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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-20
(45)【発行日】2025-10-28
(54)【発明の名称】制動制御方法及び制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20251021BHJP
   B60W 30/095 20120101ALI20251021BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20251021BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W30/095
G08G1/16 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022006505
(22)【出願日】2022-01-19
(65)【公開番号】P2023105583
(43)【公開日】2023-07-31
【審査請求日】2024-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 明之
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 裕樹
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-002460(JP,A)
【文献】特開2017-174016(JP,A)
【文献】特開2015-081022(JP,A)
【文献】特開2015-170233(JP,A)
【文献】特開2021-041851(JP,A)
【文献】特開2018-016248(JP,A)
【文献】特開2022-057862(JP,A)
【文献】特開2017-001519(JP,A)
【文献】特開2021-117925(JP,A)
【文献】特開2022-085178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/09
B60W 30/095
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサを用いて、自車両が所定の自車両予測軌道に沿って走行した場合の前記自車両の車速、自車両位置及び、道路情報に基づいて前記自車両が歩道を横断する前に停止することが予定される停止予定位置に基づく車速プロファイルにより前記自車両の制動アクチュエータを制御する制動制御方法であって、
前記車速プロファイルは、前記自車両が前記停止予定位置の上流側の減速開始位置で減速を開始し、所定の区間を所定の基準減速度で走行した後、前記減速開始位置の下流側かつ前記停止予定位置の上流側の減速度緩和位置で前記自車両の減速度が前記基準減速度よりも低下するプロファイルであり、
前記プロセッサは、
前記自車両の検出装置が前記停止予定位置の下流側の所定領域において移動物を検出したか否かを判定し、
前記検出装置が前記移動物を検出したと判定した場合は、前記自車両が前記自車両予測軌道に沿って走行して前記停止予定位置で停止したときの前記自車両の正面方向と前記移動物の移動方向とがなす移動方向角度を算出し、
前記自車両が前記停止予定位置の上流側で減速するときに前記自車両の減速度を緩和する位置である減速度緩和位置を、前記移動方向角度が大きいほど上流側になるように、前記車速プロファイルを生成する、制動制御方法。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記検出装置が前記移動物を検出したと判定した場合は、
前記自車両の自車両予測軌道を取得し、
前記移動物の位置、移動方向及び移動速度を取得し、
前記移動物の前記位置、前記移動方向及び前記移動速度に基づいて、前記移動物の移動物予測軌道を算出し、
前記自車両予測軌道と前記移動物予測軌道とが交差するか否かを判定し、
前記自車両予測軌道と前記移動物予測軌道とが交差すると判定した場合は、前記自車両予測軌道と前記移動物予測軌道との交差位置を算出し、
前記車速プロファイルに基づいて、前記停止予定位置の上流側の1つ又は複数の仮想位置と前記交差位置との距離を、各々の前記仮想位置に対応する仮想車速で除算した仮想交差時間を算出し、
少なくとも1つの前記仮想交差時間が所定の閾値時間以下か否かを判定し、
少なくとも1つの前記仮想交差時間が所定の閾値時間以下であると判定した場合に、前記減速度緩和位置を上流側に変更するように前記車速プロファイルを修正する、請求項1に記載の制動制御方法。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記移動方向角度が大きいほど、前記閾値時間を大きく設定する、請求項2に記載の制動制御方法。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記移動物の大きさ、形状及び挙動の少なくともいずれか1つに基づいて前記移動物の属性を判断し、
前記属性に基づいて前記移動物が子供の歩行者であると判断した場合は、前記移動物が大人の歩行者であると判断した場合よりも、前記閾値時間を大きくなるように設定する、請求項2又は3に記載の制動制御方法。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記検出装置が前記移動物が検出しないと判定した場合は、前記所定領域に死角領域が存在するか否かを判定し、
前記死角領域が存在すると判定した場合は、前記死角領域が存在しないと判定した場合よりも前記減速度緩和位置を上流側に設定する、請求項1~4のいずれか一項に記載の制動制御方法。
【請求項6】
前記プロセッサは、
前記死角領域が存在すると判定した場合は、前記停止予定位置における前記自車両の正面方向に前記死角領域が位置するか否かを判定し、
前記正面方向に前記死角領域が位置すると判定した場合は、前記正面方向に前記死角領域が位置しないと判定した場合よりも前記減速度緩和位置を上流側に設定する、請求項5に記載の制動制御方法。
【請求項7】
前記プロセッサは、
前記所定領域に複数の前記死角領域が存在する場合は、複数の前記死角領域の各々について前記減速度緩和位置を算出し、
算出された複数の前記減速度緩和位置のうち最も上流側の前記減速度緩和位置を選択して、前記車速プロファイルを設定する、請求項6に記載の制動制御方法。
【請求項8】
前記プロセッサは、
前記移動方向角度が大きいほど、前記減速開始位置を変化させずに前記基準減速度高くするように、前記車速プロファイルを設定する、請求項1~7のいずれか一項に記載の制動制御方法。
【請求項9】
前記プロセッサは、
前記車速プロファイルに基づいて前記基準減速度が所定の閾値減速度より高いか否かを判定し、
前記基準減速度が前記閾値減速度より高いと判定した場合は、前記基準減速度が前記閾値減速度となるように前記車速プロファイルを修正する、請求項1~8のいずれか一項に記載の制動制御方法。
【請求項10】
プロセッサを用いて、自車両が所定の自車両予測軌道に沿って走行した場合の前記自車両の車速、自車両位置及び、道路情報に基づいて前記自車両が歩道を横断する前に停止することが予定される停止予定位置に基づく車速プロファイルにより前記自車両の制動アクチュエータを制御する制動制御装置であって、
前記車速プロファイルは、前記自車両が前記停止予定位置の上流側の減速開始位置で減速を開始し、所定の区間を所定の基準減速度で走行した後、前記減速開始位置の下流側かつ前記停止予定位置の上流側の減速度緩和位置で前記自車両の減速度が前記基準減速度よりも低下するプロファイルであり、
前記プロセッサは、
前記自車両の検出装置が前記停止予定位置の下流側の所定領域において移動物を検出したか否かを判定する移動物検出判定部と、
前記検出装置が前記移動物を検出したと判定した場合は、前記自車両が前記自車両予測軌道に沿って走行して前記停止予定位置で停止したときの前記自車両の正面方向と前記移動物の移動方向とがなす移動方向角度を算出する移動方向角度算出部と、
前記自車両が前記停止予定位置の上流側で減速するときに前記自車両の減速度を緩和する位置である減速度緩和位置を、前記移動方向角度が大きいほど上流側になるように、前記車速プロファイルを生成する車速プロファイル生成部とを備える、制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動制御方法及び制動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載される制動制御装置は、自車両の前方において歩行者等の停止対象を検出した場合に自車両の制動動作を制御し、自車両を減速させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-16248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の制動制御装置は、歩行者等の移動物の移動する方向に応じた減速度で車速の制御していない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、停止予定位置の下流側に検出された移動物の移動方向に応じて自車両の減速度を制御できる制動制御方法及び制動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、検出装置が停止予定位置の下流側において移動物を検出した場合は、停止予定位置における自車両の正面方向と移動物の移動方向とがなす移動方向角度を算出し、自車両が停止予定位置の上流側で減速するときの減速度緩和位置を、移動方向角度が第1の角度であるときには、移動方向角度が大きいほど上流側になるように、車速プロファイルを生成することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、移動方向角度に応じて減速度緩和位置を設定するので、停止予定位置の下流側に検出された移動物の移動方向に応じて自車両の減速度を制御できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る制動制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】自車両の正面方向と移動物の移動方向とがなす移動方向角度の例を示す図である。
図3】自車両の正面方向と移動物の移動方向とがなす移動方向角度の例を示す図である。
図4】自車両の正面方向と移動物の移動方向とがなす移動方向角度の例を示す図である。
図5】自車両と死角領域との位置関係の例を示す図であり、図5(a)は、停止予定位置における自車両の正面方向に死角領域が位置する例を示し、図5(b)は、停止予定位置における自車両の正面方向とは異なる方向に死角領域が位置する例を示す。
図6図1に示す制動制御装置が生成する車速プロファイルの例を示す図であり、図6(a)は、車速プロファイルにおける減速度の推移を示すグラフであり、図5(b)は、車速プロファイルにおける車速の推移を示すグラフである。
図7図1に示す制動制御装置によって算出される仮想交差時間の例を示すグラフである。
図8図1に示す制動制御装置によって実行される制動制御方法の手順を示すフローチャートである。
図9図1に示す制動制御装置によって制御される車速の減速度の別の例を示すグラフである。
図10図1に示す制動制御装置によって制御される車速の減速度の別の例を示すグラフである。
図11図1に示す制動制御装置によって制御される車速の減速度の別の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、自車両1は、制動制御装置100、制動アクチュエータ101及び検出装置102を有する。制動制御装置100は、制動アクチュエータ101を自律的に制御する。制動制御装置100は、制動アクチュエータ101を制御することにより、自車両1のブレーキ動作を制御する。これにより、制動制御装置100は、自車両1の減速を開始させたり、減速中の自車両の減速度を制御したりすることができる。
【0010】
検出装置102は、例えば、車外カメラ、又はレーダである。検出装置102は、移動物の存在を検出することができる。移動物は、移動可能な物体であり、例えば、歩行者、自転車、車椅子、動物、他車両などである。また、検出装置102は、所定の位置に固定された障害物も検出する。さらに、検出装置102は、路面に表示された車線境界線、車道外側線、路側帯等を検出することができる。
【0011】
次に、制動制御装置100の構成について、図1~5を用いて、詳細に説明する。
図1に示すように、制動制御装置100は、自車両1の制動アクチュエータ101を制御するプロセッサ10を備える。プロセッサ10は、自車両の運転を制御するためのプログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、このROMに格納されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)とから構成される。なお、動作回路としては、CPU(Central Processing Unit)に代えて又はこれとともに、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いることができる。プロセッサ10は、走行状態取得部11、停止予定位置取得部12、移動物検出判定部13、移動物予測軌道算出部14、自車両予測軌道取得部15、交差判定部16、交差位置算出部17、仮想交差時間算出部18、移動方向角度算出部19、死角領域判定部20、閾値時間設定部21、仮想交差時間判定部22、車速プロファイル生成部30及び制動制御部40を有する。
なお、図1において、制動制御装置100は自車両1に搭載されているが、これに限定されず、制動制御装置100は、自車両1を遠隔で操作する装置であってもよい。
【0012】
制動制御装置100の走行状態取得部11は、自車両1の車速Vc及び自車両位置Pvを取得する。走行状態取得部11は、自車両1に設けられた車速センサ(図示せず)から自車両1の車速Vcを取得する。また、走行状態取得部11は、GPSユニットにより複数の衛星通信から送信される電波を検出し、自車両の位置情報を周期的に取得する。また、走行状態取得部11は、GPSユニットにより取得した自車両の位置情報と、ジャイロセンサから取得した角度変化情報と、車速センサから取得した車速Vcとに基づいて、現在及び/又は将来の自車両位置Pvを取得する。
【0013】
停止予定位置取得部12は、自車両1が停止する予定の停止予定位置Psを取得する。例えば、図2~4に示すように、車線L1を走行する自車両1が左折して歩道L2を横切り駐車場等に入る場合は、停止予定位置取得部12は、検出装置102が検出した車道外側線Bの上流側手前の位置を停止予定位置Psとして取得する。また、停止予定位置取得部12は、地図データベース又は通信手段によって取得した道路情報に基づいて、停止予定位置Psを取得してもよい。
【0014】
車速プロファイル生成部30は、走行状態取得部11が取得した自車両1の車速Vc及び自車両位置Pv並びに停止予定位置取得部12が取得した停止予定位置Psに基づいて、自車両1が停止予定位置Psに至る経路(自車両予測軌道Rv)上の位置(図2~4参照)に関する減速度を規定する車速プロファイルを生成する。車速プロファイルは、自車両1が停止予定位置Psに至るまでの位置と自車両1の車速の減速度により規定される。図6(a)は、自車両位置Pvと停止予定位置Psとの距離(位置関係)に対する自車両1の減速度の推移により規定される車速プロファイルの一例を示す。なお、自車両位置Pvと停止予定位置Psとの距離は、自車両1が自車両予測軌道Rvに沿って走行した場合の走行距離である。また、図6(b)は、図6(a)のグラフに対応した自車両1の車速Vcの推移を示す。図6(a)の縦軸は、自車両1の減速度を示す。図6(b)の縦軸は、自車両1の車速Vcを示す。また、図6(a),6(b)の横軸は、停止予定位置Psに対する自車両位置Pvの距離を示す。なお、破線のグラフは、後述する仮想交差時間判定部22が車速プロファイルを変更する必要がないと判定した場合に用いられる第1の車速プロファイルQ1の例を示す。また、実線のグラフは、後述する仮想交差時間判定部22が車速プロファイルを変更する必要があると判定した場合に用いられる第2の車速プロファイルQ2(変更後の車速プロファイル)の例を示す。車速プロファイルの変更処理の手順については、後述する。
【0015】
車速プロファイルは、制動制御装置100が自車両1の車速を制御するために使用する複数のデータによって構成される。具体的には、図6の破線のグラフ及び実線のグラフに示すように、車速プロファイルは、停止予定位置Psの上流側の減速開始位置Pb(Pb0,Pb1)を有する。減速開始位置Pbは、自車両1が減速を開始する位置である。減速開始位置Pbと停止予定位置Psとの間の区間は、制動制御装置100が自車両1の減速度を制御する制動区間Db(Db0,Db1)である。また、車速プロファイルは、停止予定位置Psの上流側かつ減速開始位置Pbの下流側に位置する基準減速度到達位置Paと、基準減速度到達位置Paの下流側かつ停止予定位置Psの上流側に位置する減速度緩和位置Pdとを有する。すなわち、減速度緩和位置Pdは、減速開始位置Pbの下流側かつ停止予定位置Psの上流側に位置する。
【0016】
基準減速度到達位置Paと減速度緩和位置Pdとの間の区間は、基準減速度dV0が維持される基準減速度区間Dc(Dc0,Dc1)である。すなわち、自車両1は、基準減速度区間Dcにおいて基準減速度dV0で走行する。さらに、減速度緩和位置Pd(Pd0,Pd1)と停止予定位置Psとの間の区間は、基準減速度dV0よりも低い減速度で制動制御を行う減速度低下区間Dd(Dd0,Dd1)である。すなわち、自車両1は、減速度低下区間Ddにおいて基準減速度dV0よりも低い減速度で走行する。また、減速度緩和位置Pdは、減速度低下区間Ddの開始位置である。車速プロファイルに基づく自車両1の減速度は、基準減速度区間Dcでは所定の基準減速度dV0であり、減速度低下区間Ddでは基準減速度dV0よりも低い。
【0017】
より具体的には、車速プロファイル生成部30が生成する車速プロファイルに基づく自車両1の減速度は、減速開始位置Pbから基準減速度到達位置Paまでの間で上昇し、基準減速度到達位置Paで基準減速度dV0に到達する。次に、自車両1の減速度dVは、基準減速度到達位置Paから減速度緩和位置Pdまでの間(基準減速度区間Dc)で、一定の基準減速度dV0を維持する。なお、基準減速度区間Dcでは、減速度変化率は0(ゼロ)である。次に、自車両1の減速度dVは、減速度緩和位置Pd(減速度低下区間Ddの開始位置)から停止予定位置Psまでの間(減速度低下区間Dd)で、一定の減速度変化率で低下する。そして、自車両1の減速度dVは、停止予定位置Psにおいて、0(ゼロ)になる。すなわち、車速プロファイルは、自車両1が停止予定位置Psの上流側の減速開始位置Pbで減速を開始し、所定の区間(基準減速度区間Dc)を所定の基準減速度dV0で走行した後、減速開始位置Pbの下流側かつ停止予定位置Psの上流側の減速度緩和位置Pdで自車両1の減速度が基準減速度dV0よりも低下するプロファイルである。また、図6(a)に示す第2の車速プロファイルQ2(実線のグラフ)における減速度緩和位置Pd1は、第1の車速プロファイルQ1(破線のグラフ)における減速度緩和位置Pd0よりも上流側に位置する。
【0018】
また、図1に示す移動物検出判定部13は、検出装置102の検出結果に基づいて、検出装置102が停止予定位置Psの下流側の所定領域Xp(図2~5参照)において移動物Mを検出したか否かを判定する。なお、所定領域Xpは、自車両1と交差し得る任意の移動物が存在する可能性がある範囲である。
【0019】
移動物予測軌道算出部14は、図2~4に示すように、移動物Mの位置、移動方向Hm及び移動速度に基づいて、移動物Mの移動物予測軌道Rmを算出する。具体的には、移動物予測軌道算出部14は、移動物Mが現在位置から移動方向Hmに沿って現在の移動速度を維持しつつ直線的に移動すると仮定して移動物予測軌道Rmを算出する。なお、移動物予測軌道算出部14は、図2,3に示すように移動物Mである歩行者が歩道L2に沿って移動している場合は、歩道L2の延長方向に沿った移動物予測軌道Rmを算出してもよい。
【0020】
自車両予測軌道取得部15は、自車両1が走行すると予測される経路である自車両予測軌道Rvを取得する。自車両予測軌道Rvは、目的地の位置情報、設定されたルート情報、レーン情報等に基づいて設定される軌道である。また、例えば、自車両1が目的地への到達前に店舗等に立ち寄る事をドライバが車載入力装置(図示せず)に入力した場合は、図2~4に示すように、自車両予測軌道取得部15は、車線L1を走行する自車両1が左折して歩道L2を横切るように、自車両予測軌道Rvを取得する。
【0021】
交差判定部16は、自車両予測軌道Rvと移動物予測軌道Rmとが交差するか否かを判定する。換言すると、交差判定部16は、自車両1が停止予定位置Psで停止せずに自車両予測軌道Rvを走行し、かつ、移動物Mが移動速度及び移動方向Hmを変更せずに移動物予測軌道Rmに沿って移動したと仮定した場合に、自車両1と移動物Mとが交差する可能性があるか否かを判定する。
【0022】
交差位置算出部17は、図2~4に示すように、自車両予測軌道Rvと移動物予測軌道Rmとの交差位置Pxを算出する。なお、交差位置Pxは、自車両予測軌道Rvと移動物予測軌道Rmとが交差する点に限定されず、自車両予測軌道Rvを含む所定の幅の帯状領域に移動物Mが入ると予測される位置を交差位置Pxとして算出してもよい。
【0023】
仮想交差時間算出部18は、車速プロファイル生成部30が生成した車速プロファイルに基づいて、図2に示すように、停止予定位置Psの上流側の複数の仮想位置Pkと交差位置Pxとの間の仮想走行距離である仮想交差距離Dxを、各々の仮想位置Pkに対応する仮想車速Vkで除算した仮想交差時間Tkを算出する。換言すれば、仮想交差時間Tkは、図2に示すように、仮想位置Pkにおいて仮想自車両1’が車速プロファイルに従った仮想車速Vkで走行していると仮定し、かつ、仮想自車両1’が仮想位置Pkを通過後、仮想車速Vkを維持して走行したと仮定した場合に、仮想自車両1’が、仮想位置Pkから交差位置Pxに到るまでにかかる時間である。すなわち、仮想交差時間Tkは、以下の式(1)により、算出される。
【数1】
【0024】
なお、仮想交差時間算出部18が算出した仮想交差時間Tkと仮想交差距離Dxとの関係を示すグラフを図7に示す。図7の縦軸は、仮想交差時間Tkを示す。すなわち、図7は、減速開始位置Pbと停止予定位置Psとの間で連続的に取得された複数の仮想位置Pkについて算出された仮想交差時間Tkを示すグラフである。
【0025】
また、図1に示す移動方向角度算出部19は、所定領域Xpにおいて移動物Mが検出されたと移動物検出判定部13が判定した場合は、図2~4に示すように、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvと移動物Mの移動方向Hmとがなす移動方向角度A1,A2,A3を算出する。図2に示す例では、移動物Mは自車両1の進行方向と同じ方向(図面上右方向)に移動しており、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvと移動物Mの移動方向Hmとがなす移動方向角度A1は鋭角である。また、図3に示す例では、移動物Mは自車両1の進行方向と反対方向(図面上左方向)に移動しており、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvと移動物Mの移動方向Hmとがなす移動方向角度A2は鈍角である。さらに、図4に示す例では、移動物Mは停止予定位置Psにおける自車両1に対向する方向に移動しており、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvと移動物Mの移動方向Hmとがなす移動方向角度A3は鈍角である。
【0026】
また、死角領域判定部20は、所定領域Xpのおいて移動物Mが検出されていないと移動物検出判定部13が判定した場合(検出装置102が所定領域Xpにおいて移動物Mを検出しない場合)に、検出装置102の検出結果に基づいて、図5に示すように、所定領域Xpに死角領域Xbが存在するか否かを判定する。また、死角領域判定部20は、所定領域Xpに死角領域Xbが存在すると判定した場合は、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvに死角領域Xbが位置するか否かを判定する。具体的には、図5(a)に示す例では、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvに死角領域Xbが位置する。一方、図5(b)に示す例では、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvに死角領域Xbは位置していない。
【0027】
図1に示す閾値時間設定部21は、図7に示すように、車速プロファイルの変更の要否を判定するための仮想交差時間Tkの閾値時間Tx(Tx0,Tx1)を設定する。閾値時間設定部21は、移動方向角度算出部19が算出した移動方向角度が第1の角度であるときの閾値時間Tx1を、移動方向角度が第1の角度よりも小さい第2の角度であるときの閾値時間Tx0よりも大きく設定する。具体的には、閾値時間設定部21は、図2に示すように移動方向角度A1が鋭角(90度未満)であるときは閾値時間Tx0を設定する。また、閾値時間設定部21は、図3,4に示すように移動方向角度A2,A3が直角又は鈍角(90度以上)であるときは閾値時間Tx1を設定する。なお、閾値時間設定部21は、移動方向角度が90度以上であるか否かに関わらず、移動方向角度が大きい程、閾値時間Txを大きく設定してもよい。すなわち、閾値時間設定部21は、所定領域Xpのおいて移動物Mが検出されず、かつ、所定領域Xpに後述する死角領域Xbが存在しない場合の閾値時間Tx0を基準として、移動方向角度の大きさに応じて閾値時間Txを漸増的に大きくなるように設定してもよい。
【0028】
また、所定領域Xpのおいて移動物Mが検出されていない場合は、閾値時間設定部21は、死角領域判定部20が死角領域Xdが存在すると判定したときの閾値時間Txを、死角領域判定部20が死角領域Xbが存在しないと判定したときの閾値時間Txよりも大きく設定する。また、閾値時間設定部21は、死角領域Xbが存在すると判定した場合は、図5(a)に示すように停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvに死角領域Xbが位置するときの閾値時間Txを、図5(b)に示すように正面方向Hvに死角領域Xbが位置しないときの閾値時間Txよりも大きく設定する。
【0029】
また、閾値時間設定部21は、移動物Mの大きさ、形状及び挙動の少なくともいずれか1つに基づいて、閾値時間Txを設定してもよい。例えば、閾値時間設定部21は、検出装置102が検出した移動物Mである歩行者の身長が所定値以下である場合は、移動物Mが子供であると判断し、閾値時間Txの値を、移動物Mが大人の歩行者である場合よりも大きくなるように設定する。また、閾値時間設定部21は、検出装置102が検出した移動物Mである歩行者が、通常の大人の歩行者に比べて大きな動作で挙動していると判断した場合は、移動物Mが子供であると判断し、閾値時間Txの値を、移動物Mが大人の歩行者である場合よりも大きくなるように設定する。また、閾値時間設定部21は、移動物Mの形状に応じて、移動物Mの属性(大人であるか子供であるか、人間であるか動物であるか、歩行者であるか自転車であるか、など)を判断して、閾値時間Txを設定してもよい。
なお、閾値時間設定部21は、死角領域Xdの有無や移動物Mの大きさ、形状又は挙動に関わらず、所定領域Xpにおける移動物の有無及び移動方向角度の大きさのみに応じて閾値時間Txを設定してもよい。
【0030】
仮想交差時間判定部22は、図7に示す少なくとも1つの仮想交差時間Tkが閾値時間Tx以下か否かを判定する。仮想交差時間判定部22は、少なくとも1つの仮想交差時間Tkが閾値時間Tx以下であると判定した場合に、減速度緩和位置Pdを上流側に変更するように車速プロファイルを修正する指令を車速プロファイル生成部30に出力する。これにより、図6に示す第1の車速プロファイルQ1(破線)は第2の車速プロファイルQ2(実線)に変更され、第1の車速プロファイルQ1の減速度緩和位置Pd0は、第2の車速プロファイルQ2の減速度緩和位置Pd1に変更される。また、これにより、図7に示す仮想交差時間Tkのグラフは、破線グラフから実線グラフに変更される。
【0031】
より具体的には、図7に示すように、閾値時間Tx0が設定されているときは、第1の車速プロファイルQ1に対応する仮想交差時間Tk(破線)の全ては閾値時間Tx0よりも大きくなり、仮想交差時間判定部22は車速プロファイルを修正する必要は無いと判定する。これにより、図6(a)に示すように、車速プロファイルの減速度緩和位置Pdは、第1の車速プロファイルQ1の減速度緩和位置Pd0となる。一方、図7に示すように、閾値時間Tx1が設定されているときは、第1の車速プロファイルQ1に対応する仮想交差時間Tk(破線)の一部は閾値時間Tx1以下となり、仮想交差時間判定部22は車速プロファイルを修正する必要があると判定する。これにより、図6(a)に示すように、車速プロファイルの減速度緩和位置Pdは、第2の車速プロファイルQ2の減速度緩和位置Pd1に修正される。すなわち、閾値時間Txが大きい程、車速プロファイル生成部30は、車速プロファイルの減速度緩和位置Pdが上流側に位置するように車速プロファイルを生成する。そして、ファイルの減速度緩和位置Pdをより上流側に変更することによって、仮想交差時間算出部18が算出する仮想交差時間Tkも大きくなり、図7の実線グラフに示すように、仮想交差時間Tkの全ては閾値時間Tx(Tx0,Tx1)よりも大きくなる。
【0032】
すなわち、減速度緩和位置Pdは、移動方向角度が第1の角度(A2,A3)であるときには、移動方向角度が第1の角度よりも小さい第2の角度(A1)であるときよりも上流側に位置する。また、減速度緩和位置Pdは、所定領域Xpに死角領域Xbが存在する場合は、所定領域Xpに死角領域Xbが存在しない場合よりも上流側に位置する。また、減速度緩和位置Pdは、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvに死角領域Xbが位置すると判定した場合は、正面方向Hvに死角領域Xbが位置しないと判定した場合よりも上流側に位置する。なお、車速プロファイルの減速度緩和位置Pdを上流側に変更することは、自車両1の減速度を基準減速度dV0よりも低下させる減速度緩和タイミングを早めることと同義である。
【0033】
また、所定領域Xpに複数の死角領域Xbが存在する場合は、閾値時間設定部21が複数の死角領域Xbの各々について閾値時間Txを設定し、仮想交差時間判定部22は各々の閾値時間Txに基づいて、複数の死角領域Xbの各々について減速度緩和位置Pdを算出する。そして、仮想交差時間判定部22は、算出された複数の減速度緩和位置Pdのうち最も上流側の減速度緩和位置Pdを選択して、車速プロファイル生成部30に車速プロファイル設定の指令を出力してもよい。すなわち、所定領域Xpに複数の死角領域Xbが存在する場合であって、少なくとも1つの死角領域Xbが停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvに位置する場合は、仮想交差時間判定部22は、自車両1の正面方向Hvに位置する死角領域Xbに応じた減速度緩和位置Pd(最も上流側の減速度緩和位置Pd)を選択して、車速プロファイル生成部30に車速プロファイル修正の指令を出力する。
【0034】
また、図1に示す制動制御部40は、車速プロファイル生成部30が生成した車速プロファイルに従って、制動アクチュエータ101を制御する。これにより、制動制御部40は、車速プロファイルに規定された減速度に従って、自車両1が減速するように、自車両1の車速Vcを制御する。なお、実際に車速プロファイルに基づいて制御される自車両1の車速Vc及び減速度dVは、車速プロファイルに規定された車速Vc及び減速度dVと一致するとは限られず、自車両1の走行環境や路面の状況などの影響を受けた値となる。
【0035】
次に、制動制御装置100のプロセッサ10によって実行される制動制御方法の手順を、図に示すフローチャートを用いて説明する。
ステップS1において、停止予定位置取得部12は、検出装置102の検出結果に基づいて停止予定位置Psを取得する。
次に、ステップS2において、車速プロファイル生成部30は、自車両1の車速Vc、自車両位置Pv及び停止予定位置Psとに基づいて、車速プロファイルを生成する。
【0036】
次に、ステップS3において、移動物検出判定部13は、検出装置102が検出した移動物Mの位置を取得し、移動物Mが停止予定位置Psの下流側の所定領域Xpに存在するか否かを判定する。
【0037】
ステップS3において、移動物Mが所定領域Xpに存在しないと判定された場合は、ステップS13において、死角領域判定部20は、所定領域Xpに死角領域Xbが存在するか否かを判定する。
所定領域Xpに死角領域Xbが存在しないと判定された場合は、プロセッサ10は処理を終了し、車速プロファイルを変更しない。
一方、所定領域Xpに死角領域Xbが存在すると判定された場合は、ステップS14において、死角領域判定部20は死角領域Xbの位置を特定する。そして、ステップS8において、閾値時間設定部21は、死角領域Xbが停止予定位置Psにおける自車両の正面方向Hvに位置するか否かに応じて、閾値時間を設定する。
【0038】
一方、ステップS3において、移動物Mが所定領域Xpに存在すると判定された場合は、ステップS4において、自車両予測軌道取得部15は自車両予測軌道Rvを取得する。
次に、ステップS5において、移動物予測軌道算出部14は、移動物Mの現在位置、移動方向Hm及び移動速度に基づいて、移動物予測軌道Rmを算出する。
【0039】
次に、ステップS6において、交差判定部16は、自車両予測軌道Rvと移動物予測軌道Rmとが交差するか否かを判定する。交差判定部16が自車両予測軌道Rvと移動物予測軌道Rmとが交差しないと判定した場合は、プロセッサ10は、処理を終了し、車速プロファイルを変更しない。
【0040】
一方、交差判定部16が自車両予測軌道Rvと移動物予測軌道Rmとが交差すると判定した場合は、ステップS7において、移動方向角度算出部19は、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvと移動物Mの移動方向Hmとがなす移動方向角度を算出する。そして、ステップS8において、閾値時間設定部21は、移動方向角度に基づいて閾値時間Txを設定する。
【0041】
さらに次に、ステップS9において、交差位置算出部17は、交差位置Pxを算出する。なお、移動物Mが検出されていない場合の交差位置Pxは、死角領域Xbに移動物Mが存在し、かつ、移動物Mが自車両予測軌道Rvと交差するように所定方向に所定の速度で移動していると仮定した場合に想定される交差位置である。
次に、ステップS10において、仮想交差時間算出部18は、車速プロファイル生成部30が生成した車速プロファイルに基づいて、1つ又は複数の仮想位置Pkの各々について仮想交差時間Tkを算出する。
【0042】
次に、ステップS11において、仮想交差時間判定部22は、仮想交差時間算出部18が算出した仮想交差時間Tkが閾値時間Tx以下となるか否かを判定する。仮想交差時間判定部22が、仮想交差時間Tkは閾値時間Tx以下とならない(閾値時間Txより大きい)と判定した場合は、プロセッサ10は処理を終了し、車速プロファイルを変更しない。
【0043】
一方、ステップS11において、仮想交差時間Tkの少なくとも一部が閾値時間Tx以下になると判定された場合は、ステップS12において、車速プロファイル生成部30は、車速プロファイルの減速度緩和位置Pdを上流側に変更する。
【0044】
なお、制動制御装置100が実施する制動制御方法は図8に示す実施例に限定されない。具体的には、制動制御装置100は、仮想交差時間を算出せずに、移動方向角度のみに応じて、移動方向角度が第1の角度であるときには、移動方向角度が第1の角度よりも小さい第2の角度であるときよりも、減速度緩和位置Pdを上流側になるように設定してもよい。
【0045】
以上より、本実施形態に係る制動制御装置100は、検出装置102が停止予定位置Psの下流側の所定領域Xpにおいて移動物Mを検出した場合は、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvと移動物Mの移動方向Hmとがなす移動方向角度A1~A3を算出する。そして、制動制御装置100は、車速プロファイルの減速度緩和位置Pdを、移動方向角度が第1の角度であるときには、移動方向角度が第1の角度よりも小さい第2の角度であるときよりも上流側になるように車速プロファイルを生成する。すなわち、制動制御装置100は、移動方向角度が大きい程、車速プロファイルの減速度緩和位置Pdをより上流側に設定する。これにより、制動制御装置100は、停止予定位置Psの下流側に検出された移動物Mの移動方向Hmに応じて自車両1の減速度dVを制御できる。すなわち、移動物Mが自車両1の正面方向Hvに対して反対方向に自車両1に向かうように移動している場合は、制動制御装置100は、減速度緩和タイミングを、移動物Mが自車両1の正面方向Hvに沿う方向(順方向)に自車両1に向かうように移動している場合よりも相対的に早くする。これにより、移動物Mが自車両1の正面から接近するように移動している場合は、移動物Mが自車両1と同じ向きで移動しつつ接近している場合と比較して、自車両1の乗員が「自車両1がもうすぐ止まる」と感じるタイミング(減速度緩和タイミング)を早くすることができる。従って、自車両1の乗員の違和感を軽減することができる。また、移動物Mにとっても、移動物Mの正面から接近する自車両1の減速度緩和タイミングが、移動物Mの後方から接近する自車両1の減速度緩和タイミングよりも早くなるため、制動制御装置100は、歩行者等の移動物Mが感じる違和感を軽減することができる。また、移動方向角度が所定の角度(例えば、90度)よりも小さい場合は、制動制御装置100は、減速度緩和タイミングを必要以上に早めないため、自車両1の減速が後続車に与える影響を最小限にし、交通流に乱れが発生することを防止することができる。
【0046】
また、制動制御装置100は、車速プロファイルに基づいて自車両1と移動物Mとの仮想交差時間を算出し、少なくとも1つの仮想交差時間が所定の閾値時間以下であると判定した場合に、減速度緩和位置Pdを上流側に変更するように車速プロファイルを修正する。これにより、制動制御装置100は、自車両1と移動物Mとの交差の可能性を定量的に算出し、仮想交差時間と閾値時間との比較に基づいて減速度緩和位置Pdを含む車速プロファイルの要素を適宜修正することができる。
【0047】
また、制動制御装置100は、移動方向角度が第1の角度であるときの閾値時間Txを、移動方向角度が第1の角度よりも小さい第2の角度であるときの閾値時間Txよりも大きく設定する。すなわち、制動制御装置100は、移動方向角度が大きい程、閾値時間Txを大きく設定する。ここで、閾値時間Txが大きい程、車速プロファイル生成部30が減速度緩和位置Pdをより上流側に修正する確率は高くなる(図7参照)。従って、制動制御装置100は、移動方向角度が大きい程、減速度緩和位置Pdをより上流側に修正する確率が高くなり、移動物Mの移動方向Hmに応じて自車両1の減速度dVを制御できる。
【0048】
また、制動制御装置100は、移動物Mの大きさ、形状及び挙動の少なくともいずれか1つに基づいて、閾値時間Txを設定する。これにより、制動制御装置100は、移動物Mの大きさ(高さ及び/又は横幅)、移動物Mの形状及び挙動パターンのうちのいずれか1つ以上に基づいて、移動物Mの属性(例えば、移動物Mが大人の歩行者であるか、又は子供の歩行者であるか)を判断し、移動物Mの属性に応じて、車速制御を実行することができる。従って、制動制御装置100は、自車両1を停止予定位置Psで停止させる前に、停止予定位置Psの下流側の移動物Mの属性に応じて、自車両1の乗員及び歩行者等(移動物M)の感覚に合わせた減速度で車速制御を実行することができる。
【0049】
また、制動制御装置100は、検出装置102が前記移動物が検出しない場合であって、所定領域Xpに死角領域Xbが存在する場合は、死角領域Xbが存在しない場合よりも減速度緩和位置Pdを上流側に設定する。これにより、制動制御装置100は、死角領域Xbに移動物Mが存在する可能性に応じて車速制御を実行するため、死角領域Xbから移動物Mが急に現れた場合であっても、自車両1の乗員及び歩行者等(移動物M)の違和感を軽減することができる。
【0050】
また、制動制御装置100は、停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvに死角領域Xbが位置する場合は、正面方向Hvに死角領域Xbが位置しないと判定した場合よりも減速度緩和位置Pdを上流側に設定する。これにより、制動制御装置100は、自車両1の正面方向Hvに位置する死角領域Xbに移動物Mが存在する可能性がある場合に、正面方向Hv以外の方向に死角領域Xbが位置する場合と比較して、減速度緩和タイミングを早めることができる。よって、制動制御装置100は、自車両1の正面方向Hvに位置する死角領域Xbから移動物Mが急に現れた場合であっても、自車両1の乗員及び歩行者等(移動物M)の違和感を軽減することができる。また、制動制御装置100は、自車両1の正面方向Hv以外の方向に死角領域Xbが位置する場合は、減速度緩和タイミングを必要以上に早めないため、自車両1の減速が後続車へ与える影響を最小限に抑え、交通流に乱れが発生することを防止することができる。
【0051】
また、制動制御装置100は、所定領域Xpに複数の死角領域Xbが存在する場合は、複数の死角領域Xbの各々について減速度緩和位置Pdを算出し、算出された複数の減速度緩和位置Pdのうち最も上流側の減速度緩和位置Pdを選択して車速プロファイルを設定する。すなわち、制動制御装置100は、所定領域Xpに複数の死角領域Xbが存在する場合であって、少なくとも1つの死角領域Xbが停止予定位置Psにおける自車両1の正面方向Hvに位置する場合は、自車両1の正面方向Hvに位置する死角領域Xbに応じた減速度緩和位置Pd(最も上流側の減速度緩和位置Pd)を選択する。これにより、制動制御装置100は、所定領域Xpに複数の死角領域Xbが存在する場合であっても、少なくとも1つの死角領域Xbが自車両1の正面方向Hvに位置する場合は、全ての死角領域Xbが自車両1の正面方向Hv以外の方向に位置する場合と比較して、減速度緩和タイミングを早めることができる。よって、制動制御装置100は、複数の死角領域Xbのうち、自車両1の正面方向Hvに位置する死角領域Xbから移動物Mが急に現れた場合であっても、自車両1の乗員及び歩行者等(移動物M)の違和感を軽減することができる。
【0052】
なお、制動制御装置100が変更する車速プロファイルは、図6に示す例に限定されない。
例えば、制動制御装置100の車速プロファイル生成部30は、図9~11の実線のグラフに示す減速度の推移のように変更された第2の車速プロファイルQ2を生成してもよい。なお、以下の説明において、図9~11に示す破線のグラフは、図6(a)に示す破線のグラフと同様に、変更前の第1の車速プロファイルQ1を示している。すなわち、以下の説明において、移動方向角度が所定の第1の角度(例えば、図3,4に例示する角度A2,A3)であるときの車速プロファイルは第2の車速プロファイルQ2であり、移動方向角度が第1の角度よりも小さい第2の角度(例えば、図2に例示する角度A1)であるときの車速プロファイルは第1の車速プロファイルQ1である。
【0053】
図9に示す例では、車速プロファイル生成部30は、車速プロファイルを第1の車速プロファイルQ1から第2の車速プロファイルQ2に変更するときに減速度緩和位置Pd及び基準減速度dV0を変更する。なお、減速開始位置Pbは変更されていない。具体的には、車速プロファイル生成部30は、基準減速度dV0を、第1の車速プロファイルQ1の基準減速度dV01よりも高い基準減速度dV02に変更する。また、減速度緩和位置Pdに関しては、車速プロファイル生成部30は第1の車速プロファイルQ1の減速度緩和位置Pd0を、相対的に上流側の減速度緩和位置Pd2に変更する。
【0054】
従って、図9に示す例では、制動制御装置100は、移動方向角度が第1の角度であるときの減速開始位置Pbが、移動方向角度が第1の角度より小さい第2の角度であるときの減速開始位置Pbと同じ位置となり、かつ、移動方向角度が第1の角度であるときの基準減速度dV02が、移動方向角度が第2の角度であるときの基準減速度dV01よりも高くなるように、車速プロファイルを設定する。これにより、制動制御装置100は、自車両1の減速開始位置Pb(減速開始タイミング)を変更せずに、移動物Mの移動方向Hmに応じて減速度緩和位置Pdを設定できる。これにより、制動制御装置100は、自車両1の後続車への影響を最小限に抑えながら、移動物Mの移動方向Hmに基づき、自車両1の乗員及び歩行者等(移動物M)の感覚に合わせた減速度で車速制御を実行して、停止予定位置Psの上流側で自車両1を減速させることができる。
【0055】
また、図10に示す例では、車速プロファイルを第1の車速プロファイルQ1から第2の車速プロファイルQ2に変更するときに、車速プロファイル生成部30は、まず、減速開始位置Pb0を変更しないと仮定して、減速度変化率を規定変化率RdV1にするために設定されるべき予測基準減速度RV02を算出する。そして、車速プロファイル生成部30は、予測基準減速度RV02が所定の閾値減速度dV03より高いか否かを判定する。さらに、車速プロファイル生成部30は、予測基準減速度RV02が所定の閾値減速度dV03より高いと判定した場合に、基準減速度dV0を閾値減速度dV3に設定する。そして、車速プロファイル生成部30は、減速度低下区間Dd3の減速度変化率が規定変化率RdV1となるように、減速開始位置Pbを、変更前の減速開始位置Pb0の上流側の減速開始位置Pb3に変更する。なお、閾値減速度dV03は、自車両1の車速変化が後続車に影響を与え過ぎない程度、すなわち、後続車から見て急減速とならない程度の減速度の上限値である。閾値減速度dV03は、実験的に予め設定される。
【0056】
従って、図10に示す例では、制動制御装置100は、車速プロファイルに基づいて基準減速度dV0が所定の閾値減速度dV03より高いか否かを判定し、基準減速度dV0が閾値減速度dV03より高いと判定した場合は、基準減速度dV0が閾値減速度dV03となるように車速プロファイルを修正する。これにより、制動制御装置100は、自車両1の減速が後続車へ与える影響を最小限に抑えながら、移動物Mの移動方向Hmに基づき、自車両1の乗員及び歩行者等(移動物M)の感覚に合わせた減速度で車速制御を実行して、停止予定位置Psの上流側で自車両1を減速させることができる。
【0057】
また、図11に示す例では、車速プロファイルを第1の車速プロファイルQ1から第2の車速プロファイルQ2に変更するときに、車速プロファイル生成部30は、減速度低下区間Dd1において、減速度変化率が0(ゼロ)となる一定減速度区間Dzがあるように、減速度を変化させる。すなわち、車速プロファイル生成部30は、減速度低下区間Dd1において、減速度を段階的に低下させる。これにより、制動制御装置100は、プロセッサ10の計算負荷を低減させつつ、移動物Mの移動方向Hmに基づき、自車両1の乗員及び歩行者等(移動物M)の感覚に合わせた減速度で車速制御を実行して、停止予定位置Psの上流側で自車両1を減速させることができる。
【0058】
なお、制動制御装置100は、移動物Mが検出されていない状態で、自車両1が車速プロファイルに従って走行しているときに、突然、移動物Mが検出された場合は、その時点で車速プロファイルを変更してもよい。この場合は、制動制御装置100は、検出装置102が移動物Mを検出したタイミングから、自車両1が停止予定位置Psに到達するまでの間において、変更された車速プロファイルに従って自車両1を減速させる。
【0059】
100…制動制御装置
1…自車両
10…プロセッサ
13…移動物検出判定部
19…移動方向角度算出部
30…車速プロファイル生成部
101…制動アクチュエータ
102…検出装置
M…移動物
A1,A2,A3…移動方向角度
Hm…移動方向
Hv…正面方向
Pd…減速度緩和位置
Pb…減速開始位置
Ps…停止予定位置
Pv…自車両位置
Px…交差位置
Rm…移動物予測軌道
Rv…自車両予測軌道
Tk…仮想交差時間
Tx…閾値時間
Vc…自車両の車速
Xp…所定領域
Xb…死角領域
dV0…基準減速度
dV3…閾値減速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11