IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許-電極および電極の製造方法 図1
  • 特許-電極および電極の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-29
(45)【発行日】2025-10-07
(54)【発明の名称】電極および電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/16 20060101AFI20250930BHJP
   A61B 5/263 20210101ALI20250930BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20250930BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20250930BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20250930BHJP
   H01G 11/22 20130101ALI20250930BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20250930BHJP
【FI】
H01B1/16 A
A61B5/263
H01B13/00 503D
H01M4/136
H01M4/1397
H01G11/22
H01G11/86
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024524193
(86)(22)【出願日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2023012598
(87)【国際公開番号】W WO2023233783
(87)【国際公開日】2023-12-07
【審査請求日】2024-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2022089861
(32)【優先日】2022-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100206324
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 明子
(72)【発明者】
【氏名】平山 真優
(72)【発明者】
【氏名】藤脇 未伽
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 淑子
(72)【発明者】
【氏名】部田 武志
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/080321(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/034853(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/025026(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/16
A61B 5/263
H01B 13/00
H01M 4/136
H01M 4/1397
H01G 11/22
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元粒子を含む膜を備え、
前記2次元粒子は、金属カチオンと、1つまたは複数の層とを少なくとも有し、
前記層は、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であって、Ti原子を少なくとも含み、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記金属カチオンは、Liカチオンを含み、
前記2次元粒子における、Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対し、5.4モル以上である、電極。
【請求項2】
前記2次元粒子における、前記Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対し、5.4モル以上9.7モル以下である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
生体信号センシング電極である、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
2次元粒子を用いて膜を形成することを含み、
前記2次元粒子は、
(a)以下の式:
AX
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であって、Ti原子を少なくとも含み、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組合せであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b)エッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去することにより、エッチング処理物を得ること、
(c)前記エッチング処理物を洗浄して、エッチング洗浄処理物を得ること、および、
(d)前記エッチング洗浄処理物と、金属カチオンを含む金属化合物とを混合して、前記エッチング洗浄処理物に前記金属カチオンがインターカレートされた、インターカレーション処理物を得ること、を含み、
前記金属カチオンは、Liカチオンを含む、製造方法により製造される、
インターカレーション処理物を少なくとも含み、
前記2次元粒子において、Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対し、5.4モル以上である、電極の製造方法。
【請求項5】
前記2次元粒子は、
(e)前記インターカレーション処理物を撹拌して、前記インターカレーション処理物をデラミネートするデラミネーション処理を行い、デラミネーション処理物を得ること、を含む、製造方法により製造される、
デラミネーション処理物をさらに含む、請求項4に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
前記2次元粒子は、
(e)上記インターカレーション処理物を撹拌して、上記インターカレーション処理物がデラミネートされた、デラミネーション処理物を得ること、
(f)前記デラミネーション処理物を洗浄して、デラミネーション洗浄処理物を得ること、を含む、製造方法により製造される、
デラミネーション洗浄処理物をさらに含む、請求項4または5に記載の電極の製造方法。
【請求項7】
前記2次元粒子は、前記金属カチオンと、1つまたは複数の層とを少なくとも有し、
前記層は、以下の式:

(式中、M、X、nおよびmは、上記と同意義である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記金属カチオンは、Liカチオンを含、請求項4または5に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極および電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる2次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
現在、種々の電気デバイスへのMXeneの応用に向けて、様々な研究がなされている。例えば、特許文献1、2には、MXeneは、膜の形態で、神経信号計測用の電極として用いられ得ることが記載されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nicolette Driscoll, et al., "Two-Dimensional Ti3C2 MXene for High Resolution Neural Interfaces," ACS Nano, 2018, Vol. 12, Issue 10, pp. 10419-10429
【文献】Nicolette Driscoll, et al., "MXene-infused bioelectronic interfaces for multiscale electrophysiology and stimulation," Science Translational Medicine, 2021, Vol. 13, Issue 612, article abf8629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、インピーダンスの低い電極を提供することを目的とし、好ましくは、表面インピーダンスの低い電極を提供することを目的とする。また、本開示は、かかる電極の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電極は、2次元粒子を含む膜を備え、
上記2次元粒子は、金属カチオンと、1つまたは複数の層とを少なくとも有し、
上記層は、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であって、Ti原子を少なくとも含み、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
上記金属カチオンは、Liカチオンを含み、
上記2次元粒子における、Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対し、5.4モル以上である。
【0007】
また、本開示の電極の製造方法は、2次元粒子を用いて膜を形成することを含み、
上記2次元粒子は、
(a)以下の式:
AX
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であって、Ti原子を少なくとも含み、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組合せであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b)エッチング液を用いて、上記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去することにより、エッチング処理物を得ること、
(c)上記エッチング処理物を洗浄して、エッチング洗浄処理物を得ること、および、
(d)上記エッチング洗浄処理物と、金属カチオンを含む金属化合物とを混合して、上記エッチング洗浄処理物に上記金属カチオンがインターカレートされた、インターカレーション処理物を得ること、を含み、
上記金属カチオンは、Liカチオンを含む、製造方法により製造される、
インターカレーション処理物を少なくとも含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、インピーダンスの低い電極を提供し得、好ましくは、表面インピーダンスの低い電極を提供し得る。また、本開示は、かかる電極の製造方法も提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の1つの実施形態における層状材料のMXene粒子を示す概略模式断面図であって、(a)は単層MXene粒子を示し、(b)は多層(例示的に二層)MXene粒子を示す。
図2】本開示の1つの実施形態における導電性膜を示す概略模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の1つの実施形態における電極およびその製造方法について説明する。
【0011】
本開示の電極は、2次元粒子を含む膜を備え、
上記2次元粒子は、金属カチオンと、1つまたは複数の層とを少なくとも有し、
上記層は、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であって、Ti原子を少なくとも含み、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
上記金属カチオンは、Liカチオンを含み、
上記Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対し、5.4モル以上である。
【0012】
本開示の電極は、上記構成を有することにより、低いインピーダンスを示し得る。特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、上記膜に含まれる2次元粒子は、層状材料でありながらも、Liカチオンを一定量含むため、電荷の授受が生じやすいと考えられ、導電率が高い。そのため、電極がかかる膜を備えることにより、インピーダンスが低く抑えられ、特に表面インピーダンスが低く抑えられることになると考えられる。
【0013】
上記2次元粒子は、層状材料または層状化合物として理解され得、「M」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxまたはzが使用されることもある。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0014】
また、本開示において、上記層をMXene層という場合があり、上記2次元粒子をMXene2次元粒子またはMXene粒子という場合がある。
【0015】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであって、Tiを少なくとも含むことが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであって、Tiを少なくとも含むことがより好ましい。
【0016】
MにおけるTi原子の割合は、好ましくは50原子%以上100原子%以下、より好ましくは70原子%以上100原子%以下、さらに好ましくは90原子%以上100原子%以下であり得る。
【0017】
MXeneは、上記の式:Mが、以下のように表現されるものが知られている。
ScC、TiC、TiN、ZrC、ZrN、HfC、HfN、VC、VN、NbC、TaC、CrC、CrN、MoC、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)C、(Ti,Nb)C、WC、W1.3C、MoN、Nb1.3C、Mo1.30.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti、Ti、Ti(CN)、Zr、(Ti,V)、(TiNb)C、(TiTa)C、(TiMn)C、Hf、(HfV)C、(HfMn)C、(VTi)C、(CrTi)C、(CrV)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoSc)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(MoV)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C
Ti、V、Nb、Ta、(Ti,Nb)、(Nb,Zr)、(TiNb)C、(TiTa)C、(VTi)C、(VNb)C、(VTa)C、(NbTa)C、(CrTi)C、(Cr)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(Mo)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C、(Mo2.71.3)C(上記式中、「2.7」および「1.3」は、それぞれ約2.7(=8/3)および約1.3(=4/3)を意味する。)
【0018】
代表的には、上記の式において、MはTiを含み、Xが炭素原子または窒素原子であるものであり得、好ましくは、MがTiであり、Xが炭素原子であり得る。例えば、MAX相は、TiAlCであり、MXeneは、Tiである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0019】
なお、本開示において、MXeneは、前駆体のMAX相に由来するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、2次元粒子の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0020】
上記2次元粒子は、図1(a)に模式的に例示する1つの層のMXeneの粒子(以下、単に「MXene粒子」という)10a(単層MXene粒子)を含む集合物である。MXene粒子10aは、より詳細には、Mで表される層本体(M層)1aと、層本体1aの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T3a、5aとを有するMXene層7aである。よって、MXene層7aは、「M」とも表され、sは任意の数である。
【0021】
上記2次元粒子は、1つまたは複数の層を含み得る。複数の層のMXene粒子(多層MXene粒子)として、図1(b)に模式的に示す通り、2つの層のMXene粒子10bが挙げられるが、これらの例に限定されない。図1(b)中の、1b、3b、5b、7bは、前述の図1(a)の1a、3a、5a、7aと同じである。多層MXene粒子の、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。上記MXene粒子10aは、上記多層MXene粒子10bが個々に分離されて1つの層で存在するものであり、分離されていない多層MXene粒子10bが残存し、上記単層MXene粒子10aと多層MXene粒子10bの混合物である場合がある。
【0022】
本実施形態を限定するものではないが、MXene粒子に含まれる各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり得る(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)。含まれ得る多層MXene粒子の、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、図1(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm以下、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmであり、層の総数は、2以上、20,000以下であり得る。
【0023】
一態様において、(2次元粒子の2次元面の長径の平均値)/(2次元粒子の厚さの平均値)の比率は、1.2以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上である。上記2次元粒子の2次元面の長径の平均値と、上記2次元粒子の厚さの平均値は、後述する方法で求めればよい。
【0024】
本実施形態の2次元粒子は、層数の多いMXene粒子を含むことが好ましい。上記「層数が多い」とは、例えばMXene層の積層数が7層以上であることをいう。また、層数の多いMXene粒子の積層方向の厚さは、好ましくは15nm超、より好ましくは18nm以上50nm以下、さらに好ましくは18nm以上30nm以下である。また、上記層数の多いMXene粒子において、(2次元粒子の2次元面の長径の平均値)/(2次元粒子の厚さの平均値)の比率は、例えば5超50以下、好ましくは10以上30以下、より好ましくは11以上20以下である。これにより、層数の多いMXene粒子を含むことで、金属カチオンを多く含むことが容易になり得る。
上記層数の多いMXene粒子としては、例えば、デラミネーション処理を経ずに得られた2次元粒子等が挙げられる。
【0025】
本実施形態の2次元粒子は、層数の少ない多層MXene粒子を含むことも好ましい。上記「層数が少ない」とは、例えばMXene層の積層数が6層以下であることをいう。また、層数の少ない多層MXene粒子の積層方向の厚さは、15nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは10nm以下である。また、層数の少ない多層MXene粒子において、(2次元粒子の2次元面の長径の平均値)/(2次元粒子の厚さの平均値)の比率は、1.2以上、好ましくは1.5以上10以下、より好ましくは2以上5以下である。以下、この「層数の少ないMXene粒子」を「少層MXene粒子」ということがある。また、単層MXene粒子と少層MXene粒子を併せて「単層・少層MXene粒子」ということがある。これにより、2次元粒子を含む膜の成膜性が良好になり得る。
上記単層・少層MXene粒子としては、例えば、デラミネーション処理を経て得られた2次元粒子等が挙げられる。
【0026】
一態様において、本実施形態の2次元粒子は、好ましくは、上記層数の多いMXene粒子と、単層・少層MXene粒子とを含む。本実施形態の2次元粒子における層数の多いMXene粒子の割合は、好ましくは20体積%以上100体積%以下、より好ましくは30体積%以上100体積%以下、さらに好ましくは60体積%以上100体積%以下であり得る。これにより、金属カチオンを多く含む2次元粒子を得ることが容易になり得る。
【0027】
一態様において、本実施形態の2次元粒子は、好ましくは、単層MXene粒子と少層MXene粒子、すなわち単層・少層MXene粒子を含む。本実施形態の2次元粒子における、厚さが15nm以下である単層・少層MXene粒子の割合は、好ましくは0体積%以上70体積%以下、より好ましくは0体積%以上60体積%以下、さらに好ましくは0体積%以上25体積%以下であり得る。これにより、2次元粒子を含む膜の成膜性が良好になり得る。
【0028】
(2次元粒子の2次元面の長径の平均値)
本実施形態の2次元粒子は、2次元面の長径の平均値が、好ましくは1μm以上20μm以下である。以下、2次元面の長径の平均値を「平均フレークサイズ」ということがある。
【0029】
上記平均フレークサイズが大きいほど、2次元粒子を含む材料において、2次元粒子の配向性が良好になる。2次元粒子の配向性は、例えば、2次元粒子を含む材料の導電率により評価し得る。
2次元面の長径の平均値は、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは2.5μm以上である。MXeneに超音波処理を施すことでMXeneのデラミネーション処理を行った場合、超音波処理により大部分のMXeneが長径で約数百nmに小径化するため、超音波処理によりデラミネーションされた単層MXeneで形成される膜は2次元粒子の配向性が低いと考えられる。
【0030】
2次元面の長径の平均値は、分散媒中の分散性の観点から、例えば20μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。
【0031】
上記2次元面の長径は、後記の実施例に示す通り、電子顕微鏡写真において、各MXene粒子を楕円形状に近似したときの長径をいい、上記2次元面の長径の平均値は、80粒子以上の上記長径の個数平均をいう。電子顕微鏡として、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を用いることができる。
【0032】
本実施形態の2次元粒子の長径の平均値は、該2次元粒子を含む材料を溶媒に溶解させ、上記2次元粒子を該溶媒に分散させて測定してもよい。または、上記材料のSEM画像から測定してもよい。
【0033】
(2次元粒子の厚さの平均値)
本実施形態の2次元粒子の厚さの平均値は、1nm以上15nm以下であることが好ましい。上記厚さは、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは7nm以下であり、さらに好ましくは5nm以下である。一方、単層MXene粒子の厚さを考慮すると、2次元粒子の厚さの下限は1nmとなり得る。
【0034】
上記2次元粒子の厚さの平均値は、原子間力顕微鏡(AFM)写真または透過型電子顕微鏡(TEM)写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)として求められる。
【0035】
上記2次元粒子は、空隙を含むことも好ましい。2次元粒子が空隙を含むことで、金属カチオンを多く含むことがさらに容易となり、導電率が高く、インピーダンスの低い電極を得ることがさらに容易になり得る。
【0036】
上記金属カチオンは、1価のLiカチオンを含み、他の金属カチオンをさらに含んでいてもよい。
ただし、上記金属カチオンの金属と上記M原子とは異なる。また、上記金属カチオンの金属と後述する前駆体に含まれるA原子とは異なる。
【0037】
一態様において、上記2次元粒子における、Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対し、5.4モル以上であり、好ましくは5.4モル以上67モル以下、より好ましくは5.4モル以上20モル以下、さらに好ましくは5.4モル以上9.7モル以下であり得る。これにより、上記2次元粒子を含む膜の導電性が高められ、インピーダンスの低い電極を得ることが容易になり得る。
【0038】
上記2次元粒子における、Li原子の含有率は、例えば0.1質量%以上20質量%以下、さらに0.1質量%以上10質量%以下、とりわけ0.2質量%以上3質量%以下、特に0.2質量%以上0.5質量%以下であってよい。これにより、2次元粒子を含む膜の導電性がさらに高められ得、インピーダンスの低い電極を得ることがさらに容易になり得る。
2次元粒子におけるTi原子、Li原子、金属カチオンおよびLiカチオンの含有量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)などにより測定可能である。
【0039】
上記金属カチオンにおけるLiカチオンの含有率は、例えば1モル%以上100モル%以下であり、好ましくは70モル%以上100モル%以下、より好ましくは80モル%以上100モル%以下、さらに好ましくは90モル%以上100モル%以下であり得る。
【0040】
上記金属カチオンは、代表的には、上記層上に存在している。すなわち、上記層に接していてもよく、上記層上に他の元素を介して存在していてもよい。
【0041】
一態様において、上記2次元粒子は、層数が多く、Liカチオンの含有量が、Ti原子100モルに対して5.4モル以上である、第1成分を含むことが好ましい。第1成分の2次元粒子を含むことで、成膜性を維持しつつ、金属カチオンを多く含む膜を形成することが容易となり得る。
かかる第1成分の2次元粒子の厚さは、好ましくは15nm超、より好ましくは18nm以上50nm以下、さらに好ましくは18nm以上30nm以下であり得、層数は、好ましくは5超50以下、好ましくは10超以上30以下、より好ましくは11以上20以下であり得る。また、第1成分の2次元粒子において、Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対して、好ましくは5.4モル以上69モル以下、より好ましくは5.4モル以上9.7モル以下、さらに好ましくは6モル以上9.7モル以下であり得る。さらに、上記第1成分の2次元粒子は、空隙を含むことが好ましい。
【0042】
上記2次元粒子に含まれる第1成分の含有率は、好ましくは20体積%以上100体積%以下、より好ましくは30体積%以上100体積%以下、さらに好ましくは60体積%以上100体積%以下であり得る。これにより、成膜性を維持しつつ、金属カチオンを多く含む膜を形成することが容易となり得る。
【0043】
かかる第1成分は、代表的には、後述するインターカレーション処理物として製造され得るが、かかる製造方法により製造されたものに限定されない。
【0044】
一態様において、上記2次元粒子は、層数が少なく、Liカチオンの含有量が、Ti原子100モルに対して0モル超5.4モル未満である、第2成分を含むことが好ましい。これにより、2次元粒子を含む膜の成膜性が良好になり得る。
かかる第2成分の2次元粒子の厚さは、好ましく15nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは10nm以下であり得、層数は、好ましくは1以上6以下であり得る。また、第2成分の2次元粒子において、Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対して、好ましくは1モル以上5.4モル未満であり得、特に5.3モル以下であり得る。
【0045】
上記2次元粒子において、第2成分の含有量は、第1成分100体積部に対して、好ましくは0体積%以上70体積%以下、より好ましくは0体積%以上60体積%以下、さらに好ましくは0体積%以上25体積%以下であり得る。
【0046】
かかる第2成分は、代表的には、後述するデラミネーション処理物として製造され得るが、かかる製造方法により製造されたものに限定されない。
【0047】
本開示の電極において、膜に含まれる2次元粒子の含有率は、好ましくは70体積%以上100体積%以下、より好ましくは80体積%以上100体積%以下、さらに好ましくは90体積%以上100体積%以下であり得る。これにより、導電率が高く、インピーダンスの低い電極を得ることが容易となり得る。
【0048】
以下、2次元粒子の製造方法について詳述するが、本開示はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0049】
上記2次元粒子の製造方法は、
(a)以下の式:
AX
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であって、Tiを少なくとも含み、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組合せであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、および
(b)エッチング液を用いて、上記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去することにより、エッチング処理物を得ること、
を含み、
(c)上記エッチング処理物を洗浄して、エッチング洗浄処理物を得ること、
(d)上記エッチング洗浄処理物と、金属カチオンを含む金属化合物とを混合して、上記エッチング洗浄処理物に上記金属カチオンがインターカレートされた、インターカレーション処理物を得ること
(e)上記インターカレーション処理物を撹拌して、上記インターカレーション処理物がデラミネートされた、デラミネーション処理物を得ること、
(f)上記デラミネーション処理物を洗浄して、デラミネーション洗浄処理物を得ること、
をさらに含み得る。ただし、上記工程(d)における金属カチオンは、Liカチオンを含む。
【0050】
本開示において、エッチング処理物、エッチング洗浄処理物、インターカレーション処理物、デラミネーション処理物およびデラミネーション洗浄処理物はいずれも2次元粒子の技術的範囲に含まれ得る。
【0051】
以下、各工程について詳述する。
【0052】
・工程(a)
まず、所定の前駆体を準備する。本実施形態において使用可能な所定の前駆体は、MXeneの前駆体であるMAX相であり、
以下の式:
AX
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であって、Tiを少なくとも含み、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される。
【0053】
上記M、X、nおよびmは、上記で説明した通りである。
【0054】
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである。
【0055】
MAX相は、Mで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「M層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。
【0056】
上記MAX相は、既知の方法で製造することができる。例えばTiC粉末、Ti粉末およびAl粉末を、ボールミルで混合し、得られた混合粉末をAr雰囲気下で焼成し、焼成体(ブロック状のMAX相)を得る。その後、得られた焼成体をエンドミルで粉砕して次工程用の粉末状MAX相を得ることができる。
【0057】
・工程(b)
工程(b)では、エッチング液を用いて、上記前駆体のMAXからA原子の少なくとも一部をエッチングにより除去する、エッチング処理を行う。これにより、前駆体におけるMで表される層は維持されたまま、A原子により構成される層の少なくとも一部が除去された処理物が得られる。
【0058】
上記エッチング液は、HF、HCl、HBr、HI、硫酸、リン酸、硝酸等の酸を含み得、代表的には、F原子を含むエッチング液を用いることができる。かかるエッチング液としては、LiFと塩酸との混合液;フッ酸と塩酸との混合液;フッ酸を含む混合液等が挙げられ、これらの混合液は、リン酸等を更に含んでいてもよい。上記エッチング液は、代表的には、水溶液であり得る。
【0059】
上記エッチング液を用いたエッチングの操作およびその他の条件としては、従来実施されている条件を採用できる。
【0060】
・工程(c)
工程(c)では、エッチング処理により得られた処理物を洗浄して、エッチング洗浄処理物を得る。洗浄を行うことによって、エッチング処理で用いた酸等を十分に除去できる。
【0061】
洗浄は、洗浄液を用いて実施され得、代表的には、エッチング処理物と洗浄液とを混合することにより実施され得る。かかる洗浄液は、代表的には水を含み、純水が好ましい。一方、純水に加えて少量の塩酸等をさらに含んでいてもよい。エッチング処理物と混合させる洗浄液の量やエッチング処理物と洗浄液との混合方法は特に限定されない。例えば、かかる混合方法としては、エッチング処理物と洗浄液とを共存させ、撹拌、遠心分離等を行うことが挙げられる。撹拌方法として、ハンドシェイク、オートマチックシェイカー、シェアミキサー、ポットミルなどを用いた撹拌方法が挙げられる。撹拌速度、撹拌時間等の撹拌の程度は、処理対象となるエッチング処理物の量や濃度等に応じて調整すればよい。上記洗浄液での洗浄は1回以上行えばよく、洗浄での洗浄を複数回行うことが好ましい。例えば具体的に、上記洗浄液での洗浄は、工程(i)(処理物または下記(iii)で得られた残りの沈殿物に)洗浄液を加えて撹拌、工程(ii)撹拌物を遠心分離する、工程(iii)遠心分離後に上澄み液を廃棄する、を順次行うことにより実施してよく、工程(i)~(iii)を2回以上、例えば15回以下の範囲内で繰り返して行うことが挙げられる。
【0062】
・工程(d)
工程(d)では、金属カチオンを含む金属化合物を用いて、上記エッチング洗浄処理物に対して金属カチオンをインターカレートする、インターカレーション処理を行って、インターカレーション処理物を得る。これにより、上記金属カチオンが2つの隣り合うM層の間にインターカレートされた、インターカレーション処理物が得られる。かかるインターカレーション処理は、分散媒体中で行ってもよい。
【0063】
上記金属カチオンは、上記2次元粒子に含まれる金属カチオンと同じであり得、Liカチオンを含み、他の金属カチオンを含んでいてもよい。
ただし、上記金属カチオンの金属と上記M原子とは異なる。また、上記金属カチオンの金属と前駆体に含まれるA原子とは異なる。
【0064】
上記金属化合物として、上記金属カチオンと陰イオンとが結合したイオン性化合物が挙げられる。例えば上記金属カチオンの、ヨウ化物、リン酸塩、硫酸塩を含む硫化物塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。上記金属カチオンとして、リチウムイオンが好ましく、金属化合物として、リチウムイオンを含む金属化合物が好ましく、リチウムイオンのイオン性化合物がより好ましく、リチウムイオンのヨウ化物、リン酸塩、硫化物塩のうちの1以上が更に好ましい。金属イオンとしてリチウムイオンを用いれば、リチウムイオンに水和している水が最も負の誘電率を有するため、単層化しやすくなると考えられる。
【0065】
インターカレーション処理の具体的な方法は特に限定されず、例えば、エッチング洗浄処理物と金属化合物とを混合し、撹拌を行ってもよいし、静置してもよい。例えば室温で撹拌することが挙げられる。上記撹拌の方法は、例えば、スターラー等の撹拌子を用いる方法、撹拌翼を用いる方法、ミキサーを用いる方法、および遠心装置を用いる方法等が挙げられ、撹拌時間は、単層・少層MXene粒子の製造規模に応じて設定することができ、例えば12~24時間の間で設定できる。
【0066】
インターカレーション処理は、分散媒体の存在下で実施してよい。分散媒体としては、例えば、水;N-メチルピロリドン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、酢酸等の有機系媒体等が挙げられる。
【0067】
分散媒体とエッチング洗浄処理物と金属化合物の混合順序は特に限定されないが、一態様において、分散媒体とエッチング洗浄処理物とを混合した後、金属化合物を混合してもよい。代表的には、エッチング処理を行った後のエッチング液を分散媒体としてよい。
【0068】
インターカレーション処理は、代表的には、エッチング洗浄処理物に対して実施され得るが、別の態様において、上記前駆体に対し、エッチング処理と同時に実施されてもよい。具体的には、かかるエッチングおよびインターカレーション処理は、前駆体と、エッチング液と、金属カチオンを含む金属化合物とを混合して、上記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去するとともに、A原子が除去された前駆体に、金属カチオンをインターカレートすることにより、インターカレーション処理物を得ることを含む。これにより、前駆体(MAX)からA原子の少なくとも一部が除去されるとともに、前駆体におけるM層が残留し、隣り合う複数のM層の間に、金属カチオンがインターカレートされたインターカレーション処理物が得られる。
【0069】
上記エッチングおよびインターカレーション処理において用いられるエッチング液および金属化合物としては、それぞれ、工程(b)において用いられるエッチング液および上記金属化合物と同様のものを用いることができる。
【0070】
上記インターカレーション処理物は、電極の製造に供される前に洗浄されて、インターカレーション洗浄処理物とされてもよく、かかるインターカレーション洗浄処理物も、インターカレーション処理物の範囲に含まれる。インターカレーション処理物を洗浄することにより、過剰な金属化合物を除去することができる。
【0071】
インターカレーション処理物の洗浄は、洗浄液を用いて実施され得、代表的には、インターカレーション処理物と洗浄液とを混合することにより実施され得る。かかる洗浄液としては、工程(c)における洗浄液と同様のものを用いることができ、混合は、工程(c)における混合方法と同様の方法により実施され得る。例えば具体的に、洗浄液としては、水を用いることができる。また、上記洗浄液での洗浄は、工程(i)(処理物または下記(iii)で得られた残りの沈殿物に)洗浄液を加えて撹拌、工程(ii)撹拌物を遠心分離する、工程(iii)遠心分離後に上澄み液を廃棄する、を順次行うことにより実施してよく、工程(i)~(iii)を2回以上、例えば15回以下の範囲内で繰り返して行うことが挙げられる。
【0072】
・工程(e)
工程(e)では、上記インターカレーション処理物を撹拌して、上記インターカレーション処理物をデラミネートするデラミネーション処理を行い、デラミネーション処理物を得る。かかる撹拌により、インターカレーション処理物にせん断応力が加えられ、隣り合う2つのM層の間の少なくとも一部が剥離され得、MXene粒子が単層・少層化され得る。
【0073】
デラミネーション処理の条件は特に限定されず、既知の方法で行うことができる。例えば、インターカレーション処理物に対してせん断応力を加える方法として、分散媒体中に、インターカレーション処理物を分散させて、撹拌する方法が挙げられる。撹拌方法としては、機械式振とう器、ボルテックスミキサー、ホモジナイザー、超音波処理、ハンドシェイク、オートマチックシェイカーなどを用いた撹拌が挙げられる。撹拌速度、撹拌時間等の撹拌の程度は、処理対象となる処理物の量や濃度等に応じて調整すればよい。例えば、上記インターカレーション後のスラリーを、遠心分離して上澄み液を廃棄した後に、残りの沈殿物に純水を添加し、例えばハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーによる撹拌を行って層分離を行うことが挙げられる。未剥離物の除去は、遠心分離して上澄みを廃棄後、残りの沈殿物を水で洗浄する工程が挙げられる。例えば、(i)上澄み廃棄後の残りの沈殿物に、純水を追加して撹拌、(ii)遠心分離し、(iii)上澄み液を回収する。この(i)~(iii)の操作を、1回以上、好ましくは2回以上、10回以下繰り返して、デラミネーション処理物として、単層・少層MXene粒子を含む上澄み液を得ることが挙げられる。または、この上澄み液を遠心分離して、遠心分離後の上澄み液を廃棄し、デラミネーション処理物として単層・少層MXene粒子を含むクレイを得てもよい。
【0074】
・工程(f)
工程(f)では、上記デラミネーション処理物を洗浄して、デラミネーション洗浄処理物を得る。かかる洗浄により、不純物等が取り除かれ得る。
【0075】
一態様において、上記洗浄は、洗浄液を用いて実施され得、代表的には、デラミネーション処理物と洗浄液とを混合することにより実施され得る。別の態様において、上記洗浄は、上記デラミネーション処理物を酸処理した後、かかる酸処理物と、洗浄液とを混合することにより実施され得る。かかる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、フッ酸等の無機酸;酢酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、ソルビン酸等の有機酸を適宜使用してよく、酸溶液における酸の濃度は、デラミネーション処理物に応じ適宜調整いることができる。また、上記洗浄液での洗浄は、工程(i)(処理物または下記(iii)で得られた残りの沈殿物に)洗浄液を加えて撹拌、工程(ii)撹拌物を遠心分離する、工程(iii)遠心分離後に上澄み液を廃棄する、を順次行うことにより実施してよく、工程(i)~(iii)を2回以上、例えば15回以下の範囲内で繰り返して行うことが挙げられる。上記撹拌は、ハンドシェイク、オートマチックシェイカー、シェアミキサー、ポットミルなどを用いて実施され得る。酸処理は、1回以上行えばよく、必要に応じ、フレッシュな酸溶液(酸処理に使用していない酸溶液)と混合して撹拌する操作を2回以上、例えば10回以下の範囲内で行ってよい。上記洗浄液としては、工程(c)における洗浄液と同様のものを用いることができ、上記混合は、工程(c)における混合方法と同様の方法により実施され得る。例えば具体的に、洗浄液としては、水を用いてよい。
【0076】
上記で説明した製造方法における中間体および目的物、例えば、上記インターカレーション処理物およびデラミネーション処理物は、吸引ろ過、加熱乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等により乾燥してもよい。
【0077】
一態様において、上記膜は、バインダレスであってよい。別の態様において、上記膜は、2次元粒子に加えて、樹脂をさらに含んでいてよい。かかる樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0078】
また、上記膜は、その他の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0079】
一態様において、本開示の電極は、上記膜のみから形成されていてよい。別の態様において、本開示の電極は、上記膜と、基材および保護層から選ばれる1種以上とを含んでいてもよい。また、上記電極は、固体状態のものであってもよく、フレキシブル性のある軟質状態のものであってもよい。
【0080】
本実施形態の電極が基材および保護層から選ばれる1種以上を含む場合、上記膜と基材および保護層から選ばれる1種以上とは、直接接触していてもよい。
【0081】
上記基材は、例えば、セラミック、ガラス等の無機材料であってよく、有機材料であってよい。かかる有機材料として、例えば、フレキシブル有機材料が挙げられ、具体的には熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、PETフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。また、上記基材は、紙、布等の繊維材料(例えば、シート状繊維材料)であってよい。
【0082】
上記保護層は、上記膜の少なくとも一部又は全部を覆う層であり得、好ましくは、上記膜の少なくとも一部を覆う層であり得る。上記保護層は、有機材料であり得、具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール等の樹脂であり得る。
【0083】
本実施形態の電極において、上記膜は、測定対象物と直接接するように外気にさらされていてもよいし、基材、保護層等で覆われていてもよい。
【0084】
本開示の電極の製造方法は、上記2次元粒子を用いて膜を形成することを含み、かかる2次元粒子は、上記インターカレーション処理物を少なくとも含み、インターカレーション処理物と、上記デラミネーション処理物および/またはデラミネーション洗浄処理物とを含んでもよい。一態様において、好ましくは、上記インターカレーション処理物およびデラミネーション処理物を含み得、別の態様において、好ましくは、インターカレーション処理物およびデラミネーション洗浄処理物を含み得る。
【0085】
特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、上記インターカレーション処理物は、金属カチオンを含み、上記エッチング処理物やエッチング洗浄処理物と比較して、層間の密着性が適度に抑制されていると考えられる。また、上記インターカレーション処理物は、上記デラミネーション処理物やデラミネーション洗浄処理物に比べて、金属カチオンを多く含む。そのため、インターカレーション処理物を含む2次元粒子を用いることで、金属カチオンを含むとともに、成膜性が良好な膜が得られると考えられる。
また、本開示の電極の製造方法に用いられる2次元粒子は、上記インターカレーション処理物を含み、インターカレーション処理物は、成膜過程でせん断応力により層間がある程度剥離し得ると考えられる。そのため、2次元粒子が上記デラミネーション処理物やデラミネーション洗浄処理物を含まない場合でも、成膜が可能である。
【0086】
上記膜の形成は、例えば、2次元粒子と分散媒と必要に応じて用いる上記樹脂とを含む混合液を吸引ろ過すること、または、2次元粒子と分散媒と必要に応じて用いる上記樹脂とを含む混合液を塗工し、分散媒を乾燥させることを1回または2回以上行うことにより実施され得る。
例えば、上記デラミネーション処理により得られた2次元粒子(デラミネーション処理物)を含む上澄み液と、インターカレーション処理物とを混合して、上記混合液として使用してもよい。
【0087】
上記混合液を塗工する方法としては、例えば、スプレーにより塗工する方法が挙げられる。上記スプレーの方法は、例えば、エアレススプレー法またはエアースプレー法であってよく、具体的には、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いてスプレーする方法が挙げられる。
上記分散媒としては、上記分散媒体と同様の媒体を用いることができ、例えば、水;N-メチルピロリドン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、酢酸等の有機系媒体等が挙げられる。
【0088】
上記2次元粒子におけるインターカレーション処理物の割合は、2次元粒子100体積%中、好ましくは20体積%以上100体積%以下、より好ましくは30体積%以上100体積%以下、さらに好ましくは60体積%以上100体積%以下であり得る。これにより、成膜性を維持しつつ、金属カチオンを多く含む膜を形成することが容易となり得る。
【0089】
また、上記2次元粒子におけるインターカレーション処理物とデラミネーション処理物およびデラミネーション洗浄処理物との合計の割合は、2次元粒子100体積%中、好ましくは0体積%以上70体積%以下、より好ましくは0体積%以上60体積%以下、さらに好ましくは0体積%以上25体積%以下であり得る。
【0090】
インターカレーション処理物、デラミネーション処理物、デラミネーション洗浄処理物は、上記した製造方法により製造され得るが、これに限定されない。
【0091】
(電極の用途)
本実施形態の電極は、任意の適切な用途に利用され得る。例えば、電気化学測定をする際の対極や参照極、電気化学キャパシタ用電極、電池用電極、生体電極、センサ用電極、アンテナ用電極、電気刺激電極などが挙げられる。電磁シールド(EMIシールド)等、高い耐湿性(例えば、初期導電率の低下を低減し、酸化を防止すること)が要求されるような用途にも利用され得る。以下、これらの用途の詳細について説明する。
【0092】
電極は、特に限定されないが、例えばキャパシタ用電極、バッテリ用電極、生体信号センシング電極、センサ用電極、アンテナ用電極、電気刺激電極などであり得る。本開示の電極によれば、より小さい容積(装置占有体積)でも、大容量のキャパシタおよびバッテリ、低インピーダンスの生体信号センシング電極、高感度のセンサおよびアンテナを得ることができる。
【0093】
キャパシタは、電気化学キャパシタであり得る。電気化学キャパシタは、電極(電極活物質)と電解液中のイオン(電解質イオン)との間での物理化学反応に起因して発現する容量を利用したキャパシタであり、電気エネルギーを蓄えるデバイス(蓄電デバイス)として使用可能である。バッテリは、繰り返し充放電可能な化学電池であり得る。バッテリは、例えばリチウムイオンバッテリ、マグネシウムイオンバッテリ、リチウム硫黄バッテリ、ナトリウムイオンバッテリなどであり得るが、これらに限定されない。
【0094】
生体信号センシング電極は、生体信号を取得するための電極である。生体信号センシング電極は、例えばEEG(脳波)、ECG(心電図)、EMG(筋電図)、EIT(電気インピーダンストモグラフィ)を測定するための電極であり得るが、これらに限定されない。
【0095】
センサ用電極は、目的の物質、状態、異常等を検知するための電極である。センサは、例えばガスセンサ、バイオセンサ(生体起源の分子認識機構を利用した化学センサ)などであり得るが、これらに限定されない。
【0096】
アンテナ用電極は、空間に電磁波を放射する、および/または、空間中の電磁波を受信するための電極である。アンテナ用電極が構成するアンテナは、携帯電話を始めとするモバイルコミュニケーション用のアンテナ(いわゆる3G、4G、5G用のアンテナ)や、RFID用のアンテナ、あるいはNFC(Near Field Communication)用のアンテナなど特に限定されない。
【0097】
電気刺激電極は、生体に電気的刺激を付与するための電極である。かかる電気的刺激は、生体、特に生体組織のうち、例えば、脊髄、脳、神経組織、筋組織等に付与され得るが、これらに限定されない。
【0098】
好ましくは、本実施形態の電極は、生体信号センシング電極として用いられ得る。本開示の電極は、インピーダンスが低いため、より空間解像度の高いセンシングに寄与し得るとことが期待され、EEG(脳波)、ECG(心電図)、EMG(筋電図)、EIT(電気インピーダンストモグラフィ)等の生体信号を測定するうえで有利に用いることができる。
【0099】
以上、本開示の1つの実施形態における電極およびかかる電極に用いられる2次元粒子について詳述したが、種々の改変が可能である。なお、本開示における電極および2次元粒子は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本開示の電極および2次元粒子の製造方法は、上述の実施形態における電極および2次元粒子を提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【0100】
本開示は、以下を含む。
[1]
2次元粒子を含む膜を備え、
前記2次元粒子は、金属カチオンと、1つまたは複数の層とを少なくとも有し、
前記層は、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であって、Ti原子を少なくとも含み、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記金属カチオンは、Liカチオンを含み、
前記2次元粒子における、Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対し、5.4モル以上である、電極。
[2]
前記2次元粒子における、前記Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対し、5.4モル以上9.7モル以下である、[1]に記載の電極。
[3]
生体信号センシング電極である、[1]または[2]に記載の電極。
[4]
2次元粒子を用いて膜を形成することを含み、
前記2次元粒子は、
(a)以下の式:
AX
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であって、Ti原子を少なくとも含み、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組合せであり、
Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される前駆体を準備すること、
(b)エッチング液を用いて、前記前駆体から少なくとも一部のA原子を除去することにより、エッチング処理物を得ること、
(c)前記エッチング処理物を洗浄して、エッチング洗浄処理物を得ること、および、
(d)前記エッチング洗浄処理物と、金属カチオンを含む金属化合物とを混合して、前記エッチング洗浄処理物に前記金属カチオンがインターカレートされた、インターカレーション処理物を得ること、を含み、
前記金属カチオンは、Liカチオンを含む、製造方法により製造される、
インターカレーション処理物を少なくとも含む、電極の製造方法。
[5]
前記2次元粒子は、
(e)前記インターカレーション処理物を撹拌して、前記インターカレーション処理物をデラミネートするデラミネーション処理を行い、デラミネーション処理物を得ること、を含む、製造方法により製造される、
デラミネーション処理物をさらに含む、[4]に記載の電極の製造方法。
[6]
前記2次元粒子は、
(e)上記インターカレーション処理物を撹拌して、上記インターカレーション処理物がデラミネートされた、デラミネーション処理物を得ること、
(f)前記デラミネーション処理物を洗浄して、デラミネーション洗浄処理物を得ること、を含む、製造方法により製造される、
デラミネーション洗浄処理物をさらに含む、[4]または[5]に記載の電極の製造方法。
[7]
前記2次元粒子は、前記金属カチオンと、1つまたは複数の層とを少なくとも有し、
前記層は、以下の式:

(式中、M、X、nおよびmは、上記と同意義である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記金属カチオンは、Liカチオンを含み、
前記2次元粒子において、Liカチオンの含有量は、Ti原子100モルに対し、5.4モル以上である、[4]~[6]のいずれか1つに記載の電極の製造方法。
【実施例
【0101】
以下の実施例により本開示を更に具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【0102】
[実験例1~6]
〔2次元粒子の作製〕
実験例1~6では、以下に詳述する、(1)、前駆体(MAX)の準備、(2)前駆体のエッチング、(3)洗浄、(4)インターカレーション、(5)デラミネーションおよび洗浄を順に実施して、インターカレーション処理物、デラミネーション処理物を作製した。
【0103】
(1)前駆体の準備
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1,350℃で2時間焼成した。得られた焼成体(ブロック)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、前駆体(MAX)としてTiAlC粒子を得た。
【0104】
(2)前駆体のエッチング
上記方法で調製したTiAlC粒子(粉末)を用い、下記エッチング条件でエッチングを行って、TiAlC粉末に由来する固体成分(エッチング処理物)を含む固液混合物(スラリー)を得た。

(エッチング条件)
・前駆体:TiAlC(目開き45μmふるい通し)
・エッチング液組成:49%HF 6mL
O 18mL
HCl(12M) 36mL
・前駆体投入量:3.0g
・エッチング容器:100mLアイボーイ
・エッチング温度:35℃
・エッチング時間:24h
・スターラー回転数:400rpm
【0105】
(3)洗浄
上記スラリーを2分割して、50mL遠沈管2本にそれぞれ挿入し、遠心分離機を用いて3500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄した。各遠沈管に純水35mLを追加し、再度3500Gで5分間遠心分離を行って上澄み液を分離除去する操作を11回繰り返した。最終遠心分離後に、上澄み液を廃棄し、Ti(エッチング洗浄処理物、以下「2次元粒子(c)」ともいう)と水分媒体とのクレイを得た。
【0106】
(4)インターカレーション
上記Ti(エッチング洗浄処理物)と水分媒体とのクレイに対し、LiCl 0.75gと、純水37.2gとを添加し、20℃以上25℃以下で24時間撹拌して、リチウムイオンをインターカレーターとするインターカレーションを行って、インターカレーション処理物(以下「2次元粒子(d)」ともいう)を得た。インターカレーションの詳細な条件は以下の通りである。
(インターカレーションの条件)
・Ti-水分媒体クレイ(エッチング洗浄処理物):固形分0.5g
・金属化合物:LiCl 0.75g
・インターカレーション容器:100mLアイボーイ
・温度:20℃以上25℃以下(室温)
・時間:24時間
・スターラー回転数:700rpm
【0107】
(5)デラミネーションおよび洗浄
インターカレーションを行って得られたスラリーを、50mL遠沈管に投入し、遠心分離機を用いて3,500Gの条件で5分間遠心分離を行った後、上澄み液を回収し、2次元粒子(デラミネーション処理物)を含むクレイを得た。さらに、純水35mLを追加してからシェーカーで15分間撹拌後に、3,500Gで5分間遠心分離し、上澄み液を単層MXene粒子含有液として回収する操作を、4回繰り返し、単層MXene粒子含有上澄み液を得た。さらに、この上澄み液に対し、遠心分離機を用いて4,300G、2時間の条件で遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、デラミネーション洗浄処理物(以下、「2次元粒子(f)」ともいう)を含むクレイを得た。
【0108】
〔スラリーの作製〕
50mL遠沈管に、上記エッチング洗浄処理物、インターカレーション処理物、デラミネーション洗浄処理物を、表1に示す割合となるように入れ、インターカレーション処理物とデラミネーション洗浄処理物とを合わせた2次元粒子の割合が1.5質量%となるように、純水を加えた。次いで、シェーカーで15分間撹拌して、スラリーを得た。
【0109】
〔電極の作製〕
25mLのシリンジに上記スラリーを入れ、このシリンジをスプレーコーターにセットした。次いで、3cm角のポリイミド基板をスプレーコーターの吸引付きステージにセットし、上記スラリーを15回塗布することで膜を形成し、ポリイミド基板と、該ポリイミド基板上に配置された未乾燥の膜とを備える積層体を得た。スプレーコートの際の条件は、以下の通りとした。
(スプレーコートの条件)
・霧化圧力:0.5MPa
・ノズル先端と基板の距離:15cm
・送液量:5mL/s
・掃引速度:150mm/s
・ステージヒーター:45℃
【0110】
常圧オーブンを用いて、80℃で2時間、次いで、真空で150℃終夜の条件で上記積層体を乾燥させて、ポリイミド基板と、該ポリイミド基板上に配置された膜とを備える電極を形成した。
【0111】
(インピーダンスの測定方法)
上記電極をカプトン(登録商標)テープで覆い、10mmφの開口部を持たせて作用極とした。対極として白金電極を用い、参照電極として、銀塩化銀電極を用いてビーカーセルを組んだ。なお、上記対極は、上記作用極の開口部より面積の大きいものを用いた。
【0112】
次いで、周波数を10Hzの範囲とし、電圧をオープンサーキットボルテージ、または、参照極に対して1mVrms~20mVrmsに設定し、プロット数を71点、1プロット当たりのN数を1~10として、ポテンショスタットモードで電気化学測定を行った。電気化学測定装置として、Bio-Logic Science Instruments社のVMP-300 高性能電気化学測定システム(16ch・アドバンスドモデル)を用いた。
【0113】
(誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)によるLi原子含有率の測定)
上記電極をアルカリ溶融法により溶液化し、得られた溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により測定して、2次元粒子に含まれる金属カチオンを検出した。ICP-AES測定には、iCAP6300(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)を用いた。
【0114】
結果を表1に示す。本開示の比較例に該当するものに記号「*」を付して示し、それ以外は本開示の実施例に該当する。
【0115】
【表1】
【0116】
実験例1~3は、本開示の実施例であり、インピーダンスが低い電極が得られた。実験例4~6は、金属カチオンの含有量が、Ti原子100モルに対し、5.4モルに満たない例であり、インピーダンスが十分に満足できるものではなかった。
【符号の説明】
【0117】
1a、1b 層本体(M層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10、10a、10b MXene粒子(層状材料の2次元粒子)
図1
図2