(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-28
(45)【発行日】2025-11-06
(54)【発明の名称】甲殻類用飼育水
(51)【国際特許分類】
A01K 61/59 20170101AFI20251029BHJP
【FI】
A01K61/59
(21)【出願番号】P 2025139573
(22)【出願日】2025-08-25
【審査請求日】2025-08-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】程 燕飛
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】飯田 健斗
(72)【発明者】
【氏名】原 田
(72)【発明者】
【氏名】張 振亜
(72)【発明者】
【氏名】張 馳
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-135285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00
A01K 61/10
A01K 61/50
A01K 61/51
A01K 61/54
A01K 61/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲殻類の飼育に用いる甲殻類用飼育水であって、
飼育水1L当たりの溶質の質量として、
11.454~15.486gのNaClと、
0.969~1.384gのMgCl
2と、
1.392~1.943gのMgSO
4と、
0.451~0.659gのCaCl
2と、
0.309~0.429gのKClと、
0.085~0.118gのNaHCO
3と、
を含むこと
を特徴とする甲殻類用飼育水。
【請求項2】
甲殻類の飼育に用いる甲殻類用飼育水であって、
飼育水1L当たりの溶質の質量として、
3896.9~5268.7mgのNa
+と、
515.7~731.4mgのMg
2+と、
209.7~306.4mgのCa
2+と、
150.4~208.8mgのK
+と、
を含むこと
を特徴とする甲殻類用飼育水。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、甲殻類の養殖に用いる甲殻類用飼育水に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、甲殻類の陸上養殖に用いる飼育水が研究されている。例えば甲殻類の一種であるモクズガニは、一般的に自然海水を用いて孵化するが、栃木県や群馬県のような内陸部では自然海水の確保が難しく、孵化が困難である。このため、海から離れた地域でも甲殻類の孵化を実現できる人工海水が必要とされている。また、従来の自然海水を用いた養殖では、モクズガニの生存率が約30%程度にとどまっていた。このため、甲殻類の陸上養殖の生産効率向上を図るうえで、飼育水を甲殻類の生育に適合した成分量で調整し、生存率の低下を抑制することが重要となる。
【0003】
特許文献1には、エビを効率的に生産するための飼育水が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、エビ養殖用の飼育水の成分として、水1m3当たり塩化ナトリウムを3115g、塩化マグネシウムを2098g、塩化カルシウムを410g、重炭酸ナトリウムを82g、硫酸ナトリウムを590g、塩化カリウムを109g、塩化ストロンチウムを5g含む飼育水が開示されている。しかしながら、自然海水を用いる場合と比べて甲殻類の生存率低下を抑制できる具体的な成分量について開示されておらず、甲殻類の生存率低下の確実な抑制を図ることができない問題がある。
【0006】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、自然海水を用いる場合と比べて甲殻類の生存率の確実な向上が図られた甲殻類用飼育水を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明における甲殻類用飼育水は、甲殻類の飼育に用いる甲殻類用飼育水であって、飼育水1L当たりの溶質の質量として、11.454~15.486gのNaClと、0.969~1.384gのMgCl2と、1.392~1.943gのMgSO4と、0.451~0.659gのCaCl2と、0.309~0.429gのKClと、0.085~0.118gのNaHCO3と、を含むことを特徴とする。
【0008】
第2発明における甲殻類用飼育水は、甲殻類の飼育に用いる甲殻類用飼育水であって、飼育水1L当たりの溶質の質量として、3896.9~5268.7mgのNa+と、515.7~731.4mgのMg2+と、209.7~306.4mgのCa2+と、150.4~208.8mgのK+と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明及び第2発明によれば、甲殻類の生存率について、自然海水を用いる場合と比べて、生存率60%以上を実現できる。これにより、自然海水を用いる場合と比べて甲殻類の生存率の確実な向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態の飼育水を用いる飼育装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態としての甲殻類用飼育水10の一例について詳細に説明する。なお、各図における構成は、説明のため模式的に記載されており、例えば各構成の大きさや、構成毎における大きさの対比等については、図とは異なってもよい。
【0012】
(甲殻類用飼育水10)
図1を参照して、本実施形態における甲殻類用飼育水10の一例を説明する。甲殻類用飼育水10は、例えば養殖システム100を用いて甲殻類を養殖するために用いられる。ここで、甲殻類とは、カニやエビ等を含む。
【0013】
養殖システム100は、養殖対象である甲殻類を育成するための装置である。養殖システム100は、例えば陸上養殖など、海水や河川水の調達が困難な土地で用いられる。
【0014】
養殖システム100は、例えば甲殻類用飼育水10を循環利用する閉鎖循環式が用いられる。甲殻類(特に稚カニ)を孵化するためには、水温を約20℃に保ちつつ水質を維持するために大量のエネルギーを消費する。このため、閉鎖循環式の採用により、養殖システム100は、甲殻類の養殖に伴うエネルギー消費量を抑制できるため、甲殻類の孵化コスト及び二酸化炭素排出量の低減が可能となる。また、閉鎖循環式の採用により、甲殻類用飼育水10の成分比率を甲殻類の養殖に適した条件に維持しやすく、生存率の向上を図ることができる。
【0015】
養殖システム100は、例えば甲殻類用飼育水10を収容する収容部1を備える。養殖システム100は、物理ろ過装置2と、生物ろ過装置3と、殺菌装置4と、をさらに備えてもよい。養殖システム100の各構成は、例えばポリエチレン管等の公知の送水管で互いに接続されている。甲殻類用飼育水10は、例えば収容部1の底中央に設置された送水ポンプPを介して、収容部1から物理ろ過装置2に流動する。その後、甲殻類用飼育水10は、物理ろ過装置2からオーバーフローして生物ろ過装置3に流動した後、生物ろ過装置3からオーバーフローして殺菌装置4を経由して、その後収容部1に戻る。
【0016】
甲殻類用飼育水10は、収容部1に収容され、収容部1内の甲殻類を養殖するために用いられる。甲殻類用飼育水10の塩分濃度は、例えば約1.5~2.0質量%に調整される。すなわち、海水相当の塩分濃度3.0質量%に調整される人工海水と比べて、使用する塩の量を低減できるため、甲殻類の養殖コストを低減できる。
【0017】
甲殻類用飼育水10は、主成分として、例えばNa+(ナトリウムイオン)、Mg2+(マグネシウムイオン)、Ca2+(カルシウムイオン)、K+(カリウムイオン)を含む。甲殻類用飼育水10は、SO42-(硫酸イオン)を含んでもよい。
【0018】
甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、11.454~15.486gのNaClと、0.969~1.384gのMgCl2と、1.392~1.943gのMgSO4と、0.451~0.659gのCaCl2と、0.309~0.429gのKClと、0.085~0.118gのNaHCO3と、を含む。甲殻類の生存率について、自然海水を用いる場合と比べて、生存率60%以上を実現できる。これにより、自然海水を用いる場合と比べて甲殻類の生存率の確実な向上を図ることができる。
【0019】
なお、甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、NaClが11.454g未満又は15.486g超の場合、生存率60%以上の実現が確認されておらず、甲殻類の生存率の確実な向上を図れない懸念がある。また、甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、MgCl2が0.969g未満又は1.384g超の場合、生存率60%以上の実現が確認されておらず、甲殻類の生存率の確実な向上を図れない懸念がある。また、甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、MgSO4が1.392g未満又は1.943g超の場合、生存率60%以上の実現が確認されておらず、甲殻類の生存率の確実な向上を図れない懸念がある。また、甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、CaCl2が0.451g未満又は0.659g超の場合、生存率60%以上の実現が確認されておらず、甲殻類の生存率の確実な向上を図れない懸念がある。また、甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、KClが0.309g未満又は0.429g超の場合、生存率60%以上の実現が確認されておらず、甲殻類の生存率の確実な向上を図れない懸念がある。また、甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、NaHCO3が0.085g未満又は0.118g超の場合、生存率60%以上の実現が確認されておらず、甲殻類の生存率の確実な向上を図れない懸念がある。
【0020】
甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、3896.9~5268.7mgのNa+と、515.7~731.4mgのMg2+と、209.7~306.4mgのCa2+と、150.4~208.8mgのK+と、を含む。この場合、甲殻類の生存率について、自然海水を用いる場合と比べて、生存率60%以上を実現できる。これにより、自然海水を用いる場合と比べて甲殻類の生存率の確実な向上を図ることができる。
【0021】
なお、甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、Na+が3896.9mg未満又は5268.7mg超の場合、生存率60%以上の実現が確認されておらず、甲殻類の生存率の確実な向上を図れない懸念がある。また、甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、Mg2+が515.7mg未満又は731.4mg超の場合、生存率60%以上の実現が確認されておらず、甲殻類の生存率の確実な向上を図れない懸念がある。また、甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、Ca2+が209.7mg未満又は306.4mg超の場合、生存率60%以上の実現が確認されておらず、甲殻類の生存率の確実な向上を図れない懸念がある。また、甲殻類用飼育水10は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、K+が150.4mg未満又は208.8mg超の場合、生存率60%以上の実現が確認されておらず、甲殻類の生存率の確実な向上を図れない懸念がある。
【0022】
<収容部1>
収容部1は、甲殻類用飼育水10と養殖対象の甲殻類とを収容する。収容部1は、例えば甲殻類を収容する生け簀や水槽等である。
【0023】
<物理ろ過装置2>
物理ろ過装置2は、甲殻類用飼育水10に含まれる懸濁物や沈殿物を物理的な方法により取り除き、甲殻類用飼育水10の透明度を維持する装置である。物理ろ過装置2は、収容部1の外部に設けられてもよく、収容部1の内部に設けられてもよい。物理ろ過装置2は、例えば公知のフィルター等を用いて甲殻類用飼育水10に対する物理ろ過を実施してもよい。
【0024】
<生物ろ過装置3>
生物ろ過装置3は、甲殻類用飼育水10に含まれるアンモニアや亜硝酸等を0.25ppm以下に低減することで、甲殻類の生育環境を適切に維持する装置である。生物ろ過装置3は、収容部1の外部で接続されてもよく、収容部1の内部に設けられてもよい。生物ろ過装置3は、例えばバクテリア等の微生物が担持された公知の微生物担体等を用いて甲殻類用飼育水10に対する生物ろ過を実施してもよい。
【0025】
<殺菌装置4>
殺菌装置4は、甲殻類用飼育水10を殺菌する装置である。殺菌装置4は、収容部1の外部で接続されてもよく、収容部1の内部に設けられてもよい。殺菌装置4は、例えば公知の紫外線殺菌浄化装置、オゾン発生装置、次亜塩素酸水生成装置等が用いられてもよい。
【0026】
本実施形態によれば、甲殻類用飼育水10は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、11.454~15.486gのNaClと、0.969~1.384gのMgCl2と、1.392~1.943gのMgSO4と、0.451~0.659gのCaCl2と、0.309~0.429gのKClと、0.085~0.118gのNaHCO3と、を含む。このため、甲殻類の生存率について、自然海水を用いる場合と比べて、生存率60%以上を実現できる。これにより、自然海水を用いる場合と比べて甲殻類の生存率の確実な向上を図ることができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、甲殻類用飼育水10は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、3896.9~5268.7mgのNa+と、515.7~731.4mgのMg2+と、209.7~306.4mgのCa2+と、150.4~208.8mgのK+と、を含む。このため、甲殻類の生存率について、自然海水を用いる場合と比べて、生存率60%以上を実現できる。これにより、自然海水を用いる場合と比べて甲殻類の生存率の確実な向上を図ることができる。
【実施例】
【0028】
以下に、甲殻類用飼育水10と甲殻類の生存率の関係の詳細について、上述した実施形態を用いた場合の本発明例及び比較例を挙げて具体的に説明する。
【0029】
<甲殻類の生存率に関する実験条件>
本実験では、甲殻類が飼育される甲殻類用飼育水10について、飼育水1L当たりの溶質の質量として、NaCl、MgCl2、MgSO4、CaCl2、KCl、NaHCO3の各添加量の組合せごとに、甲殻類の生存率を比較して、甲殻類の生産効率を確認した。
【0030】
本実験では、甲殻類としてモクズガニを用いた。なお、具体的には、孵化後の幼生であるゾエア(稚カニ)を用いた。各実験に用いたゾエアの数は、30万匹~80万匹程度である。
【0031】
収容部1としては、直径3m、高さ1.2m(水位1.0m)の水槽を用いた。
【0032】
物理ろ過装置2としては、200メッシュ(孔のサイズが約75マイクロメートル)のフィルターを有する装置を用いた。この装置を、30t/時の処理能力で稼働した。物理ろ過に際して、30分又は60分間隔でフィルターを20~30秒間逆洗した。生物ろ過装置3としては、本体が0.5~1.0m3、担体量0.17~0.34m3の装置を用いた。殺菌装置4として、公知の紫外線殺菌装置を用いた。この装置を、10~15t/時の殺菌処理能力で稼働した。
【0033】
甲殻類に対する餌料の供給方法としては、餌料としてシオミズツボワムシ及びナンノクロロプシスを用いた。以下に、一例として稚ガニに対する餌料の供給量を示す。孵化後0日から6日までのゾエア(以下、「Z1期」と称する。)に対しては、シオミズツボワムシを100万個/トン、ナンノクロロプシスを5000万個/トンの割合で供給した。第一回目の脱皮後7日から12日までのゾエア(以下、「Z2期」と称する。)に対しては、シオミズツボワムシを100万個/トン、ナンノクロロプシスを7000万個/トンの割合で供給した。その後、第二回目の脱皮後13日から19日までのゾエア(以下、「Z3期」と称する。)、第三回目の脱皮後20日から25日までのゾエア(以下、「Z4期」と称する。)、第四回目の脱皮後25日から30日までのゾエア(以下、「Z5期」と称する。)を経た後、ほぼ30日間はメガロパとなる。Z3期からZ5期にかけて使用する配合餌料については、モクズガニ専用の餌料が市販されていないため、代替としてクルマエビ用の餌料(粗タンパク質含有率53質量%)を使用した。具体的には、クルマエビ稚魚用配合飼料を2g/トン、ワムシを150万個/トンから200万個/トン、ナンノクロロプシスを1億個/トンの範囲で供給した。
【0034】
甲殻類の飼育環境は、飼育密度を15,000尾/m3~30,000尾/m3 の範囲とした。各成長段階における1匹当たりの平均体重は、Z1期が約0.13mg、Z2期が約0.27mg、Z3期が約0.5mg、Z4期が約1mg、Z5期が約1.8mg、メガロパが約5mgであった。甲殻類用飼育水10の水温は18℃~23℃の範囲、溶存酸素量は5.0mg/L~8.0mg/Lの範囲、pHは7.6~8.6の範囲に調整した。また、送水ポンプPを用いて、甲殻類用飼育水10を6~12t/時で循環させた。
【0035】
甲殻類用飼育水10としては、Cl-が24.2mg/L、NO3-が40.7mg/L、Na+が11.5mg/L、Mg2+が13mg/L、K+が1.5mg/L、Ca2+が15mg/L、NH4+及びNO2-が0mg/Lの溶媒に対して、NaClと、MgCl2と、MgSO4と、CaCl2と、KClと、NaHCO3とを所定量だけ添加して調整した。なお、甲殻類用飼育水10の塩分濃度については、1.2~2.5質量%となるようにNaClの添加量で調整した。
【0036】
本実験で比較する甲殻類用飼育水10中の溶質質量は、次のとおりである。
【0037】
本発明例1では、上記溶媒に対して、NaClを15.272g/L、MgCl2を1.291g/L、MgSO4を1.856g/L、CaCl2を0.659g/L、KClを0.412g/L、NaHCO3を0.113g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が5195.9mg/L、Mg2+が683.9mg/L、Ca2+が306.4mg/L、K+が200.5mg/Lであった。
【0038】
本発明例2では、上記溶媒に対して、NaClを15.486g/L、MgCl2を1.384g/L、MgSO4を1.943g/L、CaCl2を0.602g/L、KClを0.429g/L、NaHCO3を0.118g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が5268.7mg/L、Mg2+が731.4mg/L、Ca2+が279.9mg/L、K+が208.8mg/Lであった。
【0039】
本発明例3では、上記溶媒に対して、NaClを11.454g/L、MgCl2を0.969g/L、MgSO4を1.392g/L、CaCl2を0.494g/L、KClを0.309g/L、NaHCO3を0.085g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が3896.9mg/L、Mg2+が515.7mg/L、Ca2+が229.7mg/L、K+が150.4mg/Lであった。
【0040】
本発明例4では、上記溶媒に対して、NaClを11.614g/L、MgCl2を1.038g/L、MgSO4を1.458g/L、CaCl2を0.451g/L、KClを0.322g/L、NaHCO3を0.089g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が3951.3mg/L、Mg2+が548.6mg/L、Ca2+が209.7mg/L、K+が156.7mg/Lであった。
【0041】
比較例1では、上記溶媒に対して、NaClを11.668g/L、MgCl2を1.095g/L、MgSO4を1.547g/L、CaCl2を0.563g/L、KClを0.420g/L、NaHCO3を0.069g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が3969.8mg/L、Mg2+が372.5mg/L、Ca2+が526.5mg/L、K+が191.4mg/Lであった。
【0042】
比較例2では、上記溶媒に対して、NaClを15.307g/L、MgCl2を1.112g/L、MgSO4を1.572g/L、CaCl2を0.550g/L、KClを0.392g/L、NaHCO3を0.158g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が5207.6mg/L、Mg2+が378.3mg/L、Ca2+が534.7mg/L、K+が187.1mg/Lであった。
【0043】
比較例3では、上記溶媒に対して、NaClを13.975g/L、MgCl2を1.771g/L、MgSO4を2.536g/L、CaCl2を0.586g/L、KClを0.380g/L、NaHCO3を0.112g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が4754.6mg/L、Mg2+が602.5mg/L、Ca2+が862.8mg/L、K+が199.2mg/Lであった。
【0044】
比較例4では、上記溶媒に対して、NaClを14.908g/L、MgCl2を1.364g/L、MgSO4を1.925g/L、CaCl2を0.774g/L、KClを0.403g/L、NaHCO3を0.116g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が5072.0mg/L、Mg2+が463.9mg/L、Ca2+が654.9mg/L、K+が263.2mg/Lであった。
【0045】
比較例5では、上記溶媒に対して、NaClを13.225g/L、MgCl2を1.075g/L、MgSO4を1.520g/L、CaCl2を0.525g/L、KClを0.558g/L、NaHCO3を0.093g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が4499.4mg/L、Mg2+が365.9mg/L、Ca2+が517.2mg/L、K+が178.6mg/Lであった。
【0046】
比較例6では、上記溶媒に対して、NaClを20.294g/L、MgCl2を1.311g/L、MgSO4を1.851g/L、CaCl2を0.484g/L、KClを0.397g/L、NaHCO3を0.099g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が6904.3mg/L、Mg2+が446.1mg/L、Ca2+が629.8mg/L、K+が164.8mg/Lであった。
【0047】
比較例7では、上記溶媒に対して、NaClを9.222g/L、MgCl2を1.159g/L、MgSO4を1.637g/L、CaCl2を0.468g/L、KClを0.339g/L、NaHCO3を0.111g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が3137.5mg/L、Mg2+が394.3mg/L、Ca2+が557.1mg/L、K+が159.3mg/Lであった。
【0048】
比較例8では、上記溶媒に対して、NaClを12.245g/L、MgCl2を1.055g/L、MgSO4を1.491g/L、CaCl2を0.324g/L、KClを0.392g/L、NaHCO3を0.116g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が4166.1mg/L、Mg2+が358.9mg/L、Ca2+が507.4mg/L、K+が110.1mg/Lであった。
【0049】
比較例9では、上記溶媒に対して、NaClを14.199g/L、MgCl2を0.711g/L、MgSO4を1.061g/L、CaCl2を0.566g/L、KClを0.329g/L、NaHCO3を0.092g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が4830.6mg/L、Mg2+が241.7mg/L、Ca2+が361.0mg/L、K+が192.6mg/Lであった。
【0050】
比較例10では、上記溶媒に対して、NaClを15.008g/L、MgCl2を1.307g/L、MgSO4を1.846g/L、CaCl2を0.549g/L、KClを0.215g/L、NaHCO3を0.096g/L添加した。このとき、甲殻類用飼育水10のイオン濃度は、Na+が5106.1mg/L、Mg2+が444.7mg/L、Ca2+が627.9mg/L、K+が186.6mg/Lであった。
【0051】
また、甲殻類の生存率について、モクズガニのゾエア幼生について飼育開始後30日目の生存率を評価した。モクズガニのゾエア幼生の生存率は、飼育開始から30日が経過した時点での総個体数を、飼育開始日(孵化直後)の総個体数で除した割合(%)として算出した。なお、ゾエア幼生の総個体数については、以下の手順により測定した。まず、内容積7m3の飼育水槽内の3つの異なる地点で、それぞれ1Lの飼育水をサンプルとして、ビーカー等の採水器具を用いて速やかに採取した。次に、採取した各飼育水サンプル(1L)に含まれる全てのゾエア幼生個体を目視にて計数し、得られた3つの計数値の平均値を1Lあたりの平均個体数(匹/L)として算出した。最後に、この平均個体数に、飼育水槽の総水量(7000L)を乗じることにより、飼育水槽内の推定総個体数を算出し、これをゾエア幼生の総個体数とした。生存率は、また、生存率の評価として、60%超を「評価:○」、60%未満を「評価:△」とした。
【0052】
<甲殻類の生存率に関する実験結果>
本実験の結果は、[表1]のとおりである。
【0053】
【0054】
表1によれば、「評価:○」である各実施例の甲殻類の生存率は、生存率が高い順に、本発明例1が72%、本発明例2が70%、本発明例3が66%、本発明例4が65%であった。これら本発明例1~4については、生存率が60%超であるため、「評価:○」とした。
【0055】
本発明例1~4の甲殻類用飼育水10は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、11.454~15.486gのNaClと、0.969~1.384gのMgCl2と、1.392~1.943gのMgSO4と、0.451~0.659gのCaCl2と、0.309~0.429gのKClと、0.085~0.118gのNaHCO3と、を含む。また、本発明例1~4の甲殻類用飼育水10は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、3896.9~5268.7mgのNa+と、515.7~731.4mgのMg2+と、209.7~306.4mgのCa2+と、150.4~208.8mgのK+と、を含む。その結果、甲殻類の生存率を60%以上とすることができた。これにより、自然海水を用いる場合と比べて甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができる。
【0056】
また、「評価:△」である各実施例の甲殻類の生存率は、生存率が高い順に、比較例1が58%、比較例2が56%、比較例3が55%、比較例4が55%、比較例5が54%、比較例6が53%、比較例7が52%、比較例8が47%、比較例9が45%、比較例10が43%であった。
【0057】
比較例1では、NaHCO3が0.085g/L未満であった。また、Mg2+が515.7mg/L未満、Ca2+が306.4mg/L超であった。このため、甲殻類の生存率が60%未満となり、甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができない場合がある。
【0058】
比較例2では、NaHCO3が0.118g/L超であった。また、Mg2+が515.7mg/L未満、Ca2+が306.4mg/L超であった。このため、甲殻類の生存率が60%未満となり、甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができない場合がある。
【0059】
比較例3では、MgCl2が1.384g/L超、MgSO4が1.943g/L超であった。また、Ca2+が306.4mg/L超であった。このため、甲殻類の生存率が60%未満となり、甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができない場合がある。
【0060】
比較例4では、CaCl2が0.659g/L超であった。また、Mg2+が515.7mg/L未満、Ca2+が306.4mg/L超、K+が208.8mg/L超であった。このため、甲殻類の生存率が60%未満となり、甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができない場合がある。
【0061】
比較例5では、KClが0.429g/L超であった。また、Mg2+が515.7mg/L未満、Ca2+が306.4mg/L超であった。このため、甲殻類の生存率が60%未満となり、甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができない場合がある。
【0062】
比較例6では、NaClが15.486g/L超であった。また、Na+が5268.7mg/L超、Mg2+が515.7mg/L未満、Ca2+が306.4mg/L超であった。このため、甲殻類の生存率が60%未満となり、甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができない場合がある。
【0063】
比較例7では、NaClが11.454g/L未満であった。また、Na+が3896.9mg/L未満、Mg2+が515.7mg/L未満、Ca2+が306.4mg/L超であった。このため、甲殻類の生存率が60%未満となり、甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができない場合がある。
【0064】
比較例8では、CaCl2が0.451g/L未満であった。また、Mg2+が515.7mg/L未満、Ca2+が306.4mg/L超、K+が150.4mg/L未満であった。このため、甲殻類の生存率が60%未満となり、甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができない場合がある。
【0065】
比較例9では、MgCl2が0.969g/L未満、MgSO4が1.392g/L未満であった。また、Mg2+が515.7mg/L未満、Ca2+が306.4mg/L超であった。このため、甲殻類の生存率が60%未満となり、甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができない場合がある。
【0066】
比較例10では、KClが0.309g/L未満であった。また、Mg2+が515.7mg/L未満、Ca2+が306.4mg/L超であった。このため、甲殻類の生存率が60%未満となり、甲殻類の生産効率の確実な向上を図ることができない場合がある。
【0067】
すなわち、甲殻類の生存率を向上させるうえで好適な甲殻類用飼育水10は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、11.454~15.486gのNaClと、0.969~1.384gのMgCl2と、1.392~1.943gのMgSO4と、0.451~0.659gのCaCl2と、0.309~0.429gのKClと、0.085~0.118gのNaHCO3と、を含む。また、飼育水1L当たりの溶質の質量として、3896.9~5268.7mgのNa+と、515.7~731.4mgのMg2+と、209.7~306.4mgのCa2+と、150.4~208.8mgのK+と、を含む。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
100 養殖システム
1 収容部
10 甲殻類用飼育水
2 物理ろ過装置
3 生物ろ過装置
4 殺菌装置
P 送水ポンプ
【要約】
【課題】自然海水を用いる場合と比べて甲殻類の生存率の確実な向上が図られた甲殻類用飼育水を提供する。
【解決手段】甲殻類用飼育水10は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、11.454~15.486gのNaClと、0.969~1.384gのMgCl
2と、1.392~1.943gのMgSO
4と、0.451~0.659gのCaCl
2と、0.309~0.429gのKClと、0.085~0.118gのNaHCO
3と、を含むことを特徴とする。甲殻類用飼育水10は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、3896.9~5268.7mgのNa
+と、515.7~731.4mgのMg
2+と、209.7~306.4mgのCa
2+と、150.4~208.8mgのK
+と、を含んでもよい。
【選択図】
図1