(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用の活性アノード物質としての、特定の塩素含有率を有するシリコン粒子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021518120
(86)(22)【出願日】2018-10-02
(85)【翻訳文提出日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2018076809
(87)【国際公開番号】W WO2020069728
(87)【国際公開日】2020-04-09
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プファイファー,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ハネルト,エックハルト
(72)【発明者】
【氏名】ヘルライン,ハラルト
(72)【発明者】
【氏名】ヘッセ,カール
(72)【発明者】
【氏名】マウラー,ローベルト
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050GA02
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】
本発明は、リチウムイオン電池用の活性アノード材料に関するものであり、これは、活性アノード材料が、5~200ppmの塩素含有率及び0.5μm~10.0μmの直径パーセンタイルd50の体積加重粒径分布を有する1種以上の非強凝集シリコン粒子を含むことを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用アノード活物質であって、5~200ppmの塩素含有率、及び0.5μm~10.0μmの直径パーセンタイルd
50を有する体積加重粒径分布を有する1種以上の非強凝集シリコン粒子を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項2】
前記シリコン粒子の50重量%以上が、前記シリコン粒子の総重量に対して、5~200ppmの塩素含有率を有することを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項3】
前記シリコン粒子が多結晶性であり、5~200nmの結晶サイズを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項4】
前記シリコン粒子が、
1) 600℃~1000℃の堆積温度で、流動床反応器中でトリクロロシラン及び/又はジクロロシランを含む反応ガスを熱分解によって、粒状シリコンを形成すること、及びそれに続く、
2) ステップ1)の粒状シリコンをミリングして、シリコン粒子を形成すること、
によって得られることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項5】
ステップ1)が流動床反応器中で行われることを特徴とする、請求項4に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項6】
前記反応ガスが、モノシラン(SiH
4)を含まないことを特徴とする、請求項4又は5に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項7】
前記反応ガス中のジクロロシラン及び/又はトリクロロシランの割合が、シランの総重量に基づいて50~100重量%であることを特徴とする、請求項4~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項8】
前記反応ガス中のモノクロロシランの割合が、シランの総重量に基づいて0~50重量%であることを特徴とする、請求項4~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項9】
前記粒状シリコンが、流動床中で、シリコンで構成された種晶上に反応ガスが堆積することによって生成されることを特徴とする、請求項4~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項10】
前記熱分解が700℃~1000℃の反応領域の流動床の温度で行われることを特徴とする、請求項4~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のアノード活物質を1種以上含むリチウムイオン電池用アノード。
【請求項12】
カソード、アノード、セパレータ及び電解質を含むリチウムイオン電池であって、前記アノードが請求項1~10のいずれか一項に記載のアノード活物質を1種以上含むことを特徴とする、リチウムイオン電池。
【請求項13】
前記アノードが、完全に充電されたリチウムイオン電池において部分的にのみリチウム化されることを特徴とする、請求項12に記載のリチウムイオン電池。
【請求項14】
アノード材料中のケイ素原子に対するリチウム原子の比が、リチウムイオン電池の完全充電の状態で3.5以下であることを特徴とする、請求項13に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用のシリコン粒子を含むアノード活物質、アノード活物質を含むアノード、及び対応するリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能なリチウムイオン電池は、現在のところ、最も大きな質量エネルギー密度を有する最も実用的に有用な電気化学的エネルギー貯蔵装置である。シリコンは特に高い理論的物質容量(4200mAh/g)を有し、したがってリチウムイオン電池のアノードの活物質として特に適している。
【0003】
シリコンを含むアノード活物質は、不利なことに、充電又は放電中に約300%までの極端な体積変化を受ける。この体積変化は、アノード活物質及びアノード構造全体の高い機械的応力をもたらし、これは、電気化学的ミリングとも呼ばれ、電気接触の損失及びアノードの破壊につながり、したがってアノードの容量の損失をもたらす。
【0004】
さらに、シリコンアノード活物質の表面は、不動態化保護層(固体電解質界面、SEI)の連続形成を伴って、電解質の構成成分と反応する。形成された成分はもはや電気化学的活性を持たない。その中に結合したリチウムは、もはや系には利用できなくなり、電池の容量の連続的な損失につながる。シリコンの極端な体積変化のために、電池の充電又は放電処理は、以前に形成されたSEIを頻繁にはじけさせ、その結果、シリコンアノード活物質のさらなる表面が露出され、そのためさらなるSEI形成に供される。フルセル中の利用可能な容量に相当する可動性リチウムイオンの量が制限されるため、これは消費され、電池の帯電及び放電サイクルの数に伴ってセルの容量が低下する。多くの充放電サイクルの過程にわたる容量の低下は、減退又は連続的な容量の喪失とも呼ばれ、一般に不可逆的である。
【0005】
リチウムイオン電池用のアノード活物質としてのシリコン粒子の使用については、例えば、WO2017/025346号、WO2014/202529号及びUS7141334号に記載されている。EP1730800号は、これらの目的のために、一次粒子が5~200nmの平均粒径を有する強凝集したナノサイズのシリコン粒子を教示する。アノード被膜は、通常、シリコンに加えて、結合剤、グラファイト又は導電性添加剤などのさらなる成分を含む。
【0006】
アノード活物質の出発物質としてのシリコンの製造には、多くの工業的方法及び方法の変形例が知られている。シリコンの冶金的製造では、二酸化ケイ素が炭素と反応する。別の方法では、シランが、例えば、シーメンス法、コマツ-ASiMI法又は流動床法によって熱分解することによって、シリコンに変換される。シーメンス方法及びまたコマツ-ASiMI方法では、シリコン棒上にシリコンが堆積されるが、流動床方法では、シリコン粒子上にシリコンが堆積される。シランとしては、モノシラン(SiH4)又はクロロシランが頻繁に使用される。
【0007】
US8734991号は、リチウムイオン電池用のアノード活物質として、密度2.300~2.320g/cm3、及び結晶直径20~100nmの多結晶シリコン粒子を推奨する。シリコン粒子を製造するための様々な方法がUS8734991号に報告されている。棒へのシリコンの堆積、すなわちシーメンス法又はコマツ-ASiMI方法による場合、シランによって異なる堆積温度が規定される。例えば、モノシラン(SiH4)の場合は850℃、トリクロロシランの場合は1100℃、及びジクロロシランの場合1000℃未満である。流動床法について、モノシラン(SiH4)及び600~800℃の堆積温度が開示されている。US8734991号は、US8734991号で試験した方法により過度に大きな結晶直径を有するシリコン粒子が形成されたため、一般的にトリクロロシランを推奨していない。US8734991号のシーメンス方法によるトリクロロシランの熱分解は、US8734991号の目的にとっては比重も過度に高いシリコン粒子につながる。US8734991号は、トリクロロシランの熱分解についての堆積温度が1100℃であることを示す。
【0008】
WO2017058024号は、リチウムイオン電池用のSi/C複合アノードを推奨する。これらの複合アノードに存在するシリコン粒子の製造は、堆積温度1150℃でトリクロロシランを用いるシーメンス法、又はモノシラン(SiH4)を用いる流動床反応器中で、又は好ましくは冶金的製造により行った。
【0009】
US9099717号は、アノード活物質としての、2.250~2.330g/cm3の密度、0.1~5.0m2/gのBET比表面積、400~800MPaの圧縮強度、及び20~100nmの結晶直径を有する多結晶シリコン粒子を開示する。このシリコン粒子の製造は、電子ビームによる金属シリコンの蒸発と、得られたガス状シリコンの、300~800℃の温度を有する基材への減圧下での堆積によって行った。
【0010】
DE102012207505号及びDE3781223号は、太陽光発電又はエレクトロニクス産業、特に半導体産業用の粒状シリコンの製造に関する。これらの文献では、粒状シリコンは流動床反応器中のシリコン種晶上でのトリクロロシランの熱分解によって得られる。このような粒状シリコン材料は、通常、150μm~10000μmの粒径を有する。シーメンス法は、例えば、DE102007047210号で説明されている。このようにして得られたシリコン棒は、1~150mmの寸法を有する断片に破砕される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2017/025346号
【特許文献2】国際公開第2014/202529号
【特許文献3】米国特許第7141334号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1730800号明細書
【特許文献5】米国特許第8734991号明細書
【特許文献6】国際公開第2017/058024号
【特許文献7】米国特許第9099717号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第102012207505号明細書
【特許文献9】独国特許発明第3781223号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開第102007047210号明細書
【発明の概要】
【0012】
この背景に照らして、本発明の目的は、リチウムイオン電池で使用される場合に、可能であれば、容量の小さな不可逆的損失が最初のサイクルで得られ、容量の非常に低い損失を伴うより安定な電気化学的挙動がその後に続くサイクルで達成される、高いサイクル安定性を可能にするアノード活物質を提供することであった。
【0013】
本発明は、アノード活物質が、5~200ppmの塩素含有率及び0.5μm~10.0μmの直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒径分布を有する1種以上の非強凝集シリコン粒子を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池用のアノード活物質を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の乾燥したシリコン粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例1のシリコン粒子(薄灰色で識別可能なシリコン粒子)を含む電極被膜のFIB断面の走査型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による非強凝集シリコン粒子は、以下、短くシリコン粒子とも呼ばれる。
【0016】
シリコン粒子は、好ましくは10~150ppm、より好ましくは15~130ppm、さらにより好ましくは16~110ppm、特に好ましくは17~100ppm、最も好ましくは20~90ppmの塩素含有率を有する(測定方法:好ましくはBruker AXS S8 Tiger 1、特にロジウムアノードを用いるX線蛍光分析)。
【0017】
シリコン粒子の総重量に基づいて、≧50重量%、より好ましくは≧75重量%、特に好ましくは≧90重量%、最も好ましくは≧99重量%の、本発明による塩素含有率を有するシリコン粒子が好ましい。
【0018】
シリコン粒子は、好ましくは1.0~8.0μm、特に好ましくは1.5~7.0μm、最も好ましくは2.0~6.0μmの直径パーセンタイルd50を有する体積加重粒径分布を有する。
【0019】
シリコン粒子の体積加重粒径分布は、好ましくは0.2μm~10μm、特に好ましくは0.5μm~5.0μm、最も好ましくは0.8μm~3.0μmの直径パーセンタイルd10を有する。
【0020】
シリコン粒子の体積加重粒径分布は、好ましくは2.0μm~20.0μm、特に好ましくは3.0~15.0μm、最も好ましくは5.0μm~10.0μmの直径パーセンタイルd90を有する。
【0021】
シリコン粒子の体積加重粒径分布は、好ましくは≦20.0μm、特に好ましくは≦14.0μm、最も好ましくは≦9.0μmの幅d90-d10を有する。幅d90-d10は好ましくは≧0.6μm、特に好ましくは≧0.8μm、最も好ましくは≧1.0μmである。
【0022】
シリコン粒子の体積加重粒径分布は、静的レーザー光散乱、好ましくは、シリコン粒子の分散媒体としてアルコール、例えば、エタノール又はイソプロパノール、又は好ましくは水を使用するHoriba LA 950測定機器を使用する静的レーザー光散乱により決定することができる。
【0023】
シリコン粒子は元素状シリコンをベースとすることが好ましい。本発明の目的のために、元素状シリコンは、任意に少ない割合の異種原子(例えばB、P、As)を有する高純度及び/又は多結晶シリコンであることが好ましい。
【0024】
シリコン粒子は、好ましくは≧95重量%、より好ましくは≧98重量%、特に好ましくは≧99重量%、最も好ましくは≧99.9重量%のシリコンを含む。重量パーセントにおける数字は、シリコン粒子の総重量、特にシリコン粒子の総重量からその中の酸素の割合を引いたものに基づく。シリコン粒子中のシリコンの本発明による割合は、Perkin Elmer社のOptima 7300 DV測定機器を用いて、EN ISO 11885:2009に従ったICP(誘導結合プラズマ)発光分析法によって求めることができる。
【0025】
シリコン粒子は一般に酸化ケイ素を含む。酸化ケイ素はシリコン粒子の表面に存在することが好ましい。酸化ケイ素は、例えば、ミリングによるシリコン粒子の製造において又は空気中での貯蔵時に形成され得る。このような酸化物層は、自然酸化物層とも呼ばれる。
【0026】
シリコン粒子は、一般に酸化物層、特に0.5~30nm、特に好ましくは1~10nm、最も好ましくは1~5nmの厚さ(測定方法:例えば、HR-TEM(高分解能透過型電子顕微鏡))を有する酸化ケイ素層をその表面に有する。
【0027】
シリコン粒子は、シリコン粒子の総重量に基づいて、0.1~5.0重量%、より好ましくは0.1~2重量%、特に好ましくは0.1~1.5重量%、最も好ましくは0.2~0.8重量%の酸素を含むことが好ましい(Leco TCH-600分析器を用いて測定)。
【0028】
シリコン粒子は強凝集しておらず、好ましくは弱凝集しておらず、及び/又は好ましくはナノ構造でもない。
【0029】
強凝集しているとは、例えば、シリコン粒子の製造における気相法において最初に形成されたような球形又は大まかに球形の一次粒子が、例えば共有結合により共に成長して強凝集体を形成することを意味する。一次粒子又は強凝集体は弱凝集体を形成することができる。弱凝集体は、強凝集体又は一次粒子のゆるい集合体である。弱凝集体は、例えば、混練処理又は分散処理によって、再び一次粒子又は強凝集体に容易に分解され得る。これらの方法では、強凝集体を一次粒子に分解することはできないし、実質的に分解することもできない。強凝集体及び弱凝集体は、一般に、好ましいシリコン粒子とは全く異なる球形度及び粒子形状を持ち、一般に球状ではない。例えば、強凝集体及び弱凝集体の形のシリコン粒子の存在は、従来の走査型電子顕微鏡法(SEM)によって見ることができる。対照的に、シリコン粒子の粒径分布又は粒径を決定するための静的光散乱法は、強凝集体と弱凝集体を区別できない。
【0030】
シリコン粒子は、好ましくは鋭利な縁の破壊面を有するか、又は好ましくは破片形状である。
【0031】
シリコン粒子は、好ましくは0.3≦ψ≦0.9、特に好ましくは0.5≦ψ≦0.85、最も好ましくは0.65≦ψ≦0.85の球形度を有する。このような球形度を有するシリコン粒子は、特に、ミリング方法によって得ることができる。球形度ψは、本体の実際の表面積に対する同じ体積の球の表面積の比(Wadellの定義)である。球体の場合、ψは1の値を持つ。球形度は、例えば、従来のSEM画像から決定することができる。
【0032】
シリコン粒子は、真円度体積分布のパーセンタイルc10~c90に基づいて、好ましくは0.4~0.9の範囲で、特に好ましくは0.5~0.8の範囲で真円度cを有する。真円度cは、平面に対する粒子の投影面積Aの、この投影の対応する円周Uの二乗で割った比、すなわち、c=4π×A/U2に比例する。円形の投影面積の場合、cは1の値と見なす。真円度cの測定は、例えば、光学顕微鏡又は<10μmの粒子の場合好ましくは走査型電子顕微鏡を用いて採取された個々の粒子の顕微鏡写真を活用して、画像解析ソフトウェア、例えば、ImageJによるグラフ評価によって行われる。
【0033】
ナノ構造ではないシリコン粒子は、一般的に特徴的なBET比表面積を有する。シリコン粒子のBET比表面積は、好ましくは0.2~10.0m2/g、特に好ましくは0.5~8.0m2/g、最も好ましくは1.0~5.0m2/gである(DIN 66131(窒素を用いる)に従った決定)。
【0034】
シリコン粒子は、好ましくは多結晶性である。したがって、シリコン粒子は、好ましくは単結晶又は非晶質ではない。多結晶は一般に結晶性の固体であり、多数の小さな個々の結晶(結晶子)からなり、それらは粒界によって互いに分離されている。非晶質の材料は、原子が規則的な構造をもたず、代わりに不規則なパターンを形成し、短距離の秩序のみをもち、長距離の秩序をもたない固体である。
【0035】
多結晶シリコン粒子は、好ましくは≦200nm、より好ましくは≦150nm、特に好ましくは≦100nm、最も好ましくは≦80nmの結晶子の大きさによって特徴付けられる。結晶子の大きさは、好ましくは≧5nmであり、特に好ましくは≧10nmであり、最も好ましくは≧15nmである。結晶子の大きさは、2θ=28.4°におけるSi(111)回折ピークの半値全幅から、Scherrer法によるX線回折パターン解析によって決定される。NIST X線回折標準物質SRM640C(単結晶シリコン)は、シリコンのX線回折パターンの標準として役立つことが好ましい。
【0036】
シリコン粒子の密度は、好ましくは2.250~<2.330g/cm3、特に好ましくは2.280~2.330g/cm3、最も好ましくは2.320~2.330g/cm3の範囲にある。この値は単結晶シリコンの値より低い。シリコン粒子の密度は、ヘリウムガスを用いたガス吸着法(比重瓶)により測定することができ、Porotec社のPycnomatic ATC装置を用いることが好ましく、特に試料量は60mlとする。
【0037】
本発明によるシリコン粒子は、一般に以下の手段により得ることができる。
1) 600℃~1000℃の堆積温度で、流動床反応器中でトリクロロシラン及び/又はジクロロシランを含む反応ガスを熱分解によって、粒状シリコンを形成すること、及びそれに続く、
2) ステップ1)の粒状シリコンをミリングして、シリコン粒子を形成すること。
【0038】
本発明は、さらに、リチウムイオン電池用のアノード活物質を製造するための方法を提供し、ここで
1) トリクロロシラン及び/又はジクロロシランを含む反応ガスを、600℃~1000℃の堆積温度で、流動床反応器中で熱分解し、粒状シリコンを形成し、続いて
2) ステップ1)から得られた粒状シリコンをその後ミリングし、シリコン粒子を形成する。
【0039】
ステップ1)は流動床反応器、特に放射加熱流動床反応器で行うことが好ましい。
【0040】
反応ガスは、好ましくは、トリクロロシラン及び/又はジクロロシラン、並びに任意にモノクロロシラン及び任意にモノシラン(SiH4)を含む。トリクロロシランが特に好ましい。反応ガスには特にモノシラン(SiH4)が含まれていないことが好ましい。最も好ましい反応ガスは、トリクロロシラン、及び任意にジクロロシラン、及び任意にモノクロロシランを含む。ジクロロシラン及びモノクロロシランを含む反応ガスもまた、最も好ましい。
【0041】
トリクロロシラン及び/又はジクロロシラン、並びに場合によりモノクロロシラン及び場合によりモノシラン(SiH4)は、シリコン含有反応ガスとも総称される。
【0042】
反応ガス中のジクロロシラン及び/又は特にトリクロロシランの割合は、シランの総重量に基づいて、好ましくは50~100重量%、特に好ましくは90~100重量%、より好ましくは95~100重量%、最も好ましくは99~100重量%である。
【0043】
反応ガス中のモノクロロシランの割合は、シランの総重量に基づいて、好ましくは0~50重量%、特に好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.2~5重量%、最も好ましくは0.5~1重量%である。
【0044】
さらに、反応ガスは水素のような還元ガスも含むことができる。
【0045】
最も好ましくは、反応ガスはトリクロロシラン及び水素からなる。
【0046】
粒状シリコンは、好ましくは、流動床中のシリコン、特にシリコン粒子から構成される種晶上に反応ガスを堆積させることにより製造される。
【0047】
流動床に最初に仕込まれた種晶は、好ましくは、シリコンを含まない流動ガス、特に水素によって流動させ、好ましくは熱放射によって加熱される。熱エネルギーは、通常、加熱中に面加熱ラジエータによって流動床の円周にわたって均一に導入される。反応ガスは、例えば、1つ以上のノズルにより流動床に注入することができる。反応域では、シリコン含有反応ガスが、CVD反応によってシリコン粒子上に元素シリコンとして堆積する。未反応の反応ガス、流動ガス、ガス状の二次反応生成物を反応器から除去する。この方法は、シリコンが堆積した粒子を流動床から定期的に取り出し、種晶を加えることによって連続的に操作することができる。
【0048】
流動床はまた、現在の技術分野では同義で流動層とも呼ばれる。
【0049】
シリコンの熱分解及び堆積は、700℃~1000℃、特に好ましくは760℃~980℃の反応領域の流動床の温度で行うことが好ましい。シリコン含有反応ガスの濃度は、流動床を通るガスの総量に基づいて、好ましくは6モル%~50モル%、特に好ましくは10モル%~40モル%である。反応ガスノズル中のシリコン含有反応ガスの濃度は、反応ガスノズルを通るガスの総量に基づいて、15モル%~65モル%、特に好ましくは25モル%~65モル%、非常に特に好ましくは35モル%~60モル%である。
【0050】
トリクロロシランが反応ガスの主成分である場合、すなわち、例えば、トリクロロシランの割合がシランの総重量に基づいて≧50重量%である場合、熱分解における温度及びシリコン含有反応ガスの濃度に関して、以下が好ましい、すなわち、トリクロロシランを含む反応ガスの熱分解の場合、熱分解は、好ましくは、700℃~1000℃、特に好ましくは760℃~980℃の反応領域の流動床の温度で行われる。トリクロロシランを含むシリコン含有反応ガスの濃度は、流動床を通るガスの総量に基づいて、好ましくは10モル%~50モル%、特に好ましくは15モル%~40モル%である。反応ガスノズル中のシリコン含有反応ガスの濃度は、反応ガスノズルを通るガスの総量に基づいて、好ましくは20モル%~65モル%、特に好ましくは30モル%~65モル%、非常に特に好ましくは40モル%~60モル%である。
【0051】
ジクロロシランが反応ガスの主成分である場合、すなわち、例えば、ジクロロシランの割合がシランの総重量に対して≧50重量%である場合、熱分解における温度及びシリコン含有反応ガスの濃度に関して、以下が好ましい、すなわち、ジクロロシランを含む反応ガスの熱分解の場合、熱分解は、好ましくは、600℃~900℃、特に好ましくは660℃~880℃の反応領域の流動床の温度で行われる。ジクロロシランを含むシリコン含有反応ガスの濃度は、流動床を通るガスの総量に基づいて、好ましくは6モル%~45モル%、特に好ましくは10モル%~39モル%である。反応ガスノズル中のシリコン含有反応ガスの濃度は、反応ガスノズルを通るガスの総量に基づいて、好ましくは15モル%~60モル%、特に好ましくは25モル%~60モル%、非常に特に好ましくは35モル%~55モル%である。
【0052】
流動床反応器内の圧力は、好ましくは1.1~20bara、特に好ましくは2~10baraの範囲である。
【0053】
流動床反応器中の充填床の高さは、好ましくは100~1000mm、特に好ましくは100~500mm、最も好ましくは120~140mmの範囲である。
【0054】
ステップ1)の方法は、連続的に操作することが好ましい。ミリングされた粒状シリコンから構成される種晶は流動床反応器に連続的に供給されることが好ましい。粒状シリコンは流動床反応器から連続的に取り出すことが好ましい。また、これらの措置により、一定の大きさを有する粒状シリコン材が確実に得られるようにしている。
【0055】
さもなければ、流動床反応器中のシリコン含有反応ガスの熱分解によって粒状シリコンを製造する方法は、例えば、DE102012207505号に記載されているように、それ自体知られている従来の方法で行うことができる。
【0056】
ステップ1)で得られた粒状シリコンは100~10000μmの範囲の粒径分布を有する。98質量%は600~4000μmの範囲にあることが好ましく、質量範囲の中央値(d50,3)は1050~2600μmの範囲である(決定法:ISO 13322-2に従った動的画像解析、測定範囲は30μm~30mm、粉末又は顆粒を用いた乾式測定、好ましくはRetsch Technology社のCamsizer測定機器を用いる乾式測定)。
【0057】
ステップ1)で得られたシリコン粒子は、好ましくは0.8≦ψ≦1.0、特に好ましくは0.9≦ψ≦1.0、最も好ましくは0.91≦ψ≦1.0の球形度を有する。球形度ψは、本体の実際の表面積に対する、同じ体積をもつ球の表面積の比(Wadellの定義)である。球形度は、例えば、従来のSEM画像から求めることができる。
【0058】
ステップ1)で得られたシリコン粒子は、好ましくは0.8≦c≦1.0、特に好ましくは0.9≦c≦1.0、最も好ましくは0.91≦c≦1.0の真円度cを有する。真円度cは、平面に対する粒子の投影面積Aの、この投影の対応する円周Uの二乗で割った比、すなわち、c=4π×A/U2である。球形度は、例えば、特にISO 13322-2に従った動的画像解析によって、好ましくはRetsch Technology社のCamsizer測定機器を使用して、粒子の画像からの画像解析によって決定することができる。
【0059】
ステップ2)では、ステップ1)からの粒状シリコンがミリングされ、本発明によるシリコン粒子を形成する。
【0060】
ミリングは、例えば、湿式ミリング方法によって、又は特に乾式ミリング方法によって行うことができる。遊星ボールミル、撹拌ボールミル、又は特にジェットミル、例えば対向ジェットミル又はインパクトミルを使用することが好ましい。これらの目的のためのミリング方法は正確な意味において確立されている。このように、適切な乾乾式ミリング方法は、例えば、WO2018/082789号又はWO2018/082794号に記載されており、対応する湿式乾式ミリング方法は、WO2017/025346号から知られている。
【0061】
ミリングは一般的に非強凝集シリコン粒子を導く。対照的に、もっぱら気相法、例えば蒸着による本発明による粒径分布を有するシリコン粒子の製造は、通常、強凝集シリコン粒子をもたらすことが知られている。
【0062】
本発明は、さらに、本発明によるアノード活物質を含むアノード、特にリチウムイオン電池用のアノードを提供する。
【0063】
アノードは、好ましくは、1種以上の結合剤、任意にグラファイト、任意に1種種以上のさらなる導電性成分、及び任意に1種以上の添加剤を含み、本発明による1種以上のアノード活物質が存在することを特徴とする。
【0064】
さらなる導電性成分の例は、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、又は銅などの金属粒子である。
【0065】
アノードの好ましい配合物は、好ましくは5~95重量%、特に60~85重量%の本発明によるアノード活物質、0~40重量%、特に0~20重量%のさらなる導電性成分、0~80重量%、特に5~30重量%のグラファイト、0~25重量%、特に5~15重量%の結合剤、任意に0~80重量%、特に0.1~5重量%の添加剤をベースとしており、重量パーセントにおける数字は、配合物の総重量に基づいており、配合物の全成分の割合は合計すると100重量%になる。
【0066】
本発明は、カソード、アノード、セパレータ及び電解質を含み、アノードが本発明によるアノード活物質を含むことを特徴とするリチウムイオン電池をさらに提供する。
【0067】
リチウムイオン電池の好ましい実施形態において、完全に充電したリチウムイオン電池のアノード材料は部分的にしかリチウム化されない。
【0068】
本発明は、カソード、アノード、セパレータ及び電解質を含み、アノードが本発明によるアノード活物質を含み、アノード材料がリチウムイオン電池の完全な充電中に部分的にのみリチウム化されることを特徴とする、リチウムイオン電池を充電する方法をさらに提供する。
【0069】
本発明は、さらに、本発明によるアノード材料を、アノード材料がリチウムイオン電池の完全に充電された状態で部分的にのみリチウム化されるように構成されたリチウムイオン電池での使用を提供する。
【0070】
本発明によるアノード活物質とは別に、電極材料及びリチウムイオン電池を製造するために通例使用される出発物質は、これらを製造するために使用することができ、電極材料及びリチウムイオン電池を製造するための通常の方法は、例えばWO2015/117838号又は特許出願番号DE102015215415.7号に記載されているように使用することができる。
【0071】
リチウムイオン電池は、アノードの材料(アノード材料)、特にアノード活物質が、完全に充電した電池で部分的にしかリチウム化されないように、好ましくは構築又は構成及び/又は好ましくは操作されることが好ましい。完全に充電されたとは、電池のアノード材料、特にアノード活物質が最も高いリチウム化度を有する電池の状態を指す。アノード材料の部分リチウム化は、アノード材料中のアノード活物質の最大リチウム取り込み能力が完全には利用されないことを意味する。
【0072】
リチウムイオン電池のアノード中のケイ素原子に対するリチウム原子の比(Li/Si比)は、例えば、電荷の流れにより設定することができる。アノード材料のリチウム化の度合い、又はアノード材料中に存在するシリコン粒子のリチウム化の度合いは、流れた電荷に比例する。この変形例では、リチウムイオン電池の充電中に、リチウムのためのアノード材料の容量は、完全には利用されない。この結果、アノードの部分的なリチウム化が起こる。
【0073】
代替的な、好ましい変形例では、リチウムイオン電池のLi/Si比は、アノード対カソード比(電池バランス)によって設定される。ここで、リチウムイオン電池は、アノードのリチウム取り込み容量が、好ましくは、カソードのリチウム放出容量より大きいように設計される。これは、アノードのリチウム取り込み容量が完全には利用されないこと、すなわち、アノード材料が完全に充電された電池において部分的にのみリチウム化されることにつながる。
【0074】
リチウムイオン電池では、カソードのリチウム容量に対するアノードのリチウム容量の比(アノード/カソード比)は≧1.15が好ましく、特に好ましくは≧1.2であり、最も好ましくは≧1.3である。ここで、リチウム容量という用語は、利用可能なリチウム容量を好ましくは指す。利用可能なリチウム容量は、リチウムを可逆的に貯蔵する電極の能力の尺度である。利用可能なリチウム容量の測定は、例えば、リチウムに対する電極の半電池測定によって行うことができる。利用可能なリチウム容量はmAhで測定される。利用可能なリチウム容量は、一般に、0.8V~5mVの電圧ウインドウにおけるC/2の充放電速度での測定された脱リチウム化容量に対応する。C/2におけるCは、電極被膜の理論的な比容量を指す。
【0075】
アノード被膜の質量に基づいて、≦1500mAh/g、特に好ましくは≦1400mAh/g、最も好ましくは≦1300mAh/gでアノードを充電させることが好ましい。アノード被膜の質量に基づき、少なくとも600mAh/g、特に好ましくは≧700mAh/g、最も好ましくは≧800mAh/gでアノードを充電させることが好ましい。これらの数値は、完全に充電したリチウムイオン電池に基づくことが望ましい。
【0076】
部分リチウム化の場合、リチウムイオン電池の完全充電状態におけるアノード材料中のLi/Si比は、好ましくは≦3.5、特に好ましくは≦3.1、最も好ましくは≦2.6である。リチウムイオン電池の完全充電状態におけるアノード材料中のLi/Si比は、好ましくは≧0.22、特に好ましくは≧0.44、最も好ましくは≧0.66である。
【0077】
リチウムイオン電池のアノード材料のシリコンの容量は、シリコン1g当たり4200mAhの容量に基づいて、≦80%、特に好ましくは≦70%、最も好ましくは≦60%の範囲まで利用することが好ましい。
【0078】
シリコンのリチウム化の程度又はリチウムに対するシリコンの容量の利用率(Si容量利用率α)は、例えば、特許出願番号DE102015215415.7号(11頁4行~12頁25行)に記載されているように、特に、Si容量利用率αのためにそこに示された式、及び「Determination of the delithiation capacity β」及び「Determination of the proportion by weight of Si ωSi」(「参照により援用される」)という見出しの下の補足情報を用いて測定することができる。
【0079】
驚くべきことに、シリコン粒子を含有する本発明によるアノード活物質は、特に安定なサイクル挙動を有するリチウムイオン電池をもたらすことがわかった。部分的なリチウム化でリチウムイオン電池を操作することにより、これらの有利な効果をさらに増大させることができる。
【0080】
ここで、本発明による塩素含有率は、特に重要であることがわかった。塩素含有率がより高い又はより低いシリコン粒子は、アノード活物質として、より低いサイクル安定性を有するリチウムイオン電池を与えた。さらに、塩素含有率が高いと、リチウムイオン電池の最初の充電サイクルにおいて、リチウムの許容できない固定化に至り、したがってリチウムの不可逆的喪失に至る可能性がある。
【0081】
本発明による塩素含有率を有するシリコン粒子を得るためには、堆積温度と組み合わせた流動床法及び本発明によるシランの使用が重要であることがわかった。一方、シーメンス法は、本発明による塩素含有率を有するシリコン粒子の製造には適していなかった。モノシラン(SiH4)を用いて行ったコマツ-ASiMI法でも、本発明の塩素含有率は実現不可能である。モノシラン(SiH4)のみを使用する流動床法もまた、本発明による塩素含有率をもたらさない。
【実施例】
【0082】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するのに役立つ。
【0083】
<シリコン粒子の塩素含有率の決定>
塩素含有率の決定は、ロジウムアノードを用いるBruker AXS S8 Tiger_1でのX線蛍光分析により行った。この目的のため、試料5.00gをBoreox1.00g及びエタノール2滴と混合し、Herzog社のHP 40錠剤化プレスで、150kNの圧力で15秒間押圧し、ペレットを得た。
【0084】
<粒径の決定>
粒径分布の測定は、Mieモデル及びHoriba LA 950を用いて、エタノール中の高希釈懸濁液中で静的レーザー光散乱により行った。決定された粒径分布は体積加重されている。
【0085】
[実施例1(Ex.1):シリコン粒子の製造]
710kg/時のトリクロロシラン質量流量、445標準m3/時の水素流量、960℃の流動床温度及び2.5barの反応器圧を用いて流動床反応器を操作した。
【0086】
このようにして得られた粒状シリコンを、流動床ジェットミル(Netzsch-Condux CGS16、ミリングガスとして7barで90m3/時の窒素を用いる)でミリングすることにより破砕した。
【0087】
このようにして得たシリコン粒子は以下の粒径分布を有していた。d10=2.4μm、d50=4.5μm及びd90=7.2μm。
【0088】
シリコン粒子のさらなる特性を表1にまとめた。
【0089】
図1の乾燥したシリコン粒子の走査型電子顕微鏡写真は、シリコンが個々の、強凝集していない破片形状の粒子の形で存在していたことを示す。
【0090】
[実施例2-4(Ex.2~4):シリコン粒子の製造]
表2に示したように体積温度を変化させたという相違の他は実施例1と同様。
【0091】
このようにして得られたシリコン粒子の性質を表1にまとめた。
【0092】
[実施例5~8(Ex.5~8)]
実施例1~4のシリコン粒子を含む電極
85℃で恒量になるまで乾燥させたポリアクリル酸(Sigma-Aldrich、Mw約450.000g/mol)29.709g及び脱イオン水751.60gを、振盪器(290L/分)を用いて、ポリアクリル酸が完全に溶解するまで2.5時間撹拌した。水酸化リチウム一水和物(Sigma-Aldrich)を、pHが7.0(pHメーターWTW pH 340i及びSenTix RJDの電極を用いて測定)になるまで、少しずつ前記溶液に加えた。その後、振盪器を用いてさらに4時間前記溶液を混合した。
【0093】
次に、各実施例1~4のシリコン粒子7.00gを、20℃で冷却しながら、中和したポリアクリル酸溶液12.50g(濃度4重量%)及び脱イオン水5.10gに、高速ミキサーを用いて周速4.5m/秒で5分間、12m/秒で30分間分散させた。2.50gのグラファイト(Imerys、KS6L C)の添加後、12m/秒の周速でさらに30分間撹拌を続けた。脱気後、厚さ0.030mmの銅箔(Schlenk Metallfolien、SE-Cu58)に間隙高さ0.10mmのフィルム延伸フレーム(Erichsen、モデル360)によって分散液を塗布した。
【0094】
この方法で生成したアノード被膜を、その後80℃及び1bar大気圧で60分間乾燥させた。このようにして乾燥させたアノード被膜は、2.90mg/cm2という単位面積当たりの平均重量及び32μmという層厚を有していた。
【0095】
図2:実施例1のシリコン粒子(薄灰色で識別可能なシリコン粒子)を含む電極被膜のFIB断面の走査型電子顕微鏡写真。
【0096】
[実施例9~12(Ex.9~12)]
実施例5~8の電極の試験
ボタン電池(CR2032型、Hohsen社製)において、2電極配置で電気化学的研究を行った。実施例5~8の電極を対極又は負極(Dm=15mm)として用い、含有率94.0%、単位面積あたりの平均重量14.5mg/cm2の1:1:1のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物をベースにした被膜を作用極又は正極(Dm=15mm)として用いた。120μlの電解質を含浸させたガラス繊維濾紙(Whatman、GD Type D)をセパレータ(Dm=16mm)とした。使用した電解質は、フルオロエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの3:7(v/v)混合物中のヘキサフルオロリン酸リチウムの1モル溶液であり、これにビニレンカーボネートを2重量%混合したものからなっていた。セルの構築はグローブボックス(<1ppm H2O、O2)内で行い、使用した全ての成分の乾燥質量中の水分含有率は20ppm未満であった。
【0097】
電気化学的試験は20℃で行った。セルの充電は、最初のサイクルで5mA/g(C/25に相当)及び続くサイクルでは60mA/g(C/2に相当)の定電流を用いるcc/cv法(定電流/定電圧)により行い、4.2Vの電圧限界に達した後は、電流がC/100又はC/8未満になるまで定電圧で行った。セルの放電は、最初のサイクルで5mA/g(C/25に相当)及び続くサイクルでは60mA/g(C/2に相当)の定電流を用いて、電圧限界3.0Vに達するまでcc方法(定電流)で行った。選択した比電流は、正極の被膜の重量に基づく。
【0098】
電気化学的試験の結果を表2にまとめた。
【0099】
[比較例13(CEx.13)]
シーメンス法によるシリコン粒子の製造
水素中の33モル%のトリクロロシランからなる反応ガスを標的基材として細い棒を導入したベル型反応器(「シーメンス」反応器)に供給した。1070℃の温度で、細い棒の表面積の108kg/時/m2のトリクロロシラン流及び細い棒の表面積のH2/時/m2の36標準m3からシリコンを堆積させた。
【0100】
このようにして得られたシリコンを最初に手で粉砕し、その後、ロールクラッシャーによって前粉砕し、続いて、d50=4.6μmのサイズまで乾燥ミリングによって実施例1~4と類似の方法で粉砕した。
【0101】
このようにして得られたシリコン粒子の特性を表1に記録する。
【0102】
[比較例14(CEx.14)]
モノシランからのFBRによるシリコン粒子の製造
流動床反応器において、22.7kg/時のモノシラン質量流量、110標準m3/時の水素流量、640℃の流動床温度及び2.5barの反応器圧力を設定した。このようにして得られた粒状シリコンを流動床ジェットミル(Netzsch-Condux CGS16、ミリングガスとして7barで窒素90m3/時を用いる)中でミリングすることにより粉砕した。
【0103】
このようにして得られたシリコン粒子は以下の粒径分布を有した。d10=2.6μm、d50=4.8μm及びd90=7.9μm並びに幅(d90-d10)5.3μm。
【0104】
このようにして得られたシリコン粒子の特性を表1にまとめた。
【0105】
表1から分かるように、実施例1~4の発明によるシリコン粒子は、18~85ppmにおいて、その塩素含有率は検出限界以下である比較例13及び14の比較材料よりも大幅に高い割合の塩素を有する。
【0106】
【0107】
[比較例15]
比較例13のシリコン粒子を実施例1のシリコン粒子の代わりに使用したという相違の他は実施例5と同様の方法で電極を作製した。
【0108】
[比較例16]
比較例14のシリコン粒子を実施例1のシリコン粒子の代わりに使用したという相違の他は実施例5と同様の方法で電極を作製した。
【0109】
[比較例17]
比較例15の電極を用いたという相違の他は実施例9と同様の方法でセルの構築及び電気化学的試験を行った。
【0110】
電気化学的データを表2にまとめた。
【0111】
[比較例18]
比較例16の電極を用いたという相違の他は実施例9と同様の方法でセルの構築及び電気化学的試験を行った。
【0112】
電気化学的データを表2にまとめた。
【0113】
【0114】
表2の試験結果は、実施例1~4の塩素含有シリコン粒子が、比較例13~14の塩素を含まないシリコン粒子と比較して、サイクル安定性が大幅に改善されたリチウムイオン電池を与えることを示す。
【手続補正書】
【提出日】2020-10-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用アノード活物質であって、5~200ppmの
質量ベースの塩素含有率、及び0.5μm~10.0μmの直径パーセンタイルd
50を有する体積加重粒径分布を有する1種以上の非強凝集シリコン粒子を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項2】
前記シリコン粒子の50重量%以上が、前記シリコン粒子の総重量に対して、5~200ppmの
質量ベースの塩素含有率を有することを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項3】
前記シリコン粒子が多結晶性であり、5~200nmの結晶サイズを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項4】
前記シリコン粒子が、
1) 600℃~1000℃の堆積温度で、流動床反応器中でトリクロロシラン及び/又はジクロロシランを含む反応ガスを熱分解によって、粒状シリコンを形成すること、及びそれに続く、
2) ステップ1)の粒状シリコンをミリングして、シリコン粒子を形成すること、
によって得られることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項5】
ステップ1)が流動床反応器中で行われることを特徴とする、請求項4に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項6】
前記反応ガスが、モノシラン(SiH
4)を含まないことを特徴とする、請求項4又は5に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項7】
前記反応ガス中のジクロロシラン及び/又はトリクロロシランの割合が、シランの総重量に基づいて50~100重量%であることを特徴とする、請求項4~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項8】
前記反応ガス中のモノクロロシランの割合が、シランの総重量に基づいて0~50重量%であることを特徴とする、請求項4~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項9】
前記粒状シリコンが、流動床中で、シリコンで構成された種晶上に反応ガスが堆積することによって生成されることを特徴とする、請求項4~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項10】
前記熱分解が700℃~1000℃の反応領域の流動床の温度で行われることを特徴とする、請求項4~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用アノード活物質。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のアノード活物質を1種以上含むリチウムイオン電池用アノード。
【請求項12】
カソード、アノード、セパレータ及び電解質を含むリチウムイオン電池であって、前記アノードが請求項1~10のいずれか一項に記載のアノード活物質を1種以上含むことを特徴とする、リチウムイオン電池。
【請求項13】
前記アノードが、完全に充電されたリチウムイオン電池において部分的にのみリチウム化されることを特徴とする、請求項12に記載のリチウムイオン電池。
【請求項14】
アノード材料中のケイ素原子に対するリチウム原子の比が、リチウムイオン電池の完全充電の状態で3.5以下であることを特徴とする、請求項13に記載のリチウムイオン電池。
【国際調査報告】