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特許7749502電子式制御装置の劣化診断方法、電子式制御装置の劣化診断プログラム、及び、電子式制御装置の劣化診断装置
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  • 特許-電子式制御装置の劣化診断方法、電子式制御装置の劣化診断プログラム、及び、電子式制御装置の劣化診断装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-26
(45)【発行日】2025-10-06
(54)【発明の名称】電子式制御装置の劣化診断方法、電子式制御装置の劣化診断プログラム、及び、電子式制御装置の劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20250929BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20250929BHJP
   H01L 23/473 20060101ALI20250929BHJP
【FI】
G01N25/72 G
G01M99/00 Z
H01L23/46 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022053187
(22)【出願日】2022-03-29
(65)【公開番号】P2023146154
(43)【公開日】2023-10-12
【審査請求日】2024-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柘植 穂高
(72)【発明者】
【氏名】石川 寛
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0133100(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0137940(US,A1)
【文献】特表2004-530309(JP,A)
【文献】特開2000-266710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
G01N 25/00 - 25/72
G01K 1/00 - 19/00
H01L 23/34 - 23/46
H01L 25/00 - 25/16
H10B 80/00
H10D 80/00 - 80/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体素子と、前記電力用半導体素子を支持する基板と、を備えた電子式制御装置の劣化診断方法であって、
前記電力用半導体素子の動作中に、前記電力用半導体素子又は前記基板に設けられた温度センサの検出結果に基づいて冷却曲線を取得するステップと、
前記冷却曲線を時間微分して得られる微分曲線を取得するステップと、
所定の時間範囲において前記微分曲線を指数関数に近似して、対応する指数を取得するステップと、
取得された前記指数と所定の基準値との大小に基づいて診断を行うステップとを含む、電子式制御装置の劣化診断方法。
【請求項2】
前記電力用半導体素子は、車載モータへの電力制御を行うパワーコントロールユニットの一部を構成し、
前記車載モータが停止した時に、前記冷却曲線の取得を開始する請求項1に記載の電子式制御装置の劣化診断方法。
【請求項3】
取得された前記指数が前記基準値よりも小さいときに、劣化していると判定する請求項1又は請求項2に記載の電子式制御装置の劣化診断方法。
【請求項4】
前記指数の時間変化率と所定の閾値との大小を比較することによって、劣化予測を行う請求項1~請求項3のいずれか1つの項に記載の電子式制御装置の劣化診断方法。
【請求項5】
電力用半導体素子と、前記電力用半導体素子を支持する基板と、を備えた電子式制御装置の劣化診断プログラムであって、
前記電力用半導体素子の動作中に、前記電力用半導体素子又は前記基板に設けられた温度センサの検出結果に基づいて冷却曲線を取得するステップと、
前記冷却曲線を時間微分して得られる微分曲線を取得するステップと、
所定の時間範囲において前記微分曲線を指数関数に近似して、対応する指数を取得するステップと、
取得された前記指数と所定の基準値との大小に基づいて診断を行うステップとを含む、電子式制御装置の劣化診断プログラム。
【請求項6】
前記電力用半導体素子は、車載モータへの電力制御を行うパワーコントロールユニットの一部を構成し、
前記車載モータが停止した時に、前記冷却曲線の取得を開始する請求項5に記載の電子式制御装置の劣化診断プログラム。
【請求項7】
取得された前記指数が前記基準値よりも小さいときに、劣化していると判定する請求項5又は請求項6に記載の電子式制御装置の劣化診断プログラム。
【請求項8】
電力用半導体素子と、前記電力用半導体素子に電気的に接続された基板とを備えた電子式制御装置の劣化診断装置であって、
前記電力用半導体素子又は前記基板に設けられた温度センサと、前記温度センサの検出結果に基づいて劣化診断を行うプロセッサとを含み、
前記プロセッサは、
前記電力用半導体素子の動作中に、前記温度センサの検出結果に基づいて冷却曲線を取得し、
前記冷却曲線を時間微分した微分曲線を取得し、
所定の時間範囲において前記微分曲線を指数関数に近似して、対応する指数を取得し、
取得された前記指数と所定の基準値との大小に基づいて診断を行う電子式制御装置の劣化診断装置。
【請求項9】
前記電力用半導体素子は、車載モータへの電力制御を行うパワーコントロールユニットの一部を構成し、
前記プロセッサは、前記車載モータが停止した時に、前記冷却曲線の取得を開始する請求項8に記載の電子式制御装置の劣化診断装置。
【請求項10】
取得された前記指数が前記基準値よりも小さいときに、劣化していると判定する請求項8又は請求項9に記載の電子式制御装置の劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子式制御装置の劣化診断方法、電子式制御装置の劣化診断プログラム、及び、電子式制御装置の劣化診断装置であって、特に、電力用半導体素子を備えた電子式制御装置の劣化診断方法、及び、その電子式制御装置の劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体素子と、電力用半導体素子と電気的に接続された配線基板とを備えた電子式制御装置を含む電子式制御装置の余寿命予測方法が公知である(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の電力用半導体素子は配線基板にダイアタッチ材を介して固定されている。配線基板の内部には、電圧を印加することにより発熱する発熱層及び温度の計測が可能な感熱層を備えた発熱感熱デバイスが内蔵されている。
【0004】
発熱感熱デバイスの発熱層に短いパルス給電を行なって瞬間加熱した後に放冷させ、その加熱及び放冷の過程を発熱感熱デバイスの感熱層を用いて温度変化挙動(放熱曲線)として取得する。ダイアタッチ材内部に疲労破壊起因のクラックが生じて、発熱感熱デバイスからの放熱経路において熱抵抗が増大する箇所が発生すると、放熱曲線に変化が生じる。これにより、ダイアタッチ材内部に疲労破壊起因のクラックが発生し始めた初期の段階で検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-253971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、低炭素社会又は脱炭素社会の実現において、CO排出量の削減やエネルギー効率改善の観点から、電気自動車が注目されている。電気自動車は、バッテリ、モータ、及び、パワーコントロールユニットを備えている。パワーコントロールユニット(電子式制御装置)はバッテリから供給される直流を、モータを駆動するための交流に変換するインバータを含む。インバータはスイッチング素子をとして機能するパワー半導体(電力用半導体素子)を備えている。
【0007】
そこで、特許文献1に記載されている方法に従って、電気自動車に搭載されるパワーコントロールユニットの劣化診断を行うことが考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の方法では放熱開始温度を制御する必要がある。また、配線基板内に発熱体を設置している場合には、配線基板の構造が複雑になる。よって、特許文献1に記載されている方法は、広く用いられている電力用半導体素子が配線基板に支持された電子式制御装置の劣化診断には使用できない。
【0008】
本発明は、以上の背景を鑑み、加熱条件、冷却開始温度、冷媒温度等に依らず、汎用性が有り且つ容易な電子式制御装置の劣化診断方法、電子式制御装置の劣化診断プログラム、及び、電子式制御装置の劣化診断装置を提供することを課題とする。そして、延いては電気自動車の利便性や安全性を高め、エネルギー効率の改善に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、電力用半導体素子(17)と、前記電力用半導体素子を支持する基板(13)と、を備えた電子式制御装置(1)の劣化診断方法であって、前記電力用半導体素子の動作中に、前記電力用半導体素子又は前記基板に設けられた温度センサ(43)の検出結果に基づいて冷却曲線を取得するステップと、前記冷却曲線を時間微分して得られる微分曲線を取得するステップと、所定の時間範囲において前記微分曲線を指数関数に近似して、対応する指数(b)を取得するステップと、取得された前記指数と所定の基準値との大小に基づいて診断を行うステップとを含む。
【0010】
この態様によれば、所定の範囲において微分曲線を指数関数に近似することにより、電子式制御装置の劣化に関連性が高い指数を取得することができるため、加熱条件、冷却開始温度、冷媒温度等に依らず、汎用性が有り且つ容易な電子式制御装置の劣化診断方法を提供することができる。
【0011】
上記の態様において、好ましくは、前記電力用半導体素子は、車載モータ(5)への電力制御を行うパワーコントロールユニットの一部を構成し、前記車載モータが停止した時に、前記冷却曲線の取得を開始する。
【0012】
この態様によれば、温度センサの検出結果に対する車載モータの影響を低減することができる。
【0013】
上記の態様において、好ましくは、取得された前記指数が前記基準値よりも小さいときに、劣化していると判定する。
【0014】
この態様によれば、劣化の有無を容易に判定することができる。
【0015】
上記の態様において、好ましくは、前記指数の時間変化率と所定の閾値との大小を比較することによって、劣化予測を行う。
【0016】
この態様によれば、指数の時間変化率を用いることによって、劣化が加速しているか否かを判定することができるため、劣化予測を良好、且つ、簡便に行うことができる。
【0017】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、電力用半導体素子(17)と、前記電力用半導体素子を支持する基板(13)と、を備えた電子式制御装置(1)の劣化診断プログラムであって、前記電力用半導体素子の動作中に、前記電力用半導体素子又は前記基板に設けられた温度センサ(43)の検出結果に基づいて冷却曲線を取得するステップと、前記冷却曲線を時間微分して得られる微分曲線を取得するステップと、所定の時間範囲において前記微分曲線を指数関数に近似して、対応する指数(b)を取得するステップと、取得された前記指数と所定の基準値との大小に基づいて診断を行うステップとを含む。
【0018】
この態様によれば、所定の範囲において微分曲線を指数関数に近似することにより、電子式制御装置の劣化に関連性が高い指数を取得することができるため、加熱条件、冷却開始温度、冷媒温度等に依らず、汎用性が有り且つ容易な電子式制御装置の劣化診断方法を提供することができる。
【0019】
上記の態様において、好ましくは、前記電力用半導体素子は、車載モータへの電力制御を行うパワーコントロールユニットの一部を構成し、前記車載モータが停止した時に、前記冷却曲線の取得を開始する。
【0020】
この態様によれば、温度センサの検出結果に対する車載モータの温度変化の影響を低減することができる。
【0021】
上記の態様において、好ましくは、取得された前記指数が前記基準値よりも小さいときに、劣化していると判定する。
【0022】
この態様によれば、劣化の有無を容易に判定することができる。
【0023】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、電力用半導体素子(17)と、前記電力用半導体素子に電気的に接続された基板(13)とを備えた電子式制御装置の(1)劣化診断装置であって、前記電力用半導体素子又は前記基板に設けられた温度センサ(43)と、前記温度センサの検出結果に基づいて劣化診断を行うプロセッサとを含み、前記プロセッサは、前記電力用半導体素子の動作中に、前記温度センサの検出結果に基づいて冷却曲線を取得し、前記冷却曲線を時間微分した微分曲線を取得し、所定の時間範囲において前記微分曲線を指数関数に近似して、対応する指数(b)を取得し、取得された前記指数と所定の基準値との大小に基づいて診断を行う。
【0024】
この態様によれば、所定の範囲において微分曲線を指数関数に近似することにより、電子式制御装置の劣化に関連性が高い指数を取得することができるため、熱条件、冷却開始温度、冷媒温度等に依らず、汎用性が有り且つ容易な電子式制御装置の劣化診断方法を提供することができる。
【0025】
上記の態様において、好ましくは、前記電力用半導体素子は、車載モータへの電力制御を行うパワーコントロールユニットの一部を構成し、前記プロセッサは、前記車載モータが停止した時に、前記冷却曲線の取得を開始する。
【0026】
この態様によれば、温度センサの検出結果に対する車載モータの温度変化の影響を低減することができる。
【0027】
上記の態様において、好ましくは、取得された前記指数が前記基準値よりも小さいときに、劣化していると判定する。
【0028】
この態様によれば、劣化の有無を容易に判定することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上の構成によれば、電力用半導体素子の劣化診断が容易な電子式制御装置の劣化診断方法、電子式制御装置の劣化診断プログラム、及び、電子式制御装置の劣化診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態に係る劣化診断方法によって診断される電子式制御装置、及び、劣化診断装置のブロック図
図2】電子式制御装置の一部を示す模式図
図3】劣化診断処理のフローチャート
図4】劣化度が異なる3つの電子式制御装置に対応する冷却曲線の例を示すグラフ
図5】特定範囲取得方法を示すフローチャート
図6】テストデバイスの冷却曲線の例を示すグラフ
図7図6の冷却曲線を用いて取得された特定範囲を説明するためのグラフ
図8図4に示した劣化度が異なる3つの電子式制御装置において冷却開始温度が異なる場合に取得された冷却曲線を示すグラフ
図9図8に示す冷却曲線を微分した微分曲線、及び、微分曲線を近似した直線を示すグラフ
図10図4の曲線1~3の測定に用いたパワーコントロールユニットにおいて、冷却開始温度や冷媒温度を変えて取得した冷却曲線を示すグラフ
図11図9の冷却曲線の微分曲線を示すグラフ
図12】加熱時間、冷却開始温度、冷媒温度などの条件を固定した場合(破線)と、条件をランダムに変動させた場合(実線)とにおけるパワーサイクル試験において得られた指数bの変化率を示すグラフ
図13】冷媒温度及び特定範囲を用いて得られた指数の変動率の関係(黒丸)及び、冷媒温度及び計測時間全体を指数関数近似することにより得られた指数の変動率の関係(白丸)を示すグラフ
図14】(冷却開始温度-冷媒温度)及び特定範囲を用いて得られた指数の変動率の関係(黒丸)及び、(冷却開始温度-冷媒温度)及び計測時間全体を指数関数近似することにより得られた指数の変動率の関係(白丸)を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明に係る電子式制御装置の劣化診断方法、電子式制御装置の劣化診断プログラム、及び、電子式制御装置の劣化診断装置の実施形態について説明する。
【0032】
以下では、電子式制御装置の劣化診断方法が、電子式制御装置であるパワーコントロールユニット1の劣化診断を行うために用いられた例について説明する。
【0033】
パワーコントロールユニット1は電気自動車に搭載され、バッテリ3によって駆動する車載モータ5の電力制御を行う。図1に示すように、パワーコントロールユニット1は、電気自動車に搭載されたバッテリ3からの直流を、車載モータ5を駆動するための交流に変換するインバータ7と、インバータ7の駆動制御するゲートドライバ9と、アクセル開度等に合わせてゲートドライバ9の駆動条件を設定するコントローラ11とを備えている。本実施形態では、電子式制御装置の劣化診断方法は、特に、インバータ7の劣化診断を行うために用いられる。
【0034】
図2には、インバータ7の一部を示す模式図が示されている。インバータ7は、基板13と、半導体チップ15(電力用半導体チップ)と、を備えている。
【0035】
基板13はインシュレータ(絶縁体)によって構成された高熱伝導性・高耐圧を有する絶縁基板である。基板13は例えば、セラミックスや、窒化アルミニウムを用いた厚銅絶縁基板であってよい。基板13の一方側の面(以下、上面)には図示しない複数の電極が設けられている。
【0036】
半導体チップ15には、複数の半導体素子17が設けられている。半導体素子17は、車載モータ5への電力の制御や変換を行うための半導体であって、いわゆるパワーデバイス(電力用半導体素子)である。半導体素子17は、例えば、バイポーラトランジスタや、パワーMOSFET(metal-oxide semiconductor filed-effect transiter)であってよい。
【0037】
半導体チップ15は、基板13の上面に接合材によって結合されている。これにより、半導体チップ15に設けられた半導体素子17はそれぞれ、絶縁体によって構成された基板13に支持されている。
【0038】
接合材ははんだ(ソルダー)や、金属焼結材料等によって構成されている。本実施形態では、半導体素子17と基板13とは、はんだによって接合され、半導体チップ15と基板13との間には、はんだ層19が設けられている。
【0039】
半導体チップ15は、基板13上に設けられた電極に、図示しないボンディングワイヤを介して接続されている。基板13上の電極には、基板13上に設けられた配線パターンや、基板13とは別体の電気配線が接続されている。半導体素子17には、配線パターンや電気配線を介して電圧が印加されて、インバータ7を構成するためのスイッチング素子として機能する。
【0040】
基板13の他方側の面(以下、下面)は、接合材によって、ヒートシンク21に結合されている。接合材ははんだ(ソルダー)や、金属焼結材料等によって構成されていてもよい。本実施形態では、基板13とヒートシンク21とは、はんだによって接合され、基板13とヒートシンク21との間には、はんだ層23が設けられている。
【0041】
ヒートシンク21は、サーマルインタフェースマテリアルによって構成された伝熱層25を介して、冷却器27に結合している。サーマルインタフェースマテリアルとは、ヒートシンク21と、冷却器27の間の小さな隙間や凸凹を埋め、効率よく熱をヒートシンク21から冷却器27に伝導させる物質である。伝熱層25は、例えば、熱伝導率の高いパッド、ペースト、グリース等のいずれによって構成されていてもよい。
【0042】
冷却器27は、好ましくは金属製の部材であり、内部に冷媒29を流通させるための流路31が設けられている。冷媒29は、例えば、冷却水等であってよい。但し、この態様には限定されず、冷却器27は例えば、フィンを備えたヒートシンク21であってもよく、また、ファンを備えていてもよい。
【0043】
半導体チップ15及び基板13の間のはんだ層19や、基板13とヒートシンク21との間のはんだ層23には、熱サイクル等の種々の要因によってクラック(亀裂やひび割れ)が生じて劣化することが知られている。本実施形態に係る電子式制御装置の劣化診断方法は、特に、これらのはんだ層19、23の劣化の有無を診断するために使用される。但し、この態様は一例に過ぎず、本発明に係る電子式制御装置の劣化診断方法は、種々の電力用半導体素子を含む電子式制御装置の劣化診断に適用可能である。
【0044】
次に、電子式制御装置の劣化診断方法を実施するための、電子式制御装置の劣化診断装置41について説明する。劣化診断装置41は、電子式制御装置の劣化診断方法を実施することによって、パワーコントロールユニット1の劣化診断、具体的には、インバータ7のはんだ層19、23の劣化診断を行う装置である。劣化診断装置41は、図1に示すように、温度センサ43と、温度センサ43の検出結果に基づいて、劣化診断を行う診断装置本体45とを備えている。
【0045】
温度センサ43は温度を検出するセンサであって、本実施形態では、測温ダイオードによって構成されている。但し、温度センサ43はこの態様には限定されず、例えば、温度によって抵抗値が変化する測温抵抗体やサーミスタ等で構成されていてもよい。また、半導体チップ15の抵抗値と温度の検量線を作成して半導体チップ15の抵抗値から温度を検知する方法でもよい。
【0046】
図2に示すように、温度センサ43は半導体チップ15の裏面に設けられている。よって、温度センサ43によって検出される温度は、概ね、半導体チップ15の温度と等しい。但し、この態様には限定されず、例えば、温度センサ43は、基板13の上面や裏面、半導体チップ15の表面のいずれに設けられていてもよい。その他、温度センサ43は基板13の内部に設けられていてもよい。本実施形態では、温度センサ43は半導体チップ15の裏面に形成され、半導体チップ15と基板13との間のはんだ層19を介して、基板13の上面に固定されている。
【0047】
本実施形態では、半導体チップ15、温度センサ43、基板13、及び、ヒートシンク21が一体的にモールド樹脂によって封止されることによって、半導体パッケージ47が構成されている。
【0048】
図1に示すように、診断装置本体45は、プロセッサ51(中央演算処理装置、CPU)と、RAM(ランダムアクセスメモリ)やROM(リードオンリーメモリ)等のメモリ53と、SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)やHDD(ハードディスクドライブ)等の記憶装置55と、を備えたコンピュータによって構成されている。診断装置本体45は、例えば、車室内のモニタ56Aを備えたカーナビゲーションシステム56に接続されていてもよい。
【0049】
診断装置本体45(詳細には、診断装置本体45の記憶装置55)は、特定範囲Wを記憶している。特定範囲Wは、測定開始からの経過時間に対応する開始時間tと、測定開始からの経過時間に対応する終了時間tとの間として定義される時間範囲である(図7も参照)。特定範囲Wは、例えば、自動車の製造時等において、記憶装置55に記憶される。
【0050】
診断装置本体45は、パワーコントロールユニット1のコントローラ11に接続されている。パワーコントロールユニット1のコントローラ11は、ゲートドライバ9を介してインバータ7を制御することにより、車載モータ5の駆動を制御する。診断装置本体45のプロセッサ51は、コントローラ11から、車載モータ5が駆動している状態からその駆動を停止したことを示す信号を取得する。
【0051】
プロセッサ51は、コントローラ11から車載モータ5が駆動している状態からその駆動を停止したことを示す信号を取得すると、電子式制御装置の劣化診断プログラムを実行する。プロセッサ51は、劣化診断プログラムを実行することによって、図3に示すフローチャートに示す劣化診断処理を行い、電子式制御装置の劣化診断方法を実施する。これにより、プロセッサ51は、電子式制御装置の劣化の有無(具体的には、パワーコントロールユニット1のインバータ7に設けられたはんだ層19、23の劣化の有無)を診断する。以下では、図3を参照して、劣化診断処理の詳細について説明する。
【0052】
プロセッサ51は、劣化診断処理の最初のステップST1において、車載モータ5が駆動停止してから、所定の時間(以下、計測時間tmax)が経過するまで、取得時間Δtごとに温度センサ43の検出結果を取得する。
【0053】
このとき、プロセッサ51によって取得されるデータは、駆動停止したときを時刻t=0として、時刻t=0~tmaxまでの温度センサ43によって取得された温度Tの時間変化に対応する(例えば、図4参照)。本実施形態では、温度センサ43は半導体素子17(デバイス)の温度Tを取得するため、プロセッサ51によって取得されるデータは、時刻t=0~tmaxまでの半導体素子17(デバイス)の温度Tの時間変化を示すデータ(以下、冷却曲線)に対応する。計測時間tmaxは数秒程度であってよく、取得時間Δtは、10μ秒程度であってよい。プロセッサ51は、計測時間tmaxが経過すると、検出結果の取得を停止し、ステップST2を実行する。
【0054】
ステップST2において、プロセッサ51は、冷却曲線を数値微分し、正負反転することによって、微分曲線(―dT(t)/dt)を取得する。微分曲線は、冷却曲線の傾きの大きさを示す曲線に対応する。プロセッサ51が冷却曲線を数値微分する方法は、前進差分、中心差分等の近似による数値微分等、公知の手法に基づくものであってよい。微分曲線の取得が完了すると、プロセッサ51はステップST3を実行する。
【0055】
ステップST3において、プロセッサ51は、記憶装置55から予め記憶された特定範囲Wを取得し、微分曲線を、特定範囲Wで、指数関数に近似して、対応する指数bを取得する。
【0056】
ここでいう指数bとは、温度T(t)が以下の式(1)で表されるとしたときの時間tの係数であって、時定数B(緩和時間ともいう)の逆数(b=1/B)に相当する。
【0057】
【数1】
【0058】
式(1)のA、Cはそれぞれ所定の定数である。
【0059】
本実施形態では、プロセッサ51は、まず、微分曲線(-dT(t)/dt)を、底をeとする対数変換(すなわち、log(-dT/dt))した対数変換曲線Yを取得する。ここで、eは自然対数の底を示す。
【0060】
次に、プロセッサ51は、対数変換曲線Yに対して、回帰分析を行う。具体的には、プロセッサ51は、対数変換曲線Yが、特定範囲Wで、直線、すなわち、Y=-bt+b0の近似式で表せると仮定し、公知の手法によって、指数bを取得する。指数bの取得が完了すると、プロセッサ51はステップST4を実行する。
【0061】
プロセッサ51はステップST4において、指数bに基づき、劣化判定を行う。本実施形態では、プロセッサ51は、指数bが所定の異常判定基準値b0以上であるときに、電子式制御装置が劣化していないと判定し、指数bが異常判定基準値b0より小さいときには、電子式制御装置が劣化していると判定する。劣化判定が完了すると、プロセッサ51は、劣化診断処理を終える。
【0062】
プロセッサ51は電子式制御装置が劣化していると判定したときには、プロセッサ51は、電子式制御装置が劣化していることを、カーナビゲーションシステム56のモニタ56Aに表示させてもよい。診断装置本体45が、例えば、車両の所有者の携帯端末(スマートフォン等)にネットワークを介して接続可能であるときには、診断装置本体45は電子式制御装置が劣化していることを、携帯端末を介して車両の所有者に通知してもよい。
【0063】
次に、記憶装置55に記憶された特定範囲Wの取得方法(以下、特定範囲取得方法)について説明する。特定範囲取得方法は、劣化診断の評価対象となるパワーコントロールユニット1と、同一の仕様(構造)のパワーコントロールユニット(以下、テストデバイス)を試験するテスト装置によって特定範囲取得処理を実行することによって実施される。
【0064】
テスト装置は、例えば、パワーコントロールユニット1の設計段階で、特定範囲取得処理を実行してもよい。また、テスト装置は、初期劣化が終了したテストデバイス(パワーサイクル試験10,000回終了品)に対して、特定範囲取得処理を実行してもよい。
【0065】
テスト装置は、テストデバイスに設けられた半導体チップの温度を測定する温度センサと、温度センサの検出結果を解析するプロセッサと、プロセッサによって解析された結果を表示するモニタ等の表示装置とを有している。テスト装置は、劣化診断装置と同様の構成(診断装置本体45、及び、テストデバイスの温度を測定する温度センサ43)を含んでいてもよい。また、特定範囲取得方法を実施するときには、パワーコントロールユニット1には一定温度の冷媒29が供給され、冷媒の温度(以下、冷媒温度)は所定の値(以下、テスト冷媒温度)に設定されているものとする。
【0066】
以下、特定範囲取得処理の詳細について図5を参照して説明する。
【0067】
テスト装置は、特定範囲取得方法の最初のステップST11において、テストデバイスに含まれる半導体チップを加熱した後、加熱を停止し、所定の時間(以下、テスト計測時間tmax´)が経過するまで、半導体チップの温度T´(t)を取得する。テスト計測時間tmax´は、計測時間tmaxと同一であってもよく、また、異なっていてもよい。
【0068】
このとき、テスト装置によって取得されるデータは、図6に示すように、加熱停止したときを時刻t=0として、時刻t=0~tmax´までの温度T´(t)の時間変化を示すデータ(以下、テスト冷却曲線)に対応する。テスト装置は、テスト計測時間tmax´が経過すると、温度取得を停止し、ステップST12を実行する。
【0069】
ステップST12において、テスト装置は、温度T´(t)から、テスト冷媒温度を引いた差分温度ΔT´(t)を算出する。その差分温度ΔT´(t)の時刻t=0におけるその1/e(eは自然対数の底)を算出する。
【0070】
その後、テスト装置は、差分温度ΔT´(t)がt=0での差分温度の値の1/eとなる時間(すなわち、温度T´(t)が(冷却開始温度-冷媒温度)/e+冷媒温度よりも低くなる時間。但し、冷却開始温度とは、加熱を停止したときの温度)を仮時定数τ(図6参照)として取得する。その後、テスト装置は、仮時定数τを含む所定幅の時間帯を特定範囲Wとして設定する。
【0071】
本実施形態では、テスト装置は、温度T´(t)の微分値(-dT´(t)/dt)を取り、片対数グラフにプロットする(図7参照)。その後、テスト装置は、特定範囲Wを、仮時定数τを含み、且つ、できる限り広い範囲で寄与率(R2)が0.99程度になる範囲を選択する。ここでいう、寄与率R2とは、温度T´(t)の微分値の対数(log(-dT´(t)/dt))が、特定範囲Wで、直線で表せると仮定したときに、温度T´(t)の微分値の対数と、その直線とのずれの度合いを示す量であって、R2乗値、決定係数とも呼ばれる。その他、テスト装置は、テストを行う作業者から入力を受け付けることによって、特定範囲Wを変更してもよい。但し、特定範囲Wの変更には、その範囲を広くするとR2は小さくなり、範囲を狭くするとその逆になることを考慮するとよい。
【0072】
特定範囲Wの設定が完了すると、テスト装置は特定範囲Wを表示装置に表示し、特定範囲取得処理を完了する。
【0073】
テスト装置を用いてテスト作業を行う作業者や、自動車の組み立て、整備等を行う作業者等が、適宜入力作業等を行い、記憶装置55に特定範囲Wを記憶させてもよい。
【0074】
次に、このように構成した劣化診断方法、及び、劣化診断装置41の効果について、図面を参照しながら説明する。
【0075】
図4には横軸を時間t、縦軸を温度Tとしてプロットした冷却曲線の例が示されている。
【0076】
半導体チップ15から冷却器27に熱が逃げる速度が高ければ高いほど、半導体チップ15の温度はより迅速に冷却する。はんだ層19、23にクラック(亀裂やひび割れ)が入ると、半導体チップ15から冷却器27に熱が逃げ難くなり、半導体チップ15の冷却が遅くなる。例えば、図4に示す曲線1に比べて、曲線2、3では、半導体チップ15の冷却が遅く、熱が逃げ難くなっていることが理解できる。このように、冷却速度を評価することによって、はんだ層19、23が劣化しているか否かを判定することができる。
【0077】
しかしながら、車両の走行条件や走行環境等によって冷却開始温度(冷却を開始したときの半導体チップ15の温度)や冷媒温度が変化しうるため、一概には比較できない。
【0078】
図8には、図4の曲線1~3それぞれに対応するパワーコントロールユニット1において、冷却開始温度や冷媒温度を変更して取得した冷却曲線がそれぞれ示されている。このグラフからでは冷却速度つまり劣化状態を判断することが難しい。
【0079】
そこで、本発明者らは鋭意検討を進めた上、冷却曲線を時間微分しy軸(温度)を対象とした片対数グラフにプロットしたとき(図9を参照)に、所定の特定範囲Wで有れば冷却開始温度や冷媒温度変化しても傾きが一定になる区間があることを見出した。つまり、冷却曲線を時間微分した値は特定範囲Wであれば指数関数で近似でき、片対数グラフにプロットしたときに、その傾きが冷却開始温度や冷媒温度が変化しても一定であることを見出した。例えば、図9によれば、その傾きが曲線1,2,3の順に急になっていることから、劣化状態が判断しやすくなったといえる。
【0080】
図10には、図4図8、及び図9に示す曲線1~3の測定に用いたパワーコントロールユニット1において、冷却開始温度や冷媒温度を変えて取得した冷却曲線が示されている。図11には、図10に示す冷却曲線を微分した微分曲線がそれぞれ示されている。
【0081】
以下の表1には、図11に示された曲線それぞれに対して、傾き(指数b)を取得した結果が示されている。
【0082】
【表1】
【0083】
表1から、冷却開始温度や冷媒温度変化しても、指数bはほぼ一定であり、劣化度が同じであれば、指数bが同じになるということがわかる。
【0084】
しかし、パワーコントロールユニット1に搭載される半導体素子17の冷却曲線は理論的には、以下の式(2)で表される。
【0085】
【数2】
【0086】
但し、式(2)において、C、Ai及びbi(i=1~N)はそれぞれ、時間tに依らない所定の定数であり、Nは1以上の所定の正の整数である。式(2)は、微分しても指数関数にはならないので、片対数グラフにプロットしたときに傾きが一定になるとする結果(図6参照)とは矛盾する。
【0087】
式(2)は、式(3)のようにも表される。
【0088】
【数3】
【0089】
本願発明者らは、式(2)(又は、式(3))のうち、ある項、例えばn項-A・exp(-bt)が支配的となり、他の項の変化がほとんどせず定数として近似できる特定範囲Wが存在すると考えた。つまり、本願発明者らは、特定範囲Wであれば式(3)は、以下の式(4)によって近似できると考えた。
【0090】
【数4】
【0091】
図12に、この考察の元で試験的に加熱時間、冷却開始温度、冷媒温度が一定の場合(破線)とランダムに変化させた場合(実線)とにおけるパワーサイクル試験において得られた指数bの値に示した。図12によれば、本発明の劣化診断方法によって、加熱時間、冷却開始温度、冷媒温度が変化しても指数bの値でパワーコントロールユニット1の劣化状態が検知できることがわかる。
【0092】
また、図13に冷媒温度と指数bの変動率、図14に(冷却開始温度-冷媒温度)と指数bの変動率の関係を黒丸で示した。比較の為に本手法を使用せずに冷却曲線全体が指数関数と仮定した時の指数bの値も併せて白丸で示した。
【0093】
図13から、本発明の劣化診断方法によって、冷却開始温度、冷媒温度に影響されずに劣化を表す指数bが取得できることが分かる。すなわち、図13及び図14の黒丸と白丸とから、本発明の劣化診断方法を使用せずに冷却曲線全体から計算すると、指数bの値が冷却開始温度、冷媒温度に大きく影響を受けることが分かる。よって、本発明の劣化診断方法を使用せずに冷却曲線全体から計算する方法は、劣化診断には使用できないことがわかる。
【0094】
このように、本願発明によって加熱条件、冷却開始温度、冷媒温度等に依らず、汎用性が有り且つ容易なパワーコントロールユニット1の劣化診断方法が提供される。これにより、電気自動車の利便性や安全性が高められるため、延いては、本発明はエネルギー効率の改善に寄与すると期待できる。
【0095】
プロセッサ51は、ステップST4において、指数bが異常判定基準値b0より小さいときには、電子式制御装置が劣化していると判定する。このように、指数bを異常判定基準値b0と比較することによって劣化判定を行うことができるため、劣化の有無を容易に判定することができる。
【0096】
プロセッサ51は、車載モータ5が駆動している状態からその駆動を停止したことを示す信号を取得すると、劣化診断処理を実行し、冷却曲線の取得を開始する。このように構成することで、車載モータ5が駆動している状態で冷却曲線の取得を開始する場合に比べて、温度センサ43の検出結果に対する車載モータ5の影響(例えば、車載モータ5の駆動による電磁ノイズの影響等)を低減することができる。
【0097】
また、変形実施例として、プロセッサ51がステップST4において指数bを、劣化診断処理を行った時刻とともに記憶装置55に記憶するとともに、記憶装置55に既に記憶された指数bの経時変化を評価することによって、劣化予測を行うことも考えられる。劣化予測には、例えば、指数bの経時変化を示す値として、指数bの単位時間に対する変化量、すなわち、指数bの時間変化率が用いられてもよい。
【0098】
指数bの時間変化率を取得するため、プロセッサ51は、例えば、ステップST4において、まず、記憶装置55から前回、劣化診断処理を実行した時刻sと、前回の劣化診断処理にて得られた指数b(s)を取得する。次に、プロセッサ51は、その指数b(s)と、ステップST3にて新たに取得した指数b(s)との差の絶対値Δb=|b(s)-b(s)|を算出する。更に、プロセッサ51は前回の劣化診断処理を行った時刻sから、ステップST1を実行した時刻sまでの経過時間Δs(=s-s)を取得して、指数bの差の絶対値Δbを経過時間Δsで割った値(Δb/Δs)を算出し、算出した値を指数bの時間変化率として取得することが考えられる。プロセッサ51は、指数bの時間変化率が所定の閾値以上であるときに、劣化した状態に近づきつつあると判定してもよい。
【0099】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【0100】
上記実施形態において、プロセッサ51は、劣化診断処理のステップST4において、微分曲線を、eを底とする対数変換し、回帰分析を行って、指数bを取得していたが、この態様には限定されない。プロセッサ51は、劣化診断処理のステップST4において、微分曲線を、10を底とする対数変換し、回帰分析を行って、指数bを取得してもよい。
【0101】
上記実施形態において、プロセッサ51は、ステップST4において、指数bが異常判定基準値b0より小さいときには、電子式制御装置が劣化していると判定していたが、この態様には限定されない。プロセッサ51は、ステップST3において、bの逆数(1/b。時定数Bともいう)を取得し、その時定数Bが異常判定基準値B0よりも大きいときに、電子式制御装置(パワーコントロールユニット1)が劣化していると判定してもよい。
【0102】
上記実施形態において、プロセッサ51は、ステップST3において、微分曲線が複数の指数関数の和によって表されていると仮定し、微分曲線を、公知の手法に基づいてフィッティングすることにより、それぞれの指数関数に対応する指数bを取得してもよい。その場合には、ステップST4において、プロセッサ51は最も小さな指数b(又は、最も大きな時定数B)と、異常判定基準値b0との大小に基づいて、劣化を判定してもよい。具体的には、プロセッサ51は最も小さな指数bが異常判定基準値b0より小さくなった(又は、最も大きな時定数Bが異常判定基準値B0よりも大きくなった)ときに、電子式制御装置(パワーコントロールユニット1)が劣化していると判定してもよい。指数bが小さい(時定数Bが大きい)ほど、熱が逃げ難いことを示しているため、最も小さな指数b(最も大きな時定数B)を用いることで、クラックによって熱が逃げ難くなった箇所の劣化を効果的に抽出することが可能である。
【0103】
また、プロセッサ51はST2において取得した微分曲線に基づいて、劣化診断処理を行うごとに、微分曲線の初期値が1/e(eは自然対数の底)となる時刻を含む(例えば、その時刻を中心とする所定の時間幅の範囲となる)ように、特定範囲Wを設定してもよい。
【0104】
上記実施形態において、プロセッサ51の代わりに、微分回路や対数変換回路などの既知のアナログ回路が用いられてもよく、また、公知のアナログ回路と公知のデジタル回路とによって組み合わせが用いられてもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 :パワーコントロールユニット(電子式制御装置)
5 :車載モータ
13 :基板
17 :半導体素子(電力用半導体素子)
41 :劣化診断装置
43 :温度センサ
b :指数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14