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7779091自動車用窓ガラス構造体の製造方法、及び乾式処理の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-11-25
(45)【発行日】2025-12-03
(54)【発明の名称】自動車用窓ガラス構造体の製造方法、及び乾式処理の評価方法
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/00 20060101AFI20251126BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20251126BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20251126BHJP
   B29C 63/02 20060101ALI20251126BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20251126BHJP
   G01N 19/04 20060101ALI20251126BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20251126BHJP
【FI】
B60J1/00 Z
B05D7/00 E
B05D7/24 301P
B29C63/02
C08J7/00 302
C08J7/00 C
G01N19/04 Z
G01N21/64 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021182102
(22)【出願日】2021-11-08
(65)【公開番号】P2023069900
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2024-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江畑 研一
(72)【発明者】
【氏名】上田 俊司
(72)【発明者】
【氏名】内藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】森岡 康司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真成
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-522417(JP,A)
【文献】特開2000-051782(JP,A)
【文献】特開2003-247942(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0194435(US,A1)
【文献】特表2005-529739(JP,A)
【文献】特開2019-084520(JP,A)
【文献】特開2008-127428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00
B05D 7/00
B05D 7/24
B29C 63/02
C08J 7/00
G01N 19/04
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用窓ガラスに樹脂表面を有する部品が接着されてなる自動車用窓ガラス構造体の製造方法であって、
前記樹脂表面を有する部品の接着面に蛍光物質を付着させ、
前記蛍光物質を付着させた前記接着面に乾式処理を行い、
前記接着面から発せられる蛍光を観察することによって前記乾式処理を評価し、
前記部品を、前記接着面に塗布された接着剤を介して自動車用窓ガラスに接着する、自動車用窓ガラス構造体の製造方法。
【請求項2】
前記蛍光物質の付着を、前記蛍光物質の溶液を用いて行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記蛍光物質の付着を、前記接着面の清浄化とともに行う、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記清浄化が、前記溶液をワイプ材に浸みこませて前記接着面を拭くことを含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶液が、前記蛍光物質を有機溶剤に溶かしてなる溶液である、請求項2から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶液中の前記蛍光物質の濃度が1×10-6mol/L以上1×10-2mol/L以下である、請求項2から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記蛍光物質が、2,5-ビス(5-tert-ブチル-2-ベンゾキサゾリル)チオフェン及びメチレンブルーの少なくとも1つである、請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記乾式処理が、プラズマ処理及びコロナ処理の少なくとも一方である、請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記蛍光の観察が、UV光を照射して目視により直接観察することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記蛍光の観察が、蛍光顕微鏡によって観察することを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記蛍光物質の付着は、後続の前記乾式処理により乾式処理すべき領域より広い範囲で行い、前記蛍光物質が付着される領域は、前記乾式処理すべき領域の周縁からはみ出す範囲で形成される、請求項1から10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記接着面には、蛍光強度の測定により前記乾式処理を評価するための対照領域が設けられており、
前記対照領域は、前記乾式処理すべき領域に隣接して設けられ、前記乾式処理すべき領域を取り囲む領域である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
自動車用窓ガラスに接着される樹脂表面を有する部品に施す乾式処理の評価方法であって、
前記樹脂表面を有する部品の接着面に蛍光物質を付着させ、
前記蛍光物質を付着させた前記接着面に乾式処理を行い、
前記接着面から発せられる蛍光を観察することによって前記乾式処理を評価する、評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用窓ガラス構造体の製造方法、及び乾式処理の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用窓ガラスに、ブラケット等の樹脂製部品が接着剤を介して接着されてなる構造体が知られている。このような構造体の製造において、樹脂製部品と接着剤との間の接着性を向上させるために、樹脂製部品の接着面にプラズマ処理等の乾式処理を施して表面を改質することも知られている。例えば、特許文献1には、結晶性熱可塑性樹脂を含有する部材の表面を乾式処理によって処理する部材の表面処理方法であって、乾式処理前後の表面の状態が、接触角及び表面の表面自由エネルギーに基づく所定の関係を満たすようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-127428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術においては、部材表面に施される乾式処理が、所定の液体の接触角や表面張力を測定することによって評価されている。しかしながら、接触角の測定では、液体を表面に滴下するため、部品を構成する材料や、測定に用いられる液体の種類によっては、部品の表面状態が変化してしまう可能性がある。よって、接着面に施された乾式処理を適切に非接触で評価できる方法が求められている。
【0005】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、自動車用窓ガラスに樹脂表面を有する部品が接着されてなる自動車用窓ガラス構造体の製造において、部品の樹脂表面の乾式処理を非接触で評価できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、自動車用窓ガラスに樹脂表面を有する部品が接着されてなる自動車用窓ガラス構造体の製造方法であって、前記樹脂表面を有する部品の接着面に蛍光物質を付着させ、前記接着面に乾式処理を行い、前記接着面から発せられる蛍光を観察することによって前記乾式処理を評価し、前記部品を、前記接着面に塗布された接着剤を介して自動車用窓ガラスに接着する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、自動車用窓ガラスに樹脂表面を有する部品が接着されてなる自動車用窓ガラス構造体の製造において、部品の樹脂表面の乾式処理を非接触で評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態による自動車用窓ガラス構造体の平面図である。
図2図1のI-I線断面の部分図である。
図3】本発明の一実施形態による評価方法又は製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の形態に限定されることはない。
【0010】
<自動車用窓ガラス構造体>
本明細書では、自動車用窓ガラス構造体は、自動車用窓ガラスの主面に、樹脂表面を有する部品が接着剤により接着されてなるものを指す。自動車用窓ガラスは、より具体的には、フロントガラス、リアガラス、サイドガラス等であってよい。
【0011】
自動車用窓ガラスに用いられているガラス板は、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等の無機ガラス板であってよい。上記ガラス板は未強化であってよく、風冷強化又は化学強化処理が施されていてもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものである。強化ガラスが風冷強化ガラスである場合は、均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることで、ガラス表面を強化してもよい。一方、強化ガラスが化学強化ガラスである場合は、イオン交換法等によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化してもよい。また、車両用ガラスには、紫外線又は赤外線を吸収するガラス板を用いてもよく、さらに透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたガラスであってもよい。車両用ガラスには、有機ガラスが用いられていてもよい。有機ガラスとしては、ポリカーボネート等の透明樹脂が挙げられる。
【0012】
自動車用窓ガラスは、上述のガラス板を複数備えた合わせガラス、例えば2枚のガラス板を、中間膜を介して貼り合わせてなる合わせガラスであってよい。ガラス板間に配置する中間膜としては、エチレンビニルアセタール、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
【0013】
自動車用窓ガラスの平面視形状は矩形に限定されず、種々の形状を有するよう加工されたものであってもよい。また、自動車用窓ガラスは湾曲されたものであってよく、その曲率も特に限定されない。湾曲は、用いられるガラス板を重力成形、プレス成形等の曲げ成形をすることによって得ることができる。自動車用窓ガラスの形状及び曲率は、その主面に部品を接着でき、且つ接着面に十分な乾式処理を行うことができるよう設定される。
【0014】
上述の自動車用窓ガラスに樹脂表面を有する部品が接着されてなる構造体の具体例としては、車載機器(車載カメラ、車載センサ、ミラー等)を取り付けるための樹脂製のブラケット若しくはベース、或いは樹脂製の仮止めピン等の部品が、フロントガラスを自動車に取り付けたときに車内側を向く面に接着されてなる構造体等が挙げられる。また、樹脂製のドアスライダーや、樹脂製のドアホルダー等の部品がサイドガラスに接着されてなる構造体であってもよい。このように、自動車用窓ガラスに接着される部品は、少なくとも接着される部分が板状になっていて、自動車用窓ガラスの主面の接着面の形状に対応した接着面が形成されているものが好ましい。
【0015】
樹脂表面を有する部品が、車載機器を取り付けるための部品である場合、取り付け可能な車載機器は、車載カメラの他、レインセンサ、デフロストセンサ、赤外線センサ、ミリ波レーダ等であってよい。また、室内ミラーを取り付けるための樹脂製ベースであってもよい。また、本形態によって製造される自動車用窓ガラス構造体は、安全運転支援システム(Driving Safety Support System;DSSS)又は先進運転支援システム(Advanced Driver-Assistance System;ADAS)を搭載した自動車において好適に使用される。
【0016】
自動車用窓ガラスに取り付けられる部品は、樹脂表面を有するもの、すなわち少なくとも表面が樹脂から形成された、若しくは主として樹脂から形成されたものであればよい。また、上記部品は、少なくとも自動車用窓ガラスとの接着面に樹脂表面を有するものであってよい。よって、樹脂表面を有する部品としては、全体が樹脂から形成された若しくは主として樹脂から形成された成形体であってもよいし、樹脂以外の材料からなる成形体の表面の一部又は全部が樹脂層で被覆されたものであってもよい。なお、「主として樹脂から形成される」とは、樹脂をその樹脂が元来備える特性が維持される割合で含有することを指し、例えば樹脂を50重量%以上で含むものを指す。また、本明細書においては、樹脂表面を有する部品を、「樹脂製の部品」若しくは「樹脂製部品」と呼ぶ場合がある。
【0017】
樹脂表面を有する部品に用いられる樹脂材料は特に限定されないが、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリカーボネート(PC)、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド(PA)、テレフタル酸やイソフタル酸をベースとした高耐熱ポリアミド(PA6T、PA6I、PA6T/6I等)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、エポキシ(EP)等が挙げられる。これらの樹脂材料は、ホモポリマーとして用いてもよいし、上記の1以上を組み合わせてコポリマーとして用いてもよい。また、樹脂材料は、上記の1以上を組み合わせたポリマーアロイ、例えばポリブチレンテレフタレートとスチレンアクリロニトリルとのポリマーアロイ等であってもよい。
【0018】
また、樹脂材料には、充填材、顔料、樹脂の改質剤等の樹脂成分以外の成分が添加されていてもよい。例えば、樹脂材料は、繊維、無機粒子等の充填材により強化されている強化樹脂であってもよい。強化用の繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。繊維強化樹脂としては、ガラス繊維で強化されたポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド等が好ましい。樹脂が強化用繊維を含有する場合、繊維は、樹脂全体に対して5重量%以上70重量%以下、好ましくは30重量%以上50重量%以下で含有させることができる。
【0019】
樹脂表面を有する部品が、全体が樹脂から若しくは主として樹脂から成形された成形体である場合、その成形方法は限定されず、上述の樹脂材料を射出成形、注型、押出し、ブロー成形等の方法によって成形したものであってよい。また、樹脂以外の材料(金属等)からなるインサート材を用いてインサート成形したものであってもよい。
【0020】
また、樹脂表面を有する部品が、樹脂以外の材料からなる成形体の表面の一部又は全部が樹脂で被覆されたものである場合には、例えば、金属等からなる基体に、樹脂を含む電着塗料を用いて電着塗装された電着塗装体であってよい。電着塗装体は、基体(素地)に電解槽中で通電し、樹脂の塗料粒子を部品表面に析出させ、硬化炉で加熱硬化させて膜化されたものである。電着塗装によって樹脂表面を形成する場合、電着塗料はカチオン電着塗料であると好ましい。また、電着塗料に含まれる樹脂は、エポキシ樹脂等の熱硬化型樹とすることができ、アミンやアンモニウム等で変性されたエポキシ樹脂を含むことが好ましい。一方、上記基体は、鋼、アルミニウム等を含む金属の成形体、特に板状成形体とすることができる。電着塗装体の例としては、青木電器工業製のカチオン電着塗装鋼板(電着塗料として関西ペイント社製エレクロンHG-305E黒を使用)等が挙げられる。また、樹脂表面は、基体の上に、樹脂を含む溶液若しくは分散液、又は樹脂の溶融液等を塗布すること、或いは予め形成しておいたシート状の樹脂層を被着することや、無電解めっき等によっても形成することができる。このような表面の一部又は全部が樹脂で被覆された部品の場合、自動車用窓ガラスに接着される面(接着面)の少なくとも一部が樹脂層で覆われていればよく、接着面全体が樹脂層で覆われていることが好ましい。
【0021】
図1に、自動車用窓ガラスと、樹脂表面を有する部品とが接着されてなる自動車用窓ガラス構造体1の例を示す。図1における構造体では、フロントガラス10の車内側の面に、車載機器用の樹脂製ブラケット20が接着されている。ブラケット20は、例えば車載カメラを支持できるように構成されている。また、図2に、図1のI-I線断面を部分的に示す。図2に示すように、フロントガラス10とブラケット20とは、接着剤層30を介して接着されている。
【0022】
なお、図1及び図2に示すように、ガラス10の車内側の面の周縁には、遮蔽層15が設けられていてよい。ガラス10が合わせガラスである場合、遮蔽層15は車外側に位置するガラス板と車内側に位置するガラス板の両方に設けられていてもよいし、いずれか一方にのみに設けられていてもよい。遮蔽層15は、車両用透明基板を車体に接着保持するウレタンシーラントなどを紫外線による劣化から保護する機能を有している。遮蔽層15は、例えば、黒色顔料を含有する溶融性ガラスフリットを含むセラミックカラーペーストを塗布し、焼成することによって形成される。遮蔽層15の厚みは3μm以上15μm以下であることが好ましい。また、遮蔽層15の幅は特に限定されないが、20mm以上300mm以下であることが好ましい。図示の例では、ブラケット20は、ガラス10の車内側の面に設けられた遮蔽層15上に接着されているが、ブラケット20はガラス10の車内側の面に直接接着されてもよい。車外側から見たときに、ブラケット20が遮蔽層15により隠蔽される位置に接着されることが好ましい。ブラケット20が遮蔽層15により隠蔽される位置に接着されると、ブラケット20や接着剤層30が車外側から視認されにくくなるだけではなく、紫外線により接着剤層30が劣化することを抑制できる。
【0023】
<自動車用窓ガラス構造体の製造方法>
本発明の一実施形態は、上述の自動車用窓ガラス構造体の製造方法である。図3に、本形態による製造方法のフローの一例を示す。図3に示すように、本形態による製造方法は、樹脂表面を有する部品の、自動車用窓ガラスに接着される面(接着面)に施された乾式処理を評価し(S10)、部品の接着面を、接着剤を介して自動車用窓ガラスに接着する(S20)ことを含む。
【0024】
プラズマ処理等の乾式処理は、部品の表面を改質させる作用があり、これにより接着剤に対する親和性を高めることができるので(後に詳述)、自動車用窓ガラス構造体の製造の際に、部品表面へのプライマーの塗布を省略することができる。ここで、乾式処理が適切になされているか否かの判定若しくは確認するためには、従来では、表面に所定の液体を滴下して測定された接触角や表面張力を測定し、その測定値を利用することによって行われていた。しかしながら、このような液体を滴下する手法では、液体が部品の表面に接触することになるので、部品を構成する素材、液体の種類等によっては、液体が接触した部分の表面状態が変化してしまう可能性があった。これに対し、本形態は、蛍光物質の発光を利用して非接触で部品表面の乾式処理を評価するので、評価のための作業による部品の表面品質の変化を抑えることができ、より高い接着品質を得ることができる。また、接触角等を利用する従来の手法では、実際に評価されるのは樹脂表面のごく限られた領域のみであるが、本形態によれば、接着面全体を万遍なく評価することが可能となる。そのため、例えば、乾式処理すべき領域において処理残しがないか等についても判定できる。したがって、本形態によれば、従来の手法に比べて高い信頼性で乾式処理の評価ができ、ひいては高い信頼性で自動車用窓ガラス構造体を得ることができる。
【0025】
上記乾式処理の評価(S10)は、部品の接着面に蛍光物質を付着させ(S11)、乾式処理を行い(S12)、接着面から発せられる蛍光を観察することによって当該乾式処理を評価すること(S13)を含む。
【0026】
以下、本形態による製造方法における各工程について説明する。
【0027】
(蛍光物質の付着(S11))
本形態による方法では、部品の接着面に乾式処理を施す前に、部品の接着面に蛍光物質を付着させる。蛍光物質は、部品の接着面に直接塗布してもよいし、溶媒に溶かして溶液を調製し、その溶液を接着面に塗布してもよい。蛍光物質を溶液の形態で塗布する場合には、蛍光物質を所望の領域に万遍なく付着させることができ、また使用される蛍光物質の量も少量に抑えることができるので、好ましい。
【0028】
上記の蛍光物質溶液を調製する場合に使用される溶媒は特に限定されず、使用される蛍光物質の溶解度、樹脂表面の樹脂材料の種類に応じて適宜選択することができる。溶媒は、例えば、有機溶剤、水等であってよい。このうち、塗布後に揮発しやすいことから有機溶剤を含むことが好ましい。さらに、有機溶剤は、樹脂表面の清浄化も若しくは洗浄のための清浄液として好適に利用できる脱脂作用の高い溶剤であると好ましい。有機溶剤は、常温(15~25℃)で液状のアルカン及びアルコールのうち1種又は2種以上の混合物であってよい。具体例としては、n-ヘキサン、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等が挙げられる。溶媒は1種の成分であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。ミックスエタノールと称される、エタノールを主とする低級アルコール混合物(例えば、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールの混合物)であってもよい。
【0029】
蛍光物質は、蛍光物質を付着させた部品の樹脂表面を観察した場合に、蛍光が目視により又は蛍光検出機器等の何等かの手段を介して観察されるものであれば、特に限定されない。観察の際には、蛍光物質が存在している領域と存在していない領域との比較で相違を認識できるものであればよい。また、蛍光発光の目視による確認が可能な蛍光物質、すなわち可視領域で発光可能な物質であると観察が容易なため、好ましい。本形態において好適な蛍光物質は、2,5-ビス(5-tert-ブチル-2-ベンゾキサゾリル)チオフェン(以下、BBOTともいう)、及びメチレンブルー(3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジニウムクロリド、若しくはMeBともいう)の少なくとも1つである。これらの蛍光物質は、高い量子収率を有し、毒性も少ないため、好ましい。また、n-ヘキサン、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の有機溶剤にも良好に溶解できる。
【0030】
蛍光物質溶液を用いる場合には、例えば、ワイプ材に蛍光物質の溶液を浸みこませて、そのワイプ材で部品の接着面を撫でる若しくは拭くという手法により、蛍光物質を付着させることができる。ワイプ材は、溶剤を吸収して保持可能な、繊維を含む又は多孔質の素材を備えたものであってよく、例えば、布、不織布等のシート状材料、スポンジのような塊状材料であってよい。また、蛍光物質溶液の部品表面への塗布は、部品の接着面に蛍光物質溶液を噴霧する、或いは部品の少なくとも接着面を蛍光物質溶液に接触させる若しくは蛍光物質溶液中に浸すこと等によっても行うことができる。
【0031】
蛍光物質溶液の濃度は、蛍光物質溶液の全体積に対して、好ましくは1×10-6mol/L以上1×10-2mol/L以下、より好ましくは1×10-5mol/L以上1×10-3mol/L以下、さらに好ましくは1×10-5mol/L以上1×10-4mol/L以下であってよい。特に、蛍光物質として2,5-ビス(5-tert-ブチル-2-ベンゾキサゾリル)チオフェンを用いた場合には、溶液の濃度を1×10-5mol/L以上1×10-4mol/L以下とすることが好ましい。上記範囲の濃度の溶液を使用することで、観察のための十分な蛍光発光が得られるとともに、部品の接着面と接着剤との接着性への影響も抑えることができる。例えば、上記範囲の濃度の溶液を使用することにより、接着剤を塗布して試験をした場合に凝集破壊率(接着剤付着面積率)が、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上であるような接着品質を得ることができる。
【0032】
蛍光物質溶液を用いて蛍光物質を樹脂表面に付着させる場合、蛍光物質を溶解させる溶媒として、部品表面を清浄化するための清浄液を使用することができる。上述したような部品表面の清浄化のための清浄液として好適に使用される液体を、蛍光物質溶液の溶媒とすることで、蛍光物質の付着工程において、蛍光物質溶液による部品の接着面の清浄化もともに行うことができる。この場合、蛍光物質の付着工程において、部品表面に存在し得る塵又は汚れが溶液に若しくは溶媒に分散又は溶解し、部品表面から取り除かれ得る。或いは、塵又は汚れが溶液によって分解され、その分解により生じた物質が溶液若しくは溶媒に分散又は溶解し、部品表面から取り除かれ得る。
【0033】
別の言い方をすると、本形態では、部品表面の清浄化工程で用いられる清浄液に蛍光物質を添加することによって、部品表面の清浄化工程において、蛍光物質の付着を同時に行うことができる。そのため、乾式処理前に行われる清浄化若しくは洗浄の工程を従来のものから大きく変更することなく、清浄化の際に蛍光物質を接着面に付与できる。
【0034】
なお、蛍光物質溶液を浸みこませたワイプ材を用いて部品表面を拭く場合には、部品表面に圧力がかからないように行ってもよいし、部品表面に0.2kPa以上60kPa以下の圧力がかかるように行ってもよい。圧力をかけて拭く作業を行うことで、部品表面の汚れを確実に取り去ることができる。溶媒によって汚れを分解したり、汚れを溶媒中に溶解させたりしながら、樹脂表面から塵や汚れを機械的な力で取り去ることができる。
【0035】
また、蛍光物質の付着は、後続の乾式処理(S12)により乾式処理すべき領域(乾式処理することが予め設定されている領域)より広い範囲で行っておくことが好ましい。例えば、蛍光物質が付着される領域は、乾式処理すべき領域の周縁からはみ出す範囲で形成されることが好ましい。
【0036】
(乾式処理(S12))
乾式処理は、上述のように蛍光物質を部品の接着面に付着させる工程(S11)の後に、接着面に対して行う。乾式処理は、接着面のうち少なくとも乾式処理すべき領域、より具体的には、後続の接着剤を塗布する工程(S20)で接着剤を塗布すべき領域を含む領域に施される。
【0037】
乾式処理の具体例としては、プラズマ処理、コロナ処理、フレーム処理、イトロ処理、紫外線照射処理、エキシマ処理等が挙げられ、このうちプラズマ処理及びコロナ処理の少なくとも1つが好ましい。乾式処理がプラズマ処理である場合、発生手段は特に限定されず、高周波プラズマ発生装置、又は低周波プラズマ発生装置であってもよい。さらに、レーザーやマイクロ波等の照射によって発生したプラズマを利用してもよい。
【0038】
乾式処理を行うことで、樹脂表面に水酸基、カルボニル基、カルボキシル基といった親水性官能基を導入又は形成することができ、単位面積あたりの親水性官能基の数を増加させることができる。これにより、部品の樹脂表面を接着面として接着剤を介して自動車用窓ガラスと接着させる場合、表面の親水性官能基と接着剤の成分とが化学結合又は分子間力により相互作用できる箇所を増やすことができ、部品と接着剤との間の結合(界面結合)を強固にすることができる。また、乾式処理を施すことによって、部品の表面に存在している接着の妨げとなり得る物質(上述の清浄化によっても除去しきれなかった汚れ物質)を分解し、除去することもできる。そのため、乾式処理(S12)は、乾式の清浄化若しくは洗浄の工程であるとも言える。また、その場合、上記の蛍光物質の付着工程(S11)とともに清浄化を行っている場合には、本形態では2段階の清浄化を行っているとも言える。
【0039】
乾式処理を行うことで部品と接着剤との接着性を高めることができるので、プライマーを部品表面に塗布しなくとも自動車用窓ガラス構造体の製造を行うことができるが、乾式処理を行った後にプライマーを塗布し、プライマーに接着剤を塗布して、部品と自動車用窓ガラスとを接着させてもよい。その場合には、乾式処理された表面とプライマーとの接着性を高めることができるので、部品と自動車用窓ガラスとの接着性を高めることができる。
【0040】
乾式処理の条件は、部品の表面に用いられている樹脂及び接着剤の種類、部品の使用目的及び自動車における使用場所、所望の接着強度等に応じて、適宜調整することができる。乾式処理の具体的な条件は、乾式処理のための装置の様式や部品の構成等によるため一概には言えないが、乾式処理がプラズマ処理である場合には、例えばプラズマ発生手段の電源の印加電圧の周波数は50GHz以上2.45GHz以下、好ましくは50Hz以上25kHz以下であり、照射距離(電極と成形体表面との距離)は50mm以下、好ましくは10mm以上30mm以下であってよい。対向させるノズルとワーク(成形体)との距離の下限は特に限定されないが例えば0.5mm以上であってよい。出力電力密度は15W/cm以上、好ましくは20W/cm以上であってよい。照射時間はノズルの移動速度によって定められる。ノズルの移動速度は、0.01m/分以上50m/分以下、好ましくは2.5m/分以上10m/分以下であってよい。
【0041】
プラズマ処理を行う場合、プラズマ照射の前に予め成形体をヒータ等で加熱する等して、樹脂表面を有する部品の表面温度を高めておくと、後続のステップを経て得られる構造体における部品と接着剤との間の接着性をさらに向上させることができる。プラズマ照射前の部品の表面温度は、例えば常温を超える温度にしておくことができ、例えば60℃以上にしておいてもよい。
【0042】
(乾式処理の評価(S13))
上述のように蛍光物質が付着した面に乾式処理を施した(S12)後、部品の接着面から発せられる蛍光を観察することによって、乾式処理を評価する(S13)。この観察は、接着面全体を観察してもよいが、接着面のうち、少なくとも乾式処理すべき領域(実際に接着剤の塗布が予定されている領域を含む領域)に対して行うことができる。
【0043】
蛍光物質が付着していた領域に適切な乾式処理がなされると、蛍光物質が分解して蛍光発光能が失われるものと考えられる。よって、当該評価工程(S13)では、接着面の蛍光強度を測定することによって、接着面に適切に乾式処理が施されたか否かを判定することができる。例えば、乾式処理後の観察において、検出された蛍光強度がゼロという結果、或いは蛍光強度が所定の値以下という結果であった場合に、適切な乾式処理が施されたと判定できる。
【0044】
ここで、適切な乾式処理とは、部品が乾式処理の工程に供されていること、或いは乾式処理すべき領域(乾式処理すべきと予め設定しておいた領域)が乾式処理の工程に供されていることであってよい。さらには、適切な乾式処理を、乾式処理すべき領域において実際に行われた乾式処理の程度が適切であること、及び/又は乾式処理の範囲が適切であることとしてもよい。よって、本形態による方法の利用者は、所望される乾式処理の程度に応じて、適切な乾式処理であると判定されるための蛍光強度の強さの基準及び/又は蛍光強度が検出される範囲の基準を適宜設定することができる。よって、構成によっては、乾式処理すべき領域内に蛍光物質が残存していても適切に乾式処理がされたと判定される場合もある。ここで、適切な乾式処理は、接着剤を塗布して試験をした場合に凝集破壊率(接着剤付着面積率)が、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上であるような接着品質が得られる処理とすることができる。
【0045】
蛍光強度の測定に際しては、接着面において、比較のための対照領域があると好ましい。例えば、乾式処理すべき領域と同じ条件で蛍光物質を付着させるが乾式処理を施さない領域を、乾式処理すべき領域に隣接して設けておく。このような乾式処理を施さない対照領域は、乾式処理の際には、例えばマスクで該当領域を覆っておくこと等によって形成できる。乾式処理装置の誤動作等で部品自体が乾式処理工程に供されなかったり、部品の接着面以外の面が乾式処理されてしまったりした場合には、接着面のどの領域にも蛍光物質が付着されないことになるので、対照領域の蛍光を観察することで、上記のような場合が生じても判定を正しく行うことができる。対照領域を設けた場合、乾式処理すべき領域における蛍光強度の、対照領域における蛍光強度に対する比を求めて、その比に基づき乾式処理の評価、すなわち適切な乾式処理が行われたか否かの判定を行ってもよい。なお、対照領域は、蛍光物質の付着工程(S11)で、蛍光物質を付着させる領域を乾式処理すべき領域の周縁からはみ出すように形成した場合、乾式処理すべき領域を取り囲む領域にすることができ、対照領域を認識しやすいため、好ましい。
【0046】
なお、蛍光物質の付着工程(S11)において、清浄化のための清浄液を溶媒として使用した蛍光物質溶液を使用し、樹脂表面の清浄化と蛍光物質の付着との両方を行った場合には、乾式処理が適切に施されたか否かの判定とともに、清浄化が行われたかどうかの判定も行うことができる。例えば、上記の対照領域のような、乾式処理すべき領域以外の領域にも蛍光物質の溶液を塗布しておけば、その領域の蛍光を観察することで清浄化が行われているか否かを判定できる。
【0047】
乾式処理の評価工程(S13)における蛍光の観察は、例えば目視によって行ってよい。目視による直接的な観察は、大がかりな装置が必要でないということから、簡便さ及び低コストという観点から好ましく、実用的である。目視での観察の際には、光照射装置を近接させて光を照射して観察してもよい。例えば、UV-LED光発生装置を利用して接着面に紫外線を照射して、蛍光を目視観察することができる。蛍光物質としてBBOTを使用した場合には、紫外線を照射することで目視による観察が容易にできる。
【0048】
また、蛍光の観察は、蛍光を検出可能な機器、例えば蛍光顕微鏡若しくは蛍光フィルタを利用して行ってもよい。このように機器を通して観察する場合には、蛍光強度が小さくても蛍光の検出が可能であるので、上述の蛍光物質の塗布工程(S11)で用いられる蛍光物質を少量にできる可能性があるという観点から好ましい。蛍光顕微鏡等の機器を使用する場合、接眼レンズを通して人の目で蛍光強度を確認してもよいし、接着面をカメラ等で撮像して、画像のデータをパーソナルコンピュータ等に取り込んで表示装置に表示して蛍光強度を確認してもよい。さらに、取り込まれた画像データを用いて画像処理することもでき、これにより蛍光強度がより正確な測定が可能となる。また、機器を使用する場合、適切な乾式処理が行われたか否かの判定を自動化してもよい。
【0049】
このように本評価工程(S13)では、蛍光発光状態を目視又は機器を介して観察することによって、前工程にて行われた乾式処理(S12)の評価をすることができる。よって、本発明の一実施形態は、樹脂表面を有する部品の接着面に蛍光物質を付着させ(S11)、乾式処理を行い(S12)、乾式処理された接着面の蛍光発光状態を観察して乾式処理を評価する(S13)ことを含む、乾式処理の評価方法であってよい。本形態による評価は、非接触式であり、乾式処理後の接着面に物体を接触させることがないので、乾式処理の状態が変更されることなく、部品を後続の接着工程(S20)に供することができる。また、乾式処理すべき領域の全体を容易に観察することができるので、処理残し等も検出することができるので、局所的な評価しか行うことのできなかった従来の手法に比べて信頼性の高い評価が可能となる。
【0050】
(自動車用窓ガラスとの接着(S20))
上述の工程S11~S13を含む評価(S10)を経て、乾式処理すべき領域が、実際に適切に乾式処理された領域(乾式処理済み領域)であると判定されたら、接着面の乾式処理済み領域に、接着剤を塗布して自動車用窓ガラスに接着することができる(S20)。接着の際には、自動車用窓ガラスの接着面にプライマーを塗布することもできる。
【0051】
なお、評価(S10)によって適切な乾式処理が行われていないと判定された場合、例えば乾式処理の程度が弱かったり、乾式処理すべき領域において所望されない処理残し等があったりした場合には、再び乾式処理(S12)を行ってもよい。そして、新たに行われた乾式処理を評価して(S13)、適切な乾式処理であったことが確認されたら、接着工程(S20)に移ることができる。
【0052】
接着工程(S20)において用いられる接着剤は、一液又は二液の湿気硬化型の接着剤であると好ましく、ウレタン系接着剤、変性シリコーン系接着剤等であるとより好ましい。湿気硬化型の接着剤以外に、光硬化型の接着剤や、熱硬化型の接着剤を用いることもできる。
【0053】
なお、自動車用窓ガラスと樹脂表面を有する部品とを接着剤を介して貼り合わせた後、所定の環境で保管する、すなわち養生してもよい。この養生によって、自動車用窓ガラスと部品との間の接着性を高めることもできる。例えば、養生は、接着剤の種類に応じて温度及び湿度の下で、所定時間にわたり保管することで行うことができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態についてさらに詳説する。本実施例では、蛍光物質の溶液を用いて樹脂成形体の表面を清浄化した後に乾式処理を行い、乾式処理後の表面の蛍光を観察することによって乾式処理を評価し、樹脂成形体の表面に接着剤を塗布して、樹脂成形体と接着剤との間の接着性を評価した。例1~例6は実施例であり、例7は比較例である。
【0055】
(例1)
樹脂成形体として、ガラス繊維30%配合のガラス繊維強化ポリブチレンテレフタレート(PBT GF-30)(ポリプラスチックス株式会社製、733LD)からなる板状の成形体(25mm×150mm×5mm)を使用した。一方、2,5-ビス(5-tert-ブチル-2-ベンゾキサゾリル)チオフェン(BBOT)をn-ヘキサン(和光純薬工業株式会社製、特級)に溶かして濃度1×10-4mol/L(0.0065重量%)の溶液を調製した。当該溶液を浸みこませた不織布ワイパ(旭化成株式会社製、ベンコット(登録商標))で、上記樹脂成形体の一面のほぼ全体を拭くことによって清浄化した。目視で溶液が蒸発したことを確認した後、清浄化された領域の片側半分を、常圧プラズマ処理装置(ウェッジ株式会社製、PS-601SW)を用いてプラズマ処理(乾式処理)した。プラズマ処理におけるヘッドと部品表面との間隔は10mm、照射時間は4秒とした。後述の方法でプラズマ処理の評価をし、その後、プラズマ処理が施された領域に接着剤を塗布し、後述の方法で接着性を評価した。
【0056】
(例2)
溶液の濃度を1×10-5mol/L(0.00065重量%)としたこと以外は、例1と同様にして樹脂成形体を清浄化し、プラズマ処理し、プラズマ処理の評価及び接着性の評価を行った。
【0057】
(例3)
BBOTをミックスエタノール(山一化学工業株式会社製、ミックスエタノールNP)に溶かして得た濃度1×10-4mol/L(0.0065重量%)の溶液を用いたこと以外は、例1と同様にして樹脂成形体を清浄化し、プラズマ処理し、プラズマ処理の評価及び接着性の評価を行った。
【0058】
(例4)
溶液の濃度を1×10-5mol/L(0.00065重量%)としたこと以外は、例3と同様にして樹脂成形体を清浄化し、プラズマ処理し、プラズマ処理の評価及び接着性の評価を行った。
【0059】
(例5)
溶液の濃度を1×10-3mol/L(0.065重量%)としたこと以外は、例1と同様にして樹脂成形体を清浄化し、プラズマ処理し、プラズマ処理の評価及び接着性の評価を行った。
【0060】
(例6)
メチレンブルー(MeB)をミックスエタノール(山一化学工業株式会社製、ミックスエタノールNP)に溶かして得た濃度1×10-5mol/L(0.00065重量%)の溶液を用いたこと以外は、例1と同様にして樹脂成形体を清浄化した。その後、プラズマ処理し、評価を行った。
【0061】
(例7)
本例では、溶液に代えてn-ヘキサン(溶質濃度0重量%)を用い、プラズマ処理をしなかった。それ以外は、例1と同様にして清浄化した。その後、プラズマ処理し、接着性の評価を行った。
【0062】
<プラズマ処理(乾式処理)の評価>
蛍光物質としてBBOTを使用した例1~例5及び蛍光物質を使用していない例7では、樹脂成形体の乾式処理が施された面に、LEDライト(オプトコード社製、LED-UV365P)を用いて波長365nmのUV-LED光を照射し、目視にて、プラズマ処理を施した領域における蛍光強度を確認した。これらの例では、プラズマ処理を施した領域において目視により蛍光強度ゼロと判断された場合を、蛍光の検出なしとし、プラズマ処理が実際に適切に行われたと判定した。なお、判定の際には、プラズマ処理が施された領域の発光状態を、当該領域に隣接するもう片側のプラズマ処理を施さなかった領域の発光状態と比較した。
【0063】
また、蛍光物質としてメチレンブルーを使用した例6では、樹脂成形体の乾式処理が施された面を蛍光顕微鏡により観察し、蛍光顕微鏡を通して取得された画像を解析した。そして、その画像解析に基づき、プラズマ処理を施した領域において蛍光強度を測定した。本例では、プラズマ処理を施した領域において蛍光強度がゼロであった場合に、蛍光の検出なしとし、プラズマ処理が実際に適切に行われたと判定した。なお、判定の際には、上記同様に、プラズマ処理が施された領域の発光状態を、当該領域に隣接するもう片側のプラズマ処理を施さなかった領域の発光状態と比較した。
【0064】
<接着性の評価>
プラズマ処理領域に、ウレタン系接着剤(横浜ゴム株式会社製、WS292)を塗布し、JASO M338-89規格の9.11可使時間試験に準拠した方法により、ナイフカット操作後の接着剤付着面積率(接着剤が残存していた面積の比率、若しくは凝集破壊率)に基づき評価した。なお、接着剤付着面積率が0%の場合、接着剤が全く凝集破壊しておらず、界面剥離が起こっている状態であり、100%の場合には、接着剤が塗布された全面にわたって凝集破壊している状態である。接着剤付着面積率が高い程、接着剤に凝集破壊が生じた割合が大きく、樹脂成形体と接着剤との接着性が良好と評価できる。
【0065】
表1に、各例の条件、及び評価結果を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、例1~6のいずれにおいても、乾式処理前に蛍光物質の溶液を用いて清浄化することによって、乾式処理の評価(プラズマ処理が施されたか否かの判定)が可能であり、且つ試験片とガラス板との間での接着性も担保されていることが分かった。また、清浄化に用いられる溶液の蛍光物質の濃度が1×10-4mol/L以下の場合(例1~4及び例6)の場合には、接着剤付着面積率も40%を超えており、特に良好な接着性が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0068】
1 自動車用窓ガラス構造体
10 ガラス
15 遮蔽層
20 樹脂製部品(ブラケット)
30 接着剤層
図1
図2
図3