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特許7745019燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法
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  • 特許-燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-17
(45)【発行日】2025-09-26
(54)【発明の名称】燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1069 20160101AFI20250918BHJP
   H01M 8/1051 20160101ALI20250918BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20250918BHJP
【FI】
H01M8/1069
H01M8/1051
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024005152
(22)【出願日】2024-01-17
(65)【公開番号】P2025111021
(43)【公開日】2025-07-30
【審査請求日】2024-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】黒須 文美
(72)【発明者】
【氏名】櫛谷 尚紀
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/116645(WO,A1)
【文献】特開2006-107914(JP,A)
【文献】特開2025-099432(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第118976479(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
H01M 4/86-4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム含有酸化物粉末を解砕して、セリウム含有酸化物微粉末を得る解砕工程と、
前記セリウム含有酸化物微粉末と、アイオノマーと、水とを混合攪拌して第1混合液を得る第1混合工程と、
前記第1混合液と、1-プロパノールとを混合攪拌して第2混合液を得る第2混合工程と、
前記第2混合液に対して超音波処理を行う超音波処理工程と、を含む燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法。
【請求項2】
前記超音波処理工程の後に、前記第2混合液に対して振とう処理を行う振とう処理工程を含む、請求項1に記載の燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法。
【請求項3】
前記解砕工程と、前記第1混合工程との間に、前記セリウム含有酸化物微粉末を分級する分級工程を含む、請求項1又は2に記載の燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法。
【請求項4】
前記第2混合液は、前記アイオノマーに対する前記セリウム含有酸化物微粉末の含有率は0.1質量%以上3.0質量%以下の範囲内にある、請求項1又は2に記載の燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する燃料電池に関する研究開発が行われている。燃料電池は、一般に、電解質層を介して対向配置されたアノード側触媒層とカソード側触媒層とを含む電極構造体(MEA)を有する。燃料電池では、アノード側触媒層で生成した水素イオンとカソード側触媒層で生成した酸素イオンとが反応して水が生成する。この反応の際に、反応副生物として過酸化水素が生成することが知られている。過酸化水素は電解質層を劣化させる原因となることがある。このため、電解質層に、過酸化水素の除去剤(ラジカルクエンチャー)を添加するのが一般的である。過酸化水素の除去剤としては、セリウム化合物が広く利用されている。セリウム化合物としては、硝酸セリウムなどの水溶性セリウム化合物が知られている。また、酸化セリウムなどのセリウム含有酸化物を用いることも検討されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-64721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池に関する技術では、電解質層の長寿命化が課題の一つである。電解質層の長寿命化のために、電解質層にラジカルクエンチャーを添加することは有効である。セリウム含有酸化物は耐水性が高いことから、電解質層のラジカルクエンチャーとして有用である。
【0005】
電解質層の形成方法として、アノード側触媒層又はカソード側触媒層の表面に、電解質層形成用インクを塗布して乾燥する塗布・乾燥法が知られている。塗布・乾燥法は連続的に電解質層を形成することができる点で有効な方法である。しかしながら、本発明者らの検討によると、セリウム含有酸化物を分散させた電解質膜製膜用インクは、セリウム含有酸化物の粒子が沈降しやすく、組成を安定させることが難しい傾向がある。このため、塗布・乾燥法でセリウム含有酸化物が均一に分散した電解質層を連続的に形成することは難しい。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、セリウム含有酸化物を含みながらも、長時間にわたってセリウム含有酸化物の粒子が沈降しにくく、組成が安定する燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法を提供することを目的とする。そして、延いてはエネルギー効率の改善に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、セリウム含有酸化物の粉末を解砕して微粉末として、水とアイオノマーと混合して第1混合液を得て、その第1混合液と1-プロパノールとを混合攪拌して第2混合液とした後、その第2混合液に対して超音波処理を行なう方法によって、上記の課題を解決することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。したがって、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1)セリウム含有酸化物粉末を解砕して、セリウム含有酸化物微粉末を得る解砕工程と、前記セリウム含有酸化物微粉末と、アイオノマーと、水とを混合攪拌して第1混合液を得る第1混合工程と、前記第1混合液と、1-プロパノールとを混合攪拌して第2混合液を得る第2混合工程と、前記第2混合液に対して超音波処理を行う超音波処理工程と、を含む燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法。
【0009】
(1)の燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法によれば、解砕工程でセリウム含有酸化物の粉末を解砕して微粉末とし、超音波工程で第2混合液に対して超音波処理を行うので、得られた電解質層形成用インク中のセリウム含有酸化物の粒子は微細となる。このため、得られた電解質層形成用インクは、長時間にわたってセリウム含有酸化物の粒子が沈降しにくく、組成が安定する。
【0010】
(2)前記超音波処理工程の後に、前記第2混合液に対して振とう処理を行う振とう処理工程を含む、請求項1に記載の燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法。
【0011】
(2)の燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法によれば、超音波処理後の第2混合液に粒子の沈降が生じた場合は、振とう工程で沈降した粒子を再分散させるので、得られる電解質層形成用インクの組成がより安定する。
【0012】
(3)前記解砕工程と、前記第1混合工程との間に、前記セリウム含有酸化物微粉末を分級する分級工程を含む、請求項1又は2に記載の燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法。
【0013】
(3)の燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法によれば、セリウム含有酸化物微粉末に混入する粗大な粒子が分級工程で除去されるので、得られる電解質層形成用インクは粒子の沈降がより起こりにくくなる。
【0014】
(4)前記第2混合液は、前記アイオノマーに対する前記セリウム含有酸化物微粉末の含有率は0.1質量%以上3.0質量%以下の範囲内にある、請求項1又は2に記載の燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法。
【0015】
(4)の燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法によれば、セリウム含有酸化物の含有率が上記の範囲内にあるので、得られた電解質層形成用インクを用いることによって、過酸化水素による劣化が起こりにくい電解質層を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、セリウム含有酸化物を含みながらも、長時間にわたってセリウム含有酸化物の粒子が沈降しにくく、組成が安定する燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法について、添付の図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池の電解質層形成用インクの製造方法のフロー図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池の電解質層形成用インクは、解砕工程S1、分級工程S2、第1混合工程S3、第2混合工程S4、超音波処理工程S5、振とう処理工程S6を含む。
【0020】
解砕工程S1は、セリウム含有酸化物粉末を解砕して、セリウム含有酸化物微粉末を得る工程である。セリウム含有酸化物粉末としては、酸化セリウム(CeO)粉末を用いることができる。酸化セリウム粉末は、酸化ジルコニウムなどの遷移金属酸化物がドープされていてもよい。セリウム含有酸化物粉末の解砕は湿式で行ってもよいし、乾式で行ってもよい。解砕装置としては、例えばボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、乳鉢及び乳棒を用いることができる。
【0021】
分級工程S2は、解砕工程S1で得られたセリウム含有酸化物微粉末を分級して、粗大なセリウム含有酸化物粒子を除去する工程である。粗大なセリウム含有酸化物粒子を除去することによって、電解質層形成用インクの粒子の沈降がより起こりにくくなる。セリウム含有酸化物微粉末の分級は、湿式で行ってもよいし、乾式で行ってもよい。分級装置としては、例えばふるい、風力分級機を用いることができる。
【0022】
分級工程S2後のセリウム含有酸化物微粉末は、例えば目開き32μmのふるいを通過するものであってもよい。
【0023】
第1混合工程S3は、セリウム含有酸化物微粉末と、アイオノマーと、水とを混合攪拌して第1混合液を得る工程である。セリウム含有酸化物微粉末、アイオノマー及び水の混合の順序は、特に制限はない。アイオノマーと水の混合液にセリウム含有酸化物微粉末を混合してもよいし、セリウム含有酸化物微粉末とアイオノマーの混合物に水を混合してもよいし、セリウム含有酸化物微粉末と水の混合物にアイオノマーを混合してもよいし、セリウム含有酸化物微粉末とアイオノマーと水を同時に混合してもよい。攪拌装置としては、マグネチックスターラー、プロペラミキサーを用いることができる。
【0024】
第2混合工程S4は、第1混合液と、1-プロパノールとを混合攪拌して第2混合液を得る工程である。第2混合工程S4にて、第1混合液と1-プロパノールとを混合することによって、セリウム含有酸化物微粉末とアイオノマーと水と1-プロパノールを混合した場合と比較して、アイオノマーが分散しやすくなる。攪拌装置としては、マグネチックスターラー、プロペラミキサーを用いることができる。
【0025】
第2混合液中のアイオノマーに対するセリウム含有酸化物の含有率は、例えば0.1質量%以上3.0質量%の範囲内にあってもよい。第2混合液中のアイオノマーに対する1-プロパノールの含有率は、例えば40質量%以上80質量%の範囲内にあってもよい。第2混合液中のアイオノマーに対する水の含有率は、例えば5質量%以上30質量%の範囲内にあってもよい。
【0026】
超音波処理工程S5は、第2混合液に対して超音波処理を行う工程である。超音波処理により、第2混合液中で凝集した凝集粒子が解砕されて、セリウム含有酸化物は一次粒子もしくはそれに近い微細な粒子となる。このため、粒子の沈降が起こりにくくなる。超音波処理装置としては、超音波バス、超音波ホモジナイザーを用いることができる。
【0027】
振とう処理工程S6は、超音波処理後の第2混合液に対して振とう処理を行う工程である。超音波処理後の第2混合液には、粒子の沈降が生じている場合がある。この場合は、振とう処理によって沈降した粒子を再分散させる。振とう処理は、手作業で行ってもよいし、振とう機を用いて行ってもよい。振とう処理工程S6は、燃料電池の電解質層形成用インクとして使用する直前に行ってもよい。
【0028】
振とう処理後の第2液は、振とう処理後数時間経過しても粒子の沈降が起こりにくく、組成の安定性が高い。このため、燃料電池の電解質層形成用インクとして有利に使用することができる。第2液を電解質層形成用インクとして使用することによって、数時間連続して電解質層を形成することができる。
【0029】
以上のような構成とされた本実施形態の電解質層形成用インクの製造方法によれば、長時間にわたってセリウム含有酸化物の粒子が沈降しにくく、組成が安定な燃料電池の電解質層形成用インクを製造することができる。
【0030】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0031】
例えば、本実施形態では、解砕工程S1の後に分級工程S2を行っているが、解砕工程S1において、セリウム含有酸化物粉末が十分に解砕されていれば分級工程S2は省略してもよい。また、超音波処理工程S5の後に振とう処理工程S6を行っているが、超音波処理後の第2混合液で粒子の沈降が見られなければ、振とう処理工程S6は省略してもよい。
【実施例
【0032】
[実施例1]
セリウム含有酸化物粉末として、CeO粉末を用意した。CeO粉末をめのうの乳鉢と乳棒を用いて解砕した。次いで、得られた解砕物を、目開き32μmのふるいを用いて分級して、CeO微粉末を得た。
【0033】
アイオノマー118.8質量部と、水13.3質量部とを混合して、混合液を調製した。この混合液に、上記のCeO微粉末0.14質量部を添加し、プロペラミキサーを用いて、650rpmの回転速度で15分間混合して、第1混合液を得た。次に、第1混合液に、1-プロパノール67.9質量部を加え、プロペラミキサーを用いて、さらに650rpmの回転速度で15分間混合して、第2混合液を得た。
【0034】
上記の第2混合液を、超音波バスを用いて30分間超音波処理した。超音波処理後の第2混合液は、少量の白色粒子がわずかに沈降していた。次いで、超音波処理後の第2混合液を浸とうして、白色粒子を分散させて、CeO分散液を得た。得られたCeO分散液を、透明容器に入れて3時間静置した。静置後のCeO分散液を目視で観察したところ、白色粒子の沈降は見られなかった。よって、このCeO分散液は、燃料電池の電解質層形成用インクとして有利に使用することができる。
【0035】
[実施例2]
セリウム含有酸化物粉末として、ZrOドープCeO粉末を用いたこと、アイオノマーと水の混合液へのZrOドープCeO微粉末の添加量を0.7質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、ZrOドープCeO分散液を得た。得られたZrOドープCeO分散液を、透明容器に入れて3時間静置した。静置後のZrOドープCeO分散液を目視で観察したところ、白色粒子の沈降は見られなかった。よって、このZrOドープCeO分散液は、燃料電池の電解質層形成用インクとして有利に使用することができる。
図1