(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-01
(45)【発行日】2025-10-09
(54)【発明の名称】電流制御装置、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/64 20160101AFI20251002BHJP
H02P 29/032 20160101ALI20251002BHJP
H02P 29/68 20160101ALI20251002BHJP
H02P 25/22 20060101ALI20251002BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20251002BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
H02P29/64
H02P29/032
H02P29/68
H02P25/22
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2024542359
(86)(22)【出願日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2023045009
(87)【国際公開番号】W WO2024128310
(87)【国際公開日】2024-06-20
【審査請求日】2024-07-17
(31)【優先権主張番号】P 2022200428
(32)【優先日】2022-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023008343
(32)【優先日】2023-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023078573
(32)【優先日】2023-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023081635
(32)【優先日】2023-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023104510
(32)【優先日】2023-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023121562
(32)【優先日】2023-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023203138
(32)【優先日】2023-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅彦
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-118583(JP,A)
【文献】特開2011-234525(JP,A)
【文献】特開2017-028886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/64
H02P 29/032
H02P 29/68
H02P 25/22
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子部品を含む電流制御回路と、
前記電流制御回路の付近に配置された温度検出素子を有する温度検出回路と、
前記複数の電子部品の各々に流れる電流値を検出又は推定する電流検出部と、
前記電流検出部が検出又は推定した電流値と、前記温度検出回路が検出した検出温度と、に基づいて、前記電子部品の温度である部品温度を前記複数の電子部品毎に推定する部品温度推定部と、
前記複数の電子部品毎に推定された前記部品温度に含まれる複数の異なる部品温度に対して複数の異なる低減係数をそれぞれ設定する低減係数設定部と、
前記複数の低減係数のいずれか1つを選択する選択部と、
選択された前記低減係数に基づいて前記電流制御回路から負荷に出力される出力電流を制限する電流制限部と、
を備え、
前記部品温度推定部は、前記複数の電子部品毎に、前記電子部品において発生する損失電力を推定し
て、互いに並列接続された又は互いに直列接続された複数の第1ローパスフィルタによって前記損失電力をフィルタ処理して得られた第1値と、前記温度検出回路が検出した検出温度を第2ローパスフィルタでフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて前記複数の電子部品のうちいずれかの電子部品の前記部品温度を推定
し、
前記低減係数設定部は、前記部品温度が高いほど前記低減係数をより低い値に設定し、
前記選択部は、前記複数の低減係数のうち最小の低減係数を選択し、
前記電流制限部は、前記選択された低減係数が小さいほど制限後の前記出力電流が小さくなるように前記出力電流を制限する、
ことを特徴とする電流制御装置。
【請求項2】
前記複数の第1ローパスフィルタは互いに並列接続されており、
前記複数の電子部品と前記温度検出素子とが同一の回路基板上に実装され、
前記複数の電子部品のうち前記いずれかの電子部品である第1部品の前記回路基板側とは反対側の面と、前記温度検出素子又は前記複数の電子部品のうち前記第1部品以外の第2部品の前記回路基板側とは反対側の面と、が同一のヒートシンクに熱的に結合されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電流制御装置。
【請求項3】
前記複数の第1ローパスフィルタは互いに直列接続されており、
前記いずれかの電子部品は、回路基板の第1面上に実装され、
前記第1面とは反対側の前記回路基板の第2面は、ヒートシンクに熱的に結合されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電流制御装置。
【請求項4】
前記部品温度推定部は、前記損失電力と所定ゲインとの乗算結果を前記複数の第1ローパスフィルタによってフィルタ処理して前記第1値を取得することを特徴とする請求項1に記載の電流制御装置。
【請求項5】
前記複数の第1ローパスフィルタは互いに並列接続されており、
前記部品温度推定部は、異なる複数の前記所定ゲインを前記損失電力に乗算してそれぞれ得られた複数の乗算結果を、前記複数の第1ローパスフィルタによってそれぞれフィルタ処理して得られた値の合計を、前記第1値として取得することを特徴とする請求項4に記載の電流制御装置。
【請求項6】
前記複数の第1ローパスフィルタのうち少なくとも1つは、2次以上のローパスフィルタであることを特徴とする請求項1に記載の電流制御装置。
【請求項7】
前記複数の第1ローパスフィルタは互いに直列接続されており、
前記部品温度推定部は、前記複数の電子部品のうち前記いずれかの電子部品以外の他の電子部品の前記部品温度を、互いに並列接続された複数の第2ローパスフィルタによって前記損失電力をフィルタ処理して得られた第3値と、前記温度検出回路が検出した検出温度を第2ローパスフィルタでフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて推定することを特徴とする請求項1に記載の電流制御装置。
【請求項8】
前記いずれかの電子部品は、回路基板の第1面上に実装され、
前記他の電子部品は、前記第1面とは反対側の前記回路基板の第2面上に実装され、
前記他の電子部品の前記回路基板側とは反対側の面がヒートシンクに熱的に結合されており、
前記回路基板の前記第2面は、前記他の電子部品、前記第2面上に実装された温度検出素子又は熱インタフェース材料を介して前記ヒートシンクに熱的に結合されている、
ことを特徴とする請求項7に記載の電流制御装置。
【請求項9】
前記部品温度推定部は、互いに並直列接続又は直並列接続された複数の第1ローパスフィルタによって前記損失電力をフィルタ処理して得られた第1値と、前記温度検出回路が検出した検出温度を第2ローパスフィルタでフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて前記複数の電子部品毎に前記部品温度を推定する、ことを特徴とする請求項1に記載の電流制御装置。
【請求項10】
前記電流制御回路はインバータ回路であり、
前記いずれかの電子部品は、前記インバータ回路の正極線と負極線とを接続する平滑コンデンサである、
ことを特徴とする請求項1に記載の電流制御装置。
【請求項11】
前記電流制御回路はインバータ回路であり、
前記複数の電子部品は、前記インバータ回路の正極線と負極線とを接続する平滑コンデンサを含み、
前記部品温度推定部は、前記インバータ回路の相電流の大きさに基づいて前記平滑コンデンサにおいて発生する損失電力を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電流制御装置。
【請求項12】
前記いずれかの電子部品は、前記平滑コンデンサであることを特徴とする請求項10に記載の電流制御装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の電流制御装置により、前記負荷として電動モータに供給する電流を制御することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項14】
請求項13に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置により制御される電動モータと、を備え、
前記電動モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流制御装置、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、電動パワーステアリング装置における操舵補助力を発生させるモータを駆動するモータ駆動回路の温度を検出し、検出された温度が閾値以上である場合には、モータの駆動電流を制限する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータのような負荷を駆動する駆動電流の制限を開始する部品温度の閾値を、最も温度上昇量の大きい部品に合わせて設定すると、安全のために閾値を小さな値に設定する必要が生じる。この結果、過度に早期に駆動電流が制限されることがある。
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、負荷を駆動する駆動電流を制御する電流制御回路の過熱保護において、電流制御回路に含まれている複数の電子部品のうち熱破損し易い部品の過熱を抑制しつつ、駆動電流の過度な制限を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による電流制御装置は、複数の電子部品を含む電流制御回路と、電流制御回路の付近に配置された温度検出素子を有する温度検出回路と、複数の電子部品の各々に流れる電流値を検出又は推定する電流検出部と、電流検出部が検出又は推定した電流値と、温度検出回路が検出した検出温度と、に基づいて、電子部品の温度である部品温度を複数の電子部品毎に推定する部品温度推定部と、複数の電子部品毎に推定された部品温度に含まれる複数の異なる部品温度に対して複数の異なる低減係数をそれぞれ設定する低減係数設定部と、複数の低減係数のいずれか1つを選択する選択部と、選択された低減係数に基づいて電流制御回路から負荷に出力される出力電流を制限する電流制限部と、を備える。部品温度推定部は、複数の電子部品毎に、電子部品において発生する損失電力を推定し、互いに並列接続された又は互いに直列接続された複数の第1ローパスフィルタによって損失電力をフィルタ処理して得られた第1値と、温度検出回路が検出した検出温度を第2ローパスフィルタでフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて複数の電子部品のうちいずれかの電子部品の部品温度を推定する。
【0006】
本発明の他の一態様によるモータ制御装置は、上記の電流制御装置により、負荷として電動モータに供給する電流を制御する。
本発明のさらなる他の一態様による電動パワーステアリング装置は、上記のモータ制御装置と、モータ制御装置により制御される電動モータと、を備え、電動モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、負荷を駆動する駆動電流を制御する電流制御回路の過熱保護において、電流制御回路に含まれている複数の電子部品のうち熱破損し易い部品の過熱を抑制しつつ、駆動電流の過度な制限を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
【
図2】実施形態の電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)の一例の概要を示す構成図である。
【
図4】電力変換回路が発生する熱を放出する放熱構造の模式図である。
【
図5】制御演算装置の機能構成の一例のブロック図である。
【
図6】第1実施形態の第1低減係数設定部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図7】ハイサイドFET温度推定部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図8】ハイサイドFET低減係数の特性マップの一例の模式図である。
【
図9】(a)~(c)は、部品低減係数の設定動作の一例の模式図である。
【
図10】バッテリ低減係数の特性マップの一例の模式図である。
【
図11】制御演算装置における処理の一例のフローチャートである。
【
図12】第2ローパスフィルタの効果を説明するための模式図である。
【
図13】第2実施形態の第1低減係数設定部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図14】両系統駆動モードと片系統駆動モードの各々における部品温度と温度センサの温度の傾向を調べるために特定の大きさの電流を流した場合のこれらの温度を示すグラフである。
【
図15】両系統駆動モードと片系統駆動モードの各々における部品温度と温度センサの温度との間の差分の傾向を調べるために特定の大きさの電流を流した場合のこれらの温度の差分を示すグラフである。
【
図16】(a)は換算ゲインの設定例を示す図であり、(b)は第1カットオフ周波数の設定例を示す図である。
【
図17】(a)~(c)は第1電流制御回路と第2電流制御回路との間の出力電流の配分比率と換算ゲインと第1カットオフ周波数の間の関係を示す模式図である。
【
図18】第4実施形態のハイサイドFET温度推定部の機能構成の第1例のブロック図である。
【
図19】(a)及び(b)は、それぞれ第1実施形態と第4実施形態における温度推定結果の模式図であり、(c)及び(d)は、それぞれ第1実施形態と第4実施形態における推定誤差の模式図である。
【
図20】(a)及び(b)は、電子部品からヒートシンクまでの放熱経路の模式図であり、(c)は(a)及び(b)の放熱経路を模式的に表現した等価回路図である。
【
図21】第4実施形態のハイサイドFET温度推定部の機能構成の第2例のブロック図である。
【
図22】第5実施形態のコンデンサ温度推定部の機能構成の第1例のブロック図である。
【
図23】(a)及び(b)は、それぞれ第1実施形態と第5実施形態における温度推定結果の模式図であり、(c)及び(d)は、それぞれ第1実施形態と第5実施形態における推定誤差の模式図である。
【
図24】(a)~(i)は、三相のFETをそれぞれ特定のデューティ比で駆動した場合における部品温度の推定結果の傾向を表すイメージ図である。
【
図25】(a)は、電子部品からヒートシンクまでの放熱経路の模式図であり、(b)は(a)の放熱経路を模式的に表現した等価回路図であり、(c)は第5実施形態のコンデンサ温度推定部の機能構成の第2例のブロック図である。
【
図26】(a)及び(b)は、電流制御回路に含まれる電子部品の部品温度を推定する部品温度推定部の第1変形例及び第2変形例のブロック図である。
【
図27】第6実施形態の電子制御ユニットの一例の概要を示す構成図である。
【
図28】第6実施形態のハイサイドFET温度推定部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図29】(a)~(d)は推定対象の部品温度の遅れ応答が第2検出温度の遅れ応答より遅い場合に、第1推定ゲインGe1に基づく部品温度の推定値に生じる誤差を説明するための模式図である。
【
図30】(a)は第2推定ゲインGe2の一例の模式図であり、(b)は第2推定ゲインGe2に基づく部品温度の推定値の模式図である。
【
図31】(a)~(c)は推定対象の部品温度の遅れ応答が第2検出温度の遅れ応答より速い場合に、第1推定ゲインGe1に基づく部品温度の推定値に生じる誤差を説明するための模式図であり、(d)は第2推定ゲインGe2の一例の模式図であり、(e)は第2推定ゲインGe2に基づく部品温度の推定値の模式図である。
【
図32】(a)はチョークコイルLaの部品温度の想定値の変化の一例を示す図であり、(b)は電源遮断FETQC2の部品温度の想定値の変化の一例を示す図であり、(c)は電源遮断FETQD2の部品温度の想定値の変化の一例を示す図であり、(d)は電源遮断FETQC1の部品温度の想定値の変化の一例を示す図であり、(e)は電源遮断FETQD1の部品温度の想定値の変化の一例を示す図である。
【
図33】(a)~(c)はチョークコイルからの放熱経路の第1例~第3例の模式図である。
【
図34】(a)及び(b)はそれぞれ第7実施形態の電源遮断FET温度推定部の機能構成の第1例及び第2例のブロック図である。
【
図35】電子制御ユニットの第1変形例の概要を示す構成図である。
【
図36】電子制御ユニットの第2変形例の概要を示す構成図である。
【
図37】電動パワーステアリング装置の第1変形例の概要を示す構成図である。
【
図38】電動パワーステアリング装置の第2変形例の概要を示す構成図である。
【
図39】電動パワーステアリング装置の第3変形例の概要を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
また、以下の説明では、電動パワーステアリングの操舵補助力を発生する電動モータの駆動電流を供給する電流制御装置に本発明を適用する場合について記載するが、本発明は、電動パワーステアリング装置やモータへの適用に限定されるものではなく、さまざまな用途に広く適用可能である。例えば、ロボットの間接を駆動するアクチュエータの駆動電流を供給する電流制御装置に本発明を適用してもよく、モータ以外の電気的デバイス(例えば発光ダイオード等、又はプリドライバもしくはマイコン等のIC)の駆動電流を供給する電流制御装置に本発明を適用してもよい。
【0010】
(第1実施形態)
(構成)
図1は、実施形態の電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置の一例の概要を示す構成図である。ステアリングホイール(操向ハンドル)1の操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は、減速機構を構成する減速ギア(ウォームギア)3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、更にハブユニット7a、7bを介して操向車輪8L、8Rに連結されている。
【0011】
ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフトに連結されたピニオン5aと、このピニオン5aに噛合するラック5bとを有し、ピニオン5aに伝達された回転運動をラック5bで車幅方向の直進運動に変換する。
操舵軸2には操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、操舵軸2には、ステアリングホイール1の操舵角θhを検出する操舵角センサ14が設けられている。
【0012】
また、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20は、減速ギア3を介して操舵軸2に連結されている。モータ20は、例えば多相モータであってよい。以下の説明では、同じモータハウジング内に第1系統コイルと第2系統コイルが巻き回されて2つの系統のコイルにより共通のロータを回転させる2重巻線を有する三相モータの例について説明するが、モータ20は、2重巻線モータ以外のモータであってもよく、モータ20の相数は3相でなくてもよい。ステアリングホイール1の操舵力を補助する複数のモータ20を同一の操舵軸2に連結してもよい。
【0013】
電動パワーステアリング装置を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)30には、バッテリ13から電力が供給されるとともに、イグニションスイッチ11を経てイグニションキー信号が入力される。
ECU30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された操舵角θhに基づいてアシスト制御指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値によってモータ20に供給する電流(第1系統コイルのA相電流I1a、B相電流I1b、C相電流I1cと、第2系統コイルのA相電流I2a、B相電流I2b、C相電流I2c)を制御する。ECU30は、特許請求の範囲に記載の「電流制御装置」及び「モータ制御装置」の一例である。
【0014】
なお、操舵角センサ14は必須のものではなく、モータ20の回転軸の回転角度を検出する回転角センサ23aから得られるモータ回転角θmと減速ギア3のギア比との積に、トルクセンサ10のトーションバーの捩れ角を加えて操舵角θhを算出してもよい。回転角センサ23aには、例えば、モータの回転位置を検出するレゾルバや、モータ20の回転軸に取り付けられた磁石の磁界を検出する磁気センサが利用できる。また、操舵角θhに代えて、操向車輪8L、8Rの転舵角を用いてもよい。例えばラック5bの変位量を検出することにより転舵角を検出してもよい。
【0015】
ECU30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを含む。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明するECU30の機能は、例えばECU30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0016】
なお、ECU30を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、ECU30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を含んでいてもよい。例えばECU30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0017】
図2は、実施形態のECU30の一例の概要を示す構成図である。ECU30は、モータ回転角検出回路23と、制御演算装置31a及び31bと、第1モータ電流遮断回路33A及び第2モータ電流遮断回路33Bと、第1ゲート駆動回路41A及び第2ゲート駆動回路41Bと、第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bと、第1電源遮断回路44A及び第2電源遮断回路44Bと、温度検出回路45A及び45Bを備える。
ECU30には、コネクタCNTを介してバッテリ13からの電力を伝送する電力配線PWaが接続される。電力配線PWaの正極側電源ラインLpaは、チョークコイルLaとセラミックコンデンサCa1及びCa2により形成されたEMC(Electromagnetic Compatibility)フィルタ等のノイズフィルタ回路を経由した後に分岐点Pbにて分岐する。分岐点Pbにて分岐した正極側電源ラインLpaの一方は、制御演算装置31aと第1電源遮断回路44Aに接続され、他方は制御演算装置31bと第2電源遮断回路44Bに接続される。
【0018】
チョークコイルLaの一端が正極側電源ラインLpaとセラミックコンデンサCa1の一端とに接続され、チョークコイルLaの他端が、セラミックコンデンサCa2の一端と分岐点Pbとに接続され、セラミックコンデンサCa1及びCa2の他端は接地されている。一方で、電力配線PWaの負極側ラインは、ECU30の接地線に接続される。
電圧検出回路34Aは、第1電源遮断回路44Aから第1電力変換回路42Aへ供給される電源電圧VRAを検出し、制御演算装置31aに出力する。電圧検出回路34Bは、第2電源遮断回路44Bから第2電力変換回路42Bへ供給される電源電圧VRBを検出し、制御演算装置31bに出力する。
【0019】
制御演算装置31a及び31bには、コネクタCNTを介してトルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された操舵角θhの信号が伝送される。
制御演算装置31aは、少なくとも操舵トルクThに基づいて、モータ20の駆動電流の制御目標値である電流指令値を演算し、電流指令値に補償等を施して得られる電圧制御指令値V1a、V1b、V1cを、第1ゲート駆動回路41Aに出力する。電圧制御指令値V1a、V1b、V1cは、それぞれ第1系統コイルのA相電圧制御指令値、B相電圧制御指令値、C相電圧制御指令値である。
【0020】
制御演算装置31bは、少なくとも操舵トルクThに基づいて、モータ20の駆動電流の制御目標値である電流指令値を演算し、電流指令値に補償等を施して得られる電圧制御指令値V2a、V2b、V2cを、第2ゲート駆動回路41Bに出力する。電圧制御指令値V2a、V2b、V2cは、それぞれ第2系統コイルのA相電圧制御指令値、B相電圧制御指令値、C相電圧制御指令値である。
なお、制御演算装置31aと制御演算装置31bとを単一の制御演算装置に統合してもよい。
【0021】
第1電源遮断回路44Aは、2つの電源遮断電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)QC1及びQC2がソース同士を接続して寄生ダイオードが逆向きとなる直列回路構成を有し、正極側電源ラインLpaと第1電力変換回路42Aとの間を接続又は遮断する。電源遮断FETQC1のドレインが正極側電源ラインLpaに接続され、電源遮断FETQC2のドレインが第1電力変換回路42AのハイサイドFETQ1、Q3及びQ5のドレインに接続されている。制御演算装置31aは、電源遮断FETQC1及びQC2の通電と遮断とをそれぞれ制御する制御信号SsA及びSpAを第1ゲート駆動回路41Aに出力する。第1ゲート駆動回路41Aは、制御信号SsA及びSpAに応じて電源遮断FETQC1及びQC2のゲート信号をそれぞれ出力して、電源遮断FETQC1及びQC2のオンオフを制御する。なお、電源遮断FETQC2は、直流電源であるバッテリ13の極性を誤って反対に接続した場合の故障を防止するために、直流電源とインバータとの間に接続されてインバータ側から直流電源側へ流れる電流を阻止する逆接続保護電界効果トランジスタとして機能する。
【0022】
また、第2電源遮断回路44Bは、2つの電源遮断FETQD1及びQD2がソース同士を接続して寄生ダイオードが逆向きとなる直列回路構成を有し、正極側電源ラインLpaと第2電力変換回路42Bとの間を接続又は遮断する。電源遮断FETQD2も、逆接続保護電界効果トランジスタとして機能する。電源遮断FETQD1のドレインは正極側電源ラインLpaに接続され、電源遮断FETQD2のドレインが第2電力変換回路42BのハイサイドFETQ1、Q3及びQ5のドレインに接続されている。制御演算装置31bは、電源遮断FETQD1及びQD2の通電と遮断とをそれぞれ制御する制御信号SsB及びSpBを第2ゲート駆動回路41Bに出力する。第2ゲート駆動回路41Bは、制御信号SsB及びSpBに応じて電源遮断FETQD1及びQD2のゲート信号をそれぞれ出力して、電源遮断FETQD1及びQD2のオンオフを制御する。
【0023】
第1ゲート駆動回路41Aは、制御演算装置31aから電圧制御指令値V1a、V1b、V1cが入力されると、これらの電圧制御指令値V1a、V1b、V1cと三角波のキャリア信号に基づいてパルス幅変調(PWM)した6つのゲート信号を形成する。そして、これらゲート信号を第1電力変換回路42Aに出力する。
第2ゲート駆動回路41Bは、制御演算装置31bから電圧制御指令値V2a、V2b、V2cが入力されると、これらの電圧制御指令値V2a、V2b、V2cと三角波のキャリア信号に基づいてパルス幅変調した6つのゲート信号を形成する。そして、これらゲート信号を第2電力変換回路42Bに出力する。
【0024】
第1電力変換回路42Aは、スイッチング素子であるFETにより構成された3つのスイッチングアームSWAa、SWAb及びSWAcを有するインバータと、電解コンデンサCA1及びCA2とを備える。
スイッチングアームSWAa、SWAb及びSWAcは互いに並列に接続されている。A相のスイッチングアームSWAaは、直列接続されたハイサイドFETQ1及びローサイドFETQ2を備え、B相のスイッチングアームSWAbは、直列接続されたハイサイドFETQ3及びローサイドFETQ4を備え、C相のスイッチングアームSWAcは、直列接続されたハイサイドFETQ5及びローサイドFETQ6を備える。
【0025】
各FETQ1~Q6のゲートに第1ゲート駆動回路41Aから出力されるゲート信号が入力され、このゲート信号により、各スイッチングアームSWAa、SWAb及びSWAcのFET間の接続点からA相電流I1a、B相電流I1b、C相電流I1cが第1モータ電流遮断回路33Aを介してモータ20の第1系統コイルのA相巻線、B相巻線及びC相巻線に通電される。
電解コンデンサCA1及びCA2は、第1電力変換回路42Aに対するノイズ除去機能及び電力供給補助機能を備えている。電解コンデンサCA1及びCA2は、例えば導電性高分子と電解液を融合した電解質が採用されたハイブリッドコンデンサであってよい。
【0026】
第2電力変換回路42Bは、スイッチング素子であるFETにより構成された3つのスイッチングアームSWBa、SWBb及びSWBcを有するインバータと、電解コンデンサCB1及びCB2とを備える。
スイッチングアームSWBa、SWBb及びSWBcは互いに並列に接続されている。A相のスイッチングアームSWBaは、直列接続されたハイサイドFETQ1及びローサイドFETQ2を備え、B相のスイッチングアームSWBbは、直列接続されたハイサイドFETQ3及びローサイドFETQ4を備え、C相のスイッチングアームSWBcは、直列接続されたハイサイドFETQ5及びローサイドFETQ6を備える。
【0027】
各FETQ1~Q6のゲートに第2ゲート駆動回路41Bから出力されるゲート信号が入力され、このゲート信号により、各スイッチングアームSWBa、SWBb及びSWBcのFET間の接続点からA相電流I2a、B相電流I2b、C相電流I2cが第2モータ電流遮断回路33Bを介してモータ20の第2系統コイルのA相巻線、B相巻線及びC相巻線に通電される。
電解コンデンサCB1及びCB2は、第2電力変換回路42Bに対するノイズ除去機能及び電力供給補助機能を備えている。電解コンデンサCB1及びCB2は、例えばハイブリッドコンデンサであってよい。
【0028】
なお、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bは、ステアリングホイール1の操舵を補助する操舵補助力をそれぞれ発生する2つの異なるモータに三相電流を供給する電力変換回路であってもよい。例えばこれら2つの異なるモータは、減速ギアを介して同一の操舵軸2に連結されていてもよい。
【0029】
第1電力変換回路42AのスイッチングアームSWAa、SWAb及びSWAcの下側アームを形成するローサイドFETQ2、Q4及びQ6の各ソース側には、電流検出回路39A1、39B1及び39C1が設けられる。電流検出回路39A1、39B1及び39C1は、それぞれスイッチングアームSWAa、SWAb及びSWAcの下流側電流が流れるシャント抵抗を備える。電流検出回路39A1、39B1及び39C1は、シャント抵抗における電圧降下に基づいて第1系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流を検出し、その検出値I1ad、I1bd、I1cdを出力する。
第2電力変換回路42BのスイッチングアームSWBa、SWBb及びSWBcの下側アームを形成するローサイドFETQ2、Q4及びQ6の各ソース側には、電流検出回路39A2、39B2及び39C2が設けられる。電流検出回路39A2、39B2及び39C2は、それぞれスイッチングアームSWBa、SWBb及びSWBcの下流側電流が流れるシャント抵抗を備える。電流検出回路39A2、39B2及び39C2は、シャント抵抗における電圧降下に基づいて第2系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流を検出し、その検出値I2ad、I2bd、I2cdを出力する。
【0030】
第1モータ電流遮断回路33Aは、モータの相電流を遮断するための3つの相遮断FETQA1、QA2及びQA3を有する。相遮断FETQA1のソースが第1電力変換回路42AのスイッチングアームSWAaのFETQ1及びQ2の接続点に接続され、ドレインがモータ20の第1系統コイルのA相巻線に接続されている。相遮断FETQA2のソースがスイッチングアームSWAbのFETQ3及びQ4の接続点に接続され、ドレインが第1系統コイルのB相巻線に接続されている。相遮断FETQA3のソースがスイッチングアームSWAcのFETQ5及びQ6の接続点に接続され、ドレインが第1系統コイルのC相巻線に接続されている。
制御演算装置31aは、第1モータ電流遮断回路33Aの通電と遮断とを制御する制御信号SmAを第1ゲート駆動回路41Aに出力する。第1ゲート駆動回路41Aは、制御信号SmAに応じて相遮断FETQA1~QA3のゲート信号を出力して、第1電力変換回路42Aからモータ20へのA相電流I1a、B相電流I1b、C相電流I1cを通電又は遮断する。
【0031】
第2モータ電流遮断回路33Bは、モータの相電流を遮断するための3つの相遮断FETQB1、QB2及びQB3を有する。相遮断FETQB1のソースが第2電力変換回路42BのスイッチングアームSWBaのFETQ1及びQ2の接続点に接続され、ドレインがモータ20の第2系統コイルのA相巻線に接続されている。相遮断FETQB2のソースがスイッチングアームSWBbのFETQ3及びQ4の接続点に接続され、ドレインが第2系統コイルのB相巻線に接続されている。相遮断FETQB3のソースがスイッチングアームSWBcのFETQ5及びQ6の接続点に接続され、ドレインが第2系統コイルのC相巻線に接続されている。
制御演算装置31bは、第2モータ電流遮断回路33Bの通電と遮断とを制御する制御信号SmBを第2ゲート駆動回路41Bに出力する。第2ゲート駆動回路41Bは、制御信号SmBに応じて相遮断FETQB1~QB3のゲート信号を出力して、第2電力変換回路42Bからモータ20へのA相電流I2a、B相電流I2b、C相電流I2cを通電又は遮断する。
なお、ハイサイドFETQ1、Q3及びQ5、ローサイドFETQ2、Q4及びQ6、相遮断FETQA1~QA3及びQB1~QB3、電源遮断FETQC1、QC2、QD1及びQD2として、例えば、シリコンデバイスを用いてもよく、シリコンカーバイトデバイスを用いてもよい。
【0032】
モータ回転角検出回路23は、回転角センサ23aから検出値を取得し、モータ20の回転軸の回転角度であるモータ回転角θmを検出する。モータ回転角検出回路23は、モータ回転角θmを制御演算装置31a及び31bへ出力する。
温度検出回路45Aは、第1電力変換回路42Aの付近に互いに近接して配置された2つの温度センサを備える。温度検出回路45Bは、第2電力変換回路42Bの付近に互いに近接して配置された2つの温度センサを備える。これらの温度センサは、特許請求の範囲に記載された「温度検出素子」の一例である。なお、温度センサの配置位置は第1電力変換回路42Aや第2電力変換回路42Bの付近でなくともよい。温度センサは、ECU30の発熱し易い場所に配置されていれば足りる。
【0033】
温度検出回路45Aは、2つの温度センサのうち一方のセンサの出力に基づくECU30の温度の検出信号SdA1と、他方のセンサの出力に基づくECU30の温度の検出信号SdA2とを、制御演算装置31aへ出力する。温度検出回路45Bは、2つの温度センサのうち一方のセンサの出力に基づくECU30の温度の検出信号SdB1と、他方のセンサの出力に基づくECU30の温度の検出信号SdB2を制御演算装置31bへ出力する。
これらの温度センサは例えばサーミスタであってよい。温度検出回路45A及び45Bは、サーミスタの抵抗値に応じてECU30の温度を検出するサーミスタ処理回路を備えてよい。
【0034】
図3は、温度検出回路45Aの一例の回路図である。温度検出回路45Aは、温度センサ45A1及び温度センサ45A2としてのサーミスタと固定抵抗R1及びR2とがそれぞれ直列接続された分圧回路と、コンデンサCt1及びCt2とを有する。温度検出回路45Bも同様の構成を備える。
サーミスタ45A1と固定抵抗R1とで構成された分圧回路は、サーミスタ45A1の抵抗値と固定抵抗R1の抵抗値の比で所定電圧Vccを分圧し、分圧により得られた値を検出信号SdA1として制御演算装置31aに出力する。サーミスタ45A2と固定抵抗R2とで構成された分圧回路は、サーミスタ45A2の抵抗値と固定抵抗R2の抵抗値の比で所定電圧Vccを分圧し、分圧により得られた値を検出信号SdA2として制御演算装置31aに出力する。
【0035】
図4は、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bが発生する熱を放出する放熱構造の模式図である。参照符号36は回路基板を示し、回路基板36の表面ffと裏面frには第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bの電子部品が実装されている。参照符号37は、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bが発生する熱を放出する放熱部材37を示す。放熱部材37は、例えばアルミ合金などの熱伝導性のよい金属で形成されたヒートシンクであってよい。
第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bの各々に含まれる電子部品はヒートシンク37を通して放熱する。回路基板36の表面ffに実装された電子部品の回路基板36と反対側の面f1と、温度検出回路45Aの温度センサ45A1及び45A2の回路基板36と反対側の面f2とは、同一のヒートシンク37に熱的に接続されている。また、回路基板36の裏面frに実装された電子部品は、回路基板36を貫通するビアを経由して同じヒートシンク37に熱的に接続されている。
例えば、導電性ペースト(例えば放熱グリス)のような熱インタフェース材料(TIM:Thermal Interface Material)38a及び38bをそれぞれ介して面f1及びf2をヒートシンク37に接触させ、熱インタフェース材料38cとビアを介して、裏面frに実装された電子部品をヒートシンク37に接触させる。
温度検出回路45Bの温度センサも、温度センサ45A1及び45A2と同様な構成でヒートシンク37に熱的に接続されている。
【0036】
図2を参照する。制御演算装置31aは、図示しないA/D変換部を介して、第1系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流の検出値I1ad、I1bd、I1cdと、ECU30の温度の検出信号SdA1、SdA2を取得する。制御演算装置31bは、図示しないA/D変換部を介して、第2系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流の検出値I2ad、I2bd、I2cdと、ECU30の温度の検出信号SdB1、SdB2を取得する。以下の説明において、検出信号SdA1及びSdA2を総称して「SdA」と表記し、検出信号SdB1、SdB2を総称して「SdB」と表記することがある。
【0037】
制御演算装置31aと制御演算装置31bはCAN(Controller Area Network)などの通信回線35で接続されており、互いにデータを送受信できる。
例えば制御演算装置31aは、第1系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流の検出値I1ad、I1bd、I1cdに基づいて、バッテリ13から第1系統コイルに流れるバッテリ電流Ibat1を算出して制御演算装置31bに送信してよい。制御演算装置31bも同様に、第2系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流の検出値I2ad、I2bd、I2cdに基づいて、バッテリ13から第2系統コイルに流れるバッテリ電流Ibat2を算出して制御演算装置31aに送信してよい。
【0038】
制御演算装置31aは、モータ20の第1系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流の検出値I1ad、I1bd、I1cdと、バッテリ電流Ibat1、Ibat2と、電源電圧VRAと、温度検出回路45Aが出力する検出信号SdAとに基づいて、第1系統コイルを駆動する電流を制御する第1電流制御回路40Aを構成する複数の電子部品の温度である部品温度を推定する。
【0039】
制御演算装置31aは、第1電流制御回路40Aを構成する電子部品として、例えば、第1電力変換回路42AのハイサイドFETQ1、Q3、Q5や、ローサイドFETQ2、Q4、Q6や、電解コンデンサCA1、CA2や、電流検出回路39A1、39B1、39C1のシャント抵抗や、相遮断FETQA1、QA2、QA3や、電源遮断FETQC1、QC2の部品温度を推定してよい。
【0040】
制御演算装置31bも同様に、モータ20の第2系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流の検出値I2ad、I2bd、I2cdと、バッテリ電流Ibat1、Ibat2と、電源電圧VRBと、温度検出回路45Bが出力する検出信号SdBとに基づいて、第2系統コイルを駆動する電流を制御する第2電流制御回路40Bを構成する複数の電子部品の温度である部品温度を推定する。
【0041】
制御演算装置31bは、第2電流制御回路40Bを構成する電子部品として、例えば、第2電力変換回路42BのハイサイドFETQ1、Q3、Q5や、ローサイドFETQ2、Q4、Q6や、電解コンデンサCB1、CB2や、電流検出回路39A2、39B2、39C2のシャント抵抗や、相遮断FETQB1、QB2、QB3や、電源遮断FETQD1、QD2の部品温度を推定してよい。
また、制御演算装置31a及び31bは、第1電流制御回路40Aと第2電流制御回路40Bの共通の電子部品として、ノイズフィルタ回路のチョークコイルLaの部品温度を推定してよい。
【0042】
また、制御演算装置31aは、温度検出回路45Aが出力する検出信号SdAに基づいてECU30の温度を推定する。制御演算装置31bは、温度検出回路45Bが出力する検出信号SdBに基づいて、ECU30の温度を推定する。以下の説明において、ECU30の温度を「ECU温度」と表記する。
また制御演算装置31aは、第1系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流の検出値I1ad、I1bd、I1cdとECU温度に基づいてモータ20の温度(例えば第1系統コイルの巻き線の温度)を推定する。制御演算装置31bは、第2系統コイルのA相電流、B相電流、C相電流の検出値I2ad、I2bd、I2cdとECU温度に基づいてモータ20の温度(例えば第2系統コイルの巻き線の温度)を推定する。以下の説明において、モータ20の温度を「モータ温度」と表記することがある。
【0043】
制御演算装置31aは、推定した部品温度、ECU温度及びモータ温度と、バッテリ13の出力端子間の電圧であるバッテリ電圧Vbat1とに基づいて、第1系統コイルを駆動する電流を制限する。制御演算装置31bも同様に、推定した部品温度、ECU温度及びモータ温度と、バッテリ電圧Vbat1とに基づいて、第2系統コイルを駆動する電流を制限する。
【0044】
次に制御演算装置31a及び31bについて説明する。
図5は、制御演算装置31aの機能構成の一例のブロック図である。制御演算装置31bも同様の構成を有する。
制御演算装置31aは、電流指令値演算部50と、電流制限部51と、減算器52及び53と、比例積分(PI:Proportional-Integral)制御部54と、2相/3相変換部55と、3相/2相変換部56と、角速度変換部57と、第1低減係数設定部60と、第2低減係数設定部70と、第3低減係数設定部71を備えており、モータ20をベクトル制御で駆動する。
【0045】
電流指令値演算部50は、操舵トルクThと、車速Vhと、モータ20のモータ回転角θmと、モータ20の回転角速度ωに基づいてモータ20に流すべきq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を演算する。
電流制限部51は、第1低減係数設定部60が設定した部品低減係数K1と、第2低減係数設定部70が設定したECU低減係数K2及びモータ低減係数K3と、第3低減係数設定部71が設定したバッテリ低減係数K4とに基づいて、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限し、制限後のq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を出力する。部品低減係数K1と、ECU低減係数K2と、モータ低減係数K3と、バッテリ低減係数K4については後述する。
【0046】
電流検出回路39A1、39B1、39C1により検出されたモータ20の第1系統コイルのA相電流、B相電流及びC相電流の検出値I1ad、I1bd、I1cdは、3相/2相変換部56でd-q2軸の電流id、iqに変換される。
減算器52及び53は、フィードバックされた電流iq、idをq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1からそれぞれ減じることにより、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdを算出する。
【0047】
PI制御部54は、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdを各々0とするような電圧指令値vq、vdを算出する。2相/3相変換部55は、電圧指令値vd、vqを、モータ20の第1系統のA相電圧制御指令値V1a、B相電圧制御指令値V1b、C相電圧制御指令値V1cにそれぞれ変換して、第1ゲート駆動回路41Aへ出力する。
角速度変換部57は、モータ回転角θmの時間的変化に基づいてモータ20の回転角速度ωを算出する。これらモータ回転角θm及び回転角速度ωは、電流指令値演算部50に入力されてベクトル制御に使用される。
【0048】
図6は、第1実施形態の第1低減係数設定部60の機能構成の一例のブロック図である。第1低減係数設定部60は、第1電流制御回路40Aを構成する複数の電子部品の各々の部品温度を推定する。第1低減係数設定部60は、複数の電子部品毎に推定された部品温度に基づいて、第1系統コイルを駆動する電流を制限するための低減係数を複数個設定する。例えば、複数の電子部品毎に推定された部品温度に含まれる複数の異なる部品温度に対して複数の異なる低減係数をそれぞれ設定する。
【0049】
例えば第1低減係数設定部60は、電子部品の種類や、第1電流制御回路40A内における接続関係等に基づいて複数の電子部品を複数のグループに分類分けし、各グループ毎に低減係数を設定してよい。第1低減係数設定部60は、これら複数個の制限係数のいずれか1つを部品低減係数K1として選択して出力する。
第1低減係数設定部60は、ハイサイドFET温度推定部61a1~61a3と、ローサイドFET温度推定部61b1~61b3と、シャント抵抗温度推定部61c1~61c3と、相遮断FET温度推定部61d1~61d3と、電源遮断FET温度推定部61e1及び61e2と、コンデンサ温度推定部61f1及び61f2と、コイル温度推定部61gと、選択器62a、62b、62c、62d、62e、62f及び64と、ハイサイドFET低減係数設定部63aと、ローサイドFET低減係数設定部63bと、シャント抵抗低減係数設定部63cと、相遮断FET低減係数設定部63dと、電源遮断FET低減係数設定部63eと、コンデンサ低減係数設定部63fと、コイル低減係数設定部63gを備える。
【0050】
ハイサイドFET温度推定部61a1~61a3は、第1電力変換回路42AのハイサイドFETQ1、Q3、Q5の部品温度Tea1~Tea3をそれぞれ推定する。ローサイドFET温度推定部61b1~61b3は、第1電力変換回路42AのローサイドFETQ2、Q4、Q6の部品温度Teb1~Teb3をそれぞれ推定する。シャント抵抗温度推定部61c1~61c3は、電流検出回路39A1、39B1、39C1のシャント抵抗の部品温度Tec1~Tec3をそれぞれ推定する。
【0051】
相遮断FET温度推定部61d1~61d3は、相遮断FETQA1、QA2、QA3の部品温度Ted1~Ted3をそれぞれ推定する。電源遮断FET温度推定部61e1及び61e2は、電源遮断FETQC1及びQC2の部品温度Tee1及びTee2を推定する。コンデンサ温度推定部61f1及び61f2は、第1電力変換回路42Aの電解コンデンサCA1、CA2の部品温度Tef1、Tef2をそれぞれ推定する。コイル温度推定部61gは、ノイズフィルタ回路のチョークコイルLaの部品温度Tegを推定する。
以下の説明において、チョークコイルLaの部品温度Tegを「コイル温度Teg」と表記することがある。
【0052】
図7は、ハイサイドFET温度推定部61a1の機能構成の一例のブロック図である。
ハイサイドFET温度推定部61a1は、損失電力演算部72と、ゲイン乗算部73と、第1ローパスフィルタ74と、第2ローパスフィルタ75と、加算器76を備える。
損失電力演算部72は、第1電力変換回路42AのハイサイドFETQ1における損失電力Wを演算する。
例えば損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算したハイサイドFETQ1の部品温度Tea1の前回値に基づいてFETのオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、A相電圧制御指令値のデューティ比Daと、A相電流I1adと、電源電圧VRAと、FETのスイッチング損失発生時間Tswと、ボディーダイオード順方向電圧Vdsfと、ボディーダイオード電流発生時間Tdと、モータ駆動PWM周波数fpwmとに基づいて、ハイサイドFETQ1における損失電力Wを演算する。
なお、制御演算装置31bの損失電力演算部72は、電源電圧VRAに代えて電源電圧VRBを使用して損失電力Wを推定する。以下の説明においても同様である。
【0053】
なお、スイッチング損失発生時間Tswは、FETのターンオン時間とターンオフ時間の合計であり、ボディーダイオード電流発生時間Tdは、FETをオフした後にボディーダイオード(寄生ダイオード)に回生電流が流れる時間である。
例えば損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×Da×I1ad2+(1/6)×VRA×I1ad×Tsw×fpwm(ただしI1ad≧0)
W=Rf×Da×I1ad2-Vdsf×I1ad×Td×fpwm(ただしI1ad<0)
【0054】
ゲイン乗算部73は、損失電力Wと所定の換算ゲインG1との積(G1×W)を算出して第1ローパスフィルタ74に出力する。第1ローパスフィルタ74は、積(G1×W)にローパスフィルタ処理を行うことにより得られる信号を加算器76に出力する。第2ローパスフィルタ75は、温度検出回路45Aが出力するECU30の温度の検出信号SdAにローパスフィルタ処理を行うことにより得られる信号を基礎温度Tthとして加算器76に出力する。加算器76は、第1ローパスフィルタ74の出力と基礎温度Tthとの和を、ハイサイドFETQ1の部品温度Tea1として算出する。
なお、換算ゲインG1と、第1ローパスフィルタ74の第1カットオフ周波数fc1及び第2ローパスフィルタ75の第2カットオフ周波数fc2は、予めシミュレーションなどにより適宜設定してよい。
【0055】
ハイサイドFET温度推定部61a2及び61a3と、ローサイドFET温度推定部61b1~61b3と、シャント抵抗温度推定部61c1~61c3と、相遮断FET温度推定部61d1~61d3と、電源遮断FET温度推定部61e1及び61e2と、コンデンサ温度推定部61f1及び61f2と、及びコイル温度推定部61gも、ハイサイドFET温度推定部61a1と同様の構成を備えてよい。
ただし、これらの温度推定部とハイサイドFET温度推定部61a1とでは、ゲイン乗算部73の換算ゲインG1と、第1ローパスフィルタ74の第1カットオフ周波数fc1及び第2ローパスフィルタ75の第2カットオフ周波数fc2と、損失電力演算部72における損失電力Wの演算方法が異なる。
【0056】
例えば、ゲイン乗算部73の換算ゲインG1と、第1ローパスフィルタ74の第1カットオフ周波数fc1及び第2ローパスフィルタ75の第2カットオフ周波数fc2は、異なる場所に配置された電子部品間で異なる値を設定してよい。これらの換算ゲインG1、第1カットオフ周波数fc1、第2カットオフ周波数fc2も、予めシミュレーションなどにより適宜設定してよい。
また例えば、損失電力演算部72における損失電力Wの演算方法は、発熱態様の異なる電子部品毎に異なる演算方法であってよい。
【0057】
例えば、ハイサイドFET温度推定部61a2の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算したハイサイドFETQ3の部品温度Tea2の前回値に基づいてFETのオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、B相電圧制御指令値のデューティ比Dbと、B相電流I1bdと、電源電圧VRAと、スイッチング損失発生時間Tswと、ボディーダイオード順方向電圧Vdsfと、ボディーダイオード電流発生時間Tdと、モータ駆動PWM周波数fpwmとに基づいて、ハイサイドFETQ3における損失電力Wを演算する。
例えばハイサイドFET温度推定部61a2の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×Db×I1bd2+(1/6)×VRA×I1bd×Tsw×fpwm(ただしI1bd≧0)
W=Rf×Db×I1bd2-Vdsf×I1bd×Td×fpwm(ただしI1bd<0)
【0058】
また例えば、ハイサイドFET温度推定部61a3の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算したハイサイドFETQ5の部品温度Tea3の前回値に基づいてFETのオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、C相電圧制御指令値のデューティ比Dcと、C相電流I1cdと、電源電圧VRAと、スイッチング損失発生時間Tswと、ボディーダイオード順方向電圧Vdsfと、ボディーダイオード電流発生時間Tdと、モータ駆動PWM周波数fpwmとに基づいて、ハイサイドFETQ5における損失電力Wを演算する。
例えばハイサイドFET温度推定部61a3の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×Dc×I1cd2+(1/6)×VRA×I1cd×Tsw×fpwm(ただしI1cd≧0)
W=Rf×Dc×I1cd2-Vdsf×I1cd×Td×fpwm(ただしI1cd<0)
【0059】
また例えば、ローサイドFET温度推定部61b1の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算したローサイドFETQ2の部品温度Teb1の前回値に基づいてFETのオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、A相デューティ比Daと、A相電流I1adと、電源電圧VRAと、スイッチング損失発生時間Tswと、ボディーダイオード順方向電圧Vdsfと、ボディーダイオード電流発生時間Tdと、モータ駆動PWM周波数fpwmに基づいて、ローサイドFETQ2における損失電力Wを演算する。
例えばローサイドFET温度推定部61b1の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×(1-Da)×I1ad2-(1/6)×VRA×I1ad×Tsw×fpwm(ただしI1ad≦0)
W=Rf×(1-Da)×I1ad2+Vdsf×I1ad×Td×fpwm(ただしI1ad>0)
【0060】
また例えば、ローサイドFET温度推定部61b2の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算したローサイドFETQ4の部品温度Teb2の前回値に基づいてFETのオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、B相デューティ比Dbと、B相電流I1bdと、電源電圧VRAと、スイッチング損失発生時間Tswと、ボディーダイオード順方向電圧Vdsfと、ボディーダイオード電流発生時間Tdと、モータ駆動PWM周波数fpwmに基づいて、ローサイドFETQ4における損失電力Wを演算する。
例えばローサイドFET温度推定部61b2の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×(1-Db)×I1bd2-(1/6)×VRA×I1bd×Tsw×fpwm(ただしI1bd≦0)
W=Rf×(1-Db)×I1bd2+Vdsf×I1bd×Td×fpwm(ただしI1bd>0)
【0061】
また例えば、ローサイドFET温度推定部61b3の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算したローサイドFETQ6の部品温度Teb3の前回値に基づいてFETのオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、C相デューティ比Dcと、C相電流I1cdと、電源電圧VRAと、スイッチング損失発生時間Tswと、ボディーダイオード順方向電圧Vdsfと、ボディーダイオード電流発生時間Tdと、モータ駆動PWM周波数fpwmに基づいて、ローサイドFETQ6における損失電力Wを演算する。
例えばローサイドFET温度推定部61b3の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×(1-Dc)×I1cd2-(1/6)×VRA×I1cd×Tsw×fpwm(ただしI1cd≦0)
W=Rf×(1-Dc)×I1cd2+Vdsf×I1cd×Td×fpwm(ただしI1cd>0)
【0062】
また例えば、シャント抵抗温度推定部61c1の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算した電流検出回路39A1のシャント抵抗の部品温度Tec1の前回値に基づいてシャント抵抗の抵抗値Rsを推定する。そして、シャント抵抗Rsと、A相デューティ比Daと、A相電流I1adに基づいて、電流検出回路39A1のシャント抵抗における損失電力Wを演算する。
例えばシャント抵抗温度推定部61c1の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rs×(1-Da)×I1ad2
【0063】
また例えば、シャント抵抗温度推定部61c2の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算した電流検出回路39B1のシャント抵抗の部品温度Tec2の前回値に基づいてシャント抵抗の抵抗値Rsを推定する。そして、シャント抵抗Rsと、B相デューティ比Dbと、B相電流I1bdとに基づいて、電流検出回路39B1のシャント抵抗における損失電力Wを演算する。
例えばシャント抵抗温度推定部61c2の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rs×(1-Db)×I1bd2
【0064】
また例えば、シャント抵抗温度推定部61c3の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算した電流検出回路39C1のシャント抵抗の部品温度Tec3の前回値に基づいてシャント抵抗の抵抗値Rsを推定する。そして、シャント抵抗Rsと、C相デューティ比Dcと、C相電流I1cdとに基づいて、電流検出回路39C1のシャント抵抗における損失電力Wを演算する。
例えばシャント抵抗温度推定部61c3の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rs×(1-Dc)×I1cd2
【0065】
また例えば、相遮断FET温度推定部61d1の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算した相遮断FETQA1の部品温度Ted1の前回値に基づいてFETのオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、A相電流I1adとに基づいて、相遮断FETQA1における損失電力Wを演算する。
例えば相遮断FET温度推定部61d1の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×I1ad2
【0066】
また例えば、相遮断FET温度推定部61d2の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算した相遮断FETQA2の部品温度Ted2の前回値に基づいてFETのオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、B相電流I1bdとに基づいて、相遮断FETQA2における損失電力Wを演算する。
例えば相遮断FET温度推定部61d2の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×I1bd2
【0067】
また例えば、相遮断FET温度推定部61d3の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算した相遮断FETQA3の部品温度Ted3の前回値に基づいてFETのオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、C相電流I1cdとに基づいて、相遮断FETQA3における損失電力Wを演算する。
例えば相遮断FET温度推定部61d3の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×I1cd2
【0068】
また例えば、電源遮断FET温度推定部61e1及び61e2の損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算した電源遮断FETQC1及びQC2の部品温度Tee1及びTee2の前回値に基づいて電源遮断FETQC1及びQC2のオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、バッテリ電流Ibat1とに基づいて、電源遮断FETQC1及びQC2におけるそれぞれの損失電力Wを演算する。
例えば電源遮断FET温度推定部61e1及び61e2の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×Ibat12
【0069】
また例えば、コンデンサ温度推定部61f1及び61f2は、前回の制御サイクルで演算した第1電力変換回路42Aの電解コンデンサCA1、CA2の部品温度Tef1、Tef2の前回値に基づいて電解コンデンサCA1及びCA2の等価直列抵抗(ESR:Equivalent Series Resistance)Resrをそれぞれ推定する。そして、等価直列抵抗Resrと、3相/2相変換部56が算出したd軸電流id及びq軸電流iqに基づいて、電解コンデンサCA1及びCA2におけるそれぞれの損失電力Wを演算する。
例えばコンデンサ温度推定部61f1及び61f2の損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rf×(Id2+Iq2)
【0070】
またコイル温度推定部61gは、前回の制御サイクルで演算したコイル温度Tegの前回値に基づいてノイズフィルタ回路のチョークコイルLaの直流抵抗Rdcを推定する。そして、直流抵抗Rdcと、バッテリ電流Ibat1及びIbat2とに基づいて、チョークコイルLaにおける損失電力Wを演算する。
例えばコイル温度推定部61gの損失電力演算部72は、次式に基づいて損失電力Wを演算してよい。
W=Rdc×(Ibat1+Ibat2)2
なお、第2系統コイルの駆動が禁止されている場合には、バッテリ電流Ibat2を0[A]として損失電力Wを演算してよい。また、通信回線35の異常等の理由によりバッテリ電流Ibat2のデータを制御演算装置31bから取得できない場合には、バッテリ電流Ibat2の値をバッテリ電流Ibat1の値で置き換えてもよい。
【0071】
図6を参照する。選択器62aは、ハイサイドFET温度推定部61a1~61a3が推定したハイサイドFETQ1、Q3及びQ5の部品温度Tea1~Tea3のうちいずれかを、ハイサイドFET温度Teaとして選択する。例えば選択器62aは、部品温度Tea1~Tea3のうち最も高い温度をハイサイドFET温度Teaとして選択してよい。
選択器62bは、ローサイドFET温度推定部61b1~61b3が推定したローサイドFETQ2、Q4及びQ6の部品温度Teb1~Teb3のうちいずれかを、ローサイドFET温度Tebとして選択する。例えば選択器62bは、部品温度Teb1~Teb3のうち最も高い温度をローサイドFET温度Tebとして選択してよい。
【0072】
選択器62cは、シャント抵抗温度推定部61c1~61c3が推定したシャント抵抗の部品温度Tec1~Tec3のうちいずれかを、シャント抵抗温度Tecとして選択する。例えば選択器62cは、部品温度Tec1~Tec3のうち最も高い温度をシャント抵抗温度Tecとして選択してよい。
選択器62dは、相遮断FET温度推定部61d1~61d3が推定した相遮断FETQA1、QA2、QA3の部品温度Ted1~Ted3のうちのいずれかを、相遮断FET温度Tedとして選択する。例えば選択器62dは、部品温度Ted1~Ted3のうち最も高い温度を相遮断FET温度Tedとして選択してよい。
選択器62eは、電源遮断FET温度推定部61e1及び61e2が推定した電源遮断FETQC1及びQC2の部品温度Tee1及びTee2のうちのいずれかを、電源遮断FET温度Teeとして選択する。選択器62eは、部品温度Tee1及びTee2のうちのいずれかより高い温度を電源遮断FET温度Teeとして選択してよい。
選択器62fは、コンデンサ温度推定部61f1、61f2が推定した電解コンデンサCA1、CA2の部品温度Tef1、Tef2のうちいずれかを、コンデンサ温度Tefとして選択する。例えば選択器62fは、部品温度Tef1、Tef2のうちいずれかより高い温度をコンデンサ温度Tefとして選択してよい。
【0073】
ハイサイドFET低減係数設定部63aは、ハイサイドFET温度Teaに基づいて、第1系統コイルを駆動する電流を制限するための低減係数であるハイサイドFET低減係数Kaを設定する。
図8は、ハイサイドFET低減係数設定部63aにより設定されるハイサイドFET低減係数Kaの特性を示す特性マップの一例の模式図である。ハイサイドFET低減係数設定部63aは、ハイサイドFET温度Teaが第1温度T1よりも低い場合にハイサイドFET低減係数Kaを最大値Kmaxに設定する。最大値Kmaxは例えば0[%]よりも大きく100[%]以下の値であってよい。
【0074】
ハイサイドFET低減係数設定部63aは、ハイサイドFET低減係数Kaにヒステリシス特性を持たせるために、ハイサイドFET低減係数Kaが最大値Kmaxを有する状態では、ハイサイドFET温度Teaが第1温度T1よりも高い第2温度T2より低い限り、ハイサイドFET低減係数Kaを最大値Kmaxに設定する。
ハイサイドFET低減係数Kaが最大値Kmaxを有する状態でハイサイドFET温度Teaが第2温度T2を超えると、ハイサイドFET低減係数設定部63aは、ハイサイドFET温度Teaが第2温度T2よりも高い第3温度T3に至るまでハイサイドFET低減係数Kaを最大値Kmaxから最小値Kminまで低減させる。最小値Kminは例えば100[%]よりも小さく0[%]以上の値であってよい。ハイサイドFET温度Teaが第3温度T3よりも高い場合に、ハイサイドFET低減係数設定部63aはハイサイドFET低減係数Kaを最小値Kminに設定する。
【0075】
ハイサイドFET低減係数Kaが最小値Kminを有する状態では、ハイサイドFET低減係数設定部63aは、ハイサイドFET温度Teaが第3温度T3よりも低い第4温度T4より高い限り、ハイサイドFET低減係数Kaを最小値Kminに設定する。ハイサイドFET低減係数Kaが最小値Kminを有する状態でハイサイドFET温度Teaが第4温度T4未満になると、ハイサイドFET低減係数設定部63aは、ハイサイドFET温度Teaが第1温度T1に至るまで、ハイサイドFET低減係数Kaを最小値Kminから最大値Kmaxまで増加させる。
【0076】
ハイサイドFETQ1の電子部品としての定格温度Tnから第3温度T3までの差分であるマージン幅ΔT3と、第1温度T1と第4温度T4との間の差分である低減幅ΔT4と、第2温度T2と第3温度T3との間の差分である低減幅ΔT2と、第1温度T1と第2温度T2との間の差分であるヒステリシス幅ΔT1は、予めシミュレーションなどにより適宜設定してよい。定格温度Tnは、使用されるハイサイドFETQ1に応じて適宜設定してよい。なお、低減幅ΔT2と低減幅ΔT4を同じ値に設定してもよく、低減幅ΔT2と低減幅ΔT4とを異なる値に設定してもよい。例えば低減幅ΔT4を低減幅ΔT2よりも小さく設定することにより、高温側におけるヒステリシス幅をより大きくしてもよい。
【0077】
図6を参照する。ローサイドFET低減係数設定部63bは、ローサイドFET温度Tebに基づいて、第1系統コイルを駆動する電流を制限するためのローサイドFET低減係数Kbを設定する。シャント抵抗低減係数設定部63cは、シャント抵抗温度Tecに基づいて、第1系統コイルを駆動する電流を制限するためのシャント低減係数Kcを設定する。相遮断FET低減係数設定部63dは、相遮断FET温度Tedに基づいて、第1系統コイルを駆動する電流を制限するための相遮断FET低減係数Kdを設定する。
【0078】
電源遮断FET低減係数設定部63eは、電源遮断FET温度Teeに基づいて、第1系統コイルを駆動する電流を制限するための電源遮断FET低減係数Keを設定する。コンデンサ低減係数設定部63fは、コンデンサ温度Tefに基づいて、第1系統コイルを駆動する電流を制限するためのコンデンサ低減係数Kfを設定する。コイル低減係数設定部63gは、コイル温度Tegに基づいて、第1系統コイルを駆動する電流を制限するためのコイル低減係数Kgを設定する。
【0079】
ローサイドFET低減係数設定部63b、シャント抵抗低減係数設定部63c、相遮断FET低減係数設定部63d、電源遮断FET低減係数設定部63e、コンデンサ低減係数設定部63f、コイル低減係数設定部63gは、
図8に示す特性マップと同様の特性を有するローサイドFET低減係数Kb、シャント低減係数Kc、相遮断FET低減係数Kd、電源遮断FET低減係数Ke、コンデンサ低減係数Kf、コイル低減係数Kgを設定してよい。
【0080】
図8に示す特性マップにおける定格温度Tn、ヒステリシス幅ΔT1、低減幅ΔT2及びΔT4並びにマージン幅ΔT3の少なくとも1つを、異なる種類の電子部品間で異なる値に設定してもよい。すなわち、第1温度T1~第4温度T4の少なくとも1つを、異なる種類の電子部品間で異なる値に設定してもよい。
例えば、定格温度Tn、ヒステリシス幅ΔT1、低減幅ΔT2及びΔT4並びにマージン幅ΔT3の少なくとも1つを、FET(ハイサイドFETQ1、Q3、Q5、ローサイドFETQ2、Q4、Q6、相遮断FETQA1~QA3、電源遮断FETQC1及びQC2)と、抵抗(シャント抵抗)と、コンデンサ(電解コンデンサCA1、CA2)と、コイル(チョークコイルLp)の間で異なる値に設定してもよい。これらヒステリシス幅ΔT1、低減幅ΔT2及びΔT4並びにマージン幅ΔT3は、例えば予めシミュレーションなどにより適宜設定してよい。定格温度Tnは、使用される電子部品に応じて適宜設定してよい。
【0081】
選択器64は、ハイサイドFET低減係数Ka、ローサイドFET低減係数Kb、シャント低減係数Kc、相遮断FET低減係数Kd、電源遮断FET低減係数Ke、コンデンサ低減係数Kf及びコイル低減係数Kgのうちいずれか1つを部品低減係数K1として選択する。例えば選択器64は、上記の低減係数Ka~Kgのうち最も小さな係数を部品低減係数K1として選択してよい。
【0082】
図9(a)~
図9(c)は、部品低減係数K1の設定動作の一例の模式図である。ここでは説明の簡単のため、ローサイドFET低減係数Kb、シャント低減係数Kc、相遮断FET低減係数Kd、電源遮断FET低減係数Ke、コンデンサ低減係数Kfが最大値Kmaxに固定されている場合を想定する。また、選択器64が低減係数Ka~Kgのうち最も小さな係数を部品低減係数K1として選択する場合を想定する。
【0083】
図9(a)に示すようにハイサイドFET低減係数Kaは、時刻t0から時刻t3までの期間は最大値Kmaxに設定されており、時刻t3において減少を開始し、時刻t4、時刻t5及び時刻t6においてそれぞれ値K11、K13、K15まで減少する。
一方で
図9(b)に示すようにコイル低減係数Kgは、時刻t0から時刻t1までの期間は最大値Kmaxに設定されており、時刻t1において減少を開始し、時刻t3よりも早い時刻t2において値K12まで減少する。値K12は、値K11より小さく値K13より大きい。その後、コイル低減係数Kgは、時刻t2から時刻t4までの期間は値K12に設定され、その後に時刻t5及び時刻t6においてそれぞれK13、K14まで低下する。値K14は、値K13より小さく値K15よりも大きい。
【0084】
選択器64がハイサイドFET低減係数Ka及びコイル低減係数Kgのうち小さい方を部品低減係数K1として選択すると、選択器64は、時刻t0から時刻t1まで期間は部品低減係数K1を最大値Kmaxに設定し、時刻t1から時刻t5までの期間は、コイル低減係数Kgを部品低減係数K1として選択し、時刻t5以降は、ハイサイドFET低減係数Kaを部品低減係数K1として選択する。
この結果、部品低減係数K1は、時刻t0から時刻t1までの期間は最大値Kmaxに設定されており、時刻t1において減少を開始し、時刻t2において値K12まで減少する。時刻t2から時刻t4までの期間は値K12に設定され、その後に時刻t5及び時刻t6においてそれぞれK13、K15まで低下する。
【0085】
図5を参照する。第2低減係数設定部70は、温度検出回路45Aが出力する検出信号SdAに基づいてECU温度を推定する。また、A相電流、B相電流、C相電流の検出値I1ad、I1bd、I1cdに基づいて、モータ電流によるモータ20における温度(例えば第1系統コイルの巻き線の温度)の上昇値を推定し、ECU温度と上昇値の和をモータ温度として推定する。
【0086】
第2低減係数設定部70は、ECU温度に基づいてECU低減係数K2を設定する。例えば第2低減係数設定部70は、ECU温度の変化に対して
図8に示す特性マップと同様の特性を有するECU低減係数K2を設定してよい。
また第2低減係数設定部70は、モータ温度に基づいてモータ低減係数K3を設定する。例えば第2低減係数設定部70は、モータ温度の変化に対して
図8に示す特性マップと同様の特性を有するモータ低減係数K3を設定してよい。
【0087】
第3低減係数設定部71は、バッテリ13の出力端子間の電圧であるバッテリ電圧Vbat1に基づいてバッテリ低減係数K4を設定する。
図10は、第3低減係数設定部71により設定されるバッテリ低減係数K4の特性マップの一例の模式図である。第3低減係数設定部71は、バッテリ電圧Vbat1が第1電圧V1よりも低い場合にバッテリ低減係数K4を最小値K4minに設定する。最小値K4minは例えば100[%]よりも小さく0[%]以上の値であってよい。
【0088】
バッテリ電圧Vbat1が第1電圧V1から第2電圧V2までの範囲にある場合、第3低減係数設定部71は、バッテリ電圧Vbat1が高いほど大きなバッテリ低減係数K4を設定し、バッテリ電圧Vbat1が第2電圧V2に至ると、バッテリ低減係数K4を最大値K4maxに設定する。最大値K4maxは例えば0[%]よりも大きく100[%]以下の値であってよい。
バッテリ電圧Vbat1が第2電圧V2から第3電圧V3までの範囲にある場合、第3低減係数設定部71は、バッテリ低減係数K4を最大値K4maxに設定する。
【0089】
バッテリ電圧Vbat1が第3電圧V3から第4電圧V4までの範囲にある場合、第3低減係数設定部71は、バッテリ電圧Vbat1が高いほど小さなバッテリ低減係数K4を設定し、バッテリ電圧Vbat1が第4電圧V4に至ると、バッテリ低減係数K4を最小値K4minに設定する。
第3低減係数設定部71は、バッテリ電圧Vbat1が第4電圧V4よりも高い場合にバッテリ低減係数K4を最小値K4minに設定する。
【0090】
図5を参照する。電流制限部51は、部品低減係数K1と、ECU低減係数K2と、モータ低減係数K3と、バッテリ低減係数K4とに基づいて、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限し、制限後のq軸電流指令値Iq1及びd軸電流指令値Id1を出力する。
例えば、電流制限部51は、部品低減係数K1と、ECU低減係数K2と、モータ低減係数K3と、バッテリ低減係数K4のうち最小の係数を低減係数Kとして選択し、低減係数Kに基づいてq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限してよい。例えば、低減係数Kが小さいほど制限後のq軸電流指令値Iq1とd軸電流指令値Id1が小さくなるようにq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を制限してよい。例えば、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0の各々に低減係数Kを乗じた積を、制限後のq軸電流指令値Iq1=K×Iq0及びd軸電流指令値Id1=K×Id0として算出してよい。
【0091】
(動作)
図11は、制御演算装置31aにおける処理の一例のフローチャートである。
ステップS1において第1低減係数設定部60と第2低減係数設定部70は、温度検出回路45Aの検出信号SdAを取得する。
ステップS2において電流検出回路39A1、39B1及び39C1は、第1系統コイルのA相電流I1ad、B相電流I1bd、C相電流I1cdを検出する。
ステップS3において電圧検出回路34Aは、第1電力変換回路42Aの電源電圧VRAを検出する。
【0092】
ステップS4において制御演算装置31aは、A相電流I1ad、B相電流I1bd、C相電流I1cdに基づいて、バッテリ13から第1系統コイルに流れるバッテリ電流Ibat1を算出する。また、バッテリ13から第2系統コイルに流れるバッテリ電流Ibat2を制御演算装置31bから受信する。
ステップS5において第1低減係数設定部60は、A相電流I1ad、B相電流I1bd、C相電流I1cd、バッテリ電流Ibat1、Ibat2、電源電圧VRAに基づいて、第1電流制御回路40Aを構成する複数の電子部品の各々における損失電力Wを推定する。
【0093】
ステップS6において第1低減係数設定部60は、損失電力Wと検出信号SdAに基づいて、第1電流制御回路40Aを構成する複数の電子部品の各々の部品温度を推定する。
ステップS7において第2低減係数設定部70は、検出信号SdAに基づいてECU温度を推定する。また、A相電流I1ad、B相電流I1bd、C相電流I1cd、ECU温度に基づいてモータ温度を推定する。
ステップS8において第1低減係数設定部60は、推定した複数の電子部品毎の部品温度に基づいて部品低減係数K1を設定する。
【0094】
ステップS9において第2低減係数設定部70は、推定したECU温度に基づいてECU低減係数K2を設定する。
ステップS10において第2低減係数設定部70は、推定したモータ温度に基づいてモータ低減係数K3を設定する。
ステップS11において第3低減係数設定部71は、バッテリ13の出力端子間の電圧であるバッテリ電圧Vbat1に基づいてバッテリ低減係数K4を設定する。
【0095】
ステップS12において電流制限部51は、部品低減係数K1と、ECU低減係数K2と、モータ低減係数K3と、バッテリ低減係数K4とに基づいて、第1系統コイルの駆動電流を制限する。その後に処理は終了する。
なお、制御演算装置31bの構成及び処理は、上記の制御演算装置31aの構成及び処理と同様であり、上記説明において「温度検出回路45A」を「温度検出回路45B」と読み替え、「検出信号SdA、SdA1、SdA2」を「検出信号SdB、SdB1、SdB2」と読み替え、「第1系統コイル」を「第2系統コイル」と読み替え、「A相電流I1ad、B相電流I1bd、C相電流I1cd」を「A相電流I2ad、B相電流I2bd、C相電流I2cd」と読み替え、「制御演算装置31a」を「制御演算装置31b」と読み替え、「バッテリ電流Ibat1」を「バッテリ電流Ibat2」と読み替え、「制御演算装置31b」を「制御演算装置31a」と読み替え、「電圧検出回路34A」を「電圧検出回路34B」と読み替え、「第1電力変換回路42A」を「第2電力変換回路42B」と読み替え、「電源電圧VRA」を「電源電圧VRB」と読み替える。
【0096】
(第1実施形態の効果)
(1)第1実施形態の電流制御装置は、複数の電子部品を含む電流制御回路と、電流制御回路の付近に配置された温度検出素子を有する温度検出回路と、複数の電子部品の各々に流れる電流値を検出又は推定する電流検出部と、電流検出部が検出又は推定した電流値と、温度検出回路が検出した検出温度と、に基づいて、電子部品の温度である部品温度を複数の電子部品毎に推定する部品温度推定部と、複数の電子部品毎に推定された部品温度に含まれる複数の異なる部品温度に対して複数の異なる低減係数をそれぞれ設定する低減係数設定部と、複数の低減係数のいずれか1つを選択する選択部と、選択された低減係数に基づいて電流制御回路から負荷に出力される出力電流を制限する電流制限部と、を備える。
【0097】
これにより、電流制御回路に含まれている複数の電子部品のうち熱破損し易い部品の過熱を抑制できる。例えば、電流制御回路における通電パターンが変化することにより発熱量が大きな部品が変わっても、発熱量の増加により熱破損し易くなった部品に応じて低減係数を設定できる。また、各部品の特性(例えば定格電圧など)と部品温度に応じて、熱破損し易い部品に応じて低減係数を設定できる。また、個々の部品の必要に応じて低減係数を設定することにより、駆動電流の過度な制限を抑制することができる。
【0098】
(2)複数の電子部品は、発熱態様の異なる電子部品を含んでよい。部品温度推定部は、電子部品の抵抗値と、電子部品に流れる電流の電流値及び通電時間(例えば通電デューティ比)と、温度検出回路が検出した検出温度と、に基づいて、発熱態様の異なる電子部品の各々の部品温度を推定してよい。
これにより個々の電子部品の発熱態様に応じて部品温度を個別に推定できる。
【0099】
(3)複数の電子部品は、複数の異なる種類の電子部品を含んでよい。低減係数設定部は、電子部品の種類毎に1つの低減係数を設定してもよい。
同じ種類の複数の電子部品をまとめて低減係数を設定することにより、複数の電子部品毎に部品温度を推定した際の低減係数の設定処理に要する計算負荷を低減できる。
【0100】
(4)複数の異なる種類の電子部品のうち少なくとも1つの種類の電子部品は、電流制御回路の異なる場所に配置された複数の電子部品を含んでよい。電流制御装置は、異なる場所に配置された複数の電子部品の各々について推定された部品温度のうちいずれか1つを選択する第2の選択部を含んでよい。低減係数設定部は、第2の選択部によって選択された部品温度に基づいて少なくとも1つの種類の電子部品の低減係数を設定してよい。
このように部品の種類や配置場所に基づいて電子部品をグループ化して、グループ毎に低減係数を設定することにより、複数の電子部品毎に部品温度を推定した際の低減係数の設定処理に要する計算負荷を低減できる。
【0101】
(5)部品温度推定部は、複数の電子部品毎に、電子部品において発生する損失電力を推定してよい。部品温度推定部は、損失電力と所定ゲインとの積を第1ローパスフィルタ処理して得られた値と、温度検出回路が検出した検出温度を第2ローパスフィルタ処理して得られた値と、の和に基づいて、複数の電子部品毎に部品温度を推定してよい。
損失電力を第1ローパスフィルタ処理して得られた値に基づいて部品温度を推定することにより、部品温度を精度良く推定できる。また、温度検出回路が検出した検出温度に第2ローパスフィルタ処理を施すことにより、個々の電子部品の近傍の周囲温度の推定値を取得できる。電子部品がヒートシンクに熱接続されている場合には電子部品の近傍のヒートシンク温度を取得できる。
図12は、第2ローパスフィルタ処理の効果を説明するための模式図である。参照符号100、101、102は、回路基板36に設けられた電子部品を模式的に示す。部品温度推定部は、電子部品100~102の各々の損失電力による変化温度を周囲温度に加算することにより電子部品100~102の個々の温度を推定する。このため、電子部品100、101の部品温度の推定の際に周囲温度として温度検出回路の検出値をそのまま使用すると、温度検出回路の温度センサ45A1及び温度センサ45A2の近くに配置されている他の電子部品102の発熱の影響を受けて、電子部品100、101の周囲の部品温度を適切に推定できない。そこで温度検出回路が検出した検出温度に第2ローパスフィルタ処理を施すことにより、温度センサ45A1及び温度センサ45A2の付近の電子部品102の発熱の影響を抑制することにより、個々の電子部品の近傍の周囲温度を精度良く推定できる。
【0102】
(6)複数の電子部品は、電流制御回路の異なる場所に配置された電子部品を含んでよい。上記の所定ゲイン、第1ローパスフィルタ処理のカットオフ周波数及び第2ローパスフィルタ処理のカットオフ周波数の少なくとも1つを、異なる場所に配置された電子部品間で異なる値に設定してよい。
これにより、電子部品が配置されている場所に応じて部品温度を個別に推定できる。例えば
図12に示すように、温度センサ45A1及び温度センサ45A2と個々の電子部品100~102との間の距離は電子部品100~102によって異なるため、第2ローパスフィルタ処理のカットオフ周波数を、電子部品間で異なる値に設定することにより、温度センサと電子部品との間の距離の違いの影響を抑制できる。
【0103】
(7)電流制限部は、低減係数が小さいほど電流制御回路から負荷に出力される出力電流が小さくなるように出力電流を制限してよい。低減係数設定部は、部品温度が第1温度よりも低い場合に低減係数を最大値に設定し、低減係数が最大値を有する状態で部品温度が第1温度よりも高い第2温度を超えると部品温度が第2温度よりも高い第3温度に至るまで低減係数を最大値から最小値まで低減させ、部品温度が第3温度よりも高い場合に低減係数を最小値に設定し、低減係数が最小値を有する状態で部品温度が第3温度よりも低い第4温度未満になると、部品温度が第1温度に至るまで、低減係数を最小値から最大値まで増加させてよい。複数の電子部品は、発熱態様の異なる電子部品を含んでもよく、第1温度、第2温度、第3温度及び第4温度の少なくとも1つを、発熱態様の異なる電子部品間で異なる値に設定してよい。
これにより、電子部品の発熱態様に応じて低減係数を個別に設定できる。
【0104】
(8)電流制御装置は、電流制御回路からの発熱を放熱するヒートシンクを備えてもよい。温度検出素子がヒートシンクに熱的に結合されていてもよい。
これにより、電流制御回路の電子部品の全体の温度を温度検出素子で検出し易くなる。
【0105】
(第2実施形態)
第1実施形態では、異なる場所にそれぞれ配置された同じ種類の複数の電子部品の各々について推定された部品温度のいずれか1つを選択し、選択された部品温度に基づいてこれらの電子部品の低減係数を設定する。例えば、ハイサイドFET温度推定部61a1~61a3が推定したハイサイドFETQ1、Q3及びQ5の部品温度Tea1~Tea3のいずれかをハイサイドFET温度Teaとして選択し、ハイサイドFET温度Teaに基づいてハイサイドFET低減係数Kaを設定した。
【0106】
第2実施形態では、異なる場所にそれぞれ配置された同じ種類の複数の電子部品に対して、複数の異なる低減係数をそれぞれ設定する。例えば、ハイサイドFETQ1、Q3及びQ5の部品温度Tea1~Tea3のそれぞれに基づいて、複数のハイサイドFET低減係数Ka1~Ka3を設定してよい。同様にローサイドFETQ2、Q4及びQ6、シャント抵抗、相遮断FETQA1~QA3、電源遮断FETQC1及びQC2、電解コンデンサCA1、CA2についても、それぞれ複数のローサイドFET低減係数Kb1~Kb3、シャント低減係数Kc1~Kc3、相遮断FET低減係数Kd1~Kd3、電源遮断FET低減係数Ke1及びKe2、コンデンサ低減係数Kf1及びKf2を設定してよい。
【0107】
そして、ハイサイドFET低減係数Ka1~Ka3、ローサイドFET低減係数Kb1~Kb3、シャント低減係数Kc1~Kc3、相遮断FET低減係数Kd1~Kd3、電源遮断FET低減係数Ke1及びKe2、コンデンサ低減係数Kf1及びKf2、並びにコイル低減係数Kgのうちいずれか1つを部品低減係数K1として選択する。
このように、異なる場所にそれぞれ配置された同じ種類の複数の電子部品毎に設定された低減係数のうちからいずれか1つを部品低減係数K1として選択することにより、電子部品に基づいたよりきめ細かな出力電流の制限が可能となる。
【0108】
図13は、第2実施形態の第1低減係数設定部60の機能構成の一例のブロック図である。第2実施形態の第1低減係数設定部60は、
図6を参照して説明した第1実施形態の第1低減係数設定部60に類似する構成を有しており、同一又は類似の構成要素には同一の参照符号で示し、重複する説明を省略する。第2実施形態の第1低減係数設定部60は、ハイサイドFET低減係数設定部63a1~63a3と、ローサイドFET低減係数設定部63b1~63b3と、シャント抵抗低減係数設定部63c1~63c3と、相遮断FET低減係数設定部63d1~63d3と、電源遮断FET低減係数設定部63e1及び63e2と、コンデンサ低減係数設定部63f1及び63f2と、コイル低減係数設定部63gを備える。
【0109】
ハイサイドFET低減係数設定部63a1~63a3は、ハイサイドFETQ1、Q3及びQ5の部品温度Tea1~Tea3のそれぞれに基づいて、複数のハイサイドFET低減係数Ka1~Ka3を設定する。ローサイドFET低減係数設定部63b1~63b3は、ローサイドFETQ2、Q4及びQ6の部品温度Teb1~Teb3のそれぞれに基づいて、複数のローサイドFET低減係数Kb1~Kb3を設定する。シャント抵抗低減係数設定部63c1~63c3は、電流検出回路39A1、39B1、39C1のシャント抵抗の部品温度Tec1~Tec3のそれぞれに基づいて、複数のシャント低減係数Kc1~Kc3を設定する。相遮断FET低減係数設定部63d1~63d3は、相遮断FETQA1、QA2、QA3の部品温度Ted1~Ted3のそれぞれに基づいて、複数の相遮断FET低減係数Kd1~Kd3を設定する。電源遮断FET低減係数設定部63e1及び63e2は、電源遮断FETQC1及びQC2の部品温度Tee1及びTee2のそれぞれに基づいて、複数の電源遮断FET低減係数Ke1及びKe2を設定する。コンデンサ低減係数設定部63f1及び63f2は、第1電力変換回路42Aの電解コンデンサCA1、CA2の部品温度Tef1及びTef2のそれぞれに基づいて、複数のコンデンサ低減係数Kf1及びKf2を設定する。コイル低減係数設定部63gは、コイル温度Tegに基づいてコイル低減係数Kgを設定する。
【0110】
ハイサイドFET低減係数設定部63a1~63a3と、ローサイドFET低減係数設定部63b1~63b3と、シャント抵抗低減係数設定部63c1~63c3と、相遮断FET低減係数設定部63d1~63d3と、電源遮断FET低減係数設定部63e1及び63e2と、コンデンサ低減係数設定部63f1及び63f2と、コイル低減係数設定部63gは、
図8に示す特性マップと同様の特性を有するハイサイドFET低減係数Ka1~Ka3、ローサイドFET低減係数Kb1~Kb3、シャント低減係数Kc1~Kc3、相遮断FET低減係数Kd1~Kd3、電源遮断FET低減係数Ke1及びKe2、コンデンサ低減係数Kf1及びKf2、コイル低減係数Kgを設定してよい。
【0111】
図8に示す特性マップにおける定格温度Tn、ヒステリシス幅ΔT1、低減幅ΔT2及びΔT4並びにマージン幅ΔT3の少なくとも1つを、異なる種類の電子部品間で異なる値に設定してもよい。
特に、定格温度Tn、ヒステリシス幅ΔT1、低減幅ΔT2及びΔT4並びにマージン幅ΔT3の少なくとも1つを、異なる場所にそれぞれ配置された同じ種類の複数の電子部品の間で、異なる値に設定してもよい。例えば、定格温度Tn、ヒステリシス幅ΔT1、低減幅ΔT2及びΔT4並びにマージン幅ΔT3の少なくとも1つを、複数のシャント低減係数Kc1~Kc3の間で異なる値に設定してもよい。ローサイドFET低減係数Kb1~Kb3、シャント低減係数Kc1~Kc3、相遮断FET低減係数Kd1~Kd3、電源遮断FET低減係数Ke1及びKe2、コンデンサ低減係数Kf1及びKf2についても同様である。
【0112】
選択器64は、ハイサイドFET低減係数Ka1~Ka3、ローサイドFET低減係数Kb1~Kb3、シャント低減係数Kc1~Kc3、相遮断FET低減係数Kd1~Kd3、電源遮断FET低減係数Ke1及びKe2、コンデンサ低減係数Kf1及びKf2、並びにコイル低減係数Kgのうちいずれか1つを部品低減係数K1として選択する。例えば選択器64は、上記の低減係数Ka1~Ka3、Kb1~Kb3、Kc1~Kc3、Kd1~Kd3、Ke1及びKe2、Kf1及びKf2並びにKgのうち最も小さな係数を部品低減係数K1として選択してよい。
【0113】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態の電流制御装置は、複数の電子部品を含む電流制御回路と、電流制御回路の付近に配置された温度検出素子を有する温度検出回路と、複数の電子部品の各々に流れる電流値を検出又は推定する電流検出部と、電流検出部が検出又は推定した電流値と、温度検出回路が検出した検出温度と、に基づいて、電子部品の温度である部品温度を複数の電子部品毎に推定する部品温度推定部と、複数の電子部品毎に推定された部品温度に含まれる複数の異なる部品温度に対して複数の異なる低減係数をそれぞれ設定する低減係数設定部と、複数の低減係数のいずれか1つを選択する選択部と、選択された低減係数に基づいて電流制御回路から負荷に出力される出力電流を制限する電流制限部と、を備える。複数の電子部品は、複数の異なる種類の電子部品を含み、複数の異なる種類の電子部品のうち少なくとも1つの種類の電子部品は、電流制御回路の異なる場所に配置された複数の電子部品を含む。低減係数設定部は、少なくとも1つの種類の電子部品に含まれる電流制御回路の異なる場所に配置された複数の電子部品に対して複数の異なる低減係数をそれぞれ設定する。
【0114】
これにより、電流制御回路に含まれている複数の電子部品のうち熱破損し易い部品の過熱を抑制できる。例えば、電流制御回路における通電パターンが変化することにより発熱量が大きな部品が変わっても、発熱量の増加により熱破損し易くなった部品に応じて低減係数を設定できる。また、各部品の特性(例えば定格電圧など)と部品温度に応じて、熱破損し易い部品に応じて低減係数を設定できる。また、個々の部品の必要に応じて低減係数を設定することにより、駆動電流の過度な制限を抑制することができる。
【0115】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。電流制御装置が電動モータを駆動する動作モードには、第1系統コイルと第2系統コイルの両方を駆動する両系統駆動モードと、第1系統コイルと第2系統コイルの片方のみを駆動する片系統駆動モードが存在する。両系統駆動モードでは第1電流制御回路40Aと第2電流制御回路40Bの両方からモータ20に駆動電流を出力し、片系統駆動モードでは一方のみからモータ20に駆動電流を出力する。例えば電流制御装置は、通常時に両系統駆動モードで動作し、異常時には片系統駆動モードで動作する。
【0116】
両系統駆動モードの場合には、片系統駆動モードの場合と異なり、第1電流制御回路40Aの電子部品の部品温度が、第2電流制御回路40Bの電子部品の発熱の影響を受け、反対に第2電流制御回路40Bの電子部品の部品温度が、第1電流制御回路40Aの電子部品の発熱の影響を受ける。例えば、両系統駆動モードの場合は片系統駆動モードの場合に比べて放熱部材37の温度が高くなるため、部品温度と温度センサの温度が高くなる。
【0117】
図14は、両系統駆動モードと片系統駆動モードの各々における通電中の部品温度と温度センサの温度の傾向を調べるために特定の大きさの電流を流した場合のこれらの温度を示すグラフである。実線は片系統駆動モードにおけるハイサイドFETの部品温度の傾向を示し、破線は両系統駆動モードにおけるハイサイドFETの部品温度の傾向を示し、一点鎖線は片系統駆動モードにおける温度センサの温度の傾向を示し、二点鎖線は両系統駆動モードにおける温度センサの温度の傾向を示している。
【0118】
図14に示すように、通電中の部品の部品温度は、片系統駆動モードの場合より両系統駆動モードの場合の方が高くなる。温度センサの温度も、片系統駆動モードの場合より両系統駆動モードの場合の方が高くなる。
さらに、両系統駆動モードと片系統駆動モードとの間の部品温度の差分Δ1は、両系統駆動モードと片系統駆動モードとの間の温度センサの温度の差分Δ2よりも小さい。これは、通電中の部品は自ら発熱しているため、周囲の高温(例えば放熱部材37の高温)の影響による温度上昇が小さくなるためである。
【0119】
この結果、部品温度から温度センサの温度を減算した差分は、両系統駆動モード場合よりも片系統駆動モードの方が大きくなる。
図15は、両系統駆動モードと片系統駆動モードの各々における部品温度と温度センサの温度との間の差分(部品温度-温度センサの温度)の傾向を調べるために特定の大きさの電流を流した場合のこれらの温度の差分を示すグラフである。実線は片系統駆動モードにおける部品温度と温度センサの温度との間の差分の傾向を示し、破線は両系統駆動モードにおける部品温度と温度センサの温度との間の差分の傾向を示している。
図15に示すように、片系統駆動モードにおける部品温度と温度センサの温度との間の差分(実線)は、両系統駆動モードにおける差分(破線)よりも大きい。
【0120】
ここで、
図7のハイサイドFET温度推定部61a1を参照する。ゲイン乗算部73は、損失電力Wと所定の換算ゲインG1との積(G1×W)を算出して第1ローパスフィルタ74に出力する。第1ローパスフィルタ74は、積(G1×W)にローパスフィルタ処理を行うことにより得られる信号を出力する。以下、第1ローパスフィルタ74の出力をLPF(G1×W)と表記することがある。
【0121】
第2ローパスフィルタ75は、温度検出回路45Aの温度センサの検出信号(すなわち温度センサの温度)にローパスフィルタ処理を行うことにより得られる信号を基礎温度Tthとして加算器76に出力する。以下、第2ローパスフィルタ75の出力(基礎温度Tth)をLPF(SdA)と表記することがある。ハイサイドFET温度推定部61a1は、第1ローパスフィルタ74の出力と第2ローパスフィルタ75の出力との和(LPF(G1×W)+LPF(SdA))を、ハイサイドFETQ1の部品温度として推定する。
【0122】
図14のグラフのFETの部品温度は、ハイサイドFET温度推定部61a1の推定結果である和(LPF(G1×W)+LPF(SdA))に対応し、
図14のグラフの温度センサの温度は、第2ローパスフィルタ75の出力LPF(SdA)に対応する。このため、
図15のグラフの部品温度と温度センサの温度との間の差分は、和(LPF(G1×W)+LPF(SdA))からLPF(SdA)を減じた差分であるLPF(G1×W)、すなわち第1ローパスフィルタ74の出力に対応する。
【0123】
したがって、
図15に示すように両系統駆動モードの場合の値よりも片系統駆動モードの場合の値の方が大きくなるように第1ローパスフィルタ74の出力LPF(G1×W)を調整することにより、駆動モードの違いに応じた部品温度の推定が可能になり、より精度の高い部品温度を推定できる。
【0124】
また、両系統駆動モードでは、制御演算装置31a及び31bの各々の電流指令値演算部50が演算する電流指令値の大きさを異ならせることにより、第1電流制御回路40Aと第2電流制御回路40Bからモータ20に出力する駆動電流の配分比率を異ならせることもできる。これらの出力電流の配分比率を変化させた場合においても、上述した両系統駆動モードと片系統駆動モードとを切り替えた場合と同じ理由により、部品温度と温度センサの温度との間の差分の大きさが変化する。
【0125】
そこで、第3実施形態のハイサイドFET温度推定部61a1は、第1電流制御回路40Aの出力電流と第2電流制御回路40Bの出力電流との間の配分比率に応じて換算ゲインG1を設定する。ハイサイドFET温度推定部61a2及び61a3、ローサイドFET温度推定部61b1~61b3、シャント抵抗温度推定部61c1~61c3、相遮断FET温度推定部61d1~61d3、電源遮断FET温度推定部61e1及び61e2、コンデンサ温度推定部61f1及び61f2、コイル温度推定部61gにおいても同様である。
【0126】
以下の説明において、ハイサイドFET温度推定部61a1~61a3、ローサイドFET温度推定部61b1~61b3、シャント抵抗温度推定部61c1~61c3、相遮断FET温度推定部61d1~61d3、電源遮断FET温度推定部61e1及び61e2、コンデンサ温度推定部61f1及び61f2、コイル温度推定部61gを総称して「温度推定部61」と表記することがある。
【0127】
図16(a)は、換算ゲインG1の設定例を示す図である。第1電流制御回路40Aの制御演算装置31aの部品温度推定部61は、第1電流制御回路40Aの配分比率が高いほどより大きな換算ゲインG1を設定してよい。同様に、第2電流制御回路40Bの制御演算装置31bの部品温度推定部61は、第2電流制御回路40Bの配分比率が高いほどより大きな換算ゲインG1を設定してよい。
例えば配分比率が50%である場合には換算ゲインG1を値「g0」に設定し、配分比率が100%である場合には換算ゲインG1を値「g0」よりも大きな値「g1」に設定し、配分比率が0%である場合には換算ゲインG1を値「g0」よりも小さな値「g2」に設定する。
【0128】
配分比率が0%から50%の範囲では、配分比率が大きくなるにしたがって換算ゲインG1を「g2」から「g0」へ増加させ、配分比率が50%から100%の範囲では、配分比率が大きくなるにしたがって換算ゲインG1を「g0」から「g1」へ増加させる。例えば値「g1」は、(1.1×g0)程度の値に設定してよく、値「g2」は、(0.9×g0)程度の値に設定してよい。
これにより、両系統駆動モードの場合に比べて片系統駆動モードの場合により大きな換算ゲインG1が設定される。
【0129】
図15を参照する。矢印77の部分の波形に注目すると、片系統駆動モードにおける部品温度と温度センサの温度との間の差分の波形は、両系統駆動モードにおける差分の波形よりも応答が遅い。
このため第3実施形態の部品温度推定部61は、第1電流制御回路40Aの出力電流と第2電流制御回路40Bの出力電流との間の配分比率に応じて、第1ローパスフィルタ74の第1カットオフ周波数fc1を設定する。
【0130】
図16(b)は、第1カットオフ周波数fc1の設定例を示す図である。第1電流制御回路40Aの制御演算装置31aの部品温度推定部61は、第1電流制御回路40Aの配分比率が高いほどより低い第1カットオフ周波数fc1を設定してよい。同様に、第2電流制御回路40Bの制御演算装置31bの部品温度推定部61は、第2電流制御回路40Bの配分比率が高いほどより低い第1カットオフ周波数fc1を設定してよい。
例えば配分比率が50%である場合には第1カットオフ周波数fc1を値「f0」に設定し、配分比率が100%である場合には第1カットオフ周波数fc1を値「f0」よりも低い値「f1」に設定し、配分比率が0%である場合には第1カットオフ周波数fc1を値「f0」よりも高い値「f2」に設定する。
【0131】
配分比率が0%から50%の範囲では、配分比率が大きくなるにしたがって第1カットオフ周波数fc1を「f2」から「f0」へ低下させ、配分比率が50%から100%の範囲では、配分比率が大きくなるにしたがって換算ゲインG1を「f0」から「f1」へ低下させる。
これにより、両系統駆動モードの場合に比べて片系統駆動モードの場合により低い第1カットオフ周波数fc1が設定される。
【0132】
図17(a)~
図17(c)は、第1電流制御回路40Aと第2電流制御回路40Bとの間の出力電流の配分比率と換算ゲインG1と第1カットオフ周波数fc1の間の関係を示す模式図である。
図17(a)の実線は第1電流制御回路40Aの出力電流の配分比率を示し、一点鎖線は第2電流制御回路40Bの出力電流の配分比率を示す。
【0133】
図17(a)は、時刻t1より前の期間において第1電流制御回路40Aと第2電流制御回路40Bとが両系統駆動モードで動作しており、時刻t2以降の期間では第1電流制御回路40Aと第2電流制御回路40Bとが片系統駆動モードで動作する例を示す。
時刻t1より前の期間では、第1電流制御回路40Aと第2電流制御回路40Bの出力電流の配分比率が50%であり、時刻t1から時刻t2の間に第1電流制御回路40Aの出力電流の配分比率が100%まで増加するともに第2電流制御回路40Bの出力電流の配分比率が0%まで減少し、時刻t2以降の期間では第1電流制御回路40Aと第2電流制御回路40Bの出力電流の配分比率がそれぞれ100%と0%である。
【0134】
この場合、
図17(b)の実線に示す第1電流制御回路40Aの制御演算装置31aの部品温度推定部61の換算ゲインG1の値は、時刻t1より前の期間において値「g0」に設定され、時刻t1から時刻t2の間に値「g1」に増加し、時刻t2以降では値「g1」に設定される。
図17(b)の破線に示す第2電流制御回路40Bの制御演算装置31bの部品温度推定部61の換算ゲインG1の値は、時刻t1より前の期間において値「g0」に設定され、時刻t1から時刻t2の間に値「g2」に減少し、時刻t2以降では値「g2」に設定される。
【0135】
図17(c)の実線に示す第1電流制御回路40Aの制御演算装置31aの部品温度推定部61の第1カットオフ周波数fc1の値は、時刻t1より前の期間において値「f0」に設定され、時刻t1から時刻t2の間に値「f1」に低下し、時刻t2以降では値「f1」に設定される。
図17(c)の破線に示す第2電流制御回路40Bの制御演算装置31bの部品温度推定部61の第1カットオフ周波数fc1の値は、時刻t1より前の期間において値「f0」に設定され、時刻t1から時刻t2の間に値「f2」に上昇し、時刻t2以降では値「f2」に設定される。
【0136】
(第3実施形態の効果)
(1)部品温度推定部は、一対の電流制御回路の出力電流の間の配分比率に応じた所定ゲインを設定し、複数の電子部品毎に、電子部品において発生する損失電力を推定し、損失電力と所定ゲインとの積に応じた値と、温度検出回路が検出した検出温度に応じた値と、の和に基づいて、複数の電子部品毎に部品温度を推定してもよい。
例えば部品温度推定部は、一対の電流制御回路のうちいずれか一方の配分比率が高いほどより大きな所定ゲインに基づいて、いずれか一方の電流制御回路の部品温度を推定してもよい。
温度検出回路が検出した検出温度と実際の部品温度との間の差分は、一対の電流制御回路の出力電流の間の配分比率に応じて変化する。配分比率に応じて設定した所定ゲインに基づいて部品温度を推定することにより、配分比率に応じた部品温度の推定が可能になり、より精度の高い部品温度を推定できる。
【0137】
(2)例えば部品温度推定部は、一対の電流制御回路のうち両方を駆動する場合に比べていずれか一方のみを駆動する場合により大きな所定ゲインを設定してもよい。
これにより、駆動モードの違いに応じた部品温度の推定が可能になり、より精度の高い部品温度を推定できる。
【0138】
(3)部品温度推定部は、損失電力と所定ゲインとの積に応じた値として、損失電力と所定ゲインとの積を第1ローパスフィルタに通して得られた値を取得し、配分比率に応じて第1ローパスフィルタのカットオフ周波数を設定してもよい。
例えば部品温度推定部は、一対の電流制御回路のうちいずれか一方の配分比率が高いほどより低いカットオフ周波数を有する第1ローパスフィルタを用いて、いずれか一方の電流制御回路の部品温度を推定してもよい。
一対の電流制御回路の出力電流の間の配分比率に応じて変化する。配分比率に応じて設定した所定ゲインに基づいて部品温度を推定することにより、配分比率に応じた部品温度の推定が可能になり、より精度の高い部品温度を推定できる。
電流制御回路の出力電流が変化すると電子部品の発熱量が変化するため、これに伴って部品温度や温度検出回路が検出した検出温度も変化するところ、温度検出回路が検出した検出温度と実際の部品温度との間の差分の波形は、配分比率に応じて異なる応答性を有する。配分比率に応じて設定したカットオフ周波数を有する第1ローパスフィルタを用いて部品温度を推定することにより、配分比率に応じた部品温度の推定が可能になり、より精度の高い部品温度を推定できる。
【0139】
(4)部品温度推定部は、一対の電流制御回路のうち両方を駆動する場合に比べていずれか一方のみを駆動する場合に第1ローパスフィルタのカットオフ周波数をより低く設定してもよい。
これにより、駆動モードの違いに応じた部品温度の推定が可能になり、より精度の高い部品温度を推定できる。
【0140】
(第4実施形態)
図18は、第4実施形態のハイサイドFET温度推定部61a1の機能構成の第1例のブロック図である。
第1実施形態及び第2実施形態では、電子部品において発生する損失電力を第1ローパスフィルタ74によりフィルタ処理して得られた第1値と、温度検出回路45Aや温度検出回路45Bが検出した検出温度を第2ローパスフィルタ75でフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて部品温度を推定した。
【0141】
これに対して第4実施形態では、並列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74bによって損失電力をフィルタ処理して得られた第1値と、温度検出回路45Aや温度検出回路45Bが検出した検出温度を第2ローパスフィルタ75でフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて前記複数の電子部品毎に前記部品温度を推定する。
【0142】
並列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74bは、第1電力変換回路42AのハイサイドFETQ1における損失電力Wと所定のゲインG1との各々の乗算結果(G1×W)にローパスフィルタ処理を行うことにより得られる信号をそれぞれ加算器76に入力する。加算器76は、第1ローパスフィルタ74aの出力と、第1ローパスフィルタ74bの出力と、第2ローパスフィルタ75の出力との和を、ハイサイドFETQ1の部品温度Tea1として算出する。
【0143】
このように、第1電力変換回路42AのハイサイドFETQ1における損失電力Wを、並列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74bによってフィルタ処理して得られた第1値に基づいてハイサイドFETQ1の部品温度Tea1として算出することにより、ハイサイドFETQ1の部品温度Tea1の推定精度を向上できる。
【0144】
図19(a)及び
図19(b)は、それぞれ第1実施形態と第4実施形態における温度推定結果の模式図であり、実線は実際のハイサイドFETQ1の部品温度の想定値、破線はハイサイドFET温度推定部61a1の部品温度の推定値を示している。
図19(c)及び
図19(d)は、それぞれ
図19(a)及び
図19(b)における推定値(破線)と想定値(実線)との間の推定誤差の模式図である。なお、本明細書において、部品温度の「想定値」の文言は、過去の実績や経験値から想定される部品温度の値の意味に使用される。
図19(a)~
図19(d)から分かるように、並列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74bによってフィルタ処理することにより、部品温度の推定精度が向上することが分かる。
【0145】
図20(a)は、電子部品からヒートシンクまでの放熱経路の一例の模式図である。上記のとおり、第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bの各々に含まれる電子部品と、温度検出回路45Aの温度センサ45A1及び45A2とは、同一の回路基板36に実装されている。回路基板36の表面ffに実装された電子部品の回路基板36と反対側の面f1と、温度検出回路45Aの温度センサ45A1及び45A2の回路基板36と反対側の面f2とは、同一のヒートシンク37に熱的に接続されている。例えば、熱インタフェース材料38a及び38bをそれぞれ介して面f1及びf2をヒートシンク37に接触させる。温度検出回路45Bの温度センサも、温度センサ45A1及び45A2と同様な構成でヒートシンク37に熱的に接続されている。
【0146】
このため、電子部品で発生した熱は、熱インタフェース材料38aを介して直接ヒートシンク37へ伝達される第1放熱経路Pth1と、回路基板36を経由してヒートシンク37へ伝達される第2放熱経路Pth2と、を介して並列に伝達される。第2放熱経路Pth2は、回路基板36を経由する経路であるため、第1放熱経路Pth1とは異なる熱的特性(例えば熱伝導率や熱容量)を有している。
【0147】
図20(b)は、電子部品からヒートシンクまでの放熱経路の他の一例の模式図である。第1電力変換回路42Aと第2電力変換回路42Bの各々に含まれる第1の電子部品と第2の電子部品とは、同一の回路基板36に実装されている。回路基板36の表面ffに実装されたこれら電子部品の回路基板36と反対側の面f1a及びf1bは、同一のヒートシンク37に熱的に接続されている。このような構造においても、第1の電子部品で発生した熱は、熱インタフェース材料38aを介して直接ヒートシンク37へ伝達される第1放熱経路Pth1と、第1放熱経路Pth1とは熱的特性が異なる回路基板36を経由してヒートシンク37へ伝達される第2放熱経路Pth2と、を介して並列に伝達される。
【0148】
図20(c)は、電子部品で発生した熱を並列に伝達する複数の放熱経路Pth1及びPth2が存在する場合における、部品温度の遅れ応答を模式的に表現した等価回路図である。
第1放熱経路Pth1と第2放熱経路Pth2とでは熱の伝達特性が異なる。このため、これらの放熱経路Pth1及びPth2によって放熱される電子部品の温度変化の遅れ応答を、単一の第1ローパスフィルタ74によって再現することは難しい。
【0149】
そこで第4実施形態では、電子部品で発生した熱が複数の放熱経路Pth1及びPth2を伝達することによって生じる電子部品の温度変化のそれぞれ遅れ応答を、互いに並列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74bによってそれぞれ再現する。
これにより、電子部品が発生した熱が複数の放熱経路Pth1及びPth2を通ってヒートシンク37に放熱する場合の電子部品の温度変化の遅れ応答を、複数の第1ローパスフィルタ74a及び74bによってそれぞれ再現することにより、電子部品の温度を精度よく推定することが可能となる。
【0150】
図21は、第4実施形態のハイサイドFET温度推定部61a1の機能構成の第2例のブロック図である。この例では、異なる複数の所定ゲインを損失電力Wに乗算してそれぞれ得られた複数の乗算結果を、複数の第1ローパスフィルタによってそれぞれフィルタ処理して得られた値の合計を、第1値として算出する。
図21の例では、異なる所定のゲインG1a及びG1bを損失電力Wに乗算してそれぞれ得られた複数の乗算結果G1a×W及びG1b×Wを、複数の第1ローパスフィルタ74a及び74bによってそれぞれフィルタ処理して得られた値をそれぞれLPF1a(G1a×W)、LPF1b(G1b×W)と表すとき、これらの値の合計LPF1a(G1a×W)+LPF1b(G1b×W)を第1値として算出する。
このように、第1ローパスフィルタ74a及び74bに対してそれぞれ異なる値のゲインG1a及びG1bを設定することにより、放熱経路Pth1及びPth2の熱特性の違いを推定値に反映させることができる。この結果、部品温度の推定精度を向上できる。
【0151】
なお、
図20(a)及び
図20(b)に模式的に例示した第1放熱経路Pth1と第2放熱経路Pth2のうち、第2放熱経路Pth2は、熱的特性が大きく異なる材質からなる複数材料(回路基板36とヒートシンク37)の両方を介して電子部品の発熱を放熱する。このため、第2放熱経路Pth2を通って放熱する場合の電子部品の温度変化の遅れ応答を、複数の1次ローパスフィルタの直列接続と等価な2次以上のローパスフィルタによって再現してもよい。
このため、並列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74bのいずれかを2次以上のローパスフィルタとしてもよい。
【0152】
ハイサイドFET温度推定部61a2及び61a3、ローサイドFET温度推定部61b1~61b3、シャント抵抗温度推定部61c1~61c3、相遮断FET温度推定部61d1~61d3、電源遮断FET温度推定部61e1及び61e2、並びにコイル温度推定部61g等の他の部品温度推定部も、
図18又は
図21に示すハイサイドFET温度推定部61a1と同様の構成を備えてよい。
【0153】
また、回路基板36の裏面frに実装される電子部品については、電子部品で発生した熱が熱インタフェース材料を介して直接ヒートシンク37へ伝達される第1放熱経路Pth1が存在しない。このため、回路基板36の裏面frに実装に実装される電子部品の部品温度を推定する温度推定部は、
図18又は
図21に示す構成を採用しなくてもよい。例えば電解コンデンサCA1、CA2が回路基板36の裏面frに実装される場合、コンデンサ温度推定部61f1及び61f2は、
図18又は
図21に示す構成を採用しなくてもよい。
【0154】
(第4実施形態の効果)
(1)第4実施形態の電流制御装置は、複数の電子部品を含む電流制御回路と、電流制御回路の付近に配置された温度検出素子を有する温度検出回路と、複数の電子部品の各々に流れる電流値を検出又は推定する電流検出部と、電流検出部が検出又は推定した電流値と、温度検出回路が検出した検出温度と、に基づいて、電子部品の温度である部品温度を複数の電子部品毎に推定する部品温度推定部と、複数の電子部品毎に推定された部品温度に含まれる複数の異なる部品温度に対して複数の異なる低減係数をそれぞれ設定する低減係数設定部と、複数の低減係数のいずれか1つを選択する選択部と、選択された低減係数に基づいて電流制御回路から負荷に出力される出力電流を制限する電流制限部と、を備える。
【0155】
部品温度推定部は、複数の電子部品毎に、電子部品において発生する損失電力を推定し、互いに並列接続された複数の第1ローパスフィルタによって損失電力をフィルタ処理して得られた第1値と、温度検出回路が検出した検出温度を第2ローパスフィルタでフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて複数の電子部品毎に部品温度を推定する。例えば、損失電力と所定ゲインとの乗算結果を複数の第1ローパスフィルタによってフィルタ処理して第1値を取得してもよい。
これにより、1つの電子部品で発生した熱が、並列に存在する複数の放熱経路を伝達して放熱される場合における部品温度を精度よく推定できる。
【0156】
(2)複数の電子部品と温度検出素子とが同一の回路基板上に実装され、複数の電子部品のうちいずれかである第1部品の回路基板側とは反対側の面と、温度検出素子又は複数の電子部品のうち第1部品以外の第2部品の回路基板側とは反対側の面と、が同一のヒートシンクに熱的に結合されていてもよい。
これにより、回路基板を経由しないでヒートシンクで放熱する放熱経路と、回路基板を経由して放熱する放熱経路と、によって放熱される電子部品の温度変化のそれぞれ遅れ応答を、互いに並列接続された複数の第1ローパスフィルタによってそれぞれ再現できる。
【0157】
(3)部品温度推定部は、異なる複数の所定ゲインを損失電力に乗算してそれぞれ得られた複数の乗算結果を、複数の第1ローパスフィルタによってそれぞれフィルタ処理して得られた値の合計を、第1値として取得してもよい。
このように、異なる第1ローパスフィルタに対してそれぞれ異なる値の所定ゲインを設定することにより、放熱経路の熱特性の違いを推定値に反映させることができる。この結果、部品温度の推定精度を向上できる。
【0158】
(4)複数の第1ローパスフィルタのうち少なくとも1つは、2次以上のローパスフィルタであってもよい。
これにより、熱的特性が大きく異なる材質からなる複数部材を介して放熱される電子部品の温度変化の遅れ応答を精度よく推定できる。
【0159】
(第5実施形態)
例えば第4実施形態のハイサイドFET温度推定部61a1は、
図20(a)や
図20(b)に示すように、電流制御装置に含まれる電子部品のうち回路基板36の表面ff上に実装されている電子部品の部品温度を推定する。この電子部品は、回路基板36とヒートシンク37との間に配置され、回路基板36と反対側を向く面f1がヒートシンク37に熱的に接続されており、電子部品で発生した熱は、直接又は熱インタフェース材料38aを介してヒートシンク37に放熱される。
【0160】
一方で、電流制御装置に含まれる電子部品には、回路基板36の表面ff及び裏面frのうち、ヒートシンク37側に向いている表面ffとは反対側の裏面fr上に搭載されている電子部品がある。
以下の説明では、例えばインバータの正極線と負極線とを接続する電解コンデンサCA1及びCA2が裏面fr上に搭載されている場合を例示する。ただし本発明は、回路基板36の裏面fr側の搭載される電子部品を電解コンデンサCA1及びCA2に限定することを意図するものではない。電流制御装置に含まれる電子部品のどの部品が、ヒートシンク37と反対側を向く回路基板36の面fr上に搭載されるかは、個々の製品よって異なる。
【0161】
回路基板36の裏面fr上に実装される電子部品の場合、電子部品が発生した熱は回路基板36を経由し、さらに回路基板36とヒートシンク37との間に介在する部材(例えば表面ffに実装された他の電子部品や温度センサ)や介挿物(例えば、表面ffに塗布された熱インタフェース材料など)を介してヒートシンク37に放熱される。このため熱伝達の経路が複雑になり、1次のローパスフィルタ単体では、電子部品の部品温度の上昇量を電子部品の損失電力から正確に推定することが困難になることがある。
そこで第5実施形態では、直列接続された複数の第1ローパスフィルタによって損失電力をフィルタ処理することにより電子部品の発熱による部品温度の上昇量を推定する。
【0162】
図22は、第5実施形態のコンデンサ温度推定部61f1の機能構成の第1例のブロック図である。コンデンサ温度推定部61f1は、回路基板36の裏面fr上に搭載された第1電力変換回路42Aの電解コンデンサCA1の部品温度を推定する。回路基板36の裏面fr上に搭載された電解コンデンサCA2の部品温度を推定するコンデンサ温度推定部61f2も、
図22に示す構成と同様の機能構成を有していてよい。
第5実施形態のコンデンサ温度推定部61f1は、直列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74cによって、損失電力演算部72が演算した損失電力Wをフィルタ処理して得られた第1値と、温度検出回路45Aや温度検出回路45Bが検出した検出温度を第2ローパスフィルタ75でフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて前記複数の電子部品毎に前記部品温度を推定する。
【0163】
また第5実施形態のコンデンサ温度推定部61f1の損失電力演算部72は、A相電流I1ad、B相電流I1bd及びC相電流I1cdに基づいて、次式にしたがって電解コンデンサCA1の損失電力Wを演算する。
W=Ga×I1ad2+Gb×I1bd2+Gc×I1cd2
すなわち、第5実施形態のコンデンサ温度推定部61f1は、A相電流I1ad、B相電流I1bd及びC相電流I1cdの各々の二乗値の重み付け和に基づいて損失電力Wを演算する。
なお、第5実施形態のコンデンサ温度推定部61f1においても、第1実施形態~第4実施形態のコンデンサ温度推定部61f1と同様に次式に基づいて、電解コンデンサCA1の損失電力Wを演算してもよい。
W=Rf×(Id2+Iq2)
【0164】
直列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74cのうち前段の第1ローパスフィルタ74aは、電解コンデンサCAにおける損失電力Wと所定のゲインG1との各々の乗算結果(G1×W)にローパスフィルタ処理を行う。後段の第1ローパスフィルタ74cは、前段の第1ローパスフィルタ74aの出力にローパスフィルタ処理を行うことにより得られる信号をそれぞれ加算器76に入力する。加算器76は、第1ローパスフィルタ74cの出力と、第2ローパスフィルタ75の出力との和を、電解コンデンサCAの部品温度Tef1として算出する。
【0165】
このように、A相電流I1ad、B相電流I1bd及びC相電流I1cdに基づいて電解コンデンサCA1の損失電力Wを演算し、演算した損失電力Wを、直列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74cによってフィルタ処理して得られた第1値に基づいて電解コンデンサCAの部品温度Tef1を算出することにより、回路基板36の裏面fr上に実装される電解コンデンサCAの部品温度Tef1の推定精度を向上できる。
【0166】
図23(a)及び
図23(b)は、それぞれ第1実施形態と第5実施形態における温度推定結果の模式図であり、実線は実際の電解コンデンサCAの部品温度の想定値、破線はコンデンサ温度推定部61f1の部品温度の推定値を示している。
図23(c)及び
図23(d)は、それぞれ
図23(a)及び
図23(b)における推定値(破線)と想定値(実線)との間の推定誤差の模式図である。
図23(a)~
図23(d)から分かるように、A相電流I1ad、B相電流I1bd及びC相電流I1cdに基づいて電解コンデンサCA1の損失電力Wを演算し、直列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74cによって損失電力Wをフィルタ処理することにより、部品温度の推定精度が向上することが分かる。
【0167】
次に、
図24(a)~
図24(f)を参照して、A相電流I1ad、B相電流I1bd及びC相電流I1cdに基づいて電解コンデンサCA1の損失電力Wを演算することにより、部品温度の推定精度が向上する理由を説明する。
図24(a)~
図24(c)は、d軸電流id及びq軸電流iqに基づいて電解コンデンサCA1の損失電力Wを演算した場合のコンデンサ温度推定部61f1の部品温度の推定値の波形(破線)と、実際の電解コンデンサCAの部品温度の想定値の波形(実線)のイメージ図である。
【0168】
また、
図24(d)~
図24(f)は、A相電流I1ad、B相電流I1bd及びC相電流I1cdに基づいて電解コンデンサCA1の損失電力Wを演算した場合のコンデンサ温度推定部61f1の部品温度の推定値の波形(破線)と、実際の電解コンデンサCAの部品温度の想定値の波形(実線)のイメージ図である。
なお、
図24(a)及び
図24(d)の波形は、A相~C相のデューティ比Da~DcのうちA相のデューティ比Daを最大に設定した場合に得られる波形である、後述の
図24(g)の波形も同様である。部品温度が上昇している期間と下降している期間は、それぞれ通電されている期間と通電が停止している期間を示している。このような波形は、例えばモータ20の回転軸の回転角度が特定の角度に固定されるように制御することにより再現できる。
また
図24(b)、
図24(e)及び
図24(h)の波形はB相のデューティ比Dbを最大に設定した場合に得られる波形であり、
図24(c)、
図24(f)及び
図24(i)の波形はC相のデューティ比Dcを最大に設定した場合に得られる波形である。
【0169】
図24(a)~
図24(c)を参照すると、実際の電解コンデンサCAの部品温度の想定値(実線)は、B相デューティ比Dbが最大である場合(
図24(b))はA相デューティ比Daが最大である場合(
図24(a))に比べて低くなり、C相デューティ比Dcが最大である場合(
図24(c))はA相デューティ比Daが最大である場合(
図24(a))に比べて高くなっている。
これは、A相電流I1ad、B相電流I1bd及びC相電流I1cdが流れるときに発熱する構成物(電子部品や電力ライン配線)と電解コンデンサCAまでのそれぞれの距離が異なり、これらの構成物で発生した熱が電解コンデンサCAに与える影響が異なるためであると考えられる。
【0170】
そこで、電解コンデンサCA1の損失電力Wを演算する際に、A相電流I1ad、B相電流I1bd及びC相電流I1cdに基づいて損失電力Wを演算し、重み係数Ga、Gb及びGcを調整して、ハイサイドFETQ1、Q3、Q5の各々から電解コンデンサCAまでのそれぞれの距離の違いを補償することで、
図24(d)~
図24(f)の破線のように、コンデンサ温度推定部61f1の部品温度の推定値の波形(破線)の大きさを、実際の電解コンデンサCAの部品温度の想定値の波形(実線)の大きさに近付けることができる。
但し、重み係数Ga、Gb及びGcを調整するだけでは、推定値の波形(破線)の最大値を、実際の電解コンデンサCAの部品温度の想定値の波形(実線)の最大値に合わせることができても、推定値(破線)の波形の形状と想定値(実線)の波形の形状との間に形状のずれを合わせることができない。
【0171】
そこで、直列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74cによって損失電力Wをフィルタ処理することによって、コンデンサ温度推定部61f1の推定値の波形の再現性を向上させることができる。ここでは例えば、想定値(実線)の波形の形状に対する推定値(破線)の波形の形状の推定誤差が最小になるように第1ローパスフィルタ74a及び74cの特性を調整する。
図24(g)~
図24(i)は、直列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74cによって損失電力Wをフィルタ処理した場合のコンデンサ温度推定部61f1の部品温度の推定値の波形(破線)と、実際の電解コンデンサCAの部品温度の想定値の波形(実線)のイメージ図である。
図24(g)~
図24(i)に示すように、コンデンサ温度推定部61f1の部品温度の推定値の波形(破線)は、想定値の波形(実線)により近づいており再現性が向上されている。
【0172】
次に、直列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74cを用いることにより、コンデンサ温度推定部61f1の推定値の波形の再現性が向上する理由を考察する。
図25(a)は、回路基板36の裏面fr上に搭載された電子部品ecrからヒートシンクまでの放熱経路の一例の模式図である。
電子部品ecrは、回路基板36の裏面fr上に実装され、裏面frとは反対側の回路基板36の表面ffには、表面ff上に実装された電子部品ecfや温度センサ45A1及び45A2が実装され、熱インタフェース材料38a及び38bを介してヒートシンク37に熱的に結合されている。
【0173】
例えば、電子部品ecfの回路基板36側とは反対側の面f1が、熱インタフェース材料38aを介してヒートシンク37に熱的に結合されていることにより、回路基板36の表面ffは、電子部品ecfを介してヒートシンク37に熱的に結合されている。また、温度センサ45A1及び45A2の回路基板36側とは反対側の面f2が、熱インタフェース材料38bを介してヒートシンク37に熱的に結合されていることにより、回路基板36の表面ffは、温度センサ45A1及び45A2を介してヒートシンク37に熱的に結合されている。また、回路基板36の表面ffは、回路基板36とヒートシンク37との間に介在している熱インタフェース材料38aを介してヒートシンク37に熱的に結合されている。
【0174】
このため、回路基板36の裏面fr上に実装された電子部品ecrが発生した熱は、電子部品ecrから回路基板36まで放熱経路Pth3を経由して放熱され、さらに回路基板36からヒートシンク37まで、これらの間に介在する電子部品ecfと熱インタフェース材料38aを通る放熱経路Pth1を経由してヒートシンク37に放熱される。これらの放熱経路Pth3と放熱経路Pth1は、異なる熱的特性(例えば熱伝導率や熱容量)を有しているため、電子部品ecrからヒートシンク37までの熱伝達の経路を複雑にしている。
【0175】
図25(b)は、電子部品ecrで発生した熱が放熱経路Pth3及びPth1を直列に伝達する場合における、部品温度の遅れ応答を模式的に表現した等価回路図である。
放熱経路Pth3と放熱経路Pth1とでは熱の伝達特性が異なる。このため、これらの放熱経路Pth3及びPth1によって放熱される電子部品の温度変化の遅れ応答を、単一の第1ローパスフィルタ74によって再現することは難しい。
【0176】
そこで第5実施形態では、電子部品ecrで発生した熱が放熱経路Pth3及びPth1を伝達することによって生じる電子部品の温度変化のそれぞれ遅れ応答を、互いに直列接続された複数の第1ローパスフィルタ74a及び74cによってそれぞれ再現する。
これにより、電子部品ecrで発生した熱が放熱経路Pth3及びPth1を直列に伝達してヒートシンク37に放熱する場合の電子部品ecrの温度変化の遅れ応答を、複数の第1ローパスフィルタ74a及び74cによってそれぞれ再現することにより、回路基板36の裏面fr上に実装された電子部品ecrの温度を精度よく推定することが可能となる。
【0177】
なお、電子部品ecrで発生した熱が回路基板36からヒートシンク37まで伝達される放熱経路としては、電子部品ecf以外に回路基板36の表面ffに実装された他の電子部品や、温度センサ45A1及び45A2や熱インタフェース材料38a、38bを通って、放熱経路Pth1と並列に熱が伝達する放熱経路Pth4も存在する。
このため、
図25(c)に示すように放熱経路Pth4を経由する放熱による電子部品ecrの温度変化の遅れ応答を再現するための第1ローパスフィルタ74dを、第1ローパスフィルタ74cに対して並列に接続してもよい。
但し
図25(a)の例では、電子部品ecfから見れば放熱経路Pth1と放熱経路Pth4はいずれも回路基板36を経由して放熱する。このため第1ローパスフィルタ74cと第1ローパスフィルタ74dの特性が近くなると考えられ、第1ローパスフィルタ74cと第1ローパスフィルタ74dとを1つの第1ローパスフィルタ74cで実現してもよい。
また、第1ローパスフィルタ74cの効果が支配的である場合には、第1ローパスフィルタ74cに第1ローパスフィルタ74dを並列接続する効果が少なくなるため、第1ローパスフィルタ74dを省略してもよい。
【0178】
さらに、電流制御装置に含まれる電子部品の配置には、実際の製品に応じて様々な形態が考え、これらの電子部品から発生する熱の放熱経路にも様々な形態が考えられる。このため、損失電力演算部72が演算する損失電力Wをフィルタ処理する第1ローパスフィルタ74として、様々な接続形態で接続された複数の第1ローパスフィルタ74を、電子部品の配置形態に応じて使い分けてもよい。
ここで、説明の便宜のためにハイサイドFET温度推定部61a1~61a3、ローサイドFET温度推定部61b1~61b3、シャント抵抗温度推定部61c1~61c3、相遮断FET温度推定部61d1~61d3、電源遮断FET温度推定部61e1、61e2、コンデンサ温度推定部61f1、61f2及びコイル温度推定部61gを総称して「部品温度推定部61」と表記する。
【0179】
例えば、第5実施形態の第1低減係数設定部60は、
図18又は
図21に示すハイサイドFET温度推定部61a1と同様に構成した部品温度推定部61と、
図22又は
図25(c)に示すコンデンサ温度推定部61f1と同様に構成した部品温度推定部61と、を両方備えてもよい。
例えば、
図18又は
図21に示すハイサイドFET温度推定部61a1と同様に構成した部品温度推定部61は、回路基板36の表面ff上に搭載された電子部品を推定し、
図22又は
図25(c)に示すコンデンサ温度推定部61f1と同様に構成した部品温度推定部61は、回路基板36の裏面fr上に搭載された電子部品を推定してよい。
【0180】
図26(a)及び
図26(b)は、部品温度推定部61の第1変形例及び第2変形例のブロック図である。
なお、
図26(a)及び
図26(b)では、損失電力演算部72への入力信号の図示を省略している。これは、損失電力演算部72における損失電力Wの演算式が、ハイサイドFET温度推定部61a1~61a3と、ローサイドFET温度推定部61b1~61b3と、シャント抵抗温度推定部61c1~61c3と、相遮断FET温度推定部61d1~61d3と、電源遮断FET温度推定部61e1、61e2と、コンデンサ温度推定部61f1、61f2と、コイル温度推定部61gとによって異なるためである。
【0181】
例えば部品温度推定部61は、並列接続された複数の第1ローパスフィルタ74に対して、他の第1ローパスフィルタ74が直列接続されることにより構成される第1ローパスフィルタ74の並直列接続を備えていてもよい。例えば
図26(a)に示す部品温度推定部61は、並列接続された第1ローパスフィルタ74a及び74bと、並列接続された第1ローパスフィルタ74c及び74dとを直列接続することにより形成された第1ローパスフィルタ74a~74dの並直列接続によって、損失電力演算部72が演算した損失電力Wをフィルタ処理してもよい。
【0182】
また例えば部品温度推定部61は、直列接続された複数の第1ローパスフィルタ74に対して、他の第1ローパスフィルタ74が並列接続されることにより構成される第1ローパスフィルタ74の直並列接続を備えていてもよい。例えば
図26(b)に示す部品温度推定部61は、直列接続された第1ローパスフィルタ74a及び74cと、直列接続された第1ローパスフィルタ74b及び74dとを並列接続することにより形成された第1ローパスフィルタ74a~74dの直並列接続によって、損失電力演算部72が演算した損失電力Wをフィルタ処理してもよい。
【0183】
(第5実施形態の効果)
(1)実施形態の電流制御装置は、複数の電子部品を含む電流制御回路と、電流制御回路の付近に配置された温度検出素子を有する温度検出回路と、複数の電子部品の各々に流れる電流値を検出又は推定する電流検出部と、電流検出部が検出又は推定した電流値と、温度検出回路が検出した検出温度と、に基づいて、電子部品の温度である部品温度を複数の電子部品毎に推定する部品温度推定部と、複数の電子部品毎に推定された部品温度に含まれる複数の異なる部品温度に対して複数の異なる低減係数をそれぞれ設定する低減係数設定部と、複数の低減係数のいずれか1つを選択する選択部と、選択された低減係数に基づいて電流制御回路から負荷に出力される出力電流を制限する電流制限部と、を備える。
【0184】
部品温度推定部は、複数の電子部品毎に、電子部品において発生する損失電力を推定し、互いに直列接続された複数の第1ローパスフィルタによって損失電力をフィルタ処理して得られた第1値と、温度検出回路が検出した検出温度を第2ローパスフィルタでフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて複数の電子部品のうちいずれかの電子部品の部品温度を推定する。例えば、損失電力と所定ゲインとの乗算結果を複数の第1ローパスフィルタによってフィルタ処理して第1値を取得してもよい。これにより、電子部品で発生した熱が、電子部品と放熱部材との間に介在する様々な部材や介挿物を経由して放熱される場合における部品温度を精度よく推定できる。
【0185】
(2)いずれかの電子部品は、回路基板の第1面上に実装され、第1面とは反対側の回路基板の第2面は、ヒートシンクに熱的に結合されていてよい。これにより、ヒートシンクと反対側を向く回路基板の第1面上に実装される電子部品の部品温度を精度よく推定できる。
(3)複数の第1ローパスフィルタのうち少なくとも1つは、2次以上のローパスフィルタであってもよい。これにより、熱的特性が大きく異なる材質からなる複数部材を介して放熱される電子部品の温度変化の遅れ応答を精度よく推定できる。
【0186】
(4)部品温度推定部は、電子部品のうちいずれかの電子部品以外の他の電子部品の部品温度を、互いに並列接続された複数の第2ローパスフィルタによって損失電力をフィルタ処理して得られた第3値と、温度検出回路が検出した検出温度を第2ローパスフィルタでフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて推定してよい。これにより、他の電子部品で発生した熱が、並列に存在する複数の放熱経路を伝達して放熱される場合における部品温度を精度よく推定できる。
【0187】
(5)いずれかの電子部品は、回路基板の第1面上に実装され、他の電子部品は、第1面とは反対側の回路基板の第2面上に実装され、他の電子部品の回路基板側とは反対側の面がヒートシンクに熱的に結合されており、回路基板の第2面は、他の電子部品、第2面上に実装された温度検出素子又は熱インタフェース材料を介してヒートシンクに熱的に結合されていてよい。これにより、回路基板の第1面と第2面に実装されるそれぞれの電子部品の部品温度を精度よく推定できる。
【0188】
(6)部品温度推定部は、互いに並直列接続又は直並列接続された複数の第1ローパスフィルタによって損失電力をフィルタ処理して得られた第1値と、温度検出回路が検出した検出温度を第2ローパスフィルタでフィルタ処理して得られた第2値と、の和に基づいて複数の電子部品毎に部品温度を推定してよい。これにより、電流制御装置に含まれる電子部品の配置形態に応じて、様々な遅延特性の第1ローパスフィルタ74を選択できる。
【0189】
(7)電流制御回路はインバータ回路であり、いずれかの電子部品は、インバータ回路の正極線と負極線とを接続する平滑コンデンサであってよい。これにより平滑コンデンサ発生した熱が、平滑コンデンサと放熱部材との間に介在する様々な部材や介挿物を経由して放熱される場合における平滑コンデンサの部品温度を精度よく推定できる。
【0190】
(8)電流制御回路はインバータ回路であり、複数の電子部品は、インバータ回路の正極線と負極線とを接続する平滑コンデンサを含み、部品温度推定部は、インバータ回路の相電流の大きさに基づいて平滑コンデンサにおいて発生する損失電力を推定してもよい。これにより、インバータ回路のスイッチングと平滑コンデンサとの間の距離の違いに応じて発生する部品温度の推定値のばらつきを低減できる。
【0191】
(第6実施形態)
図7に示すハイサイドFET温度推定部61a1は、ハイサイドFETQ1の部品温度Tea1の推定のために第1ローパスフィルタ74を有している。第1ローパスフィルタ74は積分回路により構成され、ECU30が動作を停止すると(すなわち、第1電流制御回路40A、第2電流制御回路40Bが停止すると)、積分回路の遅延素子がリセットされる。以下の説明において、第1電流制御回路40A及び第2電流制御回路40Bを総称して電流制御回路40と表記することがある。
このような積分回路の遅延素子のリセットは、例えば、バッテリ13のバッテリ電圧の瞬間的な変動、バッテリ13のコネクタの不良、ECU30のシステムチェック機能による制御演算装置31a、31bの強制リセット、イグニションスイッチ11のオフなどの原因により、第1低減係数設定部60が機能を停止し、ハイサイドFETQ1の部品温度Tea1の温度推定を継続できない場合に発生する。
【0192】
積分回路の遅延素子がリセットされると、ハイサイドFET温度推定部61a1は、第1ローパスフィルタ74の遅延素子に適切な初期値を設定した後に積分回路を動作させないと適正な部品温度Teaを推定できなくなる。
そこで第6実施形態のハイサイドFET温度推定部61a1は、ECU30が停止してから動作を再開するときに、電流制御回路40の付近の2箇所で検出される第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2に基づいて、ハイサイドFET温度推定部61a1が推定する部品温度の初期値を設定する。
【0193】
以下の説明では、ハイサイドFET温度推定部61a1を例示するが、ハイサイドFET温度推定部61a2及び61a3と、ローサイドFET温度推定部61b1~61b3と、シャント抵抗温度推定部61c1~61c3と、相遮断FET温度推定部61d1~61d3と、電源遮断FET温度推定部61e1及び61e2と、コンデンサ温度推定部61f1及び61f2と、及びコイル温度推定部61gも、ハイサイドFET温度推定部61a1と同様の構成を備えてよい。
【0194】
なお、第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2を検出するための温度検出素子は、第1検出温度Td1と第2検出温度Td2との間に温度差が発生するように互いに十分に離れた位置に設置すればよく、特に設置位置は限定されない。
図27を参照する。例えば第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2のうちいずれか一方を検出するための温度検出素子として、制御演算装置31a、31bのICパッケージ内に設けられた温度検出器46A、46Bを用いてもよい。
【0195】
第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2のうちいずれか他方を検出するための温度検出素子として、温度検出回路45A又は45Bを用いてもよい。
このように、第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2を検出するための温度検出素子は、ECU30を構成する何れかのICのICパッケージ内に設けられていてもよく、ICパッケージとは別個に電流制御回路40の付近に設けられていてもよい。
【0196】
図28は、第6実施形態のハイサイドFET温度推定部61a1の機能構成の一例のブロック図である。第6実施形態のハイサイドFET温度推定部61a1は、初期値設定部78と、減算器79を備える。
初期値設定部78は、ECU30が動作を停止した時点の第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2と、ECU30が動作を停止した時点にハイサイドFET温度推定部61a1が出力した部品温度Tea1の推定値と、ECU30が動作を再開した時点の第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2と、に基づいて、ECU30が動作を再開した時点の部品温度Tea1の推定値の初期値Tiniを算出する。
【0197】
以下、ECU30が動作を停止した時点の第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2を「停止時の第1検出温度Td1e及び第2検出温度Td2e」と表記し、ECU30が動作を停止した時点にハイサイドFET温度推定部61a1が出力した部品温度Tea1の推定値を「停止時の部品温度Tea1の推定値Tea1e」と表記し、ECU30が動作を再開した時点の第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2を、「再開時の第1検出温度Td1r及び第2検出温度Td2r」と表記することがある。
【0198】
また以下の説明では、温度検出回路45Aが出力するECU30の温度の検出信号SdAを第1検出温度Td1として使用する場合を例示するが、温度検出回路45Aが出力するECU30の温度の検出信号SdAを第2検出温度Td2として使用してもよい。
ECU30が動作を停止すると、初期値設定部78は、ECU30の動作停止時に最後に入力された第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2を、停止時の第1検出温度Td1e及び第2検出温度Td2eとして記憶する。また、ECU30の動作停止時にハイサイドFET温度推定部61a1が最後に出力した部品温度Tea1の推定値を、停止時の部品温度Tea1の推定値Tea1eとして記憶する。
【0199】
ECU30が動作を再開すると、初期値設定部78は、再開時の第1検出温度Td1r及び第2検出温度Td2rを取得する。
初期値設定部78は、停止時の第1検出温度Td1eと第2検出温度Td2eの温度差(Td2e-Td1e)と、再開時の第1検出温度Td1rと第2検出温度Td2rの温度差(Td2r-Td1r)との比を、第1推定ゲインGe1=(Td2r-Td1r)/(Td2e-Td1e)として算出する。
【0200】
図29(a)は、時刻t=0においてECU30が動作を停止した後の第1検出温度Td1(実線)及び第2検出温度Td2(破線)と、推定対象のハイサイドFETQ1の部品温度Tea1の想定値(一点鎖線)の模式図である。
図29(b)は、
図29(a)の第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2に基づいて算出した第1推定ゲインGe1の模式図である。
図29(a)は、ECU30が動作を停止した後の推定対象の部品温度Tea1の温度低下の遅れ応答が、第2検出温度Td2の温度低下の遅れ応答よりも遅い場合の例を示している。
【0201】
例えば、特許第6569447号公報には、第1電子部品の第1部品温度の影響を被り易い停止時の第1検出温度Td1eと停止時の部品温度Tea1の推定値Tea1eとの温度差(Tea1e-Td1e)に第1推定ゲインGe1を乗じて、再開時の部品温度Tea1の推定値(Ge1×(Tea1e-Td1e))を算出する温度推定方法が記載されている。
しかしながら、推定対象の部品温度Tea1の温度低下の遅れ応答と第2検出温度Td2の温度低下の遅れ応答とが異なる場合に、第1推定ゲインGe1をそのまま用いて部品温度Tea1を推定すると、部品温度Tea1の推定値に誤差を生じる。
【0202】
図29(c)の破線は、第1推定ゲインGe1に基づく部品温度Tea1の推定値(Ge1×(Tea1e-Td1e))を示し、
図29(c)の一点鎖線は部品温度Tea1の想定値を示す。
図29(d)は、推定値と想定値との誤差を示す模式図である。
部品温度Tea1の温度低下の遅れ応答が第2検出温度Td2の温度低下の遅れ応答よりも遅い場合には、
図29(c)及び
図29(d)に示すように、第1推定ゲインGe1に基づく推定値(破線)が想定値(一点鎖線)よりも低く見積もられて、時刻t10において最も誤差が大きくなっている。部品温度Tea1が過小に見積もられると電流指令値の制限が不十分になるため、
図29(c)及び
図29(d)の推定誤差は、危険側に生じた誤差となる。
推定対象の部品温度Tea1の温度低下の遅れ応答と第1検出温度Td1の温度低下の遅れ応答とが異なる場合も同様に、第1推定ゲインGe1をそのまま用いて部品温度Tea1を推定すると推定値に誤差を生じる。
【0203】
そこで、第6実施形態では、ECU30が動作を停止した時(すなわち電流制御回路40が停止した時)に発生する部品温度Tea1の時間変化を予め実際に測定しておく。そして、初期値設定部78は、測定結果から求められた部品温度Tea1の時間変化の温度データに基づいて第1推定ゲインGe1を較正することにより第2推定ゲインGe2を設定する。以下、ECU30が動作を停止した時の部品温度Tea1の時間変化を予め実際に測定して求めた部品温度Tea1の時間変化の温度データを「実測定温度データ」と表記することがある。
例えば、実測定温度データに基づいて、第1推定ゲインGe1から第2推定ゲインGe2へ変換する関数を予め設定してもよい。初期値設定部78は、予め設定された関数に第1推定ゲインGe1を代入して第2推定ゲインGe2を設定してよい。
【0204】
例えば初期値設定部78は、実測定温度データに基づいて設定された定数xをべき指数とし、第1推定ゲインGe1を底とするべき関数を用いて第2推定ゲインGe2=Ge1
xを設定してよい。上述した第1推定ゲインGe1に基づく推定値の誤差は、部品温度Tea1の温度低下の遅れ応答の時定数と第2検出温度Td2の温度低下の遅れ応答との時定数の違いによって生じると考えられるためである。
図30(a)は第2推定ゲインGeの一例の模式図である。例えば、推定対象の部品温度Tea1の温度低下の遅れ応答が第2検出温度Td2の温度低下の遅れ応答よりも遅い場合には、1より小さな値のべき指数xを設定してよい。
【0205】
初期値設定部78は、停止時の第1検出温度Td1eと停止時の部品温度Tea1の推定値Tea1eとの温度差(Tea1e-Td1e)に第2推定ゲインGe2を乗じて、再開時の部品温度Tea1の推定値の初期値Tini=(Ge2×(Tea1e-Td1e))を算出する。
図30(b)は第2推定ゲインGe2に基づく部品温度の推定値の模式図である。第2推定ゲインGe2を用いて部品温度Tea1を推定することにより、推定値を想定値に近付けることができる。これにより、部品温度Tea1が過小に見積もられることにより生じる電流指令値の不十分な制限を回避できる。
なお、初期値設定部78は、予め実際に測定した温度データに基づいて設定されたルックアップテーブルに基づいて、第1推定ゲインGe1から第2推定ゲインGe2へ変換してもよい。
【0206】
図28を参照する。減算器79は、初期値Tiniから基礎温度Tthを減算した差分(Tini-Tth)を、ECU30が動作を再開した時点の第1ローパスフィルタ74の出力の初期値として、第1ローパスフィルタ74に設定する。例えば減算器79は、差分(Tini-Tth)を第1ローパスフィルタ74の遅延素子に代入してよい。
この結果、ECU30が動作を再開した時点で、第1ローパスフィルタ74から差分(Tini-Tth)が出力される。加算器76は、差分(Tini-Tth)に基礎温度Tthを加える。この結果、ハイサイドFET温度推定部61a1から初期値Tiniが出力される。
【0207】
図31(a)は、ECU30が動作を停止した後の推定対象の部品温度Tea1の温度低下の遅れ応答が、第2検出温度Td2の温度低下の遅れ応答よりも速い場合の第1検出温度Td1(実線)及び第2検出温度Td2(破線)と、推定対象のハイサイドFETQ1の部品温度Tea1の想定値(一点鎖線)の模式図である。
図31(b)の破線は、
図31(a)の第1検出温度Td1及び第2検出温度Td2から求めた第1推定ゲインGe1に基づいて算出した部品温度Tea1の推定値を示し、
図31(b)の一点鎖線は、部品温度Tea1の想定値を示す。
図31(c)は、推定値と想定値との誤差を示す模式図である。
【0208】
部品温度Tea1の遅れ応答が第2検出温度Td2の遅れ応答よりも速い場合には、
図31(b)及び
図31(c)に示すように、第1推定ゲインGe1に基づく推定値(破線)が想定値(一点鎖線)よりも高く見積もられる。この結果、電流指令値が不必要に制限される虞がある。
【0209】
したがって、部品温度Tea1の遅れ応答が第2検出温度Td2の遅れ応答よりも速い場合には、第1推定ゲインGe1から第2推定ゲインGe2へ変換するべき関数のべき指数xを1より大きな値に設定してよい。
図31(d)は、第1推定ゲインGe1と第2推定ゲインGeの一例の模式図であり、
図31(e)は、第2推定ゲインGe2に基づく部品温度の推定値の模式図である。第2推定ゲインGe2を用いて部品温度Tea1を推定することにより、推定値を想定値に近付けることができる。これにより、部品温度Tea1が過大に見積もられることにより生じる電流指令値の不要な制限を回避できる。
【0210】
(第6実施形態の効果)
(1)電流制御装置は、電子部品を含む電流制御回路と、電流制御回路の付近に配置された温度検出素子を有する温度検出回路と、電子部品に流れる電流値を検出又は推定する電流検出部と、電流検出部が検出又は推定した電流値と、温度検出回路が検出した検出温度と、に基づいて、電子部品の温度である部品温度を推定する部品温度推定部と、部品温度に基づいて電流制御回路から負荷に出力される出力電流を制限する電流制限部と、を備える。
【0211】
部品温度推定部は、電流制御回路が停止してから動作を再開するときに部品温度の推定値の初期値を設定する初期値設定部を備える。
初期値設定部は、電流制御回路の付近の互いに離れた2箇所で検出される第1検出温度及び第2検出温度を取得し、電流制御回路の停止時に、部品温度の推定温度と第1検出温度と第2検出温度とを記憶し、停止時における第1検出温度と第2検出温度の温度差と、電流制御回路の動作の再開時における第1検出温度と第2検出温度の温度差との比を、第1推定ゲインとして算出し、電流制御回路が停止した時の部品温度の時間変化を予め実際に測定して得られる温度データに基づいて第1推定ゲインを較正することにより第2推定ゲインを設定し、停止時における第1検出温度と部品温度の推定温度との温度差に第2推定ゲインを乗じて求めた温度差に基づいて初期値を設定する。
【0212】
これにより、電流制御回路の停止後における第2検出温度の低下の遅れ応答の時定数と、推定対象の電子部品の部品温度の低下の遅れ応答の時定数とが異なっていても、電流制御回路の動作の再開時における電子部品の推定精度を向上できる。この結果、電流制御回路が停止してから動作を再開するときに、再開時における部品温度の推定精度を向上できる。
【0213】
(2)初期値設定部は、温度データに基づいて設定された第1推定ゲインの関数によって、第1推定ゲインを第2推定ゲインに変換してよい。上記関数は、温度データに基づいて設定された定数をべき指数とし第1推定ゲインを底とするべき関数であってもよく、温度データに基づいて設定されたルックアップテーブルであってもよい。これにより、部品温度の時間変化を予め実際に測定して得られる温度データと、第1推定ゲインと、に基づいて第2推定ゲインを適切に設定できる。
【0214】
(3)温度データに基づいて求めた部品温度の遅れ応答が、電流制御回路が停止した時の第2検出温度の遅れ応答よりも遅い場合に1よりも小さなべき指数を設定し、速い場合に1よりも大きなべき指数を設定してよい。これにより、電流制御回路が停止した時の部品温度の温度低下の遅れ応答特性に応じて、第1推定ゲインを第2推定ゲインに変換するべき関数を適切に設定できる。
【0215】
(4)部品温度推定部は、温度検出回路が検出した検出温度に応じた値として温度検出回路が検出した検出温度を第2ローパスフィルタ75に通して得られた値を取得してもよい。このように温度検出回路が検出した検出温度にローパスフィルタ処理を施すことにより、個々の電子部品の近傍の周囲温度の推定値を取得できる。例えば、温度検出回路の付近の電子部品の発熱の影響を抑制することで、他の電子部品の近傍の周囲温度を精度良く推定できる。電子部品がヒートシンクに熱接続されている場合には電子部品の近傍のヒートシンク温度を取得できる。
【0216】
(第7実施形態)
図32(a)~
図32(e)はそれぞれ、ECU30がモータ20の第1系統コイルと第2系統コイルの両方を駆動する両系統駆動モードで動作し、且つ第1電流制御回路40Aと第2電流制御回路40Bからモータ20に出力する駆動電流の配分比率を略等しくした場合におけるチョークコイルLa、電源遮断FETQC2、QD2、QC1及びQD1の部品温度の想定値の変化の一例を示す図である。
【0217】
両系統駆動モードでは、バッテリ13から第1系統コイルと第2系統コイルとにそれぞれ流れるバッテリ電流Ibat1、Ibat2の両方がチョークコイルLaに流れる。このためチョークコイルLaは高温になり易く、
図32(a)に示すように時刻t1においてチョークコイルLaの部品温度は高くなっている。
【0218】
これに対し、バッテリ電流Ibat1のみが流れる電源遮断FETQC1及びQC2の部品温度と(
図32(d)及び
図32(b))、バッテリ電流Ibat2のみが流れる電源遮断FETQD1及びQD2(
図32(e)及び
図32(c))の発熱量は、チョークコイルLaの発熱量よりも小さい。
さらに、第1電流制御回路40Aと第2電流制御回路40Bからモータ20に出力する駆動電流の配分比率が略等しい場合には、バッテリ電流Ibat1とIbat2の大きさは略等しい。このため、バッテリ電流Ibat1が流れる電源遮断FETQC1(
図32(d))とバッテリ電流Ibat2が流れる電源遮断FETQD1(
図32(e))の時刻t1付近の部品温度の差が小さくなっている。
【0219】
一方で、バッテリ電流Ibat1が流れる電源遮断FETQC2(
図32(b))とバッテリ電流Ibat2が流れる電源遮断FETQD2(
図32(c))の部品温度の差も小さくなることが予想されるところ、
図32(b)及び
図32(c)を比較すると、電源遮断FETQD2の部品温度が電源遮断FETQC2の部品温度よりも、時刻t1付近において有意に高くなっている。
これは、電源遮断FETQD2が、電源遮断FETQC1、QC2、QD1よりもチョークコイルLaに近接して配置しているため、高温のチョークコイルLaから伝搬する熱量が電源遮断FETQD2の部品温度に影響したことが原因であると考えられる。
【0220】
図33(a)は、チョークコイルLaからの放熱経路の第1例の模式図である。
図33(a)の例では、電源遮断FETQD2、温度センサ45B1及び45B2、チョークコイルLaが回路基板36の表面ffに実装され、それぞれ熱インタフェース材料38a~38cを介してヒートシンク37に接触している。
この場合は、チョークコイルLaの熱が熱インタフェース材料38cを通ってヒートシンク37に放熱される放熱経路Pth5と、チョークコイルLaの熱が、回路基板36と電源遮断FETQD2と熱インタフェース材料38aを通ってヒートシンク37に放熱される放熱経路Pth6が想定される。このため、チョークコイルLaから放熱経路Pth6を伝搬する熱が、電源遮断FETQD2の部品温度の上昇を招くと考えられる。
【0221】
図33(b)は、チョークコイルLaからの放熱経路の第2例の模式図である。
図33(b)の例では、電源遮断FETQD2、温度センサ45B1及び45B2が回路基板36の表面ffに実装され、それぞれ熱インタフェース材料38a及び38bを介してヒートシンク37に接触している。一方でチョークコイルLaは、回路基板36に接続配線Wで電気的に接続され、熱インタフェース材料38cを介してヒートシンク37に接触している。
この場合は、チョークコイルLaの熱が熱インタフェース材料38cを通ってヒートシンク37に放熱される放熱経路Pth5と、チョークコイルLaの熱が、接続配線Wと回路基板36と電源遮断FETQD2と熱インタフェース材料38aを通ってヒートシンク37に放熱される放熱経路Pth7が想定される。このため、チョークコイルLaから放熱経路Pth7を伝搬する熱が、電源遮断FETQD2の部品温度の上昇を招くと考えられる。
【0222】
図33(c)は、チョークコイルLaからの放熱経路の第3例の模式図である。
図33(c)の例では、電源遮断FETQD2、温度センサ45B1及び45B2が回路基板36の表面ffに実装され、それぞれ熱インタフェース材料38a及び38bを介してヒートシンク37に接触している。一方でチョークコイルLaは、回路基板36の裏面frに実装され、回路基板36を貫通するビアと熱インタフェース材料38cを介してヒートシンク37に熱的に接続されている。
この場合は、チョークコイルLaの熱がビアと熱インタフェース材料38cを通ってヒートシンク37に放熱される放熱経路Pth8と、チョークコイルLaの熱が、回路基板36と電源遮断FETQD2と熱インタフェース材料38aを通ってヒートシンク37に放熱される放熱経路Pth9が想定される。このため、チョークコイルLaから放熱経路Pth9を伝搬する熱が、電源遮断FETQD2の部品温度の上昇を招くと考えられる。
【0223】
このように、高温になり易いチョークコイルLaに近接して電源遮断FETQD2が配置されている場合には、電源遮断FETQD2はチョークコイルLaの高温の影響を受ける虞がある。この結果、電源遮断FETQD2の実際の部品温度が、電源遮断FET温度推定部61e2による推定値よりも高くなり、部品温度の推定精度が低下する虞がある。以下の説明において、高温になりやすい電子部品を「第1電子部品」と表記し、第1電子部品の部品温度の影響を被り易い電子部品を「第2電子部品」と表記することがある。チョークコイルLaは、「第1電子部品」の一例であり、電源遮断FETQD2は、「第2電子部品」の一例である。
説明の便宜上、以下の説明において、第2系統コイルを駆動する電流を制御する電流制御回路を構成する第2電力変換回路42BのハイサイドFETQ1、Q3及びQ5、ローサイドFETQ2、Q4及びQ6、電流検出回路39A2、39B2及び39C2のシャント抵抗、相遮断FETQB1、QB2及びQB3、電源遮断FETQD1、QD2、並びに電解コンデンサCB1及びCB2、の部品温度についても、第1系統コイルを駆動する電流を制御する電流制御回路を構成する電子部品の部品温度と同じ符号(すなわち、それぞれTea1~Tea3、Teb1~Teb3、Tec1~Tec3、Ted1~Ted3、Tee1及びTee2、並びにTef1及びTef2)を用いる。
【0224】
第7実施形態では、第2電子部品の損失電力Wと、温度検出回路45Bが出力するECU30の温度の検出信号SdBに加えて、第1電子部品の第1部品温度に基づいて第2電子部品の第2部品温度を推定する。例えば、電源遮断FETQD2の損失電力Wと、検出信号SdBと、チョークコイルLaの部品温度Tegとに基づいて電源遮断FETQD2の部品温度Tee2を推定する。
これにより、第2電子部品の第2部品温度が第1電子部品の第1部品温度の影響を被り易い構成において、第2部品温度の推定値を第1部品温度の推定値に基づいて補正することが可能になるため、第2部品温度の推定精度を向上できる。
【0225】
図34(a)は、第7実施形態の制御演算装置31bの第1低減係数設定部60に設けられた電源遮断FET温度推定部61e2の機能構成の第1例のブロック図である。電源遮断FET温度推定部61e2は、電流検出回路39A2、39B2及び39C2でそれぞれ検出したA相電流、B相電流、C相電流の検出値I2ad、I2bd、I2cdと、温度検出回路45Bが検出したECU30の温度の検出信号SdBと、コイル温度推定部61gが推定したチョークコイルLaの部品温度Tegの推定値を受信する。
【0226】
損失電力演算部72は、前回の制御サイクルで演算した電源遮断FETQD2の部品温度Tee2の前回値に基づいて電源遮断FETQD2のオン抵抗Rfを推定する。そして、オン抵抗Rfと、A相電流、B相電流、C相電流の検出値I2ad、I2bd、I2cdに基づいてバッテリ13から第2系統コイルに流れるバッテリ電流Ibat2を算出する。そして、次式に基づいて電源遮断FETQD2の損失電力Wを演算する。
W=Rf×Ibat22
ゲイン乗算部73は、損失電力Wと所定のゲインG1との積(G1×W)を算出して第1ローパスフィルタ74に出力する。
【0227】
第1ローパスフィルタ74は、積(G1×W)にローパスフィルタ処理を行うことにより得られる信号を加算器76に出力する。第2ローパスフィルタ75は、温度検出回路45Bが出力するECU30の温度の検出信号SdBにローパスフィルタ処理を行うことにより得られる信号を加算器76に出力する。
ゲイン乗算部81は、上記のゲインG1と異なる所定のゲインG2と、チョークコイルLaの部品温度Tegと、の積(G2×Teg)を算出して第3ローパスフィルタ82に出力する。第3ローパスフィルタ82は、積(G2×Teg)にローパスフィルタ処理を行うことにより得られる信号を加算器76に出力する。
【0228】
加算器76は、第1ローパスフィルタ74の出力と、第2ローパスフィルタ75の出力と、第3ローパスフィルタ82の出力との和を、電源遮断FETQD2の部品温度Tee2として算出する。
なお、本明細書では、「第1電子部品」としてチョークコイルLaを例示し、「第2電子部品」として電源遮断FETQD2を例示するが、本実施形態はこのような特定の例に限定されるものではない。本実施形態は、電流制御回路に含まれる複数の電子部品のうち発熱し易い電子部品と、この電子部品に近接して配置される他の部品の組合せに対して広く適用できる。
【0229】
図34(b)は、第7実施形態の制御演算装置31bの第1低減係数設定部60に設けられた電源遮断FET温度推定部61e2の機能構成の第2例のブロック図である。
電流制御回路の動作状態(動作モード)には、電流制御回路に含まれる電子部品が発熱し易い(すなわち高温になり易い)動作状態と、発熱が緩やかな動作状態とが存在する。以下の説明において、電子部品が比較的発熱し易い(すなわち高温になり易い)動作状態を「第1状態」と表記し、発熱が比較的緩やかな動作状態を「第2状態」と表記する。
【0230】
例えば第1状態は、電子部品の発熱量の時間平均や電子部品に流れる電流の時間平均が閾値以上である状態であり、第2状態は、電子部品の発熱量の時間平均や電子部品に流れる電流の時間平均が閾値未満である状態であってよい。例えば、第1状態はバッテリ13から流れるバッテリ電流Ibat=(Ibat1+Ibat2)やその時間平均が閾値以上である状態であり、第2状態はバッテリ電流Ibatやその時間平均が閾値未満である状態であってよい。
スイッチ83は、電流制御回路の動作状態が、第1状態であるか第2状態であるかを判定する。
【0231】
例えば、スイッチ83は、バッテリ電流Ibatやその時間平均が閾値以上である場合に電流制御回路の動作状態が第1状態であると判定し、バッテリ電流Ibatやその時間平均が閾値未満である場合に電流制御回路の動作状態が第2状態であると判定してよい。
また例えば、モータ20の駆動電流を供給する電流制御装置に本発明を適用する場合、モータ20のモータ回転軸の回転速度が閾値以上である場合に第1状態であると判定し、回転速度が閾値未満である場合に第2状態であると判定してよい。また、多相モータのいずれか特定の1相の電流が他の相の電流よりも高い状態が継続して、モータ回転軸の回転が停止した状態を第2状態であると判定し、モータ回転軸が回転している状態を第1状態であると判定してもよい。
【0232】
スイッチ83は、電流制御回路の動作状態が第1状態である場合に、第3ローパスフィルタ82の出力を加算器76に出力する。加算器76は、第1ローパスフィルタ74の出力と、第2ローパスフィルタ75の出力と、第3ローパスフィルタ82の出力との和を、電源遮断FETQD2の部品温度Tee2として算出する。
一方で、電流制御回路の動作状態が第2状態である場合に、スイッチ83は値「0」を加算器76に出力する。加算器76は、第1ローパスフィルタ74の出力と、第2ローパスフィルタ75の出力との和を、電源遮断FETQD2の部品温度Tee2として算出する。すなわち、チョークコイルLaの部品温度Tegに基づかないで電源遮断FETQ2の部品温度Tee2を推定する。
【0233】
(第7実施形態の効果)
(1)電流制御装置は、複数の電子部品を含む電流制御回路と、電流制御回路の付近に配置された温度検出素子を有する温度検出回路と、複数の電子部品の各々に流れる電流値を検出又は推定する電流検出部と、電流検出部が検出又は推定した電流値と、温度検出回路が検出した検出温度と、に基づいて、電子部品の温度である部品温度を複数の電子部品毎に推定する部品温度推定部と、複数の電子部品毎に推定された部品温度に含まれる複数の異なる部品温度に対して複数の異なる低減係数をそれぞれ設定する低減係数設定部と、複数の低減係数のいずれか1つを選択する選択部と、選択された低減係数に基づいて電流制御回路から負荷に出力される出力電流を制限する電流制限部と、を備える。
【0234】
複数の電子部品は、少なくとも第1電子部品と第2電子部品とを含み、部品温度推定部は、電流検出部が検出又は推定した電流値と、温度検出回路が検出した検出温度と、に基づいて第1電子部品の部品温度である第1部品温度を推定し、電流検出部が検出又は推定した電流値と、温度検出回路が検出した検出温度と、第1部品温度と、に基づいて第2電子部品の部品温度である第2部品温度を推定する。例えば、第1電子部品と第2電子部品とは互いに近接して配置されている部品であってよい。
【0235】
これにより、第2電子部品の第2部品温度が第1電子部品の第1部品温度の影響を被り易い構成において、第2部品温度の推定値を第1部品温度の推定値に基づいて補正することが可能になるため、第2部品温度の推定精度を向上できる。
【0236】
(2)部品温度推定部は、第1電子部品において発生する損失電力である第1損失電力と、第2電子部品において発生する損失電力である第2損失電力とを推定し、第1損失電力と所定ゲインとの積をローパスフィルタ処理して得られた値と、温度検出回路が検出した検出温度をローパスフィルタ処理して得られた値と、の和に基づいて、第1部品温度を推定し、第2損失電力と所定ゲインとの積をローパスフィルタ処理して得られた値と、温度検出回路が検出した検出温度をローパスフィルタ処理して得られた値と、第1部品温度と所定ゲインとの積をローパスフィルタ処理して得られた値と、の和に基づいて、第2部品温度を推定してよい。
【0237】
損失電力をローパスフィルタ処理して得られた値に基づいて部品温度を推定することにより、部品温度を精度良く推定できる。また、温度検出回路が検出した検出温度にローパスフィルタ処理を施すことにより、個々の電子部品の近傍の周囲温度の推定値を取得できる。電子部品がヒートシンクに熱接続されている場合には電子部品の近傍のヒートシンク温度を取得できる。また、第1部品温度をローパスフィルタ処理して得られた値に基づいて部品温度を推定することにより、第1電子部品の発熱の伝搬が第2部品温度に及ぼす影響を精度良く推定できる。
【0238】
(3)部品温度推定部は、電流制御装置が第1状態にある場合に第1部品温度に基づいて第2部品温度を推定し、電流制御装置が第2状態にある場合に第1部品温度に基づかないで第2部品温度を推定してよい。
これにより、電流制御装置の動作状態に応じて、第2部品温度の推定に第1部品温度を反映させるか否かを切り替えることができる。
【0239】
(4)例えば、第1状態は第1電子部品の発熱量が閾値以上である状態であり、第2状態は第1電子部品の発熱量が閾値未満である状態であってよい。例えば第1状態は、電流制御回路に直流電力を供給する直流電源から流れる電源電流が閾値以上である状態であり、第2状態は電源電流が閾値未満である状態であってよい。
これにより、第1電子部品が高温になり易い状態であるか否かに応じて、第2部品温度の推定に第1部品温度を反映させるか否かを切り替えることができる。
【0240】
(変形例)
(1)
図35は、ECU30の第1変形例の概要を示す構成図である。電動パワーステアリング装置は、バッテリ13として、第1電力配線PWaを経由して第1電力変換回路42Aに電力を供給する第1バッテリと、第2電力配線PWbを経由して第2電力変換回路42Bに電力を供給する第2バッテリと、を別個に備えてもよい。
第1電力配線PWaの正極側電源ラインLpaは、チョークコイルLaとセラミックコンデンサCa1及びCa2により形成されたノイズフィルタ回路を経由して、制御演算装置31aに接続されるとともに、第1電源遮断回路44Aに接続される。
チョークコイルLaの一端が正極側電源ラインLpaとセラミックコンデンサCa1の一端とに接続され、チョークコイルLaの他端が、セラミックコンデンサCa2の一端と制御演算装置31aに接続され、セラミックコンデンサCa1及びCa2の他端は接地されている。一方で、第1電力配線PWaの負極側ラインは、ECU30の接地線に接続される。
【0241】
第2電力配線PWbの正極側電源ラインLpbは、チョークコイルLbとセラミックコンデンサCb1及びCb2により形成されたノイズフィルタ回路を経由して、制御演算装置31bに接続されるとともに、第2電源遮断回路44Bに接続される。
チョークコイルLbの一端が正極側電源ラインLpbとセラミックコンデンサCb1の一端とに接続され、チョークコイルLbの他端が、セラミックコンデンサCb2の一端と制御演算装置31bに接続され、セラミックコンデンサCb1及びCb2の他端は接地されている。一方で、第2電力配線PWbの負極側ラインは、ECU30の接地線に接続される。
【0242】
なお、第1変形例の制御演算装置31bでは、チョークコイルLaに代えてチョークコイルLbのコイル温度Tegを推定してコイル低減係数Kgを設定する。
また、第2バッテリの出力端子間の電圧であるバッテリ電圧Vbat2に基づいてバッテリ低減係数K4を設定する。
なお、第6実施形態のように初期値設定部78を設ける場合には、制御演算装置31a及び31bに温度検出器46A及び46Bを設けてもよい。またはECU30のその他の箇所に、温度検出回路45A及び45B以外の温度検出器を設けてもよい。
図36のECU30の第2変形例においても同様である。
【0243】
(2)
図36は、ECU30の第2変形例の概要を示す構成図である。ECU30の第2変形例は、単一のインバータによりモータ20を駆動する。このため、
図2に表した構成に含まれる第1モータ電流遮断回路33A及び第2モータ電流遮断回路33Bと、第1ゲート駆動回路41A及び第2ゲート駆動回路41Bと、第1電力変換回路42A及び第2電力変換回路42Bと、第1電源遮断回路44A及び第2電源遮断回路44Bと、温度検出回路45A及び45Bのうち、第1モータ電流遮断回路33Aと、第1ゲート駆動回路41Aと、第1電力変換回路42Aと、第1電源遮断回路44Aと、温度検出回路45Aのみを備えている。
【0244】
(3)以上の説明では、本発明の電流制御装置を、いわゆる上流アシスト方式と呼ばれるコラムアシスト方式の電動パワーステアリング装置に適用する例について記載したが、本発明の電流制御装置は、いわゆる下流アシスト方式の電動パワーステアリング装置に適用してもよい。以下、下流アシスト方式の電動パワーステアリング装置の例として、シングルピニオンアシスト方式、ラックアシスト方式、デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の電流制御装置を適用する構成例を説明する。
なお、下流アシスト方式の場合には、防水対策のためモータ20、回転角センサ23a、ECU30は別体ではなく、
図37~
図39の破線で示すように一体構造のMCU(Motor Control Unit)としてよい。
【0245】
図37は、シングルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の電流制御装置を適用する構成例を示す。ステアリングホイール1は、操舵軸2を経て、インターミディエイトシャフトの一方のユニバーサルジョイント4aと連結されている。また、他方のユニバーサルジョイント4bには、トーションバー(図示せず)の入力側シャフト4cが連結されている。
ピニオンラック機構5は、ピニオンギア(ピニオン)5a、ラックバー(ラック)5b及びピニオン軸5cを備える。入力側シャフト4cとピニオンラック機構5とは、入力側シャフト4cとピニオンラック機構5との間の回転角のずれによってねじれるトーションバー(図示せず)によって連結されている。トルクセンサ10は、トーションバーの捩れ角を、ステアリングホイール1の操舵トルクThとして電磁気的に測定する。
ピニオン軸5cには、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して連結されており、回転角センサ23aは、モータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0246】
(4)
図38は、ラックアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の電流制御装置を適用する構成例を示す。ラックバー5bの外周面には螺旋溝(図示せず)が形成され、これと同様のリードの螺旋溝(図示せず)がナット91の内周面にも形成されている。これら螺旋溝によって形成される転動路に複数の転動体が配置されることによりボールネジが形成されている。
ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20の回転軸20aに連結する駆動プーリ92と、ナット91に連結する従動プーリ93にはベルト94が巻きかけられており、回転軸20aの回転運動がラックバー5bの直進運動に変換される。回転角センサ23aは、モータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0247】
(5)
図39は、デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の電流制御装置を適用する構成例を示す。デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置は、ピニオン軸5c、ピニオンギア5aに加えて、第2ピニオン軸95、第2ピニオンギア96を有し、ラックバー5bは、ピニオンギア5aと噛合する第1ラック歯(図示せず)と、第2ピニオンギア96と噛合する第2ラック歯(図示せず)を有する。
第2ピニオン軸95には、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して連結されており、回転角センサ23aは、モータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0248】
(6)第1ローパスフィルタ74及び第2ローパスフィルタ75の各々を、2次遅れフィルタに置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0249】
1…ステアリングホイール、2…操舵軸、3…減速ギア、4a、4b…ユニバーサルジョイント、4c…入力側シャフト、5…ピニオンラック機構、5a…ピニオンギア(ピニオン)、5b…ラックバー(ラック)、5c…ピニオン軸、6a、6b…タイロッド、7a、7b…ハブユニット、8L、8R…操向車輪、10…トルクセンサ、11…イグニションスイッチ、12…車速センサ、13…バッテリ、14…操舵角センサ、20…モータ、20a…回転軸、23…モータ回転角検出回路、23a…回転角センサ、30…電子制御ユニット(ECU)、31a、31b…制御演算装置、33A…第1モータ電流遮断回路、33B…第2モータ電流遮断回路、34A、34B…電圧検出回路、35…通信回線、36…回路基板、37…放熱部材(ヒートシンク)、38a~38c…熱インタフェース材料、39A1、39A2、39B1、39B2、39C1、39C2…電流検出回路、41A…第1ゲート駆動回路、41B…第2ゲート駆動回路、42A…第1電力変換回路、42B…第2電力変換回路、44A…第1電源遮断回路、44B…第2電源遮断回路、45A、45B…温度検出回路、46A、46B…温度検出器、50…電流指令値演算部、51…電流制限部、52、53…減算器、54…比例積分(PI)制御部、55…2相/3相変換部、56…3相/2相変換部、57…角速度変換部、60…第1低減係数設定部、61a1、61a2、61a3…ハイサイドFET温度推定部、61b1、61b2、61b3…ローサイドFET温度推定部、61c1、61c2、61c3…シャント抵抗温度推定部、61d1、61d2、61d3…相遮断FET温度推定部、61e1、61e2…電源遮断FET温度推定部、61f1、61f2…コンデンサ温度推定部、61g…コイル温度推定部、62a、62b、62c、62d、62e、62f、64…選択器、63a、63a1、63a2、63a3…ハイサイドFET低減係数設定部、63b、63b1、63b2、63b3…ローサイドFET低減係数設定部、63c、63c1、63c2、63c3…シャント抵抗低減係数設定部、63d、63d1、63d2、63d3…相遮断FET低減係数設定部、63e、63e1、63e2…電源遮断FET低減係数設定部、63f、63f1、63f2…コンデンサ低減係数設定部、63g…コイル低減係数設定部、70…第2低減係数設定部、71…第3低減係数設定部、72…損失電力演算部、73、73a、73b…ゲイン乗算部、74、74a、74b、74c、74d…第1ローパスフィルタ、75…第2ローパスフィルタ、76…加算器、78…初期値設定部、79…減算器、81…ゲイン乗算部、82…第3ローパスフィルタ、83…スイッチ、91…ナット、92…駆動プーリ、93…従動プーリ、94…ベルト、95…第2ピニオン軸、96…第2ピニオンギア、Ca1、Ca2、Cb1、Cb2…セラミックコンデンサ、CA1、CA2、CB1、CB2…電解コンデンサ、CNT…コネクタ、Ct1、Ct2…コンデンサ、Q1、Q3、Q5…ハイサイドFET、Q2、Q4、Q6…ローサイドFET、QA1、QA2、QA3、QB1、QB2、QB3…相遮断FET、QC1、QC2、QD1、QD2…電源遮断FET、La、Lb…チョークコイル、Lpa、Lpb…正極側電源ライン、PWa…第1電力配線、PWb…第2電力配線、SWAa、SWAb、SWAc、SWBa、SWBb、SWBc…スイッチングアーム