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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-18
(45)【発行日】2025-11-27
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20251119BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20251119BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20251119BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20251119BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20251119BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021190908
(22)【出願日】2021-11-25
(65)【公開番号】P2023077585
(43)【公開日】2023-06-06
【審査請求日】2023-05-15
【審判番号】
【審判請求日】2025-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】城戸崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】ビスバル ヘイディ
(72)【発明者】
【氏名】中谷 展人
【合議体】
【審判長】涌井 智則
【審判官】須原 宏光
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-049991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記負極活物質層は、Si系活物質と、硫化物固体電解質とを有し、
前記Si系活物質の平均粒径(D50)が100nm以上800nm以下であり、
前記硫化物固体電解質は、ラマン分光スペクトルにおいて、415cm-1以上425cm-1以下の位置にピークを有し、前記ピークの半値幅が15.5cm-1以上20.0cm-1以下であり、
前記Si系活物質および前記硫化物固体電解質の合計に対する、前記Si系活物質の体積割合が1体積%以上65体積%以下であり、
前記Si系活物質および前記硫化物固体電解質の合計に対する、前記硫化物固体電解質の体積割合が35体積%以上99体積%以下である、全固体電池。
【請求項2】
前記硫化物固体電解質がPS 3-構造を含有し、
前記ピークが前記PS 3-構造のピークである、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記硫化物固体電解質が、Li、P、Sを少なくとも含有する、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記硫化物固体電解質が、ハロゲンを含有する、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記硫化物固体電解質は、25℃におけるリチウムイオン伝導度が、1.5mS/cm以上、3.5mS/cm以下である、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。
【0003】
特許許文献1には、非晶質または低結晶性である酸化物固体電解質からなるマトリックスと、該マトリックス中に分散されたSiナノ粒子と、を含むSi-酸化物固体電解質複合体からなる二次電池用負極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-239267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Si系活物質は、容量特性が良好である反面、充放電による体積変化が大きい傾向にある。このようなSi系活物質を、全固体電池用の負極活物質として用いると、充放電に伴って、負極活物質層におけるパス切れ(イオン伝導パスおよび電子伝導パスの切断)が生じ、その結果、電池性能が低下する場合がある。また、全固体電池には、通常、良好な電池性能を得るために拘束圧が付与されるが、上記パス切れ抑制の観点から、Si系活物質の膨張収縮に起因する拘束圧変動は小さいことが望まれる。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、Si系活物質の膨張収縮に起因する拘束圧変動を抑制可能な全固体電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示においては、正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記負極活物質層は、Si系活物質と、硫化物固体電解質とを有し、上記Si系活物質の平均粒径(D50)が100nm以上800nm以下であり、上記硫化物固体電解質は、ラマン分光スペクトルにおいて、415cm-1以上425cm-1以下の位置にピークを有し、上記ピークの半値幅が15.5cm-1以上20.0cm-1以下であり、上記Si系活物質および上記硫化物固体電解質の合計に対する、上記Si系活物質の体積割合が1体積%以上65体積%以下であり、上記Si系活物質および上記硫化物固体電解質の合計に対する、上記硫化物固体電解質の体積割合が35体積%以上99体積%以下である、全固体電池を提供する。
【0008】
本開示によれば、負極活物質層が、所定の平均粒径を有するSi系活物質と、ラマン分光スペクトルのピークから特定される低結晶性を有する硫化物固体電解質と、を所定の割合で含むことで、Si系活物質の膨張収縮に起因する拘束圧変動を抑制可能な全固体電池となる。
【0009】
上記開示においては、上記硫化物固体電解質がPS 3-構造を含有し、上記ピークが上記PS 3-構造のピークであってもよい。
【0010】
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、Li、P、Sを少なくとも含有していてもよい。
【0011】
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、ハロゲンを含有していてもよい。
【0012】
上記開示において、上記硫化物固体電解質は、25℃におけるリチウムイオン伝導度が、1.5mS/cm以上、3.5mS/cm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示における全固体電池は、Si系活物質の膨張収縮に起因する拘束圧変動を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図2】実施例1~12における拘束圧変動の結果を示すグラフである。
図3】比較例1~14における拘束圧変動の結果を示すグラフである。
図4】実施例10および比較例14の拘束圧変動の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示における全固体電池について、図面を用いて詳細に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものであり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張している。また、各図において、部材の断面を示すハッチングを適宜省略している。また、本明細書において、ある部材に対して他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」または「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上または直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方または下方に、別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0016】
図1は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。図1に示す全固体電池10は、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、および正極集電体5をこの順に有する。本開示においては、負極活物質層2が、後述するSi系活物質および硫化物固体電解質を所定の割合で含有する。
【0017】
本開示によれば、負極活物質層が、所定の平均粒径を有するSi系活物質と、ラマン分光スペクトルのピークから特定される低結晶性を有する硫化物固体電解質と、を所定の割合で含むことで、Si系活物質の膨張収縮に起因する拘束圧変動を抑制可能な全固体電池となる。ここで、上記硫化物固体電解質は、ラマン分光測定により得られるラマン分光スペクトルにおいて所定の位置にピークを有する。さらに、所定のピークの半値幅が所定の範囲である。ラマン分光スペクトルピークの半値幅は、硫化物固体電解質の結晶性に関係しており、結晶性が低い程、その半値幅は大きくなる。本明細書において、415cm-1以上425cm-1以下の位置にピークを有し、このピークの半値幅が15.5cm-1以上20.0cm-1以下である硫化物固体電解質を、「低結晶性硫化物固体電解質」とも称する。
【0018】
低結晶性硫化物固体電解質は、結晶性が高い硫化物固体電解質に比べて、結晶相の割合が低いことから、Si系活物質の膨張収縮に追従することができる。その結果、Si系活物質が膨張収縮した場合に、負極活物質層全体における体積変化を小さくすることができ、拘束圧変動を抑制できる。さらに、本開示におけるSi系活物質は、平均粒径が小さいことから、拘束圧の変動をより抑制できる。
【0019】
1.負極
本開示における負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。負極活物質層は、負極活物質としての所定の平均粒径(D50)を有するSi系活物質と、所定の硫化物固体電解質を含有する。また、負極活物質層は、導電材およびバインダーの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。
【0020】
(1)Si系活物質
負極活物質層はSi系活物質が挙げられる。Si系活物質は、Si元素を含有する活物質である。Si系活物質は、例えば、Si単体、Si合金、Si酸化物を挙げることができる。Si合金は、Si元素を主成分として含有することが好ましい。
【0021】
Si系活物質の形状は、通常、粒子状である。Si系活物質の平均粒径(D50)は、通常、100nm以上であり、400nm以上であってもよく、470nm以上であってもよい。一方、Si系活物質の平均粒径(D50)は、通常、800nm以下であり、700nm以下であってもよく、630nm以下であってもよい。Si系活物質の平均粒径(D50)が大きすぎると、拘束圧変動の抑制効果が得られにくい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0022】
負極活物質層において、Si系活物質および低結晶性硫化物固体電解質の合計に対する、Si系活物質の体積割合は、通常、1体積%以上であり、20体積%以上であってもよく、50体積%以上であってもよい。一方、Si系活物質の上記体積割合は、通常、65体積%以下であり、60体積%以下であってもよく、55体積%以下であってもよい。Si系活物質の体積割合が大きすぎると、拘束圧変動の抑制効果が得られにくい。
【0023】
負極活物質層における負極活物質の割合は、例えば20重量%以上であり、40重量%以上であってもよく、60重量%以上であってもよい。一方、負極活物質の上記割合は、例えば80重量%以下である。
【0024】
(2)低結晶性硫化物固体電解質
本開示における負極活物質層は、ラマン分光スペクトルのピークから特定される低結晶性を有する硫化物固体電解質を含有する。低結晶性硫化物固体電解質は、ラマン分光スペクトルにおいて、415cm-1以上425cm-1以下の位置にピークを有する。このピークは、低結晶性硫化物固体電解質に含まれるPS 3-構造に由来するピークである。
【0025】
上記ピークの半値幅(半値全幅、FWHM)は、通常、15.5cm-1以上であり、16.0cm-1以上であってもよく、16.5cm-1以上であってもよく、17.0cm-1以上であってもよい。半値幅が小さすぎると、拘束圧変動の抑制効果が得られにくい。一方、上記ピークの半値幅は、通常、20.0cm-1以下であり、18.0cm-1以下であってもよい。半値幅が大きすぎると、イオン伝導度が低下しやすい。ラマン分光分析の装置としては、市販のラマン分光光度計(例えば、日本分光製NRS-3100)を使用することができる。測定条件としては、例えば、励起レーザ波長が532nm、分解能が4cm-1、減光率が0.6、露光時間が120秒であることが好ましい。また、測定回数は例えば5回程度である。
【0026】
低結晶性硫化物固体電解質は、PS 3-構造を含有する。低結晶性硫化物固体電解質は、PおよびSを含有するアニオン構造(例えば、PS 3-構造、P 4-構造、P 4-構造)の主成分として、PS 3-構造を含有することが好ましい。低結晶性硫化物固体電解質において、PおよびSを含有する全てのアニオン構造に対する、PS 3-構造の割合は、例えば50mol%以上であり、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。
【0027】
低結晶性硫化物固体電解質は、Li、P、Sを少なくとも含有することが好ましい。低結晶性硫化物固体電解質は、F、Cl、Br、I等のハロゲンをさらに含有していてもよい。中でも、低結晶性硫化物固体電解質は、BrおよびIの少なくとも一方をさらに含有することが好ましい。
【0028】
低結晶性硫化物固体電解質は、xLiI・yLiBr・z(αLiS・(1-α)P)で表される組成を有していてもよい。ここで、x+y+z=100、0≦x<100、0≦y<100、0<z≦100、0.70≦α≦0.80である。xは、0より大きくてもよい。この場合、xは、5以上であってもよく、10以上であってもよい。また、xは、50以下であってもよく、30以下であってもよい。また、yは、0より大きくてもよい。この場合、yは、5以上であってもよく、10以上であってもよい。また、yは、50以下であってもよく、30以下であってもよい。zは、50以上であってもよく、60以上であってもよい。αは、0.72以上であってもよく、0.74以上であってもよい。一方、αは、0.78以下であってもよく、0.76以下であってもよい。
【0029】
低結晶性硫化物固体電解質は、Oを含有していてもよく、Oを含有していなくてもよい。前者の場合、低結晶性硫化物固体電解質に含まれるOの割合は、低結晶性硫化物固体電解質に含まれるSの割合よりも少ないことが好ましい。
【0030】
低結晶性硫化物固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.2°±0.5°、23.6°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Aを有していてもよい。結晶相Aは、Liイオン伝導性が高い結晶相である。結晶相Aは、その結晶性にも依るが、2θ=29.4°±0.5°、37.8°±0.5°、41.1°±0.5°、47.0°±0.5°の位置にピークを有する場合がある。
【0031】
低結晶性硫化物固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=21.0°±0.5、28.0°±0.5にピークを有する結晶相Bを有しないことが好ましい。結晶相Bは、結晶相AよりもLiイオン伝導性が低い結晶相である。結晶相Bは、その結晶性にも依るが、2θ=32.0°±0.5°、33.4°±0.5°、38.7°±0.5°、42.8°±0.5°、44.2°±0.5°の位置にピークを有する場合がある。
【0032】
また、2θ=20.2°±0.5°のピークの強度をI20.2とし、2θ=21.0°±0.5°のピークの強度をI21.0とする。I21.0/I20.2は、例えば、0.4以下であり、0.2以下であってもよく、0.1以下であってもよく、0であってもよい。
【0033】
低結晶性硫化物固体電解質は、25℃におけるリチウムイオン伝導度が、例えば1.5mS/cm以上であり、2.0mS/cm以上であってもよく、2.4mS/cm以上であってもよい。一方、上記リチウムイオン伝導度は、例えば、3.5mS/cm以下であり、3.2mS/cm以下であってもよい。
【0034】
本開示における低結晶性硫化物固体電解質の形状は、通常、粒子状である。低結晶性硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば40μm以下であり、10μm以下であってもよく、5μm以下であってもよい。一方、上記平均粒径は、例えば0.01μm以上であり、0.1μm以上であってもよい。
【0035】
負極活物質層において、Si系活物質および低結晶性硫化物固体電解質の合計に対する、低結晶性硫化物固体電解質の体積割合は、通常、35体積%以上であり、40体積%以上であってもよく、45体積%以上であってもよい。低結晶性硫化物固体電解質の体積割合が小さすぎると、拘束圧変動の抑制効果が得られにくい。一方、低結晶性硫化物固体電解質の上記体積割合は、通常、99体積%以下であり、80体積%以下であってもよく、60体積%以下であってもよい。
【0036】
負極活物質層における低結晶性硫化物固体電解質の割合は、例えば20重量%以上であり、40重量%以上であってもよく、60重量%以上であってもよい。一方、低結晶性硫化物固体電解質の上記割合は、例えば80重量%以下である。
【0037】
低結晶性硫化物固体電解質は、非晶質の前駆体を熱処理することで作製することができる。非晶質の前駆体は、例えば、原料組成物を非晶質処理することにより得られる。原料組成物は、例えば、LiSおよびPを含有することが好ましい。原料組成物は、さらに、1種または2種以上のLiX(Xはハロゲンである)を含有していてもよい。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリング、溶融急冷法が挙げられる。
【0038】
また、非晶質の前駆体に対して、熱処理を行う前に、微細化処理を行ってもよい。微細化処理では、分散媒を用いた湿式粉砕を行うことが好ましい。分散媒としては、例えば、エーテル類、または、エーテル類を含む混合分散媒が挙げられる。エーテル類としては、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等の鎖状エーテル類、テトロヒドロフラン等の環状エーテル類が挙げられる。粉砕方法としては、例えば、ビーズミル、遊星ボールミルが挙げられる。
【0039】
非晶質の前駆体を熱処理することで、硫化物固体電解質の結晶化を行いつつ、低結晶性を有する硫化物固体電解質を作製する。加熱温度は、例えば、120℃以上であり、150℃以上であってもよい。一方、例えば、180℃以下である。加熱処理時間は、例えば、3時間以上5時間以下である。加熱雰囲気は、減圧雰囲気(例えば、500Pa以下)で行うことが好ましい。加熱手段としては、一般的な加熱炉を用いることができる。
【0040】
(3)負極
負極活物質層は、導電材を含有していてもよい。導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。
【0041】
負極活物質層は、バインダーを含有していてもよい。バインダーとしては、例えば、フッ化物系バインダー、ポリイミド系バインダー、ゴム系バインダーが挙げられる。
【0042】
負極活物質層の形成方法としては、例えば、Si系活物質、低結晶性硫化物固体電解質および分散媒を含有するスラリーを作製し、そのスラリーを負極集電体上に塗工し、乾燥する方法が挙げられる。スラリーの塗工方法は、特に限定されず、公知の任意の塗工方法を採用することができる。
【0043】
負極集電体は、負極活物質層の集電を行う層である。負極集電体としては、SUS、銅、ニッケル、カーボンが挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば、箔状が挙げられる。
【0044】
2.正極
本開示における正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極活物質層は、必要に応じて、固体電解質、導電材、およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0045】
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、LiTi12、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0046】
酸化物活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有する保護層が形成されていてもよい。酸化物活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbOが挙げられる。保護層の厚さは、例えば、1nm以上30nm以下である。また、正極活物質として、例えばLiSを用いることもできる。
【0047】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。
【0048】
正極活物質層に用いられる導電材およびバインダーについては、上記「1.負極」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。正極活物質層に用いられる固体電解質としては、後述する「3.固体電解質層」に記載する内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0049】
正極集電体は、正極活物質層の集電を行う層である。正極集電体としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。正極集電体の形状としては、例えば、箔状が挙げられる。
【0050】
3.固体電解質層
本開示における固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に配置され、少なくとも固体電解質を含有する層である。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。固体電解質層は、固体電解質として硫化物固体電解質を含有することが好ましい。硫化物固体電解質を用いる場合、上述した低結晶性硫化物固体電解質であってもよいし、上述した低結晶性硫化物固体電解質以外の硫化物固体電解質であってもよい。
【0051】
固体電解質層に含まれる硫化物固体電解質は、通常、Li元素およびS元素を有する。さらに、硫化物固体電解質は、P元素、Ge元素、Sn元素およびSi元素の少なくとも一種を含有することが好ましい。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素(例えばF元素、Cl元素、Br元素、I元素)の少なくとも一種を含有していてもよい。
【0052】
固体電解質層に含まれる硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-P-GeS、LiS-P-SnS、LiS-P-SiS、LiS-P-LiI、LiS-P-LiI-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)等が挙げられる。なお、上記「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる材料を意味し、他の記載についても同様である。
【0053】
固体電解質層に含まれる固体電解質は、ガラスであってもよく、ガラスセラミックスであってもよく、結晶材料であってもよい。ガラスは、原料組成物(例えばLiSおよびPの混合物)を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられる。メカニカルミリングは、乾式メカニカルミリングであってもよく、湿式メカニカルミリングであってもよいが、後者が好ましい。容器等の壁面に原料組成物が固着することを防止できるからである。また、ガラスセラミックスは、ガラスを熱処理することにより得ることができる。また、結晶材料は、例えば、原料組成物に対して固相反応処理することにより得ることができる。
【0054】
固体電解質層に含まれる固体電解質の形状は、粒子状であることが好ましい。また、固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm以上である。一方、固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、10μm以下であり、5μm以下であってもよい。固体電解質の25℃におけるLiイオン伝導度は、例えば1×10-4S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であることが好ましい。
【0055】
固体電解質層における固体電解質の含有量は、例えば70重量%以上であり、90重量%以上であってもよい。固体電解質層は、必要に応じて、バインダーを含有していてもよい。バインダーとしては、上記「1.負極」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上である。一方、固体電解質層の厚さは、例えば、300μm以下であり、100μm以下であってもよい。
【0056】
4.全固体電池
本開示における全固体電池は、正極活物質層、固体電解質層および負極活物質層を有する発電単位を少なくとも1つ有し、2以上有していてもよい。全固体電池が複数の発電単位を有する場合、それらは、並列接続されていてもよく、直列接続されていてもよい。本開示における全固体電池は、正極、固体電解質層および負極を収納する外装体を備える。外装体の種類は特に限定されないが、例えば、ラミネート外装体が挙げられる。また、全固体電池は、電解液を含有しないことが好ましい。
【0057】
本開示における全固体電池は、正極、固体電解質層および負極に対して、厚さ方向に沿って拘束圧を付与する拘束治具を有していてもよい。拘束圧を付与することで、良好なイオン伝導パスおよび電子伝導パスが形成される。拘束圧は、例えば0.1MPa以上であり、1MPa以上であってもよく、5MPa以上であってもよい。一方、拘束圧は、例えば100MPa以下であり、50MPa以下であってもよく、20MPa以下であってもよい。
【0058】
本開示における全固体電池は、典型的には全固体リチウムイオン二次電池である。全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0059】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0060】
[作製例]
(硫化物固体電解質1の作製)
LiS、P、LiBr、LiIを含む原料組成物をメカニカルミリングを行い非晶質処理することにより、15LiBr-10LiI-75(0.75LiS-0.25P)の組成を有する非晶質の前駆体を得た。
ビーズミル(LMZ015、アシザワ・ファインテック製)に、ZrOボール(φ0.2mm)6kgを投入し、撹拌タンクに、15LiBr-10LiI-75(0.75LiS-0.25P)の組成を有する前駆体、脱水ヘプタン、ジブチルエーテルを投入し、周速16m/sで1時間、次いで、周速9m/sで7時間の粉砕を行い、スラリーを得た(微細化工程)。得られたスラリーを120℃、3時間で真空乾燥した。その後、500Pa以下の真空下で180℃、3時間加熱処理を行った(熱処理工程)。これにより、硫化物固体電解質1を得た。
【0061】
(硫化物固体電解質2の作製)
熱処理工程として、500Pa以下の真空下での150℃、5時間の加熱処理を行ったこと以外は、硫化物固体電解質1と同様の方法で、硫化物固体電解質2を得た。
【0062】
(硫化物固体電解質3の作製)
熱処理工程として、500Pa以下の真空下での120℃、5時間の加熱処理を行ったこと以外は、硫化物固体電解質1と同様の方法で、硫化物固体電解質3を得た。
【0063】
(硫化物固体電解質4の作製)
熱処理工程として、500Pa以下の真空下での200℃、5時間の加熱処理を行ったこと以外は、硫化物固体電解質1と同様の方法で、硫化物固体電解質4を得た。
【0064】
[評価]
得られた硫化物固体電解質1~4のラマン分光スペクトルを測定し、ピーク位置および半値幅を求めた結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、硫化物固体電解質1~4は、いずれも、415cm-1以上425cm-1以下の位置にピークが確認された。また、硫化物固体電解質1~3は、ピークの半値幅が、いずれも15.5cm-1以上であった。これに対して、硫化物固体電解質4は、ピークの半値幅が、15.5cm-1未満であった。
【0067】
[実施例1]
(負極の作製)
ナノ材料である負極活物質(Si粒子)22.1g、硫化物固体電解質(硫化物固体電解質1)11.3g、導電材(VGCF)2.9gを秤量した。また、5重量%に希釈したバインダー(PVDF)および分散媒(ジイソブチルケトン、DIBK)を準備した。
【0068】
これらを、混錬装置(フィルミックス(登録商標)、プライミクス社製)に投入し、周速5m/s~30m/sの範囲で混錬することにより、固形分が39重量%であるスラリーを得た。Si粒子と硫化物固体電解質1との混合体積比(Si粒子:硫化物固体電解質1)は、65:35に相当する。得られたスラリーを、負極集電体(Ni箔)上に塗工し乾燥させることで、負極活物質層および負極集電体を有する負極を得た。
【0069】
(固体電解質層の作製)
硫化物固体電解質(硫化物固体電解質4)39.0gを秤量した。また、5重量%に希釈したバインダー(PVDF)および分散媒(ヘプタンおよびジブチルエーテルの混合物)を準備した。これらを、混錬装置(バレル混錬機)を使用し、2000rpmで混合することで、固形分が50重量%である固体電解質層用スラリーを得た。得られた固体電解質層スラリーを、Al箔上に塗工し乾燥させることで、Al箔上に固体電解質層を得た。
【0070】
(正極の作製)
正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)と、分散媒(酪酸ブチル)と、バインダー(PVdF系バインダーの5重量%酪酸ブチル溶液)と、硫化物固体電解質(硫化物固体電解質4)と、導電材(VGCF)とを混合することで、スラリーを得た。得られたスラリーを、正極集電体(Al箔)上に塗工し乾燥させることで、正極活物質層および正極集電体を有する正極を得た。
【0071】
(評価用セルの作製)
固体電解質層が正極活物質層と接するように、固体電解質層を正極活物質層に積層してプレスを行った。そして、固体電解質層の基板(Al箔)を剥がして、固体電解質層が負極活物質層と接するように負極活物質層を積層してプレスを行った。これにより評価用セルを作製した。
【0072】
[実施例2、3]
負極活物質層におけるSi粒子および硫化物固体電解質を、表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製した。
【0073】
[実施例4]
ナノ材料である負極活物質(Si粒子)22.1g、硫化物固体電解質(硫化物固体電解質1)14.0g、導電材(VGCF)2.9gを秤量した。また、実施例1と同様にして、バインダー、分散剤および分散媒を準備した。これらを、混錬装置(フィルミックス(登録商標)、プライミクス社製)に投入し、周速5m/s~30m/sの範囲で混錬することにより、固形分が39重量%であるスラリーを得た。Si粒子と硫化物固体電解質1との混合体積比(Si粒子:硫化物固体電解質1)は、60:40に相当する。得られたスラリーを、負極集電体(Cu箔)上に塗工し乾燥させることで、負極活物質層および負極集電体を有する負極を得た。得られた負極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0074】
[実施例5、6]
負極活物質層におけるSi粒子および硫化物固体電解質を、表2に示すように変更したこと以外は、実施例4と同様にして評価用セルを作製した。
【0075】
[実施例7]
ナノ材料である負極活物質(Si粒子)22.1g、硫化物固体電解質(硫化物固体電解質1)17.2g、導電材(VGCF)2.9gを秤量した。また、実施例1と同様にして、バインダー、分散剤および分散媒を準備した。これらを、混錬装置(フィルミックス(登録商標)、プライミクス社製)に投入し、周速5m/s~30m/sの範囲で混錬することにより、固形分が39重量%であるスラリーを得た。Si粒子と硫化物固体電解質1との混合体積比(Si粒子:硫化物固体電解質1)は、55:45に相当する。得られたスラリーを、負極集電体(Cu箔)上に塗工し乾燥させることで、負極活物質層および負極集電体を有する負極を得た。得られた負極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0076】
[実施例8、9]
負極活物質層におけるSi粒子および硫化物固体電解質を、表2に示すように変更したこと以外は、実施例7と同様にして評価用セルを作製した。
【0077】
[実施例10]
ナノ材料である負極活物質(Si粒子)22.1g、硫化物固体電解質(硫化物固体電解質1)21.0g、導電材(VGCF)2.9gを秤量した。また、実施例1と同様にして、バインダー、分散剤および分散媒を準備した。これらを、混錬装置(フィルミックス(登録商標)、プライミクス社製)に投入し、周速5m/s~30m/sの範囲で混錬することにより、固形分が39重量%であるスラリーを得た。Si粒子と硫化物固体電解質1との混合体積比(Si粒子:硫化物固体電解質1)は、50:50に相当する。得られたスラリーを、負極集電体(Cu箔)上に塗工し乾燥させることで、負極活物質層および負極集電体を有する負極を得た。得られた負極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0078】
[実施例11、12]
負極活物質層におけるSi粒子および硫化物固体電解質を、表2に示すように変更したこと以外は、実施例10と同様にして評価用セルを作製した。
【0079】
[比較例1~12]
ナノ材料ではないSi粒子を準備した。さらに、硫化物固体電解質1~3を準備した。また、実施例1と同様にして、バインダー、分散剤および分散媒を準備した。これらを、混錬装置(フィルミックス(登録商標)、プライミクス社製)に投入し、周速5m/s~30m/sの範囲で混錬することにより、固形分が53重量%であるスラリーを得た。スラリーにおける、硫化物固体電解質の種類、および、Si粒子と硫化物固体電解質との混合体積比は、表3に示す通りである。得られたスラリーを、負極集電体(Cu箔)上に塗工し乾燥させることで、負極活物質層および負極集電体を有する負極を得た。得られた負極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0080】
[比較例13、14]
ナノ材料であるSi粒子を準備した。さらに、硫化物固体電解質4を準備した。また、実施例1と同様にして、バインダー、分散剤および分散媒を準備した。これらを、混錬装置(フィルミックス(登録商標)、プライミクス社製)に投入し、周速5m/s~30m/sの範囲で混錬することにより、固形分が39重量%であるスラリーを得た。スラリーにおける、Si粒子と硫化物固体電解質との混合体積比は、表3に示す通りである。得られたスラリーを、負極集電体(Cu箔)上に塗工し乾燥させることで、負極活物質層および負極集電体を有する負極を得た。得られた負極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0081】
[評価]
(拘束圧変動評価)
得られた評価用セルに対して、上限電圧4.05V~下限電圧2.5VのCCCV充放電を0.1Cで4サイクル行った。固体電池の設計容量は0.4Ahとした。セル拘束治具の圧力計にNR600データロガー(KEYENCE社製)を接続し、セルの圧力変動を測定した。拘束圧変動は、以下の計算式で算出した。初回の満充電時の拘束圧変動の結果を、表2、表3、図2図3に示す。
拘束圧変動(ΔMPa/Ah)=圧力変動(ΔMPa)/充電容量(Ah)
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
表2、表3、図2図3に示されるように、ナノ材料であるSi系活物質と、結晶性が低い硫化物固体電解とを用いた実施例1~12では、拘束圧変動が小さかった。これに対して、比較例1~12のように、ナノ材料ではないSi系活物質と、結晶性が低い硫化物固体電解とを用いた場合、拘束圧変動が大きかった。さらに、実施例5および比較例13は、Si粒径と、活物質:固体電解質の割合とが同じであるが、結晶性が低い硫化物固体電解を用いることで、拘束圧変動が小さくなった。同様に、実施例11および比較例14は、Si粒径がほぼ同じであり、活物質:固体電解質の割合が同じであるが、結晶性が低い硫化物固体電解を用いることで、拘束圧変動が小さくなった。また、実施例10および比較例14の拘束圧変動の経時変化を図4に示す。図4に示すように、実施例10は、比較例14に比べて、拘束圧変動が小さかった。
【符号の説明】
【0085】
1 …負極集電体
2 …負極活物質層
3 …固体電解質層
4 …正極活物質層
5 …正極集電体
10 …全固体電池
図1
図2
図3
図4