(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-28
(45)【発行日】2025-11-06
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ、及び、ガイドワイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20251029BHJP
【FI】
A61M25/09 550
A61M25/09 500
A61M25/09 514
(21)【出願番号】P 2021208107
(22)【出願日】2021-12-22
【審査請求日】2024-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 靖尚
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-065795(JP,A)
【文献】特開平02-289267(JP,A)
【文献】特開2004-181089(JP,A)
【文献】特開2003-159333(JP,A)
【文献】特開2008-237253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドワイヤであって、
先端側に配置された第1コアシャフトと、
前記第1コアシャフトよりも基端側に配置された、前記第1コアシャフトよりも硬度の大きいステンレス鋼により形成された第2コアシャフトと、
を備え、
前記第1コアシャフトには、先端側から基端側に向かって、非線形擬弾性を有する非線形擬弾性領域と、線形擬弾性を有する線形擬弾性領域とが隣接して設けられており、
前記非線形擬弾性領域と前記線形擬弾性領域との境界には溶接部が形成されておらず、
前記線形擬弾性領域の基端部と前記第2コアシャフトの先端部との間には、前記第1コアシャフトと前記第2コアシャフトとの溶接部が形成されている、ガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載のガイドワイヤであって、
前記第1コアシャフトにおいて、前記非線形擬弾性領域と前記線形擬弾性領域とは、化学量論組成が実質的に同じである、ガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガイドワイヤであって、
前記第1コアシャフトにおいて、前記線形擬弾性領域の長手方向における長さは、前記非線形擬弾性領域の長手方向における長さの1/4以下である、ガイドワイヤ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のガイドワイヤであって、
前記第1コアシャフトにおいて、前記線形擬弾性領域の硬度は、前記非線形擬弾性領域の硬度よりも大きい、ガイドワイヤ。
【請求項5】
ガイドワイヤの製造方法であって、
線形擬弾性を有する第1コアシャフトと、前記第1コアシャフトよりも硬度の大きいステンレス鋼により形成された第2コアシャフトと、を準備する準備工程と、
前記第1コアシャフトの基端部に、前記第2コアシャフトの先端部を溶接する溶接工程と、
前記第1コアシャフトの先端側の一部分を加熱処理することにより、前記第1コアシャフトの先端側に、非線形擬弾性を有する非線形擬弾性領域を形成する加熱処理工程と、
を含
み、
前記加熱処理工程によって、前記第1コアシャフトには、先端側から基端側に向かって、前記非線形擬弾性領域と、前記線形擬弾性を有する線形擬弾性領域とが隣接して設けられ、
前記溶接工程によって、前記線形擬弾性領域の基端部と前記第2コアシャフトの先端部との間に、前記第1コアシャフトと前記第2コアシャフトとの溶接部が形成され、
前記非線形擬弾性領域と前記線形擬弾性領域との境界には溶接部が形成されない、ガイドワイヤの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のガイドワイヤの製造方法であって、
前記加熱処理工程を行った後、前記溶接工程を実行する、ガイドワイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドワイヤ、及び、ガイドワイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管にカテーテル等を挿入する際に用いられるガイドワイヤが知られている。このようなガイドワイヤでは、曲げに対する柔軟性や復元性、手元部分におけるガイドワイヤへの操作を先端側へと伝達するトルク伝達性や押し込み性、及び、折れ、ヨレによる変形に強い耐キンク性が求められる。なお、トルク伝達性と押し込み性を総称して「操作性」とも呼ぶ。例えば、特許文献1及び特許文献2には、いずれも、操作性及び耐キンク性を向上させるために、先端側から基端側に向かって、第1ワイヤ、第3ワイヤ、第2ワイヤをそれぞれ配置し、第2ワイヤの弾性率を第1ワイヤよりも大きくすると共に、第3ワイヤの弾性率を第1ワイヤよりも大きく、かつ、第2ワイヤよりも小さくした(すなわち、第1ワイヤの弾性率と、第2ワイヤの弾性率の中間とした)ガイドワイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-65797号公報
【文献】特許第4455808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載のガイドワイヤでは、いずれも、第1ワイヤと第3ワイヤが溶接により連結され、かつ、第3ワイヤと第2ワイヤとが溶接により連結されている。すなわち、特許文献1及び特許文献2に記載のガイドワイヤでは、異なるワイヤ同士が溶接された部分(以降「溶接部」とも呼ぶ)が、少なくとも2か所存在している。ここで、ワイヤ同士の溶接部はワイヤ母材に比べて脆弱であるため、ガイドワイヤの使用に伴う形状変化や、力の付加に伴って、溶接部を起点としてワイヤが変形する可能性がある。従って、ガイドワイヤの耐久性向上のためには、ワイヤ同士の溶接部は少ない方が好ましい。また、ガイドワイヤの製造工数を削減し、ガイドワイヤの製造コストを低下させるという観点からも、ワイヤ同士の溶接部は少ない方が好ましい。なお、このような課題は、血管系に限らず、リンパ腺系、胆道系、尿路系、気道系、消化器官系、分泌腺及び生殖器官等、人体内の各器官に挿入されるガイドワイヤに共通する。なお、ワイヤは「コアシャフト」とも呼ばれる。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、ガイドワイヤにおいて、操作性と耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、ガイドワイヤが提供される。このガイドワイヤは、先端側に配置された第1コアシャフトと、前記第1コアシャフトよりも基端側に配置された、前記第1コアシャフトよりも硬度の大きい第2コアシャフトと、を備え、前記第1コアシャフトには、先端側から基端側に向かって、非線形擬弾性を有する非線形擬弾性領域と、線形擬弾性を有する線形擬弾性領域とが隣接して設けられており、前記非線形擬弾性領域と前記線形擬弾性領域との境界には溶接部が形成されておらず、前記線形擬弾性領域の基端部と前記第2コアシャフトの先端部との間には、前記第1コアシャフトと前記第2コアシャフトとの溶接部が形成されている。
【0008】
この構成によれば、第1コアシャフトには、先端側から基端側に向かって、非線形擬弾性(「超弾性」とも呼ばれる)を有する非線形擬弾性領域と、線形擬弾性を有する線形擬弾性領域とが隣接して設けられている。ここで、第1コアシャフトの基端側に設けられた線形擬弾性領域は、非線形擬弾性領域よりも硬度が大きい。また、第2コアシャフトは、第1コアシャフト(非線形擬弾性領域及び線形擬弾性領域)よりも硬度が大きい。このため、本構成によれば、第1コアシャフトの基端側に線形擬弾性領域を設けることによって、第1コアシャフトと第2コアシャフトとの硬度ギャップを低減できる。この結果、線形擬弾性領域の基端部と第2コアシャフトの先端部との間に溶接部を形成しやすくできると共に、ガイドワイヤの操作性を向上できる。また、第1コアシャフトにおいて、非線形擬弾性領域と線形擬弾性領域との境界には溶接部が形成されていない。このため、本構成によれば、溶接部が2か所存在する従来のガイドワイヤと比較して、ガイドワイヤの耐久性を向上できる。これらの結果、操作性と耐久性を向上させたガイドワイヤを提供できる。
【0009】
(2)上記形態のガイドワイヤでは、前記第1コアシャフトにおいて、前記非線形擬弾性領域と前記線形擬弾性領域とは、化学量論組成が実質的に同じであってもよい。
この構成によれば、第1コアシャフトにおいて、非線形擬弾性領域と線形擬弾性領域とは、化学量論組成が実質的に同じであるため、非線形擬弾性領域と線形擬弾性領域とを、例えば、NiTi(ニッケルチタン)合金や、NiTiと他の金属との合金のような、同一の材料で形成できる。
【0010】
(3)上記形態のガイドワイヤでは、前記第1コアシャフトにおいて、前記線形擬弾性領域の長手方向における長さは、前記非線形擬弾性領域の長手方向における長さの1/4以下であってもよい。
この構成によれば、線形擬弾性領域の長手方向における長さは、非線形擬弾性領域の長手方向における長さの1/4以下であるため、ガイドワイヤにおける血管選択性、柔軟性、及び復元性を向上させることができる。
【0011】
(4)上記形態のガイドワイヤでは、前記第1コアシャフトにおいて、前記線形擬弾性領域の硬度は、前記非線形擬弾性領域の硬度よりも大きくてもよい。
この構成によれば、第1コアシャフトにおいて、線形擬弾性領域の硬度は、非線形擬弾性領域の硬度よりも大きいため、線形擬弾性領域によって、第1コアシャフトと第2コアシャフトとの硬度ギャップを低減できる。
【0012】
(5)本発明の一形態によれば、ガイドワイヤの製造方法が提供される。この製造方法は、線形擬弾性を有する第1コアシャフトと、前記第1コアシャフトよりも硬度の大きい第2コアシャフトと、を準備する準備工程と、前記第1コアシャフトの基端部に、前記第2コアシャフトの先端部を溶接する溶接工程と、前記第1コアシャフトの先端側の一部分を加熱処理することにより、前記第1コアシャフトの先端側に、非線形擬弾性を有する非線形擬弾性領域を形成する加熱処理工程と、を含む。
一般に、硬度差が大きい部材同士の溶接は困難である。この点、本製造方法(溶接工程)によれば、線形擬弾性を有する第1コアシャフトの基端部に、第2コアシャフトの先端部を溶接するため、全体が非線形擬弾性を有する第1コアシャフトに第2コアシャフトを溶接する場合と比較して、溶接を容易に行うことができる。また、溶接が1か所でよいため、溶接部が2か所存在する従来のガイドワイヤと比較して、溶接工程の工数及びコストを低減できる。さらに、本製造方法(加熱処理工程)によれば、線形擬弾性を有する第1コアシャフトの先端側の一部分を加熱処理することにより、非線形擬弾性を有する非線形擬弾性領域を形成できる。すなわち、加熱処理によって第1コアシャフトの線形擬弾性を非線形擬弾性へと変化させることで、1本の第1コアシャフト中に、非線形擬弾性領域と線形擬弾性領域とを簡単に形成し、共存させることができる。これらの結果、操作性と耐久性を向上させたガイドワイヤを製造できる。
【0013】
(6)上記形態のガイドワイヤの製造方法では、前記加熱処理工程を行った後、前記溶接工程を実行してもよい。
この構成によれば、加熱処理工程を行った後で溶接工程を実行するため、逆の場合と比較して、加熱処理に伴う溶接部の劣化や損傷を抑制できる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ガイドワイヤ、ガイドワイヤ用のコアシャフト(第1,2コアシャフトの接合体や、第1コアシャフト単体)、ガイドワイヤの製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態のガイドワイヤの構成を例示した説明図である。
【
図2】比較例のガイドワイヤの構成を示す説明図である。
【
図3】溶接部近傍におけるコアシャフトの硬度変化を表す図である。
【
図5】
図1に示すガイドワイヤの製造方法の一例を示す図である。
【
図6】
図1に示すガイドワイヤの製造方法の他の例を示す図である。
【
図7】第2実施形態のガイドワイヤの構成を例示した説明図である。
【
図8】第3実施形態のガイドワイヤの構成を例示した説明図である。
【
図9】非線形擬弾性及び線形擬弾性のSSカーブを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のガイドワイヤ1の構成を例示した説明図である。ガイドワイヤ1は、血管や消化器官に他の医療デバイス(カテーテル等)を挿入する際に用いられる医療器具であり、第1コアシャフト10と、第2コアシャフト20と、溶接部30と、コイル体40と、先端固定部51と、基端固定部52と、中間固定部53とを備えている。ガイドワイヤ1は、第1コアシャフト10と第2コアシャフト20とが、1か所の溶接部30により接続されており、第1コアシャフト10の基端側に線形擬弾性領域A2が設けられていることにより、ガイドワイヤ1の操作性と耐久性を向上できる。なお、操作性とは、トルク伝達性と押し込み性の総称である。
【0017】
図1では、ガイドワイヤ1の中心を通る軸を軸線O(一点鎖線)で表す。
図1の例では、軸線Oは、第1コアシャフト10、第2コアシャフト20、及びコイル体40の各中心を通る軸とそれぞれ一致している。しかし、軸線Oは、上述の各構成部材の各中心軸と相違していてもよい。
図1には、相互に直交するXYZ軸を図示する。X軸はガイドワイヤ1の長さ方向に対応し、Y軸はガイドワイヤ1の高さ方向に対応し、Z軸はガイドワイヤ1の幅方向に対応する。
図1の左側(-X軸方向)をガイドワイヤ1及び各構成部材の「先端側」と呼び、
図1の右側(+X軸方向)をガイドワイヤ1及び各構成部材の「基端側」と呼ぶ。また、ガイドワイヤ1及び各構成部材について、先端側に位置する端部を「先端」と呼び、先端及びその近傍を「先端部」と呼ぶ。また、基端側に位置する端部を「基端」と呼び、基端及びその近傍を「基端部」と呼ぶ。先端側は、生体内部へ挿入され、基端側は、医師等の術者により操作される。これらの点は、
図1以降においても共通する。
【0018】
第1コアシャフト10は、ガイドワイヤ1の先端側、換言すれば、第2コアシャフト20よりも先端側に配置されている。第1コアシャフト10は、基端側が太径で先端側が細径とされた、先細りした長尺形状の部材である。本実施形態の第1コアシャフト10は、NiTi(ニッケルチタン)合金や、NiTiと他の金属との合金により形成されている。第1コアシャフト10は、先端側から基端側に向かって順に、細径部11、テーパ部12、第1太径部13、第2太径部14を有している。各部の外径や長さは任意に決定できる。
【0019】
細径部11は、第1コアシャフト10の先端部に設けられている。細径部11は、第1コアシャフト10の外径が最小の部分であり、略一定の外径を有する略円柱形状の部分である。テーパ部12は、細径部11と第1太径部13との間に設けられている。テーパ部12は、先端側から基端側に向かって外径が拡大した略円錐台形状の部分である。なお、本実施形態において「略一定」とは「概ね一定」と同義であり、製造誤差等に起因したぶれを許容しつつ、概ね一定であることを意味する。同様に、「略円柱形状/略円錐台形状」とは「概ね円柱形状/概ね円錐台形状」と同義であり、製造誤差等に起因したぶれを許容しつつ、概ね当該形状であることを意味する。
【0020】
第1太径部13は、テーパ部12と第2太径部14との間に設けられている。第1太径部13は、細径部11よりも大きな略一定の外径を有する略円柱形状の部分である。第2太径部14は、第1コアシャフト10の基端部に設けられている。第2太径部14は、細径部11よりも大きく、かつ、第1太径部13と同一の外径を有する略円柱形状の部分である。なお、本実施形態において「同一」及び「等しい」とは、厳密に一致する場合に限らず、製造誤差等に起因した相違を許容する意味である。
【0021】
ここで、細径部11、テーパ部12、及び第1太径部13は、非線形擬弾性(「超弾性」とも呼ばれる)を有しており、第1コアシャフト10において非線形擬弾性を有する区間を「非線形擬弾性領域A1」とも呼ぶ。非線形擬弾性領域A1は、細径部11の先端から第1太径部13の基端までの区間である。また、第2太径部14は、線形擬弾性を有しており、第1コアシャフト10において線形擬弾性を有する区間を「線形擬弾性領域A2」とも呼ぶ。線形擬弾性領域A2は、第2太径部14の先端から基端までの区間である。非線形擬弾性領域A1の長手方向(X軸方向)における長さL1と、線形擬弾性領域A2の長手方向(X軸方向)における長さL2とは、任意に決定できる。ガイドワイヤ1における血管選択性、柔軟性、及び復元性を向上させるためには、長さL2は、長さL1の1/4以下であることが好ましい。なお、非線形擬弾性(超弾性)と、線形擬弾性との相違については、後述する。
【0022】
図1に示すように、第1コアシャフト10では、先端側から基端側に向かって、非線形擬弾性領域A1と、線形擬弾性領域A2とが隣接して設けられている。また、非線形擬弾性領域A1と線形擬弾性領域A2との境界(換言すれば、第1太径部13と第2太径部14との境界)は、溶接されておらず、溶接部が形成されていない。第1コアシャフト10において、非線形擬弾性領域A1(すなわち、細径部11、テーパ部12、第1太径部13の任意の部分)と、線形擬弾性領域A2(すなわち、第2太径部14の任意の部分)とは、ICP発光分光分析法による分析をした場合、化学量論組成が実質的に同じである。ICP発光分光分析法とは、高周波誘導結合プラズマを光源とする発光分光分析法である。ここで「実質的に同じ」とは、分析の結果、得られる各原子の存在割合が、誤差0.5%以内であることを意味する。
【0023】
第2コアシャフト20は、ガイドワイヤ1の基端側、換言すれば、第1コアシャフト10よりも基端側に配置されている。第2コアシャフト20は、基端側が太径で先端側が細径とされた、先細りした長尺形状の部材である。本実施形態の第2コアシャフト20は、第1コアシャフト10(具体的には、第1コアシャフト10の非線形擬弾性領域A1及び線形擬弾性領域A2)よりも硬度の大きい材料、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス鋼や、CoCr合金により形成されている。第2コアシャフト20は、先端側から基端側に向かって順に、細径部21、テーパ部22、太径部23を有している。各部の外径や長さは任意に決定できる。
【0024】
細径部21は、第2コアシャフト20の先端部に設けられている。細径部21は、第2コアシャフト20の外径が最小の部分であり、第1コアシャフト10の第2太径部14と同一かつ略一定の外径を有する略円柱形状である。テーパ部22は、細径部21と太径部23との間に設けられている。テーパ部22は、先端側から基端側に向かって外径が拡大した略円錐台形状である。太径部23は、第2コアシャフト20の基端部に設けられている。太径部23は、第2コアシャフト20の外径が最大の部分であり、略一定の外径を有する略円柱形状である。なお、第2コアシャフト20のうち、細径部21の先端から太径部23の基端までの区間を、第1コアシャフト10の非線形擬弾性領域A1及び線形擬弾性領域A2と区別するために、「第2コアシャフト領域A3」とも呼ぶ。
【0025】
溶接部30は、第1コアシャフト10と第2コアシャフト20とが溶接された部分である。
図1に示すように、溶接部30は、第1コアシャフト10のうち、線形擬弾性領域A2(第2太径部14)の基端部と、第2コアシャフト20の先端部との間に設けられている。
図1の例では、溶接部30は、軸線Oに対してほぼ垂直な平面状である。この溶接部30によって、第1コアシャフト10と第2コアシャフト20とが固定されている。
【0026】
第1コアシャフト10のうち、細径部11、テーパ部12、及び第1太径部13の先端側は、コイル体40によって覆われている。一方、第1コアシャフト10のうち、第1太径部13の基端側、及び第2太径部14と、第2コアシャフト20の各部とは、コイル体40によって覆われておらず、コイル体40から露出している。なお、第2コアシャフト20の太径部23は、術者がガイドワイヤ1を把持する際に使用される。
【0027】
コイル体40は、第1コアシャフト10に対して素線41を螺旋状に巻回して形成されており、略円筒形状を有している。コイル体40は、1本の素線を単条に巻回して形成される単条コイルであってもよく、複数本の素線を多条に巻回して形成される多条コイルであってもよく、複数本の素線を撚り合せた撚線を単条に巻回して形成される単条撚線コイルであってもよく、複数本の素線を撚り合せた撚線を複数用い、各撚線を多条に巻回して形成される多条撚線コイルであってもよい。コイル体40の素線41の線径と、コイル体40の外径及び内径と、コイル体40の長さとは、任意に決定できる。
【0028】
コイル体40の素線41は、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス合金、NiTi合金等、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金等の放射線透過性合金、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金(例えば、白金-ニッケル合金)等の放射線不透過性合金、上記以外の公知の材料によって形成できる。
【0029】
先端固定部51は、ガイドワイヤ1の先端部1dに設けられており、第1コアシャフト10の細径部11の先端部と、コイル体40の先端部とを一体的に保持している。基端固定部52は、第1コアシャフト10の第1太径部13の基端側の一部分に設けられており、第1コアシャフト10の第1太径部13と、コイル体40の基端部とを一体的に保持している。中間固定部53は、第1コアシャフト10の第1太径部13の先端側の一部分に設けられており、第1コアシャフト10の第1太径部13と、コイル体40の中央部とを一体的に保持している。なお、中間固定部53は無くてもよく、複数設けられていてもよい。先端固定部51、基端固定部52、及び中間固定部53は、任意の接合剤、例えば、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、Sn-Ag合金、Au-Sn合金等の金属はんだや、エポキシ系接着剤などの接着剤によって形成できる。先端固定部51、基端固定部52、及び中間固定部53は、それぞれ同じ接合剤を用いてもよく、異なる接合剤を用いてもよい。
【0030】
図2は、比較例のガイドワイヤ1xの構成を示す説明図である。非線形擬弾性(超弾性)と、線形擬弾性との相違について説明する前に、比較例のガイドワイヤ1xについて説明する。ガイドワイヤ1xは、第1コアシャフト10に代えて第1コアシャフト10xを有すると共に、溶接部30に代えて溶接部30xを有している。第1コアシャフト10xは、
図1で説明した第2太径部14を有しておらず、先端から基端までの全体が、非線形擬弾性を有する非線形擬弾性領域A1である。溶接部30xは、第1コアシャフト10xと第2コアシャフト20とが溶接された部分である。
図2に示すように、溶接部30xは、第1コアシャフト10xのうち、非線形擬弾性領域A1(第1太径部13)の基端部と、第2コアシャフト20の先端部との間に設けられている。比較例のガイドワイヤ1xでは、このような溶接部30xによって、第1コアシャフト10xと第2コアシャフト20とが固定されている。
【0031】
非線形擬弾性(超弾性)と、線形擬弾性とは、応力(N/mm
2)を縦軸にプロットし、伸び率(%)を横軸にプロットしたSSカーブのうち、伸び率が2%以上の部分における挙動が異なる。
図9は、非線形擬弾性及び線形擬弾性のSSカーブを示している。非線形擬弾性(超弾性)では、応力をほぼ一定に維持したまま伸び率がある程度(例えば7~8%程度)まで上昇し続け、その後、伸び率の上昇と共に応力が上昇する。一方、線形擬弾性では、応力を一定に維持することなく、伸び率の上昇と共に応力が上昇する。
すなわち、本実施形態の第1コアシャフト10において、非線形擬弾性領域A1と、線形擬弾性領域A2とは、次のような特徴a1,a2を有する。
(a1)共に、NiTi合金や、NiTiと他の金属との合金により形成されており、化学量論組成が実質的に同じである。
(a2)SSカーブにおける挙動、硬度、及び剛性が、互いに相違する。
【0032】
図3は、溶接部30近傍におけるコアシャフトの硬度変化を表す図である。
図3(A)は、
図1で説明した本実施形態のガイドワイヤ1における、溶接部30近傍の第1コアシャフト10及び第2コアシャフト20の硬度変化を表す。
図3(B)は、
図2で説明した比較例のガイドワイヤ1xにおける、溶接部30x近傍の第1コアシャフト10x及び第2コアシャフト20の硬度変化を表す。
図3(A),(B)において、縦軸は、周知のビッカース硬度試験機により得られたビッカース硬度(Hv)を表し、横軸は、ガイドワイヤ1,1xにおける各領域A1~A3を表す。
【0033】
図3(A)に示すように、非線形擬弾性領域A1の硬度は最も小さく、第2コアシャフト領域A3の硬度は最も大きく、線形擬弾性領域A2の硬度は非線形擬弾性領域A1と第2コアシャフト領域A3との間である。換言すれば、線形擬弾性領域A2の硬度は、非線形擬弾性領域A1の硬度よりも大きい。すなわち、
図3(A)に示すように、本実施形態の第1コアシャフト10では、線形擬弾性領域A2を設けることによって、非線形擬弾性領域A1、線形擬弾性領域A2、第2コアシャフト領域A3と、第1コアシャフト10の長手方向に沿って、硬度を階段状に徐変させることができる。一方、
図3(B)に示すように、比較例の第1コアシャフト10xでは、非線形擬弾性領域A1から第2コアシャフト領域A3へと、溶接部30xを境界として大きな硬度変化が起こっている。
【0034】
図4は、コアシャフトの剛性変化を表す図である。
図4(A)は、
図1で説明した本実施形態のガイドワイヤ1における、溶接部30近傍の第1コアシャフト10及び第2コアシャフト20の剛性変化を表す。
図4(B)は、
図2で説明した比較例のガイドワイヤ1xにおける、溶接部30x近傍の第1コアシャフト10x及び第2コアシャフト20の剛性変化を表す。
図4(A),(B)において、縦軸は、周知の3点曲げ試験により得られたSSカーブのうち、伸び率が2%以上の部分における応力の傾きを表し、横軸は、ガイドワイヤ1,1xにおける各領域A1~A3を表す。
【0035】
図4(A)に示すように、非線形擬弾性領域A1の剛性は最も小さく、第2コアシャフト領域A3の剛性は最も大きく、線形擬弾性領域A2の剛性は非線形擬弾性領域A1と第2コアシャフト領域A3との間である。換言すれば、線形擬弾性領域A2の剛性は、非線形擬弾性領域A1の剛性よりも大きい。すなわち、
図4(A)に示すように、本実施形態の第1コアシャフト10では、線形擬弾性領域A2を設けることによって、非線形擬弾性領域A1、線形擬弾性領域A2、第2コアシャフト領域A3と、第1コアシャフト10の長手方向に沿って、剛性を階段状に徐変させることができる。一方、
図4(B)に示すように、比較例の第1コアシャフト10xでは、非線形擬弾性領域A1から第2コアシャフト領域A3へと、溶接部30xを境界として大きな剛性変化が起こっている。
【0036】
以上のように、第1実施形態のガイドワイヤ1によれば、第1コアシャフト10には、先端側から基端側に向かって、非線形擬弾性(超弾性)を有する非線形擬弾性領域A1と、線形擬弾性を有する線形擬弾性領域A2とが隣接して設けられている。ここで、
図3(A)で説明した通り、第1コアシャフト10の基端側に設けられた線形擬弾性領域A2は、非線形擬弾性領域A1よりも硬度が大きい(
図3)。また、第2コアシャフト20は、第1コアシャフト10(非線形擬弾性領域A1及び線形擬弾性領域A2)よりも硬度が大きい。このため、第1実施形態のガイドワイヤ1によれば、第1コアシャフト10の基端側に線形擬弾性領域A2を設けることによって、第1コアシャフト10と第2コアシャフト20との硬度ギャップを低減できる。この結果、線形擬弾性領域A2の基端部と第2コアシャフト20の先端部との間に溶接部30を形成しやすくできると共に、ガイドワイヤ1の操作性を向上できる。また、第1コアシャフト10において、非線形擬弾性領域A1と線形擬弾性領域A2との境界には溶接部が形成されていない。このため、第1実施形態のガイドワイヤ1によれば、溶接部が2か所存在する従来のガイドワイヤと比較して、ガイドワイヤ1の耐久性を向上できる。これらの結果、操作性と耐久性を向上させたガイドワイヤ1を提供できる。
【0037】
また、第1実施形態のガイドワイヤ1によれば、第1コアシャフト10において、非線形擬弾性領域A1と線形擬弾性領域A2とは、化学量論組成が実質的に同じであるため、非線形擬弾性領域A1と線形擬弾性領域A2とを、例えば、NiTi合金や、NiTiと他の金属との合金のような、同一の材料で形成できる。
【0038】
さらに、第1実施形態のガイドワイヤ1によれば、第1コアシャフト10において、線形擬弾性領域A2の硬度は、非線形擬弾性領域A1の硬度よりも大きいため、
図3(A)で説明した通り、線形擬弾性領域A2によって、第1コアシャフト10と第2コアシャフト20との硬度ギャップを低減できる。さらに、第1実施形態のガイドワイヤ1によれば、第1コアシャフト10において、線形擬弾性領域A2の剛性は、非線形擬弾性領域A1の剛性よりも大きいため、
図4(A)で説明した通り、線形擬弾性領域A2によって、第1コアシャフト10と第2コアシャフト20との剛性ギャップを低減できる。
【0039】
さらに、第1実施形態のガイドワイヤ1によれば、第1コアシャフト10の先端側には、非線形擬弾性(超弾性)を有する非線形擬弾性領域A1が設けられており、線形擬弾性領域A2の長手方向における長さL2は、非線形擬弾性領域A1の長手方向における長さL1の1/4以下である。このため、ガイドワイヤ1の先端部を柔軟に構成することができると共に、ガイドワイヤ1の先端部における血管選択性を向上させ、ガイドワイヤ1の先端部の復元性を向上させることができる。
【0040】
<ガイドワイヤ1の製造方法>
図5は、
図1に示すガイドワイヤ1の製造方法の一例を示す図である。
図5(A)は、準備工程及び加熱処理工程の様子を示す。
図5(B)は、溶接工程の様子を示す。
図5(C)は、完成したコアシャフト接合体10,20を示す。
【0041】
この方法ではまず、
図5(A)に示すように、全体が線形擬弾性を有する第1コアシャフト10zと、第1コアシャフト10zよりも硬度の大きい第2コアシャフト20(図示省略)と、を準備する。なお、
図5(A)では、細径部11及びテーパ部12について、
図1で説明した性質とは異なる性質(すなわち線形擬弾性)を有することから、細径部11z及びテーパ部12zのように、
図1とは異なる符号を付している。次に、第1コアシャフト10zの先端側の一部分10zd(具体的には、非線形擬弾性領域A1を形成したい部分)に対して、400度~600度で所定時間、加熱処理を施すことで、線形擬弾性を非線形擬弾性に変化させる。加熱処理の時間は任意に決定でき、例えば、30秒~1時間とできる。これにより、先端側の一部分10zdに非線形擬弾性領域A1(
図5(B):細径部11、テーパ部12、及び第1太径部13)を有し、基端側に線形擬弾性領域A2(
図5(B):第2太径部14)を有する第1コアシャフト10が形成できる。
【0042】
次に、
図5(B)に示すように、第1コアシャフト10の第2太径部14の基端部14pに、第2コアシャフト20の細径部11の先端部21dを溶接する。溶接は、周知の方法で実施できる。
【0043】
この結果、
図5(C)に示すように、第1コアシャフト10の線形擬弾性領域A2の基端部と、第2コアシャフト20の先端部との間に形成された溶接部30によって接合された、コアシャフト接合体10,20(第1コアシャフト10及び第2コアシャフト20)を得ることができる。その後、コアシャフト接合体10,20に対して、別途形成されたコイル体40を、先端固定部51、基端固定部52、及び中間固定部53によって固定することで、
図1に示すガイドワイヤ1を製造することができる。
【0044】
一般に、硬度差が大きい部材同士の溶接は困難である。この点、
図5で説明した製造方法(溶接工程)によれば、線形擬弾性を有する第1コアシャフト10の第2太径部14の基端部14pに、第2コアシャフト20の先端部21dを溶接する。このため、
図2で説明した比較例のガイドワイヤ1xのように、全体が非線形擬弾性を有する第1コアシャフト10xに第2コアシャフト20を溶接する場合と比較して、溶接を容易に行うことができる。また、溶接が1か所でよいため、溶接部が2か所存在する従来のガイドワイヤと比較して、溶接工程の工数及びコストを低減できる。さらに、
図5で説明した製造方法(加熱処理工程)によれば、線形擬弾性を有する第1コアシャフト10zの先端側の一部分10zdを加熱処理することにより、非線形擬弾性を有する非線形擬弾性領域A1を形成できる。すなわち、加熱処理によって第1コアシャフト10zの線形擬弾性を非線形擬弾性へと変化させることで、1本の第1コアシャフト10中に、非線形擬弾性領域A1と線形擬弾性領域A2とを簡単に形成し、共存させることができる。これらの結果、操作性と耐久性を向上させたガイドワイヤ1を製造できる。また、ガイドワイヤ1は、
図1で説明した通り、第1コアシャフト10の先端側に、非線形擬弾性(超弾性)を有する非線形擬弾性領域A1が設けられているため、先端部が柔軟であり、先端部における血管選択性、及び、復元性に優れている。
【0045】
また、
図5で説明した製造方法によれば、加熱処理工程を行った後で溶接工程を実行するため、逆の場合と比較して、加熱処理に伴う溶接部30の劣化や損傷を抑制できる。
【0046】
図6は、
図1に示すガイドワイヤ1の製造方法の他の例を示す図である。
図6(A)は、準備工程及び溶接工程の様子を示す。
図6(B)は、加熱処理工程の様子を示す。
図6(C)は、完成したコアシャフト接合体10,20を示す。
【0047】
この方法ではまず、
図6(A)に示すように、全体が線形擬弾性を有する第1コアシャフト10zと、第1コアシャフト10zよりも硬度の大きい第2コアシャフト20と、を準備する。なお、
図6(A)では、細径部11z及びテーパ部12zについて、
図5(A)と同様の理由によって、
図1とは異なる符号を付している。次に、第1コアシャフト10zの第2太径部14の基端部14pに、第2コアシャフト20の細径部11の先端部21dを溶接する。溶接は、周知の方法で実施できる。
【0048】
次に、第1コアシャフト10zの先端側の一部分10zd(具体的には、非線形擬弾性領域A1を形成したい部分)に対して、
図5(A)と同様の方法で加熱処理を施すことで、線形擬弾性を非線形擬弾性に変化させる。これにより、先端側の一部分10zdに非線形擬弾性領域A1(
図6(C):細径部11、テーパ部12、及び第1太径部13)を有し、基端側に線形擬弾性領域A2(
図6(C):第2太径部14)を有する第1コアシャフト10が形成できる。
【0049】
この結果、本方法によっても、
図6(C)に示すように、第1コアシャフト10の線形擬弾性領域A2の基端部と、第2コアシャフト20の先端部との間に形成された溶接部30によって接合された、コアシャフト接合体10,20(第1コアシャフト10及び第2コアシャフト20)を得ることができる。その後、コアシャフト接合体10,20に対して、別途形成されたコイル体40を、先端固定部51、基端固定部52、及び中間固定部53によって固定することで、
図1に示すガイドワイヤ1を製造することができる。
【0050】
図6で説明した製造方法(溶接工程)においても、
図5で説明した製造方法と同様に、操作性と耐久性を向上させたガイドワイヤを製造できる。また、ガイドワイヤ1は、
図1で説明した通り、第1コアシャフト10の先端側に、非線形擬弾性(超弾性)を有する非線形擬弾性領域A1が設けられているため、先端部が柔軟であり、先端部における血管選択性、及び、復元性に優れている。
【0051】
<第2実施形態>
図7は、第2実施形態のガイドワイヤ1Aの構成を例示した説明図である。第2実施形態のガイドワイヤ1Aは、第1実施形態の構成において、第1コアシャフト10に代えて第1コアシャフト10Aを備え、第2コアシャフト20に代えて第2コアシャフト20Aを備え、溶接部30に代えて溶接部30Aを備える。第2コアシャフト20Aは、第1実施形態で説明した細径部21及びテーパ部22を有しておらず、全体が略一定の外径を有する略円柱形状の太径部23Aである。
【0052】
第1コアシャフト10Aは、先端側から基端側に向かって順に、細径部11、テーパ部12、第1太径部13、第2テーパ部15、第3太径部16、第2太径部14Aを有している。細径部11、テーパ部12、及び第1太径部13の構成は、第1実施形態と同じである。第2テーパ部15は、第1太径部13と第3太径部16との間に設けられている。第2テーパ部15は、先端側から基端側に向かって外径が拡大した略円錐台形状の部分である。第3太径部16は、第2テーパ部15と第2太径部14Aとの間に設けられている。第3太径部16は、第1コアシャフト10Aの外径が最大の部分であり、略一定の外径を有する略円柱形状の部分である。第2太径部14Aは、第1コアシャフト10Aの基端部に設けられている。第2太径部14Aは、細径部11及び第1太径部13よりも大きく、かつ、第3太径部16と同一の外径を有する略円柱形状の部分である。
【0053】
第1コアシャフト10Aでは、細径部11、テーパ部12、第1太径部13に加えて、第2テーパ部15及び第3太径部16についても、非線形擬弾性(超弾性)を有している。このため、第1コアシャフト10Aでは、細径部11の先端から第3太径部16の基端までの区間が「非線形擬弾性領域A1」に相当する。また、第2太径部14Aは線形擬弾性を有しているため、第1コアシャフト10Aでは、第2太径部14Aの先端から基端までの区間が「線形擬弾性領域A2」に相当する。
【0054】
溶接部30Aは、第1コアシャフト10Aと第2コアシャフト20Aとが溶接された部分である。
図7に示すように、溶接部30Aは、第1コアシャフト10Aのうち、線形擬弾性領域A2(第2太径部14A)の基端部と、第2コアシャフト20A(太径部23A)の先端部との間に設けられている。この溶接部30Aによって、第1コアシャフト10Aと第2コアシャフト20Aとが固定されている。
【0055】
このように、ガイドワイヤ1Aの構成は種々の変更が可能であり、第1コアシャフト10Aは、第2コアシャフト20Aと溶接された基端部が線形擬弾性領域A2である限りにおいて、任意の形状とできる。また、第2コアシャフト20についても任意の形状とできる。例えば、第1コアシャフト10Aは、
図7で説明した通り、第2コアシャフト20Aの太径部23Aと略同一の外径を有する部分(第3太径部16及び第2太径部14A)を有し、当該部分において第2コアシャフト20Aと溶接されていてもよい。また、第1コアシャフト10Aは、上述した一部分(例えば、細径部11やテーパ部12)を有していなくてもよく、上述しない他の部分(例えば、第3太径部16よりも太径に構成された隆起部)を有していてもよい。このような第2実施形態のガイドワイヤ1Aにおいても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0056】
<第3実施形態>
図8は、第3実施形態のガイドワイヤ1Bの構成を例示した説明図である。第3実施形態のガイドワイヤ1Bは、第1実施形態の構成において、第2コアシャフト20に代えて第2コアシャフト20Bを備え、コイル体40に代えてコイル体40Bを備え、基端固定部52に代えて基端固定部52Bを備える。
【0057】
第2コアシャフト20Bは、第1実施形態で説明したテーパ部22及び太径部23を有しておらず、全体が細径部21である。コイル体40Bは、第1コアシャフト10と第2コアシャフト20Bとに対して、素線41を螺旋状に巻回して形成されている。換言すれば、コイル体40Bは、第1コアシャフト10の先端から、第2コアシャフト20Bの基端までの全体を覆っている。基端固定部52Bは、ガイドワイヤ1Bの基端部1pに設けられており、第2コアシャフト20Bの細径部21の基端部と、コイル体40Bの基端部とを一体的に保持している。
図8に示すように、第3実施形態のガイドワイヤ1Bでは、溶接部30が、コイル体40Bによって覆われている。溶接部30がコイル体40Bによって覆われていることで、溶接部付近で生じる剛性ギャップをより改善することができる。
【0058】
このように、ガイドワイヤ1Bの構成は種々の変更が可能であり、第1コアシャフト10及び第2コアシャフト20Bの全体が、コイル体40Bによって覆われていてもよい。また、第1コアシャフト10と第2コアシャフト20Bとを溶接した溶接部30は、コイル体40Bによって覆われていてもよい。このような第3実施形態のガイドワイヤ1Bにおいても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0059】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0060】
[変形例1]
上記第1~3実施形態では、ガイドワイヤ1,1A,1Bの構成を例示した。しかし、ガイドワイヤの構成は種々の変更が可能である。例えば、第1コアシャフトにおいて、非線形擬弾性領域A1と、線形擬弾性領域A2との境界面は、軸線Oに対して垂直な平面状でなくてもよく、任意の形状とできる。具体的には、非線形擬弾性領域A1と線形擬弾性領域A2との境界面は、軸線Oに対して傾斜した平面状であってもよいし、線形擬弾性領域A2の先端面の一部分がガイドワイヤの先端側に向かって突出した(換言すれば、非線形擬弾性領域A1の基端面の一部分が先端側に向かって凹んだ)曲面形状であってもよいし、非線形擬弾性領域A1の基端面の一部分がガイドワイヤの基端側に向かって突出した(換言すれば、線形擬弾性領域A2の先端面の一部分が基端側に向かって凹んだ)曲面形状であってもよい。
【0061】
例えば、第1コアシャフトと第2コアシャフトとの溶接面は、軸線Oに対して垂直な平面状でなくてもよく、任意の形状とすることができる。例えば、軸線Oに対して傾斜した平面状であってもよいし、軸線方向(先端方向又は基端方向)に向かって突出した曲面状であってもよい。
【0062】
例えば、ガイドワイヤは、コイル体を有していなくてもよい。この場合、先端固定部、基端固定部、及び中間固定部についても省略してよい。例えば、ガイドワイヤのうち、コイル体の一部分や、第1及び第2コアシャフトの一部分には、親水性または疎水性を有するコーティングが施されていてもよい。例えば、ガイドワイヤは、第1コアシャフトの先端側の一部分が、予め湾曲された状態で製品化されてもよい。例えば、ガイドワイヤは、上述しない他の構成を有していてもよい。
【0063】
例えば、第1コアシャフトにおいて、非線形擬弾性領域A1(細径部11、テーパ部12、第1太径部13)と、線形擬弾性領域A2(第2太径部14)とは、化学量論組成が相違してもよい。例えば、第1コアシャフトにおいて、線形擬弾性領域A2の長手方向における長さL2は、非線形擬弾性領域A1の長手方向における長さL1の、1/4より大きくてもよい。長さL2を長さL1の1/4より大きくすれば、ガイドワイヤ1,1A~1Dの血管選択性、柔軟性、及び復元性に代えて、ガイドワイヤ1,1A~1Dの操作性を向上できる。
【0064】
[変形例2]
上記第1実施形態では、ガイドワイヤ1の製造方法について、一例(
図5)及び他の例(
図6)を示した。これらの製造方法は、第2,第3実施形態のガイドワイヤ1A,1Bについても同様に適用可能である。また、ガイドワイヤの製造方法は、種々の変更が可能である。例えば、第1コアシャフト10zに代えて、全体が非線形擬弾性(超弾性)を有する第1コアシャフト10yを準備してもよい。この場合、溶接工程に先立って、第1コアシャフト10yの基端側の一部分(具体的には、線形擬弾性領域A2を形成したい部分)に対して、塑性加工(例えば、スウェージング加工、プレス加工、ダイス加工等)を施す。これにより、非線形擬弾性を線形擬弾性に変化させることで、基端側の一部分に線形擬弾性領域A2を有する第1コアシャフト10を形成してもよい。このようにしても、
図5及び
図6で説明した製造方法と同様の効果を奏することができる。
【0065】
[変形例3]
第1~3実施形態のガイドワイヤの構成、及び上記変形例1,2のガイドワイヤの構成は、適宜組み合わせてもよい。例えば、第2,第3実施形態で説明した構成において、変形例1で説明した境界面の形状を採用してもよい。例えば、第2,第3実施形態で説明したガイドワイヤを、変形例2で説明した方法により製造してもよい。
【0066】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,1B…ガイドワイヤ
1x…ガイドワイヤ(比較例)
10,10A,10B…第1コアシャフト
10x…第1コアシャフト(比較例)
11…細径部
12…テーパ部
13…第1太径部
14,14A…第2太径部
15…第2テーパ部
16…第3太径部
20,20A,20B…第2コアシャフト
21…細径部
22…テーパ部
23,23A…太径部
30,30A…溶接部
30x…溶接部(比較例)
40,40B…コイル体
41…素線
51…先端固定部
52,52B…基端固定部
53…中間固定部
131…基端面
141…先端面
A1…非線形擬弾性領域
A2…線形擬弾性領域
A3…第2コアシャフト領域