(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-18
(45)【発行日】2025-11-27
(54)【発明の名称】電子写真用部材とその製造方法、プロセスカートリッジ及び電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/08 20060101AFI20251119BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20251119BHJP
【FI】
G03G15/08 235
F16C13/00 B
F16C13/00 A
(21)【出願番号】P 2022044046
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2024-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021074334
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021161240
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022011865
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 政浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 加奈
(72)【発明者】
【氏名】日野 哲男
(72)【発明者】
【氏名】小川 涼
(72)【発明者】
【氏名】平谷 卓之
【審査官】佐藤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-133287(JP,A)
【文献】特開2012-103581(JP,A)
【文献】特開2020-166259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/00-21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯体と、その外周に設けられた弾性層を備える電子写真用部材において、
該電子写真用部材は、現像ローラであり、
該弾性層は、マトリックスと、該マトリックス中に分散された複数個のドメインとを有するウレタンエラストマーを含み、
該弾性層の厚さ方向の断面の走査型プローブ顕微鏡による粘弾性像において測定される該ドメインの粘弾性項を示すパラメータAと、該マトリックスの粘弾性項を示すパラメータBとの関係が、A<Bであり、
該弾性層の温度23℃におけるマイクロゴム硬度が20以上50以下であり、かつ、該弾性層の23℃におけるナノインデンターを用いた押し込み試験において、ビッカース圧子を荷重速度10mN/30秒で押し込み、荷重10mNで60秒間維持した後、除荷した時に除荷5秒後の歪みが1μm以下であ
り、
該走査型プローブ顕微鏡による粘弾性像の測定モードは、マイクロ粘弾性ダイナミックフォースモードであり、
該マイクロ粘弾性ダイナミックフォースモードは、カンチレバーを共振させた状態で該カンチレバーの振動及び振幅が一定となるように探針と測定試料の距離を制御しながら表面形状像を得るモードであり、
該カンチレバーは、ばね定数が1.9N/mであるシリコン製のマイクロカンチレバーであり、走査周波数は、0.5Hzであり、
該弾性層の長手方向の中央における該弾性層の厚さ方向の断面及び該弾性層の長手方向の両端から中央に向かってL/4(Lは該弾性層の長手方向の長さ)の2カ所における該弾性層の厚さ方向の断面、合計で3カ所の断面から、各々の切片を作製し、合計で3枚の切片を得て、
該3カ所の断面における粘弾性像の観察を行う観察領域として、該3枚の切片の各々の外表面から深さ100μmまでの厚み領域において任意の50μm四方の観察領域を選択し、合計3カ所の観察領域で観察を行い、
該粘弾性像を取得した後、該3カ所の観察領域の各々で粘弾性項を示すパラメータをドメインで各10点求めたとき、その平均値が該パラメータAであり、該3カ所の観察領域の各々で粘弾性項を示すパラメータをマトリックスで各10点求めたとき、その平均値が該パラメータBであり、
該パラメータA及び該パラメータBの単位は、mVであり、その値が大きい方が、弾性は高い、
ことを特徴とする電子写真用部材。
【請求項2】
前記マトリックスの弾性率が、2MPa以上8MPa以下である
、請求項1に記載の電子写真用部材。
【請求項3】
前記
3カ所の観察領域の
いずれもが
、下記要件(1)及び要件(2)を満たす
、請求項1または2に記載の電子写真用部材:
要件(1)該ドメインの断面積の合計の割合が該観察領域の15%以上45%以下である、
要件(2)断面積が該観察領域に対して0.1%以上13.0%以下である該ドメインの個数の割合が70個数%以上である。
【請求項4】
前記観察領域の全3カ所が、円形度が0.60以上0.95以下である該ドメインの個数の割合が70個数%以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の電子写真用部材。
【請求項5】
前記マトリックスが、繰り返し構造単位として
下記一般式(1)で表されるポリカーボネート構造単位を有するウレタンエラストマーを含み、かつ、
前記ドメインが、繰り返し構造単位として
下記一般式(2)で表されるポリエーテル構造単位を含む
、
請求項1~4のいずれか一項に記載の電子写真用部材。
【化1】
(R
1は、炭素数3~9のアルキレン基を示す。)
【化2】
(R
2は、炭素数3~5のアルキレン基を示す。)
【請求項6】
前記一般式(1)で表される繰り返し構造単位におけるR
1が、炭素数3~9の分岐構造を有するアルキレン基である
、請求項5に記載の電子写真用部材。
【請求項7】
前記一般式(2)で表される繰り返し構造単位におけるR
2が、炭素数3~5の分岐構造を有するアルキレン基である
、請求項5または6に記載の電子写真用部材。
【請求項8】
電子写真画像形成装置に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、
該プロセスカートリッジは、現像ローラを具備し、
該現像ローラは、請求項1~7のいずれか一項に記載の電子写真用部材
である
、
ことを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項9】
現像ローラを具備する電子写真画像形成装置であって、
該現像ローラは、請求項1~7のいずれか一項に記載の電子写真用部材
である
、
ことを特徴とする電子写真画像形成装置。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の電子写真用部材
を製造する電子写真用部材の製造方法であって、
該電子写真用部材は、現像ローラであり、
該製造方法が、
(i)少なくとも2個のイソシアネート基を有する第1のポリエーテルと、少なくとも2個の水酸基を有する第1のポリカーボネートポリオールとを反応させて少なくとも2個の水酸基を有するウレタン反応性乳化剤を得る工程、
(ii)該ウレタン反応性乳化剤の少なくとも一部を含む液滴を、第2のポリカーボネートポリオール中に分散させた分散体を得る工程、
(iii)該分散体、及び、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートを混合して弾性層形成用混合物を得る工程、及び
(iv)該軸芯体の表面上で該弾性層形成用混合物中の該ウレタン反応性乳化剤と、該第2のポリカーボネートポリオールと、該ポリイソシアネートと、を反応させて該弾性層を得る工程、
を有する
、
ことを特徴とする電子写真用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真方式の複写機、プリンタ等の電子写真画像形成装置(以下、単に「画像形成装置」とも称す)において使用される電子写真用部材及びその製造方法に向けたものである。また、本開示は、プロセスカートリッジ及び電子写真画像形成装置に向けたものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用した画像形成装置(電子写真方式を用いた複写機やファクシミリやプリンタ等)は、主に電子写真感光体(以下、「感光体」とも称す)、帯電装置、露光装置、現像装置、転写装置及び定着装置からなる。
画像形成装置においては、感光体がまず帯電部材(以下、「帯電ローラ」とも称す)により帯電され、続いて露光されることで感光体上に静電潜像が形成される。また、トナー容器内のトナーはトナー規制部材によりトナー担持体(以下、「現像ローラ」とも称す)上に塗布され、現像ローラによって現像領域に搬送される。そして、現像領域に搬送されたトナーによって、感光体と現像ローラの当接部で感光体上の静電潜像の現像が行われる。その後、感光体上のトナーは転写手段により記録紙に転写され、熱と圧力によって定着される。感光体上に残留したトナーは、クリーニング部材によって除かれる。
【0003】
従来、このような帯電ローラや現像ローラの弾性層の材料としては、シリコーンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エピクロルヒドリンゴム、及びウレタンエラストマーが使用されてきている。これらの材料の中でも、ウレタンエラストマーは良好な耐摩耗性を有する為、弾性層の材料として好んで用いられている。
しかしながら、ウレタンエラストマーは一般的に圧縮永久歪みが生じやすい。そのため、ウレタンエラストマーを含む弾性層を備えた現像ローラは、その特定の部位が、トナー規制部材と長時間に亘って当接し、当該特定の部位が変形した場合、当該変形は、容易には回復しない。特定の部位が変形した現像ローラを画像形成に供した場合、得られる電子写真画像には、当該変形した部位に対応した位置にスジ状の欠陥が生じることがある。ウレタンエラストマーを含む弾性層を備えた帯電ローラについても同様に、帯電ローラの特定の部位に発生した変形に起因する帯電不良が発生し、電子写真画像に欠陥が生じることがある。圧縮永久歪みは、ウレタンエラストマーの硬度が低いほど大きくなりやすく、上記の欠陥がより生じやすい。
【0004】
特許文献1は、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体、ビューレット体またはそれらの混合物からなるポリイソシアネートと、高分子量ポリプロピレンポリオールを主成分とするポリオールとを、イソシアネートインデックス80~120で反応させて得られるウレタンエラストマーからなる導電性弾性層を有する導電性ローラを開示している。特許文献1は、上記導電性弾性層によって、ローラの永久歪みが小さくなり、感光体への圧接や、ローラ、ブレードとの圧接によって生じる変形に対する復元性に優れた導電性ローラが得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】IEEE Transactions on SYSTEMS, MAN, AND CYBERNETICS, Vol. SMC-9, No. 1, January 1979, pp. 62-66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献1に係る導電性ローラについて検討した。その結果、特許文献1に係るウレタンエラストマーは、速度の速い画像形成装置に用いる現像ローラや帯電ローラの弾性層の構成材料としては、未だ改善の余地があるとの知見を得た。 本開示の一態様は、低硬度であって、かつ、変形からの回復が速い電子写真用部材の提供に向けたものである。また、本開示の他の態様は、低硬度であって、かつ、変形回復力に優れた電子写真用部材の製造方法に向けたものである。また、本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像の形成に資するプロセスカートリッジの提供に向けたものである。更に、本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像を形成することができる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一形態によれば、
軸芯体と、その外周に設けられた弾性層を備える電子写真用部材において、
該電子写真用部材は、現像ローラであり、
該弾性層は、マトリックスと、該マトリックス中に分散された複数個のドメインとを有するウレタンエラストマーを含み、
該弾性層の厚さ方向の断面の走査型プローブ顕微鏡による粘弾性像において測定される該ドメインの粘弾性項を示すパラメータAと、該マトリックスの粘弾性項を示すパラメータBとの関係が、A<Bであり、
該弾性層の温度23℃におけるマイクロゴム硬度が20以上50以下であり、かつ、該弾性層の23℃におけるナノインデンターを用いた押し込み試験において、ビッカース圧子を荷重速度10mN/30秒で押し込み、荷重10mNで60秒間維持した後、除荷した時に除荷5秒後の歪みが1μm以下であり、
該走査型プローブ顕微鏡による粘弾性像の測定モードは、マイクロ粘弾性ダイナミックフォースモードであり、
該マイクロ粘弾性ダイナミックフォースモードは、カンチレバーを共振させた状態で該カンチレバーの振動及び振幅が一定となるように探針と測定試料の距離を制御しながら表面形状像を得るモードであり、
該カンチレバーは、ばね定数が1.9N/mであるシリコン製のマイクロカンチレバーであり、走査周波数は、0.5Hzであり、
該弾性層の長手方向の中央における該弾性層の厚さ方向の断面及び該弾性層の長手方向の両端から中央に向かってL/4(Lは該弾性層の長手方向の長さ)の2カ所における該弾性層の厚さ方向の断面、合計で3カ所の断面から、各々の切片を作製し、合計で3枚の切片を得て、
該3カ所の断面における粘弾性像の観察を行う観察領域として、該3枚の切片の各々の外表面から深さ100μmまでの厚み領域において任意の50μm四方の観察領域を選択し、合計3カ所の観察領域で観察を行い、
該粘弾性像を取得した後、該3カ所の観察領域の各々で粘弾性項を示すパラメータをドメインで各10点求めたとき、その平均値が該パラメータAであり、該3カ所の観察領域の各々で粘弾性項を示すパラメータをマトリックスで各10点求めたとき、その平均値が該パラメータBであり、
該パラメータA及び該パラメータBの単位は、mVであり、その値が大きい方が、弾性は高い、
ことを特徴とする電子写真用部材が提供される。
【0009】
本開示の他の態様によれば、
電子写真画像形成装置に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、
該プロセスカートリッジは、現像ローラを具備し、
該現像ローラは、上記の電子写真用部材である、
ことを特徴とするプロセスカートリッジが提供される。
【0010】
また、本開示の他の態様によれば、
現像ローラを具備する電子写真画像形成装置であって、
該現像ローラは、上記の電子写真用部材である、
ことを特徴とする電子写真画像形成装置が提供される。
【0011】
さらに、本開示の他の態様によれば、
上記の電子写真用部材を製造する電子写真用部材の製造方法であって、
該電子写真用部材は、現像ローラであり、
該製造方法が、
(i)少なくとも2個のイソシアネート基を有する第1のポリエーテルと、少なくとも2個の水酸基を有する第1のポリカーボネートポリオールとを反応させて少なくとも2個の水酸基を有するウレタン反応性乳化剤を得る工程、
(ii)該ウレタン反応性乳化剤の少なくとも一部を含む液滴を、第2のポリカーボネートポリオール中に分散させた分散体を得る工程、
(iii)該分散体、及び、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートを含む弾性層形成用混合物を得る工程、及び
(iv)該軸芯体の表面上で該弾性層形成用混合物中の該ウレタン反応性乳化剤と、該第2のポリカーボネートポリオールと、該ポリイソシアネートと、を反応させて該弾性層を得る工程、
を有する、
ことを特徴とする電子写真用部材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、低硬度であって、かつ、変形からの回復が速い電子写真用部材を得ることができる。本開示の一態様によれば、低硬度であって、かつ、変形からの回復が速い電子写真用部材の製造方法を得ることができる。また本開示の一態様によれば、高品位な電子写真画像の形成に資するプロセスカートリッジを得ることができる。更に、本開示の一態様によれば、高品位な電子写真画像を形成することができる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の一態様に係る電子写真用部材の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本開示の一態様に係る電子写真用部材の弾性層の一形態の概略断面図である。
【
図3】本開示に係る弾性層の変形について説明する図である。
【
図4】断面の切り出し位置と方向について説明する図である。
【
図5】本開示の一形態に係る電子写真用部材の製造方法を表す模式図である。
【
図6】本開示の一形態に係る画像形成装置の一例の概略断面図である。
【
図7】本開示の一形態に係るプロセスカートリッジの一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」及び「XX~YY」との記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味している。また、数値範囲が段階的に記載されている場合においては、各数値範囲の上限及び下限の任意の組み合わせを開示しているものである。
近年の、プリントスピードのより一層の高速化及び電子写真画像のより一層の高品質化への要求の高まりの中で、現像ローラや帯電ローラの弾性層に対しては、変形からのより速い回復が必要となってきている。しかしながら、特許文献1に係るウレタンエラストマーは、本発明者らの検討によれば、変形からの回復速度は未だ十分ではなかった。特許文献1では、特許文献1に係るウレタンエラストマーの圧縮永久歪みの測定を、日本工業規格(JIS)K6301に従って行ったこと、圧縮条件を70℃で22時間としたことが記載されている。すなわち、特許文献1においては、特許文献1に係るウレタンエラストマーの圧縮永久歪みの測定は、温度70℃で22時間圧縮し、次いで圧縮状態から解放し、30分放置した後の厚さを測定することによって行われていると考えられる。しかしながら、このような試験の結果においては、少ない圧縮永久歪みが示されるウレタンエラストマーであっても、高速の画像形成装置用の現像ローラや帯電ローラのための弾性層を得るためには、未だ変形からの回復速度が遅かった。そのため、本発明者らは、柔軟性を維持しつつ、より速い変形回復性を示す弾性層の開発が必要であるとの認識を得た。
【0015】
ここで、弾性層は、一般にそのマイクロゴム硬度を低くすると圧縮永久歪みが大きくなり、変形からの回復速度も遅くなる。一方、圧縮永久歪みを小さく、かつ変形からの回復が速い弾性層を得るためには、弾性層の弾性率を大きくすることが有効である。しかしながら、弾性層の弾性率を大きくするに伴って、そのマイクロゴム硬度も高くなる。すなわち、弾性層のマイクロゴム硬度を低く保ちつつ、変形からの回復速度の速い弾性層を得ることは極めて困難であった。このような課題の解決に対して、本発明者らは更なる検討を重ねた。その結果、変形回復速度を速め得る構造を有するマトリックスと、マイクロゴム硬度の上昇の抑制に資する構造を有するドメインと、を有するマトリックス・ドメイン構造を導入したポリウレタンエラストマーを弾性層の構成材料として用いることが、上記の課題の解決に有効であることを見出した。
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本開示に係る電子写真用部材等について詳細に説明する。
【0016】
<電子写真用部材>
図1(a)及び
図1(b)はそれぞれ、本開示に係るローラ形状を有する電子写真用部材(以下、「電子写真用ローラ」ともいう)の2つの態様の周方向の概略断面図である。
図1(a)に示す電子写真用ローラ1Aは、導電性の軸芯体2と、軸芯体2の表面(外周面)を被覆している弾性層3と、を有する。また、
図1(b)に示す電子写真用ローラ1Bは、弾性層3の軸芯体2に対向する側とは反対側の表面(以降、「外表面」ともいう)上にさらに表面層4を有する。なお、本開示に係る電子写真用ローラは、これらの構成に限定されるものでなく、例えば、各層の間に接着層(不図示)を有していてもよい。
【0017】
(軸芯体)
軸芯体2は、軸芯体を介して電子写真用部材の表面に給電するために導電性を有することが好ましい。軸芯体の電気抵抗値は弾性層より低いことが好ましく、軸芯体の体積抵抗率は103Ω・cm以下であることが好ましい。導電性の軸芯体は、電子写真用部材の分野で公知なものから適宜選択して用いることができ、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、鉄等の金属製のものが好ましい。また、耐腐食性、耐摩擦性を向上させるため、これらの金属にクロム、ニッケル等のメッキ処理を施してもよい。軸芯体の形状は、中空状(円筒状)及び中実状(円柱状)から選ばれるいずれのものであってもよい。例えば、炭素鋼合金の表面に5μm程度の厚さのニッケルメッキを施した中実円柱状の軸芯体を用いることが可能である。円筒状又は円柱状の軸芯体の外径は、搭載される画像形成装置に応じて適宜選択することができる。
【0018】
(弾性層)
弾性層2は、以下の要件(1-1)~(1-4)を満たす。
要件(1-1):ウレタンエラストマーを含み、該ウレタンエラストマーは、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数個のドメインを有するマトリックス・ドメイン構造を有する。
要件(1-2):該弾性層の厚さ方向の断面の走査型プローブ顕微鏡による粘弾性像において測定される該ドメインの粘弾性項を示すパラメータをAとし、該粘弾性像において測定される該マトリックスの粘弾性項を示すパラメータをBとしたとき、A<Bである。すなわち、本開示に係る弾性層の厚さ方向の断面においては、該ウレタンエラストマーのマトリックス・ドメイン構造が観察される。そして、当該断面において観察される該ウレタンエラストマーのマトリックスの弾性率は、ドメインの弾性率よりも大きい。
要件(1-3):該弾性層の温度23℃におけるマイクロゴム硬度が20以上50以下である。
要件(1-4):該弾性層の23℃におけるナノインデンターを用いた押し込み試験において、ビッカース圧子を荷重速度10mN/30秒で押し込み、荷重10mNで60秒間維持した後、除荷した時に除荷5秒後の歪みが1μm以下である。
本開示に係るウレタンエラストマーは、マトリックスに変形からの回復性の機能を担持させ、ドメインにウレタンエラストマーの硬度を下げる機能を担持させている。このようなウレタンエラストマーの採用によって、本開示に係る弾性層は、上記要件(1-3)で規定してなる柔らかさと、上記要件(1-4)で規定してなる変形からの速い回復性とを発現するものとなっている。
一方、一般的なウレタンエラストマーも、いわゆるハードセグメント及びソフトセグメントの間では弾性率の差を有する。しかしながら、上記要件(1-3)に係る柔軟性を有しつつ、要件(1-4)の規定に係る変形からの速い回復速度を示すウレタンエラストマーは存在しなかったものと考えられる。
【0019】
図2(a)は、本開示の一態様に係る電子写真用ローラ1Aの周方向の部分断面図である。また、
図2(b)は、当該電子写真用ローラ1Aの軸芯体2の長手方向に沿う方向の部分断面図である。
図2(a)及び
図2(b)において、弾性層3の厚さ方向の断面で観察される、本開示に係るウレタンエラストマーが有するマトリックス31と、当該マトリックス31中に分散している複数個のドメイン32と、を模式的に示した。
該ポリウレタンエラストマーは、前記した通り、マトリックス31と、マトリックス中に分散されたドメイン32と、を有するマトリックス・ドメイン構造を有する。そして、マトリックス31が変形回復速度を速め得る構造を有し、ドメイン32がマイクロゴム硬度の上昇の抑制に資する構造を有する。その結果として、該ドメインより該マトリックスが高い弾性を示す。そして、
図3(a)及び
図3(b)は、本開示に係る弾性層3の変形回復性の説明図である。
図3(a)に示すように、マトリックス31中にドメイン32が複数個分散している。そして、ドメイン32はマトリックス31より低弾性であるため、弾性層3が、
図3(b)に示すように、矢印Fの方向に圧縮されたとき、ドメイン32が優先して変形する。このため、マトリックス31が高弾性であっても、弾性層のマイクロゴム硬度を低くし得る。また、弾性層が圧縮から解放されたときには、連続相であるマトリックス31の弾性によって、弾性層の厚さは圧縮前の厚さに速やかに戻り得る。
【0020】
(弾性層のマイクロゴム硬度)
弾性層の硬度は、マイクロゴム硬度で20以上50以下である。マイクロゴム硬度を50以下にすることで、現像ローラとトナー規制部材との間のニップ幅や、帯電ローラと感光体との間のニップ幅が大きくなり、当接圧力が過剰に大きくならない。このことにより、現像ローラ上のトナーの現像ローラへの融着や、クリーニング部材をすり抜けて帯電ローラに付着したトナーの帯電ローラへの融着が起こりにくくなる。また、マイクロゴム硬度を20以上にすることで機械的強度が強くなり、高寿命の画像形成装置で使っても弾性層の端部が削れにくくなる。
マイクロゴム硬度は次のようにして求める。マイクロゴム硬度を測定する場所は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所の合計3カ所である。各測定場所において、表面をマイクロゴム硬度計(商品名:MD-1capa;高分子計器社製、押し針:タイプA(円柱形、直径0.16mm、高さ0.5mm、外径4mm、内径1.5mm)、測定モード:ピークホールドモード)を用いて、温度23℃でマイクロゴム硬度を測定した時の平均値を算出する。算出したこの平均値を本開示におけるマイクロゴム硬度とする。
【0021】
(粘弾性項を示すパラメータ)
マトリックス31及びドメイン32の相対的な弾性率の差は、弾性層を薄片化し、走査型プローブ顕微鏡(SPM/AFM)で測定することができる。走査型プローブ顕微鏡としては、例えば、日立ハイテクサイエンス社製の「S-Image」(商品名)を使用することができる。また、薄片化する手段としては、例えば鋭利なカミソリや、ミクロトーム、収束イオンビーム法(FIB)等が挙げられる。
切片を作製する場所は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所において、
図4に示されるように弾性層の厚さ方向の断面41~43から切片を計3枚作製する。また、電子写真用部材が他部材と当接した時に変形する領域は主に弾性層の外表面から深さ100μmまでの厚み領域である。そこで、断面41~43の観察領域は、各切片のそれぞれ外表面から深さ100μmまでの厚み領域で任意の50μm四方の観察領域を選択し、合計3カ所の観察領域で粘弾性像の観察を行う。
SPMによる粘弾性像の測定モードは、マイクロ粘弾性ダイナミックフォースモード(Viscoelastic Dynamic Force Mode(VE-DFM)とする。また、カンチレバーとしては、DMF用のシリコン製マイクロカンチレバー(「SI-DF3」(商品名)、日立ハイテクサイエンス社製、ばね定数=1.9N/m)を用いる。さらに、走査周波数は0.5Hzとする。なお、VE-DFMは、カンチレバーを共振させた状態で当該カンチレバーの振動、振幅が一定となるように探針と測定試料の距離を制御しながら表面形状像を得るモードである。
粘弾性像を取得した後、各観察領域で粘弾性項を示すパラメータをマトリックスとドメインで各10点求め、その平均値を本開示におけるドメインの粘弾性項を示すパラメータAとマトリックスの粘弾性項を示すパラメータBとした。なお、パラメータAとパラメータBの単位はmVであり、値が大きい方が弾性は高いことになる。
パラメータAとパラメータBの比(A/B)としては、0.65以下であることが好ましい。A/Bが小さいほどマトリックスとドメインの粘弾性の差が大きくなるため、硬度と変形の回復の両立が達成しやすくなる。
【0022】
(変形からの回復性)
弾性層3は、温度23℃におけるナノインデンターを用いた押し込み試験において、ビッカース圧子を荷重速度10mN/30秒で押し込み、荷重10mNで60秒間維持した後、除荷した時に除荷5秒後の歪みが1μm以下である。
上記条件で測定した時の除荷5秒後の歪みを1μm以下にすることで、高速プリンタの現像ローラとして適用した場合のスジ状の画像不良を抑制できる。これは、高速プリンタを作動してから静電潜像の現像までの短時間の間に現像ローラの変形が通常のトナー1個分の大きさ以下まで回復し得るためである。また、帯電ローラに適用した場合でも、変形からの回復が速いため、感光体に対する放電のムラが生じにくく、感光体の帯電ムラに起因するスジ状の画像欠陥の発生を防止し得る。
本開示においては、ナノインデンターとして「フィッシャースコープHM2000」(商品名、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)を使用し、温度23℃における測定値を採用する。また、測定に用いる圧子は、四角錘型で対面角136°のビッカース圧子を用いる。更に測定位置は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所の計3カ所である。各測定場所において、ナノインデンターを使って測定した時の平均値を本開示における除荷5秒後の歪みとする。
【0023】
(マトリックスの弾性率)
マトリックス31の弾性率は2MPa以上8MPa以下であることが好ましい。マトリックスの弾性率を2MPa以上にすることでマトリックスのスプリングとしての効果が大きくなり、変形の回復を速くすることができる。また、マトリックスの弾性率を8MPa以下にすることでマトリックスの硬度が下がり、弾性層のマイクロゴム硬度を低く抑えることができる。
マトリックスの弾性率は、弾性層を薄片化し、走査型プローブ顕微鏡(SPM/AFM)で測定することができる。走査型プローブ顕微鏡としては、例えばオックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製の「MFP-3D-Origin」(商品名)を使用することができる。また、薄片化する手段としては、例えば鋭利なカミソリや、ミクロトーム、収束イオンビーム法(FIB)等が挙げられる。
切片を作製する場所は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所において、
図4に示されるように弾性層の厚さ方向に切片を計3枚作製する。また、断面41~43の観察領域に関しては、各切片のそれぞれ外表面から深さ100μmまでの厚み領域で任意の50μm四方の観察領域を選択し、合計3カ所の観察領域で位相像の観察を行う。SPMによる位相像の測定モードは、AM-FMとする。また、カンチレバーとしては、ダイナミックモード用シリコンカンチレバー、例えば、「OMCL-AC-160TS」(商品名、オリンパス株式会社製、ばね定数=47.08N/m)を用いる。さらに、走査周波数は0.5Hzとする。
位相像を取得した後、マトリックスの弾性率を測定するために、SPMを用いてフォースカーブを測定する。フォースカーブの測定モードはコンタクトモードとし、Force Distanceは500nm、Trigger Pointは0.01Vとする。また、カンチレバーは、上記と同様に、ダイナミックモード用シリコンカンチレバー、例えば、「OMCL-AC-160TS」(商品名、オリンパス株式会社製、ばね定数=47.08N/m)を用いる。走査周波数は1Hzとする。
各観察領域でマトリックスの弾性率を10点求め、その平均値を本開示におけるマトリックスの弾性率とした。
【0024】
(ドメインの断面積と個数)
弾性層の厚さ方向の断面において観察されるポリウレタンエラストマーのドメイン32の断面積及び個数について述べる。
弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央、及び弾性層の両端から中央に向かってL/4の3カ所を指定する。この3カ所における、弾性層の厚さ方向の断面の各々について、弾性層の外表面から深さ100μmまでの厚み領域で任意に50μm四方の観察領域を置いた時に、観察領域の全3カ所が下記要件(2-1)及び要件(2-2)を満たすことが好ましい。
要件(2-1):観察領域内に存在するドメインの断面積の総和の、観察領域の面積に対する割合が、15%以上45%以下である。
要件(2-2):観察領域内に存在するドメインの各々の断面積を算出したとき、観察領域の面積に対して0.1%以上13.0%以下の断面積を有するドメインの個数の、該観察領域内に存在するドメインの総個数に占める割合が70個数%以上である。
上記要件(2-1)に関して、ドメインの断面積の総和の、観察領域の面積に占める割合を15%以上にすることで、弾性層のマイクロゴム硬度を低く抑えることができる。また、該割合を45%以下にすることで、弾性層の変形の回復を速くすることができる。
要件(2-2)に関して、観察領域の面積の0.1~13.0%の断面積を有するドメインの個数を、観察領域内のドメインの総個数の70%以上とすることで、弾性層が圧接されたときに十分に変形できる大きさのドメインの数が確保される。そのため、弾性層のマイクロゴム硬度を低くすることができる。また、弾性層に負荷が加わったときに過度に変形するような大きなドメインの数が少ないため、弾性層のマイクロゴム硬度が低くなり過ぎることを抑制できる。
ここで、ドメインの断面積と個数は次のようにして求める。まず、前述のマトリックスの弾性率の測定における方法と同様の方法で切片を作製する。切片を作製する場所は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所において、
図4に示されるように弾性層の全厚さ方向の断面41、42及び43が露出してなる切片を作製する。次いで、各切片の、弾性層の外表面から深さ100μmまでの厚み領域内の任意の位置に、50μm四方の観察領域を設定する。そして、合計3カ所の観察領域について、ドメインの断面積、個数、及び円形度の測定を行う。
【0025】
観察領域内のドメインの断面積、及びドメインの個数は、次のようにして測定することができる。まず、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)、または走査型プローブ顕微鏡(SPM/AFM)を使って観察する。得られた断面画像に対し、「ImageProPlus」(商品名、MediaCybernetics社製)のような画像処理ソフトを使って256階調のモノクロ画像に変換する。次いで、上記画像処理ソフトを用いて2値化処理を行って、2値化画像を得る。2値化の方法は、当該モノクロ画像内のドメインとマトリックスとを判別することができれば特に限定されないが、例えば、当該モノクロ画像の輝度分布から、非特許文献1に記載されている大津のアルゴリズムに基づいて2値化の閾値を設定する方法が挙げられる。
次に、2値化画像に対して、上記画像処理ソフトのカウント機能を使用して当該観察領域内に存在するドメインの断面積、及びドメインの個数を得る。なお、得られた解析用の2値化画像には、ノイズ由来の微小なドットが存在する場合がある。このようなノイズ由来の微小なドットが存在する2値化画像に基づいて、画像処理ソフトを用いて解析した場合、当該ノイズ由来のドットもドメインとしてカウントされることがある。そのため、当該カウント機能を用いてドメインと判定されたドメインのうち、50μm四方の観察領域に対して、断面積が0.05%未満のドメインは、ノイズ由来のドメインとみなして、データから削除することが好ましい。
【0026】
(ドメインの円形度)
さらに、弾性層の厚さ方向の断面において観察されるポリウレタンエラストマーのドメインは、その円形度が、0.60以上0.95以下であるドメインの個数の、観察領域内に存在するドメインの総個数に占める割合が70個数%以上であることが好ましい。
円形度が一定以上のドメインは、ドメインが変形から回復する際に、ドメインの形状が回復していく方向に異方性が生じにくい。そして、円形度が一定以上のドメインの数(割合)が多いことにより、弾性層の変形からの回復も異方性が生じにくい。その結果、変形からの回復後の弾性層に、変形回復の異方性に起因するシワ等が生じにくい。
ここで、ドメインの円形度と個数は、前記したドメインの断面積及び個数の測定と同時に、当該画像処理ソフトのカウント機能を使用して求めることができる。
【0027】
(弾性層の材料)
本開示に係る弾性層を実現し得るポリウレタンエラストマーについて説明する。前述したとおり、本開示に係るポリウレタンエラストマーは、マトリックス31と、マトリックス中に分散されたドメイン32と、を有するマトリックス・ドメイン構造を有する。そして、マトリックス31が変形回復速度を速め得る構造を有し、ドメイン32がマイクロゴム硬度の上昇の抑制に資する構造を有する。
このようなポリウレタンエラストマーのマトリックス31は、繰り返し構造単位として一般式(1)で表されるポリカーボネート構造単位を有することが好ましい。さらには、一般式(1)で表される繰り返し構造単位におけるR1で表される炭素数3~9のアルキレン基は分岐構造を有することがより好ましい。
【0028】
【化1】
(R
1は、炭素数3~9のアルキレン基示す。)
【0029】
一般的に、ポリカーボネート構造を有するポリオール(ポリカーボネートポリオール)とポリイソシアネートとの反応により得られるポリウレタンは、カーボネート基間での強い分子間力に起因した高い弾性を示す。そのため、マトリックス31の構成成分として好ましい。
R1が炭素数3~9のアルキレン基であることにより、後述する一般式(2)で表される繰り返し構造単位のポリエーテルを含むドメインとの非相溶性が担保され、マトリックスとドメインとを明確に相分離させることができる。これにより、本開示に係るポリウレタンエラストマーの柔らかさと変形からの速い回復という2つの機能をより確実に発揮させ得る。
また、R1が炭素数3~9の分岐構造を有するアルキレン基を含有することにより、カーボネート基間での分子間力を適度に抑え、マトリックスが過度な高弾性になることを抑制できる。
R1としては、例えば、-(CH2)m-(m=3~9)、-CH2C(CH3)2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-、-(CH2)2CH(CH3)(CH2)2-等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。
前記ポリカーボネートの数平均分子量を含め後述のポリオールなどの数平均分子量は、いずれも水酸基価(mgKOH/g)と価数を用いて下記の数式によって算出することができる。例えば、水酸基価56.1mgKOH/g、価数2のポリエーテルポリオールの数平均分子量は2000と算出することができる。
数平均分子量=56.1×1000×価数÷水酸基価
マトリックスの弾性率は、例えばポリイソシアネートの3量体化合物や多量体化合物を使って架橋密度を上げる方法等により調整することが可能である。通常、弾性率を上げると弾性層のマイクロゴム硬度も上がるが、本開示ではマトリックス中に低弾性なドメインが複数個分散しているので、過度な高硬度化を抑えることができる。
【0030】
ドメイン32は、繰り返し構造単位として一般式(2)で表されるポリエーテル構造単位を含むことが好ましい。さらには、一般式(2)で表される構造単位におけるR2表される炭素数3~5アルキレン基は分岐構造を有することがより好ましい。
【0031】
【化2】
(R
2は、炭素数3~5のアルキレン基を示す。)
【0032】
一般的にポリエーテルは、エーテル基間での弱い分子間力に起因して、低い弾性率を示すので、ドメインの成分として好ましい。
炭素数3~5のアルキレン基を含有することにより、一般式(1)で表されるポリカーボネート構造単位を有するウレタンエラストマーとの非相溶性が担保され、マトリックスとドメインが明瞭に相分離するため好ましい。
R2としては、例えば、-(CH2)m-(m=3~5)、-CH2CH(CH3)-、-CH2C(CH3)2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-、-(CH2)2CH(CH3)CH2-等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。
一般式(2)で表されるポリエーテル構造単位の数平均分子量は、1000以上50000以下であることが好ましい。より好ましくは、1200以上30000以下である。
数平均分子量が1000以上である場合、一般式(1)で表されるポリカーボネート構造単位を含むウレタンエラストマーとの非相溶性が担保され、マトリックスとドメインの相分離が明瞭化するため好ましい。また、数平均分子量が50000以下の場合、ドメインを形成しやすくなり、相分離形態が安定化するので好ましい。
ドメインの断面積の合計の割合は、例えば、マトリックスの一般式(1)のポリカーボネート構造単位を含むウレタンエラストマーとドメインの一般式(2)のポリエーテル構造単位の配合比率で調節することができる。一般式(2)のポリエーテル構造単位の配合比率を増やすとドメインの断面積の合計の割合が増える。ただし、一般式(2)のポリエーテル構造単位の配合比率を増やしすぎると、マトリックスとドメインの逆転が起きて一般式(2)のポリエーテル構造単位がマトリックスの主成分になることがある。また、ドメインの断面積は、例えば、一般式(2)のポリエーテル構造単位の数平均分子量を大きくすると大きくすることができる。
マトリックス、及びドメインに含まれる成分の化学構造については、例えば、AFM赤外分光分析装置や顕微赤外分光分析装置、顕微ラマン分光分析装置等の分光分析装置、あるいは質量分析装置等を用いて分析することができる。
【0033】
(ポリウレタンエラストマーの製造方法)
上記したポリウレタンエラストマーの製造方法の一例としては、下記工程(i)~(iii)を有する方法が挙げられる。
工程(i)少なくとも2個のイソシアネート基を有する第1のポリエーテルと、少なくとも2個の水酸基を有する第1のポリカーボネートポリオールとを反応させて少なくとも2個の水酸基を有するウレタン反応性乳化剤を得る工程。
工程(ii)ウレタン反応性乳化剤の少なくとも一部を含む液滴を、第2のポリカーボネートポリオール中に分散させた分散体を得る工程。
工程(iii)工程(ii)で得られた分散体、及び、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートを含む弾性層形成用混合物を調製し、次いで、該弾性層形成用混合物中の該ウレタン反応性乳化剤、該第2のポリカーボネートポリオール、及び、該ポリイソシアネートを反応させる工程。
【0034】
上記の製造方法の各工程を、
図5を用いて説明する。
工程(i)では、少なくとも2個のイソシアネート基を有する第1のポリエーテル51と、少なくとも2個の水酸基を有する第1のポリカーボネートポリオール52とを混合する。触媒の存在下で混合物中のイソシアネート基と水酸基とを反応させ、ウレタン結合を介して両者を連結することによって、少なくとも2個の水酸基を有するウレタン反応性乳化剤53を得る。
工程(ii)では、第2のポリカーボネートポリオール55中に、工程(i)で得られたウレタン反応性乳化剤53を分散させる。ウレタン反応性乳化剤53に含まれる第1のポリエーテル51に由来するセグメントは、第2のポリカーボネートポリオール55とは相溶せず、液滴54を形成する。一方、ウレタン反応性乳化剤53に含まれる第1のポリカーボネートポリオール52に由来するセグメントを介して、第2のポリカーボネートポリ―ル55中において、該ウレタン反応性乳化剤の一部を構成する第1のポリエーテルに由来するセグメントを含む液滴54は、均一かつ安定に分散される。その結果、ウレタン反応性乳化剤53の第1のポリエーテル51に由来するセグメントを含む液滴54が第2のポリカーボネートポリオール55中に分散した分散体が得られる。なお、説明のため、工程(i)と工程(ii)を分割して記載しているが、これらの工程は連続した一連の工程であってもよい。
【0035】
工程(ii)において、液滴54を分散させる第2のポリカーボネートポリポリオール55は、工程(i)で用いた第1のポリカーボネートポリオールのうち、第1のポリエーテルとの未反応物であることができる。すなわち、工程(i)において、第1のポリエーテルに対して第1のポリカーボネートポリオールを過剰量用いることで、工程(ii)で説明した、ウレタン反応性乳化剤53が余剰の第1のポリカーボネートポリオール、すなわち、第2のポリカーボネートポリオール55に分散してなる分散体を得ることができる。なお、第1のポリカーボネートポリオールを過剰量用いた場合であっても、ウレタン反応性乳化剤の分散媒としてのポリカーボネートポリオール(第2のポリカーボネートポリオール)を追加で加えることもできる。この場合において、追加するポリカーボネートポリオールは、工程(i)で用いた第1のポリカーボネートポリオールと同一の化学組成のものであっても異なっていてもよい。
【0036】
一方、工程(i)において、第1のポリカーボネートポリオールと、第1のポリエーテルと、を当量で反応させ、第1のポリカーボネートポリオールを全て消費した場合には、工程(ii)においては、新たなポリカーボネートポリオールを第2のポリカーボネートポリオールとして用いて、分散体を調製する。この場合においても、第2のポリカーボネートポリオールとして用いるポリカーボネートポリオールは、第1のポリカーボネートポリオールと同一の化学組成のものであっても異なっていてもよい。
【0037】
最後に工程(iii)では、工程(ii)で調製した分散体、及び、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート56を含む弾性層形成用混合物を調製する。次いで、該弾性層形成用混合部中の該ウレタン反応性乳化剤53の末端水酸基、該第2のポリカーボネートポリオール55の水酸基、及び該ポリイソシアネート56のイソシアネート基を反応させる。こうして、ウレタン結合を介したネットワーク構造を形成させることにより該弾性層形成用混合物を硬化させて、本開示に係るポリウレタンエラストマーを得る。こうして得られたポリウレタンエラストマー500は、第1のポリエーテル51に由来するポリエーテルを含むドメイン32が、第1のポリカーボネートポリオール52、及び第2のポリカーボネートポリオール55に由来するポリカーボネートを有するウレタンエラストマーを含むマトリックス31中に分散してなる、マトリックス・ドメイン構造を有する。また、ドメイン32は、主としてポリエーテル構造部分で構成され、ドメイン内部は架橋構造を実質的に有さないようにすることができる。言い換えれば、ドメイン32は、ほぼ液体の状態でマトリックス中に存在させ得る。このことにより、本開示に係るポリウレタンエラストマーにおいては、ドメインが低い弾性率を有することができる。
【0038】
さらに、当該ドメインは、単に液体部分がマトリックス中に閉じ込められているのではなくて、ドメインとマトリックスとの境界部分において、ドメインとマトリックスとがウレタン結合で化学結合している。そのため、当該ポリウレタンエラストマーに加えられた荷重が除去されたときのドメインの変形からの回復をマトリックスの変形からの回復に連動させることができる。すなわち、略液状のドメインは、内部に架橋構造を実質的に有さない。そのため、ポリウレタンエラストマーに対して荷重が付加されて変形したドメインは、自律的には変形から回復することが困難である。しかしながら、本開示に係るポリウレタンエラストマーにおいては、ドメインがマトリックスとの境界部分においてマトリックスと化学結合していることにより、マトリックスの変形回復とともにドメインも変形から回復し得る。このことにより、ポリウレタンエラストマーに荷重の負荷と除荷とが繰り返された場合であっても安定した変形(変形量)と、当該変形からの安定的な回復とが達成される。
【0039】
なお、上記工程(i)~(ii)は、本来は相溶性が低く、安定かつ均一に分散させることが困難なポリエーテルをポリオールに安定して分散させる工程である。すなわち、第1のポリエーテル51を、第1のポリカーボネートポリオール52と反応させてウレタン反応性乳化剤53とする。そのことにより、第1のポリエーテル51に由来するポリエーテルのセグメントを、第2のポリカーボネートポリオール中に安定かつ均一に分散してなる分散体を得る工程である。これにより、円形度が高く、かつサイズがマイクロメートルオーダーと小さくて比較的均一なサイズ分布のドメイン32が、マトリックスとしてのポリウレタン31中に分散してなるポリウレタンエラストマーを作製することが可能となる。
なお、相溶性が低い材料同士を混合する他の方法として、例えば、高いせん断力で混合、分散させる方法がある。しかしながら、この方法では、ポリエーテルに高いせん断力が加わる結果、ドメインの形状がいびつになって円形度が低下し、また、ドメイン同士のサイズも不均一となり得る。また、分散状態も不安定であり、比較的段時間でドメイン同士の凝集が進む。また、ポリエーテルとポリカーボネートポリオールとの非相溶性が担保されず、得られるウレタンエラストマーのマトリックスとドメインとの相分離が不明瞭化する。そのため、本開示に係る、柔軟かつ変形回復性に優れる弾性体を与えるようなポリウレタンエラストマーを得ることは困難である。
【0040】
第1のポリエーテルは、少なくとも2個のイソシアネート基を有し、かつ一般式(2)で表される繰り返し構造単位を有するポリエーテルである。第1のポリエーテルは、例えば、少なくとも2つの水酸基を有し、かつ一般式(2)で表される繰り返し構造単位を有するポリエーテルポリオールと、少なくとも2つのイソシアネート基を有するポリイソシアネートを反応させる工程によって得ることができる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、テトラヒドロフランとネオペンチルグリコールとの共重合体、テトラヒドロフランと3-メチルテトラヒドロフランとの共重合体等のアルキレン構造含有ポリエーテル系ポリオールや、これらポリアルキレングリコールのランダムあるいはブロック共重合体等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。
ポリエーテルポリオールの中でも、第2のポリカーボネートポリオールとの非相溶性、及び低硬度を実現できるという観点から、非晶性のポリエーテルポリオールが好ましい。
より好ましくは、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフランとネオペンチルグリコールとの共重合体、テトラヒドロフランと3-メチルテトラヒドロフランとの共重合体から選ばれる少なくとも一つを含有することである。
ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、1000以上50000以下であることが好ましい。より好ましくは、1200以上30000以下である。数平均分子量が1000以上である場合、ポリカーボネートポリオールとの非相溶性が担保され、得られるウレタンエラストマーのマトリックスとドメインとの相分離が明瞭化するため好ましい。また、数平均分子量が50000以下の場合、ドメインを形成しやすくなり、相分離形態が安定化するので好ましい。
【0041】
ポリエーテルポリオールと反応させるポリイソシアネートとしては、例えば、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、あるいはこれらポリイソシアネートの3量体化合物(イソシアヌレート)、または多量体化合物、アロファネート型ポリイソシアネート、ビューレット型ポリイソシアネート、水分散型ポリイソシアネート等が挙げられる。これらポリイソシアネートは単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。
ポリイソシアネートの中でも、第1のポリエーテルとの相溶性の高さ、及び粘度等の物性調整の容易さから、2つのイソシアネート基を有する二官能イソシアネートが好ましい。より好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれる少なくとも一つを含有することである。
ポリエーテルポリオールとポリイソシアネートを反応させる工程において、イソシアネートインデックスが1.2から5.0の範囲であることが好ましい。イソシアネートインデックスがこの範囲にあることによって、ネットワーク構造化されずに残存する第1のポリエーテル由来の成分を低減し、ウレタンエラストマーからの液状物質の滲み出しを抑制することができる。なお、イソシアネートインデックスとは、イソシアネート化合物中のイソシアネート基のモル数とポリオール化合物中の水酸基のモル数との比([NCO]/[OH])を示すものである。
ポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとの反応で得られる第1のポリエーテルは、水酸基とイソシアネート基との反応によるウレタン結合を介して連結された構造を有している。その数平均分子量は1000以上50000以下であることが好ましい。より好ましくは、1200以上30000以下である。
【0042】
第1のポリカーボネートポリオールは、少なくとも2個の水酸基を有し、かつ一般式(1)で表される繰り返し構造単位を有するポリカーボネートポリオールである。第1のポリカーボネートポリオールとしては、例えば、多価アルコールとホスゲンとの反応物、環状炭酸エステル(アルキレンカーボネート等)の開環重合物等が挙げられる。
多価アルコールとしては、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-テトラメチレンジオール、1,3-テトラメチレンジオール、2-メチル-1,3-トリメチレンジオール、1,5-ペンタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサメチレンジオール、3-メチル-1,5-ペンタメチレンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタメチレンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、シクロヘキサンジオール類(1,4-シクロヘキサンジオール等)、糖アルコール類(キシリトールやソルビトール等)等が挙げられる。
アルキレンカーボネートとしては、例えば、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ヘキサメチレンカーボネート等が挙げられる。
第1のポリカーボネートポリオールの数平均分子量は、500以上10000以下であることが好ましい。より好ましくは、700以上8000以下である。数平均分子量が500以上ある場合、一般式(2)で表される繰り返し構造単位のポリエーテルを含むドメインとの非相溶性が担保され、マトリックスとドメインの相分離をより明確にすることができる。また、数平均分子量が10000以下とすることで、第1のポリカーボネートポリオールの過度の粘度上昇を防止し得る。
工程(ii)で使用する第2のポリカーボネートポリオールとしては、上記第1のポリカーボネートポリオールで挙げたポリカーボネートポリオールを用い得る。前記した通り、第1のポリカーボネートポリオールと第2のポリカーボネートポリオールとは同一の化学組成のものであってもよく、各々異なるものを用いてもよい。
【0043】
工程(iii)で使用する少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート56としては、第1のポリエーテルの原料として上記に例示したポリイソシアネートと同様のものを用いることができる。これらポリイソシアネートは単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。
該ポリイソシアネート56としては、マトリックスの弾性率を上げられる観点から、上記に例示したポリイソシアネートの中でも、ポリイソシアネートの3量体化合物(イソシアヌレート)、または多量体化合物、アロファネート型ポリイソシアネート、ビューレット型ポリイソシアネート等、少なくとも3個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートを含むことが好ましい。より好ましくは、ペンタメチレンジイソシアネートの3量体化合物(イソシアヌレート)、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体化合物(イソシアヌレート)、ジフェニルメタンジイソシアネートの多量体化合物のいずれかを含むことである。
【0044】
触媒としては、従来公知のウレタン化触媒や、イソシアヌレート化触媒(イソシアネート3量化触媒)を用いることができる。これらの一つを単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
ウレタン化触媒としては、例えば、ジブチルチンジラウレート、スタナスオクトエートなどのスズ系のウレタン化触媒や、トリエチレンジアミン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ジエチルイミダゾール、テトラメチルプロパンジアミン、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-2-メタノールなどのアミン系のウレタン化触媒などが挙げられる。これらの一つを単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
イソシアヌレート化触媒としては、例えば、Li2O,(Bu3Sn)2Oなどの金属酸化物や、NaBH4などのハイドライド化合物や、NaOCH3、KO-(t-Bu)、ホウ酸塩などのアルコキシド化合物や、N(C2H5)3、N(CH3)2CH2C2H5、1,4-エチレンピペラジン(DABCO)などのアミン化合物や、HCOONa、Na2CO3、PhCOONa/DMF、CH3COOK、(CH3COO)2Ca、アルカリ石鹸、ナフテン酸塩などのアルカリ性カルボキシレート塩化合物や、アルカリ性ギ酸塩化合物や、((R)3-NR’OH)―OCOR”などの4級アンモニウム塩化合物などが挙げられる。また、イソシアヌレート化触媒として用いられる組み合わせ触媒(共触媒)として、例えばアミン/エポキシド、アミン/カルボン酸、アミン/アルキレンイミドなどが挙げられる。これらイソシアヌレート化触媒及び組合せ触媒は、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0045】
本開示に係る製造方法においては、必要に応じて鎖延長剤(多官能の低分子量ポリオール)を用いてもよい。鎖延長剤としては、例えば、数平均分子量1000以下のグリコールが挙げられる。グリコールとしては、例えばエチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール(DEG)、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール(DPG)、1,4-ブタンジオール(1,4-BD)、1,6-ヘキサンジオール(1,6-HD)、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール(テレフタリルアルコール)、トリエチレングリコールなどが挙げられる。また、グリコール以外の鎖延長剤としては、例えば3価以上の多価アルコールが挙げられる。3価以上の多価アルコールとしては、例えばトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
また、必要に応じて顔料、可塑剤、防水剤、酸化防止剤、導電剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの添加剤を併せて用いることもできる。
【0046】
(弾性層の製造方法)
弾性層は、例えば、前記したポリウレタンエラストマーの製造方法における工程(iii)に係る反応を、軸芯体の表面上で行うことで形成することができる。
具体的には、例えば、前記工程(ii)で調製した分散体と、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートとを含む弾性層形成用混合物を軸芯体周面上で硬化させる方法が挙げられる。すなわち、本開示に係る弾性層の製造方法としては、例えば下記工程(2-i)~(2-iv)を含む方法によって製造することができる。
工程(2-i)少なくとも2個のイソシアネート基を有する第1のポリエーテルと、少なくとも2個の水酸基を有する第1のポリカーボネートポリオールとを反応させて少なくとも2個の水酸基を有するウレタン反応性乳化剤を得る工程、
工程(2-ii)該ウレタン反応性乳化剤の少なくとも一部を含む液滴を、第2のポリカーボネートポリオール中に分散させた分散体を得る工程、
工程(2-iii)該分散体、及び、少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートを混合して弾性層形成用混合物を得る工程、及び
工程(2-iv)該軸芯体の表面上で該弾性層形成用混合物中の該ウレタン反応性乳化剤と、該第2のポリカーボネートポリオールと、該ポリイソシアネートと、を反応させて該弾性層を得る工程、を有することを特徴とする電子写真用部材の製造方法。
軸芯体の表面上で弾性層形成用混合物を硬化させる方法としては、例えば、円筒状のパイプと、軸芯体を保持するための駒と、軸芯体を配設した金型に弾性層の材料を注入し、加熱硬化する方法(注型成形法)を用い得る。また、軸芯体の表面上に弾性層形成用混合物を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を加熱・硬化する方法も用い得る。
【0047】
(表面層)
弾性層の表面には、必要に応じて表面層を設けることもできる。表面層を形成する材料としては、樹脂、天然ゴム、及び合成ゴムを挙げることができる。樹脂としては、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が使用できる。特に、塗料の粘度の制御が容易であるため、樹脂としてはフッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、またはブチラール樹脂が好ましい。これらの樹脂は単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。また共重合体であっても良い。
表面層には、電子写真用ローラの電気抵抗を調整するために導電剤を配合することができる。表面層の体積抵抗率は、イオン導電剤や電子導電剤により調整することができる。
【0048】
イオン導電剤としては以下のものが挙げられる。過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カルシウム等の無機イオン物質。ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、トリオクチルプロピルアンモニウムブロミド、変性脂肪族ジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート等の陽イオン性界面活性剤。ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ジメチルアルキルラウリルベタイン等の両性イオン界面活性剤。過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸トリメチルオクタデシルアンモニウム等の四級アンモニウム塩。トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等の有機酸リチウム塩。これらの一つを単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
電子導電剤としては以下のものが挙げられる。アルミニウム、パラジウム、鉄、銅、銀等の金属系の微粒子や繊維。酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛等の導電性金属酸化物。前記金属系微粒子、繊維や金属酸化物の表面を電解処理、スプレー塗工、混合振とうにより表面処理した複合粒子。ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、PAN(ポリアクリロニトリル)系カーボン、ピッチ系カーボンの如きカーボン粉。
【0050】
表面層には、他の粒子を含有させることもできる。他の粒子としては、絶縁性粒子を挙げることができる。絶縁性粒子としては以下のものが挙げられる。ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、これらの共重合体や変性物、誘導体。エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エピクロルヒドリンゴム等のゴム、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、エチレン酢酸ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー。これらの中でも、特に、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂が好ましい。
【0051】
これらの表面層を構成する材料は、サンドミル、ペイントシェーカー、ダイノミル、またはパールミルのビーズを利用した従来公知の分散装置を使用して分散させることができる。得られた分散液を塗工する方法は特に限定されないが、操作が簡便なことからディッピング法が好適である。
【0052】
<電子写真画像形成装置>
本開示の一形態に係る電子写真用部材を具備する電子写真画像形成装置の一例の概略構成を
図6に示す。
図6において、画像形成装置は感光体61、帯電装置、潜像形成装置、現像装置、転写装置、クリーニング装置、定着装置を含んで構成されている。
感光体61は、導電性基体上に感光層を有する回転ドラムである。感光体61は矢印の方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動される。
帯電装置は、感光体61を帯電させる機能を有し、感光体61に所定の押圧力で当接されることにより接触配置される接触式の帯電ローラ62を有する。帯電ローラ62は、感光体61の回転に従い矢印方向に回転している。帯電ローラ62は、帯電用電源63から所定の直流電圧を印加することにより、感光体61を所定の電位に帯電する。
潜像形成装置(不図示)は、露光を行い、感光体61に静電潜像を形成する。潜像形成装置としては、レーザービームスキャナーの如き露光装置が用いられる。潜像形成装置は、一様に帯電された感光体61に画像情報に対応した露光光64を照射することにより、静電潜像を形成する。
現像装置は、トナー像に現像する機能を有し、感光体61に近接、または当接して配設される現像ローラ65を有する。現像ローラ65は、静電潜像を、感光体61の帯電極性と同極性に静電的処理されたトナーを用いて、反転現像により現像して感光体61上にトナー像を形成する。
転写装置は、記録材Pに現像されたトナー像を転写する機能を有し、接触式の転写ローラ66を有する。転写ローラ66は、感光体61の回転に従い矢印方向に回転し、感光体61からトナー像を普通紙の如き記録材Pに転写する。なお、転写材Pは、搬送部材を有する給紙システム(不図示)により矢印方向に搬送される。
クリーニング装置は、感光体61上の転写残トナーを回収する機能を有し、ブレード型のクリーニング部材68、及び回収容器69を有している。クリーニング装置は、トナー像を記録材Pに転写した後に、感光体61上に残留している転写残トナーを機械的に掻き落とし回収する。
ここで、現像装置にて転写残トナーを回収する現像同時クリーニング方式を採用することにより、クリーニング装置を省くことも可能である。
定着装置は、トナー像を定着する機能を有し、加熱されたロールを有する定着ベルト67で構成され、矢印方向に回転することにより、記録材P上に転写されたトナー像を定着し、記録材Pを機外に排出する。
画像形成装置において、上記した電子写真用部材は、帯電ローラ62や現像ローラ65として好適に使用することができる。
【0053】
<プロセスカートリッジ>
本開示の一形態に係るプロセスカートリッジの一形態の概略構成を
図7に示す。プロセスカートリッジは、感光体71、帯電ローラ72、現像ローラ73、クリーニング部材74を一体化し、画像形成装置に着脱可能に構成されている。プロセスカートリッジは、上記した本開示の一形態に係る電子写真用部材を具備しており、かかる電子写真用部材は特に帯電ローラ72や現像ローラ73として好適に使用することができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本開示の一形態をさらに具体的に説明する。しかし、本開示は下記実施例に制限されるものではない。
【0055】
<実施例1>
(弾性層形成用混合物の作製)
ポリプロピレングリコール(商品名:PREMINOL S 4013F、AGC株式会社製)20.1質量部とポリプロピレングリコール(商品名:ユニオール D-4000、日油株式会社製)19.2質量部、キシリレンジイソシアネート(XDI)(東京化成工業株式会社製)2.5質量部に硬化触媒として1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-2-メタノール(商品名:RZETA、東ソー株式会社製)500ppmを加え、100℃に調整した密閉型ミキサーで4時間撹拌することで2個のイソシアネート基を有するポリエーテルを合成した。
これにポリカーボネートジオール(商品名:デュラノール G3452、旭化成株式会社製)50.3質量部を混合した。その後、100℃に調節した密閉型ミキサーでさらに2時間撹拌することで2個の水酸基を有するウレタン反応性乳化剤の合成、及びウレタン反応性乳化剤を含む液滴がポリカーボネートジオール中に分散した分散体を得た。
この分散体にキシリレンジイソシアネート(東京化成工業社製、以降、「XDI」と記載する場合がある)0.8質量部、ポリイソシアネート(商品名:ミリオネート MR-200、東ソー株式会社製、以降、「MR-200」と記載する場合がある)5.2質量部、イオン導電剤(商品名CIL-542:、日本カーリット株式会社製、以降、「CIL」と記載する場合がある)1.8質量部を加えて自公転式真空脱泡ミキサーで公転速度1600rpmの条件で2分間撹拌し、弾性層形成用混合物を得た。
【0056】
(電子写真用ローラの作製)
直径6mm、長さ250mmのSUS304製の軸芯体に、プライマー(商品名:メタロックN―33、株式会社東洋化学研究所製)を塗付し、130℃で30分間焼付けた。
次いで、この軸芯体を内径11.5mmの円筒状金型に同心となるように配置し、弾性層形成用混合物を130℃に予熱した円筒状金型に10秒かけて注入した。
円筒状金型を130℃で1時間加熱した後に脱型し、さらに80℃で2日間、エージングして弾性層を得た。さらに、弾性層の端部を除去することで長さ225mm、弾性層の厚み2.0mmの電子写真用ローラを得た。得られた電子写真用ローラについて以下の評価を行った。
【0057】
・電子写真用ローラの評価方法
(評価1:マトリックス(表4-1中、「M」と記載する場合がある)とドメイン(表4-1中、「D」と記載する場合がある)の確認と分析)
ミクロトームを使って電子写真用ローラから切片を作製した。切片を作製する場所は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所の計3カ所において、弾性層の厚さ方向に切片を作製した。
三次元顕微レーザーラマン分光分析装置(商品名:Nanofinder30、株式会社東京インスツルメンツ製)を使ってマッピング測定を行った。測定モードはEM(Electron Multiplying)で、500nm間隔で60×60ポイント測定し、0~400cm-1の積分像を得た。得られた積分像から、弾性層にはマトリックスと、マトリックス中に複数個のドメインが分散していることを確認した。また、マトリックスとドメインは明瞭に相分離していた。
次に積分像からマトリックスとドメインの部分のラマンスペクトルを測定した。測定は、光源はNd:YVO4(波長532nm)、レーザー強度は240μW、対物レンズは100倍、回折格子は300gr/mm、ピンホール径は100μm、露光時間は30秒、積算回数は1回で行った。得られたラマンスペクトルから、マトリックスがポリカーボネートウレタンに由来の構造を含み、ドメインがポリプロピレングリコール(表4-1中、「PPG」と記載する場合がある)に由来の構造を含んでいることを確認した。
【0058】
(評価2:マイクロゴム硬度の測定)
マイクロゴム硬度計(商品名:MD-1capa、高分子計器株式会社製)を使って、弾性層のマイクロゴム硬度を測定した。測定にあたり、電子写真用ローラを温度23℃の環境に24時間以上放置し、同環境下に置かれた測定装置を用いて測定を行った。また、押針は、タイプA(高さ0.50mm、直径0.16mm、円柱形)を用い、測定モードはピークホールドモードとした。
マイクロゴム硬度を測定する場所は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所の合計3カ所である。温度23℃でマイクロゴム硬度を各測定場所で測定した時の平均値を算出した。
【0059】
(評価3:粘弾性項を示すパラメータの測定)
ミクロトームを使って電子写真用ローラから切片を作製した。切片を作製する場所は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所の計3カ所において、弾性層の厚さ方向に切片を作製した。
各切片のそれぞれ外表面から深さ100μmまでの厚み領域で任意の50μm四方の観察領域を選択し、合計3カ所の観察領域で走査型プローブ顕微鏡(商品名:S-Image、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を使って粘弾性像の測定を行った。粘弾性像の測定モードはVE-DFMとした。また、カンチレバーは、「SI-DF3」(商品名、株式会社日立ハイテクサイエンス社製、ばね定数=1.9N/m)を用いた。更に、走査周波数は0.5Hzとした。
得られた粘弾性像から、各観察領域で粘弾性項を示すパラメータをマトリックスとドメインで各10点算出し、その平均値からドメインの粘弾性項を示すパラメータAとマトリックスの粘弾性項を示すパラメータBを求めた。
【0060】
(評価4:弾性層の変形回復性の測定)
弾性層の変形回復性は、温度23℃におけるナノインデンター(商品名:HM2000、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)を用いた押し込み試験で評価した。測定にあたり、電子写真用ローラを温度23℃の環境に24時間以上放置し、同環境下に置かれた測定装置を用いて測定を行った。
測定する場所は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所の計3カ所である。押し込み試験では、弾性層を、ビッカース圧子(四角錘型、対面角136°)を荷重速度10mN/30秒で押し込み、荷重10mNで60秒間維持した。その後、除荷した時に除荷5秒後の歪みを各測定場所で測定した時の平均値を算出した。
【0061】
(評価5:マトリックスの弾性率)
ミクロトームを使って電子写真用ローラから切片を作製した。切片を作製する場所は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所の計3カ所において、弾性層の厚さ方向に切片を作製した。
各切片のそれぞれ外表面から深さ100μmまでの厚み領域で任意の50μm四方の観察領域を選択した。合計3カ所の観察領域で走査型プローブ顕微鏡(商品名:MFP-3D-Origin、オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製)を用いて位相像の観察を行った。位相像の測定モードは、AM-AFMとした。また、カンチレバーとして、「OMCL-AC-160TS」(商品名、オリンパス株式会社製、ばね定数=47.08N/m)を用いた。さらに、走査周波数は0.5Hzとした。
得られた位相像からマトリックスの弾性率を、上記走査型電子顕微鏡を用いたフォースカーブの測定により求めた。フォースカーブの測定モードはコンタクトモード、Force Distanceは500nm、Trigger Pointは0.01Vとした。また、カンチレバーとして、「OMCL-AC-160TS」(商品名、オリンパス株式会社製、ばね定数=47.08N/m)を用いた。さらに、走査周波数は1Hzとした。各観察領域について、マトリックスの弾性率を10点求め、その平均値を算出した。
【0062】
(評価6:ドメインの断面積と個数の測定)
ミクロトームを使って電子写真用ローラから切片を作製した。切片を作製する場所は、弾性層の長手方向の長さをLとした時、弾性層の長手方向の中央と、弾性層の両端から中央に向かってL/4の2カ所の計3カ所において、弾性層の全厚さ方向の断面が露出してなる切片を作製した。
各切片のそれぞれ弾性層の外表面から深さ100μmまでの厚み領域の任意の位置に、一辺が50μmの正方形の観察領域を置いた。そして、合計3つの観察領域で走査型プローブ顕微鏡(商品名:S-Image、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を使って粘弾性像の測定を行った。
粘弾性像の測定モードは、マイクロ粘弾性ダイナミックフォースモード(Viscoelastic Dynamic Force Mode(VE-DFM)とした。また、カンチレバーとしては、DMF用のシリコン製マイクロカンチレバー(SI-DF3、日立ハイテクサイエンス社製、ばね定数=1.9N/m)を用いた。さらに、走査周波数は0.5Hzとした。
得られた断面画像に対し、画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus、MediaCybernetics社製)を使って256階調のモノクロ画像に変換し、次いで2値化して解析用の2値化画像を得た。2値化のための閾値は、当該モノクロ画像の輝度分布から、非特許文献1に記載されている大津のアルゴリズムに基づいて決定した。
得られた2値化画像から、上記画像処理ソフトのカウント機能を用いて、ドメインの断面積、及びドメインの個数を算出した。ただし、当該カウント機能によってドメインと判定されたもののうち、50μm四方の観察領域に対して断面積が0.05%未満のドメインはノイズ起因のドメインと見做して、データから削除した。そして、各観察領域におけるドメインの断面積の合計の該観察領域の面積に対する割合(%)を算出した。また、各観察領域内におけるドメインのうち、断面積が該観察領域の面積の0.1%以上13.0%以下であるドメインの個数を求め、該観察領域のドメインの総個数に対する割合(%)を求めた。
【0063】
(評価7:ドメインの円形度と個数の測定)
上記評価6で得た2値画像から、上記画像処理ソフトのカウント機能を用いてドメインの円形度を算出した。ただし、評価6と同様にして、ノイズ由来のドメインをデータから削除した。そして、各観察領域内のドメインのうち、円形度が0.60以上0.95以下であるドメインの個数をカウントし、各観察領域内のドメインの総個数に対する割合(%)を算出した。
【0064】
(評価8:スジ状の画像不良の評価)
カラーレーザープリンタ(商品名:LBP7700C、キヤノン株式会社製)と、電子写真用ローラを現像ローラとして組み込んだプロセスカートリッジを温度23℃/湿度50%RHの環境に24時間馴染ませた後、画像評価を行った。
具体的には、電子写真用ローラを現像ローラとして組み込んだプロセスカートリッジを上記カラーレーザープリンタに装着した。そして、ハーフトーン画像(感光体の回転方向と垂直方向に幅1ドット、間隔2ドットの横線を描く画像)を10枚連続で出力し、得られた画像を目視にて観察してスジ状の画像不良を下記2つの基準により判定した。
<スジ状の画像不良の評価8-1>
ランクA:1枚目からスジ状の画像不良が認められない。
ランクB:1枚目だけスジ状の画像不良が認められる。
ランクC:2枚目以降にもスジ状の画像不良が認められる。
<スジ状の画像不良の評価8-2>
ランクA:スジ状の画像不良が電子写真用ローラの長手方向全体で認められない。
ランクB:スジ状の画像不良が電子写真用ローラの長手方向一部の領域で認められる。
ランクC:スジ状の画像不良が電子写真用ローラの長手方向の広範囲に認められ、目立つ。
【0065】
(評価9:端部の削れ、トナーの融着、及びトナーの融着由来の画像不良の評価)
上記カラーレーザープリンタと、電子写真用ローラを現像ローラとして組み込んだプロセスカートリッジを温度23℃/湿度50%RHの環境に24時間馴染ませた。
その後、電子写真用ローラを現像ローラとして上記カラーレーザープリンタに装着し、幅2ドット、間隔50ドットの横線を描くような画像を10,000枚連続で出力した。
10,000枚連続で出力する間、1,000枚おきに現像ローラを取り出して目視にて現像ローラを観察し、現像ローラの端部の削れとトナーの融着を下記基準により判定した。
<評価9-1:端部の削れの評価>
ランクA:端部の削れが、10000枚出力後も認められない。
ランクB:端部の削れが、8000枚出力後には認められず、9000枚出力後に認められる。
ランクC:端部の削れが、5000枚出力後には認められず、8000枚出力後に認められる。
ランクD:端部の削れが、5,000枚出力後に認められる。
<評価9-2:トナーの融着の評価>
ランクA:トナーの融着が、10000枚出力後も認められない。
ランクB:トナーの融着が、8000枚出力後には認められず、9000枚出力後に認められる。
ランクC:トナーの融着が、5000枚出力後には認められず、8000枚出力後に認められる。
ランクD:トナーの融着が、5,000枚出力後に認められる。
<評価9-3:トナーの融着由来の画像不良の評価>
10000枚連続出力している間、10枚おきに出力された画像を確認した。横線以外の部分に電子写真用ローラ1周分の間隔でトナーが紙に転写されているなどの画像不良があった場合、出力を一時停止し、電子写真用ローラをプロセスカートリッジから取り出した。画像不良が発生した位置と、電子写真用ローラのトナーの融着部分の場所と大きさが一致した場合、一時停止した時の出力枚数をトナーの融着由来による画像不良の発生枚数とした。
【0066】
<実施例2~7、9~12、14、15、18>
表3に示す材料を、表3に示す配合量にて用いた以外は、実施例1と同様にして弾性層形成用混合物を調製した。当該弾性層形成用混合物を用いた以外は、実施例と同様にして弾性層を形成し、各実施例に係る電子写真用ローラを作製した。得られた電子写真用ローラを実施例1と同様にして評価した。
なお、表3中の材料種の詳細を表1及び表2に示した。以下の実施例についても同様である。
【0067】
<実施例8>
表3に示す材料を、表3に示す配合量にて用いた以外は、実施例1と同様にして弾性層形成用混合物を調製した。当該弾性層形成用混合物を用いたこと、及び、円筒状金型への弾性層形成用混合物の注入を5秒で行ったこと以外は、実施例1と同様にして弾性層を形成して、本実施例に係る電子写真用ローラを作製した。得られた電子写真用ローラを実施例1と同様にして評価した。
【0068】
<実施例13、16、17>
表3に示す材料を、表3に示す配合量にて用いた以外は、実施例1と同様にして弾性層形成用混合物を調製した。当該弾性層形成用混合物を用いたこと、及び、円筒状管型への弾性層形成用混合物の注入を3秒で行ったこと以外は、実施例1と同様にして弾性層を形成して、各実施例に係る電子写真用ローラを作製した。得られた電子写真用ローラを実施例1と同様にして評価した。
【0069】
【表1】
なお、上記A5の、テトラヒドロフラン-ネオペンチルグリコール共重合体は、構造式:HO-(CH
2CH
2CH
2CH
2O)m-(CH
2C(CH
3)
2CH
2O)n-で表されるポリエーテルグリコールである。
【0070】
【表2】
なお、上記B2に係るクラレポリオールC-2090(クラレ株式会社製ポリカーボネートポリオール;数平均分子量1993;水酸基価56.3mgKOH/g;1,6-ヘキサンジオール由来の構造と3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造とを有するポリカーボネートポリオールである。
【0071】
【0072】
<比較例1>
(弾性層形成用混合物の作製)
ポリプロピレングリコール(商品名:PREMINOL S4013F、AGC株式会社製)24.9質量部とポリプロピレングリコール(商品名:ユニオール D-4000、日油株式会社製)24.0質量部、キシリレンジイソシアネート(XDI)(東京化成工業株式会社製)3.1質量部に硬化触媒(商品名:RZETA、東ソー株式会社製)500ppmを加え、100℃に調整した密閉型ミキサーで4時間撹拌することで2個のイソシアネート基を有するポリエーテルを合成した。
これにポリカーボネートジオール(デュラノール G3452、旭化成株式会社製)41.5質量部を混合した。その後、100℃に調節した密閉型ミキサーでさらに2時間撹拌することで2個の水酸基を有するウレタン反応性乳化剤の合成、及びウレタン反応性乳化剤を含む液滴がポリカーボネートジオール中に分散した分散体を得た。
この分散体にポリイソシアネート(商品名:ミリオネート MR-200、東ソー株式会社製)4.7質量部、イオン導電剤(商品名CIL-542:、日本カーリット株式会社製)1.8質量部を加えて自公転式真空脱泡ミキサーで公転速度1600rpmの条件で2分間撹拌し、弾性層形成用混合物を得た。 こうして得られた弾性層形成用混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして本比較例に係る電子写真用ローラを得た。得られた電子写真用ローラについて実施例1と同様にして評価した。
【0073】
評価1の結果に関し、マトリックスとドメインは明瞭に相分離していた。また、マトリックスにはポリエーテルから構成されるウレタンエラストマーを含み、ドメインにはポリカーボネートから構成されるウレタンエラストマーが含まれていることを確認した。すなわち、実施例1に係るポリウレタンエラストマーとはドメインとマトリックスの関係が逆となった。
【0074】
<比較例2>
(弾性層形成用混合物の作製)
ポリプロピレングリコール(商品名:PREMINOL S4013F、AGC株式会社製)20.1質量部とポリプロピレングリコール(商品名:ユニオール D-4000、日油株式会社製)19.2質量部に、ポリカーボネートジオール(商品名:デュラノール G3452、旭化成株式会社製)50.3質量部に硬化触媒(商品名:RZETA、東ソー株式会社製)500ppmを加え、100℃に調整した密閉型ミキサーで2時間撹拌した。 これにキシリレンジイソシアネート(XDI)(東京化成工業株式会社製)3.3質量部、ポリイソシアネート(商品名:ミリオネート MR-200、東ソー株式会社製)5.2質量部、イオン導電剤(商品名:CIL-542、日本カーリット株式会社製)1.8質量部を加えた。得られた混合物を、密閉型真空ミキサーで2分間撹拌し、弾性層形成用混合物を得た。
当該弾性層形成用混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして弾性層を形成し、本比較例に係る電子写真用ローラを作製した。得られた電子写真用ローラを実施例1と同様にして評価した。
【0075】
<比較例3>
(弾性層形成用混合物の作製)
ポリプロピレングリコール(商品名:ユニオール D-2000、日油株式会社製)7.0質量部に、ポリカーボネートジオール(デュラノール T6002、旭化成株式会社製)79.0質量部に硬化触媒(商品名:RZETA、東ソー株式会社製)500ppmを加え、100℃に調整した密閉型ミキサーで2時間撹拌した。
これにキシリレンジイソシアネート(XDI)(東京化成工業株式会社製)4.3質量部、ポリイソシアネート(商品名:ミリオネート MR-200、東ソー株式会社製)8.0質量部、イオン導電剤(商品名CIL-542:、日本カーリット株式会社製)1.8質量部を加えた。得られた混合物を、密閉型真空ミキサーで2分間撹拌し、弾性層形成用混合物を得た。
当該弾性層形成用混合物を用いた以外は実施例1と同様にして弾性層を形成、本比較例に係る電子写真用ローラを作製した。得られた電子写真用ローラを実施例1と同様にして評価した。
【0076】
<比較例4>
(弾性層形成用混合物の作製)
ポリカーボネートジオール(商品名:クラレポリオール C-2090、株式会社クラレ製)46.7質量部と柔軟樹脂粒子であるシリコーン粒子(商品名:KMP-598、信越化学工業株式会社製)44.8質量部に硬化触媒(商品名:RZETA、東ソー株式会社製)500ppmを加え、100℃に調整した密閉型真空ミキサーで4時間撹拌した。
これにキシリレンジイソシアネート(XDI)(東京化成工業株式会社製)2.6質量部、ポリイソシアネート(商品名:ミリオネート MR-200、東ソー株式会社製)84.2質量部、イオン導電剤(商品名CIL-542:、日本カーリット株式会社製)1.8質量部を加えた。得られた混合物を自公転式真空脱泡ミキサーで公転速度1600rpmの条件で2分間撹拌し、弾性層形成用混合物を得た。
当該弾性層形成用混合物を用いた以外は実施例1と同様にして弾性層を形成して、本比較例に係る電子写真用ローラを作製した。得られた電子写真用ローラを実施例1と同様にして評価した。なお、本比較例に係る電子写真用ローラの評価においては、シリコーン粒子をドメイントみなして評価した。
実施例1~18、比較例1~4の評価結果を表4-1~表4-4及び表5に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
実施例1~18に係る電子写真用ローラは、弾性層のマイクロゴム硬度が低く、またウレタンエラストマーを含むマトリックスにドメインが複数個分散されていた。また、マトリックスの粘弾性項を示すパラメータBがドメインの粘弾性項を示すパラメータAより大きく、かつナノインデンターを用いた押し込み試験における除荷後の歪みが小さいためにスジ状の画像不良の評価について良好な結果が得られた。また、トナーの融着が一部の電子写真用ローラで見られたものの、10,000枚出力されるまでの間にトナーの融着由来の画像不良が発生することはなかった。
一方、比較例1に係る電子写真用ローラは、マトリックスの粘弾性項を示すパラメータBよりドメインの粘弾性項を示すパラメータAの方が大きくなっていた。このため、過度なマイクロゴム硬度の低下と除荷後の歪みが大きくなり、スジ状の画像不良の評価も良好ではなかった。
比較例2に係る電子写真用ローラは、ポリエーテルとウレタン反応性乳化剤を経ずに機械的に相分離させてマトリックス・ドメイン構造を形成した。そのために相分離が不明瞭であった。またドメインの円形度も小さくなったために、やはり過度なマイクロゴム硬度の低下と除荷後の歪みが大きくなり、スジ状の画像不良の評価も良好ではなかった。
比較例3に係る電子写真用ローラも比較例2と同様にウレタン反応性乳化剤を経ずに機械的に相分離させた。そのために相分離が不明瞭であった。またドメインの円形度も小さくなったために、除荷後の歪みが大きくなり、スジ状の画像不良の評価も良好ではなかった。また、その後も歪みがなかなか回復せず、歪み部にトナーが固着、さらに融着して8,410枚でトナーの融着由来による画像不良が発生した。比較例4に係る電子写真用ローラは、ドメインとして柔軟な粒子を使用したが、粒子の形を維持するために本開示に係るドメインより粘弾性項を示すパラメータAが非常に大きくなっており、またマトリックスの粘弾性項を示すパラメータBも大きくしなければならず、その結果、過度にマイクロゴム硬度が高硬度化してトナーの融着が発生した。また、マイクロゴム硬度が高過ぎるためにトナーの融着がさらに進行し、トナーの融着由来の画像不良が5,550枚で発生した。
【0083】
本開示は上記実施の形態に制限されるものではなく、本開示の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本開示の範囲を公にするために以下の請求項を添付する。
【符号の説明】
【0084】
1A,1B 電子写真用部材、2:軸芯体、3:弾性層、31:マトリックス、32:ドメイン