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特許7751857電場触媒およびそれを用いたガスの改質方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-01
(45)【発行日】2025-10-09
(54)【発明の名称】電場触媒およびそれを用いたガスの改質方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/83 20060101AFI20251002BHJP
   C01B 3/40 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
B01J23/83 M
C01B3/40
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023559644
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2022041582
(87)【国際公開番号】W WO2023085275
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2024-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2021182616
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】390001421
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】森 直哉
(72)【発明者】
【氏名】関根 泰
(72)【発明者】
【氏名】永川 華帆
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-254508(JP,A)
【文献】特開2010-118155(JP,A)
【文献】特開2017-087088(JP,A)
【文献】特開2020-070485(JP,A)
【文献】特開2019-195795(JP,A)
【文献】国際公開第2018/142787(WO,A1)
【文献】特開2010-155234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/40
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素改質反応に用いる電場触媒であって、
前記電場触媒はNi、Y、ZrおよびOからなり、
その組成:NiZr1-x-yのxおよびyが下記の式(1)および式(2)をそれぞれ満たし、
結晶構造が単斜晶を含まず、
前記Niとして、金属状態のNiおよび水酸化物状態のNiを含み、
前記Niの全量を100原子%としたときの前記金属状態のNiの含有量A(原子%)、前記水酸化物状態のNiの含有量B(原子%)について、
含有量Aが下記の式(3)を満たし、
含有量Aに対する含有量Bの比率αが下記の式(4)を満たす、電場触媒。

0.10≦x≦0.45・・・(1)
0.05≦y≦0.30・・・(2)
A≧30原子% ・・・(3)
0.15≦α≦0.63・・・(4)
【請求項2】
前記比率αは、下記の式(5)を満たす、請求項1の電場触媒。

0.25≦α≦0.45・・・(5)
【請求項3】
水素と水蒸気とを含む前処理ガスにより前処理されている、請求項1または2に記載の電場触媒。
【請求項4】
炭化水素改質反応用の電場触媒を用いた炭化水素ガスの改質方法であって、
工程1)前記電場触媒を準備する工程、ここで、
前記電場触媒は、Ni、Y、ZrおよびOからなり、その組成NiZr1-x-yのxおよびyが下記の式(1)および式(2)をそれぞれ満たし、
結晶構造が単斜晶を含まず、
前記Niとして、金属状態のNiおよび水酸化物状態のNiを含み、
前記Niの全量を100原子%としたときの前記金属状態のNiの含有量A(原子%)、前記水酸化物状態のNiの含有量B(原子%)について、
含有量Aが下記の式(3)を満たし、
含有量Aに対する含有量Bの比率αが下記の式(4)を満たす;および
工程2)前記電場触媒を423K以上673K以下の反応温度に加熱して電場を印加し、前記炭化水素ガスを改質する工程と、を含む、改質方法。

0.10≦x≦0.45・・・(1)
0.05≦y≦0.30・・・(2)
A≧30原子% ・・・(3)
0.15≦α≦0.63・・・(4)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電場触媒およびそれを用いたガスの改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭化水素の改質触媒として、酸化物担体と、酸化物担体上に担持されたNi、金属酸化物、およびアルカリ金属またはアルカリ土類金属とを含む炭化水素改質触媒が知られている(例えば、特許文献1)。
近年、電場を印可して使用する電場触媒が知られるようになってきた(例えば、特許文献2、3)。電場触媒は、電気エネルギーを付与して使用することにより、通常の触媒に比べて低温下で触媒反応を発現させることができるため、新たな触媒として注目されている。
【0003】
特許文献2では、電場触媒の成分として、Pt、Rh、Pd、Ru、Ir、Ni、Co、CeO、CoO、Co、CuO、ZnO、Mn、Bi、SnO、Fe、Fe、TiO、Nb、MgO、ZrO、La、Sm、Al、SiO及びCaOから成る群より選ばれた少なくとも1種を含むことができるとされている。
【0004】
特許文献3では、電場触媒の担体として、酸化セリウム(セリア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化ビスマスのいずれかを少なくとも1種含むものが挙げられている。また、活性金属としては、ロジウム、ルテニウム、白金、イリジウム、パラジウム、ニッケルが挙げられており、特に水蒸気改質反応における電場触媒では、ロジウム、ルテニウムの適用が好適であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-155234号公報
【文献】特許第5252479号明細書
【文献】特許第6444289号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電場触媒は新たな技術であるため、組成、組織等の最適化が十分に行われているとはいえず、未だ改良の余地がある。
そこで、本発明では、より高い触媒活性を有する電場触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの要旨によれば、
Ni、Y、ZrおよびOからなる電場触媒であって、
その組成:NiZr1-x-yのxおよびyが下記の式(1)および式(2)をそれぞれ満たし、
結晶構造が単斜晶を含まず、
前記Niとして、金属状態のNiおよび水酸化物状態のNiを含み、
前記Niの全量を100原子%としたときの前記金属状態のNiの含有量A(原子%)、前記水酸化物状態のNiの含有量B(原子%)について、
含有量Aが下記の式(3)を満たし、
含有量Aに対する含有量Bの比率αが下記の式(4)を満たす、電場触媒が提供される。

0.10≦x≦0.45・・・(1)
0.05≦y≦0.30・・・(2)
A≧30原子% ・・・(3)
0.15≦α≦0.63・・・(4)
【0008】
本発明の別の要旨によれば、
電場触媒を用いたガスの改質方法であって、
工程1)前記電場触媒を準備する工程、ここで、
電場触媒は、Ni、Y、ZrおよびOからなり、その組成NiZr1-x-yのxおよびyが下記の式(1)および式(2)をそれぞれ満たし、
結晶構造が単斜晶を含まず、
前記Niとして、金属状態のNiおよび水酸化物状態のNiを含み、
前記Niの全量を100原子%としたときの前記金属状態のNiの含有量A(原子%)、前記水酸化物状態のNiの含有量B(原子%)について、
含有量Aが下記の式(3)を満たし、
含有量Aに対する含有量Bの比率αが下記の式(4)を満たす;および
工程2)前記電場触媒を423K以上673K以下の反応温度に加熱して電場を印加し、前記ガスを改質する工程と、を含む、改質方法が提供される。

0.10≦x≦0.45・・・(1)
0.05≦y≦0.30・・・(2)
A≧30原子% ・・・(3)
0.15≦α≦0.63・・・(4)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より高い触媒活性を有する電場触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は、Yを含むZrOのXRDパターンであり、図1(b)~(d)はそれぞれ、正方晶、立法晶および単斜晶のピーク位置を示すグラフである。
図2図2は、電力効率と比率αとの関係を示すグラフである。
図3図3は、金属Ni、水酸化Niおよび酸化NiのNi2p光電子スペクトルである。
図4図4は、触媒粉末のXPS測定で得られたNi2p光電子スペクトルのフィッティング結果を示している。
図5図5は、電場触媒を用いたガス改質方法で使用する反応装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者らは、活性金属としてNi、担体としてイットリア安定化ジルコニアを用いた電場触媒に対象を絞って、触媒活性を向上するために鋭意研究を行った。その結果、担体が単斜晶を含まないこと、活性金属のNiが金属状態のNiと水酸化物状態のNiとを共に含み、かつ金属状態のNiに対する水酸化物状態のNiの含有量の比率を一定の範囲内に制御することにより、触媒活性を向上できることを初めて見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
以下に、本発明の実施形態に係る電場触媒について説明する。
【0013】
[実施形態1]
実施形態1に係る電場触媒は、Ni、Y、ZrおよびOからなり、基本構造としては、酸化物担体であるイットリア安定化ジルコニア(Zr,Y)Oに、活性金属のNiが担持されている。
電場触媒の組成は化学式NiZr1-x-yで表記され、化学式中のxおよびyは下記の式(1)および式(2)をそれぞれ満たしている。

0.10≦x≦0.45・・・(1)
0.05≦y≦0.30・・・(2)
【0014】
xおよびyの規定理由は以下の通りである。
xが0.10未満であると、Niの含有量が少ないため、触媒反応を発現させることができない。xが0.45を超えると、担体のジルコニアの正方晶および立方晶が安定化せず、単斜晶が析出してしまう。
なお、Niが多すぎると(例えばxが0.6以上)電場触媒は導電体となり、電場触媒を通じて電気が流れてしまう。そのため、触媒に電場がかからず、触媒の電力効率を低下させるおそれがある。
【0015】
yが0.05未満であると、Yの含有量が少なく、担体のジルコニアの正方晶および立方晶が安定化せず、単斜晶が析出してしまう。yが0.30を超えると、金属状態のNiの含有量が減って、後述する比率αが式(4)を満たすことが困難になる。
【0016】
実施形態1に係る電場触媒の結晶構造(実質的には、酸化物担体の結晶構造)は、単斜晶を含まない。つまり、結晶構造は、正方晶および立方晶の一方または両方のみからなる。
単斜晶を含むと活性触媒が低下するため、単斜晶を含まないことにより、電場触媒の触媒活性を高めることができる。
単斜晶の排除は、Niの含有量およびYの含有量を適正な範囲に制御することで達成できる。つまり、Niの含有量が式(1)を満たし、Yの含有量が式(2)を満たすように組成を調整することにより、単斜晶を含まず、正方晶および/または立方晶のみからなる電場触媒を形成することができる。
【0017】
結晶構造の同定は、粉末X線回折で行う。
図1は、代表的な、Yを含むZrOについてのXRDパターン(図1(a))と、各結晶構造のピーク位置を示している(図1(b)~(d))。図1(a)のXRDパターンは、CuKα線を用いて測定している。単斜晶の存在を顕著に示す2θ=28°付近のピーク((-111)面)と2θ=32°付近のピーク((111)面)が電場触媒のXRDパターンに存在する場合、単斜晶が存在すると判断する。
【0018】
実施形態1に係る電場触媒は、Niとして、金属状態のNi(以下「金属Ni」と称することがある)および水酸化物状態のNi(以下「水酸化Ni」と称することがある)を含んでおり、それらの含有量が以下の条件を満たしている。
Niの全量を100原子%としたときの金属状態のNiの含有量A(原子%)、水酸化物状態のNiの含有量B(原子%)について、
含有量Aが下記の式(3)を満たし、
含有量Aに対する含有量Bの比率αが下記の式(4)を満たす。

A≧30原子% ・・・(3)
0.15≦α≦0.63・・・(4)
【0019】
発明者らは、電場触媒中のNiの一部が水酸化Niとして含まれることにより、触媒活性を向上できることを初めて見いだした。そして、水酸化Niの適切な含有量についてさらに検討を進めた結果、金属Niの含有量に対する水酸化Niの含有量の比率αが、触媒活性と一定の相関性を有することを見いだした。
【0020】
上記の式(3)、(4)を満たすことにより、電場触媒の触媒活性を高めることができる。特に、低い反応温度(例えば573K以下)においても、高い触媒活性を達成することができる。
水酸化Niの存在によって触媒活性を向上できる理由は定かではないが、電場触媒反応では触媒表面に吸着したプロトンが活性に影響するとの反応機構が提案されており、このプロトンと酸素の結合状態である水酸化Niの水酸基(-OH)が、電場触媒の反応を促進するためであると推測される。
【0021】
比率αは、下記の式(5)を満たすことが好ましい。これにより、更に触媒活性を高めることができる。

0.25≦α≦0.45・・・(5)
【0022】
Niの全量を100原子%としたときの金属Niの含有量Aは、好ましくは35原子%以上である。言い換えると、含有量Aは下記の式(6)を満たすことが好ましい。

A≧35原子%・・・(6)
【0023】
触媒活性は、電力効率により確認することができる。電力効率は、反応生成エンタルピーΔH(Js-1)を、投入電力EP(Js-1)で除した指数であり、下記の式(7)で定義される。

電力効率(%)=ΔH(Js-1)/EP(Js-1)×100(%)・・・(7)

電力効率が9%以上であれば、高い触媒活性を有していると評価でき、電力効率が12%以上であると、より高い触媒活性を有していると評価でき、電力効率が15%以上であると、極めて高い触媒活性を有していると評価できる。
【0024】
後述するように、実施形態1に係る電場触媒の好適な製造方法においては、水素(H)を含む前処理ガスによる前処理を行っている。電場触媒は、水素(H)のみならず水蒸気(HO)をさらに含む前処理ガスにより前処理されていることがより好ましく、極めて高い触媒活性を達成することができる。
なお、後述する実施例の結果から、HとHOとを含む前処理ガスによって前処理を行うことにより、Hを含むがHOを含まない前処理ガスで前処理した電場触媒に比べて、触媒活性が顕著に向上することが確認できている。しかしながら、以下に説明するように、前処理ガスがHOを含むか否かによる電場触媒の変化は、何らかの物性値(例えば比率α)で確認することはできていない。
【0025】
図2は、触媒活性の指標である電力効率と、金属Niの含有量に対する水酸化Niの含有量の比率αとの関係を示すグラフである。水素(H)を含むが水蒸気(HO)を含まない前処理ガスにより前処理を行った電場触媒の結果を□印、水素(H)と水蒸気(HO)とを含む前処理ガスにより前処理を行った電場触媒の結果を●印でプロットしている。
【0026】
水素(H)を含むが水蒸気(HO)を含まない前処理ガスで前処理を行った電場触媒の場合、比率αが0.15未満または0.63超では電力効率が低く、0.15以上0.63以下の範囲では電力効率は大幅に向上して9%以上となる。そして、0.25以上0.45以下の範囲では、電力効率がさらに向上して12%以上となる(図2の□印)。
【0027】
一方、水素(H)と水蒸気(HO)とを含む前処理ガスで前処理を行った電場触媒では、0.15以上0.63以下の範囲では、電力効率は15%以上の高い値を示している(図2の●印)。しかしながら、同程度の比率αであっても、異なる電極効率を示す場合がある(後述する実施例9と10では、いずれも比率αが約0.34であるが、電力効率はそれぞれ約20%、約16%と大きく異なっている)。
【0028】
本発明では、活性金属Niを用いた電場触媒について、金属Niの含有量に対する水酸化Niの含有量の比率αを制御することにより、触媒活性を高めることを見いだしたものであり、図2から分かるように、比率αが0.15以上0.63以下の範囲において、実施形態1に係る電場触媒は高い触媒活性を有しているといえる。しかしながら、水素(H)と水蒸気(HO)とを含む前処理ガスで前処理を行った場合に、電場触媒がさらに高い触媒活性を示すことを、比率αとの関係で説明することは難しく、また他の物性値も検討したものの、触媒活性の向上効果との相関性を示す物性値を見いだすことはできていない。
そのため、本明細書では、水素と水蒸気とを含む前処理ガスにより前処理を行った電場触媒については、物性値で規定する代わりに、当該前処理ガスを用いて前処理を行ったことにより定義することとした。
【0029】
触媒中のNiは、金属状態(金属Ni)、水酸化物状態(水酸化Ni)の他の、酸化物状態(以下「酸化Ni」と称することがある)を取り得る。触媒中のNiの状態(金属状態、水酸化物状態、酸化物状態)は、X線光電子分光(XPS)によって同定することができる。以下に、XPSによる同定方法を詳しく説明する。
【0030】
必要な前処理を行った触媒粉末を、大気暴露することなく、Ar雰囲気のグローブボックス内に移送し、In箔に押し付けて固定して、XPS測定用試料とする。
試料をカーボンコーター(Gatan, Inc. PECS)用の試料台に両面テープで固定し、カーボンコーターにより1.5nmの導電性カーボン膜を試料表面に蒸着する。なお、グローブボックスから試料を取り出してカーボンコーターに移送するときに大気暴露するので、大気暴露による試料表面の状態変化を抑制するために、暴露時間は5分以内とする。
カーボンコーターから取り出した試料を、アルミナ板上にカーボンテープで固定し、それをXPSの試料台に固定して、超高真空のXPS装置に導入する。カーボンコーターからXPS装置に移送するときに大気暴露するので、大気暴露による試料表面の状態変化を抑制するために、暴露時間は5分以内とする。
【0031】
XPS装置としては、例えばアルバック・ファイ株式会社製PHI Quantesを用いることができる。X線ビームは、モノクロAl-Kα線(出力100W、20kV)とし、ビームサイズを100μmφとする。
【0032】
パスエネルギーを26.0eV、エネルギーステップを0.1eV、1ステップあたりの滞留時間を100msとして、表1に示す結合エネルギー範囲、掃引回数にて内殻光電子スペクトルを測定する。光電子スペクトル測定時の試料表面の帯電を補償するため、加速電圧30V、エミッション電流20μAで電子ビームを、また、加速電圧10V、エミッション電流5mAでArイオンビームを、同時に照射する。
【0033】
【表1】
【0034】
得られたNi2p光電子スペクトルにおいて、以下の手順により金属状態のNi(金属Ni)、水酸化物状態のNi(水酸化Ni)、および酸化物状態のNi(酸化Ni)の比を定量する。
【0035】
C1s光電子スペクトルに見られるC-C結合を示すピークが285eVとなるよう帯電シフトのエネルギー補正値を決定し、これをNi2p光電子スペクトルに適用して帯電シフトを補正する。次にバックグラウンドを除去するため、ベースラインの低結合エネルギー側、高結合エネルギー側の端点をそれぞれ848~850eV、888~902eVの範囲で変動させ、ベースラインの端点とNi2p光電子スペクトルの交点の位置がNi2p光電子スペクトルのノイズの中央付近になるように調整する。これらの調整後Interated Shirley法により光電子スペクトルのバックグラウンドを除去する。
【0036】
金属Niの金属箔、水酸化Niの粉末、および酸化Niの粉末の標準物質から得たNi2p光電子スペクトルを、それぞれ金属Ni、水酸化Ni、酸化Niのリファレンスとし、それらを線形結合することで、上記より得られたデータ処理後のNi2p光電子スペクトルに対し、最小二乗法によるフィッティングを行う。
標準物質のNi2p光電子スペクトルは、測定用試料と同一の測定条件により取得し、データ処理も同一とする。ただしNi金属の金属箔の場合は、測定前にArイオンスパッタリングにより酸化層を除去した後にXPS測定を実施し、金属状態を示すNi2p3/2のピークの結合エネルギー値が852.7eVとなるように帯電シフト補正する。
【0037】
最小二乗法によるフィッティングにおいては、試料のNi2p光電子スペクトルの帯電シフト補正の誤差および化学状態ごとの帯電の大きさの違いを考慮し、金属Ni、水酸化Ni、酸化Niの各リファレンスのNi2p光電子スペクトルのシフトを許容する。図3に、金属Ni(Ni-metal)、水酸化Ni(Ni(OH))および酸化Ni(NiO)の各リファレンスのNi2p光電子スペクトルを示す。金属Niはスペクトルのシフトに制約は設けず、水酸化Ni、酸化NiのNi2p光電子スペクトルは、金属NiのNi2p光電子スペクトルとの相対的な結合エネルギー差がそれぞれ1.4±0.2eV、3.2±0.2eVとなるように制約を設ける(図3)。なおフィッティング時のNi2p光電子スペクトルのシフトは0.025eVステップで変化させる。
【0038】
最小二乗法によるフィッティングにおいては、849~887eVの各エネルギー点のフィット誤差の二乗和が最小になるように各リファレンスのNi2p光電子スペクトルの強度にかける係数を変化させる。
フィッティング後、上記範囲において金属Ni、水酸化Ni、酸化NiのNi2p光電子スペクトルの面積強度を求め、これらの比率を化学状態比として算出する。フィッティング結果の実例を図4に示す。図4には、実測した触媒粉末のNi2p光電子スペクトル(Sample)と、金属Ni(Ni-metal)、水酸化Ni(Ni(OH))および酸化Ni(NiO)の各リファレンスのNi2p光電子スペクトルと、上記手法で作成したフィッティングカーブ(fit)とが示されている。
【0039】
XPS測定で得られた内殻光電子スペクトルのうち、C1sを除き、面積強度を算出し感度補正を行って元素の原子濃度を求めた。内殻光電子スペクトルのピークの裾が十分下がり切ったエネルギー点をベースラインの端点として設定し、Iterated Shirley法によりバックグラウンドを定義して各元素の内殻光電子スペクトルの面積強度を算出する。これらを相対感度補正係数で除して原子濃度を算出する。この演算処理はアルバック・ファイ株式会社製の解析ソフトMultiPakにて行い、相対感度係数は同ソフトが内蔵する値を用いる。
【0040】
(製造方法)
実施形態1の電場触媒を製造する方法は特に限定されないが、上記物性を有する電場触媒を再現性良く製造することができることから、以下の製造方法を採用することができる。
なお、本願の開示に接した当業者であれば、それらの記載に基づいて、実施形態1の電場触媒を製造可能な異なる方法に到達することもあり得る。
【0041】
電場触媒は、錯体重合法、固相法などから作製することができる。
以下に、一例として錯体重合法による製造方法を示す。
ジルコニウム、イットリウム、および、ニッケルの硝酸塩を所定の組成比なるように秤量し、エチレングリコールとクエン酸を蒸留水に溶かしたものに、溶解させる。その溶液をエバポレータで撹拌しながら適切な加熱温度、適切な加熱時間で加熱し、加熱後にホットスターラーで蒸発固化させる。適切な加熱温度、適切な加熱時間は、使用する原料、製造時の原料の投入量によって適宜設定することができ、一例としては、加熱温度は323K以上363K以下(例えば343K)であり、加熱時間は12時間以上48時以下間(例えば24時間)である。
【0042】
その後、適切な仮焼温度、適切な仮焼時間で仮焼する。適切な仮焼温度、適切な仮焼時間は、仮焼する材料の種類および量によって適宜設定することができ、一例としては、仮焼温度は573K以上873K以下(例えば673K)であり、仮焼時間は1時間以上12時間以下(例えば2時間)である。
【0043】
その後、適切な焼成温度、適切な焼成時間で本焼成し、触媒粉末を得る。適切な焼成温度、適切な焼成時間は、焼成する材料の種類および量によって適宜設定することができ、一例としては、加熱温度は1073K以上1473K以下(例えば1173K)であり、加熱時間は1時間以上24時間以下(例えば10時間)である。
【0044】
得られた触媒粉末を、粉末状態のまま、成型状態で、または成型後に粉砕した造粒粉の状態で、水素(H)を含む前処理ガスにより前処理を行う。水素(H)を含む前処理ガスを用いることにより、触媒粉末中に含まれるNiが一部還元されて、金属状態のNi(金属Ni)となる。前処理ガスは、水素(H)と水蒸気(HO)と含むことが好ましい。
前処理ガスは、水素(H)の他に、不活性ガスとしてArガス、Nガス、Heガス等を含んでもよい。また、前処理ガスは、水素と共に、又は水素に代えて、還元性ガスとしてメタン、プロパン等を含んでもよい。
【0045】
前処理は、例えば、673K以上1273K以下の前処理温度で、0.5時間以上5時間以下で行う。前処理ガスの流量は、前処理ガスの組成、前処理する触媒粉末の量に応じて、適切な流量に制御する。
前処理は、適切な加熱炉内、または触媒を用いるガス改質用反応器内で行うことができる。反応器内で前処理を行う場合、触媒を反応器の所定位置に充填した後、反応器内に前処理ガスを流通させながら触媒を加熱する。
【0046】
このようにして、実施形態1に係る電場触媒を得ることができる。
【0047】
[実施形態2]
実施形態2は、実施形態1に係る電場触媒を用いて、ガスを改質する方法である。
実施形態2の改質方法は、1)電場触媒を準備する工程と、2)改質する工程と、を含む。
【0048】
工程1)電場触媒を準備する工程
実施形態1に係る電場触媒を準備する工程である。
電場触媒を準備する工程は、例えば、原料を混合する工程、焼結する工程、得られた焼結した粉末を前処理ガスで処理する工程を含んでもよい。
準備された電場触媒、およびその準備工程については、実施形態1に記載されているとおりであるので、説明を省略する。
【0049】
工程2)改質する工程
電場触媒を423K以上673K以下の反応温度に加熱し、さらに電場を印加する。その状態の電場触媒に、改質すべきガス(例えば炭化水素)を接触させることにより、ガスを反応させる(改質する)。
改質する工程では、例えば、電極を備えた常圧固定床流通式反応器を用いて行うことができる。図5に、一対の電極13、14を備えた常圧固定床流通式反応器(反応装置)10の一例を示す。常圧固定床流通式反応器(反応装置)10は、反応容器12の内部に触媒15を支持するための支持手段16を備え、支持手段16の上に触媒15が配置されている。一対の電極13、14は、触媒15と直接接触している。改質する工程を行う際は、一対の電極13、14の間に電圧を印加して、触媒15に電場を付与する。
【0050】
触媒15の使用量は特に限定されず、使用する反応装置10、改質するガスの種類、供給量によって適宜調節する。また、触媒15は、反応容器12に粉末状態で充填してもよく、または予めディスク状に成型してから、反応容器12内に配置してもよく、さらには成型した後に粉砕して造粒した触媒造粒粉を用いてもよい。
【実施例1】
【0051】
(測定用触媒粉末の作製)
ジルコニウム、イットリウム、および、ニッケルの硝酸塩を表2に示す組成比なるように秤量し、エチレングリコールとクエン酸を蒸留水に溶かしたものに、溶解させた。その溶液をエバポレータで撹拌しながら保持温度343Kで24時間加熱し、加熱後にホットスターラーで蒸発固化させた。保持温度673K、保持時間2時間で仮焼した後、保持温度1173K、保持時間10時間で本焼成し、測定用の触媒粉末を得た。
【0052】
(結晶構造)
得られた触媒粉末の粉末XRD測定を行い、結晶構造を確認した。XRD測定は、CuKα線を用い、50(kV)、30(mA)の出力で実施した。
XRDパターンから、単斜晶(2θ=28°および32°のピーク)の存在の有無を確認した。
XRDパターンの2θ=28°および32°の位置にピークが確認できる場合は単斜晶が含まれていると判断し、確認できない場合は単斜晶が含まれていないと判断し、その結果を表2に示す。
【0053】
(Niの状態)
XPS分析により、Niの状態(金属状態、水酸化物状態、酸化物状態)を確認し、それぞれの状態にあるNi原子の含有量(原子%)を測定した。
【0054】
(活性評価)
得られた触媒粉末を金型に充填し、プレス機で60kN、10分間加圧し、ディスク形状に成型した。この成型試料を乳鉢で粉砕し、ふるいを用いて、355~500μmに分級した。分級した触媒造粒粉を用いて活性評価を行った。活性評価は、常圧固定床流通式反応器を用いて実施した。
外径8.0mm、内径6.0mmの石英管を反応管とし、ここに分級した触媒造粒粉を80mg充填した。反応管の上下から外径2mmの電極を挿入し、触媒に接触させた。
【0055】
前処理として、H:Ar=1:1、総流量120CCMで前処理ガスを流通し、炉温873K、保持時間1時間にて還元処理を実施した。
次いで、反応ガスを流通して、触媒反応を行った。反応条件は以下の通りであった。
・反応ガス流量:120CCM
・反応ガス組成:CH:HO:Ar=1:2:7
・印加電流 :9mA
・反応温度(炉温):473K
【0056】
反応後のガス組成を、ガスクロマトグラフィーで分析した。ここで確認したガス組成の結果は、以下に説明する「電極効率」において、式(8)で定義した「ΔH(Js-1)」を求める際に用いた。
なお、反応ガスの反応式は以下の通りである。

CH+HO→CO+3H
CO+HO→CO+4H
【0057】
(電力効率)
電場触媒の効率を調べるために、電力効率を求めた。電力効率の結果を表2に示す。
電力効率は、反応生成エンタルピーΔH(Js-1)を、投入電力EP(Js-1)で除した指数であり、下記の式(7)で定義される。

電力効率(%)=ΔH(Js-1)/EP(Js-1)×100(%)・・・(7)

ここで反応生成エンタルピーΔH(Js-1)は、上述した反応ガスの反応式に基づいて求めた反応生成エンタルピーであり、下記の式(8)で定義される。

ΔH=rCO×ΔHCO+rCO2×ΔHCO2-rCO×ΔHCH4-(rCO+2rCO2)×ΔHH2O・・・(8)

ここで、ΔHCO、ΔHCO2、ΔHCH4、およびΔHH2Oは、それぞれCO、CO、CH,およびHOのエンタルピーの値(kJ/mol)であり、それぞれの化学物質に特有の定数である。
CO、およびrCO2は、それぞれCO、およびCOの生成速度(mol/sec)であり、活性評価試験の結果から求める。

投入電力EPは、下記の式(9)の通り、電流Iと電圧Vとを掛けて求める。

EP(Js-1)=I(mA)×V(kV)・・・(9)
【0058】
測定結果を表2に示す。なお、表2において、下線を付した数値は、本発明の範囲から外れていることを示している。また、比較例1~4は単斜晶が確認されたため、XPS測定を行わなかった。そのため、表2において、比較例1~3および6の「Ni」の欄には線(-)を記載した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2の結果について考察する。
比較例1~3は、Yの含有量(y)が適切な範囲の下限より少ないため、正方晶および立方晶が安定化せず、単斜晶が析出していた。そのため、電力効率が低かった。
比較例4は、Yの含有量(y)が適切な範囲の上限より多いため、金属Niの割合が低く、αが適切な範囲から逸脱し、電力効率も低かった。
比較例5はNiの含有量が少なく、触媒反応が発現しなかった。
比較例6は、Niの含有量が多く、ジルコニアが安定化できなかった。そのため、正方晶および立方晶が安定化せず、単斜晶が析出していた。
【0061】
実施例1、2は、Ni=0.30において、それぞれY=0.05と0.10であり、また0.25<α<0.40の範囲内にあったため、電力効率が高かった。
実施例3は、Ni=0.30、Y=0.30であり、金属Niの含有量が低め、水酸化Niの含有量が高めであったため、αが大きくなる傾向があった。電力効率は十分に高かったが、実施例1、2よりは低かった。
実施例4は、Ni=0.10、Y=0.10であり、金属Niの含有量は高いものの、水酸化Niの含有量が高めであったため、αが大きくなる傾向があった。そのため、電力効率は十分に高かったが、実施例1、2よりは低かった。
【0062】
実施例5はNi=0.40、Y=0.10であり、0.25<α<0.40の範囲内にあったため、電力効率が高かった。
実施例6はNi=0.45、Y=0.10であり、金属Niの含有量が高め、水酸化Niの含有量が低めであったため、比率αが小さくなる傾向があった。電力効率は十分に高かったが、実施例1、2よりは低かった。
【実施例2】
【0063】
電場触媒を、水素(H)と水蒸気(HO)を含む前処理ガスで前処理した場合の効果について調べた。
【0064】
(測定用触媒粉末の作製)
ジルコニウム、イットリウム、および、ニッケルの硝酸塩を表3に示す組成比なるように秤量し、[実施例1]と同様の手順で、測定用の触媒粉末を得た。
【0065】
(結晶構造)
得られた触媒粉末の粉末XRD測定を行い、結晶構造を確認した。測定条件、確認方法は[実施例1]と同様であった。
【0066】
(Niの状態)
XPS分析により、Niの状態(金属状態、水酸化物状態、酸化物状態)を確認し、それぞれの状態にあるNi原子の含有量(原子%)を測定した。測定条件、確認方法は[実施例1]と同様であった。
【0067】
(活性評価)
前処理ガスとして、表3に示す組成を有するガスを使用する以外は、[実施例1]と同様に評価を行った。
【0068】
測定結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例8~10は、x=0.30、y=0.05の組成の触媒材料において、前処理ガスとして、Hと共に水蒸気(HO)を添加することにより、実施例1(水蒸気の添加なし)と比較して、電力効率が上昇した。実施例8~10の比率αは、0.20以上0.40以下の範囲であった。
【0071】
本願は、2021年11月9日付けで日本国にて出願された特願2021-182616に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0072】
10 常圧固定床流通式反応器(反応装置)
12 反応容器
13、14 一対の電極
15 触媒
16 支持手段
図1
図2
図3
図4
図5