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特表2022-505779生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物
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  • 特表-生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物 図1
  • 特表-生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(54)【発明の名称】生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/08 20060101AFI20220106BHJP
   C03C 13/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
D01F9/08 A
C03C13/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021522440
(86)(22)【出願日】2019-10-23
(85)【翻訳文提出日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2019078802
(87)【国際公開番号】W WO2020083961
(87)【国際公開日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】18202313.5
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520132403
【氏名又は名称】アークティック・バイオマテリアルズ・オサケユフティオ
【氏名又は名称原語表記】Arctic Biomaterials Oy
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】レフトネン,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】エッラ,ヴィッレ
【テーマコード(参考)】
4G062
4L037
【Fターム(参考)】
4G062AA05
4G062BB01
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB01
4G062DB02
4G062DC03
4G062DD02
4G062DD03
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EB04
4G062EC02
4G062EC03
4G062ED03
4G062EE03
4G062EE04
4G062EF01
4G062EF02
4G062EF03
4G062EG01
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH12
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM16
4G062MM18
4G062NN29
4G062NN33
4L037CS20
4L037FA01
4L037PA31
4L037UA18
4L037UA20
(57)【要約】
本発明は、SiO 65~75重量%、NaO 12~17重量%、CaO 8~11重量%、MgO 3~7重量%、P 0.5~2.5重量%、B 1~4重量%、KO>0.5重量%~4重量%、SrO 0~4重量%、および最大で合計0.3重量%のAlおよびFeを含む生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物に関する。本発明はまた、ガラス組成物を含むガラス繊維、ならびに医療および非医療用途におけるガラス繊維の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO 65~75重量%
NaO 12~17重量%
CaO 8~11重量%
MgO 3~7重量%
0.5~2.5重量%
1~4重量%
O >0.5重量%~4重量%
SrO 0~4重量%、および
最大で合計0.3重量%のAlおよびFe
を含む生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物。
【請求項2】
SiO 65~75重量%
NaO 12~17重量%
CaO 8~11重量%
MgO 4~6重量%
0.5~2.5重量%
1~4重量%
O >0.5重量%~2重量%、および
最大で合計0.3重量%のAlおよびFe
を含む、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
SiO 66~70重量%
NaO 12~15重量%
CaO 8~10重量%
MgO 5~6重量%
1~2重量%
2~3重量%
O >0.5重量%~1重量%、および
最大で合計0.3重量%のAlおよびFe
を含む、請求項2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
合計0.1重量%未満のAlおよびFeを含む、請求項1~3のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項5】
ガラス組成物はワーキングウィンドウΔT=T-T>150℃を示す(ここで、Tは、Log(粘度)3.0dPasでの繊維形成温度であり、Tはガラス組成物の液相線温度である)、具体的には>200℃、より具体的には>300℃を示す、請求項1~4のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項6】
ガラス組成物の繊維形成粘度(Log(粘度)3.0dPas)は、ガラス組成物の液相線温度よりも高い、請求項1~5のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のガラス組成物を含むガラス繊維。
【請求項8】
ガラス繊維は溶融由来である、請求項7に記載のガラス繊維。
【請求項9】
ガラス繊維は1.5GPa~2.5GPa、具体的には1.8GPa~2.2GPa、より具体的には2.0GPa~2.2Gpaの引張強度を有する、請求項7または8に記載のガラス繊維。
【請求項10】
ガラス繊維は、50~100GPa、具体的には60~80GPa、より具体的には65~75GPaの弾性率を有する、請求項7~9のいずれかに記載のガラス繊維。
【請求項11】
ガラス繊維は、35μm以下、具体的には1μm~35μm、より具体的には5μm~30μm、さらにより具体的には10μm~25μm、さらにいっそう具体的には10μm~20μm、さらにより具体的には約15μmの太さを有する、請求項7~10のいずれかに記載のガラス繊維。
【請求項12】
ガラス繊維は、20mm未満、具体的には0.5mm~10mm、より具体的には1mm~7mm、さらにより具体的には3mm~7mm、さらにいっそう具体的には約5mmの長さを有するガラス短繊維である、請求項7~11のいずれかに記載のガラス繊維。
【請求項13】
ガラス繊維は、20mmを超える、具体的には30mmを超える、より具体的には40mmを超える長さを有する連続繊維である、さらにいっそう具体的には、ガラス繊維は完全な連続繊維である、請求項7~11のいずれかに記載のガラス繊維。
【請求項14】
医療機器などの医療用途、および使い捨て品および耐久財などの非医療用途での使用に適した物品の製造における、請求項7~13のいずれかに記載のガラス繊維の使用。
【請求項15】
ガラス繊維は、物品の総重量の10%超、好ましくは40%超、より好ましくは60%超、最も好ましくは90%超の量で使用される、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
請求項7~13のいずれかに記載のガラス繊維を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物、連続ガラス繊維の製造におけるその使用、および医療および非医療用途における連続ガラス繊維の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維は、今日知られている最も用途の広い工業材料の1つである。それらは、容易に入手できる鉱物原料から容易に製造される。
【0003】
連続ガラス繊維は溶融ガラスから製造される。ガラス溶融物は、シリカを他の金属酸化物と融合(共溶融)して、特定の組成を与えることによって作られる。ガラスは、結晶化(失透)を回避するために溶融物を十分に速く冷却することによって得られるアモルファス固体である。
【0004】
ガラスの繊維化では、粘性溶融ガラス液がブッシング(bushing)の基部にある小さな穴から引き出され(押し出され)、毛髪のような細いフィラメント、すなわち繊維が形成される。ガラス溶融物がlog3粘度(ポアズまたはdPas)を有する温度は、一般に繊維形成、すなわち繊維化、温度Tと考えられてきた。連続ガラス繊維の連続製造を可能にするには、繊維化中の溶融ガラスの結晶化を妨げる必要がある。したがって、繊維化温度は液相線温度Tよりも十分に高い必要がある。繊維化プロセスにおける繊維形成温度と液相線温度との差は、ワーキングウィンドウΔT=T-Tであり、これは、繊維径に応じて最適な繊維形成を可能にするのに十分な大きさが必要である。
【0005】
ほぼすべての連続テキスタイルガラス繊維(連続ストランドファイバーグラス、またはグラスウールを除く単にファイバーグラスとも呼ばれる)は、ダイレクトメルトドロー(direct melt draw)法によって工業的に製造されるが、マーブルメルト(再溶融)法を使用して特殊用途ガラス繊維、例えば高強度繊維を形成する場合がある。
【0006】
この分野では、さまざまな生物活性および生体吸収性シリカに基づくガラス組成物が知られている。文献に記載されているように、溶融由来の生物活性ガラスは、60重量%未満のSiO含有量、高いNaOおよびCaO含有量、および高いCaO:P比を特徴としている。それらは骨および軟組織に結合でき、哺乳類の体の組織または骨の成長を刺激するために使用される場合がある。生物活性ガラスはまた、通常、ガラス内で成長する新しい組織の形成を導く。生物活性ガラスが生理学的環境と接触すると、ガラスの表面にシリカゲル層が形成される。この反応に続いて、リン酸カルシウムがこの層に堆積し、最終的にヒドロキシルカーボネートアパタイトに結晶化する。このヒドロキシルカーボネートアパタイト(HCA)層により、生物活性ガラスの(再)吸収(resorption)は、哺乳類の体内に挿入されたときに遅くなる。
【0007】
欧州特許出願公開第2243749号明細書には、生体適合性および吸収性(resorbable)の溶融由来(melt derived)ガラス繊維、および医療機器におけるその使用について開示されている。前記ガラス繊維は以下の組成を有する:SiO 60~70重量%、NaO 5~20重量%、CaO 5~25重量%、MgO 0~10重量%、P 0.5~5重量%、B 0~15重量%、Al 0~5重量%、LiO 0~1重量%、および0.5重量%未満のカリウム。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2243749号明細書
【発明の概要】
【0009】
驚くべきことに、本発明において、生分解性ガラス組成物中の少量の、すなわち>0.5重量%~4重量%のカリウムが、大きなワーキングウィンドウを有し、良好な繊維化特性を提供することがわかった。
【0010】
さらに驚くべきことに、本発明のガラス組成物から製造されたガラス繊維は、生物活性を有する、すなわち、シリカリッチゲルおよびリン酸カルシウム層を形成するガラス繊維強化物品を提供することがわかった。
【0011】
一態様において、本発明は、
SiO 65~75重量%
NaO 12~17重量%
CaO 8~11重量%
MgO 3~7重量%
0.5~2.5重量%
1~4重量%
O >0.5重量%~4重量%
SrO 0~4重量%、および
最大で合計0.3重量%のAlおよびFe
を含む生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物を提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、本発明のガラス組成物を含む、生分解性、生物活性および生体適合性のガラス繊維を提供する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、医療および非医療用途での使用に適した物品の製造における、本発明の生分解性、生物活性および生体適合性のガラス繊維の使用を提供する。
【0014】
なおさらなる態様において、本発明は、本発明のガラス繊維を含む物品を提供する。
【0015】
本発明の利点は、ガラス組成物が、その有利な結晶化特性、溶融粘度特性および溶融強度のために連続ガラス繊維を形成するための改良された溶融由来繊維化(melt-derived fiberization)プロセスを提供することにある。
【0016】
本発明のさらなる利点は、ガラス組成物で製造されたガラス繊維が、同じ繊維径を有する典型的な耐薬品性ガラス繊維と比較して、類似または改善された強度特性を示すことにある。
【0017】
本発明のさらなる利点は、医療分野および複合材料(コンポジット)を製造する技術分野におけるガラス繊維の有用性にある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、Log(粘度、dPas)2.5での温度に対する、酸化ナトリウムの量に基づく酸化カリウムの種々の量の影響を示す。
図2図2は、模擬体液中で16週間保持した後の、本発明のガラス繊維の分解およびガラス繊維の周りのリン酸カルシウム層の形成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[定義]
本発明において、
「生分解性」という用語は、物質が生理学的または生物学的環境で分解されること、すなわち、生物侵食(bioerosion)および/または生体吸収(bioresorption)によって分解されることを意味する。生物侵食によって分解される物質は、物質が崩壊すること、すなわち、物質を可溶化し、周囲の生物学的水性環境への吸収を可能にする生物学的プロセスを介して機械的および化学的に侵食されることを意味する。生体吸収により分解される物質とは、哺乳類の体内に挿入され生理学的環境と接触した場合、物質が崩壊すること、すなわち、長期間の移植(implantation)により分解することを意味する。したがって、「生分解性物質」という用語は、生分解性物質および生体吸収性物質も包含する。
【0020】
「生物活性」という用語は、その物質が生物活性を誘発または調節することを意味する。適切なインビトロ環境(ASTM F1538-03 インプラント用ガラスおよびガラスセラミック生体材料の標準仕様)にさらされ、その分解プロセス中に細胞または細胞成長を活性化する生理学的環境と接触すると、生物活性物質は、多くの場合、シリカリッチゲルおよびリン酸カルシウム層、すなわちヒドロキシル-カーボネートアパタイト層を、その表面に形成することにより、哺乳類の組織と化学的に結合できる表面活性物質である。
【0021】
「生体適合性」という用語は、医療機器に使用される物質が、特定の場所で適切な宿主反応を引き起こすことにより、安全かつ適切に機能することを意味する。
【0022】
「繊維化温度T」という用語は、ガラス溶融物の粘度(ポアズまたはdPas)がLog(粘度)=3となるガラス(溶融)温度を意味する。ガラス粘度測定の一般的な指示は、ISO 7884-1に記載されている。
【0023】
液相線温度Tという用語は、その温度未満では固体結晶が形成され、その温度を超えると結晶が存在しないガラス(溶融)温度を意味する。この温度を超えると、溶融物は均質になる。勾配炉法によるガラスの液相線温度の測定に関する標準的な方法は、ASTM C829-81(2015)に記載されている。
【0024】
「ワーキングウィンドウ(working window)ΔT」という用語は、繊維形成温度と液相線温度との温度差ΔT=T-Tを意味する。
【0025】
「吸収(resorption)」という用語は、溶解(dissolution)による物質の分解を意味する。
【0026】
[発明の詳細な説明]
一態様において、本発明は、
SiO 65~75重量%
NaO 12~17重量%
CaO 8~11重量%
MgO 3~7重量%
0.5~2.5重量%
1~4重量%
O >0.5重量%~4重量%
SrO 0~4重量%、および
最大で合計0.3重量%のAlおよび Fe
を含む、生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物を提供する。
【0027】
一実施形態では、ガラス組成物は
SiO 65~75重量%
NaO 12~17重量%
CaO 8~11重量%
MgO 4~6重量%
0.5~2.5重量%
1~4重量%
O >0.5重量%~2重量%
SrO 0~2重量%、および
最大で合計0.3重量%のAlおよびFe
を含む。
【0028】
別の実施形態では、ガラス組成物は、
SiO 66~70重量%
NaO 12~15重量%
CaO 8~10重量%
MgO 5~6重量%
1~2重量%
2~3重量%
O >0.5重量%~1重量%、および
SrO 0~1重量%、および
最大で合計0.3重量%のAlおよびFe
を含む。
【0029】
一実施形態において、本発明のガラス組成物は、合計で0.1重量%未満のAlおよびFeを含む。好ましい実施形態において、本発明のガラス組成物は、不純物としても、AlおよびFeを完全に含まない。
【0030】
理論に拘束されることを望むものではないが、アルミニウムおよび鉄はガラスの吸収および分解を妨げると考えられている。つまり、分解中にアルミニウムおよび鉄が、ガラス繊維の周りに存在する水和シリカリッチ層に蓄積し、ケイ素との新しい化学結合を形成して、より安定したAlおよびFeで強化されたシリカリッチ層またはゲルを生成する。シリカリッチ層のAlイオンおよびFeイオンの蓄積は、イオンの浸出を妨げ、ガラス繊維の吸収および浸食を妨げる。
【0031】
一実施形態では、本発明のガラス組成物はストロンチウムを含まない。別の実施形態では、ガラス組成物は、最大4重量%のSrOを含む。さらなる実施形態において、ガラス組成物は、最大2重量%のSrOを含む。ストロンチウムを含むガラス組成物は、ストロンチウムイオンは骨芽細胞を上方制御し、破骨細胞を下方制御するため、すなわち、移植された(implanted)医療機器の周りの新しい骨形成を改善するため、組成物の生物学的応答を増強する。ストロンチウムおよびカルシウムは2価のカチオンであるため、ガラス中でストロンチウムがカルシウムに部分的に置換される。
【0032】
ガラス組成物中のシリカおよびNaO、KO、CaO、MgO、P、B、SrOを含む他の成分の量を変化させることにより、ガラス繊維の吸収率および侵食率は、さまざまな最終用途に合わせて制御および調整し得る。
【0033】
本発明のガラス組成物は150℃を超える大きなワーキングウィンドウΔT(ΔT=T-T)を有する。液相線温度Tは、ガラス組成物が溶融状態のままで結晶が形成されずに均質になる最高温度である。繊維形成温度T、すなわち繊維化温度は、ガラス溶融物がlog3.0粘度(ポアズまたはdPas)を有する温度である。したがって、ΔTは、log(粘度)3.0の温度とガラス組成物の液相線温度との間の温度差である。
【0034】
大きなワーキングウィンドウにより、最適な繊維化、すなわちガラス組成物の繊維形成が可能になり、繊維化を妨げるガラス組成物の結晶化なしに繊維を延伸(drawn)し得る。最適な繊維形成は、ガラス溶融物の粘度がlog(粘度)2.5~3.0の場合に達成される。
【0035】
驚くべきことに、>0.5~4重量%の酸化カリウムを含むガラス組成物は、ガラス組成物の繊維化を促進し、生分解性、生物活性および生体適合性のガラス繊維を提供することがわかった。カリウムは、ガラス組成物の液相線温度を低下させるガラス組成物の失透を防止する。カリウムは繊維形成温度も上昇させるので、ワーキングウィンドウの拡大が有利に達成される。
【0036】
一実施形態では、ガラス組成物のワーキングウィンドウΔTは>200℃である。別の実施形態では、ガラス組成物のワーキングウィンドウΔTは>300℃である。
【0037】
一実施形態において、ガラス組成物の繊維化粘度(Log(粘度)3.0)は、ガラス組成物の液相線温度よりも高い。
【0038】
別の態様において、本発明は、本発明のガラス組成物を含む生分解性、生物活性および生体適合性のガラス繊維を提供する。
【0039】
本発明の生物活性繊維ガラスは、アルカリ交換反応、すなわち、ガラス中のナトリウムイオンおよびカリウムイオンが溶液からの水素イオンに置き換わることにより、生理学的環境と接触するとすぐに反応し始める。ガラス繊維の生物活性は、ガラスから浸出するイオンと、ガラス繊維の表面のシリカリッチゲルおよびリン酸カルシウム層の形成に基づいている。リン酸カルシウム層は、骨細胞が付着して分化し、骨と組織が付着するための生物活性層を形成することを可能にする。したがって、ガラスにおけるアルミニウムおよび鉄の役割を理解することも重要であり、ガラスの溶解中に、アルミニウムおよび鉄は、ガラス表面に蓄積し、ガラス表面を不活性にし、イオンが浸出するのを妨げ、ガラスのさらなる吸収および浸食と生物活性層の形成を妨げる。したがって、アルミニウムおよび鉄は、生体吸収性および生物活性ガラスにおいて不純物量にのみ制限する必要がある。
【0040】
本発明のガラス組成物は、当技術分野で知られている標準的な溶融プロセスに従ってガラス繊維に製造できる。一実施形態において、連続(ストランド、ダイレクトロービング)ガラス繊維は、直接炉からの溶融ガラス組成物から形成される(ダイレクトメルトプロセス)。別の実施形態では、溶融ガラス組成物は、ガラスマーブルまたはペレットを形成する機械に最初に供給され、次に繊維を形成するために再溶融される(再溶融またはマーブルメルトプロセス)。
【0041】
ダイレクトメルト法およびマーブルメルトプロセスの両方において、溶融ガラス組成物の連続ガラス繊維への変換は、連続フィラメント減衰プロセス(continuous-filament attenuation process)として説明できる。溶融ガラスは、多数の微細なオリフィス/ノズル/チップ(400~8000)を備えた白金ロジウム合金ブッシング(スピナレット(spinnerets)とも呼ばれる)を通って流れる。ブッシングは電気的に加熱され、熱は一定のガラス粘度を維持するために非常に正確に制御される。細いフィラメント、つまり繊維は、ブッシングから排出された後、引き下げられ(drawn down)、急速に冷却される。ガラスがブッシングのオリフィスを通過した後、および複数のストランドが巻取装置に巻き込まれる前に、ガラスフィラメントが通過する薄いフィルムを維持するため、サイジングバス(sizing bath)を継続的に回転するアプリケーターの上を通過させることにより、繊維の表面にサイジング(sizing)が適用される。
【0042】
サイジングを適用した後、フィラメントは巻取装置に近づく前にストランドにまとめられる。フィラメントの小さな束(bundles)(分割ストランド(split strands))が必要な場合は、複数の収集デバイス(multiple gathering devices)(シューズ(shoes)と呼ばれることが多い)が使用される。
【0043】
減衰率、つまり最終的なフィラメント径は、巻取装置によって制御される。巻取装置は、毎分約0.5km~3kmで、つまり、ブッシングからの流量よりも速く回転する。張力は、まだ溶融しているフィラメントを引き抜き、ブッシング開口部の直径の数分の1の太さのストランドを形成する。減衰率に加えて、繊維の直径は、ブッシングの温度、ガラスの粘度、およびブッシング上の圧力水頭にも影響される。最も広く使用されている巻取装置は、高速成形ワインダーであり、これは、回転コレット(rotating collet)とトラバースメカニズム(traverse mechanism)を使用して、成形パッケージ(forming package)の直径が大きくなるにつれてストランドをランダムに分配する。これにより、ロービング、ヤーン、チョッピングなどの後続の処理工程で、パッケージからストランドを簡単に取り除くことができる。成形パッケージは乾燥され、完成したガラス繊維ロービング、撚糸および(twisted and plied yarn)、マット、チョップドストランド(chopped strand)、またはその他の繊維製品に変換される特定の加工エリアに移送される。好ましいプロセスは、成形中に直接ロービングまたはチョップド製品を製造することであり、したがって、直接延伸ロービング(direct draw roving)または直接チョップドストランド(direct chopped strand)という用語につながる。
【0044】
他の繊維製品は、ガラス繊維ロービングを織物(fabric form)の形に折ることによって製造されるロービング織物(woven roving);連続ストランドまたはチョップドストランドマットとして製造されてよいガラス繊維マット;マットとロービング織物の組み合わせ;嵩高加工糸;ガラス繊維糸が従来の製織作業によって布地に変換されるガラス繊維布地である。
【0045】
一実施形態において、本発明のガラス繊維は、溶融由来のガラス繊維である。溶融由来ガラス繊維とは、ガラス組成物をるつぼ内で800~1500℃で溶融し、溶融ガラスのガラス繊維をるつぼの穴から引っ張り、直径5~100μmの範囲の繊維にしたガラス繊維を意味する。
【0046】
本発明のガラス繊維は、例えば、同じ直径を有する耐薬品性Cガラス繊維(ASMハンドブック、Vol 21:複合材料)と比較した場合、改善された強度特性を示す。一実施形態において、本発明のガラス繊維は、1.5GPa~2.5GPaの引張強度を有する。別の実施形態では、引張強度は、1.8GPa~2.2GPaの範囲である。さらなる実施形態において、引張強度は、2.0GPa~2.2GPaの範囲である。引張強度は、ISO 11566:1996に従って測定された。
【0047】
一実施形態において、本発明のガラス繊維は、50~100GPaの弾性率を有する。別の実施形態では、弾性率は60~80GPaである。さらなる実施形態において、弾性率は65~75GPaである。弾性率はISO 11566:1996に従って測定された。
【0048】
本発明のガラス繊維の太さは35μm以下である。一実施形態では、前記太さは1μm~35μmである。別の実施形態では、前記太さは5μm~30μmである。さらなる実施形態において、前記太さは10μm~25μmである。さらに別の実施形態では、前記太さは10μm~20μmである。一実施形態では、前記太さは約15μmである。
【0049】
本発明のガラス繊維は、ガラス短繊維または連続ガラス繊維であってもよい。一実施形態では、本発明のガラス短繊維(chopped glass fibre)の長さは20mm未満である。一実施形態では、前記長さは0.5mm~10mmである。別の実施形態では、前記長さは1mm~7mmである。さらなる実施形態では、前記長さは3mm~7mmである。さらに別の実施形態では、長さは約5mmである。
【0050】
別の実施形態では、本発明の連続ガラス繊維の長さは20mmを超える。別の実施形態では、前記長さは30mmを超える。さらなる実施形態では、前記長さは40mmを超える。さらに別の実施形態では、ガラス繊維は完全に連続した繊維である。
【0051】
本発明のガラス繊維は、熱硬化性または熱可塑性引抜成形型の形態であり得る。本発明のガラス繊維は、不織または織布マットの形態で組織化することもできる。
【0052】
本発明は、医療機器などの医療用途での使用に適した生分解性、生物活性、生体適合性ガラス繊維を提供する。さらに、本発明は、使い捨て品および耐久財(disposable and durable goods)などの技術的用途での使用に適した生分解性および堆肥化可能なガラス組成物を提供する。
【0053】
したがって、さらなる態様において、本発明は、医療および非医療用途での使用に適した物品の製造における、本発明の生分解性、生物活性および生体適合性のガラス繊維の使用を提供する。
【0054】
一態様において、本発明は、本発明のガラス繊維を含む物品を提供する。
【0055】
本発明のガラス繊維は、織物の製造にも使用し得る。
【0056】
医療装置は、体内で使用されるあらゆる種類のインプラント、および組織または骨の治癒または再生をサポートするために使用される装置であり得る。本文脈によるインプラントは、治癒のために骨片を固定するための骨折および/または骨切り術の固定用ねじ、プレート、ピン、タックまたは釘;軟組織と骨(soft tissue-to-bone)、軟組織と骨(soft tissue-into-bone)、および軟組織と軟組織を固定するための縫合糸アンカー、タック、ねじ、ボルト、釘、クランプ、ステント、および他のデバイス;ならびに、組織または骨の治癒または再生をサポートするために使用されるデバイス;または脊椎手術における後外側脊椎固定、椎体間固定、およびその他の手術用の頸部くさび(cervical wedges)および腰部ケージ(lumbar cages)およびプレートおよびネジなどの外科的筋骨格用途に使用されるあらゆる種類のインプラントを含む。
【0057】
また、本発明のガラス繊維は、カニューレ、カテーテル、ステントなどの医療機器に使用できる。さらに、本発明のガラス繊維は、組織工学用の繊維強化足場(fibre reinforced scaffolds)に使用できる。
【0058】
医療機器マテリアルの用途と目的に応じて、医療機器は生体適合性があり、哺乳類の体内で制御された吸収を示すことが期待され、設計されている。最適な吸収率は、希望する移植部位(implantation location)の組織の再生率に正比例する。骨組織の場合、インプラントのかなりの割合が、用途に応じて12~26週間以内に組織内で吸収/分解されることが好ましい。治癒組織への物理的なサポートが望ましい場合、吸収率は数ヶ月または数年でさえある。
【0059】
技術用途向けの耐久財(Durable goods)とは、すぐに消耗しない物品、より具体的には、1回の使用で完全に消費されるのではなく、時間の経過とともに有用性を生み出す物品を意味する。耐久財には、例えば、家電製品、家具、自動車または輸送部品および付属品、おもちゃ、スポーツ用品が含まれる。耐久財は通常、連続して購入するまでの期間が長いという特徴がある。
【0060】
技術用途の使い捨て品(Disposable goods)、つまり非耐久財または織物類(soft goods)(消耗品)は、耐久財の反対である。それらは、1回の使用ですぐに消費される商品、または3年未満の寿命を持つ物品として定義し得る。使い捨て商品には、たとえば、キャップおよびクロージャー、容器、パッケージ、コーヒーカプセル、保管容器、キャップ、おもちゃ、電話、ラップトップ、家庭用電化製品、およびパーソナルケアアイテムが含まれる。
【0061】
物品中の本発明のガラス繊維の量は、物品の総重量の10重量%を超える。一実施形態では、その量は40重量%を超える。別の実施形態では、その量は60重量%を超える。さらなる実施形態において、その量は90重量%を超える。
【0062】
本発明のガラス繊維を含む医療機器の利点は、毒性学的影響を生じさせることなく分解によって身体から再吸収し、細胞が組織または骨に付着および結合するための生物活性表面を作り出すことである。
【0063】
本発明による使い捨て品および耐久財の利点は、ポリマーの生分解特性に応じて、海洋、土壌、家庭用堆肥または工業用堆肥などの異なる条件で堆肥化または分解し得る生分解性ポリマーマトリックスと共に高強度複合材料を形成できることである。堆肥化可能なガラス繊維の利点は、微生物が付着してポリマーを分解し得るバイオフィルム形成のための非環境毒性(non-ecotoxic)の表面を作り出すことである。
【0064】
本発明による医療機器または使い捨て品および耐久財の最終製品の別の利点は、それらの強度および製造の実現可能性である。本発明による最終製品は、ガラス繊維をポリマーマトリクス、好ましくは生体吸収性または生分解性ポリマーマトリックスとともに配置し、任意のタイプのポリマー処理装置、例えば、オープンまたはクローズドバッチミキサーまたはニーダー、連続攪拌タンク反応器またはミキサー、押出機、射出成形機、RIM、圧縮成形機、管反応器、または当該分野で既知の他の標準的な溶融加工または溶融混合装置を使用して、ポリマーマトリックスとともに配置された繊維を連続繊維および/または細断/切断(chopped/cut)繊維および/または織布(woven)、不織布(non-woven)マット/テキスタイルの所望の配向を有する最終製品へと製造および/または成形することによって製造できる。
【0065】
本発明のさらなる利点は、ポリマーマトリックス材料の溶融温度が約30~300℃であり、ガラス繊維のガラス転移温度が約450~650℃であることである。したがって、ガラス繊維は、溶融したマトリックス材料の温度によって損傷を受けることはなく、マトリックスが固化すると、強い繊維強化最終製品が得られる。
【0066】
本発明のガラス繊維は、連続ポリマーマトリックスに埋め込まれて複合体を形成する場合がある。ポリマーマトリックスは、生体吸収性および/または生体侵食性であることが好ましい。次の生体吸収性および/または生体侵食性ポリマー、コポリマー、およびターポリマーは、複合体のマトリックス材料として使用してよい:ポリラクチド(PLA)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-DL-ラクチド(PDLLA)、ポリグリコリド(PGA);グリコリドのコポリマー、グリコリド/トリメチレンカーボネートコポリマー(PGA/TMC);PLAの他のコポリマー、例えばラクチド/テトラメチルグリコリドコポリマー、ラクチド/トリメチレンカーボネートコポリマー、ラクチド/d-バレロラクトンコポリマー、ラクチド/ε-カプロラクトンコポリマー、L-ラクチド/DL-ラクチドコポリマー、グリコリド/L-ラクチドコポリマー(PGA/PLLA)、ポリラクチド-コ-グリコリド;PLAのターポリマー、例えばラクチド/グリコリド/トリメチレンカーボネートターポリマー、ラクチド/グリコリド/ε-カプロラクトンターポリマー、PLA/ポリエチレンオキシドコポリマー;ポリデプシペプチド;非対称3,6-置換ポリ-1,4-ジオキサン-2,5-ジオン;ポリヒドロキシブチレート(PHB)などのポリヒドロキシアルカノエート;PHB/b-ヒドロキシバレレートコポリマー(PHB/PHV);ポリ-b-ヒドロキシプロピオネート(PHPA);ポリ-p-ジオキサノン(PDS);ポリ-d-バレロラクトン-ポリ-ε-カプロラクトン、ポリ(ε-カプロラクトン-DL-ラクチド)コポリマー;メチルメタクリレート-N-ビニルピロリドンコポリマー;ポリエステルアミド;シュウ酸のポリエステル;ポリジヒドロピラン;ポリアルキル-2-シアノアクリレート;ポリウレタン(PU);ポリビニルアルコール(PVA);ポリペプチド;ポリ-b-リンゴ酸(PMLA);ポリ-b-アルカン酸;ポリカーボネート;ポリオルトエステル;ポリリン酸塩;ポリアミノ酸;ポリホスファゼン、ポリ(エステル無水物);およびそれらの混合物;および糖、デンプン、セルロースおよびセルロース誘導体、多糖類、コラーゲン、キトサン、フィブリン、ヒアルロン酸、ポリペプチドおよびタンパク質などの天然ポリマー。上記のポリマーの任意の混合物や、それらの様々な形態も使用できる。
【0067】
技術が進歩するにつれて、本発明の概念を様々な方法で実施できることは、当業者には明らかであろう。本発明およびその実施形態は、上記の例に限定されず、特許請求の範囲内で変更し得る。
【実施例
【0068】
以下の実施例は本発明をさらに説明するが、本発明をそれに限定するものではない。
【0069】
[例1]
生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物の酸化カリウムが組成物の粘度に与える影響を「グローバル統計モデリング手法に基づくガラス粘度計算」(Alexander Fluegel, Glass Technol.: Eur. J. Glass Sci. Technol. A, 2007年2月, 48 (1), 13-30)によってシミュレーションした。表1は、粘度シミュレーションに使用したガラス組成物を示している。組成物4、5、6および7は、本発明のガラス組成物を表す。
【0070】
図1は、酸化ナトリウムの量に対する酸化カリウムの量が増加すると、溶融粘度が直線的に増加することを示している。同時に、ガラス組成物のワーキングウィンドウは、例2に示すように、繊維化温度が上昇し、同時に液相線温度が低下するため、拡大される。
【0071】
【表1】
【0072】
[例2]
本発明の生分解性、生物活性および生体適合性のガラス組成物は、溶融プロセス手順に従って製造された(表2の組成物1~3)。2つの参照組成物4および5は同様に製造された。溶融プロセス手順では、白金およびロジウムの溶融るつぼを1500±10℃に加熱した。表2に示す量の合計1.5kgの金属酸化物粉末を、2時間以内にバッチのるつぼに加えた。投入が完了すると、温度は約1500℃まで上昇した。サンプルは1500±1℃に12時間保持された。清澄化および均質化の後、ガラス溶融物を鋼の型に注ぎ、バルクガラスを得た。
【0073】
【表2】
【0074】
ガラス組成物1~5はすべて、高温で溶融してバルクガラスになり、冷却後に結晶化することなく無色透明のバルクガラスを形成した。
【0075】
表2の組成物1~5の液相線温度(T)は、ASTM C829-81(2015)「勾炉法によるガラスの液相線温度の測定のための標準的な方法」に従って勾配炉で測定された。規格は、ガラスに結晶が形成される最高温度と、結晶の形成および成長を伴わずにガラスを長期間保持できる最低温度を決定するためのものである。液相線温度の測定温度範囲は750℃~1100℃であった。
【0076】
表3は、表2のガラス組成物1~5の液相線温度(T)を示す。
【表3】
【0077】
本発明によるガラス組成物1~3は、750℃~1100℃の測定温度範囲で結晶化(失透)を示さず、完全に非晶質の挙動を示した。一方、ガラス組成物4は、1280℃でも完全に結晶化した。したがって、組成物4の液相線温度は決定できなかった。
【0078】
表3は、ガラス組成物のカリウムの量が増加すると、ガラス組成物の液相線温度が低下することを示している。
【0079】
[例3]
ガラス組成物1~5のガラス溶融粘度は、高温回転粘度計を挿入して測定した。ガラス溶融粘度Log(粘度、dPas)3での繊維化温度Tを表4に示す。ワーキングウィンドウΔTは、繊維化温度と液相線温度との差として決定される(ΔT=T-T)。ワーキングウィンドウが>150℃の場合、組成物から連続ガラス繊維の連続的かつ乱されない(undisturbed)製造が可能であった。
【0080】
【表4】
【0081】
本発明によるガラス組成物1~3は、大きなワーキングウィンドウを有する。したがって、連続ガラス繊維は、工業規模で直接溶融または再溶融加工法によって連続的に製造できる。本発明によるガラス組成物の大きなワーキングウィンドウは、低い液相線温度および改善された溶融粘度特性により達成される。粘度に対する混合アルカリ(NaO-KO)影響は、アルカリ-アルカリだけでなく、アルカリ-シリカ相互作用によっても引き起こされることが示されている。アルカリ-シリカ相互作用により、ガラス中のシリカへのアルカリ酸化物の添加は、少量ではあるが十分に大きく、大量添加よりも粘度に比較的強い影響を与える。ここで、シリカの量が増えると、酸化カリウムと酸化ナトリウムとの比率が増大すると共に、繊維化温度が上昇する。さらに、溶融粘度測定から、本発明による同じガラス組成物(表2、組成物3)を、ガラス溶融粘度Log(粘度、dPas)2.5のシミュレーションデータ(表1、組成物4)と比較した。結果は6度の違いしかなく、互いに適度に近かった。
【0082】
[例4]
本発明のガラス組成物1~3の繊維形成特性は、再溶融プロセスとして単一先端(single-tip)ブッシングから単一フィラメント/繊維を引き出す(drawing)ことによって試験された。バルクガラスは、例2に示したのと同じ手順に従って製造された。次に、バルクガラスをるつぼに入れ、繊維化温度を超える温度1300℃で2時間溶融した。2時間均質化した後、延伸(drawing)を開始した。約15ミクロンの繊維を提供する安定した繊維化温度を見つけるために、ブッシング温度と繊維収集ワインダーの速度を変更することにより、繊維の延伸条件を調整した。
【0083】
繊維形成温度を約1140℃に、ワインダー速度は500rpmに調整したとき、ガラス組成物1から安定した繊維化条件で、良好な繊維形成特性を備えた直径約16μmのガラス繊維が得られることが観察された。同様に、繊維形成温度を約1150℃、ワインダー速度を700rpmに調整したとき、ガラス組成物2から安定した繊維化条件で良好な繊維形成特性を備えた直径約16μmのガラス繊維が得られた。繊維形成温度を約1150℃に、ワインダー速度を500rpmに調整したとき、ガラス組成物3から安定した繊維化条件で良好な繊維形成特性を備えた直径約13μmのガラス繊維が得られた。
【0084】
[例5]
単一フィラメントの引張強度は、ISO11566:1996(これは、マルチフィラメントヤーン、織布、組紐および関連製品から採取した単一フィラメント試験片の引張特性を測定するための試験方法を説明している)に従って、例5で製造された組成物1および3の繊維から測定された。組成物1の引張強度は1805±139MPaであった。組成物3の引張強度は1843+/-81MPaであった。
【0085】
[例6]
リン酸カルシウム層の形成、すなわちガラス繊維の生物活性は、37℃の模擬体液(SBF)中でのインビトロ分解試験で調査され、16週間の時点で、エネルギー分散型X線分光法(SEM/EDX)を備えた走査型電子顕微鏡で分析された。SBFは、T. Kokubo, H. Takadama「インビトロの骨生物活性の予測におけるSBFの有用性」Biomaterials, 27, 2907-2915 (2006)に従って作成された。試験したガラス繊維は、表2に記載の本発明のガラス組成物3から製造された。
【0086】
繊維はSBFから収集された。400本の単一フィラメントをエポキシ樹脂に埋め込んで硬化させた。エポキシ硬化後、サンプルを切断して研磨し、日立TM3030:改良型電子光学システムを備えた卓上型走査型電子顕微鏡で分析した。分解繊維の周りに形成されたリン酸カルシウム層は、白い層として画像に表示され、EDXラインスキャン分析で検証された。結果を図2に示す。
図1
図2
【国際調査報告】