(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-17
(45)【発行日】2025-10-27
(54)【発明の名称】APOC3を標的としたアンチセンス核酸
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20251020BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20251020BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20251020BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20251020BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20251020BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/711
A61P43/00 111
A61P3/06
A61K47/54
(21)【出願番号】P 2022510769
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021013106
(87)【国際公開番号】W WO2021193965
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2020055717
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】斯波 真理子
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛史
(72)【発明者】
【氏名】和田 郁人
(72)【発明者】
【氏名】小林 直之
(72)【発明者】
【氏名】橘 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】小比賀 聡
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-526874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のいずれかの構造からなるアンチセンスオリゴマー、又は、その薬学的に許容可能な塩若しくは水和物。
AGAatactgtcCCt(配列番号26)
TgAgAatactgtcCCt(配列番号37)
GAgAatactgtcCCt(配列番号38)
AGAatactgtccCTt(配列番号39)
TgAgAatactgtccCTt(配列番号40)
AcTgagAatactgtcccTtT(配列番号41)
GAG
RAatactgtcCCt(配列番号38)
GAG
FAatactgtcCCt(配列番号38)
GAGAatactgtcCCt(配列番号38)
GAG
FA
RatactgtcCCt(配列番号38)
GA
RGAatactgtcCCt(配列番号38)
GA
FGAatactgtcCCt(配列番号38)
GAGAatactgtcCCt(配列番号38)
大文字は、糖部分のC
2とC
4間における-O-CH
2-での架橋を示し(Cは糖部分のC
2とC
4間が-O-CH
2-で架橋された5-methylcytosineを示す)、
小文字は、DNAを示し、
大文字+下線は、2’-O-Me修飾を示し、
N
Rは、RNA(2’-OH)を示し(「N」は任意の塩基を示す。以下同じ)、
N
Fは、2’-Fluoro修飾を示し、
各ヌクレオシド間結合はホスホロチオエート結合を示す。
【請求項2】
前記アンチセンスオリゴマーが、以下の構造からなるアンチセンスオリゴマーである、請求項1に記載のアンチセンスオリゴマー、又は、その薬学的に許容可能な塩若しくは水和物。
AGAatactgtcCCt(配列番号26)
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアンチセンスオリゴマー、又は、その薬学的に許容可能な塩若しくは水和物のオリゴヌクレオチド鎖の一方もしくは両方の末端に、アシアロ糖タンパク質受容体に結合しうる分子が付加されてなるオリゴヌクレオチドコンジュゲート体であって、アシアロ糖タンパク質受容体に結合しうる分子が、ラクトース、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、ガラクトサミン、N-ホルミルガラクトサミン、N-プロピオニルガラクトサミン、N-n-ブタノイルガラクトサミン、
及び、N-イソ-ブタノイルガラクトサミ
ンからなる群から選択される少なくとも1つである、オリゴヌクレオチドコンジュゲート体。
【請求項4】
請求項3に記載のオリゴヌクレオチドコンジュゲート体であって、
前記オリゴヌクレオチド鎖の末端と、前記アシアロ糖タンパク質受容体に結合しうる分子とが、リンカーを介して結合し、
該リンカーが、前記オリゴヌクレオチド鎖の末端と結合する主鎖リンカーと、主鎖から分岐してアシアロ糖タンパク質受容体に結合しうる分子と結合する側鎖リンカーとを含み、主鎖リンカーがエチレン鎖、プロピレン鎖、ブチレン鎖、ペンチレン鎖、へキシレン鎖、へプチレン鎖、オクチレン鎖、ノニレン鎖、デシレン鎖、ドデシレン鎖、テトラデシレン鎖、ヘキサデシレン鎖およびオクタデシレン鎖からなる群から選択される直鎖炭素鎖であり(但し、側鎖リンカーがヘテロ原子を含む場合、主鎖の炭素原子と共にヘテロ環を形成しているか、または、していない)、
前記オリゴヌクレオチド鎖の末端と主鎖リンカー、および2個以上の前記アシアロ糖タ
ンパク質受容体に結合しうる分子が付加される場合は主鎖リンカー同士が、ホスホジエステル結合により連結されている、オリゴヌクレオチドコンジュゲート体。
【請求項5】
請求項1に記載のアンチセンスオリゴマー、又は、その薬学的に許容可能な塩若しくは水和物を有効成分として有効量含む、
APOC3タンパク質の発現を阻害するための医薬組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のアンチセンスオリゴマー、又は、その薬学的に許容可能な塩若しくは水和物を有効成分として有効量含む、
高トリグリセリド血症の治療剤。
【請求項7】
請求項1に記載のアンチセンスオリゴマー、又は、その薬学的に許容可能な塩若しくは水和物を有効成分として有効量含む、
原発性高カイロミクロン血症の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、APOC3を標的としたアンチセンス核酸、およびそれを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質と動脈硬化の因果関係は、スタチンの発見とそれによる薬剤介入試験により臨床的に確立された。スタチンによる低密度リポタンパク質-コレステロール(LDL-C)低下の効果は強力であり、背景にどんなリスクファクターがあろうとも、LDL-Cの一定量の低下により一定の心血管イベントリスクの低下をもたらす。その一方で、スタチンで解決しない「残余リスク」をいかに解決するかが問題となってきた。
【0003】
Mendelian randomization(MR)研究から、高コレステロール血症や高トリグリセリド(TG)血症の原因遺伝子もまた動脈硬化を惹起することが明らかとなったことにより、残余リスクの1つの鍵は、これらの脂質異常症にあることが強く示唆されてきている。それに伴い、これらの原因遺伝子を標的とした創薬研究も盛んにおこなわれている。
【0004】
例えば、国際公開第2018-216785号パンフレット(特許文献1)には、高コレステロール血症の原因遺伝子の1つであるPCSK9を標的としたアンチセンス核酸、およびそれを含む医薬が記載されている。この公報に記載されたアンチセンス核酸は、両側に数塩基の修飾核酸を有するギャップマー(Gapmer)型核酸である。
【0005】
また、国際公開第2004-093783号パンフレット(特許文献2)には、高TG血症の原因遺伝子の1つであるアポリポタンパク質C3(APOC3)を標的としたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)が記載されている。高TG血症は血中TGの値が150 mg/dL以上を示す脂質異常症の1つであるが、APOC3は、リポタンパク質の肝臓への取り込みを阻害したり、リポタンパク質リパーゼ(LPL)を阻害したり、リポタンパク質のクリアランスに多面的な役割で関与している。APOC3の機能低下や喪失型変異を有する人は、血中TG値、冠動脈疾患のリスクが低いことが疫学的に示されており、APOC3は高TG血症のよい創薬標的と考えられている。
特許文献2には、10個のDNAからなる中央のギャップ領域と、その両端に隣接する各5個のヌクレオチドからなる5’-及び3’-ウイング領域とからなる「5-10-5」型のギャップマー構造を有し、両ウイング領域のヌクレオチドが2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)修飾され、かつすべてのヌクレオシド間結合がホスホロチオエート(PS)結合で置換されたASOが記載されている。この特許出願中に開示される、(ISIS 304801)を有効成分とするAPOC3阻害薬であるvolanesorsen(商品名:Waylivra(登録商標))は、LPL欠損症を含む高カイロミクロン血症患者での有効性が示され、原発性高TG血症、よりcommonな動脈硬化惹起性高TG血症の新たな治療薬として期待されていたが、高用量投与による重篤な有害事象が報告され、安全性の観点から米国食品医薬局(FDA)では承認申請を拒絶され、欧州医薬品庁(EMA)では条件付きで家族性高カイロミクロン血症に対してのみ承認された。
【0006】
従って、より低用量でAPOC3の発現を阻害することができ、安全に、動脈硬化惹起性脂質異常症に広く使用することができる新規な核酸医薬の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018-216785号パンフレット
【文献】国際公開第2004-093783号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この明細書に記載されるある発明は、活性が高いため用量を抑えることができるAPOC3を標的としたアンチセンス核酸、該アンチセンス核酸を含むコンジュゲート体、およびそれを含む医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、APOC3 mRNAの5’UTR、コーディング領域及び3’UTRに対して相補的なASOを設計し、それらの構成ヌクレオチドの一部を、糖の2’位と4’位との間の架橋により修飾したものを合成して、培養細胞に導入したところ、これらのASOのうち、APOC3 mRNAの特定の領域に相補的なASOは、顕著に優れたAPOC3遺伝子の発現阻害活性を有することを見出した。標的領域が特許文献2に記載の配列と重複する場合、2’,4’-架橋修飾ASOは2’-MOE修飾ASOよりも高いAPOC3発現阻害活性を示した。
また、実施例により示された通り、配列番号26に示される塩基配列を有するアンチセンスオリゴマー、配列番号26に示される塩基配列から1~6個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加した塩基配列を有するアンチセンスオリゴマーや、そのコンジュゲート体は、非ヒト霊長類へのインビボ投与により、有害事象を生じることなく、高いAPOC3発現阻害活性と、血中TG値の低減作用を示した。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0010】
この明細書は、活性が高いため用量を抑えることができるAPOC3を標的としたアンチセンス核酸、コンジュゲート体、およびそれを含む医薬を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、CEM法を用いたヒトAPOC3 mRNAを標的とするアンチセンス核酸のインビトロファーストスクリーニングの結果を示す。
【
図2】
図2は、CEM法を用いたヒトAPOC3 mRNAを標的とするアンチセンス核酸のインビトロセカンドスクリーニングの結果を示す。
【
図3】
図3は、Huh-7に対する公知医薬(比較例)とアンチセンス核酸Np.26のヒトAPOC3 mRNA発現抑制効果の比較を示す。
【
図4】
図4は、アンチセンス核酸No.26のGalNAcコンジュゲート体のヒト肝臓キメラマウスに対するヒトAPOC3 mRNAの選択的な発現抑制効果を示す。
図4aは、ヒト肝臓キメラマウスに残存するマウス肝細胞に対する効果を示し、
図4bは、ヒト肝臓キメラマウスにおけるヒト肝細胞に対する効果を示す。
【
図5】
図5は、カニクイザルに対するアンチセンス核酸No.26のGalNAcコンジュゲート体の血中トリグリセリド低下効果を示す。
【
図6】
図6は、ヒトAPOC3 mRNAを標的とするアンチセンス核酸のインビトロ活性評価の結果を示す。
【
図7】
図7は、カニクイザルに対するアンチセンス核酸No.26のGalNAcコンジュゲート体の血中トリグリセリド低下効果を示す。
【
図8】
図8は、カニクイザルに対するアンチセンス核酸No.26のGalNAcコンジュゲート体のAPOC3 mRNA発現抑制効果を示す。
【
図9】
図9は、アンチセンス核酸No.26のGalNAcコンジュゲート体を投与されたカニクイザルにおける血清ALT値の推移を示す。
【
図10】
図10は、アンチセンス核酸No.26のGalNAcコンジュゲート体を投与されたカニクイザルにおける血清クレアチニン値の推移を示す。
【
図11】
図11は、種々の用量のアンチセンス核酸No.26のGalNAcコンジュゲート体を投与されたカニクイザルにおける血清ALT値の推移を示す。
【
図12】
図12は、種々の用量のアンチセンス核酸No.26のGalNAcコンジュゲート体を投与されたカニクイザルにおける血清クレアチニン値の推移を示す。
【
図13】
図13は、アンチセンス核酸No.26-3(配列番号38)類縁体のインビトロAPOC3 mRNA発現抑制活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されるものではなく、以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0013】
アンチセンス核酸
この明細書に記載される第1の発明は、アンチセンスオリゴマー、その薬学的に許容可能な塩、又はその薬学的に許容可能な水和物(以下、これらをまとめて本発明のアンチセンス核酸ともよぶ)に関する。
【0014】
本発明で用いられるオリゴヌクレオチド(アンチセンスオリゴマー)の塩基配列の長さは特に限定されない。アンチセンスオリゴマーの塩基配列の長さの例は、10~25塩基のいずれでもよく、12~22塩基でもよく、13~21塩基でもよく、14~20塩基でもよく、13~16塩基(14~16塩基)でもよく、13~15塩基(14または15塩基)でもよく、14塩基でもよい。
【0015】
アンチセンスオリゴマーの薬学的に許容可能な塩の例は、無機塩基、アンモニア、有機塩基、無機酸、ハロゲンイオン(Cl等)からなる塩、及び分子内塩を含む。無機塩基の例はアルカリ金属(Na、K等)及びアルカリ土類金属(Ca、Mg等)を含む。有機塩基の例はトリメチルアミン、トリエチルアミン、コリン、プロカイン、エタノ-ルアミン等を含む。無機酸の例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、及びリン酸等を含む。アンチセンスオリゴマーの薬学的に許容可能な水和物は、任意の水和物であってもよい。
【0016】
本発明のアンチセンス核酸におけるアンチセンスオリゴマーの例は、配列番号26に示される塩基配列を有するアンチセンスオリゴマー、配列番号26に示される塩基配列から1~6個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加した塩基配列を有するアンチセンスオリゴマー、その薬学的に許容可能な塩、又はその薬学的に許容可能な水和物である。配列番号で特定される塩基配列には、直鎖状のものや環状のものも含む。また、本発明のアンチセンス核酸におけるアンチセンスオリゴマーの構成単位としては、例えば、リボヌクレオチド(RNA)及びデオキシリボヌクレオチド(DNA)が挙げられる。これらのヌクレオチドは、修飾されていても、非修飾であってもよい。
【0017】
前記ヌクレオチド残基は、構成要素として、糖、塩基及びリン酸を含む。リボヌクレオチドは、糖としてリボース残基を有し、塩基として、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、5-メチルシトシン(mC)及びウラシル(U)(チミン(T)に置き換えることもできる)を有し、デオキシリボヌクレオチド残基は、糖としてデオキシリボース残基を有し、塩基として、アデニン(dA)、グアニン(dG)、シトシン(dC)、5-メチルシトシン(dmC)及びチミン(dT)(ウラシル(dU)に置き換えることもできる)を有する。以下では、アデニン、グアニン、(5-メチル)シトシン、ウラシル、チミンを有するヌクレオチドをそれぞれ、アデニンヌクレオチド、グアニンヌクレオチド、(5-メチル)シトシンヌクレオチド、ウラシルヌクレオチド、チミンヌクレオチドと称する場合がある。
【0018】
配列番号26に示される塩基配列から1~6個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加した塩基配列を有するアンチセンスオリゴマーの好ましい例は、配列番号26及び37~41のいずれかに示される塩基配列を有するアンチセンスオリゴマー、配列番号26及び37~41のいずれかに示される塩基配列から1個又は2個の塩基が置換、欠失、挿入又は付加した塩基配列を有するアンチセンスオリゴマーである。これらの中でより好ましいものは、配列番号26に示される塩基配列を有するアンチセンスオリゴマーである。
配列番号26:agaatactgtccct
配列番号37:tgagaatactgtccct
配列番号38:gagaatactgtccct
配列番号39:agaatactgtccctt
配列番号40:tgagaatactgtccctt
配列番号41:actgagaatactgtcccttt
【0019】
本発明のアンチセンス核酸の好ましい例は、ヒトアポリポ蛋白C3(APOC3)遺伝子と相補的であり、APOC3遺伝子の発現を阻害する活性を有し、オリゴヌクレオチドである、アンチセンスオリゴマー、その薬学的に許容可能な塩又はその薬学的に許容可能な水和物である。このアンチセンス核酸は、APOC3遺伝子と結合しうる。好ましくは、このアンチセンス核酸は、APOC3遺伝子と2本鎖の核酸を形成しうる。そして、このアンチセンス核酸は、APOC3遺伝子と結合し、APOC3のmRNAを分解するか、APOC3タンパク質の生合成を阻害する活性を有する。これらは、例えば以下の実施例に示されるように、CEM法を用いて、その活性を評価できる。
【0020】
ヒトAPOC3遺伝子は、配列番号33で示される塩基配列を有し、配列番号34で示されるアミノ酸配列をコードする。ヒトAPOC3遺伝子は、配列番号33で示される塩基配列を有するもののみならず、ヒトの生体内で生じうる変異体も含み、配列番号33で示される塩基配列からなる遺伝子において1又は数(2,3,4,5又は6)個の塩基が、置換、欠失、挿入又は付加した塩基配列を有するものも含む。本発明のアンチセンス核酸のヒトAPOC3遺伝子との結合部位は、公知の方法を用いて確認できる。
【0021】
本発明のアンチセンス核酸の好ましい例は、オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1つのヌクレオチドの糖部分及びリン酸結合部分のいずれか又は両方が修飾されている修飾部位を有する。
【0022】
本発明のアンチセンス核酸の好ましい例は、
5’末端から2以上7塩基までの領域に、オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1つのヌクレオチドの糖部分が修飾されている第1の修飾部位を有し、
3’末端から2以上4塩基までの領域に、オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1つのヌクレオチドの糖部分が修飾されている第2の修飾部位を有する。
このような修飾を有するので、ヌクレアーゼにより分解されにくくなり、投与後に長時間生体内に存在できる。
【0023】
公知の修飾を適宜採用できる。修飾の例は、4’位と2’位との間の架橋構造である。架橋構造の例は、α-L-メチレンオキシ、ベータ-D-メチレンオキシ、エチレンオキシである。架橋構造の別の例は、オキシアミノ(4’-CH2-NH-O-2’)、及びN-メチルオキシアミノ(4’-CH2-NCH3-O-2’)、無置換アミド(4’-CO-NH-2’)、N-メチルアミド(4’-CO-NCH3-2’)、アセトアミド(4’-CH2-CO-NH-2’)、N-メチルアセトアミド(4’-CH2-CO-NCH3-2’)、N-オキシアセトアミド(4’-CH2-CO-NH-O-2’)、N-メチル-N-オキシアセトアミド(4’-CH2-CO-NCH3-O-2’)である。これらは、WO2011/052436号公報又はWO2012/029870号公報に記載の方法により合成できる。
【0024】
架橋構造の別の例は、アミノ(4’-CH2-NH-2’)、N-メチルアミノ(4’-CH-NCH3-2’)である。これらは、例えば、Kumar R.et al., Bioorg. & Med. Chem. Lett., 1998, 8, 2219-2222; Singh S. K. et al., J. Org .Chem. , 1998, 63, 10035-39に記載の方法により合成できる。
【0025】
これらの架橋構造は、オリゴヌクレオチドを構成するヌクレオシドに導入されて架橋型人工ヌクレオシドを形成する。オリゴヌクレオチドにおける架橋型人工ヌクレオシドが複数存在する場合、架橋構造が全て同じであっても、それぞれ異なるものであってもよく特に限定されない。オリゴヌクレオチド中の架橋型人工ヌクレオシドの含有割合は,特に限定はない。下限の例は、5個数%、7個数%、10個数%、15個数%、20個数%、又は25個数%であり、上限の例は100個数%、90個数%、80個数%、70個数%、又は60個数%である。
【0026】
そして、第1の修飾部位及び第2の修飾部位における少なくとも1つのヌクレオチドは、2’-修飾を含む修飾糖を有するものが好ましい。2’-修飾は、公知のものを適宜採用すればよい。2’-修飾は、4’位と2’位との間の架橋構造であってもよい。これらは、例えば、国際公開2011/052436号パンフレットに記載の方法に従って合成できる。
2’-修飾を含む修飾糖における2’-修飾の例は、
2’-OMe、又は2’-OCH2CH2OMe(式中、Meはメチル基を示す)であるか、
2’-修飾を含む修飾糖は、ロックド核酸糖(LNA)(糖部分のC2とC4の間にある-O-CH2-で示される基で修飾された糖)である。
あるいは、2’-修飾を含む修飾糖における2’-修飾の例は、2’-F(フルオロ)である。
あるいは、2’-修飾を含む修飾糖は、AmNA(糖部分のC2とC4の間にある-N(CH3)-CO-で示される基で修飾された糖)である。
また、第1の修飾部位及び第2の修飾部位における少なくとも1つのヌクレオチドは、非修飾ヌクレオチド(RNA又はDNA)であり得る。
【0027】
糖リン酸骨格において、例えば、リン酸基を修飾できる。前記糖リン酸骨格において、糖残基に最も隣接するリン酸基は、αリン酸基と呼ばれる。前記αリン酸基は、負に荷電し、その電荷は、糖残基に非結合の2つの酸素原子にわたって、均一に分布している。前記αリン酸基における4つの酸素原子のうち、ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合において、糖残基と非結合である2つの酸素原子は、以下、「非結合(non-linking)酸素」ともいう。他方、前記ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合において、糖残基と結合している2つの酸素原子は、以下、「結合(linking)酸素」という。前記αリン酸基は、例えば、非荷電となる修飾、又は、前記非結合酸素における電荷分布が非対称型となる修飾を行うことが好ましい。
【0028】
前記リン酸基は、例えば、前記非結合酸素を置換してもよい。前記酸素は、例えば、S(硫黄)、Se(セレン)、B(ホウ素)、C(炭素)、H(水素)、N(窒素)及びOR(Rは、アルキル基又はアリール基)のいずれかの原子で置換でき、好ましくは、Sで置換される。前記非結合酸素は、いずれか一方又は両方が置換されていてもよく、好ましくは、いずれか一方又は両方がSで置換される。より具体的には、前記修飾リン酸基として、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、ボラノホスフェート、ボラノホスフェートエステル、ホスホネート水素、ホスホロアミデート、アルキル又はアリールホスホネート、及びホスホトリエステル等が挙げられる。
本発明のアンチセンス核酸のうち、リン酸結合部分に修飾があるものは、例えば、
少なくとも1つのヌクレオチドのリン酸結合部分が、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、アルキルホスホネート結合、ホスホロアミデート結合、及びボラノフォスフェート結合からなる群より選択されるいずれか1つのものである。これらのリン酸結合部分における修飾の中では、ホスホロチオエート結合が好ましい。
【0029】
また、前記リン酸基はリン非含有のリンカーに置換してもよい。当該リンカーとしては、例えば、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチル、カルバメート、アミド、チオエーテル、エチレンオキサイドリンカー、スルホネート、スルホンアミド、チオホルムアセタール、ホルムアセタール、オキシム、メチレンイミノ、メチレンメチルイミノ、メチレンヒドラゾ、メチレンジメチルヒドラゾ、及びメチレンオキシメチルイミノなどが挙げられ、好ましくは、メチレンカルボニルアミノ基及びメチレンメチルイミノ基が挙げられる。あるいは、前記リン酸基は他のリン酸非含有のリンカーに置換してもよい。このようなリンカーとしては、例えば、“Med. Chem. Commun., 2014, 5, 1454-1471”に記載されたもの等が挙げられる。
【0030】
好ましい実施態様において、リン酸基の1/2以上、より好ましくは2/3以上が、上記のうちの1以上のリン酸基修飾を受けており、さらに好ましくは、すべてのリン酸基が修飾を受けている。例えば、15merのアンチセンス核酸であれば、8個以上、好ましくは10個以上、より好ましくはすべてのリン酸基が、例えばホスホロチオエート化、ホスホロジチオエート化等されている。リン酸ジエステル結合部の非結合酸素の硫黄原子による置換は、ヌクレアーゼ耐性の向上やアンチセンス核酸の組織内分布において重要である。
【0031】
上記した配列番号26及び37~41のいずれかに示される塩基配列を有するアンチセンスオリゴマーのうち、好ましいものは、以下のNo.26-1(単に「No.26」という場合もある)~No.26-6であり、これらは前記したような置換、欠失、挿入又は付加や更なる修飾がなされてもよい。
No.26-1:AGAatactgtcCCt(配列番号26)
No.26-2:TgAgAatactgtcCCt(配列番号37)
No.26-3:GAgAatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-4:AGAatactgtccCTt(配列番号39)
No.26-5:TgAgAatactgtccCTt(配列番号40)
No.26-6:AcTgagAatactgtcccTtT(配列番号41)
また、配列番号38に示される塩基配列を有する、別の好ましいアンチセンスオリゴマーは以下のNo.26-7~No.26-13であり、これらも前記したような置換、欠失、挿入又は付加や更なる修飾がなされてもよい。
No.26-7:GAGR
AatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-8:GAGF
AatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-9:GAGAatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-10:GAGFARatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-11:GARGAatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-12:GAFGAatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-13:GAGAatactgtcCCt(配列番号38)
大文字は、LNA(Locked Nucleic Acid)を示し(Cは5-methylcytosine LNAを示す)、
小文字は、DNAを示し、
大文字+下線は、2’-O-Me修飾を示し、
NRは、RNA(2’-OH)を示し(「N」は任意の塩基を示す。以下同じ)、
NFは、2’-Fluoro修飾を示し、
各ヌクレオシド間結合はホスホロチオエート結合を示す。
【0032】
別の好ましい実施態様において、本発明は、
APOC3遺伝子の発現を阻害する一本鎖オリゴヌクレオチドであって、
配列番号33で表されるヌクレオチド配列からなる、APOC3をコードする核酸における438~526番目、361~381番目、及び333~351番目のヌクレオチド配列からなる群より選択されるいずれかのヌクレオチド配列からなる標的領域中の、連続する10個以上のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を含み、
前記一本鎖オリゴヌクレオチドの長さは、10~25ヌクレオチドであり、
前記一本鎖オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも一つのヌクレオシドの糖部が、糖の2’位と4’位との間の架橋により修飾されている、
一本鎖オリゴヌクレオチド
を提供する。
ここで、「一本鎖オリゴヌクレオチド」には、フリー体だけでなく、その薬学的に許容可能な塩又はその薬学的に許容可能な水和物も包含される。薬学的に許容可能な「塩」、「水和物」は前記と同義である。
【0033】
本明細書において「アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)」とは、標的となる核酸中の連続する10個以上のヌクレオチドからなる配列と特異的にハイブリダイズする一本鎖オリゴヌクレオチドを意味する。また、「APOC3遺伝子の発現を阻害する」とは、結果として、ASOと細胞とを接触させた場合に、接触させない場合と比較して、APOC3タンパク質の発現量を低減させ、APOC3の活性を低下させる任意の態様を包含する意味で用いられ、例えば、RNase Hによる標的RNAの分解(例えば、ギャップマーによる)や、標的RNAとの特異的かつ安定したハイブリッド形成によるタンパク質合成阻害を含む。発現の阻害の程度は、統計学的に有意であれば特に制限されないが、例えば、細胞とASOとを接触させない場合と比較して、20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは75%以上、APOC3 mRNA又はタンパク質の発現量を低下させた場合に、当該ASOはAPOC3遺伝子の発現阻害活性を有するとみなすことができる。
【0034】
具体的には、本発明のASOは、配列番号33で表されるヌクレオチド配列からなるAPOC3 mRNA(但し、該ヌクレオチド配列中「t」は「u」と読み替える。)における438~526番目、361~381番目、及び333~351番目のヌクレオチド配列からなる群より選択されるいずれかのヌクレオチド配列からなる領域を標的とし、該領域中の連続する10個以上のヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を含む。ここで「相補的」とは、標的配列に対して完全相補的な(即ち、ミスマッチなくハイブリダイズする)配列だけでなく、ヒト細胞の生理的条件下でAPOC3 mRNAとハブリダイズし得る限り、1ないし数(例、1、2、3、4、5)ヌクレオチド、好ましくは、1又は2ヌクレオチドのミスマッチを含む配列であってもよい。例えば、APOC3 mRNA中の標的ヌクレオチド配列の相補鎖配列に対して、90%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、最も好ましくは100%の同一性を有する配列が挙げられる。本発明における「ヌクレオチド配列の同一性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。また、個々の塩基における相補性は、対象となる塩基とワトソン・クリック型塩基対を形成することに限定されるものではなく、フーグスティーン型塩基対やゆらぎ塩基対(Wobble base pair)を形成することも含む。
【0035】
あるいは、「相補的なヌクレオチド配列」とは、標的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列である。ここで「ストリンジェントな条件」とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50~65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
【0036】
好ましい実施態様において、本発明のASOが標的とするAPOC3 mRNA中の領域は、配列番号33で表されるヌクレオチド配列における438~451番目、448~461番目、498~511番目、513~526番目、368~381番目、及び333~346番目のヌクレオチド配列からなる群より選択されるいずれかのヌクレオチド配列と、その近傍のヌクレオチド配列とからなる領域である。ここで「その近傍のヌクレオチド配列」とは、ヌクレオチド番号で規定された前記各領域の5’-及び3’-末端に隣接する10ヌクレオチド以下、好ましくは5ヌクレオチド以下のヌクレオチド配列を意味する。以下も同様である。
【0037】
より好ましい実施態様において、本発明のASOが標的とするAPOC3 mRNA中の領域は、配列番号33で表されるヌクレオチド配列における438~451番目のヌクレオチド配列と、その近傍のヌクレオチド配列とからなる領域である。当該領域を標的配列とする本発明のASOの好ましい一実施態様として、上述の配列番号26及び37~41のいずれかに示される塩基配列を有するアンチセンスオリゴマー、より具体的には、上記のアンチセンス核酸No.26-1~No.26-13が挙げられる。
【0038】
本発明のASOは、上記したいずれかの標的領域中の連続する10個以上(例、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個)、好ましくは14個以上(例、14、15、16、17、18、19、20個)のヌクレオチドからなる配列を標的配列とし、それと相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0039】
本発明のASOの構成単位は、上述のとおり、修飾されていても、非修飾であってもよいRNA及びDNAが挙げられる。RNA及びDNA残基の例、修飾ヌクレオチド残基の例は、上記と同様である。
【0040】
本発明のASOは、少なくとも一つのヌクレオシドの糖部が、糖の2’位と4’位との間の架橋により修飾されていることを特徴とする。2’,4’-架橋修飾は、その架橋構造により標的RNAへの結合力と生体内での代謝安定性(ヌクレアーゼ耐性)を増すことができる。上記の架橋型人工核酸のうち、LNA、AmNA、GuNA、scpBNAがより好ましい。好ましくは、本発明のASOは、架橋型人工核酸残基を2個以上(例:2、3、4又は5個以上)含む。架橋型人工核酸残基の位置は、APOC3発現阻害活性に悪影響を及ぼさない限り特に制限はないが、例えば、本発明のASOが後述のギャップマー型の場合、好ましい一実施態様においては、ウイング領域のヌクレオチド残基の全部または一部が架橋型人工核酸で修飾される。
【0041】
本発明のASOは、上記の糖部架橋修飾に加えて、別の糖部修飾や、リン酸結合部分の修飾、塩基部分の修飾を含むことができる。そのような修飾の例としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0042】
本発明のASOのうち、配列番号33で表されるヌクレオチド配列における448~461番目、498~511番目、513~526番目、368~381番目、及び333~346番目のヌクレオチド配列からなる群より選択されるいずれかのヌクレオチド配列と、その近傍のヌクレオチド配列とからなる領域を標的とするASOの好ましい例としては、それぞれ以下のヌクレオチド配列を有するものが挙げられる。
配列番号28:gagagcactgagaa(標的配列:438-451)
配列番号30:tattgggaggccag(標的配列:498-511)
配列番号32:cttcttgtccagct(標的配列:513-526)
配列番号23:atggataggcaggt(標的配列:368-381)
配列番号18:caggcagccacggc(標的配列:333-346)
【0043】
好ましい実施態様において、配列番号28、30、32及び23で表されるヌクレオチド配列を有するASOとして、以下のものが挙げられる。
配列番号28:GAGagcactgaGAa
配列番号30:TATtgggaggcCAg
配列番号32:CTTcttgtccaGCt
配列番号23:ATGgataggcaGGt
配列番号18:CAGgcagccacGGc
大文字は、LNA(Locked Nucleic Acid)を示し(Cは5-methylcytosine LNAを示す)、
小文字は、DNAを示し、
各ヌクレオシド間結合はホスホロチオエート結合を示す。
【0044】
好ましい実施態様において、本発明のASOは、
(1)5’末端に位置する5’ウイング領域;
(2)3’末端に位置する3’ウイング領域;及び
(3)領域(1)および領域(2)の間に位置するデオキシギャップ領域
を含む、ギャップマー型の核酸である。ギャップマー型のASOとは、DNA(デオキシギャップ領域)と、その両側に、修飾や架橋が導入された核酸とを有する核酸(ウイング領域)であり、該DNA鎖を主鎖として、主鎖に相補的な標的RNAとヘテロ2本鎖核酸を形成し、標的RNAは、細胞に内在するRNase Hにより分解される。ウイング領域の構成ヌクレオチドはRNAであってもDNAであってもよい。
【0045】
本発明のギャップマー型ASOの5’及び3’ウイング領域は、それぞれ独立して2~7ヌクレオチド長であり、好ましくは3~5ヌクレオチド長であり、より好ましくは3ヌクレオチド長である。また、本発明のギャップマー型ASOのデオキシギャップ領域の長さは、7~10ヌクレオチドであり、好ましくは8~10ヌクレオチドであり、より好ましくは8ヌクレオチドである。また本発明のギャップマー型ASOの全長は、例えば12~25ヌクレオチド長であり、好ましくは14~20ヌクレオチド長である。したがって、本発明のギャップマー型ASOは、上記ウイング領域長、デオキシギャップ領域長、全長の規定範囲を全て満足する条件において、当業者が適宜調整することができる。
【0046】
より具体的には、本発明のギャップマー型ASOは、例えば14ヌクレオチド長の「3-8-3」型ギャップマー、「3-9-2」型ギャップマー、「2-9-3」型ギャップマー、「4-8-2」型ギャップマー;15ヌクレオチド長の「3-9-3」型ギャップマー、「4-8-3」型ギャップマー;16ヌクレオチド長の「5-8-3」型ギャップマー、「4-9-3」型ギャップマー;17ヌクレオチド長の「5-8-4」型ギャップマー、「6-8-3」型ギャップマー;18ヌクレオチド長の「6-8-4」型ギャップマー、「6-9-3」型ギャップマー;又は20ヌクレオチド長の「7-10-3」型ギャップマーであることが好ましい。
【0047】
本発明のギャップマー型ASOは、5’及び3’ウイング領域を構成する少なくとも一つのヌクレオシドの糖部が、糖の4’位と2’位との間の架橋により修飾されていることが好ましい。当該架橋修飾としては、前記した架橋型人工核酸による修飾が挙げられる。好ましくは、LNA、AmNA、GuNA、scpBNAである。好ましい実施態様において、本発明のギャップマー型ASOは、5’及び3’の各ウイング領域を構成する2以上(例、2、3、4、5個)のヌクレオチド残基が架橋型人工核酸で置換されている。
【0048】
好ましい実施態様において、本発明のギャップマー型ASOのデオキシギャップ領域を構成するDNA残基は、糖修飾されていない。
【0049】
また、本発明のギャップマー型ASOは、毒性を低減するために、デオキシギャップ領域の塩基修飾やウイング領域のデュアル修飾を施すことができる。そのような修飾は、例えば、国際公開第2018/155450号公報に記載されている。
【0050】
オリゴヌクレオチドコンジュゲート体
この明細書に記載される第2の発明は、本発明のアンチセンス核酸を有するオリゴヌクレオチドコンジュゲート体に関する。
このコンジュゲート体は、本発明のアンチセンス核酸と、アシアロ糖タンパク質(ASGP)受容体に結合しうる分子が結合した構造を有する。コンジュゲート体については、例えば、作成方法を含め、国際公開第2018-216785号パンフレットに記載されている。
【0051】
オリゴヌクレオチドコンジュゲート体は、上記したいずれかのアンチセンス核酸の5’-末端、3’-末端、又は両末端にASGP受容体に結合し得る分子(ASGP受容体結合分子)を含む分子が1個又は直鎖状に2個以上連結して結合する。ASGP受容体は末端にガラクトースもしくはその類縁体が露出した糖鎖を含む糖タンパク質を肝臓に取り込み、処理する機能を有するので、ASGP受容体結合分子を含む分子が2個以上連結する場合、各ASGP受容体結合分子を含む分子は、ASGP受容体結合分子部分を末端に露出し得る様式(例えば、主鎖と側鎖とを有するリンカーの側鎖にASGP受容体結合分子が結合し、リンカーの主鎖が直鎖状に連結してアンチセンス核酸の末端に結合する等)で連結されることが望ましい。従って、以下、「アンチセンス核酸の末端にASGP受容体結合分子が結合している」という場合、ASGP受容体結合分子を含む分子が、ASGP受容体結合分子以外の部分を介して結合する態様を包含する意味で用いられる。
ASGP受容体結合分子の数は、2個以上、又は3個以上でもよく、10個以下、7個以下、又は5個以下でもよい。アンチセンス核酸の両末端にASGP受容体結合分子が結合している場合、ASGP受容体結合分子の数の例は4個以上20個以下である。
【0052】
ASGP受容体結合分子の例は、アシアロ糖蛋白質であり、より具体的な例は、ラクトース、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、ガラクトサミン、N-ホルミルガラクトサミン、N-プロピオニルガラクトサミン、N-n-ブタノイルガラクトサミン、N-イソ-ブタノイルガラクトサミン及びそれらの誘導体である。
ASGP受容体結合分子の好ましい例は、GalNAcである。APOC3タンパク質は、主に肝細胞で発現するタンパク質であり、肝臓への効率的なアンチセンスの送達が、さらなる低用量化を可能にする。実施例において示される通り、肝細胞に特異的に発現する受容体であるASGP受容体に対するリガンドとしてGalNAcをアンチセンス核酸へコンジュゲートすることで、アンチセンス核酸の肝臓における活性を10倍以上高めることができる。
【0053】
ASGP受容体結合分子は、公知のリンカーを介してアンチセンス核酸と結合してもよい。
【0054】
上記リンカーは、例えば、2個以上のASGP受容体に結合し得る分子がオリゴヌクレオチドに結合する場合、オリゴヌクレオチドに主鎖リンカーが2個以上連結して結合し、かつ、各主鎖リンカーにASGP受容体に結合し得る分子が該主鎖より分岐した側鎖リンカーを介して結合している態様が挙げられる。主鎖リンカーは特に限定されず、直鎖あるいは分岐鎖の、飽和あるいは不飽和の炭素鎖スペーサーを例示することができる。ここで、炭素鎖は側鎖リンカーが後述するようにヘテロ原子を含む場合、主鎖の炭素原子と共にヘテロ環を形成してもよい。炭素鎖の長さは特に限定されないが、ASGP受容体に結合し得る分子のASGP受容体への結合自由度の観点から、炭素数の下限は2以上が好ましく、上限は例えば、18以下、16以下、12以下、10以下、8以下、6以下、5以下、4以下が挙げられる。具体的には、例えば、エチレン鎖、プロピレン鎖、ブチレン鎖、イソプロピレン鎖、ペンチレン鎖、ヘキシレン鎖、ヘプチレン鎖、オクチレン鎖、ノニレン鎖、デシレン鎖、ドデシレン鎖、テトラデシレン鎖、ヘキサデシレン鎖、オクタデシレン鎖等が挙げられる。コンジュゲート体における2個以上の主鎖リンカーは、同一のものであっても異なるものであってもよい。側鎖リンカーについても特に限定されず、直鎖あるいは分岐鎖の、飽和あるいは不飽和(へテロ原子、ヘテロ環を含んでもよい)の炭素鎖スペーサーを例示することができる。炭素鎖の長さは特に限定されず、炭素数5~50程度が例示される。これらの主鎖リンカーと側鎖リンカーを含めたものを、単に、リンカーと記載することもある。本発明におけるリンカーは、細胞内で適切な代謝を促す観点から、自由度が高い構造が好ましく、連結したASGP受容体に結合し得る分子がASGP受容体の空間的に有利な配置に柔軟に収まることができる構造を有することが好ましく、かかるリンカー構造を有することにより、ASGP受容体に結合し得る分子が個々に自由度を持って連結することが可能になる。例えば、主鎖リンカーが、直鎖の飽和炭素鎖である場合、環状構造を有する場合に比べて自由度が高くなる。また、ASGP受容体に結合し得る分子とオリゴヌクレオチドの結合、即ち、リンカーとオリゴヌクレオチドの結合は、ホスホジエステル結合又はホスホロチオエート結合が例示されるが、細胞内で適切に代謝されてオリゴヌクレオチドが標的mRNAに効率的に作用する観点から、ホスホジエステル結合が好ましい。以下に、好適なリンカーを介してASGP受容体に結合し得る分子が連結した一例を挙げる。
【0055】
具体的なコンジュゲートの例は、以下の化合物A1及び化合物B1である。これらは、ASGP受容体結合分子が3つアンチセンス核酸と結合している。化合物A1及び化合物B1において、立体的な波線部分がアンチセンス核酸を示す。
【0056】
【0057】
【0058】
上記において説明した通り、ASGP受容体結合分子の数は3つに限られず、例えば1個又は2個以上10個以下であり得る。化合物A1及び化合物B1をそれぞれ代表化合物とするコンジュゲートの一般式(A)及び(B)を以下に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
例えば、式(B)において、ASGP受容体結合分子の数が4つ(n=4)である化合物(実施例9及び10で使用した化合物B2に相当する)も、好ましいコンジュゲートの一例である。式(A)及び式(B)の構造を有するASGP受容体結合分子は、適宜置換基が導入されてもよい。また、リンカー部分のアルキレン部分の長さが適宜変化してもよい。
【0062】
医薬組成物及び医薬
この明細書に記載される第3の発明は、本発明のアンチセンス核酸を有効成分として有効量含む、APOC3タンパク質の発現を阻害するための医薬組成物や、医薬に関する。
医薬の例は、高トリグリセリド血症の治療剤、原発性高カイロミクロン血症の治療剤である。この明細書に記載される第4の発明は、上記したオリゴヌクレオチドコンジュゲート体を有効成分として有効量含む、APOC3タンパク質の発現を阻害するための医薬組成物や、医薬に関する。医薬の例は、高トリグリセリド血症の治療剤、原発性高カイロミクロン血症の治療剤である。
【0063】
高トリグリセリド(TG)血症は血中TGの値が150 mg/dL以上を示す脂質異常症の一つで、冠動脈疾患のリスク因子として認知されている。アポリポタンパクは、リポタンパク質の肝臓への取り込みを阻害したり、酵素リポ蛋白リパーゼ(LPL)を阻害したり、リポタンパク質のクリアランスに多面的な役割で関与している。APOC3の機能低下または喪失型変異を有する人は、血中TGの値が44%、冠動脈疾患のリスクが41%低いことが疫学的に示されており(Jorgensen, A.B., Frikke-Schmidt, R., Nordestgaard, B.G., and Tybjaerg-Hansen, A. (2014). Loss-of-function mutations in APOC3 and risk of ischemic vascular disease. N Engl J Med 371, 32-41.)、APOC3は高TG血症の良い薬剤標的と考えられている。本発明のアンチセンス核酸やコンジュゲート体は、APOC3タンパク質の発現を阻害するので、APOC3タンパク質の発現を阻害するための医薬組成物や、高トリグリセリド(TG)血症の治療剤として有効である。
【0064】
高カイロミクロン血症は、血中にカイロミクロンが蓄積する病気である。カイロミクロンは小腸で作られ、全身の組織に小腸から吸収された食事由来の栄養素(主として「トリグリセリド」やある種のビタミン)を運ぶ働きをする。カイロミクロンの中に入っているトリグリセリドは血中で分解され、分解産物である脂肪酸が、全身の組織に取り込まれる。このトリグリセリドの分解を行っているのがLPL酵素である。LPLの働きが妨げられると、カイロミクロンが蓄積し、高カイロミクロン血症となる。上記の通り、APOC3タンパク質は、LPL酵素の活性を阻害する。本発明のアンチセンス核酸やコンジュゲート体は、APOC3タンパク質の発現を阻害するので、高カイロミクロン血症の治療剤として有効である。
【0065】
医薬組成物や医薬は、有効成分である本発明のアンチセンス核酸やオリゴヌクレオチドコンジュゲート体を有効成分として有効量含む。これらはアンチセンス核酸やオリゴヌクレオチドコンジュゲート体を単独で有効成分として含んでもよいし、2種以上を有効成分として含んでもよい。医薬組成物や医薬は、上記の有効成分の他、公知の医薬上許容される担体を含んでもよい。医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。医薬組成物や医薬の剤型は、経口投与製剤であっても、非経口投与製剤(例えば注射剤)であってもよい。また、公知の方法に従って、医薬組成物や医薬を製造すればよい。
【0066】
本発明の医薬組成物や医薬は、経口的に又は非経口的に投与することが可能であるが、非経口的に投与するのが望ましい。非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入(例:脳室内投与)、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性及び非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性及び非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分及び医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0067】
医薬組成物中の本発明のアンチセンス核酸やオリゴヌクレオチドコンジュゲート体の含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.1ないし100重量%である。
【0068】
医薬組成物や医薬の投与量は、例えば、投与する対象の年齢、性別、体重、剤型、及び投与回数を考慮して適宜調整すればよい。有効量の例は、1回投与、体重50kg当たり、本発明のアンチセンス核酸、又はオリゴヌクレオチドコンジュゲート体が0.01μg~1gでもよいし、0.1μg~0.1gでもよい。
【0069】
この明細書は、本発明のアンチセンス核酸やオリゴヌクレオチドコンジュゲート体のAPOC3タンパク質の発現を阻害するための医薬組成物、高トリグリセリド血症の治療剤、又は原発性高カイロミクロン血症の治療剤の製造における使用をも提供する。
【0070】
この明細書は、対象(ヒト)に、本発明のアンチセンス核酸やオリゴヌクレオチドコンジュゲート体を投与する工程を含む、対象におけるAPOC3タンパク質の発現を阻害する方法や、高トリグリセリド血症の治療方法、及び原発性高カイロミクロン血症の治療方法をも提供する。
【実施例1】
【0071】
アンチセンス核酸の合成
アンチセンスオリゴヌクレオチド(またはその修飾体)を常法に従って合成した。
アンチセンス核酸を合成するためには、公知の核酸自動合成装置(例えば、Applied Biosystems社製、(株)大日本精機製等)を用いればよい。またアンチセンス核酸を合成する方法の例は、ホスホロアミダイトを用いた固相合成法、ハイドロジェンホスホネートを用いた固相合成法であり、例えば、Tetrahedron Letters 22, 1859-1862 (1981)及び国際公開第2011/052436号パンフレットに開示されている。Yamamoto, T., Sawamura, M., Wada, F., Harada-Shiba, M., and Obika, S. (2016). Serial incorporation of a monovalent GalNAc phosphoramidite unit into hepatocyte-targeting antisense oligonucleotides. Bioorg Med Chem 24, 26-32に記載の方法を参考にしてNo.1~No.32までの修飾核酸(表1)を合成した。
【0072】
【実施例2】
【0073】
アンチセンス核酸のスクリーニング
ヒト肝ガン由来細胞株であるHuh-7を5000 cells/wellとなるように、96 wellプレートに播種し、DMEM(10%FBS, 1%penicillin, 1%streptomycin添加)中で24時間培養した。その後、培養液を、最終濃度が200 nMとなるように糖部2’,4’架橋(LNA)修飾をもつ各アンチセンスを添加したCa
2+ enrichment medium(CEM: DMEM with 10%FBS, 9 mM CaCl
2)に置換し、さらに24時間培養した。その後、SuperPrep(登録商標) II Cell Lysis & RT Kit for qPCR(TOYOBO社)を用いて、細胞溶解液からcDNAを作成し、StepOnePlus
TMリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)にて以下のプローブを用いて、GAPDH mRNAおよびAPOC3 mRNAの定量を行った。GAPDHで補正したAPOC3の発現量を、アンチセンス非処理(NT:non-treat)を1とした相対値として算出した。その結果を
図1に示す。
Human GAPDH mRNA: hs02786624_g1
Human APOC3 mRNA: hs00906501_g1
【実施例3】
【0074】
アンチセンス核酸のスクリーニング
実施例2において、高いAPOC3発現阻害活性を示した3’UTRを標的とする5種のアンチセンス核酸(No.23,No.26,No.28,No.30,No.32)について、糖部2’,4’架橋核酸をAmNAに代えて、APOC3遺伝子発現阻害の濃度依存性を調べた。ヒト肝ガン由来細胞株であるHuh-7を5000 cells/wellとなるように、96 wellプレートに播種し、DMEM(10%FBS, 1%penicillin, 1%streptomycin添加)中で24時間培養した。その後、培養液を、最終濃度が8, 40, 及び200 nMとなるようにAmNA修飾をもつ各アンチセンスを添加したCa
2+ enrichment medium(CEM: DMEM with 10%FBS, 9 mM CaCl
2)に置換し、さらに24時間培養した。その後、SuperPrep(登録商標) II Cell Lysis & RT Kit for qPCR(TOYOBO社)を用いて、細胞溶解液からcDNAを作成し、StepOnePlus
TMリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)にて以下のプローブを用いて、GAPDH mRNAおよびAPOC3 mRNAの定量を行った。GAPDHで補正したAPOC3の発現量を、アンチセンス非処理(NT:non-treat)を1とした相対値として算出した。その結果を
図2に示す。いずれのアンチセンス核酸も濃度依存的にAPOC3の発現を阻害した。
Human GAPDH mRNA: hs02786624_g1
Human APOC3 mRNA: hs00906501_g1
【実施例4】
【0075】
既存薬との比較
ヒト肝ガン由来細胞株であるHuh-7を5000 cells/wellとなるように、96 wellプレートに播種し、DMEM(10%FBS, 1%penicillin, 1%streptomycin添加)中で24時間培養した。その後、培養液を、最終濃度100nMまたは200 nMとなるように配列番号26で示される塩基配列を有する修飾アンチセンス核酸(アンチセンス核酸No.26(LNA修飾))を添加したCa2+ enrichment medium(CEM: DMEM with 10%FBS, 9 mM CaCl2) に置換し、さらに24時間培養した。
SuperPrep(登録商標) II Cell Lysis & RT Kit for qPCR(TOYOBO社)を用いて、細胞溶解液からcDNAを作成し、StepOnePlusTMリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)にて以下のプローブを用いて、GAPDH mRNAおよびAPOC3 mRNAの定量を行い、GAPDHで補正したAPOC3の発現量を算出した。
Human GAPDH mRNA: hs02786624_g1 (applied biosystems社)
Human APOC3 mRNA: hs00906501_g1 (applied biosystems社)
【0076】
アンチセンス核酸No.26(LNA修飾)の塩基配列は、以下の通りであった。
AGAatactgtcCCt(配列番号26)
(大文字はLNAを、小文字はDNAをそれぞれ示す。)
【0077】
[比較例1]
アンチセンス核酸No.26(LNA修飾)の代わりに、volanesorsen(特許文献2の配列番号4(APOC3の初期転写産物の塩基配列)の3533-3552位に示される塩基配列と相補的なアンチセンス核酸)と同配列、及び同修飾(中央の10ヌクレオチドがDNA、両端の各5ヌクレオチドが2’MOE修飾、すべてのヌクレオチド間結合はホスホロチオエート結合)のオリゴヌクレオチド(株式会社遺伝子株式会社)を用いた以外は、実施例4と同様にして、GAPDH mRNAおよびAPOC3 mRNAの定量を行い、GAPDHで補正したAPOC3の発現量を算出した。
【0078】
実施例4および比較例1の測定結果を、アンチセンス非処理を1とした相対値として表し、比較した。P値はstudentのt検定により算出した。その結果を
図3に示す。
図3に示される通り、アンチセンス核酸No.26の方が、比較例1のアンチセンス核酸に比べ、有意に高い遺伝子発現抑制活性を示すことがわかった。つまり、配列番号1で示される塩基配列を有する糖部架橋修飾アンチセンス核酸は、従来の医薬に比べ活性が高いので、少ない用量で従来医薬より高い薬効を奏することが示された。
【実施例5】
【0079】
ヒトへの有効性を予測するために、肝細胞をヒト肝細胞へと置換したマウスであるヒト肝臓キメラマウス(株式会社フェニックスバイオ)に対して前記化合物A1の構造をもつGalNAcをコンジュゲートしたアンチセンス核酸No.26(LNA修飾)を1mg/kgの用量で単回、皮下投与を行った。投与から7日後に、採血および肝臓の剖検を行い、血清中ALT値および肝臓中ヒトAPOC3 mRNAおよびヒトGAPDH mRNAの定量を行った。なお、ヒトAPOC3 mRNAはStepOnePlus
TMリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)にて以下のTaqmanプローブを用いて、ヒトGAPDH mRNAは以下のプライマーを用いてSYBR Greenにて検出を行った。P値をstudentのt検定により算出した。その結果を
図4に示す。
【0080】
Human APOC3 mRNA: hs00906501_g1 (applied biosystems社)
Human GAPDH mRNA:
Fw 5’GCACCGTCAAGGCTGAGAAC3’ (配列番号35)
Rv 5’TGGTGAAGACGCCAGTGGA3’ (配列番号36)
XXXA^G^A^a^t^a^c^t^g^t^c^C^C^t(配列番号26)
Xは、化合物A1のN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)含有モノマー分子を示し、
大文字は、LNA(Locked Nucleic Acid)を示し(Cは5-methylcytosine LNAを示す)、
小文字は、DNAを示し、
ヌクレオシド間の結合^はホスホロチオエート結合を示す。
【0081】
図4aに示される通り、マウスに残存するマウスの肝臓中マウスapoc3 mRNAには効果を認めず、
図4bに示される通り、ヒト肝細胞中のヒトapoc3 mRNAに対して特異的に発現抑制効果を示した。
【実施例6】
【0082】
カニクイザルに対する有効性確認試験
ヒトへの有効性を予測するために、apoC3の遺伝子相同性の比較的高い動物であるカニクイザル(4才,オス)2匹に対して、前記化合物A1の構造をもつGalNAcをコンジュゲートしたアンチセンス核酸No.26(LNA修飾)を3mg/kgの用量で単回の皮下投与を実施した。投与2日前、投与3日後、7日後に大腿静脈から採血を行い、1,700×g,10分間の遠心分離を行い、血清を得た。その血清を用いて血清中トリグリセリド濃度をJCA-BM6070(日本電子株式会社)にて測定した。
その結果、どちらのカニクイザルにおいても、血清中トリグリセド値の顕著な低下を認めた(
図5)。
【実施例7】
【0083】
アンチセンス核酸No.26に類似した14-20merアンチセンス核酸のインビトロ活性
実施例1と同様にして、アンチセンス核酸No.26に類似した14-20merアンチセンス核酸であるアンチセンス核酸No.26-2(配列番号37)~アンチセンス核酸No.26-6(配列番号41)を合成した。
No.26-2: TgAgAatactgtcCCt (配列番号37)
No.26-3: GAgAatactgtcCCt (配列番号38)
No.26 : AGAatactgtcCCt (配列番号26)
No.26-4: AGAatactgtccCTt (配列番号39)
No.26-5: TgAgAatactgtccCTt (配列番号40)
No.26-6:AcTgagAatactgtcccTtT(配列番号41)
大文字は、LNA(Locked Nucleic Acid)を示し(Cは5-methylcytosine LNAを示す)、
小文字は、DNAを示し、
大文字+下線は、2’-O-Me修飾を示し、
各ヌクレオシド間結合はホスホロチオエート結合を示す。
【0084】
実施例2と同様にして、アンチセンス核酸No.26およびNo.26-2~No.26-6のAPOC3発現阻害活性を測定した。その結果、いずれのアンチセンス核酸No.26誘導体(No.26-2~No.26-6)も、アンチセンス核酸No.26と同様の高いAPOC3発現阻害活性を示した(
図6)。
【実施例8】
【0085】
ヒトへの有効性を予測するために、apoC3の遺伝子相同性の比較的高い動物であるカニクイザル(2-5才,オス)2匹に対して、化合物B1の構造をもつGalNAcをコンジュゲートしたアンチセンス核酸No.26(LNA修飾)を1mg/kgの用量で単回の皮下投与を実施した。投与7日後に肝臓の剖検を行い、肝臓中APOC3 mRNAおよびGAPDH mRNAの定量を行った。なお、APOC3 mRNAおよびGAPDH mRNAはStepOnePlusTMリアルタイムPCRシステム(applied biosystems社)にて以下のTaqmanプローブを用いて検出を行った。アンチセンス核酸No.26を投与していないカニクイザルにおける値を1とした時の相対値を算出した。
【0086】
カニクイザルGAPDH mRNA: Mf04392546_g1
カニクイザル APOC3 mRNA: Mf02794312_m1
その結果、を
図7に示す。
図7に示される通り、どちらのカニクイザルにおいても、85%以上のAPOC3 mRNAの減少が確認された。
【実施例9】
【0087】
化合物B2のように4分子のGalNAcをコンジュゲートしたNo.26(配列番号26)の有効性を確認するために,カニクイザル(3-5歳,オス)12匹に対して3mg/kgの用量で単回皮下投与を行った。
【0088】
【0089】
投与から3(Group 1),28(Group 2),56(Group 3),91日後(Group 4)にそれぞれ3匹ずつ採血及び肝臓の剖検を行った。採取した血液は,遠心分離(室温,1700×g,10分間)し血清とし,ALT及びクレアチニンの濃度を自動分析装置(JCA-BM6070,日本電子株式会社)にて測定した。また,剖検した肝臓は,RNAlater(Thermo Fisher Scientific社)浸漬し,冷蔵で一晩保管した後,超低温フリーザー(-70℃)に移し保管した。肝臓から抽出したtotal RNAからcDNAを作成した後,肝臓中APOC3 mRNAおよびGAPDH mRNAの定量を行った。なお,APOC3 mRNAおよびGAPDH mRNAはStepOnePlusTMリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)にて以下のTaqmanプローブを用いて検出を行った。アンチセンスを投与していないカニクイザルにおける値を1とした時の相対値を算出した。
カニクイザル GAPDH mRNA: Mf04392546_g1
カニクイザル APOC3 mRNA: Mf02794312_m1
その結果,
図8に示される通り,投与後56日以上に渡り,肝臓中APOC3 mRNAは顕著に減少していた。また、
図9,10に示されるように,血清ALT値に一時的な上昇は認められものの,投与後91日以上に渡り,血清ALT値及びクレアチニン値はほぼ正常に推移した。
【実施例10】
【0090】
化合物B2のように4分子のGalNAcをコンジュゲートしたNo.26(配列番号26)の安全性を確認するために,カニクイザル(2-4歳,オス)に対して0.5,1,3,20mg/kgで各用量3匹ずつ単回皮下投与を行った。また,比較対象として,生理食塩水(Saline)を3匹に投与した。投与後4,7,14,21,28,35,42,49,56,63,70,77,84及び90日目に1回採血を行った。採取した血液は,遠心分離(室温,1700×g,10分間)し血清とし,ALT及びクレアチニンの濃度を自動分析装置(JCA-BM6070,日本電子株式会社)にて測定した。
その結果,ALT値に一時的な上昇が確認されたものの用量依存性は確認されず(
図11),さらにSaline投与群にも同様の変化が認められたため,被験物質由来の変化ではないと考えられる。また,クレアチニンの値にも変化はなかった(
図12)。
【実施例11】
【0091】
アンチセンス核酸No.26-3(配列番号38)類縁体のインビトロ活性
アンチセンス核酸No.26-3(配列番号38)の類縁体であるNo.26-7~No.26-13を合成し,実施例1と同様にして,50nMの濃度にてインビトロ活性を測定し,アンチセンス核酸No.26(配列番号26)と比較し,評価した。
No.26-3:GAg
AatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-7:GAG
R
AatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-8:GAG
F
AatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-9:GA
GAatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-10:GAG
FA
RatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-11:GA
RG
AatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-12:GA
FG
AatactgtcCCt(配列番号38)
No.26-13:G
AG
AatactgtcCCt(配列番号38)
大文字は,LNA(Locked Nucleic Acid)を示し(Cは5-methylcytosine LNAを示す),
小文字は,DNAを示し,
大文字+下線は,2’-O-Me修飾を示し,
N
Rは,RNA(2’-OH)を示し(「N」は任意の塩基を示す。以下同じ),
N
Fは,2’-Fluoro修飾を示し,
各ヌクレオシド間結合はホスホロチオエート結合を示す。
その結果,いずれのアンチセンス核酸No.26-3類縁体(No.26-7~No.26-13)も,アンチセンス核酸No.26と同様の高いAPOC3発現阻害活性を示した(
図13)。
【0092】
上記の実施例により、配列番号26に記載の糖部架橋修飾を有するアンチセンス核酸やその各種誘導体、及びコンジュゲート体が、従来の医薬に比べ顕著な効果を有して、APOC3タンパク質の発現を阻害したり、高トリグリセリド血症の治療剤、及び原発性高カイロミクロン血症の治療剤の有効成分として有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
この発明は医薬産業において利用されうる。
【0094】
本出願は、2020年3月26日付で日本国に出願された特願2020-55717を基礎としており、ここで言及することによってその内容はすべて本明細書に包含されるものである。
【配列表】