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特許7756440作業システムおよび作業システムの制御方法
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  • 特許-作業システムおよび作業システムの制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-09
(45)【発行日】2025-10-20
(54)【発明の名称】作業システムおよび作業システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B64U 10/60 20230101AFI20251010BHJP
   B64F 3/00 20060101ALI20251010BHJP
   B64U 10/13 20230101ALI20251010BHJP
   B64U 20/87 20230101ALI20251010BHJP
   B64U 50/19 20230101ALI20251010BHJP
   B64U 50/30 20230101ALI20251010BHJP
   G05D 1/49 20240101ALI20251010BHJP
   B64U 101/26 20230101ALN20251010BHJP
【FI】
B64U10/60
B64F3/00
B64U10/13
B64U20/87
B64U50/19
B64U50/30
G05D1/49
B64U101:26
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022580674
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2022005337
(87)【国際公開番号】W WO2022172987
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-02-27
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2021021702
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】717007295
【氏名又は名称】株式会社Liberaware
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野平 幸佑
【合議体】
【審判長】倉橋 紀夫
【審判官】高橋 学
【審判官】草野 顕子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0055613(US,A1)
【文献】特開2020-148073号公報(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0283871(US,A1)
【文献】国際公開第2020/8582(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0346781(US,A1)
【文献】特開2020-38166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64U 10/10
B64U 101/30
B64U 101:70
B64C 39/02
B64F 3/00
G05D 1/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推力発生部と、
前記推力発生部を支持する機体と、
前記機体と接続され上方に伸び、前記機体を吊り下げて支持する繋留体と、
前記繋留体を巻き取り及び繰り出し可能な電動ウィンチと、
前記推力発生部による前記機体の移動制御の指示、及び、前記電動ウィンチの巻き取り及び繰り出しの制御の指示を共に入力可能な1つの操縦用端末と、
を備え、
前記繋留体は、飛行しない支持体によって支持され、
前記機体が繋留体により吊り下げられ、上下方向に前記機体が移動していない状態において、前記推力発生部は、前記機体に対して下方に力を生じさせる、または、前記機体に生じる重力よりも小さい力を上方に生じさせ、
前記機体は、前記支持体から下方に延びる単独の前記繋留体で吊り下げ支持され
前記繋留体は、前記支持体の下方に延びる主部と、前記主部の下端部から分岐する枝部とを有し、
前記枝部は、平面視で前記機体の中心からみて前記推力発生部よりも外側の四隅に位置する接続部に接続される、作業システム。
【請求項2】
前記繋留体は、水平方向に移動可能であり、
前記推力発生部により下方または上方に力を生じさせた状態で、前記繋留体を水平方向に移動させることにより、前記機体を水平方向に移動させる、
請求項1に記載の作業システム。
【請求項3】
前記推力発生部は回転翼であり、
前記回転翼は、回転が制御される際に、時計回りで回転する少なくとも1の第1の回転翼と、反時計回りで回転する少なくとも1の第2の回転翼を有し、
前記第1の回転翼の回転数と、前記第2の回転翼の回転数とを異ならせる制御を行うことにより、水平面に直交する軸を中心として前記機体を回転させる、
請求項1または2に記載の作業システム。
【請求項4】
前記機体は、前記繋留体の上下方向の移動に応じて、上下方向に移動する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の作業システム。
【請求項5】
前記繋留体に、機体のヨー軸周りに回転自在な回転ジョイントが設けられている、請求項1~4のいずれか1項に記載の作業システム。
【請求項6】
前記繋留体には、前記機体の上側に位置し、該繋留体への気流の影響を軽減する重りが設けられている、請求項1~5のいずれか1項に記載の作業システム。
【請求項7】
外部の装置と前記機体との間でデータ通信するための通信ケーブル、及び、前記機体に電力を供給する電力ケーブルの少なくとも何れかが、前記繋留体と一体に設けられている、請求項1~6のいずれか1項に記載の作業システム。
【請求項8】
前記機体は、カメラ又はセンサを備え、
構造物又は設備の点検、修理を行う、請求項1~7のいずれか1項に記載の作業システム。
【請求項9】
前記機体は、前記構造物又は設備の内部で吊り下げ支持される、請求項8に記載の作業システム。
【請求項10】
推力発生部と、
前記推力発生部を支持する機体と、
前記機体と接続され上方に伸び、前記機体を吊り下げて支持する繋留体と、
前記繋留体を巻き取り及び繰り出し可能な電動ウィンチと、
前記推力発生部による前記機体の移動制御の指示、及び、前記電動ウィンチの巻き取り及び繰り出しの制御の指示を共に入力可能な1つの操縦用端末と、
を備え、
前記繋留体は、飛行しない支持体によって支持され、
前記機体が繋留体により吊り下げられ、上下方向に前記機体が移動していない状態において、前記推力発生部は、前記機体に対して下方に力を生じさせる、または、前記機体に生じる重力よりも小さい力を上方に生じさせ、
前記機体は、前記支持体から下方に延びる単独の前記繋留体で吊り下げ支持され、
前記機体が繋留体により吊り下げられ、上下方向に前記機体が移動していない状態において、前記推力発生部は、前記機体に対して下方に力を生じさせることができる、業システム。
【請求項11】
前記機体は、前記繋留体をねじることにより、前記機体をヨー軸まわりに回転させることができ、また、前記推力発生部を構成する回転翼の制御により、前記機体をヨー軸まわりに回転させることができる、請求項1に記載の作業システム。
【請求項12】
作業を行う機体を含む作業システムの制御方法であって、
前記作業システムは、
前記機体により支持される推力発生部と、
前記機体と接続され上方に伸び、前記機体を吊り下げて支持する繋留体と、
前記繋留体を巻き取り及び繰り出し可能な電動ウィンチと、
前記推力発生部による前記機体の移動制御の指示、及び、前記電動ウィンチの巻き取り及び繰り出しの制御の指示を共に入力可能な1つの操縦用端末と、
を備え、
前記繋留体は、飛行しない支持体によって支持され、
前記機体が繋留体により吊り下げられ、上下方向に前記機体が移動していない状態において、前記推力発生部により、前記機体に対して下方に力を生じさせる、または、前記機体に生じる重力よりも小さい力を上方に生じさせ、
前記機体は、前記支持体から下方に延びる単独の前記繋留体で吊り下げ支持され
前記繋留体は、前記支持体の下方に延びる主部と、前記主部の下端部から分岐する枝部とを有し、
前記枝部は、平面視で前記機体の中心からみて前記推力発生部よりも外側の四隅に位置する接続部に接続される
作業システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業システムおよび機体の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
狭所や隘所、屋内や屋外などの様々な環境における構造物を対象に効率よく作業を行うために、ドローンと呼ばれる無人飛行体が使用されることがある。例えば、特許文献1には、管路から無人飛行体を導入し、無人飛行体にケーブルを接続する構成を備え、ケーブルの撓みを抑制するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-167044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、ケーブルの撓みの制御により無人飛行体の姿勢の制御が困難となる。そうすると、機体を安定的な姿勢に保ちながら作業をすることが難しくなる。
【0005】
本開示は、このような背景を鑑みてなされたものであり、機体を用いた作業において機体の姿勢をより安定させることが可能な、作業システムおよび機体の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示によれば、推力発生部と、前記推力発生部を支持する機体と、前記機体と接続され上方に伸び、前記機体を吊り下げて支持する繋留体と、を備え、前記機体が繋留体により吊り下げられている状態において、前記推力発生部は、前記機体に対して下方に力を生じさせる、または、前記機体に生じる重力よりも小さい力を上方に生じさせる、作業システムが提供される。
【0007】
また、本開示によれば、作業を行う機体の制御方法であって、前記機体は、前記機体により支持される推力発生部と、前記機体と接続され上方に伸び、前記機体を吊り下げて支持する繋留体と、を備え、前記機体が繋留体により吊り下げられている状態において、前記推力発生部により前記機体に対して下方に力を生じさせる、または、前記機体に生じる重力よりも小さい力を上方に生じさせる、機体の制御方法が提供される。
【0008】
その他本願が開示する課題やその解決方法については、発明の実施形態の欄及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機体を用いた作業において機体の姿勢をより安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る作業システム1の構成を示す斜視図である。
図2】同実施形態に係る回転翼3によるヨー軸まわりの回転制御の一例を説明するための図である。
図3】作業システム1の変形例の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。
【0013】
<実施の形態の詳細>
以下、本発明の一実施形態に係る作業システム1について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る作業システム1の構成を示す斜視図である。本明細書において、図1に示すX方向、Y方向およびZ方向は、それぞれ作業システム1における機体2の前後方向、幅方向および高さ方向を意味する。本実施形態に係る作業システム1は、例えば、構造物、設備、配管等に対する種々の検査、修理、または工場等における計器の確認等、様々な用途における作業に用いられ得る。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る作業システム1は、機体2と、回転翼3と、繋留体5と、カメラ6とを備える。なお、図1に示す作業システム1の構成は一例であり、図1に示す機体2および回転翼3とは異なる構造、形状およびサイズを有するものであっても、以下に説明する機体2および回転翼3に対応する構成を有していれば、本発明の範疇に含まれうる。
【0015】
より具体的には、機体2は、支持フレーム21と、補助フレーム22とからなる。補助フレーム22は、支持フレーム21に接続される。具体的には、補助フレーム22は、支持フレーム21の前後方向のそれぞれから伸びるように接続される。かかる補助フレーム22は、アーム23を含む。図1に示すように、回転翼3はアーム23に支持される。すなわち、回転翼3は機体2に支持される。なお、本実施形態に係るアーム23は、支持フレーム21とも接続している。機体2を構成する素材は特に限定されず、例えば、炭素繊維樹脂、ガラス繊維樹脂、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄鋼、チタンその他の材料であり得る。
【0016】
支持フレーム21は、図示しない回路基板、フライトコントローラ、センサまたはバッテリ等、機体2の回転翼3の制御および動力に係る部品を積載して支持する。例えば、支持フレーム21には、フライトコントローラを含む制御回路が実装されてもよい。かかるバッテリからモータ4およびセンサ類に電力が供給され、フライトコントローラによりモータ4の回転数等の制御が行われる。
【0017】
補助フレーム22は、機体2を構成し、支持フレーム21に接続され、回転翼3を支持する。図1に示す例では、補助フレーム22は、支持フレーム21の前後方向端部から前後方向に伸び、途中から幅方向において左右に延伸する構成を有している。補助フレーム22は、例えば、回転翼3のプロペラガードとしての機能を発揮しうる。
【0018】
アーム23の、補助フレーム22の端部と支持フレーム21との間に、回転翼3が設けられる。図1に示す例では、アーム23にはモータマウント231が設けられ、モータマウント231に回転翼3に動力を与えるモータ4が設けられ、回転翼3はモータ4に取り付けられる。
【0019】
なお、アーム23および回転翼3は、本実施形態においては、前後左右の4箇所に設けられているが、本発明はかかる例に限定されない。機体2の構造、形状、装備およびサイズ等に応じて、アーム23および回転翼3の設けられる数は適宜変更されうる。
【0020】
また、機体2の前方側の支持フレーム21と補助フレーム22との接続部分において、支持フレーム21に、カメラ6が設けられてもよい。カメラ6は、図1に示す位置の他に、支持フレーム21の任意の箇所に設けることができる。カメラ6は、例えば、一般的な撮像装置の他に、ステレオカメラ、暗視カメラ、赤外線カメラ、サーモグラフィ等、様々な撮像装置であってよい。
【0021】
また、図1に示すように、本実施形態に係る作業システム1は、繋留体5を有する。繋留体5は、機体2と接続され上方に伸び、機体2を吊り下げて支持する。図1に示すように、繋留体5は、主部50と、枝部51とにより構成され得る。主部50と枝部51とは、接続部52において接続され得る。なお、図1に示す繋留体5はあくまで一例であり、機体2と接続され上方に伸び、機体2を吊り下げて支持する構成であれば、繋留体5の具体的な態様は特に限定されない。例えば、主部50と枝部51は一体となっているものであってもよいし、繋留体5が主部50のみで構成され、機体2の中央部分と接続するものであってもよい。
【0022】
主部50の上方は、図示せぬ支持体により支持される。支持体は、例えば、主部50を固定するフック等の構造物や、クレーンや他の飛行体等の移動可能な構造物であってもよい。主部50は、水平方向HZ1に移動可能なように構成されていてもよい。例えば、主部50の上部は、水平方向HZ1に移動可能なガイドレール等により支持され、それにより繋留体5が水平方向HZ1に移動可能となるような構成であってもよい。
【0023】
また、主部50は、上下方向UD1に移動可能に設けられてもよい。すなわち、主部50が上下方向UD1に移動することで、機体2も併せて上下方向UD1に移動可能となる。例えば、主部50の上部がクレーン等の支持体により巻き取られたり送り出されたりすることにより、主部50が上下方向UD1に移動可能であってもよい。また、主部50自体が伸縮することにより、主部50が上下方向UD1に移動可能であってもよい。
【0024】
機体2の補助フレーム22の四隅には、それぞれ接続部221が設けられる。かかる接続部221のそれぞれは、枝部51のそれぞれと接続する。これにより、繋留体5は機体2を吊り下げて支持する。
【0025】
繋留体5を構成する素材は特に限定されない。ただし、後述するように、機体2の姿勢の安定性を確保する観点から、繋留体5は、伸縮性が乏しい素材により構成されることが好ましい。繋留体5は、例えば、繊維、金属または硬質プラスチック等からなる棒材、板材、ケーブルまたはロープ等であり得る。
【0026】
本実施形態に係る回転翼3は、推力発生部の一例である。本実施形態に係る回転翼3は、例えば機体と回転翼からなる一般的なマルチコプター等の無人飛行体とは異なり、下方に推力DF1を発生させる。そのため、無人飛行体のような機体に揚力を発生させる機構は、本実施形態に係るシステムでは用いられていない。すなわち、従来のような無人飛行体にケーブル等を接続したような構成と本実施形態に係るシステムの構成とは異なる。
【0027】
本実施形態に係る回転翼3は、回転により下方から上方へと気流を発生させ、下方への推力を発生する。なお、下方への推力とは、推力の方向成分が、鉛直下方の成分を含むことを意味する。回転翼3が下方への推力を発生させることで、機体2に対して下方への力が生じる。そうすると、繋留体5に張力が生じるため、繋留体5の上下方向UD1の移動が制限されている場合、機体2は下方への推力を得た状態で固定される。かかる状況において、繋留体5の上下方向UD1の移動を行うとする。例えば、繋留体5が下方へ移動した場合、繋留体5が弛緩するため、機体2は下方に移動する。その際、機体2には重力のみならず下方への推力が作用するため、機体2の下方への加速度が自由落下に比べて大きくなり、すぐに所望の位置へ移動することができる。また、所望の位置へ移動した後も、下方への力が回転翼3により機体2に対して与えられるため、移動後の衝撃によるバタつきが生じにくく、機体2をすぐに安定的な姿勢へと制御することができる。
【0028】
特に、上述したような、一般的な無人飛行体にケーブルを接続した構成と比較すると、無人飛行体は揚力により姿勢を保持しようとするため、ケーブルは無人飛行体の機体に対して作用していない。そのため、機体の性能や飛行環境により姿勢が不安定となる可能性がある。一方で、本実施形態に係るシステムでは、繋留体5による張力と、機体2の回転翼3の下方への推力とにより、反対方向(引張方向)への力の釣り合いが機体2に生じる。そのため、空中において、機体2の浮遊状態においても、機体2を安定的に保持することが可能となる。
【0029】
なお、本実施形態に係る機体2は、例えばいわゆるドローンのような無人飛行体と同様に、プロポ等の操縦用端末の入力に基づいて移動が制御されるものであってもよいし、プログラム等に従って自律移動を行うものであってもよい。かかる機体2の姿勢は、適宜センサから得られる入力に基づいてフライトコントローラが制御するものであってもよい。また、機体2の姿勢制御は、揚力発生部から得られる推力の調整により行われるものであってもよいし、また、繋留体5を上下方向や水平方向に移動させることによって行われてもよいし、その両方であってもよい。具体的には、機体2の水平方向に対する姿勢が0度となるように目標値を定める場合、姿勢のフィードバック制御は、回転翼3の各々の回転数を制御するものであってもよいし、また、繋留体5の水平方向や上下方向の移動を制御するものであってもよい。これにより、風やドリフトの影響により機体2の姿勢が傾いてしまっても、機体2の水平方向の移動を抑制し、姿勢をより確実に維持することが可能となる。
【0030】
なお、下方へ推力を発生させる回転翼3の数は特に限定されないが、機体2の姿勢をより安定させる点から、回転翼3の数は4つ以上であることが好ましい。また、推力発生部としては、回転翼以外の機構により実現されるものであってもよい。
【0031】
また、機体2を水平面に沿って回転(いわゆる水平面に直交するヨー軸まわりの回転)させる場合は、繋留体5をねじることによって実現してもよいし、回転翼3の回転の制御により実現されてもよい。図2は、本実施形態に係る回転翼3によるヨー軸まわりの回転制御の一例を説明するための図である。図2に示すように、4つの回転翼3a、3b、3c、3dのうち、それぞれの回転方向を異ならせることによって、機体2をヨー軸まわりに回転させることが可能である。具体的には、回転翼3a、3d(第2の回転翼)の回転方向を反時計回りCCW1、CCW2とし、回転翼3b、3c(第1の回転翼)の回転方向を時計回りCW1、CW2とし、第1の回転翼と第2の回転翼の各々の回転数を異ならせる制御を行うことで、機体2をヨー軸まわりに回転することが可能である。なお、図2に示した例では、回転翼3b、3cの回転方向を時計回りとし、回転翼3a、3dの回転方向を反時計回りとしたが、これらの回転方向はそれぞれ反対であってもよい。すなわち、回転翼3b、3cの回転方向が反時計回りとし、回転翼3a、3dの回転方向を時計回りとしてもよい。
【0032】
かかる構成により、単純に繋留体5をねじることで機体2を回転させるよりも、より精度高く機体2の向き等を決めることが可能である。
【0033】
このように、本開示の一実施形態に係る作業システム1においては、繋留体5により機体2を吊り下げて支持しつつ、機体2の回転翼3が下方に推力を発生することで、機体2に上下引張方向の力を作用させることができる。これにより、機体2を上下方向等に移動させる場合であっても、瞬間的に安定な姿勢に保持することができる。また、機体2自身がヨー軸まわりの回転を可能とすることで、作業対象に対する機体2の姿勢を精度高く保持することができる。閉所や狭所において撮影、点検等を行うような小型の機体2の制御において、本実施形態に係る構成は、より効果を奏するものである。
【0034】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0035】
上記実施形態では、機体が繋留体により吊り下げられている状態において、推力発生部が機体に対して下方に力(推力DF1)を生じさせる構成としていたが、これに限られず、推力発生部が、機体に生じる重力Gよりも小さい力(推力DF2)を上方に生じさせる構成としてもよい(図3参照)。その場合、繋留体5に掛かる負担を軽減することができる。なお、この場合であっても、推力発生部が機体に対して上方に生じさせる力は機体に生じる重力よりも小さいため、繋留体5は弛緩せず、上記実施形態と同様に、機体2を安定的に保持することができる。
【0036】
また、繋留体5は、電動ウィンチに接続されたケーブルを含む構成であってもよい。この場合、電動ウィンチの巻き取り、繰り出し操作により、ケーブルの長さを調整することができる。その場合、ケーブルが上下動して、機体の高さを変更することができる。なお、電動ウィンチの設置位置は特に限定されず、飛行環境の内部であっても外部であってもよい。また、機体の上方に1以上の滑車を設置し、当該滑車を介してケーブルを接続するようにしてもよい。その場合、電動ウィンチが機体よりも下方に設けられていてもよい。電動ウィンチは、プロポ等の操縦用端末の入力に基づいて巻き取り、繰り出し等の制御が実行されるものであってもよいし、プログラム等に従って自律的に制御されるものであってもよい。1台の操縦装置で、機体の制御と、電動ウィンチの制御を同時に実行可能であることが好ましく、これによれば、より効率的に機体の位置を制御することができる。
【0037】
図3に示すように、繋留体5に回転ジョイント7を設けてもよい。回転ジョイント7は、回転自在な構成となっており、回転ジョイント7の一方側(例えば図3の下側)に接続される繋留体5の回転(捩れ)が、回転ジョイント7の他方側(例えば図3の上側)に接続される繋留体5に伝わらないようになっている。このような構成により、例えば機体がヨー軸周りに回転した場合でも、繋留体5が捩れないので捩れ方向の反力等の影響を受けることがなく、機体の制御が容易となる。回転ジョイント7の位置は特に限定されず任意の位置に設けることができるが、接続部52付近の主部50に設けることが好ましい。
【0038】
また、図3に示すように、繋留体5に重り8を設けてもよい。重り8を設けることで、機体及び繋留体5が、気流の影響を受けにくくなり、安定性が向上する。また、重り8を設けた場合でも、繋留体5によって機体を支持しているため、機体を制御する際のバッテリの消費量にはほとんど影響がない。重り8の位置は、回転ジョイント7の上側でも下側でもよく、回転ジョイント7と一体であってもよい。なお、重り8の位置は特に限定されず、繋留体5の主部50、各枝部51、接続部52、あるいは機体の何れかの位置に、1つ、もしくは複数の位置にそれぞれ設けてもよい。
【0039】
また、図3に示すように、機体には光を発するライト9を設けてもよい。ライト9の位置及び向きは特に限定されないが、カメラ6の撮影方向、撮影範囲を照らすように配置されることが好ましい。図示例では機体の前方を撮影するカメラ6に対応して、機体の前方を照らすようにライト9が設けられている。ライト9は、図示例ではカメラ6の上側に位置しているが、カメラ6の下側、左側、右側の何れの位置にあってもよい。
【0040】
また、本システム1は、機体と外部の装置(例えば操縦端末、制御端末等)との間でデータ通信するための通信ケーブルを含んでいてもよい。これにより、外部の装置と機体とが有線接続され、通信ケーブルを介してデータを授受することができる。このデータには、例えば、機体を操縦するために操縦装置から機体に送信される操縦信号、機体のカメラ6で撮影した画像(静止画、動画)、各種センサで取得したデータ等が含まれ得る。そして通信ケーブルは、繋留体5と一体に設けてもよい。具体的には例えば、図3に示すように、繋留体5の主部50と一体に設けられた通信ケーブル53が接続部52で分岐して、機体の制御基板に接続されるようにしてもよい。
【0041】
同様に、本システム1は、外部の電源から機体に電力を供給する電力ケーブルを含んでいてもよい。この場合、機体にバッテリを設ける必要がなく軽量化を図ることができたり、飛行中にバッテリ不足になることを防止したりすることができる。電力ケーブルは、上記通信ケーブル53と同様に、繋留体5と一体に設けてもよい。電力ケーブルは、通信ケーブル53と一体化してもよいし、別々に設けてもよい。なお、電力ケーブル及び通信ケーブル53には繋留体5が機体を支持する際の張力が作用しないように配置することが好ましい。
【0042】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(項目1)
推力発生部と、
前記推力発生部を支持する機体と、
前記機体と接続され上方に伸び、前記機体を吊り下げて支持する繋留体と、
を備え、
前記機体が繋留体により吊り下げられている状態において、前記推力発生部は、前記機体に対して下方に力を生じさせる、または、前記機体に生じる重力よりも小さい力を上方に生じさせる、
作業システム。
(項目2)
前記繋留体は、水平方向に移動可能であり、
前記推力発生部により下方または上方に力を生じさせた状態で、前記繋留体を水平方向に移動させることにより、前記機体を水平方向に移動させる、
項目1に記載の作業システム。
(項目3)
前記推力発生部は回転翼であり、
前記回転翼は、回転が制御される際に、時計回りで回転する少なくとも1の第1の回転翼と、反時計回りで回転する少なくとも1の第2の回転翼を有し、
前記第1の回転翼の回転数と、前記第2の回転翼の回転数とを異ならせる制御を行うことにより、水平面に直交する軸を中心として前記機体を回転させる、
項目1または2に記載の作業システム。
(項目4)
前記機体は、前記繋留体の上下方向の移動に応じて、上下方向に移動する、
項目1~3のいずれか1項に記載の作業システム。
(項目5)
前記繋留体に、機体のヨー軸周りに回転自在な回転ジョイントが設けられている、項目1~4のいずれか1項に記載の作業システム。
(項目6)
前記繋留体に、重りが設けられている、項目1~5のいずれか1項に記載の作業システム。
(項目7)
外部の装置と前記機体との間でデータ通信するための通信ケーブル、及び、前記機体に電力を供給する電力ケーブルの少なくとも何れかが、前記繋留体と一体に設けられている、項目1~6のいずれか1項に記載の作業システム。
(項目8)
作業を行う機体の制御方法であって、
前記機体は、
前記機体により支持される推力発生部と、
前記機体と接続され上方に伸び、前記機体を吊り下げて支持する繋留体と、
を備え、
前記機体が繋留体により吊り下げられている状態において、前記推力発生部により、前記機体に対して下方に力を生じさせる、または、前記機体に生じる重力よりも小さい力を上方に生じさせる、
機体の制御方法。
【符号の説明】
【0043】
1 作業システム
2 機体
3 回転翼
4 モータ
5 繋留体
図1
図2
図3