(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2026-05-22
(45)【発行日】2026-06-01
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドの滅菌方法、及び液体吐出ヘッドの組立体
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20260525BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20260525BHJP
A61L 2/07 20060101ALI20260525BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20260525BHJP
【FI】
B41J2/01
C12M1/00 A
A61L2/07
G01N1/00 101K
(21)【出願番号】P 2022037248
(22)【出願日】2022-03-10
【審査請求日】2025-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2021044711
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 幸子
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎宣
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-003950(JP,A)
【文献】特開2021-137792(JP,A)
【文献】特開2016-087822(JP,A)
【文献】特開2009-058288(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103333853(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
G01N 1/00-1/44
G01N 35/00-37/00
C12M 1/00-3/10
A61L 2/07
PubMed
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口が形成された吐出口面を有する吐出素子基板と前記吐出口に供給する液体を収容する液体収容部とを備える液体吐出ヘッドの滅菌方法であって、
前記液体吐出ヘッドのうち少なくとも前記吐出口面を保護部材によって非接触な状態で覆う第1工程と、
少なくとも一部に蒸気透過性を有するシート部材によって前記液体吐出ヘッドへの菌の侵入を遮断するように前記保護部材及び前記液体吐出ヘッドを収容する、または、前記保護部材の開口部を覆うことにより液体吐出ヘッドの組立体を構成する第2工程と、
前記組立体を蒸気滅菌する第3工程と、
を備えることを特徴とする液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項2】
前記保護部材は前記シート部材に比べて剛性が高いことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項3】
前記シート部材は、前記液体吐出ヘッドおよび前記保護部材を収容可能な袋状をなすことを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項4】
前記保護部材は、前記液体吐出ヘッドを収容可能とすると共に、前記液体吐出ヘッドを出し入れ可能とする開口部が形成された中空箱状を有し、前記保護部材の内部に収容された液体吐出ヘッドの前記吐出口面を所定の間隔を介して覆うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項5】
前記保護部材は、当該保護部材に収容された前記液体吐出ヘッドの前記吐出口面を覆う底面部と、前記底面部を前記吐出口面から離間させた状態で前記液体吐出ヘッドを支持する支持部と、を有することを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項6】
前記シート部材は、前記液体吐出ヘッドが前記保護部材の前記開口部から脱出させない周長を有していることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項7】
前記シート部材は、前記開口部を覆うように前記保護部材に固定されていることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項8】
前記保護部材は、前記液体吐出ヘッドに係合可能な係合部を有し、前記係合部によって前記液体吐出ヘッドに取り外し可能に固定されると共に、前記液体吐出ヘッドに固定された状態で前記吐出口面を覆う被覆部を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項9】
前記吐出口面が上向きになるように前記組立体を配置した状態で、前記組立体の蒸気滅菌処理を行うことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項10】
前記吐出口面が下向きになるように前記組立体を配置した状態で、前記組立体の蒸気滅菌処理を行うことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項11】
前記組立体は、前記液体収容部に形成された開口部を取り外し可能に閉塞する蓋を含むことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項12】
前記蒸気滅菌は、水蒸気滅菌であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項13】
前記蒸気滅菌は、高圧水蒸気滅菌であることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項14】
前記蒸気滅菌された組立体を冷却させる第4工程を、さらに備えることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項15】
前記シート部材が前記吐出口面と非接触の状態にあることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの滅菌方法。
【請求項16】
液体を吐出する吐出口が形成された吐出口面を有する吐出素子基板と前記吐出口に供給する液体を収容する液体収容部とを備える液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドのうち少なくとも前記吐出口面を非接触な状態で覆う保護部材と、
少なくとも一部に蒸気透過性を有し、前記液体吐出ヘッドへの菌の侵入を遮断するように前記保護部材及び前記液体吐出ヘッドを収容する、または、前記保護部材の開口部を覆うシート部材と、
を備えることを特徴とする液体吐出ヘッドの組立体。
【請求項17】
前記保護部材は前記シート部材に比べて剛性が高いことを特徴とする
請求項16に記載の液体吐出ヘッドの組立体。
【請求項18】
前記シート部材は、前記液体吐出ヘッドおよび前記保護部材を収容可能な袋状をなすことを特徴とする
請求項16または17に記載の液体吐出ヘッドの組立体。
【請求項19】
前記保護部材は、前記液体吐出ヘッドを収容可能とすると共に、前記液体吐出ヘッドを出し入れ可能とする開口部が形成された中空箱状を有し、前記保護部材の内部に収容された液体吐出ヘッドの前記吐出口面を所定の間隔を介して覆うことを特徴とする
請求項16ないし18のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの組立体。
【請求項20】
前記保護部材は、前記液体吐出ヘッドに係合可能な係合部を有し、前記係合部によって前記液体吐出ヘッドに取り外し可能に固定されると共に、前記液体吐出ヘッドに固定された状態で前記吐出口面を覆う被覆部を有することを特徴とする
請求項16ないし18のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの組立体。
【請求項21】
前記液体吐出ヘッドが、細胞を吐出することを特徴とする
請求項16ないし20のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの組立体。
【請求項22】
前記液体吐出ヘッドが、細胞と化合物を吐出し、前記細胞へ前記化合物を導入することを特徴とする
請求項16ないし21のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドを蒸気滅菌する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な吐出口を形成した吐出基板を備える液体吐出ヘッドを用いて、細胞を含む細胞懸濁液などの液体を吐出することにより、液体に所定の加工を施す技術が提案されている。このような技術に用いる液体吐出ヘッドでは、吐出される液体に不要な細菌が混入するのを避けるため、液体を液体吐出ヘッドに充填する前に、液体吐出ヘッドを滅菌しておく必要がある。現在、生体を扱う器具等の滅菌には、高圧水蒸気、エチレンオキサイドガス、およびガンマー線などを利用した滅菌方法、紫外線を利用した殺菌方法が用いられている。特開2004-3950号公報には、生体試料を吐出する液体吐出ヘッドを、紫外線または水蒸気により殺菌する技術が開示されている。
【0003】
一般に、生体を扱う器具を高圧水蒸気にて滅菌する場合、滅菌後も滅菌状態を維持するために、菌は通さず、かつ少なくとも一部で蒸気を通す部分をもつ袋に器具を封入し、その袋を滅菌装置に載置して高圧水蒸気滅菌することが行われている。例えば、器具を封入した袋を121℃の高圧水蒸気内に15分間さらして滅菌を行い、その後、常温常圧に戻すという処理が行われている。滅菌処理の後、滅菌装置内を常温常圧に戻すと、滅菌時に発生させた水蒸気は気体から液体へと変化し、高圧水蒸気滅菌装置の内部及び袋の内部には凝縮された液体が発生する。このため、通常は、高圧水蒸気滅菌の工程の後に、器具を入れた袋を乾燥させる乾燥処理を行い、袋の中に溜まった液体を蒸発させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように高圧水蒸気滅菌処理を行った後に乾燥処理を行うことによって、袋の内部の液体を蒸発させることが可能である。しかし、乾燥工程を実施した後の液体吐出ヘッドの吐出口が形成されている面(吐出口面)を、本開示者等が金属顕微鏡で観察したところ、吐出口面には、付着した液体が乾燥して形成された液体乾燥跡(水紋)が多く存在することが確認された。このような液体乾燥跡が吐出口面に形成された場合、吐出口面の疎液性が低下して、吐出した液体が吐出口面に付着し易くなり、付着した液体が吐出口に吐出不良を発生させることがある。
【0006】
本開示は、液体吐出ヘッドの吐出不良の発生を抑制しつつ、液体吐出ヘッドを蒸気により適正に滅菌することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、液体を吐出する吐出口が形成された吐出口面を有する吐出素子基板と前記吐出口に供給する液体を収容する液体収容部とを備える液体吐出ヘッドの滅菌方法であって、前記液体吐出ヘッドのうち少なくとも前記吐出口面を保護部材によって非接触な状態で覆う第1工程と、少なくとも一部に蒸気透過性を有するシート部材によって前記液体吐出ヘッドへの菌の侵入を遮断するように前記保護部材及び前記液体吐出ヘッドを収容する、または、前記保護部材の開口部を覆うことにより液体吐出ヘッドの組立体を構成する第2工程と、前記組立体を蒸気滅菌する第3工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、液体吐出ヘッドの吐出不良の発生を抑制しつつ、液体吐出ヘッドを蒸気により適正に滅菌することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態における液体吐出ヘッドを示す斜視図。
【
図3】比較例における液体吐出ヘッドの組立体の構成を模式的に示す縦断側面図。
【
図4】実施形態における組立体の第1例を模式的に示す縦断側面図。
【
図5】
図4に示す液体吐出ヘッドの組立体に用いる保護部材及びシート部材の構成を示す斜視図。
【
図6】実施形態における組立体の第2例及び第3例を示す縦断側面図。
【
図7】実施形態における組立体の第4例を示す縦断側面図及び保護部材の斜視図。
【
図8】吐出口面が上向きになるように組立体を釜に載置した状態を示す縦断側面図。
【
図9】高圧水蒸気滅菌処理を行う場合の処理手順を示すフローチャート。
【
図10】吐出素子基板に形成される液体乾燥跡を示す図。
【
図11】滅菌処理の有無による液体吐出ヘッドの細胞への影響を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態では、細胞を含む細胞懸濁液などの液体の加工に用いられる液体吐出ヘッドの滅菌方法、及びその滅菌方法を実施する際に用いる液体吐出ヘッドの組立体について説明する。なお、以下の説明において参照する図面において、Z方向は重力方向を示しており、Z1方向は重力方向上方(以下、単に上方ともいう)を示し、Z2方向は重力方向下方(以下、単に下方ともいう)を示している。
【0011】
[第1実施形態]
(液体吐出ヘッド)
図1は本開示に係る液体吐出ヘッドの実施形態を示す斜視図である。液体吐出ヘッド1は、細胞等を含む液体を収容可能な液体収容部3aを有する筐体3と、筐体3の底面部に設けられた吐出素子基板2、及び吐出素子基板2に電力や制御信号を送る電気接続部4を有している。また、本実施形態では、液体収容部3aの開口部を閉塞する蓋5が取り外し可能に設けられている。液体収容部3aは、数十μlの微量の液体から数十mlの液体までを保持することが可能になっている。
【0012】
図2は、吐出素子基板2の周辺構造を示す図であり、
図2(a)は、
図1のA―A線断面図、
図2(b)は、
図2(a)の吐出素子基板2における吐出口付近の構成を示す拡大図である。吐出素子基板2は、シリコン基板21と、このシリコン基板21の下面に固定された吐出口形成部材22とを有する。吐出口形成部材22には、複数の吐出口6が形成されている。この吐出口6の開口部が形成されている外面2aを、以下の説明において吐出口面2aと称す。吐出口形成部材22とシリコン基板21との間には、各吐出口6に連通する流路7が形成されている。流路7は、シリコン基板21に形成された液体供給口21aに連通している。さらに、液体供給口21aは、筐体3の底部に形成された液体流出口3bを介して筐体3内の液体収容部3aに連通している。これにより、液体収容部3aに収容された液体は、液体流出口3b、液体供給口21aを経て流路7内に供給される。流路7に供給された液体は、吐出口形成部材22に形成された複数の吐出口6に充填される。
【0013】
また、シリコン基板21には、吐出口6から液体を吐出させるための吐出エネルギを発生させる吐出エネルギ発生素子(以下、吐出素子と称す)8が設けられている。この吐出素子8は、各吐出口6と対向する位置に配置されている。本実施形態に設けられている吐出素子8は、吐出口6から液体を吐出させるための熱エネルギを発する電気熱変換素子(ヒータ)によって構成されている。吐出素子を図外の駆動回路及び制御回路によって駆動し、熱エネルギを発生させることにより、流路7内に存在する液体に膜沸騰を生じさせ、その際に発生する圧力によって液体を吐出口6から吐出させることができる。吐出素子基板2の吐出口面2aには、吐出した液体が付着しにくいように表面加工されている。例えば、疎液性を持たせるような加工が施されている。これは、吐出口面2aに液体が付着することによる吐出口6の吐出性能の低下を抑制するためである。すなわち、吐出口面2aに対して液体が付着した場合、付着した液体によって吐出口6からの液体の吐出が妨げられ、液体の吐出不足や不吐出等の吐出不良が発生する。このため、吐出口面2aには疎液性が付与されている。
【0014】
液体吐出ヘッド1は、細胞液等の液体の加工に適用することが可能である。例えば、液体吐出ヘッドから細胞液を吐出させることにより、細胞液に含まれる細胞表面の膜に孔を開け、その孔から所定の化合物を導入させる細胞加工等の処理に適用することが可能である。但し、このような処理に液体吐出ヘッドを適用する場合、液体吐出ヘッドを滅菌することが不可欠であり、以下のような滅菌処理を施す必要がある。なお、本例では、吐出素子として電気熱変換素子を用いているが、ピエゾ等の電気機械変換素子を用いて吐出口からの液体吐出を行うように構成することも可能である。この場合にも、電気熱変換素子を用いた場合と同様に、液体に含まれる細胞を加工することが可能である。
【0015】
(滅菌処理)
滅菌とは菌やウイルス等の微生物の残存が100万分の1になることと定義されている。現在、滅菌方法としては、高圧水蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、ガンマー線滅菌等がある。高圧水蒸気滅菌とは、発生した水蒸気によりタンパク質を凝固させ、微生物などを死滅させることを指す。高圧水蒸気滅菌では、例えば、121℃の温度(大気圧+0.1MPaの圧力)で15分間、134℃の温度(大気圧+0.2MPaの圧力)で10分間の加熱が滅菌の条件として挙げられている。高圧水蒸気滅菌処理を行う際の圧力は、大気圧+0.1MPa以上大気圧+0.2MPa以下であることが好ましい。
【0016】
高圧水蒸気滅菌を確実に行うためには、滅菌を行う対象物である液体吐出ヘッド1の内部が湿度100%の水蒸気(飽和水蒸気)で満たされる必要がある。液体吐出ヘッド1の中でも、吐出口6に連通する流路7は、細長い形状を有しているため、湿度100%の水蒸気で満たし難い部分の1つとなっている。このため、流路内に水蒸気を満たすためには、その末端に位置する吐出口6が開口していることが好ましい。
【0017】
(液体吐出ヘッドの組立体)
ここで、液体吐出ヘッド1の滅菌処理において使用する液体吐出ヘッドの組立体の構成について説明する。なお、以下の説明では本実施形態の液体吐出ヘッドの組立体の特徴を明確にするため、本実施形態の比較例として一般的な液体吐出ヘッドの滅菌方法に使用される液体吐出ヘッドの組立体を説明し、その後、本実施形態における液体吐出ヘッドの組立体を説明する。
【0018】
<比較例における液体吐出ヘッドの組立体>
図3(a)及び(b)は、比較例における液体吐出ヘッドの組立体(以下、単に組立体ともいう)11の構成を示す図である。比較例における組立体11は、液体吐出ヘッド1と、液体吐出ヘッド1を収容するシート部材9とからなる。
【0019】
<<液体吐出ヘッド>>
図3(a)及び(b)に示す液体吐出ヘッド1は、
図1に示した液体吐出ヘッド1と同様である。液体吐出ヘッド1の底部には、複数の吐出口が配列された吐出素子基板2が設けられ、吐出素子基板2の下面である吐出口面2aには、吐出口から吐出される液体に対する疎液性加工が施されている。
【0020】
<<シート部材>>
シート部材9は、液体吐出ヘッド1を滅菌処理した後の液体吐出ヘッド1への菌の侵入を遮断して滅菌状態を維持するものであり、液体吐出ヘッド1を収容可能な袋状に形成されている。シート部材9は、菌の透過を遮断する素材によって構成されている。さらに、シート部材9は、少なくとも一部が蒸気透過性を有する素材によって構成されている。このため、滅菌装置(オートクレーブとも称する)の釜(チャンバーとも称する)内に液体吐出ヘッドの組立体11を載置して水蒸気滅菌を行うことにより、液体吐出ヘッド1を滅菌することができる。滅菌後は、組立体11の状態のまま滅菌装置から取り出すことで、液体吐出ヘッド1の滅菌状態を維持することができる。なお、組立体11を構成するシート部材9に用いる、菌及び蒸気を通過させない素材としては、ポリエチレンフィルム等が挙げられる。また、菌は通過させないが蒸気(気体)を通過させることが可能な素材としては、滅菌紙やポリエチレン不織布等が挙げられる。液体吐出ヘッド1の吐出口6が紙紛で閉塞されるのを避ける上で、菌の透過を遮断し、かつ、蒸気透過性を有する素材は、ポリエチレン不織布であることが好ましい。蒸気透過性を有する素材の透気度は、7秒/100ml以上120秒/100ml以下であることが好ましい。なお、透気度はJIS P 8117に記載のガーレー法によって測定することができる。
【0021】
以上のように構成された比較例の液体吐出ヘッドの組立体11は、滅菌装置内に載置され、高圧水蒸気滅菌処理が行われる。ここで、
図3(a)に示すように、袋状をなすシート部材9の中に収容された液体吐出ヘッド1の吐出素子基板2における吐出口面2aを重力方向下方に位置するように配置して高圧水蒸気滅菌をした場合を説明する。このような配置で高圧水蒸気滅菌処理を行った場合、滅菌処理後に滅菌装置内を常温常圧に戻すと、組立体11の内部の下側の領域に液体が溜まる。この液体には、組立体11内に存在していた水蒸気が凝縮した液体や、高圧から常圧へと減圧される際に組立体11の外側から組立体11の内側へと吸引された液体等が含まれる。組立体11内に溜まった液体は、吐出素子基板2とシート部材9との接触により発生した毛管力によって液体の集積と移動が行われ、吐出素子基板2に付着する。
【0022】
また、
図3(b)に示すように、液体吐出ヘッド1の吐出口面2aを上向きにして組立体11を滅菌装置に載置し、高圧水蒸気滅菌を行うことも可能である。この場合にも、滅菌処理後には組立体11の下側の領域に液体が溜まる。但し、液体吐出ヘッド1の吐出素子基板2の吐出口面2aは上向になっているため、組立体11の下側の領域に溜まった液体が吐出口面2aに接触する可能性は低減される。しかし、この場合にも、吐出口面2aに液体が付着することがある。すなわち、シート部材9は柔らかく吐出口面2aと接触し易いため、シート部材9と吐出口面2aとが接触した領域には毛管力が発生する。従って、組立体11内に発生した液体が毛管力によって集積と移動を行い、吐出口面2aに付着することがある。
【0023】
以上のように、比較例による組立体11を用いて高圧水蒸気滅菌処理を行った場合には、組立体11の中に発生した液体が吐出素子基板2の吐出口面2aに付着する可能性がある。この液体は純粋な水ではなく、高圧水蒸気滅菌処理の間にシート部材9や液体吐出ヘッド1を構成する様々な部材から溶出した成分等が含まれる。仮に、シート部材9や液体吐出ヘッド1の部材として溶出が生じにくい素材を選択したとしても、それらの溶出を完全に無くすことは困難である。このため、高圧水蒸気滅菌後に吐出口面2aに付着していた液体が乾燥した場合、液体に含まれている溶出成分等が付着する。これが液体乾燥跡(水紋)となり、吐出口面2aへの液体の付着し易くなり、吐出不良を発生させる要因となると本発明者らは推測している。
【0024】
<本実施形態における液体吐出ヘッドの組立体>
次に、本実施形態における液体吐出ヘッドの組立体について、
図4ないし
図7を参照しつつ説明する。
図4(a)は、本実施形態における組立体11A(第1例)を模式的に示す縦断側面図である。本例における組立体11Aは、液体吐出ヘッド1と、液体吐出ヘッド1を収容するシート部材9Aと、液体吐出ヘッド1を下方から支持し、吐出素子基板2の吐出口面2aを覆う保護部材10Aとを含み構成されている。
【0025】
図5(a)は、
図4(a)に示す液体吐出ヘッドの組立体11Aに用いる保護部材10Aの構成を示す斜視図、
図5(b)は、
図4(a)に示すシート部材9Aの構成を示す斜視図である。
図5(a)に示す保護部材10Aは、液体吐出ヘッド1を収容する収容空間を備えた中空箱状をなしており、上部には開口部10A1が形成されている。また、保護部材10Aの底部の一部には、液体吐出ヘッド1の底部のうち、吐出素子基板2を避けた部分を支持する支持部10A2が内方に突出した状態で形成されている。
【0026】
この保護部材10Aの開口部10A1から液体吐出ヘッド1を収容することにより、保護部材10Aの支持部10A2が、液体吐出ヘッド1の底部のうち、吐出素子基板2を避けた部分を支持する。シート部材に比べて、保護部材は剛性を有しているためである。これによって、液体吐出ヘッド1は、吐出素子基板2が保護部材10Aから所定の間隔を介して保持され、吐出素子基板2の吐出口面2aは、これに対向する保護部材10Aの底部によって、所定の間隔を介して覆われる(
図4(a)参照)。保護部材のヤング率は、1MPa以上100MPa以下であることが好ましい。ここで、ヤング率はJIS K 7127:1999に従って測定することができる。なお、保護部材10Aは、高圧水蒸気滅菌処理等の熱によって変形しない程度の剛性を有している。特に、保護部材の軟化温度は121℃以上であることが好ましい。ここで、保護部材の軟化温度は、JIS K 6863:1994に従って測定することができる。保護部材の素材としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。水蒸気滅菌中に大きく変形しない素材であればその他の素材によって保護部材を構成することも可能である。
【0027】
液体吐出ヘッド1を収容した保護部材10Aを、
図5(b)に示すような袋状のシート部材9Aの開口部9A1から挿入し、その後、開口部9A1をテープ等によって封止し、シート部材9Aを密閉する。これにより、
図4(a)に示す液体吐出ヘッドの組立体11Aが構成される。
【0028】
シート部材9Aは、前述の比較例と同様に、液体吐出ヘッド1を滅菌処理した後も滅菌状態が維持されるように、液体吐出ヘッド1及び保護部材10Aを収容する袋状の部材によって構成される。シート部材9Aには、菌の透過を遮断し、かつ少なくとも一部が蒸気透過性を有する素材が用いられている。このため、組立体11Aでは、吐出素子基板2は大気にさらされている。これは、シート部材9Aの少なくとも一部が蒸気透過性を有することに加え、保護部材10Aが吐出素子基板2と非接触の状態に保持されているためである。
【0029】
上記のように構成された組立体11Aによれば、滅菌装置の釜内に液体吐出ヘッドの組立体11Aを載置して高圧水蒸気滅菌を行うことにより、液体吐出ヘッド1を適正に滅菌することができる。さらに、本実施形態における組立体11Aでは、高圧水蒸気滅菌処理の後、組立体11A内に発生した液体が吐出素子基板2の吐出口面2aに付着するのを低減することができる。すなわち、本実施形態における組立体11Aでは、保護部材10Aが吐出素子基板2から離間した状態で液体吐出ヘッド1を支持しており、シート部材9Aと吐出素子基板2の吐出口面2aとは非接触の状態にある。従って、高圧水蒸気滅菌処理が終了し、釜の内部が常温常圧に戻った際に組立体11A内に液体が発生したとしても、その液体が吐出素子基板2とシート部材9Aとの接触により発生する毛管力によって吐出素子基板2の吐出口面2aに付着することが抑制される。よって、吐出口面2aへの液体の付着は大幅に低減される。その結果、組立体11Aが乾燥した状態において、液体吐出ヘッド1の吐出口面2aに液体乾燥跡が形成される可能性は大幅に低減され、液体吐出ヘッドの吐出性能は良好な状態に保たれる。
【0030】
次に、
図4(b)を用いてシート部材9Aの好ましい大きさを説明する。
図4(a)に示す組立体11Aでは、液体吐出ヘッド1に対して保護部材10Aが固定されていない形態を採る。従って、液体吐出ヘッド1及び保護部材10Aを収容する袋状のシート部材9Aの大きさを所定の寸法以下に制限することが好ましい場合がある。液体吐出ヘッド1を収容した保護部材10Aをシート部材9Aの中に配置する場合、保護部材10Aの開口部10A1が袋状のシート部材9の内面と対向するように配置する。この際、保護部材10Aの開口部10A1から液体吐出ヘッド1が保護部材10Aの外方へと脱出しないような寸法のシート部材9を用いることが好ましい。すなわち保護部材10Aに液体吐出ヘッド1が収容されていない状態において両部材を囲む周長(
図4(b)の二点鎖線の長さ)の最小値より、袋状のシート部材9Aの内面の周長(
図4(b)の実線9A’の長さ)を小さくすることが好ましい。このような寸法のシート部材9Aを使用することにより、シート部材9Aに覆われた保護部材10Aから液体吐出ヘッド1が脱出することを防止することができる。これに対し、
図4(b)に示す組立体11A’のようにシート部材9A’の内面の周長(実線9A’の長さ)が保護部材10Aと液体吐出ヘッド1を囲む周長の最小値(二点鎖線の長さ)より大きい場合、保護部材10Aから液体吐出ヘッド1が脱出することもある。保護部材10Aの開口部10A1が上向きの状態にある場合には、液体吐出ヘッド1は重力によって保護部材10A内に支持された状態を維持する。このため、保護部材10Aから液体吐出ヘッド1が脱出することはない。しかし、組立体11A’の運搬等において開口部10A1が下向きになった場合、保護部材10Aから液体吐出ヘッド1が脱出する可能性がある。よって、使用するシート部材9Aの寸法を上記のように設定することで、保護部材10Aの開口部10A1の向きを気にすることなく、保護部材10Aから液体吐出ヘッド1が脱出することを防止することができる。
【0031】
また、上記のように保護部材10Aが液体吐出ヘッド1に固定されない形態を採る場合、
図6(a)に示すような組立体11B(第2例)を構成することも可能である。すなわち、組立体11Bは、保護部材10Aの開口部10A1に対してシート部材9Bを熱圧着等で固定した構成を有している。本例においても、シート部材9Bは、菌の透過を遮断する機能を有すると共に、少なくとも一部が蒸気透過性を有する素材によって構成されている。
【0032】
また、保護部材10Aが液体吐出ヘッド1に固定されていない形態を採る組立体として、
図6(b)に示すような組立体11C(第3例)を構成することも可能である。この組立体11Cは、液体吐出ヘッド1、保護部材10A、及びシート部材9Aの他に、液体吐出ヘッド1の液体収容部3aの開口部に蓋5を備えた構成を有する。この組立体11Cによれば、滅菌済みの液体吐出ヘッド1の取り出しが容易になる。すなわち、滅菌済みの液体吐出ヘッド1を使用するに際し、使用者は、まずクリーンベンチ内で袋状のシート部材9Aを破る。次に、シート部材9Aの破れた部分から液体吐出ヘッド1と蓋5が入った保護部材10Aを一方の手で取り出し、他方の手に向けて保護部材10Aの上下を反転させる。これにより、蓋5と共に液体吐出ヘッド1を容易に取り出すことができる。この際、液体収容部3aの開口部は蓋5によって覆われているため、液体収容部3a内が汚染されることはなく、また、吐出素子基板2の吐出口面2aに使用者の手が接触することはないため、吐出口面2aや吐出口6が汚染されることもない。
【0033】
保護部材10Aは電気接続部の保護を兼ねることも可能である。保護部材10Aは中空箱状をなしているため、液体吐出ヘッドの大部分を保護することが可能であり、液体吐出ヘッドを外傷から保護することが可能である。さらに、保護部材10Aは液体吐出ヘッド1によるシート部材9Aの破損を防止することも可能になる。
【0034】
次に、
図7に基づき、組立体11D(第4例)を説明する。
図7(a)は、組立体11Dを模式的に示す縦断側面図、
図7(b)は、組立体11Dに用いる保護部材10Bを示す斜視図である。
【0035】
図7(a)に示す液体吐出ヘッドの組立体11Dは、液体吐出ヘッド1と、液体吐出ヘッド1の外殻をなす筐体3に取り外し可能に固定された樹脂製の保護部材10Bと、シート部材9Aとを備える。保護部材10Bは、
図7(b)に示すように、底部10B1と、底部10B1から立ち上がる2つの側部10B2、10B3とにより、屈曲形状をなしている。2つの側部10B2、10B3の各々の上端部には、内方へ向けて突出する爪部(係合部)10B4、10B5が形成されている。爪部10B4は筐体3の一側部に形成された凹部3cに係合可能であり、爪部10B5は筐体3の他側部に形成された凹部3dに係合可能である。これらの爪部10B4、10B5を、筐体3の対応する凹部3c、3dにそれぞれ係合させることにより、保護部材10Bを筐体3に対して取り外し可能に固定することができる。
【0036】
保護部材10Bを筐体3に固定した状態において、保護部材10Bの底部10B1は、筐体3の底部に設けられた吐出素子基板2を所定の間隔を介して覆う被覆部として機能する。保護部材10Bは樹脂製であるため、樹脂の弾性によって凹部3c、3dと爪部10B4、10B5との係合を解除することができ、保護部材10Bを筐体3から取り外すことができる。
【0037】
液体吐出ヘッド1に保護部材10Bを固定した後、液体吐出ヘッド1を袋状のシート部材9Aの中に入れ、シート部材9Aの開口部を密閉することで、組立体11Dが構成される。この組立体11Dにおいても、吐出素子基板2の吐出口面2aが保護部材10Bによって覆われているため、吐出口面2aにシート部材9Aが接触することはない。従って、滅菌処理の後に組立体11B内に発生する液体が吐出口面2aに付着する可能性は大幅に低減される。これにより、液体吐出ヘッド1の吐出性能の低下を抑制しつつ、水蒸気滅菌を適正に行うことができる。また、本例のように液体吐出ヘッド1に保護部材10Bを固定する形態を採る場合、使用する袋状のシート部材9Aの大きさは、保護部材10Bが固定された液体吐出ヘッド1を収容することが可能な寸法であれば自由に選択することができる。
【0038】
なお、以上説明した組立体11A~11Dでは、箱状あるいは屈曲形状をなす保護部材10A、10Bを示したが、保護部材の形状はこれに限定されない。保護部材は、吐出素子基板2の吐出口面2aに接触せずに吐出口面2aを覆うことが可能な形状であれば他の形状を採ることも可能である。例えば、平面形状の保護部材によって吐出口面2aを非接触な状態で覆うようにしてもよい。また、箱状をなす保護部材内の側面または底面にリブ状の突起を設け、この突起に、液体吐出ヘッドの一部(吐出素子基板を除く)を掛止させることにより、吐出素子基板の吐出口面を保護部材の底面によって非接触な状態で覆うようにすることも可能である。この他、保護部材の形状、構造及び素材は、使用条件、用途、寿命、及びコスト等に鑑みて適宜選択することが可能である。
【0039】
また、滅菌済みの液体吐出ヘッドの使用に際し、保護部材から液体吐出ヘッドを取り外し易くするような形状に、保護部材を構成してもよい。例えば、中空箱状をなす保護部材の場合、指で液体吐出ヘッドを把持し易くするため、保護部材と液体吐出ヘッドの間に指を挿入し得る空間が形成されるように保護部材を形成してもよい。
【0040】
<滅菌方法>
次に、上述の組立体における液体吐出ヘッドの蒸気滅菌方法について説明する。本実施形態では、蒸気滅菌処理として水蒸気を用いた高圧水蒸気滅菌処理を行う。この高圧水蒸気滅菌処理を可能とする滅菌装置の釜に滅菌対象物(本例では、液体吐出ヘッドの組立体)を入れ、滅菌装置の扉を閉めて、釜を閉じる。釜の中で水蒸気を発生させるか、あるいは外部から水蒸気を釜に導入し、釜の中を高温高圧にする。この他、真空ポンプにより釜の中の空気を減少させ、釜の中に水蒸気を導入する高圧水蒸気滅菌装置もある。釜の中を一定時間高温高圧にして滅菌対象物に対して滅菌を行った後、常温常圧に戻す。釜の中を常温常圧に戻す方法としては、排気や自然放熱の他に、真空ポンプを使って釜から強制的に排気を行ったり、釜の上部から水を噴霧して強制的に温度を下げる方法もある。
【0041】
強制的に常温常圧に戻す方法の場合、組立体内の温度が急激に下がり、組立体の内側が陰圧になり、組立体の外にある液体がシート部材の滅菌紙を通過して、組立体の内側に液体が浸入することもある。また、真空ポンプを使って強制的に排気する場合にも、排気による減圧で温度が急激に下がり、水蒸気が凝縮されて組立体の中に液体が発生する。
【0042】
その後、釜の中に置かれている組立体の乾燥を行う。高圧水蒸気滅菌装置によっては、滅菌から乾燥までの処理を行うことが可能なものもある。また、高圧水蒸気滅菌後、高圧水蒸気滅菌装置から滅菌対象物(組立体)を取り出し、乾燥器で乾燥させてもよい。
【0043】
液体吐出ヘッドの滅菌は、前述のように、液体吐出ヘッドの組立体11A~11Dを構成した後、高圧水蒸気滅菌装置に組立体11A~11Dを入れて滅菌する。この際、本実施形態では、保護部材10Aまたは10Bにより、吐出素子基板2の吐出口面2aとシート部材9Aまたは9Bとの接触を防止することができる。このため、吐出素子基板2の吐出口面2aとシート部材9Aまたは9Bとの間の毛管力によって吐出口面2aへの液の集積と移動を防止することができ、吐出口面2aに液体が付着する可能性は大幅に低減される。
【0044】
水蒸気滅菌の条件(温度、圧力、および冷却手段)によっては、釜の中に載置された組立体の内側に液体が発生し易くなる。よって、
図8(a)及び(b)に示すように、吐出素子基板2の吐出口面2aが上向きになるように組立体11A、11Bを高圧水蒸気滅菌装置の釜に載置することがより好ましい。ここで言う上向きとは、組立体を配置したとき、吐出素子基板2の吐出口6から液体が吐出される方向(液体吐出方向)が、水平方向から真上方向(鉛直上方向)までの範囲にある向きを指す。また、組立体を載置したとき、液体吐出方向が水平方向から真下方向(鉛直下方向)までの範囲にある向きを指す。なお、
図8(a)及び(b)では、組立体11A、11Bのみを示しているが、他の組立体11C、11Dにおいても同様に、吐出口面2aを上向きにした状態で釜の中に載置することが好ましい。このように吐出口面2aを上向きに配置することにより、吐出口面2aに対して液体が付着する可能性をより低減させることができる。
【0045】
以上のように、本実施形態における液体吐出ヘッドの組立体によれば、滅菌方法として高圧水蒸気滅菌を実施した場合にも、吐出素子基板2の吐出口面2aへの液体の付着を低減することが可能となる。但し、本実施形態における組立体11A~11Dは、高圧水蒸気滅菌処理に限らず、他の滅菌処理にも有効である。例えば、滅菌中に気体を用い、滅菌終了後に液体が発生する滅菌方法を用いる場合にも、本実施形態における組立体11A~11Dは有効である。いずれの滅菌処理においても、本実施形態における組立体11A~11Dを用いることにより、吐出素子基板2の吐出口面2aへの液体の付着を低減しつつ、吐出口及びこれに連通する流路等の微細な構造部分に対する滅菌処理を適正に行うことが可能になる。
【0046】
なお、滅菌処理に際し、シート部材の中に滅菌対象物を入れず、滅菌装置の釜の中に滅菌対象物を直接載置し、高圧水蒸気滅菌することも行われている。この場合にも、滅菌処理された滅菌対象物の滅菌状態を維持するためには、滅菌対象物を釜から取り出した後、滅菌された袋に封入する必要がある。しかし、滅菌状態を維持しつつ滅菌対象物の封入作業を行うためには、滅菌対象物の取り扱いに細心の注意を払う必要があり、多くの手間とコストがかかる。
【0047】
また、液体吐出ヘッドの吐出素子基板における吐出口面に予めテープ等を貼り付け、その液体吐出ヘッドをシート部材に入れて、高圧水蒸気滅菌する方法も考えられている。しかし、液体吐出ヘッドは、吐出口が微細であるのに対し、吐出口に液体を供給する流路は奥行方向に長い。このため流路は、水蒸気を到達させにくい部分の1つとなっている。よって、テープ等によって吐出口からの水蒸気の流入を完全に塞いだ場合、吐出口面への液体の付着は回避できるものの、流路への水蒸気の入り口が液体を充填する側の一方に限定さることとなる。その結果、水蒸気が流路の全域に到達しにくくなり、液体吐出ヘッドの滅菌状態が損なわれることとなる。
【0048】
本実施形態では、吐出口が密閉されていないため、吐出口の開口部側から水蒸気を導入することが可能になり、流路全域に水蒸気を到達させることが可能になり、良好な滅菌状態を得ることが可能になる。
【0049】
<滅菌工程>
ここで、本実施形態の液体吐出ヘッドの組立体を用いて高圧水蒸気滅菌処理を行う場合の処理手順を
図9のフローチャートに基づき説明する。なお、
図9のフローチャートにおける各処理番号に付したSは、ステップ(工程)を意味する。
【0050】
まず、液体吐出ヘッド1に保護部材10Aまたは10Bを組み合わせる(S1(第1工程))。ここで、保護部材10Aを使用する場合には、保護部材10Aの中に液体吐出ヘッド1を収容する。また、保護部材10Bを用いる場合には、液体吐出ヘッド1の筐体3に保護部材10Bの爪部10B4、10B5を係合させて、保護部材10Bを筐体3に固定する。これにより、少なくとも液体吐出ヘッド1の吐出素子基板2における吐出口面2aが保護部材10Aまたは10Bによって覆われる。
【0051】
次に、液体吐出ヘッド1と保護部材10Aまたは10Bとを組み合わせた構造物にシート部材9Aまたは9Bをさらに組合せ、液体吐出ヘッドの組立体11A~11Dのいずれかを構成する(S2(第2工程))。ここで、袋状のシート部材9Aを用いる場合には、そのシート部材9A内に液体吐出ヘッド1と保護部材10Aまたは10Bを組み合わせた構造物を封入する。また、シート部材9Bを用いる場合には、保護部材10Aの開口部10A1にシート部材9Bを熱溶着などによって接着して密封する。このとき、保護部材10A及び10Bは吐出素子基板2の吐出口面2aとは接触していない。また吐出素子基板2は大気にさらされている。但し、液体吐出ヘッド1は、保護部材10A(または10B)とシート部材9A(または9B)によって覆われているため、滅菌後も滅菌状態を維持することができる。
【0052】
次に、液体吐出ヘッド1の組立体11A~11Dを水蒸気滅菌装置の釜に載置する(S3)。その後、水蒸気滅菌装置滅菌を駆動し、水蒸気滅菌を行う(S4(第3工程))。本実施形態では、高圧水蒸気滅菌を行う。滅菌処理が終了した後、水蒸気滅菌装置内を常温常圧に戻し(S5(第4工程))、液体吐出ヘッドの組立体11A~11Dを乾燥させる(S5)。
【0053】
<滅菌処理をした液体吐出ヘッドの使用例>
滅菌処理をした液体吐出ヘッドにあらかじめ滅菌処理をした液体を充填し、吐出を行えば、吐出した液体も滅菌状態を維持できる。例えば、滅菌処理をした液体吐出ヘッドに細胞培養に用いる液体を充填し、細胞が接着している培養皿に向けて吐出すれば、培養皿に滅菌状態が維持できた細胞懸濁液を入れることができる。すなわち、決めた位置に決めた量の滅菌された液体を分注する手段として、滅菌処理をした液体吐出ヘッドを使うことができる。
【0054】
滅菌処理をした液体吐出ヘッドに分散した細胞を含む液体を充填し、培養皿に向けて吐出すれば、培養皿に細胞を播種できる。すなわち、決めた位置に決めた量の細胞を移動させる手段として、滅菌処置をした液体吐出ヘッドを使うことができる。
【0055】
滅菌処理した液体吐出ヘッドに細胞と細胞に導入したい化合物を充填し、吐出すれば、細胞にその化合物が導入できる。すなわち、細胞へ化合物を導入する手段として、滅菌処理をした液体吐出ヘッドを使うことができる。
【0056】
(実施例)
上記実施形態に示した液体吐出ヘッドの滅菌方法を、第1~第6実施例及び第1、第2比較例により、さらに具体的に説明する。
【0057】
以下に説明する実施例及び比較例では、液体吐出ヘッドの組立体を構成し、その組立体を高圧水蒸気滅菌した後、乾燥させた。そして、吐出素子基板に液体乾燥跡(水紋)があるかどうかを観察し、各実施例及び比較例における評価を行った。
【0058】
本実施例では、2種類の保護部材10A、10Bと、2種類のシート部材9Aと9Bと、蓋5と、液体吐出ヘッド1とを組み合わせて液体吐出ヘッドの組立体を構成した。また、比較例では、袋状のシート部材9Aの中に液体吐出ヘッド1を封入して液体吐出ヘッド1の組立体を構成した。さらに、水蒸気滅菌する際の温度と時間、及び吐出素子基板2の吐出口面2aの向きを水蒸気滅菌条件として定め、滅菌処理を行った。液体吐出ヘッド1としては、
図1に示す液体吐出ヘッド1(キヤノン株式会社製)を使用した。この液体吐出ヘッド1は、キヤノン株式会社製のビジネスインクジェットプリンターG1310に搭載のブラックインクの吐出に用いられるインクジェット記録ヘッドである。
【0059】
表1に、各実施形態及び各比較例における組立体の構成、水蒸気滅菌の条件、及び各実施形態における評価結果を示す。
【0060】
表1に示す保護部材10Aは、
図4(a)及び
図5(a)に示す保護部材10Aと同様であり、箱状の保護部材(キヤノン株式会社製)を指す。表1の保護部材10Bは、
図7(a)及び(b)に示す保護部材10Bと同様であり、液体吐出ヘッドに固定できる保護部材(キヤノン株式会社製)を指す。表1のシート部材9Aは、
図4(a)及び
図5(b)に示すシート部材9Aと同様であり、袋状になったシート部材(簡易滅菌用パウチ、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を指す。シート部材9Aは、蒸気透過性のある滅菌紙、ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレート等を用いて構成される。シート部材9Aには滅菌対象物を入れた後に開口部9A1を閉じるためのテープが設けられている。シート部材9Bは、
図6(a)に示すシート部材9Bと同様であり、ポリエチレンの不織布のシート(タイベック(登録商標):デュポン製)により構成されている。
【0061】
第1実施例では、液体吐出ヘッド1を箱状の保護部材10Aに収容した。次に、液体吐出ヘッド1を収容された保護部材10Aを袋状のシート部材9Aの中に入れた。最後にシート部材9Aに付属のテープで袋状のシート部材9Aの開口部9A1を閉じ、液体吐出ヘッドの組立体11Aを構成した。この組立体11Aの断面図は、
図4(a)と同様である。
【0062】
第2実施例では、液体吐出ヘッド1に、保護部材10B(
図7(b)参照)を固定した。次に、保護部材10Bを取り付けた液体吐出ヘッド1を袋状のシート部材9Aの中に入れた。最後に、シート部材9Aに付属のテープで袋状のシート部材9Aの開口部9A1を閉じて、液体吐出ヘッドの組立体11Dを構成した。この組立体11Dの断面図は、
図7(a)と同様である。
【0063】
第3実施例、第4実施例、及び第5実施例では、箱状の保護部材10Aに、液体吐出ヘッド1を収容し、さらに液体吐出ヘッド1の筐体3における開口部を蓋5によって覆った。次に、液体吐出ヘッド1と蓋5が収容された保護部材10Aを袋状のシート部材9Aの中に入れた。最後にシート部材9Aに付属のテープで袋状のシート部材9Aの開口部9A1を閉じて、液体吐出ヘッドの組立体11Cを構成した。この組立体の断面図は、
図6(b)と同様である。
【0064】
第6実施例では、箱状の保護部材10Aに、液体吐出ヘッド1と蓋5を入れた。次に箱状の保護部材10Aの開口部に、シート部材9Bを載せ、熱溶着により、シート部材9Bを保護部材Aに固定して、液体吐出ヘッドの組立体を構成した。すなわち、この組立体は、シート部材によって保護部材の開口部が覆われている。この組立体の断面図は、蓋5が図示されていないこと以外は、
図6(a)と同様である。
【0065】
第1比較例及び第2比較例では、液体吐出ヘッドを袋状のシート部材9Aに入れ、シート部材9Aに付属のテープで袋状のシート部材9Aの開口部9A1を閉じて、液体吐出ヘッドの組立体11を構成した。この組立体の断面図は、
図3(a)と同様である。なお、
図3(a)及び(b)に示すシート部材9は、
図5に示す袋状のシート部材9Aと同様である。
【0066】
次に、第1~第6実施例、及び第1、第2比較例の組立体を、水蒸気滅菌装置(MX-500(株式会社トミー精工製))を用いて水蒸気滅菌を行った。各実施形態及び各比較例における水蒸気滅菌の条件は、表1に記載した通りである。なお、水蒸気滅菌を行うに際し、組立体をかごに入れた状態で、水蒸気滅菌装置の釜の中に組立体を載置した。組立体は、吐出素子基板2の吐出口面2aを、重力方向において下向き、または上向きになるように載置した。具体的には、第1~第4実施例、第6実施例、及び第2比較例では、吐出口面2aが上向きになるように組立体を載置し、第5実施例及び第1比較例では、吐出口面2aが下向きになるように組立体を載置した。
【0067】
また、水蒸気滅菌装置を用いて、121℃の温度で20分間または134℃の温度で15分間の水蒸気滅菌を行った。具体的には、第1~第3実施例、第6実施例、第1比較例、及び第2比較例においては121℃の温度で20分間の水蒸気滅菌を行うように設定し、第4実施例及び第5実施例においては134℃の温度で15分間の水蒸気滅菌を行うように設定した。
【0068】
水蒸気滅菌装置で滅菌終了の表示が出た後、水蒸気滅菌装置からかごを取り出した。かごに組立体を入れた状態で乾燥機に入れ、60℃で4時間以上乾燥させた。乾燥後、組立体から液体吐出ヘッド1を取り出した。金属顕微鏡で吐出素子基板2の吐出口面2aを観察し、液体乾燥跡の有無を確認した。液体乾燥跡の有無の様子から、〇:液体乾燥跡なし、△:液体乾燥跡極微あり、×:液体乾燥跡多数あり、の判別を行い評価結果とした。
【0069】
【0070】
以上の滅菌処理おいて使用した組立体の各構成要素は、以下の通りである。
液体吐出ヘッド:約50×30×30mm(キヤノン株式会社製)
蓋:キヤノン株式会社製
保護部材10A:約60×35×40mm(キヤノン株式会社製)
保護部材10B:キヤノン株式会社製
シート部材9A:袋状シート(簡易滅菌用パウチ、約130×250mm(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製))、
シート部材9B:不織布シート(タイベック(デュポン株式会社製))
組立体11Aにおいて、中空箱状をなす保護部材10Aは、底部に設けられた支持部10A2によって液体吐出ヘッド1を支持することができる。よって、保護部材10Aに液体吐出ヘッド1を収容しても、吐出素子基板2と保護部材10Aとが接触することはなかった。また、液体吐出ヘッド1の外側のサイズを約50×30×30mm、保護部材10Aの外側のサイズを約60×35×40mm、袋状のシート部材9Aのサイズを約130×250mmとした。このため、液体吐出ヘッド1を入れた保護部材10Aを、シート部材9Aに収容した後、シート部材9Aの開口部9A1を付属のテープで封止することができた。また袋状のシート部材9Aが液体吐出ヘッド1を収容した保護部材10Aをシート部材9Aで覆っているため、液体吐出ヘッド1が中空箱状の保護部材10Aから脱出することはなく、保護部材10Aに液体吐出ヘッド1が入った状態を維持することができた。袋状のシート部材9Aには水蒸気滅菌されると色が変わるインジケータが取り付けられている。水蒸気滅菌処理の後、シート部材の色が変化したことを確認した。
【0071】
第1比較例及び第2比較例では、
図10に示すように、吐出素子基板2に付着した液体が乾燥して形成される液体乾燥跡Lmが、吐出素子基板2の吐出口面に見られた。第5実施例では、一部で液体乾燥跡が見られたが、第1、第2比較例に比べると液体乾燥跡が発生する頻度が少なく、また液体乾燥跡が発生した場合であっても発生領域は小さく、液体ヘッドの吐出不良が生じない程度のものであった。第1実施例~第4実施例、及び第6実施例では、液体乾燥跡は見られなかった。以上のように、保護部材10A、10Bを用いることにより、吐出口面2aにおける液体乾燥跡の発生を減少させ得ることが明らかになった。
【0072】
次に、高圧水蒸気滅菌処理によって液体吐出ヘッドが適正に滅菌されているか否かの確認を蒸気滅菌用のバイオロジカルインジケータ(H3723T(福沢商事株式会社)を用いて行った。このバイオロジカルインジケータを用いた滅菌状態の確認を行うため、液体吐出ヘッドの組立体を構成する際に、予め筐体3の液体収容部3aにバイオロジカルインジケータを入れ、液体収容部3aの開口部を蓋5によって密閉した。蓋5は溶着によって液体収容部3aに固定した。
【0073】
次に、その液体吐出ヘッド1を保護部材10Aに収容し、その保護部材10Aを袋状のシート部材9A(デュポン株式会社製)に入れた後、シート部材9Aの開口部9A1を熱溶着で閉じ、組立体11Cを構成した。組立体11Cの断面図は、
図6(b)と同様である。この組立体11Cを、吐出素子基板2の吐出口面2aが上向きになるように水蒸気滅菌装置に載置し、134℃の温度で15分間、水蒸気滅菌を行った。滅菌終了後、乾燥工程を実施せずに蒸気滅菌用バイオロジカルインジケータを取り出し、56℃に加温した。48時間後に蒸気滅菌用バイオロジカルインジケータの色の変化から、滅菌されているか否かを確認した。なお、56℃は菌の培養に適した温度であり、48時間は菌を培養する時間である。水上滅菌処理後においても菌が存在していた場合には、その菌が培養され、バイオロジカルインジケータの色が変化することとなる。
【0074】
48時間が経過した後、蒸気滅菌用バイオロジカルインジケータの色を確認した結果、バイオロジカルインジケータの色は紫色を示しており、滅菌されていることがわかった。この滅菌状態の確認に使用した組立体11Cでは、液体吐出ヘッド1の液体収容部3aにおける開口部を蓋5によって密閉し、流路7への水蒸気の流入口を吐出口6に制限している。従って、水蒸気滅菌処理の後、上記のように液体収容部3a内のバイオロジカルインジケータの色が変化すれば、水蒸気が吐出口6から流入し、流路7を経由して液体収容部3a内を満たすことができたことの証明となる。つまり、液体収容部3a、液体流出口3b、液体供給口21a、流路7、及び吐出口6が滅菌できたことの証明になる。本例では、バイオロジカルインジケータの色は紫色に変化したため、液体吐出ヘッドの中でも最も滅菌し難い箇所である吐出口6や流路7が適正に滅菌処理されたことが明らかになった。
【0075】
次に、滅菌処理された液体吐出ヘッドが、適正な吐出性能を維持しているかを確認した。まず、液体吐出ヘッド1を保護部材10Aに収容した。次に、液体吐出ヘッド1が収容された保護部材10Aを袋状のシート部材9Aに入れ、そのシート部材9Aの開口部9A1を閉じ、組立体とした。組立体の断面図は、
図4(a)と同様である。この組立体11Aを吐出素子基板2の吐出口面2aが上向きになるように水蒸気滅菌装置に載置し、134℃の温度で15分間、水蒸気滅菌を行った。滅菌終了後、吐出口面2aを上向きにした状態を維持したまま、水蒸気滅菌装置から乾燥機に移動し、60℃の温度で4時間以上組立体を乾燥させた。組立体11Aから液体吐出ヘッド1を取り出し、金属顕微鏡で吐出素子基板2の吐出口面2aを観察した。また液体吐出ヘッドに液体(ブラックインク(商品名:GI-390BK)、キヤノン株式会社製)を充填し、液体吐出装置(インクジェットプリンター(商品名:G1310)、キヤノン株式会社製)で液体の吐出を行った。
【0076】
滅菌済みの液体吐出ヘッド1には、吐出素子基板2の割れや、剥れは見られなかった。また吐出素子基板2に液体乾燥跡や異物は見られなかった。液体吐出装置で液体を吐出したところ、滅菌済みの液体が吐出された。吐出素子基板2に形成されている吐出口6のうち、ほぼ全ての吐出口6から液体が吐出されていた。この結果から、保護部材10Aを用いた組立体11Aによって液体吐出ヘッド1を水蒸気滅菌した場合には、吐出素子基板2の吐出口面2aにおける液体乾燥跡の発生を抑えることができ、吐出不良の発生を抑制できることが明らかになった。すなわち、高圧水蒸気滅菌処理を行った後にも、液体吐出ヘッドには適正な吐出性能を維持することができた。
【0077】
[第2実施形態]
本実施形態では、吐出装置を、細胞に化合物を導入する化合物導入装置として用いる形態を説明する。液体吐出ヘッド1には、化合物と、化合物が導入される細胞とを含む液体が充填される。本実施形態では、この液体のことを細胞懸濁液(細胞含有液ともいう)という。液体吐出ヘッド1のことを細胞加工ヘッドと呼んでもよい。液体吐出ヘッド1から吐出された細胞懸濁液においては、化合物が導入された細胞が含まれる。また、以下の説明では、細胞に導入する対象となる化合物を、「導入対象化合物」とも称する。
【0078】
<導入対象化合物>
導入対象となる化合物は、その目的に応じて、適宜選択可能である。導入可能である化合物として、例えば、核酸、タンパク質、または標識物質等が考えられる。なお、被導入細胞に対して内包される大きさの化合物であれば、これらの例に限定されるものではない。ただし、細胞へのダメージを最小化にする観点から、化合物の大きさは、細胞の平均直径に対し、5分の1以下が好ましく、10分の1以下がより好ましい。本実施形態で適用できる代表的な化合物としてDNAまたはRNAなどの核酸が挙げられる。
【0079】
<細胞種>
本実施形態で取り扱う細胞とは、接着性細胞、浮遊性細胞、スフェロイド(凝集塊細胞)等をいう。細胞の平均直径は、吐出口から吐出可能な大きさであり、例えば、1μm以上かつ100μm以下である。
【0080】
<細胞懸濁液>
細胞懸濁液は、少なくとも一つの導入対象となる導入対象化合物と少なくとも一つの導入被対象となる細胞とを有し、水を主成分として成る。また、本発明において細胞懸濁液は、細胞が液体中に分散されたものである。細胞懸濁液における細胞は、撹拌することによって液体中に分散が可能な状態となっていればよく、静置したときに細胞が液体中に沈殿するものであってもよい。また、導入加工時、また、その後の、細胞の生存を可能とするため、適宜、その他の成分を含むことが好ましい。
【0081】
<水および水溶性有機溶剤>
本実施形態で取り扱う細胞懸濁液は、水、または、水と水溶性有機溶剤との混合物とを含む水性液媒体を用いることができる。水性液媒体に細胞および導入対象化合物を添加することで細胞懸濁液を得ることができる。
【0082】
<化合物導入方法>
本実施形態の化合物導入方法では、接着培養または浮遊培養等により培養された細胞を、酵素等を作用させることにより、単独の細胞または小塊状の細胞に分離させた後、遠心分離装置等を用い、比重の違いを用いて、細胞のみを沈降させる。その後、細胞以外の上澄みの媒体を除去した後、導入対象化合物を含む媒体を添加し、ピペットまたは攪拌機を用いて攪拌し、細胞懸濁液を作製する。
【0083】
作製された細胞懸濁液を、用いる液体吐出ヘッド1内の流路の最小径と同程度のセルストレーナーに通過させることで、大きな細胞塊を取り除く。このように作製された細胞懸濁液を液体吐出ヘッド1内へとマイクロピペット等を用いて導入する。表面張力による濡れ広がりにより、細胞懸濁液が液体吐出ヘッド1の吐出口6まで、スムーズに充填される場合は、充填され次第、速やかに導入動作を実行する。液体吐出ヘッド1の吐出口6まで充填が至らない場合は、吸引機構または外部吸引ポンプを用いて吐出口6から吸引することで、充填が可能となる。あるいは、外部加圧ポンプを用いて、細胞懸濁液を貯留する液体収容部3aを加圧することで、充填が可能となる。
【0084】
その後、液体吐出ヘッド1における吐出エネルギ発生素子(吐出素子)を駆動することで、細胞に化合物が導入される。そして、吐出口6から細胞懸濁液が、基材または培養液内に吐出される。吐出された細胞には、導入対象化合物が導入される。
【0085】
滅菌処理あり・なしの液体吐出ヘッドで、細胞へ化合物を導入する性能に差がないか検討した結果を以下に示す。
【0086】
液体吐出ヘッド1と蓋5を保護部材10Aに収容し、その保護部材10Aを袋状のシート部材9A(デュポン株式会社製)に入れた後、シート部材9Aの開口部を熱溶着で閉じ、組立体11Cを構成した。126℃の温度で15分間、水蒸気滅菌を行った。滅菌終了後、自然乾燥させた。
【0087】
トリプシンを用いてチャイニーズハムスターの卵巣由来の細胞(CHO-K1、セルラーエンジニアリングテクノロジー製)を培養皿からはがした。遠心分離の後、上澄みを除去し、Ham’s F-12 Nutrient Mix(F-12、サーモサイエンティフィック株式会社製)に分散させた。蛍光標識されたデキストランであるFluorescein isothiocyanate-dextran(FITC-Dex、分子量70k、シグマアルドリッチ合同会社製)をリン酸緩衝食塩水(PBS)に10mg/mlの濃度で溶解させた。CHO-K1細胞とFITC-Dexの各液を混合し、CHO-K1細胞濃度2.0×106 cells/ml、FITC-Dex濃度0.5mg/mlの液を調整した。滅菌処理をした液体吐出ヘッドまたは滅菌処理をしていない液体吐出ヘッドに調整した液体をそれぞれ充填した。液体吐出装置を用いて、培養皿(ガラスベースディッシュ、AGCテクノグラス株式会社製)に向けて、充填した液体を吐出した。位相差顕微鏡を用いて、細胞を観察した。その後、10%牛胎児血清(FBS)と1%ペニシリンストレプトマイシンを含むF-12培地を加え、再び位相差顕微鏡で観察した。温度37℃、5%CO2環境下で2時間インキュベーション後、トリプシンを用いて細胞を剥がし、遠心分離をした。上澄みを除去後、2%FBSを含むPBSに細胞を再分散した。セルソーター(BD FACSMelodyセルソーター、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)を用いて、CHO-K1細胞へのFITC-Dexの導入量を測定した。セルソーターはFITCが検出できるレーザー488nm、ミラー507LP、フィルター527/32の条件測定を行い、前方散乱および側方散乱のデーターから細胞の分布にゲートをかけて解析した。
【0088】
位相差顕微鏡で観察したところ、滅菌処理ありなしのいずれの液体吐出ヘッドからも細胞が吐出していた。F-12培地を加えた後に位相差顕微鏡で観察したところ、滅菌処理ありなしのいずれの液体吐出ヘッドから吐出した細胞も、白く光る細胞が多く見られた。
図11にセルソーターで分析した結果を示す。横軸はFITCの強度比、縦軸はカウントのヒストグラムである。滅菌処理ありなしの間で、CHO-K1細胞が取り込んだFITC-Dex量に大きな差がなかった。滅菌処理した液体吐出ヘッドでは、細胞へ化合物を導入させるために細胞へ与える性能を維持していた。
【0089】
[他の実施形態]
なお、上記実施形態では、水蒸気滅菌を行う液体吐出ヘッドを細胞懸濁液の吐出に用いる例を示したが、吐出に際して滅菌を要する液体を吐出する液体吐出ヘッドに対しても本開示は有効である。
【符号の説明】
【0090】
1 液体吐出ヘッド
2a 吐出口面
3a 液体収容部
6 吐出口
9A、9B シート部材
10A、10B 保護部材
11A~11D 組立体
S1 第1工程
S2 第2工程
S4 第3工程