(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-14
(45)【発行日】2025-10-22
(54)【発明の名称】銅板、および、絶縁基板
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20251015BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20251015BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20251015BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20251015BHJP
【FI】
C22C9/00
H01B1/02 A
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 661A
C22F1/00 661Z
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/08 B
(21)【出願番号】P 2024192645
(22)【出願日】2024-11-01
【審査請求日】2025-04-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】西村 透
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優樹
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2024/024909(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/085723(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/162445(WO,A1)
【文献】特開2018-204108(JP,A)
【文献】特開2015-092014(JP,A)
【文献】特開2015-017299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
H01B 1/02
C22F 1/00
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内とされ、
Al,Be,Cd,Mg,Pb,Ni,P,Sn,Cr,Si,Ti,Zr,Hf,Mn,Fe,Ag,Zn,In,Ga,Ge,Sbから選択される1種又は2種以上のA群元素を合計で2massppm以上20massppm以下の範囲内で含有し、
導電率が95%IACS以上であり、
板厚方向に直交する面において、結晶方位<110>,<311>,<331>,<210>,<321>,<211>の面積割合を、それぞれS(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)として、以下の(1)式を満たすことを特徴とする
銅板。
(1)式:S(110)+S(311)+S(331)+S(210)+S(211)>S(321)
【請求項2】
板厚方向に直交する面において、結晶方位<110>,<311>,<331>,<210>,<321>,<211>の面積割合を、それぞれS(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)として、以下の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の
銅板。
S(110)<0.2
S(311)<0.3
S(331)<0.2
S(210)<0.3
S(321)>0.1
S(211)<0.3
【請求項3】
板厚方向に直交する面において、平均結晶粒径Daveとして、結晶粒径が2×Dave以上の結晶粒の面積割合が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の
銅板。
【請求項4】
Ca,Sr,Baから選択される1種又は2種以上のB群元素を合計で10massppm以上200massppm以下の範囲内で含有することを特徴とする請求項1に記載の
銅板。
【請求項5】
セラミックス基板と、このセラミックス基板の少なくとも一方の面に接合された銅板と、を備えた絶縁基板であって、
前記銅板は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の
銅板で構成されていることを特徴とする絶縁基板。
【請求項6】
前記セラミックス基板が、窒化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウムのいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の絶縁基板。
【請求項7】
前記銅板の前記セラミックス基板とは反対側の面にめっき層が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の絶縁基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品に適した銅板であって、特にパワー半導体などが用いられる絶縁基板に用いられる銅板、および、この銅板を用いた絶縁基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品には、導電性の高い銅材料が用いられている。
最近では、電気・電子機器用部品に用いられる電流量の増大にともない、抵抗発熱が問題となっている。
半導体装置等の電子デバイスにおいては、例えば、セラミックス基板に銅材料を接合し、上述のヒートシンクや厚銅回路を構成した絶縁基板等が用いられている。
【0003】
セラミックス基板と銅材料を接合する際には、高温雰囲気中で加圧処理を行うため、銅材料の結晶粒径の粗大化や不均一な成長によって、接合不良や外観不良、検査工程での不具合を起こすことがある。
この問題点を解決するために、銅材料には、熱処理後においても、結晶粒径の変化が少なく、かつその大きさが均一であることが求められている。
【0004】
そこで、例えば特許文献1,2には、銅材料において結晶成長を抑制する技術が提案されている。
この特許文献1においては、Sを0.0006~0.0015wt%含有することにより、再結晶温度以上で熱処理しても、一定の大きさの結晶粒に調整可能であると記載されている。
また、特許文献2においては、Caを含有するとともに、Caの含有量とO,S,Se,Teの合計含有量との比を規定することにより、800℃で熱処理しても結晶粒の粗大化を抑制可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平06-002058号公報
【文献】国際公開第2020/203071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1,2においては、組成を規定することによって結晶粒の粗大化を抑制する構成とされているが、銅母相に溶け込んでいる不純物量(銅の純度)の変動によって、特性が大きく変化することになり、銅材料を安定して生産することができず、生産性が大きく低下してしまうおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、銅母相に溶け込んでいる不純物量(銅の純度)が変動した場合であっても、セラミックス基板と銅板を接合する際の結晶粒の粗大化抑制効果を安定して発揮することができるとともに特性が安定した銅板、この銅板を用いた絶縁基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、銅材料の組織、および、微量元素の含有量をコントロールすることにより、銅母相に溶け込んでいる不純物量(銅の純度)が変動した場合であっても、セラミックス基板と銅材料を接合する際の結晶粒の粗大化抑制効果を安定して発揮することができるとともに、特性が安定した銅材料を提供可能となるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1の銅板は、Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内とされ、Al,Be,Cd,Mg,Pb,Ni,P,Sn,Cr,Si,Ti,Zr,Hf,Mn,Fe,Ag,Zn,In,Ga,Ge,Sbから選択される1種又は2種以上のA群元素を合計で2massppm以上20massppm以下の範囲内で含有し、導電率が95%IACS以上であり、板厚方向に直交する面において、結晶方位<110>,<311>,<331>,<210>,<321>,<211>の面積割合を、それぞれS(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)として、以下の(1)式を満たすことを特徴としている。
(1)式:S(110)+S(311)+S(331)+S(210)+S(211)>S(321)
【0010】
本発明の態様1の銅板によれば、Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内とされ、導電率が95%IACS以上とされているので、導電性及び放熱性に特に優れており、大電流用途の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
そして、Al,Be,Cd,Mg,Pb,Ni,P,Sn,Cr,Si,Ti,Zr,Hf,Mn,Fe,Ag,Zn,In,Ga,Ge,Sbから選択される1種又は2種以上のA群元素を合計で2massppm以上20massppm以下の範囲内で含有しており、板厚方向に直交する面における各結晶方位の面積割合が上述の(1)式を満たしているので、結晶粒界の移動を安定して抑制することができ、銅母相に溶け込んでいる不純物量(銅の純度)が変動した場合であっても、セラミックス基板と銅板を接合する際の結晶粒の粗大化抑制効果を安定して発揮することができるとともに、各種特性が安定する。
【0011】
本発明の態様2の銅板は、態様1の銅板において、板厚方向に直交する面において、結晶方位<110>,<311>,<331>,<210>,<321>,<211>の面積割合を、それぞれS(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)として、以下の関係を満たすことを特徴としている。
S(110)<0.2
S(311)<0.3
S(331)<0.2
S(210)<0.3
S(321)>0.1
S(211)<0.3
本発明の態様2の銅板によれば、板厚方向に直交する面における各結晶方位の面積割合が上述の関係を有しているので、結晶粒界の移動をさらに安定して抑制することができ、銅母相に溶け込んでいる不純物量(銅の純度)が変動した場合であっても、セラミックス基板と銅板を接合する際の結晶粒の粗大化抑制効果をさらに安定して発揮することができるとともに、各種特性が安定する。
【0012】
本発明の態様3の銅板は、態様1または態様2の銅板において板厚方向に直交する面において、平均結晶粒径Daveとして、結晶粒径が2×Dave以上の結晶粒の面積割合が10%以下であることを特徴としている。
本発明の態様3の銅板によれば、平均結晶粒径Daveとして、結晶粒径が2×Dave以上の結晶粒の面積割合が10%以下とされているので、粗大な結晶粒が多く存在しておらず、均一な結晶組織となり、特性に優れている。
【0013】
本発明の態様4の銅板は、態様1から態様3のいずれかひとつの銅板において、Ca,Sr,Baから選択される1種又は2種以上のB群元素を合計で10massppm以上200massppm以下の範囲内で含有することを特徴としている。
本発明の態様4の銅板によれば、Ca,Sr,Baから選択される1種又は2種以上のB群元素を合計で10massppm以上200massppm以下の範囲内で含有しているので、前記B群元素の少なくとも一種以上とCuとを含む化合物が形成され、この化合物のピン止め効果によって、熱処理時における結晶粒成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0014】
本発明の態様5の絶縁基板は、セラミックス基板と、このセラミックス基板の少なくとも一方の面に接合された銅板と、を備えた絶縁基板であって、前記銅板は、態様1から態様4のいずれかひとつの銅板で構成されていることを特徴としている。
本発明の態様5の絶縁基板によれば、セラミックス基板の少なくとも一方の面に接合された銅板が態様1から態様4のいずれかひとつの銅板で構成されているので、接合時における結晶粒成長が抑制され、均一な結晶組織を有しており、安定して使用することができる。
【0015】
本発明の態様6の絶縁基板は、本発明の態様5の絶縁基板において、前記セラミックス基板が、窒化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウムのいずれかであることを特徴としている。
本発明の態様6の絶縁基板によれば、前記セラミックス基板が、窒化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウムのいずれかで構成されているので、セラミックス基板の絶縁性に優れており、安定して使用することができる。
【0016】
本発明の態様7の絶縁基板は、本発明の態様5又は態様6の絶縁基板において、前記銅板の前記セラミックス基板とは反対側の面にめっき層が形成されていることを特徴としている。
本発明の態様7の絶縁基板によれば、前記銅板の前記セラミックス基板とは反対側の面にめっき層が形成されているので、銅板に、半導体素子やヒートシンク等の他の部材を良好に接合することができ、各種デバイスを構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、銅母相に溶け込んでいる不純物量(銅の純度)が変動した場合であっても、セラミックス基板と銅板を接合する際の結晶粒の粗大化抑制効果を安定して発揮することができるとともに特性が安定した銅板、この銅板を用いた絶縁基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態である絶縁基板を用いた電子デバイスの概略説明図である。
【
図2】本実施形態である銅材料の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態である銅材料、および、絶縁基板について、添付した図面を参照して説明する。
本実施形態である銅材料は、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品の素材として用いられるものであり、前述の電気・電子部品を成形する際に、例えばセラミックス基板に接合され、絶縁基板を構成するものである。
【0020】
図1に、本発明の実施形態である絶縁基板10、および、この絶縁基板10を用いた電子デバイス1を示す。
図1に示す電子デバイス1は、本実施形態である絶縁基板10と、この絶縁基板10の一方側(
図1において上側)に第1はんだ層2を介して接合された電子部品3と、絶縁基板10の他方側(
図1において下側)に第2はんだ層8を介して接合されたヒートシンク51と、を備えている。
なお、本実施形態では、電子部品3がパワー半導体素子とされており、電子デバイス1はパワーモジュールとされている。
【0021】
絶縁基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0022】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものである。
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、セラミックス基板11は、特に放熱性の優れた窒化ケイ素(Si3N4)で構成されている。
また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0023】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に銅板が接合されることにより形成されている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(
図1において上面)が、電子部品3が搭載される搭載面されている。
なお、回路層12のセラミックス基板11とは反対側の面には、例えばNiやAg等のめっき層が形成されていることが好ましい。
【0024】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に銅板が接合されることにより形成されている。この金属層13は、電子部品3からの熱をヒートシンク51へと効率良く伝達させる作用効果を有するものである。
なお、金属層13のセラミックス基板11とは反対側の面には、例えばNiやAg等のめっき層が形成されていることが好ましい。
【0025】
ここで、回路層12となる銅板とセラミックス基板11、および、金属層13となる銅板とセラミックス基板11は、例えば、DBC法、AMB法等の既存の接合方法によって接合されている。
接合時の温度は、例えば750℃以上の高温条件となり、回路層12および金属層13において結晶粒の粗大化が生じるおそれがある。
【0026】
そこで、本実施形態においては、回路層12となる銅板、および、金属層13となる銅板が、本実施形態である銅材料で構成されている。
【0027】
本実施形態である銅材料は、Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内とされており、Al,Be,Cd,Mg,Pb,Ni,P,Sn,Cr,Si,Ti,Zr,Hf,Mn,Fe,Ag,Zn,In,Ga,Ge,Sbから選択される1種又は2種以上のA群元素を合計で2massppm以上20massppm以下の範囲内で含有している。
なお、本実施形態である銅材料においては、Ca,Sr,Baから選択される1種又は2種以上のB群元素を合計で10massppm以上200massppm以下の範囲内で含有していてもよい。
【0028】
また、本実施形態である銅材料においては、導電率が95%IACS以上とされている。
【0029】
そして、本実施形態である銅材料においては、板厚方向に直交する面(圧延面)において、結晶方位<110>,<311>,<331>,<210>,<321>,<211>の面積割合を、それぞれS(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)として、以下の(1)式を満たすものとされている。
(1)式:S(110)+S(311)+S(331)+S(210)+S(211)>S(321)
【0030】
また、本実施形態である銅材料においては、板厚方向に直交する面(圧延面)において、結晶方位<110>,<311>,<331>,<210>,<321>,<211>の面積割合を、それぞれS(111),S(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)として、以下の関係を満たすことが好ましい。
S(110)<0.2
S(311)<0.3
S(331)<0.2
S(210)<0.3
S(321)>0.1
S(211)<0.3
【0031】
さらに、本実施形態である銅材料においては、板厚方向に直交する面(圧延面)において、平均結晶粒径Daveとして、結晶粒径が2×Dave以上の結晶粒の面積割合が10%以下であることが好ましい。
【0032】
ここで、本実施形態である銅材料において、上述のようにCuの含有量、各種元素の含有量、結晶方位、結晶粒径、導電率を規定した理由について、以下に説明する。
【0033】
(Cuの含有量)
大電流用途の電気・電子部品においては、通電時の発熱を抑制するために、導電性及び放熱性に優れていることが要求されていることから、導電性及び放熱性に特に優れた純度の高い銅材料を用いることが好ましい。一方、銅の純度が高すぎると、高熱状態で結晶粒が粗大化しやすくなるおそれがある。
そこで、本実施形態である銅材料においては、Cuの含有量を99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内に規定している。
なお、Cuの含有量の下限は99.93mass%以上であることが好ましく、99.96mass%以上であることがさらに好ましい。また、Cuの含有量の上限は99.998mass%以下であることが好ましく、99.997mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
(Al,Be,Cd,Mg,Pb,Ni,P,Sn,Cr,Si,Ti,Zr,Hf,Mn,Fe,Ag,Zn,In,Ga,Ge,Sbから選択される1種又は2種以上のA群元素の合計含有量)
Al,Be,Cd,Mg,Pb,Ni,P,Sn,Cr,Si,Ti,Zr,Hf,Mn,Fe,Ag,Zn,In,Ga,Ge,Sbから選択される1種又は2種以上のA群元素は、Cu母相中に存在することで、結晶粒界の移動が阻害されることになり、熱処理した際に結晶粒が粗大化することを抑制することが可能となる。また、これらのA群元素の含有量を規定することで、特性の安定化を図ることが可能となる。
ここで、A群元素の合計含有量が2massppm未満の場合には、上述の作用効果を得ることができないおそれがある。一方、A群元素の合計含有量が20massppmを超えると、純銅としてのリサイクル性を確保できなくなるおそれがある。
そこで、本実施形態である銅材料においては、Al,Be,Cd,Mg,Pb,Ni,P,Sn,Cr,Si,Ti,Zr,Hf,Mn,Fe,Ag,Zn,In,Ga,Ge,Sbから選択される1種又は2種以上のA群元素の合計含有量を2massppm以上20massppm以下の範囲内に規定している。
なお、上述のA群元素の合計含有量の下限は4massppm以上であることが好ましく、6massppm以上であることがさらに好ましい。また、上述のA群元素の合計含有量の上限は18massppm以下であることが好ましく、16massppm以下とすることがさらに好ましい。
【0035】
(Ca,Sr,Baから選択される1種又は2種以上のB群元素の合計含有量)
Ca,Sr,Baから選択される1種又は2種以上のB群元素は、Cuに対する固溶限が非常に小さく、Cuとともに化合物を形成する。このため、B群元素を含有することにより、高温でも安定な化合物が形成されることになる。また、この化合物はCuを含むため、熱伝導率を大きく下げるおそれがない。よって、B群元素を添加することにより、高温で安定な化合物を生成し、高温での結晶粒界の移動を抑制し、結晶粒成長をさらに抑制することが可能となる。一方、B群元素を多量に含有すると、製造性に悪影響を与えてしまうおそれがある。
このため、本実施形態の銅材料において、B群元素を含有する場合には、B群元素の合計含有量を10massppm以上200massppm以下の範囲内にすることが好ましい。
なお、上述のB群元素の合計含有量の下限は15massppm以上であることがさらに好ましく、20massppm以上であることがより好ましい。また、上述のB群元素の合計含有量の上限は150massppm以下であることがさらに好ましく、100massppm以下であることがより好ましい。
【0036】
(その他の不可避不純物)
上述した元素以外のその他の不可避的不純物としては、As,B,Bi,Sc,V,Nb,Ta,Mo,W,Re,Ru,Os,Co,Rh,Ir, Pd,Pt,Au,Hg,Tl,N,Li等が挙げられる。これらの不可避不純物は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
【0037】
(導電率)
電気・電子機器用部品においては、通電時の発熱を抑制するために、導電性に優れていることが求められる。このため、本実施形態の銅材料においては、導電率を95%IACS以上に規定している。
なお、本実施形態の銅材料の導電率は98%IACS以上であることが好ましく、100%IACS以上であることがより好ましい。
【0038】
(板厚方向に直交する面における結晶方位の面積割合)
本実施形態の銅材料においては、板厚方向に直交する面(圧延面)における結晶方位<110>,<311>,<331>,<210>,<321>,<211>の面積割合を、それぞれS(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)として、上述の(1)式を満足するものとされている。
上述のように、板厚方向に直交する面(圧延面)における結晶方位の面積割合を規定することにより、結晶粒界の移動を安定して抑制することができ、銅母相に溶け込んでいる不純物量(銅の純度)が変動した場合であっても、セラミックス基板と銅材料を接合する際の結晶粒の粗大化抑制効果を安定して発揮することができるとともに、各種特性が安定する。
【0039】
なお、本実施形態の銅材料において、板厚方向に直交する面(圧延面)における結晶方位<110>,<311>,<331>,<210>,<321>,<211>の面積割合を、それぞれS(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)として、以下の関係を満たす場合には、結晶粒界の移動をさらに安定して抑制することができ、銅母相に溶け込んでいる不純物量(銅の純度)が変動した場合であっても、セラミックス基板と銅材料を接合する際の結晶粒の粗大化抑制効果をさらに安定して発揮することができるとともに、各種特性が安定する。
S(110)<0.2
S(311)<0.3
S(331)<0.2
S(210)<0.3
S(321)>0.1
S(211)<0.3
【0040】
(結晶粒径)
本実施形態の銅材料において、板厚方向に直交する面(圧延面)において、平均結晶粒径Daveとして、結晶粒径が2×Dave以上の結晶粒の面積割合が10%以下とされている場合には、粗大な結晶粒が多く存在しておらず、粒径が比較的均一になっており、特性が安定することになる。
なお、結晶粒径が2×Dave以上の結晶粒の面積割合は7%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることがより好ましい。
さらに、本実施形態の銅材料においては、平均結晶粒径Daveは400μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、250μm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
次に、このような構成とされた本実施形態である銅材料の製造方法について、
図2に示すフロー図を参照して説明する。
【0042】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、無酸素銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述のA群元素、必要に応じてB群元素を添加して成分調整を行う。なお、各種元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。ここで、各元素は、純度が99.9mass%以上とされたいわゆる3N、あるいは99.99mass%以上とされたいわゆる4Nとすることが好ましい。
溶解時には、水素濃度低減のため、H2Oの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
そして、成分調整された銅溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0043】
(均熱熱処理工程S02)
得られた鋳塊に対して、材料内の偏析成分を均質化するために、均熱熱処理を行う。
均熱熱処理工程S02における熱処理温度が800℃以上であることが好ましい。また、800℃以上での保持時間を4時間以上とすることが好ましい。このような条件で均熱熱処理を行うことにより、後工程の熱間圧延で高い加工率を与えなくても、各種元素の偏析を抑制して均質な状態にすることができる。
【0044】
(熱間加工工程S03)
次に、動的再結晶組織を形成するために熱間加工を行う。この熱間加工工程S03においては、鋳造組織から動的再結晶組織を得ることが目的であることから、組織を作りこむために、総加工率30%以下の熱間加工を必要がある。また、加工上がり温度は700℃以上とすることにより、所望の組織を作る前段階の組織を形成することができる。
なお、総加工率は、25%以下であることがさらに好ましく、20%以下であることがより好ましい。また、加工上がり温度は、720℃以上であることがさらに好ましく、740℃以上であることがより好ましい。
また、加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は圧延を採用することが好ましい。線や棒の場合には押出や溝圧延、バルク形状の場合には鍛造やプレスを採用することが好ましい。のちの圧延、熱処理工程と組み合わせることにより所望の組織を得ることができる。
【0045】
(面削工程S04)
上述の熱間加工工程S03において、表面に生成した酸化膜を除去するために面削を行う。面削代は0.5mm以上3.0mm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0046】
(塑性加工工程S05)
次に、加工率90%以上の塑性加工を加える。熱間加工工程S03で得られた再結晶組織に対して加工率90%以上の塑性加工を加えることにより、後工程の再結晶時にCube方位に配向した結晶組織を得ることができる。
ここで、Cube方位を有する結晶組織を得ることにより、後の熱処理および加工によって、上述した結晶方位の結晶組織を形成することができる。
塑性加工工程S05における加工方法は特に限定されないが、最終形態が板や条である場合、圧延を採用する。他には鍛造やプレス、溝圧延を採用しても良い。
また、加工温度も特に限定されないが、冷間または温間となる-200℃以上400℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0047】
(第1熱処理工程S06)
次に、結晶組織を作りこむために、熱処理を行う。ここで、熱処理条件としては、非酸化性または還元性雰囲気中で行うことが好ましい。また、熱処理温度は500℃以上900℃以下の範囲内とすることが好ましい。さらに、熱処理温度での保持時間は1分以上60分以下の範囲内とすることが好ましい。また、熱処理後には水入れによって冷却することが好ましい。
この第1熱処理工程S06を行うことにより、Cube方位が形成されることになる。そして、Cube方位を形成することにより、後の工程で、本実施形態である銅材料の結晶組織を形成することが可能となる。
【0048】
(中間圧延工程S07)
次に、圧延率30%以下の圧延を加える。上述のようにCube方位を形成した組織に圧延率30%以下の低圧延を加えることで、後の熱処理で少量の新たな再結晶核を形成させ、好ましい結晶方位を成長させる。
【0049】
(第2熱処理工程S08)
次に、再結晶核を形成させて好ましい結晶方位を成長させるために熱処理を行う。ここで、熱処理条件としては、非酸化性または還元性雰囲気中で行うことが好ましい。また、熱処理温度は500℃以上900℃以下の範囲内とすることが好ましい。さらに、熱処理温度での保持時間は1分以上60分以下の範囲内とすることが好ましい。また、熱処理後には水入れによって冷却することが好ましい。
この第2熱処理工程S08を行うことにより、好ましい結晶方位を優先的に結晶成長させることができ、好ましい組織を形成することができる。
【0050】
(調質圧延工程S09)
そして、材料の強度を調整するために所定の圧延率の圧延を加える。なお、前工程で形成した結晶組織を大きく壊さないために、調質圧延工程S09における圧延率は20%以下とすることが好ましい。
【0051】
上述の各工程により、本実施形態である銅材料が製出されることになる。
【0052】
以上のような構成とされた本実施形態である銅材料によれば、Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内とされ、導電率が90%IACS以上とされているので、導電性及び放熱性に特に優れており、大電流用途の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
そして、Al,Be,Cd,Mg,Pb,Ni,P,Sn,Cr,Si,Ti,Zr,Hf,Mn,Fe,Ag,Zn,In,Ga,Ge,Sbから選択される1種又は2種以上のA群元素を合計で2massppm以上20massppm以下の範囲内で含有しているので、これらA群元素によって結晶界面の移動が阻害され、銅母相に溶け込んでいる不純物量(銅の純度)が変動した場合であっても、セラミックス基板11と銅材料を接合する際の結晶粒の粗大化抑制効果を安定して発揮することができる。
【0053】
さらに、板厚方向に直交する面(圧延面)において、結晶方位<110>,<311>,<331>,<210>,<321>,<211>の面積割合を、それぞれS(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)として、(1)式:S(110)+S(311)+S(331)+S(210)+S(211)>S(321)を満足するものとされているので、結晶粒界の移動を安定して抑制することができ、接合時の熱処理等の高温条件での結晶粒成長を十分に抑制することができる。
【0054】
本実施形態である銅材料において、板厚方向に直交する面(圧延面)における結晶方位<110>,<311>,<331>,<210>,<321>,<211>の面積割合を、それぞれS(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)として、以下の関係を満たす場合には、結晶粒界の移動をさらに安定して抑制することができ、接合時の熱処理等の高温条件での結晶粒成長をさらに抑制することが可能となる。
S(110)<0.2
S(311)<0.3
S(331)<0.2
S(210)<0.3
S(321)>0.1
S(211)<0.3
【0055】
本実施形態である銅材料において、板厚方向に直交する面(圧延面)において、平均結晶粒径Daveとして、結晶粒径が2×Dave以上の結晶粒の面積割合が10%以下である場合には、粗大な結晶粒が多く存在しておらず、均一な結晶組織となり、各種特性に優れている。
【0056】
本実施形態である銅材料において、Ca,Sr,Baから選択される1種又は2種以上のB群元素を合計で10massppm以上200massppm以下の範囲内で含有する場合には、B群元素の少なくとも一種以上とCuとを含む化合物が形成され、この化合物のピン止め効果によって、接合時の熱処理等の高温条件での結晶粒成長をさらに確実に抑制することが可能となる。
【0057】
本実施形態である絶縁基板10は、セラミックス基板11の少なくとも一方の面に接、本実施形態である銅材料で構成された銅板が接合されて回路層12および金属層13が形成されているので、接合時の熱処理等の高温条件での結晶粒成長が抑制され、均一な結晶組織を有し、特性が安定していることから、電子デバイス1を構成する部材として良好に使用することができる。
【0058】
本実施形態である絶縁基板10において、セラミックス基板11が、窒化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウムのいずれかである場合には、セラミックス基板11の絶縁性に優れており、電子デバイス1を構成する部材として良好に使用することができる。
【0059】
本実施形態である絶縁基板10において、回路層12のセラミックス基板11とは反対側の面および金属層13のセラミックス基板11とは反対側の面のいずれか一方または両方にめっき層が形成されている場合には、回路層12に半導体素子3を、金属層13にヒートシンク51を良好に接合することができ、
図1に示す電子デバイス1を良好に構成することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態である銅材料について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、銅材料の製造方法の一例について説明したが、銅材料の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0062】
溶融精製法により、P濃度を0.001massppm以下に精製した、純度99.999~99.9999質量%以上の純銅からなる銅原料Aと、純度99.99~99.999質量%の純銅からなる銅原料Bを作製し、これらの銅原料をそれぞれ高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。
得られた銅溶湯内に、6N(純度99.9999mass%以上)高純度銅と2N(純度99mass%以上)の純度を有する純金属を用いて作製した各種1mass%母合金を用いて成分組成に調製し、断熱材(イソウール)鋳型に注湯して、銅原料Aを用いた鋳塊Aと、銅原料Bを用いた鋳塊Bの鋳塊をそれぞれ作製した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約100mm×幅約100mm×長さ約150~200mmとした。
【0063】
得られた鋳塊A、鋳塊Bの銅の含有量、各種元素の含有量を測定した結果を表1,2に示す。得られた鋳塊から測定試料を採取し、グロー放電質量分析装置(GD-MS)を用いて測定した。なお、測定は試料中央部と幅方向端部の二カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。
【0064】
上述のようにして得られた鋳塊A、鋳塊Bに対して、Arガス雰囲気において表3,4に示す条件で均熱熱処理を実施した。
次に、表3,4に示す条件で熱間圧延を実施した。その後、酸化膜を除去するために面削を行った。
次に、表3,4に示す条件で圧延加工(塑性加工)を実施した。その後、Arガス雰囲気において表3,4に示す条件で第1熱処理を実施した。
次に、表3,4に示す条件で中間圧延加工を実施した。その後、Arガス雰囲気において表3,4に示す条件で第2熱処理を実施した。
最後に、表3,4に示す条件で、調質圧延を行い、表3,4に示す板厚の条材(特性評価用条材)を製造した。
【0065】
そして、以下の項目について評価を実施した。評価結果を表5,6に示す。
【0066】
(EBSDの測定方法)
鋳塊Bを用いた特性評価用条材から採取したサンプルに対して耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(日立ハイテク製SU7000、EDAX/AMETEK製Velocity super、APEX EBSD Ver.2.9)と、解析ソフト(EDAX/AMETEK製OIM Analysis ver.8.6)によって、電子線の加速電圧15kV、10000μm2以上の測定面積を、0.1μmの測定間隔のステップでCI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行った。隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とした。
【0067】
(結晶方位の面積割合)
鋳塊Bを用いた特性評価用条材から採取したサンプルに対して、板厚方向に直交する面を観察面とし、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(日立ハイテク製SU7000、EDAX/AMETEK製Velocity super、APEX EBSD Ver.2.9)と、解析ソフト(EDAX/AMETEK製OIM Analysis ver.8.6)によって、電子線の加速電圧15kV、1×106μm2以上の測定面積を、1.0μmの測定間隔のステップでCI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行った。隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とした。
解析ソフト(EDAX/AMETEK製OIM Analysis ver.8.6)によって、各結晶方位から10°以内で配向しているものをその結晶方位として測定し、視野における面積割合を得た。
【0068】
(平均結晶粒径Daveおよび、2×Dave以上の結晶粒の面積割合の測定)
鋳塊Bを用いた特性評価用条材から採取したサンプルに対して、板厚方向に直交する面を観察面とし、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(日立ハイテク製SU7000、EDAX/AMETEK製Velocity super、APEX EBSD Ver.2.9)と、解析ソフト(EDAX/AMETEK製OIM Analysis ver.8.6)によって、電子線の加速電圧15kV、1×106μm2以上の測定面積を、1.0μmの測定間隔のステップでCI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行った。隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とした。
解析ソフト(EDAX/AMETEK製OIM Analysis ver.8.6)によって、AreaFraction法による結晶粒度分布および平均結晶粒径を得た。その際、双晶粒界は除いて算出した。
【0069】
(導電率)
鋳塊Bを用いた特性評価用条材から幅10mm×長さ150mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して並行になるように採取した。
【0070】
(接合試験)
鋳塊Aを用いた特性評価用条材および鋳塊Bを用いた特性評価用条材からそれぞれ40mm×40mmの銅板を切り出した。
セラミックス板(材質:Si3N4、50mm×50mm×厚さ0.32mm)に対し、両面にペースト状の活性銀ろう材(東京ブレイズ製TB-608T)を塗布した。上述の銅板2枚の間にセラミックス板を挟み込み、加圧圧力0.59MPaの荷重をかけた状態で熱処理を行った。
熱処理は以下の条件で行った。850℃の炉に、積層した銅板およびセラミックス板を投入し、材温が850℃になったことを熱電対にて確認してから60分保持し、加熱が終わった後に常温になるまで炉冷(炉内で冷却)を行った。
常温まで温度が低下した後に、鋳塊Bの銅板の板厚方向に直交する面(圧延面)について結晶組織を測定した。
【0071】
板厚方向に直交する面(圧延面)を観察面とし、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(日立ハイテク製SU7000、EDAX/AMETEK製Velocity super、APEX EBSD Ver.2.9)と、解析ソフト(EDAX/AMETEK製OIM Analysis ver.8.6)によって、電子線の加速電圧15kV、1×107μm2以上の測定面積を、2.0μmの測定間隔のステップでCI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行った。隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とした。
解析ソフト(EDAX/AMETEK製OIM Analysis ver.8.6)によって、Area Fraction法によって、双晶粒界は除いて算出した平均結晶粒径と最大結晶粒径を得た。
【0072】
鋳塊Aを用いた特性評価用条材および鋳塊Bを用いた特性評価用条材の結晶粗大化結果について、AとBにおいて、最大結晶粒径が1000μm以上の差があった場合を「×」、AとBにおいて、最大結晶粒径が1000μm以上の差がなく、AとBどちらかの平均結晶粒径が1000μm以上の場合を「△」、AとBにおいて、最大結晶粒径が1000μm以上の差がなく、AとBともに平均粒径が1000μmより小さい場合を「〇」として、それぞれ評価を行った。
【0073】
(熱処理試験)
鋳塊Bを用いた特性評価用条材から採取したサンプルに対して、炉内温度800℃の炉の中にサンプルを投入し、1時間保持した後、空冷によりサンプルを冷却した。
得られたサンプルに対して、板厚方向に直交する面を観察面とし、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(日立ハイテク製SU7000、EDAX/AMETEK製Velocity super、APEX EBSD Ver.2.9)と、解析ソフト(EDAX/AMETEK製OIM Analysis ver.8.6)によって、電子線の加速電圧15kV、1×107μm2以上の測定面積を、2.0μmの測定間隔のステップでCI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行った。隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とした。
解析ソフト(EDAX/AMETEK製OIM Analysis ver.8.6)によって、Area Fraction法によって、双晶粒界は除いて算出した平均結晶粒径が800μmより大きい場合は「×」、平均結晶粒径が800μm以下の場合は「〇」と評価した。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
比較例1-5においては、板厚方向に直交する面(圧延面)における結晶方位の面積割合が(1)式を満足しておらず、接合試験の結果、鋳塊Aを用いた特性評価用条材と鋳塊Bを用いた特性評価用条材の最大結晶粒径の差が1000μm以上と大きく、結晶粒の粗大化抑制効果を安定して発揮することができなかった。
また、比較例6においては、A群元素の合計含有量が1.4massppmと少なく、鋳塊Bを用いた特性評価用条材に対して800℃で1時間の熱処理を行った際に、平均結晶粒径が800μmより大きくなり、結晶粒の粗大化を十分かつ安定的に抑制することができなかった。
【0081】
これに対して、本発明例1-12においては、板厚方向に直交する面(圧延面)における結晶方位の面積割合が(1)式を満足しており、接合試験の結果、鋳塊Aを用いた特性評価用条材と鋳塊Bを用いた特性評価用条材の最大結晶粒径の差が1000μmより小さく、結晶粒の粗大化抑制効果を安定して発揮することができた。
また、本発明例1-12においては、A群元素の合計含有量が2massppm以上20massppm以下の範囲内とされており、鋳塊Bを用いた特性評価用条材に対して800℃で1時間の熱処理を行った際に、平均結晶粒径が800μm以下となり、結晶粒の粗大化を十分に抑制することができた。
【0082】
以上のことから、本発明例によれば、銅母相に溶け込んでいる不純物量(銅の純度)が変動した場合であっても、セラミックス基板と銅材料を接合する際の結晶粒の粗大化抑制効果を安定して発揮することができるとともに特性が安定した銅材料、この銅材料を用いた絶縁基板を提供可能であることが確認された。
【要約】
【課題】銅母相に溶け込んでいる不純物量が変動した場合であっても、セラミックス基板と銅材料を接合する際の結晶粒の粗大化抑制効果を安定して発揮することができるとともに特性が安定した銅材料、この銅材料を用いた絶縁基板を提供する。
【解決手段】Cuの含有量が99.9mass%以上99.999mass%以下の範囲内、Al,Be,Cd,Mg,Pb,Ni,P,Sn,Cr,Si,Ti,Zr,Hf,Mn,Fe,Ag,Zn,In,Ga,Ge,Sbから選択される1種又は2種以上のA群元素を合計で2massppm以上20massppm以下含有し、導電率が95%IACS以上であり、板厚方向に直交する面において、各結晶方位の面積割合S(110),S(311),S(331),S(210),S(321),S(211)が、S(110)+S(311)+S(331)+S(210)+S(211)>S(321)を満たす。
【選択図】なし