(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-21
(45)【発行日】2025-10-29
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール用の封止材シート及び太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H10F 19/80 20250101AFI20251022BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20251022BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20251022BHJP
【FI】
H10F19/80
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2024155267
(22)【出願日】2024-09-09
【審査請求日】2024-09-09
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】續木 淳朗
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 志織
(72)【発明者】
【氏名】加藤 萩真
【審査官】丸橋 凌
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-071419(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014965(WO,A1)
【文献】特開2006-210906(JP,A)
【文献】特開2014-072300(JP,A)
【文献】特開2005-019975(JP,A)
【文献】特開2012-209578(JP,A)
【文献】特許第7518987(JP,B1)
【文献】特開2010-109099(JP,A)
【文献】特開2012-177048(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077133(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/139086(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10F 19/80-19/85
H01L 23/28-23/31
H10K 30/88
C08F 2/00-301/00
C08L 23/00-57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュール用の封止材シートであって、
ポリエチレン系樹脂をベース樹脂とし、
融点が106.6℃以上120℃以下であって、且つ、補外融解開始温度と融点の温度差が20℃以下である、
封止材シート(但し、前記ポリエチレン系樹脂は、プロピレン・ブテン共重合体
又はエチレン-オクテンブロック共重合体であるものを除く)。
【請求項2】
前記補外融解開始温度と前記融点の温度差が15℃以下である、
請求項1に記載の封止材シート。
【請求項3】
ゲル分率が10%以下である
請求項1に記載の封止材シート。
【請求項4】
太陽電池素子を備える太陽電池モジュールであって、
前記太陽電池素子を封止する前面封止材層及び背面封止材層を備え、
前記前面封止材層と前記背面封止材層のうち少なくとも1つが請求項1から3のいずれかに記載の封止材シートにより構成されている
太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール用の封止材シート及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池モジュールの層構成は、受光面側から、透明前面基板、受光面側封止材、複数の太陽電池素子、非受光面側封止材、及び、裏面保護シートが順に積層された構成である。
【0003】
このような太陽電池モジュールにおいては、太陽電池素子を封止する封止材シートに、透明性、耐熱性がバランス良く高い水準で要求される。例えば、特許文献1には、不飽和カルボン酸含量が4重量%以上であって、融点が85℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマーである太陽電池モジュールにおける太陽電池素子封止材料に関する技術が記載されている。特許文献1にはこの太陽電池素子封止材料(太陽電池モジュール用の封止材シート)は、太陽電池素子に対して優れた接着性を示し、かつ、透明性、耐熱性に優れていることが記載されている。
【0004】
その一方で、特許文献1に記載の封止材シートは、不飽和カルボン酸を含み、半導体である太陽電池セルの腐食に繋がり、太陽電池の発電効率が低下するという問題がある。そこで、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体に代えてポリオレフィン系樹脂を使用した太陽電池モジュール用の封止材シートが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリエチレン系樹脂をベース樹脂とする封止材シートに、長期にわたる高温下での使用に耐えうるだけの十分な耐熱性を備えさせるために必要十分な程度の架橋処理を行うと、モジュール化の際に、対面する部材の表面の凹凸への追従性(以下、「モールディング特性」と言う)が維持できなくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、太陽電池モジュール用の封止材シートとしての好ましい水準のモールディング性を備え、耐熱性を備える封止材シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、太陽電池モジュール用の封止材シートを構成するベース樹脂を、補外融解開始温度と融点の温度差が所定値以下である樹脂に特定することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的に以下のものを提供する。
【0009】
(1)太陽電池モジュール用の封止材シートであって、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂とし、融点が55℃以上120℃以下であって、且つ、補外融解開始温度と融点の温度差が20℃以下である、封止材シート。
【0010】
(2)ゲル分率が10%以下である(1)に記載の封止材シート。
【0011】
(3)太陽電池素子を備える太陽電池モジュールであって、前記太陽電池素子を封止する前面封止材層及び背面封止材層を備え、前記前面封止材層と前記背面封止材層のうち少なくとも1つが(1)又は(2)に記載の封止材シートにより構成されている太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、太陽電池モジュール用の封止材シートとしての好ましい水準のモールディング性を備え、耐熱性を備える封止材シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の封止材シートの層構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態の封止材シートと、太陽電池素子を用いてなる太陽電池モジュールの層構成の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態の「太陽電池モジュール用の封止材シート(実施例3)」の融点及び補外融解開始温度を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
≪1.封止材シート≫
本実施の形態に係る封止材シートは、太陽電池モジュール用の封止材シートである。具体的には、太陽電池モジュールにおいて、太陽電池素子を、主には物理的衝撃から保護するために、太陽電池素子を被覆して積層する封止材シートとして用いることができる樹脂シートである。
【0016】
そして、本実施の形態に係る封止材シートは、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂とし、融点が55℃以上120℃以下であって、且つ、補外融解開始温度と融点の温度差が20℃以下であることを特徴とする。
【0017】
なお、本明細書において、「ポリオレフィン系樹脂」等との文言は、「ポリオレフィン樹脂」のみならず、ポリオレフィンの主鎖を例えば50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)含み、かつ主鎖の一部がポリオレフィンとは異なる他の主鎖に置き換わった共重合体をも含む概念として使用される。
【0018】
このようなポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として含有することにより、太陽電池モジュール用の封止材シートとしての好ましい水準のモールディング性を付与することができる。封止材シートに熱物性について融点範囲の最適化のみならず、合わせて、封止材シートの上記温度差を上記の特定範囲内に特定することにより、太陽電池モジュール用の封止材シートに求められるモールディング性等についての好ましい特性を付与することができる。さらに太陽電池モジュールとなった完成品段階において耐熱性を付与することができる。
【0019】
例えば、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂とする封止材シートであって、且つ、融点が55℃以上であっても、補外融解開始温度と融点の温度差が20℃を超えていると、必ずしも、十分な耐熱性が発現しない場合があること、及び、同程度の融点であっても、補外融解開始温度と融点の温度差が一定値以上に大きくなると、モールディング性にも悪影響が生じることが、本発明者らの研究によって明らかとなった。
【0020】
ここで、本明細書における、封止材シートの融点とは、樹脂成分とその他の添加剤を含んでなる封止材組成物を、押出し溶融成形等の成形法によりシート化した封止材シートのシート化完了後の段階における、示差走査熱量測定(DSC)により測定された融解ピーク温度のことをいう。
【0021】
又、封止材シートの補外融解開始温度とは、JIS K 7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」に記載の方法に準じて求められる値のことを言う。具体的には、成膜後未架橋の段階の封止材シートについてDSCにより融解ピーク温度を求めて、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピーク(重なって2個以上現れるときは、融解ピーク温度が低い方の融解ピーク)の低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度を補外融解開始温度とする。
【0022】
本実施の形態に係る封止材シートにおける補外融解開始温度と融点の温度差は、20℃以下であればよいが、そのなかでも17℃以下であることが好ましく、15℃以下であることがより好ましい。
本実施の形態に係る封止材シートにおける融点は、55℃以上120℃以下であればよいが、そのなかでも65℃以上117℃以下であることが好ましく、70℃以上115℃以下であることがより好ましい。本実施の形態に係る封止材シートにおける融点の下限は、65℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。本実施の形態に係る封止材シートにおける融点の上限は、117℃以下であることが好ましく、115℃以下であることがより好ましい。
【0023】
本実施の形態に係る封止材シートのMFRは、特に限定されるものではないが、全層平均で、2.0g/10min以上5.0g/10min以下であることが好ましく、2.2g/10min以上4.5g/10min以下であることがより好ましく、2.3g/10min以上4.0g/10min以下であることがさらに好ましい。本実施の形態に係る封止材シートのMFRの下限は、全層平均で、2.0g/10min以上であることが好ましく、2.2g/10min以上であることがより好ましく、2.3g/10min以上であることがさらに好ましい。本実施の形態に係る封止材シートのMFRの上限は、全層平均で、5.0g/10min以下であることが好ましく、4.5g/10min以下であることがより好ましく、4.0g/10min以下であることがさらに好ましい。封止材シートのMFRが、5.0g/10min以下であることにより封止材シートに必要な耐熱性を備えさせることができ、又、封止材シートのMFRが3.0g/10min以上であることにより封止材シートに必要なモールディング特性を備えさせることができる。
【0024】
尚、本明細書における封止材シートの「MFR」とは、樹脂成分とその他の添加剤を含んでなる封止材組成物を、押出し溶融成形等の成形法によりシート化した封止材シートのシート化完了後の段階、即ち、成膜後未架橋の状態にあるMFRを、JIS K7210に準拠し、190℃、2.16kg荷重の条件で測定した値のことを言うものとする。尚、封止材シートが多層フィルムである場合のMFRについては、全ての層が一体積層された多層状態のまま、上記処理による測定を行って得た測定値を当該多層の封止材シートのMFRの値とするものとする。
【0025】
封止材シートのビカット軟化点については、特に限定されるものではないが、30℃以上100℃以下であることが好ましく、35℃以上95℃以下であることがより好ましく、40℃以上90℃以下であることがさらに好ましい。封止材シートのビカット軟化点の下限は、30℃以上であることが好ましく、35℃以上であることがより好ましく、40℃以上であることがさらに好ましい。封止材シートのビカット軟化点の上限は、100℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。
【0026】
封止材シートのJIS K 7361に準拠して測定された全光線透過率は特に限定されるものではないが、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。
【0027】
封止材シートのJIS K 7136に準拠して測定されたヘイズ値は特に限定されるものではないが、0%以上60%以下であることが好ましく、0%以上57%以下であることがより好ましく、0%以上55%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
「封止材シート」を多層フィルムとする場合には、本発明の必須の構成要件を満たす範囲内において、各層毎にMFRが異なる層構成とすることがより好ましい。具体的には、
図1に示すように、MFRがより低い層をコア層11として中央に配置し、MFRがより高い層をスキン層12として最外層側に配置することが好ましい。本実施の形態に係る封止材シートは、単層の封止材シートである場合においても、十分に好ましいモールディング性を備えるものではあるが、このように相対的にMFRの高い層をスキン層12に配置することにより、封止材シートとして、更に密着性やモールディング性を高めることができる。
【0029】
本実施の形態に係る封止材シートの厚さ(総厚さ)は特に限定されるものではないが、250μm以上600μm以下であることが好ましく、300μm以上550μm以下であることがより好ましい。本実施の形態に係る封止材シートの厚さ(総厚さ)の下限は、250μm以上であることが好ましく、300μm以上であることがより好ましい。本実施の形態に係る封止材シートの厚さ(総厚さ)の上現は、600μm以下であることが好ましく、550μm以下であることがより好ましい。厚さが250μm以上であれば、例えば、総厚さ250μm程度に封止材シート1を薄膜化した場合においても、モールディング特性と耐熱性とを十分に好ましい水準において兼ね備えるものとすることができる。尚、総厚さが600μmを超えた場合、それ以上の衝撃緩和効果向上の効果は得られないため、600μm以下であることが好ましい。
【0030】
又、本実施の形態に係る封止材シートを、多層シートたる封止材シート1とする場合、コア層11の厚さ特に限定されるものではないが、200μm以上400μm以下であることが好ましく、250μm以上350μm以下であることがより好ましい。本実施の形態に係る封止材シートを、多層シートたる封止材シート1とする場合、コア層11の厚さの下限は、200μm以上であることが好ましく、250μm以上であることがより好ましい。本実施の形態に係る封止材シートを、多層シートたる封止材シート1とする場合、コア層11の厚さの上限は、400μm以下であることが好ましく、350μm以下であることがより好ましい。
【0031】
本実施の形態に係る封止材シートを、多層シートたる封止材シート1とする場合、スキン層12の各層毎の厚さは特に限定されるものではないが、20μm以上100μm以下であることが好ましく、25μm以上80μm以下であることがより好ましい。本実施の形態に係る封止材シートを、多層シートたる封止材シート1とする場合、スキン層12の各層毎の厚さの下限は、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましい。本実施の形態に係る封止材シートを、多層シートたる封止材シート1とする場合、スキン層12の各層毎の厚さの上限は、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。
【0032】
本実施の形態に係る封止材シートを、多層シートたる封止材シート1とする場合、コア層の両面に積層されている2層のスキン層12の総厚さは、特に限定されるものではないが、封止材シート1の総厚さの1/20以上1/3以下であることが好ましく、1/15以上1/4以下であることがより好ましい。本実施の形態に係る封止材シートを、多層シートたる封止材シート1とする場合、コア層の両面に積層されている2層のスキン層12の総厚さは、封止材シート1の総厚さの1/20以上であることが好ましく、1/15以上であることがより好ましい。本実施の形態に係る封止材シートを、多層シートたる封止材シート1とする場合、コア層の両面に積層されている2層のスキン層12の総厚さは、封止材シート1の総厚さの1/3以下であることが好ましく、1/4以下であることがより好ましい。封止材シート1の各層の厚さをこのような範囲とすることにより、封止材シート1の耐熱性とモールディング特性を良好な範囲に保持することができる。
【0033】
なお、本実施の形態に係る太陽電池モジュール用の封止材シートは、結晶系の太陽電池に適用してもよいが、結晶系の太陽電池に限定して適用されるものではなく、例えば、透明前面の裏側に太陽電池素子を蒸着、スパッタ、ウエットコーティング等で薄膜を形成し、その太陽電池素子の面の側に封止層を積層し、更に透明裏面基材を形成した薄膜系太陽電池にも適用可能である。また、透明前面基材にガラスを適用し、封止材を積層後、ガラスに太陽電池素子を適用し、蒸着、スパッタ、ウエットコーティング等で形成し裏面保護板を兼用した薄膜系太陽電池にも適用可能である。また、透明前面基板、太陽電池素子、裏面保護シートがフレキシブルなシート形状である太陽電池にも適用可能である。具体的には、単結晶型太陽電池、多結晶型太陽電池、バックコンタクト型の太陽電池、アモルファス系薄膜太陽電池、Cd-Te系薄膜太陽電池、化合物系太陽電池、色素増感太陽電池、ペロブスカイト太陽電池等、太陽電池の種類は問わずに様々な太陽電池に適用する事が可能である。
【0034】
以下では、本実施の形態に係る封止材シートの製造に用いられる封止材組成物について説明する。本実施の形態に係る封止材シートは、詳しくは後述するが、例えば以下に詳細を説明する封止材組成物を溶融成形することによって製造することができる。
【0035】
[封止材組成物]
本発明の「封止材シート」の製造に用いる封止材組成物(以下、単に「封止材組成物」とも言う)は、ポリオレフィン系樹脂(好ましくは低密度のポリエチレン系樹脂)をベース樹脂とする樹脂組成物である。尚、本明細書において「ベース樹脂」とは、当該ベース樹脂を含有してなる樹脂組成物において、当該樹脂組成物の樹脂成分中で含有量比の最も大きい樹脂のことを言うものとする。尚、密度の異なる同種の樹脂(例えば、それぞれ密度の異なる複数のポリエチレン)を混合樹脂とする場合は、混合された樹脂全体をベース樹脂とする。
【0036】
封止材組成物のベース樹脂は、融点が55℃以上120℃以下であって、且つ、補外融解開始温度と融点の温度差が20℃以下の範囲にあるものであれば、各種のポリオレフィン系樹脂を広く選択することができる。中でも、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、又はメタロセン系直鎖低密度ポリエチレン(M-LLDPE)の他、各種のポリエチレン系樹脂を好ましく用いることができる。
【0037】
又、上記の各種のポリエチレンの中でも、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)は、結晶性分布が狭く、結晶サイズが揃っているので、結晶サイズの大きいものが存在しないばかりでなく、結晶性自体が低く、封止材シートとしてシート状に加工した際の透明性に優れる。したがって、これをベース樹脂とする「封止材組成物」からなる「封止材シート」は、太陽電池モジュールにおいて、太陽電池素子の受光面側に配置された場合に、太陽電池素子への入射光の減衰による発電効率の低下をより良く防ぐことができる。
【0038】
「封止材組成物」のベース樹脂として用いる上記のポリオレフィン系樹脂の密度は、0.880g/cm3以上0.930g/cm3以下であることが好ましく、0.880g/cm3以上0.925g/cm3以下であることが好ましく、0.880g/cm3以上0.920g/cm3以下であることがより好ましい。「封止材組成物」のベース樹脂として用いる上記のポリオレフィン系樹脂の密度の上限は、0.930g/cm3以下であることが好ましく、0.925g/cm3以下であることが好ましく、0.920g/cm3以下であることがより好ましい。封止材組成物のベース樹脂の密度を、0.880g/cm3以上とすることで、封止材シートの耐熱性を安定的に十分な水準に向上させることができる。又、同密度を、0.920g/cm3以下とすることにより、「封止材シート」の太陽電池素子等への密着性を十分に好ましい水準に保持することができる。
【0039】
又、本明細書における「ポリエチレン系樹脂」には、エチレンを重合して得られる通常のポリエチレンのみならず、α-オレフィン等のようなエチレン性の不飽和結合を有する化合物を重合して得られた樹脂、エチレン性不飽和結合を有する複数の異なる化合物を共重合させた樹脂、及びこれらの樹脂に別の化学種をグラフトして得られる変性樹脂等が含まれる。
【0040】
なかでも、「α-オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物とをコモノマーとして共重合してなるシラン共重合体」を封止材組成物のベース樹脂の一部として好ましく用いることができる。このような樹脂を用いることにより、ガラス保護基板や太陽電池素子等といった他の積層部材と「封止材シート」との間に十分な強度の接着性を得ることができる。
【0041】
α-オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成する際のエチレン性不飽和シラン化合物の含有量としては、全共重合体質量に対して、例えば、0.001質量以上15質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上2質量%以下であることが、さらに好ましい。α-オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成する際のエチレン性不飽和シラン化合物の含有量の下限としては、全共重合体質量に対して、0.001質量以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることが、さらに好ましい。α-オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成する際のエチレン性不飽和シラン化合物の含有量の上限としては、全共重合体質量に対して、15質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることが、さらに好ましい。
【0042】
[その他の添加成分]
封止材組成物には、適宜、密着性向上剤を添加することができる。密着性向上剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができるが、エポキシ基を有するシランカップリング剤(以下、「エポキシ系シランカップリング剤」とも言う。)又は、メルカプト基を有するシランカップリング(以下、「メルカプト系シランカップリング剤」とも言う。)を、特に好ましく用いることができる。
【0043】
封止材組成物には、架橋剤を添加することができる。架橋剤の1時間半減期温度については、120℃以上145℃以下のものを用いることが好ましい。架橋剤の具体例として、n-ブチル4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート、エチル3,3-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブチレート、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類、ジ‐t‐ブチルパーオキサイド、t‐ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐パーオキシ)ヘキシン‐3等のジアルキルパーオキサイド類を、封止材組成物に添加する架橋剤として好ましく用いることができる。
【0044】
架橋剤を含有する場合、架橋剤の含有量は、封止材組成物中に0.02質量%以上0.5質量%未満であり、上限は好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。このような範囲で架橋剤を含有することでポリオレフィン系樹脂の弱架橋が進行させ耐熱性が向上し、さらに透明性も向上する。なお、このように、架橋剤の含有量が少量であることで、ポリオレフィン系樹脂のMFRが低下するものの、その低下の程度が小さい。このため溶融成形中に弱架橋を進行させることができる。そして、たとえ少量の架橋剤であって実質的に架橋助剤がなくても、ポリオレフィン系樹脂の弱架橋が進行する。なお、この成形温度は架橋剤の1分間半減期温度以上であるので、成形後には架橋剤はほとんど残留しない。このため、弱架橋はこの成形段階で終了する。
【0045】
封止材組成物には、更にその他の成分を含有させることができる。例えば、封止材シートに耐候性を付与するための耐候性マスターバッチ、各種フィラー、架橋助剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、着色剤、酸化防止剤、核剤、等の成分が例示される。これらの含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ封止材組成物中に0.001質量%以上5質量%以下程度の範囲内であることが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、封止材シートに、長期に亘る安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0046】
<封止材シートの製造方法>
本実施の形態に係る「封止材シート」は、上記において詳細を説明した「封止材組成物」を溶融成形する方法により製造することができる。封止材組成物の溶融成形は、公知の成形法、具体的には、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行うことができる。封止材シートが多層シートである場合のシート化の方法の一例として、3種の溶融混練押出機による共押出しにより成形する方法が挙げられる。成形時の成形温度の下限は封止材組成物の融点を超える温度であればよい。
【0047】
封止材シートの製造における溶融成形温度は、当該封止材組成物に含有される封止材組成物のベース樹脂のうちで最も高融点である樹脂の融点+30℃以上であることが好ましい。具体的には175℃から230℃の高温とすることが好ましく、190℃から210℃の範囲の高温とすることがより好ましい。
【0048】
なお、封止材組成物に少量(例えば、0.5質量%未満)の架橋剤を含有する場合であっても、得られる封止材シートのゲル分率は25%以下であり、好ましくは10%以下であり、より好ましくはゼロも含む1%以下である。なかでも10%以下とすることで、成膜時のゲル発生などを効果的に防止して成膜性を向上することができる。更に、1%以下とすることで、モジュール化工程における封止材シートの埋め込み性、すなわち凹凸追従性を向上することができる。
【0049】
≪2.太陽電池モジュール≫
本実施の形態に係る太陽電池モジュール10は、
図2に示すように入射光の受光面側から、透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6が順に積層されている。本実施の形態に係る太陽電池モジュール10は、前面封止材層3及び背面封止材層5の少なくとも一方に上記の封止材シートを使用する。
【0050】
なお、
図2の太陽電池モジュール10は、透明前面基材にガラス等を用いた、結晶系の太陽電池を想定したものであるが、上述した太陽電池モジュール用の封止材シート1は、結晶系の太陽電池に限定して適用されるものではなく、上述した通り、太陽電池の種類は問わずに様々な太陽電池に適用する事が可能である。
【0051】
太陽電池モジュール10は、封止材シートを含む構成部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<太陽電池モジュール用の封止材シートの製造>
ベース樹脂として、ポリエチレン系樹脂1~6(表中にて、それぞれ「PE1~6」と表記)を用意した。PE1~6の密度、α-オレフィンのモル数、炭素数、190℃でのMFRを表1記載の通りである。
【0054】
以下において説明する封止材組成物原料を下記表2の割合で混合し、それぞれ実施例、比較例の封止材シートの封止材組成物とした。それぞれの封止材組成物をφ30mm押出し機、200mm幅のTダイを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度210℃、引き取り速度1.1m/minで各樹脂シートを作製し、これらの各樹脂シートを実施例及び比較例の封止材シート(単層)を製造した。実施例及び比較例の各封止材シートの厚さは、いずれも、総厚さ450μmとした。なお、表2中、PE1~6の含有量は、ベース樹脂100質量部に対する含有量(質量部)であり、他の添加剤(シランカップリング剤、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定化剤)の含有量は、封止材組成物全量中の含有量(質量%)を意味する。
【0055】
【0056】
【0057】
表2中、シランカップリング剤は、ビニルトリメトキシシランである。
表2中、架橋剤は、有機過酸化物(ルペロックス101)である。
表2中、紫外線吸収剤は、KEMISORB79である。
表2中、光安定化剤は、KEMISTAB62(HALS)である。
【0058】
表2に記載の実施例及び比較例の封止材シートについて、ピカット軟化点、ショアA硬度(JIS K6253)、溶融粘度(Pa・s 190℃ 2.43×10sec-1)、厚み、体積固有抵抗、全光線透過度(JIS K 7361)、ヘイズ(JIS K 7136)、ゲル分率、補外融解開始温度(JIS K 7121-1987)、融点、補外融解開始温度と融点の温度差を表3に示す。
【0059】
ピカット軟化点については、東洋精機製作所製533HDT試験装置6M-2を使用して測定した。ショアA硬度については、エスコ製EA617DK-1を使用して測定した。溶融粘度については、東洋精機製作所製キャピログラフ1D PMD-Cを使用して測定した。体積固有抵抗については、エーディーシー製デジタル超高抵抗/微少電流計5450を使用して測定した。全光線透過度については、村上色彩研究所製HM-150Nを使用して測定した。ヘイズについては、村上色彩研究所製HM-150Nを使用して測定した。
【0060】
ゲル分率は、封止材シート0.1gを樹脂メッシュに入れ、60℃トルエンにて4時間抽出したのち、樹脂メッシュごと取出し乾燥処理後秤量し、抽出前後の質量比較を行い残留不溶分の質量%を測定した値である。
【0061】
封止材シートの融点及び補外融解開始温度を、上記において詳細を説明した測定方法(「示差走査熱量測定(DSC)、JIS K 7121-1987に基く測定方法」によって測定した。DSCの測定は、-80~+200℃の温度範囲において、初回昇温、初回降温、2回目昇温、2回目降温と、昇温降温を繰り返し測定するが、今回のデータ解析は初回昇温のデータを利用した。その中の実施例3の封止材シートについては、
図3に融点及び補外融解開始温度を示す。
図3縦軸は、熱流(熱容量)であり、横軸は温度を表す。この
図3から実施例3の封止材シートの融点は106.6℃であり、補外融解開始温度は95.1℃であり、よって、補外融解開始温度と融点の温度差は11.5℃である。
【0062】
<評価例1:モールディング特性1>
表面がフラットな白板強化ガラスの面上に、リード線(250μm径)を配置し、更に当該リード線を覆って、150mm×150mmにカットした実施例、比較例の各封止材シートを積層したものを設定温度150℃、真空引き3分、上部チャンバーを大気圧解放し、真空加圧7分で真空加熱ラミネート処理(真空ラミネート処理)を行い、それぞれの実施例、比較例について太陽電池モジュール評価用サンプルを得た。この加熱処理中におけるラミネート中の封止材シートの樹脂温度(到達温度)は147℃であった。これらの太陽電池モジュール評価用サンプルについて、目視観察し、下記の評価基準により、モールディング特性を評価した。
(評価基準)
A:封止材シートが対面する基材面の凹凸に完全に追従。空隙の形成は観察されなかった。
B:2mm2以内の気泡が5個以内観察された。
C:封止材シートの一部が対面する基材面の凹凸に完全に追従せず、リード線の近辺に一部ラミネート不良部分(空隙)が形成された。
評価結果を「モールディング特性1」として下記表に記す。
【0063】
<評価例2:モールディング特性2>
リード線(250μm径)を10mm間隔で10本並べて配置したこと以外、上記モールディング特性1と同様の方法及び同様の評価基準でモールディング特性を評価した。
評価結果を「モールディング特性2」として下記表に記す。
【0064】
<評価例3:耐熱クリープ>
耐熱性を評価するための試験として、以下に記す方法による「耐熱クリープ試験」を行った。「耐熱クリープ試験」においては、250mm角の半強化ガラス上に封止材シートを75mm×50mmの大きさにカットしたものを1枚、75mm×50mmの半強化ガラス1枚を順に積層した上で、太陽電池モジュールの製造用の真空ラミネータにて150℃で15分間圧着し、上記ラミネートサンプルを垂直に立てた状態で140℃のオーブン中で12時間静置し、半強化ガラスのずれた距離(mm)を測定した。
【表3】
【0065】
上記表から分かるように、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂とし、融点が55℃以上120℃以下であって、且つ、補外融解開始温度と融点の温度差が20℃以下である封止材シートであることにより、太陽電池モジュール用の封止材シートとしての好ましい水準のモールディング性を備え、耐熱性を備えていることが分かる。
【符号の説明】
【0066】
1 封止材シート
11 コア層
12 スキン層
2 透明前面基板
3 前面封止材層
4 太陽電池素子
5 背面封止材層
6 裏面保護シート
【要約】
【課題】太陽電池モジュール用の封止材シートとしての好ましい水準のモールディング性を備え、耐熱性を備える封止材シートを提供する。
【解決手段】太陽電池モジュール用の封止材シートであって、ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂とし、融点が55℃以上120℃以下であって、且つ、補外融解開始温度と融点の温度差が20℃以下であり、好ましくはゲル分率が10%以下である封止材シート及び前面封止材層と背面封止材層の少なくとも1つがその封止材シートによって構成されている太陽電池モジュールである。
【選択図】
図1