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特許7750321リチウムイオン二次電池用の正極合材、リチウムイオン二次電池用の正極合材の製造方法、リチウムイオン二次電池正極及びリチウムイオン二次電池
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用の正極合材、リチウムイオン二次電池用の正極合材の製造方法、リチウムイオン二次電池正極及びリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-29
(45)【発行日】2025-10-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用の正極合材、リチウムイオン二次電池用の正極合材の製造方法、リチウムイオン二次電池正極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20250930BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250930BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250930BHJP
   C01G 53/506 20250101ALI20250930BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 A
C01G53/506
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2024024808
(22)【出願日】2024-02-21
(65)【公開番号】P2024122902
(43)【公開日】2024-09-09
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】202310214441.0
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呂吉先
(72)【発明者】
【氏名】楊思鳴
(72)【発明者】
【氏名】李于利
(72)【発明者】
【氏名】武志 一正
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-104805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587,10/36-10/39
C01G53/00-53/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg元素がドープされた正極基材と、
前記正極基材の表面にドット状に存在するフッ化物であって、MgFを含むフッ化物からなる被覆層と、を含み、
前記正極基材は、一般式がLiNiCo(1-x-y)の高ニッケル正極材料を含み、但し、Mは、AlとMnのうち選択される1種又は2種であり、x≧0.6、0<y<0.4、且つ(1-x-y)≠0である、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用の正極合材。
【請求項2】
前記フッ化物は、さらにLiF、AlF、NHF、MnF、TiF、ZrF、SrF及びMoFのうちの1種又は多種を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材。
【請求項3】
前記Mg元素のドープ濃度は、前記正極基材の重量に対して、0.05wt%乃至4.00wt%の範囲内である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材。
【請求項4】
前記Mg元素のドープ濃度は、前記正極基材の重量に対して、0.30wt%乃至1.00wt%の範囲内である、
ことを特徴とする請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材。
【請求項5】
前記正極合材におけるフッ素元素の量は、0.03wt%乃至0.60wt%の範囲内である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材。
【請求項6】
前記正極合材におけるフッ素元素の量は、0.06wt%乃至0.30wt%の範囲内である、
ことを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材。
【請求項7】
前記Mg元素は前記正極基材の粒子内で勾配分布を呈し、前記Mg元素の濃度は前記粒子の内部から前記粒子の外部に向かって徐々に低下し、
前記粒子の外部のMg元素は、フッ化物の形態で存在する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材。
【請求項8】
正極材料前駆体、水酸化リチウム及び酸化マグネシウムを混合して第1の混合物を獲得し、続いて前記第1の混合物を第1の温度で第1の時間焼結して焼結生成物を得るステップS1と、
フッ化物と前記焼結生成物を混合して第2の混合物を獲得し、続いて前記第2の混合物を第2の温度で第2の時間か焼し、これによって、前記ステップS1で得られた前記焼結生成物の表面に、ドット状に存在するフッ化物であって、MgFを含むフッ化物からなる被覆層を形成するステップS2と、を含み、
前記正極材料前駆体は、一般式がNiCoMn(1-x-y)(OH)又はNiCoAl(1-x-y)(OH)(3-x-y)の材料を含み、但し、0.8≦x<1、0.01≦y<0.2、且つ(1-x-y)≠0である、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項9】
前記ステップS1において、前記第1の温度は、650℃乃至780℃の範囲内であり、前記第1の時間は、6h乃至24hの範囲内である、
ことを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項10】
前記ステップS2において、前記第2の温度は、200℃乃至350℃の範囲内であり、前記第2の時間は、2h乃至8hの範囲内である、
ことを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項11】
前記フッ化物は、MgF、LiF、AlF、NHF、MnF、TiF、ZrF、SrF及びMoFのうちの1種又は多種を含む、
ことを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項12】
前記酸化マグネシウムの量は、前記正極材料前駆体の重量に対して、0.10wt%乃至5.00wt%の範囲内である、
ことを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項13】
前記酸化マグネシウムの量は、前記正極材料前駆体の重量に対して、0.50wt%乃至1.50wt%の範囲内である、
ことを特徴とする請求項12に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項14】
前記フッ化物の量は、前記正極材料前駆体の重量に対して、0.05wt%乃至1.00wt%の範囲内である、
ことを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項15】
前記フッ化物の量は、前記正極材料前駆体の重量に対して、0.10wt%乃至0.50wt%の範囲内である、
ことを特徴とする請求項14に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項16】
前記焼結又は前記か焼を空気雰囲気又は酸素雰囲気中で行う、
ことを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項17】
前記ステップS2において、前記フッ化物と前記焼結生成物との混合をボールミルで10min-60min行い、前記ボールミルの回転数は、250r/min-300r/minの範囲内である、
ことを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項18】
前記ステップS2で得られたか焼生成物を破砕して破砕生成物を獲得し、続いて前記破砕生成物を150~350メッシュの篩を用いて篩分するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を製造するための方法。
【請求項19】
請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を含む、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極。
【請求項20】
正極と、
負極と、
セパレータと、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用の正極合材を含む、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の分野に関し、具体的には、正極合材、当該正極合材を製造するための方法、及び当該正極合材を含む正極とリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年以来、電子技術が絶え間なく発展することに伴い、電子機器のエネルギー供給をサポートするための電池装置に対する人々の需要も絶え間なく増加している。今日、より多くの電気量を蓄え且つ高電力を出力することができる電池が求められている。従来の鉛蓄電池及びニッケル水素電池などは、既に、スマートフォンなどのモバイル機器や蓄電システムなどの固定機器の新たな電子製品の需要に応えることができない。このため、リチウムイオン電池が人々に広く注目されている。リチウムイオン電池に対する開発過程において、既にその容量と性能を効果的に向上させた。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極材料を含有する正極、負極、及び電解液を含む。正極材料の配置は、リチウムイオン二次電池の性能に大きな影響を与える。正極材料の配置については、種々の検討がなされている。従来技術では、正極前駆体を処理して基体の表面にCo、B、Al及びAl(OH)のうちの1種又は多種の物質を被覆することが開示されるが、このような方法は、材料の初期電気化学反応抵抗を増加させ、また被覆に必要な温度が高くてより高いエネルギー消費をもたらす。従来技術では、さらにLiNi0.8Co0.1Mn0.1に対して化学組成がMのピロリン酸塩を被覆し、但しMは、Ti、Na、K、Cu、Mg、Al、Zn及びCaのうちの1種又は多種の組み合わせであることが開示されるが、このような方法により得られた被覆物の電子伝導とイオン伝導性能が悪く、正極材料の抵抗増加を引き起こし、それによりレート性能を低下させる。
【0004】
従来技術における正極材料は、リチウムイオン二次電池のサイクルと抵抗増大を効果的に改善することができない。このため、新たな正極合材、当該正極合材を製造するための方法、及び当該正極合材を含む正極とリチウムイオン二次電池を開発することが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、従来技術における、正極材料がリチウムイオン二次電池のサイクルと抵抗増大を効果的に改善しにくいという問題を解決するために、正極合材、当該正極合材を製造するための方法、及び当該正極合材を含む正極とリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の1つの態様によれば、正極合材が提供され、当該正極合材は、Mg元素がドープされた正極基材と、正極基材の表面にドット状に存在するフッ化物であって、MgFを含むフッ化物と、を含む。
【0007】
さらに、上記正極合材において、フッ化物は、さらにLiF、AlF、NHF、MnF、TiF、ZrF、SrF及びMoFのうちの1種又は多種を含む。
【0008】
さらに、上記正極合材において、Mg元素のドープ濃度は、正極基材の重量に対して、0.05wt%乃至4.00wt%の範囲内であり、好ましくは0.30wt%乃至1.00wt%の範囲内である。
【0009】
さらに、上記正極合材において、正極合材におけるフッ素元素の量は、0.03wt%乃至0.60wt%の範囲内であり、好ましくは0.06wt%乃至0.30wt%の範囲内である。
【0010】
さらに、上記正極合材において、正極基材は、一般式がLiNiCo(1-x-y)の高ニッケル正極材料を含み、但し、Mは、AlとMnのうちから選択される1種又は2種であり、x≧0.6、0<y<0.4である。
さらに、上記正極合材において、Mg元素は正極基材の粒子内で勾配分布を呈し、またMg元素の濃度は粒子の内部から粒子の外部に向かって徐々に低下する。
【0011】
本発明の別の態様によれば、正極合材を製造するための方法が提供され、当該方法は、正極材料前駆体、水酸化リチウム及び酸化マグネシウムを混合して第1の混合物を獲得し、続いて第1の混合物を第1の温度で第1の時間焼結して焼結生成物を得るステップS1と、フッ化物と焼結生成物を混合して第2の混合物を獲得し、続いて第2の混合物を第2の温度で第2の時間か焼するステップS2と、を含む。
【0012】
さらに、上記正極合材を製造するための方法では、ステップS1において、第1の温度は、650℃乃至780℃の範囲内であり、第1の時間は、6h乃至24hの範囲内である。
【0013】
さらに、上記正極合材を製造するための方法では、ステップS2において、第2の温度は、200℃乃至350℃の範囲内であり、第2の時間は、2h乃至8hの範囲内である。
【0014】
さらに、上記正極合材を製造するための方法では、フッ化物は、MgF、LiF、AlF、NHF、MnF、TiF、ZrF、SrF及びMoFのうちの1種又は多種を含む。
【0015】
さらに、上記正極合材を製造するための方法では、酸化マグネシウムの量は、正極材料前駆体の重量に対して、0.10wt%乃至5.00wt%の範囲内であり、好ましくは0.50wt%乃至1.50wt%の範囲内である。
【0016】
さらに、上記正極合材を製造するための方法では、フッ化物の量は、正極材料前駆体の重量に対して、0.05wt%乃至1.00wt%の範囲内であり、好ましくは0.10wt%乃至0.50wt%の範囲内である。
【0017】
さらに、上記正極合材を製造するための方法では、焼結又はか焼を空気雰囲気又は酸素雰囲気中で行う。
【0018】
さらに、上記の正極合材を製造するための方法では、ステップS2において、フッ化物と焼結生成物との混合をボールミルで10min-60min行い、ボールミルの回転数は、250r/min-300r/minの範囲内である。
【0019】
さらに、上記正極合材を製造するための方法では、正極材料前駆体は、一般式がNiCoMn(1-x-y)(OH)又はNiCoAl(1-x-y)(OH)(3-x-y)の材料を含み、但し、0.8≦x<1、0.01≦y<0.2である。
【0020】
さらに、上記正極合材を製造するための方法では、当該方法は、さらにステップS2で得られたか焼生成物を破砕して破砕生成物を獲得し、続いて破砕生成物を好ましく150~350メッシュの篩を用いて篩分するステップを含む。
【0021】
本発明の別の態様によれば、リチウムイオン二次電池正極が提供され、当該リチウムイオン二次電池正極は、前述した正極合材を含む。
【0022】
本発明の別の態様によれば、リチウムイオン二次電池が提供され、当該リチウムイオン二次電池は、正極、負極、及びセパレータを含み、当該正極は、前述した正極合材を含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明の正極合材、当該正極合材を製造するための方法、及び当該正極合材を含む正極とリチウムイオン二次電池により、リチウムイオン二次電池における正極基材が電解液により腐食されることを効果的に阻止することができ、より多くのリチウムイオンチャンネルを保留することができ、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を改善し、リチウムイオン二次電池の抵抗増大を低減させる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ステップS2のか焼工程におけるMgFの形成概略図を示す。
図2】フッ化物が正極基材の表面にドット状に存在する概略図を示す。
図3】実施例1で製造して得られた正極合材の走査型電子顕微鏡の写真を示す。
図4】実施例1で製造して得られた正極合材のXPS解析結果図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
なお、矛盾しない場合、本願における各実施例及び実施例における特徴は、互いに組み合わせることができる。以下、実施例と結び付けて本発明を詳細に説明する。以下の実施例は、例示的なものであり、本発明の保護範囲に対する制限を構成するものではない。
【0026】
背景技術で説明したように、従来技術における正極材料は、リチウムイオン二次電池のサイクルと抵抗増大を効果的に改善することは困難である。従来技術における問題について、本発明の1つの代表的な実施形態は、正極合材を提供し、当該正極合材は、Mg元素がドープされた正極基材、及び正極基材の表面にドット状に存在するフッ化物であって、MgFを含む該フッ化物と、を含む。
【0027】
フッ化物は、高いバンドギャップを有し、リチウムイオン二次電池の電解液において安定した性能を保持することができ、またイオン導電性能が良い。またフッ化物は、正極基材の表面に全被覆の形態ではなくドット状の半被覆の形態で存在し、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗を明らかに変化させることなく、より多くのリチウムイオンチャンネルを保留することができ、リチウムイオン二次電池の充放電過程に正極基材の表面にドット状に存在するフッ化物により正極基材が保護され、リチウムイオン二次電池における正極基材が電解液により腐食されることが防止され、それにより低い抵抗増大と良好なサイクル性能を示す。
【0028】
フッ化マグネシウムMgFが電子導電性絶縁体であるため、フッ化マグネシウムMgFを利用して正極基材に全被覆することは、材料の電子抵抗率が上昇し、またリチウムイオンの挿入と放出を阻害し、リチウムイオン二次電池の高電力放電性能に悪影響を与えることを引き起こす。MgFを含むフッ化物は、ドット状の半被覆の形態で正極基材の表面に存在し、十分に多くの活性接触面積を保留することができ、材料の電子導電率とイオン挿入チャンネルが影響を受けず、性能均衡の効果を達成することができる。
【0029】
本発明の正極合材は、Mg元素がドープされた正極基材、及び正極基材の表面にドット状に存在するMgFを含むフッ化物を含み、リチウムイオン二次電池のサイクル保持率とサイクル後の抵抗を改善し、材料の初期抵抗を明らかに変化させず、リチウムイオン二次電池の容量と効率に影響を与えず、被覆後の残リチウムの含有量の変化が非常に小さい。Mg元素のドープは、結晶構造を安定化し、サイクル性能と熱安定性を向上させることができる。本発明では、上記作用に加えて、MgとFにより表面にMgFを形成し、表面保護の役割を果たす。
【0030】
本発明の正極合材において、正極基材にMg元素がドープされることにより、そして正極基材の表面にドット状に存在するフッ化物により、リチウムイオン二次電池における正極基材が電解液により腐食されることを効果的に阻止することができ、より多くのリチウムイオンチャンネルを保留することができ、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を改善し、リチウムイオン二次電池の抵抗増大を低減させる。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態では、リチウムイオン二次電池における正極基材が電解液により腐食されることをより効果的に阻止し、リチウムイオン二次電池のサイクル性能をより効果的に改善し、また、リチウムイオン二次電池の抵抗増大をより効果的に低減させるために、上記正極合材において、フッ化物は、さらにLiF、AlF、NHF、MnF、TiF、ZrF、SrF及びMoFのうちの1種又は多種を含む。具体的には、フッ化物は、LiF、AlF、NHF、MnF、TiF、ZrF、SrF及びMoFのうちの1種とMgFとの組み合わせを含むことができ、又はフッ化物は、LiF、AlF、NHF、MnF、TiF、ZrF、SrF及びMoFのうちの多種とMgFとの組み合わせを含むことができる。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材において、Mg元素のドープ濃度は、正極基材の重量に対して、0.05wt%乃至4.00wt%の範囲内であり、好ましくは0.30wt%乃至1.00wt%の範囲内である。Mg元素のドープ濃度を上記範囲内に制御することにより、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を顕著に向上させることができ、リチウムイオン二次電池の抵抗増大を顕著に低減させることができ、リチウムイオン二次電池の安定性と安全性を向上させることができる。Mg元素のドープ濃度が小さすぎると、役割が果たされないおそれがあり、Mg元素のドープ濃度が多すぎると、容量の低減を招くおそれがある。
【0033】
具体的には、Mg元素のドープ濃度は、正極基材の重量に対して、0.05wt%乃至4.00wt%、0.10wt%乃至3.80wt%、0.15wt%乃至3.60wt%、0.20wt%乃至3.40wt%、0.25wt%乃至3.20wt%、0.30wt%乃至3.00wt%、0.35wt%乃至2.80wt%、0.40wt%乃至2.60wt%、0.45wt%乃至2.40wt%、0.50wt%乃至2.20wt%、0.55wt%乃至2.00wt%、0.60wt%乃至1.80wt%、0.65wt%乃至1.60wt%、0.70wt%乃至1.40wt%、0.75wt%乃至1.20wt%、0.80wt%乃至1.00wt%、0.40wt%乃至0.90wt%、0.50wt%乃至0.80wt%、又は0.60wt%乃至0.70wt%の範囲内であってもよい。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材において、正極合材におけるフッ素元素の量は、0.03wt%乃至0.60wt%の範囲内であり、好ましくは0.06wt%乃至0.30wt%の範囲内である。フッ素元素の量を上記範囲内に制御することにより、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を顕著に向上させることができ、リチウムイオン二次電池の抵抗増大を顕著に低減させることができ、リチウムイオン二次電池の安定性と安全性を向上させることができる。フッ素元素の添加量が少なすぎると、役割が果たされないおそれがある。フッ素元素の添加量が多すぎると、初期抵抗が大きくなるおそれがある。
【0035】
具体的には、正極合材におけるフッ素元素の量は、0.03wt%乃至0.60wt%、0.08wt%乃至0.55wt%、0.13wt%乃至0.50wt%、0.18wt%乃至0.45wt%、0.23wt%乃至0.40wt%、0.28wt%乃至0.35wt%、0.06wt%乃至0.30wt%、0.11wt%乃至0.25wt%、又は0.16wt%乃至0.20wt%の範囲内であってもよい。
【0036】
本発明における正極基材は、本分野における通常の正極活性材料を用いることができる。好ましくは、本発明のいくつかの実施形態では、正極基材は、リチウム含有化合物であってもよい。このようなリチウム含有化合物の実例としては、例えば、ニッケル酸リチウム(LiNiO)など、リチウム-遷移金属複合酸化物が含まれる。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材において、正極基材は、一般式がLiNiCo(1-x-y)の高ニッケル正極材料を含み、但し、Mは、AlとMnのうちから選択される1種又は2種であり、x≧0.6、0<y<0.4である。好ましくは、上記正極合材において、正極基材は、上記一般式の高ニッケル正極材料である。
【0038】
正極基材が上記一般式の高ニッケル正極材料を含む場合に、高ニッケル正極材料を含む正極基材にMg元素がドープされることにより、そして高ニッケル正極材料を含む正極基材の表面にドット状に存在するフッ化物により、本発明の正極合材は、リチウムイオン二次電池における高ニッケル正極材料を含む正極基材が電解液により腐食されることをより効果的に阻止することができ、より多くのリチウムイオンチャンネルを保留することができ、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能をよりよく改善し、リチウムイオン二次電池の抵抗増大をさらに低減させ、高ニッケル正極材料を含む正極基材の被覆による初期抵抗の増加という難題を解決するとともに、高ニッケル正極材料を含む正極基材をリチウムイオン電池の正極材料とする時にサイクル後の抵抗増大が高すぎるという問題を解決する。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材において、Mg元素は、正極基材の粒子内で勾配分布を呈し、またMg元素の濃度は、粒子の内部から粒子の外部に向かって徐々に低下する。Mg元素は、正極基材の表面に存在することで初期抵抗の増加をもたらし、濃度が勾配分布となることは、少量のMgをMgFの形態で正極基材の表面に存在させることができ、初期抵抗に最大限に影響を与えない。
【0040】
本発明の別の代表的な実施形態では、正極合材を製造するための方法が提供され、当該方法は、正極材料前駆体、水酸化リチウム及び酸化マグネシウムを混合して第1の混合物を獲得し、続いて第1の混合物を第1の温度で第1の時間焼結して焼結生成物を得るステップS1と、フッ化物と焼結生成物を混合して第2の混合物を獲得し、続いて第2の混合物を第2の温度で第2の時間か焼するステップS2と、を含む。
【0041】
本発明の正極合材を製造するための方法は、ステップS1で焼結過程を行って正極基材にMgをドープすることにより、そしてステップS2でか焼過程を行って正極基材の表面にフッ化物を乾式被覆することにより、フッ化物を正極基材にドープされたMgと反応させてMgFを生成し、正極基材の表面にドット状に存在するMgFを含むフッ化物を形成し、従来技術における、正極材料がリチウムイオン二次電池のサイクルと抵抗増大を効果的に改善しにくいという問題を解決する。図1は、ステップS2のか焼工程におけるMgFの形成概略図を示す。図2は、フッ化物が正極基材の表面にドット状に存在する概略図を示す。
【0042】
本発明の肝心な技術的ポイントは、か焼過程にドープされたMgがフッ化物と反応してMgFを生成し、またフッ化物がドット状の半被覆の形態で正極基材の表面に存在し、リチウムイオン二次電池の初期抵抗を明らかに増加することなく、フッ化物、特に金属フッ化物は、極めて高いバンドギャップを有し、リチウムイオン二次電池における電解液と反応しにくく、正極基材を保護することである。
【0043】
また、本発明の正極合材を製造するための方法は、正極基材について、乾式でドット状の半被覆を行い、全体製造過程が簡単であり、被覆の温度が低く、高い経済性を有する。
【0044】
本発明の方法で製造された正極合材において、フッ化物は、高いバンドギャップを有し、リチウムイオン二次電池の電解液において安定的な性能を保持することができ、またイオン導電性能が良い。そして、フッ化物は、正極基材の表面に全被覆の形態ではなくドット状の半被覆の形態で存在し、より多くのリチウムイオンチャンネルを保留することができ、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗を明らかに変化させることなく、リチウムイオン二次電池の充放電過程に正極基材の表面にドット状に存在するフッ化物により正極基材が保護され、リチウムイオン二次電池における正極基材が電解液により腐食されることが防止され、それにより低い抵抗増大と良好なサイクル性能を示す。
【0045】
本発明の方法で製造された正極合材において、正極基材にMg元素がドープされることにより、そして正極基材の表面にドット状に存在するフッ化物により、リチウムイオン二次電池における正極基材が電解液により腐食されることを効果的に阻止することができ、より多くのリチウムイオンチャンネルを保留することができ、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を改善し、リチウムイオン二次電池の抵抗増大を低減させる。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材を製造するための方法において、ステップS1において、第1の温度は、650℃乃至780℃の範囲内であり、第1の時間は、6h乃至24hの範囲内であり、好ましくは、第1の温度は、660℃乃至760℃の範囲内であり、第1の時間は、7h乃至20hの範囲内であり、より好ましくは、第1の温度は、670℃乃至740℃の範囲内であり、第1の時間は、8h乃至16hの範囲内であり、最も好ましくは、第1の温度は、680℃乃至720℃の範囲内であり、第1の時間は、8h乃至12hの範囲内である。ステップS1における第1の温度と第1の時間を上記範囲内に制御することにより、正極基材にMg元素を非常によくドープして良好なMgドープ効果を得ることができ、イオン二次電池のサイクル性能を改善することができ、またリチウムイオン二次電池の抵抗増大を低減させることができる。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材を製造するための方法において、ステップS2において、第2の温度は、200℃乃至350℃の範囲内であり、第2の時間は、2h乃至8hの範囲内であり、好ましくは、第2の温度は、250℃乃至340℃の範囲内であり、第2の時間は、3h乃至7hの範囲内であり、より好ましくは、第2の温度は、270℃乃至320℃の範囲内であり、第2の時間は、4h乃至6hの範囲内であり、さらに好ましくは、第2の温度は、280℃乃至310℃の範囲内であり、第2の時間は、4h乃至5hの範囲内であり、最も好ましくは、第2の温度は、290℃乃至300℃の範囲内であり、第2の時間は、4h乃至5hの範囲内である。ステップS2における第2の温度と第2の時間を上記範囲内に制御することにより、フッ化物を正極基材にドープされたMgと非常によく反応させてMgFを生成させて良好なドット状の半被覆の効果を得ることができ、イオン二次電池のサイクル性能を改善することができ、またリチウムイオン二次電池の抵抗増大を低減させることができる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態では、リチウムイオン二次電池における正極基材が電解液により腐食されることをより効果的に阻止し、リチウムイオン二次電池のサイクル性能をより効果的に改善し、リチウムイオン二次電池の抵抗増大をより効果的に低減させるために、上記正極合材を製造するための方法において、フッ化物は、MgF、LiF、AlF、NHF、MnF、TiF、ZrF、SrF及びMoFのうちの1種又は多種を含む。ステップS2で添加されるフッ化物が、LiF、AlF、NHF、MnF、TiF、ZrF、SrF及びMoFのうちの1種又は多種を含む場合に、ステップS2で、フッ化物が、正極基材にドープされたMgと、置換反応が発生してMgFを生成するため、最終的に得られた正極合材は、正極基材の表面にドット状に存在するLiF、AlF、NHF、MnF、TiF、ZrF、SrF及びMoFのうちの1種又は多種とMgFとの組み合わせを含む。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材を製造するための方法において、酸化マグネシウムの量は、正極材料前駆体の重量に対して、0.10wt%乃至5.00wt%の範囲内であり、好ましくは0.50wt%乃至1.50wt%の範囲内である。ステップS1で添加する酸化マグネシウムの量を上記範囲内に制御することにより、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を顕著に向上させることができ、リチウムイオン二次電池の抵抗増大を顕著に低減させることができ、リチウムイオン二次電池の安定性と安全性を向上させることができる。
【0050】
具体的には、酸化マグネシウムの量は、正極材料前駆体の重量に対して、0.10wt%乃至5.00wt%、0.15wt%乃至4.80wt%、0.20wt%乃至4.60wt%、0.25wt%乃至4.40wt%、0.30wt%乃至4.20wt%、0.35wt%乃至4.00wt%、0.40wt%乃至3.80wt%、0.45wt%乃至3.60wt%、0.50wt%乃至3.40wt%、0.55wt%乃至3.20wt%、0.60wt%乃至3.00wt%、0.65wt%乃至2.80wt%、0.70wt%乃至2.60wt%、0.75wt%乃至2.40wt%、0.80wt%乃至2.20wt%、0.85wt%乃至2.00wt%、0.90wt%乃至1.80wt%、0.95wt%乃至1.60wt%、1.00wt%乃至1.40wt%、1.05wt%乃至1.20wt%、1.10wt%乃至1.30wt%、0.50wt%乃至1.50wt%、0.50wt%乃至1.40wt%、0.50wt%乃至1.30wt%、0.50wt%乃至1.20wt%、0.50wt%乃至1.10wt%、0.50wt%乃至1.00wt%、0.50wt%乃至0.90wt%、0.50wt%乃至0.80wt%、0.50wt%乃至0.70wt%、又は0.50wt%乃至0.60wt%の範囲内であってもよい。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材を製造するための方法において、フッ化物の量は、正極材料前駆体の重量に対して、0.05wt%乃至1.00wt%の範囲内であり、好ましくは0.10wt%乃至0.50wt%の範囲内である。ステップS2で添加するフッ化物の量を上記範囲内に制御することにより、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を顕著に向上させることができ、リチウムイオン二次電池の抵抗増大を顕著に低減させることができ、リチウムイオン二次電池の安定性と安全性を向上させることができる。
【0052】
具体的には、フッ化物の量は、正極材料前駆体の重量に対して、0.05wt%乃至1.00wt%、0.10wt%乃至0.90wt%、0.15wt%乃至0.80wt%、0.20wt%乃至0.70wt%、0.25wt%乃至0.60wt%、0.30wt%乃至0.50wt%、0.35wt%乃至0.40wt%、0.10wt%乃至0.50wt%、0.10wt%乃至0.45wt%、0.15wt%乃至0.40wt%、0.20wt%乃至0.35wt%、又は0.25wt%乃至0.30wt%の範囲内であってもよい。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材を製造するための方法において、焼結又はか焼を空気雰囲気又は酸素雰囲気中で行う。具体的には、第1の混合物を空気雰囲気又は酸素雰囲気中で焼結し、又は第2の混合物を空気雰囲気又は酸素雰囲気中でか焼する。第2の混合物を焙焼炉又は連続窯炉でか焼することができる。正極基材が高ニッケル正極材料を含めば、純酸素雰囲気下で焼結して製造することが最も良く、そうでなければ、結晶構造に欠陥が存在するおそれがある。正極合材の製造時に焼結雰囲気中で酸素が含まれていなければ、正極基材に結晶構造の欠陥が生じることを引き起こしやすくなる。しかしながら、正極合材の製造時の焼結温度が低いため、必ずしも純酸素雰囲気とする必要がないが、酸素雰囲気又は空気雰囲気とする必要がある。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材を製造するための方法において、ステップS2において、フッ化物と焼結生成物との混合は、ボールミル又は高速乾式混合機で行ってもよい。本発明のいくつかの実施形態では、ステップS2において、フッ化物と焼結生成物との混合は、ボールミルで10min~60min行い、ボールミルの回転数は、250r/min~300r/minの範囲内である。ボールミルの内部には粒径の異なるメノウ球が含まれ、材料を十分に混合させることができる。ステップS2における混合時間とボールミルの回転数を上記範囲内に制御することにより、フッ化物と焼結生成物を十分且つ均一に混合することを保証することができる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材を製造するための方法において、当分野における通常の正極材料前駆体を用いることができる。好ましくは、正極材料前駆体は、一般式がNiCoMn(1-x-y)(OH)又はNiCoAl(1-x-y)(OH)(3-x-y)の材料を含み、但し、0.8≦x<1、0.01≦y<0.2である。正極材料前駆体が上記一般式の材料を含む場合に、高ニッケル正極材料を含有する正極基材を含む正極合材を得ることができる。本発明の正極合材は、リチウムイオン二次電池における高ニッケル正極材料を含む正極基材が電解液により腐食されることをより効果的に阻止することができ、より多くのリチウムイオンチャンネルを保留することができ、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能をよりよく改善し、リチウムイオン二次電池の抵抗増大をさらに低減させ、高ニッケル正極材料を含む正極基材の被覆による初期抵抗の増加という難題を解決するとともに、高ニッケル正極材料を含む正極基材をリチウムイオン電池の正極材料とする時にサイクル後の抵抗増大が高すぎるという問題を解決する。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合材を製造するための方法において、当該方法は、ステップS2で得られたか焼生成物を破砕して破砕生成物を獲得し、続いて破砕生成物を好ましく150~350メッシュの篩を用いて篩分するステップをさらに含む。大きい粒子の存在は、後続する正極ペーストの作製、塗布、及び電極シートの作製に影響を与える。篩分により大きい粒子を除去することができる。上記ステップにより、適合な粒度を有する正極合材を得ることができる。
【0057】
本発明の別の代表的な実施形態では、リチウムイオン二次電池正極が提供され、当該リチウムイオン二次電池正極は、前述した正極合材を含む。本発明のリチウムイオン二次電池正極は、前述した正極合材を含むため、リチウムイオン二次電池における正極基材が電解液により腐食されることを効果的に阻止することができ、より多くのリチウムイオンチャンネルを保留することができ、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を改善し、リチウムイオン二次電池の抵抗増大を低減させる。
【0058】
本発明の別の代表的な実施形態では、リチウムイオン二次電池が提供され、当該リチウムイオン二次電池は、正極、負極、及びセパレータを含み、当該正極は、前述した正極合材を含む。本発明のリチウムイオン二次電池は、前述した正極合材を含むため、リチウムイオン二次電池における正極基材が電解液により腐食されることを効果的に阻止することができ、より多くのリチウムイオンチャンネルを保留することができ、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を改善し、リチウムイオン二次電池の抵抗増大を低減させる。
【0059】
本発明の正極は、正極集電体、及び正極合材を含有する正極活性材料層を含む。正極集電体の2つの表面に正極活性材料層が形成される。正極集電体としては、アルミニウム箔、ニッケル箔又はステンレス箔などの金属箔を用いることができる。
本発明の負極は、負極集電体、及び負極活性材料を含有する負極活性材料層を含む。負極集電体の2つの表面に負極活性材料層が形成される。負極集電体としては、銅(Cu)箔、ニッケル箔又はステンレス箔などの金属箔を用いることができる。
【0060】
負極活性材料層は、リチウムイオンを挿入と放出することが可能な1種又は多種の負極材料を負極活性材料として含有し、必要な場合、例えば負極バインダー及び/又は負極導電剤など、別の材料を含有してもよい。負極活性材料は、リチウム金属、リチウム合金、炭素材料、ケイ素又はスズ及びそれらの酸化物のうちの1種又は多種から選択されてもよい。
【0061】
本発明のセパレータは、電池における正極と負極を隔離し、また、リチウムイオンを通過させるとともに正極と負極との接触による電流の短絡を防止するために用いられる。セパレータは、例えば、合成樹脂又はセラミックにより形成された多孔質膜であり、また、そのうちの2種以上の多孔質膜を積層した積層膜であってもよい。合成樹脂の例としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンなどが含まれる。
【0062】
本発明の実施形態では、リチウムイオン二次電池を充電する時に、例えば、リチウムイオンが正極から放出してセパレータに含浸された電解液により負極に挿入する。リチウムイオン二次電池を放電する時に、例えば、リチウムイオンが負極から放出してセパレータに含浸された電解液により正極に挿入する。
【0063】
以下、具体的な実施例と結び付けて本願をさらに詳細に説明し、これらの実施例は、本願が保護しようとする範囲を限定するものとして理解することができない。
【0064】
(実施例1)
ステップS1において、100gの正極材料前駆体Ni0.8Co0.1Mn0.1(OH)、27gのLiOH及び0.5gの酸化マグネシウムを秤取し、正極材料前駆体、LiOH及び酸化マグネシウムを均一に混合し、純酸素雰囲気中で、680℃で8h焼結し、Mgがドープされた焼結生成物を獲得する。
【0065】
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として秤取し、被覆材料とステップS1で焼結して得られた焼結生成物を混合機に加えて均一に混合し、但し、混合機の回転数は、300r/minであり、混合時間は、30minであり、混合後の材料を焙焼炉に置き、酸素ガスを通入して300℃の温度で4時間か焼し、か焼後の生成物を取り出し、破砕機を用いて生成物を破砕した後に200メッシュの篩を用いて篩分処理を行い、それにより正極合材を獲得する。
【0066】
ステップS3において、上記工程で製造して得られた正極合材90g、導電剤としての導電性カーボンブラック5g及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5gを秤取して電極シートを作製し、また上記電極シートを利用して半電池を作製し、結果を表1に示した。
【0067】
(実施例2)
ステップS1において、100gの正極材料前駆体Ni0.8Co0.1Mn0.1(OH)の代わりに、100gの正極材料前駆体Ni0.8Co0.15Al0.05(OH)を用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0068】
(実施例3)
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として用いる代わりに、0.3gのLiFを被覆材料として用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0069】
(実施例4)
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として用いる代わりに、0.3gのAlFを被覆材料として用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0070】
(実施例5)
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として用いる代わりに、0.3gのTiFを被覆材料として用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0071】
(実施例6)
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として用いる代わりに、0.3gのZrFを被覆材料として用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0072】
(実施例7)
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として用いる代わりに、0.3gのSrFを被覆材料として用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0073】
(実施例8)
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として用いる代わりに、0.3gのMoFを被覆材料として用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0074】
(実施例9)
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として用いる代わりに、0.3gのNHFを被覆材料として用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0075】
(実施例10)
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として用いる代わりに、0.3gのMnFを被覆材料として用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0076】
(実施例11)
ステップS2において、300℃で4時間か焼する代わりに、250℃で4時間か焼することを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0077】
(実施例12)
ステップS2において、300℃で4時間か焼する代わりに、350℃で4時間か焼することを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0078】
(実施例13)
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として用いる代わりに、0.05gのMgFを被覆材料として用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0079】
(実施例14)
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として用いる代わりに、1.0gのMgFを被覆材料として用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0080】
(実施例15)
ステップS1において、0.5gの酸化マグネシウムの代わりに0.1gの酸化マグネシウムを用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0081】
(実施例16)
ステップS1において、0.5gの酸化マグネシウムの代わりに1.5gの酸化マグネシウムを用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0082】
(実施例17)
ステップS1において、0.5gの酸化マグネシウムの代わりに5.0gの酸化マグネシウムを用いることを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0083】
(実施例18)
ステップS1において、680℃で8h焼結する代わりに650℃で6h焼結することを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0084】
(実施例19)
ステップS1において、680℃で8h焼結する代わりに780℃で24h焼結することを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0085】
(比較例1)
100gの正極材料前駆体Ni0.8Co0.1Mn0.1(OH)、27gのLiOH及び0.5gの酸化マグネシウムを秤取し、正極材料前駆体、LiOH及び酸化マグネシウムを均一に混合し、純酸素雰囲気中で、680℃で8h焼結し、Mgがドープされた正極材料を獲得する。
【0086】
上記工程で製造して得られた正極材料90g、導電剤としての導電性カーボンブラック5g及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5gを秤取して電極シートを作製し、上記電極シートを利用して半電池を作製し、結果を表1に示した。
【0087】
(比較例2)
ステップS1において、680℃で8h焼結する代わりに800℃で8h焼結することを除き、実施例1と同様な方法を用いて半電池を製造した。
【0088】
(比較例3)
ステップS1において、100gの正極材料前駆体Ni0.8Co0.1Mn0.1(OH)及び27gのLiOHを秤取し、正極材料前駆体及びLiOHを均一に混合し、純酸素雰囲気中で、680℃で8h焼結し、焼結生成物を獲得する。
【0089】
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として秤取し、被覆材料とステップS1で焼結して得られた焼結生成物を混合機に加えて均一に混合し、但し、混合機の回転数は、300r/minであり、混合時間は、30minであり、混合後の材料を焙焼炉に置き、酸素ガスを通入して300℃の温度で4時間か焼し、か焼後の生成物を取り出し、破砕機を用いて生成物を破砕した後に200メッシュの篩を用いて篩分処理を行い、それにより正極合材を獲得する。
【0090】
ステップS3において、上記工程で製造して得られた正極合材90g、導電剤としての導電性カーボンブラック5g及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5gを秤取して電極シートを作製し、上記電極シートを利用して半電池を作製し、結果を表1に示した。
【0091】
(比較例4)
ステップS1において、100gの正極材料前駆体Ni0.8Co0.1Mn0.1(OH)、27gのLiOH及びを0.5gの酸化マグネシウムを秤取し、正極材料前駆体、LiOH及び酸化マグネシウムを均一に混合し、純酸素雰囲気中で、680℃で8h焼結し、Mgがドープされた焼結生成物を獲得する。
【0092】
ステップS2において、0.3gのMgFを被覆材料として秤取し、被覆材料を30mLの水に溶解し、製造して得られた水溶液とステップS1で焼結して得られた焼結生成物を混合機に加えて均一に混合し、但し、混合機の回転数は、300r/minであり、混合時間は、30minであり、濾過して乾燥した後に混合後の材料を焙焼炉に置き、酸素ガスを通入して300℃の温度で4時間か焼し、か焼後の生成物を取り出し、破砕機を用いて生成物を破砕した後に200メッシュの篩を用いて篩分処理を行い、それにより正極合材を獲得する。
【0093】
ステップS3において、上記工程で製造して得られた正極合材90g、導電剤としての導電性カーボンブラック5g及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5gを秤取して電極シートを作製し、上記電極シートを利用して半電池を作製し、結果を表1に示した。
【0094】
電池性能の試験
実施例1~19及び比較例1~4の半電池に対して、2.0V~4.25Vの間の電圧で充放電試験と抵抗試験を行った。上記実施例及び比較例における半電池をまず23℃で0.1Cの充放電試験を1回行い、電池の初回放電容量と初期抵抗を決定し、続いて60℃で1C充電と5C放電のサイクル試験を100回行い、電池の100回のサイクル後の容量保持率とサイクル後の抵抗増大倍数を決定した。実験結果を下記の表1と図3~4に示した。図4においてMg元素2p電子軌道のスペクトルを具体的に示し、図4からMgFフィッティング曲線とMgOフィッティング曲線を明らかに見ることができ、フィッティングする前に背景曲線を差し引く必要がある。
【0095】
【表1】
【0096】
以上の試験結果から分かるように、本発明の上記実施例は、以下の技術的効果を実現する。
【0097】
実施例1~19と比較例1の結果を比較することにより、正極基材の表面にドット状のフッ化物が存在する実施例1~19における電池は、正極基材の表面にフッ化物が存在しない比較例1に比べて、より低い抵抗増大倍数及び顕著により高い100回のサイクル後の容量保持率を有することが分かる。特に、その中のステップS1の条件が全く同一である実施例1及び3~14と、比較例1とを比較すると、正極基材の表面にドット状のフッ化物が存在する実施例1及び3~14における電池は、正極基材の表面にフッ化物が存在しない比較例1に比べて、より低い抵抗増大倍数及び顕著により高い100回のサイクル後の容量保持率を有することが分かる。また、被覆のため、一部の実施例における初期抵抗が比較例における初期抵抗よりも若干高くなるのは、合理的な現象である。
【0098】
実施例1と比較例2の結果を比較することにより、本発明の実施例1における電池は、ステップS1における焼結温度が比較的高い比較例2に比べて、顕著により低い抵抗増大倍数と顕著により高い100回のサイクル後の容量保持率を有するが、電池の初回充電容量と初期抵抗にいかなる変化がないことが分かる。
【0099】
実施例1~19と比較例3の結果を比較することにより、正極基材にMg元素がドープされた実施例1~19における電池は、正極基材にMg元素がドープされていない比較例3に比べて、より低い抵抗増大倍数と顕著により高い100回のサイクル後の容量保持率を有することが分かる。
【0100】
実施例1と比較例4の結果を比較することにより、本発明の乾式ドット状半被覆を行った実施例1における電池は、湿式全被覆を行った比較例4に比べて、顕著により低い抵抗増大倍数、顕著により高い100回のサイクル後の容量保持率、より高い初回充電容量及びより低い初期抵抗を有することが分かる。
【0101】
実施例1及び実施例16と、実施例15及び実施例17との結果を比較することにより、正極材料前駆体の重量に対して、酸化マグネシウムの量が0.50wt%乃至1.50wt%の範囲内である場合に、抵抗増大倍数をさらに低減させ100回のサイクル後の容量保持率をさらに向上させることができることが分かる。
【0102】
実施例1と実施例13~14との結果を比較することにより、正極材料前駆体の重量に対して、フッ化物の量が0.10wt%乃至0.50wt%の範囲内である場合に、抵抗増大倍数を低減させ、100回のサイクル後の容量保持率を向上させる点においてよりよい効果を有することが分かる。
【0103】
上記電池性能試験結果から分かるように、本発明の正極合材、当該正極合材を製造するための方法、及び当該正極合材を含む正極とリチウムイオン二次電池により、リチウムイオン二次電池における正極基材が電解液により腐食されることを効果的に阻止することができ、より多くのリチウムイオンチャンネルを保留することができ、リチウムイオン二次電池の容量と初期抵抗に影響を与えることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル性能を改善し、リチウムイオン二次電池の抵抗増大を低減させる。
【0104】
以上の説明は、本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明に対して様々な変更及び変化が可能である。本発明の精神と原則内で、行われたあらゆる修正、等価置換、改良などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4