルボニルチオ基とカルボキシ基とを有する化合物又はその誘導体と、リン含有基と水酸基又はアミノ基とを有する化合物との間で、エステル結合又はアミド結合を形成することにより、当該化合物を合成することができる。
【0060】
エステル結合又はアミド結合の形成の際に、カルボキシ基を公知の活性化試薬を用いて活性化することができる。活性化試薬としては、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、塩化チオニル(SOCl)、及び三臭化リン(PBr)が挙げられる。N-ヒドロキシスクシンイミドは、活性化中間体としてN-スクシンイミジルエステルを形成する。塩化チオニル及び三臭化リンは、活性化中間体として酸ハロゲン化物を形成する。
【0061】
一例として、式(3)で表される化合物は、次にようにして得ることができる。チオカルボニルチオ基及びカルボキシ基を有する化合物として、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸を、N-ヒドロキシスクシンイミドと反応させることにより、活性エステルであるN-スクシンイミジル4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタノエート(RAFT-NHS)を合成する。次に、RAFT-NHSとO-ホスホリルエタノールアミンとを反応させることによりアミド結合を形成して、式(3)で表される化合物を合成する。
【0062】
公知の縮合剤を用いてエステル結合又はアミド結合の形成を促進することもできる。縮合剤としては、例えば、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどのカルボジイミド系縮合剤;N,N’-カルボニルジイミダゾールなどのイミダゾール系縮合剤;及び4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド・n水和物(DMT-MM)などのトリアジン系縮合剤が挙げられる。
【0063】
別の実施態様では、式(1)で表される化合物は、チオカルボニルチオ基及び水酸基を有する化合物の水酸基を、モルホリノホスホロジクロリデートなどのリン酸化剤(ホスホリル化剤)を用いてリン酸化(ホスホリル化)することによって合成することもできる。チオカルボニルチオ基及び水酸基を有する化合物は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)などのポリアルキレンオキシド部位を含んでもよい。チオカルボニルチオ基及び水酸基を有する化合物は、チオカルボニルチオ基及びカルボキシ基を有する化合物と、エタノールアミンなどのアルカノールアミンとの間でアミド結合を形成することによって得ることもできる。このアミド結合の形成には、上記の活性化試薬又は縮合剤を用いることもできる。
【0064】
[RAFT重合によるポリマーの製造方法]
式(1)で表される化合物を用いてRAFT重合を行うことによりポリマーを製造することができる。RAFT重合は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、又は塊状重合であってよい。RAFT重合は、バッチ式又は連続式であってよい。
【0065】
〈モノマー〉
式(1)で表される化合物を用いたRAFT重合に適用されるモノマーとしては、RAFT重合が可能であるものであれば特に限定されず、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、p-メトキシスチレン、p-ブトキシスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩、酢酸ビニル、塩化ビニル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾールなどのビニル化合物;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリル酸;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのケイ素含有不飽和モノマー;マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、フマル酸、フマル酸エステルなどの不飽和カルボン酸並びにその酸無水物及びエステル;並びにマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-ステアリルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミドが挙げられる。これらのモノマーは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子で置換されていてもよい。これらのモノマーは、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、アミノ基、リン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、ホスホン酸エステル基、スルホニル基、スルホ基、アンモニウム基などの官能基を更に有してもよい。モノマーは、酸性基と塩基性基の両方を含む両性イオン構造を有してもよい。
【0066】
モノマーとして多官能モノマーを使用することもできる。多官能モノマーとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート;グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3官能(メタ)アクリレート;及びジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4つ以上の官能基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0067】
上記モノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
モノマーの使用量は、モノマーとRAFT剤として使用する式(1)で表される化合物とのモル比(モノマーのモル数/式(1)で表される化合物のモル数)と、モノマーの分子量との積が、目標とするポリマーの分子量となるように決定することができる。
【0069】
〈ラジカル重合開始剤〉
RAFT重合は、式(1)で表される化合物の存在下、公知のラジカル重合開始剤を用いて行うことができる。
【0070】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシドなどの有機過酸化物;1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボノニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;及びレドックス開始剤が挙げられる。ラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
ラジカル重合開始剤の使用量は、RAFT剤として使用する式(1)で表される化合物とラジカル開始剤とのモル比(式(1)で表される化合物のモル数/ラジカル重合開始剤のモル数)が、一般に1以上、又は10以上、10,000以下、又は5,000以下となるように決定される。
【0072】
〈溶媒〉
RAFT重合の溶媒として、有機溶媒又は水性溶媒を用いることができる。
【0073】
有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン;メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)などのアルコール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2-エトキシエチルアセテートなどのエステル;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;及びジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミドが挙げられる。有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
水性溶媒としては、例えば、水、及び水と水溶性有機溶媒との混合物が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)などのアルコール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;及びジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミドが挙げられる。水溶性有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。水性溶媒中の水の含有量は、1質量%以上、2質量%以上、又は5質量%以上、100質量%以下、90質量%以下、又は80質量%以下とすることができる。
【0075】
一実施態様では、RAFT重合は水性溶媒中で行われる。
【0076】
〈重合温度〉
重合温度は、一般に-20~200℃であり、40~160℃であることが好ましい。重合時間は、モノマーの重合活性、及びRAFT剤として使用する式(1)で表される化合物の種類に応じて適宜決定することができ、例えば、10分~120時間とすることができる。
【0077】
〈コポリマー〉
式(1)で表される化合物を用いてRAFT重合の特徴の一つであるブロックコポリマーを合成することもできる。例えば、第1のモノマーを重合させた後に、第2のモノマーを添加して重合させることにより、ジブロックコポリマーを合成することができる。その後、第3のモノマー、第4のモノマーなどを逐次重合させることによりマルチブロックコポリマーを合成することができる。別の実施態様では、コポリマーは、グラジエントコポリマー、ランダムコポリマー、又は統計コポリマーである。例えば、各モノマーを所定の比率で反応溶液に含ませる、又は重合の進行に伴い比率を変化させながら反応溶液に添加する、又はそれらの両方を行うことにより、グラジエントコポリマー、ランダムコポリマー、又は統計コポリマーを合成することができる。
【0078】
[ポリマー]
一実施態様のポリマーは、
式(4)
【化9】
で表される。
【0079】
式(4)中、Rは、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、Rは、リン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、及びホスホン酸エステル基からなる群より選ばれるリン含有基を含む1価の有機基であり、Xは、単結合、S、O、及びNRからなる群より選ばれ、Rは、水素原子、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアリール基、及び置換又は非置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれ、Rと結合して複素環構造を形成してもよく、Polyは、ポリマー鎖を表す。
【0080】
式(4)のR、R、及びXは、式(1)で表される化合物について説明したものと同じである。すなわち、式(4)で表されるポリマーは、式(1)で表される化合物のS-R結合が開裂して生成したフラグメントがそれぞれポリマー鎖の末端に付加したものである。
【0081】
式(4)のPolyは、上記モノマーに由来するポリマー鎖である。そのようなポリマー鎖としては、例えば、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリマレイミドなどのホモポリマー、並びにこれらのブロックコポリマーが挙げられる。
【0082】
一実施態様では、式(4)中、Polyは両性イオン構造を有する構造単位を少なくとも1つ含む。両性イオン構造を有する構造単位を形成するモノマーとしては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンなどのラジカル重合性基を有するホスホリルコリンが挙げられる。
【0083】
ポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、モノマーとRAFT剤として使用する式(1)で表される化合物とのモル比(モノマーのモル数/式(1)で表される化合物のモル数)により制御することができる。ポリマーの多分散度(Mw/Mn)は、一般に、1以上、1.5以下、1.3以下、又は1.1以下である。本開示において「数平均分子量」及び「重量平均分子量」とは、それぞれ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、測定対象であるポリマーについて一般に使用される標準物質で換算した分子量を意味する。
【0084】
[複合材料]
一実施態様の複合材料は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びヒドロキシアパタイトからなる群より選ばれる無機基材と、上記ポリマーとを含み、当該ポリマーのリン含有基を介して無機基材の表面が当該ポリマーで修飾されている。
【0085】
一実施態様では、無機基材は酸化チタンを含む。
【0086】
無機基材の形状及び大きさは特に限定されない。無機基材としては、例えば、粒子状、平板状、円盤状、球状、棒状、及びその他の不定形が挙げられる。
【0087】
無機基材はナノ粒子であってもよい。ナノ粒子の平均一次粒子径は、一般に1~150nmである。ナノ粒子の平均一次粒子径は以下の手順で決定される。透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてナノ粒子を撮影して得られる電子顕微鏡写真において、100個のナノ粒子を無作為に選択する。各ナノ粒子の最大横断長をナノ粒子の直径と定義する。この直径を球換算した体積を計算し、100個のナノ粒子の累積体積分布における50%径(メジアン径、D50)をナノ粒子の平均一次粒子径とする。一実施態様では、ナノ粒子は酸化チタンナノ粒子である。
【0088】
[複合材料の製造方法]
一実施態様の複合材料の製造方法は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びヒドロキシアパタイトからなる群より選ばれる無機基材と、上記ポリマーとを、pH7以上の水性溶媒中で接触させることを含む。複合材料の表面は、当該ポリマーのリン含有基を介して当該ポリマーで修飾されている。
【0089】
水性溶媒としては、RAFT重合に使用される溶媒として説明したものが挙げられる。
【0090】
水性溶媒のpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などのアルカリ化合物を用いて調整することができる。水性溶媒のpHをバッファー剤を用いて調整してもよい。水性溶媒のpHは、8以上、又は9以上であってよく、一般に11以下、又は10以下である。
【0091】
接触温度は、0~60℃であることが好ましく、10~40℃であることがより好ましい。
【0092】
[固相RAFT剤]
一実施態様の固相RAFT剤は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びヒドロキシアパタイトからなる群より選ばれる無機基材と、式(1)で表される化合物とを含み、当該化合物のリン含有基を介して無機基材の表面が当該化合物で修飾されている。
【0093】
固相RAFT剤の無機基材は、複合材料について説明したものと同じである。
【0094】
固相RAFT剤は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びヒドロキシアパタイトからなる群より選ばれる無機基材と、式(1)で表される化合物とを、pH7以上の水性溶媒中で接触させることにより製造することができる。水性媒体及びそのpH、並びに接触温度については、複合材料の製造方法について説明したものと同じである。
【0095】
[固相RAFT剤を用いたRAFT重合によるポリマーの製造方法]
上記固相RAFT剤を用いてRAFT重合を行うことによりポリマーを製造することができる。このポリマーは、ポリマー鎖の末端に固相RAFT剤のフラグメントが結合した複合材料の形態であってもよい。この実施態様のRAFT重合に使用するモノマー、ラジカル重合開始剤、溶媒、及び重合温度については、式(1)で表される化合物を用いたRAFT重合によるポリマーの製造方法について説明したものと同じである。
【0096】
一実施態様では、固相RAFT剤を用いたRAFT重合は水性溶媒中で行われる。
【0097】
本開示の化合物、ポリマー、複合材料、及び固相RAFT剤は、超音波増感剤、光触媒、機能性細胞シート、薬物輸送キャリア、メカノケミカル材料、温度センサー、分離膜、保水剤などの水系で使用することができる機能性材料の製造に好適に使用することができる。
【実施例
【0098】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
例1 RAFT剤の合成
O-ホスホリルエタノールアミン(O-PEA、0.388g、2.7mmol)を炭酸ナトリウムバッファー(pH9、25mL)に溶解させた。N-スクシンイミジル4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタノエート(RAFT-NHS、0.94g、2.5mmol)を50mLのDMSOに溶解させた。得られた二つの溶液をナスフラスコ中で混合し、遮光しながら一晩室温で撹拌して反応させた。反応後、逆相クロマトグラフィーを用いた精製を行った。具体的には、最初に100%の水を用いて、反応溶液中のDMSO、塩類、及び未反応のO-PEAを除去し、次にメタノール:水=1:1(体積比)の混合溶媒を用いて、生成物と未反応のRAFT-NHSを分離回収した。エバポレーターを用いて生成物を含む回収物からメタノールを減圧留去し、残存した水を凍結乾燥により除去して、例1のRAFT剤を収率61%で得た。反応式を以下に示す。
【0100】
【化10】
【0101】
例1のRAFT剤のH-NMR(400MHz、DO)チャートを図1に示す。
H-NMR(400MHz、DO):δ=7.90(d,2H,benzene),7.66(t,1H,benzene),7.47(t,2H,benzene),3.92(d,2H,-C -O-),3.42(t,2H,-NH-C -),2.62-2.50(m,4H,-C -C -C(=O)-),1.92(s,3H,C ).
【0102】
例1のRAFT剤のUV-Visスペクトルを図2Aに示す。原料として使用したRAFT-NHSのUV-Visスペクトルを図2Bに示す。これらのUV-Visスペクトルは、試料濃度10mmol/LのDMSO溶液を用いて測定した。例1のRAFT剤において、ジチオベンゾエート基由来の極大吸収波長(λmax=514nm)は、原料として使用したRAFT-NHSのジチオベンゾエート基由来の極大吸収波長(λmax=513nm)から殆どシフトしておらず、モル吸光係数も同等であることから、例1のRAFT剤においてもRAFT構造が保持されていることが分かった。
【0103】
例2 RAFT重合
例1のRAFT剤(4.06mg、10μmol)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)(0.3g、1.0mmol、MPCとRAFT剤のモル比(MPC/RAFT剤)=100)、及び水溶性アゾ重合開始剤V-501(4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、0.56mg、2.0μmol)を秤量し、3mLの水に溶解させた。得られた溶液をシュレンク管に入れ、シュレンク管内を窒素雰囲気下にした後、70℃のオイルバスで15時間遮光しながらRAFT重合反応を行って、以下の構造のポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)を得た。重合率はH-NMR(400MHz、DO)により、内部標準として用いたDMSOとMPCの二重結合の積分比の変化により求めたところ、99%であった。
【0104】
【化11】
【0105】
例2のPMPCのH-NMR(400MHz、DO)チャートを図3に示す。
H-NMR(400MHz、DO):δ=8.00(d,2H,benzene),7.73(t,1H,benzene),7.57(t,2H,benzene),4.33-4.13(br,594H,-O-C -C -O-P(=O)(-O)-O-C -),3.72(t,891H,-N(C ),1.95(br,198H,-C -C(CH)-C(=O)-),1.13-0.96(br,277H,-CH-C(C )-C(=O)-).
【0106】
PMPCの数平均分子量及び分子量分布は、溶離液としてpH7のリン酸バッファー(0.2M)を用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。PMPC(2mg)をリン酸バッファー(1mL)に溶解させて測定試料を調製した。分子量の校正曲線は、既知分子量のポリエチレングリコールを用いて作成した。PMPCの理論分子量は30000であるところ、数平均分子量Mnは32600、重量平均分子量Mwは33900、分散度Mw/Mnは1.04であった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示の化合物、ポリマー、複合材料、及び固相RAFT剤は、超音波増感剤、光触媒、機能性細胞シート、薬物輸送キャリア、メカノケミカル材料、温度センサー、分離膜、保水剤などの水系で使用することができる機能性材料の製造に好適に使用することができる。
図1
図2A
図2B
図3