(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-25
(45)【発行日】2025-10-03
(54)【発明の名称】ウイルス感染阻止剤及びウイルス感染阻止製品
(51)【国際特許分類】
A01N 61/00 20060101AFI20250926BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20250926BHJP
A01N 41/04 20060101ALI20250926BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20250926BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20250926BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250926BHJP
A01N 37/06 20060101ALI20250926BHJP
A01N 37/10 20060101ALI20250926BHJP
A01N 37/44 20060101ALI20250926BHJP
【FI】
A01N61/00 D
A01P1/00
A01N41/04 Z
A01N25/12 101
A01N25/10
C08L101/00
A01N37/06
A01N37/10
A01N37/44
(21)【出願番号】P 2023504441
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2022040187
(87)【国際公開番号】W WO2023074805
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2024-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2021178529
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022037407
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022142160
(32)【優先日】2022-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510087564
【氏名又は名称】積水マテリアルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】川村 大地
(72)【発明者】
【氏名】西原 和也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太郎
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-193966(JP,A)
【文献】特開2012-126677(JP,A)
【文献】特開2017-179293(JP,A)
【文献】特開2013-147473(JP,A)
【文献】特開2019-173202(JP,A)
【文献】特開2015-078479(JP,A)
【文献】特表2008-523066(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157942(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/191322(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホン酸基及びスルホン酸基の塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の感染阻止官能基を含有し且つD90粒子径が2~25μmであるウイルス感染阻止化合物を含有
し、
上記ウイルス感染阻止化合物は、アルギン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、安息香酸、エチレンジアミン四酢酸、1,3-ジアミノプロパン四酢酸、エチレンジアミンコハク酸、及び、ジエチレントリアミン五酢酸からなる群から選ばれた少なくともいずれかを含むことを特徴とするウイルス感染阻止剤。
【請求項2】
ウイルス感染阻止化合物のD50粒子径が0.5~14μmであることを特徴とする請求項1に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項3】
ウイルス感染阻止化合物のpKa1が5.5以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項4】
ウイルス感染阻止化合物0.5gを精製水99.5gに加えて均一に混合した液における25℃でのpHが6以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項5】
ウイルス感染阻止効果を付与したい基材に含有させて用いられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項6】
ウイルス感染阻止化合物は、芳香族環を含有していないことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項7】
ウイルス感染阻止化合物におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量が5~20mmol/gであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項8】
ウイルス感染阻止化合物が粒子の表面に付着していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項9】
粒子は、アクリル系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子又は無機粒子であることを特徴とする
請求項8に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項10】
基材と、
上記基材に含まれた、請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤とを含有していることを特徴とするウイルス感染阻止製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染阻止剤及びウイルス感染阻止製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、季節性インフルエンザウイルスの流行に加え、新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に大流行している。
【0003】
又、高病原性のトリインフルエンザウイルスが変異してヒト間で感染が確認されており、更に、致死率のきわめて高いサーズウイルスも懸念されており、ウイルスへの不安感は高まる一方である。
【0004】
これらの問題に対して、特許文献1には、合成樹脂100質量部に対しスルホン酸系界面活性剤を0.5質量部以上含む抗ウイルス性合成樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記抗ウイルス性合成樹脂組成物は、スルホン酸系界面活性剤を合成樹脂中に含有させているにすぎず、スルホン酸系界面活性剤は、十分な抗ウイルス性(ウイルス感染阻止効果)を有しておらず、ウイルス感染阻止効果に優れたウイルス感染阻止剤が所望されている。
【0007】
又、上記抗ウイルス性合成樹脂組成物は、水分に接触すると顕著な白化を生じ、基材表面に付着させて用いると、基材の色彩を損なうという問題点を有する。
【0008】
本発明は、優れたウイルス感染阻止効果を発揮することができ且つ水分の接触による白化が低減されたウイルス感染阻止剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホン酸基及びスルホン酸基の塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の感染阻止官能基を含有し且つD90粒子径が2~25μmであるウイルス感染阻止化合物を含有することを特徴とするウイルス感染阻止剤。
[2] ウイルス感染阻止化合物のD50粒子径が0.5~14μmであることを特徴とする[1]のウイルス感染阻止剤。
[3] ウイルス感染阻止化合物のpKa1が5.5以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のウイルス感染阻止剤。
[4] ウイルス感染阻止化合物のpHが9以下であることを特徴とする[1]~[3]の何れかに記載のウイルス感染阻止剤。
[5] ウイルス感染阻止化合物の重量平均分子量が3000以上であることを特徴とする[1]~[4]の何れかのウイルス感染阻止剤。
[6]ウイルス感染阻止化合物の重量平均分子量が3000~1000000であることを特徴とする[1]~[5]のウイルス感染阻止剤。
[7] ウイルス感染阻止化合物は、芳香族環を含有していないことを特徴とする[1]~[6]のウイルス感染阻止剤。
[8] ウイルス感染阻止化合物におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量が5~20mmol/gであることを特徴とする[1]~[7]のウイルス感染阻止剤。
[9] ウイルス感染阻止化合物が粒子の表面に付着していることを特徴とする[1]~[8]のウイルス感染阻止剤。
[9] 粒子は、アクリル系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子又は無機粒子であることを特徴とする[1]~[8]のウイルス感染阻止剤。
[10]基材と、上記基材に含まれた、[1]~[9]のウイルス感染阻止剤とを含有していることを特徴とするウイルス感染阻止製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のウイルス感染阻止剤は、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホン酸基及びスルホン酸基の塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の感染阻止官能基を含有し且つD90粒子径が2~25μmであるウイルス感染阻止化合物を含有するので、エンベロープを有するウイルス及びエンベロープを有しないウイルスの双方に対して優れたウイルス感染阻止効果を有し、様々な種類のウイルスに対してウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0011】
本発明のウイルス感染阻止剤は、水分に接触した場合の白化が低減されているため、基材表面に付着させて用いた場合にあっても基材の色彩を損なうことはなく、基材の外観性を維持しながら、基材にウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のウイルス感染阻止剤は、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホン酸基及びスルホン酸基の塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の感染阻止官能基を含有し且つD90粒子径が2~25μmであるウイルス感染阻止化合物を含有する。
【0013】
[ウイルス感染阻止化合物]
本発明のウイルス感染阻止剤は、有効成分としてウイルス感染阻止化合物を含有している。ウイルス感染阻止化合物は、分子中に、カルボキシ基(-COOH)、カルボキシ基の塩、スルホン酸基(-SO3H)及びスルホン酸基の塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の感染阻止官能基を含有している。ウイルス感染阻止化合物は、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホン酸基及びスルホン酸基の塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の感染阻止官能基を含む分子構造部分に由来してウイルス感染阻止効果を発揮する。ウイルス感染阻止化合物は、特に、エンベロープを有するウイルスに対して優れたウイルス感染阻止効果を有する。
【0014】
ウイルス感染阻止剤中におけるウイルス感染阻止化合物の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%が好ましい。
【0015】
なお、ウイルス感染阻止効果とは、ウイルスの細胞への感染力をなくし或いは低下させ又は感染しても細胞中で増殖できなくする効果をいう。このようなウイルスの感染性の有無を確認する方法としては、例えば、繊維製品ではISO18184やJIS L1922、繊維製品以外のプラスチックや非多孔質表面の製品では、ISO21702が挙げられる。抗菌製品技術協議会(SIAA)は、抗ウイルス加工剤の安全性と一定の抗ウイルス効果の基準を満たす製品に抗ウイルス加工マークを認証しており、抗ウイルス効果の基準は、ISO21702の評価においてブランク品(抗ウイルス加工剤の無添加品)のウイルス感染価の常用対数値と加工品(抗ウイルス加工剤の添加品)のウイルス感染価の常用対数値との差(抗ウイルス活性値)が2.0以上である。ウイルス感染阻止剤は抗ウイルス加工剤の成分として使用され、樹脂中に練り込まれたり、塗料などの表面コーティング剤に添加して使用され、上記の評価方法で評価される。
【0016】
本発明においては、例えば、以下の条件でウイルス感染阻止効果を評価した際に、ブランク品と加工品とのウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)が2.0以上(好ましくは3以上)である製品をウイルス感染阻止剤として定義する。その際、評価するウイルスの種類を問わず、少なくとも1種のウイルスにおいて、ブランク品と加工品とのウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)が2.0以上となるものをウイルス感染阻止剤として扱う。
【0017】
ウイルス感染阻止剤30mgを無溶剤型の紫外線硬化性アクリル系樹脂(日立化成社製 商品名「テスラック2328」)970mg中に供給して均一に混合し塗料を作製する。得られた塗料をポリエステルフィルム上に塗布した後、UVコンベア装置アイグランテージ[アイグラフィックス株式会社製 商品名「ECS301G1」、紫外線波長:365365mm)]を用いて、塗料に照射光量500mJ/cm2の紫外線を当てて紫外線硬化性アクリル系樹脂を硬化させ、膜厚が18μmの塗膜を形成し、試験塗膜とする。
【0018】
得られた試験塗膜の抗ウイルス試験をISO21702に準拠して行う。反応後のウイルス懸濁液について、プラック法により試験塗膜のウイルス感染価を算出する。ウイルス感染阻止剤を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク塗膜を作製し、このブランク塗膜に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出する。ブランク塗膜のウイルス感染価から試験塗膜のウイルス感染価を引くことによって、ウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)を算出する。
【0019】
他にも「医・薬科ウイルス学」(1990年4月初版発行)に記載されているようなプラック法や赤血球凝集価(HAU)測定法などが挙げられる。
【0020】
なお、ウイルス感染阻止効果とは、ウイルスの細胞への感染力をなくし或いは低下させ又は感染しても細胞中で増殖できなくする効果をいう。このようなウイルスの感染性の有無を確認する方法としては、例えば、繊維製品ではISO18184やJIS L1922、繊維製品以外のプラスチックや非多孔質表面の製品では、ISO21702が挙げられる。他にも「医・薬科ウイルス学」(1990年4月初版発行)に記載されているようなプラック法や赤血球凝集価(HAU)測定法などが挙げられる。
【0021】
カルボキシ基(-COOH)の塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩(-COONa)、カルシウム塩[(-COO-)2Ca2+]、アンモニウム塩(-COO-NH4
+)、マグネシウム塩[(-COO-)2Mg2+]、バリウム塩[(-COO-)2Ba2+]などが挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。
【0022】
スルホン酸基(-SO3H)の塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩(-SO3Na)、カルシウム塩[(-SO3
-)2Ca2+]、アンモニウム塩(-SO3
-NH4
+)、マグネシウム塩[(-SO3
-)2Mg2+]、バリウム塩[(-SO3
-)2Ba2+]などが挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。
【0023】
カルボキシ基を有するウイルス感染阻止化合物としては、分子中に、カルボキシ基を1つ以上有しておればよく、例えば、線状高分子の側鎖にカルボキシ基を有するポリマー、メリット酸、アコニット酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メチレンジサリチル酸、cis-Δ4-テトラヒドロフタル酸、グルコン酸、粘液酸、3,3’-チオジプロピオン酸、2,2’-チオジグリコール酸、3,3’-ジチオジプロピオン酸、2,2’-ジチオジグリコール酸、2,2’-ジチオサリチル酸、4,4’-ジチオ二酪酸、3-(ドデシルチオ)プロピオン酸、ピコリン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、クロトン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、キナ酸、サリチル酸、安息香酸、バニリン酸、没食子酸、マンデル酸、ベンジル酸、フロレト酸、クマル酸、カフェイン酸、フェルラ酸、シナピン酸、4-アミノ安息香酸、トリグリコラミン酸、エチレンジアミン四酢酸、1,3-ジアミノプロパン四酢酸、エチレンジアミンコハク酸、ジエチレントリアミン五酢酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチル化キトサン、カルボキシメチル化キチン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチル―β―シクロデキストリン、カルボキシスクロース、ペクチン、キサンタンガム、アルギン酸、ヒアルロン酸、フルボ酸、フミン酸、ウロン酸、アラビノン酸、フルクツロン酸、タガツノン酸、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、グルロン酸などが挙げられる。カルボキシ基を有するウイルス感染阻止化合物としては、アルギン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、安息香酸 、エチレンジアミン四酢酸、1,3-ジアミノプロパン四酢酸、エチレンジアミンコハク酸、及び、ジエチレントリアミン五酢酸が好ましい。
【0024】
線状高分子の側鎖にカルボキシ基を有するポリマーにおいて、線状高分子としては、特に限定されず、例えば、ビニルポリマー、ポリエステル、ポリウレタンが好ましく、ビニルポリマーがより好ましい。
【0025】
線状高分子の側鎖にカルボキシ基を有するポリマーとしては、例えば、カルボキシ基を含有するカルボキシ基含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーなどが挙げられる。カルボキシ基含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーは、カルボキシ基含有モノマーのホモポリマーであってもよいし、カルボキシ基含有モノマーとこれと共重合可能なモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0026】
カルボキシ基含有モノマーとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、5-カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、カルボキシベタイン型モノマーなどが挙げられ、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。なお、カルボキシ基含有モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0027】
カルボキシ基の塩を含有するウイルス感染阻止化合物としては、分子中に、カルボキシ基の塩を1つ以上有しておればよく、例えば、線状高分子の側鎖にカルボキシ基の塩を有するポリマー、メリット酸の塩、アコニット酸の塩、クエン酸の塩、シュウ酸の塩、マロン酸の塩、コハク酸の塩、グルタル酸の塩、アジピン酸の塩、ピメリン酸の塩、スベリン酸の塩、フマル酸の塩、マレイン酸の塩、イタコン酸の塩、シトラコン酸の塩、メサコン酸の塩、フタル酸の塩、イソフタル酸の塩、テレフタル酸の塩、メチレンジサリチル酸の塩、cis-Δ4-テトラヒドロフタル酸の塩、グルコン酸の塩、粘液酸の塩、3,3’-チオジプロピオン酸の塩、2,2’-チオジグリコール酸の塩、3,3’-ジチオジプロピオン酸の塩、2,2’-ジチオジグリコール酸の塩、2,2’-ジチオサリチル酸の塩、4,4’-ジチオ二酪酸の塩、3-(ドデシルチオ)プロピオン酸の塩、ピコリン酸の塩、ギ酸の塩、酢酸の塩、プロピオン酸の塩、酪酸の塩、吉草酸の塩、カプロン酸の塩、エナント酸の塩、カプリル酸の塩、ペラルゴン酸の塩、カプリン酸の塩、ラウリン酸の塩、クロトン酸の塩、グリコール酸の塩、乳酸の塩、リンゴ酸の塩、酒石酸の塩、キナ酸の塩、サリチル酸の塩、安息香酸の塩、バニリン酸の塩、没食子酸の塩、マンデル酸の塩、ベンジル酸の塩、フロレト酸の塩、クマル酸の塩、カフェイン酸の塩、フェルラ酸の塩、シナピン酸の塩、4-アミノ安息香酸の塩、トリグリコラミン酸の塩、エチレンジアミン四酢酸の塩、1,3-ジアミノプロパン四酢酸の塩、エチレンジアミンコハク酸の塩、ジエチレントリアミン五酢酸の塩、カルボキシメチルセルロースの塩、カルボキシメチル化キトサンの塩、カルボキシメチル化キチンの塩、カルボキシメチルデキストランの塩、カルボキシメチル―β―シクロデキストリンの塩、カルボキシスクロースの塩、ペクチンの塩、キサンタンガムの塩、アルギン酸の塩、ヒアルロン酸の塩、フルボ酸の塩、フミン酸の塩、ウロン酸の塩、アラビノン酸の塩、フルクツロン酸の塩、タガツノン酸の塩、グルクロン酸の塩、イズロン酸の塩、ガラクツロン酸の塩、マンヌロン酸の塩、グルロン酸の塩などが挙げられる。
【0028】
線状高分子の側鎖にカルボキシ基の塩を有するポリマーにおいて、線状高分子としては、特に限定されず、例えば、ビニルポリマー、ポリエステル、ポリウレタンが好ましく、ビニルポリマーがより好ましい。
【0029】
線状高分子の側鎖にカルボキシ基の塩を有するポリマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマーの塩をモノマー単位として含有するポリマーなどが挙げられる。カルボキシ基含有モノマーの塩をモノマー単位として含有するポリマーは、カルボキシ基含有モノマーの塩のホモポリマーであってもよいし、カルボキシ基含有モノマーの塩とこれと共重合可能なモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0030】
カルボキシ基含有モノマーの塩としては、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などが挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。なお、カルボキシ基含有モノマーは上記と同様であるので説明を省略する。
【0031】
スルホン酸基を含有するウイルス感染阻止化合物としては、分子中に、スルホン酸基を1つ以上有しておればよく、例えば、線状高分子の側鎖にスルホン酸基を有するポリマー、ポリスチレンスルホン酸、ホルムアミジンスルフィン酸、3-アミノベンゼンスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、5-スルホサリチル酸、スルファニル酸、2-アミノ-3,5-ジメチルベンゼンスルホン酸、1,3-フェニレンジアミン-4-スルホン酸、スルホン化(スチレン―ジビニルベンゼン共重合体)、カラギーナン、スルホン化ポリエーテルスルホン、リグニンスルホン酸などが挙げられる。
【0032】
線状高分子の側鎖にスルホン酸基を有するポリマーにおいて、線状高分子としては、特に限定されず、例えば、ビニルポリマー、ポリエステル、ポリウレタンが好ましく、ビニルポリマーがより好ましい。
【0033】
線状高分子の側鎖にスルホン酸基を有するポリマーとしては、例えば、スルホン酸基を含有するスルホン酸基含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーなどが挙げられる。
【0034】
スルホン酸基を含有するスルホン酸基含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸単位を含有するポリマー、スチレンスルホン酸のホモポリマー、スチレン-スチレンスルホン酸コポリマー、ポリスチレンのベンゼン環をスルホン化した化合物、スチレン成分を含むポリマーのベンゼン環をスルホン化した化合物などが挙げられる。
【0035】
スルホン酸基含有モノマーとしては、特に限定されず、例えば、p-スチレンスルホン酸、m-スチレンスルホン酸、o-スチレンスルホン酸などが挙げられる。
【0036】
スルホン酸基の塩を含有するウイルス感染阻止化合物としては、分子中に、スルホン酸基の塩を1つ以上有しておればよく、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウリル硫酸塩、線状高分子の側鎖にスルホン酸基の塩を有するポリマー、ポリスチレンスルホン酸の塩、ホルムアミジンスルフィン酸の塩、3-アミノベンゼンスルホン酸の塩、ヒドロキシベンゼンスルホン酸の塩、m-キシレン-4-スルホン酸の塩、5-スルホサリチル酸の塩、スルファニル酸の塩、2-アミノ-3,5-ジメチルベンゼンスルホン酸の塩、1,3-フェニレンジアミン-4-スルホン酸の塩、スルホン化(スチレン―ジビニルベンゼン共重合体)の塩、カラギーナンの塩、スルホン化ポリエーテルスルホンの塩、リグニンスルホン酸の塩などが挙げられる。
【0037】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、ドデシルベンゼンスルホン酸バリウム、トリデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムなどが挙げられ、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0038】
α-オレフィンスルホン酸塩としては、例えば、C12~C18のオレフィンスルホン酸ナトリウム、C12~C18のオレフィンスルホン酸カルシウム、C12~C18のオレフィンスルホン酸アンモニウム、C12~C18のオレフィンスルホン酸マグネシウム、C12~C18のオレフィンスルホン酸バリウムなどが挙げられ、C14のテトラデセンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0039】
アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩としては、例えば、アルキル基がC6~C18のアルキルフェニルエーテルのナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などが挙げられる。
【0040】
線状高分子の側鎖にスルホン酸基の塩を有するポリマーにおいて、線状高分子としては、特に限定されず、例えば、ビニルポリマー、ポリエステル、ポリウレタンが好ましく、ビニルポリマーがより好ましい。
【0041】
線状高分子の側鎖にスルホン酸基の塩を有するポリマーとしては、特に限定されず、例えば、スルホン酸基の塩を含有するスルホン酸基の塩含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーなどが挙げられる。
【0042】
スルホン酸基の塩を含有するスルホン酸基の塩含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸塩単位を含有するポリマー、スチレンスルホン酸塩のホモポリマー、スチレン-スチレンスルホン酸塩コポリマー、ポリスチレンのベンゼン環をスルホン化した化合物のスルホン酸塩、スチレン成分を含むポリマーのベンゼン環をスルホン化した化合物のスルホン酸塩などが挙げられる。
【0043】
スルホン酸基の塩含有モノマーとしては、特に限定されず、例えば、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、m-スチレンスルホン酸ナトリウム、o-スチレンスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸カルシウム、m-スチレンスルホン酸カルシウム、o-スチレンスルホン酸カルシウム、p-スチレンスルホン酸アンモニウム、m-スチレンスルホン酸アンモニウム、o-スチレンスルホン酸アンモニウムなどが挙げられ、スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましく、ウイルスとの反応性において立体障害が少ないことから、p-スチレンスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0044】
上述した、線状高分子の側鎖に感染阻止官能基を有するポリマーは、上記感染阻止官能基を有するモノマー(感染阻止官能基含有モノマー)と、この感染阻止官能基含有モノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0045】
感染阻止官能基含有モノマーと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されず、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビニルアルキルエーテル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、ジイソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、2-ビニルナフタレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルトルエン、ビニルピリジンなどが挙げられる。なお、感染阻止官能基含有モノマーと共重合可能なモノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0046】
ウイルス感染阻止化合物となる上記ポリマーは、汎用の重合方法を用いて重合すればよい。例えば、感染阻止官能基含有モノマーを含むモノマー組成物を汎用のラジカル重合開始剤の存在下にて重合させることによってウイルス感染阻止化合物を得ることができる。なお、ラジカル重合開始剤としては、1-ヒドロキシシクロヘキサン-1-イルフェニルケトン、t-ヘキシルパーオキシピバレート、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどの熱開裂型ラジカル重合開始剤などが挙げられる。
【0047】
ウイルス感染阻止化合物のpKa1は5.5以下が好ましく、5.0以下がより好ましく、4.7以下がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物のpKa1が5.5以下であると、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。ウイルス感染阻止化合物が多価の酸である場合、ウイルス感染阻止化合物は多段階に電離が進むが、pKa1は、一段階目の電離定数に基づいて算出されたpKaをいう。ここで、電解質HAが、H+とA-とに電離して電離平衡(1)をとるとき、酸解離定数Kaは式(2)で定義され、pKaは、酸解離定数Kaの逆数の常用対数(3)で定義される。
【0048】
【0049】
ウイルス感染阻止化合物のpKa1は、滴定によって測定された値をいう。具体的には、ウイルス感染阻止化合物と水酸化ナトリウムを使用して25℃にて滴定を行い、半当量点(中和が完結する量の半量を滴下した点)での25℃におけるpHを測定することで、pKa1を求めることができる。
【0050】
なお、ウイルス感染阻止化合物にカルボキシ基の塩又はスルホン酸基の塩が含まれる場合、ウイルス感染阻止化合物のpKa1は、カルボキシ基の塩又はスルホン酸基の塩をカルボキシ基又はスルホン酸基に変換した後、上述の方法で測定されたウイルス感染阻止化合物のpKa1とする。カルボキシ基の塩又はスルホン酸基の塩を、カルボキシ基又はスルホン酸基に変換する方法としては、例えば、ウイルス感染阻止化合物を1mol%塩酸水溶液に混合し、ウイルス感染阻止化合物に含まれているカルボキシ基の塩又はスルホン酸基の塩の全てをカルボキシ基又はスルホン酸基に変換した後、凍結乾燥などの汎用の要領により塩酸と水を取り除く方法が挙げられる。
【0051】
ウイルス感染阻止化合物がポリマーを含む場合、ポリマーの重量平均分子量は、3000以上が好ましく、5000以上がより好ましく、10000以上がより好ましく、100000以上がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物の重量平均分子量が3000以上であると、ウイルス感染阻止剤の白化を低減することができ、基材表面にウイルス感染阻止剤を付着させた場合に、基材の外観を損なうことなく、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発現させることができると共に、ウイルス感染阻止化合物1分子当たりのウイルスとの吸着点が増大し、ウイルス感染阻止化合物とウイルスとの相互作用が強くなり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0052】
ウイルス感染阻止化合物に含まれているポリマーの重量平均分子量は、1000000以下が好ましく、900000以下がより好ましく、800000以下がより好ましく、500000以下がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物の重量平均分子量が1000000以下であると、ウイルス感染阻止剤の白化を低減することができ、基材表面にウイルス感染阻止剤を付着させた場合に、基材の外観を損なうことなく、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発現させることができると共に、ウイルス感染阻止化合物の凝集性が低減され、結果としてウイルス感染阻止化合物とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0053】
なお、本発明において、ポリマーの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。
【0054】
例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
ゲルパミエーションクロマトグラフ:Waters社製 商品名「2690 Separations Model」
カラム:昭和電工社製 商品名「GPC KF-806L」
検出器:示差屈折計
サンプル流量:1mL/min
カラム温度:40℃
溶出液:THF
【0055】
ウイルス感染阻止化合物のpHは、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物のpHは、12以下が好ましく、11以下がより好ましく、10以下がより好ましく、9以下がより好ましく、6以下がより好ましく、5以下がより好ましく、4.7以下がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物のpHが2以上であると、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。ウイルス感染阻止化合物のpHが12以下であると、エンベロープを有しないウイルスに対するウイルス感染阻止効果が向上する。なお、ウイルス感染阻止化合物のpHとは、ウイルス感染阻止化合物0.5gを精製水99.5gに加えて均一に混合した液における25℃でのpHの値をいう。
【0056】
ウイルス感染阻止化合物は、分子中に芳香族環を含有していないことが好ましい。ウイルス感染阻止化合物が芳香族環を含有していないと、ウイルス感染阻止剤が水分と接触した場合にあってもウイルス感染阻止剤の白化を低減することができ、基材表面にウイルス感染阻止剤を付着させた場合に、基材の外観を損なうことなく、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発現させることができる。更に、ウイルス感染阻止化合物が芳香族環を含有していないと、ウイルス感染阻止化合物のかさ高さが低減されることから、感染阻止官能基を含む分子構造部分が効率よくウイルスと相互作用でき、優れたウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0057】
芳香族環は、単環状の芳香族環であっても、単環状の芳香族環が複合して縮合(縮合芳香族環)していてもよい。芳香族環としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル、フェノキシフェニルなどが挙げられる。芳香族環は、芳香族環及び縮合芳香族環の何れか1個又は複数個の水素原子が引き抜かれ、他の原子と共有結合により結合している。
【0058】
ウイルス感染阻止化合物がカルボキシ基及び/又はカルボキシ基の塩を含有している場合、ウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量は、5mmol/g以上が好ましく、7mmol/g以上が好ましく、9mmol/g以上が好ましく、11mmol/g以上が好ましい。ウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量は、20mmol/g以下が好ましく、18mmol/g以下が好ましく、17mmol/g以下が好ましく、16mmol/g以下が好ましい。ウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量が5mmol/g以上であると、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。ウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量が20mmol/g以下であると、ウイルス感染阻止化合物の凝集性が低減され、結果としてウイルス感染阻止化合物とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0059】
なお、ウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量は、滴定によって測定された値をいう。具体的には、乾燥したウイルス感染阻止化合物約1g(Ag)を精秤し、ウイルス感染阻止化合物に200mLの精製水を加えた後、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて25℃にて滴定を行い、半当量点(中和が完結する量の半量を滴下した点)までに消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(BmL)を求め、次式によってウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基の含有量(mmol/g)を算出する。なお、ウイルス感染阻止化合物がカルボキシ基の塩を含有する場合、ウイルス感染阻止化合物を1mol%塩酸水溶液に混合し、ウイルス感染阻止化合物に含まれているカルボキシ基の塩を全てカルボキシ基に変換した後、ウイルス感染阻止化合物について、上記の要領でカルボキシ基の含有量を測定し、得られたカルボキシ基の含有量(mmol/g)をカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量(mmol/g)とする。
カルボキシ基の含有量(mmol/g)=0.1×A/B
【0060】
ウイルス感染阻止化合物は、粒子状に形成されている。ウイルス感染阻止化合物のD90粒子径は、2μm以上であり、2.5μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、3.5μm以上がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物のD90粒子径は、25μm以下であり、22μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、18μm以下がより好ましく、16μm以下がより好ましく、14μm以下がより好ましく、12μm以下がより好ましい。D90粒子径が2μm以上であると、ウイルス感染阻止化合物全体の表面積が小さくなり、ウイルス感染阻止剤の凝集性が低減され、ウイルス感染阻止化合物とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。D90粒子径が25μm以下であると、ウイルス感染阻止剤の凝集を防止し且つ表面積を増加させてウイルスとの接触を容易にして、ウイルス感染阻止化合物のウイルス感染阻止効果を向上させることができると共に、感染阻止官能基同士の相互作用によるウイルス感染阻止化合物の結晶化による白化を概ね防止することができる。
【0061】
ウイルス感染阻止化合物のD90粒子径は、後述するように、レーザー散乱法による体積基準の粒度分布における頻度の累積(粒径が小さい粒子からの累積)が90%となる粒子径(90%累積粒子径)である。ウイルス感染阻止化合物のD90粒子径を2~25μmに調整し、ウイルス感染阻止化合物中において粒子径が大きい粒子の粒子径を所定範囲に調整することによって、ウイルス感染阻止化合物に粗大粒子が含まれることを低減している。ウイルス感染阻止化合物は、その表面に感染阻止官能基を有しているが、ウイルス感染阻止化合物の粒子径を上記範囲に調整することによって、ウイルス感染阻止化合物表面に存在する感染阻止官能基の量を調整し、ウイルス感染阻止剤に優れたウイルス感染阻止効果を付与していると共に、感染阻止官能基同士の相互作用によるウイルス感染阻止化合物の結晶化による白化を低減化している。
【0062】
ウイルス感染阻止化合物のD50粒子径は、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、1.5μm以上がより好ましく、2.0μm以上がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物のD50粒子径は、14μm以下が好ましく、12μm以下がより好ましく、11μm以下がより好ましい。
【0063】
ウイルス感染阻止化合物において、D50粒子径を上述の範囲内に且つD90粒子径を2~25μmとすることによって、ウイルス感染阻止化合物中に、D50粒子径から大きく離れた粒子径を有する粗大粒子が含まれることを低減し、ウイルス感染阻止化合物の粒子径をより適正な大きさとすることができる。
【0064】
そして、ウイルス感染阻止化合物の粒子径をより適正な範囲に調整することによって、ウイルス感染阻止化合物表面に存在する感染阻止官能基の量をより適正に調整し、ウイルス感染阻止剤に優れたウイルス感染阻止効果をより効果的に付与していると共に、感染阻止官能基同士の相互作用によるウイルス感染阻止化合物の結晶化による白化をより効果的に低減している。
【0065】
ウイルス感染阻止化合物のD90粒子径及びD50粒子径はそれぞれ、レーザー散乱法による体積基準の粒度分布における頻度の累積(粒径が小さい粒子からの累積)が90%及び50%となる粒子径(90%累積粒子径及び50%累積粒子径)をいう。ウイルス感染阻止化合物が複数種類のウイルス感染阻止化合物を含む場合、ウイルス感染阻止化合物のD90粒子径及びD50粒子径は、ウイルス感染阻止化合物全体を基準として測定された値とする。
【0066】
ウイルス感染阻止剤は、ウイルス感染阻止化合物を含有している。ウイルス感染阻止剤の製造方法は、特に限定されず、ウイルス感染阻止化合物に、必要に応じて添加される化合物を汎用の要領で混合してウイルス感染阻止剤を製造することができる。
【0067】
ウイルス感染阻止剤は、ウイルス感染阻止化合物の作用によって、各種ウイルスに対してウイルス感染阻止効果を有し、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対して優れたウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0068】
エンベロープウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス(例えばA型、B型等)、風疹ウイルス、エボラウイルス、コロナウイルス[例えば、SARSウイルス、新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)]、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルスなどが挙げられる。
【0069】
ノンエンベロープウイルスとしては、例えば、ネコカリシウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルスなどが挙げられる。
【0070】
ウイルス感染阻止剤は、粒子の表面に付着(担持)させて用いてもよい。ウイルス感染阻止化合物を粒子の表面に付着させておくことによって、ウイルス感染阻止剤が塊状となることなく、後述する基材に均一に分散させることができる。従って、ウイルス感染阻止剤の表面積を大きくすることができ、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの接触を十分に確保し、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を十分に発揮させることができる。
【0071】
ウイルス感染阻止剤を表面に付着させる粒子としては、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を阻害しなければ、特に限定されない。粒子は、樹脂粒子及び無機粒子を含む。粒子は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0072】
樹脂粒子を構成している合成樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)などの合成ゴムなどが挙げられ、スチレン系樹脂が好ましく、ポリスチレンがより好ましい。
【0073】
スチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどのスチレン系モノマーをモノマー単位として含むホモポリマー又はコポリマー、スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能な一種又は二種以上のビニルモノマーとをモノマー単位として含むコポリマーなどが挙げられる。
【0074】
スチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなど)などのアクリル系モノマー、無水マレイン酸、アクリルアミドなどが挙げられる。
【0075】
アクリル系樹脂としては、特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレートなどのアクリル系モノマーをモノマー単位として含むホモポリマー又はコポリマー、アクリル系モノマーと、このアクリル系モノマーと共重合可能な一種又は二種以上のビニルモノマーとをモノマー単位として含むコポリマーなどが挙げられる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0076】
アクリル系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、アクリルアミドなどが挙げられる。
【0077】
無機粒子を構成している無機材料としては、特に限定されず、例えば、ゼオライト、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0078】
樹脂粒子を構成している合成樹脂は、芳香族環を含有していることが好ましい。芳香族環が、樹脂粒子の表面に付着しているウイルス感染阻止化合物の疎水性部分を引き付け、感染阻止官能基を外方に配向させる作用を奏し、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0079】
芳香族環は、単環状の芳香族環であっても、単環状の芳香族環が複合して縮合(縮合芳香族環)していてもよい。芳香族環としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル、フェノキシフェニルなどが挙げられる。芳香族環は、芳香族環及び縮合芳香族環の何れか1個又は複数個の水素原子が引き抜かれ、他の原子と共有結合により結合している。
【0080】
樹脂粒子に対するウイルス感染阻止化合物の付着量は、樹脂粒子100質量部に対して1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、7質量部以上がより好ましく、10質量部以上がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物の付着量が1質量部以上であると、樹脂粒子の表面にウイルス感染阻止剤を均一に付着させることができ、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0081】
樹脂粒子に対するウイルス感染阻止化合物の付着量は、樹脂粒子100質量部に対して50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物の付着量が50質量部以下であると、ウイルス感染阻止剤同士の結合が行われず、効率的に樹脂粒子表面にウイルス感染阻止剤が配置されウイルス感染阻止効果が向上する。
【0082】
樹脂粒子表面へのウイルス感染阻止剤の付着要領は、特に限定されず、例えば、ウイルス感染阻止剤の接着力によってもよいし、バインダー樹脂を用いて樹脂粒子の表面にウイルス感染阻止剤を接着してもよいが、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を効果的に発揮させることができるので、ウイルス感染阻止化合物自体の接着力によって、ウイルス感染阻止化合物が樹脂粒子の表面に付着していることが好ましい。
【0083】
ウイルス感染阻止剤は、ウイルス感染阻止効果を付与したい基材に含有させて用いられ、ウイルス感染阻止剤を含有する基材は、ウイルス感染阻止製品としてウイルス感染阻止効果を発現する。ウイルス感染阻止剤を基材に含有させる方法としては、特に限定されず、例えば、(1)ウイルス感染阻止剤を基材表面に吹き付けて付着させる方法、(2)ウイルス感染阻止剤を塗料に加え、該塗料を基材表面に塗布し、基材表面にウイルス感染阻止剤を含む塗膜を付着させる方法などが挙げられる。
【0084】
ウイルス感染阻止剤を含有させる基材としては、ウイルス感染阻止剤を含有させることができれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂成形体、塗料、壁紙、化粧シート、床材、繊維製品(織物、不織物、編物)、車輛(例えば、車、飛行機、船など)用の内用品及び内装材(シート、チャイルドシート及びこれらを構成している発泡体など)、キッチン用品、ベビー用品、建築内装材などが挙げられる。
【0085】
塗料としては、従来公知の塗料が用いられ、例えば、油性塗料(例えば、調合ペイント、油ワニスなど)、セルロース塗料、合成樹脂塗料などが挙げられる。塗料には、紫外線などの放射線の照射によって重合してバインダー成分を生成する光硬化性塗料も含まれる。
【0086】
塗料には、その物性を損なわない範囲内において、顔料、可塑性、硬化剤、増量剤、充填剤、老化防止剤、増粘着、界面活性剤などの添加剤が含有されていてもよい。なお、塗料中にウイルス感染阻止剤を含有させる方法としては、例えば、ウイルス感染阻止剤と塗料とを分散装置に供給して均一に混合する方法などが挙げられる。なお、分散装置としては、例えば、ハイスピードミル、ボールミル、サンドミルなどが挙げられる。
【0087】
建築内装材とは、特に限定されず、例えば、床材、壁紙、天井材、塗料、ドアノブ、スイッチ、スイッチカバー、ワックスなどを挙げることができる。
【0088】
車輛内用品及び車輛内装材とは、特に限定されず、例えば、シート、チャイルドシート、シートベルト、カーマット、シートカバー、ドア、天井材、フロアマット、ドアトリム、インパネ、コンソール、グローブボックス、吊り革、手すりなどを挙げることができる。
【実施例】
【0089】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0090】
ウイルス感染阻止化合物として、カルボキシ基含有化合物1~13、並びに、スルホン酸の塩含有化合物1及び2を用意した。
【0091】
[カルボキシ基含有化合物1~5の粒子の作製]
表1に示した所定量のアクリル酸及びアクリル酸メチルを混合してアクリルモノマー溶液を得た。得られたアクリルモノマー溶液に、ラジカル重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキサン-1-イルフェニルケトン(IGM Resins B.V.社製 商品名「Omnirad 184」)を表1に示した所定量添加して溶解させて原料組成物を作製した。
【0092】
原料組成物をポリエチレンフィルム上にワイヤーバーコーター♯14を用いて塗工し、厚み35μmの塗工層を形成した。UVコンベア装置(アイグラフィックス社製 商品名「ECS301G1」)を用いて25℃にて塗工層に波長365nmの紫外線を積算光量が2000mJ/cm2となるように照射してラジカル重合を行って、ウイルス感染阻止化合物として、カルボキシ基含有化合物(線状高分子の側鎖にカルボキシ基を有するポリマー)1~5を得た。
【0093】
ウイルス感染阻止化合物をロールプレス装置(セイシン企業社 商品名「150型」)を用いて回転数25rpm、押力25tの運転条件にて粗粉砕後、ジェットミル装置(日清エンジニアリング社製 商品名「SJ-500」)を用いて、表2に示したウイルス感染阻止化合物の供給速度及び圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕してウイルス感染阻止化合物の粒子(カルボキシ基含有化合物1~5の粒子)を得た。
【0094】
[カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着したポリスチレン粒子の作製]
カルボキシ基含有化合物2の粒子を5質量部、及び、平均粒子径4μmを有するポリスチレン樹脂粒子(一次粒子)10質量部を水100質量部に供給し、スプレードライヤーを用いてアトマイザー回転速度20000rpmにて粉体化し、ポリスチレン粒子の表面にカルボキシ基含有化合物2の粒子全量を付着(担持)させた後、ジェットミル装置(日清エンジニアリング社製 商品名「SJ-500」)を用いて、原料供給速度1kg/h、圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕し、カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着したポリスチレン粒子を得た。なお、表2において、「カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着したポリスチレン粒子」は、「粒子付着カルボキシ基含有化合物2の粒子」と表記した。
【0095】
[スルホン酸基の塩含有化合物1(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)の粒子の作製]
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(Nouryon社製 商品名「Versa-TL 502」)をロールプレス装置(セイシン企業社 商品名「150型」)を用いて回転数25rpm、押力25tの運転条件にて粗粉砕後、ジェットミル装置(日清エンジニアリング社製 商品名「SJ-500」)を用いて、原料供給速度0.3kg/h、圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕してウイルス感染阻止化合物の粒子(スルホン酸基の塩含有化合物1の粒子)を得た。
【0096】
[スルホン酸基の塩含有化合物2(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)の粒子の作製]
ジェットミル装置の原料供給速度を1kg/hとしたこと以外は、スルホン酸基の塩含有化合物1(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)の粒子の作製と同様の要領でウイルス感染阻止化合物の粒子(スルホン酸基の塩含有化合物2の粒子)を得た。
【0097】
[カルボキシ基含有化合物6の粒子の作製]
アルギン酸(キミカ社製 商品名「キミカアシッド」)をジェットミル装置(日清エンジニアリング社製商品名「SJ-500」)を用いて、供給速度0.1kg/h、圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕してウイルス感染阻止化合物の粒子(カルボキシ基含有化合物6の粒子)を得た。
【0098】
[カルボキシ基含有化合物7の粒子の作製]
イソフタル酸(東京化成工業社製 商品名「イソフタル酸」)をジェットミル装置(日清エンジニアリング社製商品名「SJ-500」)を用いて、供給速度5kg/h、圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕してウイルス感染阻止化合物の粒子(カルボキシ基含有化合物7の粒子)を得た。
【0099】
[カルボキシ基含有化合物8の粒子の作製]
イソフタル酸の代わりにテレフタル酸(東京化成工業社製 商品名「テレフタル酸」)を用いたこと以外は、カルボキシ基含有化合物7の粒子の作製と同様の要領でウイルス感染阻止化合物の粒子(カルボキシ基含有化合物8の粒子)を得た。
【0100】
[カルボキシ基含有化合物9の粒子の作製]
イソフタル酸の代わりに1,3-ジアミノプロパン四酢酸(東京化成工業社製 商品名「1,3-ジアミノプロパン-N,N,N’,N’-四酢酸」)を用いたこと以外は、カルボキシ基含有化合物7の粒子の作製と同様の要領でウイルス感染阻止化合物の粒子(カルボキシ基含有化合物9の粒子)を得た。
【0101】
[カルボキシ基含有化合物10の粒子の作製]
イソフタル酸の代わりにジエチレントリアミン五酢酸(東京化成工業社製 商品名「ジエチレントリアミン五酢酸」)を用いたこと以外は、カルボキシ基含有化合物7の粒子の作製と同様の要領でウイルス感染阻止化合物の粒子(カルボキシ基含有化合物10の粒子)を得た。
【0102】
[カルボキシ基含有化合物11の粒子の作製]
イソフタル酸の代わりにトリグルコラミン酸(東京化成工業社製 商品名「トリグリコラミン酸」)を用いたこと以外は、カルボキシ基含有化合物7の粒子の作製と同様の要領でウイルス感染阻止化合物の粒子(カルボキシ基含有化合物11の粒子)を得た。
【0103】
[カルボキシ基含有化合物12の粒子の作製]
イソフタル酸の代わりに安息香酸(東京化成工業社製 商品名「安息香酸」)を用いたこと以外は、カルボキシ基含有化合物7の粒子の作製と同様の要領でウイルス感染阻止化合物の粒子(カルボキシ基含有化合物12の粒子)を得た。
【0104】
[カルボキシ基含有化合物13の粒子の作製]
アルギン酸の代わりにトリグルコラミン酸(東京化成工業社製 商品名「トリグリコラミン酸」)を用いたこと以外は、カルボキシ基含有化合物6の粒子の作製と同様の要領でウイルス感染阻止化合物の粒子(カルボキシ基含有化合物13の粒子)を得た。
【0105】
ウイルス感染阻止化合物のD90粒子径、D50粒子径、分子量(ウイルス感染阻止化合物がポリマーの場合は「重量平均分子量」)、カルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量(カルボキシ基及びその塩の総含有量)、pKa1及びpHを表2に示した。
【0106】
(参考例1~5、実施例1~7、比較例1~3)
上述の要領で作製された表2に示した粒子状のウイルス感染阻止化合物3質量部を含むウイルス感染阻止剤と、紫外線硬化型アクリル塗料(コートテック社製 商品名「AI-N2」)97gとを混合して塗料組成物を作製した。塗料組成物をポリエチレンフィルム上にワイヤーバーコーター♯8を用いて厚み18μmに塗工して塗工層を形成した。
【0107】
UVコンベア装置(アイグラフィックス社製「ECS301G1」)を用いて25℃にて塗工層に波長365nmの紫外線を積算光量500mJ/cm2となるように照射して紫外線硬化型アクリル塗料を硬化させて厚みが18μmの塗膜を形成した。
【0108】
(参考例6)
上述の要領で作製された、カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着したポリスチレン粒子を含むウイルス感染阻止剤(カルボキシ基含有化合物2の粒子を3質量部含む)と、紫外線硬化型アクリル塗料(コートテック社製 商品名「AI-N2」)97gとを混合して塗料組成物を作製した。塗料組成物をポリエチレンフィルム上にワイヤーバーコーター♯8を用いて厚み18μmに塗工して塗工層を形成した。
【0109】
UVコンベア装置(アイグラフィックス社製「ECS301G1」)を用いて25℃にて塗工層に波長365nmの紫外線を積算光量500mJ/cm2となるように照射して紫外線硬化型アクリル塗料を硬化させて厚みが18μmの塗膜を形成した。
【0110】
得られた塗膜について、水噴射試験を下記の要領で行い、その結果を表2に示した。
【0111】
ウイルス感染阻止化合物を含むウイルス感染阻止剤について、インフルエンザウイルス(エンベロープウイルス)及びネコカリシウイルス(ノンエンベロープウイルス)を用いて抗ウイルス試験を行い、その結果を表2に示した。
【0112】
(水噴射試験)
塗膜について、JIS K7227に準拠して水噴霧試験を行い、水噴霧試験後の塗膜のヘイズをJIS K 7361に準拠して評価した。ヘイズは、室温25℃、相対湿度40%の環境下にて、ヘイズメータ(村上色彩技術研究所社製、「HM-150」)を用いてヘイズ値(%)を測定した。水噴霧試験は、試験層の温度を40℃±2℃とし、試験時間は24時間として実施した。
【0113】
(抗ウイルス試験)
塗膜について、一辺が5.0cmの平面正方形状を切り出すことによって試験片を作製した。
【0114】
得られた試験片の塗膜の表面を一辺が10cmの平面正方形状の不織布(日本製紙クレシア社製 商品名「キムワイプ S-200」)に1mLの水を染み込ませ、塗膜表面を不織布で10往復させて拭き取り、試験塗膜とした。
【0115】
得られた試験塗膜について、インフルエンザウイルス及びネコカリシウイルスの抗ウイルス試験をISO21702に準拠して行った。反応後のウイルス懸濁液について、プラック法により試験塗膜のウイルス感染価を算出した。
【0116】
ウイルス感染阻止剤を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク塗膜を作製し、このブランク塗膜に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出した。ブランク塗膜のウイルス感染価(常用対数値)は、6.5PFU/cm2であった。
【0117】
ブランク塗料のウイルス感染価から試験塗膜のウイルス感染価を引くことによって抗ウイルス活性値を算出した。
【0118】
【0119】
【0120】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年11月1日に出願された日本国特許出願第2021-178529号、2022年3月10日に出願された日本国特許出願第2022-37407、及び2022年9月7日に出願された日本国特許出願第2022-142160に基づく優先権を主張し、この出願の開示はこれらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のウイルス感染阻止剤は、エンベロープを有するウイルス及びエンベロープを有しないウイルスの双方に対して優れたウイルス感染阻止効果を有し、様々な種類のウイルスに対してウイルス感染阻止効果を発揮する。ウイルス感染阻止剤を基材に含有させることによって、基材にウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0122】
本発明のウイルス感染阻止剤は、水分に接触した場合の白化が低減されているため、基材の外観性が維持され且つウイルス感染阻止効果を有するウイルス感染阻止製品を製造することができる。