(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-10
(45)【発行日】2025-11-18
(54)【発明の名称】積層フィルムの製造方法及び積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B05D 7/24 20060101AFI20251111BHJP
B05D 7/04 20060101ALI20251111BHJP
B05D 3/04 20060101ALI20251111BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20251111BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20251111BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20251111BHJP
H05K 1/03 20060101ALN20251111BHJP
【FI】
B05D7/24 302L
B05D7/04
B05D3/04 Z
B32B27/30 D
C08J7/00 302
C08J7/04 Z CFG
H05K1/03 610H
H05K1/03 630C
(21)【出願番号】P 2022546274
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2021031309
(87)【国際公開番号】W WO2022050163
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020146633
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】光永 敦美
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-162543(JP,A)
【文献】特開2011-105012(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131809(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C08J 7/00-7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面張力を高める処理が施されたポリマーフィルムの表面に、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー及び表面張力が30mN/m以上の液状分散媒を含有し、前記パウダーの含有量が10質量%以上である液状組成物を塗布し、加熱して、前記ポリマーフィルムの表面にポリマー層が形成された積層フィルムを得る
積層フィルムの製造方法であって、前記処理が施された前記ポリマーフィルムの表面の表面張力が、前記液状分散媒の表面張力よりも大きい、積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記処理が、コロナ処理及びプラズマ処理からなる群より選択される少なくとも1つの親水化処理である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーフィルムの表面の算術平均粗さRaが、0.01~5μmである、請求項1
又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記処理が施された前記ポリマーフィルムの表面に、極性官能基が存在する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記パウダーの平均粒子径が、0.1~10μmである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、溶融温度が260~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1~
5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を1.5~5.0モル%含むテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記液状組成物が、芳香族ポリマーを含有する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ポリマーフィルムが、芳香族ポリイミドを含有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ポリマーフィルムの平均厚さが10μm以上であり、かつ、前記ポリマー層の平均厚さが10μm以上である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面張力を高める処理が施されたポリマーフィルムの表面に、所定の表面張力の液状分散媒を含有する液状組成物を使用して形成され、端部での厚さの増大が低減されたポリマー層を備える積層フィルムを得る、積層フィルムの製造方法、及び、中央部の厚さに対する端部の厚さの比が所定の範囲に調整されたポリマー層を備える積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波信号の伝送に用いられるプリント基板は、優れた伝送特性が要求される。伝送特性の高いプリント基板の絶縁層材料として、比誘電率及び誘電正接が低い、テトラフルオロエチレン系ポリマーが注目されている。かかるポリマーを含む絶縁層を形成する材料として、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと液状分散媒とを含む液状組成物が知られている。
特許文献1及び2には、かかる液状組成物をポリイミドフィルムの表面に塗布し加熱して形成される、ポリイミドフィルムの両面にテトラフルオロエチレン系ポリマー層を備えた積層フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-157418号公報
【文献】特開2005-35300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、テトラフルオロエチレン系ポリマーは非粘着性であるため、かかる積層フィルムにおけるポリイミドフィルムとテトラフルオロエチレン系ポリマー層との密着性は、概して低い。そこで、本発明者らは、ポリイミドフィルムの表面処理による積層フィルムの密着性の向上を試みた。ところが、この場合、積層フィルムの厚さにムラが生じやすくなるという課題、特に、積層フィルムの端部における盛り上がりが生じやすくなるという課題を、本発明者らは新たに知見した。そのため、かかる積層フィルムの長尺体をロール状に巻き取ると、積層フィルムにシワや伸びが発生して、プリント基板材料等として使用時の歩留まりが悪化するという課題も、本発明者らは新たに知見した。
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、表面張力が所定の範囲の液状分散媒を含む液状組成物は、分散安定性にも優れており、表面張力を高める処理が施されたポリマーフィルムの表面においてより均一に濡れ広がり、厚さムラが小さく密着強度の高い積層フィルムを形成できる点を知見した。
本発明は、かかる知見に基づいてなされた発明であり、その目的は、密着性に優れ、中央部の厚さに対する端部の厚さの比が所定の範囲に調整されたポリマー層を有する積層フィルム、及びその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> 表面張力を高める処理が施されたポリマーフィルムの表面に、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー及び表面張力が30mN/m以上の液状分散媒を含有し、前記パウダーの含有量が10質量%以上である液状組成物を塗布し、加熱して、前記ポリマーフィルムの表面にポリマー層が形成された積層フィルムを得る、積層フィルムの製造方法。
<2> 前記処理が、コロナ処理及びプラズマ処理からなる群より選択される少なくとも1つの親水化処理である、<1>の製造方法。
<3> 前記処理が施された前記ポリマーフィルムの表面の表面張力が、前記液状分散媒の表面張力よりも大きい、<1>又は<2>の製造方法。
<4> 前記ポリマーフィルムの表面の算術平均粗さRaが、0.01~5μmである、<1>~<3>のいずれかの製造方法。
<5> 前記処理が施された前記ポリマーフィルムの表面に、極性官能基が存在する、<1>~<4>のいずれかの製造方法。
<6> 前記パウダーの平均粒子径が、0.1~10μmである、<1>~<5>のいずれかの製造方法。
<7> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、溶融温度が260~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーである、<1>~<6>のいずれかの製造方法。
<8> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を1.5~5.0モル%含むテトラフルオロエチレン系ポリマーである、<1>~<7>のいずれかの製造方法。
<9> 前記液状組成物が、芳香族ポリマーを含有する、<1>~<8>のいずれかの製造方法。
<10> 前記ポリマーフィルムが、芳香族ポリイミドを含有する、<1>~<9>のいずれかの製造方法。
<11> 前記ポリマーフィルムの平均厚さが10μm以上であり、かつ、前記ポリマー層の平均厚さが10μm以上である、<1>~<10>のいずれかの製造方法。
<12> 表面張力を高める処理が施された表面を有するポリマーフィルムと、前記表面に形成され、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含有するポリマー層とを備え、前記ポリマー層の中央部の厚さに対する端部の厚さの比が、1.1以下である、積層フィルム。
<13> 前記積層フィルムを、50℃、48時間の条件で予備乾燥した後、23℃の純水に24時間浸漬し、前記純水に浸漬する前後の前記積層フィルムの質量を測定したとき、以下の式に基づいて求められる吸水率が、0.1%以下である、<12>の積層フィルム。
吸水率(%)=(純水浸漬後質量-予備乾燥後質量)/予備乾燥後質量×100
<14> 前記ポリマーフィルムの平均厚さが10μm以上であり、かつ、前記ポリマー層の平均厚さが10μm以上である、<12>又は<13>の積層フィルム。
<15> 前記ポリマーフィルムの両面に、前記ポリマー層を備える、<12>~<14>のいずれかの積層フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、密着性に優れ、中央部の厚さに対する端部の厚さの比が所定の範囲に調整されたポリマー層を備える積層フィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる対象物(パウダー又は無機フィラー)の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって対象物の粒度分布を測定し、対象物の粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「D90」は、同様にして測定される、対象物の体積基準累積90%径である。
「溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「比表面積」は、ガス吸着(定容法)BET多点法によりNOVA4200e(Quantachrome Instruments社製)を使用してパウダーを測定した際に求められる値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で、液状組成物を測定して求められる値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、液状組成物を回転数が30rpmの条件で測定して求められる粘度η1を回転数が60rpmの条件で測定して求められる粘度η2で除して算出される値(η1/η2)である。
「降伏強度」とは、歪みが大きくなると、歪みと応力との関係が比例しなくなり、応力を除去しても歪みが残る現象が起き始める応力を意味し、ASTM D882に従って、フィルムの引張弾性率を測定した際の「5%ひずみ時応力」の値で規定する。
「難塑性変形性」とは、支持層を塑性変形させた際に応力が増加していく特性、又は塑性変形させた際に必要な応力が大きい特性を意味し、ASTM D882に従って、フィルムの引張弾性率を測定した際の「15%ひずみ時応力」の値で規定する。
「引張弾性率」は、広域粘弾性測定装置を用いて、測定周波数10Hzにてフィルムを測定した際の値である。
「平均厚さ」とは、接触式厚み計DG-525H(小野測器社製)にて、測定子AA-026(Φ10mm、SR7)を使用して、フィルムの厚さを10点測定した測定値の平均値である。
「金属箔(金属基板)の表面の十点平均粗さ(Rzjis)」は、JIS B 0601:2013(ISO 4287:1997、Amd.1:2009)の附属書JAで規定される値である。
「算術平均粗さRa」は、JIS B 0601:2013(ISO 4287:1997、Amd.1:2009)に従って測定される、フィルムの表面における値である。
ポリマーにおける「単位」は、モノマーから直接形成された原子団であってもよく、得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「モノマーA単位」とも記す。
【0009】
本発明の製造方法(以下、「本法」とも記す。)は、表面張力を高める処理が施されたポリマーフィルムの表面に、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)のパウダー及び表面張力が30mN/m以上の液状分散媒を含有し、Fポリマーのパウダー(以下、「Fパウダー」とも記す。)の含有量が10質量%以上である液状組成物を塗布し、加熱して、ポリマーフィルムの表面にポリマー層が形成された積層フィルムを得る方法である。
したがって、得られる積層フィルムは、表面張力を高める処理が施された表面を有するポリマーフィルムと、上記表面に形成され、Fポリマーを含有するポリマー層とを有する積層体である。かかる積層フィルムでは、ポリマー層の中央部の厚さに対する端部の厚さの比が所定の範囲(好ましくは1.1以下)にある。すなわち、ポリマー層の厚さのバラつきが小さくなっている。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の通りであると考えられる。
【0010】
本法においては、ポリマーフィルムとポリマー層との密着性を向上するために、液状組成物を塗布するのに先立って、ポリマーフィルムの表面に、その表面張力を高める処理を施す。しかし、かかる処理を施したポリマーフィルムの表面にFパウダーを含む液状組成物を塗布すると、中央部から端部に向かって流動して濡れ広がる際に、その流動が端部付近において停止する現象(ピニング現象)が生じて、塗膜が盛り上がる場合がある。この状態で、塗膜(液状組成物)を加熱すると、端部の形状が維持されて、得られるポリマー層の端部の厚さが中央部の厚さより大きくなってしまう。
そこで本法では、表面張力が30mN/m以上の液状分散媒を含有する液状組成物を使用する。これにより、液状組成物のポリマーフィルムの表面に対する濡れ性が高まり、ポリマーフィルムの端部にまで均一に濡れ広がり、得られるポリマー層の厚さのバラつきが小さくなったと考えられる。
【0011】
本法におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含むポリマーである。
Fポリマーは、熱溶融性であるのが好ましく、その溶融温度は、260~320℃が好ましく、285~320℃がより好ましい。かかるFポリマーを使用すれば、緻密かつ密着性に優れたポリマー層が形成されやすく、耐熱性に優れた積層フィルムが得られやすい。
Fポリマーのガラス転移点(Tg)は、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
Fポリマーの溶融粘度は、380℃において1×102~1×106Pa・sが好ましく、1×103~1×106Pa・sがより好ましい。
【0012】
Fポリマーの表面張力は、16~26mN/mが好ましく、16~20mN/mがより好ましい。なお、Fポリマーの表面張力は、Fポリマーで作製された平板上に、JIS K 6768に規定されている濡れ張力試験用混合液(和光純薬社製)の液滴を載置して測定できる。
Fポリマーのフッ素含有量は、70質量%以上が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
表面張力が低く、フッ素含有量が高いFポリマーは、電気物性等の物性に優れる反面、液状組成物中での分散安定性が著しく低いが、本法における液状組成物では、上述の液状分散媒の使用により、かかるFポリマーの分散安定性が改善する。
【0013】
Fポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)、TFE単位とフルオロアルキルエチレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とクロロトリフルオロエチレンに基づく単位とを含むポリマーが挙げられ、PFA又はFEPが好ましく、PFAがより好ましい。上記ポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3又はCF2=CFOCF2CF2CF3(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0014】
Fポリマーは、極性官能基を有するのが好ましい。この場合、ポリマー層が、電気特性、表面平滑性等の物性に優れやすい。
極性官能基は、Fポリマーが含有する単位に含まれていてもよく、Fポリマー主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者のFポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有するポリマーや、プラズマ処理や電離線処理によって調製された、極性官能基を有するポリマーが挙げられる。
【0015】
極性官能基としては、水酸基含有基、カルボニル基含有基及びホスホノ基含有基が好ましく、水酸基含有基及びカルボニル基含有基がより好ましく、カルボニル基含有基がさらに好ましい。
水酸基含有基としては、アルコール性水酸基含有基が好ましく、-CF2CH2OH、-C(CF3)2OH及び1,2-グリコール基(-CH(OH)CH2OH)がより好ましい。
カルボニル基含有基としては、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
【0016】
Fポリマーが極性官能基を有する場合、Fポリマーにおける極性官能基の数は、主鎖の炭素数1×106個あたり、10~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましい。なお、Fポリマーにおける極性官能基の数は、ポリマーの組成又は国際公開第2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0017】
Fポリマーとしては、PAVE単位を含み、全単位に対してPAVE単位を1.5~5.0モル%含むテトラフルオロエチレン系ポリマーが好ましく、PAVE単位を含み、極性官能基を有するポリマー(1)、又はPAVE単位を含み、全モノマー単位に対してPAVE単位を2.0~5.0モル%含む、極性官能基を有さないポリマー(2)がより好ましい。これらのポリマーは、ポリマー層中において微小球晶を形成するため、得られるポリマー層の物性が向上しやすい。
【0018】
ポリマー(1)は、全単位に対して、TFE単位を90~98モル%、PAVE単位を1.5~9.97モル%及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するのが好ましい。
また、極性官能基を有するモノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0019】
ポリマー(2)は、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95.0~98.0モル%、PAVE単位を2.0~5.0モル%含有するのが好ましい。
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
なお、ポリマー(2)が極性官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×106個あたり、ポリマーが有する極性官能基の数が、500個未満であることを意味する。上記極性官能基の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。上記極性官能基の数の下限は、通常、0個である。
【0020】
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として極性官能基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、極性官能基を有するポリマー(重合開始剤に由来する極性官能基をポリマー鎖の末端基に有するポリマー等)をフッ素化処理して製造してもよい。
フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0021】
本法におけるFパウダーは、Fポリマーを含有するパウダーであり、Fポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
Fパウダーは、Fポリマー以外の他のポリマーを含んでいてもよい。他のポリマーとしては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、マレイミドが挙げられる。
【0022】
Fパウダーは、無機物を含んでいてもよい。無機物としては、酸化物、窒化物、金属単体、合金及びカーボンが好ましく、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、及びメタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)がより好ましく、シリカ及び窒化ホウ素がさらに好ましく、シリカが特に好ましい。この場合、液状組成物中のFパウダーの分散安定性が向上しやすい。
無機物を含むFパウダーは、Fポリマーをコアとし、このコアの表面に、無機物を有するのが好ましい。かかるFパウダーは、例えば、Fポリマーのパウダーと無機物のパウダーとを合着(衝突、凝集等)させて得られる。
【0023】
FパウダーのD50は、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。FパウダーのD50は、0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。
また、FパウダーのD90は、100μm未満が好ましく、90μm以下がより好ましい。
Fパウダーの比表面積は、1~8m2/gが好ましく、1~5m2/gがより好ましく、1~3m2/gがさらに好ましい。
FパウダーのD50、D90及び比表面積が、上記範囲にあれば、液状組成物中におけるFパウダーの分散安定性が優れやすい。また、得られるポリマー層が緻密になるので、耐水性が向上(低吸水率化)しやすい。
【0024】
Fパウダーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。2種のFパウダーを用いる場合のFパウダーは、熱溶融性Fポリマーのパウダー(TFE単位及びPAVE単位を含む、カルボニル基含有基を有する熱溶融性Fポリマーのパウダー等。)と非熱溶融性Fポリマーのパウダー(非熱溶融性PTFEのパウダー等。)とであるのが好ましい。
また、2種のFパウダーの総量に占める前者のパウダーの割合は、50質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。また、前記割合は、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。
また、前者のパウダーのD50は1~4μmであり、かつ、後者のパウダーのD50は0.1~1μmであるのが好ましい。
【0025】
本法における液状分散媒は、その表面張力が30mN/m以上であり、35mN/m以上が好ましく、40mN/m以上がより好ましい。表面張力は、75mN/m以下が好ましく、55mN/m以下がより好ましい。かかる表面張力の液状分散媒を使用すれば、Fパウダーの分散安定性に優れ、上記処理が施されたポリマーフィルムの表面において均一に濡れ広がる液状組成物を得やすい。
液状分散媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP:41)、シクロヘキサノン(CHN:35.2)、ジメチルスルホキシド(DMSO:43.5)、ジエチレングリコール(DEG:45.2)、ブロモベンゼン(35.75)、水(72.8)が挙げられる。なお、括弧内の数値は、各液状分散媒の表面張力(単位:mN/m)である。
液状分散媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
液状組成物中のFパウダーの含有量は、10質量%以上であり、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。Fパウダーの含有量は、60質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。本発明によればFパウダーの含有量が高い液状組成物を用いても、厚さムラの小さいポリマー層が形成できるため、任意の厚さ、特に厚いポリマー層を容易に形成できる。
液状組成物中の液状分散媒の含有量は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。液状分散媒の含有量は、80質量%以下が好ましい。
【0027】
本法における液状組成物は、芳香族ポリマー(以下、「ARポリマー」と記す。)を含有するのが好ましい。この場合、得られるポリマー層に、Fポリマーに基づく物性(電気特性、接着性、低吸水性等)と、ARポリマーに基づく物性(低線膨張性、UV吸収性等)とを付与できる。ARポリマーは、液状分散媒に溶解してもよく、分散してもよい。
ARポリマーは、そのガラス転移点が300~350℃が好ましく、315~335℃がより好ましい。この場合、ポリマー層(積層フィルム)の線膨張係数を低減して、加熱による変形を防止又は抑制しやすい。
ARポリマーの5%重量減少温度は、260℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、320℃以上がさらに好ましい。ARポリマーの5%重量減少温度は、600℃以下が好ましい。上記範囲において、ARポリマーの分解ガスに起因する気泡や、ARポリマー自体の反応に伴う副生物によるガスに起因する気泡が低減され、積層フィルムにおいてポリマー層のポリマーフィルムとの界面荒れを効果的に抑制しやすい。
【0028】
ARポリマーは、熱可塑性であるのが好ましい。かかるARポリマーは、その可塑性により、ポリマー層中における分散性がより向上し、緻密かつ均一なポリマー層が形成されやすい。
ARポリマーは、芳香族ポリイミド、芳香族マレイミド、芳香族ポリフェニレンエーテル、芳香族スチレンエラストマー、液晶ポリエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、芳香族ポリイミドがより好ましい。ここで、熱可塑性のポリイミドとは、イミド化が完了した、イミド化反応がさらに生じないポリイミドを意味する。
かかるARポリマーを使用すれば、ポリマー層のポリマーフィルムに対する密着性が向上しやすいだけでなく、フィルム物性(UV吸収性等)が向上しやすい。
【0029】
ARポリマーの具体例としては、芳香族ポリアミドイミドである「HPC」シリーズ(日立化成社製)等、芳香族性ポリイミドである「ネオプリム」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)及び「ユピア-AT」シリーズ(宇部興産社製)等が挙げられる。
なお、ARポリマーである芳香族ポリイミドとしては、後述するポリマーフィルムで説明する芳香族ポリイミドを使用してもよい。
【0030】
本法におけるFポリマー及びARポリマーの好適な態様としては、Fポリマーの溶融温度が285~320℃であり、ARポリマーのガラス転移点が315~335℃である態様が挙げられる。
上記態様においては、ポリマー層中において、FポリマーとARポリマーとが均一に分散してフィルム物性が向上しやすいだけでなく、高温環境下において、FポリマーとARポリマーとが高度に相互作用して、ポリマー層の耐熱性がより向上しやすい。
【0031】
本法における液状組成物において、FポリマーとARポリマーとの合計の含有量に対するARポリマーの含有量は、10質量%以下が好ましく、7.5質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。また、上記ARポリマーの含有量は、0.1質量%以上が好ましい。
液状組成物中のFポリマー及びARポリマーのそれぞれの含有量が上記比率を満たし、Fポリマーの含有量に対するARポリマーの含有量が低い状態にあれば、得られるポリマー層において、ARポリマーがFポリマー中に高度に分散した状態を形成しやすい。その結果、ポリマー層において、Fポリマーに基づく物性(電気特性、低吸水性等)が高度に発現しやすい。
【0032】
本法における液状組成物は、ポリマー層の電気特性と低線膨張性を向上させる観点から、さらに、無機フィラーを含んでいてもよい。
無機フィラーとしては、窒化物フィラー又は無機酸化物フィラーが好ましく、窒化ホウ素フィラー、ベリリアフィラー(ベリリウムの酸化物のフィラー)、ケイ酸塩フィラー(シリカフィラー、ウォラストナイトフィラー、タルクフィラー)、又は金属酸化物(酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)フィラーがより好ましく、シリカフィラーがさらに好ましい。無機フィラーは、シランカップリング剤で表面処理されているのが好ましい。
【0033】
無機フィラーのD50は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。D50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
無機フィラーの形状は、粒状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよい。無機フィラーの具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられる。
【0034】
無機フィラーの好適な具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン(登録商標)」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛フィラー(堺化学工業株式会社製の「FINEX(登録商標)」シリーズ等)、球状溶融シリカフィラー(デンカ社製の「SFP(登録商標)」シリーズ等)、多価アルコールおよび無機物で被覆処理された酸化チタンフィラー(石原産業社製の「タイペーク(登録商標)」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタンフィラー(テイカ社製の「JMT(登録商標)」シリーズ等)、中空状シリカフィラー(太平洋セメント社製の「E-SPHERES」シリーズ、日鉄鉱業社製の「シリナックス」シリーズ、エマーソン・アンド・カミング社製「エココスフイヤー」シリーズ等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)、ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、窒化ホウ素フィラー(昭和電工社製の「UHP」シリーズ、デンカ社製の「デンカボロンナイトライド」シリーズ(「GP」、「HGP」グレード)等)が挙げられる。
【0035】
本法における液状組成物は、分散性とハンドリング性とを向上させる観点から、さらに、界面活性剤を含んでいてもよい。
界面活性剤は、ノニオン性であるのが好ましい。
界面活性剤の親水部位は、オキシアルキレン基又はアルコール性水酸基を有するのが好ましい。
界面活性剤の疎水部位は、アセチレン基、ポリシロキサン基、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有するのが好ましい。換言すれば、界面活性剤は、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。
界面活性剤は、グリコール系界面活性剤でもよい。
界面活性剤は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。2種の界面活性剤を用いる場合、シリコーン系界面活性剤とグリコール系界面活性剤とを用いるのが好ましい。
【0036】
また、本法における液状組成物は、上記成分以外にも、シランカップリング剤、脱水剤、消泡剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、有機フィラー等の添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
液状組成物の粘度は、100mPa・s以上が好ましく、250mPa・s以上がより好ましい。液状組成物の粘度は、100000mPa・s以下が好ましく、10000mPa・s以下がより好ましく、3000mPa・sが特に好ましい。
液状組成物のチキソ比は、1.0~2.0が好ましい。
かかる粘度及びチキソ比を有する液状組成物は、ポリマーフィルムの表面をより均一に濡れ広がりやすい。
【0038】
本法において、ポリマーフィルムの表面に施す処理としては、親水化処理であるのが好ましい。親水化処理によれば、ポリマーフィルムの表面の表面張力を、比較的簡単に高められる。
親水化処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、グロー処理、UVオゾン処理等の物理活性化処理が好ましく、コロナ処理及びプラズマ処理からなる群より選択される少なくとも1つの処理がより好ましい。これらの処理によれば、比較的容易かつ確実に、親水化処理を行える。
【0039】
コロナ処理は、効率的に極性官能基を導入できる観点から、可燃性ガス(酢酸ビニル等)の存在下に行うのが好ましい。
プラズマ処理におけるプラズマ照射装置としては、高周波誘導方式、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式、平行平板型、リモートプラズマ型、大気圧プラズマ型、ICP型高密度プラズマ型等が挙げられる。
プラズマ処理に用いるガスは、希ガス、水素ガス又は窒素ガスが好ましい。かかるガスの具体例としては、アルゴンガス、水素ガスと窒素ガスとの混合ガス、水素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスが挙げられる。
【0040】
上記処理が施されたポリマーフィルムの表面には、極性官能基が存在するのが好ましい。極性官能基がポリマーフィルムの表面に存在すれば、その表面の表面張力(濡れ性)及び接着性が増大する。このため、得られるポリマー層の厚さの均一性が向上するとともに、ポリマーフィルムとポリマー層との接着強度がより高まる。また、ポリマーフィルムの線膨張係数を低減する効果も期待できる。
ポリマーフィルムの表面に存在する極性官能基は、水酸基含有基又はカルボニル基含有基が好ましい。
さらに、ポリマーフィルムは、アニール処理に供して、その残留応力が調整されてもよい。アニール処理における条件は、温度120~180℃、圧力0.005~0.015MPa、時間30~120分間が好ましい。
【0041】
上記処理が施されたポリマーフィルムの表面の表面張力は、液状分散媒の表面張力よりも大きいのが好ましい。この場合、液状組成物がポリマーフィルムの表面をより円滑かつ均一に濡れ広がりやすくなる。
具体的には、処理が施されたポリマーフィルムの表面の表面張力と液状分散媒の表面張力との差は、10mN/m以上が好ましく、20mN/m以上がより好ましい。表面張力の差は、50mN/m以下が好ましく、40mN/m以下がより好ましい。
また、ポリマーフィルムの表面の算術平均粗さRaは、0.01~5μmが好ましく、0.03~1μmがより好ましい。この場合、ピニング現象の発生の起点となる段差が少ないので、液状組成物がポリマーフィルムの表面をより均一に濡れ広がりやすくなる。
【0042】
液状組成物(ポリマー層)がARポリマーを含む場合、ポリマーフィルムに含まれるベースポリマーのガラス転移点と、液状組成物(ポリマー層)に含まれるARポリマーのガラス転移点との差の絶対値は、20℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましい。なお、ガラス転移点の差の絶対値は、0℃であってもよい。この場合、ベースポリマーのガラス転移点とARポリマーのガラス転移点とが近づくので、積層フィルム全体として、加熱による変形がより発生しにくくなる。
ポリマーフィルムに含まれるベースポリマーのガラス転移点の具体的な値は、230~340℃が好ましく、250~320℃がより好ましい。この場合、ポリマーフィルムの加熱による変形の程度が充分に低くなる。
【0043】
ガラス転移点の差の絶対値及びベースポリマーのガラス転移点の具体的な値が上記範囲を満たせば、得られる積層フィルムの表面におけるシワの発生を防止又は抑制できる。
ポリマーフィルムに含まれるベースポリマーは、芳香族ポリイミドであるのが好ましい。芳香族ポリイミドを使用すれば、ポリマーフィルムの加熱による変形の程度がより低くなりやすい。
ポリマーフィルム中のベースポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。上記含有量は、100質量%であってもよい。
【0044】
ベースポリマーとしては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、テトラフルオロエチレン系ポリマーが挙げられ、芳香族ポリイミドが好ましい。
【0045】
ベースポリマーである芳香族ポリイミドのイミド基密度は、0.20~0.35が好ましい。イミド基密度が上記上限値以下であれば、ポリマーフィルムの吸水率がより低くなり、積層フィルムの誘電特性の変化を抑制しやすい。イミド基密度が上記下限値以上であれば、イミド基が極性基として機能して、ポリマーフィルムとポリマー層との密着力がより向上するだけでなく、吸水率が顕著に低下しやすい。
また、上記イミド基密度がかかる範囲にあれば、積層フィルムにおけるシワがより発生しにくくなりやすい。かかるシワは、ポリマーフィルムにおける芳香族ポリイミドのガラス転移点が高い場合に生じにくい。
【0046】
なお、イミド基密度は、ポリイミド前駆体をイミド化したポリイミドにおいて、イミド基部分の単位当たりの分子量(140.1)をポリイミドの単位当たりの分子量で除した値である。例えば、ピロメリット酸二無水物(分子量:218.1)の1モルと3,4’-オキシジアニリン(分子量:200.2)の1モルとの2成分からなるポリイミド前駆体をイミド化したポリイミド(単位当たりの分子量:382.2)のイミド基密度は、140.1を382.2で除した値である0.37となる。
【0047】
芳香族ポリイミドとしては、ジアミンとカルボン酸二無水物とを反応させてポリアミック酸を合成し、このポリアミック酸を熱イミド化法又は化学イミド化法によりイミド化して得られるポリイミドが挙げられる。
ポリアミック酸を合成するための溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0048】
ジアミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル、2,4-ジアミノトルエンが挙げられる。これらのジアミン成分は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
カルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシクロヘキサン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0050】
また、ジアミンとカルボン酸二無水物との合計モル数に対する、ジアミン及びカルボン酸二無水物が含有するエーテル結合に由来する酸素原子の総モル数は、35~70%が好ましく、45~65%がより好ましい。この場合、芳香族ポリイミドのポリマー主鎖の柔軟性が高まり、芳香族環のスタック性が向上して、ポリマーフィルムとポリマー層との接着性がより向上する。また、この場合、積層フィルムのUV加工性もより良好になる。
かかるポリマーフィルムには、降伏強度、難塑性変形性、熱伝導性、ループスティフネス等の特性を高める目的で、無機フィラーを添加してもよい。かかる無機フィラーとしては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウムが挙げられる。
【0051】
ポリマーフィルムは、高い降伏強度を有するのが好ましい。具体的には、ポリマーフィルムの5%ひずみ時応力は、180MPa以上が好ましく、210MPa以上がより好ましい。上記5%ひずみ時応力は、500MPa以下が好ましい。
さらに、ポリマーフィルムは、難塑性変形性であるのが好ましい。具体的には、ポリマーフィルムの15%ひずみ時応力は、225MPa以上が好ましく、245MPa以上がより好ましい。上記15%ひずみ時応力は、580MPa以下が好ましい。
ポリマーフィルムが、高い降伏強度、特に難塑性変形性を有すれば、積層フィルムの線膨張係数の絶対値を充分に低くしやすく、反りの発生をより確実に防止できる。
【0052】
ポリマーフィルムの320℃における引張弾性率は、0.2GPa以上が好ましく、0.4GPa以上がより好ましい。その引張弾性率は、10GPa以下が好ましく、5GPa以下がより好ましい。
この場合の積層フィルムは、それを加工する際に加熱及び冷却してもハンドリング性に優れている。つまり、ポリマーフィルムの引張弾性率が、上記下限値以上であれば、加工時の加熱及び冷却に際して、ポリマー層の収縮がポリマーフィルムの弾性により効果的に緩和され、積層フィルムにシワが生じにくくなり、得られる積層フィルムの物性(表面平滑性等)が向上しやすい。かかる傾向は、ポリマー層中のFポリマーの含有量やポリマー層の厚さが大きい場合に顕著になる。また、ポリマーフィルムの引張弾性率が、上記上限値以下であれば、積層フィルムの柔軟性が一層高まりやすい。
【0053】
ポリマーフィルムはポリマー層と直接接触しているのが好ましい。すなわち、ポリマーフィルムの表面に、シランカップリング剤、接着剤等による表面処理を施すことなく、ポリマー層が直接形成(積層)されるのが好ましい。この場合、得られる積層フィルムにおいて、フィルム物性が低下しにくい。なお、上述した構成により、ポリマーフィルムとポリマー層とが直接接触していても、ポリマーフィルムとポリマー層との間に高い接着性が発現する。
【0054】
液状組成物のポリマーフィルムへの塗布方法は、ポリマーフィルムの表面に液状組成物からなる安定した液状被膜が形成される方法であればよく、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法が挙げられる。
【0055】
液状被膜が形成されたポリマーフィルムを加熱する際には、低温領域の温度に保持して液状分散媒を除去する、すなわち乾燥するのが好ましい。これにより、乾燥被膜が得られる。低温領域の温度は、80℃以上180℃未満が好ましい。低温領域の温度は、乾燥における雰囲気の温度を意味する。
低温領域の温度での保持は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。
低温領域の温度に保持する際の雰囲気は、常圧下、減圧下のいずれの状態であってよい。また、上記雰囲気は、酸素ガス等の酸化性ガス雰囲気、水素ガス等の還元性ガス雰囲気、希ガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気のいずれであってもよい。
【0056】
本法においては、さらに、低温領域での保持温度を超える温度領域(以下、「焼成領域」とも記す。)にて乾燥被膜を加熱し、Fパウダー(Fポリマー)を焼成してポリマーフィルムの表面にポリマー層を形成するのが好ましい。焼成領域の温度は、焼成における雰囲気の温度を意味する。
ポリマー層の形成は、Fパウダーの粒子が密にパッキングし、Fパウダー(Fポリマー)が融着して進行すると考えられる。なお、液状組成物が熱溶融性のARポリマーを含有する場合、FポリマーとARポリマーとの混合物からなるポリマー層が形成され、液状組成物が熱硬化性のARポリマーを含有する場合、FポリマーとARポリマーの硬化物とからなるポリマー層が形成される。
【0057】
焼成における雰囲気は、常圧下、減圧下のいずれの状態であってよい。また、上記雰囲気は、酸素ガス等の酸化性ガス雰囲気、水素ガス等の還元性ガス雰囲気、希ガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気のいずれであってもよい。
焼成における雰囲気は、不活性ガスから構成され酸素ガス濃度が低いガス雰囲気が好ましく、窒素ガスから構成され酸素ガス濃度(体積基準)が500ppm未満のガス雰囲気が好ましい。酸素ガス濃度(体積基準)は、通常、1ppm以上である。この範囲において、ポリマー成分の酸化分解が抑制しつつ、ポリマー層の接着性を向上させやすい。
焼成領域の温度は、Fポリマーの溶融温度以上が好ましく、300~380℃がより好ましい。
焼成領域の温度に保持する時間は、30秒~5分間が好ましく、1~2分間が特に好ましい。
【0058】
ポリマーフィルムの両面にポリマー層を形成する場合、液状組成物をポリマーフィルムの一方の表面に付与し、加熱して液状分散媒を除去し、液状組成物をポリマーフィルムの他方の表面に付与し、加熱して液状分散媒を除去し、さらに加熱してFポリマーを焼成させて、それぞれのポリマー層を形成して、積層フィルムを得るのが好ましい。
ポリマーフィルムの両面にポリマー層を有する積層フィルムは、液状組成物をポリマーフィルムの両方の表面に付与し、加熱して液状分散媒を除去し、さらに加熱してFポリマーを焼成させて、両方の表面のポリマー層を同時に形成して得てもよい。
【0059】
ポリマーフィルムの両面にポリマー層を有する積層フィルムは、ポリマーフィルムを液状組成物に浸漬して液状組成物をポリマーフィルムの両方の表面に付与した後に焼成炉を通過させ加熱して得るのが好ましい。具体的には、ポリマーフィルムを液状組成物に浸漬した後に、ポリマーフィルムを液状組成物から引き上げながら焼成炉を通過させ加熱して得るのがより好ましい。
ポリマーフィルムを引き上げ、焼成炉を通過させる方向は、鉛直上向きであるのが好ましい。この場合、平滑なポリマー層が形成されやすい。ポリマーフィルムを鉛直上向きに引き上げた後、鉛直下向きに引き下げながらさらに加熱してもよく、加熱せずに鉛直下向きに引き下げてポリマーフィルムを引き取ってもよい。
また、ポリマーフィルムに付与する液状組成物の量は、液状組成物が付着したポリマーフィルムを、一対のロール間を通過させて調整できる。
かかる積層フィルムは、ディップコーターと焼成炉とを有する装置を用いれば好適に製造できる。焼成炉としては、竪型焼成炉が挙げられる。また、かかる装置としては、田端機械工業社製のガラスクロスコーティング装置が挙げられる。
【0060】
ポリマーフィルムの平均厚さは、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。ポリマーフィルムの平均厚さは、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
ポリマー層の平均厚さは、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。ポリマー層の平均厚さは、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。本法における液状組成物を使用すれば、比較的厚く、かつ、厚さのバラつきの少ないポリマー層を形成できる。
また、積層フィルムの平均厚さは、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましい。積層フィルムの平均厚さは、1000μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。
【0061】
本発明の積層フィルム(以下、「本積層フィルム」とも記す。)は、表面張力を高める処理が施された表面を有するポリマーフィルムと、この表面に形成され、Fポリマーを含有するポリマー層とを備える。そして、かかる本積層フィルムでは、ポリマー層の中央部の厚さに対する端部の厚さの比が1.1以下であり、1.07以下が好ましく、1.04以下がより好ましい。かかる厚さの関係を満足するポリマー層は、その厚さにバラつきが少ないと言える。
本積層フィルムは、長尺であるのが好ましい。この場合、本積層フィルムの幅方向(短手方向:CD方向)の中央部における厚さと、幅方向の端部における厚さとの比が上記関係を満足するのが好ましい。この場合、長尺の本積層フィルムをロール状に巻いて保管する際に、ポリマー層の厚さが上記関係を満たしていれば、幅方向の端部においてシワが生じにくい。
【0062】
なお、長尺の本積層フィルムの長手方向(MD方向)の長さは、1~1000mが好ましく、短手方向(CD方向)の長さは、100~10000mmが好ましい。
また、本積層フィルムにおけるFポリマー及びARポリマーの定義及び範囲は、好適な態様も含めて、本法におけるそれらと同様である。また、本積層フィルムにおける構成及び物性の範囲も、好適な態様も含めて、本法におけるそれらと同様である。
本積層フィルムは、ポリマーフィルムの片面のみにポリマー層を備えていてもよく、ポリマーフィルムの両面にポリマー層を備えていてもよく、後者が好ましい。後者の場合、本積層フィルムの反りの発生を防止しやすい。
【0063】
本積層フィルムがポリマーフィルムの両面にポリマー層を備える場合、ポリマーフィルムの平均厚さに対する、2つのポリマー層の合計での平均厚さの比は、1以上が好ましい。上記比は、3以下が好ましい。この場合、ポリマーフィルムにおけるベースポリマーの物性(高降伏強度、難塑性変形性等)と、ポリマー層におけるFポリマー物性(低誘電率、低誘電正接等の電気特性、低吸水性等)とがバランスよく発現しやすい。また、上記比が大きく、ポリマー層が厚い本積層フィルムにおいても、反りや剥離が抑制されやすい。特に、ポリマーフィルムの引張弾性率が上述した下限値以上であると、この傾向が顕著になりやすい。
【0064】
また、2つのポリマー層の厚さは等しいのが好ましい。この場合、2つのポリマー層の線膨張係数がより近づくため、本積層フィルムに反りが一層発生しにくくなる。
本積層フィルムの誘電率は、2.0~3.0が好ましい。この場合、低誘電率が求められるプリント基板材料等に、本積層フィルムを好適に使用できる。
本積層フィルムの誘電正接は、0.0001~0.0020が好ましい。
【0065】
本積層フィルムの線膨張係数の絶対値は、30ppm/℃以下が好ましく、20ppm/℃以下がより好ましく、10ppm/℃以下がさらに好ましい。この場合、本積層フィルムが配置される雰囲気の温度等に依らず、本積層フィルムの反りの発生が効果的に防止される。本積層フィルムの線膨張係数の絶対値の下限は、0ppm/℃である。
本積層フィルムにおけるポリマー層とポリマーフィルムとの剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましく、20N/cm以上がさらに好ましい。本積層フィルムの剥離強度の上限は、100N/cmである。
【0066】
また、本積層フィルムは、低い吸水性(高い水バリア性)を発揮する。この要因は、ポリマー層とポリマーフィルムとが相溶した一体化物でなく、互いに独立して存在するため、Fポリマーの低吸水性がベースポリマーの高吸水性を補完するためであると考えられる。
具体的には、本積層フィルムを、50℃、48時間の条件で予備乾燥した後、23℃の純水に24時間浸漬し、純水に浸漬する前後の本積層フィルムの質量を測定したとき、式:
吸水率(%)=(純水浸漬後質量-予備乾燥後質量)/予備乾燥後質量×100
に基づいて求められる吸水率が、0.1%以下が好ましく、0.07%以下がより好ましく、0.05%以下がさらに好ましい。本積層フィルムの吸水率の下限は、0%である。
かかる低い吸水率の本積層フィルムは、吸水により変形しにくいため、プリント基板材料等に好適に使用できる。
【0067】
なお、ポリマー層にARポリマーを含有する本積層フィルムは、紫外線(UV)吸収性が高く、UV-YAGレーザー等のレーザーによる加工に適する。この要因は、ポリマー層中において、ARポリマーが、高度に分散し、ある種のマトリックスを形成しつつ、均一に分布するため、ARポリマーが有する芳香族環の良好なUV吸収性が発現した点にあると考えられる。
かかるポリマー層は、レーザー加工により、良好な形状を有するビアホールを簡便に形成できるため、このポリマー層を有する本積層フィルムは、特に、プリント基板材料として好適に使用できる。
【0068】
ポリマーフィルムが芳香族ポリイミドフィルムである本積層フィルムは、離型フィルムやキャリアフィルムとして有用である。本積層フィルムは、ポリマー層とポリマーフィルムとの接着性に優れ層間剥離しにくいため、キャリアフィルムとして繰り返し使用できる。また、ポリマー層は耐熱性に優れるため、繰り返し使用しても離型性も悪化しにくい。
【0069】
具体的には、かかる本積層フィルムのポリマー層の表面に、樹脂や無機フィラーを含む分散液やワニスを塗布し、乾燥して塗膜を形成し、続いて、塗膜から本積層フィルムを剥離すれば、独立した塗膜が得られる。例えば、本積層フィルムのポリマー層の表面に前記塗膜を形成した後、かかる塗膜を有する本積層フィルムの塗膜側と他の基材とを貼り合わせ、本積層フィルムを剥離すれば、他の基材と塗膜との積層体が得られる。
本積層フィルムのポリマー層の表面に塗膜を形成する際に、例えば乾燥時において、Fポリマーの融点以下の温度で加熱してもよい。本積層フィルムは耐熱性に優れるため、加熱処理を繰り返しても変形しにくい。
【0070】
本積層フィルムは、具体的には、セラミックグリーンシート形成用のキャリアフィルム、二次電池形成用のキャリアフィルム、固体高分子電解質膜形成用のキャリアフィルム、固体高分子電解質膜の触媒形成用キャリアフィルムとして有用である。
本積層フィルムをキャリアフィルムとして用いる場合、厚さが均一な前記塗膜を得る観点から、本積層フィルムの中央部の厚さに対する端部の厚さの比は、1.1以下が好ましく、1.07以下がより好ましく、1.04以下がより好ましい。厚さの比は、1以上である。
【0071】
本積層フィルムは、ポリマー層の表面の接着性に優れるため、他の基材と容易かつ強固に接合できる。他の基材としては、金属箔、金属導体が挙げられる。例えば、本積層フィルムの両面に金属箔を貼着すれば、金属張積層体が得られる。そして、金属箔を加工すれば、金属張積層体をプリント基板に容易に加工できる。
金属箔を構成する金属としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む。)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金が挙げられる。
金属箔としては、銅箔が好ましく、表裏の区別のない圧延銅箔又は表裏の区別のある電解銅箔がより好ましく、圧延銅箔がさらに好ましい。圧延銅箔は、表面粗さが小さいため、金属張積層体をプリント基板に加工した場合でも、伝送損失を低減できる。また、圧延銅箔は、炭化水素系有機溶剤に浸漬し圧延油を除去してから使用するのが好ましい。
【0072】
金属箔の表面の十点平均粗さは、0.01~4μmが好ましい。この場合、ポリマー層との接着性が良好となり、伝送特性に優れたプリント基板が得られやすい。
金属箔の表面は、粗化処理されていてもよい。粗化処理の方法としては、粗化処理層を形成する方法、ドライエッチング法、ウエットエッチング法が挙げられる。
金属箔の厚さは、金属張積層体の用途において充分な機能が発揮できる厚さであればよい。金属箔の厚さは、20μm未満が好ましく、2~15μmがより好ましい。
また、金属箔の表面は、その一部又は全部がシランカップリング剤により処理されていてもよい。
【0073】
金属張積層体において、ポリマー層の表面に金属箔を積層する方法としては、本積層フィルムと金属箔とを熱プレスする方法が挙げられる。
熱プレスにおけるプレス温度は、310~400℃が好ましい。
熱プレスは、気泡混入を抑制し、酸化による劣化を抑制する観点から、20kPa以下の真空度で行うのが好ましい。
また、熱プレス時には上記真空度に到達した後に昇温することが好ましい。上記真空度に到達する前に昇温すると、ポリマー層が軟化した状態、すなわち一定程度の流動性、密着性がある状態にて圧着されてしまい、気泡の原因となる場合がある。
熱プレスにおける圧力は、金属箔の破損を抑制しつつ、ポリマー層と金属箔とを強固に密着させる観点から、0.2~10MPaが好ましい。
特に、ポリマーフィルムの引張弾性率が上述した下限値以上であると、熱プレスにおける加熱冷却によるシワの発生を抑制しやすい。
【0074】
金属張積層体は、フレキシブル銅張積層板やリジッド銅張積層板として、プリント基板の製造に使用できる。
プリント基板は、例えば、金属張積層体における金属箔をエッチング等によって所定のパターンの導体回路(パターン回路)に加工する方法や、本発明の金属張積層体を電解めっき法(セミアディティブ法(SAP法)、モディファイドセミアディティブ法(MSAP法)等)によってパターン回路に加工する方法を使用して製造できる。
プリント基板の製造においては、パターン回路を形成した後に、パターン回路上に層間絶縁膜を形成し、層間絶縁膜上にさらに導体回路を形成してもよく、パターン回路上にソルダーレジストを積層してもよく、パターン回路上にカバーレイフィルムを積層してもよい。層間絶縁膜、ソルダーレジスト及びカバーレイフィルムは、それぞれ上記液状組成物によって形成してもよい。
【0075】
金属張積層体において、金属箔と本積層フィルムとの剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上がより好ましく、20N/cm以上がさらに好ましい。金属箔と本積層フィルムとの剥離強度の上限は、通常、100N/cmである。本積層フィルムによれば、熱圧着時に変形が抑制されるため、金属箔と高い密着性で接合され、剥離強度の高い金属張積層体が得られやすい。
【0076】
以上、本発明の積層フィルムの製造方法及び積層フィルムについて説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の積層フィルムは、上述した実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
また、本発明の積層フィルムの製造方法は、上述した実施形態の構成において、他の任意の工程を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の工程と置換されていてもよい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマー]
Fポリマー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×106個あたり1000個有するPFA系ポリマー(溶融温度:300℃)
Fポリマー2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×106個あたり25個有するPFA系ポリマー(溶融温度:305℃)
[パウダー]
パウダー1:D50が1.9μmである、Fポリマー1からなるパウダー
パウダー2:D50が2.0μmである、Fポリマー2からなるパウダー
【0078】
[液状分散媒]
液状分散媒1:N-メチル-2-ピロリドン(NMP:表面張力41mN/m)
液状分散媒2:トルエン(Tol:表面張力27mN/m)
[界面活性剤]
界面活性剤1:CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2(CF2)6FとCH2=C(CH3)C(O)(OCH2CH2)23OHとのコポリマーであり、フッ素含有量が、35質量%であるノニオン性ポリマー
[ARポリマーのワニス]
ワニス1:芳香族ポリイミドであるARポリマー1(ガラス転移点:315℃)を含むNMP溶液(固形分:10質量%)
[ポリマーフィルム]
ポリイミドフィルム1:厚さが50μm、ガラス転移点が315℃、イミド基密度が0.25、320℃における引張弾性率が0.3GPaの芳香族ポリイミドフィルム
【0079】
2.液状組成物の調製
(液状組成物1)
67質量部の液状分散媒1と、3質量部の界面活性剤1と、30質量部のパウダー1とをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpm×1時間の条件でポットをころがし、パウダー1を分散して、液状組成物1を得た。
(液状組成物2)
87質量部の液状分散媒1と、3質量部の界面活性剤1と、10質量部のパウダー1とをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpm×1時間の条件でポットをころがし、パウダー1を分散して、液状組成物2を得た。
【0080】
(液状組成物3)
パウダー1をパウダー2に変更した以外は、液状組成物1と同様にして、液状組成物3を調製した。
(液状組成物4)
液状分散媒1を液状分散媒2に変更した以外は、液状組成物3と同様にして、液状組成物4を調製した。
(液状組成物5)
70質量部の液状分散媒1と、30質量部のパウダー2とをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpm×1時間の条件でポットをころがし、パウダー2を分散して、液状組成物5を得た。
(液状組成物6)
57質量部の液状分散媒1と、10質量部のワニス1と、3質量部の界面活性剤1と、30質量部のパウダー1とをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpm×1時間の条件でポットをころがし、パウダー1を分散して、液状組成物6を得た。
【0081】
3.積層フィルムの製造
(例1)
まず、ポリイミドフィルム1の両方の面(表面張力:35mN/m、表面の算術平均粗さ:0.05μm)に、コロナ処理を施し、表面に極性官能基を導入した。なお、コロナ処理後のポリイミドフィルム1の表面の表面張力は、78mN/mであった。
次に、ポリイミドフィルム1の一方の面に、液状組成物1を小径グラビアリバース法で塗布し、通風乾燥炉(炉温:150℃)に3分間で通過させて、NMPを除去して乾燥被膜を形成した。
さらに、ポリイミドフィルム1の他方の面にも、同様に、液状組成物1を塗布、乾燥し、乾燥被膜を形成した。
次いで、両面に乾燥被膜が形成されたポリイミドフィルム1を、遠赤外線炉(炉温:320℃)に20分間で通過させて、パウダー1を溶融焼成させた。これにより、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム1、上記ポリマー層がこの順に直接形成された長尺の積層フィルム1を得た。
【0082】
(例2)
液状組成物1に代えて、液状組成物2を使用した以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー1を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム1、上記ポリマー層がこの順に直接形成された長尺の積層フィルム2を得た。
なお、積層フィルム2では、厚さ25μmのポリマー層を形成するのに、液状組成物1の塗布及び溶融焼成の操作を2回繰り返す必要があった。
(例3)
液状組成物1に代えて、液状組成物3を使用した以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー2を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム1、上記ポリマー層がこの順に直接形成された長尺の積層フィルム3を得た。
【0083】
(例4)
液状組成物1に代えて、液状組成物4を使用した以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー2を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム1、上記ポリマー層がこの順に直接形成された長尺の積層フィルム4を得た。
(例5)
液状組成物1に代えて、液状組成物5を使用し、ポリイミドフィルム1の表面へのコロナ処理を省略した以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー2を含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム1、上記ポリマー層がこの順に直接形成された長尺の積層フィルム5を得た。
(例6)
液状組成物1に代えて、液状組成物6を使用した以外は、例1と同様にして、ポリイミドフィルム1の両面にFポリマー1とARポリマー1とを含むポリマー層(厚さ:25μm)を形成し、上記ポリマー層、上記ポリイミドフィルム1、上記ポリマー層がこの順に直接形成された長尺の積層フィルム6を得た。
【0084】
4.評価
4-1.ポリマー層の外観
各積層フィルムにおいて、ポリマー層の表面を目視にて観察し、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:ポリマー層の表面にムラが見られず、平滑である。
×:ポリマー層の表面にムラが見られ、平滑でない。
【0085】
4-2.ポリマー層の厚さの均一性
各積層フィルムにおいて、1つのポリマー層の短手方向の中央部及び端部の厚さを測定し、端部の厚さ/中央部の厚さの比を求め、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:厚さの比が1.07以下である。
△:厚さの比が1.07超1.1以下である。
×:厚さの比が1.1超である。
【0086】
4-3.吸水率
各積層フィルムを、ASTM D570に準拠して、50℃×48時間で予備乾燥した後、23℃の純水に24時間浸漬した。純水に浸漬する前後の積層フィルムの質量を測定し、以下の式に基づいて吸水率を求め、以下の基準に従って評価した。
吸水率(%)=(純水浸漬後質量-予備乾燥後質量)/予備乾燥後質量×100
[評価基準]
◎:吸水率が0.05%以下である。
〇:吸水率が0.05%超0.07%以下である。
△:吸水率が0.07%超0.1%以下である。
×:吸水率が0.1%超である。
【0087】
4-4.剥離強度
各積層フィルムから、長さ100mm、幅10mmの矩形状の試験片を切り出した。その後、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置まで、ポリイミドフィルム1とポリマー層とを剥離した。次いで、試験片の長さ方向の一端から50mmの位置を中央にして、引張り試験機(オリエンテック社製)を用いて、引張り速度50mm/分で90度剥離し、最大荷重を剥離強度(N/cm)とし、以下の評価基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:剥離強度が15N/cm以上である。
△:剥離強度が10N/cm以上15N/cm未満である。
×:剥離強度が10N/cm未満である。
【0088】
4-5.誘電正接
各積層フィルムを、SPDR(スプリットポスト誘電体共振)法にて10GHzでの誘電正接を測定し、以下の評価基準に従って評価した。
[評価基準]
◎:誘電正接が0.0015以下である。
〇:誘電正接が0.0015超0.0020以下である。
△:誘電正接が0.0020超0.0030以下である。
×:誘電正接が0.0030超である。
以上の結果を、以下の表1に示す。
【0089】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の積層フィルムは、剥離強度(密着性)に優れ、ポリマー層の厚さの均一性が高い。このため、かかる積層フィルムは、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品等に加工して使用できる。