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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-10
(45)【発行日】2025-10-21
(54)【発明の名称】非接触電力伝送装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/14 20060101AFI20251014BHJP
   H02J 50/10 20160101ALI20251014BHJP
【FI】
H01F38/14
H02J50/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022044113
(22)【出願日】2022-03-18
(65)【公開番号】P2023137756
(43)【公開日】2023-09-29
【審査請求日】2024-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】内野 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】粟津 稔
(72)【発明者】
【氏名】遠井 敬大
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 忠
(72)【発明者】
【氏名】安保 豊和
(72)【発明者】
【氏名】山下 遼
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-517309(JP,A)
【文献】特開2009-131618(JP,A)
【文献】特開2021-163856(JP,A)
【文献】特開2001-338820(JP,A)
【文献】特開2023-120853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00- 6/14
H01F 27/00-27/06
H01F 27/33-27/42
H01F 38/14
H01F 38/18
H02J 50/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の一次鉄心と、
この一次鉄心の内部に巻装され、電力が供給される一次巻線と、
前記一次鉄心を収容する金属製の一次側ケースと、
前記一次鉄心と前記一次巻線とを、前記一次側ケース内に封止する樹脂製の一次側キャップと、を有する一次側構成部と、
この一次側構成部の各構成要素に対応する、二次鉄心、二次巻線、二次側ケース及び二次側キャップを有する二次側構成部と、を備え、
前記一次側構成部と前記二次側構成部とが、空隙を隔てて対向配置される非接触電力伝送装置において、
前記一次側ケース及び前記二次側ケースの前記円筒の軸方向端面の長さが、それぞれ前記一次鉄心及び前記二次鉄心の同軸方向端面の長さよりも短く設定されている非接触電力伝送装置。
【請求項2】
前記一次鉄心と前記一次側ケースとの前記軸方向端面の長さの差、及び前記二次鉄心と前記二次側ケースとの前記軸方向端面の長さの差が、7.5mm以上に設定されている請求項1記載の非接触電力伝送装置。
【請求項3】
前記一次鉄心と前記一次巻線との間、及び前記二次鉄心と前記二次巻線との間に、それぞれ樹脂製の一次側ボビン及び二次側ボビンを備える請求項1又は2記載の非接触電力伝送装置。
【請求項4】
前記一次側キャップ及び前記二次側キャップの端部形状は、それぞれ前記一次鉄心及び前記二次鉄心の前記同軸方向端面が外部に露出する部分を覆うように形成されている請求項1から3の何れか一項に記載の非接触電力伝送装置。
【請求項5】
前記二次側構成部は、前記円筒形状の二次鉄心の中心軸を軸に回転する構成である請求項1から4の何れか一項に記載の非接触電力伝送装置。
【請求項6】
前記一次巻線は、前記一次鉄心の内部で当該鉄心により複数に分割された状態で電力が供給され、
前記二次巻線も同様に前記二次鉄心によって複数に分割され、分割された数の出力を有する請求項1から5の何れか一項に記載の非接触電力伝送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、一次側から二次側に、非接触状態で電力を伝送する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転部に対して接触式で電力を供給する構成では、摩耗により部品の寿命が短くなり、定期的なメンテナンスや部品交換の必要がある。そこで、例えば特許文献1のように、トランスを回転型に構成することで、一次側から二次側に非接触状態で電力を伝送する装置も考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-50640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような装置の構成例について、図19から図24を参照して説明する。図19は、回転型トランス1の斜視図である。回転型トランス1は、アキシャルギャップ型であり、一次側構成部10と二次側構成部30とで構成される。一次側構成部10が固定側であり、二次側構成部30が回転側である。図20は、一次側構成部10の斜視図であり、図21は、一次側構成部10の分解斜視図である。
【0005】
一次側構成部10は、ケース11、一次鉄心であるコア12、ボビン13、コイル14及びキャップ15を備えている。ケース11は、中空円盤状の金属、例えばアルミニウム製であり、円盤の内周側と外周側とには、それぞれ内側壁16、外側壁17が立設されている。コア12は、中空円盤状又は短円筒状のフェライト製である。コア12の内周側と外周側との間には、隔壁18が立設されており、隔壁18の内周側が内周コイル収容部19、外周側が外周コイル収容部20となっている。
【0006】
ボビン13は樹脂製であり、ボビン13にコイル14が巻装された状態で、コア12に配置される。コイル14は、内周コイル21及び外周コイル22を備えており、内周コイル21がコア12の内周コイル収容部19に収容され、外周コイル22が外周コイル収容部19に収容される。キャップ15は、中空円盤状の樹脂製であり、コイル14と共にコア12を収容したケース11を、図中の上方から封止する。
【0007】
図22は、回転型トランス1の縦断側面を示す斜視図である。二次側構成部30は、一次側構成部10と略対称な構成であり、一次側構成部10に対応する各構成要素には、30~40番台の符号を付している。尚、一次側の内周コイル21の導線は、外周コイル22の導線よりも径大であるが、二次側の内周コイル41の導線は、外周コイル42の導線よりも径小である。
【0008】
図23は、回転型トランス1の回路図である。一次側構成部10の内周コイル21及び外周コイル22は、交流電源Pに並列に接続されている。二次側構成部30の内周コイル41及び外周コイル42には、それぞれ負荷抵抗43及び44が接続されている。尚、内周コイル21及び外周コイル22は、交流電源Pに直列に接続しても良い。
【0009】
以上のように構成される回転型トランス1において、一次側構成部10に交流電流を通電して二次側に電力を伝送し、二次側構成部30より電力を供給する際に、渦電流損失密度の解析を行った。図24は、解析対象とした回転型トランス1の寸法を示す。一次側構成部10に通電する電流の周波数10kHz,電流値は低電流側が20A,高電流側が100Aである。すると、図25に示すように、一次側ケース11及び二次側ケース31の外側壁17及び37において、一次側構成部10と二次側構成部30とが対向しているギャップ付近に磁束が集中する結果として、渦電流損失が集中して発生していることが判明した。
そこで、金属製のケースに発生する渦電流損失を低減できる非接触電力伝送装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の非接触電力伝送装置は円筒形状の一次鉄心と、
この一次鉄心の内部に巻装され、電力が供給される一次巻線と、
前記一次鉄心を収容する金属製の一次側ケースと、
前記一次鉄心と前記一次巻線とを、前記一次側ケース内に封止する樹脂製の一次側キャップと、を有する一次側構成部と、
この一次側構成部の各構成要素に対応する、二次鉄心、二次巻線、二次側ケース及び二次側キャップを有する二次側構成部と、を備え、
前記一次側構成部と前記二次側構成部とが、空隙を隔てて対向配置される非接触電力伝送装置において、
前記一次側ケース及び前記二次側ケースの前記円筒の軸方向端面の長さが、それぞれ前記一次鉄心及び前記二次鉄心の同軸方向端面の長さよりも短く設定されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態であり、回転型トランスの縦断側面を示す斜視図
図2】従来構成の回転型トランスの縦断側面を示す斜視図
図3】第1実施形態の回転型トランスについて、渦電流損失の発生状態を示す図
図4】従来構成の回転型トランスについて、渦電流損失の発生状態を示す図
図5】回転型トランスの縦断側面について、磁束の流れを示す図
図6】一次側ケースの外側壁の軸方向長さを、コアの外側壁の軸方向長さよりも短くした差の寸法を変化させて示す図
図7】上記差の寸法を変化させた場合の渦電流損失の発生状態を示す図
図8図7に示す結果をグラフ化して示す図
図9】各差寸法に応じて、外気温が25℃の場合に測定した各部の温度を示す図
図10】コアの径方向幅を、標準からその1/2倍、3/2倍に変化させた状態を示す図
図11図10に示す各状態について、上記差の寸法を変化させた場合の渦電流損失の発生状態を示す図
図12図11に示す結果をグラフ化して示す図
図13】ケースの径方向幅を、標準からその1/2倍、3/2倍に変化させた状態を示す図
図14図13に示す各状態について、上記差の寸法を変化させた場合の渦電流損失の発生状態を示す図
図15図14に示す結果をグラフ化して示す図
図16】ケースの軸方向幅を、標準からその1/2倍、3/2倍に変化させた状態を示す図
図17図16に示す各状態について、上記差の寸法を変化させた場合の渦電流損失の発生状態を示す図
図18図17に示す結果をグラフ化して示す図
図19】従来の回転型トランスの斜視図
図20】一次側構成部の斜視図
図21】一次側構成部の分解斜視図
図22】回転型トランスの縦断側面を示す斜視図
図23】回転型トランスの回路構成を示す図
図24】解析対象とした回転型トランスの寸法を示す図
図25】渦電流損失の発生状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施形態について図1から図18を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態の非接触電力伝送装置である回転型トランス1Aは、従来構成の回転型トランス1とは、一次側ケース及び二次側ケース、並びに一次側キャップ及び二次側キャップの形状が相違している。図2に拡大して示すように、回転型トランス1では、一次側ケース11の外側壁17の軸方向長さは、コア12の外側壁の軸方向長さに一致している。二次側ケース31についても同様である。尚、軸方向とは、各円盤の中心軸に沿う方向であり、図中の上下方向である。
【0013】
これに対して、回転型トランス1Aでは、一次側ケース11Aの外側壁17Aの軸方向長さを、コア12の外側壁の軸方向長さよりも短く、図1に示す例では5mm短くしている。内壁部16も同様に、コア12の内側壁の軸方向長さよりも5mm短くしている。二次側ケース37Aについても同様である。両者の渦電流損失を比較すると、回転型トランス1では、図4に示すように、ケース11及び31の合計が183.1Wであるのに対し、回転型トランス1Aでは、図3に示すように、ケース11A及び31Aの合計が55.0Wになり、損失が70%低減された。尚、図1図4では、キャップの図示を省略している。
【0014】
図5及び図6に示すように、一次側ケース11Aの外側壁17Aの軸方向長さを、コア12の外側壁の軸方向長さよりも短くした差の寸法を、2.5mm,5.0mm,20.0mmとした場合について、解析を行った。すると、図7及び図8に示すように、差寸法を2.5mm,5.0mmとした場合に、渦電流損失が急激に低減している。また、図9は、各差寸法に応じて、外気温が25℃の場合に測定した各部の温度を示している。
【0015】
尚、説明を容易にするため、図6では二次側キャップ35Aのみを示している。二次側ケース31Aの外側壁37Aの軸方向長さが短くなるのに応じて、コア32の端部が露出することを回避するため、二次側キャップ35Aの端部が軸方向に屈曲した形状となっている。これは、一次側キャップ15Aについても同様である。
【0016】
以下の図10図12図13図15図16図18は、それぞれコア12及び32の径方向幅、ケース11A及び31Aの径方向幅、ケース11A及び31Aの軸方向長さを変化させた場合の渦電流損失を解析した結果である。図11図14及び図17中の「距離」は、上記の差寸法に相当する。
【0017】
図10図12に示すように、コアの径方向幅を標準から、その1/2倍、3/2倍に変化させた何れの場合も、差寸法が7.5mm程度になると損失の低下率が小さくなっている。図13図15に示すように、ケースの径方向幅を標準から、その1/2倍、3/2倍に変化させた場合、図16図18に示すように、ケースの軸方向幅を標準の40mmから、その1/2倍の20mm、3/2倍の60mmに変化させた場合も、上記の傾向は同様である。
【0018】
これらの結果より、ケース11A及び31Aの軸方向長さに関わらず、差寸法を7.5mm以上にすることで、渦電流損失を8割程度低減できることが分かる。但し、差寸法を大きくするほど、径方向への漏洩磁界は大きくなる。したがって、回転型トランス1Aが使用される環境に応じて、周囲にある電子機器等に動作に影響を及ぼさない範囲で、差寸法を適宜設定すれば良い。
【0019】
以上のように本実施形態によれば、回転型トランス1Aは、一次側のコア12と、コア12の内部に巻装され、電力が供給される巻線14と、コア12を収容する金属製の一次側ケース11Aと、コア12及び巻線14とを、一次側ケース11A内に封止する樹脂製の一次側キャップ15Aと、を有する一次側構成部10Aと、一次側構成部10Aの各構成要素に対応する、二次側のコア32、巻線34、二次側ケース31A及び二次側キャップ35Aを有する二次側構成部30Aとを備える。
【0020】
一次側構成部10Aと二次側構成部30Aとが、空隙を隔てて対向配置されることで回転型トランス1Aが構成されている。そして、一次側ケース11A及び二次側ケース30Aの軸方向端面の長さを、それぞれコア12及び32の同軸方向端面の長さよりも短く設定する。これにより、磁束が集中して流れることを回避して渦電流損失を低減できる。そして、軸方向端面の長さの差を7.5mm以上に設定することで、渦電流損失をより大きく低減できる。
【0021】
また、コア12と巻線14との間、コア32と巻線34との間に、それぞれボビン13、33を配置するので、巻線14及び34の絶縁性をより向上させることができる。また、一次側キャップ15A及び二次側キャップ35Aの端部形状を、それぞれコア12及び32の端面が外部に露出する部分を覆うように形成するので、空隙部分に異物等が侵入することを防止できる。
【0022】
更に、二次側構成部30Aを、円筒形状のコア12の中心軸を軸に、固定側の一次側構成部10Aに対して回転する構成とすることで、回転側の二次側構成部30Aに非接触状態で電力を伝送できる。
【0023】
加えて、一次巻線14は、コア12の内部で当該コア12により2分割された内周コイル21及び外周コイル22に電力が供給され、二次巻線34も同様に、コア32により2分割された内周コイル41及び外周コイル42を備えることで、同時に2つ負荷に出力を供給できる。
【0024】
(その他の実施形態)
差寸法は、必ずしも7.5mm以上に設定する必要はない。
一次巻線に通電する交流電流の周波数や電流値は、適宜変更して良い。
ボビンは、必要に応じて配置すれば良い。
一次側及び二次側のコイルを、3組以上備えても良い。
二次側構成分は、必ずしも回転側である必要はない。
非接触電力供給装置の適用対象は、回転型レーダに限らない。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0026】
図面中、1Aは回転型トランス、10Aは一次側構成部、11Aは一次側ケース、12は一次コア、15Aは一次側キャップ、17Aは外側壁、30Aは二次側構成部、31Aは二次側ケース、32は2次コア、35Aは二次側キャップを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25