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特許7750308電力変換装置、コンデンサ装置、制御方法およびコンピュータプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-29
(45)【発行日】2025-10-07
(54)【発明の名称】電力変換装置、コンデンサ装置、制御方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20250930BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023573996
(86)(22)【出願日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2022048641
(87)【国際公開番号】W WO2023136181
(87)【国際公開日】2023-07-20
【審査請求日】2024-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022005210
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(72)【発明者】
【氏名】岡 章治
【審査官】藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/097699(WO,A1)
【文献】特開2011-061900(JP,A)
【文献】特開2014-068498(JP,A)
【文献】特開2013-009581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源に接続される複数のスイッチング素子を有し、所定のスイッチング周波数で前記複数のスイッチング素子をスイッチングするスイッチング処理を実行することによって前記直流電源から供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、
前記直流電源に対して並列に接続される複数のコンデンサ素子を有し、前記変換回路での変換によって発生する脈動分を前記複数のコンデンサ素子により平滑化する平滑回路と、
前記複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧を個別に測定する電圧計測装置と、
前記複数のコンデンサ素子に流れる電流の不均衡が発生したかどうかを判定する判定処理を実行する演算回路と、
を備え、
前記判定処理は、
前記スイッチング処理の実行時に前記電圧計測装置により測定された前記複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧に基づいて前記複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧の交流成分の実効値を取得し、
前記実効値のうちの最大値に基づく評価値が所定の閾値を超えると前記複数のコンデンサ素子に流れる電流の不均衡が発生したと判定する、
電力変換装置。
【請求項2】
前記評価値は、前記最大値と前記実効値のうちの最小値との差である、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記評価値は、前記最大値と基準値との差であり、
前記基準値は、前記平滑回路に並列共振が生じない条件下での前記複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧の交流成分の推定実効値である、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記推定実効値は、前記平滑回路における前記複数のコンデンサ素子をそれぞれ含む複数の経路の前記直流電源に対するインピーダンス値の各々が、前記インピーダンス値のうちの最小値と同一であると仮定して算出される、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記演算回路は、前記判定処理により前記不均衡が発生していると判定すると、前記不均衡が軽減されるように前記所定のスイッチング周波数を変更する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記演算回路は、前記判定処理により前記不均衡が発生していると判定すると、前記不均衡が軽減されるように前記変換回路から前記負荷への前記出力電圧を低減させる、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
直流電源に接続される複数のスイッチング素子を有し、所定のスイッチング周波数で前記複数のスイッチング素子をスイッチングするスイッチング処理を実行することによって前記直流電源から供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、
前記直流電源に対して並列に接続される複数のコンデンサ素子を有し、前記変換回路での変換によって発生する脈動分を前記複数のコンデンサ素子により平滑化する平滑回路と、
前記複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧を個別に測定する電圧計測装置と、
を有する電力変換装置において、前記複数のコンデンサ素子に流れる電流の不均衡を判定する制御方法であって、
前記スイッチング処理の実行時に前記電圧計測装置により測定された前記複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧に基づいて前記複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧の交流成分の実効値を取得し、
前記実効値のうちの最大値に基づく評価値が所定の閾値を超えると前記複数のコンデンサ素子に流れる電流の不均衡が発生したと判定する、
制御方法。
【請求項8】
請求項に記載の制御方法を演算回路に実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、コンデンサ装置、制御方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータにおいて、インダクタンス成分を有するリアクトルと静電容量成分を含むコンデンサとを含む平滑回路を接続し、直流電源から負荷に出力される電圧を平滑化する技術が検討されてきた。例えば、特許文献1には、LC平滑回路のコンデンサの端子間電圧を検出する電圧検出手段と、検出された端子間電圧から振動成分を抽出するフィルタ手段と、抽出された振動成分に基づいて、インバータのスイッチング周波数を可変するスイッチング周波数可変手段とを備えることを特徴とする、電力変換装置の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-60723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術を用いれば、制御装置は、インダクタンス成分と容量成分とによって発生するLC共振を検出し、抑制することができる。しかし、特許文献1に開示されている技術は、コンデンサが複数のコンデンサ素子を並列に接続することで構成されている場合、各コンデンサ素子間において発生し得るLC共振を検出することができない。そのため、コンデンサ素子間にてLC共振が発生してコンデンサ素子に過大な電流が流れることによって、発熱による温度上昇が発生し、コンデンサの過熱若しくは焼損、装置出力の不安定化、又は装置の機能停止が生じる可能性があった。
【0005】
本開示は、直流電源に対して並列に接続されたコンデンサ素子間でのLC共振の発生を検出することができる電力変換装置、コンデンサ装置、制御方法およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電力変換装置は、直流電源に接続される複数のスイッチング素子を有し、所定のスイッチング周波数で複数のスイッチング素子をスイッチングするスイッチング処理を実行することによって直流電源から供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、直流電源に対して並列に接続される複数のコンデンサ素子を有し、変換回路での変換時に発生する脈動分を複数のコンデンサ素子により平滑化する平滑回路と、複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧を測定する電圧計測装置と、複数のコンデンサ素子に流れる電流の不均衡が発生したかどうかを判定する判定処理を実行する演算回路と、を備え、判定処理は、スイッチング処理の実行時に電圧計測装置により測定された複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧に基づいて複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧の交流成分の実効値を取得し、実効値のうちの最大値に基づく評価値が所定の閾値を超えると複数のコンデンサ素子に流れる電流の不均衡が発生したと判定する。
【0007】
本開示に係るコンデンサ装置は、直流電源に接続される複数のスイッチング素子を有し、所定のスイッチング周波数で複数のスイッチング素子をスイッチングするスイッチング処理を実行することによって直流電源から供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、直流電源に対して並列に接続される複数のコンデンサ素子を有し、変換回路での変換時に発生する脈動分を複数のコンデンサ素子により平滑化する平滑回路と、を備える電力変換装置で使用されるコンデンサ装置であって、複数のコンデンサ素子と、複数のコンデンサ素子を搭載する筐体と、を有し、複数のコンデンサ素子のそれぞれは、複数のコンデンサ素子の両端電圧を検出可能、かつ、コンデンサ装置の外部から利用可能な端子を有する。
【0008】
本開示に係る制御方法は、直流電源に接続される複数のスイッチング素子を有し、所定のスイッチング周波数で複数のスイッチング素子をスイッチングするスイッチング処理を実行することによって直流電源から供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換して負荷に出力する変換回路と、直流電源に対して並列に接続される複数のコンデンサ素子を有し、変換回路での変換時に発生する脈動分を複数のコンデンサ素子により平滑化する平滑回路と、複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧を測定する電圧計測装置と、を有する電力変換装置において、複数のコンデンサ素子に流れる電流の不均衡を判定する制御方法であって、スイッチング処理の実行時に電圧計測装置により測定された複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧に基づいて複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧の交流成分の実効値を取得し、実効値のうちの最大値に基づく評価値が所定の閾値を超えると複数のコンデンサ素子に流れる電流の不均衡が発生したと判定する。
【0009】
本開示に係るコンピュータプログラムは、演算回路に本開示に係る制御方法を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、直流電源に対して並列に接続されたコンデンサ素子間でのLC共振の発生を検出することができる電力変換装置、コンデンサ装置、制御方法およびコンピュータプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施の形態に係る電力変換装置の構成例の概略的な回路図
図2】一実施の形態に係る平滑回路の構成例の概略的な回路図
図3A】一実施の形態に係る平滑回路のインピーダンスに関する周波数特性を示すグラフ
図3B】一実施の形態に係る平滑回路の各コンデンサ素子に流れる電流の大きさに関する周波数特性を示すグラフ
図4A】一実施の形態に係る別の平滑回路のインピーダンスに関する周波数特性を示すグラフ
図4B】一実施の形態に係る別の平滑回路の各コンデンサ素子に流れる電流の大きさに関する周波数特性を示すグラフ
図5A】一実施の形態に係る別の平滑回路のインピーダンスに関する周波数特性を示すグラフ
図5B】一実施の形態に係る別の平滑回路の各コンデンサ素子に流れる電流の大きさに関する周波数特性を示すグラフ
図6】一実施の形態に係る電力変換装置の演算回路が実行する判定処理のフローチャート
図7A】一実施の形態に係る平滑回路の各コンデンサ素子に流れる電流の実効値を示すグラフ
図7B】一実施の形態に係る平滑回路の各コンデンサ素子に印加される電圧の交流成分の実効値を示すグラフ
図7C図7Bに示す実効値のうちの最大値と最小値との差を示すグラフ
図8A】一実施の形態に係る別の平滑回路の各コンデンサ素子に流れる電流の実効値を示すグラフ
図8B】一実施の形態に係る別の平滑回路の各コンデンサ素子に印加される電圧の交流成分の実効値を示すグラフ
図8C図8Bに示す実効値のうちの最大値と最小値との差を示すグラフ
図9A】一実施の形態に係る別の平滑回路の各コンデンサ素子に流れる電流の実効値を示すグラフ
図9B】一実施の形態に係る別の平滑回路の各コンデンサ素子に印加される電圧の交流成分の実効値を示すグラフ
図9C図9Bに示す実効値のうちの最大値と最小値との差を示すグラフ
図10A図8Bに示す実効値のうちの最大値と算出された推定実効値との差を示すグラフ
図10B図9Bに示す実効値のうちの最大値と算出された推定実効値との差を示すグラフ
図11A】別の実施の形態に係る電力変換装置の平滑回路に用いられ得るコンデンサ装置の一例の斜視図
図11B図11Aのコンデンサ装置を底面から見た斜視図
図12A】別の実施の形態に係る電力変換装置の平滑回路に用いられ得るコンデンサ装置の一例の斜視図
図12B図12Aのコンデンサ装置の筐体の一部を除いた斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本開示に係る実施の形態を説明する。ただし、以下に説明する構成は、本開示の一例に過ぎず、本開示は下記の実施の形態に限定されることはなく、これら実施の形態以外であっても、本開示に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0013】
(実施の形態)
1-1.構成例
図1は、本開示の実施の形態に係る電力変換装置1の構成例の概略的な回路図である。電力変換装置1は、平滑回路20、電圧計測装置30、変換回路40及び制御装置60を備える。制御装置60は、演算回路61と記憶装置62とを備える。平滑回路20は、直流電源10に対して並列に接続される複数のコンデンサ素子21を有する(詳細は後述する)。平滑回路20は、変換回路40による電圧の変換時に発生する脈動分を複数のコンデンサ素子21により平滑化する。変換回路40は、平滑回路20に接続される複数のスイッチング素子42、43を有する(詳細は後述する)。変換回路40は、所定のスイッチング周波数で複数のスイッチング素子42、43をスイッチングするスイッチング処理を実行することによって直流電源10から供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換して負荷50に出力する。電圧計測装置30は、複数のコンデンサ素子それぞれの両端電圧を測定する。
【0014】
演算回路61は、複数のコンデンサ素子21に流れる電流の不均衡が発生したかどうかを判定する判定処理を実行する。演算回路61は、判定処理により、スイッチング処理の実行時に電圧計測装置30により測定された複数のコンデンサ素子21それぞれの両端電圧に基づいて複数のコンデンサ素子21それぞれの両端電圧の交流成分の実効値を取得する。そして、演算回路61は、判定処理により、当該実効値のうちの最大値に基づく評価値が所定の閾値を超えると複数のコンデンサ素子21に流れる電流の不均衡が発生したと判定する。
【0015】
このように動作することで、電力変換装置1は、平滑回路20が有する複数のコンデンサ素子21において発生し得るLC共振の発生を検出することができる。また、本開示に係る電力変換装置1は、LC共振が発生し得る周波数をあらかじめ特定して、当該周波数でのLC共振を抽出するためのフィルタを備える必要がない。したがって、本開示に係る電力変換装置1は、予期せぬ偶発的なLC共振が発生し、当該LC共振が想定されていない周波数であったとしても、LC共振の発生を検出することができる。電力変換装置1は、LC共振の発生を検出すると、LC共振により生じる電流の不均衡が軽減するように、スイッチング処理において実行されるスイッチングの周波数を変更することができる。また、電力変換装置1は、LC共振の発生を検出すると、LC共振により生じる電流の不均衡を軽減するように、変換回路40から負荷50へ出力される出力電圧を低減させることができる。
【0016】
以下、本開示の実施の形態に係る電力変換装置1をより詳細に説明する。図1に示すように電力変換装置1は、直流電源10からの直流電圧を所定の電圧に変換して負荷であるモータ50に出力する。上記したように、電力変換装置1は、平滑回路20、電圧計測装置30、変換回路40および制御装置60を備える。電力変換装置1は、例えば電動車両に搭載されるモータ駆動用インバータ装置に使用される。
【0017】
直流電源10は、直流電圧を平滑回路20および変換回路40の両端間に印加する電源装置である。それによって、直流電源10は、モータ50を駆動するための電流を変換回路40に供給する。直流電源10は、後述するようなモータ50による回生電流によって充電されてもよい。直流電源10は、例えば、直流電流を供給するバッテリであってもよい。また、直流電源10は、交流電圧を直流電圧に変換して変換回路40へと供給する、交流電源およびAC-DCコンバータを含む電源装置であってもよい。
【0018】
平滑回路20は、直流電源10から供給される直流電圧で充電され、変換回路40に電流を供給し、かつ変換回路40で発生する脈動分を平滑化する。図2は、本実施の形態に係る平滑回路20の構成例の概略的な回路図である。図2に示すように、平滑回路20は、直流電源10に対して並列に接続される複数のコンデンサ素子21を含む。本実施の形態に係る平滑回路20は、4つのコンデンサ素子21a~21dを含む。コンデンサ素子21の数は、4つに限定されず、2以上の任意の数であってよい。後述する変換回路40において電圧を変換する際、例えば電圧に脈動が生じ得る。平滑回路20は、そのような、変換回路40での変換により発生する脈動分を上記複数のコンデンサ素子21a~21dにより平滑化することができる。また、平滑回路20は、直流電源10からモータ50へと電流を供給する際に急峻な電流が流れることにより直流電圧に生じるノイズを、平滑化して抑制することができる。平滑回路20は、直流電源10が印加する直流電圧に脈流成分がある場合、当該脈流成分を平滑化し得る。また、平滑回路20は、モータ50が回転することで生じる回生電流が流れる際、当該回生電流によって直流電圧に生じる脈流成分を平滑化し得る。
【0019】
電圧計測装置30は、コンデンサ素子21a~21dそれぞれの両端電圧を計測するように構成される。本実施の形態において、電圧計測装置30は、後述するように電圧計31a~31dを有する(図2参照)。電圧計測装置30は、電圧計31a~31dによりそれぞれ計測した電圧を示す電圧情報を制御装置60に出力する。
【0020】
変換回路40は、直流電源10から供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換して負荷であるモータ50に出力する。所定の出力電圧は、例えば、三相交流電圧である。本実施の形態において、変換回路40は、例えば、直流電源10から供給された直流電流を三相交流電流に変換し、モータ50へと伝達するインバータである。変換回路40は、モータ50が回転することで生じる回生電流が流れる際、交流電流を直流電流へと変換することができてもよい。
【0021】
変換回路40は、直流電源10および平滑回路20の両端間に並列に接続される2つ以上のレグを有する。本実施の形態において、変換回路40は、3つのレグ41A、41B、41Cを備える。レグ41Aは、直列に接続された、上流側スイッチ42A及び下流側スイッチ43Aからなる一対のスイッチを有する。レグ41Bは、直列に接続された、上流側スイッチ42B及び下流側スイッチ43Bからなる一対のスイッチを有する。レグ41Cは、直列に接続された、上流側スイッチ42C及び下流側スイッチ43Cからなる一対のスイッチを有する。レグ41Aは、上流側スイッチ42Aと下流側スイッチ43Aとの間の接続点がモータ50に抵抗44Aを介して接続されている。レグ41Bは、上流側スイッチ42Bと下流側スイッチ43Bとの間の接続点がモータ50に抵抗44Bを介して接続されている。レグ41Cは、上流側スイッチ42Cと下流側スイッチ43Cとの間の接続点がモータ50に抵抗44Cを介して接続されている。演算回路61は、6つのスイッチ42A~42C、43A~43Cのオン・オフを制御することができる。それによって、演算回路61は、直流電源10から供給される直流電圧を交流電圧へと変換してモータ50に供給することができる。例えば、演算回路61は、各レグ41A、41B、41Cにおいて上流側スイッチ42A~42Cおよび下流側スイッチ43A~43Cを交互にオン・オフする動作を、3つのレグ41A、41B、41Cにおいて所定の位相差(例えば120度)を持たせて行うことで、モータ50に三相交流電圧を供給する。各スイッチ42A~42C、43A~43Cのそれぞれは、例えば、トランジスタとダイオードによって構成されてもよい。このように変換回路40は、直流電源10および平滑回路20に接続される複数のスイッチング素子42、43を有する。そして、変換回路40は、演算回路61が所定のスイッチング周波数で複数のスイッチング素子42、43をスイッチングするスイッチング処理を実行することによって、直流電源10のから供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換してモータ50に出力する。
【0022】
モータ50は、例えば、変換回路40を介して直流電源10から供給された電流に基づいて、任意の構成部品を回転させる負荷回路である。負荷回路は、構成部品を回転させる回転モータ等の回路に限定されず、構成部品を直動させる直動モータ又は交流電流を使用する任意の負荷回路であってよい。モータ50は、電流が供給されていないときに外力によって回転されることで回生電流を生成し、変換回路40を介して直流電源10へと供給してもよい。
【0023】
制御装置60は、例えば、電力変換装置1の動作を制御するコンピュータである。制御装置60は、演算回路61および記憶装置62を備える。
【0024】
演算回路61は、プログラムを実行することで所定の機能を実現するCPUまたはMPUのような汎用プロセッサを含む。演算回路61は、記憶装置62と通信可能に構成され、当該記憶装置62に格納された演算プログラム等を呼び出して実行することにより、制御装置60における各種の処理を実現する。例えば、演算回路61は、スイッチ42A~42C、43A~43Cのオン・オフを切り換えるスイッチング処理及び後述する判定処理等を実現し得る。演算回路61は、ハードウェア資源とソフトウェアとが協働して所定の機能を実現する態様に限定されず、所定の機能を実現する専用に設計されたハードウェア回路でもよい。すなわち、演算回路61は、CPU、MPU以外にも、GPU、FPGA、DSP、ASIC等、種々のプロセッサで実現され得る。このような演算回路61は、例えば、半導体集積回路である信号処理回路で構成され得る。
【0025】
記憶装置62は、種々の情報を記憶できる記憶媒体である。例えば、記憶装置62は、電圧計測装置30からの電圧情報を格納し、演算回路61は、格納した電圧情報を利用することができる。記憶装置62は、例えば、DRAMやSRAM、フラッシュメモリ等のメモリ、HDD、SSD、その他の記憶デバイスまたはそれらを適宜組み合わせて実現される。記憶装置62は、上述するように、制御装置60が演算回路61によって行う各種の処理を実現するためのプログラムを格納する。記憶装置62は、後述する平滑回路20の容量成分、抵抗成分、インダクタンス成分など任意のパラメータを格納してもよい。
【0026】
次に、平滑回路20について更に詳細に説明する。上述したように、平滑回路20は、4つのコンデンサ素子21a~21dを含む。図2に示すように、4つのコンデンサ素子21a~21dは、並列回路を構成する。当該並列回路は、4つのコンデンサ素子21a~21dの第1端側の接続点23aと、4つのコンデンサ素子21a~21dの第2端側の接続点23bとを介して、直流電源10に対して並列に接続される。
【0027】
平滑回路20の各コンデンサ素子21a~21dは、容量Ca~Cd[μF]、等価直列抵抗による抵抗成分Ra~Rd[mΩ]、等価直列インダクタンスによるインダクタンス成分La1~Ld1[nH]をそれぞれ有する。図1及び図2から理解されるように、平滑回路20は、直流電源10のプラス極に接続される第1端22aと、マイナス極に接続される第2端22bとを有する。各コンデンサ素子21a~21dはそれぞれ、第1端22aと、第2端22bとの間に配置される。本実施の形態において、平滑回路20は、接続点23aと接続点23bとによって、コンデンサ素子21a~21dが、第1端22aと、第2端22bとに接続するように構成される。
【0028】
平滑回路20は、コンデンサ素子21a~21dそれぞれの経路に関して、各コンデンサ素子21a~21dを除く各接続点23a、23bの間の回路によって構成されるインダクタンス成分La2~Ld2[nH]を有する。また、平滑回路20は、第1端22aと接続点23aとの間の回路および第2端22bと接続点23bとの間の回路によって構成されるインダクタンス成分L3を有する。インダクタンス成分L3は、より具体的には、第1端22aが直流電源10のプラス極に、第2端22bが直流電源10のマイナス極に接続されている状態でのインダクタンス成分を示す。
【0029】
このように、平滑回路20に含まれるコンデンサ素子21a~21dそれぞれに関する回路(本明細書において、各コンデンサ素子21a~21dの経路も呼ばれる)は、異なるインピーダンス値を有する。ここで、例えばコンデンサ素子21aの経路は、接続点23aからコンデンサ素子21aを通って接続点23bに至るまでの回路を意味する。
【0030】
上記するように、平滑回路20は、直流電源10がモータ50へと電力を供給する際に、変換回路40での変換によって発生する脈動分を複数のコンデンサ素子21a~21dにより平滑化することができる。また、平滑回路20は、上記するように、直流電源10から供給される直流電圧で充電される。さらに、平滑回路20は、変換回路40に電流を供給する。この際、平滑回路20に電流が流れる。平滑回路20が複数のコンデンサ素子21a~21dを有するため、当該電流は、複数のコンデンサ素子21a~21dに分かれて流れる。複数のコンデンサ素子21a~21dでの電流の分担の割合は、上記したインピーダンス値によって決定される。
【0031】
次に、平滑回路20の複数のコンデンサ素子21a~21dに流れる電流について、回路例1、回路例2、及び回路例3を用いて説明する。
【0032】
回路例1の平滑回路20は、下表1に示すパラメータのコンデンサ素子21a~21dの経路を有する。図3Aは、回路例1の平滑回路20のインピーダンスに関する周波数特性を示すグラフである。当該インピーダンスは、第1端22aと第2端22bとの間のインピーダンスである。図3Bは、回路例1の平滑回路20に、一定の実効値を有し、かつ、所定の周波数の交流成分を有する電流が流れた際に各コンデンサ素子21a~21dに流れる電流の大きさに関する周波数特性を示すグラフである。図3Bは、10kHz~100kHzの周波数範囲に関する周波数特性を示す。後述する図4B図5Bも同様に、10kHz~100kHzの周波数範囲に関する周波数特性を示す。当該所定の周波数は、演算回路61が実行するスイッチング処理のスイッチング周波数に基づいて決定され得る。以下、各コンデンサ素子21a~21dに流れる電流が有する交流成分の周波数は、リップル周波数とも呼ばれる。なお、インダクタンス成分L3のインダクタンス値は、50nHである。
【0033】
【表1】
【0034】
図3Aに示すように、回路例1の平滑回路20は、約15kHz付近に共振周波数を有するように構成されている。また、図3Bに示すように、回路例1の平滑回路20に一定の実効値を有する電流を流した場合、各コンデンサ素子21a~21dの経路には、リップル周波数の変化に関係なく、同等の大きさの電流が流れる。したがって、本例における平滑回路20のように、各コンデンサ素子21a~21dの経路が同等のインピーダンスを有する場合、各経路には同等の電流が流れ、電流の不均衡は発生しない。したがって、表1に示すパラメータの経路を有する平滑回路20は、各コンデンサ素子21a~21dの経路間でLC共振が発生し得る周波数である並列共振周波数を有さない。
【0035】
回路例2の平滑回路20は、下表2に示すパラメータのコンデンサ素子21a~21dの経路を有する。図4Aは、回路例2の平滑回路20のインピーダンスに関する周波数特性を示すグラフである。当該インピーダンスは、第1端22aと第2端22bとの間のインピーダンスである。回路例2のパラメータは、回路例1のパラメータに対して、インダクタンス成分Lb2~Ld2のインダクタンス値のみ変更されている。すなわち、回路例2のパラメータは、回路例1のパラメータに対して、各コンデンサ素子21b~21dの経路の基づくインダクタンス値が変更されている。図4Bは、回路例2の平滑回路20に、一定の実効値を有し、かつ、所定の周波数の交流成分を有する電流が流れた際に各コンデンサ素子21a~21dに流れる電流の大きさに関する周波数特性を示すグラフである。なお、インダクタンス成分L3のインダクタンス値は、50nHである。
【0036】
【表2】
【0037】
図4Aに示すように、回路例2の平滑回路20は、約15kHz付近に共振周波数を有するように構成されている。また、図4Aに示す周波数特性は、図3Aに示す周波数特性と比べると約20kHz付近に共振点を有する。当該共振点が、LC共振が発生し得る周波数である並列共振周波数に対応する。また、図4Bに示すように、回路例2の平滑回路20に一定の実効値を有する電流を流した場合、各コンデンサ素子21a~21dの経路には、各経路のインピーダンスに基づいて、異なる大きさの電流が流れる。図4Bは、コンデンサ素子21aの経路に流れる電流の大きさを実線で示す。図4Bは、コンデンサ素子21bの経路に流れる電流の大きさを破線で示す。図4Bは、コンデンサ素子21cの経路に流れる電流の大きさを太線の実線で示す。図4Bは、コンデンサ素子21dの経路に流れる電流の大きさを1点鎖線で示す。
【0038】
図4Bから分かるように、各コンデンサ素子21a~21dの経路は、リップル周波数によって異なる大きさの電流が流れる。例えば、図4Bから分かるように、コンデンサ素子21b、21cの経路はそれぞれ、10kHz~100kHzの周波数範囲において、約20kHzのリップル周波数を有する交流成分を有する電流が平滑回路20に流れた際に、最も大きな電流が流れる。すなわち、コンデンサ素子21b、21cそれぞれの経路は、演算回路61が所定の周波数でスイッチング処理を実行し、それによって約20kHzのリップル周波数を有する交流成分を有する電流が平滑回路20に流れると、最も大きな電流が流れる。また、コンデンサ素子21aの経路は、20kHzよりも高いリップル周波数を有する交流成分を有する電流が平滑回路20に流れた際に、最も大きな電流が流れる。コンデンサ素子21dの経路は、20kHzよりも低いリップル周波数を有する交流成分を有する電流が平滑回路20に流れた際に、最も大きな電流が流れる。したがって、回路例2の平滑回路20のように、各コンデンサ素子21a~21dの経路が異なる値のインピーダンスを有する場合、各経路にはインピーダンスに基づいた電流が流れ、経路間での電流の不均衡が発生する。
【0039】
回路例3の平滑回路20は、下表3に示すパラメータのコンデンサ素子21a~21dの経路を有する。図5Aは、回路例3の平滑回路20のインピーダンスに関する周波数特性を示すグラフである。当該インピーダンスは、第1端22aと第2端22bとの間のインピーダンスである。回路例3のパラメータは、回路例1のパラメータに対して、インダクタンス成分Lc2、Ld2のインダクタンス値のみ変更されている。すなわち、回路例3のパラメータは、回路例1のパラメータに対して、各コンデンサ素子21c、21dの経路の基づくインダクタンス値が変更されている。図5Bは、回路例3の平滑回路20に、一定の実効値を有し、かつ、所定の周波数の交流成分を有する電流が流れた際に各コンデンサ素子21a~21dに流れる電流の大きさに関する周波数特性を示すグラフである。なお、インダクタンス成分L3のインダクタンス値は、50nHである。
【0040】
【表3】
【0041】
図5Aに示すように、回路例3の平滑回路20は、約15kHz付近に共振周波数を有するように構成されている。また、図5Aに示す周波数特性は、図3Aに示す周波数特性と比べると約20kHz付近に共振点を有する。当該共振点が、LC共振が発生し得る周波数である並列共振周波数に対応する。また、図5Bに示すように、回路例3の平滑回路20に一定の実効値を有する電流を流した場合、各コンデンサ素子21a~21dの経路には、各経路のインピーダンスに基づいて、異なる大きさの電流が流れる。図5Bは、コンデンサ素子21aの経路に流れる電流の大きさを実線で示す。当該実線は、コンデンサ素子21bの経路に流れる電流の大きさも示す。図5Bは、コンデンサ素子21cの経路に流れる電流の大きさを1点鎖線で示す。当該1点鎖線は、コンデンサ素子21dの経路に流れる電流の大きさも示す。
【0042】
図5Bから分かるように、各コンデンサ素子21a~21dの経路は、リップル周波数によって異なる大きさの電流が流れる。例えば、図5Bから分かるように、各コンデンサ素子21a~21dの経路は、10kHz~100kHzの周波数範囲において、約20kHzのリップル周波数を有する交流成分を有する電流が平滑回路20に流れた際に、最も大きな電流が流れる。各コンデンサ素子21a、21bの経路は、20kHzよりも低いリップル周波数を有する交流成分を有する電流が平滑回路20に流れた際に、最も小さな電流が流れる。各コンデンサ素子21c、21dの経路は、20kHzよりも高いリップル周波数を有する交流成分を有する電流が平滑回路20に流れた際に、最も小さな電流が流れる。したがって、本例における平滑回路20のように、コンデンサ素子21a、21bの経路とコンデンサ素子21c、21dの経路とが、異なるインピーダンスを有する場合、各経路にはインピーダンスに基づいた電流が流れ、経路間での電流の不均衡が発生する。
【0043】
このように、リップル周波数に基づいて複数の経路に流れる電流量が変化し、特定のコンデンサ素子に過大な電流が流れ得る。それによって、経路間での電流の不均衡が発生し得る。特定のコンデンサ素子に過大な電流が流れると、当該コンデンサ素子の温度がジュール熱によって上昇し、コンデンサの過熱、焼損が発生し、コンデンサが設けられている装置の出力が不安定となったり、装置の機能が停止したりする可能性がある。このような電流の不均衡は、例えば、平滑回路20内の各コンデンサ素子21a~21dの静電容量成分と、各コンデンサ素子21a~21dの経路のインダクタンス成分とによって、LC共振が起きると、発生し得る。このようなLC共振は、平滑回路20内の各コンデンサ素子21a~21dによる並列回路で発生し得る。LC共振は、並列共振とも呼ばれる。
【0044】
本実施の形態に係る電力変換装置1は、当該電流の不均衡が発生したことを検出することができる。より具体的には、電力変換装置1の制御装置60の演算回路61は、電圧計測装置30が検出した各コンデンサ素子21a~21dの両端電圧に基づいて、電流の不均衡が発生したかどうかを判定することができる。以下、演算回路61による、電流の不均衡の発生有無の判定処理について説明する。
【0045】
図6は、本実施の形態に係る電力変換装置1が有する制御装置60の演算回路61が実行する判定処理のフローチャートである。まず、演算回路61は、電圧計測装置30により測定された複数のコンデンサ素子21a~21dの両端電圧に基づいて、複数のコンデンサ素子21a~21dそれぞれの両端電圧の交流成分の実効値を取得する(S10)。演算回路61は、例えば、取得した各実効値を記憶装置62に格納し得る。演算回路61は、当該実効値を取得した際のスイッチング処理のスイッチング周波数と関連付けて、記憶装置62に格納し得る。演算回路61は、当該実効値とリップル周波数とを関連付けて、記憶装置62に格納してもよい。
【0046】
次に、演算回路61は、取得した実効値のうちの最大値に基づいて評価値を算出する(S11)。例えば、演算回路61は、取得した実効値のうちの最大値及び取得した実効値のうちの最小値を決定し、当該最大値と当該最小値との差を算出し、当該差を評価値として用いることができる。演算回路61は、当該最大値と、基準値との差を算出し、当該差を評価値として用いてもよい。基準値は、例えば、平滑回路20に並列共振が生じない条件下において、電圧計測装置30によって、複数のコンデンサ素子21a~21dのそれぞれの両端電圧の交流成分として計測されると推定される電圧の実効値である。以下、このような電圧の実効値は、推定実効値と呼ばれる。平滑回路20に並列共振が生じない条件は、上記した回路例1の平滑回路20のように各コンデンサ素子21a~21dの経路のインピーダンスのパラメータが同一であることを含む。推定実効値は、平滑回路20における複数のコンデンサ素子21a~21dをそれぞれ含む複数の経路の直流電源に対するインピーダンス値の各々が、当該インピーダンス値のうちの最小値と同一であると仮定して算出されてもよい。
【0047】
演算回路61は、評価値が所定の閾値Vthより大きいか否かを判定する(S12)。評価値が所定の閾値Vth以下である場合(S12:NO)、演算回路61は、電流の不均衡が発生していないと判定する。評価値が所定の閾値Vthより大きい場合(S12:YES)、演算回路61は、電流の不均衡が発生していると判定する(S13)。本実施の形態に係る電力変換装置1の演算回路61は、このようにして、平滑回路20内の複数のコンデンサ素子21a~21dの各経路において、電流の不均衡が発生したかどうかを判定する判定処理を実行できる。
【0048】
1-2.実施例
(第1の実施例)
演算回路61による電流の不均衡の判定処理の第1の実施例を説明する。図7Aは、回路例1の平滑回路20を有する電力変換装置1において、演算回路61が所定のスイッチング周波数でスイッチング処理を実行した際に、各コンデンサ素子21a~21dに流れる電流の実効値を示すグラフである。グラフ横軸は、一般的にリップル分の主周波数成分となるスイッチング周波数×2を示し、今回は10kHzから30kHzの範囲とした。このような電流値は、例えば、回路例1の平滑回路20を有する電力変換装置1を模擬した回路を用いてシミュレーションを実行することで、算出され得る。図7Bに示されている電圧値も同様である。また、後述する、他の実施例についても、回路例2または回路例3の平滑回路20を有する電力変換装置1を模擬した回路を用いてシミュレーションを実行することで、電流値および電圧値は、同様に算出され得る。図7Aから分かるように、回路例1の平滑回路20を有する電力変換装置1において、各コンデンサ素子21a~21dに流れる電流の実効値は、同一である。また、リップル周波数が変化しても、各コンデンサ素子21a~21dに流れる電流の実効値は、大きく変化しない。
【0049】
図7Bは、回路例1の平滑回路20を有する電力変換装置1において、演算回路61が上記所定のスイッチング周波数でスイッチング処理を実行した際に、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値を示すグラフである。すなわち、図7Bは、10kHz~30kHzの範囲のリップル周波数において各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値を示すグラフである。図7Bから分かるように、回路例1の平滑回路20を有する電力変換装置1において、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値は、同一である。10kHzから30kHzの周波数範囲において、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値は、10kHzの場合が最も大きく、リップル周波数が高くなるにつれて減少する傾向にあることが分かる。
【0050】
図7Cは、図7Bに示されている、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値のうちの最大値と、最小値との差を示すグラフである。図7Cから明らかなように、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値のうちの最大値と最小値との差は、いずれの周波数においても、ゼロである。そのため、回路例1の平滑回路20を有する電力変換装置1において、上記所定のスイッチング周波数でスイッチング処理を実行した際、各コンデンサ素子21a~21dの経路間で電流の不均衡は生じていないことが分かる。例えば所定の閾値Vthが0.3Vである場合、演算回路61は、上記のように差分がゼロであるため、判定処理によって、電流の不均衡は生じていないと判定する。
【0051】
(第2の実施例)
演算回路61による電流の不均衡の判定処理の第2の実施例を説明する。図8Aは、回路例2の平滑回路20を有する電力変換装置1において、演算回路61が上記所定のスイッチング周波数でスイッチング処理を実行した際に、各コンデンサ素子21a~21dを有する経路に流れる電流の実効値を示すグラフである。グラフ横軸は、一般的にリップル分の主周波数成分となるスイッチング周波数×2を示し、今回は10kHzから30kHzの範囲とした。図8Aにおいて、コンデンサ素子21aに流れる電流は、実線で示されている。図8Aにおいて、コンデンサ素子21bに流れる電流は、破線で示されている。図8Aにおいて、コンデンサ素子21cに流れる電流は、1点鎖線で示されている。図8Aにおいて、コンデンサ素子21dに流れる電流は、2点鎖線で示されている。各経路に対応する線種は、後述する図8Bに示す電圧のグラフにおいても同様である。
【0052】
図8Aから分かるように、回路例2の平滑回路20を有する電力変換装置1において、各コンデンサ素子21a~21dに流れる電流の実効値は、異なる。また、各コンデンサ素子21a~21dに流れる電流の実効値は、リップル周波数によっても異なる。例えば、14kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、電流の実効値は、コンデンサ素子21a(約50A)及びコンデンサ素子21b(約45A)において大きい。20kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、電流の実効値は、コンデンサ素子21b(約57A)において大きい。このように、リップル周波数によって、大きな電流が流れるコンデンサ素子、及び当該電流の実効値は、変化する。
【0053】
図8Bは、回路例2の平滑回路20を有する電力変換装置1において、演算回路61が上記所定のスイッチング周波数でスイッチング処理を実行した際に、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値を示すグラフである。すなわち、図8Bは、10kHz~30kHzの範囲のリップル周波数において各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値を示すグラフである。
【0054】
図8Bから分かるように、回路例2の平滑回路20を有する電力変換装置1において、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値は、異なる。また、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値は、リップル周波数によっても異なる。電圧値の大きさは、図8A図8Bとから分かるように、図8Aにおいて電流値が大きい場合、基本的に図8Bにおいても電圧値は大きい。例えば、14kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、コンデンサ素子21a、21bに印加される電圧の交流成分の実効値が大きい(それぞれ、約2.4V、約2.1V)。また、20kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、コンデンサ素子21bに印加される電圧の交流成分の実効値が大きい(約3.3V)。また、10kHzから30kHzの周波数範囲において、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値の最小値は、10kHzの場合が最も大きく、リップル周波数が高くなるにつれて減少する傾向にあることが分かる。
【0055】
図8Cは、図8Bに示されている、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値のうちの最大値と、最小値との差を示すグラフである。図8Cから明らかなように、当該差は、20kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行するとき、最も大きくなる(約1.8V)。回路例2の平滑回路20は、上記するように、20kHzでLC共振が発生するような、各コンデンサ素子21a~21dの経路のパラメータを有する。したがって、当該差が大きいリップル周波数は、LC共振が発生するリップル周波数と対応していることが分かる。
【0056】
また、図8Cから分かるように、当該差は、14kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行するとき、大きくなる。したがって、14kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、平滑回路20の各経路において、電流の不均衡が発生することが分かる。
【0057】
電力変換装置1を模擬した回路のシミュレーションにおいて、各コンデンサ素子21a~21dに関する電流波形及び電圧波形は、高調波を含む波形である。したがって、実効値は、各高調波成分を合成した値となる。14kHzのリップル周波数によって生じるLC共振は、スイッチング周波数の高調波成分が20kHz付近で共振していることを示す。ここで、当該スイッチング周波数は、リップル周波数の半分、すなわち、約7kHzである。したがって、本実施の形態に係る電力変換装置1によれば、適切な閾値Vthを設定することで、スイッチング周波数の高調波成分によって生じるLC共振を検出することができる。
【0058】
例えば所定の閾値Vthが約0.4Vの場合、演算回路61がスイッチング処理を実行し、リップル周波数が12kHz、14kHz、18kHz、20kHz又は22kHzのいずれかであるとき、上記差は、所定の閾値Vthを超える。したがって、演算回路61は、上記のリップル周波数を含むようなスイッチング周波数でスイッチング処理を実行したとき、判定処理によって、平滑回路20の各経路において電流の不均衡が発生していると判定することができる。
【0059】
(第3の実施例)
演算回路61による電流の不均衡の判定処理の第3の実施例を説明する。図9Aは、回路例3の平滑回路20を有する電力変換装置1において、演算回路61が上記所定のスイッチング周波数でスイッチング処理を実行した際に、各コンデンサ素子21a~21dを有する経路に流れる電流の実効値を示すグラフである。グラフ横軸は、一般的にリップル分の主周波数成分となるスイッチング周波数×2を示し、今回は10kHzから30kHzの範囲とした。図9Aにおいて、コンデンサ素子21a及びコンデンサ素子21bに流れる電流は、実線で示されている。図9Aにおいて、コンデンサ素子21c及びコンデンサ素子21dに流れる電流は、1点鎖線で示されている。
【0060】
図9Aから分かるように、回路例3の平滑回路20を有する電力変換装置1において、コンデンサ素子21a、21bと、コンデンサ素子21c、21dと、に流れる電流の実効値は、異なる。また、各コンデンサ素子21a~21dに流れる電流の実効値は、リップル周波数によっても異なる。例えば、14kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、電流の実効値は、コンデンサ素子21a及びコンデンサ素子21bにおいて大きい。20kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、電流の実効値は、各コンデンサ素子21a~21dのそれぞれにおいて大きい。より詳細には、コンデンサ素子21a、21bに流れる電流の実効値(約75A)は、コンデンサ素子21c、21dに流れる電流の実効値(約62A)より大きい。このように、リップル周波数によって、大きな電流が流れるコンデンサ素子、及び当該電流の実効値は、変化する。
【0061】
図9Bは、回路例3の平滑回路20を有する電力変換装置1において、演算回路61が上記所定のスイッチング周波数でスイッチング処理を実行した際に、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値を示すグラフである。すなわち、図9Bは、10kHz~30kHzの範囲のリップル周波数において各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値を示すグラフである。
【0062】
図9Bから分かるように、回路例3の平滑回路20を有する電力変換装置1において、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値は、異なる。また、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値は、リップル周波数によっても異なる。電圧値の大きさは、図9A図9Bとから分かるように、図9Aにおいて電流値が大きい場合、基本的に図9Bにおいても電圧値は大きい。例えば、20kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、コンデンサ素子21a、21bに印加される電圧の交流成分の実効値(約4.3V)が大きい。さらに、コンデンサ素子21c、21dに印加される電圧の交流成分の実効値(約3.5V)が大きい。また、10kHzから30kHzの周波数範囲において、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値の最小値は、10kHzの場合が最も大きく、周波数が高くなるにつれて減少する傾向にあることが分かる。
【0063】
図9Cは、図9Bに示されている、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値のうちの最大値と、最小値との差を示すグラフである。図9Cから明らかなように、当該差は、20kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行するとき、最も大きくなる(約0.8V)。回路例3の平滑回路20は、上記するように、20kHzでLC共振が発生するような、各コンデンサ素子21a~21dの経路のパラメータを有する。したがって、当該差が大きいリップル周波数は、LC共振が発生するリップル周波数と対応していることが分かる。
【0064】
例えば所定の閾値Vthが約0.2Vの場合、演算回路61がスイッチング処理を実行し、リップル周波数が12kHz、18kHz、20kHz又は22kHzのいずれかであるとき、上記差は、所定の閾値Vthを超える。したがって、演算回路61は、上記のリップル周波数を含むようなスイッチング周波数でスイッチング処理を実行したとき、判定処理によって、平滑回路20の各経路において電流の不均衡が発生していると判定することができる。
【0065】
(第4の実施例)
演算回路61による電流の不均衡の判定処理の第4の実施例を説明する。第4の実施例では、演算回路61は、回路例2の平滑回路20を有する電力変換装置1において、判定処理を実行する。第4の実施例は、第2の実施例に対して、コンデンサ素子21a~21dそれぞれの両端電圧の交流成分の実効値のうちの最大値に基づく評価値の算出方法が、異なる。
【0066】
第2の実施例において、演算回路61は、当該各実効値のうち最大値と最小値との差を評価値として用いて、電流の不均衡が発生しているかどうかを判定する。これに対して、第4の実施例において、演算回路61は、各実効値のうちの最大値と、推定実効値との差を評価値として用いる。第4の実施例では、演算回路61は、平滑回路20に複数のコンデンサ素子21a~21dをそれぞれ含む複数の経路の直流電源に対するインピーダンス値のそれぞれが、当該インピーダンス値のうちの最小値と同一であると仮定して、推定実効値を算出する。当該算出方法は、後述する、回路例3の平滑回路20に対する第5の実施例においても同様である。
【0067】
上記した回路例2及び回路例3の平滑回路20において、最小のインピーダンス値を有する経路は、コンデンサ素子21aを含む経路である。したがって、演算回路61は、回路例2又は回路例3の平滑回路20において、推定実効値を算出する場合、平滑回路20が回路例1のパラメータを有すると仮定して、推定実効値を算出できる。つまり、第4の実施例において、推定実効値は、図7Bに示す電圧の交流成分の実効値と同等である。
【0068】
図10Aは、図8Bに示されている、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値のうちの最大値と、上記した推定実効値との差を示すグラフである。図10Aから明らかなように、当該差は、20kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行するときに、最も大きくなる(約1.9V)。上記するように、回路例2の平滑回路20は、20kHzのリップル周波数でLC共振が発生するような、各コンデンサ素子21a~21dの経路のパラメータを有する。したがって、当該差が大きいリップル周波数は、LC共振が発生するリップル周波数と対応していることが分かる。
【0069】
また、図10Aから分かるように、当該差は、14kHzにリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行するとき、大きくなる。したがって、14kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、平滑回路20の各経路において、電流の不均衡が発生することが分かる。例えば所定の閾値Vthが約0.4Vの場合、演算回路61がスイッチング処理を実行し、リップル周波数が12kHz、14kHz、18kHz、20kHz又は22kHzのいずれかであるとき、上記差は、所定の閾値Vthを超える。したがって、演算回路61は、上記のリップル周波数を含むようなスイッチング周波数でスイッチング処理を実行したとき、判定処理によって、平滑回路20の各経路において電流の不均衡が発生していると判定することができる。
【0070】
(第5の実施例)
演算回路61による電流の不均衡の判定処理の第5の実施例を説明する。第5の実施例では、演算回路61は、回路例3の平滑回路20を有する電力変換装置1において、判定処理を実行する。第5の実施例は、第3の実施例に対して、コンデンサ素子21a~21dそれぞれの両端電圧の交流成分の実効値のうちの最大値に基づく評価値の算出方法が、異なる。第5の実施例では、第4の実施例と同様、演算回路61は、各実効値のうちの最大値と、推定実効値との差を評価値として用いる。上記したように、第5の実施例において、推定実効値は、図7Bに示す電圧の交流成分の実効値と同等である。
【0071】
図10Bは、図9Bに示されている、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値のうちの最大値と、上記した推定実効値との差を示すグラフである。図10Bから明らかなように、当該差は、20kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行するときに、最も大きくなる(約2.9V)。上記するように、回路例2の平滑回路20は、20kHzのリップル周波数でLC共振が発生するような、各コンデンサ素子21a~21dの経路のパラメータを有する。したがって、当該差が大きいリップル周波数は、LC共振が発生するリップル周波数と対応していることが分かる。
【0072】
第3の実施例に対応する図9Cと、第5の実施例に対応する図10Bとを参照すると、20kHzのリップル周波数において、電圧の差は、大きく異なる。第3の実施例において、20kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、コンデンサ素子21a、21bの経路に流れる電流は、他のリップル周波数の場合と比べて大きい。同様に、コンデンサ素子21c、21dの経路に流れる電流は、他のリップル周波数の場合と比べて大きい。したがって、第3の実施例において、実効値の最大値及び最小値はともに大きくなるため、最大値と最小値との差は小さくなる。このように、LC共振が発生し得るスイッチング周波数での電力変換装置1の動作時、特定の経路に大きな電流が流れているにもかかわらず、評価値(すなわち、最大値と最小値との差)は、小さな値が算出され得る。第5の実施例において、20kHzのリップル周波数を含むような周波数で演算回路61がスイッチング処理を実行する場合、コンデンサ素子21a、21bの経路に流れる電流は、他のリップル周波数の場合と比べて大きい。同様に、コンデンサ素子21c、21dの経路に流れる電流は、他のリップル周波数の場合と比べて大きい。そのため、第5の実施例に係る算出方法によれば、評価値は、実効値の最大値と、推定実効値との差であるため、第3の実施例に係る算出方法によって得られる評価値より大きくなり得る。
【0073】
このように、第1~第3の実施例に係る算出方法によって評価値を算出する場合、複数の電圧の交流成分の実効値のうちの最大値と最小値のそれぞれの値が、LC共振により同じ傾向で変化すると、評価値は、実効値の変化量を反映することができない。したがって、評価値の値が小さくなるため、適切な閾値Vthを設定しなければ、演算回路61は、判定処理によって電流の不均衡が発生したと判定することができない可能性がある。また、モータ50の出力の増減によって、各コンデンサ素子21a~21dでの電圧の交流成分の実効値は増減する。モータ50の出力が小さくなると、各コンデンサ素子21a~21dでの電圧の交流成分の実効値は、全体的に小さくなる。各実効値が小さくなると、当該実効値のうちの最大値と最小値との差が小さくなり、演算回路61は、当該出力に応じて閾値Vthを補正又は別途設定しなければならない可能性がある。
【0074】
それに対して、第4~第5の実施例に係る算出方法によって評価値を算出する場合、評価値の算出に用いられる推定実効値は、LC共振の影響を受けないため、LC共振による最大値の変化と同じ傾向で変化しない。また、上記するように、モータ50の出力が小さくなると、各コンデンサ素子21a~21dでの電圧の交流成分の実効値は、全体的に小さくなる。したがって、実効値のうちの最大値から推定実効値を減算することで、モータの出力の変化による電圧の全体的な変化は、相殺され得る。そのため、演算回路61は、第4~第5の実施例に係る算出方法を用いる場合、上記したような、モータ50の出力に応じた閾値Vthの補正又は設定をする必要性が低減される。したがって、演算回路61は、より容易に、電流の不均衡が発生したかどうかを判定することができる。
【0075】
例えば第5の実施例において所定の閾値Vthが約0.4Vの場合、演算回路61がスイッチング処理を実行し、リップル周波数が20kHzであるとき、上記最大値と推定実効値との差は、所定の閾値を超える。したがって、演算回路61は、上記のリップル周波数を含むようなスイッチング周波数でスイッチング処理を実行したとき、判定処理によって、平滑回路20の各経路において電流の不均衡が発生していると判定することができる。
【0076】
電力変換装置1の制御装置60の演算回路61は、電流の不均衡が発生したと判定すると、LC共振が発生していると判定できる。したがって、演算回路61は、LC共振を抑制するように電力変換装置1の動作を調整することができる。上記するように、LC共振は、所定のリップル周波数の交流成分を有する電流が平滑回路20に流れることで、発生し得る。したがって、例えば、演算回路61は、スイッチング処理のスイッチング周波数を変更することで、リップル周波数を変更し、LC共振を抑制することができる。また、LC共振によって、コンデンサ素子21に流れる電流量が増大することで、コンデンサ素子21の異常が発生し得る。したがって、演算回路61は、コンデンサ素子21に流れる電流量を低減するために、変換回路40からモータ50への出力電圧を低減させるようにスイッチング処理を制御してもよい。演算回路61は、このように電力変換装置1の動作を変更することで、平滑回路20の複数のコンデンサ素子21に発生した電流の不均衡を解消または軽減させることができる。したがって、本開示に係る電力変換装置1は、モータ50の動作を停止させることなく、コンデンサの過熱を抑制することができる。
【0077】
上記のような構成を有することで、電力変換装置1は、コンデンサ素子21の両端電圧を計測することで、演算回路61によって電流の不均衡が発生したかどうかを判定することができる。したがって、電力変換装置1は、コンデンサ素子の両端電圧から振動成分を抽出するフィルタ手段又は周波数分析手段を備える必要がない。仮にフィルタ手段を備える場合、リップル周波数に対応する振動成分を抽出するために、想定した周波数に対応した数量のフィルタ手段を設ける必要がある。また、フィルタ手段によって振動成分を抽出する場合、事前に想定されていない周波数に基づく振動成分によりLC共振が発生すると、当該LC共振の発生を検出できない。しかし、本開示に係る電力変換装置1によれば、フィルタ手段を設ける必要がないため、構成を容易にすることができる。また、事前に想定されていない周波数によってLC共振が発生したとしても、当該LC共振の発生を検出することができる。
【0078】
各コンデンサ素子21に流れる電流の大きさを計測するために、装置内に電流センサを設ける方法が想定される。しかし、後述するようなコンデンサ装置25を平滑回路20に適用する場合、コンデンサ装置25内部に電流センサを設けることは、構造、性能又はコストの観点で、適切ではない。本開示に係る電力変換装置1は、各コンデンサ素子21の両端電圧を計測することで、各コンデンサ素子21に流れる電流の大きさを計測する。したがって、装置内部に電流を計測するための電流センサを設ける必要がなく、容易に各コンデンサ素子21に流れる電流の大きさを測定することができる。
【0079】
本開示に係る電力変換装置1は、モータ50の作動中であっても、電流の不均衡を検出し、LC共振の発生を検出することができる。例えば、演算回路61は、コンデンサ素子21の温度を監視することによって、LC共振の発生を検出することができる。しかし、コンデンサ素子21の温度の上昇の検出は、過電流が流れてから一定期間の経過が必要であり、LC共振の発生からLC共振の発生の検出までに遅延が生じる。また、LC共振による電流量の増加以外によっても温度上昇は発生し得るため、異常モードの判定が困難となり得る。本開示に係る電力変換装置1によれば、演算回路61は、各コンデンサ素子21に流れる電流の大きさに基づいて、電流の不均衡が発生したかどうかを判定するため、遅延なく検出できる。
【0080】
図11Aは、別の実施の形態に係る電力変換装置1の平滑回路20に用いられ得るコンデンサ装置25Aの一例の斜視図である。図11Bは、図11Aのコンデンサ装置25Aを底面から見た斜視図である。コンデンサ装置25Aは、図11Aに示すように、6つのコンデンサ26と、当該コンデンサ26を並列に接続して設置するための筐体27を有する。筐体27は、コンデンサ26を配置することができる部材、例えば板状部材、であってもよい。コンデンサ装置25Aは、このように、筐体27に複数のコンデンサを有する、いわゆるコンデンサバンクであってもよい。6つのコンデンサ26のそれぞれには、コンデンサ素子21が格納されている。コンデンサ26のそれぞれは、複数のコンデンサ素子21が格納されてもよい。
【0081】
図11Bに示すように、コンデンサ装置25Aは、各コンデンサ26の両端電圧を計測できる端子28A、28Bを有する。当該端子28A、28Bは、コンデンサ装置25Aの外部から利用できるように設けられる。コンデンサ装置25Aは、図示しない端子を例えば第1端22aと第2端22bとに接続することで、電力変換装置1において平滑回路20として機能する。コンデンサ装置25Aを第1端22a、第2端22bに接続すると、6つのコンデンサ26は、第1端22aと第2端22bとの間に、電気的に並列に接続されるように構成される。
【0082】
図12Aは、さらに別の実施の形態に係る電力変換装置1の平滑回路20を含むコンデンサ装置25Bの一例の斜視図である。図12Bは、図12Aのコンデンサ装置25Bの筐体27の一部を除いた斜視図である。コンデンサ装置25Bは、図12A図12Bに示すように、5つのコンデンサ素子21と、当該コンデンサ素子21を並列に接続して設置するための筐体27を有する。コンデンサ装置25Bは、このように、筐体27内に複数のコンデンサ素子を有する、いわゆるコンデンサモジュールであってもよい。コンデンサ装置25Bは、各コンデンサ素子21の両端電圧を計測できる端子28A、28Bを有する。当該端子28A、28Bは、コンデンサ装置25Bの外部から利用できるように設けられる。コンデンサ装置25Bは、図示しない端子を例えば第1端22aと第2端22bとに接続することで、電力変換装置1において平滑回路20として機能する。コンデンサ装置25Bを第1端22a、第2端22bに接続すると、5つのコンデンサ素子21は、第1端22aと第2端22bとの間に、電気的に並列に接続されるように構成される。
【0083】
このように構成することで、コンデンサ装置25A、25Bは、電力変換装置1の平滑回路20として適用され得る。
【0084】
上記の例では、演算回路61は、第1~第3の実施例に係る算出方法、又は第4~第5の実施例に係る算出方法により、判定処理を実行しているがこれに限定されない。例えば、演算回路61は、評価値を、最大値と、各コンデンサ素子21a~21dに印加される電圧の交流成分の実効値の平均値との差として算出してもよい。また、演算回路61は、各コンデンサ素子21a~21dの電圧の交流成分の実効値に基づいて偏差を取得して、判定処理に用いてもよい。
【0085】
上記の例では、複数のコンデンサ素子21a~21dの経路に関するインピーダンスの違いは、インダクタンスの違いによって発生しているがこれに限定されない。例えば、コンデンサの容量の違いによって、インピーダンスの違いが発生してもよい。
【0086】
上記の例では、平滑回路20は、複数のコンデンサ素子21a~21dが、1つずつ並列に接続されて構成されているがこれに限定されない。例えば、平滑回路20は、並列に形成される経路の少なくとも一部において、複数のコンデンサ素子21が直列に接続されていてもよい。また、並列に接続される部材はコンデンサ素子21に限定されず、少なくとも1つのコンデンサ素子21を有するコンデンサ26が並列に接続されてもよい。
【0087】
(実施の形態のまとめ)
以上のように説明した本実施の形態に係る励振回路、振動装置および車両は、以下のように構成してもよい。
【0088】
(態様1)電力変換装置(1)は、直流電源(10)に接続される複数のスイッチング素子(42、43)を有し、所定のスイッチング周波数で複数のスイッチング素子(42、43)をスイッチングするスイッチング処理を実行することによって直流電源(10)から供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換して負荷(50)に出力する変換回路(40)と、直流電源(10)に対して並列に接続される複数のコンデンサ素子(21)を有し、変換回路(40)での変換によって発生する脈動分を複数のコンデンサ素子(21)により平滑化する平滑回路(20)と、複数のコンデンサ素子(21)それぞれの両端電圧を測定する電圧計測装置(30)と、複数のコンデンサ素子(21)に流れる電流の不均衡が発生したかどうかを判定する判定処理を実行する演算回路(61)と、を備え、判定処理は、スイッチング処理の実行時に電圧計測装置(30)により測定された複数のコンデンサ素子(21)それぞれの両端電圧に基づいて複数のコンデンサ素子(21)それぞれの両端電圧の交流成分の実効値を取得し、実効値のうちの最大値に基づく評価値が所定の閾値を超えると複数のコンデンサ素子(21)に流れる電流の不均衡が発生したと判定する。
【0089】
(態様2)態様1の電力変換装置(1)において、評価値は、最大値と実効値のうちの最小値との差であってもよい。
【0090】
(態様3)態様1の電力変換装置(1)において、評価値は、最大値と基準値との差であり、基準値は、平滑回路(20)に並列共振が生じない条件下での複数のコンデンサ素子(21)それぞれの両端電圧の交流成分の推定実効値であってもよい。
【0091】
(態様4)態様3の電力変換装置(1)において、推定実効値は、平滑回路(20)における複数のコンデンサ素子(21)をそれぞれ含む複数の経路の直流電源(10)に対するインピーダンス値の各々が、インピーダンス値のうちの最小値と同一であると仮定して算出されてもよい。
【0092】
(態様5)態様1から態様4のいずれか1つの電力変換装置(1)において、演算回路(61)は、判定処理により不均衡が発生していると判定すると、不均衡が軽減されるように所定のスイッチング周波数を変更してもよい。
【0093】
(態様6)態様1から態様4のいずれか1つの電力変換装置(1)において、演算回路(61)は、判定処理により不均衡が発生していると判定すると、不均衡が軽減されるように変換回路(40)から負荷(50)への出力電圧を低減させてもよい。
【0094】
(態様7)コンデンサ装置(25)は、直流電源(10)に接続される複数のスイッチング素子(42、43)を有し、所定のスイッチング周波数で複数のスイッチング素子(42、43)をスイッチングするスイッチング処理を実行することによって直流電源(10)から供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換して負荷(50)に出力する変換回路(40)と、直流電源(10)に対して並列に接続される複数のコンデンサ素子(21)を有し、変換回路(40)での変換によって発生する脈動分を複数のコンデンサ素子(21)により平滑化する平滑回路(20)と、を備える電力変換装置(1)で使用されるコンデンサ装置(25)であって、コンデンサ装置(25)は、複数のコンデンサ素子(21)と、複数のコンデンサ素子(21)を搭載する筐体(27)と、を有し、複数のコンデンサ素子(21)のそれぞれは、複数のコンデンサ素子(21)の両端電圧を検出可能、かつ、コンデンサ装置(25)の外部から利用可能な端子(28A、28B)を有する。
【0095】
(態様8)制御方法は、直流電源(10)に接続される複数のスイッチング素子(42、43)を有し、所定のスイッチング周波数で複数のスイッチング素子(42、43)をスイッチングするスイッチング処理を実行することによって直流電源(10)から供給される直流電圧を所定の出力電圧に変換して負荷(50)に出力する変換回路(40)と、直流電源(10)に対して並列に接続される複数のコンデンサ素子(21)を有し、変換回路(40)での変換によって発生する脈動分を複数のコンデンサ素子(21)により平滑化する平滑回路(20)と、複数のコンデンサ素子(21)それぞれの両端電圧を測定する電圧計測装置(30)と、を有する電力変換装置(1)において、複数のコンデンサ素子(21)に流れる電流の不均衡を判定する制御方法であって、スイッチング処理の実行時に電圧計測装置(30)により測定された複数のコンデンサ素子(21)それぞれの両端電圧に基づいて複数のコンデンサ素子(21)それぞれの両端電圧の交流成分の実効値を取得し、実効値のうちの最大値に基づく評価値が所定の閾値を超えると複数のコンデンサ素子(21)に流れる電流の不均衡が発生したと判定する。
【0096】
(態様9)コンピュータプログラムは、態様8の制御方法をコンピュータに実行させることができる。
【0097】
本開示に記載の電力変換装置、コンデンサ装置、制御方法およびコンピュータプログラムは、ハードウェア資源、例えば、プロセッサ、メモリ、と、ソフトウェア資源(コンピュータプログラム)との協働などによって実現される。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本開示によれば、直流電源に対して並列に接続されたコンデンサ素子間でのLC共振の発生を検出することができる電力変換装置、コンデンサ装置、制御方法およびコンピュータプログラムを提供できるため、この種の産業分野において好適に利用できる。
【符号の説明】
【0099】
1 電力変換装置
10 直流電源
20 平滑回路
21、21a、21b、21c、21d コンデンサ素子
25A、25B コンデンサ装置
27 筐体
28A、28B 端子
30 電圧計測装置
40 変換回路
50 モータ
60 制御装置
61 演算回路
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B