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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-20
(45)【発行日】2025-12-01
(54)【発明の名称】海水冷却水系の障害抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20230101AFI20251121BHJP
   C02F 1/76 20230101ALI20251121BHJP
   C02F 1/72 20230101ALI20251121BHJP
【FI】
C02F1/50 510E
C02F1/50 520F
C02F1/50 520K
C02F1/50 531Q
C02F1/50 531M
C02F1/50 540B
C02F1/50 550C
C02F1/76 A
C02F1/72 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024221088
(22)【出願日】2024-12-17
【審査請求日】2024-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2024150160
(32)【優先日】2024-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 洸太
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-024870(JP,A)
【文献】特開2018-122292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0267177(US,A1)
【文献】特開2023-007430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
C02F 1/76
C02F 1/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水冷却水系の障害を抑制する方法であって、
海水冷却水系の海水に、モノクロラミン溶液と過酸化水素とを添加することを含み、
前記モノクロラミン溶液は、前記海水に対する全残留塩素濃度が0.005mg/L~0.1mg/Lになるように添加し、
過酸化水素を前記海水に対する濃度が0.1mg/L~2mg/Lになるように添加し、
前記モノクロラミン溶液及び過酸化水素の添加により、前記海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させることを含む、方法。
【請求項2】
前記海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させることで、前記海水冷却水系における海生生物の成長を抑制することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させることで、前記海水冷却水系におけるフジツボの付着を防止することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
一日当たり12時間以上、前記モノクロラミン溶液及び前記過酸化水素を添加することを含む、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、海水冷却水系の障害を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水は、工業用の冷却水として、特に火力発電所や原子力発電所の復水器の冷却水として多量に使用されている。海水には様々な生物が生息していることから、海水取水路の壁面や配管内並びに熱交換器内には、ムラサキイガイなどの二枚貝類、フジツボ類、ヒドロ虫類、及びコケムシ類等といった海生生物種が多量に付着し、その結果、海水冷却水系に様々な障害を引き起こす場合がある。このため、海水冷却系へのこれらの生物の付着や、繁殖の抑制等を目的として様々な対策が試みられている。
【0003】
特許文献1は、海水冷却水系の海水に対して、全残留塩素濃度として500mg/L以上10000mg/L以下の濃度のモノクロラミン溶液を添加して、海水の全残留塩素濃度を0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度とすることで、海水冷却水系への海生生物の付着を抑制する方法を開示する。
【0004】
特許文献2は、過酸化水素剤と塩素剤との併用添加法では両薬剤が消費され十分な効果が発揮されない等といった課題を解決するために、結合ハロゲンと過酸化水素とを海水中に共存させることにより海水冷却水系への海生生物の付着を抑制する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6584948号公報
【文献】特開2015-058405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、モノクロラミンの添加濃度が0.01mg/L未満の場合、所望の海生生物付着抑制効果が発揮されないこと、また0.15mg/Lを超える場合、水産資源に対する影響が懸念されることが開示されている。しかしながら、本発明者は、海水の全残留塩素濃度が0.1mg/Lとなるようにモノクロラミン溶液を添加しても、フジツボによる海水冷却水系への障害を十分に抑制できない場合があることを確認した。このため、実際にモノクロラミンのみを用いて海水冷却水系への障害を抑制するためには、より高濃度となるようモノクロラミン溶液を添加する必要がある。
しかしながら、特許文献1に記載されている通り、海水中のアンモニア態窒素の安全基準濃度は0.03mg/Lとされており、モノクロラミン溶液の添加濃度を高濃度とした場合、海水中のアンモニア態窒素濃度の増加による水産資源に対する影響が懸念される。
【0007】
本開示は、一態様において、海水中のアンモニア態窒素を過剰に増加させることなく、海生生物による海水冷却水系への障害を抑制可能な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、海水冷却水系の障害を抑制する方法であって、海水冷却水系の海水に、モノクロラミン溶液と過酸化水素とを添加することを含み、前記モノクロラミン溶液は、前記海水に対する全残留塩素濃度が0.005mg/L~0.1mg/Lになるように添加し、前記モノクロラミン溶液及び過酸化水素の添加により、前記海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させることを含む方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、一態様において、海水中のアンモニア態窒素を過剰に増加させることなく、海生生物による海水冷却水系への障害を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例で用いたモデル水路を示す模式系統図である。
図2図2は、実施例で用いたモデル水路を示す模式系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、特許文献1に記載の技術について検証を行ったところ、上記のとおり、海水の全残留塩素濃度が0.1mg/Lとなるようにモノクロラミン溶液を添加しても、二枚貝やヒドロ虫類の付着は抑制できるが、フジツボによる海水冷却水系への障害を十分に抑制できない場合があることを確認した。
具体的には、特許文献1は、500mg/L以上10000mg/L以下の高濃度のモノクロラミン溶液を生成し、これを海水に添加することで、海水中にモノクロラミンを安定して生成、維持させることができ、その結果、十分な海生生物の付着抑制効果を奏することを開示する。しかしながら、本発明者が検証した結果、高濃度のモノクロラミン溶液を海水中に添加した場合であっても、海水に添加するモノクロラミンの濃度(全残留塩素濃度)が0.1mg/Lとした場合、フジツボの付着を十分に抑制できないことが判明した。
【0012】
本出願人は、濃度0.1mg/L~0.5mg/Lのアンモニウムイオンと、アンモニウムイオン1モルに対して有効塩素又は臭素に換算して0.7モル~1.2モルの塩素剤又は臭素剤との共存下に、海生生物の付着防止有効量の過酸化水素あるいは過酸化水素供給化合物を添加することによって、海水冷却水系への海生生物の付着を防止すると共に、海水冷却水系に存在する金属製配管の腐食を防止する方法を提案している(特開2003-329389号公報)。また、同文献は、アンモニウムイオン及び塩素剤の添加によって海生生物の付着防止効果は阻害されないこと、実施例における海生生物の付着防止効果は、過酸化水素のみを添加した比較例と同等であることを開示する(段落[0025])。しかしながら、同文献の実施例では、モデル水路に塩化アンモニウム水溶液、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、及び過酸化水素をこの順番で直接添加している。このため、アンモニウムイオンと次亜塩素酸とが十分に反応しない状態で、過酸化水素が添加されることにより、モノクロラミンが十分に生成していない可能性がある。
【0013】
これに対し、本開示の方法は、海水冷却水系の海水に、モノクロラミン溶液と過酸化水素とを添加し、かつ、モノクロラミン溶液を海水に対する全残留塩素濃度が0.005mg/L~0.1mg/Lになるように添加して、モノクロラミンと過酸化水素とを海水中に共存させることにより、低濃度のモノクロラミンであっても、フジツボによる海水冷却水系への障害や海水冷却水系へのヒドロ虫類の付着を抑制することができるという優れた効果を奏し、一又は複数の実施形態において、過酸化水素の添加量(添加濃度)を低減することができるという効果を好ましくは奏しうる。
また、本開示の方法は、海水冷却水系の海水に、海水に対する全残留塩素濃度が0.005mg/L~0.1mg/Lになるようにモノクロラミン溶液を添加することにより、海水中のアンモニア態窒素を過剰に増加させることなく、フジツボによる海水冷却水系への障害や海水冷却水系へのヒドロ虫類の付着を抑制することができうる。
【0014】
よって、本開示は、一態様において、海水冷却水系の障害を抑制する方法であって、海水冷却水系の海水に、モノクロラミン溶液と過酸化水素とを添加することを含み、前記モノクロラミン溶液は、前記海水に対する全残留塩素濃度が0.005mg/L~0.1mg/Lになるように添加し、前記モノクロラミン溶液及び過酸化水素の添加により、前記海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させることを含む方法に関する。
【0015】
本開示において「モノクロラミン」とは、NH2Clで表される化合物(アンモニアの水素原子のうち1つを塩素原子で置き換えた化合物)をいう。モノクロラミンは、OCl-+NH4 +→NH2Cl+H2Oのような反応で生成される。
【0016】
本開示における「海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させる」とは、モノクロラミンと過酸化水素とを海水冷却水系の海水中に同時に存在させることをいう。また、海水に添加したモノクロラミンは、モノクロラミン(NH2Cl)中の塩化物イオン及び/又は水素イオンが海水中の臭化物イオンと置換されて、モノブロモアミン(NH2Br)及び/又はモノブロモクロラミン(NHBrCl)を生じうる。このため、本開示における「海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させる」ことは、海水にモノクロラミンを添加することで生じうるモノブロモアミン(NH2Br)及び/又はモノブロモクロラミン(NHBrCl)と過酸化水素とを海水冷却水系の海水中に同時に存在させることを含みうる。
【0017】
本開示において「海水冷却水系の障害を抑制する」こととしては、一又は複数の実施形態において、海水冷却水系における海生生物の成長を抑制すること、及び海水冷却水系における海生生物の付着を抑制することを含みうる。よって、本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させることで、海水冷却水系における海生生物の成長を抑制することを含む。海水冷却水系における海生生物の成長を抑制することとしては、一又は複数の実施形態において、海水冷却水系におけるフジツボの成長を抑制することが挙げられる。
【0018】
本開示における「海水冷却水系」とは冷却水として海水を使用する水系をいう。海水冷却水系としては、冷却水として使用されうる又は使用された海水が流通する流路を形成する設備であれば特に限定されず、一又は複数の実施形態において、海水取水路、配管、導水路、熱交換器、復水器、及び排水路等が挙げられる。海水冷却水系としては、一又は複数の実施形態において、発電所、製鐵所、及び石油化学プラント等の工場における海水冷却水系が挙げられる。
【0019】
本開示の方法は、海水に対する全残留塩素濃度が0.005mg/L~0.1mg/Lになるようにモノクロラミン溶液を海水に添加して、海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素と共存させることによって、一又は複数の実施形態において、フジツボの付着を抑制することができる。
【0020】
本開示において「全残留塩素濃度」は、残留遊離塩素濃度と残留結合塩素濃度とを合わせた値をいう。海水中の全残留塩素濃度、残留遊離塩素濃度、及び残留結合塩素濃度は、一又は複数の実施形態において、ジエチル-p―フェニレンジアミン(DPD)法により測定することができる。
本開示における残留遊離塩素濃度は、DPD法により測定した残留遊離塩素濃度であって、遊離塩素測定用試薬であるDPD(Free)試薬による30秒後の塩素濃度測定結果(mg-Cl2/L)をいう。本開示における残留結合塩素濃度は、全塩素測定用試薬であるDPD(Total)試薬による120秒後の塩素濃度測定結果(mg-Cl2/L)から、遊離塩素測定用試薬であるDPD(Free)試薬による30秒後の塩素濃度測定結果(mg-Cl2/L)を差し引いた値をいう。よって、本開示における全残留塩素濃度は、全塩素測定用試薬であるDPD(Total)試薬による120秒後の塩素濃度測定結果(mg-Cl2/L)ともいうことができる。
【0021】
本開示の方法は、海水中のモノクロラミンの濃度が、海水に対する全残留塩素濃度が0.005mg/L~0.1mg/Lになるようにモノクロラミン溶液を海水に添加することを含み、一又は複数の実施形態において、0.01mg/L以上、0.015mg/L以上、0.02mg/L以上、又は0.025mg/L以上となるようにモノクロラミン溶液を海水に添加することを含みうる。また、本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、0.09mg/L以下、0.08mg/L以下、0.07mg/L以下、又は0.06mg/L以下となるようにモノクロラミン溶液を海水に添加することを含みうる。
【0022】
モノクロラミン溶液は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、高濃度のモノクロラミン溶液を使用してもよい。モノクロラミン溶液の濃度は特に限定されるものではないが、一又は複数の実施形態において、全残留塩素濃度として400mg/L~8000mg/L、700mg/L~7000mg/L、又は800mg/L~6000mg/Lである。
【0023】
モノクロラミン溶液は、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸化合物とアンモニウム化合物とを混合することにより調製できる。次亜塩素酸化合物としては、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム及び次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。アンモニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、及び硝酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合せて使用してもよい。次亜塩素酸化合物とアンモニウム化合物とのモル比は、一又は複数の実施形態において、全残留塩素量と窒素とのモル比として、1:1~1:2、1:1.1~1:2、1:1.2~1:2、1:1.2~1:1.6、1:1.2~1:1.5、又は1:1.2~1:1.4である。モノクロラミン溶液は、一又は複数の実施形態において、特許第4914146号公報、特開2017-119245号公報、及び特開2017-53054号公報等に記載の方法により調製することができる。
【0024】
モノクロラミン溶液は、一又は複数の実施形態において、5質量%~15質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液と硫酸アンモニウムとを用い、それらを適宜希釈した水溶液を混合することで調製してもよい。
【0025】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、海水に対する過酸化水素の濃度が0.1mg/L~2mg/Lになるように、過酸化水素を海水に添加することを含んでいてもよい。過酸化水素の濃度は、一又は複数の実施形態において、0.12mg/L以上、0.14mg/L以上、0.15mg/L以上、0.16mg/L以上、若しくは0.17mg/L以上であり、又は1.5mg/L以下、1.2mg/L以下、0.8mg/L以下、0.7mg/mL以下、0.6mg/mL以下、0.5mg/mL以下、0.4mg/mL以下、若しくは0.35mg/mL以下である。
【0026】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン溶液と過酸化水素とを、全残留塩素と過酸化水素との濃度の比(全残留塩素濃度(mg/L):過酸化水素濃度(mg/L))として、1:1~20、1:1.5~15、又は1:2~10となるように海水に添加することを含んでもよい。
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、海水に対する過酸化水素の添加濃度が、海水に対するモノクロラミン溶液の添加濃度(全残留塩素濃度)の1倍以上、1.5倍以上、2倍以上、2.5倍以上、又は3倍以上となるように過酸化水素を海水に添加することを含んでもよい。
【0027】
モノクロラミン溶液及び過酸化水素の1日あたりの添加時間は、一又は複数の実施形態において、12時間以上24時間以下であり、好ましくは14時間以上、16時間以上、18時間以上、又は20時間以上である。モノクロラミン溶液及び過酸化水素の添加は、一又は複数の実施形態において、連続添加でもよく、間欠添加でもよい。
【0028】
海水にモノクロラミン溶液及び過酸化水素を添加する順番は特に制限されず、一又は複数の実施形態において、同時であってもよいし、モノクロラミン溶液の添加を開始した後に過酸化水素を添加してもよいし、過酸化水素の添加を開始した後にモノクロラミン溶液を添加してもよい。
【0029】
モノクロラミン及び過酸化水素を添加する箇所としては、一又は複数の実施形態において、取水路、熱交換器又は復水器に付帯する配管若しくは導水路、熱交換器の入口又は復水器の入口等が挙げられる。モノクロラミン溶液及び過酸化水素の添加箇所は、一又は複数の実施形態において、同じであってもよいし、異なっていてもよい。モノクロラミン溶液及び過酸化水素の添加箇所が異なる場合、過酸化水素の添加箇所をモノクロラミン溶液の添加箇所の上流側としてもよいし下流側としてもよい。
添加箇所は、一又は複数の実施形態において、一カ所であってもよいし複数個所であってもよい。
【0030】
本開示の方法におけるモノクロラミン及び過酸化水素の濃度は、公知の方法により測定することができうる。
【0031】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] 海水冷却水系の障害を抑制する方法であって、
海水冷却水系の海水に、モノクロラミン溶液と過酸化水素とを添加することを含み、
前記モノクロラミン溶液は、前記海水に対する全残留塩素濃度が0.005mg/L~0.1mg/Lになるように添加し、
前記モノクロラミン溶液及び過酸化水素の添加により、前記海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させることを含む、方法。
[2] 過酸化水素を前記海水に対する濃度が0.1mg/L~2mg/Lになるように添加することを含む、[1]記載の方法。
[3] 前記海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させることで、前記海水冷却水系における海生生物の成長を抑制することを含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 一日当たり12時間以上、前記モノクロラミン溶液及び前記過酸化水素を添加することを含む、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
【0032】
以下、実施例及び比較例を用いて本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれらに制限されるものではない。
【実施例
【0033】
[全残留塩素濃度の測定方法]
全残留塩素濃度は、JIS K0101「工業用水試験方法」に記載されているジエチル-p―フェニレンジアミン(DPD)比色法で測定した。
[過酸化水素濃度の測定方法]
過酸化水素濃度は、酵素を用いた4-アミノアンチピリン比色法により測定した。
【0034】
[モデル水路を用いた評価試験1]
東京湾に面した某所に、図1に示すモデル水路試験装置を設け、試験を行った。水中ポンプを用いて揚水した未濾過の海水(pH8)を、8系統に分岐させた水路(試験区)に流量1m3/hで76日間(2024年4月~同年6月)、一過式に通水し、各水路に表1に記載の薬剤を、表1に示す海水中の濃度、及び一日当たりの添加時間になるように添加した(実施例1、比較例1~6、及びブランク)。
水路試験装置の各水路内(各試験区内)には、付着生物調査用にアクリル製のカラム(内径64mm×長さ300mm×厚さ2mm、表面積:602.88cm2、半円状に半割しその片方の内面に目合5mm、糸径1mmのビニロン(PVA繊維)製の網を張りつけたものを再度円柱状にしたもの)を挿入し、通水終了後(76日間経過後)にカラムに付着した海生生物を測定し、海生生物の付着防止効果を評価した。
〔モノクロラミン〕
モノクロラミンは、市販品の12%次亜塩素酸ナトリウム溶液及び硫酸アンモニウムをそれぞれ適宜希釈した水溶液を、定量ポンプで送液し、薬剤添加ポイント前のチューブ内で混合することで高濃度のモノクロラミン溶液を調製し、さらに付着防止効果確認用アクリル製カラムの手前に、表1に示す海水中の濃度(全残留塩素濃度)、及び一日当たりの添加時間になるように添加した。
〔過酸化水素〕
過酸化水素は、市販品の35%過酸化水素溶液を適宜希釈した水溶液を、定量ポンプを用いて、付着防止効果確認用アクリル製カラムの手前であって、モノクロラミンの添加位置よりも上流側に、表1に示す海水中の濃度、及び一日当たりの添加時間になるように添加した。
モノクロラミン及び過酸化水素は、表1に示す一日当たりの添加時間となるように連続して添加した。
【0035】
[評価]
(フジツボ、二枚貝の計測)
回収したカラムから、フジツボ並びに二枚貝の付着の有無を目視により確認し、付着が確認された場合はノギスを用いて体長の計測を行った。計測結果に基づきそれぞれ下記のように評価をした。付着がみられない場合に「〇」、付着した個体が全て2mm以下であった場合に「△」、2mmを超える個体の付着がみられた場合に「×」と評価した。
(ヒドロ虫類の被覆率の計測)
回収したカラムからヒドロ虫類の被覆率(%)の計測を行った。ヒドロ虫類の被覆率(%)は、通水終了後のカラムに5mm目合いのネットを押し当て、被覆面と非被覆面の目数を計数し、カラムの表面積602.88cm2を100%として被覆率を算出した。算出結果に基づき下記のように評価をした。被覆率が5%未満の場合に「〇」、被覆率が5~10%の場合に「△」、被覆率が10%を超える場合に「×」と評価した。
【表1】
【0036】
モノクロラミン溶液を0.05mg/L添加した比較例2ではフジツボ及び二枚貝の付着が確認され、過酸化水素を0.18mg/L添加した比較例5ではフジツボ、二枚貝及びヒドロ虫類の付着が確認された。これに対し、実施例1ではフジツボ、二枚貝及びヒドロ虫類のすべてについて付着が見られなかった。
【0037】
[モデル水路を用いた評価試験2]
和歌山県某所に、図2に示すモデル水路試験装置を設け、試験を行った。水中ポンプを用いて揚水した未濾過の海水(pH8)を、6系統に分岐させた水路(試験区)に流量1m3/hで83日間(2024年7月~同年10月)、一過式に通水し、各水路に表2に記載の薬剤を、表2に示す海水中の濃度、及び一日当たりの添加時間になるように添加した(実施例2、比較例7~10、及びブランク)。
水路試験装置の各水路内(各試験区内)には、付着生物調査用にアクリル製のカラム(内径64mm×長さ300mm×厚さ2mm、表面積:602.88cm2、半円状に半割しその片方の内面に目合5mm、糸径1mmのビニロン(PVA繊維)製の網を張りつけたものを再度円柱状にしたもの)を挿入し、通水終了後(83日間経過後)にカラムに付着した海生生物を測定し、海生生物の付着防止効果を評価した。
モノクロラミン及び過酸化水素は、表2に示す一日当たりの添加時間となるように連続して添加した。
上記[モデル水路を用いた評価試験1]と同様に評価を行った。その結果を下記表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
[モデル水路を用いた評価試験2]と[モデル水路を用いた評価試験1]とでは試験を行った海域及び時期が異なる。しかしながら、実施例2では実施例1と同様に、フジツボ、二枚貝及びヒドロ虫類のすべてについて付着が見られなかった。一方、モノクロラミン溶液を0.15mg/L添加した比較例8では、フジツボの付着が確認され、過酸化水素を0.35mg/L添加した比較例10ではフジツボ、二枚貝及びヒドロ虫類の付着が確認された。
【要約】
【課題】 海生生物による海水冷却水系への障害を抑制可能な方法を提供する。
【解決手段】 本開示は、一態様として、海水冷却水系の障害を抑制する方法であって、海水冷却水系の海水に、モノクロラミン溶液と過酸化水素とを添加することを含み、前記モノクロラミン溶液は、前記海水に対する全残留塩素濃度が0.005mg/L~0.1mg/Lになるように添加し、前記モノクロラミン溶液及び過酸化水素の添加により、前記海水冷却水系の海水中にモノクロラミンと過酸化水素とを共存させることを含む方法に関する。
【選択図】図1
図1
図2