特許7912870IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2026.8.14 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7912870光学素子、光源装置、画像投影装置、および光学素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】
(45)【発行日】
(54)【発明の名称】光学素子、光源装置、画像投影装置、および光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   
   
   
   
   
【FI】
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】
(22)【出願日】
(65)【公開番号】
(43)【公開日】
【審査請求日】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100182257
【弁理士】
【氏名又は名称】川内 英主
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 陽
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/011393(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/056577(WO,A1)
【文献】特開2014-075584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 1/10 - 1/18
G02B 5/20
G03B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項
基材と、
前記基材の上にオルガノポリシロキサンを主成分とする材料からなる光学素子部と、
を有する光学素子であって、
前記光学素子部について、前記光学素子部の、前記基材と接する面と反対の側の面から、前記基材に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を(C/Si)aとし、前記光学素子部と前記基材とが接する面から、前記光学素子部の中に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を(C/Si)bとしたとき、
(C/Si)aが(C/Si)bの1.5倍以上である、ことを特徴とする光学素子。
【請求項
前記光学素子部の上に、無機酸化物または無機フッ化物を主成分とする被覆層をさらに有する、請求項1に記載の光学素子。
【請求項
前記光学素子は回折光学素子であり、
前記光学素子部は、回折構造を有する回折光学素子部であり、
前記回折光学素子は、前記基材の上に、前記回折光学素子部と一体に形成され、平坦な表面を有する平坦部をさらに有し、
前記平坦部の、前記基材と接する面と反対の側の面から前記基材に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を(C/Si)cとしたとき、(C/Si)aは(C/Si)cの0.9倍以上1.1倍以下である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項
光源と回折光学素子とを備えており、
前記回折光学素子が、前記光源に対して光出射側に配置され、
前記回折光学素子が請求項に記載の回折光学素子である、ことを特徴とする光源装置。
【請求項
前記光源が、半導体レーザを有する、請求項に記載の光源装置。
【請求項
前記光源から出射される光が、青色光を含む、請求項に記載の光源装置。
【請求項
前記回折光学素子に対して光出射側に配置された蛍光体をさらに有し、
前記蛍光体が、セリウムをドープしたイットリウムアルミニウム酸化物を含む、請求項に記載の光源装置。
【請求項
光学系と前記光学系を制御する制御装置とを備える画像投影装置であって、
光学系が、光源装置と複数の光学素子とを含み、
前記光源装置が請求項に記載の光源装置である、ことを特徴とする画像投影装置。
【請求項
前記光源が、半導体レーザを有する、請求項に記載の画像投影装置。
【請求項
前記光源から出射される光が、青色光を含む、請求項に記載の画像投影装置。
【請求項
前記光源装置が、前記回折光学素子に対して光出射側に配置された蛍光体をさらに有し、
前記蛍光体が、セリウムをドープしたイットリウムアルミニウム酸化物を含む、請求項10に記載の画像投影装置。
【請求項
前記光学系が、前記蛍光体を介して前記光源装置から出射された光を、赤色光と緑色光と青色光とに分離し、
前記制御装置がカラー画像を生成する、請求項11に記載の画像投影装置。
【請求項
前記光源は複数のレーザ光源より構成されている請求項乃至のいずれか1項に記載の光源装置。
【請求項
前記光源は複数のレーザ光源より構成されている請求項乃至12のいずれか1項に記載の画像投影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光学素子、光源装置、画像投影装置、および光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
近年、回折光学素子は、レーザ光源と組み合わされ、特許文献1に記載のようにプロジェクタ等の電子機器の一部に用いられるようになってきている。特許文献1に記載の回折光学素子は、ガラス等の無機材料からなる透光基材上に形成された、回折構造を有する回折光学部を備える。回折光学部を構成する材料は、耐熱性や耐光性を有するものが望ましく、特許文献1には、当該材料として、シロキサン結合を骨格としたシロキサン系樹脂材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【文献】特開2014-228674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
回折光学素子に照射する光の強度として、特許文献1には例えば60W/cmである例が開示されている。しかしながら、さらに高い強度、例えば、300W/cm程度の光を長時間照射したときには、特許文献1のように回折光学部を構成する材料にシロキサン系樹脂材料を用いた場合でも、回折光学素子の回折効率が低下する場合があった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、高強度の光を長時間照射した場合における性能の低下を抑制した光学素子を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
本発明の一態様に係る光学素子は、基材と、前記基材の上にオルガノポリシロキサンを主成分とする材料からなる光学素子部と、を有する光学部材であって、前記光学素子部について、前記光学素子部の、前記基材と接する面と反対の側の面から、前記基材に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を(C/Si)aとし、前記光学素子部と前記基材とが接する面から、前記光学素子部の中に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を(C/Si)bとしたとき、(C/Si)aが(C/Si)bより大きいことを特徴とする。
また、本発明の別の態様に係る光学素子の製造方法は、基材の上に光学素子部を形成する工程を含む、光学素子の製造方法であって、前記光学素子部を形成する工程は、後処理を行う工程を含み、前記後処理を経て形成された前記光学素子部について、前記光学素子部の、前記基材と接する面と反対の側の面から前記基材に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比を(C/Si)aとし、前記光学素子部と前記基材とが接する面から、前記光学素子部の中に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比を(C/Si)bとしたとき、(C/Si)aが(C/Si)bより大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
本発明によれば、高強度の光を長期間照射した場合における、性能の低下を抑制した光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図】第1実施形態に係る光学素子を備えた電子機器の一例である画像投影装置としてのプロジェクタを示す説明図である。
【図】第1実施形態に係る光学素子を有する光源装置の説明図である。
【図】(a)は、第1実施形態に係る光学素子を示す上面図であり、(b)は、第1実施形態に係る光学素子を示す断面図である。
【図】(a)~(h)は、第1実施形態に係る回折光学素子の製造方法の説明図である。
【図】実施例1に係る光学素子について回折光学素子部の断面に対してEDSにより面分析を行った結果を示す図である。
【図】比較例1に係る光学素子について回折光学素子部の断面に対してEDSにより面分析を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1実施形態に係る光学素子を備えた電子機器の一例である画像投影装置としてのプロジェクタを示す説明図である。
プロジェクタ500は、プロジェクタ用の光学系550と、光学系550を制御する制御装置530と、を備えており、光学系550は、光源装置501と、複数の光学素子(偏光変換素子502~投射レンズ511)と、を有する。
光源装置501は、白色光602を発するものである。白色光602は、点線で示す赤色光602r、緑色光602g、および青色光602bからなる。赤色光602r、緑色光602g、および青色光602bは、偏光変換素子502に入射し、偏光変換素子502で一様な偏光方向を有する直線偏光として、実線で示す赤色照明光604r、緑色照明光604g、および青色照明光604bに変換される。これら赤色照明光604r、緑色照明光604g、および青色照明光604bはダイクロイックミラー503により赤色照明光604rおよび青色照明光604bと、緑色照明光604gとに分離される。
緑色照明光604gは、偏光分離素子である偏光ビームスプリッタ(以下、PBSという)504および位相補償板505gを透過して光変調素子506gに到達する。赤色照明光604rおよび青色照明光604bは、偏光板507を透過して色選択性位相板508に入射する。色選択性位相板508は、赤色照明光604rの偏光方向を維持しつつ、青色照明光604bの偏光方向を90°回転させる。
色選択性位相板508から出射した赤色照明光604rは、PBS509および位相補償板505rを透過して光変調素子506rに到達する。色選択性位相板508から出射した青色照明光604bは、PBS509で反射して位相補償板505bを透過して光変調素子506bに到達する。各光変調素子506r、506g、506bは、反射型液晶パネルまたはデジタルマイクロミラーデバイスにより構成される。なお、光変調素子506r、506g、506bとして、透過型液晶パネルを用いることも可能である。
制御装置530は、入力された画像データに応じて光変調素子506r、506g、506bを制御する。これにより、光変調素子506r、506g、506bは、入射した赤色照明光604r、緑色照明光604g、および青色照明光604bを画像変調して、赤色画像光615r、緑色画像光615g、および青色画像光615bに変換する。
これら赤色画像光615r、緑色画像光615g、および青色画像光615bは、PBS504、509および合成プリズム510を介して合成され、投射レンズ511によりスクリーン等の被投射面に投射される。これにより、投影画像としてカラー画像が表示される。
図2は、第1実施形態に係る光学素子を有する光源装置の説明図である。光源装置501は、複数のレーザ光源41と、第1実施形態に係る光学素子としての回折光学素子10と、蛍光体43と、を有する。回折光学素子10は、複数のレーザ光源41に対して光出射側に配置され、蛍光体43は、回折光学素子10に対して光出射側に配置されている。
レーザ光源41は、例えば半導体レーザを有する。複数のレーザ光源41は、赤色、緑色、および青色のうち少なくとも1つの色のレーザ光44を発するレーザ光源を含んでいればよい。少なくとも青色(波長が例えば400nm~460nmの範囲内)のレーザ光44を発するレーザ光源を含んでいることが好ましい。各レーザ光源41は、およそ300W/cmの照射強度のレーザ光44を出射する。各レーザ光源41は、図1に示す制御装置530によって駆動制御される。複数のレーザ光源41が、赤色、緑色、および青色それぞれの色を発するレーザ光源を含んでいる場合、蛍光体43は省略することができる。赤色光、緑色光は、同じ照射強度でも青色に比べてエネルギーが小さいため、赤色光あるいは緑色光が照射される回折光学素子10は、回折効率が低下する問題が生じない場合がある。その場合は、赤色光あるいは緑色光が照射される回折光学素子10には、従来の回折光学素子を用いることもできる。
複数のレーザ光源41は、アレイ状に配置され、回折光学素子10にレーザ光44を照射する。回折光学素子10を透過したレーザ光44は、蛍光体43に照射される。回折光学素子10は、基材12と、基材12の上に光学素子部としての回折光学素子部13と、を有する。
図3(a)は、第1実施形態に係る回折光学素子10を示す上面図であり、図3(b)は、第1実施形態に係る回折光学素子10の、図3(a)中のA-A’線における断面の一部を拡大して示した図である。
回折光学素子10は、上述したように、基材12と、基材12の上に設けられた回折光学素子部13とを有する。回折光学素子部13は、基材12と接する面と反対の側の面に、光を回折させるための凹凸形状である回折構造14を有する。
回折光学素子10はまた、基材12の上に、回折光学素子部13と一体に形成され、平坦な表面を有する平坦部15をさらに有する。回折光学素子10において、回折光学素子部13は、基材12の上にアレイ状に複数配置されている。
各回折光学素子部13には、対応するレーザ光源41によって円または楕円形状のレーザ光44が照射される。各回折光学素子部13に照射された円または楕円形状のレーザ光44は、対応する回折光学素子部13によって、蛍光体43上に所定形状となるように集光される。所定形状は、例えば矩形状である。反射型液晶パネル等の光変調素子506r、506g、506bの形状に合わせてレーザ光44を矩形状に集光することで、均一かつ無駄なく光を利用できる。
蛍光体43に用いる材質としては、例えばセリウムをドープしたイットリウムアルミニウム酸化物(YAG:Ce)等が用いられる。蛍光体43に照射された青色のレーザ光44の一部は、蛍光体43を励起して黄色光に変換される。この黄色光と、青色のレーザ光44の残りとが合わさることで、白色光602が生成される。蛍光体43から拡散光として出射された白色光602は、不図示のコリメータレンズで平行光に変換されて光源装置501から均一な分布の光が出射される。
基材12は、無機の透光基材であり、少なくとも青色光を透過する材料、例えば380nm以上780nm以下の波長の可視光を透過する材料で構成されている。基材12は、照射された光が透過するよう十分な透過率、具体的には90%以上の透過率を有する材料で構成されていることが好ましく、例えばガラスが用いられる。
ガラスとしては、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、酸化ランタン、酸化リチウム、酸化ガドリニウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ホウ素、および酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の成分を含有する無機ガラスを用いることができる。
基材12としては、研削研磨、モールド成形、およびフロート成形等で成形されたガラス基材を用いることができる。基材12と、回折光学素子部13および平坦部15との密着性、基材12の強度、および基材12の平坦性等を向上させるために、基材12の表面を洗浄したり、研磨したりしてもよい。また、基材12と、回折光学素子部13および平坦部15との間に接着層、ハードコート層、および屈折率調節層等を設けてもよい。
回折光学素子部13および平坦部15は、オルガノポリシロキサンを主成分とする材料からなる。オルガノポリシロキサンは、結合エネルギーの高いシロキサン結合を主骨格に含み、高い耐光性を有する。そのため、回折光学素子部13が、オルガノポリシロキサンを主成分とする材料からなることで、回折光学素子部13に光が照射されることに伴う回折光学素子部13の劣化が抑制される。特に、回折光学素子部13を透過する光の強度が100W/cmを超える場合や、回折光学素子部13を透過する光が青色光のようにフォトンエネルギーが高い光の場合に、回折光学素子部13にシロキサンを主成分とする材料を用いることが効果的である。オルガノポリシロキサンは、例えばシリコーン(シリコーンゴム、シリコーン樹脂)であってもよい。
オルガノポリシロキサンは通常、硬化性シリコーンを硬化させて得られる。硬化性シリコーンは、その硬化機構により付加反応型シリコーン、縮合反応型シリコーンに分類されるが、いずれも使用することができる。オルガノポリシロキサンの種類は、回折構造14の形状の転写し易さや材料の流動性の制御し易さから、適宜選択することができる。また硬化方法としては、加熱硬化、紫外線硬化、および湿気硬化等が挙げられるが、硬化物内を均一に硬化させることができ、硬化物内に残留する応力が少ないことから紫外線硬化が好ましい。紫外線硬化であれば、例えば、高精度に回折構造14の形状を転写する際に、転写前後で樹脂を加熱する必要が無く、高精度に回折構造14を形成することができる。
オルガノポリシロキサンを形成する原材料としては、分子中に単一または複数のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、分子中に単一または複数のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。また別の架橋性の反応基として、ビニル基、アリル基、およびイソプロペニル基のようなアルケニル基等のエチレン性二重結合を有するラジカル重合性の官能基や、エポキシ基、オキセタン基、脂環式エポキシ基、およびビニルエーテル基等のカチオン重合性の官能基を有していてもよい。このような原材料から形成されたオルガノポリシロキサンは、直鎖状であっても、分子構造の一部に分枝状の構造を含んでいてもよく、環状体であってもよい。またそれらが網目状に3次元的に架橋していてもよい。
回折光学素子部13は厚さ方向にケイ素の原子濃度と炭素の原子濃度との比率に分布を有している。ここで、厚さ方向とは、基材12と回折光学素子部13とが接する面に垂直な方向、すなわち、回折光学素子10に入射するレーザ光44の進行方向に沿った方向である。回折光学素子部13の厚さ方向において、回折光学素子部13の、基材12と接する面と反対の側の面から、基材12に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を表面側比率(C/Si)aとする。一方、回折光学素子部13の厚さ方向において、回折光学素子部13と基材12とが接する面から、回折光学素子部13の中に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を基材側比率(C/Si)bとする。このとき、本実施形態に係る回折光学素子10は、表面側比率(C/Si)aが基材側比率(C/Si)bより大きいという特徴を有する。これにより、レーザ光源41から、およそ300W/cmの高い強度を有するレーザ光44を長期間照射された場合であっても、回折光学素子10の性能の低下、すなわち、回折光学素子部13における回折効率の低下を抑制することができる。表面側比率(C/Si)aは、基材側比率(C/Si)bの1.5倍以上であることが好ましい。
本実施形態に係る回折光学素子10が、上記特徴を有することで高強度の光を長期間照射された場合であっても、性能の低下を抑制することができる理由は、次のように考えられる。
回折光学素子部13の材料の主成分であるオルガノポリシロキサンは、オルガノポリシロキサンの主骨格を構成するシロキサン結合を含む分子鎖が、アクリル基やエポキシ基等の重合により結合した重合反応部を介して3次元的に結合している。加えて、光学素子部を構成する材料には、上記の3次元的な結合に取り込まれなかった低分子シロキサン、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサンおよびオクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサンが少量残留している。ここでいう主成分とは、材料の80体積%以上を占める成分をいう。
低分子シロキサンは揮発性が高く、3次元的に結合しているシロキサン結合鎖や重合反応部と比較して回折光学素子部13の中で不均一に存在している。そして、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比率について、表面側比率(C/Si)aが基材側比率(C/Si)bより大きいことは、回折光学素子部13の、光が出射する側の表面の近傍における低分子シロキサンの含有割合が小さいことに対応している。すなわち、オルガノポリシロキサンが有する有機基の重合により形成された重合反応部は、回折光学素子部13の中で均一に分布していることから、回折光学素子部13の中の炭素原子も均一に分布している。一方で、炭素原子を有しない低分子シロキサンは、回折光学素子部13の光が出射する側の表面の近傍で含有割合が小さくなっており、その結果、表面側比率(C/Si)aは、基材側比率(C/Si)bより大きな値となっている。
本実施形態に係る回折光学素子10では、回折光学素子部13の、光が出射する側の表面近傍において揮発性の高い低分子シロキサンの残留量が少ないことで、高強度なレーザ光44を長時間照射された際も揮発による変形や屈折率の上昇を抑制することができる。それにより回折効率の低下を防止することができる。
また、回折光学素子部13の、基材12と接する側の面の近傍には、オルガノポリシロキサンの分子鎖の3次元的な構造の中に、流動性の高い低分子シロキサンが比較的多く残留している。これにより回折光学素子部13の、基材12と接する側の面の近傍において、高強度なレーザ光44を長時間照射された際に、残留応力の解放や発熱に伴う膨張によってクラックが発生することを抑制することができる。その結果、回折光学素子10の回折効率の低下を抑制することができる。表面側比率(C/Si)aが、基材側比率(C/Si)bの1.5倍以上であれば、上記で述べた効果をより高く得ることができる。
また、本実施形態に係る回折光学素子10において、平坦部15の、基材12と接する面と反対の側の面から基材12の方向に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対すると炭素原子の原子濃度比を(C/Si)cとする。このとき、(C/Si)aは(C/Si)cの0.9倍以上1.1倍以下であることが好ましい。
高強度なレーザ光44が長時間照射される回折光学素子部13の周囲に位置する平坦部15が、回折光学素子部13と同様の組成を有することで、高強度なレーザ光44を長時間照射した時の熱膨張による面形状の変化を緩和することができる。(C/Si)aが(C/Si)cの0.9倍以上であれば、回折光学素子部13が平坦部15より大きく熱膨張することによる面形状の変化を抑制することができる。また、(C/Si)aが(C/Si)cの1.1倍以下であることで、平坦部15が回折光学素子部13より大きく熱膨張することによる面形状の変化を抑制することができる。
平坦部15の厚さは、成形のしやすさや材料のクラック発生のしやすさ等を加味して設定すればよいが、20μm以上設けることが好ましい。平坦部15の厚さを20μm以上とすることで、回折光学素子部13の光が出射される側の面において低分子シロキサンが揮発した場合でも、クラックの発生を抑制することができる。
回折光学素子部13および平坦部15における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比は以下の方法で測定することができる。
まず回折光学素子部13および平坦部15の断面を5か所切り出し、電子顕微鏡で拡大する。次に、5か所についてエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy(EDS))により面分析する。面分析は、各5か所において膜全体の情報が得られるように行う。面分析によって検出された膜厚方向(基材12に対して垂直な方向)における、ケイ素原子の強度値と炭素原子の強度値とから、膜厚方向の所定範囲についてケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を算出する。5か所について得られた平均値をさらに平均化して、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比とする。
本実施形態に係る回折光学素子10は、回折光学素子部13の光が出射される側の面の上に、被覆層をさらに有することが好ましい。回折光学素子10が被覆層をさらに有することで、高強度なレーザ光44を長時間照射された際の、低分子シロキサンの急激な揮発による変形や屈折率の上昇を抑制することができる。なお、回折光学素子10が被覆層をさらに有するとき、被覆層は、回折光学素子部13のみでなく、平坦部15も同時に覆うように形成されていることが好ましい。
被覆層は、無機酸化物あるいは無機フッ化物を主成分とすることが好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化タンタル、および酸化ジルコニウム等が挙げられる。無機フッ化物としては、フッ化マグネシウム等が挙げられる。特に回折光学素子部13は、オルガノポリシロキサンを主成分とする材料からなることから、回折光学素子部13と被覆層との密着性等の観点から、被覆層は、オルガノポリシロキサンと相性の良い酸化ケイ素を主成分として含むことが好ましい。
被覆層は、1つの層からなってもよく複数の層からなるものであってもよい。また、被覆層の厚さとしては、40nm以上500nm以下であることが好ましい。被覆層の厚さが40nm以上であれば、高強度なレーザ光44を長時間照射された際の、低分子シロキサンの急激な揮発を効果的に抑制することができる。また、被覆層の厚さが500nm以下であれば、被覆層の応力が大きくなり過ぎず、高強度なレーザ光44を長時間照射された際に、回折光学素子部13が変形することを抑制することができる。
次に、第1実施形態に係る回折光学素子10の製造方法の一例について説明する。
第1実施形態に係る回折光学素子10の製造方法は、基材12の上に光学素子部としての回折光学素子部13を形成する工程を含み、回折光学素子部13を形成する工程は、後処理を行う工程を含む。そして、後処理を経て形成された回折光学素子部13について、回折光学素子部13の、基材12と接する面と反対の側の面から基材12の方向に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比を(C/Si)aとする。また、回折光学素子部13と基材12とが接する面から、回折光学素子部13の中に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比を(C/Si)bとする。このとき、(C/Si)aは(C/Si)bより大きい。
基材12の上に回折光学素子部13を形成する工程は、以下の工程を含むことが好ましい。
(1)基材12の上にオルガノポリシロキサンを主成分とする原材料を載置する工程。
(2)原材料を基材12と型部材とで挟んで加圧する工程。
(3)原材料を硬化してオルガノポリシロキサンを主成分とする材料からなる回折光学素子部13を形成する工程。
(4)型部材を回折光学素子部13から離型する工程。
(5)回折光学素子部13に後処理を行う工程。
また、基材12の上に回折光学素子部13を形成する工程は、(4)型部材を回折光学素子部13から離型する工程と、(5)回折光学素子部13に後処理を行う工程と、の間に、回折光学素子部13の上に被覆層を形成する工程を含むことがより好ましい。
図4(a)~図4(h)は、第1実施形態に係る回折光学素子10の製造方法の説明図である。
まず、図4(a)に示すように、回折構造14と対応した形状の表面を含む型部材としての転写型81を準備する。転写型81としては例えば石英等を用いることができる。転写型81の転写面には、後の離型が円滑に行われるよう離型剤82が塗布される。離型剤82としては、例えばフッ素系コーティング剤等を用いることができる。
次に図4(b)に示すように、基材12の一方の面に、オルガノポリシロキサンの原料を主成分とする原材料83を一定量載置する。原材料83の載置に当たっては、原材料83中や原材料83と基材12との間に、泡等の空気だまりが残らないよう工夫することが好ましい。
次に図4(c)に示すように基材12に載置された原材料83と転写型81の転写面とを対向させ、図4(d)に示すように原材料83を基材12と転写型81とで挟んで押圧力Fを加える。この際にも、原材料83中に空気だまりが残らないよう、例えば真空排気しながら行うのが好ましい。
次に図4(e)に示すように、加圧された状態の原材料83に紫外線(UV)を照射して原材料83を硬化させる。UVは基材12側から照射してもよいし、転写型81側から照射してもよい。これにより硬化部材84が形成される。硬化部材84の硬化が十分に進行した後、図4(f)に示すように転写型81を硬化部材84から離型することで、図4(g)に示す回折構造14を有する回折光学素子部13が形成される。その後、図4(h)に示すように、回折光学素子部13の表面に被覆層16を形成し、その後、回折光学素子部13に後処理を行う。なお、本実施形態においては、回折光学素子部13とともに平坦部15も同時に一体に形成されることが好ましい。この時、被覆層は、回折光学素子部13のみでなく、平坦部15も同時に覆うように形成されることが好ましく、また、後処理は平坦部に対しても回折光学素子部13と同時に施されることが好ましい。
後処理を行う工程としては、後処理を経た回折光学素子部13について、その性能を損なうことなく、(C/Si)aが(C/Si)bより大きくなるような処理であれば、いかなる処理であっても良い。後処理を行う工程としては、例えば、加熱および減圧乾燥が挙げられる。回折光学素子部13にこれらの後処理を行うことで、回折光学素子部13の、基材12と接する面と反対の側の面から、低分子シロキサンを揮発させることができる。
後処理は、効果的に低分子成分を揮発できることから加熱処理であることが好ましい。例えば、加熱処理は、100~200℃の範囲内の温度で行うことができる。特に、後処理としての加熱処理は、温度120℃以上、加熱時間2時間以上の条件で行われることが好ましい。回折光学素子部13に対して後処理として加熱処理を施すことで、回折光学素子部13の、基材12と接する面と反対の側の面から、低分子シロキサンを面内で均一に除去することができる。回折光学素子部13の、基材12と接する面と反対の側の面から、低分子シロキサンを面内で均一に除去することで、レーザ光44の照射部と非照射部と間での応力や発熱による変形差を低減することができ、クラックの発生を効果的に抑制することができる。
また、後処理は、減圧乾燥であってもよく、具体的には、50Pa以下の減圧下で2時間以上乾燥させることが好ましい。また、上記の加熱処理と組み合わせて加熱減圧処理を後処理として行ってもよい。
被覆層16を形成する工程は、上記では後処理を行う工程の前にある例を述べたが、後処理を行う工程の後にあってもよい。回折光学素子部13が被覆層16を有する状態で後処理を行うことで、低分子シロキサンが急激に揮発することを抑制することでき、その結果、低分子シロキサンの急激な揮発に起因する回折光学素子部13でのクラックの発生を抑制することができる。そのため、被覆層16を形成する工程は、後処理を行う工程の前にあることが好ましい。
被覆層16を形成する工程には、蒸着法やスパッタリング法等の乾式成膜法や、スピンコート法、スプレーコート法、およびディップコート法等のコーティング液を用いた湿式成膜法を用いることができる。回折構造14の複雑な形状への層の追従性の観点から乾式成膜法が好ましく、湿式成膜法であればスピンコート法やスプレーコート法が好ましい。
[実施例]
次に、第1実施形態に係る光学素子について、実施例および比較例を用いてさらに説明するが、本発明を実施するための態様は、以下の実施例で示す具体例によって限定されるものではない。
(実施例1)
ガラスの基材12を用意し、基材12の表面にシロキサン系UV硬化樹脂(商品名:KER-4000-UV、信越化学工業社製)を用いて回折構造14を有する回折光学素子部13を形成した。回折構造14を有する回折光学素子部13の形成プロセスは、図4(a)~図4(g)を用いて説明した通りである。また、回折光学素子部13の周囲には平坦部15が形成されている。その後、回折光学素子部13の上に被覆層16を形成した後、後処理を行った。
被覆層16の形成には、スパッタリング法を用いた。回折光学素子部13の表面に、酸化ケイ素を用いて層厚が80nmとなるようにスパッタリング法により成膜を行った。続いて後処理を行う工程として、180℃に加熱した熱風循環オーブン中で96時間加熱を行った。
上記のように作製した実施例1に係る回折光学素子10について、波長455nm(300W/cm)のレーザ光44を透過回折させたときの初期の回折効率、およびレーザ光44を1000時間照射した後の回折効率を測定した。その結果、初期の回折効率は97.5%であり、レーザ光44を1000時間照射後の回折効率も97.5%であった。
上記で作製した実施例1に係る回折光学素子10について、回折光学素子部13の断面を切り出し、電子顕微鏡を用いたEDSでの面分析を実施した結果を図5に示す。なお、図5では、回折光学素子部13の、基材12と接する面と反対の側の面から、基材12の方向に向かって進んだ距離を、厚さ方向位置として示す。
図5に示すように、実施例1に係る回折光学素子10は、回折光学素子部13の基材12と接する面と反対の側(外気と接する側)において、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比(図5中の縦軸C/Si)について高い値を示した。EDSでの面分析の結果から表面側比率(C/Si)aおよび基材側比率(C/Si)bを算出したところ、表面側比率(C/Si)aは2.42であり、基材側比率(C/Si)bは1.08であった。また、回折構造14を有しない平坦部15に対しても同様にEDSでの面分析を行い、(C/Si)cを算出したところ2.40であった。
(実施例2)
実施例2では、回折光学素子部13の上に被覆層16を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、光学素子を作成した。
実施例2に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に、波長455nm(300W/cm)のレーザ光44を透過回折させたときの初期の回折効率、およびレーザ光44を1000時間照射した後の回折効率をそれぞれ測定した。その結果、初期の回折効率は97.1%であり、レーザ光44を1000時間照射した後の回折効率も97.1%であった。
また、実施例2に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に断面を切り出して面分析を実施した。その結果、表面側比率(C/Si)aは2.72、基材側比率(C/Si)bは1.20、(C/Si)cは2.67であった。
(実施例3)
実施例3では、後処理における加熱条件を、150℃の熱風循環オーブン中で96時間加熱としたこと以外は、実施例1と同様にして、光学素子を作成した。
実施例3に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に、波長455nm(300W/cm)のレーザ光44を透過回折させたときの初期の回折効率、およびレーザ光を1000時間照射した後の回折効率をそれぞれ測定した。その結果、初期の回折効率は97.4%であり、レーザ光44を1000時間照射した後の回折効率は96.7%であった。
また、実施例3に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に断面を切り出して面分析を実施した。その結果、表面側比率(C/Si)aは1.62、基材側比率(C/Si)bは1.08、(C/Si)cは1.59であった。
(実施例4)
実施例4では、後処理における加熱条件を150℃の熱風循環オーブン中で24時間加熱としたこと以外は、実施例1と同様にして、光学素子を作成した。
実施例4に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に、波長455nm(300W/cm)のレーザ光44を透過回折させたときの初期の回折効率、およびレーザ光を1000時間照射した後の回折効率をそれぞれ測定した。その結果、初期の回折効率は96.9%であり、レーザ光44を1000時間照射後の回折効率は88.4%であった。
また、実施例4に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に断面を切り出して面分析を実施した。その結果、表面側比率(C/Si)aは1.31、基材側比率(C/Si)bは1.08、(C/Si)cは1.33であった。
(比較例1)
比較例1では、被覆層16の形成と後処理とを行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして光学素子を作成した。
比較例1に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に、波長455nm(300W/cm)のレーザ光を透過回折させたときの初期の回折効率、およびレーザ光を1000時間照射した後の回折効率をそれぞれ測定した。その結果、初期の回折効率は97.1%であり、レーザ光44を1000時間照射後の回折効率は76.4%であった。
また、比較例1に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に回折光学素子部13の断面を切り出して面分析を実施した。その結果を図6に示す。なお、図6では、回折光学素子部13の、基材12と接する面と反対の側の面から、基材12の方向に向かって進んだ距離を、厚さ方向位置として示す。
図6に示すように、比較例1に係る回折光学素子10は、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比(図6の縦軸C/Si)について厚さ方向に分布がみられなかった。EDSでの面分析の結果から、表面側比率(C/Si)a、基材側比率(C/Si)b、および(C/Si)cを算出した。その結果、表面側比率(C/Si)aは1.08、基材側比率(C/Si)bは1.09、(C/Si)cは1.08であった。
(比較例2)
比較例2では、後処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして光学素子を作成した。
比較例2に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に、波長455nm(300W/cm)のレーザ光44を透過回折させたときの初期の回折効率、およびレーザ光を1000時間照射した後の回折効率をそれぞれ測定した。その結果、初期の回折効率が97.3%であり、レーザ光44を1000時間照射後の回折効率は81.2%であった。
また、比較例2に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に断面を切り出して面分析を実施した。その結果、表面側比率(C/Si)aは1.08、基材側比率(C/Si)bは1.09、(C/Si)cは1.08であった。
(比較例3)
比較例3では、後処理の代わりに波長455nm(1200W/cm)のレーザ光44を回折光学素子部13に200時間照射したこと以外は、実施例2と同様にして光学素子を作成した。
比較例3に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に、波長455nm(300W/cm)のレーザ光44を透過回折させたときの初期の回折効率、およびレーザ光を1000時間照射した後の回折効率をそれぞれ測定した。その結果、初期の回折効率は85.2%であり、レーザ光44を1000時間照射後の回折効率は74.3%であった。
また、比較例3に係る回折光学素子10について、実施例1と同様に断面を切り出して面分析を実施した。その結果、表面側比率(C/Si)aは1.83、基材側比率(C/Si)bは1.10、(C/Si)cは1.08であった。
表1に、実施例1~4および比較例1~3に係る回折光学素子10について得られた結果をまとめて示す。
なお、回折効率については、レーザ光44を1000時間照射する前後での変化量が1.0%以下である場合をA、変化量が1.0%より大きく10.0%以下である場合をB、変化量が10.0%より大きい場合をCと評価した。
【表
表1に示されるように、後処理を行うことで回折光学素子10について表面側比率(C/Si)aが基材側比率(C/Si)bより大きい値となった。その結果、高強度のレーザ光44を1000時間照射した後においても高い回折効率を維持できることが確認できた。
さらに、表面側比率(C/Si)aが、基材側比率(C/Si)bの1.5倍以上であれば、高強度のレーザ光44を1000時間照射する前後での回折効率の変化量が1.0%以下となり、回折効率の低下を抑制する効果を高く得ることができた。
一方、被覆層16の形成および後処理を行わなかった比較例1では、高強度のレーザ光44を1000時間照射する前後での回折効率の変化量が10%より大きくなった。また後処理を行わなかった比較例2においても同様に、レーザ光44を1000時間照射する前後での回折効率の変化量が10%より大きかった。比較例1および2ではいずれも、基材側比率(C/Si)bは表面側比率(C/Si)aより大きい値となった。
さらに、比較例3においても、レーザ光44を1000時間照射する前後での回折効率の変化量が10%より大きかった。比較例3では、(C/Si)a1と(C/Si)cとで値が大きく異なっており、(C/Si)a1は(C/Si)cの1.1倍より大きい値となった。
本発明に係る光学素子は、プロジェクタ500の他、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、電子ビューファインダー(Electrical View Finder(EVF))、車載機器、およびヘッドアップディスプレイ等に用いることができる。
本発明の実施形態に係る開示は、以下の構成および方法を含む。
(構成1)
基材と、
前記基材の上にオルガノポリシロキサンを主成分とする材料からなる光学素子部と、
を有する光学素子であって、
前記光学素子部について、前記光学素子部の、前記基材と接する面と反対の側の面から、前記基材に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を(C/Si)aとし、前記光学素子部と前記基材とが接する面から、前記光学素子部の中に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を(C/Si)bとしたとき、
(C/Si)aが(C/Si)bより大きい、ことを特徴とする光学素子。
(構成2)
前記(C/Si)aが前記(C/Si)bの1.5倍以上である、構成1に記載の光学素子。
(構成3)
前記光学素子部の上に、無機酸化物または無機フッ化物を主成分とする被覆層をさらに有する、構成1または2に記載の光学素子。
(構成4)
前記光学素子は回折光学素子であり、
前記光学素子部は、回折構造を有する回折光学素子部であり、
前記回折光学素子は、前記基材の上に、前記回折光学素子部と一体に形成され、平坦な表面を有する平坦部をさらに有し、
前記平坦部の、前記基材と接する面と反対の側の面から前記基材に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比の平均値を(C/Si)cとしたとき、(C/Si)aは(C/Si)cの0.9倍以上1.1倍以下である、構成1~3のいずれか1つの構成に記載の光学素子。
(構成5)
複数のレーザ光源と回折光学素子とを備えており、
前記回折光学素子が、前記複数のレーザ光源に対して光出射側に配置され、
前記回折光学素子が構成4に記載の回折光学素子である、ことを特徴とする光源装置。
(構成6)
複数のレーザ光源が、半導体レーザを有する、構成5に記載の光源装置。
(構成7)
複数のレーザ光源から出射される光が、青色光を含む、構成5または6に記載の光源装置。
(構成8)
前記回折光学素子に対して光出射側に配置された蛍光体をさらに有し、
前記蛍光体が、セリウムをドープしたイットリウムアルミニウム酸化物を含む、構成5~7のいずれか1つの構成に記載の光源装置。
(構成9)
光学系と前記光学系を制御する制御装置とを備える画像投影装置であって、
光学系が、光源装置と複数の光学素子とを含み、
前記光源装置が構成5~8のいずれか1つの構成に記載の光源装置である、ことを特徴とする画像投影装置。
(構成10)
複数のレーザ光源が、半導体レーザを有する、構成9に記載の画像投影装置。
(構成11)
複数のレーザ光源から出射される光が、青色光を含む、構成9または10に記載の画像投影装置。
(構成12)
前記光源装置が、前記回折光学素子に対して光出射側に配置された蛍光体をさらに有し、
前記蛍光体が、セリウムをドープしたイットリウムアルミニウム酸化物を含む、構成9~11のいずれか1つの構成に記載の画像投影装置。
(構成13)
前記光学系が、前記蛍光体を介して前記光源装置から出射された光を、赤色光と緑色光と青色光とに分離し、
前記制御装置がカラー画像を生成する、請求項12に記載の画像投影装置。
(方法1)
基材の上にオルガノポリシロキサンを含む光学素子部を形成する工程を有する、光学素子の製造方法であって、
前記光学素子部を形成する工程は、後処理を行う工程を含み、
前記後処理を経て形成された前記光学素子部について、前記光学素子部の、前記基材と接する面と反対の側の面から前記基材に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比を(C/Si)aとし、前記光学素子部と前記基材とが接する面から、前記光学素子部の中に向かって0.5μmから3μmの範囲における、ケイ素原子に対する炭素原子の原子濃度比を(C/Si)bとしたとき、
(C/Si)aが(C/Si)bより大きい、ことを特徴とする光学素子の製造方法。
(方法2)
前記後処理が、加熱処理であり、
前記加熱処理は、温度120℃以上、加熱時間2時間以上の条件で行われる、方法1に記載の光学素子の製造方法。
(方法3)
前記光学素子部を形成する工程が、
前記基材の上にオルガノポリシロキサンを主成分とする原材料を載置する工程と、
前記原材料を前記基材と型部材とで挟んで加圧する工程と、
前記原材料を硬化させた後に前記型部材から離型する工程と、
を含む、方法1または2に記載の光学素子の製造方法。
(方法4)
前記光学素子部を形成する工程が、前記原材料を硬化させた後に前記型部材から離型する工程と前記後処理を行う工程との間に、前記光学素子部を覆う被覆層を形成する工程を含む、方法3に記載の光学素子の製造方法。
(方法5)
前記被覆層が酸化ケイ素からなる、方法4に記載の光学素子の製造方法。
【符号の説明】
10 回折光学素子
12 基材
13 回折光学素子部
14 回折構造
15 平坦部
16 被覆層
41 レーザ光源
44 レーザ光
81 転写型
500 プロジェクタ
501 光源装置
【図
【図
【図
【図
【図
【図